(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167005
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】藻場形成構造物
(51)【国際特許分類】
A01G 33/00 20060101AFI20241122BHJP
A01K 61/73 20170101ALI20241122BHJP
【FI】
A01G33/00
A01K61/73
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083511
(22)【出願日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162031
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 豊彦
(74)【代理人】
【識別番号】100175721
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 秀文
(72)【発明者】
【氏名】河目 裕介
【テーマコード(参考)】
2B003
2B026
【Fターム(参考)】
2B003AA02
2B003BB05
2B003BB08
2B003CC03
2B003CC04
2B003DD02
2B003EE04
2B026AA05
2B026AB06
2B026AC03
(57)【要約】
【課題】煩雑な作業がなくとも藻場を形成し、海藻類の枯死を抑制しつつ、生態系の保全・再生を図ることができる藻場形成構造物を提供する。
【解決手段】本実施形態に係る藻場形成構造物1(本体部)においては、編目状の素材により、軸心を横方向へ向けた略筒状に形成される外周材30と、前記外周材30の軸心部分に形成され、海草・海藻を育成する芯材20と、前記外周材30と前記芯材20とを互いに離間した状態で保持するリング材10(保持材)と、を具備する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
編目状の素材により、軸心を横方向へ向けた略筒状に形成される外周材と、
前記外周材の軸心部分に形成され、海草・海藻を育成する芯材と、
前記外周材と前記芯材とを互いに離間した状態で保持する保持材と、
を具備する、
藻場形成構造物。
【請求項2】
前記芯材は、
外部と内部とを連通する孔を有した中空状に形成されると共に、前記内部に海草・海藻に栄養成分を供給するための栄養材が充填される、
請求項1に記載の藻場形成構造物。
【請求項3】
前記芯材は、
前記外周材と略同一軸心上に延びる略筒状に形成されると共に、海草・海藻の幼体が植え付けられた種苗部を具備し、
前記種苗部は、
前記芯材の外周面において周方向に亘るように配置される、
請求項1に記載の藻場形成構造物。
【請求項4】
前記外周材は、
略円筒状に形成される、
請求項1から請求項3までの何れか一項に記載の藻場形成構造物。
【請求項5】
前記外周材、前記芯材及び前記保持材を含む本体部を、海中に設置するための設置部をさらに具備し、
前記設置部は、
前記本体部の軸心回りの回転を許容した状態で、前記本体部を海中に設置する、
請求項1に記載の藻場形成構造物。
【請求項6】
前記芯材は、
前記外周材と略同一軸心上に延びる略筒状に形成され、
前記設置部は、
前記芯材に挿通され前記本体部の回転軸となる軸部を具備する、
請求項5に記載の藻場形成構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藻場を形成するための藻場形成構造物の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、藻場を形成するための技術は公知となっている。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0003】
特許文献1においては、水中に設置されて藻類が育成されるコンクリートブロック礁の周囲を、水面から水底まで網材によって囲い、網材の下部を重りで海底に沿うように配置すると共に、網材の上部を水面付近に保持し、所定の固定材により網材の位置が変更されないように水底で固定している。このような構成によれば、コンクリートブロック礁において魚等による食害から保護可能な藻場が形成される。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術においては、網材の編目が堆積物や藻等の付着物により詰まった場合、太陽光が遮られてコンクリートブロック礁の藻類が枯死するおそれがある。そのため、網材の編目が堆積物や藻等の付着物を除去するためのメンテナンス作業が必要となるが、海中での作業は煩雑となるため手間である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の如き状況を鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、煩雑な作業がなくとも藻場を形成し、海藻類の枯死を抑制しつつ、生態系の保全・再生を図ることができる藻場形成構造物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、編目状の素材により、軸心を横方向へ向けた略筒状に形成される外周材と、前記外周材の軸心部分に形成され、海草・海藻を育成する芯材と、前記外周材と前記芯材とを互いに離間した状態で保持する保持材と、を具備するものである。
【0009】
請求項2においては、前記芯材は、外部と内部とを連通する孔を有した中空状に形成されると共に、前記内部に海草・海藻に栄養成分を供給するための栄養材が充填されるものである。
【0010】
請求項3においては、前記芯材は、前記外周材と略同一軸心上に延びる略筒状に形成されると共に、海草・海藻の幼体が植え付けられた種苗部を具備し、前記種苗部は、前記芯材の外周面において周方向に亘るように配置されるものである。
【0011】
請求項4においては、前記外周材は、略円筒状に形成されるものである。
【0012】
請求項5においては、前記外周材、前記芯材及び前記保持材を含む本体部を、海中に設置するための設置部をさらに具備し、前記設置部は、前記本体部の軸心回りの回転を許容した状態で、前記本体部を海中に設置するものである。
【0013】
請求項6においては、前記芯材は、前記外周材と略同一軸心上に延びる略筒状に形成され、前記設置部は、前記芯材に挿通され前記本体部の回転軸となる軸部を具備するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0015】
本願発明においては、煩雑な作業がなくとも藻場を形成し、海藻類の枯死を抑制しつつ、生態系の保全・再生を図ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(a)本発明の一実施形態に係る藻場形成構造物を示した側面斜視図。(b)同じく、一部を想像線とした藻場形成構造物を示した側面斜視図。
【
図4】(a)芯材のうちパイプ以外の図示を省略した側面斜視図。(b)芯材のうちパイプ及びロープ以外の図示を省略した側面斜視図。
【
図5】海中に設置された芯材の様子を示した正面一部断面模式図。
【
図6】海中に設置された藻場形成構造物の様子を示した正面模式図。
【
図7】リング材と外周材との連結の様子を示した側面一部断面模式図。
【
図8】(a)設置部により設置された様子を示した側面斜視図。(b)同じく、設置部の第一の別例を示した側面斜視図。
【
図9】(a)同じく、設置部の第二の別例を示した側面斜視図。(b)設置部の第三の別例を示した側面斜視図。(c)設置部の第四の別例を示した側面斜視図。
【
図10】(a)同じく、設置部の第五の別例を示した側面斜視図。(b)
図10(a)に示す設置部により設置された様子を示した側面斜視図。(c)同じく、設置部の第六の別例を示した側面斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、
図1から
図8を用いて、本発明の一実施形態に係る藻場形成構造物1の構成について説明する。なお各図面においては、便宜上、各部材の大きさが適宜誇張して記載され、また必要に応じて各部材の記載が省略される。
【0018】
藻場形成構造物1は、藻場を形成するために、海中に設置されるものである。なお藻場とは、海草や海藻(以下では単に「海藻類」と称する)を育成するため、海中に人工的に設置された場所である。藻場形成構造物1は、全体として略円筒状の構造物として形成される。藻場形成構造物1は、主として本体部(リング材10、芯材20、外周材30)及び設置部40を具備する。
【0019】
図1及び
図2に示すリング材10は、リング状(輪っか状)の構造物である。リング材10は、藻場形成構造物1の骨組みとして構成される。具体的には、リング材10は、後述する外周材30と芯材20とを互いに離間した状態で保持可能に構成される。リング材10は、塩ビ製や金属製、陶器製等により形成される。
図1に示すように、リング材10は、複数(本実施形態では、5つ)設けられる。5つのリング材10の構成は、配置される場所を除いて互いに同一である。リング材10は、主として内側リング材11、外側リング材12、連結部13及び突起部14を具備する。
【0020】
内側リング材11は、比較的小さいリング状に形成される。内側リング材11は、リング材10の径方向内側の中心部に形成される。内側リング材11の内径は、後述する芯材20の外径よりも大きく形成される(
図6参照)。なお以下では、内側リング材11の外周面のうち、内径側により区画される孔を「内側リング孔11a」と称する。
【0021】
外側リング材12は、比較的大きいリング状に形成される。具体的には、外側リング材12の内径は、内側リング材11の外径よりも大きく形成される。外側リング材12は、リング材10の径方向外側端部に形成される。外側リング材12は、内側リング材11と同心円状に形成される。
【0022】
連結部13は、内側リング材11と外側リング材12とを連結する。連結部13は、真っ直ぐに延びる略棒状に形成される。連結部13は、長手方向がリング材10の径方向に沿うように配置される。連結部13の長手方向一端部(リング材10の径方向における外側端部)は、外側リング材12の外周面のうち内径側に接続される。連結部13の長手方向他端部(リング材10の径方向における内側端部)は、内側リング材11の外周面のうち外径側に接続される。連結部13は、複数(本実施形態では、3つ)設けられ、リング材10の周方向に互いに適宜の間隔をあけて配置される。
【0023】
突起部14は、後述する外周材30を取り付けるためのものである。突起部14は、外側リング材12から、リング材10の径方向外側へ向けて突出する。突起部14は、ループ状に形成され、周方向に貫通する孔14aを有する(
図6参照)。突起部14は、複数(本実施形態では、4つ)設けられ、リング材10の周方向に互いに適宜の間隔をあけて配置される。
【0024】
上述の如く構成された複数(5つ)のリング材10は、藻場形成構造物1の長手方向に沿って、互いに適宜の間隔をあけて対向するように配置される。複数のリング材10は、後述する芯材20に支持され、互いの位置関係が保持される。また詳述は省略するが、5つのリング材10のうち、藻場形成構造物1の長手方向の一端部及び他端部に設けられるリング材10においては、外側リング材12と内側リング材11との間が所定の網や専用の蓋部により閉塞される。
【0025】
図1、
図3、
図5及び
図6に示す芯材20は、長手状の構造物である。芯材20は、藻場形成構造物1の軸心部分に設けられ、海藻類を育成する。芯材20は、後述する外周材30と同一軸心上に延びる略筒状に形成される。芯材20は、主としてパイプ21、ロープ22、種苗糸23、栄養材24及び蓋部25を具備する。なお
図6においては、便宜上、芯材20の全体をハッチングで図示し、各部の図示を省略している。
【0026】
図3、
図4(a)及び
図5に示すパイプ21は、中空の長手状の部材(管)である。パイプ21の外形は、長手方向断面視において略円形状に形成される。本実施形態においては、パイプ21として、塩ビ製(塩化ビニル樹脂製)の穴あきパイプが使用される。なおパイプ21は、塩ビ製に限定されず、金属製や陶器製等で形成されてもよい。パイプ21は、穴あきパイプを構成する孔部21aを具備する。
【0027】
孔部21aは、パイプ21の外周部に形成される。孔部21aは、パイプ21の外周部を径方向に貫通し、当該パイプ21の内部と外部とを連通する。孔部21aは、複数形成される。複数の孔部21aは、パイプ21の長手方向(軸心方向)及び周方向に、互いに適宜の間隔をあけるように形成される。
【0028】
図3、
図4(b)及び
図5に示すロープ22は、例えば綿等の、表面に凹凸を有する素材により形成される。ロープ22は、水分を通過可能に構成される。ロープ22は、パイプ21の長手方向の一端部から他端部までに亘って、当該パイプ21の表面に密に(パイプ21の表面が露出しないように)巻回される。こうして、ロープ22がパイプ21の(孔部21aを含む)表面を被覆することにより、表面が滑らかなパイプ21に海藻類が生育するための足場が形成され、海藻類が活着し易くなる。なおロープ22は、必ずしも設けなくともよい。例えばパイプ21が多孔質の素材により形成されている場合、ロープ22を設けなくとも海藻類がパイプ21に活着できる。
【0029】
図1、
図3及び
図5に示す種苗糸23は、海藻類の幼体を植え付けた紐状の部材である。種苗糸23は、パイプ21の長手方向の一端部から他端部までに亘って、パイプ21を被覆しているロープ22の表面に疎に(ロープ22の表面が露出するように)巻回される。すなわち、種苗糸23は、芯材20の外周面において周方向に亘るように配置される。こうして、種苗糸23に植え付けられた海藻類の幼体は、ロープ22(ひいては、芯材20)を足場として生育することができる。
【0030】
図5に示す栄養材24は、海藻類に栄養成分を供給するための資材である。栄養材24は、パイプ21の内部に充填される。栄養材24の栄養成分は、パイプ21の孔部21aを介して(内部から)外部へ流出していく。ここで、海中は開放系であるため、芯材20に生育する海藻類に対して例えば外部から栄養成分を供給しようとしても、潮流等により栄養成分が四散して海藻類に届かないおそれがある。これに対して、本実施形態においては、パイプ21の内部に栄養材24を充填し、その外側の周囲に海藻類を配置するため、内部から流出する栄養成分を略漏れなく海藻類に届かすことができる。
【0031】
なお栄養材24としては、市販の有機系肥料や無機系肥料等の肥料を採用できる。また栄養材24としては、前記肥料に代えて(又は追加して)鉄分を供給するための鉄鋼スラグや鉄粉等を採用できる。栄養材24は、ある程度の期間効果が持続するように固形の暖効性を有するものが望ましい。
【0032】
また栄養材24としては、上述のものに代えて(又は追加して)、400℃~500℃の低温で炭化した竹や木材(炭化資材)を、メタン発酵消化液や、陸上養殖の排水の水質浄化に使用したものを採用できる。このような炭化資材は、消化液や排水由来の栄養成分を含んでいるため、栄養成分を供給するための資材として採用できる。また前記炭化資材を採用した場合、海中への炭素貯溜や、排水処理費用の削減、廃棄物の活用を図ることができる。
【0033】
なお上述の如くパイプ21の孔部21aは、巻回されたロープ22に被覆される。そのため、パイプ21に充填された栄養材24の栄養成分は、パイプ21の孔部21aからロープ22を通過して外部へと流出していく。これにより、栄養材24の栄養成分を、緩やかに、且つ、周囲の広範囲に拡散できる。すなわち、芯材20に生育する海藻類に対して略漏れなく栄養成分を供給できる。
【0034】
図1に示す蓋部25は、パイプ21の長手方向の両端部の開口を覆うものである。蓋部25は、パイプ21の長手方向の両端部にそれぞれ着脱可能に取り付けられる。こうして、蓋部25により、パイプ21の内部に充填された栄養材24が脱落するのを抑制できる。また蓋部25を着脱させることにより、パイプ21の内部の栄養材24に栄養成分を補充したり、当該栄養材24を交換したりできる。また蓋部25は、水が通過可能な例えば網状の素材により形成されてもよく、また水が通過不能な資材により形成されてもよい。
【0035】
上述の如く構成された芯材20は、複数のリング材10において内側リング材11の内側リング孔11aに挿通される。芯材20は、内側リング孔11aに挿通された状態で、所定の取り付け方法により各リング材10と固定される。
【0036】
図1、
図6及び
図7に示す外周材30は、藻場形成構造物1の外周面(外郭)を構成するものである。外周材30は、金網等の編目を有する素材により形成される。なお外周材30は、金網(すなわち、金属製)に限定されず、プラスチック製や糸(繊維)製で形成されてもよい。外周材30は、リング材10の外側リング材12(より詳細には、外側リング材12の外周面のうち外径側の部分)に沿うように設けられる。こうして、外周材30は、軸心を横方向へ向け、内側に芯材20を収容した略円筒状に形成される。
【0037】
外周材30は、芯材20に対して概ね連結部13の長さだけ離間して配置される。こうして、外周材30により、芯材20に生育する海藻類を、魚やウニ等の食害を及ぼす生物から保護することができる。
【0038】
また外周材30の編目の開きは、1~8cm程度に形成される。なお外周材30の編目の開きは、3~5cm程度が望ましい。
【0039】
ここで、外周材30の編目が細かすぎると、当該外周材30に溜まった堆積物や藻等により編目が詰まって、太陽光が遮られる場合がある。このような場合、外周材30の内側で生育する海藻類が枯死するおそれがある。また外周材30の編目が粗すぎると、食害を及ぼす生物が外周材30の内側に入り込んでしまうため、食害により海藻類の生育が阻害されるおそれがある。
【0040】
これに対して、本実施形態に係る編目の開きとすることによって、外周材30の編目を細かすぎず、かつ、粗すぎず、適切なものとすることができる。すなわち、太陽光が遮られないため海藻類の枯死を抑止しつつ、食害を及ぼす生物が外周材30の内側に入り込み難いため食害により生育が阻害されるのを抑制できる。
【0041】
また、本実施形態に係る編目の開きとすれば、食害を及ぼす生物が外周材30の内側に入り込むのを規制しつつ、食害を及ぼさない魚(例えば稚魚等)が外周材30の内側に入り込むのを許容できる。これにより、芯材20に生育される海藻類を、稚魚の住処とすることができる。すなわち、芯材20に生育される海藻類(藻場)が、生き物の住処となり、生物多様性の基板となる役割を果たすことができる。
【0042】
また、本実施形態に係る編目の開きとすれば、海藻類がある程度成長した場合、当該開藻類の茎等の部分が外周材30の編目を通過可能となる。こうして、外周材30で覆われた内側(すなわち保護範囲)よりも外側に成長した海藻部分は、成魚の住処や食料とすることができる。
【0043】
外周材30は、リング材10の外側リング材12に取り付けられる。具体的には、
図6及び
図7に示すように、外周材30の編目には、径方向内側から外側へ向けて外側リング材12の突起部14が突出される。こうして、外周材30の外側へ突出した突起部14の孔14aには、バンド31aが通される。こうして、1つのリング材10の4つの突起部14の孔14aの全てに対してバンド31aが通されることにより、外周材30をリング材10に対して隙間なく密着した状態で取り付けることができる。これにより、魚やウニ等の生物から芯材20を隔離できるため、食害を効果的に抑制することができる。
【0044】
こうして、本実施形態に係る藻場形成構造物1を用いて形成された藻場では、育成した海藻類により二酸化炭素の海中への固定を図ると共に、育成を阻害しない範囲で魚等の生物のエサとし、また、生息や繁殖の場となることで、海洋の生物多様性の保全を図ることができる。
【0045】
図8(a)に示す設置部40は、藻場形成構造物1の本体部(リング材10、芯材20、外周材30)を海中に設置するためのものである。設置部40は、ロープ部41及びおもり42を具備する。ロープ部41の一端部は、芯材20と接続され、ロープ部41の他端部は、おもり42と接続される。こうして、設置部40は、藻場形成構造物1の本体部が、ロープ部41を介しておもり42に対して移動可能な状態で、当該本体部を海中に設置する。
【0046】
これによれば、藻場形成構造物1の設置を容易とすることができる。具体的には、船上や岸辺で煩雑な作業を行うことなく、藻場形成構造物1を水上から海中に沈めるだけで設置することができる。すなわち、現地での施工作業を容易とすることができる。
【0047】
ここで、藻場形成構造物1の本外部は、上述の如く全体として略円筒状に形成される。これにより、藻場形成構造物1の本体部は、おもり42を中心としてロープ部41が届く所定の範囲内において、軸心回りに回転しながら移動可能に構成される。こうして、藻場形成構造物1を海底で転がしたり、海中で引っ張って移動させることが容易なため、当該藻場形成構造物1の移設作業を容易に行うことができる。また、藻場形成構造物1の設置条件(水深や光量の調整)を容易に変更できるため、更なる藻場の拡大を図ることができる。
【0048】
また藻場形成構造物1の本体部は、潮流等により転がることができるため、例えば外周材30に堆積物が溜まることを抑制し、ひいては外周材30の編目が詰まるのを抑制できる。また仮に外周材30の一部分に堆積物が溜まったり、藻で覆われたりした場合でも、回転することにより、外周材30の他部分から太陽光を取り入れることができる。また、強い潮流等があった場合は、藻場形成構造物1の本体部が回転することにより当該潮流等を受け流すことができる。こうして、藻場形成構造物1の本体部に強い衝撃が与えられるのを抑制できるため、芯材20に育成される海藻類が外れるのを抑制できる。
【0049】
また外周材30と芯材20とがリング材10により互いに離間した状態で保持(一体的に形成)されるため、潮流等により例えば何れか一方のみが流されること(すなわち、外周材30と芯材20との距離が離れていくこと)を抑制できる。
【0050】
また本実施形態において、例えば種苗糸23が芯材20の外周面において周方向に亘るように配置される等、藻場形成構造物1の芯材20及び外周材30は、周方向において各部の配置が均等に(偏らないように)設けられる。これによれば、藻場形成構造物1の本体部が回転によってどの部分が上方向へ向いたとしても、上述の如き効果を奏することができる。
【0051】
なお設置部40の構成は、
図8(a)に示すものに限定されない。すなわち、
図8(b)に示すように、ロープ部41の一端部を芯材20以外の場所、たとえばリング材10に接続してもよい。また接続の方法は、ロープ部41を結びつけるのでもよく、またフックやカラビナ等を用いて引っ掛けてもよく、特に限定するものではない。またロープ部41は、藻場形成構造物1の本体部の一箇所に接続するのではなく、
図9(a)から(c)に示すように、複数個所に接続してもよい。
【0052】
また、おもり42は、1つに限定されるものではなく、
図9(c)に示すように複数設けてもよい。また、おもり42は、錨や杭を用いてもよい。また、おもり42としては、海底の岩等の自然界にあるものを用いてもよい。またロープ部41の長さは、藻場形成構造物1が移動してもよい範囲内で適宜調整することができる。
【0053】
また設置部40の構成は、ロープ部41及びおもり42を具備するものに限定されない。例えば
図10(a)に示すような、土台44と、土台44から立設される支持部45と、支持部45に架設される心棒46を具備するものでもよい。心棒46は、例えば中空パイプにより形成される。これによれば、
図10(b)に示すように、心棒46を芯材20に挿通させることにより、当該心棒46を回転軸とし、藻場形成構造物1の本体部を回転させることができる。
【0054】
これによれば、藻場形成構造物1の本体部を移動させないものの、当該本体部を回転可能に設置することができる。こうして、例えば海底に岩等の障害物が多く、海底に設置しただけでは藻場形成構造物1の本体部を回転し難い場合であっても、当該本体部の回転を容易に行うことができる。なお、土台44、支持部45及び心棒46の構成は、上述の如きものに限定されない。例えば、支持部45は、
図10(c)に示すように、三角形状ではなく直線形状のものでもよい。
【0055】
なお設置部40は、必ずしも設けなくともよい。すなわち、藻場形成構造物1の本体部の移動を制限なく許容するのであれば、設置部40を設けることなく、藻場形成構造物1の本体部を海中に沈めて、設置することができる。
【0056】
以下では、藻場形成構造物1の製造方法の一例について説明する。
【0057】
まずパイプ21を準備し、複数のリング材10を取り付ける。この場合、リング材10の個数は本実施形態のもの(5つ)に限定されず、リング材10同士の間隔と共に、構造物としての強度を保つ観点から適宜設計される。パイプ21とリング材10との取り付けとしては、例えばパイプ21の外周面に溝を形成し、当該溝にリング材10を嵌合させ、接着剤等を用いて固定する方法が採用できる。
【0058】
またリング材10において、外側リング材12と内側リング材11との間の長さ(連結部13の長さ)は、海藻類の生長点や根部(食害を受けると枯死する部分)を保護可能な長さに設計される。なお、1年生のアカモク等に対しては10cm程度の長さで十分である一方、アラメ等に対しては40cm程度の長さが必要である。このように、連結部13の長さとしては、保護対象(育成対象)である海藻等の生長点を越える長さを適宜設定する。また連結部13の長さとしては、上述の如く生長点を越える長さであれば長くとも問題ないが、設置や移設のし易さの観点からすると、1.5m以下であることが望ましい。
【0059】
こうして、パイプ21に複数のリング材10を取り付けた後、ロープ22をパイプ21の表面に密に巻回する。次に、パイプ21の内部に栄養材24を充填し、蓋部25によりパイプ21の長手方向の両端部の開口を塞ぐ。次に種苗糸23を、パイプ21を被覆しているロープ22の表面に疎に巻回する。
【0060】
なお種苗糸23は、巻回するのではなく、例えば
図11に示すように、パイプ21の長手方向に沿うように直線状に形成してもよい。この場合、種苗糸23は複数設けられ、複数の種苗糸23が周方向に互いに適宜の間隔をあけて取り付けられる。すなわち、種苗糸23は、芯材20の外周面において周方向に亘るように配置される。これによれば、種苗糸23がパイプ21の周方向において均等に(偏らないように)設けられるため、藻場形成構造物1の本体部が回転によってどの部分が上方向へ向いたとしても、何れかの種苗糸23に太陽光をあてることができる。
【0061】
こうして、種苗糸23を取り付けた後、次に、外周材30をリング材10に取り付ける。外周材30のリング材10への取り付けには、上述の如くバンド31a等が用いられる(
図7等参照)。また、複数のリング材10のうち、長手方向の一端部及び他端部に設けられるリング材10には、上述の如く外側リング材12と内側リング材11との間が所定の網や専用の蓋部により閉塞される。次に、設置部40を必要に応じて、藻場形成構造物1の本体部に取り付ける。
【0062】
このような藻場形成構造物1の製造方法によれば、岸辺や船上で作業を完了させることができるため、海中での作業が不要となる。よって、設置に関する手間が削減できる。
【0063】
以上の如く、本実施形態に係る藻場形成構造物1(本体部)においては、
編目状の素材により、軸心を横方向へ向けた略筒状に形成される外周材30と、
前記外周材30の軸心部分に形成され、海草・海藻を育成する芯材20と、
前記外周材30と前記芯材20とを互いに離間した状態で保持するリング材10(保持材)と、
を具備するものである。
【0064】
このような構成により、煩雑な作業がなくとも藻場を形成し、海藻類の枯死を抑制しつつ、生態系の保全・再生を図ることができる。
具体的には、藻場形成構造物1(本体部)は、軸心回りに回転することができるため、堆積物や藻等の付着物を外周材30の編目からふるい落とすことができ、編目を詰まり難くすることができる。また仮に付着物により編目が詰まった場合でも、付着物の無い部分から太陽光を取り入れることができるため、太陽光が遮られて海藻類が枯死するのを抑制できる。また芯材20に育成された海藻類を、例えば稚魚の住処とすることにより、生物多様性の基板となる役割を果たすことができ、ひいては生態系の保全・再生を図ることができる。
【0065】
また藻場形成構造物1(本体部)において、
前記芯材20は、
外部と内部とを連通する孔部21aを有した中空状に形成されると共に、前記内部に海草・海藻に栄養成分を供給するための栄養材24が充填されるものである。
【0066】
このような構成により、芯材20の内部から流出する栄養成分を略漏れなく海藻類に供給できる。
【0067】
また藻場形成構造物1(本体部)において、
前記芯材20は、
前記外周材30と略同一軸心上に延びる略筒状に形成されると共に、海草・海藻の幼体が植え付けられた種苗糸23(種苗部)を具備し、
前記種苗糸23(種苗部)は、
前記芯材20の外周面において周方向に亘るように配置されるものである。
【0068】
このような構成により、藻場形成構造物1の本体部が回転によってどの部分が上方向へ向いたとしても、何れかの種苗糸23に太陽光をあてることができる。
【0069】
また藻場形成構造物1(本体部)において、
前記外周材30は、
略円筒状に形成されるものである。
【0070】
このような構成により、例えば外周材30が略四角筒状等に形成された場合と比べて、藻場形成構造物1(本体部)を、軸心回りに回転しながら移動させ易くできる。
【0071】
また藻場形成構造物1は、
前記外周材30、前記芯材20及び前記リング材10を含む本体部を、海中に設置するための設置部40をさらに具備し、
前記設置部40は、
前記本体部の前記軸心回りの回転を許容した状態で、前記本体部を海中に設置するものである。
【0072】
このような構成により、藻場形成構造物1の本体部(リング材10、芯材20、外周材30)を、所定の移動可能な範囲内において、回転させることができる。
【0073】
また藻場形成構造物1において、
前記芯材20は、
前記外周材30と略同一軸心上に延びる略筒状に形成され、
前記設置部40は、
前記芯材20に挿通され前記本体部の回転軸となる心棒46(軸部)を具備するものである。
【0074】
このような構成により、例えば海底に岩等の障害物が多く、海底に設置しただけでは藻場形成構造物1の本体部を回転し難い場合であっても、当該本体部の回転を容易に行うことができる。
【0075】
以上、各実施形態を説明したが、本発明は上記構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0076】
例えば、藻場形成構造物1において、外周材30は、略円筒状に形成されるものとしたが、藻場形成構造物1が回転できればこれに限定されない。すなわち、外周材30は、略筒状であって、藻場形成構造物1が回転できれば、角を有する筒状であってもよい。なお藻場形成構造物1の回転し易さの観点からすると、外周材30は、少なくとも円筒に近い多角筒状であることが望ましい。
【0077】
またリング材10の形状等も、外周材30と同様に、本実施形態に係るものに限定されない。例えば、リング材10の角を有するリング状であってもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 藻場形成構造物
10 リング材
20 芯材
30 外周材