(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016695
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】多層プリント配線板
(51)【国際特許分類】
H05K 3/46 20060101AFI20240131BHJP
【FI】
H05K3/46 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119002
(22)【出願日】2022-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000228833
【氏名又は名称】日本シイエムケイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高井 孝
(72)【発明者】
【氏名】川野 義広
【テーマコード(参考)】
5E316
【Fターム(参考)】
5E316AA15
5E316AA32
5E316CC12
5E316CC32
5E316CC39
5E316DD34
5E316EE31
5E316HH11
(57)【要約】
【課題】反りの少ない多層プリント配線板の提供。
【解決手段】第1の絶縁層と、当該第1の絶縁層の上下に積層された第2の絶縁層とを備え、当該それぞれの第2の絶縁層中に厚みの異なる導体層が形成され、当該厚みの異なる導体層の仮想中心線が同一面上にあることを特徴とする多層プリント配線板。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の絶縁層と、当該第1の絶縁層の上下に積層された第2の絶縁層とを備え、当該それぞれの第2の絶縁層中に厚みの異なる導体層が形成され、当該厚みの異なる導体層の仮想中心線が同一面上にあることを特徴とする多層プリント配線板。
【請求項2】
3Dプリンタにより製造される多層プリント配線板であることを特徴とする請求項1記載の多層プリント配線板。
【請求項3】
前記厚みの異なる導体層の種類が2~5種類であることを特徴とする請求項1又は2記載の多層プリント配線板。
【請求項4】
前記第2の絶縁層中に形成された導体層が、前記第1の絶縁層を中心にして上下対称構造になっていることを特徴とする請求項1又は2記載の多層プリント配線板。
【請求項5】
多層プリント配線板の最外層の空きスペースにダミーパターンを設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の多層プリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一絶縁層中に厚みの異なる導体層が形成された多層プリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の多層プリント配線板の製造工程では、絶縁基板に銅箔や銅箔に無電解・電解銅めっきを付与して導体層を形成している。また、銅箔や銅箔に無電解・電解めっきが付与された多層プリント配線板に放熱パターンや配線パターン、部品実装パッドを形成するには、主に、サブトラクティブ法やセミアディティブ法にて形成する。同一絶縁層中に厚みの異なる導体層を設ける場合は、複数回、配線パターンや部品実装パッドの形成を行う必要がある。
サブトラクティブ法では、導体層に感光性のドライフィルムを用いて、写真法で、放熱パターン、配線パターンや部品実装パッドを形成するのが一般的である。しかし、その際、不要の銅をエッチング処理するため、材料ロスが大きな課題となっていた。さらに、銅めっき浴の管理や廃液処理等も環境的には好ましくはなかった。
【0003】
3Dプリンタは、設計データを元に2次元の層を順次積み上げて立体モデルを造形する方法であり、特許文献1には、3Dプリンタを利用して立体的にリジッドフレキシブル基板を製造する方法が開示されている。具体的には、フレキシブル及びリジッドな伝導性及び誘電体インク組成物を有する4つの印刷ヘッドの組み合わせを使用して直接インクジェット印刷する方法が記載されている。
従来、3Dプリンタを用いて、同一絶縁層中に厚みの異なる導体層を形成する場合、例えば、
図8に示すように導体層と絶縁層を積み上げて形成していた。すなわち、厚い導体層1を形成した絶縁層2中に薄い導体層3を形成した後、絶縁層4を形成し、次いで当該絶縁層4上に厚い導体層5と絶縁層6と薄い導体層7とを形成する。
図8に示す多層プリント配線板300では、薄い導体層3、7はいずれも絶縁層4に接し、当該薄い導体層3、7の仮想中心線8と、厚い導体層1、5の仮想中心線(図示なし)とはずれた位置になっている。
【0004】
ところで、通常の有機基板では、絶縁層にガラス繊維に樹脂が含浸されたプリプレグを用いることが一般的である。絶縁層にガラス繊維等の補強材が含まれると比較的強度が強いため、多層構造であっても反りは少ない傾向にある。
しかしながら、3Dプリンタでは、インクを用いてレイヤー毎に薄層化して重ね刷りをする関係から絶縁層は樹脂のみで形成され、絶縁層にガラス繊維は含まれない。そのため、特に多層構造にすると反り易いという新たな問題が発生するようになった。また、最終製品の多層プリント配線板において反りが発生した場合においては、3Dプリンタに用いられる樹脂は硬くて、脆い傾向にあるため、破損の恐れ等から機械等で反り矯正ができないという問題が発生していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の如き従来の問題に鑑みてなされたものであり、反りの少ない多層プリント配線板を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決すべく種々研究を重ねた結果、多層プリント配線板において、同一絶縁層中に厚みの異なる導体層を形成すると共に、当該同一絶縁層中の厚みの異なる導体層の仮想中心線が同一面上になるようにすれば、極めて良い結果が得られることを見い出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、第1の絶縁層と、当該第1の絶縁層の上下に積層された第2の絶縁層とを備え、当該それぞれの第2の絶縁層中に厚みの異なる導体層が形成され、当該厚みの異なる導体層の仮想中心線が同一面上にあることを特徴とする多層プリント配線板により上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の多層プリント配線板によれば、同一絶縁層中の厚みの異なる導体層の仮想中心線が同一面上になるように厚みの異なる導体層が形成されているため、3Dプリンタにて造形した絶縁層にガラス繊維が含まれない多層プリント配線板であっても反りが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明多層プリント配線板の実施の形態を示す概略断面説明図。
【
図2】多層プリント配線板において、最外層にダミーパターンを設けた例を示す概略断面説明図。
【
図3】本発明多層プリント配線板の製造例を示す概略断面工程図。
【
図8】3Dプリンタにて造形した従来の多層プリント配線板の概略断面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明多層プリント配線板の実施の形態を
図1を用いて説明する。
【0012】
図1において、100は多層プリント配線板で、第1の絶縁層4と、当該第1の絶縁層4の上下に積層された第2の絶縁層2、6と、当該第2の絶縁層2中に形成された厚みの異なる導体層1、3と、第2の絶縁層6中に形成された厚みの異なる導体層5、7とから構成されている。
図1に示したように、第2の絶縁層2中に形成された厚みの異なる導体層1、3の仮想中心線8は同一面上にある。同様に、第2の絶縁層6中に形成された厚みの異なる導体層5、7の仮想中心線8’は同一面上にある。尚、仮想中心線とは、導体層の上下の中心を通る仮想線である。このようにそれぞれの第2の絶縁層中において、厚みの異なる導体層の仮想中心線が同一面上になるように導体層を形成することで、第1及び第2の絶縁層にガラス繊維等の補強材が含まれない場合であっても多層プリント配線板の反りが抑制される。
【0013】
この実施の形態では、それぞれの第2の絶縁層2、6中に厚みの厚い導体層1、5と、当該厚い導体層1、5より薄い導体層3、7の2種類の導体層が形成されている。厚みの異なる導体層の種類は、2種類に限らず、3種類、4種類、5種類等任意に選択することができる。導体層は、絶縁層と比べて、銀等の金属フィラーの含有量が多く、硬化後はかなり硬いため、厚みの異なる導体層が形成されることで反りの抑制に効果がある。
【0014】
また、この実施の形態では、第2の絶縁層2、6中に形成された導体層1、3,5及び7が、第1の絶縁層4を中心にして上下対称構造になっている。当該上下対称構造を取ることにより、一層反りが抑制される。
【0015】
続いて、多層プリント配線板において、ダミーパターンを設けた例について
図2を用いて説明する。
図2において、200は多層プリント配線板で、第1の絶縁層4の上下に積層された第2の絶縁層2、6のそれぞれの最外層の空きスペースにダミーパターン9を設けたこと以外は
図1に示す多層プリント配線板100と同一構成となっている。
この実施の形態では、2つのダミーパターン9がそれぞれの最外層の空きスペースに設けられている。当該ダミーパターン9は、部品実装パッド又はグランド層でも構わない。
最外層の空きスペースにダミーパターン9を設けることによって、多層プリント配線板の剛性を強化することが可能になる。また、導体層として使用されている導電性インクは、金属フィラーである銀が多く含有されているため、3Dプリンタで形成される絶縁層と比べ、剛性が非常に強い。そのため、多層プリント配線板の反りを抑制するのにさらなる効果を発揮する。
【0016】
続いて、3Dプリンタを用いた上記本発明の多層プリント配線板100の製造方法を
図3~
図7を用いて説明する。尚、3Dプリンタの造形方式としては、例えば、紫外線等の特定の波長の光照射により光硬化性樹脂を硬化させる光造形法、粉末状の素材にレーザーを照射して焼結させる粉末法、熱可塑性樹脂を熱で溶融、積層させる熱溶解積層法等が挙げられる。また、素材としては、樹脂素材、金属等が挙げられる。以下では、光造形法を利用した製造例を説明する。
【0017】
まず、
図3(a)に示したように、テープル(図示せず)にポリエステル板(BF)をセットし、予め作成した設計データを読み込ませた3Dプリンタの印刷ヘッド(図示せず)から導電性インクを塗布し、赤外線硬化(150℃から250℃)する工程を繰り返し、30μmの厚みの導体層1aを形成する。
導電性インクは、金属(銀、銅等)ナノペーストが使用される。なかでも、導通抵抗値の安定化を考慮して、銀ナノインクを使用することが好ましい。銀ナノインクには、適宜溶媒が含まれている。銀ナノインクの粒径は、20nmから150nmであることが好ましい。
印刷ヘッドから導電性インクを塗布し、赤外線硬化する工程は、導体層が所定の厚みになるまで繰り返す。1回の導電性インクの塗布と赤外線硬化により0.1μmから1.0μmの厚みの導体層が形成される。例えば、最低導体厚(1μmから)の導体層を形成するには、通常、10回導電性インクの塗布と赤外線硬化を繰り返すことになる。
【0018】
次いで、
図3(b)に示したように、別の印刷ヘッド(図示せず)を用いて、ポリエステル板(BF)上に絶縁性インクを塗布し、紫外線にて硬化する工程を繰り返し、30μmの厚みの絶縁層2aを形成する。
絶縁性インクは、紫外線硬化型のインクであり、光重合性モノマー、光重合性オリゴマー、光硬化剤等が含まれる。絶縁樹脂としては、ポリエステル、ポリエチレン、ポリビニールアルコール、ポリビニールアセテート、ポリメチルメタアクリレート、又はこれらのうちの複数の混合物、もしくはコポリマーを含む組み合わせが挙げられる。
絶縁性インクを塗布後、紫外線照射にて素早く硬化されるため、次のステップに直ぐに移ることが可能である。
印刷ヘッドから絶縁性インクを塗布し、紫外線硬化する工程は、絶縁層が所定の厚みになるまで繰り返す。1回の絶縁性インクの塗布と紫外線硬化により、好ましくは1μmから10μm、より好ましくは3μmから5μmの範囲の絶縁層が形成される。少なくとも絶縁層の厚みが10μm以上あれば絶縁性が確保できる。
【0019】
次いで、
図3(c)に示したように、印刷ヘッド(図示せず)から導電性インクを塗布し、赤外線硬化する工程を繰り返し、いずれも10μmの厚みの導体層1bと3を形成した後、
図3(d)に示したように、別の印刷ヘッド(図示せず)を用いて、絶縁性インクを塗布し、紫外線にて硬化する工程を繰り返し、10μmの厚みの絶縁層2bを形成する。
【0020】
次いで、
図4(e)に示したように、導体層1b上に印刷ヘッド(図示せず)から導電性インクを塗布し、赤外線硬化する工程を繰り返し、30μmの厚みの導体層1cを形成した後、
図4(f)に示したように、別の印刷ヘッド(図示せず)を用いて、絶縁性インクを塗布し、紫外線にて硬化する工程を繰り返し、30μmの絶縁層2cを形成する。
これによって、絶縁層2と、当該絶縁層2中に厚みの異なる導体層1、3とが形成される。
【0021】
次いで、
図4(g)に示したように、別の印刷ヘッド(図示せず)を用いて、絶縁層2上に絶縁性インクを塗布し、紫外線にて硬化する工程を繰り返し、70μmの絶縁層4を形成する。
【0022】
次いで、
図3(a)から
図4(f)までの工程を繰り返す。すなわち、
図5(h)に示したように、印刷ヘッド(図示せず)から導電性インクを塗布し、赤外線硬化する工程を繰り返し、30μmの厚みの導体層5aを形成した後、
図5(i)に示したように、別の印刷ヘッド(図示せず)を用いて、絶縁性インクを塗布し、紫外線にて硬化する工程を繰り返し、30μmの絶縁層6aを形成する。
次いで、
図5(j)に示したように、印刷ヘッド(図示せず)から導電性インクを塗布し、赤外線硬化する工程を繰り返し、10μmの厚みの導体層5bと7を形成した後、
図6(k)に示したように、別の印刷ヘッド(図示せず)を用いて、絶縁性インクを塗布し、紫外線にて硬化する工程を繰り返し、10μmの厚みの絶縁層6bを形成する。
次いで、
図6(l)に示したように、導体層5b上に印刷ヘッド(図示せず)から導電性インクを塗布し、赤外線硬化する工程を繰り返し、30μmの厚みの導体層5cを形成した後、
図6(m)に示したように、別印刷のヘッド(図示せず)を用いて、絶縁性インクを塗布し、紫外線にて硬化する工程を繰り返し、30μmの絶縁層6cを形成する。
これによって、絶縁層6と、当該絶縁層6中に厚みの異なる導体層5、7とが形成される。
最後に、ポリエステル板(BF)を剥がすことによって多層プリント配線板を得、当該多層プリント配線板を130℃から180℃にて2時間から3時間ベーキングして、
図7(n)に示す多層プリント配線板100を得る。
【符号の説明】
【0023】
1(1a、1b、1c):厚い導体層
2(2a、2b、2c):第2の絶縁層
3、7:薄い導体層
4:第1の絶縁層
5(5a、5b、5c):厚い導体層
6(6a、6b、6c):第2の絶縁層
8、8’:仮想中心線
9:ダミーパターン
100、200:多層プリント配線板
300:3Dプリンタにて造形した従来の多層プリント配線板