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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166965
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】触感評価方法、および触感評価装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 11/00 20060101AFI20241122BHJP
   G01N 33/32 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
G01N11/00 C
G01N33/32
G01N11/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083415
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 崇訓
(72)【発明者】
【氏名】橋本 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】川岸 明菜
(57)【要約】
【課題】特徴量の取得タイミングに応じて所定の時間重み付け値を付加処理して触感または触感を生み出す物性の触感評価方法、および、触感または触感を生み出す物性の評価装置を提供する。
【解決手段】物体に接触させた動作体を繰り返し動作させて物体と動作体との間に生じる力学的物理量の時系列データを取得する取得工程と、取得した力学的物理量の時系列データから所定期間ごとに特徴量を算出する特徴量算出工程と、特徴量に対し、当該特徴量が、取得した前記力学的物理量の時系列データにおけるいずれの時間帯に対応するものであるかに応じて所定の時間重み付け値を付加処理し、時間重み付け値を付加処理した特徴量を用いて物体の触感値を特定する触感値特定工程と、を含む、触感評価方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体に接触させた動作体を繰り返し動作させて前記物体と前記動作体との間に生じる力学的物理量の時系列データを取得する取得工程と、
取得した前記力学的物理量の時系列データから所定期間ごとに特徴量を算出する特徴量算出工程と、
前記特徴量に対し、当該特徴量が、取得した前記力学的物理量の前記時系列データにおけるいずれの時間帯に対応するものであるかに応じて所定の時間重み付け値を付加処理し、前記時間重み付け値を付加処理した特徴量を用いて前記物体の触感値を特定する触感値特定工程と、を含む触感評価方法。
【請求項2】
前記特徴量は、前記力学的物理量、前記力学的物理量の統計量、前記力学的物理量または前記力学的物理量の統計量の所定閾値以上の値であるスパイク信号量、ならびに前記力学的物理量の統計量である平均値またはばらつきから算出した特徴量の1つである請求項1に記載の触感評価方法。
【請求項3】
前記特徴量算出工程は、取得した前記力学的物理量の時系列データから所定期間ごとに複数種類の特徴量を算出し、
前記複数種類の時間重み付け値を付加処理した特徴量のうち少なくとも2種類の特徴量の相関関係を示す指標を算出する指標算出工程と、
算出した前記指標に基づいて時間の経過に伴い変化する前記物体の触感または当該触感を生み出す物性を評価する評価工程と、をさらに含む請求項1または2いずれかに記載の触感評価方法。
【請求項4】
前記指標算出工程は、前記指標と前記複数種類のうち何れかの特徴量との、ずれ度合いを算出し、
前記評価工程は、前記ずれ度合いに基づいて時間の経過に伴い変化する前記物体の触感または当該触感を生み出す物性を評価する請求項3に記載の触感評価方法。
【請求項5】
前記評価工程は、前記複数種類の時間重み付け値を付加処理した特徴量のうち何れかの特徴量と前記指標と、に基づいて時間の経過に伴い変化する前記物体の触感または当該触感を生み出す物性を評価する請求項3に記載の触感評価方法。
【請求項6】
前記複数種類の特徴量は、前記力学的物理量、前記力学的物理量の統計量、前記力学的物理量または前記力学的物理量の統計量の所定閾値以上の値であるスパイク信号量、ならびに前記力学的物理量の統計量である平均値またはばらつきから算出した特徴量の少なくとも1つを含み、
前記評価工程は、前記力学的物理量の大きさと前記スパイク信号量の大きさとの相関関係に基づき、前記物体の触感または当該触感を生み出す物性を評価する請求項3から5いずれか一項に記載の触感評価方法。
【請求項7】
前記触感値特定工程は、前記所定期間ごとの前記特徴量に対し、人が物体を触り知覚する際の知覚強度係数を付加処理し、知覚強度係数を付加処理した特徴量を用いて前記物体の触感値を特定する請求項1から6いずれか一項に記載の触感評価方法。
【請求項8】
前記知覚強度係数は、前記人が物体を触り知覚する際の環境に基づき決定する請求項7に記載の触感評価方法。
【請求項9】
前記物体に評価対象の剤を含む複数種類の剤をそれぞれ適用し、
前記取得工程は、前記複数種類の剤毎に前記力学的物理量の時系列データを取得し、
前記特徴量算出工程は、前記複数種類の剤毎に前記複数種類の特徴量を算出し、
前記指標算出工程は、
前記複数種類の剤の前記複数種類の特徴量のうち少なくとも2種類の特徴量の相関関係を示す標準指標と、
前記標準指標と前記評価対象の剤の前記複数種類のうち何れかの特徴量との、ずれ度合いと、をさらに算出し、
前記評価工程は、前記ずれ度合いに基づいて前記評価対象の剤を適用したときの前記物体の触感または当該触感を生み出す物性を評価する請求項3に記載の触感評価方法。
【請求項10】
複数種類の剤がそれぞれ適用された物体に接触させた被験者の肌を繰り返し動作させて前記物体と前記動作体との間に生じる力学的物理量の時系列データを取得し、
前記取得した前記複数種類の剤毎の力学的物理量の時系列データから所定期間ごとに特徴量を算出し、
前記被験者が前記肌を繰り返し動作させた際の官能評価結果を取得し、
前記特徴量と前記官能評価結果に基づき前記所定の時間重み付け値を算出し、
前記触感値特定工程では、算出された前記時間重み付け値を用いて前記付加処理を行うことを特徴とする請求項1から9いずれか一項に記載の触感評価方法。
【請求項11】
前記所定の時間重み付け値は、前記特徴量と前記官能評価結果に加えて、前記特徴量に対し、当該特徴量が、取得した前記力学的物理量の前記時系列データにおけるいずれの時間帯に対応するものであるか、および当該時間帯より前の時間帯に対応する前記特徴量に基づき算出することを特徴とする請求項10に記載の触感評価方法。
【請求項12】
物体に接触させた動作体を繰り返し動作させて前記物体と前記動作体との間に生じる力学的物理量の時系列データを取得する取得手段と、
前記取得した力学的物理量の時系列データから所定期間ごとに特徴量を算出する特徴量算出手段と、
前記特徴量に対し、当該特徴量が、取得した前記力学的物理量の前記時系列データにおけるいずれの時間帯に対応するものであるかに応じて所定の時間重み付け値を付加処理し、前記時間重み付け値を付加処理した特徴量を用いて前記物体の触感値を特定する触感値特定手段と、を含む触感評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触感評価方法、および触感評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
肌等に塗布された化粧料に動作体を接触させながら動作体を動かすことにより生じる振動を検出し、検出した振動の周波数スペクトルの経時的変化に基づき化粧料の使用触感を評価する評価方法がある(特許文献1)。
また、例えば、所定の剤を塗布した直後、および、所定時間経過後のように、複数のタイミングそれぞれにおいて、所定の剤の触感を評価する方法がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2019/039466号
【特許文献2】特開2016-204343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、振動の強度の時間変化を数値化しているにすぎず、触感の特徴やその変化について適切な評価を行うことができていなかった。
特許文献2は、複数のタイミングそれぞれにおいては所定の剤の触感を評価しているが、それぞれのタイミングで生じる物理量から、実際に人が感じる触感に近い評価を行うことについてはいまだ研究の余地があった。
【0005】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、物体と動作体を動作させたことにより物体との間に生じる力学的物理量の時系列データから算出した特徴量に対し、取得した力学的物理量の時系列データのいずれの所定期間であるかに応じて所定の時間重み付け値を付加処理し、物体の触感値を特定する触感評価方法および触感評価装置に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、物体に接触させた動作体を繰り返し動作させて前記物体と前記動作体との間に生じる力学的物理量の時系列データを取得する取得工程と、前記取得した力学的物理量の時系列データから所定期間ごとに特徴量を算出する特徴量算出工程と、前記特徴量に対し、当該特徴量が、取得した前記力学的物理量の前記時系列データにおけるいずれの時間帯に対応するものであるかに応じて所定の時間重み付け値を付加処理し、前記時間重み付け値を付加処理した特徴量を用いて前記物体の触感値を特定する触感値特定工程と、を含む触感評価方法に関する。
【0007】
また、本発明は、物体に接触させた動作体を繰り返し動作させて前記物体と前記動作体との間に生じる力学的物理量の時系列データを取得する取得手段と、前記取得した力学的物理量の時系列データから所定期間ごとに特徴量を算出する特徴量算出手段と、前記特徴量に対し、当該特徴量が、取得した前記力学的物理量の前記時系列データにおけるいずれの時間帯に対応するものであるかに応じて所定の時間重み付け値を付加処理し、前記時間重み付け値を付加処理した特徴量を用いて前記物体の触感値を特定する触感値特定手段と、を含む触感評価装置に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により提供される方法によれば、取得した力学的物理量の時系列データのいずれの時間帯に対応するものかに応じて所定の時間重み付け値を付加処理し、時間重み付け付加処理した特徴量を用いて物体の触感値を特定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(1)は洗浄時の評価者の肌表面にセンサを装着した指を接触させるイメージ図であり、(2)はすすぎ時の評価者の肌表面にセンサを装着した指を接触させるイメージ図である。
図2】(1)はSample1の時系列波形信号を示す図であり、(2)はSample3の時系列波形信号を示す図である。
図3】時系列波形信号から複数種類の特徴量を算出する概念図である。
図4】(1)はSample1のスパイク信号量を説明する図であり、(2)はSample2のスパイク信号量を説明する図であり、(3)はSample3のスパイク信号量を説明する図である。
図5】(1)はSample1の平均値とばらつきとの相関性を示す図であり、(2)はSample2の平均値とばらつきとの相関性を示す図であり、(3)はSample3の平均値とばらつきとの相関性を示す図であり、(4)はSample4の平均値とばらつきとの相関性を示す図である。
図6】各プロットの原点からの距離を示す図である。
図7】横軸をx´値、縦軸をy´´値とした座標系を示す図である。
図8】(1)は図7の座標系を用いたグラフ(すすぎ始め(第1期間))であり、(2)は図7の座標系を用いたグラフ(すすぎ前半(第4期間))である。
図9】(1)は図7の座標系を用いたグラフ(すすぎ中盤(第5期間))であり、(2)は図7の座標系を用いたグラフ(すすぎ後半(第7期間))である。
図10図7の座標系を用いたグラフ(すすぎ終わり(第9期間))である。
図11】(1)はSample1の図8から図10をまとめた図であり、(2)はSample2の図8から図10をまとめた図であり、(3)はSample3の図8から図10をまとめた図であり、(4)はSample4の図8から図10をまとめた図である。
図12】(1)はx´値を代表にした時間変動グラフの概念図であり、(2)はx´値を代表にした時間変動グラフである。
図13】(1)はx´値を代表にした時間変動グラフ(各洗浄剤の時間変化(洗浄時))であり、(2)はx´値を代表にした時間変動グラフ(各洗浄剤の時間変化(すすぎ時))である。
図14】(1)は触感値の特定方法を説明するグラフであり、(2)は触感値の特定方法を説明するグラフ(図)である。
図15】(1)は触感値の特定方法を説明するグラフであり、(2)は触感値の特定方法を説明するグラフ(図)である。
図16】(1)は触感値の特定方法を説明するグラフ(図)であり、(2)は触感値の特定方法を説明する図である。
図17】第一触感値および第二触感値を用いたグラフである。
図18】回帰線に対するばらつきの乖離量について説明する図である。
図19】(1)は横軸をx´値、縦軸をy値とした座標系を用いたグラフ(すすぎ始め(第1期間))、(2)は横軸をx´値、縦軸をy値とした座標系を用いたグラフ(すすぎ前半(第4期間))である。
図20】(1)は横軸をx´値、縦軸をy値とした座標系を用いたグラフ(すすぎ中盤(第5期間))、(2)は横軸をx´値、縦軸をy値とした座標系を用いたグラフ(すすぎ後半(第7期間))である。
図21】横軸をx´値、縦軸をy値とした座標系を用いたグラフ(すすぎ終わり(第9期間))である。
図22】触感評価方法のフローチャートである。
図23】触感評価装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施形態の例について、図面を参照して説明する。なお、本実施形態の図面は、いずれも本発明の技術思想、構成及び動作を説明するためのものであり、その構成を具体的に限定するものではない。また、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0011】
本実施形態における評価方法(以下、本方法と記載することもある)の概要について説明する。
本実施形態の触感評価方法は、取得工程、特徴量算出工程、および触感値特定工程が含まれる。
「取得工程」は、物体に接触させた動作体を繰り返し動作させて物体と動作体との間に生じる力学的物理量の時系列データを取得する工程である。
「物体」とは、人の肌(皮膚)表面、人工皮膚の表面、毛髪、および頭皮の他、食器、住宅建材などが挙げられ、特に、例えば、後述する所定の剤を塗布する物体が挙げられる。
「動作体」とは物体に対して接触させる他の物体であり、例えば、接触させた指20、手のひら、マッサージ器等の肌ケア用品、または測定治具が挙げられる。指20、手のひら、肌ケア用品、または測定治具には、図1に示すセンサ30が装着されている。物体に対して接触させる指20は、指20のどの位置でもよいが、指腹で触感を確認することが多いため、指腹が好ましい。物体の触感を確認する際には、1本の指だけでなく複数本の指でもよく、また、指だけでなく手のひら全体を接触させて確認することもあるため、手のひらを肌表面に対して接触させてもよい。また、測定治具とは、指と同様に肌表面に対して接触させる治具である。測定治具のうち肌表面に接触させる部分の構造や組成は限定されないが、当該部分を人の肌(皮膚)を模した人工皮膚等で構成することで、人が指や手のひらで物体表面を触ったときに近い物理量を測定することが可能となる。
「繰り返し動作」とは、物体に対して動作体を連続的に接触させる動作を継続すること、または物体に対して動作体を間欠的に接触させる動作を繰り返すことをいう。具体的には、物体に対して指を外向き略垂直方向に繰り返し移動動作(タッピング動作)を行うこと、物体に対して指を水平方向に摺動させる移動動作を繰り返し行うことなどであり、摺動させる移動動作の場合、一方向に繰り返し移動動作する、往復することで繰り返し移動動作する、円を描くように繰り返し移動動作するなど、何れの態様でもよく、また、繰り返し移動動作とは、単一動作(例えば、水平方向に1回、摺動すること)を行った後、ある一定時間を不規則に設けたのち、当該単一動作を行うこと、すなわち、同一間隔で単一動作を繰り返す場合、不規則な間隔で単一動作を複数回行う場合の何れも含まれる。
「物体と動作体との間に生じる力学的物理量の時系列データ」とは、物体に接触させた動作体(例えば、指や手のひらなど)を繰り返し動作させることにより物体と動作体との間に生じる、力学に関する物理量である。たとえば、動作体が物体(肌)から受ける弾性力もしくは摩擦力の大きさ、物体の変位に起因して生じる電流量もしくは電圧値、動作体が受ける圧力、動作体に生じる歪み、または、振動する動作体の振動量(振幅)、振動数、動作体の速度や加速度などが例示される。本方法において評価する触感は、べたつき、さっぱり、しっとり、きゅっと、のように、物体表面に指や手のひらなどを接触させることにより、指等の受容器を通じて感じる触感である。
「取得」とは、詳細は後述するが、例えば、図1に示すセンサ30が物体に対して動作体を連続的に接触させることにより生じた振動や変形を検知し、電気信号として、演算装置に出力することである。
【0012】
「特徴量算出工程」は、取得した力学的物理量の時系列データから所定期間ごとに特徴量を算出する工程である。
「所定期間ごとに特徴量を算出」とは、取得した力学的物理量の時系列データから、物体に対し動作体を動作させ始めてから所定期間ごとに特徴量を算出することである。算出内容については後述する。
「特徴量」とは、詳細は後述するが、例えば、力学的物理量、力学的物理量の統計量、力学的物理量または力学的物理量の統計量の所定閾値以上の値であるスパイク信号量、ならびに力学的物理量の統計量である平均値またはばらつきから算出した特徴量などであるがこの限りでない。力学的物理量とは測定値そのものだけでなく、演算値(例えば、ノイズ除去した値、係数乗算した値など)も含まれるものとする。また、力学的物理量の統計量とは、力学的物理量の測定値そのものを用いた統計量(例えば、平均値、標準偏差、分散値、最大値、最小値、尖度、歪度など)だけでなく、力学的物理量の演算値を用いた統計量も含まれるものとする。また、力学的物理量を周波数解析することで算出可能な値、例えば、各時間のスペクトルのパワー値なども含まれるものとする。また、取得した力学的物理量の波形に対して周波数分解やフィルタリング処理した後にこれらの特徴量を算出してもよい。また、スパイク信号量とは、力学的物理量の測定値そのものから算出したものだけでなく、力学的物理量の演算値を用いたものから算出したものも含まれるものとする。なお、スパイク量については後述する。また、力学的物理量の統計量である平均値またはばらつきから算出した特徴量とは、例えば、平均値とばらつきの相関性から算出した原点からの距離(原点からの距離については後述する)である。
【0013】
「触感値特定工程」は、特徴量に対し、当該特徴量が、取得した力学的物理量の時系列データにおけるいずれの時間帯に対応するものであるかに応じて所定の時間重み付け値を付加処理し、時間重み付け値を付加処理した特徴量を用いて物体の触感値を特定する工程である。
「特徴量に対し、当該特徴量が、取得した力学的物理量の時系列データにおけるいずれの時間帯に対応するものであるかに応じて」とは、特徴量が、上述した、取得した力学的物理量の時系列データにおけるいずれの時間帯に対応するものであるか、例えば、物体に対し動作体を動作させ始めたときか、物体に対し動作体を動作させ始めてから所定時間経過後であるかなど、物体に対し動作体を動作させ始めてからいずれの時間帯に対応するものであるかに応じてである。また、時間帯は、上述した特徴量を算出する際の所定時間と同じでもよいし、異なっていてもよい。また、「応じて」とは、詳細は後述するが、時間帯が物体に対し動作体を動作させ始めてからいずれの時間帯であるかによって付加処理する時間重み付け値が決められていることである。
「所定の時間重み付け値」とは、詳細は後述するが、物体に接触させた動作体(例えば、指)を繰り返し動作させて物体と動作体との間に生じる力学的物理量の時系列データを取得し、触感を評価する場合、動作開始直後と動作終了時とでは、同一の物理量でも触感に影響する度合いは異なる。所定の時間重み付け値は、この「度合い」を示したものである。所定の時間重み付け値は、時間毎の値でもよいし、基準の時間(例えば、動作開始直後)の重み付け値に対する割合などでもよい。
「付加処理」とは、詳細は後述するが、上述した所定期間毎の特徴量に対し、所定の時間重み付け値を付加する処理である。
「物体の触感値」とは、所定期間ごとに算出した特徴量を用いて特定する触感に関する値であり、詳細は後述するが、例えば、力学的物理量に対して所定の時間重み付け値を付加処理した値である。「触感」としては「べたつき」、「さっぱり」、「しっとり」、「ねっとり」、「うるおい」、「乾燥」、「はり」、「弾力」、「硬軟」、「すいつき」、「もちもち」、「ふっくら」、「滑らか」、「ぬるぬる」、「すべすべ」、「油っぽい」、「コク」、「なじみ」、「かさかさ」、「ごわごわ」、「つっぱり」、「きゅっと」、「きしみ」、「すべり」などが例えば挙げられるが、この限りではない。なお、ここでいう触感は、物体に指や手のひらなど(以下、「指等」)を接触させることにより、指等の受容器を通じて感じる触感であり、物体に指等を接触させることにより感じる冷たさや温かさなど熱的な感覚も評価対象に含んでもよい。ここで、「べたつき」とは、物体に指を接触させた際に、べたべたと指に粘着してくっつく感じを指している。「さっぱり」とは、物体に指を接触させた際に、くっつく感じがなく、スムーズで清々した感じを指している。「しっとり」とは、物体に指を接触させた際に、少し湿ったなめらかな感じを指している。「ねっとり」とは、物体に指を接触させた際に、少し指が付着するような感じを指している。「うるおい」とは、物体に指を接触させた際に、適度な湿り気がある感じを指している。「乾燥」とは、物体に指を接触させた際に、かさかさした感じを指している。「はり」とは、物体に指を接触させた際に、肌がぴんと硬直した感じを指している。「弾力」とは、物体に指を接触させた際に、しずむ感じがなく跳ね返す感じを指している。「硬軟」とは、肌表面に指を接触させた際に、肌の変形度合いが生じる程度の感じを指している。「すいつき」とは、物体に指を接触させた際に、指が密着するような感じを指している。「もちもち」とは、物体に指を接触させた際に、指が少し密着し跳ね返される感じを指している。「ふっくら」とは、肌表面に指を接触させた際に、やや弾力性があってくっつく感じがなく、清々した感じを指している。「滑らか」とは、物体に指を接触させた際に、ひっかかりなく動く感じ、特に剤を塗布した場合、指が自然に動く感じを指している。「ぬるぬる」とは、物体に指を接触させた際に指がすべりやすい感じ、特に剤を塗布した場合、剤の粘着感によりすべりやすい感じを指している。「すべすべ」とは、物体に指を接触させた際に肌の柔らかさと指がひっかかりなく動く感じを指している。「油っぽい」とは、物体に指を接触させた際にまとわりついた感じを指している。「コク」とは、物体に指を接触させた際、特に剤を塗布する際に、指が剤の質感を感じる感じ、塗り広げる際の質感、塗り広げる際の重さ感を指している。「なじみ」とは、物体に指を接触させた際に、指に違和感のない感じ、特に剤を塗布した場合に、指が物体に剤の質感を感じることのない感じを指している。「かさかさ」とは、物体に指を接触させた際に、乾燥している感じを指している。「ごわごわ」とは、物体に指を接触させた際に、指ががさついた感じを指している。「つっぱり」とは、物体に指を接触させた際に、ぴんと張った感じを指している。「きゅっと」または「きゅっ」とは、物体に指を接触させた際に、物体に指を接触させてすべらせ始める際や、すべらせている間に抵抗がある感じを指している。「きしみ」とは、ひっかかりながら擦れる感じを指している。「すべり」とは、ひっかかりが少なく、指が滑りやすい感じを指している。
【0014】
上述した力学的物理量の時系列データから所定期間ごとに算出する特徴量は、取得した力学的物理量の時系列データ全データから算出する、取得した力学的物理量の時系列データの一部分から算出したもの、のいずれでもよい。また、「所定期間」は、常に同じ期間でも、物体に動作体を接触させる時間帯(接触開始直後か、所定時間経過後か、など)に応じて異なる期間でもよく、例えば、接触開始直後は細かい期間(細かい時間間隔)とし、徐々に粗い期間(粗い時間間隔)としてもよく、また、例えば、後述するステージ毎に(例えば、洗浄時とすすぎ時とで)異ならせてもよい。また、力学的物理量の時系列データから所定期間ごとに算出する特徴量を複数種類算出してもよい。また、全ての複数種類の特徴量の所定期間が同一である必要はなく、複数種類の特徴量ごとに所定期間が異なっていても本方法による評価を行うことは可能である。
また、上述した触感値特定工程における特徴量が取得した力学的物理量の時系列データにおけるいずれの時間帯に対応するものであるかに応じて所定の時間重み付け値を付加処理する点についてさらに説明すると、付加処理は全ての時間帯の特徴量に行ってもよいし、接触開始直後の時間帯の特徴量に対しては行わないようにしてもよいし、特定の時間帯の特徴量に対してのみ行うようにしてもよい。また、「時間帯」は一定の期間でもよいし、異なる期間でもよい。
【0015】
<力学的物理量の時系列データの取得方法>
物体と動作体との間に生じる力学的物理量の時系列データの取得方法を示す。本実施形態は、所定の剤を適用した物体と動作体との間に生じる力学的物理量の時系列データを取得する場合とするが、所定の剤を適用していない物体の場合でも取得方法は同様である。
ここで、「所定の剤」とは、物体に塗布される液体(霧状を含む)、またはペースト状、または固体状、または粉体等の固体をいう。皮膚外用剤、化粧料、シート状のスキンケア化粧料、食器用洗剤、住宅用洗剤、ボディ洗浄剤、洗顔剤、毛髪用洗浄剤などの洗浄剤が挙げられ、たとえば、ローション、乳液、クリーム、美容液、マッサージ、パック、リップクリーム、アイケアシート、口元シート、パックマスク、シート状ローション、シート状メイク落とし等のスキンケア化粧料;ファンデーション、化粧下地、液状ファンデーション、油性ファンデーション、パウダーファンデーション、コンシーラー、コントロールカラー、アイシャドウ、頬紅、口紅、リップグロス、リップライナー、ボディのデコルテ用等のメイクアップ化粧料;日焼け止め乳液、日焼け止めジェル、日焼け止めクリームなどの紫外線防御化粧料、ボディ洗浄剤;固形石鹸、ハンドソープ、ボディソープが挙げられ、特にこれらに限定されるものではない。
【0016】
図1に示すように、本実施形態では、「物体」は人の腕の肌(人の腕の皮膚表面)とし、「動作体」は人の腕に対して接触させた指20とする。物体に適用する「所定の剤」は洗浄剤40とする。
図1に示すように、指20にはセンサ30が装着されている。指20、特に指腹(以下、指腹の場合も指という)で洗浄剤40が適用された腕の肌を触り、触った指20を移動させると指肌に振動や変形が生じ、センサ30はこの振動や変形を検知し、電気信号として演算装置10に出力する。触感の違いにより指肌に生じる振動や変形が異なるため、触感の違いにより出力される電気信号も異なる。この出力される電気信号が本発明の「力学的な物理量」に相当し、当該電気信号を経時的に取得している。センサ30は、指20で触ったことにより生じる力学的な物理量を取得できればよく、例えば、肌に接触させた指20を離すことにより生じる加速度や力を取得可能なセンサ(加速度センサ、角速度センサ、振動センサ、力センサ等)でもよい。経時的に物理量を取得するとは、当該物理量を示すアナログ情報(本実施形態では電気信号)をセンサ30が所定時間に亘って連続的に取得する態様のほか、ミリ秒オーダーまたはサブミリ秒オーダーなどの短時間の間隔ごとに多数回に亘ってセンサ30が当該物理量をデジタル情報として取得する態様を含む。センサ30が当該物理量をアナログ情報として連続的に取得した場合、演算装置10は当該アナログ情報をミリ秒オーダーまたはサブミリ秒オーダーなどの所定の短時間の間隔ごとにサンプリングして離散化するとよい。
【0017】
本実施形態では、図1に示したように、センサ30を装着した指20を腕の肌(皮膚表面)に接触させ、肌に対して指20を略水平方向に摺動させる移動動作を繰り返し行う。繰り返し行う移動動作は、一方向に繰り返し移動動作する、往復することで繰り返し移動動作する、円を描くように繰り返し移動動作するなど、何れの態様でもよい。
また、図1(1)に示すように、腕の肌に洗浄剤40を塗布し、指20で移動動作を繰り返し行う際の腕の肌と指20との間に生じる力学的物理量を取得する。すなわち、図(1)は、所定の剤(洗浄剤40が相当)を適用した物体(腕の肌が相当)と動作体(指20が相当)との間の力学的物理量を取得しており、動作体を移動動作することで、物体を洗浄する状態となっている。
また、図1(2)に示すように、洗浄剤40が適用された腕の肌に水を一定の水量を維持して流しながら指20で移動動作を繰り返し行う際の腕の肌と指20との間に生じる力学的物理量を取得する。すなわち、図1(2)は、所定の剤(洗浄剤40が相当)を適用した物体(腕の肌が相当)に水を流し、物体と動作体(指20が相当)との間の力学的物理量を取得しており、動作体を移動動作することで、物体をすすぐ状態となっている。
なお、測定治具を用いて計測する際には、図1の指20に替えて測定治具(図示しない)にセンサ30を設け、当該測定治具を肌(皮膚表面)に対して接触させ、肌(皮膚表面)に対して測定治具を水平方向に摺動するように動かすことにより、発生する物理量を同様に測定することが可能となる。また、測定治具を肌に接触させ動かすことにより測定する場合は、動かし方が均一となるように、測定治具の動きを所定の装置(図示しない)を用いて制御してもよい。
【0018】
図2に、取得した力学的物理量の電気信号波形を示す。図2に示すように、本実施形態では、物体と動作体との間に生じる振動を力学的物理量として取得する。図2(1)は適用した所定の剤がSample1であり、図2(2)は適用した所定の剤がSample3である。図2(1)と図2(2)を比較すると、例えば、図2(1)は信号強度が一定の範囲内で一様であるのに対し、図2(2)は信号強度の強弱が明確であるといったように、塗布する所定の剤によって取得される信号波形の形状が異なる。そこで、取得した力学的物理量(信号波形)を解析することで、触感または当該触感を生み出す物性を評価することが可能となる。
【0019】
<特徴量の算出方法>
特徴量の算出方法について説明する。
図3は、取得した力学的物理量の信号波形である。取得した信号波形を所定間隔毎に切り出すことを示している。信号波形に記載した点線枠囲いが所定間隔毎を示している。なお、図3に記載した点線枠囲いは一部であり、実際には点線枠囲いは連続して設けられる。すなわち、切り出す所定間隔は連続して設けられる。切り出した所定間隔(第一期間、第二期間、第三期間・・・)毎に、当該所定間隔に含まれる信号波形(電気信号)に基づき、信号強度の平均、標準偏差、および、スパイク量を算出する。信号強度の平均は、所定間隔内の信号の絶対値の平均であり、標準偏差は、算出した平均から求める。なお、本実施形態において、信号強度の平均を「x値」、信号強度の標準偏差を「y´値」、スパイク量を「y´´値」と記載することとする。本実施形態では、所定間隔は2秒としている。所定間隔は短すぎると、動作体を往復させる時間に足りなく、長すぎると所定の剤が変化してしまい、期間内に複数の特徴を含む可能性があるため、本実施形態では2秒としているが、数値はこれに限らない。
【0020】
ここで、スパイクおよびスパイク量の算出方法について説明する。
図4(1)は適用した所定の剤がSample1、図4(2)は、適用した所定の剤がSample2、図4(3)は適用した所定の剤がSample3のときの、物体と動作体との間に生じた振動の信号波形である。
各信号波形に対し、信号強度が第一所定値(例えば、0.2[V]または-0.2[V])を越える部分と、信号強度が第二所定値(例えば、0.4[V]または-0.4[V])を越えるタイミングについて着目する。所定の閾値(図4の場合、第一所定値、第二所定値)を越える信号を「スパイク」とする。図4(1)の場合は、第一所定値を越えるスパイクは中盤以降に生じており、また、第二所定値を越えるスパイクは生じていない。これらより、振動にメリハリがあるといえる。図4(2)の場合は、第一所定値を越えるスパイクは前半に生じておらず、また、第二所定値を越えるスパイクは生じていない。これらより、信号波形の密度が高く、振動にメリハリがない(振動が一定である)といえる。図4(3)の場合は、第一所定値を越えるスパイクが多く生じ、また、第二所定値を越えるスパイクが中盤以降に多く生じている。これらより、信号波形の密度が疎であり、振動強度の高低差が大きく、振動に強いメリハリがあるといえる。
この「スパイク」について、どのような量で生じているかを示す指標を「スパイク量」として算出する。スパイク量は、ある時間の信号に対して、その信号の前後所定時間内にその信号より絶対値が大きな信号があるか否かを判定し、大きな信号がなければその信号を「スパイク」とする。そして、この信号の絶対値の総和をある時間の「スパイク量」として算出する。本実施形態では、ある時間は、図3に示した所定間隔(点線枠囲いの時間)とし、前後所定時間を0.075secとしてスパイク量を算出した。したがって、本実施形態では、取得した力学的物理量から、所定時間毎の平均、所定時間毎の標準偏差、および所定時間毎のスパイク量を算出することとした。なお、これらの値は、取得した力学的物理量の値そのものから算出してもよいし、取得した力学的物理量にはノイズが含まれている可能性が高いため、所定のノイズ除去を行った値(演算値)から算出してもよい。また、本実施形態では、前後所定時間を0.075secとしてスパイク量を算出したがこれに限らず、0.075secより短い間隔でも長い間隔でもよく、取得した力学的物理量に応じて決定すればよい。なお、本スパイク量を表す別指標として、例えば、当該区間の波形信号のヒストグラムから算出される尖度を用いてもよい。また、スパイクの特徴を表すのであれば、この限りではない。
【0021】
<複数種類の特徴量間の相関関係を示す指標>
複数種類の特徴量間の相関関係を示す指標に基づいて、時間の経過に伴い変化する物体の触感または触感を生み出す物性を評価することも可能である。ここでは、複数種類の特徴量間の相関関係を示す指標について説明する。なお、複数種類の特徴量それぞれは、特徴量の算出方法に記載した方法で算出する。また、この指標を算出する際に、後述する時間重み付け値および知覚強度係数を考慮し算出することにより、より実際に人が感じる触感に近い評価を行うことが可能となる。
ここでは、複数種類の特徴量間の相関関係を示す指標に基づいて、時間の経過に伴い変化する物体の触感または触感を生み出す物性を評価する方法について説明する。
【0022】
「複数種類の特徴量間の相関関係を示す指標」とは、複数種類の特徴量のうち、例えば、2種類の特徴量の関係を表す指標であり、最も適した線を作成して数式化する分析手法である回帰分析で作成される回帰線、データとして信頼できる所定の信頼区間に2種類の特徴量がどの程度含まれるか否かの判断基準、相関関係全体に対し、特定区間における2種類の特徴量の相関性などのことである。また、母集団から取得した複数種類の特徴量のうちの2種類の特徴量の相関関係を示す回帰線の場合は、標準回帰線と記載することもある。なお、回帰分析手法としては、単回帰、重回帰、非線形回帰、ロジスティック回帰、ベイジアンなどが挙げられ、また、切片ありとしても、切片なしとしてもよい。
また、指標と複数種類のうち何れかの特徴量との、ずれ度合いも算出する。「ずれ度合い」とは、回帰線に対して特徴量がどの程度ずれて(乖離して)いるか(どの程度ずれた位置にプロットされるか)、所定の信頼区間からずれる(含まれない)特徴量はどの程度かなどであり、どの程度ずれているか具体的な量、一定値以上ずれている特徴量(プロット)の数または割合など、算出内容は問わない。
そして、これらの算出した指標やずれ度合いに基づき所定の剤が適用された物体に動作体を接触させてからの経過時間によって変化する触感または触感を生み出す物性を評価する。評価内容としては、算出した指標のみに基づき評価する、算出した指標と他の情報(例えば、所定の剤の複数種類の特徴量、他の剤の複数種類の特徴量、他の剤から算出した指標など)とに基づき評価する、算出したずれ度合いに基づき評価するなどである。指標を回帰線とした場合、算出した回帰線の傾きによって評価する、回帰線の長さによって評価する、原点から回帰線までの長さ(最短の長さ)によって評価するなど、所定の座標系に描画して評価する、所定の基準値と比較評価するなどである。また、回帰線と特徴量とによって評価する場合であれば、例えば、算出した回帰線に対して、回帰線算出に用いた特徴量と異なる複数種類の特徴量がどの程度乖離しているか、算出した回帰線に対して回帰線算出に用いた特徴量と異なる複数種類の特徴量はどのような位置にあるかなどを所定の座標系にプロットして評価する、所定の基準値と比較評価するなどである。また、指標を所定の信頼区間に2種類の特徴量がどの程度含まれるかの判定基準とした場合、判定基準と比較する、満たすか否か評価するなどである。
【0023】
図5を用いて、力学的物理量から所定時間毎に算出した平均と標準偏差との相関性について説明する。ここでは、平均と標準偏差との相関関係を示す指標を回帰線とし、指標とのずれ度合いに基づき評価する。
図5(1)は適用した所定の剤がSample1、図5(2)は、適用した所定の剤がSample2、図5(3)は適用した所定の剤がSample3、図5(4)は適用した所定の剤がSample4の時の平均と標準偏差との相関性を示す図である。
各グラフの横軸は平均、縦軸は標準偏差であり、点線は平均回帰線を示している。各グラフの座標点は、図3に示した所定間隔毎に求めた平均と標準偏差である。何れのSampleの場合も、平均回帰線と近い傾きであり、また、いずれの場合の決定係数も高い値であることより、所定間隔毎に求めた平均と標準偏差とには高い相関性があると言える。
このように、指標算出工程は、複数種類の特徴量のうち少なくとも2種類の特徴量の相関関係を示す回帰線を算出し、複数種類の特徴量のうち何れかの特徴量(例えば、平均、標準偏差)と回帰線(例えば、平均回帰線)とに基づいて時間の経過に伴い変化する物体の触感または当該触感を生み出す物性を評価することが可能となる。
【0024】
次に、図5に示した平均と標準偏差とからなる座標点と算出したスパイク信号量とを用いて、特徴量を算出する方法について説明する。
図6は、図5(1)と同様、塗布した所定の剤がSample1の時の平均と標準偏差との相関性を示す図である。図6中の原点から平均と標準偏差とからなる座標点までの距離を算出する。図6では、ある一座標に対して、「この距離」と示しているが、他の座標についても同様に、原点から座標点までの距離を算出する。この原点から平均と標準偏差とからなる座標点までの距離を本実施形態では、「原点からの距離」または「x´値」と記載することとする。
【0025】
図7に、x´値およびy´´値に基づき作成する座標系(横軸:x´値、縦軸:y´´値)を示す。
図7は、図1(2)に示したような洗浄剤40が適用された腕の肌に水を一定の水量を維持して流しながら指20で移動動作を繰り返し行う、すすぎ状態を例に説明する。
x´値(原点からの距離)は、所定期間における振動の大きさであることより、x´値の値が所定の範囲より小さければ、素肌(所定の剤を塗布しない状態)より動作体を動作した際の振動が小さく、所定の範囲より大きければ素肌(所定の剤を塗布しない状態)より動作体を動作した際の振動が大きいことを示す。また、y´´値(スパイク量)の値が所定の範囲より小さければ素肌(所定の剤を塗布しない状態)より動作体を動作した際に上滑りしており、所定の範囲より大きければ素肌(所定の剤を塗布しない状態)より上滑りしないことを示す。このような座標系にx´値およびy´´値をプロットした場合、座標系の右上ほどすすぎ状態でのきゅっとした触感であり、座標系の左下ほどすすぎ状態でぬるついた触感があることを示している。言い換えると、座標系の右上は洗浄感を強く得られるすすぎ感であり、左下はヌルつきのあるすすぎ感であり、座標系の中央は、素肌感に近いすすぎ感である。
図7に示した座標系にx´値およびy´´値をプロットする際には、y´値の値に応じてプロットの大きさを変えることとする。すなわち、プロットにより、「振動の大きさ」、「スパイク量」、および「振動の不均一性」を把握することが可能となる。
図7で用いた所定の剤(洗浄剤40)の主観評価は次の通りである。
・Sample1:ほどよい洗浄感
・Sample2:前半にヌルつきがある
・Sample3:強い洗浄感
・Sample4:触変化が大きい
【0026】
これらの剤を塗布した際の結果を図8から図10に示す。
図8から図10から次のことがわかる。
・第1期間(図8(1))は洗浄剤を流している段階であり、全般的に滑らかな触感である。
・第4期間(図8(2))は洗浄剤が落ち切ると、Sample3、4は「きゅっ」としている。
・第5期間(図9(1))はSample2以外は「きゅっ」がより強くなる。
・第7期間(図9(2))はSample3以外は「きゅっ」の程度が素肌に類似してくる。
・第9期間(図10)はSample4は素肌よりも滑らかに感じる。
このように、相関性の高い特徴量である、x´値(原点からの距離)、y´値(標準偏差)、およびy´´値(スパイク量)を用いることで、すすぎ状態における各剤の触感の時間変化を把握することが可能となる。すなわち、力学的物理量の大きさ(例えば、x´値)とスパイク信号量の大きさとの相関関係に基づき評価することが可能である。
【0027】
図11に、図8から図10に示した各剤のすすぎ状態における特徴を示す。
・Sample1(図11(1)):すすぎ前半から中盤はやや「きゅっ」としており、すすぎ後半は「きゅっ」が低下し、中くらいの位置(素肌感のすすぎ感)で落ち着く
・Sample2(図11(2)):振動強度が小さくすすぎ時の振動の時間幅が小さいことより、すすぎ感はヌルヌルである
・Sample3(図11(3)):「きゅっ」が持続するため、すすげた感・洗えた感がある
・Sample4(図11(4)):ヌルヌルゾーンと「きゅっ」のゾーンとを大きく行き来する
なお、すすぎ状態では、「きゅっ」の触感に加えて、振動の大きさによって「きしみ」感も感じられる。
【0028】
ここで、「きしみ」感について説明する。きしみ感とは、上述したように、ひっかかりながら擦れる感じを指している。図7に示した座標系を用いて「きしみ」を定義すると次のようになる。きしみは、振動が強くかつ滑りが悪く、さらに、振動が不均一の状態である。また、きしみ感と反対の触感は「すべり」感である。すべり感とは、上述したように、ひっかかりが少なく、指が滑りやすい感じを指している。図7に示した座標系を用いて「すべり」を定義すると次のようになる。すべりは、滑りが強くかつ振動が弱く、さらに、振動のパターンは均一の状態である。
したがって、図8から図10に示したプロットが右上に位置し、かつ、プロットが大きい場合は、きしみ感を強く感じる場合であるといえる。
図8から図10に示したように、図7に示した座標系にプロットされる各剤の時間経過に伴う位置の変化は、剤によって異なるが、いずれも直線上を移動する。このことより、x´値(原点からの距離)とy´´値(スパイク量)にも高い相関性があることがいえる。そうすると、x´値(原点からの距離)、y´値(標準偏差)、およびy´´値(スパイク量)は、それぞれ高い相関性があるといえるから、x´値(原点からの距離)を代表指標にした時間変動グラフに表すことが可能となる。
【0029】
図12を用いて、x´値(原点からの距離)を代表した時間変動グラフについて説明する。
図12(1)に示すように、x値(強度平均)とy´値(標準偏差)とは、相関性が高く、また、x値(強度平均)とy´値(標準偏差)から求めたx´値(原点からの距離)、y´値(標準偏差)およびy´´値(スパイク量)も相関性が高いため、これらの多次元データを一次元に圧縮することで、x´値(原点からの距離)の時間依存性として表すことが可能となる。図12(2)に、図8から図10で示した各剤のすすぎ状態の力学的物理量の変化を時間関数で示す。
図12(2)より、例えば、Sample1の場合、素肌ゾーンの前後を時間移動し、最終的には素肌ゾーンで安定することが把握できる。
このように、複数種類の特徴量の相関関係を示すグラフからも、時間の経過に伴い変化する物体の触感または当該触感を生み出す物性を評価することが可能である。
【0030】
<触感値の特定方法>
次に、触感値の特定方法について説明する。本方法では時間帯の違いにより、その物性量の知覚的意味が異なることを考慮して評価する。そこで、特定する触感値はこの点を考慮することとする。ここでは、複数種類の特徴量から触感値を特定する方法を説明するが、1つの特徴量から触感値を特定することも可能である。
本実施形態で適用する剤は、SampleA、SampleB、SampleC、SampleD、およびSampleEの5種類とする。上述したように、複数種類の特徴量を算出し、図12(2)に示した力学的物理量の変化を時間関数で示すグラフを作成する。図13(1)は、洗浄時(「第一ステージ」と記載することもある)、図13(2)はすすぎ時(「第二ステージ」と記載することもある)のグラフである。なお、本実施形態において「ステージ」とは、所定の剤が適用された物体に接触させた動作体を動作させる際の段階であり、時期的に互いに異なる期間である第一ステージ、第二ステージなどがある。図13(1)および図13(2)のように力学的物理量の変化を時間関数で示すことにより、例えば、SampleDの洗浄時は、初動はきしみがなく、時間がたつほどにきしみが増大することのように、時間経過とともに変化する触感を把握することが可能となる。また、図13のグラフより、横軸は、時間帯の違いにより、その物性量の知覚的意味は異なると解釈できる。すなわち、知覚的な意味の重みが異なると解釈できる。また、縦軸は、原点からの距離は特徴を生み出す源信号強度と関連した特徴とみなすと、物性量に相当すると解釈できる。本実施形態では、このことを考慮し、所定期間ごとの複数種類の特徴量に対し、所定期間の時間帯に応じて所定の時間重み付け値を付加処理し、時間重み付け付加処理した特徴量を用いて物体の触感値を特定することとする。
【0031】
図14(1)は、図13(2)に示した第二ステージ(すすぎ時)のグラフである。このグラフを用いて、時間重み付け値および触感値の特定方法について説明する。図14(1)のグラフを図14(2)に示すように、所定時間における振動量を数値化する。本実施形態では、所定時間における面積(図14(2)の1が記載された台形部分が相当)を求めることで数値化する。
図15(1)は、図14(1)と同様に、図13(2)に示した第二ステージ(すすぎ時)のグラフである。図15(2)に示すように、本実施形態では1から6の期間における各期間の振動量を数値化する。なお、本実施形態では、1から6の期間にしたが、期間はこれに限らず、6より多くても少なくてもよい。
図16は、数値化した値(算出した面積)に、時間重み係数(「時間知覚重み係数」と記載することもある)と知覚強度係数を適用する方法を示す。図16(2)に示すように、所定期間毎に算出した面積であるS1からS6に対し、それぞれ所定の時間重み係数(g1からg6)と知覚強度係数とをそれぞれ付加処理し、S1´からS6´を算出する。
【0032】
時間重み付け値について説明する。なお、本実施形態では、時間重み付け値を「時間重み係数」と記載することもある。
本実施形態のように、指20を繰り返し動作する際の力学的物理量を取得し、触感を評価する場合、動作開始直後と動作終了時とでは、同一の物性量でも触感に影響する度合いは異なる。例えば、図16(2)で求めたS1からS6の総和が同じ場合でもS1の数値が大きい場合とS6の数値が大きい場合とでは、人の感じ方は異なる。そこで、力学的物理量を取得したタイミングに応じて、時間重み付け値を付加する処理を行うことで、実際に人が感じる触感に近い触感値を特定することが可能となる。本実施形態では、図16(2)に示すように、S1に対してはg1=1、S2に対してはg2=2、・・・、S6に対してはg6=6を乗算することとする。すなわち、時間経過に伴って漸増する時間重み付け値を乗算することとする。
【0033】
次に、知覚強度係数について説明する。力学的物理量の大きさ(刺激の大きさ)とそれを知覚する際の強さの関係は、例えば、以下の式(1)で示されるスティーヴンスのべき法則で示されている。
(数1)
R=kS・・・式(1)
式(1)において、Sは人に与えられる刺激強度であり、Rは刺激強度Sに対して人が触覚を通じて感じる感覚量または知覚量である(kは定数、nは感覚ごとに決まる指数)。このように、与えられる刺激強度が2倍になっても人が感じる感覚量や知覚量は2倍にはならず、指数nのべき乗に比例することが知られている。
そこで、本実施形態では、図16(2)に示すように、求めたS1からS6に対し、指数n=1/3を付加する処理を行うことで実際に人が感じる触感に近い触感値を特定することとする。
そして、式(2)に示すように、このようにして算出したS1´からS6´の総和と基準量Ss´との差分を触感値として用いることとする。
(数2)
Index=ΣSi´-ΣSs´・・・式(2)
式(2)において、ΣSi´は算出したS1´からS6´の総和であり、ΣSs´は基準量である。基準量は、触感値を求める所定の剤と比較可能な剤(比較する際に基準とする剤)から予め算出した、振動量を数値化する際に求めた所定時間における面積に時間重み係数と知覚強度係数の付加処理を行った値の総和である。
このように力学的物理量を用いて触感値を特定する。また、所定期間毎の複数の特徴量(例えば、平均、標準偏差、スパイク量、原点からの距離、また、これらから求めた力学的物理量の大きさ)に対し、所定期間の時間帯に応じて所定の時間重み付け値(例えば、g1からg6が相当)を付加処理し、時間重み付け付加処理をした特徴量を用いて、触感値を特定する。そして、このようにして求めた触感値を用いて評価することにより、実際に人が感じる触感に近い評価を行うことが可能となる。
したがって、触感値特定工程は、所定期間ごとの複数種類の特徴量に対し、当該所定期間ごとの複数種類の特徴量が取得した力学的物理量の時系列データのいずれの所定期間であるかに応じて所定の時間重み付け値を付加処理するだけでなく、所定期間ごとの複数種類の特徴量に対し、人が物体を触り知覚する際の知覚強度係数を付加処理し、知覚強度係数を付加処理した特徴量を用いて物体の触感値を特定することが可能となり、より、実際に人が感じる触感に近い評価を行うことが可能となる。
【0034】
次に、時間重み付け値(時間知覚重み係数)の決定方法について説明する。なお、以下に説明する時間重み付け値(時間知覚重み係数)の決定方法は一例であって、例えば、Deep Learningなどの機械学習によって決定してもよく、どのような方法を採用してもよい。
複数種類の剤(ここでは、SampleA~SampleM)がそれぞれ適用された物体に接触させた被験者の肌を繰り返し動作させて、物体と動作体との間に生じる力学的物理量の時系列データを取得し、複数種類の剤毎の所定期間毎の複数種類の特徴量を算出する。剤毎に、算出した所定時間毎の複数種類の特徴量から図14および図15で示した方法と同様に、所定時間毎の面積Sを算出する。また、被験者が感じた触感を官能評価結果として取得する。このときの官能評価結果は、被験者が触感に詳しい専門技術者である、複数の被験者であること、または何れをも満たすことが好ましい。
SampleAについて算出した面積:SA1~SAn、時間知覚重み係数:g~g、及び官能評価結果:scoreAは、式(3-A)に示す関係がある。同様に、SampleMについて算出した面積:SM1~SMn、時間知覚重み係数:g~g、及び官能評価結果:scoreMは、式(3-M)に示す関係がある。なお、指数1/3は上述した知覚強度係数である。
【数3】
これらを行列で表すと式(4)のようになる。
【数4】
所定期間ごとの面積:S、時間知覚重み係数ベクトル:gベクトル、および官能評価結果ベクトル:scrベクトルは式(5)のようになる。
【数5】
そして、ムーア・ペンローズの一般化逆行列により、式(6)のようになる。
【数6】
このように、複数種類の剤がそれぞれ適用された物体に接触させた被験者の肌を繰り返し動作させて物体と動作体との間に生じる力学的物理量の時系列データを取得し、取得した複数種類の剤毎の力学的物理量の時系列データから所定期間ごとに複数種類の特徴量を算出し、被験者が肌を繰り返し動作させた際の官能評価結果を取得し、複数種類の特徴量と官能評価結果に基づき所定の時間重み付け値(時間知覚重み係数)を算出することが可能となる。
【0035】
また、時間重み付け値(時間知覚重み係数)を決定する際に、前の期間の刺激によって後の期間の触感が変化すること、いわゆる係留効果を考慮する場合は次のようになる。
SampleAについて算出した面積:SA1~SAn、時間知覚重み係数:g~g、及び官能評価結果:scoreAは、式(7-A)に示す関係がある。同様に、SampleMついて算出した面積:SM1~SMn、時間知覚重み係数:g~g、及び官能評価結果:scoreMは、式(7-M)に示す関係がある。なお、指数1/3は上述した知覚強度係数である。
【数7】
これらを行列で表すと式(8)のようになる。
【数8】
所定期間ごとの面積:S、所定時間毎の面積間の比:S/Si-1、時間知覚重み係数ベクトル:gベクトル、および官能評価結果ベクトル:scrベクトルは式(9)のようになる。
【数9】
そして、ムーア・ペンローズの一般化逆行列により、式(10)のようになる。
【数10】
このようにすることで、所定の時間重み付け値は、複数種類の特徴量と官能評価結果に加えて、所定期間と当該所定期間より前の所定期間の複数種類の特徴量に基づき算出することが可能となる。したがって、係留効果を考慮した時間重み付け値を算出することが可能となり、その時間重み付け値を付加した触感値を用いて評価できるため、実際に人が感じる触感に近い評価を行うことが可能となる。
【0036】
上述したように、本実施形態では、取得工程で物体に接触させた動作体を繰り返し動作させて上記物体と上記動作体との間に生じる力学的物理量の時系列データを取得し、特徴量算出工程で、取得した上記力学的物理量の時系列データから所定期間ごとに複数種類の特徴量を算出し、触感値特定工程で、上記複数種類の特徴量に対し、当該複数種類の特徴量が、取得した上記力学的物理量の前記時系列データにおけるいずれの時間帯に対応するものであるかに応じて所定の時間重み付け値を付加処理し、上記時間重み付け値を付加処理した特徴量を用いて上記物体の触感値を特定するようにしたが、特徴量算出工程で1つのみ算出した特徴量が、または、特徴量算出工程で算出した複数種類のうち1つの特徴量が、取得した上記力学的物理量の前記時系列データにおけるいずれの時間帯に対応するものであるかに応じて所定の時間重み付け値を付加処理し、上記時間重み付け値を付加処理した特徴量を用いて上記物体の触感値を特定してもよい。例えば、図14(1)のグラフに代えて、横軸を物体に動作体を接触させて繰り返し動作をさせてからの経過時間、縦軸を所定期間ごとの特徴量の平均としたグラフに基づき、上述した方法で所定の時間重み付け値を決定してもよい。そして、決定された所定の時間重み付け値を付加処理した特徴量を用いて、触感値を特定してもよい。このようにしても、時間重み付け値を付加した触感値を用いて評価できるため、実際に人が感じる触感に近い評価を行うことが可能となる。
【0037】
図17は、上述した方法により、時間重み付け値および知覚強度係数の付加処理をした特徴量を用いてステージ毎およびSample毎に触感値を特定し、特定した触感値を横軸に洗浄時(第一ステージ)、縦軸にすすぎ時(第二ステージ)を示す座標系にプロットしたグラフである。第一触感値は、洗浄時における触感値であり、第二触感値は、すすぎ時における触感値であり、第一触感値を示す第一軸(例えば、横軸が相当)と、第二触感値を示す第二軸(例えば、縦軸が相当)と、を含む座標系に、第一触感値および第二触感値をともにプロットすることにより、洗浄時(第一ステージ)である期間とすすぎ時(第二ステージ)である期間とを含む期間の触感を評価することが可能となる。
図17より、例えば、以下のことが言える。
・SampleAは、洗浄時およびすすぎ時ともにきしんだ状態、すなわち、常にきゅっとした触感である。
・SampleBは、洗浄時は少しきしむがすすぎ時はほぼ素肌感に近い触感である。
・SampleCは、洗浄時はほぼきしまず、すすぎ時もほぼ素肌感に近い触感である。
・SampleDは、洗浄時、すすぎ時ともにほぼきしまず、全体としてヌルヌルした触感である。
・SampleEは、洗浄時はきしまないがすすぎ時は少しきしんだきゅっとした触感である。
このように、洗浄時の第一触感値とすすぎ時の第二触感値とを用いて洗浄時とすすぎ時とを含む期間の触感を評価でき、複数のステージを含む場合の全体的な触感評価を可能とする。
【0038】
<複数種類の特徴量間の相関関係を示す指標、ならびに時間重み付け値および知覚強度係数>
上述したように、複数種類の特徴量間の相関関係を示す指標に基づいて、時間の経過に伴い変化する物体の触感または触感を生み出す物性を評価することが可能である。この指標を算出する際に、時間重み付け値および知覚強度係数を考慮し算出することにより、より実際に人が感じる触感に近い評価を行うことが可能となる。
そこで、例えば、力学的物理量から所定時間毎に算出した複数種類の特徴量に対し、上述した時間重み付け値および/または知覚強度係数を付加処理し、付加処理した複数種類の特徴量を用いて相関関係を示す指標を算出し、当該指標と付加処理した複数種類の特徴量に基づき時間の経過に伴い変化する物体の触感または触感を生み出す物性を評価すればよい。
このように、評価工程は、複数種類の時間重み付け値を付加処理した特徴量のうち何れかの特徴量と指標(例えば、回帰線)および/または複数種類の時間重み付け値を付加処理した特徴量のうち何れかの特徴量と指標との、ずれ度合いと、に基づいて時間の経過に伴い変化する物体の触感または当該触感を生み出す物性を評価することで、実際に人が感じる触感に近い評価を行うことが可能となる。
【0039】
<複数種類の剤との比較>
複数種類の剤それぞれから算出した複数種類の特徴量のうち少なくとも2種類の特徴量の相関関係を示す指標を算出し、当該指標を用いて評価対象の剤の触感の評価を行う方法について説明する。本実施形態では、評価対象の剤のばらつき値(標準偏差(y´値))が指標(ここでは、標準回帰線を標準指標とする)に対してどの程度ずれているかによって、評価対象の剤の触感を評価する。
図18は、図5に示した平均と標準偏差とからなる座標点と標準回帰線を示したグラフである。図18は、Sample3を評価対象の剤とした場合を示している。「標準回帰線」は、複数種類の剤を母集団とし、剤毎に力学的物理量の時系列データを取得し、剤毎に複数種類の特徴量を算出し、算出した複数種類の特徴量のうち少なくとも2種類の特徴量(図18の場合は、平均と標準偏差)の相関関係を示している。なお、母集団に含まれる複数種類の剤はどのような剤でもよいが、評価対象の剤と同様の目的(例えば、洗浄対象が同様)の剤とすることが好ましい。同様の剤から算出された標準回帰線を用いることで、評価対象の剤の触感を適切に評価することが可能となる。また、剤が異なる以外は同一条件(例えば、剤を適用する部位を同一とする、剤の環境(使用方法)を同一とする)で取得した物体と動作体との間に生じる力学的物理量の時系列データを用いることが好ましい。このようにすることで、評価対象の触感は、剤の種類によるもの(剤の物性によるもの)であることを適切に評価できる。
図18に示すように、本実施形態では、標準回帰線に対して平均と標準偏差とからなる座標点の位置がy軸方向にどの程度離れているか距離を算出することとする。すなわち、標準回帰線に対して平均と標準偏差とからなる座標点の位置がy軸方向にどの程度乖離しているかを数値化する。本実施形態では、標準回帰線と平均と標準偏差とからなる座標点とのy軸方向の距離を「回帰線からのy軸方向の距離」、「回帰線からの乖離量」、または「y値」と記載する。
このように、特徴量算出工程は、複数種類の剤(例えば、複数種類の剤の母集団)毎に複数種類の特徴量を算出し、指標算出工程は、複数種類の剤の複数種類の特徴量のうち少なくとも2種類の特徴量(例えば、平均と標準偏差)の相関関係を示す標準指標と、標準指標と評価対象の剤の複数種類のうち何れかの特徴量との、ずれ度合いをさらに算出し、評価工程は、評価対象の剤(例えば、Sample3)の複数種類の特徴量(例えば、標準偏差)と標準指標とに基づいて評価対象の剤を適用した時の物体の触感または触感を生み出す物性を評価することが可能となる。
【0040】
図19から図21は、図18に示した方法で算出した「標準回帰線からのy軸方向の距離」と「振動の大きさ」との関係を時間毎(所定期間毎)に示したグラフである。図19から図21の横軸は振動の大きさ(x´値=原点からの距離)、縦軸は標準回帰線(回帰線)からのy軸方向の距離(y値)である。縦軸は標準回帰線からのy軸方向の距離であることより、不均一性を示している。各グラフには、Sample1からSample4についてプロットしている。プロットの大きさの違いは、y´値(標準偏差)の大きさの違いを示している。なお、Sample1からSample4は図7で用いた所定の剤と同一であるため、主観評価も同一である。
ここで、標準回帰線からのy軸方向の距離が正の値である(正方向に乖離している)と、所定の剤を適用することに伴い物体に影響する負荷が大きいと言え、また、標準回帰線からのy軸方向の距離が負の値である(負方向に乖離している)と、所定の剤を適用することに伴い物体に影響する負荷が小さいと言える。すなわち、図19から図21を用いることによって、所定の剤によって洗浄し、すすいでいる際の肌への負荷の程度を評価することが可能となる。
図19から図21に示したように、所定の剤を比較すると次のことがわかる。
・Sample1は、すすぎ始めはやや肌への負荷があるが、時間の経過とともに肌への負荷が低くなっていることがわかる。
・Sample2はすすぎ始めからすすぎ終わりのほとんどの時間帯でy値は負の値を示しており、比較した剤の中で、Sample2は他の剤よりも肌への負荷が低い傾向にあることがわかる。
・Sample3はすすぎ始めからすすぎ終わりのほとんどの時間帯でy値は正の値を示しており、比較した剤の中で、Sample3は他の剤よりも肌への負荷が高い傾向にあることがわかる。
・Sample4はすすぎ始めからすすぎ終わりにおいて、振動の大きさに変化はあるが、ほとんどの時間帯でy値は負の値を示しており、肌への負荷が低い傾向にあることがわかる。
【0041】
このように、物体に評価対象の剤を含む複数種類の剤をそれぞれ適用し、取得工程は、複数種類の剤毎に力学的物理量の時系列データを取得し、特徴量算出工程は、複数種類の剤毎に複数種類の特徴量を算出し、指標算出工程は、複数種類の剤(例えば、Sample1~4)の複数種類の特徴量のうち少なくとも2種類の特徴量(例えば、平均と標準偏差)の相関関係を示す標準指標(例えば、標準回帰線)と、標準指標と評価対象の剤の複数種類のうち何れかの特徴量との、ずれ度合いと、をさらに算出し(例えば、図18参照)、評価工程は、ずれ度合いに基づいて評価対象の剤を適用したときの物体の触感または当該触感を生み出す物性を評価することができる。
【0042】
また、標準指標を算出する際に用いる複数種類の剤それぞれから算出した複数種類の特徴量に対し、時間重み付け値および/または知覚強度係数の付加処理を行い、付加処理後の特徴量を用いることで、係留効果が考慮された評価を行うことが可能となる。
【0043】
上述した触感評価方法の処理の流れを図22に示す。
工程(ステップS100)は、力学的物理量の時系列データを取得する工程である。取得方法は、上述した通りである。
工程(ステップS110)は、取得した力学的物理量の時系列データにおいて特徴量を求める工程である。各特徴量の算出方法は、上述した通りである。本実施形態では、所定期間毎(例えば、2秒毎)に、信号強度の平均(x値)、信号強度の標準偏差(y´値)、スパイク量(y´´値)、および原点からの距離(x´値)を算出する。
工程(ステップS120)は、算出した特徴量を用いて触感値を特定する工程である。本実施形態では、上述した通り、複数種類の特徴量を用いて各触感値を特定するため、各触感値の特定方法は上述した通りである。本実施形態では、時間重み付け値および知覚強度係数との付加処理をした触感値を特定する。
工程(ステップS130)は、算出した複数種類の特徴量に対し、時間重み付け値および/または知覚強度係数の付加処理を行い、付加処理した複数種類の特徴量を用いて指標を算出する工程である。
工程(ステップS140)は、特定した触感値を用いて触感または当該触感を生み出す物性を評価する。評価方法は上述した通りである。例えば、図17に示した座標系に第一触感値および第二触感値をプロットし評価することである。
【0044】
<触感評価装置>
図23を用いて、触感評価装置200について説明する。
本実施形態における触感評価装置200は、動作体110、取得部120、および特徴量算出部130で構成される。さらに、評価部150、指標算出部160、および表示部170を備えることが好ましい。また、各種の処理を実行可能な情報処理端末100を備え、当該情報処理端末100に、特徴量算出部130、触感値特定部140、評価部150、および指標算出部160は備えられている。情報処理端末100は、汎用的なパーソナルコンピュータ(Personal Computer)であり、キーボード、ポインティングデバイスなどの入力装置、演算処理装置(例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)など)、記憶部等を備えている。また、情報処理端末100には、表示部170(表示装置)を備えていることが好ましいが、表示部170は情報処理端末100の外部に設けられ、ネットワークで接続されていてもよい。
【0045】
動作体110は、肌の表面に接触させる指20、手のひらまたは測定治具である。
取得部120は、図1に示した指20に装着したセンサ30を用いて、指20を動かすことにより生じた力学的な物理量を経時的に取得する手段(取得手段に相当)である。センサ30で取得された力学的な物理量(電気信号)は、ネットワーク回線、媒体などを経由して情報処理端末100で取得できるように構成されている。
特徴量算出部130は、取得部120で取得した力学的物理量の時系列データから特徴量を算出する手段(特徴量算出手段に相当)である。算出方法は上述したものと同様である。
触感値特定部140は、算出した特徴量を用いて触感値を特定する手段(触感値特定手段に相当)である。特定方法は上述したものと同様である。
評価部150は、触感特定部140特定した触感値を用いて、触感または当該触感を生み出す物性を評価する手段である。評価内容は上述したものと同様である。評価部150による評価結果は、表示部170を用いて評価者が把握しやすいようにすることが好ましい。
指標算出部160は、算出した特徴量を用いて指標を算出する手段である。算出方法は上述したものと同様である。
表示部170は、評価部150による評価結果、例えば、図17に示したグラフを表示する。また例えば、図11図13に示したグラフを表示することで、各剤の洗浄時またはすすぎ時それぞれの期間の触感を評価することが可能となる。また例えば、図19図21に示したグラフを表示することで、複数種類の剤を用いて評価対象の剤の触感を評価することが可能となる。
情報処理端末100の記憶部には、上述した評価方法を実行するプログラムが記憶されており、取得部120で取得した力学的な物理量をプログラムによって取得し、取得した力学的な物理量からプログラムが特徴量算出部130に特徴量を算出させ、プログラムが触感値特定部140に触感値を特定させ、プログラムが評価部150に評価結果を表示部170に表示させるようにする。
【0046】
以上のように、具体的な実施形態を示して本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の態様も含む。
<変形例>
本実施形態では、時間経過に伴って線形的に増加する時間重み係数を用いたがこれに限らない。例えば、二次関数的に増加する時間重み係数を用いてもよい。動作終了時は特に人の感じ方に寄与する度合いが高いため、二次関数的に増加する時間重み係数を用いることより、動作終了時の力学的物理量に重みを付けて評価できるため、実際に人が感じる触感に近い評価を行うことが可能となる。
【0047】
また、本実施形態では、第一ステージにおける時間重み係数の漸増割合と第二ステージにおける時間重み係数の漸増割合とを同一としたがこれに限らず、第一ステージにおける時間重み係数の漸増割合と第二ステージにおける時間重み係数の漸増割合とを異なる値としてもよい。
【0048】
また、本実施形態では、第一ステージにおける時間重み係数および第二ステージにおける時間重み係数は時間経過に伴い増加させたがこれに限らない。例えば、動作開始時と動作終了時の刺激は人に影響を与える割合が高いため、初期値から所定の範囲は漸増させ、その後、一旦、増減はせず、その後、漸増させてもよい。具体的には、例えば、g1=1、g2=2、g3=3、g4=3、g5=3、g6=4のようにしてもよい。このようにすることで、動作開始時と動作終了時にインパクトのある刺激がある場合、実際に人が感じる触感に近い評価を行うことが可能となる。
【0049】
また、本実施形態では、第一触感値は第一ステージにおける時間重み係数(例えば、g1(=1)からg6(=6)に漸増)、第二触感値は第二ステージにおける時間重み係数(例えば、g1(=1)からg6(=6)に漸増)であることより、第二触感値を特定する際の時間重み係数は、第一ステージの時間重み係数に関連付けられた値である。「第一ステージの時間重み係数に関連付けられた値」とは、本実施形態のように、態様1)第二ステージの時間重み係数のg1(=1)は、第一ステージの時間重み係数のg1(=1)と同一の時間重み係数とすること、すなわち、第二ステージの時間重み係数の初期値(g1)は第一ステージの時間重み係数と同一とし、同一割合で漸増すること、態様2)第二ステージの時間重み係数のg1は、第一ステージの時間重み係数のg1(=1)より小さい時間重み係数(例えば、0.5)とすること、すなわち、第二ステージの時間重み係数の初期値は第一ステージの時間重み係数の初期値より小さくすること、態様3)第二ステージの時間重み係数のg1は、第一ステージの時間重み係数の最後より前の時間重み係数(例えば、g5(=5))とすること、すなわち、第二ステージの時間重み係数の初期値は第一ステージの時間重み係数の最終値より前の時間重み係数と同一にすること、態様4)第二ステージの時間重み係数のg1は、第一ステージの時間重み係数の最後の時間重み係数(g6(=6))より小さい時間重み係数(例えば、5.5)とすること、すなわち、第二ステージの時間重み係数の初期値は第一ステージの時間重み係数の最終値より小さくすること、態様5)第二ステージの時間重み係数のg1は、第一ステージの時間重み係数の最後の時間重み係数(g6(=6))以上の時間重み係数(例えば、7)とすること、すなわち、第二ステージの時間重み係数の初期値は第一ステージの時間重み係数の最終値より大きくすること、などである。
態様1)から態様4)のように、第二ステージの時間重み係数のg1は、第一ステージの時間重み係数の最後の時間重み係数(g6(=6))より小さい時間重み係数とするのは、第一ステージと第二ステージとでは、所定の剤が互いに異なる、所定の剤が適用された物体の環境が互いに異なる、または、物体が互いに異なるため、第二ステージとなったことにより、触感印象がリセットされるためである。このように、第二ステージの時間重み係数のg1の値を第一ステージの時間重み係数の最後の時間重み係数(g6(=6))より小さい値を用いて第一触感値および第二触感値を特定することで、実際に人が感じる触感に近い評価を行うことが可能となる。また、態様3)のように、第二ステージの時間重み係数のg1は、第一ステージの時間重み係数の最後より前の時間重み係数(例えば、g5(=5))とする場合は、例えば、第一ステージから第二ステージとなったことで、触感印象が完全にリセットされない場合、例えば、第一ステージと第二ステージとはいずれもすすぎ状態で、第一ステージは水(肌の表面温度より低い)、第二ステージはぬるま湯ですすぐ場合であれば、触感印象が完全にリセットされない可能性が高いためである。
また、態様5)のように、第二ステージの時間重み係数のg1は、第一ステージの時間重み係数の最後の時間重み係数(g6(=6))以上の時間重み係数(例えば、7)とするのは、例えば、第一ステージと第二ステージは何れもマッサージ状態であり、第一ステージと第二ステージとでは塗布する所定の剤が異なる(例えば、第一ステージはオイル、第二ステージはクリーム)場合、第一ステージでの触感印象を継続するため、第一ステージの時間重み係数の最後の時間重み係数(g6(=6))以上の時間重み係数(例えば、7)を用いて第一触感値および第二触感値を特定することで、実際に人が感じる触感に近い評価を行うことが可能となる。
このように、第一ステージおよび第二ステージの内容に応じて、第二ステージの所定の時間重み付け値は、第一ステージの所定の時間重み付け値に関連付けられた値とすることが好ましい。
【0050】
本実施形態では、触感値を特定する際に、図16(2)に示した所定期間毎に算出した面積であるS1からS6に時間重み係数と知覚強度係数との付加処理を行った値の総和としたがこれに限らない。例えば、一部の値は含めず、触感値を特定するようにしてもよい。また、あるステージ内において、ある期間とその前の期間で得られたそれぞれの面積を比較して、その差や比に応じて、当該期間の面積の値にバイアスをかけてもよい。例えば、ある期間の面積に比べ、その前の面積が小さい場合、当該期間の面積をその前との比率倍するなどして触感値を特定するようにしてもよい。
【0051】
本実施形態では、触感値を特定する際に、図14(2)に示すように、所定時間における振動量を数値化する際に、所定時間における面積(図14(2)の1が記載された台形部分が相当)を求めることで数値化したがこれに限らない。例えば、図14(1)に示したグラフの所定時間毎の矩形の基底関数、矩形やサイン・コサインなど適切な基底関数を用いて特定してもよい。
【0052】
本実施形態では、第一ステージと第二ステージとは連続した時間としたがこれに限らない。例えば、第一ステージ後、所定期間経過後、第二ステージとなる場合でもよい。第一触感値および第二触感値は、ステージ毎に行うため、第一ステージ後、所定期間経過後に第二ステージとなる場合でも、第一ステージおよび第二ステージを含む期間の一連の触感評価を行うことができる。また、第一ステージでの官能評価結果、第二ステージでの官能評価結果を取得し、上述した式(3-A)~式(6)、または式(7-A)~式(10)を用いて第一ステージの時間重み係数、第二ステージでの時間重み係数を算出するようにしてもよい。
【0053】
本実施形態では、第一ステージおよび第二ステージを含む期間の評価を行ったが、ステージ数はこれに限らない。例えば、所定の剤として化粧落としを適用した状態を第一ステージ、洗顔剤を適用した状態を第二ステージ、化粧水を適用した状態を第三ステージとし、第一ステージ、第二ステージ、および第三ステージを含む期間の触感を評価することも可能である。この場合、例えば、3軸の座標系に第一触感値、第二触感値、および第三触感値をプロットすることで3ステージの特徴からなる総合的特徴を視覚的に把握でき、触感または当該触感を生み出す物性の評価を行うことができる。すなわち、所定ステージが有する複数のステージ(例えば、第一ステージ、第二ステージ、第三ステージが相当)毎に特定した各触感値(例えば、第一触感値、第二触感値、第三触感値が相当)を所定の座標系(例えば、3軸の座標系が相当)にプロットすることにより、複数ステージを含む期間の触感または当該触感を生み出す物性を評価可能となる。
【0054】
本実施形態では、「スパイク」と判定する所定の閾値は、取得した信号波形の信号強度に対して所定の割合(例えば、最大信号強度に対する所定の割合)を所定の閾値としてもよい。
【0055】
本実施形態では、知覚強度係数は、スティーヴンスのべき法則に基づき決定するようにしたが、これに加えて、人が物体を触り知覚する際の環境に基づき決定するようにしてもよい。ここで、「環境」とは、例えば、すすぐ際の水(お湯)の温度に基づき決定すること、人が物体を触る際の物体が存在する室温や湿度に基づき決定することなどである。すなわち、知覚強度係数は、人が物体を触り知覚する際の上記物体および動作体の存在状態(置かれている状態)や人が物体を触り知覚する際の所定の剤の置かれている状態に基づき決定することが好ましい。このようにすることで、より実際に人が感じる触感に近い評価を行うことが可能となる。
【0056】
本実施形態では、評価対象の剤を含む複数種類の剤毎に力学的物理量の時系列データを取得し、複数種類の剤毎に複数種類の特徴量のうち少なくとも2種類の特徴量の相関関係を示す標準指標を算出し、評価対象の剤を適用した時の物体の触感または触感を生み出す物性を評価したが、これに限らない。
例えば、物体は、評価対象の物体(例えば、顔)を含む複数種類の物体とし、所定の剤は複数種類の物体にそれぞれ適用する。例えば、複数種類の物体を頭部、顔、腕などとする。複数種類の物体毎に力学的物理量の時系列データを取得し、複数種類の物体毎に複数種類の特徴量を算出する。指標算出工程は、複数種類の物体の複数種類の特徴量のうち少なくとも2種類の特徴量(例えば、平均と標準偏差)の相関関係を示す標準指標と、標準指標と複数種類の特徴量のうち何れかの特徴量(例えば、標準偏差)とのずれ度合いを算出し、評価工程は、ずれ度合いに基づいて所定の剤を適用したときの評価対象の物体または触感を生み出す触感の物性を評価する。このように、母集団を複数種類の物体とすることで、評価対象の物体に所定の剤を適用した際の評価対象の物体の触感または触感を生み出す触感の物性を評価でき、例えば、所定の剤(同一の剤)を顔に適用した場合の所定の剤の物体への負荷を評価することが可能となる。
また、指標を回帰線とした場合であれば、次のようにすればよい。物体は、評価対象の物体(例えば、顔)を含む複数種類の物体であり、所定の剤は複数種類の物体それぞれに適用する。取得工程は、複数種類の物体毎に力学的物理量の時系列データを取得し、特徴量算出工程は、複数種類の物体毎に複数種類の特徴量を算出する。指標算出工程は、複数種類の特徴量のうち少なくとも2種類の特徴量の相関関係を示す回帰線(指標)を算出し、複数種類の物体の上記複数種類の特徴量のうち少なくとも2種類の特徴量(例えば、平均と標準偏差)の相関関係を示す標準回帰線をさらに算出する。評価工程は、評価対象の物体の複数種類の特徴量のうち何れかの特徴量と標準回帰線とに基づいて所定の剤を適用したときの上記評価対象の物体または当該触感を生み出す触感の物性を評価する。このように、指標を標準回帰線とした場合でも、母集団を複数種類の物体とすることで、評価対象の物体に所定の剤を適用した際の評価対象の物体の触感または触感を生み出す触感の物性を評価でき、例えば、所定の剤(同一の剤)を顔に適用した場合の所定の剤の物体への負荷を評価することが可能となる。
また、標準指標を算出する際に用いる複数種類の剤それぞれから算出した複数種類の特徴量に対し、時間重み付け値および/または知覚強度係数の付加処理を行い、付加処理後の特徴量を用いることで、係留効果が考慮された評価を行うことが可能となる。
【0057】
また、例えば、物体は、評価対象の物体の環境(例えば、水ですすぐ)を含む複数種類の物体の環境とし、所定の剤は複数種類の物体の環境それぞれの状態において適用する。例えば、複数種類の物体の環境を水ですすぐ、ぬるま湯ですすぐ、熱めの湯ですすぐなどとする。複数種類の物体の環境毎に力学的物理量の時系列データを取得し、複数種類の物体の環境毎に複数種類の特徴量を算出する。指標算出工程は、複数種類の物体の環境の複数種類の特徴量のうち少なくとも2種類の特徴量(例えば、平均と標準偏差)の相関関係を示す標準指標と、標準指標と複数種類の特徴量のうち何れかの特徴量(例えば、標準偏差)とのずれ度合いを算出し、評価工程は、ずれ度合いに基づいて所定の剤を適用したときの評価対象の物体の触感または触感を生み出す物性を評価する。ここで、「環境」とは、例えば、すすぐ際の水(お湯)の温度、物体がある室温や湿度など、上記物体および/または動作体の存在状態である。このように、母集団を複数種類の物体の環境とすることで、評価対象の物体の環境に所定の剤を適用した際の評価対象の物体の触感または触感を生み出す物性を評価でき、例えば、所定の剤(同一の剤)を物体に適用し、水ですすいだ場合の所定の剤の物体への負荷を評価することが可能となる。
また、指標を回帰線とした場合であれば、次のようにすればよい。物体は、評価対象の環境(例えば、水ですすぐ)を含む複数種類の物体の環境があり、所定の剤は複数種類の物体の環境それぞれの状態において適用する。取得工程は、複数種類の環境毎に力学的物理量の時系列データを取得し、特徴量算出工程は、複数種類の環境毎に複数種類の特徴量を算出する。指標算出工程は、複数種類の特徴量のうち少なくとも2種類の特徴量の相関関係を示す回帰線(指標)を算出し、複数種類の環境の上記複数種類の特徴量のうち少なくとも2種類の特徴量(例えば、平均と標準偏差)の相関関係を示す標準回帰線をさらに算出する。評価工程は、評価対象の環境の複数種類の特徴量のうち何れかの特徴量と標準回帰線とに基づいて評価対象の環境で所定の剤を適用したときの物体の触感または当該触感を生み出す物性を評価する。このように、指標を標準回帰線とした場合でも、母集団を複数種類の物体の環境とすることで、評価対象の物体の環境において所定の剤を適用した際の評価対象の物体の触感または触感を生み出す物性を評価でき、例えば、所定の剤(同一の剤)を物体に適用し、水ですすいだ場合の所定の剤の物体への負荷を評価することが可能となる。
また、標準指標を算出する際に用いる複数種類の剤それぞれから算出した複数種類の特徴量に対し、時間重み付け値および/または知覚強度係数の付加処理を行い、付加処理後の特徴量を用いることで、係留効果が考慮された評価を行うことが可能となる。
【0058】
本実施形態では、標準回帰線に対して、y軸方向にばらつきがどの程度乖離しているかを数値化し、その値に基づき評価対象の剤を適用したときの物体の触感、評価対象の剤による負荷、または触感を生み出す物性を評価することとしたが、これに限らない。例えば、スパイク信号量がどの程度y軸方向に乖離しているかを数値化し、その値に基づき評価対象の剤を適用したときの物体の触感、評価対象の剤による負荷、または触感を生み出す物性を評価することも可能である。なお、乖離の程度を数値化する上では、y軸方向ではなくx軸方向などに着目して数値化することも可能である。
【0059】
本実施形態では、標準回帰線に対してy軸方向にばらつき(y´値)がどの程度乖離しているかを数値化し、図19から図21に示すように所定期間(例えば、第1期間、第4期間など)ごとにグラフを作成し、評価対象の剤を適用したときの時間の経過に伴い変化する物体の触感、評価対象の剤による負荷、または触感を生み出す物性を評価したがこれに限らない。例えば、所定期間毎に数値化した値(乖離量)の総和を算出し、動作体の動作開始から終了までの評価対象の剤による物体への総負荷量を算出してもよい。また、動作体の動作開始から終了までの評価対象の剤による物体への総負荷量と所定期間毎の乖離量とを比較することで、総負荷量に対しどのような割合で評価対象の剤による物体への負荷が経時的に変化するかを評価することが可能となる。
【0060】
本実施形態では、複数種類の特徴量のうち何れかの特徴量と回帰線と、に基づいて評価する例として、平均回帰線と特徴量(平均と標準偏差)の場合、標準回帰線と複数種類の剤の特徴量(平均と標準偏差)の場合について説明した。すなわち、回帰分析によって回帰線を作成する際に用いた特徴量と作成した回帰線によって、物体の触感または当該触感を生み出す物性の評価を行ったがこれに限らない。例えば、回帰線を作成する際に用いた特徴量とは別の特徴量と回帰線とに基づき物体の触感または当該触感を生み出す物性の評価を行ってもよい。また、本実施形態では、回帰線に対し、特徴量の所定期間毎の位置(例えば、第1期間の座標、第4期間の座標などであり、「時系列のプロット」と記載する)がどのような位置であるかにより物体の触感または当該触感を生み出す物性の評価を行ったがこれに限らない。例えば、回帰線上を時系列のプロットがどれだけの長さを移動したか(回帰線上の総移動距離)、回帰線上での時系列プロットの最初の位置、回帰線上での時系列プロットの最後の位置、回帰線上での時系列プロットの最初の位置からどのような方向に動き出すか(動き出し方向)、回帰線上での時系列プロットの最後の位置はどのような方向から移動してきた位置か、標準回帰線と評価対象の回帰線(個別の回帰線)との乖離量の総和(または乖離量の二乗和)などであり、これらの値を単独で用いて評価してもよく、また、これらの値のうち複数の値を用いて評価してもよい。
【符号の説明】
【0061】
10 演算装置
20 指
30 センサ
40 洗浄剤
100 情報処理端末
110 動作体
120 取得部
130 特徴量算出部
140 触感値特定部
150 評価部
160 指標算出部
170 表示部
200 触感評価装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23