(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166860
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】プレス加工品の設計支援方法、設計支援システム、および設計支援プログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/20 20200101AFI20241122BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20241122BHJP
G06F 113/22 20200101ALN20241122BHJP
G06F 111/04 20200101ALN20241122BHJP
【FI】
G06F30/20
G06F30/10 100
G06F113:22
G06F111:04
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083246
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】398002927
【氏名又は名称】株式会社樋口製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】樋口 徳室
(72)【発明者】
【氏名】石田 清孝
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 孝洋
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146AA06
5B146BA01
5B146DC05
5B146DE12
5B146DG01
5B146DG07
5B146DJ14
5B146DL02
5B146EA01
5B146EC08
(57)【要約】
【課題】作業者の経験や無形のノウハウに頼ることなく、プレス加工品の設計を支援し、かつ、この設計支援を通してプレス加工における技術の向上や継承を可能にするための方法、システム、およびプログラムを提供する。
【解決手段】この設計支援方法は、プレス加工品のコンピュータ支援データから特徴形状を抽出すること、および特徴形状を解析し、予め登録された特徴形状の加工制約条件に基づいて特徴形状がプレス加工によって実現できるか否かを判定することを含む。加工制約条件は、被加工材の材質、厚さ、形状、絞り率、穴広げ率、および曲げのλ値、ならびにプレス加工時のプレス方向、プレス圧力、圧延方向、加工基準面、および行程順から選択される少なくとも一つを利用して決定される、前記特徴形状を規定するパラメータの限界値を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス加工品のコンピュータ支援データから特徴形状を抽出すること、および
前記特徴形状を解析し、予め登録された前記特徴形状の加工制約条件に基づいて前記特徴形状がプレス加工によって実現できるか否かを判定することを含み、
前記加工制約条件は、被加工材の材質、厚さ、形状、絞り率、穴広げ率、および曲げのλ値、ならびにプレス加工時のプレス方向、プレス圧力、圧延方向、加工基準面、および行程順から選択される少なくとも一つを利用して決定される、前記特徴形状を規定するパラメータの限界値を含む、プレス加工品の設計支援方法。
【請求項2】
前記特徴形状について、過去に解析された他のプレス加工品の解析結果を表示することをさらに含む、請求項1に記載の設計支援方法。
【請求項3】
前記解析結果には、前記過去に解析された他のプレス加工品について、
被加工材の前記材質と前記厚さ、
前記特徴形状の限界寸法、限界寸法公差、および限界幾何公差、
前記特徴形状の設計寸法、設計寸法公差、および設計幾何公差、
前記特徴形状の対策寸法、対策寸法公差、および対策幾何公差、
前記判定の結果、ならびに
前記対策寸法、前記対策寸法公差、または前記対策幾何公差で前記被加工材をプレス加工した時の結果が含まれ、
前記限界寸法、前記限界寸法公差、および前記限界幾何公差は、それぞれ前記加工制約条件を決定する寸法、寸法公差、および幾何公差であり、
前記設計寸法、前記設計寸法公差、および前記設計幾何公差は、それぞれ前記特徴形状の設計時の寸法、寸法公差、幾何公差であり、
前記対策寸法、前記対策寸法公差、および前記対策幾何公差は、それぞれ前記限界寸法と前記設計寸法の間で設定される寸法、前記限界寸法公差と前記設計寸法公差の間で設定される寸法公差、および前記限界幾何公差と前記設計幾何公差の間で設定される幾何公差である、請求項2に記載の設計支援方法。
【請求項4】
前記解析結果を、前記被加工材の前記材質、前記厚さ、前記限界値、または前記パラメータでソートすることをさらに含む、請求項3に記載の設計支援方法。
【請求項5】
前記限界値を含む計算スクリプトを表示することをさらに含む、請求項1に記載の設計支援方法。
【請求項6】
前記解析結果には、前記過去に解析された他のプレス加工品の前記特徴形状の設計マージン距離、限界マージン距離、および対策マージン距離が含まれ、
前記設計マージン距離は、前記特徴形状の設計時における前記特徴形状と他の特徴形状との距離または前記特徴形状と前記他のプレス加工品の外周との距離である第1の距離であり、
前記限界マージン距離は、前記加工制約条件を決定する前記特徴形状と他の特徴形状との前記距離または前記特徴形状と前記他のプレス加工品の前記外周との前記距離である第2の距離であり、
前記対策マージン距離は、前記第1の距離と前記第2の距離の間で設定される距離である、請求項3に記載の設計支援方法。
【請求項7】
前記プレス加工品の前記特徴形状の設計寸法、設計寸法公差、または設計幾何公差がそれぞれ前記加工制約条件を決定する限界寸法、限界寸法公差、または限界幾何公差を満たさない場合において、前記設計寸法、前記設計寸法公差、または前記設計幾何公差をそれぞれ対策寸法、対策寸法公差、または対策幾何公差に変更すること、
前記対策寸法、前記対策寸法公差、または前記対策幾何公差で前記プレス加工品を製造すること、および
製造された前記プレス加工品における前記特徴形状の寸法、寸法交差、および幾何公差がそれぞれ前記対策寸法、前記対策寸法公差、前記対策幾何公差を満たす場合、前記限界寸法、前記限界寸法公差、または前記限界幾何公差をそれぞれ前記対策寸法、前記対策寸法公差、または前記対策幾何公差に更新することをさらに含み、
前記限界寸法、前記限界寸法公差、および前記限界幾何公差は、それぞれ前記加工制約条件を決定する寸法、寸法公差、および幾何公差であり、
前記設計寸法、前記設計寸法公差、および前記設計幾何公差は、それぞれ前記特徴形状の設計時の寸法、寸法公差、幾何公差であり、
前記対策寸法、前記対策寸法公差、および前記対策幾何公差は、それぞれ前記限界寸法と前記設計寸法の間で設定される寸法、前記限界寸法公差と前記設計寸法公差の間で設定される寸法公差、および前記限界幾何公差と前記設計幾何公差の間で設定される幾何公差である、請求項1に記載の設計支援方法。
【請求項8】
サーバ、および
前記サーバと通信可能なように接続されるコンピューティングデバイスを含み、
前記サーバは、
プレス加工品のコンピュータ支援データから特徴形状を抽出し、
前記特徴形状の加工制約条件を格納し、
前記特徴形状を解析して前記加工制約条件に基づいて前記特徴形状がプレス加工によって実現できるか否かを判定し、
前記判定の結果を前記コンピューティングデバイスに送信するように構成され、
前記コンピューティングデバイスは、
前記コンピュータ支援データを前記サーバに送信し、
前記判定の前記結果を表示するように構成され、
前記加工制約条件は、被加工材の材質、厚さ、形状、絞り率、穴広げ率、および曲げのλ値、ならびにプレス加工時のプレス方向、プレス圧力、圧延方向、加工基準面、および行程順から選択される少なくとも一つを利用して決定される、前記特徴形状を規定するパラメータの限界値を含む、プレス加工品の設計支援システム。
【請求項9】
前記サーバは、前記特徴形状について、過去に解析された他のプレス加工品の解析結果を格納し、前記コンピューティングデバイスに送信するようにさらに構成され、
前記コンピューティングデバイスは、前記解析結果を表示するようにさらに構成される、請求項8に記載の設計支援システム。
【請求項10】
前記解析結果には、前記過去に解析された他のプレス加工品について、
被加工材の前記材質と前記厚さ、
前記特徴形状の限界寸法、限界寸法公差、および限界幾何公差、
前記特徴形状の設計寸法、設計寸法公差、および設計幾何公差、
前記特徴形状の対策寸法、対策寸法公差、および対策幾何公差、
前記判定の結果、および
前記対策寸法、前記対策寸法公差、または前記対策幾何公差で前記被加工材をプレス加工した時の結果が含まれ、
前記限界寸法、前記限界寸法公差、および前記限界幾何公差は、それぞれ前記加工制約条件を決定する寸法、寸法公差、および幾何公差であり、
前記設計寸法、前記設計寸法公差、および前記設計幾何公差は、それぞれ前記特徴形状の設計時の寸法、寸法公差、幾何公差であり、
前記対策寸法、前記対策寸法公差、および前記対策幾何公差は、それぞれ前記限界寸法と前記設計寸法の間で設定される寸法、前記限界寸法公差と前記設計寸法公差の間で設定される寸法公差、および前記限界幾何公差と前記設計幾何公差の間で設定される幾何公差である、請求項9に記載の設計支援システム。
【請求項11】
前記解析結果には、前記過去に解析された他のプレス加工品の前記特徴形状の設計マージン距離、限界マージン距離、および対策マージン距離が含まれ、
前記設計マージン距離は、前記特徴形状の設計時における前記特徴形状と他の特徴形状との距離または前記特徴形状と前記プレス加工品の外周との距離である第1の距離であり、
前記限界マージン距離は、前記加工制約条件を決定する前記特徴形状と他の特徴形状との前記距離または前記特徴形状と前記プレス加工品の前記外周との前記距離である第2の距離であり、
前記対策マージン距離は、前記第1の距離と前記第2の距離の間で設定される距離である、請求項9に記載の設計支援システム。
【請求項12】
前記コンピューティングデバイスは、前記解析結果を、前記被加工材の前記材質、前記厚さ、前記限界値、または前記パラメータでソート可能なように構成される、請求項9に記載の設計支援システム。
【請求項13】
前記コンピューティングデバイスは、さらに、前記限界値を含む計算スクリプトを表示するように構成される、請求項8に記載の設計支援システム。
【請求項14】
コンピュータ支援データからプレス加工品の特徴形状を抽出するように構成されるサーバと通信可能なように接続されるコンピューティングデバイスに対し、
前記コンピュータ支援データを前記サーバに送信すること、
前記サーバに格納された前記特徴形状の加工制約条件に基づいて前記特徴形状がプレス加工によって実現できるか否かを前記サーバが判定した結果を受信すること、および
前記判定の前記結果を表示することを実行させるように構成され、
前記加工制約条件は、被加工材の材質、厚さ、形状、絞り率、穴広げ率、および曲げのλ値、ならびにプレス加工時のプレス方向、プレス圧力、圧延方向、加工基準面、および行程順から選択される少なくとも一つを利用して決定される、前記特徴形状を規定するパラメータの限界値を含む、プレス加工品の設計支援プログラム。
【請求項15】
前記コンピューティングデバイスに対し、前記サーバに格納された、前記特徴形状について過去に解析された他のプレス加工品の解析結果を受信して表示させることをさらに実行させるように構成される、請求項14に記載の設計支援プログラム。
【請求項16】
前記解析結果には、前記過去に解析された他のプレス加工品について、
被加工材の前記材質と前記厚さ、
前記特徴形状の限界寸法、限界寸法公差、および限界幾何公差、
前記特徴形状の設計寸法、設計寸法公差、および設計幾何公差、
前記特徴形状の対策寸法、対策寸法公差、および対策幾何公差、
前記判定の結果、ならびに
前記対策寸法、前記対策寸法公差、または前記対策幾何公差で前記被加工材をプ 前記限界寸法、前記限界寸法公差、および前記限界幾何公差は、それぞれ前記加工制約条件を決定する寸法、寸法公差、および幾何公差であり、
前記設計寸法、前記設計寸法公差、および前記設計幾何公差は、それぞれ前記特徴形状の設計時の寸法、寸法公差、幾何公差であり、
前記対策寸法、前記対策寸法公差、および前記対策幾何公差は、それぞれ前記限界寸法と前記設計寸法の間で設定される寸法、前記限界寸法公差と前記設計寸法公差の間で設定される寸法公差、および前記限界幾何公差と前記設計幾何公差の間で設定される幾何公差である、請求項15に記載の設計支援プログラム。
【請求項17】
前記解析結果には、前記過去に解析された他のプレス加工品の前記特徴形状の設計マージン距離、限界マージン距離、および対策マージン距離が含まれ、
前記設計マージン距離は、前記特徴形状の設計時における前記特徴形状と他の特徴形状との距離または前記特徴形状と前記プレス加工品の外周との距離である第1の距離であり、
前記限界マージン距離は、前記加工制約条件を決定する前記特徴形状と他の特徴形状との前記距離または前記特徴形状と前記プレス加工品の前記外周との前記距離である第2の距離であり、
前記対策マージン距離は、前記第1の距離と前記第2の距離の間で設定される距離である、請求項15に記載の設計支援プログラム。
【請求項18】
前記コンピューティングデバイスに対し、前記解析結果を、前記被加工材の前記材質、前記厚さ、前記限界値、または前記パラメータでソートすることを実行させるように構成される、請求項15に記載の設計支援プログラム。
【請求項19】
前記コンピューティングデバイスに対し、前記限界値を含む計算スクリプトを表示することをさらに実行させるように構成される、請求項14に記載の設計支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、プレス加工品の設計を支援するための方法、および当該方法を実現するためのシステムとプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
プレス加工は代表的な塑性加工の一つであり、板状の素材(被加工材)から三次元形状を含む様々な形状を有する製品を大量生産するための最適な加工方法の一つである。設計した製品(プレス加工品)が実際にプレス加工によって製造できるか否かを事前に判断するための設計支援システムが知られている(例えば特許文献1から3参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-151708号公報
【特許文献2】特開2010-277460号公報
【特許文献3】特開2007-102282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態の一つは、プレス加工品の設計を支援するための新規な方法、システム、およびプログラムを提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、作業者の経験や無形のノウハウに頼ることなく、プレス加工品の設計を支援するとともに、この設計支援を通してプレス加工における技術の向上や継承を可能にするための方法、システム、およびプログラムを提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態の一つは、プレス加工品の設計支援方法である。この設計支援方法は、プレス加工品のコンピュータ支援データから特徴形状を抽出すること、および特徴形状を解析し、予め登録された特徴形状の加工制約条件に基づいて特徴形状がプレス加工によって実現できるか否かを判定することを含む。加工制約条件は、被加工材の材質、厚さ、形状、絞り率、穴広げ率、および曲げのλ値、ならびにプレス加工時のプレス方向、プレス圧力、圧延方向、加工基準面、および行程順から選択される少なくとも一つを利用して決定される、特徴形状を規定するパラメータの限界値を含む。
【0006】
本発明の実施形態の一つは、設計支援システムである。この設計支援システムは、サーバ、およびサーバと通信可能なように接続されるコンピューティングデバイスを含む。サーバは、プレス加工品のコンピュータ支援データから特徴形状を抽出し、特徴形状の加工制約条件を格納し、特徴形状を解析して加工制約条件に基づいて特徴形状がプレス加工によって実現できるか否かを判定し、上記判定の結果をコンピューティングデバイスに送信するように構成される。コンピューティングデバイスは、コンピュータ支援データをサーバに送信し、上記判定の結果を表示するように構成される。加工制約条件は、被加工材の材質、厚さ、形状、絞り率、穴広げ率、および曲げのλ値、ならびにプレス加工時のプレス方向、プレス圧力、圧延方向、加工基準面、および行程順から選択される少なくとも一つを利用して決定される、特徴形状を規定するパラメータの限界値を含む。
【0007】
本発明の実施形態の一つは、設計支援プログラムである。この設計支援プログラムは、コンピュータ支援データからプレス加工品の特徴形状を抽出するように構成されるサーバと通信可能なように接続されるコンピューティングデバイスに対し、(i)コンピュータ支援データをサーバに送信すること、(ii)サーバに格納された特徴形状の加工制約条件に基づいて特徴形状がプレス加工によって実現できるか否かをサーバが判定した結果を受信すること、および(iii)上記判定の結果を表示することを実行させるように構成される。加工制約条件は、被加工材の材質、厚さ、形状、絞り率、穴広げ率、および曲げのλ値、ならびにプレス加工時のプレス方向、プレス圧力、圧延方向、加工基準面、および行程順から選択される少なくとも一つを利用して決定される、特徴形状を規定するパラメータの限界値を含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態の一つに係るプレス加工品の設計支援システムのブロック図。
【
図2】本発明の実施形態の一つに係るプレス加工品の設計支援方法の一例を示すフローチャート。
【
図4】本発明の実施形態の一つに係るプレス加工品の設計支援方法で利用される、特徴形状の加工制約条件が記載された特徴形状検出スクリプトの一例。
【
図5】本発明の実施形態の一つに係るプレス加工品の設計支援システムのコンピューティングデバイスに表示される表示例。
【
図6】本発明の実施形態の一つに係るプレス加工品の設計支援システムのコンピューティングデバイスに表示される表示例。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の各実施形態について、図面などを参照しつつ説明する。ただし、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0010】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状などについて模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。本明細書と各図において、既出の図に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略することがある。
【0011】
以下、本発明の実施形態の一つに係るプレス加工品の設計支援システム、設計支援方法、および設計支援プログラムについて説明する。
【0012】
1.設計支援システム
本発明の実施形態の一つに係る設計支援システム100のブロック図を
図1に示す。
図1に示すように、設計支援システム100は、サーバ102および少なくとも一つのコンピューティングデバイス104を含む。少なくとも一つのコンピューティングデバイス104は、複数のコンピューティングデバイス104を含んでもよい。サーバ102とコンピューティングデバイス104は、ネットワーク120を介して互いに通信接続される。ネットワーク120は、インターネットのような外部ネットワークでもよく、あるいは、LAN(Local Area Network)などの内部ネットワークでもよい。なお、サーバ102とコンピューティングデバイス104の接続は、有線でも無線でもよい。また、ネットワーク120を介さずにサーバ102とコンピューティングデバイス104を接続してもよい。この場合には、例えばフラッシュメモリなどの不揮発性メモリを介し、各種情報がサーバ102とコンピューティングデバイス104間で授受される。さらに、サーバ102とコンピューティングデバイス104は、ネットワーク120を介して商業提供されるクラウドコンピュータ110と通信接続されるように構成されてもよい。
【0013】
サーバ102は、少なくとも計算機能、情報格納機能、および通信機能を有する電子デバイスであり、据え置き型のコンピュータがサーバ102として例示される。サーバ102は情報表示機能を有する表示装置と接続されてもよく、あるいは、サーバ102に表示装置が組み込まれていてもよい。後述するように、サーバ102は、プレス加工品の特徴形状の抽出や解析を行い、その結果をコンピューティングデバイス104へ送信するように構成することができる。また、特徴形状に課せられる加工制約条件や加工時における留意点などの様々な情報がスプリプト化され、サーバ102内の記憶装置(図示しない)に格納される。この情報がいわゆるプレス加工におけるノウハウである。詳細は後述するが、サーバ102は、プレス加工品の設計図に相当する二次元または三次元モデルのコンピュータ支援データ(以下、CADデータ)をコンピューティングデバイス104から受信する。さらに、サーバ102は、上述した加工制約条件に基づいて特徴形状がプレス加工品においてプレス加工によって実現できるか否かを判断するように構成される。ただし、サーバ102においてCADデータを解析してプレス加工品の特徴形状を抽出するのではなく、CADデータをサーバ102またはコンピューティングデバイス104からクラウドコンピュータ110に送信し、クラウドコンピュータ110上において特徴形状の抽出を行ってもよい。この場合、抽出された特徴形状に関する情報がサーバ102に送信される。
【0014】
サーバ102と同様、コンピューティングデバイス104も少なくとも計算機能、情報格納機能、通信機能、および情報表示機能を有する電子デバイスであり、据え置き型のパーソナルコンピュータのほか、ノート型パーソナルコンピュータやタブレット、スマートホンなどの携帯型通信端末がコンピューティングデバイス104として例示される。コンピューティングデバイス104も表示装置と接続されてもよく、コンピューティングデバイス104に表示装置が組み込まれていてもよい。コンピューティングデバイス104は、グラフィカルユーザインターフェース(GUI)として機能する。このため、CADデータを読み込み、格納するように構成することができる。さらに、コンピューティングデバイス104に搭載される設計支援システムプログラム(後述)の命令に従い、CADデータおよびCADデータから得られるプレス加工品の三次元モデルを表示するように構成される。また、コンピューティングデバイス104は、表示装置上に組み込まれたタッチパネル、コンピューティングデバイス104に接続されるマウスやトラックボールなどのポインティングデバイスからの命令に従って表示装置上でプレス加工品の三次元モデルを任意の角度や倍率で表示するように構成されてもよい。
【0015】
2.設計支援方法
本発明の実施形態の一つに係る設計支援方法の一例を表すフローチャートを
図2に示す。
【0016】
(1)CADデータの読み込み
図2に示すように、まず、設計されたプレス加工品のCADデータをコンピューティングデバイス104で読み込む。例えば、クラウドコンピュータ110上のCADデータ、コンピューティングデバイス104の記憶装置に格納されたCADデータ、あるいはフラッシュメモリなどの携帯型記憶媒体に格納されたCADデータを本発明の実施形態の一つに係る設計支援プログラムを用いて読み込む。これにより、プレス加工品の三次元構造がコンピューティングデバイス104において認識される。図示しないが、この時、設計支援プログラムの命令に従い、コンピューティングデバイス104はプレス加工品の三次元モデルを表示装置上に表示してもよい。
【0017】
(2)特徴形状の抽出
次に、CADデータはサーバ102へ送信される。サーバ102は、受信したCADデータから、ハイブリッド領域セグメンテーションアルゴリズムなどの公知のアルゴリズムを利用し、プレス加工品の特徴形状を抽出する。この時、上述したように、特徴形状の抽出をサーバ102内で行わず、クラウドコンピュータ110において実行し、その結果をサーバ102で受信してもよい。
【0018】
図3にプレス加工品の一例を示す。
図3に示された例では、板状の被加工材に対して曲げ、ブランキング形成、穴形成、バーリング形成、ボス形成などの様々な加工が施され、その結果、一つのプレス加工品に様々な特徴形状が形成される。図示しないが、プレス加工では、さらに多様な加工(絞り形成、ビード形成、リブ形成、切り起こしなど)を行うことができる。このため、特徴形状は、例えば曲げR(半径Rの湾曲を形成する曲げ)、ブランキングR(半径Rの湾曲面を有する抜き形状)、丸穴(断面が円の貫通孔)、異形孔(断面が円以外の貫通孔)、ボス(面上に隆起した凸形状)、バーリング(フランジを有する貫通孔)、さん(桟)など、多岐にわたる。
【0019】
(3)寸法公差と幾何公差の登録
次に、設計されたプレス加工品の各特徴形状に関連付けられ、各特徴形状の寸法や位置などを規定するパラメータである寸法、寸法公差、および幾何公差のうち、寸法公差と幾何公差をサーバ102またはクラウドコンピュータ110に登録する。これは、寸法は、CADデータから直接サーバ102またはクラウドコンピュータ110で読み込むことができるためである。寸法公差は、各特徴形状の寸法の誤差範囲を規定するパラメータであり、ブランキングRにおいて半径Rに許容される誤差、ボスの高さに許容される誤差、丸穴の径に許容される誤差、さん幅に許容される誤差の範囲などが例示される。幾何公差は、特徴形状の形状や位置を規定するパラメータであり、位置公差や、距離公差、形状公差、姿勢公差が含まれる。位置公差とは、各特徴形状のプレス加工品における位置に許容される誤差の範囲を表す。距離公差とは、各特徴形状とプレス加工品の外周間の距離や二つの特徴形状間の距離に許容される誤差の範囲を表す。形状公差とは、特徴形状に求められる幾何学的形状から許容されるズレの範囲を表す。姿勢公差とは、データムに対する姿勢について許容される誤差の範囲を表す。寸法公差と幾何公差は、CADデータに基づいてコンピューティングデバイス104を用いて入力することで登録してもよく、あるいは、サーバ102またはクラウドコンピュータ110上でCADデータから寸法公差および/または幾何公差を読み取ることで登録してもよい。
【0020】
図2では示されていないが、寸法公差と幾何公差の登録の前または後に、被加工材の材質、加工方向(加工基準面、プレス方向)、送り方向(圧延方向)、三次元モデル(あるいは、CADデータ)における座標などをコンピューティングデバイス104上で登録・入力してもよい。
【0021】
(4)プレス加工の可否判断
プレス加工においては、各特徴形状は常に自由に形成できるとは限られず、一定の加工制約条件が課せられる。具体的には、各特徴形状には、加工上の理由に起因し、予め登録された限界寸法、限界寸法公差、および限界幾何公差で規定される加工制約条件が課される。
【0022】
限界寸法とは、各特徴形状を規定するパラメータである寸法の加工上の限界値である。この限界値は、被加工材料に含まれる材料の材質、厚さ(板厚)、形状、絞り率、穴広げ率、曲げのλ値や、プレス加工時のプレス方向、プレス圧力、圧延方向、加工基準面、工程順などの要素を利用して決定される。材質には、引張強度、降伏応力、伸び、剪断抵抗、ランクフォード値などが含まれる。例えば、特徴形状が「曲げR」の場合、形成可能な最小半径が限界寸法として規定される。同様に、ブランキングRの半径Rやボスの最大高さ、丸穴の最小径、さん幅の最小値などが限界寸法として規定される。
【0023】
限界寸法公差は、各特徴形状を規定するパラメータである、寸法の誤差の限界値(最小値)を表す。限界寸法公差も上述した要素を利用して決定される。例えばブランキングRの場合、加工上避けられない半径Rのばらつき範囲が限界寸法公差である。バーリングの場合には、内径、外形、高さなどのばらつき範囲がバーリングの限界寸法公差である。
【0024】
限界幾何公差は、各特徴形状のパラメータである位置交差、形状公差、姿勢公差の加工上避けられないばらつきの限界値(最小値)である。例えば、
図3に示す例では、穴やボス、バーリング、ブランキングRの位置のばらつきの限界値、バーリングの内径の中心と外径の中心間のズレのばらつきの限界値、さんの方向のばらつきの限界値などが挙げられる。さらに、限界幾何公差には、特徴形状間の距離のばらつきの限界値が含まれる。
図3に示す例では、例えば穴と曲げの間の距離や穴と穴の距離などのばらつきの限界値が幾何公差に含まれる。
【0025】
プレス加工品の設計時における寸法(設計寸法)、寸法公差(設計寸法公差)、および幾何公差(設計幾何公差)がそれぞれ限界寸法、限界寸法公差、および限界幾何公差を満たす場合には、プレス加工品において、設計された特徴形状をプレス加工によって実現できる可能性が高く、設計通りのプレス加工品を製造できると判断することができる。逆に、設計寸法、設計寸法公差、設計幾何公差の少なくとも一つがそれぞれ限界寸法、限界寸法公差、および限界幾何公差を満たさない場合には、プレス加工品において、設計された特徴形状をプレス加工によって実現することができず、不良品の発生を招くことになる。
【0026】
さらに、プレス加工品の設計時における設計寸法、設計寸法公差、および設計幾何公差がそれぞれ限界寸法、限界寸法公差、および限界幾何公差を満たしたとしても、これらの特徴形状が近すぎると、設計通りの曲げや穴の形成ができなくなることがある。例えば、
図3に示した例において、曲げRとその右に位置する穴という特徴形状の設計寸法、設計寸法公差、および設計幾何公差がそれぞれ限界寸法、限界寸法公差、および限界幾何公差を満たしていたとしても、これらが近すぎると、加工の際に穴が変形する、曲げRの寸法公差や幾何公差が増大するといった不具合が発生し、その結果、製造されるプレス加工品の特徴形状が設計寸法、設計寸法公差、設計幾何公差などを満たさなくなってしまう。
【0027】
このため、本設計支援方法では、各特徴形状について、被加工材料に含まれる材料の材質と厚さ(板厚)、形状、絞り率、穴広げ率、曲げのλ値との関係、ならびにプレス加工時のプレス方向、プレス圧力、圧延方向、加工基準面、および工程順などの要素に応じ、限界寸法、限界寸法公差、限界幾何公差、および他の特徴形状やプレス加工品の外周までの距離(以下、マージン距離と呼ぶ)の最小値(以下、マージン距離の最小値を限界マージン距離と呼ぶ。)などが特徴形状検出スクリプトとして纏められ、特徴形状検出スクリプトに記載された情報、すなわち、プレス加工におけるノウハウがスクリプト化されてサーバ102に格納される。一例として、特徴形状がブランキングである場合の特徴形状検出スクリプトの一部を
図4に模式的に示す。ここで例示されるように、各徴形状検出スクリプトには、被加工材料に含まれる材料の材質、厚さ(板厚)、形状、絞り率、穴広げ率、曲げのλ値、ならびにプレス加工時のプレス方向、プレス圧力、圧延方向、加工基準面、および工程順などの要素に応じ、加工における注意点の他、計算スクリプト、すなわち、各特徴形状についての限界寸法や限界寸法公差、限界幾何公差、限界マージン距離やこれらを決定するための計算式などが纏められ、これらの情報を参照することで各加工工程におけるノウハウを全て理解することができる。
【0028】
換言すると、計算スクリプトには加工制約条件が纏められており、加工制約条件は、上述した種々の要素によって決定される、特徴形状を規定する各パラメータの限界値および/または限界値を算出するための計算式を含む。また、加工制約条件、すなわち、上記限界値や限界値を算出するための計算式は、一定数(例えば、102回以上106回以下、または103回以上104回以下)の加工実績に基づき、上記要素に応じて決定される。一定数の加工実績に基づいて決定された加工制約条件を利用することで、限界寸法、限界寸法公差、限界幾何公差、および限界マージン距離のすべてが満たされる場合、試作時だけでなく量産プロセスにおいても実現可能なプレス加工品が提供可能であると判断することができる。
【0029】
そして、サーバ102あるいはクラウドコンピュータ110において特徴形状の各々について解析を行う。具体的には、特徴形状検出スクリプトに基づき、上述した種々の要素を考慮し、設計寸法、設計寸法公差、および設計幾何公差がそれぞれ限界寸法、限界寸法公差、および限界幾何交差を満たすか否かを判断するとともに、プレス加工品の設計時におけるマージン距離(設計マージン距離)が限界マージン距離以上であるかを判断する。設計寸法、設計寸法公差、および設計幾何公差のいずれもがそれぞれ限界寸法、限界寸法公差、および限界幾何交差を満たし、かつ、設計マージン距離が限界マージン距離以上である場合には、当該特徴形状は加工可能と判定される。逆に、設計寸法、設計寸法公差、および設計幾何公差のいずれかがそれぞれ限界寸法、限界寸法公差、および限界幾何交差を満たさない、あるいは設計マージン距離が限界マージン距離を下回る場合には、加工不可と判定される。
【0030】
加工可否の判定結果は、サーバ102からコンピューティングデバイス104に送信され、コンピューティングデバイス104に搭載される設計支援プログラムの命令に従い、コンピューティングデバイス104の表示装置に表示される。表示方法は任意であり、例えば
図5に示すように、表示装置の表示領域を複数の領域に分割し、表示領域の一部に特徴形状とそのパラメータ(設計寸法、設計寸法公差、設計幾何公差)、特徴形状に課せられる制約条件(限界寸法、限界寸法公差、限界幾何公差、限界マージン距離など)、判定結果とその理由などが纏められた解析リストを表示してもよい。これにより、加工可否の結果だけでなく、加工不可の理由を速やかに理解することができる。図示しないが、解析リストに入力領域を設け、任意の情報を入力可能な表示方法を採用してもよい。
【0031】
さらに、設計されたプレス加工品のCADデータや三次元モデルを表示してもよい。また、ポインティングデバイスを用いてCADデータの拡大や移動、三次元モデルの移動や回転、拡大ができるよう、設計支援プログラムを構成してもよい。さらに、図示しないが、解析リスト内の特徴形状を選択することで、対応する特徴形状をCADデータや三次元モデルで色付け表示または強調(ハイライト)表示する、および/または特徴形状に対応する特徴形状スクリプト(または、計算スクリプト)を表示装置上に表示するように設計支援プログラムを構成してもよい。逆に、CADデータ三次元モデル中の特徴形状を選択することで、解析リスト中で対応する特徴形状やその特徴形状スクリプト(または、計算スクリプト)が表示画面中に現れるように設計支援プログラムを構成してもよい。また、
図5に示すように、解析リスト内の特徴形状、および/または三次元モデル若しくはCADデータ中の特徴形状を選択することで、対応する特徴形状検出スクリプトを表示できるように設計支援プログラムを構成してもよい。これにより、各特徴形状に関して蓄積されたノウハウを適時に閲覧することができる。さらに、特徴形状を試作加工(後述)する場合には、その旨を表示するためのアイコンやボタン、あるいは入力領域などを設けてもよい。
【0032】
設計されたCADデータに従って加工可能と判定された場合には、設計上の問題点が存在しないため、本設計支援方法のフローを終了し、プレス加工品の製造を行えばよい。逆に、加工不可と判定された場合、プレス加工品の設計変更が容認されればCADデータに修正を加え、再度CADデータを読み込み、特徴形状を抽出し、加工可能か否かを判定すればよい。そして、加工可能となるまで設計変更を繰り返せばよい。
【0033】
しかしながら、プレス加工品に要求される機能や特性が設計変更によって実現できなくなる場合には設計変更ができず、その結果、設計者の意図が反映されたプレス加工品を製造することができなくなってしまう。また、加工可能という判定を得るための方策として設計変更のみに頼ってしまうと、プレス加工技術の向上や革新が見込めない。このため、本設計支援方法では、ノウハウとして蓄積された加工制約条件を超えてより厳しい加工制約条件での試作加工(チャレンジ)を促すための機能を提供してもよい。
【0034】
この場合、具体的には、コンピューティングデバイス104において、抽出された特徴形状の過去の解析結果、すなわち、当該特徴形状を有する他のプレス加工品の解析結果を送信するようにサーバ102に対して要求し、受信した解析結果をコンピューティングデバイス104に表示する。例えば、表示画面上に適切なアイコンやボタンなどを設け、それを選択することで、過去の解析結果を送信するようにサーバ102に対して要求する。さらに、受信した過去の解析結果を表示装置上に表示させるよう、設計支援プログラムが構成される。解析結果を表示するためのフォーマットは任意に決定することができる。例えば
図6に示すように、過去に解析された当該特徴形状について、被加工材の材質、厚さ(板厚)、限界寸法、限界寸法公差、設計寸法、設計寸法公差などがリスト化された実績リストとして解析結果を表示してもよい。図示しないが、実績リストには、限界マージン距離、プレス加工品の製品名、顧客名、品番、製品サイズ、使用したプレス機器や金型を特定する名称や識別コードなどが含まれてもよい。さらに、過去に解析された当該特徴形状に対応する特徴形状スクリプト(または、計算スクリプト)を表示してもよい。
【0035】
さらに、実績リストには、過去のチャレンジ、すなわち、過去に限界寸法、限界寸法公差、または限界幾何公差を満たさない特徴形状や設計マージン距離が限界マージン距離を下回る特徴形状を試作した実績が存在するか否の表示や、過去のチャレンジ結果を含んでもよい。チャレンジでは、適切な対策寸法、対策寸法公差、対策幾何公差、対策マージン距離を設定し、これに従って特徴形状を試作する。対策寸法とは、試作において設定される特徴形状の寸法であり、設計寸法若しくは限界寸法と同一、またはこれらの間で設定される。対策寸法公差とは、試作において設定される特徴形状の寸法公差であり、設計寸法公差若しくは限界寸法公差と同一、またはこれらの間で設定される。対策幾何公差とは、試作において設定される特徴形状の幾何公差であり、設計幾何公差若しくは限界幾何公差と同一、またはこれらの間で設定される。対策マージン距離とは、試作において設定される特徴形状のマージン距離であり、設計マージン距離若しくは限界マージン距離と同一、またはこれらの間で設定される。本設計支援方法では、過去のチャレンジ結果を表示装置上に表示することで、速やかに過去の実績を参照することができる。このため、設計寸法、設計寸法公差、若しくは設計幾何公差がそれぞれ限界寸法、限界寸法公差、若しくは限界幾何公差を満たさない、または設計マージン距離が限界マージン距離を下回る場合でも、類似する過去の実績やチャレンジ結果を参酌し、ノウハウ、すなわち、特徴形状検出スクリプトで規定される加工条件を超えてより厳しい条件下で加工できるか否かの判断材料を提供することが可能となる。
【0036】
より厳しい制約条件でのプレス加工に対するチャレンジをさらに促進するため、限界寸法と設計寸法の差、限界寸法公差と設計寸法公差との差、限界幾何公差と設計幾何交差の差、設計マージン距離と限界マージン距離の差をコンピューティングデバイス104の表示装置上に表示してもよい。あるいは、これらの差が一定範囲にあるものを強調表示するように設計支援プログラムを構成してもよい。例えば、上記差が5%以内、10%以内、20%以内、または30%以内である過去の実績を選択表示または強調表示するように設計支援プログラムを構成してもよい。これにより、新たなチャレンジ結果の予測を見通すことができる。また、実績リストをソートできるように設計支援プログラムを構成してもよい。ソート項目としては、例えば、材質、板厚、特徴形状の寸法(例えば、特徴形状が曲げであるときには、曲げ半径R)、計算スクリプト若しくは各パラメータの限界値、プレス加工品の製品名、顧客名、品番、製品サイズ、使用したプレス機器や金型を特定する名称や識別コードなどが挙げられる。これにより、類似する特徴形状についての過去の解析結果やチャレンジ実績を効率よく参照することができる。さらに、それぞれの過去の実績にリンクを設け、チャレンジ結果が纏められた報告書などの書類にアクセスできるよう、設計支援プログラムを構成してもよい。これらの書類は、サーバ102の記憶装置に格納される。さらに、過去の解析結果をキーワードなどで検索できるように設計支援プログラムを構成してもよい。
【0037】
チャレンジを行なっても対策寸法、対策寸法公差、若しくは対策幾何交差を満たさない場合には設計変更を余儀なくされる。しかしながら、チャレンジが成功した場合、すなわち、量産に準じる程度の一定数以上の試作(例えば、102回以上106回以下、または103回以上104回以下の試作)において対策寸法、対策寸法公差、または対策幾何交差が満たされた場合には、設計変更を行わない、あるいは僅かな設計変更を行うだけで特徴形状が実現できると判断することができる。このため、本設計支援方法により、過去のノウハウに従った加工制約条件に拘束されることなく、より多様な形状を有するプレス加工品を製造することが可能となる。また、チャレンジを通じてプレス加工の技術向上(例えば、金型の設計技術、プレス方法、プレス機器の性能などの向上)を図ることも可能である。さらに、チャレンジの成功を積み重ねることで、これまでノウハウとして蓄積された限界寸法、限界寸法公差、限界幾何公差、限界マージン距離といった加工制約条件をそれぞれ対策寸法、対策寸法公差、対策幾何公差、対策マージン距離に更新することができる。すなわち、現行の加工制約条件をより緩和された新たな加工制約条件に更新することができる。このため、より複雑で多様な形状を有するプレス加工品を製造するための技術を構築することができる。これにより、作業者の経験や無形のノウハウに頼ることなくプレス加工品の設計が支援できるだけでなく、プレス加工品の多様性を広げ、かつ、プレス加工における技術の向上や継承が可能となる。
【0038】
3.設計支援プログラム
本発明の実施形態の一つに係る設計支援方法は、上述した設計支援システム100、およびそのコンピューティングデバイス104に搭載される設計支援プログラムによって実施することができる。よって、本発明に係る実施形態の一つは、プレス加工において上述した各処理の一部または全てをコンピューティングデバイス104に実行させるための設計支援プログラムである。
【0039】
また、この設計支援プログラムが記録されたコンピュータ可読記録媒体も本発明に係る実施形態の一つである。コンピュータ可読記録媒体の例としては、ハードディスク、フレキシブルディスク、および磁気テープのような磁気媒体、CD-ROM、DVDのような光媒体、フロプティカルディスク(floptical disk)のような光磁気媒体、およびROM、RAM、フラッシュメモリなどのような、設計支援プログラムを格納して実行するように構成されたハードウェア装置が含まれる。設計支援プログラムは、コンパイラによって生成されるもののような機械語コードだけではなく、インタプリタなどを使用してサーバによって実行される高級言語コードを含む。設計支援プログラムは、コンピュータ可読媒体からコンピューティングデバイス104にインストールされる。なお、設計支援プログラムは、ネットワーク120からコンピューティングデバイス104にダウンロード可能であってもよい。
【0040】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。また、各実施形態の表示装置を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったもの、または、工程の追加、省略もしくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0041】
上述した各実施形態の態様によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと解される。
【符号の説明】
【0042】
100:設計支援システム、102:サーバ、104:コンピューティングデバイス、110:クラウドコンピュータ、120:ネットワーク