(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166842
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】計測方法、計測装置、計測システム及び計測プログラム
(51)【国際特許分類】
G01P 3/66 20060101AFI20241122BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
G01P3/66 A
G01H17/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083222
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】小林 祥宏
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064AA14
2G064AB02
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC02
2G064DD02
(57)【要約】
【課題】鉄道車両が橋梁を走行したときに定速走行、減速走行又は加速走行のいずれであったかを容易に判別するための指標となる情報を算出することが可能な計測方法を提供すること。
【解決手段】橋梁の観測点を観測し、前記橋梁を走行する鉄道車両の複数の部位の前記観測点への作用に対する応答である物理量を検出する観測装置から出力される観測データに基づいて、前記観測点が変位する速度の波形である速度波形を算出する速度波形算出工程と、前記速度波形に基づいて、前記鉄道車両の前記橋梁に対する進入時の前記速度波形の振幅である進入時速度振幅と、前記鉄道車両の前記橋梁に対する進出時の前記速度波形の振幅である進出時速度振幅とを算出する速度振幅算出工程と、を含む、計測方法。
【選択図】
図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁の観測点を観測し、前記橋梁を走行する鉄道車両の複数の部位の前記観測点への作用に対する応答である物理量を検出する観測装置から出力される観測データに基づいて、前記観測点が変位する速度の波形である速度波形を算出する速度波形算出工程と、
前記速度波形に基づいて、前記鉄道車両の前記橋梁に対する進入時の前記速度波形の振幅である進入時速度振幅と、前記鉄道車両の前記橋梁に対する進出時の前記速度波形の振幅である進出時速度振幅とを算出する速度振幅算出工程と、
を含む、計測方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記観測データと、予め作成された前記鉄道車両の寸法及び前記橋梁の寸法を含む環境情報とに基づいて、前記鉄道車両が前記橋梁を走行する平均速度を算出する平均速度算出工程と、
前記進入時速度振幅と前記進出時速度振幅と前記平均速度とに基づいて、前記鉄道車両の前記橋梁に対する進入速度及び進出速度を算出する進入進出速度算出工程と、
を含む、計測方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記進入時速度振幅と前記進出時速度振幅とを比較して、前記鉄道車両の走行が定速走行、減速走行及び加速走行のいずれであるかを判定する走行判定工程を含む、計測方法。
【請求項4】
請求項1において、
前記速度振幅算出工程は、
前記鉄道車両の前記橋梁に対する進入時刻と進出時刻との間において、前記速度波形の最初の正のピークと最後の正のピークとを含まない複数の正のピークを選択する工程と、
前記進入時刻と前記進出時刻との間において、前記速度波形の最初の負のピークと最後の負のピークを含まない複数の負のピークを選択する工程と、
前記複数の正のピークに基づいて、第1近似直線を算出する工程と、
前記複数の負のピークに基づいて、第2近似直線を算出する工程と、
前記進入時速度振幅として、前記進入時刻における前記第1近似直線と前記第2近似直線との差を算出する工程と、
前記進出時速度振幅として、前記進出時刻における前記第1近似直線と前記第2近似直線との差を算出する工程と、
を含む、計測方法。
【請求項5】
請求項1において、
前記速度振幅算出工程は、
nを2以上の整数とし、前記鉄道車両の前記橋梁に対する進入時刻と進出時刻との間において、前記速度波形の最初の正のピークと最後の正のピークとを含まないn個の正のピークを選択する工程と、
前記進入時刻と前記進出時刻との間において、前記速度波形の最初の負のピークと最後の負のピークとを含まないn個の負のピークを選択する工程と、
1以上n以下の各整数kに対して、前記n個の正のピークのうちのk番目の正のピークと、前記n個の負のピークのうちのk番目の負のピークとの差であるk番目のピーク振幅を算出する工程と、
前記n個のピーク振幅に基づいて、近似直線を算出する工程と、
前記進入時速度振幅として、前記進入時刻における前記近似直線の振幅を算出する工程と、
前記進出時速度振幅として、前記進出時刻における前記近似直線の振幅を算出する工程と、
を含む、計測方法。
【請求項6】
請求項2において、
前記環境情報は、前記橋梁の長さ、前記鉄道車両の各車両の長さ、及び、前記鉄道車両の前記複数の部位の各々の位置を含む、計測方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項において、
前記複数の部位のそれぞれは車軸又は車輪である、計測方法。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか一項において、
前記観測装置は、加速度センサーである、計測方法。
【請求項9】
橋梁の観測点を観測し、前記橋梁を走行する鉄道車両の複数の部位の前記観測点への作用に対する応答である物理量を検出する観測装置から出力される観測データに基づいて、前記観測点が変位する速度の波形である速度波形を算出する速度波形算出部と、
前記速度波形に基づいて、前記鉄道車両の前記橋梁に対する進入時の前記速度波形の振幅である進入時速度振幅と、前記鉄道車両の前記橋梁に対する進出時の前記速度波形の振幅である進出時速度振幅とを算出する速度振幅算出部と、
を含む、計測装置。
【請求項10】
請求項9に記載の計測装置と、
前記観測装置と、
を備えた、計測システム。
【請求項11】
橋梁の観測点を観測し、前記橋梁を走行する鉄道車両の複数の部位の前記観測点への作用に対する応答である物理量を検出する観測装置から出力される観測データに基づいて、前記観測点が変位する速度の波形である速度波形を算出する速度波形算出工程と、
前記速度波形に基づいて、前記鉄道車両の前記橋梁に対する進入時の前記速度波形の振幅である進入時速度振幅と、前記鉄道車両の前記橋梁に対する進出時の前記速度波形の振幅である進出時速度振幅とを算出する速度振幅算出工程と、
をコンピューターに実行させる、計測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測方法、計測装置、計測システム及び計測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、鉄道車両に差動型LDVを搭載し、レーザー光源からのレーザービームをレール敷設側のレール、枕木、砂利、補助レール、ATS等の物体に照射し、それら物体からの散乱光を差動型LDVの受光素子で受光してドップラ信号を抽出し、このドップラ信号から対地速度を計測する、鉄道車両速度計測方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、レーザービームがレール面から外れてしまい、計測精度が低下するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る計測方法の一態様は、
橋梁の観測点を観測し、前記橋梁を走行する鉄道車両の複数の部位の前記観測点への作用に対する応答である物理量を検出する観測装置から出力される観測データに基づいて、前記観測点が変位する速度の波形である速度波形を算出する速度波形算出工程と、
前記速度波形に基づいて、前記鉄道車両の前記橋梁に対する進入時の前記速度波形の振幅である進入時速度振幅と、前記鉄道車両の前記橋梁に対する進出時の前記速度波形の振幅である進出時速度振幅とを算出する速度振幅算出工程と、
を含む。
【0006】
本発明に係る計測装置の一態様は、
橋梁の観測点を観測し、前記橋梁を走行する鉄道車両の複数の部位の前記観測点への作用に対する応答である物理量を検出する観測装置から出力される観測データに基づいて、前記観測点が変位する速度の波形である速度波形を算出する速度波形算出部と、
前記速度波形に基づいて、前記鉄道車両の前記橋梁に対する進入時の前記速度波形の振幅である進入時速度振幅と、前記鉄道車両の前記橋梁に対する進出時の前記速度波形の振幅である進出時速度振幅とを算出する速度振幅算出部と、
を含む。
【0007】
本発明に係る計測システムの一態様は、
前記計測装置の一態様と、
前記観測装置と、
を備える。
【0008】
本発明に係る計測プログラムの一態様は、
橋梁の観測点を観測し、前記橋梁を走行する鉄道車両の複数の部位の前記観測点への作用に対する応答である物理量を検出する観測装置から出力される観測データに基づいて、前記観測点が変位する速度の波形である速度波形を算出する速度波形算出工程と、
前記速度波形に基づいて、前記鉄道車両の前記橋梁に対する進入時の前記速度波形の振幅である進入時速度振幅と、前記鉄道車両の前記橋梁に対する進出時の前記速度波形の振幅である進出時速度振幅とを算出する速度振幅算出工程と、
をコンピューターに実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】
図1の上部構造をA-A線で切断した断面図。
【
図4】車両の長さL
C(C
m)及び車軸間の距離La(a
w(C
m,n))の一例を示す図。
【
図6】たわみ量w
std(a
w(C
m,n),t)の一例を示す図。
【
図7】たわみ量C
std(C
m,t)の一例を示す図。
【
図9】鉄道車両が減速走行したときのたわみ量T
std(t)の一例を示す図。
【
図10】鉄道車両が加速走行したときのたわみ量T
std(t)の一例を示す図。
【
図11】鉄道車両が減速走行したときの速度波形v(t)の一例を示す図。
【
図12】鉄道車両が加速走行したときの速度波形v(t)の一例を示す図。
【
図13】鉄道車両が定速走行したときの速度波形v(t)の一例を示す図。
【
図14】鉄道車両が減速走行したときの速度波形v(t)の一例を示す図。
【
図15】鉄道車両が加速走行したときの速度波形v(t)の一例を示す図。
【
図16】第1実施形態の計測方法の手順の一例を示すフローチャート図。
【
図17】センサー、計測装置及び監視装置の構成例を示す図。
【
図18】進入時刻t
i及び進出時刻t
oの算出例を示す図。
【
図20】第2実施形態の計測方法の手順の一例を示すフローチャート図。
【
図21】第2実施形態における計測装置の構成例を示す図。
【
図22】第3実施形態における速度振幅算出工程の手順の一例を示すフローチャート図。
【
図23】速度波形v(t)において選択された複数の正のピーク及び複数の負のピークの一例を示す図。
【
図24】第1近似直線S
v_pk_P(t)及び第2近似直線S
v_pk_N(t)の一例を示す図。
【
図25】進入時速度振幅S
vi及び進出時速度振幅S
voの一例を示す図。
【
図26】第4実施形態における速度振幅算出工程の手順の一例を示すフローチャート図。
【
図27】速度波形v(t)において選択されたn個の正のピーク及びn個の負のピークの一例を示す図。
【
図28】n個のピーク振幅S
v_PN(1)~S
v_PN(n)の一例を示す図。
【
図29】進入時速度振幅S
vi及び進出時速度振幅S
voの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0011】
1.第1実施形態
1-1.計測システムの構成
橋梁を通過する鉄道車両は、重量が大きく、BWIMで計測可能である。BWIMは、Bridge Weigh in Motionの略であり、橋梁を「はかり」に見立て、橋梁の変形を計測することにより、橋梁を通過する鉄道車両の重量、軸数などを測定する技術である。変形やひずみなどの応答から通過する鉄道車両の重量を解析可能な橋梁は、BWIMが機能する構造であり、橋梁への作用と応答の間の物理的なプロセスを応用するBWIMシステムが通行する鉄道車両の重量の計測を可能にする。
【0012】
図1は、本実施形態に係る計測システムの一例を示す図である。
図1に示すように、本実施形態に係る計測システム10は、計測装置1と、橋梁5に設けられる少なくとも1つのセンサー2と、を備えている。また、計測システム10は、監視装置3を備えていてもよい。
【0013】
橋梁5は上部構造7と下部構造8からなる。
図2は、上部構造7を
図1のA-A線で切断した断面図である。
図1及び
図2に示すように、上部構造7は、床板F、主桁G、不図示の横桁等からなる橋床7aと、支承7bと、レール7cと、枕木7dと、バラスト7eと、を含む。また、
図1に示すように、下部構造8は、橋脚8aと、橋台8bと、を含む。上部構造7は、隣り合う橋台8bと橋脚8a、隣り合う2つの橋台8b、又は、隣り合う2つの橋脚8aのいずれか1つに渡された構造である。上部構造7の両端部は、隣り合う橋台8bと橋脚8aの位置、隣り合う2つの橋台8bの位置、又は、隣り合う2つの橋脚8aの位置にある。
【0014】
鉄道車両6が橋梁5の上部構造7に進入すると、鉄道車両6の荷重によって上部構造7が撓むが、鉄道車両6は複数の車両が連結されているので、各車両の通過に伴って上部構造7の撓みが周期的に繰り返される。
【0015】
計測装置1と各センサー2とは、例えば、不図示のケーブルで接続され、CAN等の通信ネットワークを介して通信を行う。CANは、Controller Area Networkの略である。あるいは、計測装置1と各センサー2とは、無線ネットワークを介して通信を行ってもよい。
【0016】
各センサー2は、鉄道車両6が橋梁5を走行したときに生じる物理量を含む観測データを出力する。本実施形態では、各センサー2は、加速度センサーであり、観測データは、鉄道車両6が橋梁5を走行したときに生じる加速度を含む加速度データである。各センサー2は、例えば、水晶加速度センサーであってもよいし、MEMS加速度センサーであってもよい。MEMSは、Micro Electro Mechanical Systemsの略である。
【0017】
本実施形態では、各センサー2は橋梁5の上部構造7の長手方向の中央部、具体的には、主桁Gの長手方向の中央部に設置されている。ただし、各センサー2は、鉄道車両6の走行によって発生する加速度を検出することができればよく、その設置位置は上部構造7の中央部に限定されない。なお、各センサー2を上部構造7の床板Fに設けると、鉄道車両6の走行によって破壊するおそれがあり、また橋床7aの局部的な変形により測定精度が影響を受けるおそれがあるため、
図1及び
図2の例では、各センサー2は上部構造7の主桁Gに設けられている。
【0018】
上部構造7の床板Fや主桁G等は、橋梁5を通過する鉄道車両6による荷重によって、垂直方向に撓む。各センサー2は、橋梁5を通過する鉄道車両6の荷重による床板Fや主桁Gの撓みの加速度を検出する。
【0019】
計測装置1は、各センサー2から出力される加速度データに基づいて、鉄道車両6が橋梁5に対して進入及び進出したときに橋梁5の所定の観測点が変位する速度の振幅をそれぞれ算出し、鉄道車両6の走行が定速走行、減速走行及び加速走行のいずれであるかを判定する。計測装置1は、例えば、橋台8bに設置される。
【0020】
計測装置1と監視装置3とは、例えば、携帯電話の無線ネットワーク及びインターネット等の通信ネットワーク4を介して、通信を行うことができる。計測装置1は、鉄道車両6が橋梁5を通過したときの鉄道車両6の走行の判定結果を含む計測データを監視装置3に送信する。監視装置3は、当該計測データを不図示の記憶装置に記憶し、例えば、計測データに基づいて鉄道車両6の監視や上部構造7の異常判定等の処理を行ってもよい。
【0021】
なお、本実施形態では、橋梁5は、鉄道橋であり、例えば、鋼橋や桁橋、RC橋等である。RCは、Reinforced-Concreteの略である。
【0022】
図2に示すように、本実施形態では、センサー2に対応付けて観測点Rが設定されている。
図2の例では、観測点Rは、主桁Gに設けられたセンサー2の鉛直上方向にある上部構造7の表面の位置に設定されている。すなわち、センサー2は、観測点Rを観測する観測装置であり、橋梁5を走行する鉄道車両6の複数の部位の観測点Rへの作用に対する応答である物理量を検出し、検出した物理量を含む観測データを出力する。例えば、鉄道車両6の複数の部位のそれぞれは車軸又は車輪であるが、以降では車軸であるものとする。また、本実施形態では、各センサー2は加速度センサーであり、物理量として加速度を検出する。センサー2は、鉄道車両6の走行により観測点Rに生じる加速度を検出可能な位置に設けられていればよいが、観測点Rの鉛直上に近い位置に設けられることが望ましい。
【0023】
なお、センサー2の数及び設置位置は、
図1及び
図2に示した例には限定されず種々の変形実施が可能である。
【0024】
計測装置1は、センサー2から出力される観測データである加速度データに基づいて、鉄道車両6が走行する橋梁5の上部構造7の面と交差する方向の加速度を取得する。鉄道車両6が走行する上部構造7の面は、鉄道車両6が走行する方向、すなわち上部構造7の長手方向であるX方向と、鉄道車両6が走行する方向と直交する方向、すなわち上部構造7の幅方向であるY方向とによって規定される。鉄道車両6の走行によって、観測点Rは、X方向及びY方向と直交する方向に撓むので、計測装置1は、撓みの加速度の大きさを正確に算出するために、X方向及びY方向と直交する方向、すなわち、床板Fの法線方向であるZ方向の加速度を取得するのが望ましい。
【0025】
図3は、センサー2が検出する加速度を説明する図である。センサー2は、互いに直交する3軸の各軸方向に生じる加速度を検出する加速度センサーである。
【0026】
鉄道車両6の走行による観測点Rの撓みの加速度を検出するために、センサー2は、3つの検出軸であるx軸、y軸、z軸のうち、1軸がX方向及びY方向と交差する方向となるように設置される。観測点Rは、X方向及びY方向と直交する方向に撓むので、撓みの加速度を正確に検出するために、理想的には、センサー2は、1軸をX方向及びY方向と直交するZ方向、すなわち、床板Fの法線方向に合わせて設置される。
【0027】
ただし、センサー2を上部構造7に設置する場合、設置場所が傾いている場合もある。計測装置1は、センサー2の3つの検出軸の1軸が、床板Fの法線方向に合わせて設置されなくても、概ね法線方向に向いていることで誤差は小さく無視できる。また、計測装置1は、センサー2の3つの検出軸の1軸が、床板Fの法線方向に合わせて設置されなくても、x軸、y軸、z軸の加速度を合成した3軸合成加速度によって、センサー2の傾斜による検出誤差の補正を行うことができる。また、センサー2は、少なくとも鉛直方向にほぼ平行な方向に生ずる加速度、あるいは、床板Fの法線方向の加速度を検出する1軸加速度センサーであってもよい。
【0028】
以下、計測装置1が実行する本実施形態の計測方法の詳細について説明する。
【0029】
1-2.計測方法の詳細
本実施形態では、計測装置1は、センサー2から出力される加速度データに基づいて、観測点Rが変位する速度の波形である速度波形を算出し、鉄道車両6の橋梁5に対する進入時刻における速度波形の振幅である進入時速度振幅と、鉄道車両6の橋梁5に対する進出時刻における速度波形の振幅である進出時速度振幅とを算出する。そして、計測装置1は、進入時速度振幅と進出時速度振幅とを比較して、鉄道車両6の走行が定速走行、減速走行及び加速走行のいずれであるかを判定する。
【0030】
以下では、1台の鉄道車両6が橋梁5を定速走行、減速走行及び加速走行した場合のそれぞれの加速度の実測データが得られていないため、鉄道車両6の寸法及び橋梁5の寸法を含む環境情報と、橋梁5の上部構造7の構造モデルとに基づいて、実際の橋梁5の変位量と近似するたわみ量を算出する。そして、算出したたわみ量を微分して得られる速度波形を、実測された加速度データから算出される速度波形に代用して本実施形態の計測方法の理論を説明する。
【0031】
環境情報は、橋梁5の寸法として、例えば、橋梁長L
B及び観測点Rの位置L
xを含む。橋梁長L
Bは、橋梁5の長さであり、本実施形態では、上部構造7の進入端と進出端との間の距離である。例えば、橋梁5が複数の上部構造7を有する場合、橋梁長L
Bは、各上部構造7の進入端と進出端との間の距離である。また、観測点Rの位置L
xは、上部構造7の進入端から観測点Rまでの距離である。また、環境情報は、鉄道車両6の寸法として、例えば、鉄道車両6の各車両の長さL
C(C
m)、各車両の車軸数a
T(C
m)及び各車両の車軸間の距離La(a
w(C
m,n))を含む。C
mは車両番号であり、各車両の長さL
C(C
m)は、先頭からC
m番目の車両の両端の間の距離である。各車両の車軸数a
T(C
m)は、先頭からC
m番目の車両の車軸数である。nは、各車両の車軸番号であり、1≦n≦a
T(C
m)である。各車両の車軸間の距離La(a
w(C
m,n))は、n=1のときは先頭からC
m番目の車両の先端と先頭から1番目の車軸との間の距離であり、n≧2のときは先頭からn-1番目の車軸とn番目の車軸との間の距離である。
図4に、鉄道車両6のC
m番目の車両の長さL
C(C
m)及び車軸間の距離La(a
w(C
m,n))の一例を示す。鉄道車両6の寸法や上部構造7の寸法は、公知の手法によって測定することができる。予め、橋梁5を通過する鉄道車両6の寸法のデータベースを作成し、通過時刻から該当する車両の寸法を参照しても良い。
【0032】
なお、橋梁5の上部構造7を、寸法が同じである任意の数の車両が連結された鉄道車両6が走行すると想定される場合、環境情報は、1両分についての、車両の長さLC(Cm)、車両の車軸数aT(Cm)及び車軸間の距離La(aw(Cm,n))を含んでいればよい。
【0033】
鉄道車両6の車両数CTをパラメーターとして、鉄道車両6の総車軸数TaTは、環境情報に含まれる各車両の車軸数aT(Cm)を用いて、式(1)により算出される。
【0034】
【0035】
鉄道車両6の先頭の車軸からCm番目の車両のn番目の車軸までの距離Dwa(aw(Cm,n))は、環境情報に含まれる各車両の長さLC(Cm)、各車両の車軸数aT(Cm)及び各車両の車軸間の距離La(aw(Cm,n))を用いて、式(2)により算出される。なお、式(2)では、LC(Cm)=LC(1)であるものとしている。
【0036】
【0037】
式(2)においてCm=CT、n=aT(CT)とした式(3)により、鉄道車両6の先頭の車軸から最後尾の車両の最後尾の車軸までの距離Dwa(aw(CT,aT(CT)))が算出される。
【0038】
【0039】
鉄道車両6が橋梁5の上部構造7を通過する通過時間tsをパラメーターとして、鉄道車両6の平均速度vavgは、環境情報に含まれる橋梁長LB及び距離Dwa(aw(CT,aT(CT)))を用いて、式(4)により算出される。
【0040】
【0041】
式(4)に式(3)を代入した式(5)により、鉄道車両6の平均速度vavgが算出される。
【0042】
【0043】
橋梁5の上部構造7において、床板Fと主桁Gなどで構成される橋床7aが1つ或いは複数の連続配置される構成として考え、1つの橋床7aの変位を長手方向の中央部における変位とする。上部構造7に印加される荷重は上部構造7の一端から他端へ移動する。この時、荷重の上部構造7上の位置と荷重量を用いて、上部構造7の中央部の変位であるたわみ量を表すことができる。鉄道車両6の車軸が上部構造7上を移動するときのたわみ変形を、1点荷重の梁上の移動によるたわみ量の軌跡として表すために、
図5に示す構造モデルを考え、当該構造モデルにおいて、中間部におけるたわみ量が算出される。
図5において、Pは荷重である。aは、鉄道車両6が進入する側の上部構造7の進入端からの荷重位置である。bは、鉄道車両6が進出する側の上部構造7の進出端からの荷重位置である。
図5に示す構造モデルは、両端を支点とする両端を支持した単純梁である。
【0044】
【0045】
式(6)において、関数Haは式(7)のように定義される。
【0046】
【0047】
式(6)を変形し、式(8)が得られる。
【0048】
【0049】
一方、曲げモーメントMは式(9)で表される。式(9)において、θは角度であり、Iは二次モーメントであり、Eはヤング率である。
【0050】
【0051】
式(9)を式(8)に代入し、式(10)が得られる。
【0052】
【0053】
式(10)を観測位置xについて積分する式(11)を計算し、式(12)が得られる。式(12)において、C1は積分定数である。
【0054】
【0055】
【0056】
さらに、式(12)を観測位置xについて積分する式(13)を計算し、式(14)が得られる。式(14)において、C2は積分定数である。
【0057】
【0058】
【0059】
式(14)において、θxはたわみ量を表し、θxをたわみ量wに置き換えて式(15)が得られる。
【0060】
【0061】
図5より、b=L
B-aなので、式(15)は式(16)のように変形される。
【0062】
【0063】
x=0でたわみ量w=0として、x≦aよりHa=0であるから、式(16)にx=w=Ha=0を代入して整理すると、式(17)が得られる。
【0064】
【0065】
また、x=LBでたわみ量w=0として、x>aよりHa=1であるから、式(16)にx=LB,w=0,Ha=1を代入して整理すると、式(18)が得られる。
【0066】
【0067】
式(18)にb=LB-aを代入し、式(19)が得られる。
【0068】
【0069】
式(15)に式(18)の積分定数C1及び式(17)の積分定数C2を代入し、式(20)が得られる。
【0070】
【0071】
式(20)を変形し、荷重Pが位置aに印加された時の観測位置xにおけるたわみ量wは、式(21)で表される。
【0072】
【0073】
荷重Pが上部構造7の中央にある時の中央の観測位置xにおけるたわみ量w0.5LBは、x=0.5LB,a=b=0.5LB,Ha=0として、式(22)で表される。このたわみ量w0.5LBが、たわみ量wの最大振幅となる。
【0074】
【0075】
任意の観測位置xにおけるたわみ量wは、たわみ量w0.5LBで規格化される。荷重Pの位置aが観測位置xよりも進入端側にある場合、x>aより、式(22)にHa=1を代入して式(23)が得られる。
【0076】
【0077】
荷重Pの位置aをa=LBrとし、式(23)にa=LBr,b=LB(1-r)を代入して整理すると、式(24)により、たわみ量wが規格化されたたわみ量wstdが得られる。rは、橋梁長LBに対する荷重Pの位置aの比を示す。
【0078】
【0079】
同様に、荷重Pの位置aが観測位置xよりも進出端側にある場合、x≦aより、式(22)にHa=0を代入して式(25)が得られる。
【0080】
【0081】
荷重Pの位置aをa=LBrとし、式(25)にa=LBr,b=LB(1-r)を代入して整理すると、式(26)により、たわみ量wが規格化されたたわみ量wstdが得られる。
【0082】
【0083】
式(24)、式(26)をまとめて、任意の観測位置x=Lxにおけるたわみ量wstd(r)は、式(27)で表される。式(27)において、関数R(r)は式(28)で表される。式(27)は、構造物である上部構造7のたわみの近似式であり、上部構造7の構造モデルに基づく式である。具体的には、式(27)は、上部構造7の進入端と進出端との中央位置におけるたわみの最大振幅で規格化された近似式である。
【0084】
【0085】
【0086】
鉄道車両6が橋梁5を定速走行する場合、鉄道車両6の任意の車軸が上部構造7の進入端から観測点Rの位置Lxに至るまでに要する時間txnは、式(5)によって算出される平均速度vavgを用いて、式(29)により算出される。
【0087】
【0088】
また、鉄道車両6の任意の車軸が長さLBの上部構造7を通過するのに要する時間tlnは、式(30)により算出される。
【0089】
【0090】
鉄道車両6のCm番目の車両のn番目の車軸が上部構造7の進入端に到達する時刻t0(Cm,n)は、観測情報に含まれる進入時刻ti、式(2)によって算出される距離Dwa(aw(Cm,n))及び式(5)によって算出される平均速度vavgを用いて、式(31)により算出される。
【0091】
【0092】
式(29)、式(30)及び式(31)を用いて、式(32)により、C
m番目の車両のn番目の車軸による式(27)で表されるたわみ量w
std(r)を時間に置き換えたたわみ量w
std(a
w(C
m,n),t)が算出される。式(32)において、関数R(t)は式(33)で表される。
図6に、1番目の車両の1~4番目の車軸によるたわみ量w
std(a
w(1,1),t)~w
std(a
w(1,4),t)の一例を示す。
【0093】
【0094】
【0095】
また、式(34)により、C
m番目の車両によるたわみ量C
std(C
m,t)が算出される。
図7に、車両数C
T=10の鉄道車両6によるたわみ量C
std(1,t)~C
std(10,t)を示す。
【0096】
【0097】
さらに、式(35)により、鉄道車両6が橋梁5を定速走行したときの鉄道車両6によるたわみ量T
std(t)が算出される。
図8に、車両数C
T=10の鉄道車両6によるたわみ量T
std(t)の一例を示す。
【0098】
【0099】
たわみ量Tstd(t)は荷重Pである鉄道車両6の移動によって生成されるので、鉄道車両6の走行速度が変化したときのたわみ量Tstd(t)は、鉄道車両6が定速走行したときのたわみ量Tstd(t)が時間方向に伸縮した波形となる。
【0100】
鉄道車両6が加速又は減速するときの加速度a0を一定とした場合、鉄道車両6の走行速度va(t)は、進入時刻tiを0、進入時刻ti=0における鉄道車両6の速度をviとして、式(36)によって得られる。
【0101】
【0102】
鉄道車両6が速度viで定速走行するときの走行距離u1(t)は、u1(t=0)として式(37)によって得られる。
【0103】
【0104】
また、鉄道車両6が一定の加速度a0で加速又は減速するときの走行距離u2(t)は、u2(t=0)として式(38)によって得られる。
【0105】
【0106】
式(37)及び式(38)より、式(39)が得られる。
【0107】
【0108】
式(39)より、鉄道車両6が一定の加速度a
0で減速走行したときのたわみ量T
std(t)は、鉄道車両6が定速走行したときのたわみ量T
std(t)が時間方向に{1/(a
0/2v
i)t+1}倍に伸縮した波形となる。
図9に、鉄道車両6が減速走行したときのたわみ量T
std(t)を実線で示し、鉄道車両6が定速走行したときのたわみ量T
std(t)を破線で示す。
図9の例では、鉄道車両6の車両数C
Tは16である。
【0109】
また、式(39)より、鉄道車両6が一定の加速度a
0で加速走行したときのたわみ量T
std(t)は、鉄道車両6が定速走行したときのたわみ量T
std(t)が時間方向に{1/(a
0/2v
i)t+1}倍に収縮した波形となる。
図10に、鉄道車両6が加速走行したときのたわみ量T
std(t)を実線で示し、鉄道車両6が定速走行したときのたわみ量T
std(t)を破線で示す。
図10の例では、鉄道車両6の車両数C
Tは16である。
【0110】
たわみ量T
std(t)を微分することで変位変化の速度波形が得られる。
図11に、
図9において実線で示したたわみ量T
std(t)を微分して得られる、鉄道車両6が減速走行したときの速度波形v(t)を実線で示し、
図9において破線で示したたわみ量T
std(t)を微分して得られる、鉄道車両6が定速走行したときの速度波形v(t)を破線で示す。また、
図12に、
図10において実線で示したたわみ量T
std(t)を微分して得られる、鉄道車両6が加速走行したときの速度波形v(t)を実線で示し、
図10において破線で示したたわみ量T
std(t)を微分して得られる、鉄道車両6が定速走行したときの速度波形v(t)を破線で示す。
【0111】
前述の通り、実際には、計測装置1は、たわみ量Tstd(t)から速度波形を算出するのではなく、センサー2から出力される加速度データに基づいて、観測点Rが変位する速度の波形である速度波形を算出する。そして、計測装置1は、算出した速度波形に基づいて、鉄道車両6の走行が定速走行、減速走行及び加速走行のいずれであるかを判定する。具体的には、まず、計測装置1は、式(40)のように、加速度センサーであるセンサー2から出力される加速度データa(t)を積分して速度波形v(t)を生成する。式(40)において、ΔTはサンプルの時間間隔である。なお、計測装置1は、加速度データa(t)に含まれる低周波数域の信号を除くために加速度データa(t)をハイパスフィルター処理し、ハイパスフィルター処理された加速度データa(t)を式(40)により積分してもよい。また、計測装置1は、式(40)により加速度データa(t)を積分した後にハイパスフィルター処理して速度波形v(t)を生成してもよい。
【0112】
【0113】
次に、計測装置1は、鉄道車両6の橋梁5に対する進入時の速度波形v(t)の振幅である進入時速度振幅S
vi及び鉄道車両6の橋梁5に対する進出時の速度波形v(t)の振幅である進出時速度振幅S
voを算出する。例えば、
図13、
図14及び
図15に示すように、計測装置1は、速度波形v(t)の最初から2番目の正のピークと負のピークとの差を進入時速度振幅S
viとして算出し、最後から2番目の正のピークと負のピークとの差を進出時速度振幅S
voとして算出してもよい。
図13は、鉄道車両6が定速走行したときの速度波形v(t)であり、
図14は、鉄道車両6が減速走行したときの速度波形v(t)であり、
図15は、鉄道車両6が加速走行したときの速度波形v(t)である。なお、前述の通り、加速度の実測データが得られていないため、
図13の例では、
図11及び
図12に破線で示した定速時の速度波形v(t)が代用されている。また、
図14の例では、
図11に実線で示した減速時の速度波形v(t)が代用されている。また、
図15の例では、
図12に実線で示した加速時の速度波形v(t)が代用されている。
【0114】
そして、計測装置1は、進入時速度振幅Svi≒進出時速度振幅Svoである場合は鉄道車両6が定速走行したと判定し、進入時速度振幅Svi>進出時速度振幅Svoである場合は鉄道車両6が減速走行したと判定し、進入時速度振幅Svi<進出時速度振幅Svoである場合は鉄道車両6が加速走行したと判定する。例えば、計測装置1は、±ΔSvを閾値として、-ΔSv≦Svi-Svo≦ΔSvの場合は鉄道車両6が定速走行したと判定し、Svi-Svo>ΔSvの場合は鉄道車両6が減速走行したと判定し、Svi-Svo<-ΔSvの場合は鉄道車両6が加速走行したと判定してもよい。
【0115】
図9及び
図10に示したように、鉄道車両6が減速走行又は加速走行したときのたわみ量T
std(t)は、鉄道車両6が定速走行したときのたわみ量T
std(t)が時間方向に伸縮した波形となるが、たわみ量T
std(t)の振幅は鉄道車両6の荷重によって決まるため、鉄道車両6の速度が変化してもたわみ量T
std(t)の振幅は変わらない。実測された加速度データa(t)を2重積分して得られる橋梁5の変位波形はたわみ量T
std(t)の波形と近似するので、鉄道車両6の速度が変化しても橋梁5の変位波形の振幅は変わらない。したがって、鉄道車両6の走行が定速走行、減速走行、加速走行のいずれであるかを橋梁5の変位波形に基づいて判定するためには、変位波形に含まれる振動成分の周期の変化を捉える必要があり、橋梁5の変位波形に基づく鉄道車両6の走行判定は必ずしも容易ではない。これに対して、
図13、
図14及び
図15に示すように、速度波形v(t)の振幅は鉄道車両6の速度によって変化するため、速度波形v(t)に基づく鉄道車両6の走行判定は容易である。
【0116】
1-3.計測方法の手順
図16は、第1実施形態の計測方法の手順の一例を示すフローチャート図である。本実施形態では、計測装置1が
図16に示す手順を実行する。
【0117】
図16に示すように、まず、観測データ取得工程S10において、計測装置1は、橋梁5の観測点Rを観測し、橋梁5を走行する鉄道車両6の複数の部位の観測点Rへの作用に対する応答である物理量を検出する観測装置から出力される観測データを取得する。本実施形態では、センサー2は加速度センサーであり、センサー2が検出する物理量は加速度であり、観測データは加速度データa(t)である。
【0118】
次に、速度波形算出工程S20において、計測装置1は、工程S10で取得した観測データである加速度データa(t)に基づいて、橋梁5の観測点Rが変位する速度の波形である速度波形v(t)を算出する。例えば、速度波形算出工程S20において、計測装置1は、加速度データa(t)をハイパスフィルター処理した後、前出の式(40)により、加速度データa(t)を積分して速度波形v(t)を算出する。あるいは、計測装置1は、前出の式(40)により加速度データa(t)を積分した後にハイパスフィルター処理して速度波形v(t)を算出してもよい。
【0119】
次に、速度振幅算出工程S30において、計測装置1は、工程S20で算出した速度波形v(t)に基づいて、鉄道車両6の橋梁5に対する進入時の速度波形v(t)の振幅である進入時速度振幅Sviと、鉄道車両6の橋梁5に対する進出時の速度波形v(t)の振幅である進出時速度振幅Svoとを算出する。例えば、計測装置1は、速度波形v(t)の最初から2番目の正のピークと負のピークとの差を進入時速度振幅Sviとして算出し、最後から2番目の正のピークと負のピークとの差を進出時速度振幅Svoとして算出してもよい。
【0120】
次に、走行判定工程S40において、計測装置1は、工程S30で算出した進入時速度振幅Sviと進出時速度振幅Svoとを比較して、鉄道車両6の走行が定速走行、減速走行及び加速走行のいずれであるかを判定する。例えば、計測装置1は、±ΔSvを閾値として、-ΔSv≦Svi-Svo≦ΔSvの場合は鉄道車両6が定速走行したと判定し、Svi-Svo>ΔSvの場合は鉄道車両6が減速走行したと判定し、Svi-Svo<-ΔSvの場合は鉄道車両6が加速走行したと判定してもよい。
【0121】
次に、計測データ出力工程S50において、計測装置1は、工程S40の走行判定結果を含む計測データを監視装置3に出力する。具体的には、計測装置1は、計測データを、通信ネットワーク4を介して監視装置3に送信する。計測データは、走行判定結果に加えて、加速度データa(t)、速度波形v(t)、進入時速度振幅Svi、進出時速度振幅Svo等を含んでもよい。
【0122】
そして、工程S60において計測を終了するまで、計測装置1は、工程S10~S50の処理を繰り返し行う。
【0123】
1-4.センサー、計測装置及び監視装置の構成
図17は、センサー2、計測装置1及び監視装置3の構成例を示す図である。
【0124】
図17に示すように、センサー2は、通信部21と、加速度センサー22と、プロセッサー23と、記憶部24と、を備えている。
【0125】
記憶部24は、プロセッサー23が計算処理や制御処理を行うための各種のプログラムやデータ等を記憶するメモリーである。また、記憶部24は、プロセッサー23が所定のアプリケーション機能を実現するためのプログラムやデータ等を記憶している。
【0126】
加速度センサー22は、3軸の各軸方向に生じる加速度を検出する。
【0127】
プロセッサー23は、記憶部24に記憶された観測プログラム241を実行することにより、加速度センサー22を制御し、加速度センサー22が検出した加速度に基づいて観測データ242を生成し、生成した観測データ242を記憶部24に記憶させる。本実施形態では、観測データ242は、加速度データa(t)である。
【0128】
通信部21は、プロセッサー23の制御により、記憶部24に記憶されている観測データ242を計測装置1に送信する。
【0129】
図17に示すように、計測装置1は、第1通信部11と、第2通信部12と、記憶部13と、プロセッサー14と、を備えている。
【0130】
第1通信部11は、センサー2から観測データ242を受信し、受信した観測データ242をプロセッサー14に出力する。前述の通り、観測データ242は、加速度データa(t)である。
【0131】
記憶部13は、プロセッサー14が計算処理や制御処理を行うためのプログラムやデータ等を記憶するメモリーである。また、記憶部13は、プロセッサー14が所定のアプリケーション機能を実現するための各種のプログラムやデータ等を記憶している。また、プロセッサー14が通信ネットワーク4を介して各種のプログラムやデータ等を受信して記憶部13に記憶させてもよい。
【0132】
プロセッサー14は、第1通信部11が受信した観測データ242に基づいて計測データ133を生成し、生成した計測データ133を記憶部13に記憶させる。
【0133】
本実施形態では、プロセッサー14は、記憶部13に記憶された計測プログラム131を実行することにより、観測データ取得部141、速度波形算出部142、速度振幅算出部143、走行判定部144及び計測データ出力部145として機能する。すなわち、プロセッサー14は、観測データ取得部141、速度波形算出部142、速度振幅算出部143、走行判定部144及び計測データ出力部145を含む。
【0134】
観測データ取得部141は、第1通信部11が受信した観測データ242を取得し、観測データ132として記憶部13に記憶させる。すなわち、観測データ取得部141は、
図16における観測データ取得工程S10の処理を行う。
【0135】
速度波形算出部142は、観測データ取得部141が取得した観測データ132である加速度データa(t)に基づいて、橋梁5の観測点Rが変位する速度の波形である速度波形v(t)を算出する。例えば、速度波形算出部142は、加速度データa(t)をハイパスフィルター処理した後、前出の式(40)により、加速度データa(t)を積分して速度波形v(t)を算出する。あるいは、速度波形算出部142は、前出の式(40)により加速度データa(t)を積分した後にハイパスフィルター処理して速度波形v(t)を生成してもよい。すなわち、速度波形算出部142は、
図16における速度波形算出工程S20の処理を行う。
【0136】
速度振幅算出部143は、速度波形算出部142が算出した速度波形v(t)に基づいて、鉄道車両6の橋梁5に対する進入時の速度波形v(t)の振幅である進入時速度振幅S
viと、鉄道車両6の橋梁5に対する進出時の速度波形v(t)の振幅である進出時速度振幅S
voとを算出する。例えば、速度振幅算出部143は、速度波形v(t)の最初から2番目の正のピークと負のピークとの差を進入時速度振幅S
viとして算出し、最後から2番目の正のピークと負のピークとの差を進出時速度振幅S
voとして算出してもよい。すなわち、速度振幅算出部143は、
図16における速度振幅算出工程S30の処理を行う。
【0137】
走行判定部144は、速度振幅算出部143が算出した進入時速度振幅Sviと進出時速度振幅Svoとを比較して、鉄道車両6の走行が定速走行、減速走行及び加速走行のいずれであるかを判定する。例えば、走行判定部144は、±ΔSvを閾値として、-ΔSv≦Svi-Svo≦ΔSvの場合は鉄道車両6が定速走行したと判定し、Svi-Svo>ΔSvの場合は鉄道車両6が減速走行したと判定し、Svi-Svo<-ΔSvの場合は鉄道車両6が加速走行したと判定してもよい。
【0138】
走行判定部144による走行判定結果は、計測データ133の少なくとも一部として記憶部13に記憶される。計測データ133は、走行判定結果に加えて、加速度データa(t)、速度波形v(t)、進入時速度振幅Svi、進出時速度振幅Svo等を含んでもよい。
【0139】
計測データ出力部145は、記憶部13に記憶されている計測データ133を読み出し、計測データ133を監視装置3に出力する。具体的には、計測データ出力部145の制御により、第2通信部12が、記憶部13に記憶されている計測データ133を、通信ネットワーク4を介して、監視装置3に送信する。すなわち、計測データ出力部145は、
図16における計測データ出力工程S50の処理を行う。
【0140】
このように、計測プログラム131は、
図16に示したフローチャートの各手順を、コンピューターである計測装置1に実行させるプログラムである。
【0141】
図17に示すように、監視装置3は、通信部31と、プロセッサー32と、表示部33と、操作部34と、記憶部35と、を備えている。
【0142】
通信部31は、計測装置1から計測データ133を受信し、受信した計測データ133をプロセッサー32に出力する。
【0143】
表示部33は、プロセッサー32の制御により、各種の情報を表示させる。表示部33は、例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイであってもよい。ELは、Electro Luminescenceの略である。
【0144】
操作部34は、ユーザーによる操作に対応する操作データをプロセッサー32に出力する。操作部34は、例えば、マウス、キーボード、マイクロフォン等の入力装置であってもよい。
【0145】
記憶部35は、プロセッサー32が計算処理や制御処理を行うための各種のプログラムやデータ等を記憶するメモリーである。また、記憶部35は、プロセッサー32が所定のアプリケーション機能を実現するためのプログラムやデータ等を記憶している。
【0146】
プロセッサー32は、通信部31が受信した計測データ133を取得し、取得した計測データ133に基づいて橋梁5の状態の経時的な変化を評価して評価情報を生成し、生成した評価情報を表示部33に表示させる。
【0147】
本実施形態では、プロセッサー32は、記憶部35に記憶された監視プログラム351を実行することにより、計測データ取得部321及び監視部322として機能する。すなわち、プロセッサー32は、計測データ取得部321及び監視部322を含む。
【0148】
計測データ取得部321は、通信部31が受信した計測データ133を取得し、取得した計測データ133を記憶部35に記憶される計測データ列352に追加する。
【0149】
監視部322は、記憶部35に記憶される計測データ列352に基づいて、統計的に橋梁5の状態の経時的な変化を評価する。そして、監視部322は、評価結果を示す評価情報を生成し、生成した評価情報を表示部33に表示させる。ユーザーは、表示部33に表示される評価情報に基づいて、橋梁5の状態を監視することができる。
【0150】
監視部322は、記憶部35に記憶される計測データ列352に基づいて、鉄道車両6の監視や橋梁5の異常判定等の処理を行ってもよい。
【0151】
また、プロセッサー32は、操作部34から出力される操作データに基づいて、計測装置1やセンサー2の動作状況を調整するための情報を、通信部31を介して計測装置1に送信する。計測装置1は、第2通信部12を介して受信した情報によって動作状況が調整される。また、計測装置1は、第2通信部12を介して受信したセンサー2の動作状況を調整するための情報を、第1通信部11を介してセンサー2に送信する。センサー2は、通信部21を介して受信した情報によって動作状況が調整される。
【0152】
なお、プロセッサー14,23,32は、例えば各部の機能が個別のハードウェアで実現されてもよいし、或いは各部の機能が一体のハードウェアで実現されてもよい。例えば、プロセッサー14,23,32はハードウェアを含み、そのハードウェアは、デジタル信号を処理する回路及びアナログ信号を処理する回路の少なくとも一方を含むことができる。プロセッサー14,23,32は、CPU、GPU、或いはDSP等であってもよい。CPUはCentral Processing Unitの略であり、GPUはGraphics Processing Unitの略であり、DSPはDigital Signal Processorの略である。また、プロセッサー14,23,32は、ASICなどのカスタムICとして構成され、各部の機能を実現してもよいし、CPUとASICとによって各部の機能を実現してもよい。ASICはApplication Specific Integrated Circuitの略であり、ICはIntegrated Circuitの略である。
【0153】
また、記憶部13,24,35は、例えば、ROMやフラッシュROM、RAM等の各種ICメモリーやハードディスク、メモリーカードなどの記録媒体等により構成される。ROMはRead Only Memoryの略であり、RAMはRandom Access Memoryの略であり、ICはIntegrated Circuitの略である。記憶部13,24,35は、コンピューターにより読み取り可能な装置や媒体である不揮発性の情報記憶装置を含み、各種のプログラムやデータ等は当該情報記憶装置に記憶されていてもよい。情報記憶装置は、光ディスクDVD、CD等の光ディスク、ハードディスクドライブ、或いはカード型メモリーやROM等の各種のメモリー等であってもよい。
【0154】
なお、
図17ではセンサー2は1つのみ図示されているが、複数のセンサー2がそれぞれ観測データ242を生成し、計測装置1に送信してもよい。この場合、計測装置1は、複数のセンサー2から送信された複数の観測データ242を受信して複数の計測データ133を生成し、監視装置3に送信する。また、監視装置3は、計測装置1から送信された複数の計測データ133を受信し、受信した複数の計測データ133に基づいて、橋梁5の状態を監視する。
【0155】
1-5.作用効果
以上に説明したように、第1実施形態の計測方法では、計測装置1は、センサー2から出力される加速度データa(t)に基づいて、観測点Rが変位する速度波形v(t)を算出し、鉄道車両6の橋梁5に対する進入時速度振幅Svi及び進出時速度振幅Svoを算出する。観測点Rの変位の振幅は鉄道車両6の荷重で決まるため、鉄道車両6の走行が定速走行、減速走行及び加速走行のいずれであっても、観測点Rの変位の振幅は変わらない。一方、鉄道車両6が定速走行した場合は観測点Rの変位が振動する周期はほぼ一定であるのに対して、鉄道車両6が減速走行又は加速走行した場合は観測点Rの変位が振動する周期が徐々に変化する。しかしながら、条件によっては、この振動周期の変化を捉えて、鉄道車両6の走行が定速走行、減速走行及び加速走行のいずれであったかを判別するのが難しい場合もある。これに対して、鉄道車両6が定速走行した場合は進出時速度振幅Svoが進入時速度振幅Sviとほぼ等しくなるのに対して、鉄道車両6が減速走行した場合は進出時速度振幅Svoが進入時速度振幅Sviよりも小さくなり、鉄道車両6が加速走行した場合は進出時速度振幅Svoが進入時速度振幅Sviよりも大きくなる。この進入時速度振幅Sviと進出時速度振幅Svoとの差により、鉄道車両6の走行が定速走行、減速走行及び加速走行のいずれであったかを判別するのは容易である。したがって、第1実施形態の計測方法によれば、計測装置1は、鉄道車両6が橋梁5を走行したときに定速走行、減速走行及び加速走行のいずれであったかを容易に判別するための指標となる情報を算出することができる。
【0156】
また、第1実施形態の計測方法によれば、計測装置1は、進出時速度振幅Svoが進入時速度振幅Sviとほぼ等しい場合は鉄道車両6が定速走行したと判定し、進出時速度振幅Svoが進入時速度振幅Sviよりも小さい場合は鉄道車両6が減速走行したと判定し、進出時速度振幅Svoが進入時速度振幅Sviよりも大きい場合は鉄道車両6が加速走行したと判定することができる。
【0157】
2.第2実施形態
以下、第2実施形態について、第1実施形態と同様の構成要素には同じ符号を付して第1実施形態と重複する説明を省略又は簡略し、主に第1実施形態と異なる内容について説明する。
【0158】
第2実施形態では、計測装置1は、進入時速度振幅Svi、進出時速度振幅Svo及び鉄道車両6が橋梁5を走行する平均速度vavgに基づいて、鉄道車両6の橋梁5に対する進入速度vi及び進出速度voを算出する。
【0159】
具体的には、まず、計測装置1は、鉄道車両6が橋梁5の上部構造7を通過するのに要した通過時間t
sを算出する。例えば、計測装置1は、
図18に示すように、加速度データa(t)が閾値THと最初に交差する時刻を進入時刻t
iとして算出し、加速度データa(t)が閾値THと最後に交差する時刻を進出時刻t
oとして算出する。そして、計測装置1は、式(41)により、進出時刻t
oと進入時刻t
iとの差として、鉄道車両6が橋梁5の上部構造7を通過する通過時間t
sを算出する。なお、前述の通り、加速度データa(t)の実測データが得られていないため、
図18の例では、前出の
図9に実線で示した減速時のたわみ量T
std(t)を微分して得られた、前出の
図11に実線で示した減速時の速度波形v(t)をさらに微分した加速度波形が加速度データa(t)として示されている。
【0160】
【0161】
また、計測装置1は、鉄道車両6の車両数C
Tを算出する。例えば、
図19に示すように、計測装置1は、速度波形v(t)の正のピーク数P
nをカウントし、式(42)により、車両数C
Tを算出する。
図19の例では、速度波形v(t)の正のピーク数P
nが17であり、車両数C
Tは16である。なお、加速度データa(t)の実測データが得られていないため、
図19の例では、前出の式(40)により加速度データa(t)を微分して得られる速度波形v(t)に代えて、
図11に実線で示した減速時の速度波形v(t)が示されている。
【0162】
【0163】
次に、計測装置1は、鉄道車両6の平均速度vavgを算出する。例えば、計測装置1は、式(43)により、橋梁長LBと鉄道車両6の長さである列車長LTとの和を通過時間tsで割ることによって平均速度vavgを算出する。列車長LTは、鉄道車両6の先頭の車軸から最後尾の車両の最後尾の車軸までの距離Dwa(aw(CT,aT(CT)))である。
【0164】
【0165】
鉄道車両6の走行加速度が一定であるとすると、平均速度vavgと、鉄道車両6の橋梁5に対する進入速度vi及び進出速度voとは、式(44)の関係となる。
【0166】
【0167】
一方、速度波形v(t)の平均振幅である平均速度振幅Sv_avgと、速度波形v(t)の進入時速度振幅Svi及び進出時速度振幅Svoとは、式(45)の関係となる。
【0168】
【0169】
鉄道車両6が定速走行したとき、進出速度v
oは進入速度v
iと等しくなり、前出の
図13に示したように、進出時速度振幅S
voは進入時速度振幅S
viと等しくなる。また、鉄道車両6が減速走行したとき、進出速度v
oは進入速度v
iよりも小さくなり、前出の
図14に示したように、進出時速度振幅S
voは進入時速度振幅S
viよりも小さくなる。また、鉄道車両6が加速走行したとき、進出速度v
oは進入速度v
iよりも大きくなり、前出の
図15に示したように、進出時速度振幅S
voは進入時速度振幅S
viよりも大きくなる。そのため、式(46)のように、平均速度v
avgと平均速度振幅S
v_avgとは比例関係にある。
【0170】
【0171】
したがって、計測装置1は、式(47)及び式(48)によって、進入速度vi及び進出速度voをそれぞれ算出することができる。
【0172】
【0173】
【0174】
図20は、第2実施形態の計測方法の手順の一例を示すフローチャート図である。
図20において、
図16の各工程と同様の処理を行う工程には同じ符号が付されている。本実施形態では、計測装置1が
図20に示す手順を実行する。
【0175】
図20に示すように、まず、第1実施形態と同様、計測装置1は、観測データ取得工程S10、速度波形算出工程S20、速度振幅算出工程S30及び走行判定工程S40の各処理を行う。第2実施形態の計測方法における観測データ取得工程S10、速度波形算出工程S20、速度振幅算出工程S30及び走行判定工程S40の処理は、第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0176】
次に、平均速度算出工程S42において、計測装置1は、工程S10で取得した観測データである加速度データa(t)と、予め作成された鉄道車両6の寸法及び橋梁5の寸法を含む環境情報とに基づいて、鉄道車両6が橋梁5を走行する平均速度vavgを算出する。環境情報は、橋梁5の長さである橋梁長LB、観測点Rの位置Lx、鉄道車両6の各車両の長さLC(Cm)、各車両の車軸数aT(Cm)及び鉄道車両6の複数の車軸の各々の位置に相当する各車軸間の距離La(aw(Cm,n))を含む。具体的には、まず、計測装置1は、加速度データa(t)が閾値THと最初に交差する時刻を進入時刻tiとして算出し、加速度データa(t)が閾値THと最後に交差する時刻を進出時刻toとして算出する。次に、計測装置1は、前出の式(41)により、通過時間tsを算出する。次に、計測装置1は、工程S20で算出した速度波形v(t)の正のピーク数Pnをカウントし、前出の式(42)により、車両数CTを算出する。次に、計測装置1は、算出した車両数CTを前出の式(3)に代入し、列車長LTとして、鉄道車両6の先頭の車軸から最後尾の車両の最後尾の車軸までの距離Dwa(aw(CT,aT(CT)))を算出する。そして、計測装置1は、橋梁長LB及び列車長LTを用いて、前出の式(43)により平均速度vavgを算出する。
【0177】
次に、進入進出速度算出工程S44において、計測装置1は、工程S30で算出した進入時速度振幅Svi及び進出時速度振幅Svoと、工程S42で算出した平均速度vavgとに基づいて、鉄道車両6の橋梁5に対する進入速度vi及び進出速度voを算出する。具体的には、計測装置1は、前出の式(47)により進入速度viを算出し、前出の式(48)により進出速度voを算出する。
【0178】
次に、計測データ出力工程S50において、計測装置1は、工程S40の走行判定結果や工程S44で算出した進入時速度振幅Svi及び進出時速度振幅Svoを含む計測データを監視装置3に出力する。具体的には、計測装置1は、計測データを、通信ネットワーク4を介して監視装置3に送信する。計測データは、さらに、加速度データa(t)、速度波形v(t)、進入時速度振幅Svi、進出時速度振幅Svo、平均速度vavg等を含んでもよい。
【0179】
そして、工程S60において計測を終了するまで、計測装置1は、工程S10~S50の処理を繰り返し行う。
【0180】
第2実施形態におけるセンサー2及び監視装置3の機能は、第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
図21は、第2実施形態における計測装置1の構成例を示す図である。
【0181】
図21に示すように、第2実施形態における計測装置1は、第1実施形態と同様、第1通信部11と、第2通信部12と、記憶部13と、プロセッサー14と、を備えている。第1通信部11、第2通信部12及び記憶部13の機能は、第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0182】
本実施形態では、プロセッサー14は、記憶部13に記憶された計測プログラム131を実行することにより、観測データ取得部141、速度波形算出部142、速度振幅算出部143、走行判定部144、計測データ出力部145、平均速度算出部146及び進入進出速度算出部147として機能する。すなわち、プロセッサー14は、観測データ取得部141、速度波形算出部142、速度振幅算出部143、走行判定部144、計測データ出力部145、平均速度算出部146及び進入進出速度算出部147を含む。観測データ取得部141、速度波形算出部142、速度振幅算出部143及び走行判定部144の機能は、第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。なお、観測データ取得部141は、
図20の観測データ取得工程S10の処理を行う。また、速度波形算出部142は、
図20の速度波形算出工程S20の処理を行う。また、速度振幅算出部143は、
図20の速度振幅算出工程S30の処理を行う。また、走行判定部144は、
図20の走行判定工程S40の処理を行う。
【0183】
平均速度算出部146は、観測データ取得部141が取得した観測データである加速度データa(t)と、予め作成された鉄道車両6の寸法及び橋梁5の寸法を含む環境情報134とに基づいて、鉄道車両6が橋梁5を走行する平均速度v
avgを算出する。環境情報134は、記憶部13に記憶されており、橋梁5の長さである橋梁長L
B、観測点Rの位置L
x、鉄道車両6の各車両の長さL
C(C
m)、各車両の車軸数a
T(C
m)及び鉄道車両6の複数の車軸の各々の位置に相当する各車軸間の距離La(a
w(C
m,n))を含む。具体的には、まず、平均速度算出部146は、加速度データa(t)が閾値THと最初に交差する時刻を進入時刻t
iとして算出し、加速度データa(t)が閾値THと最後に交差する時刻を進出時刻t
oとして算出する。次に、平均速度算出部146は、前出の式(41)により、通過時間t
sを算出する。次に、平均速度算出部146は、速度波形算出部142が算出した速度波形v(t)の正のピーク数P
nをカウントし、前出の式(42)により、車両数C
Tを算出する。次に、平均速度算出部146は、算出した車両数C
Tを前出の式(3)に代入し、列車長L
Tとして、鉄道車両6の先頭の車軸から最後尾の車両の最後尾の車軸までの距離D
wa(a
w(C
T,a
T(C
T)))を算出する。そして、平均速度算出部146は、橋梁長L
B及び列車長L
Tを用いて、前出の式(43)により平均速度v
avgを算出する。すなわち、平均速度算出部146は、
図20の平均速度算出工程S42の処理を行う。
【0184】
進入進出速度算出部147は、速度振幅算出部143が算出した進入時速度振幅S
vi及び進出時速度振幅S
voと、平均速度算出部146が算出した平均速度v
avgとに基づいて、鉄道車両6の橋梁5に対する進入速度v
i及び進出速度v
oを算出する。具体的には、進入進出速度算出部147は、前出の式(47)により進入速度v
iを算出し、前出の式(48)により進出速度v
oを算出する。すなわち、進入進出速度算出部147は、
図20の進入進出速度算出工程S44の処理を行う。
【0185】
走行判定部144による走行判定結果並びに進入進出速度算出部147が算出した進入速度vi及び進出速度voは、計測データ133の少なくとも一部として記憶部13に記憶される。計測データ133は、さらに、加速度データa(t)、速度波形v(t)、進入時速度振幅Svi、進出時速度振幅Svo、平均速度vavg等を含んでもよい。
【0186】
計測データ出力部145は、記憶部13に記憶されている計測データ133を読み出し、計測データ133を監視装置3に出力する。すなわち、計測データ出力部145は、
図20における計測データ出力工程S50の処理を行う。
【0187】
第2実施形態における計測装置1のその他の機能は、第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0188】
以上に説明した第2実施形態の計測方法では、計測装置1は、センサー2から出力される加速度データa(t)と、予め作成された鉄道車両6の寸法及び橋梁5の寸法を含む環境情報とに基づいて、鉄道車両6が橋梁5を走行する平均速度vavgを算出し、進入時速度振幅Sviと進出時速度振幅Svoと平均速度vavgとに基づいて、鉄道車両6の橋梁5に対する進入速度vi及び進出速度voを算出する。したがって、第2実施形態の計測方法によれば、計測装置1は、鉄道車両6の走行が定速走行、減速走行及び加速走行のいずれであっても、加速度データa(t)と環境情報とに基づいて、鉄道車両6の橋梁5に対する進入速度vi及び進出速度voを算出することができる。
【0189】
その他、第2実施形態の計測方法によれば、第1実施形態の計測方法と同様の効果を奏することができる。
【0190】
3.第3実施形態
以下、第3実施形態について、第1実施形態又は第2実施形態と同様の構成要素には同じ符号を付して第1実施形態又は第2実施形態と重複する説明を省略又は簡略し、主に第1実施形態及び第2実施形態と異なる内容について説明する。
【0191】
第3実施形態の計測方法の手順の一例を示すフローチャート図は、
図16又は
図20と同様であるため、その図示を省略する。第3実施形態の計測方法における観測データ取得工程S10、速度波形算出工程S20及び走行判定工程S40の処理は、第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。また、第3実施形態の計測方法における平均速度算出工程S42及び進入進出速度算出工程S44の処理は、第2実施形態と同様であるため、その説明を省略する。また、第3実施形態の計測方法における計測データ出力工程S50の処理は、第1実施形態又は第2実施形態と同様であるため、その説明を省略する。第3実施形態の計測方法では、速度振幅算出工程S30における進入時速度振幅S
vi及び進出時速度振幅S
voの算出方法が、第1実施形態及び第2実施形態と異なる。
【0192】
図22は、第3実施形態における速度振幅算出工程S30の手順の一例を示すフローチャート図である。
【0193】
図22に示すように、まず、工程S301において、計測装置1は、加速度データa(t)に基づいて、鉄道車両6の橋梁5に対する進入時刻t
i及び進出時刻t
oを算出する。例えば、前述の通り、計測装置1は、加速度データa(t)が閾値THと最初に交差する時刻を進入時刻t
iとして算出し、加速度データa(t)が閾値THと最後に交差する時刻を進出時刻t
oとして算出する。
【0194】
次に、工程S302において、計測装置1は、進入時刻tiと進出時刻toとの間において、速度波形v(t)の最初の正のピークと最後の正のピークとを含まない複数の正のピークを選択する。
【0195】
また、工程S303において、計測装置1は、進入時刻tiと進出時刻toとの間において、速度波形v(t)の最初の負のピークと最後の負のピークとを含まない複数の負のピークを選択する。
【0196】
工程S302で選択される正のピークの数と工程S303で選択される負のピークの数とは、同じであってもよいし、異なってもよい。
図23に、速度波形v(t)において選択された複数の正のピーク及び複数の負のピークの一例を示す。
図23の例では、選択された複数の正のピークに丸印が付されており、11個の正のピークのうち3番目から9番目までの7個の正のピークが選択されている。また、選択された複数の負のピークに四角印が付されており、11個の負のピークのうち2番目から9番目までの8個の負のピークが選択されている。
【0197】
次に、工程S304において、計測装置1は、工程S302で選択した複数の正のピークに基づいて、第1近似直線Sv_pk_P(t)を算出する。例えば、計測装置1は、複数の正のピークを用いて、最小二乗法により、式(49)で表される第1近似直線Sv_pk_P(t)の1次係数aP及び0次係数bPを算出する。
【0198】
【0199】
また、工程S305において、計測装置1は、工程S303で選択した複数の負のピークに基づいて、第2近似直線S
v_pk_N(t)を算出する。例えば、計測装置1は、複数の負のピークを用いて、最小二乗法により、式(50)で表される第2近似直線S
v_pk_N(t)の1次係数a
N及び0次係数b
Nを算出する。
図24に、第1近似直線S
v_pk_P(t)及び第2近似直線S
v_pk_N(t)の一例を示す。
【0200】
【0201】
次に、工程S306において、計測装置1は、進入時速度振幅Sviとして、進入時刻tiにおける第1近似直線Sv_pk_P(t)と第2近似直線Sv_pk_N(t)との差を算出する。第1近似直線Sv_pk_P(t)と第2近似直線Sv_pk_N(t)との差の直線Sv_pk(t)は、式(51)によって得られ、式(51)に式(49)及び式(50)を代入して式(52)が得られる。計測装置1は、式(53)のように、式(52)の時刻tに進入時刻tiを代入して進入時速度振幅Sviを算出する。
【0202】
【0203】
【0204】
【0205】
また、工程S307において、計測装置1は、進出時速度振幅S
voとして、進出時刻t
oにおける第1近似直線S
v_pk_P(t)と第2近似直線S
v_pk_N(t)との差を算出する。計測装置1は、式(54)のように、式(52)の時刻tに進出時刻t
oを代入して進出時速度振幅S
voを算出する。
図25に、進入時速度振幅S
vi及び進出時速度振幅S
voの一例を示す。
【0206】
【0207】
第3実施形態におけるセンサー2、計測装置1及び監視装置3の構成は、
図17又は
図21と同様であるため、その図示を省略する。第3実施形態の計測装置1では、第1実施形態又は第2実施形態と同様、速度振幅算出部143は、速度波形v(t)に基づいて、進入時速度振幅S
vi及び進出時速度振幅S
voを算出するが、その算出方法が第1実施形態及び第2実施形態と異なる。
【0208】
まず、速度振幅算出部143は、観測データ取得部141が取得した観測データ132である加速度データa(t)に基づいて、鉄道車両6の橋梁5に対する進入時刻ti及び進出時刻toを算出する。例えば、速度振幅算出部143は、加速度データa(t)が閾値THと最初に交差する時刻を進入時刻tiとして算出し、加速度データa(t)が閾値THと最後に交差する時刻を進出時刻toとして算出する。
【0209】
次に、速度振幅算出部143は、進入時刻tiと進出時刻toとの間において、速度波形v(t)の最初の正のピークと最後の正のピークとを含まない複数の正のピークを選択する。また、速度振幅算出部143は、進入時刻tiと進出時刻toとの間において、速度波形v(t)の最初の負のピークと最後の負のピークとを含まない複数の負のピークを選択する。
【0210】
次に、速度振幅算出部143は、選択した複数の正のピークに基づいて、前出の式(49)で表される第1近似直線Sv_pk_P(t)を算出する。また、速度振幅算出部143は、選択した複数の負のピークに基づいて、前出の式(50)で表される第2近似直線Sv_pk_N(t)を算出する。
【0211】
次に、速度振幅算出部143は、進入時速度振幅Sviとして、進入時刻tiにおける第1近似直線Sv_pk_P(t)と第2近似直線Sv_pk_N(t)との差を算出する。また、速度振幅算出部143は、進出時速度振幅Svoとして、進出時刻toにおける第1近似直線Sv_pk_P(t)と第2近似直線Sv_pk_N(t)との差を算出する。具体的には、速度振幅算出部143は、前出の式(52)の時刻tに進入時刻tiを代入して進入時速度振幅Sviを算出し、前出の式(52)の時刻tに進出時刻toを代入して進出時速度振幅Svoを算出する。
【0212】
このように、速度振幅算出部143は、
図16又は
図20における速度振幅算出工程S30の処理、具体的には
図22の工程S301~S307の処理を行う。
【0213】
第3実施形態における計測装置1のその他の機能は、第1実施形態又は第2実施形態と同様であるため、その説明を省略する。また、第3実施形態におけるセンサー2及び監視装置3の機能は、第1実施形態又は第2実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0214】
以上に説明した第3実施形態の計測方法では、計測装置1は、速度波形v(t)の最初の正負のピークと最後の正負のピークを含まない複数の正負のピークに基づいて進入時速度振幅Svi及び進出時速度振幅Svoを算出する。鉄道車両6の先頭の車軸が橋梁5に進入するときや鉄道車両6の最後の車軸が橋梁5から進出するときは、橋梁5の変位が変化する速度が相対的に小さいので、最初の正負のピーク及び最後の正負のピークは他の正負のピークよりも小さくなりやすい。したがって、第3実施形態の計測方法によれば、計測装置1は、速度波形v(t)において他の正負のピークよりも相対的に小さい最初の正負のピーク及び最後の正負のピークの影響を排除して、進入時速度振幅Svi及び進出時速度振幅Svoを精度よく算出することができる。
【0215】
その他、第3実施形態の計測方法によれば、第1実施形態又は第2実施形態の計測方法と同様の効果を奏することができる。
【0216】
4.第4実施形態
以下、第4実施形態について、第1実施形態又は第2実施形態と同様の構成要素には同じ符号を付して第1実施形態又は第2実施形態と重複する説明を省略又は簡略し、主に第1実施形態及び第2実施形態と異なる内容について説明する。
【0217】
第4実施形態の計測方法の手順の一例を示すフローチャート図は、
図16又は
図20と同様であるため、その図示を省略する。第4実施形態の計測方法における観測データ取得工程S10、速度波形算出工程S20及び走行判定工程S40の処理は、第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。また、第4実施形態の計測方法における平均速度算出工程S42及び進入進出速度算出工程S44の処理は、第2実施形態と同様であるため、その説明を省略する。また、第4実施形態の計測方法における計測データ出力工程S50の処理は、第1実施形態又は第2実施形態と同様であるため、その説明を省略する。第4実施形態の計測方法では、速度振幅算出工程S30における進入時速度振幅S
vi及び進出時速度振幅S
voの算出方法が、第1実施形態及び第2実施形態と異なる。
【0218】
図26は、第4実施形態における速度振幅算出工程S30の手順の一例を示すフローチャート図である。
【0219】
図26に示すように、まず、工程S311において、計測装置1は、加速度データa(t)に基づいて、鉄道車両6の橋梁5に対する進入時刻t
i及び進出時刻t
oを算出する。例えば、前述の通り、計測装置1は、加速度データa(t)が閾値THと最初に交差する時刻を進入時刻t
iとして算出し、加速度データa(t)が閾値THと最後に交差する時刻を進出時刻t
oとして算出する。
【0220】
次に、工程S312において、計測装置1は、進入時刻tiと進出時刻toとの間において、速度波形v(t)の最初の正のピークと最後の正のピークとを含まないn個の正のピークを選択する。nは2以上の整数である。
【0221】
また、工程S313において、計測装置1は、進入時刻tiと進出時刻toとの間において、速度波形v(t)の最初の負のピークと最後の負のピークとを含まないn個の負のピークを選択する。
【0222】
工程S312で選択される正のピークの数と工程S313で選択される負のピークの数とは同じであり、選択されたn個の正のピークの各々と選択されたn個の負のピークの各々は隣り合っている。
図27に、速度波形v(t)において選択されたn個の正のピーク及びn個の負のピークの一例を示す。
図27の例では、n=9であり、選択された9個の正のピークに丸印が付されており、11個の正のピークのうち2番目から10番目までの9個の正のピークが選択されている。また、選択された9個の負のピークに四角印が付されており、11個の負のピークのうち2番目から10番目までの9個の負のピークが選択されている。
【0223】
次に、工程S314において、計測装置1は、1以上n以下の各整数kに対して、工程S312で選択したn個の正のピークのうちのk番目の正のピークS
v_P(k)と、工程S313で選択したn個の負のピークのうちのk番目の負のピークS
v_N(k)との差であるk番目のピーク振幅S
v_PN(k)を算出する。すなわち、k番目のピーク振幅S
v_PN(k)は、式(55)によって算出される。また、k番目のピーク振幅S
v_PN(k)の時刻t
PN(k)は、k番目の正のピークS
v_P(k)の時刻t
P(k)とk番目の負のピークS
v_N(k)の時刻t
N(k)とを用いて、式(56)によって算出される。
図28に、n個のピーク振幅S
v_PN(1)~S
v_PN(n)の一例を示す。
図28の例では、n=9であり、算出されたピーク振幅S
v_PN(k)に三角印が付されている。
【0224】
【0225】
【0226】
次に、工程S315において、計測装置1は、工程S314で算出したn個のピーク振幅Sv_PN(1)~Sv_PN(n)に基づいて、近似直線Sv_pk(t)を算出する。例えば、計測装置1は、n個のピーク振幅Sv_PN(1)~Sv_PN(n)を用いて、最小二乗法により、式(57)で表される近似直線Sv_pk(t)の1次係数aPN及び0次係数bPNを算出する。
【0227】
【0228】
次に、工程S316において、計測装置1は、進入時速度振幅Sviとして、進入時刻tiにおける近似直線Sv_pk(t)の振幅を算出する。計測装置1は、式(58)のように、式(57)の時刻tに進入時刻tiを代入して進入時速度振幅Sviを算出する。
【0229】
【0230】
また、工程S317において、計測装置1は、進出時速度振幅S
voとして、進出時刻t
oにおける近似直線S
v_pk(t)の振幅を算出する。計測装置1は、式(59)のように、式(57)の時刻tに進出時刻t
oを代入して進出時速度振幅S
voを算出する。
図29に、進入時速度振幅S
vi及び進出時速度振幅S
voの一例を示す。
【0231】
【0232】
第4実施形態におけるセンサー2、計測装置1及び監視装置3の構成は、
図17又は
図21と同様であるため、その図示を省略する。第4実施形態の計測装置1では、第1実施形態又は第2実施形態と同様、速度振幅算出部143は、速度波形v(t)に基づいて、進入時速度振幅S
vi及び進出時速度振幅S
voを算出するが、その算出方法が第1実施形態及び第2実施形態と異なる。
【0233】
まず、速度振幅算出部143は、観測データ取得部141が取得した観測データ132である加速度データa(t)に基づいて、鉄道車両6の橋梁5に対する進入時刻ti及び進出時刻toを算出する。例えば、速度振幅算出部143は、加速度データa(t)が閾値THと最初に交差する時刻を進入時刻tiとして算出し、加速度データa(t)が閾値THと最後に交差する時刻を進出時刻toとして算出する。
【0234】
次に、速度振幅算出部143は、進入時刻tiと進出時刻toとの間において、速度波形v(t)の最初の正のピークと最後の正のピークとを含まないn個の正のピークを選択する。また、速度振幅算出部143は、進入時刻tiと進出時刻toとの間において、速度波形v(t)の最初の負のピークと最後の負のピークとを含まないn個の負のピークを選択する。nは2以上の整数である。
【0235】
次に、速度振幅算出部143は、1以上n以下の各整数kに対して、前出の式(55)により、選択したn個の正のピークのうちのk番目の正のピークSv_P(k)と、工程S313で選択したn個の負のピークのうちのk番目の負のピークSv_N(k)との差であるk番目のピーク振幅Sv_PN(k)を算出する。
【0236】
次に、速度振幅算出部143は、算出したn個のピーク振幅Sv_PN(1)~Sv_PN(n)に基づいて、前出の式(57)で表される近似直線Sv_pk(t)を算出する。
【0237】
次に、速度振幅算出部143は、進入時速度振幅Sviとして、進入時刻tiにおける近似直線Sv_pk(t)の振幅を算出する。具体的には、速度振幅算出部143は、前出の式(57)の時刻tに進入時刻tiを代入して進入時速度振幅Sviを算出し、前出の式(57)の時刻tに進出時刻toを代入して進出時速度振幅Svoを算出する。
【0238】
このように、速度振幅算出部143は、
図16又は
図20における速度振幅算出工程S30の処理、具体的には
図26の工程S311~S317の処理を行う。
【0239】
第4実施形態における計測装置1のその他の機能は、第1実施形態又は第2実施形態と同様であるため、その説明を省略する。また、第4実施形態におけるセンサー2及び監視装置3の機能は、第1実施形態又は第2実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0240】
以上に説明した第4実施形態の計測方法では、計測装置1は、速度波形v(t)の最初の正負のピークと最後の正負のピークを含まない複数の正負のピークに基づいて進入時速度振幅Svi及び進出時速度振幅Svoを算出する。鉄道車両6の先頭の車軸が橋梁5に進入するときや鉄道車両6の最後の車軸が橋梁5から進出するときは、橋梁5の変位が変化する速度が相対的に小さいので、最初の正負のピーク及び最後の正負のピークは他の正負のピークよりも小さくなりやすい。したがって、第4実施形態の計測方法によれば、計測装置1は、速度波形v(t)において他の正負のピークよりも相対的に小さい最初の正負のピーク及び最後の正負のピークの影響を排除して、進入時速度振幅Svi及び進出時速度振幅Svoを精度よく算出することができる。
【0241】
その他、第4実施形態の計測方法によれば、第1実施形態又は第2実施形態の計測方法と同様の効果を奏することができる。
【0242】
5.変形例
本発明は本実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0243】
上記の各実施形態では、観測装置であるセンサー2は、加速度データa(t)を出力する加速度センサーであるが、観測装置は加速度センサーに限られない。例えば、観測装置は、衝撃センサー、感圧センサー、歪計、画像測定装置、ロードセル又は変位計であってもよい。
【0244】
衝撃センサーは、鉄道車両6の各車軸の観測点Rへの作用に対する応答として衝撃加速度を検出する。感圧センサー、歪計、ロードセルは、鉄道車両6の各車軸の観測点Rへの作用に対する応答として応力変化を検出する。画像測定装置は、画像処理により、鉄道車両6の各車軸の観測点Rへの作用に対する応答として変位を検出する。変位計は、例えば、接触式変位計、リング式変位計、レーザー変位計、感圧センサー又は光ファイバーによる変位計測機器等であり、鉄道車両6の各車軸の観測点Rへの作用に対する応答として変位を検出する。
【0245】
一例として、
図30に、観測装置としてリング式変位計を用いた計測システム10の構成例を示す。また、
図31に、観測装置として画像測定装置を用いた計測システム10の構成例を示す。
図30及び
図31において、
図1と同じ構成要素には同じ符号が付されており、その説明を省略する。
図30に示す計測システム10では、リング式変位計40の上面とその直上にある主桁Gの下面との間にピアノ線41が固定されており、リング式変位計40が上部構造7の撓みによるピアノ線41の変位を計測し、計測した変位データを計測装置1に送信する。計測装置1は、リング式変位計40から送信され変位データに基づいて計測データ133を生成する。また、
図31に示す計測システム10では、カメラ50が、主桁Gの側面に設けられたターゲット51を撮影した画像を計測装置1に送信する。計測装置1は、カメラ50から送信された画像を処理し、上部構造7の撓みによるターゲット51の変位を算出して変位データを生成し、生成した変位データに基づいて計測データ133を生成する。
図31の例では、計測装置1が、画像測定装置として変位データを生成しているが、計測装置1とは異なる不図示の画像測定装置が画像処理によって変位データを生成してもよい。
【0246】
また、上記の各実施形態では、各センサー2は、それぞれ上部構造7の主桁Gに設けられているが、上部構造7の表面や内部、床板Fの下面、橋脚8a等に設けられていてもよい。
【0247】
また、上記の各実施形態では、計測装置1は、観測点Rを観測する観測装置から出力される観測データに基づいて進入時刻tiを算出しているが、上部構造7の進入端を観測する観測装置から出力される観測データに基づいて進入時刻tiを算出してもよい。同様に、上記の各実施形態では、計測装置1は、観測点Rを観測する観測装置から出力される観測データに基づいて進出時刻toを算出しているが、上部構造7の進出端を観測する観測装置から出力される観測データに基づいて進出時刻toを算出してもよい。
【0248】
上述した実施形態および変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば、各実施形態および各変形例を適宜組み合わせることも可能である。
【0249】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【0250】
上述した実施形態および変形例から以下の内容が導き出される。
【0251】
計測方法の一態様は、
橋梁の観測点を観測し、前記橋梁を走行する鉄道車両の複数の部位の前記観測点への作用に対する応答である物理量を検出する観測装置から出力される観測データに基づいて、前記観測点が変位する速度の波形である速度波形を算出する速度波形算出工程と、
前記速度波形に基づいて、前記鉄道車両の前記橋梁に対する進入時の前記速度波形の振幅である進入時速度振幅と、前記鉄道車両の前記橋梁に対する進出時の前記速度波形の振幅である進出時速度振幅とを算出する速度振幅算出工程と、
を含む。
【0252】
この計測方法では、観測装置から出力される観測データに基づいて、観測点が変位する速度の波形である速度波形を算出し、鉄道車両の橋梁に対する進入時の速度波形の振幅である進入時速度振幅と、鉄道車両の橋梁に対する進出時の速度波形の振幅である進出時速度振幅とを算出する。観測点の変位の振幅は鉄道車両の荷重で決まるため、鉄道車両の走行が定速走行、減速走行及び加速走行のいずれであっても、観測点の変位の振幅は変わらない。一方、鉄道車両が定速走行した場合は観測点の変位が振動する周期はほぼ一定であるのに対して、鉄道車両が減速走行又は加速走行した場合は観測点の変位が振動する周期が徐々に変化する。しかしながら、条件によっては、この振動周期の変化を捉えて、鉄道車両の走行が定速走行、減速走行及び加速走行のいずれであったかを判別するのが難しい場合もある。これに対して、鉄道車両が定速走行した場合は進出時速度振幅が進入時速度振幅とほぼ等しくなるのに対して、鉄道車両が減速走行した場合は進出時速度振幅が進入時速度振幅よりも小さくなり、鉄道車両が加速走行した場合は進出時速度振幅が進入時速度振幅よりも大きくなる。この進入時速度振幅と進出時速度振幅との差により、鉄道車両の走行が定速走行、減速走行及び加速走行のいずれであったかを判別するのは容易である。したがって、この計測方法によれば、鉄道車両が橋梁を走行したときに定速走行、減速走行及び加速走行のいずれであったかを容易に判別するための指標となる情報を算出することができる。
【0253】
前記計測方法の一態様は、
前記観測データと、予め作成された前記鉄道車両の寸法及び前記橋梁の寸法を含む環境情報とに基づいて、前記鉄道車両が前記橋梁を走行する平均速度を算出する平均速度算出工程と、
前記進入時速度振幅と前記進出時速度振幅と前記平均速度とに基づいて、前記鉄道車両の前記橋梁に対する進入速度及び進出速度を算出する進入進出速度算出工程と、
を含んでもよい。
【0254】
この計測方法によれば、鉄道車両の走行が定速走行、減速走行及び加速走行のいずれであっても、橋梁の観測点を観測する観測装置から出力される観測データと予め作成された環境情報とに基づいて、鉄道車両の橋梁に対する進入速度及び進出速度を算出することができる。
【0255】
前記計測方法の一態様は、
前記進入時速度振幅と前記進出時速度振幅とを比較して、前記鉄道車両の走行が定速走行、減速走行及び加速走行のいずれであるかを判定する走行判定工程を含んでもよい。
【0256】
この計測方法によれば、進出時速度振幅が進入時速度振幅とほぼ等しい場合は鉄道車両が定速走行したと判定し、進出時速度振幅が進入時速度振幅よりも小さい場合は鉄道車両が減速走行したと判定し、進出時速度振幅が進入時速度振幅よりも大きい場合は鉄道車両が加速走行したと判定することができる。
【0257】
前記計測方法の一態様において、
前記速度振幅算出工程は、
前記鉄道車両の前記橋梁に対する進入時刻と進出時刻との間において、前記速度波形の最初の正のピークと最後の正のピークとを含まない複数の正のピークを選択する工程と、
前記進入時刻と前記進出時刻との間において、前記速度波形の最初の負のピークと最後の負のピークを含まない複数の負のピークを選択する工程と、
前記複数の正のピークに基づいて、第1近似直線を算出する工程と、
前記複数の負のピークに基づいて、第2近似直線を算出する工程と、
前記進入時速度振幅として、前記進入時刻における前記第1近似直線と前記第2近似直線との差を算出する工程と、
前記進出時速度振幅として、前記進出時刻における前記第1近似直線と前記第2近似直線との差を算出する工程と、
を含んでもよい。
【0258】
この計測方法では、速度波形の最初の正負のピークと最後の正負のピークを含まない複数の正負のピークに基づいて進入時速度振幅及び進出時速度振幅を算出する。鉄道車両の複数の部位のうちの先頭の部位が橋梁に進入するときや鉄道車両の複数の部位のうちの最後の部位が橋梁から進出するときは、橋梁の変位が変化する速度が相対的に小さいので、最初の正負のピーク及び最後の正負のピークは他の正負のピークよりも小さくなりやすい。したがって、この計測方法によれば、速度波形において、他の正負のピークよりも相対的に小さい最初の正負のピーク及び最後の正負のピークの影響を排除して、進入時速度振幅及び進出時速度振幅を精度よく算出することができる。
【0259】
前記計測方法の一態様において、
前記速度振幅算出工程は、
nを2以上の整数とし、前記鉄道車両の前記橋梁に対する進入時刻と進出時刻との間において、前記速度波形の最初の正のピークと最後の正のピークとを含まないn個の正のピークを選択する工程と、
前記進入時刻と前記進出時刻との間において、前記速度波形の最初の負のピークと最後の負のピークとを含まないn個の負のピークを選択する工程と、
1以上n以下の各整数kに対して、前記n個の正のピークのうちのk番目の正のピークと、前記n個の負のピークのうちのk番目の負のピークとの差であるk番目のピーク振幅を算出する工程と、
前記n個のピーク振幅に基づいて、近似直線を算出する工程と、
前記進入時速度振幅として、前記進入時刻における前記近似直線の振幅を算出する工程と、
前記進出時速度振幅として、前記進出時刻における前記近似直線の振幅を算出する工程と、
を含んでもよい。
【0260】
この計測方法では、速度波形の最初の正負のピークと最後の正負のピークを含まない複数の正負のピークに基づいて進入時速度振幅及び進出時速度振幅を算出する。鉄道車両の複数の部位のうちの先頭の部位が橋梁に進入するときや鉄道車両の複数の部位のうちの最後の部位が橋梁から進出するときは、橋梁の変位が変化する速度が相対的に小さいので、最初の正負のピーク及び最後の正負のピークは他の正負のピークよりも小さくなりやすい。したがって、この計測方法によれば、速度波形において、他の正負のピークよりも相対的に小さい最初の正負のピーク及び最後の正負のピークの影響を排除して、進入時速度振幅及び進出時速度振幅を精度よく算出することができる。
【0261】
前記計測方法の一態様において、
前記環境情報は、前記橋梁の長さ、前記鉄道車両の各車両の長さ、及び、前記鉄道車両の前記複数の部位の各々の位置を含んでもよい。
【0262】
前記計測方法の一態様において、
前記複数の部位のそれぞれは車軸又は車輪であってもよい。
【0263】
前記計測方法の一態様において、
前記観測装置は、加速度センサーであってもよい。
【0264】
計測装置の一態様は、
橋梁の観測点を観測し、前記橋梁を走行する鉄道車両の複数の部位の前記観測点への作用に対する応答である物理量を検出する観測装置から出力される観測データに基づいて、前記観測点が変位する速度の波形である速度波形を算出する速度波形算出部と、
前記速度波形に基づいて、前記鉄道車両の前記橋梁に対する進入時の前記速度波形の振幅である進入時速度振幅と、前記鉄道車両の前記橋梁に対する進出時の前記速度波形の振幅である進出時速度振幅とを算出する速度振幅算出部と、
を含む。
【0265】
この計測装置によれば、鉄道車両が定速走行した場合は進出時速度振幅が進入時速度振幅とほぼ等しくなるのに対して、鉄道車両が減速走行した場合は進出時速度振幅が進入時速度振幅よりも小さくなり、鉄道車両が加速走行した場合は進出時速度振幅が進入時速度振幅よりも大きくなる。この進入時速度振幅と進出時速度振幅との差により、鉄道車両の走行が定速走行、減速走行及び加速走行のいずれであったかを判別するのは容易である。したがって、この計測装置によれば、鉄道車両が橋梁を走行したときに定速走行、減速走行及び加速走行のいずれであったかを容易に判別するための指標となる情報を算出することができる。
【0266】
計測システムの一態様は、
前記計測装置の一態様と、
前記観測装置と、
を備える。
【0267】
計測プログラムの一態様は、
橋梁の観測点を観測し、前記橋梁を走行する鉄道車両の複数の部位の前記観測点への作用に対する応答である物理量を検出する観測装置から出力される観測データに基づいて、前記観測点が変位する速度の波形である速度波形を算出する速度波形算出工程と、
前記速度波形に基づいて、前記鉄道車両の前記橋梁に対する進入時の前記速度波形の振幅である進入時速度振幅と、前記鉄道車両の前記橋梁に対する進出時の前記速度波形の振幅である進出時速度振幅とを算出する速度振幅算出工程と、
をコンピューターに実行させる。
【0268】
この計測プログラムによれば、鉄道車両が定速走行した場合は進出時速度振幅が進入時速度振幅とほぼ等しくなるのに対して、鉄道車両が減速走行した場合は進出時速度振幅が進入時速度振幅よりも小さくなり、鉄道車両が加速走行した場合は進出時速度振幅が進入時速度振幅よりも大きくなる。この進入時速度振幅と進出時速度振幅との差により、鉄道車両の走行が定速走行、減速走行及び加速走行のいずれであったかを判別するのは容易である。したがって、この計測プログラムによれば、鉄道車両が橋梁を走行したときに定速走行、減速走行及び加速走行のいずれであったかを容易に判別するための指標となる情報を算出することができる。
【符号の説明】
【0269】
1…計測装置、2…センサー、3…監視装置、4…通信ネットワーク、5…橋梁、6…鉄道車両、7…上部構造、7a…橋床、7b…支承、7c…レール、7d…枕木、7e…バラスト、F…床板、G…主桁、8…下部構造、8a…橋脚、8b…橋台、10…計測システム、11…第1通信部、12…第2通信部、13…記憶部、14…プロセッサー、21…通信部、22…加速度センサー、23…プロセッサー、24…記憶部、31…通信部、32…プロセッサー、33…表示部、34…操作部、35…記憶部、40…リング式変位計、41…ピアノ線、50…カメラ、51…ターゲット、131…計測プログラム、132…観測データ、133…計測データ、134…環境情報、141…観測データ取得部、142…速度波形算出部、143…速度振幅算出部、144…走行判定部、145…計測データ出力部、146…平均速度算出部、147…進入進出速度算出部、241…観測プログラム、242…観測データ、321…計測データ取得部、322…監視部、351…監視プログラム、352…計測データ列