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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166871
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】レーダ装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/40 20060101AFI20241122BHJP
   G01S 13/90 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
G01S7/40 104
G01S7/40 160
G01S13/90
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083262
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】大浦 愛菜
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB08
5J070AD05
5J070AE07
5J070AF06
5J070AF08
5J070AH35
5J070AK04
5J070BE01
(57)【要約】
【課題】補正量の未算出による補正精度の低下を防ぐことが可能なレーダ装置を得ること。
【解決手段】レーダ装置100は、複数の送信信号のそれぞれを送信信号調整量を用いて調整した後、複数の送信チャネルを介してレーダ波として送信する送信システム101と、レーダ波の反射波を受信チャネルを介して受信した全ての受信信号のそれぞれを受信信号調整量を用いて調整した後、合成装置3により合成し、合成装置の複数の出力チャネル31-1~31-kから出力される信号データのそれぞれを補正して補正後の信号データを生成する受信システム102と、送信チャネル間の特性差を調整するための送信信号調整量と受信チャネル間の特性差を調整するための受信信号調整量とを算出する送受信系統間調整量算出装置8と、合成後の信号データから合成装置の複数の出力チャネル間の特性差を補正するための補正量を算出する受信機間特性補正値算出装置9と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の送信機が出力する複数の送信信号のそれぞれを、送信信号調整量を用いて調整した後、複数の送信チャネルを介してレーダ波として送信する送信部と、
前記レーダ波の反射波を複数の受信チャネルを介して複数の受信機により受信した全ての受信信号のそれぞれを、受信信号調整量を用いて調整した後、合成装置により合成し、前記合成装置の複数の出力チャネルから出力される合成後の複数の信号データのそれぞれを、補正量に基づいて補正して補正後の前記信号データを生成する受信部と、
前記送信部の複数の前記送信チャネル間の特性差を調整するための前記送信信号調整量と、前記受信部の複数の前記受信チャネル間の特性差を調整するための前記受信信号調整量とを算出する調整量算出部と、
前記受信部の合成後の前記信号データから前記合成装置の複数の前記出力チャネル間の特性差を補正するための前記補正量を算出する補正量算出部と、
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記調整量算出部は、前記送信機が出力する前記送信信号または前記受信機が出力する前記受信信号を入力信号とする状態と、信号モニタ装置が取得する信号であって前記レーダ装置の内部の電波経路で重畳するハードウェア特性を計測するための校正信号を前記入力信号とする状態とを任意のタイミングで切り替え可能であることを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記調整量算出部は、
前記送信チャネル間の特性値の差分を算出して、前記送信チャネル間で前記特性値を平滑化するような値を前記送信信号調整量として求め、
前記受信チャネル間の特性値の差分を算出して、前記受信チャネル間で前記特性値を平滑化するような値を前記受信信号調整量として求めることを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記調整量算出部は、前記送信信号を取得する毎に前記送信信号調整量を算出し、
前記送信部は、前記調整量算出部が算出した最新の前記送信信号調整量を用いて前記送信信号を調整し、
前記調整量算出部は、前記受信信号を取得する毎に前記受信信号調整量を算出し、
前記受信部は、前記調整量算出部が算出した最新の前記受信信号調整量を用いて前記受信信号を調整することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記補正量算出部は、前記出力チャネル間の特性値のばらつきを求め、前記特性値を平滑化するような値を前記補正量として求めることを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記補正量算出部は、前記信号データを取得する毎に前記補正量を算出し、
前記受信部は、前記補正量算出部が算出した最新の前記補正量を用いて前記信号データを補正することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記レーダ装置は、
人工衛星または航空機に搭載され、
前記受信部が生成する補正後の前記信号データを地上に設置された画像処理装置に送信することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数の送受信チャネルを備えるレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
SAR(Synthetic Aperture Radar)システムは、人工衛星または航空機などに搭載され、雲、霧などを貫通し、昼夜天候を問わず地表面を観測することが可能である。SARシステムにおいて、高分解能と広観測幅とを両立するために、複数のアンテナ開口を使用するMIMO(Multiple Input Multiple Output)SARおよびDBF(Digital Beam Foaming)SARなどに注目が集まっている。
【0003】
しかしながら、複数の送受信チャネルを搭載することにより、各チャネル間で特性差が生じ、SARシステムの性能低下につながることがある。
【0004】
チャネル間の特性差に対する対策として、特許文献1には、複数の送受信チャネルを有し、レーダ波を反射した物標に関する情報を求めるレーダ装置において、チャネル間の特性差を補正する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5062032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来のレーダ装置では、各受信チャネルから得られる出力信号を用いてデジタルビームフォーミングを行い、予め設定された電力閾値よりも大きいビームの数を物標の数として求めている。このため、チャネル間の特性差が存在し、補償が必要な場合であっても、生成されたビームの電力が電力閾値よりも低い場合には補正量が算出されず、補正精度が低下する場合があるという問題があった。
【0007】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、補正量の未算出による補正精度の低下を防ぐことが可能なレーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係るレーダ装置は、複数の送信機が出力する複数の送信信号のそれぞれを、送信信号調整量を用いて調整した後、複数の送信チャネルを介してレーダ波として送信する送信部と、レーダ波の反射波を複数の受信チャネルを介して複数の受信機により受信した全ての受信信号のそれぞれを、受信信号調整量を用いて調整した後、合成装置により合成し、合成装置の複数の出力チャネルから出力される合成後の複数の信号データのそれぞれを、補正量に基づいて補正して補正後の信号データを生成する受信部と、送信部の複数の送信チャネル間の特性差を調整するための送信信号調整量と、受信部の複数の受信チャネル間の特性差を調整するための受信信号調整量とを算出する調整量算出部と、受信部の合成後の信号データから合成装置の複数の出力チャネル間の特性差を補正するための補正量を算出する補正量算出部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、補正量の未算出による補正精度の低下を防ぐことが可能なレーダ装置を得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1にかかるレーダ装置の構成を示す図
図2図1に示す送受信系統間調整量算出装置の動作例について説明するためのフローチャート
図3図1に示す受信機間特性補正値算出装置の動作例について説明するためのフローチャート
図4図1に示す受信機間特性補正装置による補正処理の説明図
図5】実施の形態1にかかるレーダ装置の機能を実現する制御回路の構成例を示す図
図6】実施の形態1にかかるレーダ装置の機能を実現する専用のハードウェア回路の構成例を示す図
図7】比較例にかかるレーダ装置の構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本開示の実施の形態に係るレーダ装置を図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1にかかるレーダ装置100の構成を示す図である。レーダ装置100は、複数の送信機1と、複数の受信機2とを有するSARシステムである。図1の例では、レーダ装置100は、n個の送信機1-1~1-nと、m個の受信機2-1~2-mとを有する。送信機1-1~1-nのそれぞれを区別する必要がない場合、単に送信機1と称する。同様に、受信機2-1~2-mのそれぞれを区別する必要がない場合、単に受信機2と称する。レーダ装置100は、送信機1が出力する送信信号をレーダ波として送信し、レーダ波の反射波を受信機2で受信する。レーダ装置100は、複数の受信機2で受信した複数の受信信号を合成してk個の出力チャネル31-1~31-kからk個の信号データとして出力する合成装置3をさらに有する。合成装置3が出力する信号データ#1~#kは、データ処理装置4において記録された後、画像処理装置200の画像再生装置21に伝送される。レーダ装置100は、例えば、人工衛星、航空機などに搭載され、上空または宇宙空間から地表面に向けてレーダ波を送信し、レーダ波の反射波を受信して、処理後の信号データを、地上に設置された画像処理装置200に向けて送信することができる。画像処理装置200は、レーダ装置100とは独立した装置であって、受信した信号データから画像データを生成し、生成した画像データを出力する。
【0013】
また、レーダ装置100は、送信機1が出力する送信信号をレーダ波として送信する前に送信信号調整量を用いて調整する送信信号調整装置5を有する。送信信号調整装置5は、送信機1-1~1-nのそれぞれに対応してn個設けられる。n個の送信信号調整装置5-1~5-nは、送信チャネル#1~#nのそれぞれに対して個別に算出された送信信号調整量を用いて送信信号を処理することで、送信チャネル間の特性差を調整する。
【0014】
レーダ装置100は、受信機2が受信した受信信号を合成装置3によって合成する前に、受信信号調整量を用いて調整する受信信号調整装置6を有する。受信信号調整装置6は、受信機2-1~2-mのそれぞれに対応してm個設けられる。m個の受信信号調整装置6-1~6-mは、受信チャネル#1~#mのそれぞれに対して個別に算出された受信信号調整量を用いて受信信号を処理することで、受信チャネル間の特性差を調整する。
【0015】
レーダ装置100は、合成装置3による合成後の信号データ#1~#kのそれぞれを補正量に基づいて補正する受信機間特性補正装置7を有する。受信機間特性補正装置7は、合成装置3の複数の出力チャネル31-1~31-kから出力される合成後の複数の受信信号のそれぞれを補正量に基づいて補正して、補正後の信号データを生成する。
【0016】
なお、送信機1-1~1-nと、送信信号調整装置5-1~5-nとは、送信システム101を構成している。送信システム101は、複数の送信機1-1~1-nが出力する複数の送信信号#1~#nのそれぞれを、送信信号調整量を用いて調整した後、複数の送信チャネル#1~#nを介してレーダ波として送信する送信部の一例である。
【0017】
また、受信機2-1~2-mと、受信信号調整装置6-1~6-mと、合成装置3と、受信機間特性補正装置7と、データ処理装置4とは、受信システム102を構成している。受信システム102は、送信システム101が送信したレーダ波の反射波を複数の受信チャネル#1~#mを介して複数の受信機2-1~2-mが受信した全ての受信信号のそれぞれを、受信信号調整量を用いて調整した後、合成装置3により合成し、合成装置3の複数の出力チャネル31-1~31-kから出力される合成後の複数の信号データ#1~#kのそれぞれを、補正量に基づいて補正して補正後の信号データ#1~#kを生成する受信部の一例である。
【0018】
レーダ装置100は、送信チャネル間の特性差を計測して、送信信号調整装置5が用いる送信信号調整量を計算し、計算した送信信号調整量を送信信号調整装置5に出力すると共に、受信チャネル間の特性差を計測して、受信信号調整装置6が用いる受信信号調整量を計算し、計算した受信信号調整量を受信信号調整装置6に出力する送受信系統間調整量算出装置8を有する。送受信系統間調整量算出装置8は、調整量算出部の一例である。
【0019】
送受信系統間調整量算出装置8は、送信システム101または受信システム102からの信号を入力として、送信信号調整量または受信信号調整量を算出する経路と、信号モニタ装置10からの信号を用いて送信信号調整量または受信信号調整量を算出する経路とを有する。言い換えると、送受信系統間調整量算出装置8は、送信機1が出力する送信信号または受信機2が出力する受信信号を入力信号とする状態と、信号モニタ装置10が取得する信号を入力信号とする状態とを任意のタイミングで切り替え可能である。信号モニタ装置10は、レーダ装置100内部の電波経路で重畳するハードウェア特性を計測するための校正信号である補正値計測用信号を取得する機能を有する。例えば、信号モニタ装置10は、送受信アンテナ内で信号を折り返すような校正経路を有しており、空間放射されていない校正信号である補正値計測用信号を取得する。なお、送受信アンテナを除くレーダ装置100内部の校正経路は、電波経路で代用する。そのため、補正値計測用信号は、レーダ装置100内部のハードウェア特性を計測することが可能である。さらに、信号モニタ装置10は、送信信号および受信信号をアンテナで空間から取得する機能を有する。このアンテナは、送信システム101および受信システム102のアンテナで代用することも可能である。信号モニタ装置10は、複数のアンテナ間において信号レベルが均一な電波を送受信することができるように調整量を算出する。送受信系統間調整量算出装置8は、空間放射されておらずレーダ装置100の内部のハードウェア特性を反映した補正値計測用信号を用いることが望ましい場合に、信号モニタ装置10が取得する校正信号である補正値計測用信号を入力信号とする状態に切り替えて、信号モニタ装置10で取得する補正値計測用信号を用いることができる。信号モニタ装置10で取得する補正値計測用信号を用いることで、電波経路で重畳するハードウェア特性に応じて適切な送信信号調整量または受信信号調整量を算出することが可能になる。また、送受信系統間調整量算出装置8は、送信チャネル間の特性値の差分を算出して、送信チャネル間で特性値を平滑化するような値、つまり算出した差分を小さくするような値を送信信号調整量として求める。送受信系統間調整量算出装置8は、受信チャネル間の特性値の差分を算出して、受信チャネル間で特性値を平滑化するような値、つまり算出した差分を小さくするような値を受信信号調整量として求める。
【0020】
なお、ここでは送信信号調整装置5は、送受信系統間調整量算出装置8が算出した送信信号調整量を用いて送信信号を調整し、受信信号調整装置6は、送受信系統間調整量算出装置8が算出した受信信号調整量を用いて受信信号を調整することとしたが、送信信号調整装置5は、レーダ装置100の外部から入力される送信信号調整量を用いて送信信号の調整を行ってもよいし、受信信号調整装置6は、レーダ装置100の外部から入力される受信信号調整量を用いて受信信号の調整を行ってもよい。
【0021】
ここで、送受信系統間調整量算出装置8の動作例について説明する。
【0022】
図2は、図1に示す送受信系統間調整量算出装置8の動作例について説明するためのフローチャートである。ここでは、1番目の送信チャネル#1の送信信号#1を基準にして、i番目の送信信号#iとの特性値の差分を調整量とする。なお、iは2以上n以下の整数である。また、ここでは特性値が遅延量である場合について説明する。また、送受信系統間調整量算出装置8への入力信号は、送信機1が出力する送信信号とする。
【0023】
送受信系統間調整量算出装置8は、送信機1-1~1-nが出力した送信信号を処理対象のデータとして取得する(ステップS11)。送受信系統間調整量算出装置8は、i=2として(ステップS12)、処理対象の信号を送信信号#2とする。
【0024】
送受信系統間調整量算出装置8は、処理対象の信号である送信信号#iに対して、基準となる送信信号#1との差分を算出する差分算出処理を行う(ステップS13)。例えば、送信信号#1のデータ観測時刻がt1で、i番目の送信信号#iのデータ観測時刻がtiとすると、差分Δt1iは、以下の数式(1)で表される。
【0025】
【数1】
【0026】
送受信系統間調整量算出装置8は、算出した差分Δt1iを調整量として蓄積する(ステップS14)。送受信系統間調整量算出装置8は、i=i+1としてインクリメントすると(ステップS15)、「i>n」であるか否か、つまり、iの値がnを超えたか否かを判断する(ステップS16)。
【0027】
iの値がnを超えていない場合(ステップS16:No)、送受信系統間調整量算出装置8は、ステップS13から処理を繰り返す。iの値がnを超えた場合(ステップS16:Yes)、送受信系統間調整量算出装置8は、蓄積した調整量を送信信号調整装置5に出力する(ステップS17)。
【0028】
上記の処理により、送信信号#1と、送信信号#2から送信信号#nのそれぞれとの特性値の差分が蓄積されることになる。
【0029】
なお、図2では、送信信号に対して送信信号調整量を算出する動作について説明したが、受信信号についても、ステップS16の「i>n」を「i>m」に置き換えて、処理対象の信号を送信信号から受信信号に置き換え、蓄積した調整量の出力先を送信信号調整装置5から受信信号調整装置6に変更することで、上述の動作と同様に受信信号調整量を算出することができる。
【0030】
図1の説明に戻る。受信機間特性補正値算出装置9は、合成装置3の複数の出力チャネル31-1~31-kから出力される合成後の複数の信号データに基づいて、当該信号データの出力チャネル31-1~31-k間の特性差を補正するための補正量を算出する。受信機間特性補正値算出装置9は、受信機間の特性のばらつきを求め、特性値を平滑化するような、つまり、特性のばらつきが少なくなるような補正量を算出する。受信機間特性補正値算出装置9は、算出した補正量を、受信機間特性補正装置7に出力する。なお、受信機間特性補正値算出装置9は、受信システム102の合成後の信号データから合成装置3の複数の出力チャネル31-1~31-k間の特性差を補正するための補正量を算出する補正量算出部の一例である。
【0031】
ここで、受信機間特性補正値算出装置9の動作例について説明する。
【0032】
図3は、図1に示す受信機間特性補正値算出装置9の動作例について説明するためのフローチャートである。ここでは、合成後の信号データ#1~#kのうち1番目の信号データ#1と、p番目の信号データ#pとの間の特性値の差分を補正量とする例について説明する。なお、ここでは補正対象の特性値は遅延量であることとする。
【0033】
合成装置3により合成された後の信号g(t)は、線形FM(Frequency Modulated)信号であり、一般的に以下の数式(2)で表される。ここでKは、線形FM率であり、チャープ率とも呼ばれる。Tは継続時間であり、t0は送信信号が受信されるまでの遅延時間である。tは時間の変数である。
【0034】
【数2】
【0035】
受信機間特性補正値算出装置9は、合成装置3が出力する合成後の信号g(t)を処理対象のデータとして取得する(ステップS21)。受信機間特性補正値算出装置9は、p=2として(ステップS22)、処理対象を信号データ#pとする。
【0036】
受信機間特性補正値算出装置9は、処理対象である信号データ#pについて、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)処理を行う(ステップS23)。FFT処理により導かれるスペクトルG(f)は、以下の数式(3)で表される。なお、fは周波数の変数である。
【0037】
【数3】
【0038】
続いて受信機間特性補正値算出装置9は、パルス圧縮処理を行う(ステップS24)。ここでパルス圧縮処理に適用するマッチドフィルタH(f)は、t0=0とした場合、以下の数式(4)で表される。圧縮後の信号スペクトルS(f)は、以下の数式(5)で表される。
【0039】
【数4】
【0040】
【数5】
【0041】
信号スペクトルS(f)を逆フーリエ変換することにより得られる、圧縮後の信号S(t)は、以下の数式(6)で表される。
【0042】
【数6】
【0043】
受信機間特性補正値算出装置9は、圧縮後の信号S(t)から、ピーク検出処理を行う(ステップS25)。なお、ステップS23からステップS25の処理は、最初に実行される際には、処理対象の信号データ#pに加えて、基準となる信号データ#1についても行われるものとする。ステップS25のピーク検出処理は、信号S(t)が最大値となるデータ点であるピークレンジビンを検出する処理である。信号データ#1のピークレンジビンをT1、信号データ#pのピークレンジビンをTpとし、Xが最大点となるデータ点をmax(X)と表すと、T1は数式(7)で表され、Tpは数式(8)で表される。
【0044】
【数7】
【0045】
【数8】
【0046】
受信機間特性補正値算出装置9は、T1およびTpを用いて、出力チャネル間の差分を算出する差分算出処理を行う(ステップS26)。ここで算出される差分ΔT1pは、以下の数式(9)で表される。
【0047】
【数9】
【0048】
受信機間特性補正値算出装置9は、算出した差分ΔT1pを補正量として蓄積する(ステップS27)。
【0049】
受信機間特性補正値算出装置9は、p=p+1としてインクリメントすると(ステップS28)、「p>k」であるか否か、つまり、pの値がkを超えたか否かを判断する(ステップS29)。
【0050】
pの値がkを超えていない場合(ステップS29:No)、受信機間特性補正値算出装置9は、ステップS23から処理を繰り返す。pの値がkを超えた場合(ステップS29:Yes)、受信機間特性補正値算出装置9は、蓄積した補正量を受信機間特性補正装置7に出力する(ステップS30)。
【0051】
図4は、図1に示す受信機間特性補正装置7による補正処理の説明図である。例えば、図3のステップS26で算出される差分ΔT1pは、図4の左図に示すように、1番目の信号データ#1のピークレンジビンT1と、p番目の信号データ#pのピークレンジビンTpとの差分ΔT1pである。受信機間特性補正装置7は、図4の右図に示すように、この差分ΔT1pが0となるように、p番目の信号データ#pを補正する。つまり、差分ΔT1pの大きさの分だけ、信号データ#pをレンジ方向においてシフトさせる。
【0052】
図1の説明に戻る。上記の送受信系統間調整量算出装置8、受信機間特性補正値算出装置9および信号モニタ装置10は、送受信系統間特性計測算出システム103を構成している。レーダ装置100は、このように特性値を計測して、送信信号調整量、受信信号調整量および補正量のそれぞれを算出する機能をレーダ装置100内に備えることで、リアルタイムにチャネル間の特性差を補正することができる。
【0053】
次に、実施の形態1にかかるレーダ装置100の各機能部を実現するハードウェアについて説明する。レーダ装置100の機能は、処理回路により実現される。処理回路は、プロセッサがソフトウェアを実行する回路であっても良いし、専用の回路であっても良い。
【0054】
処理回路がソフトウェアにより実現される場合、処理回路は、例えば、図5に示す制御回路である。図5は、実施の形態1にかかるレーダ装置100の機能を実現する制御回路40の構成例を示す図である。制御回路40は、入力部41、プロセッサ42、メモリ43および出力部44を備える。入力部41は、制御回路40の外部から入力されたデータを受信してプロセッサ42に与えるインターフェース回路である。出力部44は、プロセッサ42またはメモリ43からのデータを制御回路40の外部に送るインターフェース回路である。
【0055】
処理回路が図5に示す制御回路40である場合、レーダ装置100の機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアまたはファームウェアはプログラムとして記述され、メモリ43に格納される。処理回路は、メモリ43に記憶されたプログラムをプロセッサ42が読み出して実行することにより、レーダ装置100の各機能を実現する。すなわち、処理回路は、レーダ装置100の処理が結果的に実行されることになるプログラムを格納するためのメモリ43を備える。また、これらのプログラムは、レーダ装置100の各機能の手順および方法をコンピュータに実行させるものであるともいえる。
【0056】
プロセッサ42は、CPU(Central Processing Unit)、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、またはDSP(Digital Signal Processor)である。メモリ43は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等の、不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスクまたはDVD(Digital Versatile Disc)等が該当する。
【0057】
図5は、汎用のプロセッサ42およびメモリ43によりレーダ装置100の機能を実現する場合のハードウェアの例であるが、レーダ装置100の機能は、専用のハードウェア回路により実現されても良い。図6は、実施の形態1にかかるレーダ装置100の機能を実現する専用のハードウェア回路45の構成例を示す図である。
【0058】
専用のハードウェア回路45は、入力部41、出力部44および処理回路46を備える。処理回路46は、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせた回路である。レーダ装置100の機能を機能別に処理回路46で実現しても良いし、各機能をまとめて処理回路46で実現しても良い。なお、レーダ装置100の機能は、制御回路40とハードウェア回路45とが組み合わされて実現されても良い。
【0059】
以上説明したように、実施の形態1にかかるレーダ装置100は、複数の送信機1が出力する複数の送信信号のそれぞれを、送信信号調整量を用いて調整した後、複数の送信チャネルを介してレーダ波として送信する送信部である送信システム101と、レーダ波の反射波を複数の受信チャネルを介して複数の受信機2により受信した全ての受信信号のそれぞれを、受信信号調整量を用いて調整した後、合成装置3により合成し、合成装置3の複数の出力チャネル31-1~31-kから出力される合成後の複数の信号データのそれぞれを、補正量に基づいて補正して補正後の信号データを生成する受信部である受信システム102と、送信システム101の複数の送信チャネル間の特性差を調整するための送信信号調整量と、受信システム102の複数の受信チャネル間の特性差を調整するための受信信号調整量とを算出する調整量算出部である送受信系統間調整量算出装置8と、受信システム102の合成後の信号データから合成装置3の複数の出力チャネル31-1~31-k間の特性差を補正するための補正量を算出する補正量算出部である受信機間特性補正値算出装置9と、を備える。このような構成を有することにより、レーダ装置100は、閾値などを用いずに、受信した全ての受信信号に対して、受信信号調整量および補正量を用いた補正が行われるため、補正量の未算出による補正精度の低下を防止することが可能になる。
【0060】
また、信号合成前に受信信号調整量を用いた調整が行われるため、補正精度の低下を抑制することができる。
【0061】
ここで、比較例を用いて実施の形態1にかかるレーダ装置100の効果について説明する。
【0062】
図7は、比較例にかかるレーダ装置900の構成を示す図である。レーダ装置900は、送信システム901と、受信システム902とを有する。送信システム901は、複数の送信機1-1~1-nと、送信機1-1~1-nのそれぞれが出力する送信信号を、送信信号調整量を用いて調整する送信信号調整装置5-1~5-nとを有し、複数の送信チャネル#1~#nを介して送信信号をレーダ波として送信する。受信システム902は、複数の受信チャネル#1~#nを介して、送信システム901が送信したレーダ波の反射波を受信信号#1~#mとして受信する受信機2-1~2-mと、受信信号調整装置6-1~6-mと、合成装置3と、データ処理装置4とを有する。
【0063】
レーダ装置100と比較して、レーダ装置900では、送信信号調整量および受信信号調整量を算出する機能を備えない。このため、レーダ装置900では、信号データの取得とは異なるタイミングで予め算出された送信信号調整量および受信信号調整量を用いた信号調整処理が行われる。なお、レーダ装置100,900では、取得した信号データは、画像データに変換されるため、「信号データの取得時」のことを「撮像時」と表現することがある。また、レーダ装置900は、受信機間特性補正装置7を、レーダ装置900ではなく地上に設置された画像処理装置910が備えている。レーダ装置900は、補正量を算出する機能も備えておらず、画像処理装置910では、撮像時とは異なるタイミングで予め算出された補正量を用いて、信号データ#1~#k間の特性差が補正される。
【0064】
比較例にかかるレーダ装置900では、合成装置3による合成後の信号データ#1~#kが出力チャネル31-1~31-k間の特性差を補正されずにそのまま地上の画像処理装置910に送られる。また、送信信号調整量、受信信号調整量および補正量のそれぞれは、信号データの取得と異なる独立した計測により取得される。このため、実際の信号データの取得毎に適切な送信信号調整量、受信信号調整量および補正量を決定することができない。これに対して、実施の形態1にかかるレーダ装置100では、レーダ装置100自身が送信信号調整量、受信信号調整量および補正量を決定する機能を備えているため、信号データの取得毎に送信信号調整量、受信信号調整量および補正量を計算し、最新の送信信号調整量、受信信号調整量および補正量を用いて信号の調整および補正処理が行われる。
【0065】
また、送受信系統間調整量算出装置8は、送信機1が出力する送信信号または受信機2が出力する受信信号を入力信号とする状態と、信号モニタ装置10が取得する信号を入力信号とする状態とを任意のタイミングで切り替え可能である。
【0066】
また、送受信系統間調整量算出装置8は、送信チャネル間の特性値の差分を算出して、送信チャネル間で特性値を平滑化するような値を送信信号調整量として求め、受信チャネル間の特性値の差分を算出して、受信チャネル間で特性値を平滑化するような値を受信信号調整量として求める。
【0067】
さらに、送受信系統間調整量算出装置8は、送信信号を取得する毎に送信信号調整量を算出し、送信システム101は、送受信系統間調整量算出装置8が算出した最新の送信信号調整量を用いて送信信号を調整し、送受信系統間調整量算出装置8は、受信信号を取得する毎に受信信号調整量を算出し、受信システム102は、送受信系統間調整量算出装置8が算出した最新の受信信号調整量を用いて受信信号を調整する。
【0068】
ここで、「送信信号を取得する毎」とは、画像処理装置200において、1枚の画像データに変換される信号単位、言い換えると撮像毎であることを意味する。
【0069】
受信機間特性補正値算出装置9は、出力チャネル31-1~31-k間の特性値のばらつきを求め、特性値を平滑化するような値を補正量として求める。
【0070】
受信機間特性補正値算出装置9は、信号データを取得する毎に補正量を算出し、受信システム102は、受信機間特性補正値算出装置9が算出した最新の補正量を用いて信号データを補正する。
【0071】
レーダ装置100は、人工衛星または航空機に搭載され、受信システム102が生成する補正後の信号データを地上に設置された画像処理装置200に送信してもよい。この場合、出力チャネル31-1~31-k間の特性差についても、補正量を用いて補正された後の信号データ#1~#kが地上へ送信されることになるため、地上の画像処理装置200においては補正処理が不要となり、レーダ装置100と地上との間のデータ通信量を低減することが可能になる。
【0072】
以上の実施の形態に示した構成は、本開示の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本開示の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【0073】
例えば、上記では特性値が遅延量である場合について説明したが、特性値は、各信号のチャネル毎の特性を示す値であればよく、例えば、遅延量の他に、振幅、位相などが挙げられる。
【0074】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0075】
(付記1)
複数の送信機が出力する複数の送信信号のそれぞれを、送信信号調整量を用いて調整した後、複数の送信チャネルを介してレーダ波として送信する送信部と、
前記レーダ波の反射波を複数の受信チャネルを介して複数の受信機により受信した全ての受信信号のそれぞれを、受信信号調整量を用いて調整した後、合成装置により合成し、前記合成装置の複数の出力チャネルから出力される合成後の複数の信号データのそれぞれを、補正量に基づいて補正して補正後の信号データを生成する受信部と、
前記送信部の複数の前記送信チャネル間の特性差を調整するための前記送信信号調整量と、前記受信部の複数の前記受信チャネル間の特性差を調整するための前記受信信号調整量とを算出する調整量算出部と、
前記受信部の合成後の前記信号データから前記合成装置の複数の前記出力チャネル間の特性差を補正するための前記補正量を算出する補正量算出部と、
を備えることを特徴とするレーダ装置。
(付記2)
前記調整量算出部は、前記送信機が出力する前記送信信号または前記受信機が出力する前記受信信号を入力信号とする状態と、信号モニタ装置が取得する信号であって前記レーダ装置の内部の電波経路で重畳するハードウェア特性を計測するための校正信号を前記入力信号とする状態とを任意のタイミングで切り替え可能であることを特徴とする付記1に記載のレーダ装置。
(付記3)
前記調整量算出部は、
前記送信チャネル間の特性値の差分を算出して、前記送信チャネル間で前記特性値を平滑化するような値を前記送信信号調整量として求め、
前記受信チャネル間の特性値の差分を算出して、前記受信チャネル間で前記特性値を平滑化するような値を前記受信信号調整量として求めることを特徴とする付記1または2に記載のレーダ装置。
(付記4)
前記調整量算出部は、前記送信信号を取得する毎に前記送信信号調整量を算出し、
前記送信部は、前記調整量算出部が算出した最新の前記送信信号調整量を用いて前記送信信号を調整し、
前記調整量算出部は、前記受信信号を取得する毎に前記受信信号調整量を算出し、
前記受信部は、前記調整量算出部が算出した最新の前記受信信号調整量を用いて前記受信信号を調整することを特徴とする付記1から3のいずれか1つに記載のレーダ装置。
(付記5)
前記補正量算出部は、前記出力チャネル間の特性値のばらつきを求め、前記特性値を平滑化するような値を前記補正量として求めることを特徴とする付記1から4のいずれか1つに記載のレーダ装置。
(付記6)
前記補正量算出部は、前記信号データを取得する毎に前記補正量を算出し、
前記受信部は、前記補正量算出部が算出した最新の前記補正量を用いて前記信号データを補正することを特徴とする付記1から5のいずれか1つに記載のレーダ装置。
(付記7)
前記レーダ装置は、
人工衛星または航空機に搭載され、
前記受信部が生成する補正後の前記信号データを地上に設置された画像処理装置に送信することを特徴とする付記1から6のいずれか1つに記載のレーダ装置。
【符号の説明】
【0076】
1,1-1~1-n 送信機、2,2-1~2-m 受信機、3 合成装置、4 データ処理装置、5,5-1~5-n 送信信号調整装置、6,6-1~6-m 受信信号調整装置、7 受信機間特性補正装置、8 送受信系統間調整量算出装置、9 受信機間特性補正値算出装置、10 信号モニタ装置、21 画像再生装置、31-1~31-k 出力チャネル、40 制御回路、41 入力部、42 プロセッサ、43 メモリ、44 出力部、45 ハードウェア回路、46 処理回路、100,900 レーダ装置、101,901 送信システム、102,902 受信システム、103 送受信系統間特性計測算出システム、200,910 画像処理装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7