(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167028
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】縮合多環芳香族化合物、光電変換素子用材料、有機薄膜、及び有機光電変換素子
(51)【国際特許分類】
C07D 519/00 20060101AFI20241122BHJP
H10K 30/60 20230101ALI20241122BHJP
H10K 30/86 20230101ALI20241122BHJP
H10K 30/20 20230101ALI20241122BHJP
H10K 30/30 20230101ALI20241122BHJP
H10K 39/32 20230101ALI20241122BHJP
H01L 27/146 20060101ALI20241122BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20241122BHJP
【FI】
C07D519/00 CSP
H10K30/60
H10K30/86
H10K30/20
H10K30/30
H10K39/32
H01L27/146 C
H10K85/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124601
(22)【出願日】2023-07-31
(31)【優先権主張番号】P 2023082786
(32)【優先日】2023-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】前田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】新見 一樹
(72)【発明者】
【氏名】薬師寺 秀典
(72)【発明者】
【氏名】原 純平
(72)【発明者】
【氏名】青竹 達也
(72)【発明者】
【氏名】堀 駿介
【テーマコード(参考)】
3K107
4C072
4M118
5F149
【Fターム(参考)】
3K107AA03
4C072MM08
4C072UU10
4M118AA05
4M118AB01
4M118BA09
4M118CA03
4M118CB20
4M118HA26
5F149AA03
5F149AB11
5F149BA01
5F149BA05
5F149CB06
5F149CB15
5F149DA30
5F149FA04
5F149FA05
5F149GA02
5F149LA02
5F149XA01
5F149XA43
5F149XA55
(57)【要約】
【課題】光電変換素子として用いた場合の外部量子収率(EQE)、暗電流及に優れた有機光電変材料となる縮合多環芳香族化合物、並びにこれを用いた光電変換素子用材料、有機薄膜、及び有機光電変換素子を提供することを目的とする。
【解決手段】
下記式(1)
【化1】
(式(1)中、X及びYはそれぞれ独立に2価の芳香族炭化水素基又は単結合を表す。但し、XとYがいずれもベンゼンから水素原子を2つ除いた2価の連結基である場合を除く。)
で表される縮合多環芳香族化合物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式(1)中、X及びYはそれぞれ独立に2価の芳香族炭化水素基又は単結合を表す。)
で表される縮合多環芳香族化合物。
【請求項2】
XとYが同一である請求項1に記載の縮合多環芳香族化合物。
【請求項3】
XとYが互いに異なる請求項1に記載の縮合多環芳香族化合物。
【請求項4】
X及びYがそれぞれ独立に、ベンゼン、ビフェニル、又はナフタレンから水素原子を2つ除いた2価の連結基から選択される請求項1~3のいずれか一項に記載の縮合多環芳香族化合物。
【請求項5】
X及びYが単結合である請求項4に記載の縮合多環芳香族化合物。
【請求項6】
請求項1に記載の縮合多環芳香族化合物を含有する光電変換素子用材料。
【請求項7】
請求項1に記載の縮合多環芳香族化合物、又は請求項6に記載の光電変換素子用材料を含む有機薄膜。
【請求項8】
請求項7に記載の有機薄膜を有する有機光電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な縮合多環芳香族化合物とその用途に関する。更に詳しくは、本発明はベンゾチエノ[3,2-b][1]ベンゾチオフェン(以下、「BTBT」と略す)誘導体である縮合多環芳香族化合物、並びにこれを用いた光電変換素子用材料、有機薄膜、及び有機光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロニクスデバイスは、原材料に希少金属などを含まないため安定供給が可能であると共に、無機材料には無い屈曲性を有することや湿式成膜法によって製造可能なことから、近年盛んに研究開発がなされている。例えば、有機EL素子、電界効果トランジスタや有機光電変換素子などの有機薄膜デバイスが注目されており、これらの薄膜デバイスに用いられる縮合多環芳香族化合物に代表される種々の有機エレクトロニクス材料が研究、開発されている。
【0003】
上記デバイスのうち、有機光電変換素子は光センサー等に利用されており、例えば撮像素子に用いることが検討されているが(特許文献1)、撮像素子として利用する際には、照射光を効率よく電気エネルギーに変換できているかの度合いを表す外部量子効率(External Quantum Efficiency:以下、EQEと略す)の向上と、光を照射していない時の電流値(暗電流)の抑制が重要となる。
【0004】
このような要求特性を満たすため、有機光電変換素子は現在、光電変換層をP型有機半導体とN型有機半導体の混合膜によるバルクへテロジャンクション構造が研究され、EQEの向上と暗電流値抑制を両立するための検討が行われている。このような研究開発の中で、高い正孔移動度を示すことで知られているBTBT化合物をP型有機半導体として用いることが検討されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2022/114065
【特許文献2】WO2016/185858
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これまでに報告されているBTBT化合物を用いた光電変換素子においてEQEと暗電流を同時に満足できるものは少なかった。
【0007】
前述したようにBTBT化合物は高いキャリア移動度特性を示すことからEQE課題は満足できるものが多いが、暗電流特性との両立は難しい課題であった。暗電流が生じる原因の一つに、有機半導体P-N界面におけるP型有機半導体のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)準位からN型有機半導体LUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)準位への熱励起による意図しない電荷の発生であるとされている。この熱励起による暗電流の発生は、P型半導体のHOMO準位とN型半導体のLUMO準位のエネルギー差が小さいほど起こりやすく、逆にエネルギー差が大きいほど不要なキャリアの発生を防ぐことができ、暗電流を抑制することができる。そのため、暗電流を抑制するためには、P型有機半導体のHOMOのエネルギー準位が低い材料が好ましい。
【0008】
以上の状況を鑑み、本発明は、光電変換素子として用いた場合の外部量子効率(EQE)、暗電流に優れた有機光電変材料となる縮合多環芳香族化合物、並びにこれを用いた光電変換素子用材料、有機薄膜、及び有機光電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、3位で結合したチオフェン環を分子末端に配置した新規の縮合多環芳香族化合物を用いることにより、光電変換素子に用いる際に有意となる低いHOMO準位エネルギーを有する有機半導体材料を開発し、上記の課題が解決されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明は、以下の[1]~[8]に関する。
[1] 下記式(1)
【0011】
【化1】
(式(1)中、X及びYはそれぞれ独立に2価の芳香族炭化水素基又は単結合を表す。)
で表される縮合多環芳香族化合物。
【0012】
[2] XとYが同一である[1]に記載の縮合多環芳香族化合物。
[3] XとYが互いに異なる[1]に記載の縮合多環芳香族化合物。
[4] X及びYがそれぞれ独立に、ベンゼン、ビフェニル、又はナフタレンから水素原子を2つ除いた2価の連結基から選択される[1]~[3]のいずれかに記載の縮合多環芳香族化合物。
[5] X及びYが単結合である[1]に記載の縮合多環芳香族化合物。
[6] [1]~[5]のいずれかに記載の縮合多環芳香族化合物を含有する光電変換素子用材料。
[7] [1]~[5]のいずれか一項に記載の縮合多環芳香族化合物、又は[6]に記載の光電変換素子用材料を含む有機薄膜。
[8] [7]に記載の有機薄膜を有する有機光電変換素子。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、光電変換素子として用いた場合の外部量子効率(EQE)、暗電流に優れた有機光電変材料となる縮合多環芳香族化合物、並びにこれを用いた光電変換素子用材料、有機薄膜、及び有機光電変換素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】有機光電変換素子の一実施形態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[縮合多環芳香族化合物]
本発明の縮合多環芳香族化合物は、以下の式(1)で表される。
【0016】
【0017】
式(1)において、X及びYは、それぞれ独立に2価の芳香族炭化水素基又は単結合を表す。2価の芳香族炭化水素基は、芳香族炭化水素化合物の芳香環から任意の水素原子を2つ除いた2価の連結基である。2価の連結基となり得る芳香族炭化水素化合物の炭素数は6~18が好ましく、6~12がより好ましい。2価の連結基となり得る芳香族炭化水素化合物は、芳香族性を有する炭化水素化合物でありさえすれば特に限定されない。2価の芳香族炭化水素基の例としては、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、アントラセン、テルフェニル、フェナントレン、テトラセン、クリセン、ピレン、フルオレン、フェニルナフタレン、及びジフェニルナフタレン等から選択される芳香族有機化合物から水素原子を2つ除いた連結基が挙げられる。2価の芳香族炭化水素基としては、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、アントラセン、テルフェニル、又はフェニルナフタレンから水素原子を2つ除いた2価の連結基が好ましく、ベンゼン、ナフタレン又はビフェニルから水素原子を2つ除いた2価の連結基がより好ましい。2価の芳香族炭化水素基は、置換基を有していてもよく、該有していてもよい置換基は特に限定されない。なお、X、Yが単結合の場合とは、BTBT環に直接チオフェン環が結合していることを意味する。
【0018】
式(1)中の分子末端にある2つのチオフェン環は、結合していない3つの炭素原子は置換基をもつことが可能であるが、置換基を有さないことが好ましい。式(1)中の分子末端にある2つのチオフェン環は、これ以上の縮環構造をもたない。
【0019】
次に式(1)で表される縮合多環芳香族化合物の合成方法について説明する。式(1)で表される縮合多環芳香族化合物は、公知の方法で合成した下記式(S)で表されるジハロゲン化BTBT(2,7-ジハロゲノベンゾ[b]ベンゾ[4,5]チエノ[2,3-b]チオフェン)と下記式(T)で表されるボロン酸誘導体を等量用いてカップリングした後に、残ったハロゲン原子をBpin化することにより、下記式(V)で表されるボロン酸誘導体とする。その後は、式(S)に対して、下記式(U)で表されるボロン酸誘導体と式(V)で表されるボロン酸誘導体を順次カップリング反応させることで合成できる。
【0020】
【0021】
式(S)中のZ1及びZ2は各々独立して臭素もしくはヨウ素を表し、式(T)及び式(U)中のR1、R2、R3、及びR4は各々独立して水素又はアルキル基を表す。式(S)、式(T)、及び式(U)において、X及びYは式(1)におけるX及びYと同じ意味を表す。
【0022】
式(1)で表される縮合多環芳香族化合物の精製方法は、特に限定されず、再結晶、カラムクロマトグラフィー、及び真空昇華精製等の公知の方法が採用できる。また必要に応じてこれらの方法を組み合わせることができる。
【0023】
式(1)で表される縮合多環芳香族化合物の具体例を以下に示すが、これらの具体例に限定されない。
【0024】
【0025】
[光電変換素子用材料]
光電変換素子用材料は、式(1)で表される縮合多環芳香族化合物を含有する。光電変換素子用材料は、本発明の効果を損なわない範囲であれば式(1)で表される化合物以外の成分を含有してもよいが、式(1)で表される化合物のみを含有することが好ましい。光電変換素子用材料における式(1)で表される化合物の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上、最も好ましくは99質量%以上である。
なお、光電変換素子用材料には、式(1)で表される縮合多環芳香族化合物を1種単独又は複数種の組み合わせを含有させることができる。
式(1)で表される縮合多環芳香族化合物を含有する光電変換材料は、光電変換素子の正孔輸送性材料として用いることにより、応答速度に優れた光電変換素子を実現することができる。
【0026】
[有機薄膜]
有機薄膜は、上記光電変換素子用材料を含むことを特徴とする。有機薄膜の膜厚は、その用途により選択すればよいが、通常1nm~1μm、好ましくは5nm~500nm、より好ましくは10nm~500nmである。有機薄膜の形成方法は、蒸着法などのドライプロセス(光電変換素子用材料をそのまま用いる方法)や種々の溶液プロセス(光電変換素子用材料を有機溶媒等に溶解及び/又は分散した溶液を用いる方法)などが挙げられる。溶液プロセスとしては、例えば、スピンコート法、ドロップキャスト法、ディップコート法、スプレー法、フレキソ印刷、及び樹脂凸版印刷などの凸版印刷法、オフセット印刷法、ドライオフセット印刷法、及びパッド印刷法などの平板印刷法、グラビア印刷法などの凹版印刷法、スクリーン印刷法、謄写版印刷法、及びリングラフ印刷法などの孔版印刷法、インクジェット印刷法、マイクロコンタクトプリント法等、並びにこれらの手法を複数組み合わせた方法が挙げられる。溶液プロセスで成膜する場合、上記の塗布又は印刷を行った後、溶媒を蒸発させて薄膜を形成することが好ましい。
【0027】
[有機光電変換素子]
有機光電変換素子は、有機半導体材料と電極等から構成される素子であり、光を電気に変換する素子である。
図1は、有機光電変換素子の一例を示す。有機光電変換素子7は、基板1、第1の電極2、電子ブロック層3、光電変換層4、正孔ブロック層5、及び第2の電極6を、この順に備える。有機光電変換素子7は、電子ブロック層3及び光電変換層4の両方又は一方に、正孔輸送性材料として上記光電変換素子用材料を含む有機薄膜を有することを特徴とする。本発明の有機光電変換素子は、
図1の構造に限定されるものではなく、必要に応じて層を追加又は省略することが可能である。
【0028】
-基板1-
基板1は、有機光電変換素子7を支持する部材である。基板1の材質に特に制限はなく、例えば、ガラス、透明プラスチック、石英などからなるものを用いることができる。
なお、
図1における第2の電極6側から光が入射する場合は、基板1は必ずしも透明性を有するものでなくてもよい。ここで、「透明性を有する」は、電流に変換すべき特定波長の光の透過率に優れることを意味する。また、第2の電極6の外側に基板がさらに配置されていてもよいが、基板1と第2の電極6の外側の基板の少なくとも一方が、透明性を有するものであることが必要である。
【0029】
-第1の電極2、第2の電極6-
第1の電極2及び第2の電極6は、光電変換層4で生成する正孔及び電子を捕集する機能を有する。光を光電変換層4に入射させる機能も必要となるため、第1の電極2と第2の電極6の少なくとも一方は透明性を有する必要がある。第1の電極2及び第2の電極6の材料は導電性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、ITO、IZO、SnO2、ATO(アンチモンドープ酸化スズ)、ZnO、AZO(Alドープ酸化亜鉛)、GZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)、TiO2及びFTO等の導電性透明材料、金、銀、白金、クロム、アルミニウム、鉄、コバルト、ニッケル及びタングステン等の金属、ヨウ化銅及び硫化銅等の無機導電性物質、ポリチオフェン、ポリピロール及びポリアニリン等の導電性ポリマーなどが例示できる。第1の電極2及び第2の電極6は、必要によりこれらの材料の複数種の混合物を含有してもよく、また、2層以上を積層したものであってもよい。
【0030】
-電子ブロック層3-
電子ブロック層3は、2枚の電極の間にバイアス電圧を印加した際に、片方の電極から光電変換層4に電子が注入されることにより生じる暗電流を抑制するために設けられている。また、光電変換層4での電荷分離により生じる正孔を電極に輸送する正孔輸送としての機能も有している。電子ブロック層3は、必要に応じて単層又は複数層を配置されることができる。
【0031】
電子ブロック層3は、正孔輸送性材料であるP型有機半導体材料を含むことができる。P型有機半導体材料としては、上記式(1)で表される縮合多環芳香族化合物を1種以上含有する光電変換素子用材料が好ましいが、他のP型有機半導体材料を含んでもよい。
【0032】
他のP型有機半導体材料としては、例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナンスレン、ピレン、クリセン、ナフタセン、トリフェニレン、ペリレン、フルオランテン、フルオレン、インデンなどの縮合多環芳香族基を有する化合物、シクロペンタジエン誘導体、フラン誘導体、チオフェン誘導体、ピロール誘導体、ベンゾフラン誘導体、ベンゾチオフェン誘導体、ジナフトチエノチオフェン誘導体、インドール誘導体、ピラゾリン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体などのπ電子過剰系芳香族基を有する化合物、並びに芳香族アミン誘導体、スチリルアミン誘導体、ベンジジン誘導体、ポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体、及びキナクリドン誘導体を用いることができる。
【0033】
-光電変換層4-
光電変換層4は、入射光により生成した励起子の電荷分離により正孔と電子が生成する層である。光電変換層4は、光電変換材料のみで形成されてもよいが、正孔輸送性材料であるP型有機半導体材料や、電子輸送性材料であるN型有機半導体材料と組み合わせて形成されてもよい。また、2種以上のP型有機半導体材料を用いてもよく、2種以上のN型有機半導体材料を用いてもよい。光電変換層4に含有される光電変換材料、P型有機半導体材料及びN型有機半導体材料の1種以上は、可視領域における所望の波長の光を吸収する機能を有する色素材料を含むことが望ましい。正孔輸送性材料であるP型有機半導体材料として式(1)で表される縮合多環芳香族化合物を含有する光電変換素子用材料を用いるのが好ましい。
【0034】
光電変換材料としては、入射光により励起子が発生する材料であればよく、例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナンスレン、ピレン、クリセン、ナフタセン、トリフェニレン、ペリレン、フルオランテン、フルオレン、インデンなどの縮合多環芳香族基を有する化合物、シクロペンタジエン誘導体、フラン誘導体、チオフェン誘導体、ピロール誘導体、ベンゾフラン誘導体、ベンゾチオフェン誘導体、ジナフトチエノチオフェン誘導体、インドール誘導体、ピラゾリン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体などのπ電子過剰系芳香族基を有する化合物、芳香族アミン誘導体、スチリルアミン誘導体、ベンジジン誘導体、ポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体、キナクリドン誘導体を用いることができる。入射光の利用効率の観点から吸光係数が高い材料が好ましく、例えば、ピロメテン誘導体、ポルフィリン誘導体、サブポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体、サブフタロシアニン誘導体、キナクリドン誘導体、ピロロピロール誘導体、クマリン誘導体、ペリレン誘導体、及び芳香族アミン誘導体などを用いることができる。
【0035】
P型有機半導体材料として上記光電変換素子用材料を用いる場合には、他のP型有機半導体材料と組み合わせて使用してもよく、また、上記光電変換素子用材料を2種以上使用してもよい。
【0036】
他のP型有機半導体材料としては、例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナンスレン、ピレン、クリセン、ナフタセン、トリフェニレン、ペリレン、フルオランテン、フルオレン、インデンなどの縮合多環芳香族基を有する化合物、シクロペンタジエン誘導体、フラン誘導体、チオフェン誘導体、ピロール誘導体、ベンゾフラン誘導体、ベンゾチオフェン誘導体、ジナフトチエノチオフェン誘導体、インドール誘導体、ピラゾリン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体などのπ電子過剰系芳香族基を有する化合物、芳香族アミン誘導体、スチリルアミン誘導体、ベンジジン誘導体、ポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体、及びキナクリドン誘導体を用いることができる。
また、高分子型P型有機半導体材料としては、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリチオフェン誘導体を例示できる。また、高分子型P型有機半導体材料と共に、本発明の光電変換素子用材料や非高分子型のP型有機半導体材料を混合してもよく、高分子型P型有機半導体材料を2種以上混合して用いてもよい。
【0037】
N型有機半導体材料としては、電子輸送性を有する材料であればよく、例えば、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドやペリレンテトラカルボン酸ジイミド、フラーレン類、イミダゾール、チアゾール、チアジアゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、及びトリアゾールなどのアゾール誘導体などが例示でき、これらのN型有機半導体材料から選ばれる1種単独又は2種以上の組み合わせを用いることができる。
【0038】
-正孔ブロック層3-
正孔ブロック層3は、2枚の電極の間にバイアス電圧を印加した際に、片方の電極から光電変換層4に正孔が注入されることにより生じる暗電流を抑制するために設けられている。また、正孔ブロック層3は、光電変換層4での電荷分離により生じる電子を電極に輸送する電子輸送としての機能も有している。正孔ブロック層3は、必要に応じて単層又は複数層を有することができる。正孔ブロック層3には、電子輸送性を有するN型有機半導体材料を用いることができる。
【0039】
N型有機半導体材料としては、電子輸送性を有する材料であればよく、例えば、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドやペリレンテトラカルボン酸ジイミドの如き多環芳香族多価カルボン酸無水物やそのイミド化物、C60やC70等のフラーレン類、イミダゾール、チアゾール、チアジアゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾールなどのアゾール誘導体、トリス(8-キノリノラート)アルミニウム(III)誘導体、ホスフィンオキサイド誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、ビピリジン誘導体、キノリン誘導体、インドロカルバゾール誘導体などが例示でき、これらのN型有機半導体材料から選ばれる1種単独又は2種以上の組み合わせを用いることができる。
【0040】
有機光電変換素子7は、太陽電池、光センサー、撮像素子、フォトカウンター、及びLIDAR等に用いることができる。
【実施例0041】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。実施例中の「部」は質量部を、「M」はモル濃度を、「%」は質量%をそれぞれ意味する。
合成例に記載の化合物は、必要に応じて質量分析スペクトル(FAB-MS)、核磁気共鳴スペクトル(NMR)により構造を決定した。1H-NMRスペクトルはAvance400またはAvance500(Bruker)により、FAB-MSスペクトルはJMS-700(JEOL)により、吸収スペクトルはUV-3600(SHIMADZU)によりそれぞれ測定した。
【0042】
[実施例1:化合物(1-1)の合成]
(工程1-1)下記式(M1-1)で表される中間体化合物の合成
窒素雰囲気下、DMF(200部)に、特許第4945757号に記載の方法で合成したジヨードBTBT(1.80部、5mmol)、3-チオフェンボロン酸(3.20部、6mmol)、リン酸三カリウム(2.73部、17.5mmol)を加えて攪拌した。そこに、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.213部、0.25mmol)を加え、反応液を90℃まで昇温し、3時間撹拌した。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、水を加え、析出した固体を吸引ろ過により回収することにより、式(M1-1)で表される化合物(収率60%)を白色固体として得た。式(M1-1)で表される化合物の質量分析の測定結果は以下の通りであった。
FAB-MS:m/z=401[M+H]+
【0043】
(工程1-2)下記式(M1-2)で表される中間体化合物の合成
窒素雰囲気下、1,4-ジオキサン(350mL)溶液中に、工程1-1で得られた式(M1-1)で表される化合物 (5.0mmol)、ビス(ピナコレート)ジボロン(21.4部、6.0mmol)と酢酸カリウム(16.5部,12.0mmol)を加えて攪拌した。そこに、[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(II)(2.86部、0.25mmol)を加えて、反応液を100℃まで昇温した。8時間後、反応液を室温まで冷却し、水とトルエンを加えて分液し、トルエンを用いて抽出した。得られた有機層に無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥し、ろ過した後、有機溶媒を減圧濃縮により留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:トルエン)により精製することにより、式(M1-2)で表される化合物(収率68%)を白色固体として得た。式(M1-2)で表される化合物の質量分析の測定結果は以下の通りであった。
FAB-MS:m/z=498[M+H]+
【0044】
(工程1-3)化合物(1-1)の合成
窒素雰囲気下、DMF(200部)に、工程1-1で得られた式(M1-1)で表される化合物 (5.0mmol)、工程1-2で得られた式(M1-2)で表される化合物(6.0mmol)、リン酸三カリウム(2.73部、17.5mmol)を加えて攪拌した。そこに、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.213部、0.25mmol)を加え、反応液を90℃まで昇温し、3時間撹拌した。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、水を加え、析出した固体を吸引ろ過により回収した。得られた固体を水とアセトンで洗浄し、乾燥機で乾燥した。さらに得られた固体を真空昇華法により精製することで、本発明の化合物(1-1)(収率60%)を黄色結晶性固体として得た。
【0045】
【0046】
[比較例1~3(比較化合物(2-1)~(2-3)の合成]
公知の手法を用いて比較化合物(2-1)、比較化合物(2-2)及び比較化合物(2-3)を合成した。
【0047】
【0048】
(有機薄膜のHOMO準位エネルギーの測定)
実施例1及と比較例1~3で得られた各有機化合物を、予め洗浄したガラス基板上に抵抗加熱真空蒸着し、それぞれの化合物の有機薄膜(膜厚100nm)を作製した。得られた各有機薄膜を光電子分光法(AC-3、理研計器株式会社)によりHOMO準位エネルギーを決定した。各化合物の有機薄膜のHOMO準位エネルギーを表1に示した。
【0049】
【0050】
この結果から、化合物(1-1)を用いて作製された有機薄膜は、各比較化合物を用いて作製された有機薄膜よりも低いHOMO準位エネルギーを有しており、光電変換素子に利用した際の暗電流の抑制と応答速度の向上に有意であると言える。以下、実際に光電変換素子を作製して検討した。
【0051】
[実施例3:光電変換素子Aの作製]
膜厚70nmのITOからなる電極が形成されたガラス基板上に、ブロック層として、基板温度室温、真空度4.0×10-5Paの条件でCzBDF(東京化成社製)を10nmの厚さに成膜した。次いで、光電変換層として、実施例1で得られた化合物(1-1)、Cl6-SubPc-OPh(Lumitec社製)及びフラーレン(C60、東京化成社製)を蒸着速度比4:4:2で共蒸着し、厚さ230nmの有機薄膜を成膜した。引き続き、一般に入手可能なdpy-NDI(東京化成社製)を10nm蒸着し、正孔ブロック層を形成した。最後に、電極としてアルミニウムを100nmの厚さに成膜して、光電変換素子Aを作製した。
【0052】
【0053】
[比較例4~6:光電変換素子P~Rの作製]
化合物(1-1)で表される化合物の代わりに、比較化合物(2-1)、比較化合物(2-2)及び比較化合物(2-3)をそれぞれ使用したこと以外は実施例3と同じ操作によって、比較用の光電変換素子P~Rをそれぞれ作製した。
【0054】
(有機光電変換素子の評価)
WO2018-105269の実施例を基に光電変換素子の評価を実施した。具体的には、光電変換素子A、B、及びP~Rの各素子に対して2.0×105V/cmの強度になるように電圧を印加し、550nmにおける光電変換のEQEと暗電流を測定した。その結果を表2に示す。
・評価基準
EQE 95%以上の場合;「○」
80以上95%未満の場合;「△」
80%未満の場合;「×」
暗電流 5.0×10-11A/cm2未満の場合;「○」
5.0×10-11以上1.0×10-10A/cm2未満の場合;「△」
1.0×10-10A/cm2以上の場合;「×」
実用上、EQEが大きいほど照射光を効率的に電気エネルギーに変換できているため、「○」が優れており、「×」が劣っていることを意味する。暗電流は小さい程、光照射OFF時の電流値を抑制できているため、「○」が優れており、「×」が劣っていることを意味する。
【0055】
【0056】
表2の結果から、実施例3の光電変換素子は十分なEQEと暗電流値を有することが示された。一方、比較例4~6の光電変換素子は、EQE、暗電流値のうち少なくとも1つが劣っていた。