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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016691
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】測量機
(51)【国際特許分類】
   H02N 2/16 20060101AFI20240131BHJP
   H02N 2/14 20060101ALI20240131BHJP
   G01C 15/00 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
H02N2/16
H02N2/14
G01C15/00 105
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118995
(22)【出願日】2022-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】110004060
【氏名又は名称】弁理士法人あお葉国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100187182
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 由希
(72)【発明者】
【氏名】弥延 聡
【テーマコード(参考)】
5H681
【Fターム(参考)】
5H681AA12
5H681BB03
5H681BB17
5H681CC02
5H681CC07
5H681DD23
5H681EE21
5H681FF25
5H681FF30
(57)【要約】
【課題】 超音波モータが故障する前に、ロータの摩耗状態を検知することを可能とした測量機を提供する。
【解決手段】 測量機100は、回転軸6と、可変の駆動周波数の駆動信号を受けて回転軸6を回転駆動する超音波モータ5と、回転軸6の回転速度を検出するエンコーダ21と、駆動周波数と回転速度の相関関係である駆動特性に基づいて、駆動信号の出力を制御して、回転速度を制御する制御部40と、超音波モータ5の、出荷時駆動特性51および駆動周波数の経年による変動の許容範囲52を記憶する記憶部と50、を備え制御部40は、超音波モータ5の使用時駆動特性を取得し、使用時駆動特性と出荷時駆動特性51とを比較して、その差が許容範囲52を超えるときに、異常状態であると判定する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
可変の駆動周波数の駆動信号を受けて前記回転軸を回転駆動する超音波モータと、
前記回転軸の回転速度を検出するエンコーダと、
前記駆動周波数と前記回転速度との相関関係である駆動特性に基づいて、前記駆動信号の出力を制御して、前記回転速度を制御する制御部と、
前記超音波モータの、出荷時駆動特性および前記駆動周波数の経年による変動の許容範囲を記憶する記憶部と、を備え、
前記制御部は、前記超音波モータの使用時駆動特性を取得し、前記使用時駆動特性と前記出荷時駆動特性とを比較して、その差が許容範囲を超えるときに、異常状態であると判定することを特徴とする測量機。
【請求項2】
前記出荷時駆動特性は、前記出荷時駆動特性をプロットした駆動特性プロファイルにおいて、前記駆動周波数と前記回転速度が負の相関関係を有する領域に含まれる、少なくとも2つの点についての出荷時駆動周波数の値および前記回転速度の値を含む出荷時駆動特性データとして前記記憶部に記憶されており、
前記変動の許容範囲は、前記少なくとも2つの点についての周波数変動閾値を含む周波数変動閾値データとして前記記憶部に記憶されており、
前記制御部は、前記使用時において、使用時回転速度が前記少なくとも1つの点における前記回転速度と一致するときに、使用時駆動周波数を取得し、前記使用時回転速度に対応する前記使用時駆動周波数と前記出荷時駆動周波数との差が前記周波数変動閾値を超えるときに、前記使用時駆動特性と前記出荷時駆動特性の差が許容範囲を超えると判定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の測量機。
【請求項3】
前記少なくとも2つの点は、前記回転速度が低回転速度であるものを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の測量機。
【請求項4】
前記出荷時駆動特性は、前記出荷時駆動特性をプロットした駆動特性プロファイルにおいて、前記駆動周波数と前記回転速度が負の相関関係を有する領域に含まれる、少なくとも2つの点についての出荷時駆動周波数の値および前記回転速度の値と、前記回転速度に対応する前記駆動周波数を推定する第1の近似関数とが、出荷時駆動特性データとして前記記憶部に記憶されており、
前記変動の許容範囲は、前記2以上の点についての前記周波数変動閾値と、前記回転速度に対応する前記周波数変動閾値を推定する第2の近似関数と、を含む周波数変動閾値データとして前記記憶部に記憶されており、
前記制御部は、前記使用時において、前記第1の近似関数を用いて、使用時回転速度に対応する使用時駆動周波数を算出し、前記第2の近似関数を用いて、前記使用時回転速度に対応する前記周波数変動閾値を算出し、前記使用時回転速度に対応する、前記使用時駆動周波数と前記出荷時駆動周波数との差が、前記使用時回転速度に対応する前記周波数変動閾値を超えるときに、前記使用時駆動特性と前記出荷時駆動特性の差が許容範囲を超えると判定する、
ことを特徴とする請求項2記載の測量機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測量機に関し、より詳細には、回転軸の駆動機構として超音波モータを備える測量機に関する。
【背景技術】
【0002】
測量機、例えばトータルステーションは、測定点を視準する望遠鏡と、上記望遠鏡を鉛直方向に回転可能に支持する托架部と、上記托架部を水平方向に回転可能に支持する基盤部とを備える。望遠鏡は鉛直回転軸に設けられた鉛直回転モータによって、托架部は水平回転軸に設けられた水平回転モータによって駆動される。特許文献1には、鉛直回転モータおよび水平回転モータに超音波モータを採用した測量機が開示されている。
【0003】
特許文献1の超音波モータは、それぞれ円環状の圧電セラミック、ステータ、およびロータが、この順で同軸に配置して構成されている。ステータにロータを加圧接触して、圧電セラミックに駆動信号を印加してステータに振動を発生させ、摩擦力を介してロータを回転させる。超音波モータの駆動信号の周波数(以下、駆動周波数という。)と回転速度には、図4に一例として示すような関係(以下、超音波モータの駆動周波数と回転速度の相関関係を、駆動特性または駆動特性プロファイルという。)があることが知られている。超音波モータの駆動特性は、超音波モータの個体により異なる。
【0004】
このため、特許文献1の測量機では、製造時(出荷時)に、採用する超音波モータの駆動特性を調べ、予め制御部に定義している。そして、測量機の使用時には、制御部が、定義された超音波モータの駆動特性のプロファイルに基いて、設定回転速度(以下、設定速度という。)に応じた周波数で駆動信号を出力させ、回転速度を常時監視しながら、設定速度となるようにフィードバック制御を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-161429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、超音波モータの駆動特性プロファイルは、例えば図5に示すように経年により変化することが知られている。この変化の原因は、金属等で構成されるステータに、樹脂等で構成されるロータを摩擦させることで起こるロータの摩耗によるものである。また、超音波モータの故障の主要な要因は、ロータの摩耗によるものである。そこで、発明者らは、測量機において、超音波モータの駆動特性を監視することで、超音波モータの故障前に、異常、すなわち、ロータの摩耗状態を検知することが可能になると考えた。
【0007】
本発明は、係る事情を鑑みてなされたものである、超音波モータの故障前に警告を与えることを可能とした測量機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の1つの態様に係る測量機は、以下の特徴を有する。
1.測量機は、回転軸と、可変の駆動周波数の駆動信号を受けて前記回転軸を回転駆動する超音波モータと前記回転軸の回転速度を検出するエンコーダと、前記駆動周波数と前記回転速度の相関関係である駆動特性に基づいて、前記駆動信号の出力を制御して、前記回転速度を制御する制御部と、前記超音波モータの、出荷時駆動特性および前記駆動周波数の経年による変動の許容範囲を記憶する記憶部と、を備え、前記制御部は、前記超音波モータの使用時駆動特性を取得し、前記使用時駆動特性と前記出荷時駆動特性とを比較して、その差が許容範囲を超えるときに、異常状態であると判定する。
【0009】
2.1の測量機において、前記出荷時駆動特性は、前記出荷時駆動特性をプロットした駆動特性プロファイルにおいて、前記駆動周波数と前記回転速度が負の相関関係を有する領域に含まれる、少なくとも2つの点についての出荷時駆動周波数の値および前記回転速度の値を含む出荷時駆動特性データとして前記記憶部に記憶されており、前記変動の許容範囲は、前記少なくとも2つの点についての周波数変動閾値を含む周波数変動閾値データとして前記記憶部に記憶されており、前記制御部は、前記使用時において、使用時回転速度が前記少なくとも1つの点における前記回転速度と一致するときに、使用時駆動周波数を取得し、前記使用時回転速度に対応する前記使用時駆動周波数と前記出荷時駆動周波数との差が前記周波数変動閾値を超えるときに、前記使用時駆動特性と前記出荷時駆動特性の差が許容範囲を超えると判定する、ことも好ましい。
【0010】
3.1または2の測量機において、前記少なくとも2つの点は、前記回転速度が低回転速度であるものを含むことも好ましい。
【0011】
4.2の測量機において、前記出荷時駆動特性は、前記出荷時駆動特性をプロットした駆動特性プロファイルにおいて、前記駆動周波数と前記回転速度が負の相関関係を有する領域に含まれる、少なくとも2つの点についての出荷時駆動周波数の値および前記回転速度の値と、前記回転速度に対応する前記駆動周波数を推定する第1の近似関数とが、出荷時駆動特性データとして前記記憶部に記憶されており、前記変動の許容範囲は、前記2以上の点についての前記周波数変動閾値と、前記回転速度に対応する前記周波数変動閾値を推定する第2の近似関数と、を含む周波数変動閾値データとして前記記憶部に記憶されており、前記制御部は、前記使用時において、前記第1の近似関数を用いて、使用時回転速度に対応する使用時駆動周波数を算出し、前記第2の近似関数を用いて、前記使用時回転速度に対応する前記周波数変動閾値を算出し、前記使用時回転速度に対応する、前記使用時駆動周波数と前記出荷時駆動周波数との差が、前記使用時回転速度に対応する前記周波数変動閾値を超えるときに、前記使用時駆動特性と前記出荷時駆動特性の差が許容範囲を超えると判定する、ことも好ましい。
【発明の効果】
【0012】
上記の態様に係る測量機によれば、超音波モータの故障前に使用者に警告を与えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態に測量機の概略縦断面図である。
図2】同測量機の超音波モータを含む部分の断面斜視図である。
図3】同測量機の制御ブロック図である。
図4】同測量機に用いられる超音波モータの駆動特性プロファイルの1例を示す図である。
図5】同超音波モータの駆動特性プロファイルの、経年による変化を説明する図である。
図6】上記測量機の、出荷時駆動特性および周波数変動閾値を説明する図である。
図7】上記測量機の、出荷時駆動特性データ(A)および周波数変動閾値データ(B)を示すテーブルである。
図8】同測量機における、超音波モータの性能管理方法の処理の1例を示すフローチャートである。
図9】上記方法における出荷時の駆動特性と使用時の駆動特性との比較の詳細を説明する図である。
図10】同実施の形態の1つの変形例に係る測量機の制御ブロック図である。
図11】同測量機の、出荷時駆動特性データおよび周波数変動閾値データを説明する図である。
図12】同測量機における、超音波モータの性能管理方法の処理のフローチャートである。
図13】上記超音波モータの性能管理方法における異常状態の判定を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照して説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、各実施の形態において、同一の機械構成を有する要素には、同一の名称および符号を付して重複する説明は適宜省略する。
【0015】
実施の形態
図1は、実施の形態に係る測量機100の概略縦断面図である。図2は、図1の測量機100の、超音波モータ5を含む部分の断面斜視図である。
【0016】
測量機100は、整準部3の上に設けられた基盤部4と、基盤部4上を水平回転軸6の周回りに水平回転する托架部7と、托架部7の凹部に鉛直回転軸11の周回りに鉛直回転するように設けられた望遠鏡9と、を備える。托架部7には、制御部40が収容されている。測量機100は、自動視準機能および自動追尾機能を有する。
【0017】
望遠鏡9には、図示しない測距光学系、追尾光学系が収容されている。測距光学系、追尾光学系の構成は、従来技術の構成と同等のものである。測量機100では、托架部7の水平回転と望遠鏡9の鉛直回転の協働により、望遠鏡9が測定対象物を視準、追尾可能である。
【0018】
水平回転軸6の下端部には水平回転用の超音波モータ5が設けられている。また、上端部には水平角検出用のエンコーダ21が設けられている。鉛直回転軸11の一方の端部には鉛直回転用の超音波モータ12が設けられ、他方の端部には鉛直角検出用のエンコーダ22が設けられている。
【0019】
エンコーダ21,22は、回転円盤、スリット、発光ダイオード、イメージセンサを有するアブソリュートエンコーダである。また、インクリメンタルエンコーダであってもよい。エンコーダ21,22が検出する水平角、鉛直角に基いて、水平回転軸6、鉛直回転軸11の回転角度が取得される。
【0020】
超音波モータ5,12は、駆動特性プロファイルに基いて、周波数可変の駆動信号が印加されることにより、駆動周波数に応じた回転速度で水平回転軸6,鉛直回転軸11をそれぞれ駆動する。超音波モータ5,12の構成は、水平回転するか鉛直回転するかという点を除き概略同様である。したがって、主として超音波モータ5の構成を説明して、超音波モータ12の説明は適宜省略する。
【0021】
超音波モータ5は、ベース32から順に、振動を発生する圧電セラミック34、振動を増幅させるステータ35、ステータ35と干渉するロータ36、ロータ36をステータ35側へ押圧するウェーブワッシャ38が、それぞれがリング状の形状を有し、同軸に配置されている。圧電セラミック34にはSin電極とCos電極が付されている。Sin電極およびCos電極により交互に駆動電圧が印加されることで圧電セラミック34が超音波振動する。
【0022】
圧電セラミック34が振動すると、ステータ35に進行波が形成され、ウェーブワッシャ38の押圧による摩擦によってステータ35とロータ36が相対回転する。図1に示すように、水平側の超音波モータ5は、モータケース25が基盤部4に固定され、ロータ36はモータケース25に固定されているので、ステータ35が回転し、ベース32を介して水平回転軸6がステータ35と一体に回転する。鉛直側の超音波モータ12は、ステータ(図示せず)がモータケース26に固定され、ロータ(図示せず)が回転し、鉛直回転軸11がロータ(図示せず)と一体に回転する。
【0023】
図3は測量機100の制御ブロック図である。鉛直回転と水平回転の制御ブロック図は同等であるので、水平回転に関して示し、鉛直回転に関しては説明を省略する。測量機100は、制御部40、記憶部50、エンコーダ21、超音波モータ5、駆動回路60、クロック信号発振部63、測距部70、および、追尾部80を有する。
【0024】
制御部40は、例えば、少なくとも1つのプロセッサ(例えばCPU(Central Processing Unit))と少なくとも1つのメモリ(SRAM(Static Random Access Memory),DRAM(Dynamic Random Access Memory)等)とを備える制御演算ユニットである。制御部40は、プロセッサが機能を実行するためのプログラムをメモリに読み出して実行することにより以下に説明する機能を実現する。
【0025】
制御部40の機能の少なくとも一部は、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等でハードウェア的に構成してもよい。CPLDやFPGAを用いた場合、それらの素子上に構成された回路などがその機能を実現する。
【0026】
制御部40は、クロック信号発振部63からのクロック信号に応じて、エンコーダ21の角度信号から水平回転軸6の回転速度を求める。また、超音波モータ5に対して、予め定義された超音波モータ5の駆動特性プロファイルに基いて、設定回転速度(以下、設定速度という。)に応じた周波数で駆動信号を出力させ、回転速度を常時監視しながら、設定速度となるようにフィードバック制御による速度の制御を行っている。
【0027】
記憶部50は、フラッシュメモリやハードディスクドライブ等のコンピュータ読取可能な記憶媒体である。記憶部50は、測量機100が、測量機能を実行するためのプログラム、測量機100の機能において、超音波モータ5を制御するためのプログラム、および下記に説明する超音波モータ5の性能管理方法を実行するためのプログラムを格納している。
【0028】
また、記憶部50は、超音波モータ5の性能管理方法に用いるデータを記憶している。具体的には、出荷時駆動特性を出荷時駆動特性データ51として格納している。また、記憶部50は、出荷時と使用時の駆動特性の変化の閾値を周波数変動閾値データ(以下、変動閾値データという)52として格納している。また、記憶部50には、測量に取得される測量データおよび回転速度制御のため回転速度と駆動周波数のログが逐次記憶されるようになっている。
【0029】
なお、本明細書において、出荷時とは、超音波モータ5の駆動時間が初期化された時点を意味し、測量機100の出荷時(製造時)だけでなく、修理等により超音波モータ5(ロータ36のみの場合も含む)を交換した場合には、その交換時を含む。
【0030】
駆動回路60は、FPGA(Field Programmable Gate Array)61およびアナログ回路62を備える。FPGA61は制御部40もしくは図示を略する外部機器によって内部論理回路を定義変更可能である。FPGA61は、可変の駆動周波数及び可変の振幅で制御信号を発生させることができ、上記駆動周波数及び上記振幅を動的に変化させることができる。アナログ回路62は、トランス等で構成されており、上記制御信号を増幅させる。
【0031】
駆動回路60は、制御部40からの指令を受けて、FPGA61から上記制御信号を出力し、アナログ回路62で増幅して二種類の位相の異なる駆動信号を生成し、超音波モータ5の圧電セラミック34に付されているSin電極とCos電極に対して出力する。なお、駆動回路60は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの他のPLD(Programmable Logic Device)が用いられてもよい。
【0032】
クロック信号発振部63は、クロック信号を制御部40及びFPGA61に出力する。
【0033】
測距部70は、制御部40に制御されて、測距光学系を用いて測距光をターゲットに照射し、その反射光からターゲットを捕捉して自動視準を行う。また、手動または自動視準が完了すると測距を行う。
【0034】
追尾部80は、制御部40に制御されて、追尾光学系を用いて追尾光をターゲットに照射して、その反射光からターゲットを捕捉して、ターゲットが移動した場合は自動で追尾を行う。
【0035】
駆動特性データおよび周波数変動閾値
図4は、超音波モータ5の駆動周波数fと回転速度ωの相関関係をプロットしたグラフ、すなわち超音波モータ5の駆動特性プロファイルである。図4の横軸が駆動周波数[kHz]、縦軸がステータ35、したがって水平回転軸6の回転速度[°/sec]である。また、図4の数値は一例であり、駆動特性プロファイルは、超音波モータ5の個体により異なる。
【0036】
図4の駆動特性を有する超音波モータ5は、駆動周波数fを例えば40kHzから上げていくと、所定の周波数で共振点に達し最高速度となる。その後は、駆動周波数の増加に伴い回転速度は減少する。そして、駆動周波数を増加させ続けると、43KHzで、それ以上周波数を上げても回転が起こらなくなる。超音波モータ5の速度制御のために、駆動周波数fと回転速度ωが一義的に負の相関関係を有する領域に、最大設定速度ωMAXと最小設定速度ωMINが設定されている。最大設定速度ωMAXと最小設定速度ωMINとの間の駆動特性プロファイルが測量機100の工場出荷時に測定され、記憶部50に記憶される。そして、測量機100の使用時には、超音波モータ5の速度制御に用いられる。
【0037】
図5は、超音波モータ5の駆動特性プロファイルの、経年、すなわち駆動時間による変化を説明する図である。図中C0,C1,C2は、例えば、それぞれ出荷時、駆動時間2000時間、駆動時間4000時間における駆動特性プロファイルを示す。図5に示すように、超音波モータ5の駆動特性プロファイルは、駆動時間が増大するにつれて、回転速度に対応する駆動周波数が変動する。また、その差は回転速度の低速領域では高速領域に比べて大きくなっている。
【0038】
図6,7は、記憶部50に格納される出荷時駆動特性データ51および変動閾値データ52を説明する図である。出荷時駆動特性データ51は、図6に示す、出荷時の超音波モータ5の駆動特性プロファイルにおいて、駆動周波数と回転速度とが一義的に負の相関関係を有する領域上の点P,P,Pにおける、回転速度ω,ω,ωと駆動周波数(出荷時駆動周波数)fS1,fS2,fS3の対応関係である。超音波モータ5の回転速度と駆動周波数の関係は、測量機100の出荷前に測定される。出荷時駆動特性データ51は、例えば、図7(A)に示す、テーブルの形式で格納されている。
【0039】
また、超音波モータ5には、複数の点P(P,P,P)での、回転速度ω(ω,ω,ω)において、許容される周波数変動閾値T(T,T,T)がそれぞれ定められている。周波数変動閾値は、周波数の変動が、これを越えて大きくなると、ロータの摩耗が過度となり、超音波モータ5が故障する可能性が高くなる限界値である。周波数変動閾値Tは例えば経験に基づいて設定されている。変動閾値データ52は、例えば図7(B)に示すような、テーブルの形式で、記憶部50に格納されている。
【0040】
上記複数の点P,P,Pの回転速度ω,ω,ωは、ぞれぞれ、低回転速度(50°/sec未満),中回転速度(50°~180°/sec),高回転速度(180°/sec以上)であることが好ましい。なお、中回転速度における点Pは、設定する位置(回転速度)により、駆動周波数fに対する回転速度ωの変化の割合が異なる場合があるので、変化の割合に応じて、変化するようになっていてもよい。
【0041】
なお、上記において、駆動特性プロファイルC上の3点について出荷時駆動特性データ51を記憶することとしたが、必ずしも3点である必要はなく、少なくとも2点あればよく、4点以上であってもよい。また、2点の出荷時駆動特性データ51を利用する場合には、低回転速度領域の点(例えば50°/sec未満)を使用することが好ましい。使用する回転速度の下限値が耐久性に大きく影響するためである。しかし、3点以上の出荷時駆動特性データを使用すると、非線形である駆動特性プロファイルに合わせて制御性能が向上するため有利である。
【0042】
測量機100の動作
次に、本実施の形態にかかる測量機100の動作について説明する。図8は、測量機100が実行する超音波モータ5の性能を管理する方法における、制御部40のフローチャートである。なお、上述の通り超音波モータ5,12は、水平回転するものであるか鉛直回転するものであるかという点を除き同等である。したがって、性能管理方法についても同等であるため超音波モータ12についての説明は省略する。
【0043】
以下の例において、本実施の形態に係る測量機100の使用中、すなわち測距および自動視準の実行中の超音波モータ5が駆動している最中に、常時行われている。また、超音波モータ5の駆動中は、常時所定のタイミングで回転速度を監視しながら、設定された回転速度に対応する駆動周波数の駆動信号が印加されている。
【0044】
処理を開始すると、ステップS01で、制御部40は、使用時回転速度ωとして、回転速度ω,ω,ωのいずれかであるときの、対応する駆動周波数(使用時駆動周波数)f(fU1,U2,U3)を計測して、使用時回転速度ωと使用時駆動周波数fの対応を使用時駆動特性として取得する。使用時駆動特性は、例えば、使用時回転速度ωとして、回転速度ω,ω,ωのいずれかが検出されたときに、使用時駆動周波数f(fU1,U2,U3)が一定時間以上継続した場合に、取得されるようになっていると実用的である。駆動信号を印加してから、その駆動信号に応じた回転速度になるまで、物理的な応答の遅れが生じる虞があるためである。
【0045】
次に、ステップS02で、記憶部50に記憶された出荷時駆動特性と、ステップS01で取得した使用時駆動特性とを比較する。
【0046】
例えば、使用時回転速度ωuが、回転速度ωを検出した場合を、図9の駆動特性プロファイルを参照して説明する。まず、ステップS01で、出荷時駆動特性データ51の点Pに対応する回転速度ωの値となる使用時駆動周波数fを取得する。この使用時駆動周波数fと、回転速度ωに対応する出荷時駆動周波数fS2との差Δfを求める。その差Δfが所定の周波数変動閾値Tよりも大きいかどうかを判定する。
【0047】
そして、ステップS03において、差Δfが所定の周波数変動閾値T以下となる場合、すなわち、差Δfが許容範囲内である場合(Yes)、ステップS04で、制御部40は、超音波モータ5は正常状態であると判断して処理を終了する。
【0048】
一方、ステップS03において、差Δfが所定の周波数変動閾値Tよりも大きい場合、すなわち、差Δfが許容範囲を超える場合(No)、ステップS05で、制御部40は、超音波モータ5のロータ36の摩耗が進行した異常状態であると判断する。なお、この例では、異常状態の判定は、出荷時駆動特性データ51を記憶した点のうちいずれか1つの点において、差Δfが許容範囲を超える場合に異常状態であると判断しているが、これにかかわらず、例えば、駆動特性のデータ51を記憶した全ての点において、差Δfが許容範囲を超える場合に、異常状態であると判断するように構成してもよい。
【0049】
そして、ステップS06で、制御部40は、例えば図示しない表示部に警告メッセージを表示する、図示しない音声出力部から、警告メッセージを音声で出力する、等して、使用者に警告を通知し、処理を終了する。警告メッセージは、超音波モータ5の耐久期限が近付いているため、修理依頼を推奨するメッセージを含んでいてもよい。
【0050】
本実施の形態では、超音波モータ5の駆動特性が、経年により変化することに着目して、出荷時の超音波モータ5の駆動特性を、記憶部50に記憶しておき、使用時の駆動特性を取得して、これを出荷時の駆動特性と比較するように構成した。そして、出荷時と使用時の駆動特性が、所定の周波数変動閾値よりも大きくなるときに、超音波モータ5のロータ36の摩耗が進行した異常状態であると判定するように構成した。この結果、ロータ36の摩耗を的確に監視することができ、故障となる前に、異常を使用者に報知することが可能となる。
【0051】
ロータ36の摩耗の程度は、駆動時間だけではなく、速度制御の方法により変動する。例えば、測量機100が望遠鏡9を設定された方法で一定速度に回転するなどの場合は、超音波モータ5に付与されるトルクの変動が小さく、ロータ36の摩耗の程度は小さい。また、近くにあるブルドーザに取り付けたターゲットを自動視準する場合など、高速で小刻みに移動するものを自動視準する場合などは、超音波モータ5に付与されるトルクの変動が大きくなり、ロータ36の摩耗の程度が大きくなる。
【0052】
このため、駆動時間の長さで、ロータ36の摩耗の程度を判定した場合は、実態にそぐわない場合がある。例えば、トルクの変動が小さい使用方法で長時間使用した場合よりも、トルクの変動が大きい使用方法で短時間使用した場合の方が摩耗の程度が大きい場合がある。
【0053】
一方、駆動特性の変化は、ロータ36の摩耗の程度を反映している。従って、本実施の形態のように、駆動特性の変化に基づいて超音波モータ5の状態を判定することで、より実態に即した判定が可能となる。
【0054】
また、本実施の形態では、超音波モータ5の駆動特性プロファイルにおいて、駆動周波数と回転速度が負の相関関係を有する領域における複数の点に着眼した。そして、該複数の点についての出荷時の駆動周波数の値と、回転速度の値を記憶して、この点における使用時の駆動周波数の値と、回転速度の値を取得して、周波数変動が許容範囲であるかどうかを判定するように構成した。このため、出荷時における駆動特性の測定および記憶は上記複数の点について行えばよく、登録時の手間が少ない。
【0055】
なお、上記の処理は、測距および自動視準を実行中の、超音波モータ5が駆動している最中に行われているものとして説明した。しかし、これに限定されず、チェックモードとして、例えば、電源をONにしたときに、駆動周波数を、駆動特性プロファイルにおいて駆動周波数と回転速度が負の相関関係を有する領域の、下限値から上限値までを変化させて超音波モータ5を駆動するようにしてもよい。この場合、ステップS01では、その間の回転速度(使用時回転速度)がω,ωとなったときの使用時駆動周波数を取得するように構成する。
【0056】
変形例
図10は、本実施の形態の変形例に係る測量機100Aの制御ブロック図である。測量機100Aは、測量機100と同等の機械構成を備えるが、以下の点で異なる。すなわち測量機100Aは、出荷時駆動特性データ51,変動閾値データ52に代えて、出荷時駆動特性データ51A,変動閾値データ52Aを備える。
【0057】
図11は出荷時駆動特性データ51Aおよび変動閾値データ52Aを説明する図である。
出荷時駆動特性データ51Aは、出荷時駆動特性データ51と同様に、駆動特性プロファイルにおいて駆動周波数と回転速度が負の相関関係を有する領域上の複数の点P,P,Pにおける、回転速度ω,ω,ωと駆動周波数f,f,fを含む。また、出荷時駆動特性データ51Aは、さらに、点P,P,Pを通り、駆動特性プロファイルにおける駆動周波数と回転速度が負の相関関係を有する領域に近似させた第1の近似関数AF1を含む。
【0058】
図11の例では、第1の近似関数AF1は、隣接する2点間(点P間,点P間)を線形補間した、区分線形補間関数であり、下記の式で表せる。
ω=(ω-ω)/(f-f)*f+ω-(ω-ω)/(f-f)*fif f≦f≦f
=(ω-ω)/(f-f)*f+ω-(ω-ω)/(f-f)*fif f≦f≦f (式1)
近似関数AF1は、このような線形補間関数に限らず、2次関数,3次関数等であってもよい。
【0059】
変動閾値データ52Aは、変動閾値データ52と同様に、点P,P,Pにおける回転速度ω,ω,ωに対応する駆動周波数f,f,fについて、許容される経年による周波数変動閾値T,T,Tを含む。また、変動閾値データ52Aは、回転速度ω,ω,ωに対して、駆動周波数がf-T1,-T2,-Tとなる点Q、Q,Qを通る第2の近似関数AF2を含む。
【0060】
図11の例では、第2の近似関数AF2は、隣接する2点間(点Q間,Q間)を線形補間した、区分線形補間関数である。近似関数AF2は、このような線形補間関数に限らず、2次関数、3次関数等の補間関数であってもよい。
【0061】
図12は、測量機100Aにおける、超音波モータ5の性能管理方法の処理のフローチャートである。図13は、同方法における判定を説明するグラフである。点Rは、超音波モータ5で計測された、現在使用時回転速度ωUCおよび使用時駆動周波数fuCを示す点である。
【0062】
処理を開始すると、ステップS11で、制御部40は、現在の使用時回転速度ωucおよび使用時駆動周波数fuCを取得する。現在使用時回転速度ωuCおよび使用時駆動周波数fuCは、駆動信号の印加が一定時間安定した場合に取得されるようになっている。
【0063】
次に、ステップS12で、制御部40は、出荷時の駆動プロファイルC0についての第1の近似関数AF1を用いて、現在の使用時回転速度ωucに対応する駆動周波数fAF1を算出する。また、第2の近似関数AF2を用いて、現在の使用時回転速度ωucに対応する駆動周波数fAF2を算出する。そして、第1の近似関数AF1を用いて求めた現在の使用時回転速度ωuCに対応する駆動周波数fAF1から、第2の近似関数AF2を用いて求めた現在の使用時回転速度ωuCに対応する駆動周波数fAF2を減算して、計測された使用時回転速度ωucに対応する周波数変動閾値Tuが算出する。
【0064】
次に、ステップS13で、制御部40は、現在の使用時回転速度ωuCに対応する駆動周波数fUCと、第1の近似関数AF1を用いて算出した、出荷時の駆動特性、すなわち計測された使用時駆動周波数fAF1とを比較する。そして
【0065】
次にステップS14で使用時駆動周波数fAF1と現在の使用時回転速度ωUCに対応する駆動周波数fUCとの差Δfが、ステップS12で算出した許容範囲内、すなわち周波数変動閾値T以下の場合、ステップS15で制御部40は、超音波モータ5の状態は正常であると判定し、処理を終了する。
【0066】
一方、ステップS14で、差Δfが、許容範囲を超える場合、すなわち周波数変動閾値Tよりも大きい場合(No)、ステップS16で、制御部40は、超音波モータ5のロータ36の摩耗が進行した異常状態であると判断する。そして、ステップS17で、制御部40は、例えば図示しない表示部に警告メッセージを表示する等して、使用者に警告を通知し、処理を終了する。
【0067】
このように、変形例に係る測量機100Aでは、出荷時駆動特性データとその近似関数AF1を記憶部50に記憶し、出荷時駆動特性データに含まれる各点間においても、使用時回転速度に応じた使用時駆動周波数および周波数変動閾値を算出可能とした。この結果、出荷時駆動特性データに含まれる点の回転速度ω,ω,ωだけでなく、任意の使用時回転速度ωについても出荷時と使用時の駆動特性を比較することができるので、測量機1の効果に加えて、任意の使用時回転速度ωUCについて判定が可能となる。この結果、異常判定の頻度を任意に設定することが可能となる。
【0068】
にもかかわらず、出荷時に駆動特性を測定し、記憶部50に記憶させるのは、上記の例では複数の点(上記においては3点)のみであり、作業は測量機100と同等であるので、手間は軽減されている。
【0069】
以上、本発明の好ましい実施の形態について述べたが、上記の実施の形態は本発明の一例であり、これに限定されない。
【符号の説明】
【0070】
5,12 :超音波モータ
21,22 :エンコーダ
40 :制御部
50 :記憶部
51,51A :出荷時駆動特性データ
52,52A :変動閾値データ
100,100A :測量機
C :駆動特性プロファイル
図1
図2
図3
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図6
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図10
図11
図12
図13