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特開2024-166964エンジン制御装置およびエンジン装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166964
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】エンジン制御装置およびエンジン装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/22 20060101AFI20241122BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20241122BHJP
   F02D 41/30 20060101ALI20241122BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20241122BHJP
   F02D 11/10 20060101ALI20241122BHJP
   F02D 9/02 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
F02D41/22
F02D41/04
F02D41/30
F02D45/00 362
F02D11/10 Q
F02D11/10 E
F02D9/02 341C
F02D9/02 N
F02D9/02 351A
F02D45/00 345
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083414
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110003502
【氏名又は名称】弁理士法人芳野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊賀 達介
(72)【発明者】
【氏名】田中 智隆
(72)【発明者】
【氏名】青木 宏介
(72)【発明者】
【氏名】川添 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】日高 謙吾
【テーマコード(参考)】
3G065
3G301
3G384
【Fターム(参考)】
3G065CA31
3G065DA04
3G065GA42
3G301JB08
3G301LB01
3G301LB11
3G301MA11
3G301PE01
3G384BA03
3G384BA13
3G384CA25
3G384DA44
(57)【要約】
【課題】エンジンのリンプホームモードにおいて安定した自走を可能とするエンジン制御装置およびエンジン装置を提供すること。
【解決手段】エンジン制御装置2は、エンジンの回転数を検出する回転数検出部24と、電子スロットル機構6によるスロットル弁61の開度、インジェクタ31による燃料の噴射量を演算する演算部21と、を備え、エンジン3のリンプホームモードでの動作において、演算部21は、回転数検出部24で検出したエンジン3の回転数が予め設定された制限値を越えた場合、インジェクタ31による燃料の噴射を抑制する演算を行うことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子スロットル機構および燃料噴射機構を備えたエンジンを制御するエンジン制御装置であって、
前記エンジンの回転数を検出する回転数検出部と、
前記電子スロットル機構によるスロットル弁の開度、前記燃料噴射機構による燃料の噴射量を演算する演算部と、
を備え、
前記エンジンのリンプホームモードでの動作において、前記演算部は、前記回転数検出部で検出した前記エンジンの回転数が予め設定された制限値を越えた場合、前記燃料噴射機構による燃料の噴射を抑制する演算を行うことを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項2】
前記エンジンのリンプホームモードでの動作において、前記演算部は、前記回転数検出部で検出した前記エンジンの回転数が前記制限値以下の場合、通常動作モードと同じ演算によって前記燃料噴射機構による燃料の噴射量を決定することを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記電子スロットル機構は、前記スロットル弁を回転させる弁回転機構部を有し、
前記弁回転機構部は、前記電子スロットル機構の電子制御が不能になった際に前記スロットル弁を機械的な中立位置にするように構成され、
前記弁回転機構部は、前記スロットル弁の前記中立位置に対する回転方向の公差を有し、
前記弁回転機構部を基準位置に取り付けた際、前記中立位置に対する前記公差における前記スロットル弁を閉じる側の最大公差になっていた場合に、前記リンプホームモードで自走可能な下限回転数以上になるように設定されることを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記制限値は、前記エンジンの後段のクラッチが接続された状態で前記エンジンの出力を伝達する駆動ギアを噛み合わせることが可能な上限回転数であることを特徴とする請求項3に記載のエンジン制御装置。
【請求項5】
電子スロットル機構および燃料噴射機構を制御するエンジン制御装置と、エンジンの出力によって駆動される駆動機構と、を備えたエンジン装置であって、
前記駆動機構は、
前記エンジンの後段に設けられるクラッチと、
前記クラッチの後段に設けられ、前記エンジンの出力を伝達する駆動ギアを含む伝達部と、を有し、
前記エンジン制御装置は、
前記エンジンの回転数を検出する回転数検出部と、
前記電子スロットル機構によるスロットル弁の開度、前記燃料噴射機構による燃料の噴射量を演算する演算部と、を有し、
前記エンジンのリンプホームモードでの動作において、前記演算部は、前記回転数検出部で検出した前記エンジンの回転数が予め設定された制限値を越えた場合、前記燃料噴射機構による燃料の噴射を抑制する演算を行うことを特徴とするエンジン装置。
【請求項6】
前記エンジンのリンプホームモードでの動作において、前記演算部は、前記回転数検出部で検出した前記エンジンの回転数が前記制限値以下の場合、通常動作モードと同じ演算によって前記燃料噴射機構による燃料の噴射量を決定することを特徴とする請求項5に記載のエンジン装置。
【請求項7】
前記電子スロットル機構は、前記スロットル弁を回転させる弁回転機構部を有し、
前記弁回転機構部は、前記電子スロットル機構の電子制御が不能になった際に前記スロットル弁を機械的な中立位置にするように構成され、
前記弁回転機構部は、前記スロットル弁の前記中立位置に対する回転方向の公差を有し、
前記弁回転機構部を基準位置に取り付けた際、前記中立位置に対する前記公差における前記スロットル弁を閉じる側の最大公差になっていた場合に、前記リンプホームモードで自走可能な下限回転数以上になるように設定されることを特徴とする請求項5に記載のエンジン装置。
【請求項8】
前記制限値は、前記クラッチが接続された状態で前記駆動ギアを噛み合わせることが可能な上限回転数であることを特徴とする請求項6に記載のエンジン装置。
【請求項9】
前記クラッチは、遠心クラッチであることを特徴とする請求項8に記載のエンジン装置。
【請求項10】
前記伝達部は、前記クラッチと前記駆動ギアとの間に設けられるベルト式無断変速機を含むことを特徴とする請求項9に記載のエンジン装置。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子スロットル機構および燃料噴射機構を備えたエンジンを制御するエンジン制御装置およびエンジン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子スロットル機構によってスロットル弁の開度を制御するエンジン装置において、電子スロットル機構に何らかの不具合が生じた場合、機械的に維持されるスロットル弁の開度によって自走可能にするリンプホームモードでの制御が行われる。
【0003】
特許文献1には、電子スロットル制御系の異常発生時における退避運転性能を向上するエンジン制御装置が開示される。このエンジン制御装置では、重度異常発生時は第一の異常記憶素子が動作し、スロットル弁開閉制御用モ-タの電源回路用負荷リレーを消勢して第一の警報・表示器を作動させ、燃料カット制御による第一の手段による退避運転を行い、軽度異常発生時は第二の異常記憶素子が動作し、第二の警報・表示器を動作させ、モ-タによるスロットル弁開度制御と燃料カット制御を併用した第二の手段による退避運転を行う構成になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-161194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エンジンのリンプホームモードでは、スロットル弁を電子的に制御できないことから、機械的に維持される開度(デフォルト開度)で自走可能にする必要がある。ここで、デフォルト開度はスロットル弁を回転させる弁回転機構部の公差の範囲でばらつきが生じる。このため、デフォルト開度の公差によるばらつきを考慮して、リンプホームモードでの安定した自走を可能にすることが望まれる。
【0006】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、エンジンのリンプホームモードにおいて安定した自走を可能とするエンジン制御装置およびエンジン装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、電子スロットル機構および燃料噴射機構を備えたエンジンを制御するエンジン制御装置であって、前記エンジンの回転数を検出する回転数検出部と、前記電子スロットル機構によるスロットル弁の開度、前記燃料噴射機構による燃料の噴射量を演算する演算部と、を備え、前記エンジンのリンプホームモードでの動作において、前記演算部は、前記回転数検出部で検出した前記エンジンの回転数が予め設定された制限値を越えた場合、前記燃料噴射機構による燃料の噴射を抑制する演算を行うことを特徴とするエンジン制御装置である。
【0008】
本発明の他の一態様は、電子スロットル機構および燃料噴射機構を制御するエンジン制御装置と、エンジンの出力によって駆動される駆動機構と、を備えたエンジン装置であって、前記駆動機構は、前記エンジンの後段に設けられるクラッチと、前記クラッチの後段に設けられ、前記エンジンの出力を伝達する駆動ギアを含む伝達部と、を有し、前記エンジン制御装置は、前記エンジンの回転数を検出する回転数検出部と、前記電子スロットル機構によるスロットル弁の開度、前記燃料噴射機構による燃料の噴射量を演算する演算部と、を有し、前記エンジンのリンプホームモードでの動作において、前記演算部は、前記回転数検出部で検出した前記エンジンの回転数が予め設定された制限値を越えた場合、前記燃料噴射機構による燃料の噴射を抑制する演算を行うことを特徴とするエンジン装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エンジンのリンプホームモードにおいて安定した自走を可能とするエンジン制御装置およびエンジン装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係るエンジン制御装置およびエンジン装置の概要を説明するブロック図である。
図2】本実施形態に係るエンジン制御装置の制御の一例を説明するフローチャートである。
図3】エンジン回転数と弁回転機構部の公差との関係の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明を適宜省略する。
【0012】
(エンジン制御装置)
図1は、本実施形態に係るエンジン制御装置およびエンジン装置の概要を説明するブロック図である。
本実施形態に係るエンジン制御装置2は、エンジン3のスロットル弁61を電子的に駆動する電子スロットル機構6および燃料を噴射するインジェクタ(燃料噴射機構)31の駆動を制御する。図1に表したように、本実施形態に係るエンジン制御装置2は、電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)の一部として機能する。なお、図1に表した例では、3つのインジェクタ31がエンジン3に設けられている。但し、インジェクタ31の設置数は、3つに限定されるわけではなく、2つであってもよく、4つ以上であってもよい。すなわち、エンジン3の気筒数は、3つに限定されるわけではなく、2つであってもよく、4つ以上であってもよい。
【0013】
図1に表したエンジン制御装置2は、演算部21と、インジェクタ駆動部22と、スロットル駆動部23と、回転数検出部24と、を備える。図1に表したように、エンジン回転数に関する検出信号およびクランク角度に関する検出信号が、エンジン3からエンジン制御装置2に入力される。また、アクセル開度に関する検出信号がアクセルセンサ4からエンジン制御装置2に入力され、スロットル開度に関する検出信号が、スロットルセンサ5からエンジン制御装置2に入力され、エンジン3のインテークマニホールド内の吸気圧に関する検出信号が、吸気圧センサ8からエンジン制御装置2に入力される。
【0014】
演算部21は、インジェクタ31から噴射される燃料の噴射時期および噴射量の演算を実行する。例えば、演算部21は、回転数検出部24で検出したエンジン回転数に関する検出信号と、吸気圧センサ8から送信された吸気圧に関する検出信号と、に基づいて、予め設定されたガバナマップ(図示せず)を用いて燃料の噴射量の演算を実行する。また、演算部21は、例えばガバナマップを用いて設定した燃料の噴射量に基づいて、予め設定された噴射期間マップ(図示せず)を用いてインジェクタ31の通電期間(すなわち通電時間)の演算を実行する。このように、燃料の噴射量は、例えばインジェクタ31の通電期間により制御される。本実施形態の演算部21としては、例えばCPU(Central Processing Unit:中央演算装置)などが挙げられる。
【0015】
インジェクタ駆動部22は、演算部21により演算された燃料の噴射時期および噴射量に基づいて、インジェクタ31の駆動を制御する。例えば、インジェクタ駆動部22は、演算部21により演算された燃料の噴射時期および噴射量に関する制御信号をインジェクタ31に送信する。あるいは、例えば、インジェクタ駆動部22は、演算部21により演算された燃料の噴射時期および噴射量に基づいて、昇圧回路(図示せず)により生成される昇圧電圧(例えばコンデンサのチャージ電圧)やバッテリ(図示せず)から供給される電圧をインジェクタ31に供給する。これにより、インジェクタ31のニードル弁が開き、燃料噴射が開始する。そして、インジェクタ31の通電を開始した時点から演算部21により設定されたインジェクタ31の通電期間が経過すると、インジェクタ駆動部22は、インジェクタ31に対する電圧の供給を停止する。これにより、インジェクタ31のニードル弁が閉じ、燃料噴射が終了する。
【0016】
スロットル駆動部23は、演算部21により演算されたスロットル開度に基づいてスロットル弁61の駆動を制御する。例えば、スロットル駆動部23は、アクセルセンサ4で検知したアクセル開度の信号に基づき演算部21で演算したスロットル開度の信号を受けて、電子スロットル機構6にスロットル弁61を駆動するための制御信号(スロットル制御信号)を送る。電子スロットル機構6は、スロットル駆動部23から送られた制御信号を受けて弁回転機構部62を動作させる。
【0017】
弁回転機構部62は、スロットル弁61の回転軸を回転させる駆動源となるモータと、モータの回転をスロットル弁61の回転軸に伝えるリンク機構とを有する。弁回転機構部62の少なくともリンク機構はエンジン3に取り付けられる。リンク機構にはスプリングなどの付勢手段が設けられており、モータに信号が送られていない状態でスロットル弁61を機械的な中立位置に維持できるようになっている。
【0018】
スロットル駆動部23から電子スロットル機構6にスロットル制御信号が送られている状態では、電子スロットル機構6はスロットル制御信号に基づきスロットル弁61の所定の開度を得るように弁回転機構部62のモータを駆動する。このモータの駆動をリンク機構によってスロットル弁61の回転軸に伝えることで、スロットル弁61を回転させる。
【0019】
例えば、アクセルが操作されていない状態(アクセル全閉)をアクセルセンサ4によって検出している場合、スロットル弁61を最も閉じる方向に回転させるためのスロットル制御信号がスロットル駆動部23から電子スロットル機構6へ送られる。これを受けた電子スロットル機構6は弁回転機構部62のモータを駆動し、スロットル弁61を機械的な中立位置から最も閉じる方向に回転させる。
【0020】
また、アクセルが所定量操作された状態のアクセル開度をアクセルセンサ4によって検出している場合、アクセル開度に応じたスロットル弁61の角度に回転させるためのスロットル制御信号がスロットル駆動部23から電子スロットル機構6へ送られる。これを受けた電子スロットル機構6は弁回転機構部62のモータを駆動し、スロットル弁61を機械的な中立位置から所定量開く方向に回転させる。
【0021】
このように、アクセル開度に応じて弁回転機構部62のモータが駆動され、このモータの駆動をリンク機構によってスロットル弁61の回転軸に伝え、スロットル弁61の角度(スロットル開度)が決まることになる。このような電子スロットル機構6では、アクセル開度に応じたスロットル弁61の角度をスロットル駆動部23の演算によって決定することから、走行状況や設定された走行モードなどに応じてアクセル開度とスロットル開度との関係を変更できるようになる。
【0022】
(エンジン装置)
本実施形態に係るエンジン装置1は、例えば小型走行車や、建設機械、農業機械などの走行可能な産業機械のエンジン3に搭載される。エンジン装置1は、上記説明した本実施形態に係るエンジン制御装置2と、エンジン3の出力によって駆動される駆動機構7と、を備える。駆動機構7は、エンジン3の後段に設けられエンジン3の出力を断続するクラッチ71と、クラッチ71の後段に設けられエンジン3の出力を伝達する伝達部72と、を有する。伝達部72は駆動ギア73を含む。
【0023】
クラッチ71は、例えば遠心クラッチである。遠心クラッチは、エンジン3の出力が所定の回転数以上になることで接続される。伝達部72は、例えばベルト式無断変速機である。ベルト式無断変速機は、回転数によって幅が変化するプーリと、このプーリに掛けられたベルトと、によって無段階に変速することができる。
【0024】
エンジン装置1では、アクセルによってスロットル弁61の開度が電子的に制御されるとともに、エンジン回転数、スロットル開度およびクランク角度などによってインジェクタ31による燃料の噴射時期および噴射量が制御される。そして、エンジン3の出力がクラッチ71および伝達部72を介してタイヤなどの駆動体に伝達される。
【0025】
このようなエンジン装置1において、電子スロットル機構6に何らかの不具合が生じた場合、緊急回避的に自走できるようにするリンプホームモードでの制御が行われる。例えば、スロットル駆動部23から電子スロットル機構6までのスロットル制御信号の伝送経路に不良が発生したり、電子スロットル機構6に不具合が発生したりしてスロットル弁61を回転させるモータを動作できなくなった場合、エンジン制御装置2は、通常モードからリンプホームモードへ移行する。
【0026】
リンプホームモードでは、電子スロットル機構6によるスロットル弁61のモータによる駆動が行えない状態であり、この場合、スロットル弁61は、エンジン3に取り付けられた弁回転機構部62によって機械的に維持される開度(デフォルト開度)に固定された状態(デフォルト開度から変更できない状態)となる。ここで、デフォルト開度には、スロットル弁61を回転させる弁回転機構部62の公差の範囲でばらつきが生じ得る。この弁回転機構部62の公差は、スロットル弁61の角度において例えば±数度である。
【0027】
本実施形態では、弁回転機構部62によるスロットル弁61のデフォルト開度の公差によるばらつきを考慮して、リンプホームモードでのエンジン制御を行う。すなわち、エンジン3がリンプホームモードで制御される場合、エンジン制御装置2の演算部21は、回転数検出部24で検出したエンジン3の回転数が予め設定された制限値を越えた場合、インジェクタ31による燃料の噴射を抑制する演算を行う。この演算における燃料の噴射の抑制は、エンジン3の回転数が予め設定された制限値を越えないように噴射量を減少させたり、燃料の噴射を少なくとも一時的に停止したりすることを含む。これにより、エンジン3のフェイルセーフモードであるリンプホームモードに移行して動作している状態で、エンジン3の回転数が規定の回転数以上に上昇することが防止される。
【0028】
一方、リンプホームモードでの動作において、演算部21は、回転数検出部24で検出したエンジン3の回転数が先に説明した制限値(燃料噴射抑制を行うエンジン回転数)以下の場合、通常動作モードと同じ演算によってインジェクタ31による燃料の噴射量を決定するようにしてもよい。これにより、リンプホームモードにおいてエンジン3の回転数が予め設定された制限値以下の場合、通常動作モードと同じ噴射量で燃料を噴射することから、リンプホームモードであっても良好に自走可能となる。
【0029】
図2は、本実施形態に係るエンジン制御装置の制御の一例を説明するフローチャートである。
先ず、ステップS101に示すように、演算部21はエンジン3の異常を検出したか否かの判断を行う。異常を検出していない場合にはステップS102に示す通常運転モードでの制御が行われる。一方、演算部21はエンジン3の異常を検出した場合、ステップS103に示すように、リンプホームモードへ移行するか否かを判断する。
【0030】
ステップS103の判断でリンプホームモードへ移行しないと判断した場合、ステップS104に示すように演算部21はエンジン3を停止するか否かの判断を行う。エンジン3を停止しないと判断した場合、演算部21はステップS105に示すように警告を行う。一方、エンジン3を停止すると判断した場合、演算部21はステップS106に示すようにエンジン3を停止する制御を行う。
【0031】
ステップS103の判断でリンプホームモードへ移行すると判断した場合、演算部21はステップS107に示すように、リンプホームモードでの運転へ移行する制御を行う。リンプホームモードへ移行した状態で、演算部21は、ステップS108に示すように、制限回転数を超えているか否かを判断する。すなわち、リンプホームモードにおいて、演算部21は回転数検出部24で検出したエンジン3の回転数が予め設定された制限値を越えているか否かを判断する。エンジン3の回転数がこの制限値を越えている場合、ステップS109に示すように、演算部21は燃料抑制を行う。
【0032】
燃料抑制を行う場合、演算部21はインジェクタ駆動部22に燃料抑制の制御信号を送る。これにより、インジェクタ駆動部22は、インジェクタ31からの燃料の噴射量を抑制または停止(一時的な停止を含む)するための信号を送る。この燃料抑制を行う間、演算部21は回転数検出部24で検出したエンジン3の回転数の信号を受けて、エンジン3の回転数が制限値を越えないようにインジェクタ31からの燃料の噴射量を制御するための信号をインジェクタ駆動部22へ送る。これにより、リンプホームモードにおいてエンジン3の回転数が制限値を越えないように自走可能な回転数に維持される。
【0033】
ここで、弁回転機構部62をエンジン3の基準位置に取り付けた際、中立位置が弁回転機構部62の公差におけるスロットル弁61を閉じる側の最大公差(マイナス最大公差)になっていた場合に、リンプホームモードで自走可能なエンジン3の下限回転数以上になるように設定されることが望ましい。これにより、弁回転機構部62がマイナス最大公差で取り付けられていた場合でも、リンプホームモードで自走可能な下限回転数以上が維持されることから、良好に自走することが可能となる。
【0034】
図3は、エンジン回転数と弁回転機構部の公差との関係の一例を説明する図である。
図3に表した横軸はエンジン3の回転数を示し、横棒Dは弁回転機構部62の公差によるエンジン3の回転数の幅を示している。
先に説明したように、弁回転機構部62にはスロットル弁61の機械的な中立位置について回転方向の公差がある。すなわち、弁回転機構部62がエンジン3の基準位置に取り付けられており、この状態でスロットル弁61の開度が機械的な中立位置にあったとしても、この公差の範囲でエンジン3の回転数はばらつくことになる。図3に表される横棒Dは、マイナス最大公差になっている場合(スロットル弁61が閉じる側に最もずれた場合)のスロットル弁61の中立位置でのエンジン3の回転数から、プラス最大公差になっている場合(スロットル弁61が開く側に最もずれた場合)のスロットル弁61の中立位置でのエンジン3の回転数までの幅を示している。
【0035】
ここで、エンジン3の回転数とエンジン装置1の動作状態との関係として、クラッチ71の接続が開始されるエンジン3の回転数を回転数N1とし、クラッチ71が接続された後、自走可能なエンジン3の回転数を回転数N2とする(回転数N2>回転数N1)。また、クラッチ71が接続された状態で伝達部72における駆動ギア73を噛み合わせることが可能なエンジン3の上限回転数を回転数N3とする。
【0036】
例えば、駆動ギア73が噛み合わされていない状態(ニュートラルポジション)から駆動可能な状態(例えば、ドライブポジション)に駆動ポジションを移行させる場合、クラッチ71が接続された状態(駆動機構7にエンジン3の出力が伝達されている状態)で駆動ギア73を噛み合わせることが可能なエンジン3の上限回転数が回転数N3である。
【0037】
具体的な一例として、クラッチ71が接続された状態で駆動ギア73を噛み合わせようとした際にギア鳴りが生じて弾かれてしまう(駆動ギア73が噛み合わせられない)下限のエンジン3の回転数を回転数N3’とした場合、回転数N3’よりも僅かに低い回転数(ギア鳴りはするが駆動ギア73を噛み合わせることができる回転数)が回転数N3である。
【0038】
本実施形態では、一例として、弁回転機構部62を取り付けるエンジン3の基準位置を、スロットル弁61の中立位置がスロットル弁61を閉じる側の最大公差(マイナス最大公差)になっていたとしても自走可能な回転数N2以上になるように設定しておく。これにより、エンジン3の基準位置に取り付けた弁回転機構部62がマイナス最大公差のものであったとしても、リンプホームモードで自走可能な下限回転数である回転数N2以上が維持され、良好に自走可能となる。
【0039】
一方、このようにマイナス最大公差の弁回転機構部62が取り付けられても回転数N2以上になるように弁回転機構部62の取り付け基準位置を設定した場合、逆にスロットル弁61を開ける側の最大公差(プラス最大公差)の弁回転機構部62が取り付けられると、スロットル弁61の中立位置においてエンジン3の回転数が回転数N3を越える回転数N4になる可能性がある。エンジンの回転数が回転数N3’を越える回転数N4になっていると、駆動ギア73を噛み合わせることができない。すなわち、リンプホームモードにおいてニュートラルポジションからドライブポジションにしても駆動ギア73を噛み合わせることができず、自走できないことになる。
【0040】
そこで、本実施形態では、演算部21により、回転数検出部24で検出したエンジン3の回転数が回転数N2と回転数N3との間の回転数Ncになった場合、インジェクタ31による燃料の噴射を抑制する制御を行う。つまり、マイナス最大公差の弁回転機構部62が取り付けられても回転数N2以上になるように弁回転機構部62の取り付け基準位置を設定した上で、リンプホームモードで動作させる際、エンジン3の回転数が予め設定された制限値である回転数Nc(回転数Nc<回転数N3)を越えた場合、インジェクタ31による燃料の噴射を抑制してエンジン3の回転数が回転数N3を越えないようにする。これにより、リンプホームモードにおいて、どのような公差の弁回転機構部62が取り付けられていても、自走可能な回転数N2以上で、かつ駆動ギア73を噛み合わせることが可能な回転数N3を越えないエンジン3の回転数にすることができる。したがって、リンプホームモードで良好かつ確実に自走可能なエンジン3の回転数に制御することが可能となる。
【0041】
このような本実施形態によれば、エンジン3のリンプホームモードにおいて安定した自走を可能とするエンジン制御装置2およびエンジン装置1を提供することができる。
【0042】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。上記実施形態の構成は、その一部を省略したり、上記とは異なるように任意に組み合わせたりすることができる。
【符号の説明】
【0043】
1…エンジン装置、2…エンジン制御装置、3…エンジン、4…アクセルセンサ、5…スロットルセンサ、6…電子スロットル機構、7…駆動機構、21…演算部、22…インジェクタ駆動部、23…スロットル駆動部、24…回転数検出部、31…インジェクタ、61…スロットル弁、62…弁回転機構部、71…クラッチ、72…伝達部、73…駆動ギア



図1
図2
図3