(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167103
(43)【公開日】2024-12-02
(54)【発明の名称】地切り制御装置、及び、移動式クレーン
(51)【国際特許分類】
B66C 23/00 20060101AFI20241125BHJP
B66C 13/46 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
B66C23/00 A
B66C13/46 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021162599
(22)【出願日】2021-10-01
(71)【出願人】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】110001793
【氏名又は名称】弁理士法人パテントボックス
(72)【発明者】
【氏名】南 佳成
【テーマコード(参考)】
3F204
3F205
【Fターム(参考)】
3F204AA04
3F204FD02
3F204FD06
3F205AA05
3F205CA03
3F205CB02
(57)【要約】
【課題】荷振れを抑制しつつ、迅速に吊荷を地切りすることのできる地切り制御装置を提供する。
【解決手段】地切り制御装置Dは、ブーム14と;ウインチ13と;荷重計測手段22と;制御部(コントローラ40)であって吊荷を地切りする際に、ブーム14の起伏角速度に基づくフィードフォワード制御、及び、ブーム14の作業姿勢に基づくフィードバック制御、の両方に基づいて制御する、制御部(コントローラ40)と;を備えている。また、起伏角速度に基づくフィードフォワード制御において、起伏角速度は、荷重計測手段22によって計測された荷重の時間変化に基づいて起伏角度の変化量として計算され、該変化量を補うようにブーム14を起仰させるようになっている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
起伏自在に構成されるブームと;
ワイヤを介して吊荷を巻上/巻下げるウインチと;
前記ブームに作用する荷重を計測する荷重計測手段と;
前記ブーム及び前記ウインチを制御する制御部であって、吊荷を地切りする際に、前記ブームの起伏角速度に基づくフィードフォワード制御、及び、前記ブームの姿勢に基づくフィードバック制御、の両方に基づいて制御する、制御部と;
を備える、地切り制御装置。
【請求項2】
前記起伏角速度の前記フィードフォワード制御において、前記起伏角速度は、前記荷重計測手段によって計測された荷重の時間変化に基づいて起伏角度の変化量として計算され、該変化量を補うように前記ブームを起仰させるようになっている、請求項1に記載された、地切り制御装置。
【請求項3】
前記ブームの姿勢に基づくフィードバック制御は、前記ブームの起伏角に基づくフィードバック制御である、請求項1又は請求項2に記載された、地切り制御装置。
【請求項4】
前記起伏角に基づく前記フィードバック制御において、制御の目標となる目標起伏角は、前記荷重計測手段によって計測された荷重に基づいて計算されるようになっている、請求項3に記載された、地切り制御装置。
【請求項5】
前記ブームの姿勢に基づくフィードバック制御は、前記ブームの作業半径に基づくフィードバック制御である、請求項1又は請求項2に記載された、地切り制御装置。
【請求項6】
前記ブームの作業半径に基づく前記フィードバック制御において、制御の目標となる目標作業半径は、制御開始時の作業半径が記憶されて使用されるようになっている、請求項5に記載された、地切り制御装置。
【請求項7】
前記制御部は、計測された荷重の時系列データを監視し、前記時系列データの最初の極大値を捉えて地切りしたと判定するようにされている、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載された、地切り制御装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載された地切り制御装置を備える、移動式クレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地面から吊荷を吊り上げる際の荷振れを抑制するための地切り制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ブームを備えたクレーンにおいて、地面から吊荷を吊り上げる際に、すなわち吊荷を地切りする際に、ブームに生じるたわみによって作業半径が増大することによって、吊荷が水平方向に振れる「荷振れ」が問題となっている(
図1参照)。
【0003】
地切りの際の荷振れを防止することを目的として、例えば、特許文献1に記載された鉛直地切り制御装置は、エンジン回転数センサによってエンジンの回転数を検出し、ブームの起仰作動をエンジン回転数に応じた値に補正するように構成されている。このような構成によって、エンジン回転数の変化を加味した正確な地切り制御を実施できる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1を含む従来の地切り制御装置は、ウインチでワイヤが伸びた分だけ巻上げ、起伏を上げることにより作業半径を一定に保つように、2つのアクチュエータを併用して制御していた。そのため、複雑な制御となることで地切りに時間がかかってしまう、という問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、荷振れを抑制しつつ、迅速に吊荷を地切りすることのできる地切り制御装置と、地切り制御装置を備えた移動式クレーンと、を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するために、本発明の地切り制御装置は、起伏自在に構成されるブームと;ワイヤを介して吊荷を巻上/巻下げるウインチと;前記ブームに作用する荷重を計測する荷重計測手段と;前記ブーム及び前記ウインチを制御する制御部であって、吊荷を地切りする際に、前記ブームの起伏角速度に基づくフィードフォワード制御、及び、前記ブームの姿勢に基づくフィードバック制御、の両方に基づいて制御する、制御部と;を備えている。
【発明の効果】
【0008】
このように、本発明の地切り制御装置は、ブームと;ウインチと;荷重計測手段と;吊荷を地切りする際に、ブームの起伏角速度に基づくフィードフォワード制御、及び、ブームの姿勢に基づくフィードバック制御、の両方に基づいて制御する、制御部と;を備えている。このように、FF制御とFB制御とを併用することによって、荷振れを抑制しつつ、迅速に吊荷を地切りすることのできる地切り制御装置となる。特に、FB制御を併用することによって、地切り制御のロバスト性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】吊荷の荷振れについて説明する説明図である。
【
図4】地切り制御装置の全体のブロック線図である。
【
図5】地切り制御(起伏角に基づくFB制御の場合)のブロック線図である。
【
図6】地切り制御(作業半径に基づくFB制御の場合)のブロック線図である。
【
図8】地切り判定の手法について説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る実施例について図面を参照して説明する。ただし、以下の実施例に記載されている構成要素は例示であり、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0011】
本実施例では、移動式クレーンとしては、例えば、ラフテレーンクレーン、オールテレーンクレーン、トラッククレーン等が挙げられる。以下、本実施例に係る作業車両としてラフテレーンクレーンを例に説明するが、他の移動式クレーンにも、本発明に係る地切り制御装置(安全装置)を適用することができる。
【0012】
(移動式クレーンの構成)
まず、
図2の側面図を用いて、移動式クレーンの構成について説明する。本実施例のラフテレーンクレーン1は、
図2に示すように、走行機能を有する車両の本体部分となる車体10と、車体10の四隅に設けられたアウトリガ11,・・・と、車体10に水平旋回可能に取り付けられた旋回台12と、旋回台12の後方に取り付けられたブーム14と、を備えている。
【0013】
アウトリガ11は、スライドシリンダを伸縮させることによって、車体10から幅方向外側にスライド張出/スライド格納可能であるとともに、ジャッキシリンダを伸縮させることによって車体10から上下方向にジャッキ張出/ジャッキ格納可能である。
【0014】
旋回台12は、旋回モータ61の動力が伝達されるピニオンギヤを有しており、このピニオンギヤが車体10に設けた円形状のギヤに噛み合うことで旋回軸を中心に回動する。旋回台12は、右前方に配置された操縦席18と、後方に配置されたカウンタウェイト19と、を有している。
【0015】
さらに、旋回台12の後方には、ワイヤ16を巻上/巻下げるためのウインチ13が配置されている。ウインチ13は、ウインチモータ64を正方向/逆方向に回転させることによって、巻上げ方向(巻き取る方向)/巻下げ方向(繰り出す方向)の2方向に回転するようになっている。
【0016】
ブーム14は、基端ブーム141と(1つ又は複数の)中間ブーム142と先端ブーム143とによって入れ子式に構成されており、内部に配置された伸縮シリンダ63によって伸縮できるようになっている。先端ブーム143の最先端のブームヘッド144にはシーブが配置され、シーブにワイヤ16が掛け回されてフック17が吊下げられている。
【0017】
基端ブーム141の付け根部は、旋回台12に設置された支持軸に回動自在に取り付けられており、支持軸を回転中心として上下に起伏できるようになっている。そして、旋回台12と基端ブーム141の下面との間には、起伏シリンダ62が架け渡されており、起伏シリンダ62を伸縮することでブーム14全体を起伏することができるようになっている。
【0018】
(制御系の構成)
次に、
図3のブロック図を用いて、本実施例の地切り制御装置Dの制御系の構成について説明する。地切り制御装置Dは、制御部としてのコントローラ40を中心として構成されている。コントローラ40は、入力ポート、出力ポート、演算装置などを有する汎用の(マイクロ)コンピュータである。
【0019】
また、本実施例のコントローラ40は、操作レバー51~54(旋回レバー51、起伏レバー52、伸縮レバー53、ウインチレバー54)からの操作信号を受けて、図示しない制御バルブを介してアクチュエータ61~64(旋回モータ61、起伏シリンダ62、伸縮シリンダ63、ウインチモータ64)を制御する。
【0020】
さらに、本実施例のコントローラ40には、地切り制御を開始/停止するための地切りスイッチ20と、地切り制御におけるウインチ13の速度を設定するためのウインチ速度設定手段21と、ブーム14に作用する荷重を計測する荷重計測手段22と、ブーム14の姿勢を検出するための姿勢検出手段23と、が接続されている。
【0021】
地切りスイッチ20は、地切り制御の開始又は停止を指示するための入力機器であり、例えば、ラフテレーンクレーン1の安全装置に付加する構成とすることが可能であり、操縦席18に配置されることが好ましい。
【0022】
ウインチ速度設定手段21は、地切り制御におけるウインチ13の速度を設定する入力機器であり、あらかじめ設定された速度から適切な速度を選択する方式のものや、テンキーによって入力する方式のものがある。さらに、ウインチ速度設定手段21は、地切りスイッチ20と同様に、ラフテレーンクレーン1の安全装置に付加する構成とすることが可能であり、操縦席18に配置されることが好ましい。このウインチ速度設定手段21によってウインチ13の速度を調整することで、地切り制御に要する時間を調整することができる。
【0023】
荷重計測手段22は、ブーム14に作用する荷重を計測する計測機器であり、例えば、起伏シリンダ62に作用する圧力を計測する圧力計(22)とすることができる。圧力計(22)によって計測された圧力信号は、コントローラ40に伝送される。
【0024】
姿勢検出手段23は、ブーム14の姿勢を検出する計測機器であり、ブーム14の起伏角度を計測する起伏角度計231と、起伏角速度を計測する起伏角速度計232と、ブーム14の長さ(全長)を計測する長さ計測器233と、から構成される。具体的には、起伏角度計231としては、ポテンショメータを用いることができる。また、起伏角速度計232としては、起伏シリンダ15に取り付けられたストロークセンサを用いることができる。さらに、長さ計測器233は、コードと巻取リールと回転変位計とから構成することができる。なお、後述するように、起伏角速度のFF制御には、荷重計測手段22によって計測された荷重に基づいて計算された予測値が使用される。起伏角度計231によって計測された起伏角度信号、起伏角速度計232によって計測された起伏角速度信号、及び、長さ計測器233によって計測された長さ信号は、コントローラ40に伝送される。
【0025】
コントローラ40は、ブーム14及びウインチ13の作動を制御する制御部であり、地切りスイッチ20がONにされることでウインチ13を巻上げて吊荷を地切りする際に、ブーム14の起伏角速度に基づくフィードフォワード制御(FF制御)、及び、ブーム14の起伏角又は作業半径に基づくフィードバック制御(FB制御)、の両方を実行する。
【0026】
起伏角速度のFF制御は、荷重計測手段22によって計測された荷重の時間変化に基づいて、ブーム14の起伏角度の変化量を予測し、この予測された変化量を補うようにブーム14を起仰させる。すなわち、後述する(数3)に示すように、起伏角速度は起伏角度の変化量として、荷重の時間変化(微分)に基づいて計算(予測・推定)される。
【0027】
起伏角に基づくFB制御は、荷重計測手段22によって計測された荷重に基づいて、ブーム14の目標起伏角を算出し、この目標起伏角となるように、(計測された起伏角速度から換算された)起伏角を追従させる。
【0028】
作業半径に基づくFB制御は、制御開始時の作業半径が記憶されて、この目標作業半径を一定に保持するように起伏角を追従させる。ここにおいて、作業半径は、起伏角度計231で計測されたブーム14の起伏角度と、長さ計測器233で計測されたブーム14の長さと、荷重計測手段(圧力計)22によって計測された圧力(撓み計算に用いられる)と、を用いて、幾何学的な関係に基づいて計算される。
【0029】
より具体的に言うと、コントローラ40は、前述したFF制御及びFB制御を実施するための機能部として、FF制御とFB制御の併用機能部40aと、実際に地切りされたか否かを判定することによって地切り制御を停止させる地切り判定機能部40bと、を有している。
【0030】
併用機能部40aは、荷重計測手段としての圧力計22からの圧力の初期値と、姿勢計測手段としての起伏角度計23からの起伏角度の初期値と、の入力を受けて、適用する特性テーブル又は伝達関数を決定する。ここにおいて、伝達関数としては、以下のように、線形係数aを用いた関係を適用することができる。
【0031】
(FF制御で用いられる線形係数の導出)
まず、
図9の荷重-起伏角のグラフに示すように、荷振れが生じないようにブーム先端位置が常に吊荷の真上にくるように調整した場合に、荷重と起伏角(先端対地角度)は線形の関係にあることがわかっている。地切り中に、時刻t
1から時刻t
2の間に荷重Load
1がLoad
2へ変化したと仮定すると、
【0032】
【0033】
【数2】
起伏角を制御するためには、起伏角速度を与える必要がある。
【0034】
【数3】
ここで、aは定数(線形係数)である。すなわち、起伏角制御(起伏角速度のFF制御)は、荷重の時間変化(微分)が入力になる。
【0035】
(FB制御で用いられる目標起伏角の導出)
特性計測の結果によれば、たわみ角の変化は梁モデルによって近似できることがわかった。安全装置(制御装置)の荷重と実荷重のずれを考慮すると、たわみ角は以下のように表される。
【数4】
W:荷重
L:ブーム長
R:作業半径―ブーム根元ピン位置
K:線形係数(作業半径、長さの関数)
【0036】
具体的には、補正起伏角量の推定式は次式となる。
【数5】
W:荷重
L:ブーム長
R:作業半径―ブーム根元ピン位置
C
BM:ブーム状態のLA/RAモデル係数
【0037】
(理論のまとめ)
上述したように、角速度(起伏角速度)を用いたFF制御と、角度(起伏角)を用いたFB制御と、を併用することによって、地切り制御の精度を向上させることができる。すなわち、即応性は角速度情報を用いたFF制御、外乱に対するロバスト性は角度情報を用いたFB制御で担保される。
【数6】
【0038】
地切り判定機能部40bは、荷重計測手段としての圧力計22からの圧力信号から計算した荷重の値の時系列データを監視し、地切りの有無を判定する。地切り判定の手法については、
図8を用いて後述する。
【0039】
(全体のブロック線図)
次に、
図4のブロック線図を用いて、本実施例の地切り制御を含む全体の要素間の入力・出力関係を説明する。まず、荷重変化算出部71において、荷重計測手段22によって計測された荷重の時系列データに基づいて荷重変化が計算される。計算された荷重変化は、目標軸速度算出部72に入力される。この目標軸速度算出部72における入力・出力関係については、
図5を用いて後述する。
【0040】
目標軸速度算出部72では、起伏角の初期値と、設定ウインチ速度と、入力された荷重変化と、に基づいて、目標軸速度が算出される。目標軸速度は、ここでは、目標起伏角速度(及び、必須ではないが、目標ウインチ速度)である。算出された目標軸速度は、軸速度コントローラ73に入力される。ここまでの前半部分の制御が、FF制御に関する処理である。
【0041】
その後、軸速度コントローラ73、軸速度の操作量変換処理部74を経て操作量が制御対象75に入力される。この後半部分の制御は、FB制御に関する処理であり、計測された起伏角速度から起伏角が算出され、この起伏角がフィードバック制御されている。
【0042】
(FF制御及びFB制御(起伏角に基づく)のブロック線図)
次に、
図5のブロック線図を用いて、本実施例のフィードフォワード制御(FF制御)とフィードバック制御(起伏角に基づくFB制御)の並行処理について、より具体的な入出力関係を詳細に説明する。
【0043】
FF制御では、図示しないが、初期のクレーン姿勢が、併用機能部(40a)に入力される。併用機能部(40a)では、特性テーブル又は伝達関数を使用して、最も適切な定数(線形係数)aが選択される。そして、数値微分部81において、荷重変化の数値微分(時間に関する微分)が実施されて、換算部82で初期のクレーン姿勢から求められた定数aを乗ずることで、目標起伏角速度が計算される。すなわち、「数3」の計算が実行される。
【0044】
FB制御では、起伏角が直接的に計測されるか、又は、起伏角速度の数値積分が実施されて起伏角度に換算されて、起伏角度変化量が求められる。一方で、換算部83において、初期のクレーン姿勢から求められた定数aと荷重値の時間変化に基づいて、目標起伏角補正量が計算される。すなわち、「数4(数5)」の計算が実行される。そして、この目標起伏角補正量に基づいて、起伏角をフィードバック制御する。このFB制御において、例えば、
図5に示すPD制御することや、PID制御することが好ましい。
【0045】
その後、FF制御で得られた目標起伏角速度と、FB制御で得られた目標起伏角速度と、を加え合わせてフィルタ処理することで、起伏角速度制御信号とする。すなわち、上述した処理において、「数6」の計算が実行される。
【0046】
(FF制御及びFB制御(作業半径に基づく)のブロック線図)
同様に、
図6のブロック線図を用いて、本実施例のフィードフォワード制御(FF制御)とフィードバック制御(作業半径に基づくFB制御)の並行処理について、より具体的な入出力関係を詳細に説明する。
【0047】
FF制御では、図示しないが、初期のクレーン姿勢が、併用機能部(40a)に入力される。併用機能部(40a)では、特性テーブル又は伝達関数を使用して、最も適切な定数(線形係数)aが選択される。そして、数値微分部81において、荷重変化の数値微分(時間に関する微分)が実施されて、換算部82で初期のクレーン姿勢から求められた定数aを乗ずることで、目標起伏角速度が計算される。すなわち、「数3」の計算が実行される。
【0048】
FB制御では、作業半径が計測される。すなわち、ブーム14の長さと角度と荷重(圧力)の計測値を用いて、幾何学的な関係に基づいて作業半径が求められる。そして、求められた作業半径は、起伏角変換部83Aにおいて起伏角に変換される。一方、作業半径の初期値(制御開始時の作業半径)が目標値として記憶されており、起伏角変換部83Bにおいて目標起伏角に変換される。そして、この目標起伏角となるように、起伏角をフィードバック制御する。このFB制御において、例えば、
図6に示すPD制御することや、PID制御することが好ましい。
【0049】
その後、FF制御で得られた目標起伏角速度と、FB制御で得られた目標起伏角速度と、を加え合わせてフィルタ処理することで、起伏角速度制御信号とする。すなわち、上述した処理において、「数6」の計算が実行される。
【0050】
なお、上述した作業半径に基づくフィードバック制御において、「作業半径」は、その都度計算するのではなく、クレーンの個体ごとに実測値から作成されたデータ(安全装置中に荷重―撓み(作業半径)のデータ(テーブル)として保持される)を用いることが好ましい。
【0051】
(フローチャート)
次に、
図7のフローチャートを用いて、本実施例の地切り制御の全体の流れについて説明する。
【0052】
はじめに、オペレータが地切りスイッチ20を押すことで地切り制御が開始される(START)。このとき、地切り制御の開始前に又は開始後に、ウインチ速度設定手段21を介して、ウインチ13の目標速度が設定される。そうすると、コントローラ40は、一定の目標速度で、ウインチ制御(巻上げ)を開始する(ステップS1)。
【0053】
次に、ウインチ13が巻上げられると同時に、荷重計測手段22によって吊荷荷重計測が開始されて、コントローラ40に荷重値が入力される(ステップS2)。そうすると、併用機能部40aでは、荷重の初期値と、姿勢計測手段としての起伏角度計23からの起伏角度の初期値と、の入力を受けて、適用する特性テーブル又は伝達関数が決定される(ステップS31)。
【0054】
次に、コントローラ40では、適用される特性テーブル又は伝達関数と、荷重変化と、に基づいて、起伏角速度が算出される(ステップS32)。すなわち、起伏角速度がフィードフォワード制御される。
【0055】
このステップS31及びステップS32と並行して、起伏角がフィードバック制御される(ステップS4)。すなわち、コントローラ40は、計測された起伏角速度に基づいて時々刻々の起伏角を算出し、それと同時に計測された荷重値に基づいて時々刻々の目標起伏角を算出する。そして、起伏角が目標起伏角となるように、起伏シリンダ62を制御する。あるいは、コントローラ40は、制御開始時の作業半径を記憶して、記憶された初期作業半径を一定に保つように、起伏シリンダ62を制御する。
【0056】
実際の処理では、起伏角をFB制御しようとして算出された起伏角速度と、起伏角速度のFF制御で算出された起伏角速度と、を足し合わせて、起伏シリンダ62の制御信号を作成することで、FF制御とFB制御を併用するようになっている(式6参照)。
【0057】
そして、計測されている荷重の時系列データに基づいて地切りの有無が判定される(ステップS5)。なお、判定手法については後述する。判定の結果、地切りされていない場合は(ステップS5のNO)、ステップS2へ戻って、荷重に基づくフィードフォワード制御とフィードバック制御の併用制御を繰り返す(ステップS2~ステップS5)。
【0058】
判定の結果、地切りされている場合は(ステップS5のYES)、地切り制御を緩停止する(ステップS6)。すなわち、ウインチモータによるウインチ13の回転駆動速度を落としながら停止するとともに、起伏シリンダ62による起伏駆動速度を落としながら停止する。
【0059】
(地切り判定)
次に、
図8のグラフを用いて、本実施例の地切り判定の手法について説明する。本実施例では、コントローラ40は、地切り制御においてウインチ13を巻き上げている途中に、計測された荷重の時系列データを監視しており、この時系列データの最初の極大値を捉えて地切りしたものと判定するようにされている。
【0060】
より具体的に言うと、
図8に示すように、一般に、荷重データの時系列をとると、地切りした次の瞬間にオーバーシュートし、さらにアンダーシュートし、その後、振動し続けるように推移する。したがって、振動の最初の山の頂点の時刻、すなわち、最初の極大値、を捉えることで、地切りしたことを判定することができる。ただし、実際には、地切りしていると判定した時刻である、最初の極大値を記録した時刻では、慣性力を受けてややオーバーシュートしている状態と考えられる。
【0061】
(効果)
次に、本実施例の地切り制御装置Dの奏する効果を列挙して説明する。
【0062】
(1)上述してきたように、本実施例の地切り制御装置Dは、ブーム14と;ウインチ13と;荷重計測手段22と;制御部(コントローラ40)であってウインチ13を巻上げて吊荷を地切りする際に、ブーム14の起伏角速度に基づくフィードフォワード制御、及び、ブーム14の姿勢に基づくフィードバック制御、の両方に基づいて制御する、制御部(コントローラ40)と;を備えている。このように、FF制御とFB制御とを併用することによって、荷振れを抑制しつつ、迅速に吊荷を地切りすることのできる地切り制御装置Dとなる。特に、FB制御を併用することによって、地切り制御のロバスト性を向上させることができる。
【0063】
つまり、フィードフォワード制御のみでは、モデル誤差や外乱の影響に対応できない場合がある。しかしながら、フィードバック制御を併用することで、モデル誤差や外乱が生じた場合でも、状況に即応して荷振れなく自動で地切りすることができる。
【0064】
(2)また、起伏角速度に基づくフィードフォワード制御において、起伏角速度は、荷重計測手段22によって計測された荷重の時間変化に基づいて起伏角度の変化量として計算され、該変化量を補うようにブーム14を起仰させるようになっている。このように、地切り制御装置Dは、荷重と起伏角速度補正量がモデル化された関数を用いるため、調整工数や計算負荷が小さくなる。加えて、荷重変化やロープ長などの従来計測していた手法よりも、目標値が明確になるため、フック揺れ(移動)をより抑えられる。
【0065】
(3)また、ブーム14の姿勢に基づくフィードバック制御は、ブーム14の起伏角に基づくフィードバック制御であることが好ましい。そうすれば、FF制御で用いられる線形係数を利用して、荷重変化に合わせた時々刻々の目標起伏角を算出できる。この目標起伏角を目標値として、計測された起伏角度とのズレを補償するようにFB制御を実施することでロバスト性を高めることができるのである。主に、アクチュエータの応答遅れ、外乱の補償に効果がある。
【0066】
(4)さらに、起伏角のフィードバック制御において、制御の目標となる目標起伏角は、荷重計測手段22によって計測された荷重に基づいて計算されるようになっている。このように、地切り制御装置Dは、荷重と起伏角補正量がモデル化された関数を用いるため、調整工数や計算負荷が小さくなる。
【0067】
(5)また、ブーム14の姿勢に基づくフィードバック制御は、ブーム14の作業半径に基づくフィードバック制御であることが好ましい。このように構成すれば、FF制御とは別のより多くの計測値(パラメータ)を用いてFB制御できるため、より精度よく制御することが可能となる。
【0068】
さらに、上述の起伏角に基づくFB制御では、FF制御で用いられる関数(線形係数を含む)を利用できるメリットがある。一方、関数自体にモデル誤差を含んでいるために、完全にFF制御のモデル誤差を補償することはできない。主に、アクチュエータの応答遅れ、外乱の補償に効果がある。一方で、作業半径に基づくFB制御であれば、モデル誤差の要因がなくなるため、モデル誤差が大きい場合には有効な制御手段といえる。
【0069】
(6)また、ブーム14の作業半径に基づくフィードバック制御において、制御の目標となる目標作業半径は、制御開始時の作業半径が記憶されて使用されるようになっていることが好ましい。このように構成すれば、実測値(幾何学的な計算は含む)のみに用いて制御できるため、モデル誤差の影響を
排除することができる。
【0070】
(7)さらに、本実施例の地切り制御装置Dは、ウインチ13を巻上げて吊荷を地切りする際に、計測された荷重の時系列データを監視し、時系列データの最初の極大値を捉えて地切りしたと判定するようにされている。このように荷重のみに基づいて制御することによって、簡易かつ迅速に地切りを判定することができる。
【0071】
(8)また、本実施例の移動式クレーンであるラフテレーンクレーン1は、上述したいずれかの地切り制御装置Dを備えることで、荷振れを抑制しつつ、迅速に吊荷を地切りすることのできるラフテレーンクレーン1となる。
【0072】
また、地切り制御装置Dは、ウインチ13を巻上げて吊荷を地切りする際に、ウインチ13の速度を調整することによって、地切りに要する時間を調整するようにされていることが好ましい。このように構成すれば、吊荷の重量や環境条件に応じて適切なウインチ13の速度を選択することで、安全かつ効率よく作業することができる。
【0073】
以上、図面を参照して、本発明の実施例を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0074】
例えば、実施例では、フィードバック制御の例として、起伏角に基づくモードと作業半径に基づくモードとに分けて説明したが、これらはいずれかのモードを選択可能に構成することが実用的である。
【0075】
また、実施例では、操縦席18に配置された地切りスイッチ20によって地切り制御が開始されるものとして説明したが、これに限定されるものではなく、タブレット等を用いて遠隔操作することも可能である。
【0076】
また、実施例では説明しなかったが、上述した起伏角速度のFF制御と、起伏角のFB制御と、に加えて、起伏角速度情報を用いた速度フィードバック制御をさらに併用することも可能である。
【0077】
その他、実施例では特に説明しなかったが、ウインチとしてメインウインチを使用して地切りする場合でも、サブウインチを使用して地切りする場合でも、本発明の地切り制御装置Dを適用することができる。
【符号の説明】
【0078】
D:地切り制御装置; a:線形係数;
1:ラフテレーンクレーン; 10:車体; 12:旋回台;
13:ウインチ; 14:ブーム; 16:ワイヤ; 17:フック;
20:地切りスイッチ;
21:ウインチ速度設定手段;
22:圧力計(荷重計測手段);
23:起伏角度計(姿勢検出手段);
231:起伏角度計; 232:起伏角速度計; 233:長さ計測器;
40:コントローラ;
40a:併用機能部; 40b:地切り判定機能部;
51:旋回レバー; 52:起伏レバー;
53:伸縮レバー; 54:ウインチレバー;
61:旋回モータ; 62:起伏シリンダ;
63:伸縮シリンダ; 64:ウインチモータ