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特開2024-16698精製四塩化チタンの製造方法及び、チタン系材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016698
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】精製四塩化チタンの製造方法及び、チタン系材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/02 20060101AFI20240131BHJP
【FI】
C01G23/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119005
(22)【出願日】2022-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】丸山 雄市
(57)【要約】
【課題】バナジウム分離剤の使用の適否を判断することができる精製四塩化チタンの製造方法及び、チタン系材料の製造方法を提供する。
【解決手段】この発明の精製四塩化チタンの製造方法は、バナジウムを含有する粗四塩化チタンから、当該粗四塩化チタンよりも高純度の精製四塩化チタンを製造する方法であって、液体の粗四塩化チタンに、有機化合物を含有するバナジウム分離剤を添加する分離剤添加工程と、前記分離剤添加工程の後、粗四塩化チタンに対して蒸留を行い、精製四塩化チタンを得る蒸留工程と、前記蒸留工程の後、液体の精製四塩化チタンの色彩を検査する色彩検査工程とを含むものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バナジウムを含有する粗四塩化チタンから、当該粗四塩化チタンよりも高純度の精製四塩化チタンを製造する方法であって、
液体の粗四塩化チタンに、有機化合物を含有するバナジウム分離剤を添加する分離剤添加工程と、前記分離剤添加工程の後、粗四塩化チタンに対して蒸留を行い、精製四塩化チタンを得る蒸留工程と、前記蒸留工程の後、液体の精製四塩化チタンの色彩を検査する色彩検査工程とを含む、精製四塩化チタンの製造方法。
【請求項2】
前記分離剤添加工程、前記蒸留工程及び前記色彩検査工程を含む精製四塩化チタンの製造を連続して行う、請求項1に記載の精製四塩化チタンの製造方法。
【請求項3】
前記バナジウム分離剤が、芳香族炭化水素を含む鉱油を含有する、請求項1に記載の精製四塩化チタンの製造方法。
【請求項4】
前記色彩検査工程での精製四塩化チタンの色彩の検査に、装置を用いる、請求項1に記載の精製四塩化チタンの製造方法。
【請求項5】
前記色彩検査工程で、前記精製四塩化チタンの色彩を表したRGBカラーモデルにおけるR、G及びBの各値より、式:Vd=[(R+G)/2]-Bから求められる判定値Vdに基づいて、精製四塩化チタンの色彩の検査を行う、請求項4に記載の精製四塩化チタンの製造方法。
【請求項6】
前記蒸留工程の後、前記精製四塩化チタン中の前記バナジウム分離剤に由来する成分を分析する成分分析工程を含み、
前記色彩検査工程の検査結果及び前記成分分析工程での分析結果に応じて、前記分離剤添加工程での前記バナジウム分離剤を調整する、請求項1に記載の精製四塩化チタンの製造方法。
【請求項7】
前記成分分析工程で赤外分光法を用いる、請求項6に記載の精製四塩化チタンの製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の精製四塩化チタンの製造方法により製造された精製四塩化チタンを用いて、スポンジチタン、チタン酸化物、四塩化チタン水溶液、ポリオレフィン重合用触媒、及び、チタン酸塩からなる群から選択される少なくとも一種のチタン系材料を製造する、チタン系材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、粗四塩化チタンから精製四塩化チタンを製造する方法及び、それを用いてチタン系材料を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、塩化炉にてコークスを用いてチタン鉱石中の酸化チタンを還元することによって得られる粗四塩化チタンは、チタン鉱石やコークス等に由来する多数の不純物が含まれる。そのような不純物を分離させて除去するため、粗四塩化チタンに対し、四塩化チタン及び各不純物の沸点の差異を利用して分離・濃縮する蒸留や、蒸留を繰り返す精留を行う。蒸留ないし精留を経ることにより、精製四塩化チタンが製造される。
【0003】
ここで、粗四塩化チタンに含まれる不純物のうち、バナジウムは、粗四塩化チタン中での塩化物その他の化合物等の形態によっては四塩化チタンと近い沸点を有すること等に起因して、蒸留ないし精留で粗四塩化チタンから分離させることが困難である。このため、たとえば特許文献1~4に記載されているように、粗四塩化チタンをバナジウム分離剤と接触させることで、粗四塩化チタンからバナジウムを除去することが行われる。
【0004】
特許文献1には、「蒸気状態の四塩化チタンを、加熱下に有機試薬の溶液またはよく分散した懸濁液と接触させ、次いで凝縮させて純粋な四塩化チタンを回収すること」が開示されている。この特許文献1には、「これまでバナジウム不純物の除去は、不純物を四塩化チタンの沸点で揮発しにくい形または不揮発性の形に変換することにより、またはVOCl3やVCl4と反応して不揮発性バナジウム誘導体を形成する有機処理剤を用いることによって行われてきた。この目的に用いられる有機物質としては、動物性油、植物性油、ろう、これらの加水分解すなわちけん化誘導体たとえば脂肪酸、脂肪アルコールおよび石けんなど、石油留分たとえば潤滑油、鉱油、重残油留分(バンカーC油など)、炭化水素に富む物質たとえばトール油、炭化水素に富む重合体たとえばポリエチレンやポリプロピレンなどがある。」との記載がある。
【0005】
特許文献2には、「有機オイルがバナジウム不動態化剤として有用であることは知られており、そのようなオイルとしてはたとえば、石油系オイルのたとえば鉱油およびワックス、動物油脂、および植物油、ならびにそれらの組合せが挙げられる。」との記載がある。
【0006】
特許文献3では、「粗製四塩化チタンを蒸留精製する際に用いる四塩化チタン精製用配合油として、人の健康に対する影響が小さい多環芳香族化合物(PCA)の含有量が少ない鉱油を用い、バナジウムなどの不純物除去に優れたものを提供する」とし、「DMSO抽出分が3質量%未満、%CAが10~25、クロマトによる芳香族分が50質量%以上である鉱油系基油と、硫化油脂、硫化オレフィン、硫化エステル、ポリスルフィドの少なくとも1種類からなる硫黄系添加剤を硫黄分として2~8質量%を含有する四塩化チタン精製用配合油」が提案されている。
【0007】
特許文献4には、「TiCl4の製造方法であって、塩化反応炉において粗TiCl4ガスを生成する粗TiCl4ガス生成工程と、生成した前記粗TiCl4ガスを液化して第一粗TiCl4液を得る液化工程と、前記第一粗TiCl4液に有機物オイルを混合し第二粗TiCl4液を得るオイル混合工程と、前記第二粗TiCl4液を予備加熱する予備加熱工程と、予備加熱した前記第二粗TiCl4液を脱気する脱気工程と、および、精留塔にて前記第二粗TiCl4液を精留する精留工程と、を含む、TiCl4の製造方法」が記載されている。また特許文献4には、「有機物オイルの成分と反応するとV含有物は難揮発性物質として析出するため、第二粗TiCl4液から容易に分離できる。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭46-7363号公報
【特許文献2】特表2006-515264号公報
【特許文献3】特開2010-254486号公報
【特許文献4】特開2019-172543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
粗四塩化チタン中のバナジウム含有量は、原料のチタン鉱石やコークスの品質等によって変化することがある。それに応じてバナジウム分離剤の添加量等の使用態様を調整し、その添加量の過剰もしくは不足等による精製四塩化チタン中でのバナジウム分離剤やバナジウムの残留を抑えることが求められる。
【0010】
しかしながら、バナジウム分離剤の使用態様が適切であるか否かについての判断に関しては、検討の余地があった。
【0011】
この発明の目的は、バナジウム分離剤の使用の適否を判断することができる精製四塩化チタンの製造方法及び、チタン系材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者は鋭意検討の結果、液体の四塩化チタンが、高純度のものではほぼ無色透明であるのに対し、バナジウムやバナジウム分離剤を含むと、たとえば黄色みを帯びたような色彩を呈することに着目した。但し、他の不純物も多く含まれる粗四塩化チタンでは、その色彩が当該他の不純物による影響も受けることから、色彩を検査しても、バナジウムやバナジウム分離剤の残留の有無を適切に推定することができない。そこで、発明者は、粗四塩化チタンに対して蒸留を行った後に得られる液体の精製四塩化チタンについて、色彩の検査を行うこととした。精製四塩化チタンは、蒸留により不純物のほとんどが除去されているので、バナジウムやバナジウム分離剤による着色の有無、ひいてはバナジウム分離剤の使用の適否を判断することができる。
【0013】
この発明の精製四塩化チタンの製造方法は、バナジウムを含有する粗四塩化チタンから、当該粗四塩化チタンよりも高純度の精製四塩化チタンを製造する方法であって、液体の粗四塩化チタンに、有機化合物を含有するバナジウム分離剤を添加する分離剤添加工程と、前記分離剤添加工程の後、粗四塩化チタンに対して蒸留を行い、精製四塩化チタンを得る蒸留工程と、前記蒸留工程の後、液体の精製四塩化チタンの色彩を検査する色彩検査工程とを含むものである。
【0014】
上記の精製四塩化チタンの製造方法では、前記分離剤添加工程、前記蒸留工程及び前記色彩検査工程を含む精製四塩化チタンの製造を連続して行うことが好ましい。
【0015】
前記バナジウム分離剤は、芳香族炭化水素を含む鉱油を含有することが好ましい。
【0016】
前記色彩検査工程での精製四塩化チタンの色彩の検査には、装置を用いることが好ましい。
【0017】
この場合、前記色彩検査工程では、前記精製四塩化チタンの色彩を表したRGBカラーモデルにおけるR、G及びBの各値より、式:Vd=[(R+G)/2]-Bから求められる判定値Vdに基づいて、精製四塩化チタンの色彩の検査を行うことが好ましい。
【0018】
上記の精製四塩化チタンの製造方法は、前記蒸留工程の後、前記精製四塩化チタン中の前記バナジウム分離剤に由来する成分を分析する成分分析工程を含み、前記色彩検査工程の検査結果及び前記成分分析工程での分析結果に応じて、前記分離剤添加工程での前記バナジウム分離剤を調整することが好ましい。
【0019】
前記成分分析工程では、赤外分光法を用いることができる。
【0020】
この発明のチタン系材料の製造方法は、上記のいずれかの精製四塩化チタンの製造方法により製造された精製四塩化チタンを用いて、スポンジチタン、チタン酸化物、四塩化チタン水溶液、ポリオレフィン重合用触媒、及び、チタン酸塩からなる群から選択される少なくとも一種のチタン系材料を製造するというものである。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、バナジウム分離剤の使用の適否を判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】この発明の一の実施形態に係る精製四塩化チタンの製造方法を実施することができる設備の一例を示す模式図である。
図2】ハーゼン色数標準液のハーゼン色数と、そのハーゼン色数標準液の色彩を表したR、B及びGの値から求められる判定値Vdとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態に係る精製四塩化チタンの製造方法は、バナジウムを含有する粗四塩化チタンから、その粗四塩化チタンよりも高純度の精製四塩化チタンを製造する方法である。この製造方法には、液体の粗四塩化チタンに、有機化合物を含有するバナジウム分離剤を添加する分離剤添加工程と、分離剤添加工程の後、粗四塩化チタンに対して蒸留を行い、精製四塩化チタンを得る蒸留工程と、蒸留工程の後、液体の精製四塩化チタンの色彩を検査する色彩検査工程とが含まれる。
【0024】
蒸留工程後に得られる精製四塩化チタンは、不純物のほとんどが十分に除去されたものである。それ故に、色彩検査工程の検査で、精製四塩化チタンが黄色等の色彩を呈する場合は、その色彩は、精製四塩化チタンにある程度多くのバナジウムやバナジウム分離剤が含まれることを表す。このため、色彩検査工程の検査結果により、精製四塩化チタン中のバナジウムやバナジウム分離剤の含有量が、所定の品質を満たす程度に少ないかどうかについて確認することができる。
【0025】
好ましくは、色彩検査工程の後、精製四塩化チタン中のバナジウム分離剤に由来する成分を分析する成分分析工程が含まれる。それにより、色彩検査工程の検査で精製四塩化チタンが色彩を呈する場合に、成分分析工程で、その色彩がバナジウムによるものか又はバナジウム分離剤によるものか、さらには、分離剤添加工程でのバナジウム分離剤の添加量が不足であるか又は過剰であるかを判別することができる。そして、色彩検査工程の検査結果及び成分分析工程での分析結果に応じて、分離剤添加工程でのバナジウム分離剤の添加量その他の使用態様を調整することができる。この製造方法は、たとえば図1に示すような設備を用いて実施することができる。
【0026】
(粗四塩化チタン)
【0027】
粗四塩化チタンは一般に、塩化炉1でのチタン鉱石の塩化反応により生成される。より詳細には、たとえば、塩化炉1内にて1000℃程度の高温に維持し、チタン鉱石及びコークスを含む原料の下方側から塩素ガスを上方側に向けて供給し、そこに流動層を形成する。流動層では、反応式:TiO2+C+2Cl2→TiCl4+CO2/COより、気体の粗四塩化チタンが生成される。なおこの際に、副生物として、二酸化炭素や硫黄含有化合物等も生成され得る。塩化炉1で生成した気体の粗四塩化チタンは、塩化炉1に接続されたコンデンサ2に送られ、コンデンサ2で冷却されて液体になる。液体の粗四塩化チタンは、貯留タンク3内に貯留させることがある。
【0028】
このようにして得られた粗四塩化チタンは、チタン鉱石やコークス等に由来する多くの不純物が含まれる。具体的には、粗四塩化チタンにはバナジウムが含まれ、さらに炭素、酸素、硫黄、リン、塩素、鉄、アルミニウム等が含まれ得る。たとえば、粗四塩化チタンのバナジウム含有量は0.02質量%~0.2質量%、炭素含有量は0.001質量%~0.005質量%である場合がある。そのような不純物は、液体の粗四塩化チタン中にて、CO、O2、CO2、COS、SO2、COCl2、CCl4、POCl3、VCl4、VOCl3等の形態で含まれることがある。
【0029】
粗四塩化チタンから上述したような不純物の多くを分離させて除去するため、後述する分離剤添加工程及び蒸留工程を行う。
【0030】
なおここでは、「粗四塩化チタン」とは、四塩化チタン(TiCl4)の他、少なくともバナジウムを含有し、次に述べる分離剤添加工程に供するもののことをいう。「精製四塩化チタン」とは、後述の蒸留工程を経たものであって、上記の粗四塩化チタンよりも四塩化チタン(TiCl4)の純度が高いものを意味する。単に「四塩化チタン」というときは、上記の粗四塩化チタンと精製四塩化チタンとを区別しない化合物のことを意味している。
【0031】
(分離剤添加工程)
分離剤添加工程では、液体の粗四塩化チタンに、有機化合物を含有するバナジウム分離剤を添加する。
【0032】
図1に示す設備の例では、次に述べる蒸留工程での蒸留のために、液体の粗四塩化チタンを加熱して蒸発させる蒸発釜4内で、分離剤添加工程が行われる。ここでは、貯留タンク3から蒸発釜4へ粗四塩化チタンを送る配管の途中に、分離剤タンク10が接続されており、そこから蒸発釜4にバナジウム分離剤が粗四塩化チタンとともに供給される。そして、バナジウム分離剤が添加された粗四塩化チタンは、蒸発釜4で加熱・気化されて、精留塔5に導入される。バナジウム分離剤を粗四塩化チタンと接触させる時期は、粗四塩化チタンが生成された後から、粗四塩化チタンに対して蒸留を行う前であれば特に限らず、適宜決定することができる。
【0033】
バナジウム分離剤は、有機化合物を含有し、典型的には油(有機物オイル)であり、好ましくは、芳香族炭化水素を含む鉱油を含むものであるが、脂肪酸を含有する動物性油や植物性油、ロウを含むものとしてもよい。バナジウム分離剤としては、公知のものを使用可能である。なお、前記鉱油は芳香族炭化水素を10質量%以上、30質量%以上、50質量%以上、また75質量%以上含むものとしてよい。
【0034】
上記のようなバナジウム分離剤を液体の粗四塩化チタンに添加すると、たとえば、バナジウム分離剤が粗四塩化チタン中のVOCl3やVCl4と反応して不揮発性バナジウム誘導体を形成し、当該バナジウムがバナジウム分離剤の添加後及び/又は蒸留時に四塩化チタンから分離して除去される。
【0035】
バナジウム分離剤の添加量が多すぎると、粗四塩化チタン中のバナジウムは十分に除去されたとしても、反応に使用されなかった残余のバナジウム分離剤が残留し、そのバナジウム分離剤が不純物になる。これに対し、バナジウム分離剤の添加量が少ない場合は、バナジウム分離剤が不足して、粗四塩化チタン中のバナジウムの除去が不十分になり、これが精製四塩化チタンにも含まれる。それ故に、バナジウム分離剤は適切な量で添加することが必要になる。他方、チタン鉱石の品位その他の条件によっては、粗四塩化チタンのバナジウム含有量が変動するので、バナジウム分離剤の適切な添加量を一律に決定することは難しい場合がある。
【0036】
バナジウム分離剤の添加量を決める指標としては、四塩化チタンの色彩がある。不純物をほぼ含まない高純度の液体の四塩化チタンは実質的に無色透明であるが、バナジウムを含む液体の四塩化チタンは黄色みがかった色彩を呈する。また、上記のバナジウム分離剤を含む液体の四塩化チタンも、実質的に同様の黄色になることが多い。但し、粗四塩化チタンは、他の不純物に起因する色味を帯びていることから、バナジウム分離剤との接触後の粗四塩化チタンの色彩を検査しても、バナジウムやバナジウム分離剤の残留の有無を判断することは困難である。そこで、この実施形態では、次に述べる蒸留工程を行って不純物の多くを除去した後、それにより得られる精製四塩化チタンの色彩を検査する色彩検査工程を行う。
【0037】
(蒸留工程)
蒸留工程では、分離剤添加工程の後の粗四塩化チタンに対し、公知の方法により蒸留を行い、不純物を低減して精製四塩化チタンを得ることができる。なおここでは、「蒸留」は、四塩化チタン及び各不純物の沸点の差異を利用して分離・濃縮する蒸留だけでなく、その蒸留を繰り返す精留をも含む用語として使用している。
【0038】
一例として、図1に示すところでは、蒸発釜4内で液体の粗四塩化チタンを加熱して蒸発させて気体とし、これを精留塔5に送り込む。精留塔5内は、上下方向で異なる高さに配置された複数の棚板で区画されており、各段にて気液の接触により、沸点の違いに基づいて粗四塩化チタンの高沸点成分と低沸点成分とが分離される。これにより、精留塔5を通って得られる精製四塩化チタンは、粗四塩化チタンに含まれていた不純物の多くが十分に除去されたものになる。
【0039】
(色彩検査工程)
色彩検査工程では、蒸留工程で精留塔5を経た後の液体の精製四塩化チタンの色彩を検査する。
【0040】
先にも述べたように、精製四塩化チタンがバナジウムを含む場合及び、バナジウム分離剤を含む場合のいずれにおいても、精製四塩化チタンは黄色みを帯びた色彩になる傾向がある。ここでは、既に蒸留が行われた精製四塩化チタンを検査の対象とすることから、当該精製四塩化チタンは、他の不純物による着色がほぼ無い。それ故に、精製四塩化チタンがバナジウムやバナジウム分離剤を含むか否かについて、高い精度で判別することができる。
【0041】
精製四塩化チタンの色彩の検査は、目視で行うことも可能である。この場合、たとえば、JIS K0071(2017)に準拠して作製した白金-コバルト色標準液(ハーゼン色数標準液)と、精製四塩化チタンとを目視で比較することができる。
【0042】
一方、色差計ないし色彩計もしくは分光測色計、又は、カメラ等の撮像ないし撮影装置及び、それによって得られた画像を処理する電子計算機を含む画像処理装置その他の装置を用いて、精製四塩化チタンの色彩の検査を行うほうが好ましい。装置を使用すれば、生産性を向上させることができる他、人件費を削減できるとともに、目視で行う場合の各人の検査能力に依存する検査結果のばらつきが防止されて、検査精度の向上を図ることができる。
【0043】
色差計等の装置を用いる場合、精製四塩化チタンの色彩を、RGBカラーモデルにおけるR、G及びBの値で表し、それらのR、G及びBの各値より、式:Vd=[(R+G)/2]-Bを用いて、判定値Vdを算出することが好適である。つまり、ここでは、R及びGの平均値からBを差し引いて、判定値Vdを求める。後述の実施例の項目で説明するように、先述のハーゼン色数標準液のハーゼン色数(ハーゼンナンバー)と、そのハーゼン色数標準液の色彩を表したR、G及びBの値から求められる判定値Vdとの間には、高い相関関係があるとの知見が得られた。このため、精製四塩化チタンの色彩について判定値Vdを求めると、その判定値Vdから上記の相関関係を用いて、当該精製四塩化チタンがハーゼン色数標準液のどのハーゼン色数に近い色彩かを推定することができる。
【0044】
色彩検査工程で得られる検査結果から、精製四塩化チタン中のバナジウムやバナジウム分離剤の含有量を推定することができる。それにより、精製四塩化チタンが所定の品質を満たすものであるかどうか判断することが可能である。たとえば、検査結果により、精製四塩化チタンの黄色みが強いことが示された場合、精製四塩化チタン中のバナジウム又はバナジウム分離剤が比較的多いことがある。黄色みが強い精製四塩化チタンは出荷を停止する等の措置をとることもできる。
【0045】
なお、色彩検査工程は、たとえば、精留塔5からの精製四塩化チタンの排出口と連結された色彩検査箇所6内に、液体の精製四塩化チタンを通過させながら又は貯留させた状態で、色差計等の装置を用いて行うことがある。たとえば、色彩検査箇所6は、精製四塩化チタンが通る内部の周囲を、光が透過するガラス等の材料を含んで構成されることがあり、色彩の測定を行う箇所が適切に遮光されたものとする場合がある。色彩検査箇所6の一例として、配管にガラス窓の測定箇所を設けたものでは、その配管内で精製四塩化チタンを満液状態で流すことがある。
【0046】
色彩検査工程で精製四塩化チタンの色彩が許容できないものであるとの検査結果が得られた場合、当該精製四塩化チタンは、貯留タンク3や蒸発釜4等に戻して再度、分離剤添加工程や蒸留工程に供することが好ましい。
【0047】
(成分分析工程)
色彩検査工程で、たとえば精製四塩化チタンの黄色みが所定の基準よりも強いことが確認された場合、精製四塩化チタンのその色彩が、バナジウムによるものか又はバナジウム分離剤によるものかについて確認することが望ましい場合がある。これを確認すれば、分離剤添加工程でのバナジウム分離剤の調整を適切に行い得ることがあるからである。
【0048】
そのような場合、蒸留工程の後、精製四塩化チタン中のバナジウム分離剤に由来する成分を分析する成分分析工程を行うことが好ましい。
【0049】
成分分析工程の具体的な分析手法は、精製四塩化チタン中のバナジウム分離剤に由来する成分を分析できれば特に問わないが、赤外分光法を用いることが好適である。赤外分光法は、バナジウム分離剤に含まれる有機化合物の有無を確認することが可能であり、赤外分光光度計(IR)を用いて比較的簡易に行うことができる。
【0050】
成分分析工程を行った場合は、先述した色彩検査工程での検査結果及び成分分析工程での分析結果に応じて、分離剤添加工程でのバナジウム分離剤の添加量や添加方式、バナジウム分離剤の種類等のバナジウム分離剤の使用態様を調整することができる。具体的には、分離剤添加工程でのバナジウム分離剤の添加量を増やしたり又は減らしたりすることができる。
【0051】
たとえば、色彩検査工程で精製四塩化チタンの色彩が許容できないとの検査結果が得られた場合において、成分分析工程で精製四塩化チタンにある程度多くのバナジウム分離剤が含まれるとの分析結果が得られたときは、分離剤添加工程でバナジウム分離剤が過剰に添加されていると考えられるので、バナジウム分離剤の添加量を減らす等といった調整をすることができる。あるいは、精製四塩化チタンにバナジウム分離剤がほぼ含まれないという分析結果の場合、色彩検査工程での検査結果における精製四塩化チタンの黄色みは、バナジウム分離剤ではなくバナジウムによるものと推測される。その場合、分離剤添加工程でのバナジウム分離剤の添加量が不足していると考えられ、バナジウム分離剤の添加量を増やすという調整をすることが可能である。
【0052】
図1に示すところでは、成分分析工程は、色彩検査工程の後に、色彩検査箇所6と直列に接続された成分分析箇所7にて行われ得る。あるいは、図示は省略するが、成分分析箇所を色彩検査箇所と並列に設けて(つまり、成分分析箇所を精留塔に接続して)、成分分析工程を色彩検査工程よりも前又は色彩検査工程と同時に行ってもよい。
【0053】
成分分析工程で、精製四塩化チタンに、バナジウム分離剤に由来する成分がある程度多く含まれるとの分析結果が得られた場合、当該精製四塩化チタンは、貯留タンク3や蒸発釜4等に戻して再度、分離剤添加工程や蒸留工程に供することが好ましい。
【0054】
上述したような分離剤添加工程、蒸留工程、色彩検査工程、場合によっては更に成分分析工程を含む精製四塩化チタンの製造は、図1に例示する設備を使用して連続して行う場合がある。その場合、人件費を抑えることができるとともに、人手による作業ミスを防止することができる。このようにして連続的に製造される途中の分離剤添加工程にて、たとえば蒸発釜4内で、粗四塩化チタンにバナジウム分離剤が添加され得る。
【0055】
(チタン系材料の製造方法)
以上のようにして製造された精製四塩化チタンは、バナジウム含有量が比較的少なく、またバナジウムの除去に使用したバナジウム分離剤もほぼ含まれないものになる。なお、粗四塩化チタンに含まれていた他の不純物のほとんどは、蒸留工程で有効に除去される。したがって、かかる精製四塩化チタンは、ある程度純度が高いものである。
【0056】
上記の精製四塩化チタンを用いることにより、公知の方法にて、スポンジチタン、チタン酸化物、四塩化チタン水溶液、ポリオレフィン重合用触媒、及び、チタン酸バリウム等のチタン酸塩からなる群から選択される少なくとも一種のチタン系材料を製造することができる。そのようなチタン系材料もまた、不純物が十分に低減されたものであり、それぞれの用途に適している。高純度の精製四塩化チタンは、半導体で使用されるチタン系材料の製造に用いることが特に好適である。
【実施例0057】
次に、この発明の精製四塩化チタンの製造方法を試験的に実施し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0058】
(比較例1)
図1に示すような設備を用いて、塩化炉でチタン鉱石とコークスを含む原料を用いて塩化反応を行い、それによって得られた粗四塩化チタンをコンデンサで冷却し、蒸発釜内に液体の粗四塩化チタンを得た。
【0059】
上記の蒸発釜内に連続的に、液体の粗四塩化チタンとともに、バナジウム分離剤として芳香族炭化水素を83質量%含む鉱油(ENEOS株式会社製のDEVAL-TT)を1.0~2.0g/L供給し、蒸発釜内で粗四塩化チタン中のバナジウムを沈殿させた。その後、当該液体の粗四塩化チタンの色彩を目視で検査したところ、バナジウム及びバナジウム分離剤以外の成分による着色のため、バナジウム分離剤の添加量が適切か判断できない状態であった。
【0060】
(実施例1)
比較例1と同様にして、液体の粗四塩化チタンに同様のバナジウム分離剤を同様の量で添加した後、精留塔で蒸留を行い、精製四塩化チタンを得た。
【0061】
上記の精製四塩化チタンを目視で、JIS K0071(2017)に基づく白金-コバルト色標準液(ハーゼン色数標準液、No.10~80)と比較した結果、精製四塩化チタンの色彩は、ハーゼン色数が40以下であると判断された。
【0062】
その結果、精製四塩化チタンには、バナジウム及びバナジウム分離剤のそれぞれが、この精製四塩化チタンの用途では許容量以下で含まれること、並びに、このことからバナジウム分離剤の添加量が適切であったことがわかった。
【0063】
(実施例2)
実施例1と同様にして精製四塩化チタンを得た。この精製四塩化チタンの色彩を、色差計(キーエンス株式会社製のCV-X400)で検査すると、当該色彩はRGBカラーモデルで(R、G、B)=(170、169、162)であった。そのR、G及びBの各値より、Vd=[(R+G)/2]-Bから判定値Vdを求めた結果、判定値Vdは7.5であった。
【0064】
これとは別に、JIS K0071(2017)に基づく白金-コバルト色標準液(ハーゼン色数標準液、No.10~80)と、そのハーゼン色数標準液の色彩のRGBカラーモデルのR、G及びBの各値より求めた判定値Vdとの関係を調べたところ、図2に示すグラフを得た。このグラフより、R2=0.9658(≒1)であり、それらの間には高い相関があることが確認された。
【0065】
上述した精製四塩化チタンの色彩の判定値Vdは、図2に示すグラフより、ハーゼン色数標準液のハーゼン色数の40以下に相当し、当該精製四塩化チタンの色彩は、ハーゼン色数が40以下であるものと近似する色彩であることがわかった。これにより、実施例1の目視による結果と同じ結果が得られたことがわかる。
【0066】
なお、実施例2で得られた精製四塩化チタンの成分を、FT/IR-4100型(日本分光株式会社製)で分析したところ、炭化水素の含有量は0.8質量ppmであった。
【0067】
(実施例3)
実施例1と同様にして蒸留を行い、実施例1とは精留塔の異なる位置から取り出されて実施例1とは純度の異なる精製四塩化チタンを得た。
【0068】
上記の精製四塩化チタンを目視で、JIS K0071(2017)に基づく白金-コバルト色標準液(ハーゼン色数標準液、No.10~80)と比較した結果、精製四塩化チタンは、ハーゼン色数が80以下であるものと近似する色彩であった。
【0069】
その結果、精製四塩化チタンには、バナジウム及びバナジウム分離剤のそれぞれが、この精製四塩化チタンの用途では許容量以下で含まれること、並びに、このことからバナジウム分離剤の添加量が適切であったことがわかった。
【0070】
(実施例4)
実施例3と同様にして精製四塩化チタンを得た。この精製四塩化チタンの色彩を、色差計(キーエンス株式会社製のCV-X400)で検査すると、当該色彩はRGBカラーモデルで(R、G、B)=(176、171、155)であった。そのR、G及びBの各値より、Vd=[(R+G)/2]-Bから判定値Vdを求めた結果、判定値Vdは18.5であった。
【0071】
上述した精製四塩化チタンの色彩の判定値Vdは、図2に示すグラフより、ハーゼン色数標準液のハーゼン色数の80以下に相当し、当該精製四塩化チタンの色彩は、ハーゼン色数が80以下であるものと近似する色彩であることがわかった。これにより、実施例3の目視による結果と同じ結果が得られたことがわかる。
【0072】
(実施例5)
別途入手した精製四塩化チタンの色彩を検査したところ、ハーゼン色数が100であった。この精製四塩化チタンの成分を、FT/IR-4100型(日本分光株式会社製)で分析すると、炭化水素含有量は、実施例2の精製四塩化チタンの炭化水素含有量よりもかなり多く、14.0質量ppmであった。
【0073】
この結果より、当該精製四塩化チタンは、その製造過程で使用されたバナジウム分離剤の量が過剰であったと判断できた。
【0074】
以上より、この発明によれば、バナジウム分離剤を適切に使用し、粗四塩化チタンからバナジウムを良好に分離できることがわかった。
【符号の説明】
【0075】
1 塩化炉
2 コンデンサ
3 貯留タンク
4 蒸発釜
5 精留塔
6 色彩検査箇所
7 成分分析箇所
10 分離剤タンク
図1
図2