(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166886
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】電気回路体、電力変換装置、および電気回路体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/40 20060101AFI20241122BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20241122BHJP
H01L 25/07 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
H01L23/40 Z
H01L23/36 A
H01L25/04 C
H01L23/30 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083286
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】露野 円丈
(72)【発明者】
【氏名】井出 英一
(72)【発明者】
【氏名】志村 隆弘
【テーマコード(参考)】
4M109
5F136
【Fターム(参考)】
4M109AA01
4M109BA01
4M109CA21
4M109DB03
5F136BB05
5F136BB18
5F136BC03
5F136BC07
5F136CB06
5F136DA22
5F136DA27
5F136EA35
5F136FA02
5F136FA03
5F136FA24
5F136GA02
5F136GA13
(57)【要約】
【課題】導体モジュールの封止材に埋め込まれて設けられた固定部材を半導体モジュールから突出して設ける場合に、固定部材の近傍で封止材が流出する課題があった。
【解決手段】半導体素子を封止材により封止してなり、前記半導体素子による発熱を放熱する放熱面を少なくとも一方面に有する半導体モジュールと、前記半導体モジュールの前記放熱面と対向して配置され、前記半導体素子による発熱を冷却する冷却部材と、前記半導体モジュールの前記封止材に埋め込まれて設けられ、前記冷却部材が前記半導体モジュールから離れる方向への移動を規制する固定部材と、を備え、前記固定部材は、前記封止材に埋め込まれた埋没部と前記冷却部材に挿入されて前記冷却部材を固定する固定部により構成され、前記埋没部と前記固定部との境界において、前記埋没部は前記固定部の外周を囲み前記封止材の表面から露出する余白部を有する電気回路体。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子を封止材により封止してなり、前記半導体素子による発熱を放熱する放熱面を少なくとも一方面に有する半導体モジュールと、
前記半導体モジュールの前記放熱面と対向して配置され、前記半導体素子による発熱を冷却する冷却部材と、
前記半導体モジュールの前記封止材に埋め込まれて設けられ、前記冷却部材が前記半導体モジュールから離れる方向への移動を規制する固定部材と、を備え、
前記固定部材は、前記封止材に埋め込まれた埋没部と前記冷却部材に挿入されて前記冷却部材を固定する固定部により構成され、前記埋没部と前記固定部との境界において、前記埋没部は前記固定部の外周を囲み前記封止材の表面から露出する余白部を有する電気回路体。
【請求項2】
請求項1に記載の電気回路体において、
前記余白部には、前記封止材を注入する工程において金型が密着され、
前記余白部の材料は、前記金型よりも低い硬度の材料である電気回路体。
【請求項3】
請求項1に記載の電気回路体において、
前記余白部と前記半導体モジュールの前記封止材の表面とは同一平面上にある電気回路体。
【請求項4】
請求項1に記載の電気回路体において、
前記固定部の材料は、前記余白部よりも高い硬度の材料である電気回路体。
【請求項5】
請求項1に記載の電気回路体において、
前記埋没部の周囲は、前記封止材との接着性のための表面処理がなされている電気回路体。
【請求項6】
請求項1に記載の電気回路体において、
前記固定部材は、前記半導体モジュールを厚さ方向に貫通し、その両端において前記余白部が形成されている電気回路体。
【請求項7】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の電気回路体において、
前記半導体モジュールは、前記半導体素子の両面に対応して前記放熱面が両面に形成され、
前記冷却部材は、前記半導体モジュールの両面に配置され、
前記固定部材は、前記両面に配置され前記冷却部材に対して前記封止材の表面から露出する前記余白部を有する電気回路体。
【請求項8】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の電気回路体を備え、直流電力と交流電力を相互に変換する電力変換装置。
【請求項9】
半導体素子と、前記半導体素子による発熱を冷却する冷却部材と、前記冷却部材を固定する固定部材とを備え、前記半導体素子および前記固定部材は封止材で封止された電気回路体の製造方法であって、前記固定部材は、前記封止材に埋め込まれる埋没部と前記冷却部材に挿入されて前記冷却部材を固定する固定部により構成され、前記埋没部と前記固定部との境界において前記埋没部は前記固定部の外周を囲み前記封止材の表面から露出する余白部を有し、
前記半導体素子を含む回路体および前記固定部材を金型内に設置し、前記金型を前記固定部材の前記余白部に密着した後に、前記金型内に前記封止材を注入して半導体モジュールを製造する工程と、
前記封止材が硬化したのちに、前記半導体モジュールに前記固定部材により前記冷却部材を固定する工程と、
を備えた電気回路体の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の電気回路体の製造方法において、
前記半導体モジュールを製造する工程は、前記余白部が前記金型でクランプされることにより変形される電気回路体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気回路体、電力変換装置、および電気回路体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子のスイッチング動作により直流電力と交流電力とを相互に変換する電力変換装置は、変換効率が高いため、民生用、車載用、鉄道用、変電設備等に幅広く利用されている。この半導体素子はスイッチング動作により発熱する。このため、半導体素子を内蔵した半導体モジュールには、半導体素子からの発熱を冷却する冷却部材が、半導体モジュールと対向して配置され、固定部材により半導体モジュールに固定されている。
【0003】
特許文献1には、半導体チップが搭載されたパッケージ基板と、パッケージ基板上に形成され半導体チップの周囲を封止する封止樹脂層と、封止樹脂層に一端が埋め込まれ、パッケージ基板の半導体チップが搭載された側に半導体チップを挟圧するように別の部品を固定するための固定部材と、を備える半導体装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の装置のように、半導体モジュールの封止材に埋め込まれて設けられた固定部材は半導体モジュールから突出して設ける必要があるが、この場合に固定部材の近傍で封止材が流出する課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による電気回路体は、半導体素子を封止材により封止してなり、前記半導体素子による発熱を放熱する放熱面を少なくとも一方面に有する半導体モジュールと、前記半導体モジュールの前記放熱面と対向して配置され、前記半導体素子による発熱を冷却する冷却部材と、前記半導体モジュールの前記封止材に埋め込まれて設けられ、前記冷却部材が前記半導体モジュールから離れる方向への移動を規制する固定部材と、を備え、前記固定部材は、前記封止材に埋め込まれた埋没部と前記冷却部材に挿入されて前記冷却部材を固定する固定部により構成され、前記埋没部と前記固定部との境界において、前記埋没部は前記固定部の外周を囲み前記封止材の表面から露出する余白部を有する。
本発明による電気回路体の製造方法は、半導体素子と、前記半導体素子による発熱を冷却する冷却部材と、前記冷却部材を固定する固定部材とを備え、前記半導体素子および前記固定部材は封止材で封止された電気回路体の製造方法であって、前記固定部材は、前記封止材に埋め込まれる埋没部と前記冷却部材に挿入されて前記冷却部材を固定する固定部により構成され、前記埋没部と前記固定部との境界において前記埋没部は前記固定部の外周を囲み前記封止材の表面から露出する余白部を有し、前記半導体素子を含む回路体および前記固定部材を金型内に設置し、前記金型を前記固定部材の前記余白部に密着した後に、前記金型内に前記封止材を注入して半導体モジュールを製造する工程と、前記封止材が硬化したのちに、前記半導体モジュールに前記固定部材により前記冷却部材を固定する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、固定部材の近傍で封止材が流出するのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】電気回路体のY-Y線における断面斜視図である。
【
図4】電気回路体のX-X線における断面斜視図である。
【
図7】(a)~(c)半導体モジュールを製造する工程を示す図である。
【
図8】(a)~(c)半導体モジュールに冷却部材を固定する工程を示す図である。
【
図9】変形例1における電気回路体の製造方法を説明する断面図である。
【
図10】比較例における電気回路体の平面図である。
【
図11】変形例2における電気回路体の断面図である。
【
図12】(a)(b)変形例2における半導体モジュールを製造する工程を示す図である。
【
図13】(a)~(c)変形例2における半導体モジュールに冷却部材を固定する工程を示す図である。
【
図14】変形例3における電気回路体の断面図である。
【
図15】変形例4における電気回路体の断面図である。
【
図16】変形例5における電気回路体の断面図である。
【
図17】変形例6における半導体モジュールの半透過平面図である。
【
図18】半導体モジュールを用いた電力変換装置の回路図である。
【
図20】電力変換装置のXV-XV線断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の記載および図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施する事が可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。
【0010】
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0011】
同一あるいは同様な機能を有する構成要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。ただし、これらの複数の構成要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
【0012】
図1は、本発明の実施形態における電気回路体400の平面図である。
電気回路体400は、半導体モジュール300、冷却部材340、固定部材341等よりなる。
図1に示す例では、電気回路体400は、半導体モジュール300を3個並列に設けてなる。
【0013】
半導体モジュール300は、後述する半導体素子155、157を封止材360により封止して、これを内蔵している。半導体モジュール300の両面は半導体素子155、157のスイッチング動作による熱を放熱する。さらに、半導体モジュール300は、半導体素子155、157と接続されている端子が半導体モジュール300の側面の封止材360より導出される。これらの端子は、直流回路のコンデンサモジュール500(
図18参照)に連結する正極側端子325Pおよび負極側端子325M、交流回路のモータジェネレータ192、194(
図18参照)に連結する交流側端子325A等の大電流が流れるパワー端子である。
【0014】
また、半導体モジュール300の側面の封止材360より導出される端子は、下アームゲート端子325L、コレクタセンス端子325C、エミッタセンス端子325E、上アームゲート端子325Uなどの端子である。半導体モジュール300より導出されるこれらの端子は、図示省略した基板の配線パターンなどの配線に接続される。半導体モジュール300を3個並列に設けた電気回路体400は、半導体素子155、157のスイッチング動作により直流電力と交流電力を相互に変換する電力変換装置200(
図18参照)として機能する。なお、電気回路体400が有する半導体モジュール300の個数は3個に限らず、電気回路体400の種々の形態に合わせて任意に設定される。
【0015】
冷却部材340は、半導体モジュール300と対向して配置され、半導体素子155、157のスイッチング動作による発熱を冷却する。具体的には、冷却部材340は、内部に冷媒が流通する流路が形成され、流路を流通する冷媒により半導体素子155、157からの発熱を冷却する。冷媒には、水や水にエチレングリコールを混入した不凍液等を用いる。冷却部材340は、熱伝導率が高く軽量なアルミ系が望ましい。押し出し成型や、鍛造、ろう付け等で作製する。
【0016】
固定部材341は、半導体モジュール300の封止材360に埋め込まれて設けられ、冷却部材340が半導体モジュール300から離れる方向への移動を規制する。
図1に示す例では、固定部材341は、各半導体モジュール300の四隅に設けられる。固定部材341の構成については後述する。
【0017】
図2(a)、
図2(b)は、電気回路体400の断面図である。
図2(a)は、
図1に示す電気回路体400のX-X線における断面図である。
図2(b)は、
図1に示す電気回路体400のY-Y線における半導体モジュール300の一個分の断面図である。
図3は、
図1に示す電気回路体400のY-Y線における断面斜視図である。
図4は、
図1に示す電気回路体400のX-X線における断面斜視図であり、冷却部材340を取り除いて半導体モジュール300を示している。
【0018】
図2(a)に示すように、電力変換装置200の上アーム回路を形成する第1半導体素子として、能動素子155、ダイオード156を備える(後述の
図5、
図6参照)。能動素子としては、Si、SiC、GaN、GaO、C等を用いることができる。能動素子155のボディダイオードを用いる場合は、別付けのダイオードを省略してもよい。
図2(b)、
図3に示すように、第1半導体素子155のコレクタ側は、第2導体板431に接合されている。この接合には、はんだを用いてもよいし、焼結金属を用いてもよい。第1半導体素子155のエミッタ側には第1導体板430が接合されている。
【0019】
図2(b)、
図3に示すように、下アーム回路を形成する第2半導体素子として、能動素子157、ダイオード158を備える(後述の
図5、
図6参照)。第2半導体素子157のコレクタ側は、第4導体板433に接合されている。第2半導体素子157のエミッタ側には第3導体板432が接合されている。
【0020】
導体板430、431、432、433は、電気伝導性と熱伝導率が高い材料であれば特に限定されないが、銅系又はアルミ系材料等の金属系材料や、金属系材料と高熱伝導率のダイヤモンド、カーボンやセラミック等の複合材料等を用いることが望ましい。これらは、単独で用いてもよいが、はんだや、焼結金属との接合性を高めるためNiやAg等のめっきを施してもよい。
【0021】
図2(a)、
図2(b)、
図3、
図4に示すように、導体板430、431、432、433は、電流を通電する役割の他に、半導体素子155、156、157、158が発する熱を冷却部材340に伝熱する伝熱部材としての役割をはたしている。半導体素子155、156、157、158と接合されている面と反対側の面が導体板430、431、432、433の放熱面となる。導体板430、431、432、433と冷却部材340は電位が異なるため、放熱面との間に絶縁シート440を配置する。
【0022】
絶縁シート440は、樹脂絶縁層443、表面導体層444を積層して構成される。樹脂絶縁層443は、一方面において導体板430、431、432、433を覆って導体板430、431、432、433の放熱面に接着される。樹脂絶縁層443は、導体板430、431、432、433と接着性を有するものであれば特に限定されないが、粉末状の無機充填剤を分散したエポキシ樹脂系樹脂絶縁層が望ましい。これは、接着性と放熱性のバランスが良いためである。表面導体層444は、樹脂絶縁層443の他方面に接着されるとともに半導体モジュール300の表面に露出し、後述の熱伝導部材453と接する。表面導体層444は、例えば金属箔である。
【0023】
絶縁シート440は、トランスファーモールド工程で封止材360と同時に硬化される。トランスファーモールド成型工程において、絶縁シート440を金型に搭載する際、金型への接着を防ぐため、絶縁シート440と金型との接触面には、離型シート又は、表面導体層444を設ける。離型シートは、熱伝導率が悪いためトランスファーモールド後に剥離する工程が必要となるが、金属箔などの表面導体層444を用いた場合は、銅系や、アルミ系の熱伝導率の高い金属を選択することで、トランスファーモールド後に剥離することなく使用することができる。
【0024】
半導体素子155、156、157、158、導体板430、431、432、433は、トランスファーモールド成型により封止材360で封止され、半導体モジュール300を構成する。冷却部材340は、半導体モジュール300の両面に配置され、固定部材341により半導体モジュール300に固定されている。なお、本実施形態および後述の変形例では、冷却部材340を半導体モジュール300の両面に配置した電気回路体400で説明するが、冷却部材340を半導体モジュール300の片面に配置した電気回路体400であってもよい。この場合は、半導体モジュール300の他の片面には、筐体や取り付け部材が配置され、この筐体や取り付け部材に、半導体モジュール300の他の片面が、固定部材341により固定される。
【0025】
熱伝導部材453は、半導体モジュール300と冷却部材340との間に、接触熱抵抗を低減するために配置される。熱伝導部材453は、グリースや、ゲルグリース、フェーズチェンジシートなど常温又は高温で流動性のあるものを用いることができるが、作業性と長期信頼性を確保のため、未硬化では流動性を有し、硬化後に流動性が無くなる硬化型の熱伝導材料が望ましい。硬化型の熱伝導部材453は、塗布時は、粘度が低く作業性に優れ、硬化することで、機械物性を向上することができる利点がある。硬化は熱硬化、湿気硬化、紫外線硬化などを利用することができるが、深部まで硬化するには熱硬化が望ましい。
【0026】
固定部材341は、半導体モジュール300の封止材360に埋め込まれて設けられているが、
図2(b)に示すように、封止材360に埋め込まれる埋没部344、封止材360の表面に露出する余白部343および封止材360から突出する固定部342からなる。すなわち、固定部材341は、半導体モジュール300をその厚さ方向に貫通し、その両端において余白部343が形成されている。余白部343の詳細は後述する。封止材360から突出する固定部材341の固定部342を冷却部材340に挿入し、係合、ねじ止めなど機械的に結合することで、冷却部材340を半導体モジュール300に固定する。
図2(b)、
図4に示す例では、固定部材341の固定部342に切り欠きを、冷却部材340に切り欠きと係合する凸部を設け、冷却部材340を半導体モジュール300の表面に沿って平行移動することにより、固定部材341の固定部342の切り欠きと冷却部材340の凸部を係合する。
【0027】
図2(b)、
図4に示すように、固定部材341は、半導体モジュール300の四隅に設けられ、半導体モジュール300の封止材360の表面361に面一に露出する余白部343と半導体モジュール300の封止材360の表面361から突出する固定部342を有する。すなわち、固定部材341は、封止材360に埋め込まれた埋没部344と、冷却部材340に挿入されて冷却部材340を固定する固定部342により構成され、埋没部344と固定部342との境界において埋没部344は固定部342の外周を囲み封止材360の表面361から露出する余白部343を有する。そして、余白部343と半導体モジュール300の封止材360の表面361とは同一平面上にある。
【0028】
図5は、半導体モジュール300の半透過平面図である。
図6は、半導体モジュール300の回路図である。
【0029】
図5、
図6に示すように、正極側端子325Pは、上アーム回路のコレクタ側から出力しており、バッテリ又はコンデンサの正極側に接続される。上アームゲート端子325Uは、上アーム回路の能動素子155のゲートから出力している。負極側端子325Mは、下アーム回路のエミッタ側から出力しており、バッテリ若しくはコンデンサの負極側、又はGNDに接続される。下アームゲート端子325Lは、下アーム回路の能動素子157のゲートから出力している。交流側端子325Aは、下アーム回路のコレクタ側から出力しており、モータに接続される。中性点接地をする場合は、下アーム回路は、GNDでなくコンデンサの負極側に接続する。
【0030】
上アームのエミッタセンス端子325Eは、上アーム回路の能動素子155のエミッタから、下アームのエミッタセンス端子325Eは、下アーム回路の能動素子157のエミッタから出力される。上アームのコレクタセンス端子325Cは、上アーム回路の能動素子155のコレクタから、下アームのコレクタセンス端子325Cは、下アーム回路の能動素子157のコレクタから出力される。
【0031】
また、半導体素子(上アーム回路)の能動素子155およびダイオード156の上下に導体板(上アーム回路エミッタ側)430、導体板(上アーム回路コレクタ側)431が配置される。半導体素子(下アーム回路)の能動素子157およびダイオード158の上下に導体板(下アーム回路エミッタ側)432、導体板(下アーム回路コレクタ側)433が配置される。
【0032】
本実施形態の半導体モジュール300は、上アーム回路及び下アーム回路の2つのアーム回路を、1つのモジュールに一体化した構造である2in1構造である。この他に、複数の上アーム回路及び下アーム回路を、1つのモジュールに一体化した構造を用いてもよい。この場合は、半導体モジュール300からの出力端子の数を低減し小型化することができる。
【0033】
図7(a)~
図7(c)、
図8(a)~
図8(c)は、電気回路体400の製造方法における工程を説明する断面図である。
図2(b)と同様に、Y-Y線における半導体モジュール300の一個分の断面図で示す。
【0034】
図7(a)~
図7(c)は、半導体素子155、156を含む回路体310および固定部材341を金型603内に設置し、金型603を固定部材341の余白部343に密着した後に、金型603内に封止材360を注入して半導体モジュール300を製造する工程を示す。
図8(a)~
図8(c)は、封止材360が硬化したのちに、半導体モジュール300に固定部材341により冷却部材340を固定する工程を示す。
【0035】
図7(a)は、仮着け工程である。第2導体板431に半導体素子155のコレクタ側と半導体素子156のカソード側を接続し、半導体素子155のゲート電極、エミッタセンス電極、コレクタ電極をワイヤボンディングで上アームのゲート端子325U、エミッタセンス端子325E、コレクタセンス端子325Cにそれぞれ接続する。さらに、半導体素子155のエミッタ側と半導体素子156のアノード側を第1導体板430に接続して、上アーム側の回路体310を作製する。同様に、第4導体板433に半導体素子157のコレクタ側と半導体素子158のカソード側を接続し、半導体素子157のゲート電極、エミッタセンス電極、コレクタ電極をワイヤボンディングで下アームのゲート端子325L、エミッタセンス端子325E、コレクタセンス端子325Cにそれぞれ接続する。
【0036】
さらに、半導体素子157のエミッタ側と半導体素子158のアノード側を第3導体板432に接続して、下アーム側の回路体310を作製する。その後、導体板430~433に絶縁シート440を仮着けする。仮着けとは、この後のトランスファーモールド工程で絶縁シート440が硬化し接着する余地を残した条件で、絶縁シート440の密着力を使用して一時的に貼り付けることである。
【0037】
図7(b)~
図7(c)は、トランスファーモールド工程である。トランスファーモールド装置601は、スプリング602を金型603に備えている。このスプリング602により、回路体310の高さがばらついても、半導体素子155~158に過度の圧力を加えることなく、スプリング602の力により所定の荷重を加えることができる。また、トランスファーモールド装置601は、図示していない真空脱気機構を備える。真空脱気することで、樹脂等よりなる封止材360等がボイドを巻き込んでもボイドを小さく圧縮し、絶縁性を向上できる。また、図示していない離型フィルムで回路体310を覆うことで、スプリング駆動部等に樹脂バリが侵入するのを保護できる。
【0038】
図7(b)に示すように、予め175℃の恒温状態に加熱した金型603内に、絶縁シート440を仮着した回路体310および固定部材341をセットする。金型603は、固定部材341の固定部342が入る凹部604が形成されている。この凹部604の大きさは、固定部材341の埋没部344と固定部342との境界において、固定部342の外周より大きく、余白部343の外周より小さい。
【0039】
次に、
図7(c)に示すように、上下の金型603をクランプする。このとき、スプリング602により、絶縁シート440と導体板430~433は加圧され密着する。同時に、上下の金型603から固定部材341の余白部343に加圧力348が加わり、金型603の凹部604の開口部周囲と余白部343が強く密着する。この状態で封止材360を金型603内に注入する。したがって、固定部材341の固定部342の近傍で封止材360が固定部342へ流出するのを防ぐことができ、固定部材341の埋没部344を封止材360内に強固に封止固定できる。また、封止材360の固定部342への流出を防止できるので、固定部342に付着した封止材360を除去して固定部342を露出する追加工程などが不要になる。
【0040】
その後、
図8(a)に示すように、トランスファーモールド装置601から封止材360で封止された半導体モジュール300を取り出し、175℃にて2時間以上の後硬化を行う。
【0041】
次に、
図8(b)に示すように、封止材360が硬化したのちに、半導体モジュール300に冷却部材340を取り付ける。具体的には、冷却部材340に熱伝導部材453を塗布し、固定部材341の固定部342の切り欠きに、冷却部材340に設けられた凸部が係合するように、冷却部材340を両面から挟んだ後に放熱面に沿って移動して固定部342に装着する。
【0042】
そして、
図8(c)に示すように、半導体モジュール300に冷却部材340を固定する。これにより、冷却部材340は熱伝導部材453を介して固定部材341により半導体モジュール300に強固に固定され、電気回路体400として一体的に構成する。なお、図示省略したが、冷却部材340の凸部と固定部342の切り欠きとの係合が外れないように、冷却部材340が放熱面に沿って移動するのを阻止する部材が装着されている。
【0043】
次に、固定部材341について、
図2(b)、
図7(b)などを参照して説明する。固定部材341の固定部342は、冷却部材340を機械的に固定し、熱応力や振動などのストレスに耐える必要があるため、固定部342の径Φは、2.5mm以上である必要があり、信頼性に余裕をもたせるためには、径Φは4.5mm以上であることが望ましい。固定部342が大きくなると、半導体モジュール300の寸法が大きくなるため、固定部342の径Φは、10mm以下であることが望ましい。
【0044】
固定部材341の埋没部344と固定部342との境界において、固定部342の外周の大きさと、余白部343の外周の大きさとの関係は、封止材360の流出を防止するために、以下の間隔であることが望ましい。ここで、間隔とは、固定部342の外周と、余白部343の外周との間の距離が最も近接している箇所の距離である。この間隔が、0.5mm以上あれば、トランスファーモールド工程において、固定部342への封止材360の流出を防止できるが、固定部342に樹脂バリが生じることがある。このため、間隔は1mm以上あることが望ましい。一方で、余白部343が大きくなると、半導体モジュールの寸法が大きくなるため間隔は10mm以下であることが望ましい。
【0045】
固定部材341の材質は、銅、アルミニウムなどの金属や、Fiber Reinforced Plastics(繊維強化プラスチック)、セラミックなどである。固定部材341と冷却部材340とを電気的に接続して接地する場合は、固定部材341は導電性の材質が望ましい。また、固定部材341の形状は、円柱状であることが、トランスファーモールド金型へ搭載する時、方向を考慮する必要がないため望ましいが、角柱状や、そのほかの形状であっても良い。
【0046】
余白部343の材質を金型603に用いた材質より低硬度にした場合には、余白部343が変形し易くなるので、金型603の摩耗を抑制できる。また、固定部342の材質を余白部343より、高硬度にした場合には、固定部342の機械的強度を向上することで、冷却部材340を固定した際に、振動や熱応力などが加わっても、高い信頼性を保つことができる。
【0047】
図9は、変形例1における電気回路体400の製造方法を説明する断面図である。
図7(c)の半導体モジュール300を製造する工程と同様に、Y-Y線における半導体モジュール300の一個分の断面図で示す。
図7(c)と同一の箇所には同一の符号を付してその説明を簡略に行う。
【0048】
この変形例1では、固定部材341は、埋没部344の長さが上下金型603で形成される空間より若干長い部材を用いる。なお、余白部343の材質を金型603の材質より低硬度にすることが望ましい。
【0049】
図9に示すように、上下の金型603をクランプする。このとき、上下の金型603により固定部材341に加圧力348が加わり、余白部343がその外周側に変形し、変形部347が形成される。これにより、固定部材341の長さに寸法のばらつきがあっても、余白部343と金型603を密着させることができる。量産工程では、寸法のばらつきのある部品を用いる場合があるが、余白部343の外周に変形部347を生じさせることにより、寸法のばらつきを吸収するとともに、固定部342への封止材360の流出を防止できる。
【0050】
図10は、比較例における電気回路体400'の平面図である。この比較例は、本実施形態を適用しない場合であって、半導体モジュール300と冷却部材340を強固に固定する場合に通常想定される例を、本実施形態と対比するために示す。
図1と同一の箇所には同一の符号を付している。
【0051】
図1と同様に、電気回路体400'は、半導体モジュール300を3個並列に設けてなり、半導体モジュール300には、冷却部材340が固定部材341により固定される。ここで、固定部材341は、各半導体モジュール300の封止材360の中に埋め込まれて設けられておらず、各半導体モジュール300の間であって、両面の冷却部材340を挟み込むように設けられる。
【0052】
一般に、冷却部材340は固定部材341等を介して接地しており、半導体モジュール300より導出している端子と冷却部材340との間に電位が加わる。また、固定部342は、コストと機械的強度の点で金属系材料を使うことが望ましく、冷却部材340と同電位となっている。このため、端子と冷却部材340との間や、端子と固定部材341との間は、絶縁距離をとる必要がある。そして、半導体モジュール300により構成されるインバータのシステム電圧が現在汎用の400Vより大きな高電圧、例えば、800V以上の高電圧になると、より大きな絶縁距離が必要となる。また、電気回路体400'は、熱応力や振動などに対する強度を高める必要がある。そのため、
図10の比較例に示すように、各半導体モジュール300の間であって、各半導体モジュール300の外側で、ネジなどの固定部材341を用いて、冷却部材340を各半導体モジュール300に強固に固定している。
【0053】
さらに、800V以上の高電圧になると、半導体モジュール300より導出している端子と端子の間も、電位差に応じた絶縁距離が必要となる。すなわち、800V以上の高電圧のインバータでは、現在汎用となっている400Vクラスに比べ端子と端子の間が広くなる傾向にある。この場合、端子の近傍に金属系材料からなる固定部材341があると、端子の配置の自由度が制約され、絶縁距離を確保するために電気回路体400'が大型化する。
【0054】
この比較例に比べて、本実施形態では、固定部材341の埋没部344を封止材360に内蔵し、固定部材341の固定部342を封止材360の表面に露出して冷却部材340を固定している。このように、固定部材341を封止材360の中に埋め込むことにより、固定部材341と端子との間の絶縁性が強化され、結果的に固定部材341と端子との間の物理的な距離を小さくすることができる。そのうえで、封止材360の表面に露出している固定部材341の固定部342で冷却部材340を強固に固定できる。このため、電気回路体400を高電圧のインバータに適用した場合にも、インバータのサイズの増加を抑制できる。
【0055】
図11は、変形例2における電気回路体400の断面図である。
図11は、
図2(b)と同様に、
図1に示す電気回路体400のY-Y線における半導体モジュール300の一個分の断面図である。
図2(b)と同一の箇所には同一の符号を付してその説明を簡略に行う。
【0056】
変形例2では、
図11に示すように、固定部材341は、半導体モジュール300をその厚さ方向に貫通し、その両端において余白部343が形成されている。余白部343は、半導体モジュール300の封止材360の表面361と同一平面上にある。さらに、固定部材341の固定部342は冷却部材340を貫通し、ねじ等などの締結部材により構成される。ねじ等などの締結部材により構成された固定部342は、冷却部材340を挟んで埋没部344に設けられた受け穴に嵌合して、冷却部材340を半導体モジュール300に締結する。埋没部344に設けられた受け穴の外周には、余白部343が形成されている。
【0057】
この変形例2においても、固定部材341の固定部342の近傍で封止材360が固定部342へ流出するのを防ぐことができ、また、固定部材341の埋没部344を封止材360内に強固に封止固定できる。さらに、ねじ等などの締結部材により構成される固定部材341を用いることで、冷却部材340の厚さ等に寸法ばらつきが有っても、この寸法ばらつきに応じて締結することにより冷却部材340を半導体モジュール300に確実に固定できる。
【0058】
図12(a)~
図12(b)、
図13(a)~
図13(c)は、変形例2の電気回路体400の製造方法における工程を説明する断面図である。
図2(b)と同様に、Y-Y線における半導体モジュール300の一個分の断面図で示す。
図12(a)~
図12(b)は、半導体モジュール300を製造する工程を示し、
図13(a)~
図13(c)は、半導体モジュール300に固定部材341により冷却部材340を固定する工程を示す。
【0059】
図12(a)に示すように、仮着け工程において、導体板430~433に絶縁シート440を仮着けする。さらに、固定部材341を用意して、固定部材341の埋没部344に設けられた受け穴に、位置決め用の挿入部材349を取り付ける。
【0060】
図12(b)に示すように、トランスファーモールド工程において、予め175℃の恒温状態に加熱した金型603内に、絶縁シート440を仮着した回路体310および固定部材341をセットする。固定部材341には、挿入部材349が取り付けられているので、挿入部材349が金型603に形成されている凹部604に入り、固定部材341を金型603の所定位置に保つことができる。埋没部344に設けられた受け穴の外周には、余白部343が形成されている。
【0061】
そして、上下の金型603をクランプすると、上下の金型603から固定部材341の余白部343に加圧力が加わり、金型603の凹部604の開口部周囲と余白部343が強く密着する。この状態で封止材360を金型603内に注入する。したがって、固定部材341の固定部342の近傍で封止材360が固定部342へ流出するのを防ぐことができ、また、固定部材341の埋没部344を封止材360内に強固に封止固定できる。
【0062】
その後、
図13(a)に示すように、トランスファーモールド装置601から封止材360で封止された半導体モジュール300を取り出し、挿入部材349を取り除く。そして、
図13(b)に示すように、175℃にて2時間以上の後硬化を行う。
【0063】
次に、
図13(c)に示すように、封止材360が硬化したのちに、半導体モジュール300に冷却部材340を取り付ける。具体的には、冷却部材340に熱伝導部材453を塗布し、ねじ等などの締結部材により構成された固定部342を、埋没部344に設けられた受け穴に嵌合して、冷却部材340を半導体モジュール300に締結する。
【0064】
図14は、変形例3における電気回路体400の断面図である。
図14は、
図2(b)と同様に、
図1に示す電気回路体400のY-Y線における半導体モジュール300の一個分の断面図である。
図2(b)と同一の箇所には同一の符号を付してその説明を簡略に行う。
【0065】
図2(b)では、固定部材341の固定部342は、冷却部材340を貫通しないように、冷却部材340に設けられた凸部と係合する切り欠きを設けた。変形例3では、
図14に示すように、固定部342が冷却部材340を貫通して、冷却部材340と係合する切り欠きを設けた。冷却部材340の厚み全体を用いて固定するので、強固に冷却部材340と半導体モジュール300を固定できる。なお、図示省略したが、固定部342の切り欠きと冷却部材340との係合が外れないように、冷却部材340が放熱面に沿って移動するのを阻止する部材が装着されている。
【0066】
図15は、変形例4における電気回路体400の断面図である。
図15は、
図2(b)と同様に、
図1に示す電気回路体400のY-Y線における半導体モジュール300の一個分の断面図である。
図2(b)と同一の箇所には同一の符号を付してその説明を簡略に行う。
【0067】
変形例4では、
図15に示すように、固定部材341の固定部342が冷却部材340を貫通し、ねじ部が形成された固定部342にナットをねじ込んで冷却部材340を固定する。冷却部材340の厚み全体を用いて固定するので、強固に冷却部材340と半導体モジュール300を固定できる。さらに、ねじ等などの締結部材により構成される固定部材341を用いることで、冷却部材340等に寸法ばらつきが有っても、この寸法ばらつきに応じて締結することにより冷却部材340を半導体モジュール300に確実に固定できる。
【0068】
図16は、変形例5における電気回路体400の断面図である。
図16は、
図2(b)と同様に、
図1に示す電気回路体400のY-Y線における半導体モジュール300の一個分の断面図である。
図2(b)と同一の箇所には同一の符号を付してその説明を簡略に行う。
【0069】
変形例5では、固定部材341の埋没部344の外周面は、封止材360との接着性を向上させるための表面処理がなされている。
図16に示す例では、埋没部344の外周面は、凹凸形状345が施されている。また、
図16に示す他の例では、埋没部344の外周面は、突起346が設けられている。その他、粗化、ディンプル、密着付与剤の塗布などの表面処理を行ってもよい。電気回路体400は、固定部材341の設置箇所等に応じて、表面処理を異ならせてもよい。
【0070】
以下、変形例5に示す表面処理の必要性について述べる。冷却部材340と半導体モジュール300との固定は、放熱性の信頼性確保のため、例えば、固定部342の径Φが4mmのねじで固定する場合、その軸力は、約1200Nの加圧力、径Φが5mmでは、約2000Nの加圧力が封止材360に加わる。力としては大きな力となる。例えば、半導体モジュール300の表面と裏面を1つの固定部材341で固定することで半導体モジュール300の表面を固定する軸力と、半導体モジュール300の裏面を固定する軸力が1つの固定部材341に加わることで、封止材360に過度の応力が加わることを抑制できる。しかし、取り付け工程などで、封止材360に力が加わる場合がある。変形例5では、既に述べたように、封止材360との接着性のための表面処理がなされている。これにより、封止材360と埋没部344との間の接着力を向上し、冷却部材340と半導体モジュール300とを強い力で固定しても、高い信頼性を維持できる。
【0071】
図17は、変形例6における半導体モジュール300の半透過平面図である。
図5と同一の箇所には同一の符号を付してその説明を簡略に行う。
【0072】
図5では、固定部材341を半導体モジュール300の四隅に設ける例を示した。
図17に示す変形例6では、半導体モジュール300の中央部にも固定部材341を設ける。具体的には、絶縁シート440ー1、440ー2を上アーム側と下アーム側で分離し、中央部にも固定部材341を設けている。絶縁シート440ー1、440ー2を分離しているのは、中央部に設けた固定部材341の余白部343を、トランスファーモールド成型工程において、金型603の凹部604の開口部周囲に密着させるためである。なお、半導体モジュール300の中央部に固定部材341を1個設ける例で説明したが、中央部に複数個設けてもよく、また、半導体モジュール300の四辺の中央部などその他の箇所に設けてもよい。
【0073】
変形例6によれば、冷却部材340と半導体モジュール300とを強い力で均等に固定でき信頼性に優れる効果がある。
【0074】
図18は、半導体モジュール300を用いた電力変換装置200の回路図である。
電力変換装置200は、インバータ回路部140、142と、補機用のインバータ回路部43と、コンデンサモジュール500とを備えている。インバータ回路部140及び142は、半導体モジュール300を複数個備えており、それらを接続することにより三相ブリッジ回路を構成している。電流容量が大きい場合には、更に半導体モジュール300を並列接続し、これら並列接続を三相インバータ回路の各相に対応して行うことにより、電流容量の増大に対応できる。また、半導体モジュール300に内蔵している半導体素子である能動素子155、157やダイオード156、158を並列接続することでも電流容量の増大に対応できる。
【0075】
インバータ回路部140とインバータ回路部142とは、基本的な回路構成は同じであり、制御方法や動作も基本的には同じである。インバータ回路部140等の回路的な動作の概要は周知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0076】
上アーム回路は、スイッチング用の半導体素子として上アーム用の能動素子155と上アーム用のダイオード156とを備えており、下アーム回路は、スイッチング用の半導体素子として下アーム用の能動素子157と下アーム用のダイオード158とを備えている。能動素子155、157は、ドライバ回路174を構成する2つのドライバ回路の一方あるいは他方から出力された駆動信号を受けてスイッチング動作し、バッテリ136から供給された直流電力を三相交流電力に変換する。
【0077】
上アーム用の能動素子155および下アーム用の能動素子157は、コレクタ電極、エミッタ電極、ゲート電極を備えている。上アーム用のダイオード156および下アーム用のダイオード158は、カソード電極およびアノード電極の2つの電極を備えている。
図8に示すように、ダイオード156、158のカソード電極が能動素子155、157のコレクタ電極に、アノード電極が能動素子155、157のエミッタ電極にそれぞれ電気的に接続されている。これにより、上アーム用の能動素子155および下アーム用の能動素子157のエミッタ電極からコレクタ電極に向かう電流の流れが順方向となっている。能動素子155、157は、例えばIGBTである。
【0078】
なお、能動素子としてはMOSFET(金属酸化物半導体型電界効果トランジスタ)を用いても良く、この場合は、上アーム用のダイオード156、下アーム用のダイオード158は不要となる。
【0079】
各上・下アーム直列回路の正極側端子325Pと負極側端子325Mはコンデンサモジュール500のコンデンサ接続用の直流端子にそれぞれ接続されている。上アーム回路と下アーム回路の接続部にはそれぞれ交流電力が発生し、各上・下アーム直列回路の上アーム回路と下アーム回路の接続部は各半導体モジュール300の交流側端子325Aに接続されている。各相の各半導体モジュール300の交流側端子320Bはそれぞれ電力変換装置200の交流出力端子に接続され、発生した交流電力はモータジェネレータ192または194の固定子巻線に供給される。
【0080】
制御回路172は、車両側の制御装置やセンサ(例えば、電流センサ180)などからの入力情報に基づいて、上アーム用の能動素子155、下アーム用の能動素子157のスイッチングタイミングを制御するためのタイミング信号を生成する。ドライバ回路174は、制御回路172から出力されたタイミング信号に基づいて、上アーム用の能動素子155、下アーム用の能動素子157をスイッチング動作させるための駆動信号を生成する。なお、181、188はコネクタである。
【0081】
上・下アーム直列回路は、不図示の温度センサを含み、上・下アーム直列回路の温度情報がマイコンに入力される。また、マイコンには上・下アーム直列回路の直流正極側の電圧情報が入力される。マイコンは、それらの情報に基づいて過温度検知および過電圧検知を行い、過温度或いは過電圧が検知された場合には全ての上アーム用の能動素子155、下アーム用の能動素子157のスイッチング動作を停止させ、上・下アーム直列回路を過温度或いは過電圧から保護する。
【0082】
図19は、
図18に示す電力変換装置200の外観斜視図であり、
図20は、
図19に示す電力変換装置200のXV-XV線の断面斜視図である。
【0083】
電力変換装置200は、下部ケース11および上部ケース10により構成され、ほぼ直方体形状に形成された筐体12を備えている。筐体12の内部には、電気回路体400、コンデンサモジュール500等が収容されている。電気回路体400は冷却部材340へ流れる冷却流路を有しており、筐体12の一側面からは、冷却流路に連通する冷媒流入管13および冷媒流出管14が突出している。下部ケース11は、上部側が開口され、上部ケース10は、下部ケース11の開口を塞いで下部ケース11に取り付けられている。上部ケース10と下部ケース11とは、アルミニウム合金等により形成され、外部に対して密封して固定される。上部ケース10と下部ケース11とを一体化して構成してもよい。筐体12を、単純な直方体形状としたことで、車両等への取り付けが容易となり、また、生産もし易い。
【0084】
筐体12の長手方向の一側面に、コネクタ17が取り付けられており、このコネクタ17には、交流ターミナル18が接続されている。また、冷媒流入管13および冷媒流出管14が導出された面には、コネクタ21が設けられている。
【0085】
図20に図示されるように、筐体12内には、電気回路体400が収容されている。電気回路体400には、制御回路172およびドライバ回路174が配置され、電気回路体400の直流端子側には、コンデンサモジュール500が収容されている。コンデンサモジュールを電気回路体400と同一高さに配置することで、電力変換装置200を薄型化でき、車両への設置自由度が向上する。電気回路体400の交流側端子325Aは、電流センサ180を貫通してコネクタ188に接続されている。また、半導体モジュール300の直流端子である、正極側端子325Pおよび負極側端子325Mは、それぞれ、コンデンサモジュール500の正・負極端子362A、362Bに接合される。
【0086】
以上説明した実施形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)電気回路体400は、半導体素子155、156、157、158を封止材360により封止してなり、半導体素子155、156、157、158による発熱を放熱する放熱面を少なくとも一方面に有する半導体モジュール300と、半導体モジュール300の放熱面と対向して配置され、半導体素子155、156、157、158による発熱を冷却する冷却部材340と、半導体モジュール300の封止材360に埋め込まれて設けられ、冷却部材340が半導体モジュール300から離れる方向への移動を規制する固定部材341と、を備え、固定部材341は、封止材360に埋め込まれた埋没部344と、冷却部材340に挿入されて冷却部材340を固定する固定部342により構成され、埋没部344と固定部342との境界において、埋没部344は固定部342の外周を囲み封止材360の表面から露出する余白部343を有する。これにより、固定部材の近傍で封止材が流出するのを防ぐことができる。
【0087】
(2)電気回路体400の製造方法は、半導体素子155、156、157、158と、半導体素子155、156、157、158による発熱を冷却する冷却部材340と、冷却部材340を固定する固定部材341とを備え、半導体素子155、156、157、158および固定部材341は封止材360で封止された電気回路体400の製造方法であって、固定部材341は、封止材360に埋め込まれる埋没部344と、冷却部材340に挿入されて冷却部材340を固定する固定部342により構成され、埋没部344と固定部342との境界において埋没部344は固定部342の外周を囲み封止材360の表面から露出する余白部343を有し、半導体素子155、156、157、158を含む回路体310および固定部材341を金型603内に設置し、金型603を固定部材341の余白部343に密着した後に、金型603内に封止材360を注入して半導体モジュール300を製造する工程と、封止材360が硬化したのちに、半導体モジュール300に固定部材341により冷却部材340を固定する工程と、を備える。これにより、固定部材の近傍で封止材が流出するのを防ぐことができる。
【0088】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の特徴を損なわない限り、本発明の技術思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。また、上述の実施形態と複数の変形例を組み合わせた構成としてもよい。
【符号の説明】
【0089】
10・・・上部ケース、11・・・下部ケース、13・・・冷媒流入管、14・・・冷媒流出管、17、21、181、182、188・・・コネクタ、18・・・交流ターミナル、43、140、142・・・インバータ回路、155、156、157、158・・・半導体素子、172・・・制御回路、174・・・ドライバ回路、180・・・電流センサ、192、194・・・モータジェネレータ、200・・・電力変換装置、300・・・半導体モジュール、310・・・回路体、325P・・・正極側端子、325M・・・負極側端子、325A・・・交流側端子、325C・・・コレクタセンス端子、325L・・・下アームゲート端子、325E・・・エミッタセンス端子、325U・・・上アームゲート端子、340・・・冷却部材、341・・・固定部材、342・・・固定部、343・・・余白部、344・・・埋没部、360・・・封止材、400・・・電気回路体、430、431、432、433・・・導体板、440・・・絶縁シート、443・・・樹脂絶縁層、444・・・表面導体層、453・・・熱伝導部材、500・・・コンデンサモジュール、601・・・トランスファーモールド装置、602・・・スプリング、603・・・金型。