(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167063
(43)【公開日】2024-11-29
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂組成物、成形品、及びポリアミド樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20241122BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20241122BHJP
C08K 5/20 20060101ALI20241122BHJP
C08K 5/3465 20060101ALI20241122BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20241122BHJP
【FI】
C08L77/00
C08K5/098
C08K5/20
C08K5/3465
C08K3/013
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024076814
(22)【出願日】2024-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2023083301
(32)【優先日】2023-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 将史
(72)【発明者】
【氏名】林 優太
(72)【発明者】
【氏名】菱沼 雅
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CL011
4J002CL031
4J002CL051
4J002DA018
4J002DA028
4J002DA038
4J002DA078
4J002DC008
4J002DD038
4J002DH048
4J002DJ008
4J002DJ038
4J002DJ048
4J002DJ058
4J002DL008
4J002EG026
4J002EG036
4J002EP017
4J002EP027
4J002EU139
4J002FD018
4J002FD060
4J002FD206
4J002FD207
4J002FD209
4J002GC00
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】成形品としたときの吸水時の剛性、表面外観性、耐ブリードアウト性に優れ、ハイサイクル成形に適した、ポリアミド樹脂組成物、その製造方法及び該ポリアミド樹脂組成物を含む成形品を提供する。
【解決手段】ポリアミド樹脂(A)と、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む金属の脂肪酸金属塩(B)とを含有するポリアミド樹脂組成物であり、ポリアミド樹脂(A)を100質量部に対して、0.05質量部以上5.00質量部以下の脂肪酸金属塩(B)を含有し、ポリアミド樹脂組成物の表面における脂肪酸金属塩(B)の金属イオン1つ当たりの空間面積に関する面積分布において、ガンマ分布の形状パラメータkが1.0以上であることを特徴とする、ポリアミド樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂(A)と、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む金属の脂肪酸金属塩(B)とを含有するポリアミド樹脂組成物であり、
前記ポリアミド樹脂(A)を100質量部に対して、0.05質量部以上5.00質量部以下の前記脂肪酸金属塩(B)を含有し、
前記ポリアミド樹脂組成物の表面を下記の測定に供して算出される、前記脂肪酸金属塩(B)の金属イオン1つ当たりの空間面積に関する面積分布において、ガンマ分布の形状パラメータkが1.0以上であることを特徴とする、ポリアミド樹脂組成物。
[測定]
前記ポリアミド樹脂組成物の表面における前記脂肪酸金属塩(B)の金属イオンをマッピングした分布画像又は金属イオンイメージの強度情報画像において、前記表面の金属イオン1つ当たりの空間面積を算出すべく、前記金属イオンの中心を母点としてボロノイ分割を行う。前記ボロノイ分割により得られた各領域の空間面積を算出して空間面積毎に分類し、以下の式で表されるガンマ分布から形状パラメータkを算出する。
【化1】
(式中、k:形状パラメータ、θ:尺度パラメータ、x:空間面積)
【請求項2】
前記脂肪酸金属塩(B)が、末端炭化水素基の炭素数が19以上の脂肪酸金属塩である、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアミド樹脂(A)が、脂肪族ポリアミド(A-a)、ジアミン単位とジカルボン酸単位とを含有する半芳香族ポリアミド(A-b)又はそれらの混合物である、請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリアミド樹脂(A)を100質量部として、
50質量部以上99質量部以下の前記脂肪族ポリアミド(A-a)と、
1質量部以上50質量部以下の前記半芳香族ポリアミド(A-b)と、
0.05質量部以上5.00質量部以下の前記脂肪酸金属塩(B)と、
さらに、0.01質量部以上3.00質量部以下の脂肪酸アマイド化合物(C)と
を含有する、請求項3に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記脂肪酸金属塩(B)の質量Bwと前記脂肪酸アマイド化合物(C)の質量Cwとの比率Bw/Cwが0.6以上4.0以下である、請求項4に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記脂肪酸金属塩(B)の末端炭化水素基の炭素数Bnと前記脂肪酸アマイド化合物(C)の末端炭化水素基の炭素数Cnとの比率Bn/Cnが1.00超2.00以下である、請求項4に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
前記脂肪族ポリアミド(A-a)がポリアミド6又はポリアミド66である、請求項3に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
前記半芳香族ポリアミド(A-b)が、前記半芳香族ポリアミド(A-b)を構成する全ジカルボン酸単位に対して、イソフタル酸単位を50モル%以上含有し、且つ、前記ジアミン単位として、炭素数4以上10以下のジアミン単位を含有する、請求項3に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項9】
前記半芳香族ポリアミド(A-b)が、前記半芳香族ポリアミド(A-b)を構成する全ジカルボン酸単位に対して、イソフタル酸単位を75モル%以上含有し、且つ、前記ジアミン単位として、炭素数4以上10以下のジアミン単位を含有する、請求項3に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項10】
前記ポリアミド樹脂(A)の重量平均分子量Mwが10000以上50000以下である、請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項11】
前記ポリアミド樹脂(A)の分子量分布Mw/Mnが2.4以下である、請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項12】
前記脂肪酸金属塩(B)がモンタン酸ナトリウム及びモンタン酸カルシウムからなる群より選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項13】
前記脂肪酸アマイド化合物(C)が炭素数9以上30以下の炭化水素基を有する、脂肪酸アミド化合物及び脂肪酸ビスアミド化合物からなる群より選ばれる1種以上である、請求項4に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項14】
前記脂肪酸アマイド化合物(C)がN,N’-エチレンビスステアリン酸アミド及びN-ステアリルエルカ酸アミドからなる群より選ばれる1種以上である、請求項4に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項15】
無機充填材(D)をさらに含有し、
前記無機充填材(D)の含有量が、前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、5質量部以上200質量部以下である、請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項16】
ニグロシン(E)をさらに含有し、
前記ニグロシン(E)の含有量が、前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、0質量部超0.5質量部以下である、請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物
【請求項17】
塩化物イオンの含有量が質量基準で5ppm以下である、請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項18】
請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物を含むことを特徴とする、成形品。
【請求項19】
請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法であって、
前記ポリアミド樹脂(A)及び前記脂肪酸金属塩(B)を溶融混錬する工程を含むことを特徴とする、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物、成形品、及びポリアミド樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリアミド樹脂は、優れた機械的特性をはじめ、耐熱性、耐衝撃性、耐薬品性を有することから、自動車部品、電機部品、電子部品、家庭雑貨等に広く使用されている。
【0003】
近年、経済性及び環境問題の観点から、より成形性と使用環境の広いポリアミド樹脂が強く望まれており、特に、吸水後の剛性(吸水剛性)、及び高温使用下での剛性(熱時剛性)を向上させた、あらゆる環境下での使用における物性変化が少ないポリアミド樹脂材料が要求されている。
【0004】
また、ポリアミド樹脂を用いた成形品は、生産性を向上させるために、成形温度を高くし、金型温度を下げて行うハイサイクル成形条件で成形する場合がある。一方、高温条件下で成形を行うと、ポリアミド樹脂の分解が発生したり、流動性変化が生じたりすることにより安定して成形品が得られない場合がある。よって、特に、上述したような過酷な成形条件下においても成形品の表面外観の安定性に優れ、ハイサイクル成形に適合したポリアミド樹脂が要求されている。
【0005】
このような要求に応えるため、成形品の表面外観及び機械特性を向上させることができる材料として、イソフタル酸成分を導入したポリアミド66/6Iからなるポリアミド(例えば、特許文献1参照)や、ポリカプラミド樹脂、半芳香族非晶性ポリアミド樹脂6T/6I、及び無機強化材を含むポリアミド樹脂組成物(例えば、特許文献2参照)が開示されている。
また、機械特性、流動性、表面外観等を改良することができる材料として、テレフタル酸成分と、イソフタル酸成分を導入したポリアミド6T/6Iを含むポリアミド樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
また、離型性を向上させる目的でポリアミド樹脂組成物と離型剤とを組み合わせた材料(例えば、特許文献4、5参照)が開示さ、離型剤として、ステアリン酸系の脂肪族金属塩とエステル化合物やアマイド化合物等とを組み合わせることで成形物と金型壁面との間の密着力が低下することが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6-032980号公報
【特許文献2】特開2000-154316号公報
【特許文献3】特開平11-349806号公報
【特許文献4】特開平11-42666号公報
【特許文献5】特開2013-147641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~5に開示されている技術では、生産性を考慮したハイサイクル成形への適合性と成形品の表面外観の両立は不十分である。特に、特許文献2に記載の、ポリカプラミド樹脂及び半芳香族非晶性ポリアミド樹脂6T/6Iを含むポリアミド樹脂組成物では、結晶化の速度が遅く、ハイサイクル成形への適合性が乏しく、生産加工性において改良の余地がある。そのため、成形品の表面外観とハイサイクル成形への適合性の両立が困難である。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、成形品としたときの吸水時の剛性、表面外観性、耐ブリードアウト性に優れ、ハイサイクル成形に適した、ポリアミド樹脂組成物、該ポリアミド樹脂組成物を含む成形品及び該ポリアミド樹脂組成物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)
ポリアミド樹脂(A)と、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む金属の脂肪酸金属塩(B)とを含有するポリアミド樹脂組成物であり、
前記ポリアミド樹脂(A)を100質量部に対して、0.05質量部以上5.00質量部以下の前記脂肪酸金属塩(B)を含有し、
前記ポリアミド樹脂組成物の表面を下記の測定に供して算出される、前記脂肪酸金属塩(B)の金属イオン1つ当たりの空間面積に関する面積分布において、ガンマ分布の形状パラメータkが1.0以上であることを特徴とする、ポリアミド樹脂組成物。
[測定]
前記ポリアミド樹脂組成物の表面における前記脂肪酸金属塩(B)の金属イオンをマッピングした分布画像又は金属イオンイメージの強度情報画像において、前記表面の金属イオン1つ当たりの空間面積を算出すべく、前記金属イオンの中心を母点としてボロノイ分割を行う。前記ボロノイ分割により得られた各領域の空間面積を算出して空間面積毎に分類し、以下の式で表されるガンマ分布から形状パラメータkを算出する。
【化1】
(式中、k:形状パラメータ、θ:尺度パラメータ、x:空間面積)
(2)
前記脂肪酸金属塩(B)が、末端炭化水素基の炭素数が19以上の脂肪酸金属塩である、(1)に記載のポリアミド樹脂組成物。
(3)
前記ポリアミド樹脂(A)が、脂肪族ポリアミド(A-a)、ジアミン単位とジカルボン酸単位とを含有する半芳香族ポリアミド(A-b)又はそれらの混合物である、(1)又は(2)に記載のポリアミド樹脂組成物。
(4)
前記ポリアミド樹脂(A)を100質量部として、
50質量部以上99質量部以下の前記脂肪族ポリアミド(A-a)と、
1質量部以上50質量部以下の前記半芳香族ポリアミド(A-b)と、
0.05質量部以上5.00質量部以下の前記脂肪酸金属塩(B)と、
さらに、0.01質量部以上3.00質量部以下の脂肪酸アマイド化合物(C)と
を含有する、(3)に記載のポリアミド樹脂組成物。
(5)
前記脂肪酸金属塩(B)の質量Bwと前記脂肪酸アマイド化合物(C)の質量Cwとの比率Bw/Cwが0.6以上4.0以下である、(4)に記載のポリアミド樹脂組成物。
(6)
前記脂肪酸金属塩(B)の末端炭化水素基の炭素数Bnと前記脂肪酸アマイド化合物(C)の末端炭化水素基の炭素数Cnとの比率Bn/Cnが1.00超2.00以下である、(4)又は(5)に記載のポリアミド樹脂組成物。
(7)
前記脂肪族ポリアミド(A-a)がポリアミド6又はポリアミド66である、(3)~(6)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(8)
前記半芳香族ポリアミド(A-b)が、前記半芳香族ポリアミド(A-b)を構成する全ジカルボン酸単位に対して、イソフタル酸単位を50モル%以上含有し、且つ、前記ジアミン単位として、炭素数4以上10以下のジアミン単位を含有する、(3)~(7)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(9)
前記半芳香族ポリアミド(A-b)が、前記半芳香族ポリアミド(A-b)を構成する全ジカルボン酸単位に対して、イソフタル酸単位を75モル%以上含有し、且つ、前記ジアミン単位として、炭素数4以上10以下のジアミン単位を含有する、(3)~(7)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(10)
前記ポリアミド樹脂(A)の重量平均分子量Mwが10000以上50000以下である、(1)~(9)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(11)
前記ポリアミド樹脂(A)の分子量分布Mw/Mnが2.4以下である、(1)~(10)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(12)
前記脂肪酸金属塩(B)がモンタン酸ナトリウム及びモンタン酸カルシウムからなる群より選ばれる1種以上である、(1)~(11)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(13)
前記脂肪酸アマイド化合物(C)が炭素数9以上30以下の炭化水素基を有する、脂肪酸アミド化合物及び脂肪酸ビスアミド化合物からなる群より選ばれる1種以上である、(4)~(12)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(14)
前記脂肪酸アマイド化合物(C)がN,N’-エチレンビスステアリン酸アミド及びN-ステアリルエルカ酸アミドからなる群より選ばれる1種以上である、(4)~(13)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(15)
無機充填材(D)をさらに含有し、
前記無機充填材(D)の含有量が、前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、5質量部以上200質量部以下である、(1)~(14)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(16)
ニグロシン(E)をさらに含有し、
前記ニグロシン(E)の含有量が、前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、0質量部超0.5質量部以下である、(1)~(15)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(17)
塩化物イオンの含有量が質量基準で5ppm以下である、(1)~(16)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(18)
(1)~(17)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を含むことを特徴とする、成形品。
(19)
(1)~(17)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法であって、
前記ポリアミド樹脂(A)及び前記脂肪酸金属塩(B)を溶融混錬する工程を含むことを特徴とする、製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、成形品としたときの吸水時の剛性、表面外観性、耐ブリードアウト性に優れ、ハイサイクル成形に適した、ポリアミド樹脂組成物とその製造方法、及び前記ポリアミド樹脂組成物を含み、吸水時の剛性、表面外観性及び耐ブリードアウト性に優れる成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0012】
なお、本明細書において、「ポリアミド」とは主鎖中にアミド基(-NHCO-)を有する重合体を意味する。
【0013】
≪ポリアミド樹脂組成物≫
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)とアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む金属の脂肪酸金属塩(B)とを含有するポリアミド樹脂組成物であって、前記ポリアミド樹脂組成物の表面を下記の測定に供して算出される、前記脂肪酸金属塩(B)の金属イオン1つ当たりの空間面積に関する面積分布において、ガンマ分布の形状パラメータkが1.0以上であることを特徴とする。
[測定]
前記ポリアミド樹脂組成物の表面における前記脂肪酸金属塩(B)の金属イオンをマッピングした分布画像又は金属イオンイメージの強度情報画像において、前記表面の金属イオン1つ当たりの空間面積を算出すべく、前記金属イオンの中心を母点としてボロノイ分割を行う。前記ボロノイ分割により得られた各領域の空間面積を算出して空間面積毎に分類し、以下の式で表されるガンマ分布から形状パラメータkを算出する。
【化2】
(式中、k:形状パラメータ、θ:尺度パラメータ、x:空間面積)
【0014】
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、上記構成を有することで、吸水時の剛性、表面外観性及び耐ブリードアウト性に優れた成形品が得られ、且つ、ハイサイクル成形に適したものとすることができる。
【0015】
以下、本実施形態のポリアミド樹脂組成物の各構成成分の詳細について説明する。
【0016】
<ポリアミド樹脂(A)>
ポリアミド樹脂(A)としては、特に限定されないが、例えば、脂肪族ポリアミド(A-a)、ジアミン単位とジカルボン酸単位とを含有する半芳香族ポリアミド(A-b)又はこれらの混合物等が挙げられる。
ポリアミド樹脂(A)は、1種単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0017】
<脂肪族ポリアミド(A-a)>
脂肪族ポリアミド(A-a)は、ラクタム単位及びアミノカルボン酸単位からなる群より選ばれる1種以上の単位(A-a-1)を含有すること、又は脂肪族ジカルボン酸単位(A-a-2)及び脂肪族ジアミン単位(A-a-3)を含有することが好ましい。
【0018】
[ラクタム単位及びアミノカルボン酸単位からなる群より選ばれる1種以上の単位(A-a-1)]
脂肪族ポリアミド(A-a)は、ラクタム単位及びアミノカルボン酸単位からなる群より選ばれる1種以上の単位(A-a-1)を含有することができる。このような単位を含むことにより、靭性に優れるポリアミドが得られる傾向にある。
なお、ここでいう、「ラクタム単位及びアミノカルボン酸単位」とは、重(縮)合したラクタム及びアミノカルボン酸のことを意味する。
【0019】
ラクタム単位を構成するラクタムとしては、特に限定されないが、炭素数が4以上14以下のラクタムが好ましく、炭素数6以上12以下のラクタムがより好ましい。
ラクタムとしては、具体的には、以下に限定されるものではないが、例えば、ブチロラクタム、ピバロラクタム、ε-カプロラクタム、カプリロラクタム、エナントラクタム、ウンデカノラクタム、ラウロラクタム(ドデカノラクタム)等が挙げられる。
中でも、ラクタムとしては、ε-カプロラクタム又はラウロラクタムが好ましく、ε-カプロラクタムがより好ましい。このようなラクタムに由来するラクタム単位を含むことにより、靭性により優れるポリアミド樹脂組成物となる傾向にある。
なお、ここでいう、「ラクタム単位を構成するラクタム」とは、重(縮)合可能なラクタムを意味する。
【0020】
アミノカルボン酸単位を構成するアミノカルボン酸としては、特に限定されないが、炭素数が4以上14以下のアミノカルボン酸が好ましく、炭素数6以上12以下のアミノカルボン酸がより好ましい。
アミノカルボン酸としては、具体的には、以下に限定されるものではないが、例えば、ラクタムが開環した化合物であるω-アミノカルボン酸やα,ω-アミノ酸等が挙げられる。
また、アミノカルボン酸としては、ω位がアミノ基で置換された炭素数4以上14以下の直鎖又は分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸が好ましい。このようなアミノカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等が挙げられる。また、アミノカルボン酸としては、パラアミノメチル安息香酸等も挙げられる。
なお、ここでいう、「アミノカルボン酸単位を構成するアミノカルボン酸」とは、重(縮)合可能なアミノカルボン酸を意味する。
【0021】
ラクタム単位及びアミノカルボン酸単位を構成するラクタム及びアミノカルボン酸は、それぞれ1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
[脂肪族ジカルボン酸単位(A-a-2)]
脂肪族ジカルボン酸単位(A-a-2)を構成する脂肪族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、2,2-ジメチルコハク酸、2,3-ジメチルグルタル酸、2,2-ジエチルコハク酸、2,3-ジエチルグルタル酸、グルタル酸、2,2-ジメチルグルタル酸、アジピン酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸、ジグリコール酸等の炭素数3以上20以下の直鎖又は分岐鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。
【0023】
脂肪族ジカルボン酸は、ポリアミド樹脂組成物の耐熱性、流動性、靭性、低吸水性、及び剛性等がより優れる傾向があることから、炭素数が6以上である脂肪族ジカルボン酸を含むことが好ましい。炭素数が6以上である脂肪族ジカルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸等が挙げられる。これらの中でも、ポリアミド樹脂組成物の耐熱性等の観点で、アジピン酸、セバシン酸、又はドデカン二酸がより好ましい。
【0024】
脂肪族ジカルボン酸単位(A-a-2)を構成する脂肪族ジカルボン酸は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
なお、脂肪族ポリアミド(A-a)は、本実施形態のポリアミド樹脂組成物が奏する効果を損なわない範囲で、必要に応じて、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸に由来する単位をさらに含んでもよい。
3価以上の多価カルボン酸は、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
[脂肪族ジアミン単位(A-a-3)]
脂肪族ジアミン単位(A-a-3)を構成する脂肪族ジアミンは、直鎖であってもよく、分岐していてもよい。
【0027】
脂肪族ジアミン単位(A-a-3)を構成する直鎖の脂肪族ジアミンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリデカメチレンジアミン等の炭素数2以上20以下の直鎖飽和脂肪族ジアミン等が挙げられる。
【0028】
脂肪族ジアミン単位(A-a-3)を構成する分岐状の脂肪族ジアミン(主鎖から分岐した置換基を持つジアミン単位を構成するジアミン)としては、以下に限定されるものではないが、例えば、2-メチルペンタメチレンジアミン(2-メチル-1,5-ジアミノペンタンともいう。)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン(2-メチルオクタメチレンジアミンともいう。)、2,4-ジメチルオクタメチレンジアミン等の炭素数3以上20以下の分岐状飽和脂肪族ジアミン等が挙げられる。
これらの中でも、2-メチルペンタメチレンジアミン又は2-メチル-1,8-オクタンジアミンが好ましく、2-メチルペンタメチレンジアミンがより好ましい。このような脂肪族ジアミンに由来する脂肪族ジアミン単位(A-a-3)を含むことにより、耐熱性及び剛性等により優れるポリアミド樹脂組成物となる傾向にある。
【0029】
脂肪族ジアミン単位(A-a-3)の炭素数は、6以上12以下であることがより好ましく、6以上10以下がさらに好ましい。炭素数が上記下限値以上であると、耐熱性により優れる傾向にあり、一方、上記上限値以下であると、結晶性及び離型性により優れる傾向にある。
【0030】
脂肪族ジアミン単位を構成する脂肪族ジアミンは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
なお、脂肪族ポリアミド(A-a)は、本実施形態のポリアミド樹脂組成物が奏する効果を損なわない範囲で、必要に応じて、ビスヘキサメチレントリアミン等の3価以上の多価脂肪族アミンに由来する単位をさらに含んでもよい。
3価以上の多価脂肪族アミンは、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
脂肪族ポリアミド(A-a)としては、具体的にはポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)等が挙げられる。PA6は、機械特性、外観性、成形性及び靱性の観点に優れていることから、自動車用部品に適した材料と考えられている。PA66は、耐熱性、特に高温時の機械特性に優れる。
【0033】
[脂肪族ポリアミド(A-a)の含有量]
ポリアミド樹脂(A)が脂肪族ポリアミド(A―a)及び半芳香族ポリアミド(A-b)の混合物である場合、脂肪族ポリアミド(A-a)の含有量は、ポリアミド樹脂(A)(脂肪族ポリアミド(A-a)及び半芳香族ポリアミド(A-b)の合計)100質量部に対して、50質量部以上99質量部以下であることが好ましく、50質量部以上90質量部以下がより好ましく、60質量部以上85質量部以下がさらに好ましく、65質量部以上82質量部以下がよりさらに好ましく、70質量部以上80質量部以下が特に好ましく、75質量部以上80質量部以下が最も好ましい。脂肪族ポリアミド(A-a)の含有量が上記範囲内であると、機械的性質、成形加工性、耐ブリードアウト性、レーザー印字性に優れ、且つ、ハイサイクル成形に適したポリアミド樹脂組成物が得られる傾向にある。また、後述するガラス繊維に代表される無機充填材(D)をさらに含有させたポリアミド樹脂組成物においては、表面外観により優れたものとなる傾向にある。
【0034】
<半芳香族ポリアミド(A-b)>
半芳香族ポリアミド(A-b)は、ジアミン単位(A-b-b)とジカルボン酸単位(A-b-a)とを含有するポリアミドである。本実施形態のポリアミド樹脂(A)において、脂肪族ポリアミド(A-a)と半芳香族ポリアミド(A-b)とを組み合わせると、成形時に成形品表面において脂肪酸金属塩(B)が良好に分散した状態になる傾向にある。
【0035】
半芳香族ポリアミド(A-b)は、半芳香族ポリアミド(A-b)の全構成単位に対して、20モル%以上80モル%以下の芳香族構成単位を含むことが好ましく、30モル%以上70モル%以下の芳香族構成単位を含むことがより好ましく、40モル%以上60モル%以下の芳香族構成単位を含むことがさらに好ましい。
なお、ここでいう、「芳香族構成単位」とは、芳香族ジアミン単位及び芳香族ジカルボン酸単位を意味する。
【0036】
[ジカルボン酸単位(A-b-a)]
ジカルボン酸単位(A-b-a)は、例えば、芳香族ジカルボン酸単位、脂肪族ジカルボン酸単位、脂環族ジカルボン酸単位等を含有してよく、特に限定されない。中でも、イソフタル酸単位を含むことが好ましい。
イソフタル酸単位の含有量は、半芳香族ポリアミド(A-b)を構成する全ジカルボン酸単位(A-b-a)100モル%に対して、50モル%以上であることが好ましく、65モル%以上であることがより好ましく、70モル%%以上であることがさらに好ましく、75モル%以上であることがよりさらに好ましく、80%以上100モル%以下であることが特に好ましく、100モル%であることが最も好ましい。
ジカルボン酸単位(A-b-a)中のイソフタル酸単位の割合が上記下限値以上であると、機械的性質、特に吸水剛性、熱時剛性、流動性、表面外観性等が全てより向上したポリアミド樹脂組成物が得られる傾向にある。
なお、半芳香族ポリアミド(A-b)を構成する所定の単量体単位の割合は、核磁気共鳴分光法(NMR)等により測定することができる。
【0037】
(芳香族ジカルボン酸単位)
芳香族ジカルボン酸単位を構成する芳香族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、上記イソフタル酸の他には、例えば、フェニル基、ナフチル基等を有するジカルボン酸が挙げられる。芳香族ジカルボン酸の芳香族基は、無置換でもよく、置換基を有していてもよい。
この置換基としては、特に限定されないが、例えば、炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数6以上10以下のアリール基、炭素数7以上10以下のアリールアルキル基、クロロ基及びブロモ基等のハロゲン基、炭素数1以上6以下のシリル基、スルホン酸基及びその塩(ナトリウム塩等)等が挙げられる。
【0038】
芳香族ジカルボン酸としては、上記イソフタル酸の他には、具体的には、以下に限定されるものではないが、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等の無置換又は所定の置換基で置換された炭素数8以上20以下の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。
芳香族ジカルボン酸単位を構成する芳香族ジカルボン酸は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
(脂肪族ジカルボン酸単位)
脂肪族ジカルボン酸単位を構成する脂肪族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、2,2-ジメチルコハク酸、2,3-ジメチルグルタル酸、2,2-ジエチルコハク酸、2,3-ジエチルグルタル酸、グルタル酸、2,2-ジメチルグルタル酸、アジピン酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸、ジグリコール酸等の炭素数3以上20以下の直鎖又は分岐鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。
【0040】
(脂環族ジカルボン酸単位)
脂環族ジカルボン酸単位(以下、「脂環式ジカルボン酸単位」ともいう)を構成する脂環族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、脂環構造の炭素数が3以上10以下の脂環族ジカルボン酸が挙げられ、脂環構造の炭素数が5以上10以下の脂環族ジカルボン酸が好ましい。
このような脂環族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸等が挙げられる。これらの中でも、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸が好ましい。
なお、脂環族ジカルボン酸単位を構成する脂環族ジカルボン酸は、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
脂環族ジカルボン酸の脂環族基は、無置換でもよく、置換基を有していてもよい。置換基としては、以下に限定されるものではないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1以上4以下のアルキル基等が挙げられる。
【0042】
半芳香族ポリアミド(A-b)において、イソフタル酸単位以外の好ましいジカルボン酸単位(A-b-a)としては、イソフタル酸単位以外の芳香族ジカルボン酸単位が挙げられ、炭素数が8以上である、イソフタル酸単位以外の芳香族ジカルボン酸単位がより好ましい。
このようなジカルボン酸単位(A-b-a)を含むと、ポリアミド樹脂組成物の機械的性質、特に吸水剛性、熱時剛性、流動性、表面外観性等がより優れる傾向にある。
【0043】
本明細書において、ジカルボン酸単位(A-b-a)を構成するジカルボン酸としては、上記ジカルボン酸として記載の化合物に限定されるものではなく、上記ジカルボン酸と等価な化合物であってもよい。
なお、ここでいう、「ジカルボン酸と等価な化合物」とは、上記ジカルボン酸に由来するジカルボン酸構造と同様のジカルボン酸構造となり得る化合物を意味する。このような化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ジカルボン酸の無水物及びハロゲン化物等が挙げられる。
【0044】
また、半芳香族ポリアミド(A-b)は、本実施形態のポリアミド樹脂組成物が奏する効果を損なわない範囲で、必要に応じて、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸に由来する単位をさらに含んでもよい。
3価以上の多価カルボン酸は、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
[ジアミン単位(A-b-b)]
半芳香族ポリアミド(A-b)を構成するジアミン単位(A-b-b)は、例えば、芳香族ジアミン酸単位、脂肪族ジアミン単位、脂環族ジアミン単位等を含有してよく、特に限定されない。中でも、炭素数4以上10以下のジアミン単位を含むことが好ましい。
炭素数4以上10以下のジアミン単位の含有量は、半芳香族ポリアミド(A-b)を構成する全ジアミン単位(A-b-b)100モル%に対して、50モル%以上であることが好ましく、80モル%以上100モル%以下であることがより好ましく、90モル%以上100モル%以下であることがさらに好ましく、100モル%であることが特に好ましい。
ジアミン単位(A-b-b)中の炭素数4以上10以下のジアミン単位の含有量が上記下限値以上であると、機械的性質、特に吸水剛性、熱時剛性、流動性、表面外観性、耐ブリードアウト性等の全てがより向上したポリアミド樹脂組成物が得られる傾向にある。
【0046】
(脂肪族ジアミン単位)
脂肪族ジアミン単位を構成する脂肪族ジアミンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリデカメチレンジアミン等の炭素数4以上20以下の直鎖飽和脂肪族ジアミン等が挙げられる。
【0047】
(脂環族ジアミン単位)
脂環族ジアミン単位を構成する脂環族ジアミン(以下、「脂環式ジアミン」ともいう)としては、以下に限定されるものではないが、例えば、1,4-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロペンタンジアミン等が挙げられる。
【0048】
(芳香族ジアミン単位)
芳香族ジアミン単位を構成する芳香族ジアミンとしては、芳香族を含有するジアミンであれば以下に限定されるものではなく、例えば、メタキシリレンジアミン等が挙げられる。
【0049】
ジアミン単位(A-b-b)を構成するこれらジアミンは、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
ジアミン単位(A-b-b)の中でも、脂肪族ジアミン単位が好ましく、炭素数4以上10以下の直鎖飽和脂肪族基を有するジアミン単位がより好ましく、炭素数6以上10以下の直鎖飽和脂肪族基を有するジアミン単位がさらに好ましく、ヘキサメチレンジアミン単位が特に好ましい。
このようなジアミン単位を含むことにより、機械的性質、特に吸水剛性、熱時剛性、流動性、表面外観性等により優れるポリアミド樹脂組成物となる傾向にある。
【0051】
なお、半芳香族ポリアミド(A-b)は、本実施形態のポリアミド樹脂組成物が奏する効果を損なわない範囲で、必要に応じて、ビスヘキサメチレントリアミン等の3価以上の多価脂肪族アミンに由来する単位をさらに含んでもよい。
3価以上の多価脂肪族アミンは、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
半芳香族ポリアミド(A-b)としては、ポリアミド6I(ポリヘキサメチレンイソフタルアミド)、ポリアミド6I/6T、ポリアミドMXD6、ポリアミド9I、又はポリアミド10Iが好ましく、ポリアミド6Iがより好ましい。ポリアミド6Iは、耐熱性、成形加工性及び難燃性に優れていることから、自動車用部品に適した材料と考えられる。
【0053】
[半芳香族ポリアミド(A-b)の含有量]
ポリアミド樹脂(A)が脂肪族ポリアミド(A―a)及び半芳香族ポリアミド(A-b)の混合物である場合、半芳香族ポリアミド(A-b)の含有量は、ポリアミド樹脂(A)(脂肪族ポリアミド(A-a)及び半芳香族ポリアミド(A-b)の合計)100質量部に対して、1質量部以上50質量部以下であることが好ましく、10質量部以上50質量部以下がより好ましく、15質量部以上40質量部以下がさらに好ましく、18質量部以上35質量部以下がよりさらに好ましく、20質量部以上30質量部以下が特に好ましく、20質量部以上25質量部以下が最も好ましい。半芳香族ポリアミド(A-b)の含有量が上記範囲であると、機械的性質、成形加工性、耐ブリードアウト性、レーザー印字性に優れ、且つ、ハイサイクル成形に適したポリアミド樹脂組成物が得られる傾向にある。また、後述するガラス繊維に代表される無機充填材(D)をさらに含有させたポリアミド樹脂組成物においては、表面外観により優れたものとなる傾向にある。
【0054】
<末端封止剤>
ポリアミド樹脂(A)の末端はそれぞれ、公知の末端封止剤により末端封止されていてもよい。
このような末端封止剤は、上述したジカルボン酸とジアミンと、必要に応じて用いるラクタム及びアミノカルボン酸からなる群より選ばれる1種以上とから、ポリアミド樹脂(A)を製造する際に、分子量調節剤としても添加することができる。
【0055】
末端封止剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、モノカルボン酸、モノアミン、無水フタル酸等の酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコール類等が挙げられる。
これらの中でも、モノカルボン酸又はモノアミンが好ましい。ポリアミド樹脂(A)の末端が末端封止剤で封鎖されていることにより、熱安定性により優れるポリアミド樹脂組成物となる傾向にある。
【0056】
末端封止剤は、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
末端封止剤として使用できるモノカルボン酸としては、ポリアミド樹脂(A)の末端に存在し得るアミノ基との反応性を有するものであればよく、以下に限定されるものではないが、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソブチル酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環族モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸等が挙げられる。
特に、半芳香族ポリアミド(A-b)の末端は、流動性、機械的強度の観点から、酢酸によって封止されていることが好ましい。
モノカルボン酸は、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
末端封止剤として使用できるモノアミンとしては、ポリアミド樹脂(A)の末端に存在し得るカルボキシ基との反応性を有するものであればよく、以下に限定されるものではないが、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環族モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン等が挙げられる。
モノアミンは、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
末端封止剤により末端封止されたポリアミド樹脂(A)を含有するポリアミド樹脂組成物は、耐熱性、流動性、靭性、低吸水性、及び剛性により優れている傾向にある。
【0060】
<ポリアミド樹脂(A)の製造方法>
ポリアミド樹脂(A)の製造方法について説明する。
ポリアミド樹脂(A)を製造する際に、ジカルボン酸の添加量とジアミンの添加量とは、同モル量付近であることが好ましい。重合反応中のジアミンの反応系外への逃散分もモル比においては考慮して、ジカルボン酸全体のモル量1に対して、ジアミン全体のモル量は、0.9以上1.2以下が好ましく、0.95以上1.1以下がより好ましく、0.98以上1.05以下がさらに好ましい。
【0061】
ポリアミド樹脂(A)の製造方法としては、以下に限定されるものではないが、例えば、以下の(1)又は(2)の重合工程を含むことができる。
(1)ラクタム単位を構成するラクタム及びアミノカルボン酸単位を構成するアミノカルボン酸からなる群より選ばれる1種以上を重合して重合体を得る工程。
(2)ジカルボン酸単位を構成するジカルボン酸と、ジアミン単位を構成するジアミンとの組み合わせを重合して重合体を得る工程。
【0062】
また、ポリアミド樹脂(A)の製造方法としては、前記重合工程の後に、ポリアミドの重合度を上昇させる上昇工程を、更に含むことが好ましい。また、必要に応じて、前記重合工程及び前記上昇工程の後に、得られた重合体の末端を末端封止剤により封止する封止工程を含んでいてもよい。
【0063】
ポリアミド樹脂(A)の具体的な製造方法としては、例えば、以下の1)~4)に例示するように種々の方法が挙げられる。
1)ラクタム、アミノカルボン酸、ジカルボン酸-ジアミン塩、及びジカルボン酸とジアミンとの混合物からなる群より選ばれる1種以上の水溶液又は水懸濁液を加熱し、溶融状態を維持したまま重合させる方法(以下、「熱溶融重合法」と称する場合がある)。
2)熱溶融重合法で得られたポリアミドを融点以下の温度で固体状態を維持したまま重合度を上昇させる方法(以下、「熱溶融重合・固相重合法」と称する場合がある)。
3)ジカルボン酸-ジアミン塩、ジカルボン酸とジアミンとの混合物、ラクタム、及びアミノカルボン酸からなる群より選ばれる1種以上を、固体状態を維持したまま重合させる方法(以下、「固相重合法」と称する場合がある)。
4)ジカルボン酸と等価なジカルボン酸ハライド成分と、ジアミン成分とを用いて重合させる方法(以下、「溶液法」と称する場合がある)。
【0064】
中でも、ポリアミド樹脂(A)の具体的な製造方法としては、熱溶融重合法を含む製造方法が好ましい。また、熱溶融重合法によりポリアミド樹脂(A)を製造する際には、重合が終了するまで、溶融状態を保持することが好ましい。溶融状態を保持するためには、ポリアミド樹脂に適した重合条件で製造することが必要となる。重合条件としては、例えば、以下に示す条件等が挙げられる。まず、熱溶融重合法における重合圧力を14kg/cm2以上25kg/cm2以下(ゲージ圧)に制御し、加熱を続ける。次いで、槽内の圧力が大気圧(ゲージ圧は0kg/cm2)になるまで30分以上かけながら降圧する。
【0065】
ポリアミド樹脂(A)の製造方法において、重合形態としては、特に限定されず、バッチ式でもよく、連続式でもよい。
ポリアミド樹脂(A)の製造に用いる重合装置としては、特に限定されるものではなく、公知の装置を用いることができる。重合装置として具体的には、例えば、オートクレーブ型反応器、タンブラー型反応器、押出機型反応器(ニーダー等)等が挙げられる。
【0066】
以下、ポリアミド樹脂(A)の製造方法として、バッチ式の熱溶融重合法によりポリアミド樹脂(A)を製造する方法を具体的に示すが、ポリアミド樹脂(A)の製造方法は、これに限定されない。
まず、ポリアミド樹脂(A)の原料成分(ラクタム、アミノカルボン酸、又はジカルボン酸とジアミンとの混合物)を、約40質量%以上60質量%以下含有する水溶液を調製する。次いで、当該水溶液を110℃以上180℃以下の温度、及び、約0.035MPa以上0.6MPa以下(ゲージ圧)の圧力で操作される濃縮槽で、約65質量%以上90質量%以下に濃縮して濃縮溶液を得る。
次いで、得られた濃縮溶液をオートクレーブに移し、オートクレーブにおける圧力が約1.2MPa以上2.2MPa以下(ゲージ圧)になるまで加熱を続ける。
次いで、オートクレーブにおいて、水及びガス成分のうち少なくともいずれかを抜きながら圧力を約1.2MPa以上2.2MPa以下(ゲージ圧)に保つ。次いで、温度が約220℃以上260℃以下に達した時点で、大気圧まで降圧する(ゲージ圧は、0MPa)。オートクレーブ内の圧力を大気圧に降圧後、必要に応じて減圧することにより、副生する水を効果的に除くことができる。
次いで、オートクレーブを窒素等の不活性ガスで加圧し、オートクレーブからポリアミド溶融物をストランドとして押し出す。押し出されたストランドを、冷却、カッティングすることにより、ポリアミドド樹脂(A)のペレットを得る。
【0067】
<ポリアミド樹脂(A)のポリマー末端>
ポリアミド樹脂(A)のポリマー末端としては、特に限定されないが、以下の1)~4)に分類され、定義することができる。
すなわち、1)アミノ末端、2)カルボキシル末端、3)封止剤による末端、4)その他の末端である。
1)アミノ末端は、アミノ基(-NH2基)を有するポリマー末端であり、原料のジアミンに由来する。
2)カルボキシル末端は、カルボキシル基(-COOH基)を有するポリマー末端であり、原料のジカルボン酸に由来する。
3)封止剤による末端は、重合時に封止剤を添加した場合に形成される末端である。封止剤としては、上述した末端封止剤が挙げられる。
4)その他の末端は、上述した1)~3)に分類されないポリマー末端であり、アミノ末端が脱アンモニア反応して生成した末端や、カルボキシル末端から脱炭酸反応して生成した末端等が挙げられる。
【0068】
<ポリアミド樹脂(A)の特性>
[重量平均分子量Mw]
ポリアミド樹脂(A)の分子量の指標としては、重量平均分子量Mwを利用できる。ポリアミド樹脂(A)の重量平均分子量Mwは、10000以上50000以下が好ましく、17000以上40000以下がより好ましく、20000以上34000以下がさらに好ましく、23000以上33500以下がよりさらに好ましく、25000以上33000以下が特に好ましく、26000以上32000以下が最も好ましい。重量平均分子量Mwが上記範囲であると、機械的性質、特に吸水剛性、熱時剛性、流動性、離型性等により優れるポリアミド樹脂組成物が得られる。また、後述するガラス繊維に代表される無機充填材(D)をさらに含有させたポリアミド樹脂組成物においては、表面外観により優れたものとなる傾向にある。
ポリアミド樹脂(A)のMwを上記範囲内に制御する方法としては、脂肪族ポリアミド(A-a)及び半芳香族ポリアミド(A-b)としてそれぞれのMwが上述した範囲であるものを使用すること等が挙げられる。
なお、Mw(重量平均分子量)の測定は、後述の実施例に記載するように、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて測定することができる。
【0069】
[分子量分布Mw/Mn]
ポリアミド樹脂(A)の分子量分布は、重量平均分子量Mw/数平均分子量Mnを指標とする。
ポリアミド樹脂(A)のMw/Mnは、1.0以上であり、2.4以下が好ましく、1.7以上2.3以下が好ましく、1.8以上2.2以下が好ましく、1.9以上2.1以下が好ましい。Mw/Mnが上記範囲であると、流動性等により優れるポリアミド樹脂組成物が得られる傾向にある。また、後述するガラス繊維に代表される無機充填材(D)をさらに含有させたポリアミド樹脂組成物においては、表面外観により優れたものとなる傾向にある。
ポリアミド樹脂(A)のMw/Mnを上記範囲内に制御する方法としては、半芳香族ポリアミド(A-b)を含む場合には、半芳香族ポリアミド(A-b)の分子量分布Mw(A-b)/Mn(A-b)を上述したMw/Mnの範囲にすることが重要である。
ポリアミド樹脂(A)の分子構造中に芳香族化合物単位が多く含まれていると、高分子量化に伴い、分子量分布(Mw/Mn)が高くなる傾向がある。分子量分布が高いことは分子の三次元構造を有するポリアミド分子の割合が高いことを示し、高温加工時において分子の三次元構造化がさらに進行しやすく、流動性が低下する。そのため、後述するガラス繊維に代表される無機充填材(D)をさらに含有させたポリアミド樹脂組成物においては、表面外観が悪化する虞があることから、半芳香族ポリアミド(A-b)の分子量分布Mw(A-b)/Mn(A-b)を上記上限値以下に制御することで、表面外観性により優れたものとすることができる。
なお、ポリアミド樹脂(A)のMw/Mnの測定は、後述の実施例に記載するように、GPCを用いて得られた重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnを使用して計算することができる。
【0070】
<脂肪族ポリアミド(A-a)の特性>
[重量平均分子量Mw(A-a)]
脂肪族ポリアミド(A-a)の分子量の指標としては、重量平均分子量Mw(A-a)を利用できる。脂肪族ポリアミド(A-a)のMw(A-a)は、10000以上50000以下が好ましく、15000以上45000以下がより好ましく、20000以上40000以下がさらに好ましく、25000以上37000以下が特に好ましい。
Mw(A-a)が上記範囲であると、機械的性質、特に吸水剛性、熱時剛性、流動性等により優れるポリアミド樹脂組成物が得られる傾向にある。また、後述するガラス繊維に代表される無機充填材(D)をさらに含有させたポリアミド樹脂組成物においては、表面外観により優れたものとなる傾向にある。なお、重量平均分子量Mw(A-a)の測定は、GPCを用いて測定することができる。
【0071】
[分子量分布Mw(A-a)/Mn(A-a)]
脂肪族ポリアミド(A-a)の分子量分布は、重量平均分子量Mw(A-a)/数平均分子量Mn(A-a)を指標とする。
脂肪族ポリアミド(A-a)の分子量分布Mw(A-a)/Mn(A-a)は、1.0以上とすることができ、1.8以上2.5以下が好ましく、1.9以上2.4以下がより好ましい。分子量分布Mw(A-a)/Mn(A-a)が上記範囲であると、流動性等により優れるポリアミド樹脂組成物が得られる傾向にある。また、後述するガラス繊維に代表される無機充填材(D)をさらに含有させたポリアミド樹脂組成物においては、表面外観により優れたものとなる傾向にある。
分子量分布Mw(A-a)/Mn(A-a)を上記範囲内に制御する方法としては、例えば、脂肪族ポリアミド(A-a)の熱溶融重合時の添加物としてリン酸や次亜リン酸ナトリウムのような公知の重縮合触媒を加える方法、加熱条件や減圧条件のような重合条件を制御する方法等が挙げられる。
分子量分布Mw(A-a)/Mn(A-a)の測定は、GPCを用いて得られた重量平均分子量Mw(A-a)、数平均分子量Mn(A-a)を使用して計算することができる。
【0072】
<半芳香族ポリアミド(A-b)の特性>
[重量平均分子量Mw(A-b)]
半芳香族ポリアミド(A-b)の分子量の指標としては、重量平均分子量Mw(A-b)を利用できる。重量平均分子量Mw(A-b)は、10000以上50000以下が好ましく、13000以上40000以下がより好ましく、15000以上35000以下がさらに好ましく、18000以上30000以下が特に好ましく、19000以上29000以下が最も好ましい。
重量平均分子量Mw(A-b)が上記範囲であると、機械的性質、特に吸水剛性、熱時剛性、流動性等により優れるポリアミド樹脂組成物が得られる傾向にある。また、後述するガラス繊維に代表される無機充填材(D)をさらに含有させたポリアミド樹脂組成物においては、表面外観により優れたものとなる傾向にある。
なお、重量平均分子量Mw(A-b)の測定は、GPCを用いて測定することができる。
【0073】
[分子量分布Мw(A-b)/Mn(A-b)]
半芳香族ポリアミド(A-b)の分子量分布は、重量平均分子量Mw(A-b)/数平均分子量Mn(A-b)を指標とする。
半芳香族ポリアミド(A-b)の分子量分布Mw(A-b)/Mn(A-b)は、1.0以上とすることができ、2.4以下が好ましく、1.7以上2.4以下がより好ましく、1.8以上2.3以下がさらに好ましく、1.9以上2.2以下が特に好ましく、1.9以上2.1以下が最も好ましい。
分子量分布Mw(A-b)/Mn(A-b)が上記範囲であると、流動性等により優れるポリアミド樹脂組成物が得られる傾向にある。また、後述するガラス繊維に代表される無機充填材(D)をさらに含有させたポリアミド樹脂組成物においては、表面外観により優れたものとなる傾向にある。
分子量分布Mw(A-b)/Mn(A-b)を上記範囲内に制御する方法としては、例えば、半芳香族ポリアミド(A-b)の熱溶融重合時の添加物としてリン酸や次亜リン酸ナトリウムのような公知の重縮合触媒を加える方法が挙げられる。また、加熱条件や減圧条件のような重合条件を制御する方法が挙げられ、できるだけ低温で且つ短時間で重縮合反応を完了させることが重要となる。特に半芳香族ポリアミド(A-b)が非晶性ポリアミドである場合には、融点を持たないため、反応温度を低くすることができる。
ポリアミド(A)の分子構造中に芳香族化合物単位を多く含有していると、高分子量化に伴い、分子量分布Mw(A-b)/Mn(A-b)が高くなる傾向がある。分子量分布が高いことは分子の三次元構造を有するポリアミド分子の割合が高いことを示し、高温加工時において分子の三次元構造化がさらに進行しやすく、流動性が低下する。そのため、後述するガラス繊維に代表される無機充填材(D)をさらに含有させたポリアミド樹脂組成物においては、表面外観が悪化する虞があることから、分子量分布Mw(A-b)/Mn(A-b)を上記上限値以下に制御することで、表面外観性により優れたものとすることができる。
なお、分子量分布Mw(A-b)/Mn(A-b)の測定は、GPCを用いて得られた重量平均分子量Mw(A-b)、数平均分子量Mn(A-b)を使用して計算することができる。
【0074】
<脂肪酸金属塩(B)>
脂肪酸金属塩(B)は、アルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンを含む金属の脂肪酸金属塩である。即ち、脂肪酸金属塩(B)を構成する金属元素としては、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含めば特に限定されず、その他に、例えば、亜鉛、アルミニウム等を含んでいてもよい。
アルカリ金属としては、例えば、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。
アルカリ土類金属としては、例えば、カルシウム、マグネシウム等が挙げられる。
中でも、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、又はアルミニウムがより好ましい。
【0075】
脂肪酸金属塩(B)を構成する脂肪酸は、鎖状であってもよく、環状であってもよいが、鎖状であることが好ましい。また、鎖状である場合、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。直鎖状の脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸等が挙げられる。
【0076】
脂肪酸金属塩(B)としては、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む金属元素と脂肪酸との組み合わせであれば、特に限定されるものではないが、造核効果、流動性の観点から、末端の炭化水素基の炭素数が12以上の高級脂肪酸の金属塩が好ましく、末端の炭化水素基の炭素数が19以上の高級脂肪酸の金属塩がより好ましい。
また、このような脂肪酸金属塩(B)としては、モンタン酸塩であることが好ましく、モンタン酸ナトリウム又はモンタン酸カルシウムであることがより好ましい。
これら脂肪酸金属塩(B)は、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
[脂肪酸金属塩(B)の含有量]
脂肪酸金属塩(B)の含有量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、0.05質量部以上5.00質量部以下であり、0.05質量部以上1.00質量部以下が好ましく、0.10質量部以上0.50質量部以下がより好ましい。
脂肪酸金属塩(B)の含有量が上記下限値以上であると、ハイサイクル成形により適したポリアミド樹脂組成物を得ることができる。一方、脂肪酸金属塩(B)の含有量が上記上限値以下であると、ポリアミド樹脂(A)の有する性質を損なうことなく、靭性及び剛性等の機械物性、特に吸水物性により優れるポリアミド樹脂組成物を得ることができる。
【0078】
<脂肪酸アマイド化合物(C)>
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は脂肪酸アマイド化合物(C)を含むことができる。
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、脂肪酸アマイド化合物(C)を含むと、脂肪酸金属塩(B)の分散性を向上させ、成形サイクル性及び、成形品にしたときに耐ブリードアウト性及びレーザー印字性により優れるポリアミド樹脂組成物を得ることができる。
【0079】
脂肪酸アマイド化合物(C)は、炭素数9以上30以下の末端炭化水素基を有する脂肪族カルボン酸(脂肪酸)の、アミド化合物及びビスアミド化合物からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。即ち、脂肪酸アマイド化合物(C)は、末端に炭素数9以上30以下の炭化水素基を有する脂肪酸アミド化合物、及び片末端又は両末端に炭素数9以上30以下の炭化水素基を有する脂肪酸ビスアミド化合物からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。脂肪酸アマイド化合物(C)の上記末端炭化水素基は、炭素数が12以上27以下であることがより好ましく、17以上21以下であることがさらに好ましい。
【0080】
脂肪酸アマイド化合物(C)としては、以下に限定されるものではないが、例えば、カプリン酸アミド、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、N-ステアリルステアリン酸アミド、N-ステアリルオレイン酸アミド、N-オレイルステアリン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド、N-オレイルオレイン酸アミド、N-メチロールステアリン酸アミド、N,N’-メチレンビスステアリン酸アミド、N,N’-エチレンビスカプリン酸アミド、N,N’-エチレンビスラウリン酸アミド、N,N’-エチレンビスステアリン酸アミド、N,N’-エチレンビスベヘン酸アミド、N,N’-ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、N,N’-ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、N,N’-エチレンビスオレイン酸アミド、N,N’-エチレンビスエルカ酸アミド、N,N’-ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド等が挙げられる。中でも、ビスアミド化合物が好ましく、N,N’-エチレンビスステアリン酸アミド又はN-ステアリルエルカ酸アミドがより好ましい。
これらの脂肪酸アマイド化合物(C)は、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
[脂肪酸アマイド化合物(C)の含有量]
脂肪酸アマイド化合物(C)の含有量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、0.01質量部以上3.00質量部以下であることが好ましく、0.05質部量以上2.00質量部以下がより好ましく、0.10質量部以上1.00質量部以下がさらに好ましい。
脂肪酸アマイド化合物(C)の含有量が上記下限値以上であると、加工成形性により優れるポリアミド樹脂組成物を得ることができる。一方、脂肪酸アマイド化合物(C)の含有量が上記上限値以下であると、ポリアミド樹脂(A)の有する性質を損なうことなく、靭性及び剛性等の機械物性、特に吸水物性により優れるポリアミド樹脂組成物を得ることができる。
【0082】
ポリアミド樹脂組成物において、脂肪酸金属塩(B)の質量Bwと脂肪酸アマイド化合物(C)の質量Cwの比率Bw/Cwは、0.6以上4.0以下であることが好ましく、0.8以上3.8以下がより好ましく、1.0以上3.5以下がさらに好ましく、1.5以上3.4以下がよりさらに好ましく、2.0以上3.0以下が特に好ましい。質量比率Bw/Cwが上記下限値以上であると、ハイサイクル成形により適したポリアミド樹脂組成物とすることができる。また、質量比率Bw/Cwが上記上限値以下であると、表面外観性と機械物性により優れたポリアミド樹脂組成物とすることができる。
【0083】
脂肪酸金属塩(B)の末端炭化水素基の炭素数Bnと脂肪酸アマイド化合物(C)の末端炭化水素基の炭素数Cnとの比率Bn/Cnが1.00超2.00以下であることが好ましく、1.01以上2.00以下がより好ましく、1.10以上1.80以下がさらに好ましく、1.35以上1.60以下がよりさらに好ましい。炭素数比率Bn/Cnが上記下限値超又は上記下限値以上であることで、ハイサイクル成形により適し、成形後の耐ブリードアウト性、レーザー印字性により優れるポリアミド樹脂組成物とすることができる。また、炭素数比率Bn/Cnが上限値以下であると、表面外観性と機械物性により優れたポリアミド樹脂組成物とすることができる。
【0084】
炭素数比率Bn/Cnが上記範囲内であると、脂肪酸アマイド化合物(C)がポリアミドのマトリックスと脂肪酸金属塩(B)との乳化剤として作用するため、ポリアミド樹脂組成物中における脂肪酸金属塩(B)の分散性を飛躍的に向上させることができる。炭素数比率Bn/Cnが上記上限値超となると、脂肪酸アマイド化合物(C)が脂肪酸金属塩(B)との相溶性が低いため相互作用が少なく、脂肪酸金属塩(B)の分散径が変わらない傾向にある。また、炭素数比率Bn/Cnが上記下限値以下又は上記下限値未満となると、脂肪酸アマイド化合物(C)と脂肪酸金属塩(B)との相溶性が高くなるため、脂肪酸金属塩(B)が脂肪酸アマイド化合物(C)のミセルに取り込まれ、成形時に脂肪酸金属塩(B)のブリードを妨げる傾向にある。そのため、炭素数比率Bn/Cnを上記範囲内に制御すると、成形時に成形品表面の脂肪酸金属塩(B)の偏在が生じずより均一に分散するため、外観を損なわずに、ハイサイクル成形により適し、成形後の耐ブリードアウト性、レーザー印字性により優れるポリアミド樹脂組成物とすることができる。
【0085】
<無機充填材(D)>
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、無機充填材(D)をさらに含有することが好ましい。無機充填材(D)を含有することにより、靭性及び剛性等の機械物性により優れ、且つ、ハイサイクル成形により適したポリアミド樹脂組成物とすることができる。
【0086】
無機充填材(D)としては、特に限定されるものではなく、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ケイ酸カルシウム繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、ガラスフレーク、タルク、カオリン、マイカ、ハイドロタルサイト、炭酸亜鉛、リン酸一水素カルシウム、ウォラストナイト、ゼオライト、ベーマイト、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミノケイ酸ナトリウム、ケイ酸マグネシウム、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト、黄銅、銅、銀、アルミニウム、ニッケル、鉄、フッ化カルシウム、モンモリロナイト、膨潤性フッ素雲母、アパタイト等が挙げられる。
これら無機充填材(D)は、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、無機充填材(D)としては、剛性及び強度等の観点で、ガラス繊維、炭素繊維、ガラスフレーク、タルク、カオリン、マイカ、リン酸一水素カルシウム、ウォラストナイト、カーボンナノチューブ、グラファイト、フッ化カルシウム、モンモリロナイト、膨潤性フッ素雲母、又はアパタイトが好ましい。また、無機充填材(D)としては、ガラス繊維又は炭素繊維がより好ましく、ガラス繊維がさらに好ましい。
【0087】
無機充填材(D)がガラス繊維又は炭素繊維である場合、数平均繊維径(d)が3μm以上30μm以下であることが好ましく、5μm以上17μm以下であることがより好ましい。また、重量平均繊維長(L)が100μm以上750μm以下であることが好ましい。さらに、重量平均繊維長(L)に対する数平均繊維径(d)のアスペクト比((L)/(d))が3以上100以下であるものが好ましく、10以上100以下であるものがより好ましい。上記構成のガラス繊維又は炭素繊維を用いることで、より高い特性を発現することができる。
【0088】
また特に、無機充填材(D)がガラス繊維である場合、数平均繊維径(d)が3μm以上30μm以下であることが好ましく、5μm以上17μm以下であることがより好ましく、7μm以上13μm以下であることが特に好ましい。また、重量平均繊維長(L)が103μm以上500μm以下であることがより好ましい。さらに、アスペクト比((L)/(d))が3以上100以下であるものが好ましい。
【0089】
無機充填材(D)の数平均繊維径(d)及び重量平均繊維長(L)は、以下の方法を用いて測定することができる。
まず、ポリアミド樹脂組成物を電気炉に入れて、含まれる有機物を焼却処理する。当該処理後の残渣分から、100本以上の無機充填材(D)を任意に選択し、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して、これらの無機充填材(D)の繊維径(長径)を測定することにより、数平均繊維径(d)を求めることができる。加えて、倍率1000倍で撮影した、上記100本以上の無機充填材(D)についてのSEM写真を用いて繊維長を計測することにより、重量平均繊維長(L)を求めることができる。
【0090】
ポリアミド樹脂組成物中の無機充填材(D)の含有量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、5質量部以上200質量部以下が好ましく、10質量部以上200質量部以下がより好ましく、20質量部以上150質量部以下がさらに好ましく、30質量部以上120質量部以下が特に好ましく、40質量部以上100質量部以下が最も好ましい。
無機充填材(D)の含有量が上記下限値以上であると、ポリアミド樹脂組成物の強度及び剛性等の機械物性がより向上し、且つ、ハイサイクル成形により適したものとすることができる。一方、無機充填材(D)の含有量が上記上限値以下であると、より表面外観性に優れるポリアミド樹脂組成物を得ることができる。
【0091】
<ニグロシン(E)>
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、ニグロシン(E)を含むことができる。本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、ニグロシン(E)を含有することにより、脂肪酸金属塩(B)との相互作用により、脂肪酸金属塩(B)の分散性を向上させる効果があるため、成形サイクル性や成形品にしたときに表面光沢性、レーザー印字性により優れるポリアミド樹脂組成物とすることができる。
【0092】
ポリアミド樹脂組成物中のニグロシン(E)の含有量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、0質量部超0.5質量部以下が好ましく、0.01質量部以上0.3質量部以下がより好ましく、0.05質量部以上0.1質量部以下がさらに好ましい。
ニグロシン(E)の含有量が上記下限値以上であると、ポリアミド樹脂組成物の成形サイクル性や成形品にしたときに表面光沢性、レーザー印字性により優れたポリアミド樹脂組成物を得ることができる。一方、ニグロシン(E)の含有量が上記上限値以下であると、レーザー印字性により優れるポリアミド樹脂組成物を得ることができる。
【0093】
本実施形態のポリアミド樹脂組成物に含まれるニグロシン(E)は、塩化物イオン(Cl-)を含んでもよい。塩化物イオンの含有量は、ニグロシン(E)中に質量基準で5000ppm以下であることが好ましく、2500ppm以下がより好ましく、1000ppm以下がさらに好ましい。塩化物イオンの含有量が質量基準で5000ppm以下であることで、脂肪酸金属塩(B)との相互作用が適切に調整され、脂肪酸金属塩(B)の分散性が良好となり、形状パラメータkが高くなる傾向にある。
【0094】
本実施形態のポリアミド樹脂組成物中の塩化物イオン含有量は、特に限定されないが、ポリアミド樹脂組成物中に質量基準で5ppm以下であることが好ましく、2.5ppm以下がより好ましく、1ppm以下がさらに好ましい。塩化物イオンの含有量が質量基準で5ppm以下であることで、脂肪酸金属塩(B)との相互作用が適切に調整され、脂肪酸金属塩(B)の分散性が良好となり、形状パラメータkが高くなる傾向にある。
なお、ポリアミド樹脂組成物中の塩化物イオン含有量は、ポリアミド樹脂組成物を構成する各成分の塩化物イオン含有量、各成分の含有比率を調整することで調整することができる。
【0095】
<その他の成分(F)>
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、本実施形態のポリアミド樹脂組成物の効果を損なわない範囲で、その他の成分(F)を含んでもよい。その他の成分(F)としては、熱安定剤、その他のポリマー、亜リン酸金属塩、次亜リン酸金属塩、亜リン酸エステル化合物及びその他添加剤が挙げられる。
その他の成分(F)は、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0096】
[熱安定剤]
熱安定剤としては、以下に制限されないが、例えば、フェノール系熱安定剤、リン系熱安定剤、アミン系熱安定剤、元素周期律表の第3族、第4族及び第11~14族の元素の金属塩、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のハロゲン化物等が挙げられる。
【0097】
フェノール系熱安定剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ヒンダードフェノール化合物等が挙げられる。ヒンダードフェノール化合物は、ポリアミド等の樹脂や繊維に優れた耐熱性及び耐光性を付与する性質を有する。
【0098】
ヒンダードフェノール化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド)、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマミド)、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-tert-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9-ビス{2-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホネート-ジエチルエステル、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、及び1,3,5-トリス(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)イソシアヌル酸等が挙げられる。
これらは、ヒンダードフェノール化合物は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
特に、耐熱エージング性向上の観点から、ヒンダードフェノール化合物としては、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド)]が好ましい。
【0099】
フェノール系熱安定剤を用いる場合、ポリアミド樹脂組成物中のフェノール系熱安定剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の総質量に対して、0.01質量%以上1質量%以下が好ましく、0.1質量%以上1質量%以下がより好ましい。フェノール系熱安定剤の含有量が上記の範囲内の場合、ポリアミド樹脂組成物の押出加工性及び成形加工安定性をより一層向上させ、さらにガス発生量をより低減させることができる。
【0100】
リン系熱安定剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ペンタエリスリトール型ホスファイト化合物、トリオクチルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリデシルホスファイト、オクチルジフェニルホスファイト、トリスイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、フェニルジ(トリデシル)ホスファイト、ジフェニルイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、ジフェニル(トリデシル)ホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチル-5-メチルフェニル)ホスファイト、トリス(ブトキシエチル)ホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニル-テトラ-トリデシル)ジホスファイト、テトラ(C12~C15混合アルキル)-4,4’-イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、4,4’-イソプロピリデンビス(2-tert-ブチルフェニル)-ジ(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ビフェニル)ホスファイト、テトラ(トリデシル)-1,1,3-トリス(2-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)ブタンジホスファイト、テトラ(トリデシル)-4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニル)ジホスファイト、テトラ(C1~C15混合アルキル)-4,4’-イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、トリス(モノ、ジ混合ノニルフェニル)ホスファイト、4,4’-イソプロピリデンビス(2-tert-ブチルフェニル)-ジ(ノニルフェニル)ホスファイト、9,10-ジ-ヒドロ-9-オキサ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-オキサイド、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)ホスファイト、水素化-4,4’-イソプロピリデンジフェニルポリホスファイト、ビス(オクチルフェニル)-ビス(4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニル))-1,6-ヘキサノールジホスファイト、ヘキサトリデシル-1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ジホスファイト、トリス(4、4’-イソプロピリデンビス(2-tert-ブチルフェニル))ホスファイト、トリス(1,3-ステアロイルオキシイソプロピル)ホスファイト、2、2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、2,2-メチレンビス(3-メチル-4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)2-エチルヘキシルホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチル-5-メチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスファイト、及びテトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスファイト等が挙げられる。
これらリン系熱安定剤は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、リン系熱安定剤としては、ポリアミド樹脂組成物の押出加工性及び成形加工安定性の一層の向上及びガス発生量の低減という観点から、ペンタエリスリトール型ホスファイト化合物及びトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトからなる群より選ばれる1種以上が好ましい。
【0101】
ペンタエリスリトール型ホスファイト化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-フェニル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-メチル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-2-エチルヘキシル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-イソデシル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-ラウリル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-イソトリデシル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-ステアリル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル・シクロヘキシル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-ベンジル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル・エチルセロソルブ-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-ブチルカルビトール-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-オクチルフェニル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-ノニルフェニル・ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-2,6-ジ-tert-ブチルフェニル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-2,4-ジ-tert-ブチルフェニル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-2,4-ジ-tert-オクチルフェニル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル-2-シクロヘキシルフェニル-ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-アミル-4-メチルフェニル-フェニル・ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-アミル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、及びビス(2,6-ジ-tert-オクチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
これらペンタエリスリトール型ホスファイト化合物は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0102】
中でも、ペンタエリスリトール型ホスファイト化合物としては、ポリアミド樹脂組成物のガス発生量を低減させる観点から、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-アミル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、及び、ビス(2、6-ジ-tert-オクチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトからなる群より選ばれる1種以上が好ましく、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトがより好ましい。
【0103】
リン系熱安定剤を用いる場合、ポリアミド樹脂組成物中のリン系熱安定剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の総質量に対して、0.01質量%以上1質量%以下が好ましく、0.1質量%以上1質量%以下がより好ましい。リン系熱安定剤の含有量が上記の範囲内の場合、ポリアミド樹脂組成物の押出加工性及び成形加工安定性をより一層向上させ、さらにガス発生量をより低減させることができる。
【0104】
アミン系熱安定剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、4-アセトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ステアロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-アクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(フェニルアセトキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ステアリルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-シクロヘキシルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ベンジルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-フェノキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(エチルカルバモイルオキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(シクロヘキシルカルバモイルオキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(フェニルカルバモイルオキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-カーボネート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-オキサレート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-マロネート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-セバケート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-アジペート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-テレフタレート、1,2-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルオキシ)-エタン、α,α’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルオキシ)-p-キシレン、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルトリレン-2,4-ジカルバメート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-ヘキサメチレン-1,6-ジカルバメート、トリス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-ベンゼン-1,3,5-トリカルボキシレート、トリス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-ベンゼン-1,3,4-トリカルボキシレート、1-[2-{3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}ブチル]-4-[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジノールとβ,β,β’,β’-テトラメチル-3,9-[2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン]ジエタノールとの縮合物等が挙げられる。
これらアミン系熱安定剤は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0105】
アミン系熱安定剤を用いる場合、ポリアミド樹脂組成物中のアミン系熱安定剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の総質量に対して、0.01質量%以上1質量%以下が好ましく、0.1質量%以上1質量%以下がより好ましい。アミン系熱安定剤の含有量が上記の範囲内の場合、ポリアミド樹脂組成物の押出加工性及び成形加工安定性をより一層向上させることができ、さらにガス発生量をより低減させることができる。
【0106】
元素周期律表の第3族、第4族及び第11~14族の元素の金属塩としては、これらの族に属する金属の塩であれば何ら制限されることはない。
中でも、ポリアミド樹脂組成物の押出加工性及び成形加工安定性を一層向上させる観点から、銅塩が好ましい。かかる銅塩としては、以下に制限されないが、例えば、ハロゲン化銅、酢酸銅、プロピオン酸銅、安息香酸銅、アジピン酸銅、テレフタル酸銅、イソフタル酸銅、サリチル酸銅、ニコチン酸銅、ステアリン酸銅、キレート剤に銅の配位した銅錯塩が挙げられる。
【0107】
ハロゲン化銅としては、例えば、ヨウ化銅、臭化第一銅、臭化第二銅、塩化第一銅等が挙げられる。
キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸等が挙げられる。
これら銅塩は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、銅塩としては、ヨウ化銅、臭化第一銅、臭化第二銅、塩化第一銅及び酢酸銅からなる群より選ばれる1種以上が好ましく、ヨウ化銅及び酢酸銅からなる群より選ばれる1種以上がより好ましい。上記に挙げた好ましい銅塩を用いた場合、耐熱エージング性により優れ、且つ、押出時のスクリューやシリンダー部の金属腐食(以下、単に「金属腐食」とも称する場合がある)をより効果的に抑制できるポリアミド樹脂組成物が得られる。
【0108】
熱安定剤として銅塩を用いる場合、ポリアミド樹脂組成物中の銅塩の含有量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、0.01質量部以上0.60質量部以下が好ましく、0.02質量部以上0.40質量部以下がより好ましい。銅塩の含有量が上記範囲内の場合、ポリアミド樹脂組成物の押出加工性及び成形加工安定性をより一層向上させるとともに、銅の析出や金属腐食をより効果的に抑制することができる。
【0109】
また、上記の銅塩に由来する銅元素の含有濃度は、ポリアミド樹脂組成物の耐熱エージング性を向上させる観点から、ポリアミド樹脂(A)106質量部(100万質量部)に対して、10質量部以上2000質量部以下が好ましく、30質量部以上1500質量部以下がより好ましく、50質量部以上500質量部以下がさらに好ましい。
【0110】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属のハロゲン化物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ヨウ化カリウム、臭化カリウム、塩化カリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。
これらアルカリ金属又はアルカリ土類金属のハロゲン化物は、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のハロゲン化物としては、耐熱エージング性の向上及び金属腐食の抑制という観点から、ヨウ化カリウム及び臭化カリウムからなる群より選ばれる1種以上が好ましく、ヨウ化カリウムがより好ましい。
【0111】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属のハロゲン化物を用いる場合、ポリアミド樹脂組成物中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属のハロゲン化物の含有量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、0.05質量部以上20質量部以下が好ましく、0.2質量部以上10質量部以下がより好ましい。アルカリ金属又はアルカリ土類金属のハロゲン化物の含有量が上記の範囲内の場合、ポリアミド樹脂組成物の押出加工性及び成形加工安定性がより一層向上するとともに、銅の析出や金属腐食をより効果的に抑制することができる。
【0112】
上記で説明してきた熱安定剤の成分は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0113】
中でも、熱安定剤としては、ポリアミド樹脂組成物の押出加工性及び成形加工安定性をより一層向上させる観点から、銅塩と、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のハロゲン化物との混合物が好ましい。
【0114】
銅塩と、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のハロゲン化物との含有比は、銅に対するハロゲンのモル比(ハロゲン/銅)として、2/1以上40/1以下が好ましく、5/1以上30/1以下がより好ましい。銅に対するハロゲンのモル比(ハロゲン/銅)が上記した範囲内の場合、ポリアミド樹脂組成物の押出加工性及び成形加工安定性をより一層向上させることができる。
また、銅に対するハロゲンのモル比(ハロゲン/銅)が上記下限値以上である場合、銅の析出及び金属腐食をより効果的に抑制することができる。一方、銅に対するハロゲンのモル比(ハロゲン/銅)が上記上限値以下である場合、機械的物性(靭性等)を殆ど損なうことなく、成形機のスクリュー等の腐食をより効果的に防止できる。
【0115】
[その他のポリマー]
本実施形態のポリアミド樹脂組成物の効果を損なわない範囲で、その他のポリマーを添加してもよい。その他のポリマーとしては、ポリアミド以外のものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエステル、液晶ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、ポリアリレート、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂等が挙げられる。ポリエステルとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。
【0116】
その他のポリマーの含有量は、ポリアミド(A)100質量部に対して、1質量部以上200質量部以下が好ましく、5質量部以上100質量部以下がより好ましく、5質量部以上50質量部質量部以下がさらに好ましい。その他のポリマーの含有量が上記範囲内であることにより、耐熱性、離型性により優れるポリアミド樹脂組成物とすることができる。
【0117】
[亜リン酸金属塩、次亜リン酸金属塩]
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、亜リン酸金属塩及び次亜リン酸金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属塩を含んでもよい。亜リン酸金属塩及び次亜リン酸金属塩としては、例えば、亜リン酸、次亜リン酸、ピロ亜リン酸又は二亜リン酸と、周期律表第1族及び第2族の元素、マンガン、亜鉛、アルミニウム、アンモニア、アルキルアミン、シクロアルキルアミン又はジアミンとの塩等が挙げられる。
中でも、亜リン酸金属塩及び次亜リン酸金属塩としては、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カルシウム、又は次亜リン酸マグネシウムが好ましい。
これら亜リン酸金属塩及び次亜リン酸金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むと、押出加工性及び成形加工安定性により優れるポリアミド樹脂組成物を得ることができる。
【0118】
亜リン酸金属塩及び次亜リン酸金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属塩の含有量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、0.001質量部以上1.0質量部以下が好ましく、0.01質量部以上0.5質量部以下がより好ましい。
【0119】
[亜リン酸エステル化合物]
亜リン酸エステル化合物としては、具体的には、例えば、トリオクチルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリデシルホスファイト、オクチル-ジフェニルホスファイト、トリスイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、フェニルジ(トリデシル)ホスファイト、ジフェニルイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、ジフェニルトリデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス[2,4-ビス(1,1-ジメチルエチル)-6-メチルフェニル]エチルホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニル-ジ-トリデシル)ホスファイト、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ジトリデシルホスファイト-5-tert-ブチル-フェニル)ブタン、4,4’-イソプロピリデンビス(フェニル-ジアルキルホスファイト)、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト等が挙げられる。
これら亜リン酸エステル化合物は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
亜リン酸エステル化合物を添加すると、押出加工性及び成形加工安定性により優れるポリアミド樹脂組成物を得ることができる。
【0120】
亜リン酸エステル化合物の含有量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、0.01質量部以上1.0質量部以下が好ましく、0.05質量部以上0.5質量部以下がより好ましい。
【0121】
[その他添加剤]
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、本実施形態のポリアミド樹脂組成物の効果を損なわない範囲で、ポリアミド樹脂組成物に慣用的に用いられるその他添加剤を含んでもよい。その他添加剤としては、例えば、顔料及び染料等の着色剤(着色マスターバッチを含む)、難燃剤、フィブリル化剤、蛍光漂白剤、可塑化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、流動性改良剤、展着剤、エラストマー等が挙げられる。
【0122】
本実施形態のポリアミド樹脂組成物が、その他添加剤を含有する場合、その他添加剤の含有量は、その種類やポリアミド樹脂組成物の用途等によって様々であるため、本実施形態のポリアミド樹脂組成物の効果を損なわない範囲であれば特に制限されることはないが、例えば、ポリアミド樹脂組成物100質量%に対して、0質量%以上5質量%以下であってよく、0.01質量%以上1.5質量%以下であってよい。
【0123】
<ポリアミド樹脂組成物の製造方法>
ポリアミド樹脂組成物の製造方法としては、ポリアミド樹脂(A)及び脂肪酸金属塩(B)と、必要に応じて、脂肪酸アマイド化合物(C)、無機充填材(D)、ニグロシン(E)、及びその他の成分(F)を溶融混錬する工程を含む製造方法であれば、特に限定されるものではない。
【0124】
上記(A)成分及び(B)成分、並びに必要に応じて、(C)~(F)の各成分の混合方法としては、例えば、以下の(1)又は(2)の方法等が挙げられる。
(1)上記(A)成分及び(B)成分、並びに必要に応じて、(C)~(F)の各成分を、ヘンシェルミキサー等を用いて混合し、溶融混練機に供給して混練する方法。
(2)上記(A)成分及び(B)成分、並びに必要に応じて、(C)、(E)及び(F)の各成分を、予めヘンシェルミキサー等を用いて混合してこれらの成分を含む混合物を調製し、当該混合物を溶融混練機に供給して混練した後に、必要に応じて、サイドフィダーから(D)成分を配合して混錬する方法。
【0125】
ポリアミド樹脂組成物を構成する成分を溶融混練機に供給する方法は、すべての構成成分を同一の供給口に一度に供給してもよく、構成成分をそれぞれ異なる供給口から供給してもよい。
【0126】
溶融混練の温度は、ポリアミド樹脂(A)の融点より1℃以上100℃以下程度高い温度が好ましく、ポリアミド樹脂(A)の融点より10℃以上60℃以下程度高い温度がより好ましい。
【0127】
混練機での剪断速度は100sec-1以上程度が好ましい。また、混練時の平均滞留時間は0.5分間以上5分間以下程度が好ましい。
【0128】
溶融混練機としては、公知の装置であればよく、例えば、単軸又は2軸押出機、バンバリーミキサー、ミキシングロール等が好ましく用いられる。
【0129】
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を製造する際の各成分の配合量は、上述したポリアミド樹脂組成物における各成分の含有量と同様である。
【0130】
<ポリアミド樹脂組成物の特性>
[脂肪酸金属塩(B)の金属イオンの分散性(形状パラメータk)]
上述したポリアミド樹脂組成物の表面を下記の測定に供して算出される、脂肪酸金属塩(B)の金属イオン1つ当たりの空間面積に関する面積分布において、ガンマ分布の形状パラメータkは1.0以上であり、1.3以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、2.0以上がさらに好ましい。
脂肪酸金属塩(B)の金属イオンの分散性(形状パラメータk)が上記下限値以上であることで、耐ブリードアウト性に優れ、ハイサイクル成形に適したポリアミド樹脂組成物を得ることができる。
[測定]
ポリアミド樹脂組成物の表面における脂肪酸金属塩(B)の金属イオンをマッピングした分布画像又は金属イオンイメージの強度情報画像において、ポリアミド樹脂組成物の表面の金属イオン1つ当たりの空間面積を算出すべく、金属イオンの中心を母点としてボロノイ分割を行う。ボロノイ分割により得られた各領域の空間面積を算出して空間面積毎に分類してヒストグラムを作成し、ヒストグラムの分布状態から以下の式で表されるガンマ分布の形状パラメータkを算出する。
【化3】
(式中、k:形状パラメータ、θ:尺度パラメータ、x:空間面積)
【0131】
金属イオンの分散性(形状パラメータk)の制御方法としては、ポリアミド樹脂組成物の製造時に溶融混錬機の出口樹脂温度を調整する方法や、ポリアミド樹脂組成物が脂肪酸アマイド化合物(C)を含む場合には、脂肪酸金属塩(B)と脂肪酸アマイド化合物(C)の質量比率Bw/Cwや脂肪酸金属塩(B)と脂肪酸アマイド化合物(C)の末端炭化水素基の炭素数比率Bn/Cnを調整する方法、ポリアミド樹脂組成物がニグロシン(E)を含有するなどにより塩化物イオンを含む場合には、ポリアミド樹脂組成物中の塩化物イオンの含有量を調整する方法等が挙げられる。金属イオンの分散性(形状パラメータk)が上記範囲であるために、ポリアミド樹脂組成物の製造において溶融混錬機における出口樹脂温度を290℃以上にすることが好ましい。また、脂肪酸金属塩(B)と脂肪酸アマイド化合物(C)の質量比率Bw/Cw及び脂肪酸金属塩(B)と脂肪酸アマイド化合物(C)の末端炭化水素基の炭素数比率Bn/Cnが上述の範囲を満たすことが好ましい。また、ポリアミド樹脂組成物中の塩化物イオンの含有量が上述の範囲を満たすことが好ましい。
【0132】
形状パラメータkの算出方法は、ポリアミド樹脂組成物の表面における脂肪酸金属塩(B)の金属イオンをマッピングした分布画像、又は金属イオンイメージの強度情報画像からボロノイ分割にて各金属イオンの空間面積を算出し、空間面積毎に分類して作成したヒストグラムの分布状態から密度関数にて求める方法であれば、特に限定されるものではない。
形状パラメータkの算出に使用する解析方法として、ポリアミド樹脂組成物の表面における脂肪酸金属塩(B)の金属イオンをマッピングできるものであれば、特に限定されず、公知の観察方法が用いられる。公知の観察方法としては、以下に限定されるものではないが、例えば、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)などの一般的に知られる表面の分子、元素解析方法が挙げられる。測定は、必要に応じて成形品に対して行うこともでき、プレート状などの成形品の平滑表面で測定するのが好ましい。
上記観察方法にて得られた分布画像は、Otsu法で画像を二値化することでイオン分布を正確に得られる傾向にある。または、金属イオンイメージの強度情報画像を用いる場合には、二値化を行わず、データから描写して解析を行うことができる。
【0133】
≪成形品≫
本実施形態の成形品は、上記の本実施形態のポリアミド樹脂組成物を含むものであり、上記の本実施形態のポリアミド樹脂組成物を成形してなる。
成形品の製造方法としては、特に限定されず、公知の成形方法を用いることができる。
公知の成形方法としては、以下に限定されるものではないが、例えば、プレス成形、射出成形、ガスアシスト射出成形、溶着成形、押出成形、吹込成形、フィルム成形、中空成形、多層成形、溶融紡糸等、一般に知られているプラスチック成形方法が挙げられる。
【0134】
また、上述したポリアミド樹脂組成物は、ハイサイクル成形に適していることから、本実施形態の成形品は、ハイサイクル成形によって好適に製造される。
【0135】
本実施形態の成形品は、表面光沢値が高い。本実施形態の成形品の表面光沢値は、50以上が好ましく、70以上がより好ましく、80以上がさらに好ましい。成形品の表面光沢値が上記下限値以上であると、得られる成形品を自動車部品、電気及び電子部品、産業資材部品、工業材料部品、並びに日用品及び家庭用品等の各種部品として好適に使用することができる。
【0136】
本実施形態の成形品は、上記ポリアミド樹脂組成物から得られるので、機械特性、特に吸水剛性、熱時剛性、流動性、表面外観性及び耐腐食性に優れる。そのため、この成形品は、自動車部品、電気及び電子部品、家電部品、OA(Office Automation)機器部品、携帯機器部品、産業機器部品、日用品及び家庭用品等の各種部品として、また、押出用途等に好適に用いることができる。中でも、成形品は、自動車部品、電気及び電子部品、家電部品、OA機器部品又は携帯機器部品として好適に用いられる。
【0137】
自動車部品としては、特に限定されるものではないが、例えば、吸気系部品、冷却系部品、燃料系部品、内装部品、外装部品、電装部品等が挙げられる。
【実施例0138】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0139】
実施例及び比較例に用いたポリアミド樹脂組成物の各構成成分について説明する。
【0140】
<構成成分>
[脂肪族ポリアミド(A-a)]
A-a-1:ポリアミド6(宇部興産社製、商品名:「SF1013A」、Mw(A-a):31500、Mw(A-a)/Mn(A-a):2.2)
A-a-2:ポリアミド66(後述する方法により合成した。)
【0141】
[半芳香族ポリアミド(A-b)]
A-b-1:ポリアミド6I(後述する方法により合成した。)
A-b-2:ポリアミド6I/6T(エムス社製、商品名:「G21」、Mw(A-b):27000、Mw(A-b)/Mn(A-b):2.4)
A-b-3:ポリアミドMXD6(東洋紡社製東洋紡ナイロン、商品名「T-600」、Mw(A-b):45000、Mw(A-b)/Mw(A-b):2.2)
【0142】
[脂肪酸金属塩(B)]
B-1:モンタン酸ナトリウム(Clariant社製、商品名:「LICOMONT NAV101」)
B-2:モンタン酸カルシウム(Clariant社製、商品名:LICOMONT CAV102」)
B-3:ステアリン酸カルシウム(日油社製、商品名:「カルシウムステアレートG」)
【0143】
[脂肪酸アマイド化合物(C)]
C-1:N,N’-エチレンビスステアリン酸アミド(花王社製、商品名:「カオーワックスEB-P」)
C-2:N-ステアリルエルカ酸アミド(日本精化社製、商品名:「SNT-P」)
【0144】
[無機充填材(D)]
D-1:ガラス繊維(GF)(日本電気硝子製、商品名:「ECS03T275H」、数平均繊維径10μm、カット長(重量平均繊維長)3mm)
【0145】
[(E)ニグロシン]
E-1:ニグロシン(オリエント化学社製、TH807)(塩化物イオンの濃度:0.06質量%)
E-2:ニグロシン(オリエント化学社製、TH870)(塩化物イオンの濃度:1.6質量%)
【0146】
[(F)その他の成分]
F-1:カーボンブラック(CB)(三菱化学社製、商品名:「#45」)
【0147】
<ポリアミドの製造>
脂肪族ポリアミド(A-a-2)、半芳香族ポリアミド(A-b-1)の各製造方法について以下に詳細を説明する。なお、下記製造方法によって得られた脂肪族ポリアミド(A-a-2)、半芳香族ポリアミド(A-b-1)は、窒素気流中で乾燥し、水分率を約0.2質量%に調整してから、後述の実施例及び比較例におけるポリアミド樹脂組成物の原料として用いた。
【0148】
[脂肪族ポリアミド(A-a-2)(ポリアミド66)の合成]
「熱溶融重合法」によりポリアミドの重合反応を以下のとおり実施した。
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1500gを蒸留水1500gに溶解させ、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。この水溶液を、内容積5.4Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した。110℃以上150℃以下の温度下で撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。その後、内部温度を220℃に昇温した。このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。そのまま1時間、内部温度が245℃になるまで、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。次に、1時間かけて圧力を降圧した。その後、オートクレーブ内を真空装置で650torr(86.66kPa)の減圧下に10分維持した。このとき、重合の最終内部温度は265℃であった。
その後、窒素で加圧し下部紡口(ノズル)からストランド状にし、水冷、カッティングを行いペレット状で排出して、100℃、窒素雰囲気下で12時間乾燥し、結晶性脂肪族ポリアミド(A-a-2)(ポリアミド66)を得た。
得られた結晶性脂肪族ポリアミド(A-a-2)(ポリアミド66)は、Mw(A-a)は35000、Mw(A-a)/Mn(A-a)は2.0であった。
【0149】
[半芳香族ポリアミド(A-b-1)(ポリアミド6I)の合成]
「熱溶融重合法」によりポリアミドの重合反応を以下のとおり実施した。
まず、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1500g、並びに、全等モル塩成分に対して1.5モル%過剰のアジピン酸及び0.5モル%の酢酸を蒸留水1500gに溶解させ、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。次いで、110℃以上150℃以下の温度下で撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。次いで、内部温度を220℃に昇温した。このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。そのまま1時間、内部温度が245℃になるまで、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。次いで、30分かけて圧力を降圧した。次いで、オートクレーブ内を真空装置で650torr(86.66kPa)の減圧下に10分維持した。このとき、重合の最終内部温度は265℃であった。
次いで、窒素で加圧し下部紡口(ノズル)からストランド状にし、水冷、カッティングを行いペレット状で排出した。次いで、ペレットを100℃、窒素雰囲気下で12時間乾燥し、半芳香族ポリアミド(A-b-1)((ポリアミド6I)を得た。
得られた半芳香族ポリアミド(A-b-1)((ポリアミド6I)は、ジカルボン酸単位中のイソフタル酸単位の含有量は100モル%であった。Mw(A-b)は20000、Mw(A-b)/Mn(A-b)は2.0であった。
【0150】
<物性の測定方法及び評価方法>
実施例及び比較例で得られたポリアミド樹脂組成物のペレットを、窒素気流中で乾燥し、ポリアミド樹脂組成物中の水分量を500質量ppm以下にした。次いで、水分量を調整した各ポリアミド樹脂組成物のペレットを用いて、下記の方法により各種物性及び各種評価を実施した。
【0151】
[ポリアミド樹脂組成物の分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)]
各ポリアミド樹脂組成物の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、GPC(東ソー株式会社製、HLC-8020、ヘキサフルオロイソプロパノール溶媒、PMMA(ポリメチルメタクリレート)標準サンプル(ポリマーラボラトリー社製)換算)で測定した。次いで、得られたMw及びMnを用いて、分子量分布(Mw/Mn)を計算した。なお、GPCカラムはTSK-GEL GMHHR-MとG1000HHRを使用した。
【0152】
[脂肪酸金属塩(B)の金属イオンの分散性(形状パラメータk)の測定]
各ポリアミド樹脂組成物について、射出成形機(NEX50III-5EG、日精樹脂工業株式会社製)を用いて平板プレート成形片(6cm×9cm×厚さ3mm)を製造した。冷却時間25秒、スクリュー回転数200rpm、金型温度90℃、シリンダー温度280℃に設定し、充填時間が1.6±0.1秒の範囲となるように、射出圧力及び射出速度を適宜調整した。
成形片の任意の位置における表面をTOF-SIMSを用いて下記観察条件にて観察、測定することにより、金属イオンイメージの強度情報画像を得た。得られた金属イオンイメージの強度情報画像から、金属イオン1つ当たりの空間面積を算出した。算出については、強度情報画像において金属イオンのプロット数が200以上2000以下になるように強度の強いものから選択し、各金属イオンの空間面積を求めるために各金属イオンの中心を母点としてボロノイ分割を行った。なお、外側にはみ出している多角形は削除した。
ボロノイ分割により得られた各領域の空間面積を面積毎に分類した後に、ヒストグラムを作成し、得られたヒストグラムの分布状態から下記の式で表されるガンマ分布の形状パラメータkを算出した。
【化4】
(式中、k:形状パラメータ、θ:尺度パラメータ、x:空間面積)
(観察条件)
使用機器:nanо TOF (アルバック・ファイ社製)
一次イオン:Bi
3++
加速電圧:30kV
イオン電流:0.1nA(DCとして)
分析面積:600μm×600μm
分析時間:15min
検出イオン:正イオン
中和:電子銃
酸素導入:有 5.0×10
-5Pa
【0153】
[塩化物イオンの含有量]
ポリアミド樹脂組成物のペレットに含まれる塩化物イオン(Cl-)の含有量を燃焼イオンクロマトグラフィによって定量した。具体的には、三菱化学アナリテック製自動試料燃焼装置AQF-2100Hを使用し、吸収液として超純水(過酸化水素水、抱水ヒドラジン含有)を用いた燃焼菅燃焼法によってサンプルを作製した。イオンクロマトグラフィ(IC)の装置には、Thermo Fisher Scientific製のIntegrion RFICを、カラムにはThermo Fisher Scientific製のIonPac AS18-4μm(4mmφ×150mm)を、溶離液にはKOH水溶液を、検出器には、UV検出器を使用した。
測定結果から、下式を用いて塩化物イオン(Cl-)の含有量を算出した。
「Cl-の含有量(質量ppm)」
=[(IC測定値(mg/L))×(希釈率)-(ブランクのIC測定値(mg/L))]×[(吸収液量(mL))/1000]×[1000000/(試料の質量(mg))]
【0154】
[吸水後の曲げ弾性率保持率]
各ポリアミド樹脂組成物について、厚み4mmのISOダンベルを作製し、試験片とした。得られた試験片を用いて、ISO178に準じて、吸水前の曲げ弾性率を測定した。次いで、ISOダンベルを恒温恒湿(温度:23℃、相対湿度:50%)雰囲気下に放置し、吸水平衡に達した後、ISO178に準じて吸水後の曲げ弾性率を測定した。吸水後の曲げ弾性率保持率(%)を、下記式を用いて求めた。
「吸水後の曲げ弾性率保持率(%)」=(吸水後の曲げ弾性率)/(吸水前の曲げ弾性率)×100
吸水後曲げ弾性率保持率が90%以上である場合を評価A(優れる)、80%以上90%未満である場合を評価B(良好)、70%以上80%未満である場合を評価C(可)、70%より低い場合を評価D(不良)として、吸水時の剛性を評価した。
【0155】
[低速外観]
各ポリアミド樹脂組成物について、射出成形機(NEX50III-5EG、日精樹脂工業株式会社製)を用いて、平板プレート成形片(6cm×9cm×厚さ3mm)を製造した。冷却時間25秒、スクリュー回転数200rpm、金型温度90℃、シリンダー温度280℃に設定し、充填時間が4.5±0.1秒の範囲となるように、射出圧力及び射出速度を適宜調整した。
このようにして作製した平板プレート成形片の表面外観を以下の基準で評価した。
(評価基準)
A(良好):平板プレート成形片にガラス繊維が見られない。
B(可):平板プレート成形片の一部にガラス繊維が見られる。
C(不良):平板プレート成形片全体にガラス繊維が見られる。
【0156】
[表面光沢]
各ポリアミド樹脂組成物について、射出成形機(NEX50III-5EG、日精樹脂工業株式会社製)を用いて、平板プレート成形片(6cm×9cm×厚さ3mm)を製造した。冷却時間25秒、スクリュー回転数200rpm、金型温度90℃、シリンダー温度280℃に設定し、充填時間が1.6±0.1秒の範囲となるように、射出圧力及び射出速度を適宜調整した。
このようにして作製した平板プレート成形片の主面の中央部について、光沢計(HORIBA製IG320)を用いてJIS-K7150に準じて60度グロスを測定した。該測定値が大きいほど表面外観に優れると判断した。
【0157】
[離型時間]
各ポリアミド樹脂組成物について、射出成形機(NEX50III-5EG、日精樹脂工業株式会社製)を用いて、平板プレート成形片(6cm×9cm×厚さ3mm)を製造した。射出時間15秒、スクリュー回転数200rpm、金型温度90℃、シリンダー温度280℃に設定し、充填時間が1.6±0.1秒の範囲となるように、射出圧力及び射出速度を適宜調整した。その際、金型から成形片が連続して10ショット自然落下(自動落下)する最短の冷却時間を離型時間(秒)とした。離型時間が短いほど離型性に優れると判断した。
【0158】
[ブリードアウト試験]
各ポリアミド樹脂組成物について、射出成形機(NEX50III-5EG、日精樹脂工業株式会社製)を用いて、平板プレート成形片(6cm×9cm×厚さ3mm)を製造した。冷却時間25秒、スクリュー回転数200rpm、金型温度90℃、シリンダー温度280℃に設定し、充填時間が1.6±0.1秒の範囲となるように、射出圧力及び射出速度を適宜調整した。
このようにして作製した平板プレート成形片を恒温恒湿槽(温度:80℃、相対湿度:95%)に500時間静置した。平板プレート成形片を取り出し、表面に発生したブリード物を観察して、ブリードアウトの起こりにくさ(耐ブリードアウト性)を以下の基準で評価した。
(評価基準)
A(良好):平板プレート成形片にブリード物が見られない。
B(可):平板プレート成形片の一部にブリード物が見られる。
C(不良):平板プレート成形片全体にブリード物が見られる。
【0159】
[レーザー印字性]
各ポリアミド樹脂組成物について、射出成形機(NEX50III-5EG、日精樹脂工業株式会社製)を用いて、平板プレート成形片(6cm×9cm×厚さ3mm)を製造した。冷却時間25秒、スクリュー回転数200rpm、金型温度90℃、シリンダー温度280℃に設定し、充填時間が1.6±0.1秒の範囲となるように、射出圧力及び射出速度を適宜調整した。
キーエンス社製レーザマーカー、商品名「MD-V9920」を用いて、3mm×3mmの正方形からなる印字をレーザーマーキングによって成形片の平面上に施して、成形品を得た。レーザーマーキングの条件は、波長1064nm、走査速度2000mm/秒、出力5.2Wまたは9.1W、加工周波数20kHz、加工ピッチ50μmとした。
レーザー印字性の目視による評価判定基準は下記の通りとした。
(評価基準)
A(良好):レーザーマーキングされた部分とされていない部分のコントラストが非常に鮮明であり、さらに文字潰れが無い。
B(可):レーザーマーキングされた部分とされていない部分のコントラストが鮮明であり、一部文字潰れが生じている。
C(不良):レーザーマーキングされた部分とされていない部分のコントラストが不鮮明であり、全体的に文字潰れが生じている。
【0160】
[実施例1~12及び比較例1~9]
東芝機械社製、TEM58SX二軸押出機(設定温度:280℃、吐出量400kg/h、スクリュー回転数300rpm、樹脂温度300~340℃)を用いて、押出機最上流部に設けられたトップフィード口より、(A)~(C)成分及び(F)成分を予めブレンドしたものを供給し、押出機下流側(トップフィード口より供給された樹脂が充分溶融している状態)のサイドフィード口より(D)成分を供給した。ダイヘッドより押し出された溶融混練物をストランド状で冷却し、ペレタイズしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。各ポリアミド樹脂組成物の配合量は表1及び表2に示すとおりとした。
各種物性の測定及び評価結果を表1~表3に示す。
【0161】
[比較例10]
コペリオン社製、ZSK-26Mc二軸押出機(設定温度:280℃、吐出量25kg/h、スクリュー回転数300rpm、出口樹脂温度280℃)を用いて、押出機最上流部に設けられたトップフィード口より、(A)~(C)成分及び(F)成分を予めブレンドしたものを供給し、押出機下流側(トップフィード口より供給された樹脂が充分溶融している状態)のサイドフィード口より(D)成分を供給した。ダイヘッドより押し出された溶融混練物をストランド状で冷却し、ペレタイズしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。ポリアミド樹脂組成物の配合量は表2に示すとおりとした。
各種物性の測定及び評価結果を表2に示す。
【0162】
[実施例13、14及び比較例11、12]
東芝機械社製、TEM58SX二軸押出機(設定温度:280℃、吐出量400kg/h、スクリュー回転数300rpm、樹脂温度300~340℃)を用いて、押出機最上流部に設けられたトップフィード口より、(A)~(C)成分、(E)成分及び(F)成分を予めブレンドしたものを供給し、押出機下流側(トップフィード口より供給された樹脂が充分溶融している状態)のサイドフィード口より(D)成分を供給した。ダイヘッドより押し出された溶融混練物をストランド状で冷却し、ペレタイズしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。各ポリアミド樹脂組成物の配合量は表3に示すとおりとした。
各種物性の測定及び評価結果を表3に示す。
【0163】
【0164】
【0165】
【0166】
表1から、(A)成分及び(B)成分を含み、且つ、形状パラメータkが1.0以上である実施例1~12のポリアミド樹脂組成物から得られた成形品は、ハイサイクル成形に適した離型性を備え、且つ、成形品としたときの吸水時の剛性、表面外観性、耐ブリードアウト性に優れていた。また、レーザー印字性にも優れていた。
また、(D)成分の有無の差がある実施例1と実施例2の比較において、(D)成分を配合することで、離型性及び耐ブリードアウト性により優れる傾向がみられた。
また、炭素数比率Bn/Cnが同一であって、質量比率Bw/Cwが異なる実施例2、6、及び7において、質量比率Bw/Cwが増加するほど、離型性に優れる傾向がみられ、減少するほど、表面外観性により優れる傾向がみられた。
また、(A)成分中の(A-b)成分の比率が異なる実施例2、3、及び4において、(A-b)成分の比率が増加するほど、吸水時の剛性及び表面外観性により優れる傾向がみられた。一方で、(A)成分中の(A-b)成分の比率が小さい方が、離型性に優れる傾向がみられた。
また、(C)成分の種類及び炭素数比率Bn/Cnが異なる実施例2及び12の比較において、脂肪酸アマイド化合物(C-1)を配合し、且つ、炭素数比率Bn/Cnが増加するほど、離型性及び表面外観性により優れる傾向がみられた。
また、(A-a)成分の種類が異なる実施例2及び10の比較において、脂肪族ポリアミド(A-a-1)(PA6)を配合することで、表面外観性により優れる傾向がみられた。
【0167】
(B)成分を含まない比較例4のポリアミド樹脂組成物から得られた成形品は、吸水時の剛性及び表面外観性は良好であったが、離型性が不良であった。
また、押出条件を変更した比較例10のポリアミド樹脂組成物を用いた成形品は、形状パラメータkが実施例より低く、吸水時の剛性及び表面外観性は良好であったが、離型性が不良であった。
【0168】
表3から、(E)成分を含む実施例13、14のポリアミド樹脂組成物は、実施例2と比較して、形状パラメータkが高く、離型性と表面外観性により優れる傾向にあった。
また、(E)成分を含むが、塩化物イオン含有量が多い比較例11、12は、形状パラメータkが実施例より低く、離型性が不良であった。また、レーザー印字性が実施例13、14に比べて劣っていた。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、成形品としたときの吸水時の剛性、表面外観性、耐ブリードアウト性に優れ、ハイサイクル成形に適しており、また、本発明のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形品は、吸水時の剛性、表面外観性、耐ブリードアウト性に優れる。そのため、本発明の成形品は、自動車部品、電気及び電子部品、産業資材部品、工業材料部品、並びに日用品及び家庭品等の各種部品として好適に使用することができる。