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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167049
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20241122BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20241122BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20241122BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
C08L77/00
C08K5/098
C08K3/01
C08K5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024046306
(22)【出願日】2024-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2023083225
(32)【優先日】2023-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】山口 直浩
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CL011
4J002CL031
4J002DA036
4J002EG037
4J002ER006
4J002FD096
4J002FD177
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】機械的特性、耐傷つき性および漆黒性に十分に優れた成形体を得ることができるポリアミド樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】結晶性ポリアミド樹脂(A)100質量部、黒色顔料および/または黒色染料(B)0.1~1質量部、および炭素数23以上の脂肪酸金属塩(C)0.05~0.5質量部を含有するポリアミド樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ポリアミド樹脂(A)100質量部、黒色顔料および/または黒色染料(B)0.1~1質量部、および炭素数23以上の脂肪酸金属塩(C)0.05~0.5質量部を含有するポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記脂肪酸金属塩(C)がモンタン酸カルシウム塩である、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記結晶性ポリアミド樹脂(A)が、ポリアミド6単独であるか、またはポリアミド6と、炭素数6以上のジアミンと炭素数10以上のジカルボン酸を主成分とするポリアミドとの混合物であって、前記結晶性ポリアミド樹脂(A)における炭素数6以上のジアミンと炭素数10以上のジカルボン酸を主成分とするポリアミドの含有量が30質量%以下である、請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリアミド樹脂組成物を射出成形して得られるプレート状成形体の上に、JIS R 6001-1に規定される粒度F54に相当するガラスビーズを一辺が20mmの正方形の試験面に貼りつけた摩耗子を置き、21.6Nの荷重をかけ50回往復した後の入射角20°における、下記の式に基づく光沢保持率が85%以上である、請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
光沢保持率(%)=(摩耗試験後の表面光沢度)/(摩耗試験前の表面光沢度)×100
【請求項5】
前記ポリアミド樹脂組成物を射出成形して得られるプレート状成形体の、JIS Z 8781-4に規定されるSCE方式のL*値が、3以下である、請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記脂肪酸金属塩(C)の含有量が0.2~0.5質量部である、請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
前記結晶性ポリアミド樹脂(A)が、ポリアミド6単独であるか、またはポリアミド6とポリアミド610との混合物であって、前記結晶性ポリアミド樹脂(A)におけるポリアミド610の含有量が30質量%以下であり、
前記黒色顔料および/または黒色染料(B)が黒色顔料であって、該黒色顔料の含有量が0.3~0.8質量部であり、
前記脂肪酸金属塩(C)がモンタン酸カルシウム塩であって、モンタン酸カルシウム塩の含有量が0.1~0.45質量部である、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物を含む成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の内装部品には、ABS樹脂等の熱可塑性樹脂にて成形された成形体が、一般的に用いられている。このような樹脂成形体は機械的特性に優れることが要求され、その外観には、意匠性が強く求められ、漆黒(ピアノブラック)調の外観が要求される場合がある。
【0003】
このような要求を満たすために、従来、樹脂成形体の表面に黒色塗料を塗装する方法(いわゆるピアノブラック塗装)がおこなわれている。しかし、この塗装法は、有機溶剤を用いるために、作業環境面で問題があり、また、生産性に劣りコストが高くなるという問題があった。このため、近年では無塗装の成形品が望まれており、原着樹脂への代替検討が盛んにおこなわれている。原着樹脂とは、樹脂自体に顔料または染料を練り込むことにより着色された樹脂のことである。しかし、原着樹脂による無塗装の成形品は、塗装品と比較して耐傷つき性が大きく劣るという問題がある。この問題を解決するため、例えば、特許文献1~3では、熱可塑性樹脂に有機変性シロキサン化合物等を配合した樹脂組成物が開示されている。また、特許文献4,5では、熱可塑性樹脂に脂肪酸金属塩を配合した樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-158630号公報
【特許文献2】特開2014-196483号公報
【特許文献3】特開2018-123277号公報
【特許文献4】特開2014-234508号公報
【特許文献5】特開2016-199633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1~3に記載の樹脂組成物は、得られる成形体での耐傷つき性は改善されるものの、ピアノブラック調といえるほどの高品位の漆黒性は得られていない。また、特許文献4,5に記載の樹脂組成物は、得られる成形体での耐傷つき性は十分に得られなかった。さらにまた、特許文献1~5に記載の樹脂組成物のような従来の樹脂組成物は、高温高湿環境下における添加剤のブリードアウトの発生により漆黒性が損なわれたり、かつ/または成形時に熱分解によりガスが発生するという問題が生じることがあった。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するものであって、機械的特性、耐傷つき性および漆黒性に十分に優れた成形体を得ることができるポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とする。
【0007】
本発明はまた、機械的特性、耐傷つき性、漆黒性および耐ブリードアウト性に十分に優れた成形体を得ることができ、しかも成形時におけるガスの発生を十分に抑制することができる、ポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、上記目的が達成されることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
本発明の要旨は以下の通りである。
<1> 結晶性ポリアミド樹脂(A)100質量部、黒色顔料および/または黒色染料(B)0.1~1質量部、および炭素数23以上の脂肪酸金属塩(C)0.05~0.5質量部を含有するポリアミド樹脂組成物。
<2> 前記脂肪酸金属塩(C)がモンタン酸カルシウム塩である、<1>に記載のポリアミド樹脂組成物。
<3> 前記結晶性ポリアミド樹脂(A)が、ポリアミド6単独であるか、またはポリアミド6と、炭素数6以上のジアミンと炭素数10以上のジカルボン酸を主成分とするポリアミドとの混合物であって、前記結晶性ポリアミド樹脂(A)における炭素数6以上のジアミンと炭素数10以上のジカルボン酸を主成分とするポリアミドの含有量が30質量%以下である、<1>または<2>に記載のポリアミド樹脂組成物。
<4> 前記ポリアミド樹脂組成物を射出成形して得られるプレート状成形体の上に、JIS R 6001-1に規定される粒度F54に相当するガラスビーズを一辺が20mmの正方形の試験面に貼りつけた摩耗子を置き、21.6Nの荷重をかけ50回往復した後の入射角20°における、下記の式に基づく光沢保持率が85%以上である、<1>~<3>のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
光沢保持率(%)=(摩耗試験後の表面光沢度)/(摩耗試験前の表面光沢度)×100
<5> 前記ポリアミド樹脂組成物を射出成形して得られるプレート状成形体の、JIS Z 8781-4に規定されるSCE方式のL*値が、3以下である、<1>~<4>のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
<6> 前記脂肪酸金属塩(C)の含有量が0.2~0.5質量部である、<1>~<5>のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
<7> 前記結晶性ポリアミド樹脂(A)が、ポリアミド6単独であるか、またはポリアミド6とポリアミド610との混合物であって、前記結晶性ポリアミド樹脂(A)におけるポリアミド610の含有量が30質量%以下であり、
前記黒色顔料および/または黒色染料(B)が黒色顔料であって、該黒色顔料の含有量が0.3~0.8質量部であり、
前記脂肪酸金属塩(C)がモンタン酸カルシウム塩であって、モンタン酸カルシウム塩の含有量が0.1~0.45質量部である、<1>~<6>のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
<8><1>~<7>のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を含む成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、得られる成形体での、機械的特性に十分に優れ、かつ、耐傷つき性および漆黒性に十分に優れたポリアミド樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、結晶性ポリアミド樹脂(A)、黒色顔料および/または黒色染料(B)、ならびに脂肪酸金属塩(C)を含有する。
【0012】
結晶性とは、示差走査熱量計(DSC)を用いて窒素雰囲気下で20℃/分の昇温速度により測定した融解熱量の値が、1J/gより大きいこと(特に10J/g以上、好ましくは30J/g以上、より好ましくは50J/g以上、より好ましくは70J/g以上であること)を意味する。
非晶性とは、示差走査熱量計(DSC)を用いて窒素雰囲気下で20℃/分の昇温速度により測定した融解熱量の値が、1J/g以下であることを意味する。
本発明のポリアミド樹脂組成物が、結晶性ポリアミド樹脂の代わりに、非晶性ポリアミド樹脂を含む場合、耐傷つき性が低下する。
【0013】
本発明で用いる結晶性ポリアミド樹脂(A)は、結晶性を有する限り特に限定はされず、例えば、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリペンタメチレンアジパミド(ポリアミド56)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリペンタメチレンセバサミド(ポリアミド510)、ポリヘキサメチレンセバサミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ポリアミド6/66)、ポリウンデカアミド(ポリアミド11)、ポリカプロアミド/ポリウンデカミドコポリマー(ポリアミド6/11)、ポリドデカミド(ポリアミド12)、ポリカプロアミド/ポリドデカアミドコポリマー(ポリアミド6/12)等の重合体およびこれらの混合物、あるいはこれらの共重合体が挙げられる。中でも、耐傷つき性のさらなる向上と耐ブリードアウト性の向上の観点から、ポリアミド樹脂(A)は、ポリアミド6単独であるか、またはポリアミド6と、炭素数6以上のジアミンと炭素数10以上のジカルボン酸を主成分とするポリアミド(以下、「ポリアミドa1」ということがある)との混合物であることが好ましい。上記混合物は、ポリアミド6とポリアミド610の混合物がより好ましい。
【0014】
本明細書中、機械的特性とは、本発明のポリアミド樹脂組成物から製造された成形体がより大きな引張強度を示す特性のことである。
耐傷つき性とは、本発明のポリアミド樹脂組成物から製造された成形体の表面がより傷つき難い特性のことであり、詳しくは、摩耗処理を行っても、成形体表面の表面光沢度が摩耗処理前と比較してより高い割合で維持される特性である。
漆黒性とは、本発明のポリアミド樹脂組成物から製造された成形体がより黒い特性のことであり、詳しくは、成形体表面がより小さなL*値を示す特性である。
耐ブリードアウト性とは、本発明のポリアミド樹脂組成物から製造された成形体が、高温高湿環境下でもブリードアウトを抑制して、より優れた漆黒性を示す特性のことであり、詳しくは、高温高湿環境に曝露された後でも成形体表面がより小さなL*値を示す特性である。
成形ガス抑制特性とは、本発明のポリアミド樹脂組成物から成形体を製造するとき、ガスの発生が抑制される特性のことであり、詳しくは、射出成形時に発生するガスがより少ない特性である。
これらの特性のうち、機械的特性、耐傷つき性および漆黒性は本発明のポリアミド樹脂組成物が有する特性である。耐ブリードアウト性および成形ガス抑制特性は、本発明のポリアミド樹脂組成物が有さなければならない特性というわけではなく、有することが好ましい特性である。
【0015】
ポリアミドa1は、ジアミン成分とジカルボン酸成分とをモノマー成分として含有するポリアミドであって、前記炭素数6以上のジアミンをジアミン成分全量に対して60モル%以上で含有し、かつ前記炭素数10以上のジカルボン酸をジカルボン酸成分全量に対して60モル%以上で含有するポリアミドである。
【0016】
炭素数6以上のジアミンとして、例えば、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン等が挙げられる。このようなジアミンのうち、好ましいジアミンの炭素数は6~10であり、より好ましいジアミンの炭素数は6~8であり、さらに好ましいジアミンの炭素数は6である。当該ジアミンは脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン、または脂環族ジアミンであってもよく、耐傷つき性のさらなる向上の観点から、脂肪族ジアミンが好ましい。ポリアミドa1における炭素数6以上のジアミンの含有量は、耐傷つき性のさらなる向上の観点から、ジアミン成分全量に対して、好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは100モル%である。ポリアミドa1は、ジアミン成分として、炭素数5以下のジアミン(例えば、ペンタメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン等)を含有してもよい。ポリアミドa1における炭素数5以下のジアミンの含有量は通常、ジアミン成分全量に対して、40モル%以下であり、耐傷つき性のさらなる向上の観点から、好ましくは30モル%以下、より好ましくは10モル%以下、さらに好ましくは0モル%である。ジアミンの炭素数は、ジアミンを構成する全ての炭素原子の数である。
【0017】
炭素数10以上のジカルボン酸として、例えば、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等が挙げられる。このようなジカルボン酸のうち、好ましいジカルボン酸の炭素数は10~14であり、より好ましいジカルボン酸の炭素数は10~12であり、さらに好ましいジカルボン酸の炭素数は10である。当該ジカルボン酸は脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、または脂環族ジカルボン酸であってもよく、耐傷つき性のさらなる向上の観点から、脂肪族ジカルボン酸が好ましい。ポリアミドa1における炭素数10以上のジカルボン酸の含有量は、耐傷つき性のさらなる向上の観点から、ジカルボン酸成分全量に対して、好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは100モル%である。ポリアミドa1は、ジカルボン酸成分として、炭素数9以下のジカルボン酸(例えば、アゼライン酸、スベリン酸、ピメリン酸等)を含有してもよい。ポリアミドa1における炭素数9以下のジカルボン酸の含有量は通常、ジカルボン酸成分全量に対して、40モル%以下であり、耐傷つき性のさらなる向上の観点から、好ましくは30モル%以下、より好ましくは10モル%以下、さらに好ましくは0モル%である。ジカルボン酸の炭素数は、ジカルボン酸を構成する全ての炭素原子の数であり、例えば、カルボキシル基を構成する炭素原子の数も含む。
【0018】
ポリアミドa1は耐傷つき性のさらなる向上の観点から、ポリアミド610が好ましい。
【0019】
結晶性ポリアミド樹脂(A)として、ポリアミド6とポリアミドa1との混合物を用いる場合、結晶性ポリアミド樹脂(A)におけるポリアミドa1の含有量は機械的特性、耐傷つき性のさらなる向上の観点から、0質量%超30質量%以下(特に5~30質量%)であることが好ましく、10~30質量%であることがより好ましい。上記ポリアミド混合物を用いることで、耐傷つき性をより改善することができる。
【0020】
結晶性ポリアミド樹脂(A)が、ポリアミド6単独であるか、またはポリアミド6とポリアミドa1との混合物である場合、結晶性ポリアミド樹脂(A)におけるポリアミドa1の含有量は耐傷つき性と漆黒性とのバランスの観点から、30質量%以下(特に0~30質量%)であることが好ましく、20質量%以下(特に0~20質量%)であることがより好ましく、15質量%以下(特に0~15質量%)であることがさらに好ましく、8~15質量%であることが特に好ましい。
【0021】
結晶性ポリアミド樹脂(A)の分子量の指標である相対粘度は特に限定されないが、96質量%濃硫酸を溶媒とし、温度25℃、濃度1g/dlの条件で測定した相対粘度は、機械的特性、耐傷つき性のさらなる向上、ならびに耐ブリードアウト性および成形ガス抑制特性の向上の観点から、2.0~4.0であることが好ましく、2.5~3.5であることがより好ましい。結晶性ポリアミド樹脂(A)が2種以上の結晶性ポリアミド樹脂を含む場合、各結晶性ポリアミド樹脂の相対粘度が上記範囲内であることが好ましい。
【0022】
本発明のポリアミド樹脂組成物全量に対する結晶性ポリアミド樹脂(A)の割合は通常、60質量%以上であり、機械的特性、耐傷つき性および漆黒性のさらなる向上、ならびに耐ブリードアウト性および成形ガス抑制特性の向上の観点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。
【0023】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物が非晶性ポリアミド樹脂を含むことを妨げるものではない。非晶性ポリアミド樹脂の含有量は通常、結晶性ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、10質量部以下であり、機械的特性、耐傷つき性および漆黒性のさらなる向上、ならびに耐ブリードアウト性および成形ガス抑制特性の向上の観点から、好ましくは5質量部以下、より好ましくは1質量部以下、さらに好ましくは0質量部である。
【0024】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、黒色顔料および/または黒色染料(B)を含有することが必要である。ポリアミド樹脂組成物が黒色顔料および/または黒色染料(B)を含有しない場合、漆黒性および耐ブリードアウト性が低下する。本発明のポリアミド樹脂組成物は、機械的特性、耐傷つき性および漆黒性のさらなる向上、ならびに耐ブリードアウト性および成形ガス抑制特性の向上の観点から、黒色顔料を含むことが好ましい。前記黒色顔料としては特に限定されないが、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、ボーンブラック、黒鉛、鉄黒、アニリンブラック、シアニンブラック、チタンブラックが挙げられる。中でも、本発明の効果を容易に発現できることから、カーボンブラックが好ましい。前記黒色染料としては特に限定されないが、例えば、ニグロシンを含むアジン系染料およびアンスラキノンを含む多環縮合染料が挙げられる。中でも、取扱いが簡便な点で、アジン系染料が好ましい。アジン系染料の市販品としては、例えば、NYB27620B(山陽化工社製)、Orient Spirit BlackSB(オリエント化学工業社製)、Spirit Black No.850(住友化学社製)、Nigrosine Base LK(BASF社製)が挙げられる。上記黒色顔料または黒色染料(B)は、単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0025】
前記アジン系染料の中でも、ニグロシンがより好ましい。ニグロシンとしては、例えば、COLOR INDEXにC.I.SOLVENT BLACK 5およびC.I.SOLVENT BLACK 7として記載されているような黒色アジン系縮合混合物が挙げられる。このようなニグロシンの合成は、例えば、アニリン、アニリン塩酸塩およびニトロベンゼンを、塩化鉄の存在下、反応温度160~180℃で酸化および脱水縮合することによりおこなうことができる。アジン系染料としては、さらに、このようにして得られたニグロシンを精製し、アニリンやジフェニルアミンを0.1%未満にした精製ニグロシンがより好ましい。このようなニグロシンの市販品としては、オリエント化学工業社製のCramity81やNUBIAN BLACKシリーズが挙げられる。
【0026】
黒色顔料および/または黒色染料(B)の含有量は、結晶性ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、0.1~1質量部とすることが必要であり、0.3~0.8質量部とすることが好ましく、0.3~0.6質量部とすることがより好ましい。黒色顔料および/または黒色染料(B)の含有量が0.1質量部未満では、得られる成形体での漆黒性が不十分であるので好ましくない。また、耐ブリードアウト性が低下する。一方、1質量部を超えると、成形時に分解ガスが多く発生し、漆黒性および引張強度が低下するので好ましくない。黒色顔料および/または黒色染料(B)として2種以上のものが含有される場合、それらの合計含有量が上記範囲内であればよい。
【0027】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、炭素数23以上の脂肪酸金属塩(C)を含有することが必要である。炭素数が22以下の脂肪族金属塩の場合、得られる成形体での耐傷つき性が十分に発現しないので好ましくない。炭素数23以上脂肪酸金属塩の脂肪酸としては、例えば、トリコシル酸(炭素数23)、リグノセリン酸(炭素数24)、セロチン酸(炭素数26)、モンタン酸(炭素数28)が挙げられる。このような脂肪酸のうち、好ましい脂肪酸の炭素数は23~40であり、より好ましい脂肪酸の炭素数は25~30であり、さらに好ましい脂肪酸の炭素数は27~29である。中でも、機械的特性、耐傷つき性および漆黒性のさらなる向上、ならびに耐ブリードアウト性、成形ガス抑制特性、および熱安定性の向上の観点からモンタン酸が好ましい。前記脂肪酸金属塩の金属としては、例えば、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、亜鉛が挙げられる。中でも、耐ブリードアウト性のさらなる向上の観点から、カルシウムが好ましい。脂肪酸金属塩の炭素数は、当該脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸の炭素原子の数であり、例えば、カルボキシル基を構成する炭素原子の数も含む。
【0028】
脂肪酸金属塩(C)の含有量は、結晶性ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、0.05~0.5質量部とすることが必要であり、0.1~0.5質量部とすることが好ましく、0.1~0.45質量部とすることがより好ましく、0.2~0.5質量部とすることがさらに好ましい。脂肪酸金属塩(C)の含有量が0.05質量部未満では、得られる成形体での耐傷つき性が十分に発現しないので好ましくない。一方、0.5質量部を超えても、耐傷つき性が向上しないうえに、成形時に分解ガスが多く発生しL*値や引張強度が低下するので好ましくない。脂肪酸金属塩(C)として2種以上のものが含有される場合、それらの合計含有量が上記範囲内であればよい。
【0029】
本発明のポリアミド樹脂組成物には、その特性を大きく損なわない限りにおいて、耐熱剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤等の添加剤を添加することができる。本発明のポリアミド樹脂組成物におけるこのような添加剤の合計含有量は特に限定されず、例えば、結晶性ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、20質量部以下(すなわち0~20質量部)であってもよいし、特に10質量部以下(すなわち0~10質量部)であってもよい。本発明のポリアミド樹脂組成物にこれらの添加剤を混合する方法は特に限定されない。例えば、これらの添加剤は、非晶性ポリアミド樹脂(A)、黒色顔料および/または黒色染料(B)ならびに脂肪酸金属塩(C)に対してブレンドにより混合されてもよいし、またはそれらの成分(A)~(C)とともに溶融混練により混合されてもよい。
【0030】
本発明において、ポリアミド樹脂組成物は、結晶性ポリアミド樹脂(A)と、黒色顔料および/または黒色染料(B)と、脂肪酸金属塩(C)とを溶融混練することによって製造することができる。従って、本発明のポリアミド樹脂組成物は、それらの成分(A)~(C)を含むブレンド混合物を溶融混練してなるペレットの形態を有していてもよい。
【0031】
本発明のポリアミド樹脂組成物を用いて成形体を製造するに際し、製造方法(成形方法)は特に限定されず、例えば、射出成形法、押出成形法等が挙げられる。一例として、射出成形法を採用する場合、本発明のポリアミド樹脂組成物に適した射出成形条件として、例えば、シリンダ温度を樹脂組成物の融点または流動開始温度以上、好ましくは220~270℃とし、また、金型温度を「樹脂組成物の融点-20」℃以下とする条件が挙げられる。成形温度が低すぎると成形体にショートが発生する等の成形性が不安定になったり、得られる成形体表面の光沢度が失われることがある。一方、成形温度が高すぎるとポリアミド樹脂組成物が分解し、得られる成形体の強度が低下したり、光沢度を低下させる要因となる場合がある。
【0032】
樹脂組成物の融点とは、ポリアミド樹脂組成物の融点のことであり、以下の方法によって測定された値を用いている。
示差走査型熱量計を用い、試料5mgについて、窒素雰囲気下にて昇温速度20℃/分で350℃まで昇温したときの融解ピークを測定し、その温度を融点とした。
【0033】
本発明のポリアミド樹脂組成物の成形体は、摩耗試験後における光沢保持率が通常、85%以上であり、好ましくは87%以上であり、より好ましくは90%以上である。摩耗試験とは、成形体の上に、JIS R 6001-1に規定される粒度F54に相当するガラスビーズを一辺が20mmの正方形の試験面に貼りつけた摩耗子を置き、21.6Nの荷重をかけ50回往復する試験のことである。光沢保持率は、入射角20°における表面光沢度について、下記の式に基づく光沢保持率のことである。
光沢保持率(%)=(摩耗試験後の表面光沢度)/(摩耗試験前の表面光沢度)×100
【0034】
本発明のポリアミド樹脂組成物の成形体はまた、JIS Z 8781-4に規定されるSCE方式のL*値が通常、3以下であり、好ましくは2以下であり、より好ましくは1.8以下であり、さらに好ましくは1.7以下である。
【0035】
本発明のポリアミド樹脂組成物の成形体はまた、70℃および62%RHの高温高湿環境下に1000時間静置後、JIS Z 8781-4に規定されるSCE方式のL*値が通常、3以下であり、好ましくは2以下であり、より好ましくは1.8以下であり、さらに好ましくは1.7以下である。
【0036】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、得られる成形体での、機械的特性に優れ、かつ、耐傷つき性および漆黒性に優れているため、自動車内装、家電製品、電気電子製品の部品等に好適に用いることができる。
【実施例0037】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0038】
1.評価方法
(1)結晶性ポリアミド樹脂(A)の融解熱量
日立ハイテクサイエンス社製示差走査型熱量計DSC7020型を用い、試料5mgについて、窒素雰囲気下にて昇温速度20℃/分で350℃まで昇温し、融解ピークの面積から融解熱量を算出した。
【0039】
(2)試験片の作製
<試験片1>
得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、射出成形機(東芝機械社製EC-100II型)にて、樹脂温度260℃、金型温度80℃、保圧30MPa、射出速度50mm/s、射出圧力100MPa、冷却時間10秒の条件で射出成形をおこない、縦90mm×横50mm×厚さ2mmの板状成形体(試験片1)を得た。なお、金型は8000番の磨き番手で研磨されているものを用いた。
【0040】
<試験片2>
得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、射出成形機(東芝機械社製EC-100II型)にて、樹脂温度260℃、金型温度80℃、保圧30MPa、射出速度50mm/s、射出圧力100MPa、冷却時間10秒の条件で射出成形をおこない、ISO多目的試験片(試験片2)を得た。
【0041】
(3)耐傷つき性
JIS Z8741に基づき、光沢度計(日本電色工業社製グロスメーターPG-IIM型)を用い、入射角20°で試験片1の表面光沢度の測定をおこなった。
続いて、学振摩耗試験機(安田精機製作所製)を用いて、ポッターズ・バロティーニ社製ガラスビーズJ-54を貼りつけた摩耗子で、試験片1上を21.6Nの荷重をかけ50往復した(摩耗試験)。
試験前と同様に、試験後の入射角20°における表面光沢度を測定した。
下記の式に基づき光沢保持率を計算した。
光沢保持率(%)=(摩耗試験後の表面光沢度)/(摩耗試験前の表面光沢度)×100
耐傷つき性の指標である光沢保持率は、以下の基準で評価した。
◎:90%以上(良);
○:85%以上90%未満(実用上問題なし);
×:85%未満(実用上問題あり)
【0042】
(4)漆黒性
JIS Z 8781-4に基づき、分光測色計(コニカミノルタ社製CM-3700A型)を用い、SCE方式(10°視野、D65光源)で試験片1のL*値を測定した。
漆黒性の指標であるL*値は、以下の基準で評価した。
◎:2以下(良);
○:2を超えて3以下(実用上問題なし);
×:3を超える(実用上問題あり)
【0043】
(5)機械的特性
ISO178に基づき、試験片2を用いて引張強度を測定した。
機械的特性の指標である引張強度は、以下の基準で評価した。
◎:75MPa以上(良);
×:75MPa未満(実用上問題あり)
【0044】
(6)成形時のガスの発生量
試験片1および試験片2の成形の際のガスの発生量を、目視で、以下の基準で評価した。
◎:発生量が極めて少ない(良);
○:発生量が少ない(実用上問題なし);
×:発生量が多い(実用上問題あり)
【0045】
(7)高温高湿環境下での耐ブリードアウト性
試験片2を70℃×62%RHの恒温恒湿槽内に静置し、1000時間経過後の試験片を、JIS Z 8781-4に基づき、分光測色計(コニカミノルタ社製CM-3700A型)を用い、SCE方式(10°視野、D65光源)で試験片1のL*値を測定した。漆黒性の指標であるL*値は、以下の基準で評価した。
◎:2以下(良);
○:2を超えて3以下(実用上問題なし);
×:3を超える(実用上問題あり)
【0046】
(8)総合評価
上記した耐傷つき性、機械的特性、漆黒性、機械的特性、成形時のガスの発生量、および高温高湿環境下での耐ブリードアウト性の評価結果のうち、より低い評価結果を総合判定結果として用いた。
【0047】
2.原料
(1)ポリアミド樹脂
・A1:ポリアミド6樹脂(ユニチカ社製「A1030BRF-BA」)、融点225℃、相対粘度3.1、融解熱量70J/g
・A2:ポリアミド610樹脂(アルケマ社製「SMVO F」)、融点229℃、相対粘度2.6、融解熱量72J/g
・A3:ポリアミド510樹脂(CATHAY社製「E-3100」)、融点221℃、相対粘度2.6、融解熱量68J/g
・A4:ポリアミド6T/6I樹脂(EMS社製「G21」)、融点なし、相対粘度2.0、融解熱量1J/g未満
【0048】
(2)黒色顔料
・B1:カーボンブラック(コロンビア社製「Raven5000」)
【0049】
(3)黒色染料
・B2:ニグロシン(オリヱント化学工業社製「Cramity81」)
【0050】
(4)脂肪酸金属塩
・C1:モンタン酸カルシウム(炭素数28)(日東化成工業社製「CS-8CP」)
・C2:モンタン酸ナトリウム(炭素数28)(日東化成工業社製「NS-8」)
・C3:ベヘン酸ナトリウム(炭素数22)(日東化成工業社製「NS-7」)
・C4:ステアリン酸マグネシウム(炭素数18)(日東化成工業社製「Mg-St」)
【0051】
(5)その他の添加剤
・D1:有機変性シロキサン化合物(エボニックインダストリー社製「TEGOMER AntiScratch 100」)
・D2:シリコーン化合物(東レ・ダウコーニング社製「BY27-219」)
【0052】
実施例1
結晶性ポリアミド樹脂(A1)100質量部、黒色顔料(B1)0.1質量部、脂肪酸金属塩(C1)0.2質量部を一括混合し、二軸押出機の主ホッパーより投入し、溶融混練をおこない、ダイスよりストランド状に押出しした後、冷却、ペレタイズし、ポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。溶融混練は、樹脂温度260℃、スクリュー回転300rpm、吐出量30kg/hにておこなった。
得られたポリアミド樹脂組成物を用い、試験片を作製した後、各種評価をおこなった。その結果を表1に示す。
【0053】
実施例2~14、比較例1~9
表1に記載の配合量で各成分を配合した以外は実施例1と同様にして、ポリアミド樹脂組成物ペレットを得て、さらに射出成形をおこなった。
【0054】
得られたポリアミド樹脂組成物の樹脂組成およびその評価を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
実施例1~14のポリアミド樹脂組成物は、本発明の要件をいずれも満たしていたため、機械的特性に優れつつ、耐傷つき性および漆黒性に優れていた。
【0057】
比較例1のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)が融解熱量1J/g未満の非晶性樹脂であったため、傷つき試験後の光沢保持率が85%を下回るものとなった。
比較例2のポリアミド樹脂組成物は、黒色顔料および黒色染料のどちらも含有していなかったため、L*値が3.0を上回るものとなった。
比較例3のポリアミド樹脂組成物は、黒色顔料の含有量が過剰であったため、成形時にガスが多く発生し、L*値が3.0を上回り、引張強度が75MPaを下回るものとなった。
比較例4のポリアミド樹脂組成物は、脂肪酸金属塩を含有していなかったため、傷つき試験後の光沢保持率が85%を下回るものとなった。
比較例5のポリアミド樹脂組成物は、脂肪酸金属塩の含有量が過剰であったため、成形時にガスが多く発生し、L*値が3.0を上回り、引張強度が75MPaを下回るものとなった。
比較例6,7のポリアミド樹脂組成物は、炭素数23以上の脂肪酸金属塩を含有していなかったため、傷つき試験後の光沢保持率が85%を下回るものとなった。
比較例8,9のポリアミド樹脂組成物は、シロキサン系摺動剤を含有していたため、L*値が3.0を上回るものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、自動車内装品、家電製品、電気電子製品、またはそれらの部品等の製造に有用である。