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特開2024-167047多孔質膜、多孔質膜の製造方法、多孔質膜を用いた糖化液の製造方法、及び多孔質膜を用いた濾過方法
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  • 特開-多孔質膜、多孔質膜の製造方法、多孔質膜を用いた糖化液の製造方法、及び多孔質膜を用いた濾過方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167047
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】多孔質膜、多孔質膜の製造方法、多孔質膜を用いた糖化液の製造方法、及び多孔質膜を用いた濾過方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/06 20060101AFI20241122BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20241122BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20241122BHJP
   B01D 71/34 20060101ALI20241122BHJP
   B01D 61/14 20060101ALI20241122BHJP
   C08J 9/28 20060101ALI20241122BHJP
   C08J 9/26 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
B01D71/06
B01D69/00
B01D69/08
B01D71/34
B01D61/14 500
C08J9/28 CEW
C08J9/26 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024040134
(22)【出願日】2024-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2023083341
(32)【優先日】2023-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.イルガフォス
2.イルガスタブ
3.イルガノックス
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】三木 雄揮
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 航汰
【テーマコード(参考)】
4D006
4F074
【Fターム(参考)】
4D006GA07
4D006KA01
4D006KA02
4D006KB12
4D006KB13
4D006KB15
4D006KB21
4D006KD19
4D006KD21
4D006MA01
4D006MA22
4D006MA23
4D006MA26
4D006MA28
4D006MA31
4D006MB02
4D006MB16
4D006MC01
4D006MC03
4D006MC07X
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC26
4D006MC28
4D006MC29X
4D006MC30
4D006MC33
4D006MC40
4D006MC45
4D006MC81
4D006MC90
4D006NA04
4D006NA12
4D006NA13
4D006NA40
4D006NA54
4D006NA62
4D006NA68
4D006NA75
4D006PA01
4D006PB03
4D006PB04
4D006PB05
4D006PB08
4D006PB20
4D006PB24
4D006PB52
4D006PB53
4D006PB59
4D006PC01
4D006PC12
4D006PC18
4D006PC41
4F074AA38
4F074AC32
4F074AD11
4F074AD12
4F074AG02
4F074AG04
4F074CB03
4F074CB13
4F074CB16
4F074CB27
4F074CB28
4F074CB34
4F074CB45
4F074CC02X
4F074CC02Y
4F074CC02Z
4F074CC04X
4F074CC04Z
4F074CC05Y
4F074CC22X
4F074CC27Y
4F074CC29Y
4F074DA02
4F074DA03
4F074DA08
4F074DA24
4F074DA43
(57)【要約】
【課題】3次元網目構造を有し、ある一定以下の孔径分布を有し、欠陥のない多孔質膜、多孔質膜の製造方法、および多孔質膜を用いた糖化液の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】熱可塑性樹脂aを含む多孔質膜であって、該多孔質膜が、少なくとも第1の溶剤、第2の溶剤および酸化防止剤を含み、前記第1の溶剤及び第2の溶剤が、セバシン酸エステル、クエン酸エステル、アセチルクエン酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、オレイン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、リン酸エステル、炭素数6以上30以下の脂肪酸、およびエポキシ化植物油から選択される少なくとも1種であり、前記第2の溶剤が、前記第1の溶剤と異なり、前記酸化防止剤が、0.05質量%以上0.5質量%以下含まれることを特徴とする、多孔質膜である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含む多孔質膜であって、
該多孔質膜が、少なくとも第1の溶剤、第2の溶剤および酸化防止剤を含み、
前記第1の溶剤が、セバシン酸エステル、クエン酸エステル、アセチルクエン酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、オレイン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、リン酸エステル、炭素数6以上30以下の脂肪酸、およびエポキシ化植物油から選択される少なくとも1種であり、
前記第2の溶剤が、前記第1の溶剤と異なり、セバシン酸エステル、クエン酸エステル、アセチルクエン酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、オレイン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、リン酸エステル、炭素数6以上30以下の脂肪酸、およびエポキシ化植物油から選択される少なくとも1種であり、
前記酸化防止剤が、0.05質量%以上0.5質量%以下含まれることを特徴とする、多孔質膜。
【請求項2】
前記酸化防止剤が、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤であることを特徴とする、請求項1に記載の多孔質膜。
【請求項3】
前記多孔質膜の孔径分布(P)を、孔径分布(P)=(最大孔径)/(平均孔径)で表した場合に、
P≦2.4 ・・・ (1)
であることを特徴とする、請求項1に記載の多孔質膜。
【請求項4】
前記多孔質膜の平均孔径が、0.1μm以上であることを特徴とする、請求項1に記載の多孔質膜。
【請求項5】
前記多孔質膜の膜厚が0.1mm以上0.7mm以下であり、
破裂強度が0.5MPa以上であることを特徴とする、請求項1に記載の多孔質膜。
【請求項6】
前記多孔質膜の一方の表面の開孔率が20%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の多孔質膜。
【請求項7】
前記多孔質膜が中空糸状であり、前記熱可塑性樹脂がフッ化ビニリデン系樹脂であることを特徴とする、請求項1に記載の多孔質膜。
【請求項8】
単一層構造であることを特徴とする、請求項1に記載の多孔質膜。
【請求項9】
熱可塑性樹脂、少なくとも第1の溶剤、および第2の溶剤を含む多孔質膜の製造方法であって、
前記第1の溶剤が、セバシン酸エステル、クエン酸エステル、アセチルクエン酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、オレイン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、リン酸エステル、炭素数6以上30以下の脂肪酸、およびエポキシ化植物油から選択される少なくとも1種であり、
前記第2の溶剤が、前記第1の溶剤と異なり、セバシン酸エステル、クエン酸エステル、アセチルクエン酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、オレイン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、リン酸エステル、炭素数6以上30以下の脂肪酸、およびエポキシ化植物油から選択される少なくとも1種であり、
前記熱可塑性樹脂、少なくとも第1の溶剤、および第2の溶剤に加えて、さらに、酸化防止剤を混合することを特徴とする、多孔質膜の製造方法。
【請求項10】
前記酸化防止剤が、孔径及び孔径分布調整用であることを特徴とする、請求項9に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項11】
酸化防止剤を使用しない場合の前記多孔質膜の孔径分布(Pa)を、Pa=(酸化防止剤を使用しない場合の多孔質膜の最大孔径)/(酸化防止剤を使用しない場合の多孔質膜の平均孔径)、酸化防止剤を使用した場合の前記多孔質膜の孔径分布(Pb)を、Pb=(酸化防止剤を使用した場合の多孔質膜の最大孔径)/(酸化防止剤を使用した場合の多孔質膜の平均孔径)で表した場合に、
Pb/Pa≦0.95 ・・・ (2)
であることを特徴とする、請求項9に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項12】
前記多孔質膜中の酸化防止剤が、
0.01≦(酸化防止剤残量)/(酸化防止剤混合量)≦0.5 ・・・ (3)
を満たすことを特徴とする、請求項9に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項13】
前記酸化防止剤を、0.5質量%以上3.0質量%以下混合することを特徴とする、請求項9に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項14】
前記酸化防止剤が、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤であることを特徴とする、請求項9に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項15】
前記熱可塑性樹脂と、前記第1の溶剤と、前記第2の溶剤と、前記酸化防止剤とを含む混合物、又は前記熱可塑性樹脂と、前記第1の溶剤と前記第2の溶剤と、前記酸化防止剤と、無機物とを含む混合物を溶融混練し、押し出した後、前記第1の溶剤、前記第2の溶剤、前記酸化防止剤、及び含まれる場合には無機物を、多孔質膜から抽出することを特徴とする、請求項9に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項16】
前記第1の溶剤、前記第2の溶剤、前記酸化防止剤、及び含まれる場合には前記無機物を多孔質膜から抽出した後に、
多孔質膜を160℃以下で乾燥又は熱処理をすること特徴とする、請求項15に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項17】
糖化液の製造方法であって、
澱粉液質に酵素を添加し、該澱粉を部分的に分解して、糖含有液化物を得る液化工程;
得られた糖含有液化物に糖化酵素を添加し、糖をさらに分解して糖化液と不溶解成分を含む糖化液組成物を得る糖化工程;
3次元網目構造の樹脂から構成される多孔質膜に、該糖化液組成物を通過させて、該不溶解成分から該糖化液を分離する濾過工程;及び
該多孔質膜に洗浄液を通過又は浸漬させて、該多孔質膜の表面又は内部に付着した不溶解物を洗浄・除去する洗浄工程;
を含み、前記濾過工程において、請求項1に記載の多孔質膜を用いて前記糖化液組成物を濾過することを特徴とする、糖化液の製造方法。
【請求項18】
請求項1に記載の多孔質膜を用いて濾過することを特徴とする、濾過方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質膜、多孔質膜の製造方法、多孔質膜を用いた糖化液の製造方法、及び多孔質膜を用いた濾過方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上水処理および下水処理などのように、被処理液体の除濁操作多孔質膜(「多孔性中空糸膜」とも呼ばれる。)を用いた膜濾過法が普及しつつある。そして、該膜濾過法に用いられる多孔質膜の製造方法としては、熱誘起相分離法が知られている。
【0003】
熱誘起相分離法では熱可塑性樹脂と有機液体を用いる。該熱誘起相分離法では、特に有機液体として熱可塑性樹脂を室温では溶解しないが、高温では溶解する溶剤、すなわち潜在的溶剤(貧溶剤)を用いる方法と、貧溶剤に加えて、高温でも熱可塑性樹脂を溶解しない非溶剤との混合溶剤を用いる方法とが知られている。
後者の方法は、熱可塑性樹脂と有機液体とを高温で混練し、熱可塑性樹脂を有機液体に溶解させた後、室温まで冷却することで相分離を誘発させ、更に有機液体を除去して多孔体を製造する方法であり、以下の利点を持つ。
(a)室温で溶解できる適当な溶剤のないポリエチレン等のポリマーでも製膜が可能になる。
(b)非溶剤と貧溶剤の混合溶剤を用いて、高温で溶解したのち冷却固化させて製膜するので、3次元網目構造を有し、耐薬品性、および機械的強度に優れた膜が得られやすい。
【0004】
例えば、特許文献1では、貧溶剤に少なくとも1種の非溶剤を混合することで、高い耐薬品性、および機械的強度を発現する3次元網目構造の多孔性中空糸膜およびその製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2017/155004号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の多孔性中空糸膜では、被処理液体の除濁用途として用いた場合に、孔径分布が広いことにより孔径が大きい側で濁質漏れが発生したり、欠陥があるために濁質漏れが発生したりする問題があった。
【0007】
そこで本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、3次元網目構造を有し、ある一定以下の孔径分布を有し、欠陥のない多孔質膜、該多孔質膜の製造方法、該多孔質膜を使用した糖化液の製造方法、及び該多孔質膜を用いた濾過方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
公知の技術では、熱誘起相分離を用いて、耐薬品性および機械的強度に優れた多孔質膜を作製するために、熱可塑性樹脂を含む原材料に非溶剤および貧溶剤を用いるが、本発明者らは、鋭意検討した結果、非溶剤および貧溶剤(又は良溶剤)に加え、酸化防止剤を添加することで、ある一定以下の孔径分布を有し、欠陥のない多孔質膜、その製造方法、その多孔質膜を用いた糖化液の製造方法、及びその多孔質膜を用いた濾過方法の発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の発明を提供する。
【0010】
[1] 熱可塑性樹脂を含む多孔質膜であって、
該多孔質膜が、少なくとも第1の溶剤、第2の溶剤および酸化防止剤を含み、
前記第1の溶剤が、セバシン酸エステル、クエン酸エステル、アセチルクエン酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、オレイン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、リン酸エステル、炭素数6以上30以下の脂肪酸、およびエポキシ化植物油から選択される少なくとも1種であり、
前記第2の溶剤が、前記第1の溶剤と異なり、セバシン酸エステル、クエン酸エステル、アセチルクエン酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、オレイン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、リン酸エステル、炭素数6以上30以下の脂肪酸、およびエポキシ化植物油から選択される少なくとも1種であり、
前記酸化防止剤が、0.05質量%以上0.5質量%以下含まれることを特徴とする、多孔質膜。
【0011】
[2] 前記酸化防止剤が、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤であることを特徴とする、[1]に記載の多孔質膜。
【0012】
[3] 前記多孔質膜の孔径分布(P)を、孔径分布(P)=(最大孔径)/(平均孔径)で表した場合に、
P≦2.4 ・・・ (1)
であることを特徴とする、[1]または[2]に記載の多孔質膜。
【0013】
[4] 前記多孔質膜の平均孔径が、0.1μm以上であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれかに記載の多孔質膜。
【0014】
[5] 前記多孔質膜の膜厚が0.1mm以上0.7mm以下であり、
破裂強度が0.5MPa以上であることを特徴とする、[1]~[4]のいずれかに記載の多孔質膜。
【0015】
[6] 前記多孔質膜の一方の表面の開孔率が20%以上であることを特徴とする、[1]~[5]のいずれかに記載の多孔質膜。
【0016】
[7] 前記多孔質膜が中空糸状であり、前記熱可塑性樹脂がフッ化ビニリデン系樹脂であることを特徴とする、[1]~[6]のいずれかに記載の多孔質膜。
【0017】
[8] 単一層構造であることを特徴とする、[1]~[7]のいずれかに記載の多孔質膜。
【0018】
[9] 熱可塑性樹脂、少なくとも第1の溶剤、および第2の溶剤を含む多孔質膜の製造方法であって、
前記第1の溶剤が、セバシン酸エステル、クエン酸エステル、アセチルクエン酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、オレイン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、リン酸エステル、炭素数6以上30以下の脂肪酸、およびエポキシ化植物油から選択される少なくとも1種であり、
前記第2の溶剤が、前記第1の溶剤と異なり、セバシン酸エステル、クエン酸エステル、アセチルクエン酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、オレイン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、リン酸エステル、炭素数6以上30以下の脂肪酸、およびエポキシ化植物油から選択される少なくとも1種であり、
前記熱可塑性樹脂、少なくとも第1の溶剤、および第2の溶剤に加えて、さらに、酸化防止剤を混合することを特徴とする、多孔質膜の製造方法。
【0019】
[10] 前記酸化防止剤が、孔径及び孔径分布調整用であることを特徴とする、[9]に記載の多孔質膜の製造方法。
【0020】
[11] 酸化防止剤を使用しない場合の前記多孔質膜の孔径分布(Pa)を、Pa=(酸化防止剤を使用しない場合の多孔質膜の最大孔径)/(酸化防止剤を使用しない場合の多孔質膜の平均孔径)、酸化防止剤を使用した場合の前記多孔質膜の孔径分布(Pb)を、Pb=(酸化防止剤を使用した場合の多孔質膜の最大孔径)/(酸化防止剤を使用した場合の多孔質膜の平均孔径)で表した場合に、
Pb/Pa≦0.95 ・・・ (2)
であることを特徴とする、[9]または[10]に記載の多孔質膜の製造方法。
【0021】
[12] 前記多孔質膜中の酸化防止剤が、
0.01≦(酸化防止剤残量)/(酸化防止剤混合量)≦0.5
を満たすことを特徴とする、[9]~[11]のいずれかに記載の多孔質膜の製造方法。
【0022】
[13] 前記酸化防止剤を、0.5質量%以上3.0質量%以下混合することを特徴とする、[9]~[12]のいずれかに記載の多孔質膜の製造方法。
【0023】
[14] 前記酸化防止剤が、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤であることを特徴とする、[9]~[13]のいずれかに記載の多孔質膜の製造方法。
【0024】
[15] 前記熱可塑性樹脂、前記第1の溶剤、前記第2の溶剤、及び前記酸化防止剤を含む混合物、又は前記熱可塑性樹脂、前記第1の溶剤、前記第2の溶剤、前記酸化防止剤及び無機物を含む混合物を溶融混練し、押し出した後、前記第1の溶剤、前記第2の溶剤、前記酸化防止剤、及び含まれる場合には無機物を、多孔質膜から抽出することを特徴とする、[9]~[14]のいずれかに記載の多孔質膜の製造方法。
【0025】
[16] 前記第1の溶剤、前記第2の溶剤、前記酸化防止剤、及び含まれる場合には前記無機物を多孔質膜から抽出した後に、
前記混合物を160℃以下で乾燥又は熱処理をすること特徴とする、[15]に記載の多孔質膜の製造方法。
【0026】
[17] 糖化液の製造方法であって、
澱粉液質に酵素を添加し、澱粉を部分的に分解して、糖含有液化物を得る液化工程;
得られた糖含有液化物に糖化酵素を添加し、糖をさらに分解して糖化液と不溶解成分を含む糖化液組成物を得る糖化工程;
3次元網目構造の樹脂から構成される多孔質膜に、該糖化液組成物を通過させて、該不溶解成分から該糖化液を分離する濾過工程;及び
該多孔質膜に洗浄液を通過又は浸漬させて、該多孔質膜の表面又は内部に付着した不溶解物を洗浄・除去する洗浄工程;
を含み、前記濾過工程において、[1]~[8]のいずれかに記載の多孔質膜を用いて濾過することを特徴とする、糖化液の製造方法。
【0027】
[18] [1]~[8]のいずれかに記載の多孔質膜を用いて濾過することを特徴とする、濾過方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、膜構造が3次元網目構造を有し、ある一定以下の孔径分布(=最大孔径/平均孔径)を有し、欠陥のない多孔質膜、該多孔質膜の製造方法、該多孔質膜を用いた糖化液の製造方法、及び多孔質膜を用いた濾過方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の多孔質膜の3次元網目構造の一実施形態を示す模式図である。
図2】多孔質膜を製造する装置の一例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0031】
本明細書において、「欠陥」とは、多孔質膜の最大孔径を逸脱する孔が存在することをいう。
【0032】
<多孔質膜>
本発明の多孔質膜を以下で説明する。
上記多孔質膜(好ましくは多孔性中空糸膜)は、3次元網目構造であることが望ましい。本明細書において3次元網目構造とは、模式的には図1で表したような構造を指す。例えば、熱可塑性樹脂aが接合して網目を形成し、空隙部bが形成される。3次元網目構造では、いわゆる球晶構造の樹脂の塊状物がほとんど見られない。3次元網目構造の空隙部bは、熱可塑性樹脂aに囲まれており、空隙部bの各部分は互いに連通していることが好ましい。用いられた熱可塑性樹脂のほとんどが、多孔質膜(好ましくは中空糸膜)の強度に寄与しうる3次元網目構造を形成しているので、高い強度の支持層を形成することが可能になる。また、耐薬品性も向上する。耐薬品性が向上する理由は明確ではないが、強度に寄与しうる網目を形成する熱可塑性樹脂の量が多いため、網目の一部が薬品に侵されても、層全体としての強度には大きな影響が及ばないためではないかと考えられる。
また、膜の洗浄剤として多用されるアルカリ(水酸化ナトリウム水溶液など)等に対する耐性が強くなる。
【0033】
前記多孔質膜は熱可塑性樹脂を含んでおり、熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、オレフィンとハロゲン化オレフィンとの共重合体、ハロゲン化ポリオレフィン、又はそれらの混合物が挙げられる。前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン(ヘキサフルオロプロピレンのドメインを含んでもよい)、又はこれらの混合物を挙げることができる。これらの素材は熱可塑性ゆえに取り扱い性に優れ、且つ強靱であるため、膜素材として優れる。これらの中でもフッ化ビニリデン、エチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンのホモポリマー及びコポリマー、並びに上記ホモポリマー及びコポリマーの混合物は、機械的強度、化学的強度(耐薬品性)に優れ、且つ成形性が良好であるために好ましい。より具体的には、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合物、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合物、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体等のフッ素樹脂が挙げられる。
なお、本明細書においては、上記ポリフッ化ビニリデン等のフッ化ビニリデンのホモポリマー及びコポリマー(共重合体)、並びにそれらの混合物を含む樹脂を、フッ化ビニリデン系樹脂という。本発明の熱可塑性樹脂は、フッ化ビニリデン系樹脂であることが特に好ましい。
【0034】
なお、多孔質膜は熱可塑性樹脂以外の成分(不純物等)を5質量%程度まで含み得る。例えば、多孔質膜には製造時に用いる溶剤や酸化防止剤が含まれる。後述するように、多孔質膜には、製造時に溶剤として用いた第1の溶剤(以下、非溶剤ともいう)、第2の溶剤(以下、良溶剤もしくは貧溶剤ともいう)、もしくは酸化防止剤またはその全てが含まれる。これらの成分は、熱分解GC-MS(ガスクロマトグラフィー質量分析法)またはLC-MS(液体クロマトグラフィー質量分析法)により検出することが可能である。
【0035】
本発明の多孔質膜について説明する。多孔質膜は、熱可塑性樹脂、第1の溶剤、第2の溶剤及び酸化防止剤を含むものである。すなわち、熱可塑性樹脂を含む多孔質膜であって、
該多孔質膜が、少なくとも第1の溶剤、第2の溶剤、及び酸化防止剤を含み、
第1の溶剤は、セバシン酸エステル、クエン酸エステル、アセチルクエン酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、オレイン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、リン酸エステル、炭素数6以上30以下の脂肪酸、及びエポキシ化植物油から選択される少なくとも1種であり、
第2の溶剤は、第1の溶剤と異なり、セバシン酸エステル、クエン酸エステル、アセチルクエン酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、オレイン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、リン酸エステル、炭素数6以上30以下の脂肪酸、及びエポキシ化植物油から選択される少なくとも1種であり、
酸化防止剤が、0.05質量%以上0.5質量%以下含まれる、多孔質膜である。
前記多孔質膜は、所定の量の酸化防止剤を含むことにより、3次元網目構造を有し、機械的強度に加えて、ある一定以下の孔径分布を有する。
【0036】
前記多孔質膜は、3次元網目構造を有するものである。3次元網目構造を取ることにより、引張破断伸度が高くなり、また膜の洗浄剤として多用されるアルカリ(水酸化ナトリウム水溶液など)等に対する耐性が強くなる。
【0037】
前記多孔質膜は、さらに無機物を含んでもよい。該無機物は、シリカ、塩化リチウム、及び酸化チタンから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0038】
前記多孔質膜は、ある一定以下の孔径分布を有する多孔質膜である。多孔質膜がある一定以下の孔径分布を有することで、濁質漏れを抑制できる。
【0039】
前記多孔質膜は、外内表面部から肉厚部にかけて、大きな欠陥のない多孔質膜である。前記多孔質膜は、欠陥がないことにより濁質漏れを抑制できる。
【0040】
ここで、前記炭素数6以上30以下の脂肪酸としては、カプリン酸、ラウリン酸、オレイン酸等が挙げられる。また、前記エポキシ化植物油としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等が挙げられる。
【0041】
前記第1の溶剤は、熱可塑性樹脂と第1の溶剤との比率が20:80の第1の混合液において、第1の混合液の温度を第1の溶剤の沸点まで上げても、熱可塑性樹脂が第1の溶剤に均一に溶解しない非溶剤であることが好ましい。
【0042】
前記第2の溶剤は、熱可塑性樹脂と第2の溶剤との比率が20:80の第2の混合液において、第2の混合液の温度が25℃より高く第2の溶剤の沸点以下のいずれかの温度で熱可塑性樹脂が第2の溶剤に均一に溶解する良溶剤であることが好ましい。
ここで、「熱可塑性樹脂が第2の溶剤に均一に溶解する」とは、目視で溶液が二層に分かれず、溶液が透明になることを意味する。
【0043】
前記第2の溶剤は、熱可塑性樹脂と第2の溶剤との比率が20:80の第2の混合液において、第2の混合液の温度が25℃では熱可塑性樹脂が第2の溶剤に均一に溶解せず、第2の混合液の温度が100℃より高く第2の溶剤の沸点以下のいずれかの温度では熱可塑性樹脂が第2の溶剤に均一に溶解する貧溶剤であることがより好ましい。
【0044】
前記酸化防止剤は、イルガノックス1010、イルガノックス1035、イルガノックス1076、イルガノックス1098、イルガノックス1135、イルガノックス1141、イルガノックス1330、イルガノックス1425WL、イルガノックス1520L、イルガノックス245、イルガノックス259、イルガノックス3114、イルガノックス565、イルガフォス168、イルガノックスPS800FL、イルガノックスPS802FL、イルガスタブFS042およびジブチルヒドロキシトルエンから選択される酸化防止剤である。好ましくは上記酸化防止剤のうちヒンダードフェノール系酸化防止剤である。
【0045】
また、前記酸化防止剤は、多孔質膜中に0.05質量%以上0.5質量%以下含まれる。酸化防止剤が多孔質膜中に0.05質量%以上0.5質量%以下含まれると、ある一定以下の孔径分布を有する多孔質膜になる。また、同様の観点から、酸化防止剤は、多孔質膜中に0.1質量%以上0.4質量%以下含まれることが好ましく、0.2質量%以上0.3質量%以下含まれることがより好ましい。
【0046】
(多孔質膜の物性)
前記多孔質膜の厚さ(膜厚)は、好ましくは0.1mm以上1.0mm以下であり、より好ましくは0.1mm以上0.7mm以下であり、より一層好ましくは0.2mm以上0.7mm以下である。厚さが0.1mm以上であることにより、強度が高くなり、他方1mm以下であることにより、膜抵抗による圧損が小さくなる。
【0047】
前記多孔質膜の孔径としては、平均孔径が、0.1μm以上であることが好ましい。また、0.1μm以上5.0μm以下であることが好適である。より好ましくは平均孔径が0.1μm以上1.0μm以下であり、さらにより好ましくは0.1μm以上0.7μm以下である。平均孔径が0.1μm以上であると濾過流量の低下が小さく好ましい。平均孔径が5.0μm以下であると、濁質の有効な濾過分別ができ、また、濁質が膜内部に詰まりにくく濾過量の経時低下が小さくなるため好ましい。
多孔質膜の平均孔径は、ASTM:F316-86記載の方法(別称:ハーフドライ法)にしたがって決定することができる。なお、このハーフドライ法によって決定されるのは、膜の最小孔径層の平均孔径である。ハーフドライ法による平均孔径の測定は、使用液体にエタノールを用い、25℃、昇圧速度0.001MPa/秒での測定を標準測定条件とした。平均孔径[μm]は、下記式より求まる。
平均孔径[μm]=(2860×表面張力[mN/m])/ハーフドライ空気圧力[Pa]
【0048】
また、前記多孔質膜の最大孔径は、0.30μm以上であると濾過流量の低下が小さいため好ましく、0.4μm以上であることがより好ましい。濁質の有効な濾過分別ができ、また、濁質が膜内部に詰まりにくく濾過量の経時低下が小さくなるため、多孔質膜の最大孔径は、2.0μm以下が好ましく、1.5μm以下がより好ましい。
なお、多孔質膜の最大孔径は、ハーフドライ法において膜から気泡が初めて出てくる時の圧力から求めることができる(バブルポイント法)。上記のハーフドライ法標準測定条件の場合、多孔質膜から気泡が初めて出てくる時の圧力(気泡発生空気圧力)から、
最大孔径[μm]=62834.2/(気泡発生空気圧力[Pa])
より求めることができる。
【0049】
前記多孔質膜の一方の表面の開孔率は、20%以上であることが好ましい。多孔質膜の開孔率が高いと、孔1個当たりの膜汚れの負荷量が小さく、完全に閉塞される孔が少ないため、高い濾過性能を発現できると推定される。また、多孔質膜の製造工程における溶剤、無機物、酸化防止剤の抽出除去工程において、開孔率が高い多孔質膜の方が断面方向に均一に酸化防止剤を残留させることができる。好ましくは、多孔質膜の一方の表面の開孔率はより好ましくは25%以上であり、より一層好ましくは30%以上である。ここで、多孔質膜の一方の表面とは、被濾過液側の表面であることが好ましく、内圧濾過の場合は内表面側の表面であることが好ましい。また、多孔質膜の一方の表面の開孔率は、多孔質膜の強度の観点から、60%以下であってもよい。
多孔質膜の一方の表面の開孔率は、HITACHI製電子顕微鏡SU8000シリーズを使用して多孔質膜の表面を撮影し、例えば国際公開第2001/53213号公報に記載されている方法により求めることができる。
【0050】
前記多孔質膜は、単一層構造であることが好ましい。単一層構造とは、単一の組成物で構成される層であることを表し、例えば基材の多孔質膜に基材とは異なる組成物の層を積層した構造や、共押出により複数の層を積層させたような複数の層を有する構造ではないことを意味する。多孔質膜が単一層構造であるかどうかは、電子顕微鏡等での観察手段により目視で層と層の界面の存在有無によって判別することができる。多孔質膜が単一層構造であると、酸化防止剤の分解抑制効果を膜断面に均一に発現させることができ、孔径分布の調整が容易である。
【0051】
前記多孔質膜の引張破断強度は、2MPa以上であると実用上の耐久性を有することができ好ましく、より好ましくは4MPa以上である。
なお、多孔質膜の引張破断強度は、以下の条件で測定し、算出する。
測定機器:インストロン型引張試験機(島津製作所製、商品名:AGS-5D)
チャック間距離:5cm
引張速度:20cm/分
測定温度:25℃
引張破断強度[Pa]=破断時荷重[N]/膜断面積[m
(ここで、膜断面積[m]=π×[(外径[m]/2)-(内径[m]/2)]である。)
【0052】
前記多孔質膜の引張破断伸度は、60%以上であると実用上の耐久性を有することができ好ましく、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは100%以上、特に好ましくは120%以上である。
なお、多孔質膜の引張破断伸度は、以下の条件で測定し、算出する。
測定機器:インストロン型引張試験機(島津製作所製、商品名:AGS-5D)
チャック間距離:5cm
引張速度:20cm/分
測定温度:25℃
引張破断伸度[%]=100×破断時変位[mm]/50[mm]
【0053】
前記多孔質膜の破裂強度は、0.3MPa以上が好ましく、さらに、内圧濾過での破裂しにくさと膜の透過性という点から、より好ましくは0.5MPa以上である。また、膜の透過性の観点から、15MPa以下が好ましく、より好ましくは10MPa以下である。
なお、多孔質膜の破裂強度は、耐圧試験装置(ハラエンジニアリング社製)を使用して測定する。
【0054】
前記多孔質膜の純水透水量は、引張、破裂又は圧縮に対する耐性及び透過性能の観点から500L/(m・hr)以上40000L/(m・hr)以下とすることが適当である。より好ましくは1000L/(m・hr)以上である。
【0055】
前記多孔質膜の孔径分布(P)は、最大孔径を平均孔径で除した値で、孔径分布(P)=(最大孔径)/(平均孔径)で表される。孔径分布は処理対象液の濁質を漏れなく除去する観点から2.4以下であることが好ましく、2.1以下であることがより好ましい。また、膜の透過性の観点から、1.0以上であることが好ましく、1.3以上であることがより好ましい。
【0056】
本明細書においては、酸化防止剤を使用しない場合の前記多孔質膜の孔径分布をPa、酸化防止剤を使用した場合の前記多孔質膜の孔径分布をPbと表す。したがって、Pa及びPbは、それぞれPa=(酸化防止剤を使用しない場合の多孔質膜の最大孔径)/(酸化防止剤を使用しない場合の多孔質膜の平均孔径)、酸化防止剤を使用した場合の前記多孔質膜の孔径分布(Pb)を、Pb=(酸化防止剤を使用した場合の多孔質膜の最大孔径)/(酸化防止剤を使用した場合の多孔質膜の平均孔径)で表される。また、酸化防止剤を使用しなかった場合と酸化防止剤を使用した場合の多孔質膜の孔径分布の比は、Pb/Paで表される。酸化防止剤による第1および第2の溶剤の分解抑制効果により、酸化防止剤を使用すると孔径分布が狭くなるため、Pb/Pa≦1.0あることが好ましく、Pb/Pa≦0.95であることがより好ましい。また、膜の透過性の観点から、0.3≦Pb/Paであることが好ましく、0.5≦Pb/Paであることがより好ましい。
【0057】
酸化防止剤残量と酸化防止剤混合量の比は、前記多孔質膜中に含まれる酸化防止剤濃度を混合した酸化防止剤濃度で除した値のことであり、(酸化防止剤残量)/(酸化防止剤混合量)で表される。孔径分布を狭くするために、多孔質膜中の酸化防止剤が、0.01≦(酸化防止剤残量)/(酸化防止剤混合量)≦0.5を満たすことが好ましく、0.1≦(酸化防止剤残量)/(酸化防止剤混合量)≦0.3を満たすことがより好ましい。
【0058】
(処理対象液)
多孔質膜による処理対象液は、懸濁水と工程プロセス液である。多孔質膜は、懸濁水を濾過する工程を備える浄水方法に好適に使用される。
【0059】
前記懸濁水とは、天然水、生活排水、及びこれらの処理水などである。天然水としては、河川水、湖沼水、地下水、および海水が例として挙げられる。これら天然水に対し沈降処理、砂濾過処理、凝集沈殿砂濾過処理、オゾン処理、および活性炭処理などの処理を施した天然水の処理水も、処理対象の懸濁水に含まれる。生活排水の例は下水である。下水に対してスクリーン濾過や沈降処理を施した下水1次処理水や、生物処理を施した下水2次処理水、更には凝集沈殿砂濾過、活性炭処理、およびオゾン処理などの処理を施した3次処理(高度処理)水も、処理対象の懸濁水に含まれる。これらの懸濁水にはμmオーダー以下の微細な有機物、無機物及び有機無機混合物から成る濁質(腐植コロイド、有機質コロイド、粘土、および細菌など)が含まれる。
【0060】
前記懸濁水(上述の天然水、生活排水、及びこれらの処理水など)の水質は、一般に、代表的な水質指標である濁度及び有機物濃度の単独又は組み合わせにより表現できる。濁度(瞬時の濁度ではなく平均濁度)で水質を区分すると、大きくは、濁度1未満の低濁水、濁度1以上10未満の中濁水、濁度10以上50未満の高濁水、濁度50以上の超高濁水などに区分できる。また、有機物濃度(全有機炭素濃度(Total Organic Carbon(TOC)):mg/L)(これも瞬時の値ではなく平均値)で水質を区分すると、大きくは、1未満の低TOC水、1以上4未満の中TOC水、4以上8未満の高TOC水、8以上の超高TOC水などに区分できる。基本的には、濁度又はTOCの高い水ほど濾過膜を目詰まりさせやすいため、濁度又はTOCの高い水ほど多孔質膜を使用する効果が大きくなる。
【0061】
前記工程プロセス液とは、食品、医薬品、および半導体製造などで有価物と非有価物とを分離するときの被分離液のことを指す。食品製造では、例えば、日本酒およびワインなどの酒類と酵母とを分離する場合などに、多孔質膜が使用される。医薬品の製造では、例えば、タンパク質の精製する際の除菌などに、多孔質膜が使用される。半導体製造では、例えば、研磨廃水から研磨剤と水との分離などに、多孔質膜が使用される。
【0062】
<多孔質膜の製造方法>
次に、多孔質膜の製造方法について説明する。
【0063】
本発明の多孔質膜の製造方法は、熱可塑性樹脂、少なくとも第1の溶剤、および第2の溶剤を含む多孔質膜の製造方法であって、
前記第1の溶剤が、セバシン酸エステル、クエン酸エステル、アセチルクエン酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、オレイン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、リン酸エステル、炭素数6以上30以下の脂肪酸、およびエポキシ化植物油から選択される少なくとも1種であり、
前記第2の溶剤が、前記第1の溶剤と異なり、セバシン酸エステル、クエン酸エステル、アセチルクエン酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、オレイン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、リン酸エステル、炭素数6以上30以下の脂肪酸、およびエポキシ化植物油から選択される少なくとも1種であり、
前記熱可塑性樹脂、少なくとも第1の溶剤、および第2の溶剤に加えて、さらに、酸化防止剤を混合することを特徴とする、多孔質膜の製造方法である。
上記製造方法であると、3次元網目構造を有し、ある一定以下の孔径分布を有し、欠陥のない多孔質膜を製造することができる。
【0064】
多孔質膜の製造方法は、(a)溶融混練物を準備する工程と、(b)溶融混練物を多重構造の紡糸ノズルに供給し、紡糸ノズルから溶融混練物を押し出すことによって多孔質膜を得る工程と、(c)溶剤および酸化防止剤(並びに添加剤)を多孔質膜から抽出する工程とを備える。
【0065】
前記溶融混練物は、ポリフッ化ビニリデン等の熱可塑性樹脂と、第1の溶剤と、第2の溶剤と、酸化防止剤とを含む混合物、又はポリフッ化ビニリデン等の熱可塑性樹脂と、第1の溶剤と、第2の溶剤と、酸化防止剤と、無機物とを含む混合物である。
【0066】
前記ポリフッ化ビニリデン等の熱可塑性樹脂と、第1の溶剤と、第2の溶剤と、酸化防止剤とを含む混合物、又はポリフッ化ビニリデン等の熱可塑性樹脂と、第1の溶剤と、第2の溶剤と、酸化防止剤と、無機物とを含む混合物は、ヘンシェルミキサーやバンバリーミキサー、プロシェアミキサー等を用いて混合することにより得られる。
【0067】
ポリフッ化ビニリデン等の熱可塑性樹脂と、第1の溶剤と、第2の溶剤と、酸化防止剤と、無機物とを混合する場合の順序としては、5成分を同時に混合するよりも、まず無機物と、第1の溶剤と、第2の溶剤とを混合して無機物に第1の溶剤及び第2の溶剤を十分に吸着させ、次いでポリフッ化ビニリデン等の熱可塑性樹脂を配合して混合することが、溶融成形性や得られる多孔膜の空孔率及び機械的強度の向上の点で有利である。酸化防止剤は、熱可塑性樹脂と、第1の溶剤と、第2の溶剤とを混合した後に、又は熱可塑性樹脂と、第1の溶剤と、第2の溶剤と、無機物とを混合した後に添加し、さらに攪拌混合することが好ましい。理由は定かではないが、各種原料の混合後に添加した方が第1の溶剤及び第2の溶剤のみで混合するよりも増粘しているため、凝集物やダマ状になることを抑制でき、添加後の混合時により均一に混合できる。そのため、有機液体の分解抑制効果が大きくなる。また、混合後が粉状の場合は、最終の粒径分布に近い状態で酸化防止剤を混合するため、同様に均一に混合することができ、分解抑制効果が大きくなる。
【0068】
また、ヘンシェルミキサー等による予備混練を行わずに、直接ポリフッ化ビニリデン等の熱可塑性樹脂と、第1の溶剤と、第2の溶剤と、酸化防止剤とを別々に2軸押出し機等の溶融混練押出し装置に供給しても良い。混練性を上げるために、混合後に一度溶融混練を行ってペレット化し、このペレットを溶融混練押出し装置に供給し、中空糸状に押し出し成形し、冷却固化して中空繊維としても良い。
【0069】
混合物の溶融混練は、通常の溶融混練手段、例えば押出機を用いて行うことができる。以下に押出機を用いた場合について述べるが、溶融混練の手段は押出機に限るものではない。本実施形態の製造方法を実施するために用いられる製造装置の一例を図2に示す。
【0070】
図2に示す多孔性中空糸膜(多孔質膜)の製造装置は、押出機10と、中空糸成形用ノズル20と、製膜原液を凝固させる溶液が貯留される凝固浴槽30と、多孔性中空糸膜40を搬送して巻き取るための複数のローラ50を備えている。図2に示すSの空間は、中空糸成形用ノズル20から吐出された成膜原液が凝固浴槽30中の溶液に到達するまでに通過する空走部である。
【0071】
溶融混練物は、同心円状に配置された1つ以上の円環状吐出口を有する中空糸成形用ノズル20が押出機10の先端に装着され、溶融混練物が押出機10によって押し出されて中空糸成形用ノズル20から吐出される。吐出口から吐出された中空糸状溶融混練物は、空気や水等の冷媒を通過して凝固させるが、目的とする多孔性中空糸膜によって、空気層からなる上述した空走部Sを通過させたのちに、水等が入った凝固浴槽30を通過させる。すなわち空走部Sとは、中空糸成形用ノズル20の吐出口から凝固浴槽30の水面までの部分である。吐出口から必要に応じて空走部Sには筒等の容器を用いても良い。凝固浴槽30を通過後、必要に応じてかせ等に巻き取られる。
【0072】
第1の溶剤及び第2の溶剤の抽出除去は、用いた熱可塑性樹脂を溶解させる、あるいは熱可塑性樹脂を変性させずに第1の溶剤及び第2の溶剤とは混和する、抽出に適した液体を用いる。具体的には浸漬等の手法により接触させることで行うことができる。該液体は、抽出後に多孔質膜から除去しやすいように、揮発性であることが好ましい。該液体の例としては、アルコール類や塩化メチレン等がある。第1の溶剤及び第2の溶剤が水溶性であれば、水も抽出用液体として使うことが可能である。
【0073】
酸化防止剤の抽出除去は、抽出後に多孔質膜から除去しやすいように、揮発性であることが好ましい。該液体の例としては、アルコール類や塩化メチレン等がある。酸化防止剤が水溶性であれば、水も抽出用液体として使うことが可能である。
【0074】
無機物の抽出除去は、通常、水系の液体を用いて行う。例えば無機物がシリカである場合、まずアルカリ性溶液と接触させてシリカをケイ酸塩に転化させ、次いで水と接触させてケイ酸塩を抽出除去することで行うことができる。
【0075】
第1の溶剤及び第2の溶剤の抽出除去、並びに無機物の抽出除去は、どちらが先でも差し支えはない。第1の溶剤及び第2の溶剤が水と非混和性の場合は、先に第1の溶剤及び第2の溶剤の抽出除去を行い、その後に無機物の抽出除去を行う方が好ましい。通常、第1の溶剤及び第2の溶剤並びに無機物は、第1の溶剤及び第2の溶剤の濃厚部分相に混和共存しているため、無機物の抽出除去をスムーズに進めることができ、有利である。
【0076】
また、第1の溶剤及び第2の溶剤の抽出除去および無機物の抽出除去は、同じ溶剤にて抽出除去できる場合であれば同時に行うことができる。通常は別々に抽出除去する。
【0077】
前記抽出除去においては、第1の溶剤及び第2の溶剤及び酸化防止剤(並びに含む場合には添加剤)は、完全に膜から抽出されるわけではなく、膜中に一定量残留する。第1の溶剤、第2の溶剤及び酸化防止剤の抽出除去を行う場合、無機物が存在した状態で抽出除去を実施すると、酸化防止剤の抽出除去が一部阻害され、膜中に残留させることが可能となると考えられる。
なお、溶剤の残留は、約74mgに切り出した多孔質膜1本を50mLのバイアルに入れ、ここに15.5mLの50%エタノール水溶液を加え(浴比:0.211mL/mg)、40℃に加熱する。24時間後にこの抽出液を全量取り出し、これらの抽出液を以下の条件でGC/MS測定に供する。検出下限値を濃度既知の標準液のピークからS/N=3と定義して見積もり、本測定で得られた結果が、検出下限値以上の場合を「残留有」、検出下限値以下の場合を「残留無」と評価する。
GC装置:Agilent7890
カラム:DB-5MS(30m、0.25mmφ、膜厚1.0μm)
カラム温度:40℃(5分)―20℃/分昇温―320℃(11分)
流速:1mL/分
注入口温度:320℃
スプリット:スプリットレス
注入量:1μL
MS装置:Agilent MSD5977B HES
インターフェース:300℃
イオン化:EI 70eV
測定法:SCAN法
イオン源温度:230℃
【0078】
前記溶融混練物の熱可塑性樹脂の濃度は、好ましくは20~60質量%であり、より好ましくは25~45質量%であり、更に好ましくは30~45質量%である。この値が20質量%以上であることにより、機械的強度を高くすることができ、他方、60質量%以下であることにより、透水性能を高くすることができる。溶融混練物は添加剤を含んでもよい。
【0079】
上述のように、溶融混練物は、熱可塑性樹脂と、第1の溶剤と、第2の溶剤と、酸化防止剤との4成分を含むものであってもよく、熱可塑性樹脂と、第1の溶剤と、第2の溶剤と、酸化防止剤と、添加剤との5成分を含むものであってもよい。溶剤は、後述するように、少なくとも非溶剤を含む。
【0080】
前記工程(c)で使用する抽出剤には、熱可塑性樹脂は溶けないが、溶剤および酸化防止剤と親和性が高い塩化メチレンや各種アルコール等の液体を使用することが好ましい。
【0081】
なお、添加剤を含まない溶融混練物を使用する場合、工程(c)を経て得られる中空糸膜を多孔質膜として使用してもよい。添加剤を含む溶融混練物を使用して多孔質膜を製造する場合、本実施形態に係る製造方法は工程(c)後に、中空糸膜から(d)添加剤を抽出除去して多孔質膜を得る工程を更に備えることが好ましい。工程(d)における抽出剤には、使用した添加剤を溶解できるが、熱可塑性樹脂は溶解しない塩酸や硫酸等の無機酸や苛性ソーダ等の無機アルカリ等の液体を使用することが好ましい。
【0082】
上述のように、添加剤に無機物を使用してもよい。該無機物としては無機微粉体が好ましい。無機微粉体としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム等が挙げられ、これらの中でもシリカが好ましい。
【0083】
無機微粉体の平均一次粒子径は、3nm以上500nm以下であることが好ましく、より好ましくは5nm以上100nm以下である。中でも、平均一次粒子径が3nm以上500nm以下である微粉シリカが好ましい。
【0084】
前記微粉シリカとしては、凝集しにくく分散性の良い疎水性シリカ微粉がより好ましく、さらに好ましくはMW(メタノールウェッタビリティ)値が30容量%以上である疎水性シリカ微粉である。
なお、ここでいうMW値とは、粉体が完全に濡れるメタノールの容量%の値である。具体的には、純水中にシリカを入れ、攪拌した状態で液面下にメタノールを添加していった時に、シリカの50質量%が沈降した時の水溶液中におけるメタノールの容量%を求めて決定される。
【0085】
上述の「無機微粉体の一次粒径」とは、電子顕微鏡写真の解析から求めた値を意味する。すなわち、まず無機微粉体の一群をASTM D3849の方法によって前処理を行う。その後、透過型電子顕微鏡写真に写された3000~5000個の粒子直径を測定し、これらの値を算術平均することで無機粉体の一次粒径を算出する。
【0086】
多孔質膜内の無機微粉体は、蛍光X線等により、存在する元素を同定することで存在する材料を判断することができる。
【0087】
添加剤に有機物を使用する場合には、ポリビニルピロリドンやポリエチレングリコールなどの親水性高分子を使用すると、多孔質膜に親水性を付与することができる。また、グリセリン、エチレングリコールなどの粘度の高い添加剤を使用すると、溶融混練物の粘度をコントロールすることができる。
【0088】
前記多孔質膜の製造方法においては、紡糸ノズルから溶融混合物を押し出す際の速度(紡速)及び温度(吐出温度)は、特に限定されるものではなく、任意の速度(紡速)及び温度(吐出温度)とすることができる。
【0089】
次に、本発明の多孔質膜の製造方法にかかる(a)溶融混練物を準備する工程の詳細について説明する。
本発明の多孔質膜の製造方法では、熱可塑性樹脂の非溶剤を良溶剤あるいは貧溶剤に混合させる。このように膜の原材料に非溶剤を用いると、3次元網目構造を持つ多孔質膜が得られる。その作用機序は必ずしも明らかではないが、非溶剤を混合させて、より溶解性を低くした溶剤を用いた方がポリマーの結晶化が適度に阻害され、3次元網目構造になりやすいと考えられる。例えば、非溶剤および貧溶剤あるいは良溶剤は、セバシン酸エステル、クエン酸エステル、アセチルクエン酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、オレイン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、リン酸エステル、炭素数6以上30以下の脂肪酸、およびエポキシ化植物油等の各種エステル等から選ばれる。
【0090】
上記エステルの具体例とその沸点は以下の通りである。アセチルクエン酸トリブチルの沸点は343℃であり、セバシン酸ジブチルは345℃であり、アジピン酸ジブチルは305℃であり、アジピン酸ジイソブチルは293℃であり、アジピン酸ビス2-エチルヘキシルは335℃であり、アジピン酸ジイソノニルは250℃以上であり、アジピン酸ジエチルは251℃であり、クエン酸トリエチルは294℃であり、トリフェニル亜リン酸は360℃である。
【0091】
熱可塑性樹脂を常温で溶解させることができる溶剤を良溶剤と呼ぶ。また、常温では溶解できないが、高温にして溶解させることができる溶剤を、その熱可塑性樹脂の貧溶剤と呼ぶ。そして、高温にしても溶解させることができない溶剤を非溶剤と呼ぶ。本発明においては、良溶剤、貧溶剤および非溶剤は次のようにして判定することができる。
【0092】
良溶剤、貧溶剤、および非溶剤であるかの判定は、具体的には、試験管に2g程度の熱可塑性樹脂と8g程度の溶剤を入れ、試験管用ブロックヒーターにて10℃刻み程度でその溶剤の沸点まで加温し、スパチュラなどで試験管内を混合し、上記のような温度範囲における溶解性で判断する。つまり、熱可塑性樹脂が溶解するものが良溶剤あるいは貧溶剤、溶解しないものが非溶剤である。
【0093】
例えば、熱可塑性樹脂にポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用い、溶剤にアセチルクエン酸トリブチルやセバシン酸ジブチル、アジピン酸ジブチルを用いると、25℃ではPVDFはこれらの溶剤に均一に溶解せず、混合液の温度を上昇させたとき、100℃より高く沸点以下のいずれかの温度ではPVDFはこれらの溶剤に均一に混ざり合い溶解する。一方、溶剤にアジピン酸ビス2-エチルヘキシルやアジピン酸ジイソノニル、セバシン酸ビス2-エチルヘキシルやオレイン酸を用いると温度を沸点まで上げても、PVDFはこれらの溶剤には溶解しない。
【0094】
良溶剤(第2の溶剤)は、セバシン酸エステル、クエン酸エステル、アセチルクエン酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、オレイン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、リン酸エステル、炭素数6以上30以下の脂肪酸、およびエポキシ化植物油等の各種エステルから選択される少なくとも1種であり、熱可塑性樹脂と第2の溶剤との比率が20:80の混合液(第2の混合液)において、第2の混合液の温度が25℃より高く溶剤の沸点以下のいずれかの温度で熱可塑性樹脂が溶剤に均一に溶解するものである。
【0095】
貧溶剤(第2の溶剤)は、さらに、上記第2の混合液において、第2の混合液の温度が25℃では熱可塑性樹脂が貧溶剤に均一に溶解せず、第2の混合液の温度が100℃より高く貧溶剤の沸点以下のいずれかの温度では熱可塑性樹脂が貧溶剤に均一に溶解するものである。
【0096】
非溶剤(第1の溶剤)は、セバシン酸エステル、クエン酸エステル、アセチルクエン酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、オレイン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、リン酸エステル、炭素数6以上30以下の脂肪酸、およびエポキシ化植物油等の各種エステルから選択される少なくとも1種であり、熱可塑性樹脂と非溶剤(第1の溶剤)との比率が20:80の混合液(第1の混合液)において、第1の混合液の温度を非溶剤(第1の溶剤)の沸点まで上げても、熱可塑性樹脂が非溶剤(第1の溶剤)に均一に溶解しないものである。
【0097】
前記多孔質膜の製造方法においては、酸化防止剤を混合する。限定されるものではないが、混合する順序は、一連の原材料を添加した後に、酸化防止剤を添加し、混合することが好ましい。酸化防止剤の混合量は、0.5質量%以上であると第1および第2の溶剤の分解が抑制され、3.0質量%以下であると欠陥の少ない多孔質膜を作製可能であるため好ましい。このとき、多孔質膜の孔径分布をP=(最大孔径)/(平均孔径)で表した際に、酸化防止剤を使用しない場合の孔径分布をPa、酸化防止剤を使用した場合の孔径分布をPbとしたとき、酸化防止剤による第1および第2の溶剤の分解抑制効果で孔径分布が狭くなり、Pb/Pa≦0.95となることが好ましい。
【0098】
前記多孔質膜の製造方法においては、酸化防止剤は、第1の溶剤または第2の溶剤の分解抑制のために使用されたものであり、分解の早い溶剤に対して使用されるものである。すなわち、本発明ではより分解しやすい溶剤としてTG-DTA測定での分解極大温度が280℃以下の溶剤に対して酸化防止剤を使用することが好ましい。
【0099】
前記多孔質膜の製造方法においては、多孔質膜中の酸化防止剤残量と酸化防止剤混合量の比(酸化防止剤残量/酸化防止剤混合量)をとった際に、孔径分布を狭くするために、0.01≦(酸化防止剤残量)/(酸化防止剤混合量)≦0.5を満たすことが好ましく、0.1≦(酸化防止剤残量)/(酸化防止剤混合量)≦0.3を満たすことがより好ましい。
【0100】
本発明の多孔質膜の製造方法では、さらに、無機物を添加してもよい。該無機物は、シリカ、塩化リチウム、および酸化チタンから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0101】
なお、凝固後の多孔質膜に対し、(i)第1の溶剤及び第2の溶剤並びに無機物の抽出除去前、(ii)第1の溶剤及び第2の溶剤の抽出除去後で無機物の抽出除去前、(iii)無機物の抽出除去後で第1の溶剤及び第2の溶剤の抽出除去前、(iv)第1の溶剤及び第2の溶剤並びに無機物の抽出除去後、のいずれかの段階で、多孔質膜の長手方向への延伸を、延伸倍率3倍以内の範囲で行うことができる。一般に多孔質膜を長手方向に延伸すると透水性能は向上するが、耐圧性能(例えば、破裂強度および耐圧縮強度)が低下するため、延伸後は実用的な強度の膜にならない場合が多い。しかしながら、本発明の製造方法で得られる多孔質膜(例えば、多孔性中空糸膜)は機械的強度が高い。よって延伸倍率1.1倍以上3.0倍以内の延伸は実施可能である。延伸により、多孔質膜(例えば、多孔性中空糸膜)の透水性能が向上する。ここでいう延伸倍率とは、延伸後の中空糸長を延伸前の中空糸長で割った値を指す。例えば、中空糸長10cmの多孔性中空糸膜を、延伸して中空糸長を20cmまで伸ばした場合、下記式より、延伸倍率は2倍である。
20cm÷10cm=2
【0102】
多孔質膜の延伸は、空間温度0℃以上160℃以下で行うことが望ましい。160℃より高い場合には延伸斑が大きいうえに破断伸度の低下及び透水性能が低くなり好ましくなく、0℃未満では延伸破断の可能性が高く実用的でない。延伸中の空間温度は、10℃以上140℃以下とすることがより好ましく、さらに好ましくは20℃以上100℃以下である。
【0103】
本発明においては、第1の溶剤及び第2の溶剤を含んだ状態で多孔質膜を延伸することが好ましい。第1の溶剤及び第2の溶剤を含んだ多孔質膜の方が、第1の溶剤及び第2の溶剤を含んでいない多孔質膜よりも、延伸時の破断が少ない。更に、第1の溶剤及び第2の溶剤を含んだ多孔質膜の方が、延伸後の多孔質膜の収縮を大きくさせることができるため、延伸後の収縮倍率設定の自由度が増す。
【0104】
また、無機物を含んだ状態で多孔質膜を延伸することが好ましい。無機物を含んだ多孔質膜の方が、多孔質膜に含まれる無機物の存在による多孔質膜の硬さのために、延伸する際において多孔質膜が扁平につぶれにくくなる。また、最終的に得られる多孔質膜の孔径が小さくなりすぎたり、糸径が細くなりすぎたりすることを防止することもできる。
【0105】
さらに、本発明においては、第1の溶剤及び第2の溶剤、並びに無機物の両方を含む多孔質膜を延伸することがより望ましい。
【0106】
上述の理由により、第1の溶剤及び第2の溶剤並びに無機物の抽出終了後に多孔質膜を延伸するよりも、第1の溶剤及び第2の溶剤、又は無機物の抽出前に多孔質膜を延伸する方が好ましく、更に、第1の溶剤及び第2の溶剤、又は無機物の抽出前に多孔質膜を延伸するよりも、第1の溶剤及び第2の溶剤並びに無機物の抽出前に多孔質膜を延伸することがより好ましい。
【0107】
また、延伸した多孔質膜を抽出する方法は、延伸により多孔質膜の表面及び内部に空隙が増加しているため、抽出溶剤が多孔質膜内部に浸透し易いという利点がある。また、延伸し、次いで収縮させる工程の後に抽出を行う方法は、後述のように、引っ張り弾性率の低い、曲がり易い多孔質膜となるために、抽出を液流中で行う場合には、多孔質膜が液流により揺れ易くなり、攪拌効果が増すために短時間で効率の高い抽出が可能となるという利点を有する。
【0108】
本発明では、多孔質膜を延伸し、次いで収縮させる場合(すなわち、多孔質膜を延伸し、次いで収縮させる工程を有する場合)、最終的に引っ張り弾性率の低い多孔質膜を得ることができる。ここで、「引っ張り弾性率が低い」とは、糸が小さな力で伸びやすく、力がなくなればまた元に戻ることを意味する。引っ張り弾性率が低いと、多孔質膜が扁平につぶれることなく、曲がりやすく、濾過の際に水流で揺れやすい。水流に従って糸の曲がりが一定せずに揺れることで、膜表面に付着堆積する汚染物質の層が成長せずに剥がれやすく、濾過水量を高く維持できる。更にはフラッシングやエアスクラビングで強制的に糸を揺らす場合に、揺れが大きく洗浄回復効果が高くなる。
【0109】
延伸した後に収縮を行う際の糸長収縮の程度については、延伸による糸長増分に対する糸長収縮倍率を0.3以上0.9以下の範囲とすることが望ましい。例えば、10cmの糸を延伸して20cmにし、その後14cmにさせた時は、以下の式より、糸長収縮倍率は0.6となる。
糸長収縮倍率={(延伸時最大糸長)-(収縮後糸長)}/[(延伸時最大糸長)-(元糸長)]=(20-14)/(20-10)=0.6
糸長収縮倍率が0.9より大きい場合は透水性能が低くなり易く、また、0.3未満の場合は引っ張り弾性率が高くなり易いため、好ましくない。本発明においては、糸長収縮倍率が0.50以上0.85以下の範囲内であることがより好ましい。
【0110】
また、多孔質膜を延伸時最大糸長まで延伸し、次いで収縮させる工程を採ることにより、最終的に得られる多孔質膜は使用中に延伸時最大糸長まで伸ばした際にも切れることがなくなる。
ここで、延伸倍率をX、延伸による糸長増分に対する糸長収縮倍率をYとしたとき、破断伸度の保障の程度を表す率Zは、以下の式で定義できる。
Z=(延伸時最大糸長-収縮後糸長)/収縮後糸長=(XY-Y)/(X+Y-XY)
【0111】
前記破断伸度の保証の程度を表す率Zは、0.2以上1.5以下が好ましく、より好ましくは0.3以上1.0以下である。Zが小さすぎると破断伸度の保障が少なくなり、Zが大きすぎると延伸時の破断の可能性が高くなるわりに透水性能が低くなる。
【0112】
また、本発明の製造方法では、延伸し、次いで収縮させる工程を含む場合、引っ張り破断伸度は低伸度での破断が極めて少なくなり、引っ張り破断伸度の分布を狭くすることができる。
【0113】
延伸し、次いで収縮させる工程における空間温度は、収縮の時間や物性の点から、0℃以上160℃以下の範囲が望ましい。0℃より低いと収縮に時間がかかり実用的でなく、160℃を越えると破断伸度の低下及び透水性能が低くなり好ましくない。
【0114】
本発明においては、収縮工程中に、多孔質膜を捲縮することが好ましい。これにより捲縮度の高い多孔質膜を、つぶれる又は傷つけることなく得ることができる。
【0115】
一般に、中空糸膜は、曲がりの無い直管状の形態をなしているため、束ねて濾過用モジュールとした場合に、中空糸間の隙間が取れずに空隙度の低い糸束になる可能性が高い。これに対して、捲縮度が高い中空糸膜を用いると、個々の糸の曲がりにより平均的に中空糸膜間隔が広がり空隙度の高い糸束とすることができる。また、捲縮度の低い中空糸膜からなる濾過モジュールは、特に外圧で用いる際に糸束の空隙が少なくなり流動抵抗が増大し、糸束の中央部まで濾過圧力が有効に伝わらなくなる。更には、逆洗やフラッシングで濾過堆積物を中空糸膜から剥ぎ落とす際にも糸束内部の洗浄効果が小さくなる。捲縮度の高い中空糸膜からなる糸束は、空隙度が大きく外圧濾過でも中空糸膜間隙が保たれ、偏流が起こりにくい。
【0116】
本発明の製造方法で得られる多孔質膜(好ましくは中空糸膜)は、捲縮度が1.5以上2.5以下の範囲であることが好ましい。1.5以上の場合、上記の理由から好ましく、また、2.5以下であると容積当たりの濾過面積の低下を抑制できる。
【0117】
多孔質膜の捲縮方法としては、延伸し、次いで収縮させる工程中において、多孔質膜を収縮させながら、例えば、周期的に凹凸のついた一対のギアロール又は凹凸のついた一対のスポンジベルトで挟み込みながら引き取る方法等が挙げられる。
【0118】
また、本発明の製造方法においては、延伸を、相対する一対の無限軌道式ベルトからなる引き取り機を用いて行うことが好ましい。この場合、引取り機を延伸の上流側と下流側とで使用し、それぞれの引取り機においては、相対するベルト間に多孔質膜を挟み、双方のベルトを同速度で同方向へ移動させることにより糸送りを行う。また、この場合、下流側の糸送り速度を上流側の糸送り速度より速くして延伸を行うことが好ましい。このようにして延伸を行うと、延伸時に延伸張力に負けずにスリップすること無しに延伸し、且つ糸が扁平につぶれるのを防ぐことが可能となる。
【0119】
ここで、無限軌道式ベルトとは、駆動ロールと接する内側は繊維強化ベルト等の高弾性のベルトで出来ており、多孔質膜と接する外側の表面が弾性体で出来ていることが好ましい。また、弾性体の厚み方向の圧縮弾性率が0.1MPa以上2MPa以下であり、該弾性体の厚みが2mm以上20mmであることが更に好ましい。特に、外側表面の弾性体をシリコーンゴムにすることが、耐薬品性、耐熱性の点から好ましい。
【0120】
本多孔質膜の製造において、延伸の有無に関わらず乾燥や熱処理を実施してもよい。延伸の有無に関わらないが、特に延伸後の膜に乾燥や熱処理を行うと、耐圧縮強度を高めることができる。乾燥又は熱処理は、160℃以下で行うことが好ましく、40℃以上160℃以下で行うことがより好ましい。160℃以下であると破断伸度の低下及び透水性能の低下を抑制でき、また、膜に残留した酸化防止剤のさらなる分解を抑制できるため膜中に酸化防止剤を残留させることができる。40℃以上であると耐圧強度を高くすることができる。また、乾燥又は熱処理は、第1の溶剤、第2の溶剤、酸化防止剤、及び含まれる場合には無機物を抽出した後の多孔質膜に対して行うことが、糸径、空孔率、孔径、透水性能の変化が小さくなるという点から望ましい。
【0121】
<糖化液の製造方法>
本発明の糖化液の製造方法は、
澱粉液質に酵素を添加し、澱粉を部分的に分解して、糖含有液化物を得る液化工程;
得られた糖含有液化物に糖化酵素を添加し、糖をさらに分解して糖化液と不溶解成分を含む糖化液組成物を得る糖化工程;
3次元網目構造の樹脂から構成される多孔質膜に、該糖化液組成物を通過させて、該不溶解成分から該糖化液を分離する濾過工程;及び
該多孔質膜に洗浄液を通過又は浸漬させて、該多孔質膜の表面又は内部に付着した不溶解物を洗浄・除去する洗浄工程;
を含み、前記濾過工程において、本実施形態の多孔質膜を用いて前記糖化液組成物を濾過することを特徴とする。
【0122】
本発明の糖化液の製造方法における前記濾過工程としては、例えば、多孔質膜の中空部(内側表面)に糖化液組成物を供給し、多孔質膜の膜厚(肉厚)部を通過させ、多孔質膜の外側表面から滲み出した液体を糖化液(ろ液)として取り出す、いわゆる内圧式の濾過工程であってもよいし、多孔質膜の外側表面から糖化液組成物を供給し、多孔質膜の内側表面から滲み出した糖化液(ろ液)を、中空部を介して取り出す、いわゆる外圧式の濾過工程であってもよい。
【0123】
本発明の糖化液の製造方法における前記濾過工程においては、本発明の多孔質膜を用いて糖化液組成物を濾過する。
【0124】
本明細書中、用語「多孔質膜の内部」とは、多数の細孔が形成されている膜厚(肉厚)部を指す。
【0125】
また、本明細書中、「糖化液」に含有される糖の種類や量は特に制限されないが、糖としては、グルコース等が挙げられる。
【0126】
また、本明細書中、糖化液組成物に含有され、ろ過により除去される「不溶解成分」の種類や量も特に制限されないが、例えば、蛋白質、澱粉の未分解物等が挙げられる。
【0127】
従来、一般に、ブドウ糖精製液は、デンプンを含む原料を液化し、糖化液組成物を得、これを、珪藻土により除濁して、さらに、脱塩、脱色、濃縮して製造されてきた。本発明では、かかる珪藻土に代えて、所定の多孔質膜を利用する。
【0128】
また、本発明の糖化液の製造方法における洗浄工程は、多孔質膜に洗浄液(薬液)として0.1重量%以上4重量%以下の水酸化ナトリウム、及び0.01重量%以上0.5重量%以下の次亜塩素酸ナトリウムを含む水溶液を多孔質膜に通過又は浸漬させて、多孔質膜の表面及び内部を洗浄する洗浄工程を含む。洗浄工程は、前記洗浄液による洗浄を行う洗浄液工程と、その後、残存する洗浄液成分を除去するためのリンス水による濯ぎを行うリンス工程とを含むことができる。洗浄工程としては、例えば、濾過工程における糖化液組成物の流れ方向とは逆方向に、すなわち、糖化液側から糖化液組成物水側に洗浄液を通過させることによって多孔質膜の濾過面(糖化液組成物供給側表面)から付着物(不溶解成分)を引き離して、除去する逆圧水洗浄、エアによって多孔質膜を揺らして多孔質膜に付着した不溶解成分を振るい落とすエアスクラビングなどが挙げられる。前記リンス工程で使用するリンス水の量は、好ましくは、前記多孔質膜の単位面積当たり100L/m以下、より好ましくは50L/m以下であることができる。また、前記リンス工程終了時の濾過液中の塩素濃度が0.1ppm以下であり、かつ、該濾過液のpHが8.6以下であることが好ましい。
【0129】
<濾過方法>
本発明の濾過方法は、本発明の多孔質膜を用いて濾過を行うことを特徴とする。本発明の多孔質膜を用いることによって、高効率に濾過を行うことができる。
【実施例0130】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例、比較例における各物性値は以下の方法で各々求めた。
【0131】
(1)膜の外径、内径
多孔質膜をカミソリで薄くスライスし、100倍拡大鏡にて、外径と内径を測定した。一つのサンプルについて、30mm間隔で60箇所の測定を行った。このときに標準偏差と平均値を算出し、(標準偏差)/(平均値)を変動係数とした。
【0132】
(2)膜厚
多孔質膜の膜厚は、以下のように求めた。
(膜厚)=[(外径)-(内径)]/2
【0133】
(3)平均孔径
多孔質膜の平均孔径は、ASTM:F316-86記載の方法(別称:ハーフドライ法)にしたがって決定した。なお、このハーフドライ法によって決定されるのは、多孔質膜の最小孔径層の平均孔径である。ハーフドライ法による平均孔径の測定は、使用液体にエタノールを用い、25℃、昇圧速度0.001MPa/秒での測定を標準測定条件とした。平均孔径[μm]は、下記式より求めた。
平均孔径[μm]=(2860×表面張力[mN/m])/ハーフドライ空気圧力[Pa]
【0134】
前記エタノールの25℃における表面張力は21.97mN/mである(日本化学会編、化学便覧基礎編改訂3版、II-82頁、丸善(株)、1984年)ので、本発明における標準測定条件の場合は、
平均孔径[μm]=62834.2/(ハーフドライ空気圧力[Pa])
にて求めることができる。
【0135】
(4)最大孔径
多孔質膜の最大孔径は、ハーフドライ法において膜から気泡が初めて出てくる時の圧力(気泡発生空気圧力)から求めた(バブルポイント法)。上記のハーフドライ法標準測定条件の場合、多孔質膜から気泡が初めて出てくる時の圧力から、
最大孔径[μm]=62834.2/(気泡発生空気圧力[Pa])
より求めることができる。
【0136】
(5)孔径分布
多孔質膜の孔径分布は、最大孔径を平均孔径で除して求めた。即ち、孔径分布=(最大孔径)/(平均孔径)として求めた。
【0137】
(6)純水透水量
エタノール浸漬した後、数回純水浸漬を繰り返した約10cm長の湿潤多孔質膜の一端を封止し、他端の中空部内に注射針を挿入し、25℃の環境下にて注射針から0.1MPaの圧力で25℃の純水を中空部内に注入し、外表面から透過してくる純水量を測定し、下記式により純水フラックスを決定し、透水性を評価した。
純水透水量[L/m・hr]=60×(透過水量[L])/{π×(膜外径[m])×(膜有効長[m])×(測定時間[hr])}
【0138】
なお、ここで膜有効長とは、注射針が挿入されている部分を除いた、正味の膜長を指す。
【0139】
(7)酸化防止剤残量
多孔質膜を約5mm角に粉砕後、膜中に残留している酸化防止剤をクロロホルムにて抽出し、上澄み液をLC-MS(島津製作所製、商品名:Nexera X2)にて下記条件で濃度測定を行って算出した。なお、本明細書において、酸化防止剤残量は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)の量に対する酸化防止剤の残量である。
LC装置:SHIMADZU,Nexera X2
カラム:Waters,ACQUITY UPLC BEH-C18 1.7μm(2.1mmI.D.×50mm)
カラム温度:40℃
検出:PDA 200~800nm
流速:0.3mL/min
移動相:A=10mM酢酸アンモニウム水溶液、B=アセトニトリル
グラジェント:下記表1に示す。
注入量:1μL
MS装置:Bruker,amaZon SL
イオン化:ESI+スキャンレンジ:m/z 500~1500
【0140】
【表1】
【0141】
(8)破裂強度(MPa)
約5cm長の乾燥中空糸膜の一端を封止し、他端を装置に接続し、内表面より40℃の純水を加圧した。この時、加圧圧力を0MPaより0.02MPa刻みで昇圧し、中空糸膜の破裂が目視で確認された際の圧力を破裂強度とした。なお、本試験は、耐圧試験装置(ハラエンジニアリング社製)を使用して行った。
【0142】
(9)欠陥
多孔質膜中のバブルポイント測定をn=20回行い、その平均値と標準偏差(σ)を算出し、その平均値+3σを大きく逸脱するデータがある場合を欠陥のある多孔質膜とした。
A:最大孔径の平均値+3σを逸脱する大きな孔なし
B:最大孔径の平均値+3σを逸脱する大きな孔あり
【0143】
(10)溶剤残留
約74mgに切り出した多孔質膜1本を50mLのバイアルに入れ、ここに15.5mLの50%エタノール水溶液を加え(浴比:0.211mL/mg)、40℃に加熱した。24時間後にこの抽出液を全量取り出し、これらの抽出液を以下の条件でGC/MS測定に供した。検出下限値は濃度既知の標準液のピークからS/N=3と定義して見積もり、本測定で得られた結果が、検出下限値以上の場合を「残留有」、検出下限値以下の場合を「残留無」と評価した。
GC装置:Agilent7890
カラム:DB-5MS(30m、0.25mmφ、膜厚1.0μm)
カラム温度:40℃(5分)―20℃/分昇温)―320℃(11分)
流速:1mL/分
注入口温度:320℃
スプリット:スプリットレス
注入量:1μL
MS装置:Agilent MSD5977B HES
インターフェース:300℃
イオン化:EI 70eV
測定法:SCAN法
イオン源温度:230℃
【0144】
(11)開孔率
HITACHI製電子顕微鏡SU8000シリーズを使用し、加速電圧3kVで中空糸膜の内表面側を撮影した。20個以上の孔の形状が確認できる倍率で撮影し、本実施例および比較例では3000倍から5000倍で撮影を行った。
撮影した画像を用いて、例えば、国際公開第2001/53213号公報に記載されているように、画像のコピーの上に透明シートを重ね、黒いペン等を用いて孔部分を黒く塗り潰し、透明シートを白紙にコピーすることにより、孔部分は黒、非孔部分は白と明確に区別した。その後に市販の画像解析ソフトWinroof6.1.3を使い、判別分析法により二値化を行った。こうして得た二値化画像の占有面積を求めることにより開孔率を算出した。
【0145】
[実施例1]
溶融混練物を2重管構造の紡糸ノズルを用いて押し出し、実施例1の多孔質膜を得た。
熱可塑性樹脂としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂(Solvay社製、Solef6010)40質量%、無機粉体として微粉シリカ(一次粒径:16nm)22.8質量%、酸化防止剤としてイルガノックス1010(Irganox1010)2.0質量%、第1の溶剤としてアジピン酸ビス2-エチルヘキシル(DOA、沸点335℃)21.1質量%、第2の溶剤としてセバシン酸ジブチル(DBS、沸点345℃)14.1質量%の溶融混練物を中空部形成用流体として空気を用い、235℃の吐出温度で中空糸状成型物を押し出した。
押し出した中空糸状成型物を、290mmの空走距離を通した後、30℃の水中で固化させ、熱誘起相分離法により中空糸膜を作製した。6.5m/分の速度で引き取り、かせに巻き取った。得られた中空糸状押出し物をイソプロパノール中に浸漬させてアジピン酸ビス2-エチルヘキシル及びセバシン酸ジブチルを抽出除去した。続いて、水中に30分間浸漬し、中空糸膜を水置換した。続いて、20質量%NaOH水溶液中に70℃にて1時間浸漬し、更に水洗を繰り返して微粉シリカを抽出除去した。得られた中空糸膜を60℃にて熱処理を実施した。
【0146】
表2に、得られた実施例1の多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種性能を示す。膜構造は、図1に示すような3次元網目構造を示した。
【0147】
[実施例2]
無機粉体として微粉シリカ(一次粒径:16nm)23.2質量%、酸化防止剤としてイルガノックス1010(Irganox1010)1.0質量%、第1の溶剤としてアジピン酸ビス2-エチルヘキシル(DOA、沸点335℃)21.5質量%、第2の溶剤としてセバシン酸ジブチル(DBS、沸点345℃)14.3質量%を用いて溶融混練物を調製した以外は、実施例1と同様に多孔質膜を作製した。
【0148】
表2に、得られた実施例2の多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種性能を示す。膜構造は、図1に示すような3次元網目構造を示した。
【0149】
[実施例3]
無機粉体として微粉シリカ(一次粒径:16nm)23.2質量%、酸化防止剤としてイルガノックス1010(Irganox1010)1.0質量%、第1の溶剤としてアジピン酸ビス2-エチルヘキシル(DOA、沸点335℃)23.8質量%、第2の溶剤としてセバシン酸ジブチル(DBS、沸点345℃)11.9質量%を用いて溶融混練物を調製した以外は、実施例1と同様に多孔質膜を作製した。
【0150】
表2に、得られた実施例3の多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種性能を示す。膜構造は、図1に示すような3次元網目構造を示した。
【0151】
[実施例4]
無機粉体として微粉シリカ(一次粒径:16nm)23.2質量%、酸化防止剤としてイルガノックス1010(Irganox1010)1.0質量%、第1の溶剤としてアジピン酸ビス2-エチルヘキシル(DOA、沸点335℃)17.9質量%、第2の溶剤としてセバシン酸ジブチル(DBS、沸点345℃)17.9質量%を用いて溶融混練物を調製し吐出温度を220℃とし、下記条件とした以外は、実施例1と同様に多孔質膜を作製した。
【0152】
押し出した中空糸状成型物は、270mmの空走距離を通した後、30℃の水中で固化させ、熱誘起相分離法により中空糸膜(中空糸状押出し物)を作製した。2.0m/分の速度で引き取り、かせに巻き取った。得られた中空糸状押出し物を塩化メチレン中に浸漬させてアジピン酸ビス2-エチルヘキシル及びセバシン酸ジブチルを抽出除去した。続いて、水中に30分間浸漬し、中空糸膜を水置換した。続いて、20質量%NaOH水溶液中に70℃にて1時間浸漬し、更に水洗を繰り返して微粉シリカを抽出除去した。
【0153】
表2に、得られた実施例4の多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種性能を示す。膜構造は、図1に示すような3次元網目構造を示した。
【0154】
[実施例5]
無機粉体として微粉シリカ(一次粒径:16nm)23.2質量%、酸化防止剤としてイルガノックス1010(Irganox1010)1.0質量%、第1の溶剤としてアジピン酸ビス2-エチルヘキシル(DOA、沸点335℃)24.2質量%、第2の溶剤としてセバシン酸ジブチル(DBS、沸点345℃)11.5質量%を用いて溶融混練物を調製し吐出温度を230℃とし、下記条件とした以外は、実施例1と同様に多孔質膜を作製した。
【0155】
押し出した中空糸状成型物は、300mmの空走距離を通した後、30℃の水中で固化させ、熱誘起相分離法により中空糸膜(中空糸状押出し物)を作製した。6.5m/分の速度で引き取り、かせに巻き取った。得られた中空糸状押出し物を塩化メチレン中に浸漬させてアジピン酸ビス2-エチルヘキシル及びセバシン酸ジブチルを抽出除去した。続いて、水中に30分間浸漬し、中空糸膜を水置換した。続いて、20質量%NaOH水溶液中に70℃にて1時間浸漬し、更に水洗を繰り返して微粉シリカを抽出除去した。
【0156】
表2に、得られた実施例5の多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種性能を示す。膜構造は、図1に示すような3次元網目構造を示した。
【0157】
[実施例6]
無機粉体として微粉シリカ(一次粒径:16nm)23.4質量%、酸化防止剤としてイルガノックス1010(Irganox1010)0.5質量%、第1の溶剤としてアジピン酸ビス2-エチルヘキシル(DOA、沸点335℃)24.0質量%、第2の溶剤としてセバシン酸ジブチル(DBS、沸点345℃)12.0質量%を用いて溶融混練物を調製し吐出温度を245℃とした以外は、実施例1と同様に多孔質膜を作製した。
【0158】
表2に、得られた実施例6の多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種性能を示す。膜構造は、図1に示すような3次元網目構造を示した。
【0159】
[実施例7]
無機粉体として微粉シリカ(一次粒径:16nm)23.4質量%、酸化防止剤としてイルガノックス1010(Irganox1010)0.5質量%、第1の溶剤としてアジピン酸ビス2-エチルヘキシル(DOA、沸点335℃)25.8質量%、第2の溶剤としてセバシン酸ジブチル(DBS、沸点345℃)10.3質量%を用いて溶融混練物を調製し吐出温度を245℃とした以外は、実施例1と同様に多孔質膜を作製した。
【0160】
表2に、得られた実施例7の多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種性能を示す。膜構造は、図1に示すような3次元網目構造を示した。
【0161】
[実施例8]
溶融混練物を2重管構造の紡糸ノズルを用いて押し出し、実施例8の多孔質膜を得た。
熱可塑性樹脂としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂(Solvay社製、Solef6010)40質量%、無機粉体として微粉シリカ(一次粒径:16nm)23.2質量%、酸化防止剤としてイルガノックス1010(Irganox1010)1.0質量%、第1の溶剤としてアジピン酸ビス2-エチルヘキシル(DOA、沸点335℃)24.2質量%、第2の溶剤としてセバシン酸ジブチル(DBS、沸点345℃)11.5質量%を用いて溶融混練物を調製し中空部形成用流体として空気を用い、230℃の吐出温度で中空糸状成形物を押し出した。押し出した中空糸状成型物は、300mmの空走距離を通した後、30℃の水中で固化させ、熱誘起相分離法により中空糸膜(中空糸状押出し物)を作製した。6.5m/分の速度で引き取り、ベルトに挟んで15m/分の速度で延伸させた後、120℃の熱風を当てながら、12m/分の速度で緩和させ、巻き取った。得られた中空糸状押出し物をイソプロパノール中に浸漬させてアジピン酸ビス2-エチルヘキシル及びセバシン酸ジブチルを抽出除去した。続いて、水中に30分間浸漬し、中空糸膜を水置換した。続いて、20質量%NaOH水溶液中に70℃にて1時間浸漬し、更に水洗を繰り返して微粉シリカを抽出除去した。得られた中空糸膜を100℃にて熱処理を実施した。
【0162】
表2に、得られた実施例8の多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種性能を示す。膜構造は、図1に示すような3次元網目構造を示した。
【0163】
[比較例1]
無機粉体として微粉シリカ(一次粒径:16nm)23.5質量%、酸化防止剤としてイルガノックス1010(Irganox1010)0.3質量%、第1の溶剤としてアジピン酸ビス2-エチルヘキシル(DOA、沸点335℃)24.1質量%、第2の溶剤としてセバシン酸ジブチル(DBS、沸点345℃)12.1質量%を用いて溶融混練物を調製し中空部形成用流体として空気を用い、245℃の吐出温度で押し出した以外は、実施例1と同様に多孔質膜を作製した。
【0164】
表3に、得られた比較例1の多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種性能を示す。
【0165】
[比較例2]
無機粉体として微粉シリカ(一次粒径:16nm)23.6質量%、第1の溶剤としてアジピン酸ビス2-エチルヘキシル(DOA、沸点335℃)24.3質量%、第2の溶剤としてセバシン酸ジブチル(DBS、沸点345℃)12.1質量%を用い、酸化防止剤を使用しないで溶融混練物を調製した以外は、比較例1と同様に多孔質膜を作製した。
【0166】
表3に、得られた比較例2の多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種性能を示す。
【0167】
[比較例3]
無機粉体として微粉シリカ(一次粒径:16nm)22.1質量%、酸化防止剤としてイルガノックス1010(Irganox1010)3.9質量%、第1の溶剤としてアジピン酸ビス2-エチルヘキシル(DOA、沸点335℃)20.4質量%、第2の溶剤としてセバシン酸ジブチル(DBS、沸点345℃)13.6質量%を用いて溶融混練物を調製した以外は、比較例1と同様に多孔質膜を作製した。
【0168】
表3に、得られた比較例3の多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種性能を示す。
【0169】
得られた実施例1~8及び比較例1~3の多孔質膜は、単一層構造であった。
【0170】
【表2】
【0171】
【表3】
【0172】
*1:ポリフッ化ビニリデン樹脂(Solvay社製、商品名「Solef6010」)
*2:アジピン酸ビス2-エチルヘキシル(新日本理化社製、DOA、沸点335℃)
*3:セバシン酸ジブチル(豊国製油社製、DBS、沸点345℃)
*4:微粉シリカ(日本アエロジル社製、一次粒径:16nm)
*5:イルガノックス1010(Irganox1010)、BASF社製
【0173】
表2および表3に示すように、実施例1~8は、熱誘起相分離よる製膜において酸化防止剤をある一定量以上製膜原液に混合させることで、孔径分布がシャープであり、欠陥のない多孔質膜が得られることがわかる。
一方、酸化防止剤の量が一定の範囲外である比較例1~3は、孔径分布がブロードになるか、あるいは孔径分布がシャープであっても欠陥がある。そのため、濁質漏れのおそれがあることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0174】
本発明によれば、多孔質膜が酸化防止剤を含んで製膜されるので、孔径分布のシャープであり、欠陥のない多孔質膜が提供される。
【符号の説明】
【0175】
a: 熱可塑性樹脂
b: 空隙部
10: 押出機
20: 中空糸成形用ノズル
30: 凝固浴槽
40: 多孔性中空糸膜
50: ローラ
S: 空走部
図1
図2