(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167045
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】工具測定方法、工具測定機、および工作機械
(51)【国際特許分類】
G01B 11/24 20060101AFI20241122BHJP
B23Q 17/22 20060101ALI20241122BHJP
B23Q 17/24 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
G01B11/24 K
B23Q17/22 D
B23Q17/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024026629
(22)【出願日】2024-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2023082721
(32)【優先日】2023-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003458
【氏名又は名称】芝浦機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】室伏 勇
【テーマコード(参考)】
2F065
3C029
【Fターム(参考)】
2F065AA53
2F065BB05
2F065CC10
2F065FF02
2F065FF65
2F065GG07
2F065GG08
2F065HH03
2F065HH15
2F065JJ03
2F065JJ26
2F065MM04
2F065MM28
2F065PP13
2F065QQ01
2F065QQ03
2F065QQ24
2F065QQ33
3C029AA24
3C029EE20
(57)【要約】
【課題】回転状態の工具形状を測定するとともにバックライトの回折光による精度低下を防止できる工具測定方法、工具測定機、および工作機械を提供する。
【解決手段】工具19がカメラの撮影範囲から外れた状態でバックライト32からの照明光34だけをカメラ31で撮影した基準画像46と、工具19がカメラ31の撮影範囲にある状態で工具19がバックライト32からの照明光を遮る影をカメラ31で撮影した測定画像47と、を記録しておき、測定画像47のピクセルを順次検査し、測定画像47におけるピクセルの測定輝度が、基準画像46における同じ位置のピクセルの基準輝度よりも大きい場合、測定画像47のピクセルの輝度を基準輝度に修正し、輝度が修正された修正画像48を記録し、修正画像48に対してエッジ検出処理を行って工具19の輪郭形状49を検出する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の主軸に装着される工具を撮影するカメラと、前記カメラとは反対側から前記工具を照明するバックライトと、を用い、前記カメラで撮影した画像から前記工具を測定する工具測定方法であって、
前記工具が前記カメラの撮影範囲から外れた状態で前記バックライトからの照明光だけを前記カメラで撮影した基準画像と、
前記工具が前記カメラの撮影範囲にある状態で前記工具が前記バックライトからの照明光を遮る影を前記カメラで撮影した測定画像と、を記録しておき、
前記測定画像のピクセルを順次検査し、前記測定画像における前記ピクセルの測定輝度が、前記基準画像における同じ位置の前記ピクセルの基準輝度よりも大きい場合、前記測定画像の前記ピクセルの輝度を前記基準輝度に修正し、輝度が修正された修正画像を記録し、
前記修正画像に対してエッジ検出処理を行って前記工具の輪郭形状を検出する工具測定方法。
【請求項2】
工作機械の主軸に装着される工具を撮影するカメラと、前記カメラとは反対側から前記工具を照明するバックライトと、前記カメラで撮影した画像から前記工具を測定する測定制御部と、を有する工具測定機であって、
前記測定制御部は、
前記工具が前記カメラの撮影範囲から外れた状態で前記バックライトからの照明光だけを前記カメラで撮影した基準画像を記録する基準画像記録部と、
前記工具が前記カメラの撮影範囲にある状態で前記工具が前記バックライトからの照明光を遮る影を前記カメラで撮影した測定画像を記録する測定画像記録部と、
前記測定画像のピクセルを順次検査し、前記測定画像における前記ピクセルの測定輝度が、前記基準画像における同じ位置の前記ピクセルの基準輝度よりも大きい場合、前記測定画像の前記ピクセルの輝度を前記基準輝度に修正し、輝度が修正された修正画像を記録する輝度修正部と、
前記修正画像に対してエッジ検出処理を行って前記工具の輪郭形状を検出する輪郭検出部と、を有する工具測定機。
【請求項3】
請求項2に記載の工具測定機において、
前記バックライトは、前記工作機械の前記主軸の回転を検出する回転センサから出力される信号をトリガーとして発光するストロボである、工具測定機。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の工具測定機において、
前記測定制御部は、前記測定画像として、前記工作機械の前記主軸が所定の角度ずつ回転した状態における複数の画像を前記カメラで撮影するとともに、撮影した全ての前記測定画像に対して前記輪郭検出部による前記輪郭形状の検出および前記輝度修正部による輝度の修正を実行させる、工具測定機。
【請求項5】
工具が装着される主軸と、請求項2に記載の工具測定機と、を有する工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は工具測定方法、工具測定機、および工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械のなかでも精密加工機においては、加工作業の間に工具の機上測定を行い、測定結果を制御装置にフィードバックし、工具の摩耗による加工誤差を補償することがなされている。機上測定を行う工具測定機として、静止状態ではなく、回転中の工具の形状を測定するものが開発されている(特許文献1)。
特許文献1の工具測定機では、回転角度センサを用いて主軸が所定の角度ずつ回転した状態における複数の画像(例えば1度刻みで撮影した360枚の画像)を撮影し、工具の輪郭を取得している(段落0035)。さらに、工具を挟んでカメラと反対側にストロボを配置し、画像の撮影タイミングを高精度化するとともに(段落0133)、バックライトとして工具の輪郭を明瞭化することが記載されている(段落0140)。
段落0151には、工具の回転速度に対して撮影時間が長い場合、画像上の工具輪郭にブレが生じて正確な形状が得られない(
図8a)のに対し、特許文献1の装置では前述のように工具輪郭が明瞭化される(
図8b)ことが記載されている。
特許文献1には、撮影で得られた総ての画像を合成し、工具の最大外形の静止画像を取得し、工具の最大外形に基づいて工具補正を行うことも示されている(段落0161)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の工具測定機によれば、回転角度毎の複数の画像を重ね合わせたうえ、工具の概略輪郭における最も暗色の部分(影として濃い部分)を工具の輪郭として選択することができる。
しかし、この方法では特にPCD工具(多結晶ダイヤモンド焼結体工具)のような奥行きがある工具では、工具のブレ(撮影時間中の奥行き方向の移動によるピンボケした残像)も重ね合わせてしまい、測定精度が低下するという問題がある。
画像上の工具輪郭のブレに対しては、エッジ検出などの画像処理によって補正が可能である。しかし、特許文献1のようにストロボを用いた場合、バックライトが工具のエッジ付近で回折し、工具の輪郭が明るくなる現象が発生する。そして、回折光による輪郭の明るい部分が影響し、エッジ検出の際のサブピクセル計算が明るい側に寄ってしまい、測定精度が低下するという問題があった。
【0005】
本発明は、回転状態の工具形状を測定するとともにバックライトの回折光による精度低下を防止できる工具測定方法、工具測定機、および工作機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の工具測定方法は、工作機械の主軸に装着される工具を撮影するカメラと、前記カメラとは反対側から前記工具を照明するバックライトと、を用い、前記カメラで撮影した画像から前記工具を測定する工具測定方法であって、前記工具が前記カメラの撮影範囲から外れた状態で前記バックライトからの照明光だけを前記カメラで撮影した基準画像と、前記工具が前記カメラの撮影範囲にある状態で前記工具が前記バックライトからの照明光を遮る影を前記カメラで撮影した測定画像と、を記録しておき、前記測定画像のピクセルを順次検査し、前記測定画像における前記ピクセルの測定輝度が、前記基準画像における同じ位置の前記ピクセルの基準輝度よりも大きい場合、前記測定画像の前記ピクセルの輝度を前記基準輝度に修正し、輝度が修正された修正画像を記録し、前記修正画像に対してエッジ検出処理を行って前記工具の輪郭形状を検出する。
【0007】
本発明の工具測定機は、工作機械の主軸に装着される工具を撮影するカメラと、前記カメラとは反対側から前記工具を照明するバックライトと、前記カメラで撮影した画像から前記工具を測定する測定制御部と、を有する工具測定機であって、前記測定制御部は、前記工具が前記カメラの撮影範囲から外れた状態で前記バックライトからの照明光だけを前記カメラで撮影した基準画像を記録する基準画像記録部と、前記工具が前記カメラの撮影範囲にある状態で前記工具が前記バックライトからの照明光を遮る影を前記カメラで撮影した測定画像を記録する測定画像記録部と、前記測定画像のピクセルを順次検査し、前記測定画像における前記ピクセルの測定輝度が、前記基準画像における同じ位置の前記ピクセルの基準輝度よりも大きい場合、前記測定画像の前記ピクセルの輝度を前記基準輝度に修正し、輝度が修正された修正画像を記録する輝度修正部と、前記修正画像に対してエッジ検出処理を行って前記工具の輪郭形状を検出する輪郭検出部と、を有する。
【0008】
このような本発明において、基準画像は、工具がカメラの撮影範囲になくバックライトの照明光だけの状態で撮影されており、基準画像上の各ピクセルの輝度は、工具による回折光の影響がない、照明光に相当する輝度となっている。一方、測定画像は、工具がカメラの撮影範囲にある状態で撮影されており、測定画像には工具による影とその外側の照明光とが投影され、エッジ検出処理により工具の影の輪郭形状が検出される。
測定画像においては、輪郭形状に沿って輝度の差が大きなピクセルが並ぶことになるが、このうち高輝度のピクセルでは工具による回折光の影響のぶん輝度が高く変動することがある。これに対し、基準画像における同位置のピクセルの輝度は、回折光の影響がない状態の基準輝度であるため、測定画像のピクセルの輝度が基準輝度を超えている際には基準輝度に修正することで、測定画像の各ピクセルにおける回折光の影響を解消できる。
その結果、回転状態の工具形状を測定することができるとともに、バックライトの回折光による精度低下を防止することができる。
なお、ピクセルごとの輝度比較にあたっては、処理負荷を軽減するために、測定画像の全画面ではなく、工具輪郭を含む領域に絞り込むことが好ましい。また、測定画像としては、複数の角度位置で撮影された画像を重ね合わせた画像を利用することができる。
【0009】
本発明の工具測定機において、前記バックライトは、前記工作機械の前記主軸の回転を検出する回転センサから出力される信号をトリガーとして発光するストロボであることが好ましい。
【0010】
本発明の工具測定機において、前記測定制御部は、前記測定画像として、前記工作機械の前記主軸が所定の角度ずつ回転した状態における複数の画像を前記カメラで撮影するとともに、撮影した全ての前記測定画像に対して前記輪郭検出部による前記輪郭形状の検出および前記輝度修正部による輝度の修正を実行させることが好ましい。
【0011】
本発明の工作機械は、工具が装着される主軸と、前述した本発明の工具測定機と、を有する。
このような本発明の工作機械では、前述した本発明の工具測定機で説明した通りの作用効果が得られる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、回転状態の工具形状を測定するとともにバックライトの回折光による精度低下を防止できる工具測定機、工作機械、および工具測定方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態の工作機械を示す立面図。
【
図2】前記実施形態の工具測定機における工具の撮影を示す平面図。
【
図3】前記実施形態の工具測定機で撮影した工具の画像を示す模式図。
【
図4】前記実施形態の工具測定機の測定制御部を示すブロック図。
【
図5】前記実施形態の工具測定手順を示すフローチャート。
【
図9】前記実施形態で撮影される工具を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について図面にもとづいて説明する。
図1には、本発明が適用された工作機械10が示されている。
工作機械10は、ベッド11の上面にテーブル12を有し、テーブル12の上面にはワーク13が載置される。ベッド11の上面には、テーブル12を跨ぐように門型のフレーム14が設置されている。フレーム14のクロスレール15にはサドル16を介して主軸ヘッド17が支持されている。主軸ヘッド17には主軸18が設置され、主軸18の先端には工具19が装着されている。
【0015】
ベッド11に対するテーブル12のX軸移動、クロスレール15に対するサドル16のY軸移動、およびサドル16に対する主軸ヘッド17のZ軸方向移動により、工具19はワーク13に対して三次元の任意位置に相対移動される。主軸ヘッド17に格納された図示省略した主モータにより主軸18を回転させることで、工具19によりワーク13が切削加工される。
工作機械10には制御装置20が接続されており、前述した工具19の各軸移動および回転を含む工作機械10の動作は制御装置20により制御される。
制御装置20は、いわゆるCNC装置(コンピュータ数値制御装置)であり、予め組み込まれたソフトウェアで構成され、指定された加工プログラムを実行することで工作機械10を制御し、ワーク13を所定の形状に加工することができる。
工作機械10においては、加工により工具19の摩耗が避けられない。ワーク13の加工の間に、工作機械10に工具19を装着した状態で工具19の摩耗を検知するために、工作機械10には工具測定機30が設置されている。
【0016】
工具測定機30は、工具19を撮影するためのカメラ31およびバックライト32を有する。カメラ31およびバックライト32はベース33の上面に互いに向かい合わせに設置され、各々の間には工具19が導入可能である。これらのカメラ31およびバックライト32は、工具19によるワーク13の加工を妨げないように、テーブル12上面の周辺部に設置されている。
【0017】
図2に示すように、工具測定機30は、バックライト32を発光させることで、バックライト32からカメラ31に向けて平行光束からなる照明光34を照射する。
バックライト32は、光源として高輝度のLED(発光ダイオード)を用いたストロボ照明装置であり、指定されたタイミングで高精度にストロボ発光させることができる。このために、工作機械10の主軸ヘッド17には主軸18の回転を検出する回転センサ(図示省略)が設置され、バックライト32は回転センサから出力される信号をトリガーとして発光する。このストロボ制御は後述する測定動作制御部41により実行される。
カメラ31は、CCD(電荷結合素子)を用いた半導体撮像装置であり、バックライト32のストロボ発光時には照明光34を検出して画像として出力できる。
【0018】
図3に示すように、カメラ31においては、バックライト32との間に導入された工具19の輪郭形状191が照明光34により投影されて画像311として撮影される。
工具測定機30に導入される工具19を回転状態としておき、工具19の任意の回転角度でバックライト32をストロボ発光させることで、当該角度における工具19の画像311が撮影できる。例えば、1度ごとに360回の撮影を行うことで、工具19の1回転分となる360枚の画像311を得ることができる。
なお、画像311には工具19の輪郭形状191の外側に境界312が割り当てられる。境界312は後述する画像処理で利用される。
【0019】
工具測定機30は、前述した画像311の撮影ないし工具19の輪郭形状を測定するために、制御装置20内に測定制御部40を有する。
図4において、制御装置20には、工作機械10の動作を制御する動作制御部21、動作制御部21で実行されてワーク13の加工を行う加工プログラム22、および測定制御部40が配置されている。
測定制御部40は、測定動作制御部41、基準画像記録部42、測定画像記録部43、輝度修正部44、および輪郭検出部45を有する。さらに、測定制御部40は、基準画像46、測定画像47、修正画像48、輪郭形状49を記録可能な記憶領域を備えている。
【0020】
測定動作制御部41は、前述したカメラ31およびバックライト32の動作制御を行うとともに、測定動作制御部41、基準画像記録部42、測定画像記録部43、輝度修正部44、および輪郭検出部45を制御して後述する動作を実行させる。
基準画像記録部42は、工具19がカメラ31の撮影範囲から外れた状態でバックライト32からの照明光だけをカメラ31で撮影して基準画像46を記録する。
測定画像記録部43は、工具19がカメラ31の撮影範囲にある状態で工具19がバックライト32からの照明光34を遮る影をカメラ31で撮影して測定画像47を記録する。
輝度修正部44は、測定画像47のピクセルを順次検査し、測定画像47におけるピクセルの輝度(測定輝度Lm)が、基準画像46における同じ位置のピクセルの輝度(基準輝度Lr)よりも大きい場合、測定画像47のピクセルの測定輝度Lmを基準輝度Lrに修正し、輝度が修正された修正画像48を記録する。輝度修正部44の具体的な動作については後述する。
輪郭検出部45は、修正画像48に対してエッジ検出処理を行って工具19の輪郭形状を検出し、輪郭形状49として記録する。
【0021】
工具測定機30においては、測定制御部40の制御のもとで工具19の画像を撮影するとともに、撮影した画像を処理して工具19の輪郭形状を測定する。
図5において、測定制御部40は、測定動作制御部41および動作制御部21により工作機械10を動作させ、工具19をカメラ31およびバックライト32の間から退避させ、工具19がカメラ31の撮影範囲外にある状態とする(処理S1)。
この状態で、カメラ31にはバックライト32からの照明光34だけが入射されており、測定制御部40は、測定動作制御部41からカメラ31に画像撮影を実行させ、基準画像記録部42により、バックライト32からの照明光34だけが撮影されたカメラ31の画像を基準画像46として記録する(処理S2)。
【0022】
次に、測定制御部40は、測定動作制御部41および動作制御部21により工作機械10を動作させ、工具19をカメラ31およびバックライト32の間に導入し、工具19がカメラ31の撮影範囲内にある状態とする(処理S3)。
この状態で、カメラ31には工具19で一部が遮られた照明光34が入射されており、測定制御部40は、測定動作制御部41からカメラ31に画像撮影を実行させ、測定画像記録部43により、工具19の輪郭形状が投影された照明光34の画像を測定画像47として記録する(処理S4)。
測定画像47としては、例えば工具19を1度ずつ回転させつつ360回の撮影を行い、工具19の1回転分となる360枚の画像を撮影し、これらを重ね合わせて測定画像47としてもよい。
【0023】
基準画像46および測定画像47が得られたら、測定制御部40は、輝度修正部44による測定画像47の輝度修正を行う。
輝度修正部44は、測定画像47のピクセルを順次検査し、測定画像47におけるピクセルの輝度(測定輝度Lm)が、基準画像46における同じ位置のピクセルの輝度(基準輝度Lr)よりも大きいか否かを判定する(処理S5)。
そして、測定輝度Lmが基準輝度Lrよりも大きいピクセルについては、該当するピクセルの測定輝度Lmを基準輝度Lrに修正する(処理S6)。
【0024】
これらのピクセル毎の検査および修正は、測定画像47の全てのピクセルを対象としてもよいが、処理負荷を削減するために、工具19の輪郭周辺の領域に限定してもよい。このような領域としては、前述した
図3における、工具19の輪郭形状191の外側に割り当てられた境界312とすることができる。境界312は、ユーザが任意に設定してもよく、測定画像47に現れる工具19の概略輪郭からその外側に自動設定してもよい。
【0025】
図6から
図8に、輝度修正部44による輝度修正の具体的な処理の一例を示す。
図6において、基準画像46の各ピクセル461~464には、バックライト32からの照明光34が受光され、各ピクセル461の輝度(ピクセルごとの基準輝度Lr)は「198」から「204」までの値となっている。
図7において、測定画像47には照明光34を遮る工具19の影が輪郭形状191として現れる。輪郭形状191の中心部分のピクセル472では、輝度(測定輝度Lm)は「0」となり、輪郭形状191の外周部分のピクセル473の測定輝度Lmは「9」から「13」までの値となっている。輪郭形状191の外周部分のさらに外側の部分では、測定輝度Lmが「236」から「246」となっている。さらに外側のピクセル471では「198」から「204」となっている。
【0026】
輝度修正部44による輝度修正では、測定画像47の各ピクセルの測定輝度Lmを順番に読み出し、該当する基準画像46の基準輝度Lrを読み出し、各々の比較を行って修正画像48を作成する。
例えば、測定画像47のピクセル472の測定輝度Lmは「0」であり、ピクセル472に該当する基準画像46のピクセル462(
図6参照)の基準輝度Lrの「199」を超えていないので、基準輝度Lrへの修正は行われない(
図8のピクセル482参照)。
同様に、測定画像47のピクセル473の測定輝度Lmは「9」であり、ピクセル473に該当する基準画像46のピクセル463(
図6参照)の基準輝度Lrの「200」を超えていないので、基準輝度Lrへの修正は行われない(
図8のピクセル483参照)。
一方、測定画像47のピクセル474の測定輝度Lmは「240」であり、ピクセル474に該当する基準画像46のピクセル464(
図6参照)の基準輝度Lrの「202」を超えている。この場合、輝度修正部44は、測定画像47のピクセル474の測定輝度Lmを、対応するピクセル464の基準輝度Lrである「202」に修正する(
図8のピクセル484参照)。
このような処理をピクセルごとに順次実行することで、
図7において白地で示されているピクセル(ピクセル474を含む)において測定輝度Lmが基準輝度Lrを上回り、基準輝度Lrへの修正が行われる。
なお、
図7の下部に配列されている輪郭形状191から離れたピクセル471などでは、それぞれ測定輝度Lmが基準輝度Lrと一致しており、基準輝度Lrへの修正は行われない(
図8のピクセル481参照)。
【0027】
図5に戻って、以上のように輝度修正部44による輝度修正(処理S6)が済んだら、輝度修正済のピクセル484などを含む修正画像48を記録する(処理S7)。
修正画像48が得られたら、測定制御部40は、輪郭検出部45により修正画像48に対してエッジ検出処理などの必要な処理を行い、得られた形状データを工具19の輪郭形状49として記録する(処理S8)。
【0028】
上述した本実施形態によれば、次のような効果が得られる。
本実施形態において、基準画像46は、工具19がカメラ31の撮影範囲になくバックライト32の照明光34だけの状態で撮影されており、基準画像46上の各ピクセルの輝度(基準輝度Lr)は、工具19による回折光の影響がない、照明光34に相当する輝度となっている。一方、測定画像47は、工具19が撮影範囲にある状態で撮影されており、測定画像47には工具19による影(輪郭形状191)とその外側の照明光34とが投影され、エッジ検出処理により工具19の影の輪郭形状が検出される。
測定画像47においては、輪郭形状191に沿って輝度の差が大きなピクセルが並ぶことになるが、このうち高輝度のピクセルでは工具による回折光の影響のぶん輝度が高く変動することがある。これに対し、基準画像46における同位置のピクセルの輝度は、回折光の影響がない状態の基準輝度Lrであるため、測定画像47のピクセルの測定輝度Lmが基準輝度Lrを超えている際には基準輝度Lrに修正することで、測定画像47の各ピクセルにおける回折光の影響を解消できる。
修正画像48においては、バックライト32の回折光の影響を解消されており、エッジ検出により回転状態の工具19の輪郭形状を測定する際にバックライト32の回折光による精度低下を防止できる。
その結果、回転状態の工具19の輪郭形状を測定することができるとともに、バックライト32の回折光による精度低下を防止することができる。
【0029】
輝度修正部44による輝度修正(処理S6)では、ピクセルごとの輝度比較を測定画像の全画面ではなく、工具19の輪郭形状191を含む領域(
図3の境界312など)に絞り込んだので、測定制御部40の処理負荷を軽減することができる。
【0030】
上述のように、本実施形態によれば、回転状態の工具19の輪郭形状を測定できるとともに、バックライト32の回折光による精度低下を防止できる。
本実施形態における効果は、工具19のなかでもPCD工具(多結晶ダイヤモンド焼結体工具)のような奥行きがある工具に対して有効である。
図9および
図10において、PCD工具である工具50は断面形状が正六角形とされ、先細り状とされた先端の端面51も正六角形となっており、この正六角形は最大径Dである。端面51には、正六角形の対辺どうしを結ぶように、幅Wを有する3本の溝部52が形成されている。端面51には、溝部52が通らない正六角形の頂点部分に、6個の突起部53が形成されている。これらの突起部53の表面および側面には、多結晶ダイヤモンド焼結体の皮膜が形成されている。
【0031】
このような工具50は、工作機械10に装着されてR方向へ回転されてワーク13(
図1参照)の加工が行われる。さらに、工具測定機30により、工作機械10に装着された状態で工具50の輪郭形状の測定が行われる。
輪郭形状の測定では、工具50に対して基準画像46を記録(
図5の処理S1~S2)し、測定画像47を記録(処理S3~S4)し、ピクセルの輝度調整(処理S5~S6)ののち修正画像48を記録(処理S7)し、エッジ検出による輪郭形状の検出(処理S8)を行う。
回転する工具50の先端部には最大径D分の奥行き方向の厚みがあり、境界312内で検出される測定画像47には奥行き方向のブレ(撮影時間中の奥行き方向の移動によるピンボケした残像)が生じる。このようなブレに対しては、エッジ検出を用いた輪郭形状の検出(処理S8)により補正できる。さらに、エッジ検出に先立ってピクセルの輝度調整(処理S5~S6)を行うことで、バックライト32の回折光の影響を解消できる。このように、バックライト32の回折光の影響が修正された修正画像48に対してエッジ検出を行うことで、工具50の輪郭形状の測定における精度低下を防止できる。
【0032】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形などは本発明に含まれる。
前記実施形態では、工具19を回転させて角度が異なる複数の画像を撮影し、これらを重ね合わせて測定画像47としたが、工具19の輪郭形状が現れた単一の画像を対象としてもよい。
バックライト32はLED光源に限らず他の形式であってもよく、カメラ31側の応答性が高い場合などバックライト32はストロボ照明でなくてもよい。
カメラ31はCCD方式に限らず高解像度で高速応答性が得られれば他の形式であってもよい。
カメラ31およびバックライト32は同じベース33上に対抗配置されるものに限らず、個々にテーブル12に支持されていてもよい。カメラ31およびバックライト32はテーブル12に支持されるものに限らず、ロボットアームに支持されて工具19に近接離隔されるもの等であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は工具測定方法、工具測定機、および工作機械に利用できる。
【符号の説明】
【0034】
10…工作機械、11…ベッド、12…テーブル、13…ワーク、14…フレーム、15…クロスレール、16…サドル、17…主軸ヘッド、18…主軸、19…工具、191…輪郭形状、20…制御装置、21…動作制御部、22…加工プログラム、30…工具測定機、31…カメラ、311…画像、312…境界、32…バックライト、33…ベース、34…照明光、40…測定制御部、41…測定動作制御部、42…基準画像記録部、43…測定画像記録部、44…輝度修正部、45…輪郭検出部、46…基準画像、47…測定画像、48…修正画像、49…輪郭形状、461,462,463,464,471,472,473,474,481,482,483,484…ピクセル、Lm…測定輝度、Lr…基準輝度、S1,S2,S3,S4,S6,S7,S8…処理、50…工具、51…端面、52…溝部、53…突起部、D…最大径、R…回転方向、W…幅。