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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166867
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】低線膨張性混抄紙及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 13/26 20060101AFI20241122BHJP
   D21H 17/67 20060101ALI20241122BHJP
   D21H 13/50 20060101ALI20241122BHJP
   D21H 17/46 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
D21H13/26
D21H17/67
D21H13/50
D21H17/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083255
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000116404
【氏名又は名称】阿波製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003225
【氏名又は名称】弁理士法人豊栖特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】湯本 明
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AF03
4L055AF35
4L055AG02
4L055AG77
4L055AG79
4L055AH37
4L055AH49
4L055BE10
4L055BE20
4L055CH16
4L055EA04
4L055EA08
4L055EA09
4L055EA14
4L055EA15
4L055EA21
4L055FA11
4L055FA18
4L055GA01
(57)【要約】
【課題】熱伝導性を維持しつつ、線膨張係数を抑えた低線膨張性混抄紙等を提供する。
【解決手段】低線膨張性混抄紙は、膨張化黒鉛と、アラミドパルプと、炭素繊維と、バインダ樹脂を備える。前記低線膨張性混抄紙の縦方向、横方向における30℃~200℃の線膨張係数が、いずれも5ppm/K以下であり、熱伝導率が34W/m・K以上である。これにより、線膨張係数を抑制した低線膨張性混抄紙を実現できる。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨張化黒鉛と、
アラミドパルプと、
炭素繊維と、
バインダ樹脂と、
を備える低線膨張性混抄紙であって、
前記低線膨張性混抄紙の縦方向、横方向における30℃~200℃の線膨張係数が、いずれも5ppm/K以下であり、
熱伝導率が34W/m・K以上である低線膨張性混抄紙。
【請求項2】
請求項1に記載の低線膨張性混抄紙であって、
前記低線膨張性混抄紙の縦方向、横方向における30℃~200℃の線膨張係数の差が、0.5ppm/K以下である低線膨張性混抄紙。
【請求項3】
請求項1に記載の低線膨張性混抄紙であって、
前記低線膨張性混抄紙の縦方向、横方向における30℃~200℃の線膨張係数が、
いずれも4ppm/K以下であり、
両者の差が0.2ppm/K以下である低線膨張性混抄紙。
【請求項4】
請求項1に記載の低線膨張性混抄紙であって、
前記膨張化黒鉛が、粉体である低線膨張性混抄紙。
【請求項5】
請求項1に記載の低線膨張性混抄紙であって、
前記膨張化黒鉛に対するアラミドパルプの比率が、0.10~0.30である低線膨張性混抄紙。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の低線膨張性混抄紙であって、
厚さが100μm以上である低線膨張性混抄紙。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の低線膨張性混抄紙であって、
前記バインダ樹脂の樹脂付量が、14%~33%である低線膨張性混抄紙。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の低線膨張性混抄紙であって、
大きさが、1m×1m以上である低線膨張性混抄紙。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか一項に記載の低線膨張性混抄紙であって、
密度が1.5g/cm3以下である低線膨張性混抄紙。
【請求項10】
請求1~5のいずれか一項に記載の低線膨張性混抄紙であって、
前記膨張化黒鉛と、前記アラミドパルプと、前記炭素繊維と、バインダ樹脂繊維を含むシート材に、前記バインダ樹脂が含浸されてなる低線膨張性混抄紙。
【請求項11】
膨張化黒鉛と、アラミドパルプと、炭素繊維を混抄してシート材を得る工程と、
前記シート材に、バインダ樹脂として熱硬化性樹脂を含浸させる工程と、
前記熱硬化性樹脂を含浸させたシート材を、熱圧加工し、
シート材の縦方向、横方向における30℃~200℃の線膨張係数が、いずれも5ppm/K以下であり、
熱伝導率が34W/m・K以上である低線膨張性混抄紙を得る工程と、
を含む低線膨張性混抄紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、低線膨張性混抄紙及びその製造方法に関し、例えば放熱シート等に利用可能な低線膨張性混抄紙及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の電気製品に用いられている半導体部品の消費電力は、高出力化の要請により近年高くなり、発熱量が増大している。そのため、半導体部品を実装する基板や貼付するシート材においては、発熱した熱を速やかに逃がすことで基板の温度上昇を抑えるよう、高い熱伝導性が求められる。
【0003】
その一方で、このようなシート材が熱を受けて膨張すると、実装した半導体部品がずれて不具合が生じることが考えられる。このため、熱膨張を防ぐために、線膨張係数の低い材料が求められている。しかしながら、金属等の熱伝導率の高い材質は線膨張係数が大きいものが多く、両立が容易でないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許7070819号公報
【特許文献2】特開2021-106202号公報
【特許文献3】特開2020-12194号公報
【特許文献4】特開2011-25297号公報
【特許文献5】特開2011-21303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の目的の一は、熱伝導性を維持しつつ、線膨張係数を抑えた低線膨張性混抄紙及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0006】
第1の形態に係る低線膨張性混抄紙によれば、膨張化黒鉛と、アラミドパルプと、炭素繊維と、バインダ樹脂と、を備える低線膨張性混抄紙であって、前記低線膨張性混抄紙の縦方向、横方向における30℃~200℃の線膨張係数が、いずれも5ppm/K以下であり、熱伝導率が34W/m・K以上である。上記構成により、線膨張係数を抑制した低線膨張性混抄紙を実現できる。
【0007】
また、第2の形態に係る低線膨張性混抄紙によれば、上記形態において、前記低線膨張性混抄紙の縦方向、横方向における30℃~200℃の線膨張係数の差が、0.5ppm/K以下である。上記構成により、線膨張係数の縦横差を小さくした低線膨張性混抄紙を得ることができる。
【0008】
さらに、第3の形態に係る低線膨張性混抄紙によれば、上記いずれかの形態において、前記低線膨張性混抄紙の縦方向、横方向における30℃~200℃の線膨張係数が、いずれも4ppm/K以下であり、両者の差が0.2ppm/K以下である。上記構成により、線膨張係数の縦横差を小さくした低線膨張性混抄紙を得ることができる。
【0009】
さらにまた、第4の形態に係る低線膨張性混抄紙によれば、上記いずれかの形態において、前記膨張化黒鉛が、粉体である。
【0010】
さらにまた、第5の形態に係る低線膨張性混抄紙によれば、上記いずれかの形態において、前記膨張化黒鉛に対するアラミドパルプの比率が、0.10~0.30である。
【0011】
さらにまた、第6の形態に係る低線膨張性混抄紙によれば、上記いずれかの形態において、厚さが100μm以上である。上記構成により、低線膨張性混抄紙を用いた製品の製造工程における低線膨張性混抄紙のハンドリングが容易となる。
【0012】
さらにまた、第7の形態に係る低線膨張性混抄紙によれば、上記いずれかの形態において、前記バインダ樹脂の樹脂付量が、14%~33%である。
【0013】
さらにまた、第8の形態に係る低線膨張性混抄紙によれば、上記いずれかの形態において、大きさが、1m×1m以上である。上記構成により、連続生産が可能な抄紙工程を利用して大判化が可能となる。
【0014】
さらにまた、第9の形態に係る低線膨張性混抄紙によれば、上記いずれかの形態において、密度が1.5g/cm3以下である。
【0015】
さらにまた、第10の形態に係る低線膨張性混抄紙によれば、上記いずれかの形態において、前記膨張化黒鉛と、前記アラミドパルプと、前記炭素繊維と、バインダ樹脂繊維を含むシート材に、前記バインダ樹脂が含浸されている。
【0016】
さらにまた、第11の形態に係る低線膨張性混抄紙の製造方法によれば、膨張化黒鉛と、アラミドパルプと、炭素繊維を混抄してシート材を得る工程と、前記シート材に、バインダ樹脂として熱硬化性樹脂を含浸させる工程と、前記熱硬化性樹脂を含浸させたシート材を、熱圧加工し、シート材の縦方向、横方向における30℃~200℃の線膨張係数が、いずれも5ppm/K以下であり、熱伝導率が34W/m・K以上である低線膨張性混抄紙を得る工程とを含む。これにより、寸法安定性と熱伝導性を備える低線膨張性混抄紙を抄紙により得ることができる。またUD材の欠点を補うために、高価な炭素繊維のクロス材を用いることなく、炭素繊維の端材を用いて抄紙により多方向の強度を高めた低線膨張性混抄紙が得られる利点を享受できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】LEDを貼り付けた基材を複数枚敷き詰めてディスプレイを構成する様子を示す模式図である。
図2図2Aは比較例2に係る低線膨張性混抄紙のMDの変形量、図2BはCDの変形量を、それぞれ示すグラフである。
図3図3Aは実施例1に係る低線膨張性混抄紙のMDの変形量、図3BはCDの変形量を、それぞれ示すグラフである。
図4図4Aは実施例2に係る低線膨張性混抄紙のMDの変形量、図4BはCDの変形量を、それぞれ示すグラフである。
図5図5Aは実施例3に係る低線膨張性混抄紙のMDの変形量、図5BはCDの変形量を、それぞれ示すグラフである。
図6図6Aは実施例4に係る低線膨張性混抄紙のMDの変形量、図6BはCDの変形量を、それぞれ示すグラフである。
図7】比較例1~2、実施例1~4に係る低線膨張性混抄紙の30℃~50℃の線膨張係数を示すグラフである。
図8】比較例1~2、実施例1~4に係る低線膨張性混抄紙の30℃~100℃の線膨張係数を示すグラフである。
図9】比較例1~2、実施例1~4に係る低線膨張性混抄紙の30℃~150℃の線膨張係数を示すグラフである。
図10】比較例1~2、実施例1~4に係る低線膨張性混抄紙の30℃~200℃の線膨張係数を示すグラフである。
図11】比較例1~2、実施例1~4に係る低線膨張性混抄紙の熱伝導率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本開示の技術思想を具体化するための例示であって、本開示は以下のものに限定されない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特定的な記載がない限りは、本開示の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本開示を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
【0019】
放熱性と寸法安定性に優れた基板やシート材が、半導体部品を固定する用途などで求められている。例えば、マイクロLEDディスプレイのLED素子を貼り付ける基材には、放熱のための熱伝導性に加えて、熱膨張時の変動の少ない寸法安定性が求められる。図1に示すようにマイクロLED素子1を貼り付けた基材を複数枚敷き詰めてマイクロLEDディスプレイを構成する際に、使用時の発熱によって基材10が膨張、収縮し、基材同士の間に隙間GPが生じて見栄えが悪くなることがある。
【0020】
そこで、マイナスの線膨張を持つ炭素繊維を用いた炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastics:CFRP)が主に使用されている。しかしながら、一般にCFRPはUD(UniDerection)材で、炭素繊維を一方向に揃えたものであるため、炭素繊維が揃っている方向においては寸法安定性が優れる反面、これと交差する方向においてはバインダ樹脂の線膨張が支配的となり、寸法安定性が劣るという欠点があり直交方向等に向きを変えて複数枚積層して使用しなければならない結果、厚みが大きくなるという問題があった。
【0021】
本願発明者は、このような背景に鑑みて寸法安定性と熱伝導性を両立させた基材を鋭意研究し、膨張化黒鉛を使用することで方向性なく寸法安定性を発揮できることを見出し、本願発明を成すに至った。以下、詳述する。
[実施形態1]
【0022】
実施形態1に係る低線膨張性混抄紙は、膨張化黒鉛と、アラミドパルプと、炭素繊維を混抄したシート材に、バインダ樹脂を含浸している。このようにマイナスの線膨張特性を有するアラミドを用いることで線膨張係数を抑制できる。具体的には、低線膨張性混抄紙の縦方向、横方向における30℃~200℃の線膨張係数が、いずれも5ppm/K以下、好ましくは4ppm/K以下としている。また、これら縦方向、横方向における30℃~200℃の線膨張係数の差を、0.5ppm/K以下とすることが好ましく、さらに好ましくは0.2ppm/K以下とする。これにより、異方性を低減した低線膨張性混抄紙を得ることができる。
【0023】
また低線膨張性混抄紙に膨張化黒鉛を混抄することで、熱伝導率を高めている。具体的には、熱伝導率が34W/m・K以上、好ましくは40W/m・K以上としている。
【0024】
膨張化黒鉛は、粉体や粉末状とすることが好ましい。これにより、繊維状や棒状の黒鉛と比べて、膨張化黒鉛の方向性を低減し、線膨張係数の縦方向と横方向の差を小さくできる。
【0025】
粉体の膨張化黒鉛は、均一な混抄紙が得られる限りで粒径が大きいほうが良く、平均粒径を100~500μmとすることが好ましい。これにより、熱伝導性と低線膨張率とを両立出来る効果が得られる。
【0026】
さらにシート材には、膨張化黒鉛と、アラミドパルプと、炭素繊維に加えて、バインダ樹脂繊維(一種類または二種類以上)を加えてもよい。バインダ樹脂繊維には、熱可塑性樹脂が好適に利用できる。具体的には、「ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル等のポリエステルや、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン等のポリオレフィンや、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)などのポリアリーレンスルフィド、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、液晶ポリマー(LCP)」などの結晶性樹脂、「スチレン系樹脂の他、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリサルホン(PSU)、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート(PAR)」などの非晶性樹脂、その他、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、更にポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系樹脂、およびアクリロニトリル系等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体および変性体等から選ばれる熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0027】
低線膨張性混抄紙の厚さは、好ましくは100μm以上、より好ましくは150μm以上、さらに好ましくは150μm~10mmとする、最も好ましくは150μm~3mmとする。これにより、低線膨張性混抄紙を用いた製品の製造工程における低線膨張性混抄紙の把持や搬送し易さといったハンドリングの面で有利となる
【0028】
また低線膨張性混抄紙の大きさは、1m×1m以上、好ましくは1m×2m以上、とすることができる。連続生産が可能な抄紙工程を利用すれば大判化が可能となる。
【0029】
さらに低線膨張性混抄紙の密度を、1.5g/cm3以下とすることが好ましい。これにより、軽量な低線膨張性混抄紙を得ることができる。そのため、大判化した際、重量が大きくなり過ぎない。
(バインダ樹脂)
【0030】
低線膨張性混抄シートは、膨張化黒鉛と、アラミドパルプと、炭素繊維が混抄されたシート材に、バインダ樹脂を含浸することで得られる。この際のバインダ樹脂の最適付量としては、好ましくは14%~33%、より好ましくは22%~26%とする。より具体的には、線膨張係数が5ppm/K以下の場合は、シート材の重量100gに対して、14%~32%、線膨張係数が4ppm/K以下の場合は22%~26%とする。樹脂付量が少なすぎると、フィラー間の接着が不十分となる。逆に樹脂付量が多すぎると、得られた低線膨張性混抄紙の線膨張係数がバインダ樹脂の線膨張率に依存することとなる。このため、寸法安定性を実現するため、バインダ樹脂の付量を上述の範囲に調整する。
【0031】
バインダ樹脂には、熱硬化性樹脂を利用できる。熱硬化性樹脂には、例えばフェノール、不飽和ポリエステル、エポキシ、ビニルエステル、ビスマレイミド、シアネート、ポリイミド等が利用できる。
【0032】
膨張化黒鉛に対するアラミドパルプの比率は、0.10~0.30とすることが好ましい。これにより、混抄紙から膨張化黒鉛が脱離することを防止するのに加え低線膨張性の効果が得られる。具体的には、膨張化黒鉛の比率は60~90wt%、アラミドパルプは5wt%~30wt%、炭素繊維は0wt%~10wt%とすることが好ましい。またバインダ樹脂は、好ましくは14%~33%、より好ましくは22~26%とする。
[低線膨張性混抄紙の製造方法]
【0033】
このような低線膨張性混抄紙の製造方法は、以下のようにして行われる。まず、膨張化黒鉛と、アラミドパルプと、炭素繊維を混抄してシート材を得る。抄紙工程を利用することで、連続生産が可能となり、大判のシート材が得られる。また従来のCFRPのUD材の欠点を補うために直交方向等に向きを変えて複数枚積層させることなく、抄紙により多方向の強度を高めたシート材が得られる。
【0034】
さらに炭素繊維として端材を用いることにより、長尺の炭素繊維を用いる場合と比べて安価に製造できる利点も得られる。炭素繊維の繊維長は、3mm~13mmとすることができる。
【0035】
次に、混抄して得られたシート材に、熱硬化性樹脂を含浸させる。樹脂含浸には、含浸法、カーテンコーター、ブレードコーター、キスコーター、ロールコーター、グラビアコーター、ファウンテンコーター、スクリーンコーター等が使用できる。中でもシート内部まで樹脂を浸透させる点から、含浸法が好適に使用できる。
【0036】
さらに樹脂含浸加工されたシート材を熱圧加工(熱プレス)する。熱プレスは、圧力1MPa~20MPaの環境下で、100℃~300℃で行う。これにより、熱伝導の高い、熱伝導率が34W/m・K以上の低線膨張性混抄紙を得ることができる。また抄紙工程でシート材が得られるため、大判化が容易で寸法上の制約を少なくできる。さらに、線膨張係数の異方性を抑制し、30℃~200℃の線膨張係数が4ppm/K以下とした低線膨張性混抄紙が得られる。製造工程も、抄紙と樹脂含浸加工、及び熱圧加工のみで足りるので、容易に製造できる利点も得られる。
[実施例、比較例]
【0037】
以下、実施例1~3及び比較例1~3に係る低線膨張性混抄紙をそれぞれ作製し、その特性を調べた。ここでは、粉体の膨張化黒鉛、アラミドパルプに、バインダ樹脂繊維、炭素繊維をそれぞれ70:15:13:2の割合で混抄してシート材の原紙を得た。シート材の原紙は、坪量が200g/m2、厚さが0.4mmであった。
【0038】
このシート材に対し、バインダ樹脂としてフェノール樹脂を含浸させた。ここで各実施例、比較例において、バインダ樹脂の樹脂付量を異ならせた。すなわち比較例1では樹脂付量を0%、比較例2では7%とした。一方、実施例1では14%、実施例2では23%、実施例3では29%、実施例4では37%とした。具体的には、フェノール樹脂にDIC社製J-325を用いて、各付量になるようにメタノールで希釈し、含浸加工し、60℃で15分間乾燥させた。
【0039】
さらに、熱圧加工して低線膨張性混抄紙のサンプルを得た。各サンプルにおいては、熱圧加工は7MPa、180℃で10分間行った。
【0040】
このようにして得られた低線膨張性混抄紙の各サンプルの線膨張係数を、30℃~50℃、30℃~100℃、30℃~150℃、30℃~200℃の各場合について、流れ方向であるMD(Machine Direction)あるいは縦方向とCD(Cross direction)あるいは横方向でそれぞれ測定した。平均線膨張係数を測定するため、JIS K 7197を参考に、熱機械分析(TMA法)を用いた。試験片の大きさは、5mm幅×30mmとした。測定装置は、ネッチジャパン株式会社製超高温対応型熱機械分析装置TMA402 F1 Hyperionを用いた。
測定条件は、
・試験モード:引張モード
・測定方向:MD、CD
・試料長さ:20mm
・測定温度:室温~200℃
・昇温速度:5℃/min.
・試験荷重:49mN
・測定雰囲気:窒素気流中(150mL/min.)
とした。
【0041】
また各サンプルの熱伝導率を測定した。熱伝導率の測定には、ネッチジャパン株式会社製キセノンフラッシュアナライザーLFA447Nanoflashを用いて、測定温度23℃にて行った。各サンプルのデータを、表1に示す。また、比較例2のMD、CDの熱膨張係数を図2A図2Bに、実施例1のMD、CDの熱膨張係数を図3A図3Bに、実施例2のMD、CDの熱膨張係数を図4A図4Bに、実施例3のMD、CDの熱膨張係数を図5A図5Bに、実施例4のMD、CDの熱膨張係数を図6A図6Bに、それぞれ示す。さらに30℃~50℃、30℃~100℃、30℃~150℃、30℃~200℃の線膨張係数をppmに換算したものを、図7図10に示す。加えて、各サンプルの熱伝導率を図11に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
これらの表及び図に示すように、比較例に係るサンプルでは、MD、CDの線膨張係数の乖離が比較的大きいのに対し、実施例に係るサンプルでは、その差を抑制できていることが確認できた。特に30℃~200℃の範囲ではMD、CDの線膨張係数の差分が比較例1で2.8ppm、比較例2で4.7ppmあるのに対し、いずれの実施例でも1ppm以下に抑制でき、実施例2では0.2ppmまで低減できており、線膨張係数の異方性を極減できていることが確認された。一方で、熱伝導率は34W/m・K以上を達成できた。このように、線膨張係数を抑えながら縦横差を小さくし、熱伝導率を維持した低線膨張性混抄紙を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本開示に係る低線膨張性混抄紙及びその製造方法は、マイクロLEDディスプレイなど、半導体部品を実装する基板やシート材として好適に利用できる。特に、温度に対する寸法の変化を抑制した、線膨張係数が低いことが求められる電気機器において好適に利用できる。
【0045】
また抄紙技術を利用することで炭素繊維の端材を利用でき、長尺の炭素繊維として利用できない廃材の有効活用につながり、廃棄物の利活用やリサイクルの利用拡大にも貢献し、環境負荷を低減できる結果、2015年9月の国連サミットで採択された国際目標SDGs(持続可能な開発目標)に掲げられた17のゴール及び169のターゲットの内、
・「8.働きがいも経済成長も」、「8.4 2030年までに、世界の消費と生産における資源効率を漸進的に改善させ、先進国主導の下、持続可能な消費と生産に関する10年計画枠組みに従い、経済成長と環境悪化の分断を図る。」
・「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」、「9.4 2030年までに、資源利用効率の向上とクリーン技術及び環境に配慮した技術・産業プロセスの導入拡大を通じたインフラ改良や産業改善により、持続可能性を向上させる。全ての国々は各国の能力に応じた取組を行う。」、
・「11.住み続けられるまちづくりを」、「11.6 2030年までに、大気の質及び一般並びにその他の廃棄物の管理に特別な注意を払うことによるものを含め、都市の一人当たりの環境上の悪影響を軽減する。」、
「12.つくる責任 つかう責任」、「12.4 2020年までに、合意された国際的な枠組みに従い、製品ライフサイクルを通じ、環境上適正な化学物質や全ての廃棄物の管理を実現し、人の健康や環境への悪影響を最小化するため、化学物質や廃棄物の大気、水、土壌への放出を大幅に削減する。」などに資する技術である。
【符号の説明】
【0046】
1…マイクロLED素子
10…基材
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