(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167033
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】血圧測定装置および血圧測定方法ならびにそのコンピュータプログラム製品
(51)【国際特許分類】
A61B 5/022 20060101AFI20241122BHJP
【FI】
A61B5/022 200E
A61B5/022 400B
【審査請求】有
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023172051
(22)【出願日】2023-10-03
(31)【優先権主張番号】112118726
(32)【優先日】2023-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.THUNDERBOLT
2.LIGHTNING
(71)【出願人】
【識別番号】523377472
【氏名又は名称】康邁醫學科技股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】林昆儀
(72)【発明者】
【氏名】蔡沛原
(72)【発明者】
【氏名】周碩政
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA08
4C017AA10
4C017AB01
4C017AC20
4C017BC08
4C017BD05
4C017FF08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ノイズを効果的に抑制する血圧測定方法を提供する。
【解決手段】血圧測定装置が、対象領域を測定するために使用する振動センサから振動信号を受信する。その後本装置は、振動信号をデジタル信号に変換し、デジタル信号に対してフィルタリング処理を行う。フィルタリング処理は、デジタル信号の特定の範囲内で対象領域の脈拍に対応する主成分波の周りのノイズを除去することを含む。続いて、フィルタリングされたデジタル信号に基づいて、収縮期圧判定時点および拡張期圧判定時点を判定して、血圧測定結果を生成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号変換回路であって、
振動センサから振動信号を受信し、前記振動信号は、対象領域を測定することで振動センサによって生成されるように構成され、
前記振動信号をデジタル信号に変換するように構成される、
信号変換回路と、
前記信号変換回路に電気されているプロセッサであって、
前記デジタル信号に対してフィルタリング処理を行い、前記フィルタリング処理は、前記デジタル信号の特定の範囲内で前記対象領域の脈拍に対応する主成分波の周りのノイズを除去するように構成され、
フィルタリングされた前記デジタル信号に応じて、収縮期圧判定時点および拡張期圧判定時点を判定して、それによって血圧測定結果を生成するように構成される、
プロセッサと、
を備えている血圧測定装置。
【請求項2】
前記フィルタリング処理は、前記デジタル信号内の70Hzよりも高い周波数を含む信号成分を除去することをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の血圧測定装置。
【請求項3】
前記フィルタリング処理は、前記デジタル信号内の15Hzよりも低い周波数を含む信号成分を除去することをさらに含むことを特徴とする、請求項2に記載の血圧測定装置。
【請求項4】
前記信号変換回路は、
前記振動センサと併せてホイートストンブリッジを構成する3つの抵抗器であって、前記ホイートストンブリッジは、前記振動信号を一対の差動信号に変換するように構成される、3つの抵抗器と、
差動信号増幅器であって、前記ホイートストンブリッジに電気接続されて、前記ホイートストンブリッジから前記差動信号の対を受信し、前記差動信号の対を増幅信号に変換する、差動信号増幅器と、
低域フィルタであって、前記差動信号増幅器に電気接続され、前記増幅信号をフィルタリングする、低域フィルタと、
アナログデジタル変換器であって、前記低域フィルタおよび前記プロセッサに電気接続され、フィルタリングされた前記増幅信号を前記デジタル信号に変換するように構成される、アナログデジタル変換器と、
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の血圧測定装置。
【請求項5】
脈押圧要素であって、前記プロセッサはさらに、前記脈押圧要素を制御して前記対象領域に圧力をかけるように構成される、脈押圧要素と、
気圧感知回路であって、前記プロセッサおよび前記脈押圧要素に電気接続され、前記脈押圧要素に対応する圧力信号を生成し、前記圧力信号を前記プロセッサに供給するように構成され、前記プロセッサは、前記収縮期圧判定時点、前記拡張期圧判定時点、および前記圧力信号に従って前記血圧測定結果を生成する、気圧感知回路と、
をさらに含む、請求項1に記載の血圧測定装置。
【請求項6】
前記プロセッサは、有限インパルス応答デジタルフィルタを実装することによって前記フィルタリング処理を行うことを特徴とする、請求項1に記載の血圧測定装置。
【請求項7】
前記振動センサは、金属ダイヤフラムを含み、前記金属ダイヤフラムは、銅合金で作製されることを特徴とする、請求項1に記載の血圧測定装置。
【請求項8】
前記銅合金は、燐青銅であることを特徴とする、請求項7に記載の血圧測定装置。
【請求項9】
前記振動センサは、圧電抵抗性のひずみゲージを含むことを特徴とする、請求項7に記載の血圧測定装置。
【請求項10】
血圧測定装置によって実行される血圧測定方法であって、
振動センサから振動信号を受信し、前記振動信号は、対象領域を測定することによって前記振動センサによって生成されることと、
前記振動信号をデジタル信号に変換することと、
前記デジタル信号に対してフィルタリング処理を行い、前記フィルタリング処理は、前記デジタル信号の特定の範囲内で、前記対象領域の脈拍に対応する主成分波の周りのノイズを除去することを含むことと、
フィルタリングされた前記デジタル信号に従って収縮期圧判定時点および拡張期圧判定時点を判定して血圧測定結果を生成することと、
を含む、方法。
【請求項11】
前記フィルタリング処理は、前記デジタル信号内の70Hzよりも高い周波数を含む信号成分を除去することをさらに含むことを特徴とする、請求項10に記載の血圧測定方法。
【請求項12】
前記フィルタリング処理は、前記デジタル信号内の15Hzよりも低い周波数を含む信号成分を除去することをさらに含むことを特徴とする、請求項11に記載の血圧測定方法。
【請求項13】
前記対象領域に圧力をかけるために脈押圧要素を制御することと、
前記脈押圧要素に対応する圧力信号を生成し、前記血圧測定装置は、前記収縮期圧判定時点、前記拡張期圧判定時点および前記圧力信号に従って前記血圧測定結果を生成することと
をさらに含む、請求項10に記載の血圧測定方法。
【請求項14】
前記血圧測定装置は、有限インパルス応答デジタルフィルタを実装することによって前記フィルタリング処理を行うことを特徴とする、請求項10に記載の血圧測定方法。
【請求項15】
前記振動センサは、金属ダイヤフラムを含み、前記金属ダイヤフラムは、銅合金で作製されることを特徴とする、請求項10に記載の血圧測定方法。
【請求項16】
前記銅合金は、燐青銅であることを特徴とする、請求項15に記載の血圧測定方法。
【請求項17】
前記振動センサは、圧電抵抗性のひずみゲージを含むことを特徴とする、請求項15に記載の血圧測定方法。
【請求項18】
コンピュータプログラム製品であって、電子演算装置にロードされた後、
振動センサから振動信号を受信し、前記振動信号は、対象領域を測定することによって前記振動センサによって生成される命令と、
前記振動信号をデジタル信号に変換する命令と、
前記デジタル信号に対してフィルタリング処理を行い、前記フィルタリング処理は、前記デジタル信号の特定の範囲内で、前記対象領域の脈拍に対応する主成分波の周りのノイズを除去することを含む命令と、
フィルタリングされた前記デジタル信号に従って収縮期圧判定時点および拡張期圧判定時点を判定して血圧測定結果を生成する命令と、
を前記電子演算装置に実行させる、コンピュータプログラム製品。
【請求項19】
前記フィルタリング処理は、前記デジタル信号内の70Hzよりも高い周波数を含む信号成分を除去することをさらに含むことを特徴とする、請求項18に記載のコンピュータプログラム製品。
【請求項20】
前記フィルタリング処理は、前記デジタル信号内の15Hzよりも低い周波数を含む信号成分を除去することをさらに含むことを特徴とする、請求項19に記載のコンピュータプログラム製品。
【請求項21】
前記電子演算装置にロードされた後、
前記対象領域に圧力をかけるために脈押圧要素を制御する命令と、
前記脈押圧要素に対応する圧力信号を生成し、前記電子演算装置は、前記収縮期圧判定時点、前記拡張期圧判定時点および前記圧力信号に従って前記血圧測定結果を生成する命令と、
を前記電子演算装置にさらに実行させる、請求項18に記載のコンピュータプログラム製品。
【請求項22】
前記電子演算装置は、有限インパルス応答デジタルフィルタを実装することによって前記フィルタリング処理を行うことを特徴とする、請求項18に記載のコンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、血圧測定技術に関する。さらに詳細には、本開示は、非侵襲的な血圧測定装置および血圧測定方法ならびにそのコンピュータプログラム製品に関する。
【背景技術】
【0002】
人体の特定の血管位置(例えば上腕動脈)を締め付けて圧力を加え、後に圧力を解放すると、初めに流れが止まっていた血管内の血液が再びその血管位置を流れるが、その間、血液は血管壁とすれて衝突し、血管壁に振動を起こす。血管壁の振動が体表面に伝わる際に、「コロトコフ音」と呼ばれる音を観測できる。この概念は、1905年にロシア人医師のニコライ・セルゲイヴィチ・コロトコフによって初めて提唱されたため、同氏の名をとって命名されている。コロトコフ音は、発生から消滅まで大きく5段階に分けることができ、各段階で音の特徴が異なり、血管および/または血流の様々な状態を表している。減圧時の圧力および各段階でのコロトコフ音の出現を観察することによって、測定者(すなわち血圧を測定する人)は、それに応じて収縮期圧(コロトコフ音が最初に出現したときに測定される圧力に相当すると言われている)および拡張期圧(コロトコフ音が最後に消えたときに測定される圧力に相当すると言われている)を評価できる。したがって、コロトコフ音は、非侵襲的な血圧測定を実施する際に識別できる基準である。
【0003】
従来の非侵襲的な血圧測定技術のほとんどは、測定者が聴診器やマイクなどの音声受信手段を介して特定の血管位置に相当する表皮位置で聴取することに頼るものであり、自らの経験に基づいてその音からコロトコフ音の段階を区別し、それによって収縮期圧および拡張期圧を明らかにする時点を判定するものである。しかしながら、このような識別方法は、客観的な基準のない経験に基づいているにすぎず、その聴取プロセスは、外部ノイズの影響を非常に受けやすい。この問題の視点から、コロトコフ音が血管壁の振動に由来することを勘案すると、理論的には、測定プロセスでの外部ノイズの干渉を避けるために、体表面の振動を測定することでコロトコフ音の状態と一致する波形を得ることが可能である。
【0004】
例えば、圧力センサを介して血圧を測定する技術は、米国特許出願第11/370020号に記載されている。米国特許出願第11/370020号は、波形図を生成するために振動関連の手段を採用し、波形図に示された波形の特定種類のノッチ(例えば
図5に示した波形W1のノッチN1、詳細は後述)の出現および消失に従って収縮期圧判定時点および拡張期圧判定時点を判定する。しかしながら、例えば米国特許出願第11/370020号に記載の技術で生成された波形には、多くのノイズ(例えば
図5に示した波形W1のノッチN2およびN3、詳細は後述)がある。ノッチが人間の観察で見分けられたものであっても機械の視覚で見分けられたものであっても、ノイズによって誤判定が生じる可能性が高く、血圧測定および動脈硬化指数の算出など、その後の心臓血管治療の精度にさらに影響を及ぼす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、当該技術分野では、上記のノイズを効果的に抑制する血圧測定方法を提供する新たな方法が緊急に必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
少なくとも上記の問題を解決するために、本開示は、血圧測定装置を提供する。本血圧測定装置は、信号変換回路および信号変換回路に電気接続されたプロセッサを含んでいてよい。信号変換回路は、振動センサから振動信号を受信してよく、振動信号は、対象領域を測定することで、振動センサによって生成されてよい。さらに、信号変換回路は、振動信号をデジタル信号に変換するようにも構成されてよい。プロセッサは、デジタル信号に対してフィルタリング処理を行うように構成されてよい。フィルタリング処理は、デジタル信号の特定の範囲内で対象領域の脈拍に対応する主成分波の周りのノイズを除去することを含む。さらに、プロセッサは、フィルタリングされたデジタル信号に応じて、収縮期圧判定時点および拡張期圧判定時点を判定して、血圧測定結果を生成するようにも構成されてよい。
【0008】
さらに、フィルタリング処理は、デジタル信号内の70Hzよりも高い周波数を含む信号成分をさらに除去してよい。
【0009】
さらに、フィルタリング処理は、デジタル信号内の15Hzよりも低い周波数を含む信号成分をさらに除去してよい。
【0010】
さらに、信号変換回路は、3つの抵抗器を含んでいてよく、この3つの抵抗器は、振動センサと併せてホイートストンブリッジを構成し、信号変換回路は、ホイートストンブリッジに電気接続された差動信号増幅器と、差動信号増幅器に電気接続された低域フィルタと、低域フィルタおよびプロセッサに電気接続されたアナログデジタル変換器とをさらに含む。ホイートストンブリッジは、振動信号を一対の差動信号に変換してよく、差動信号増幅器は、ホイートストンブリッジから差動信号の対を受信して、差動信号の対を増幅信号に変換するように構成されてよい。低域フィルタは、増幅信号をフィルタリングするように構成されてよい。アナログデジタル変換器は、フィルタリングされた増幅信号をデジタル信号に変換するように構成されてよい。
【0011】
さらに、血圧測定装置は、脈押圧要素と、プロセッサおよび脈押圧要素に電気接続された気圧感知回路とをさらに含んでいてよい。プロセッサはさらに、脈押圧要素を制御して対象領域に圧力をかけるように構成されてよく、気圧感知回路は、脈押圧要素に対応する圧力信号を生成し、その圧力信号をプロセッサに供給するように構成されてよい。さらに、プロセッサは、収縮期圧判定時点、拡張期圧判定時点および圧力信号に応じて血圧測定結果を生成する。
【0012】
さらに、プロセッサは、有限インパルス応答デジタルフィルタを実装することによってフィルタリング処理を行ってよい。
【0013】
さらに、血圧測定装置は、振動センサをさらに含んでいてよく、振動センサは、金属ダイヤフラムを含んでいてよい。さらに、振動センサは、圧電抵抗性のひずみゲージであってよく、金属ダイヤフラムは、銅合金で作製されてよい。さらに言えば、金属ダイヤフラムの材料は、燐青銅であってよい。
【0014】
少なくとも上記の問題を解決するために、本開示はさらに、血圧測定方法を提供する。本方法は、血圧測定装置を用いて実行してよく、
振動センサから振動信号を受信し、振動信号は、対象領域を測定することによって振動センサによって生成される工程と、
振動信号をデジタル信号に変換する工程と、
デジタル信号に対してフィルタリング処理を行い、フィルタリング処理は、デジタル信号の特定の範囲内で、対象領域の脈拍に対応する主成分波の周りのノイズを除去することを含む工程と、
フィルタリングされたデジタル信号に応じて収縮期圧判定時点および拡張期圧判定時点を判定して血圧測定結果を生成する工程と
を含んでいてよい。
【0015】
少なくとも上記の問題を解決するために、本開示はさらに、コンピュータプログラム製品を提供する。コンピュータプログラム製品は、電子演算装置にロードされた後、本開示による前述の血圧測定方法を電子演算装置に実行させるとしてよい。
【0016】
上記の説明によれば、本開示に従って提供する血圧測定装置および血圧測定方法ならびにそのコンピュータプログラム製品は、振動センサから得たデジタル信号内の脈拍に対応する主成分波の周りのノイズを除去できる。このフィルタリング処理により、信号の特徴はコロトコフ音の結果と一致する傾向にあるため、ノイズレベルは、先行技術のものよりも低い。したがって、本開示に従って提供する血圧測定装置および血圧測定方法ならびにそのコンピュータプログラム製品は、(前述したように)技術分野でノイズが血圧判定に影響を及ぼすという長年の技術的課題を実際に改善するものであり、同時にその後の心血管状態の評価の精度をさらに向上させることができるものである。
【0017】
この概要の節は、本開示の全体的な概念を説明し、本開示で解決できる課題、本開示で採用できる手段、および本開示で達成できる効果を網羅して、本開示の基本的な理解を当業者に提供するものである。ただし、概要の節のこれらの段落は、本開示の全実施形態を要約することを意図しているのではなく、本開示の中核となる概念のみを後続の詳細な説明への導入部分として簡易な形式で提示するものであることを理解されたい。以下、本開示の詳細な技術および実装を添付の図面を参照して説明し、当業者が本発明の特許請求の範囲に記載の技術的特徴を理解できるようにする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本開示の1つ以上の実施形態による血圧測定装置の概略図である。
【
図2】
図1に示した血圧測定装置の振動センサの概略図である。
【
図3】
図1に示した血圧測定装置の信号変換回路の概略図である。
【
図4】
図1に示した血圧測定装置の気圧感知回路の概略図である。
【
図5】本開示の1つ以上の実施形態による血圧測定装置で生成された波形、および先行技術で生成された波形の概略図である。
【
図6】本開示の1つ以上の実施形態による血圧測定方法のフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1~
図6に示した内容は、本開示の実施形態を説明するための例示的な例にすぎず、本開示の特許請求の範囲を限定する意図はない。
【0020】
以下、本開示に従って提供する、血圧測定装置および血圧測定方法ならびにそのコンピュータプログラム製品を、実施形態を通して説明する。ただし、これらの実施形態は、本開示をこれらの実施形態に記載したいかなる環境、用途または実装にも限定する意図はない。したがって、これらの実施形態の記述は、本開示を説明することのみを目的としているのであって、本開示の範囲を限定するものではない。以下の実施形態および添付の図面では、本開示に関係のない要素は描写から省略されており、個々の要素の寸法および次元スケールは、説明のためだけに提供されているのであって、本開示の範囲を限定するものではないことを理解されたい。
【0021】
図1を参照されたい。本開示の第1の実施形態は、血圧測定装置1であり、この装置は、少なくとも信号変換回路11と、信号変換回路11に電気接続されたプロセッサ12とを備えていてよい。総じて、信号変換回路11は、振動センサ111から振動信号D1を受信し、その振動信号D1をデジタル信号S1に変換するように構成されてよい。プロセッサ12は、デジタル信号S1に対してフィルタリング処理を行って、フィルタリングされたデジタル信号S1に応じて収縮期圧判定時点および拡張期圧判定時点を判定して、血圧測定結果E1を生成するように構成されてよい。
【0022】
プロセッサ12は、信号を処理する能力のあるマイクロプロセッサまたはマイクロコントローラなどのいずれか1つであってよい。マイクロプロセッサまたはマイクロコントローラは、計算、記憶、出力/入力などができるプログラム可能な特殊集積回路の一種であり、あらゆる種類のコード化された命令を受け入れて処理し、様々な論理演算および算術演算を実行し、対応する演算結果を出力することができる。プロセッサ12は、血圧測定装置1内のデータを処理するための様々な命令を解釈し、様々な演算手順またはプログラムを実行するようにプログラムされてよい。
【0023】
振動センサ111の構造の一例を描いた
図2を参照されたい。いくつかの実施形態では、振動センサ111は、少なくともひずみゲージ111dおよび金属ダイヤフラム111eを備えていてよい。金属ダイヤフラム111eは、ひずみゲージ111dに取り付けられてよい。
【0024】
いくつかの実施形態では、金属ダイヤフラム111eの厚みは、0.1~0.2cmの範囲内であってよい。いくつかの実施形態では、金属ダイヤフラム111eは、銅または銅合金で作製されてよい。いくつかの実施形態では、銅合金は、燐青銅であってよい。さらに、いくつかの実施形態では、ひずみゲージ111dは、圧電抵抗性のひずみゲージであってよい。
【0025】
ひずみゲージ111dおよび金属ダイヤフラム111eを保護するために、振動センサ111は、ひずみゲージ111dを覆う保護カバー111cと、ひずみゲージ111dおよび金属ダイヤフラム111eを取り囲むハウジング111bと、ハウジングを覆う背面カバー111aとをさらに備えていてよい。また、いくつかの実施形態では、振動センサ111は、金属ダイヤフラム111eと対象領域との直接の接触を避けるために、金属ダイヤフラム111eの下に配置されたシリコーンダイヤフラム111fをさらに備えていてよい。
【0026】
図1と
図2を同時に参照すると、振動センサ111は、
図1に示した腕A1など、被験者の対象領域に密着するように配置されてよく、対象領域(例えば上腕動脈の位置)の振動を感知することによって対応する振動信号D1を生成してよい。
【0027】
いくつかの実施形態では、ひずみゲージ111dのこの感知方法により、血圧測定装置1は、測定中に環境ノイズに影響されるのを回避できる。また、いくつかの実施形態では、金属ダイヤフラム111eの材料を選定することにより、被験者の配置および動きに対する血圧測定装置1の要件はゆるくなっている。例えば、本発明者が試験したところ、金属ダイヤフラム111eが燐青銅製であることにより、被験者は、血圧測定のプロセスで通常の活動(例えば腕を動かすこと)を適度に行うことができ、完全にじっとしている必要はない。
【0028】
振動センサ111によって生成された振動信号D1は、信号変換回路11に供給されてデジタル信号に変換されてよい。
図3を参照すると、信号変換回路11は、3つの抵抗器R1、R2およびR3を含んでいてよい。この3つの抵抗器R1、R2およびR3は、振動センサ111と併せてホイートストンブリッジ112を構成してよい。ホイートストンブリッジ112は、振動信号D1を一組の差動信号に変換してよく、信号変換回路11は、ホイートストンブリッジ112に電気接続された差動信号増幅器113をさらに含んでいてよく、差動信号増幅器113は、ホイートストンブリッジ112から差動信号の対を受信して差動信号の対を増幅信号に変換するように構成されてよい。信号変換回路11は、差動信号増幅器113に電気接続された低域フィルタ114をさらに含んでいてよく、低域フィルタは、増幅信号をフィルタリングするように構成されてよい。
【0029】
また、信号変換回路11は、低域フィルタ114およびプロセッサ12に電気接続されたアナログデジタル変換器115をさらに含んでいてよく、アナログデジタル変換器115は、フィルタリングされた増幅信号をデジタル信号S1に変換し、そのデジタル信号S1をプロセッサ12に供給するように構成されてよい。いくつかの実施形態では、デジタル信号S1は、サンプリング周波数に応じて増幅信号を連続的にサンプリングすることで、アナログデジタル変換器115によって得られた増幅信号に対する一連の離散値で構成される。
【0030】
図3の低域フィルタ114およびアナログデジタル変換器115の詳細および実装は、当業者に理解されるはずであるため、本開示ではこれ以上説明しない。
【0031】
図1および
図4を同時に参照されたい。いくつかの実施形態では、血圧測定装置1は、脈押圧要素B1と、プロセッサ12および脈押圧要素B1に電気接続された気圧感知回路13とをさらに含んでいてよい。脈押圧要素B1は、脈押圧ベルトC1、空気管Q1、膨張ポンプ(図示せず)、および収縮弁(図示せず)を含んでいてよい。気圧感知回路13は、気圧センサ131と、気圧センサ131に連結している低域フィルタ132と、低域フィルタ132に連結しているアナログデジタル変換器133とを含んでいてよい。
図4の気圧センサ131、低域フィルタ132およびアナログデジタル変換器133の詳細および実装は、当業者に理解されるはずであるため、本開示ではこれ以上説明しない。
【0032】
脈押圧ベルトC1は、振動センサ111を収容し得るスペースを有していてよく、よって振動センサ111は、そのスペースに配置されてよい。あるいは、振動センサ111は、接着装着、留め具、磁気引力などによって脈押圧ベルトC1に固定されてよい。
【0033】
膨張ポンプは、電気モータでピストンが駆動される構造を有していてよく、空気管Q1を介して脈押圧ベルトC1を膨張させることができる。収縮弁は、電磁構造の空気弁であってよく、これにより脈押圧ベルトC1を膨張後に安定して収縮させることができる。
【0034】
プロセッサ12は、空気管Q1を介して脈押圧ベルトC1を膨張させるよう膨張ポンプを制御するように構成されてよく、それによって対象領域に圧力をかけて血管の血液循環を遮断し、その後、収縮弁を制御して脈押圧ベルトC1内の空気を安定して解放し、それによって対象領域にかけた圧力を徐々に弱める。加圧および減圧のプロセスで、気圧感知回路13の気圧センサ131は、対応する圧力信号P1を生成してよく、圧力信号P1は、低域フィルタ132およびアナログデジタル変換器133で処理された後にプロセッサ12に供給されてよい。また、気圧感知回路13の膨張加圧および収縮減圧の作用は、プロセッサ12の命令に従って実行されてよい。
【0035】
次に
図5を参照すると、プロセッサ12によるフィルタリング処理の前と後のデジタル信号S1がそれぞれ波形W1と波形W3で示されているとしてよく、気圧感知回路13によって生成された圧力信号P1は、波形W2で示されているとしてよい。
図5では、縦軸は、圧力を水銀柱ミリメートルで表し(mmHg)、横軸は時間を表しているが、
図5に示した縦軸の圧力の大きさは、波形W2のみに当てはまり、波形W1およびW3は、波形W2に示した圧力変化と波形W1およびW3に示した特徴との間の時間的相関を総合的に判定するために、波形W2の周りに添えているだけである。
【0036】
ノッチN2およびノッチN3と同様のノイズを波形W1に多数観察でき、ノイズは、その後の血圧測定プロセスには極めて不都合である。例えば、ノッチN2およびノッチN3は、ノッチN1の出現および消失を特定することによってコロトコフ音が出現する位置を評価する際、または収縮期圧判定時点および拡張期圧判定時点を判定する際に、誤判定を引き起こす可能性が極めて高い。
【0037】
前述の誤判定の問題を解決するために、プロセッサ12は、デジタル信号S1を受信した後にデジタル信号S1に対してフィルタリング処理を行ってよい。具体的には、フィルタリング処理は、デジタル信号S1の特定範囲内で対象領域の脈拍に対応する主成分波の周りのノイズを除去することを含んでいてよい。例えば、具体的な範囲は、脈押圧要素B1の減圧開始後の一定時間であってよく、例えば
図5に示した範囲は約15秒である。血圧測定を実施する際は、普通の被験者には約180mmHgまで加圧されるが、高血圧症の被験者には約200~240mmHgまで加圧されてよく、減圧速度は1秒あたり約4~5mmHgであってよく、全体の減圧は約20~30秒で完了するとしてよい。また、「主成分波」という用語は、解析対象となる特徴(例えば波形W1のノッチN1および同じ構造を有する他の特徴)を含む波を指す。「ノイズ」という用語は、波形W1のノッチN2およびノッチN3など、誤判定を引き起こす可能性のある信号内容を指す。
【0038】
ノイズを除去するために、いくつかの実施形態では、フィルタリング処理は、デジタル信号S1内の70Hzよりも高い周波数を含む信号成分を除去することを含んでいてよい。いくつかの実施形態では、フィルタリング処理はさらに、デジタル信号S1内の15Hzよりも低い周波数を含む信号成分を除去することも含んでいてよい。すなわち、フィルタリング処理では、15Hz~70Hzの内容を保持する。
【0039】
いくつかの実施形態では、プロセッサ12は、有限インパルス応答(FIR)デジタルフィルタを実装することによってフィルタリング処理を行ってよく、FIRデジタルフィルタは、バンドパスモードに設定されてよい。
【0040】
前述のフィルタリング処理を通して、プロセッサ12は、ノッチN2およびノッチN3の存在を大幅に除去し、同時に、波形W1のノッチN1で表されている元の特徴と一致する特徴分布を保持する。本発明者が実験を重ねた結果、波形W3の特徴分布(すなわち主要インパルスの分布)は、人工聴診で得たコロトコフ音の特徴分布と一致する傾向にある。したがって、プロセッサ12は、波形W3のこの特徴分布の形に従って収縮期圧判定時点T1および拡張期圧判定時点T2を判定してよく、例えば、最初のコロトコフ音の特徴が収縮期圧判定時点T1として現れる位置を判定し、最後に特定したコロトコフ音の特徴の位置を拡張期圧判定時点T2であると判定してよい。
【0041】
いくつかの実施形態では、プロセッサ12は、波形W3にコロトコフ音の特徴があるかどうかをプロセッサ自体で判定してよい。具体的には、
図5の波形W3は離散データ群の数値の累積によって形成されているということから、プロセッサ12は、特定の時間間隔でのこの離散データ群の数値変化量と閾値との比較結果に従って、波形W3の各インパルスがコロトコフ音の特徴に属するかどうかを判定してよい。例えば、その時間間隔は15秒であってよく、変化量に対応する閾値は10%であってよい。したがって、つまりプロセッサ12は、波形W3に対応する離散データ群の数値が15秒以内に10%を超えて変化している場合、波形W3のその時間間隔に対応するインパルス位置がコロトコフ音の特徴を有するとみなしてよい。
【0042】
収縮期圧判定時点T1および拡張期圧判定時点T2を判定した後、プロセッサ12は、波形W2に対応する収縮期圧判定時点T1、拡張期圧判定時点T2、および圧力信号P1に従って血圧測定結果E1を生成してよい。例えば、
図5の例では、収縮期圧判定時点T1および拡張期圧判定時点T2で測定した血圧値は、それぞれ107mmHgおよび68mmHgである。
【0043】
いくつかの実施形態では、プロセッサ12は、波形W3のピーク間隔に従って心拍数を計算し、心拍数情報を血圧測定結果E1に組み込んでよい。
【0044】
いくつかの実施形態では、血圧測定装置1は、プロセッサ12と電気接続された入力/出力(I/O)インターフェース14をさらに備えていてよく、I/Oインターフェース14は、USB、HDMI(登録商標)、Thunderbolt、Lightning、DisplayPort、全世代の3.5/2.5cmオーディオホールなどの伝送インターフェースであってよいが、これに限定されない。血圧測定装置1は、入力/出力インターフェース14(ディスプレイ、スピーカ、振動具(視覚障害者および聴覚障害者に振動形態で情報を提供するもの)など)に電気接続された装置を介して使用者に血圧測定結果E1を提示してよい。
【0045】
前述の血圧測定装置1の内部および/または外部に関わる要素間の電気接続は、直接的であってもよいし(すなわち要素が間に他の要素を介さずに互いに接続される)または間接的であってもよい(すなわち要素が他の要素を介して互いに接続される)ことに留意されたい。
【0046】
また、低域フィルタ114およびプロセッサ12は、それぞれが異なるフィルタリング処理を行い、各々の用途および実装方法が異なる点にも留意されたい。最初に、低域フィルタ114は、差動信号増幅器113からのアナログ信号に対してフィルタリング処理を行い、プロセッサ12は、アナログデジタル変換器からのデジタル信号に対してフィルタリング処理を行う。さらに重要なことは、低域フィルタ114の目的は、増幅信号の高周波数成分のみを差動信号増幅器113から除去すること、そして低域フィルタ114は、人体の脈拍に対応する主成分波を概ね保持することのみを目的としているため、
図5の波形W1に示したように、主成分波の周りには、プロセッサ12が主成分波の特徴を識別するのに好ましくない多くのノイズがあるということである。低域フィルタ114とは異なり、プロセッサ12によって行われるデジタルフィルタリングは、主成分波の周りのノイズ(例えば
図5に示したノッチN2およびノッチN3)を除去するために特別に用いられる。なぜならこれらのノイズは、主成分波にみられる特徴をプロセッサ12が識別するのに好ましくないからである。また、
図5に示したように、プロセッサ12によって特別にフィルタリングされた波形W3は、波形W1と比較して、主成分波の周りのノイズを効果的に低減する。
【0047】
いくつかの実施形態では、プロセッサ12はさらに、生成された波形W3を、人工知能モデルを訓練するための訓練データとして使用してよく、その後、訓練された人工知能モデルを用いて各入力波形のコロトコフ音の特徴を識別するとしてよい。
【0048】
図6を参照すると、本開示の第2の実施形態は、血圧測定装置で実行されてよい血圧測定方法6であり、本方法は、
振動センサから振動信号を受信し、振動信号は、対象領域を測定することによって振動センサによって生成される工程(601と表記)と、
振動信号をデジタル信号に変換する工程(602と表記)と、
デジタル信号に対してフィルタリング処理を行い、フィルタリング処理は、デジタル信号の特定の範囲内で対象領域の脈拍に対応する主成分波の周りのノイズを除去することを含む工程(603と表記)と、
フィルタリングされたデジタル信号に応じて収縮期圧判定時点および拡張期圧判定時点を判定して血圧測定結果を生成する工程(604と表記)と
を含んでいてよい。
【0049】
いくつかの実施形態では、血圧測定方法6に関して、フィルタリング処理はさらに、デジタル信号の70Hzよりも高い周波数を含む信号成分を除去することを含んでいてよい。いくつかの実施形態では、フィルタリング処理はさらに、デジタル信号の15Hz未満の周波数を含む信号成分を除去することを含んでいてよい。また、いくつかの実施形態では、血圧測定装置は、有限インパルス応答デジタルフィルタを実装することによってフィルタリング処理を行ってよい。
【0050】
いくつかの実施形態では、血圧測定方法6はさらに、
対象領域に圧力をかけるために脈押圧要素を制御する工程と、
脈押圧要素に対応する圧力信号を生成し、血圧測定装置は、収縮期圧判定時点、拡張期圧判定時点および圧力信号に従って血圧測定結果を生成する工程と
を含んでいてよい。
【0051】
いくつかの実施形態では、血圧測定方法6に関して、振動センサは、金属ダイヤフラムを含んでいてよく、金属ダイヤフラムは、銅合金で作製されてよい。さらに、いくつかの実施形態では、銅合金は、燐青銅であってよい。また、いくつかの実施形態では、振動センサは、圧電抵抗性のひずみゲージを含んでいてよい。
【0052】
血圧測定方法6の各実施形態は、基本的に血圧測定装置1の特定の実施形態に対応している。したがって、血圧測定方法6の対応する実施形態はすべて、単純に血圧測定装置1に関する上記の説明を参照すれば、血圧測定方法6の各実施形態が上記の説明で個別に詳述されていなくとも、当業者が完全に理解し、実現することが可能である。
【0053】
本開示の第3の実施形態は、第2の実施形態の血圧測定方法6に従って実装されるコンピュータプログラム製品である。本コンピュータプログラム製品を電子演算装置で読み込むと、電子演算装置は、第2の実施形態で説明した血圧測定方法6の各実施形態の対応する工程を実行する。コンピュータプログラム製品とは、コンピュータ可読プログラムを搭載した物品を指し、非一時的な有形の機械可読媒体などの外部形式に限定されず、例えばリードオンリーメモリ(ROM)、フラッシュメモリ、フロッピーディスク、モバイルハードディスク、磁気テープ、ネットワークデータベース、クラウドノード、または同じ機能を有し、当業者に公知であるその他の任意のコンピュータソフトウェア記憶媒体だが、これに限定されない。
【0054】
以上の開示は、本開示の詳細な技術内容および発明性のある特徴に関するものである。当業者は、説明した本開示および本発明の提案に基づいて、その特徴から逸脱することなく、多様な修正および置換を行ってよい。しかしながら、このような修正および置換は、上記の説明に完全に開示されてはいないが、添付されている以下の特許請求の範囲に実質的に含まれている。