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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167138
(43)【公開日】2024-12-02
(54)【発明の名称】耐火木製構造部材
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/94 20060101AFI20241125BHJP
   E04C 3/29 20060101ALI20241125BHJP
   E04C 3/36 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
E04B1/94 R
E04C3/29
E04C3/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083538
(22)【出願日】2023-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】517242751
【氏名又は名称】合同会社良品店
(71)【出願人】
【識別番号】515046430
【氏名又は名称】株式会社芳賀沼製作
(71)【出願人】
【識別番号】520170852
【氏名又は名称】株式会社日進産業
(74)【代理人】
【識別番号】100126712
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 督生
(72)【発明者】
【氏名】芳賀沼 養一
(72)【発明者】
【氏名】芳賀沼 克彦
(72)【発明者】
【氏名】芳賀沼 佐紀
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 洋一
【テーマコード(参考)】
2E001
2E163
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001FA01
2E001FA02
2E001GA24
2E001GA63
2E001HA03
2E001HA14
2E001HB04
2E001HC01
2E001HE07
2E163FA02
2E163FA12
2E163FG01
2E163FG02
(57)【要約】
【課題】高い耐火能力を有すると共に外観にも配慮した耐火木製構造部材を提供する。
【解決手段】本発明の耐火木製構造部材は、木製基材と、前記木製基材の外周の一部に取り付けられる石膏部材と、前記木製基材と前記石膏部材とから形成される外周に備わる耐火被覆層と、前記耐火被覆層の外周を覆う外観用部材と、を備え、前記耐火被覆層は、(1)シルト由来の複数の中空粒子(以下、「シルト中空粒子」という)を含む塗布剤、(2)複数の中空セラミックスと、前記複数の中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダーと、を有する被覆剤、の少なくとも一方を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木製基材と、
前記木製基材の外周の一部に取り付けられる石膏部材と、
前記木製基材と前記石膏部材とから形成される外周に備わる耐火被覆層と、
前記耐火被覆層の外周を覆う外観用部材と、を備え、
前記耐火被覆層は、
(1)シルト由来の複数の中空粒子(以下、「シルト中空粒子」という)を含む塗布剤、
(2)複数の中空セラミックスと、
前記複数の中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダーと、を有する被覆剤、
の少なくとも一方を含み、
前記耐火被覆層は、加わる熱を遠赤外線に変換して放射し、
前記複数のシルト中空粒子は、複数の異なる粒径のシルト中空粒子を含み、
前記複数の中空セラミックスは、複数の異なる粒径の中空セラミックスを含む、耐火木製構造部材。
【請求項2】
前記木製基材と前記耐火被覆層との間の空間において、
前記石膏部材以外の空間に、空気層が形成される、請求項1記載の耐火木製構造部材。
【請求項3】
前記木製基材が多角形の断面形状を有する場合には、前記石膏部材は、前記多角形の角部に取り付けられる、請求項2記載の耐火木製構造部材。
【請求項4】
前記耐火被覆層は、前記木製基材と前記石膏部材とから形成される外周全体に備わる、請求項1記載の耐火木製構造部材。
【請求項5】
前記外観用部材は、前記耐火被覆層の外周全体を覆う、請求項4記載の耐火木製構造部材。
【請求項6】
前記外観用部材は、木製もしくは木調である、請求項1記載の耐火木製構造部材。
【請求項7】
前記耐火被覆層は、金属箔に積層されている、請求項1記載の耐火木製構造部材。
【請求項8】
前記中空セラミックスは、金属酸化物を含み、
前記金属酸化物は、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化第二鉄(Fe2O3)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)、酸化チタン(TiO)、酸化セリウム(CeO)、二酸化ケイ素(SiO)、三酸化アンチモン(Sb)の少なくとも一つを含む、請求項1記載の耐火木製構造部材。
【請求項9】
前記シルト中空粒子は、SiOおよびAl、FeO、NaO、KO、CaO、MgOの少なくとも一つを含む、請求項1記載の耐火木製構造部材。
【請求項10】
前記中空セラミックスおよび前記シルト中空粒子のそれぞれは、外表面および内部空間を有し、
前記外表面での遠赤外線への変換および前記内部空間での乱反射での遠赤外線の変換の少なくとも一方で、付与される熱を遠赤外線に変換する、請求項1記載の耐火木製構造部材。
【請求項11】
前記木製基材は、柱および梁の少なくとも一方に用いられる、請求項1から10のいずれか記載の耐火木製構造部材。
【請求項12】
多角形の断面形状を有する木製基材と、
前記多角形の角部に取り付けられる石膏部材と、
前記木製基材と前記石膏部材とから形成される外周全体に備わる耐火被覆層と、
前記耐火被覆層の外周を覆う外観用部材と、
前記木製基材と前記耐火被覆層との間の空間において、前記石膏部材以外の部分に形成される空気層と、を備え、
前記外観用部材は、木製もしくは木調であり、
前記耐火被覆層は、
(1)シルト由来の複数の中空粒子(以下、「シルト中空粒子」という)を含む塗布剤、
(2)複数の中空セラミックスと、
前記複数の中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダーと、を有する被覆剤、
の少なくとも一方を含み、
前記耐火被覆層は、加わる熱を遠赤外線に変換して放射し、
前記複数のシルト中空粒子は、複数の異なる粒径のシルト中空粒子を含み、
前記複数の中空セラミックスは、複数の異なる粒径の中空セラミックスを含む、耐火木製構造部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の建築物の柱や梁などの構造部材であって、耐火能力を備えた木製での耐火木製構造部材に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な場所において、住宅、店舗、商業施設、公共施設、医療施設などの様々な種類で多くの建築物がある。これらの建築物は、その特性、大きさ、用途、要求スペックなどによって、使用される材料が選択される。特に、建築物の柱、梁、外壁、内壁、屋根、床などの構造体においては、コンクリート、新建材、木材、あるいはこれらの組み合わせが用いられる。勿論、建築物の基礎部分や、骨格部分などにおいても、コンクリート、新建材、木製部材、あるいはこれらの組み合わせが用いられる。
【0003】
また、コンクリート、新建材、木製部材以外の材料が用いられることもある。
【0004】
最近では、コンクリートだけではなく、柱、梁、外壁、内壁、屋根、床などの構造体に、新建材や木製部材が用いられることが多くなってきている。例えば、木製部材による外壁や床などが構成されることが増えてきている。住宅、店舗、公共施設などにおいては、木製部材により建築された建築物は、環境負荷を低減できるからである。
【0005】
また、居住者や利用者も、木製部材の建築物においては、心身のリラックスを感じることができる。勿論、居住性も高まるメリットがある。木製部材の建築物は、外気温に対する対応性が高い(夏では室内は涼しく、冬では室内は暖かい)、あるいは、室内湿度の適応性が高いといったメリットがある。このため、居住者や利用者の利便性も高まる。
【0006】
加えて、木製部材の建築物は、居住者や利用者の精神的なリフレッシュ効果をもたらすことも多い。特に我が国においては、過去から木造建築物が中心であったので、日本人の精神性に高いメリットがある。海外と異なり、木造建築物が、住居、宗教的施設、公共施設、駅舎、学校、居城などの様々な場所において木造建築物が作られてきた。このような地域、分野、国全体での木造建築物に対する尊敬や身近さがある。
【0007】
また、コンクリートや新建材などに比較して、木製部材は軽量化できる。建築物の素材である建築部材が軽量化できると、基礎工事や建設工事のコスト低下を図ることができる。加えて工期短縮を図ることができるメリットもある。
【0008】
また、日本の国土の大半が森林であるという実情がある。多くの森林には、当然ながら多くの木があり、木材原料は非常に多くある。しかしながら、日本の森林から木を伐採して木材とすることは、コストの観点から進捗せず、国内の森林資源が有効活用されていない面がある。現実には、国内の建築物や家具などの加工品に使用される木材の大半は、輸入品である。
【0009】
加えて、森林管理のために木材を伐採する必要は定期的にあり、木材資源の国内からの供給も定期的に生じる。加えて、他の目的で伐採されて残った間伐材なども存在している。国内の森林資源や木材は、有効活用されていない事情がある。また、近年の世界環境や市況環境の変化によって、国内外の木材価格差が縮まっており、国内の木材資源を活用することも必要な環境が生まれている。
【0010】
日本の森林資源の活用が進まないと、間伐材の処理、森林の植え替え植樹なども進まない問題がある。結果として、森林管理の循環が生まれないことになり、森林荒廃に繋がってしまう問題がある。
【0011】
日本に潤沢にある森林資源(木材資源)を活用するためにも、木製部材が多種多様な建築物に使用されることが必要となっている。例えば、建築物の柱、梁、外壁、内壁、屋根、床面など構造部に木製部材が使用されればよい。この使用により、住宅、店舗、施設、集合住宅などの建築物が建築される。このような木製部材が使用された住宅、店舗、施設、集合住宅などの建築が広まれば、日本の森林資源(木材資源)の活用が進む。こうして、日本の森林管理が促進されるようになる。
【0012】
このように、多くの建築物に木製建築部材が使用されることが望まれている。
【0013】
しかしながら、木製建築部材は、火災発生時に燃えてしまい火災への対応力や耐久力が弱いと考えられている。火災が発生すると焼失に繋がりやすい、周囲への延焼に繋がりやすいといった懸念がある。このような懸念により、木製建築部材の建築物への使用が広がっていない現状がある。
【0014】
このため、木製部材に耐火能力を持たせる技術が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2021-38655号公報
【特許文献2】特開2020-146923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
特許文献1は、荷重支持部2と、荷重支持部2の周囲に被覆された耐火耐火被覆層5と、耐火耐火被覆層5の外側に周設された仕上げ木材層4とを備える木質耐火木製構造部材1であって、耐火耐火被覆層5が湿式耐火被覆材からなり、荷重支持部2と耐火耐火被覆層5との間、および、耐火耐火被覆層5と仕上げ木材層4との間に、水分遮断層5が形成されている木質耐火木製構造部材を、開示する。
【0017】
特許文献1は、水分遮断シートなどの水分遮断層を設けることで、耐火木材において、水分含浸によるデメリットを防止することを目的としている。
【0018】
しかしながら、特許文献1における耐火被覆層は、ロックウールや白セメントなどの吹き付けによって実現されている。このような素材による被覆層は、耐火能力を高めるために厚みを必要として、重量が大きくなってしまう問題がある。すなわち、木質耐火木製構造部材の重量が大きくなる。木質耐火木製構造部材のような建築部材が重くなると、基礎工事の規模が大きくなるうえに、建築工事そのものの工程や手間が増加して、建築コストが大きくなる問題がある。建築作業時の安全性低下の不安もある。
【0019】
また、石膏ボードなどと同様に、ロックウールなどの吹き付けでの被覆層は、火災発生時などに、被覆層が燃えるまでの時間を稼ぐことはできるが、一旦、被覆層が燃えてしまうと、一気に木材も燃えてしまう。火災による熱が加わることで、熱上昇するメカニズムが働くからである。被覆層としてのロックウールや石膏ボードは、そこだけが燃えるのが遅くなるだけであり、燃えることには変わりがない。これが燃え落ちれば、すぐに木材部分が燃え始めて燃え落ちてしまう。
【0020】
結局、木製建築材としての燃焼を遅らせることでの耐火を実現することはできない。また、ロックウールや白セメントなどの吹き付けによる重量増加によって、建築施工での取り扱いが面倒となり、建築コストの増加の問題にも繋がる。
【0021】
特許文献2は、複数の単位木材14が接合され、木質材料に対する不燃化、準不燃化又は難燃化の処理を行うための不燃薬剤が含浸された耐火改質木質材料である。単位木材14は、その木口面kが、耐火改質木質材料16の厚み方向の表裏側となるように配置されたものであり、その木口面kから不燃薬剤が注入されて含浸されている耐火改質木材を、開示する。
【0022】
特許文献2は、木材加工時に耐火対応をするために、建築材としてのコストが非常に大きくなる問題がある。また、流通量を確保するのが困難となり、多くの建築物に使用することが難しい問題もある。加えて、木材の特定の部分の利用に偏るので、森林資源の有効活用が困難となる。また、含浸に基づくために、重量が重くなり、建築コストが高くなる問題もある。
【0023】
また、薬剤注入された建築材となっているので、建築物となった後でのガス化影響を住人などが受ける懸念もある。火災時に、何らかの影響のあるガスが生じる懸念もある。
【0024】
従来技術は、(1)火災時において燃焼を遅らせることを実現する能力が低い、(2)重量の増加による建築材コストや建築コストの増加、(3)建築の手間や使い勝手の悪さ、といった問題を有していた。
【0025】
これらの問題は、壁材、床材、天井材などの木製の平面建築材ではもちろんのこと、建築物の柱や梁といった木製構造部材において顕著である。柱や梁などの木製構造部材は、建築物の強度や構造の中心であり、これらの耐火能力の高さは、より重要だからである。勿論、コストや手間などについても、軽減できることが求められる。
【0026】
本発明は、これらの課題に鑑み、高い耐火能力を有すると共に外観にも配慮した耐火木製構造部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の耐火木製構造部材は、木製基材と、
前記木製基材の外周の一部に取り付けられる石膏部材と、
前記木製基材と前記石膏部材とから形成される外周に備わる耐火被覆層と、
前記耐火被覆層の外周を覆う外観用部材と、を備え、
前記耐火被覆層は、
(1)シルト由来の複数の中空粒子(以下、「シルト中空粒子」という)を含む塗布剤、
(2)複数の中空セラミックスと、
前記複数の中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダーと、を有する被覆剤、
の少なくとも一方を含み、
前記耐火被覆層は、加わる熱を遠赤外線に変換して放射し、
前記複数のシルト中空粒子は、複数の異なる粒径のシルト中空粒子を含み、
前記複数の中空セラミックスは、複数の異なる粒径の中空セラミックスを含む。
【発明の効果】
【0028】
本発明の耐火木製構造部材は、柱や梁などといった木製構造部材での耐火能力を高めることができる。木製構造部材の耐火能力が高まることで、木製建築物全体の耐火能力が高まる。特に、木製建築物の構造部分の耐火能力が高まると、火災などの際に、木製建築物の保存や耐久能力が高まり、住人の避難、鎮火作業などへの容易性も高まる。
【0029】
また、耐火の機能を発揮するための追加される部材などは従来技術に比較して非常に少ない。これにより、軽量化や低コスト化が図られる。また、従来技術に比較して小型化できるので、建築の際の取り扱いも容易化される。更に、建築コストも低減できる。
【0030】
また、外周に外観用木材を装着しているので、外観が綺麗となり、住人へのリラックスを与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の実施の形態1における耐火木製構造部材の断面図である。
図2】本発明の実施の形態1における耐火被覆層での遠赤外線変換と放射を示す模式図である。
図3】本発明の実施の形態1における中空セラミックスにおける遠赤外線変換を示す模式図である。
図4】本発明の実施の形態1における耐火被覆層の模式図である。
図5】本発明の実施の形態1における耐火被覆層の模式図である。
図6】中空セラミックスの粒径により形成される複数のセラミックス層を含む被覆層の模式図である。
図7】本発明の熱放射層による遠赤外線変換と放射を示す試験成績書である。
図8】本発明の熱放射層による遠赤外線変換と放射を示す試験成績書である。
図9】本発明の実施の形態3における実験方法を示す概略図である。
図10】本発明の実施の形態3における耐火実験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の第1の発明に係る耐火木製構造部材は、木製基材と、
前記木製基材の外周の一部に取り付けられる石膏部材と、
前記木製基材と前記石膏部材とから形成される外周に備わる耐火被覆層と、
前記耐火被覆層の外周を覆う外観用部材と、を備え、
前記耐火被覆層は、
(1)シルト由来の複数の中空粒子(以下、「シルト中空粒子」という)を含む塗布剤、
(2)複数の中空セラミックスと、
前記複数の中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダーと、を有する被覆剤、
の少なくとも一方を含み、
前記耐火被覆層は、加わる熱を遠赤外線に変換して放射し、
前記複数のシルト中空粒子は、複数の異なる粒径のシルト中空粒子を含み、
前記複数の中空セラミックスは、複数の異なる粒径の中空セラミックスを含む。
【0033】
この構成により、耐火能力に優れた木製構造部材を実現できる。このような木製構造部材は、建築物の柱や梁などに適用できる。これらの部位の耐火能力が高まることで、建築物の耐火性能も高まる。
【0034】
本発明の第2の発明に係る耐火木製構造部材では、第1の発明に加えて、前記木製基材と前記耐火被覆層との間の空間において、
前記石膏部材以外の空間に、空気層が形成される。
【0035】
この構成により、熱伝導を抑制できることで、火災などで加わる熱の伝導が抑制できる。結果として、木製基材への熱伝導が抑えられて、木製基材の燃え残りを高めることができる。
【0036】
本発明の第3の発明に係る耐火木製構造部材では、第2の発明に加えて、前記木製基材が多角形の断面形状を有する場合には、前記石膏部材は、前記多角形の角部に取り付けられる。
【0037】
この構成により、石膏部材による耐火および空気層の形成が確実にできる。
【0038】
本発明の第4の発明に係る耐火木製構造部材では、第1の発明に加えて、前記耐火被覆層は、前記木製基材と前記石膏部材とから形成される外周全体に備わる。
【0039】
この構成により、耐火被覆層による熱変換と放熱が木製基材の外周全体において行われ、全方位での耐火能力が実現できる。
【0040】
本発明の第5の発明に係る耐火木製構造部材では、第4の発明に加えて、前記外観用部材は、前記耐火被覆層の外周全体を覆う。
【0041】
この構成により、建築物に使用される場合の外観が綺麗になる。
【0042】
本発明の第6の発明に係る耐火木製構造部材では、第1の発明に加えて、前記外観用部材は、木製もしくは木調である。
【0043】
この構成により、木造建築物や木造部分に使用される場合でも、外観調和を生じさせることができる。
【0044】
本発明の第7の発明に係る耐火木製構造部材では、第1の発明に加えて、前記耐火被覆層は、金属箔に積層されている。
【0045】
この構成により、耐火被覆層の形態維持がされて熱変換と放射の維持を長くすることができる。
【0046】
本発明の第8の発明に係る耐火木製構造部材では、第1の発明に加えて、前記中空セラミックスは、金属酸化物を含み、
前記金属酸化物は、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化第二鉄(Fe2O3)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)、酸化チタン(TiO)、酸化セリウム(CeO)、二酸化ケイ素(SiO)、三酸化アンチモン(Sb)の少なくとも一つを含む。
【0047】
この構成により、遠赤外線への変換を効率的に行える。
【0048】
本発明の第9の発明に係る耐火木製構造部材では、第1の発明に加えて、前記シルト中空粒子は、SiOおよびAl、FeO、NaO、KO、CaO、MgOの少なくとも一つを含む。
【0049】
この構成により、遠赤外線への変換を効率的に行える。
【0050】
本発明の第10の発明に係る耐火木製構造部材では、第1の発明に加えて、前記中空セラミックスおよび前記シルト中空粒子のそれぞれは、外表面および内部空間を有し、
前記外表面での遠赤外線への変換および前記内部空間での乱反射での遠赤外線の変換の少なくとも一方で、付与される熱を遠赤外線に変換する。
【0051】
この構成により、遠赤外線への変換を効率的に行える。
【0052】
本発明の第11の発明に係る耐火木製構造部材では、第1の発明に加えて、前記木製基材は、柱および梁の少なくとも一方に用いられる。
【0053】
この構成により、建築物の骨格部分における耐火能力を高めることができる。これにより、火災時などの燃え落ちや燃え崩れを長時間に渡って抑制でき、避難時の安全性などを高めることができる。
【0054】
本発明の第12の発明に係る耐火木製構造部材は、多角形の断面形状を有する木製基材と、
前記多角形の角部に取り付けられる石膏部材と、
前記木製基材と前記石膏部材とから形成される外周全体に備わる耐火被覆層と、
前記耐火被覆層の外周を覆う外観用部材と、
前記木製基材と前記耐火被覆層との間の空間において、前記石膏部材以外の部分に形成される空気層と、を備え、
前記外観用部材は、木製もしくは木調であり、
前記耐火被覆層は、
(1)シルト由来の複数の中空粒子(以下、「シルト中空粒子」という)を含む塗布剤、
(2)複数の中空セラミックスと、
前記複数の中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダーと、を有する被覆剤、
の少なくとも一方を含み、
前記耐火被覆層は、加わる熱を遠赤外線に変換して放射し、
前記複数のシルト中空粒子は、複数の異なる粒径のシルト中空粒子を含み、
前記複数の中空セラミックスは、複数の異なる粒径の中空セラミックスを含む。
【0055】
この構成により、耐火能力に優れた木製構造部材を実現できる。このような木製構造部材は、建築物の柱や梁などに適用できる。これらの部位の耐火能力が高まることで、建築物の耐火性能も高まる。
【0056】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0057】
(実施の形態1)
【0058】
(全体概要)
実施の形態1における耐火木製建築部材の全体概要について説明する。
【0059】
図1は、本発明の実施の形態1における耐火木製構造部材の断面図である。耐火木製構造部材を横方向に切断した場合の断面を示している。各要素の構造と関係が分かるように示している。
【0060】
耐火木製構造部材1は、木製基材2,石膏部材3、耐火被覆層5、外観用部材6を備える。木製基材2は、耐火木製構造部材1の中央に位置する。この木製基材2の周囲に、他の要素が設けられて、耐火木製構造部材1が構成される。
【0061】
石膏部材3は、木製基材2の外周の一部に取り付けられる。一例として、図1においては、木製基材2が角形断面形状を有している。この角形の角部のそれぞれに石膏部材3が取り付けられている。石膏部材3は、石膏ボードなどの素材であればよい。他の素材でもよい。
【0062】
石膏部材3は、木製基材2の外周の一部に取り付けられるので、外周の残り部分は空隙となる。この空隙は、空気層4となる。石膏部材3の外側で形成される外周には耐火被覆層5が備わる。空気層4は、この耐火被覆層5で覆われた場合に、石膏部材3が存在していない空隙により形成される。つまり、石膏部材3で埋められていない空間であって、木製基材2と耐火被覆層5との間の空間が、空気層4となる。
【0063】
耐火被覆層5は、木製基材2とこれに取り付けられた石膏部材3とから形成される外周に設けられる。石膏部材3の外側を周回しつつ、木製基材2の外側を覆うように設けられる。耐火被覆層5は、木製基材2、石膏部材3,空気層4を内側に含むようにして、外周に設けられる。
【0064】
外観用部材6は、耐火被覆層5の外側を覆う。外観用部材6は、外側の外観を綺麗に整えるために設けられる。勿論、耐火木製構造部材1の強度や耐久性、耐候性を高める役割も持つ。また、外観用部材6が外周に備わることで、耐火木製構造部材1が露出する部分に用いられても、住人等にとって好ましい。
【0065】
例えば、耐火木製構造部材1が、柱や梁に使われる場合には、視認可能な状態で露出する。この場合でも、外観用部材6が外周に取り付けられているので、住人はリラックスした気持ちになれる。特に、外観用部材6が、木製または木調であることで、木造建築物に使用されても不快感を生じさせない。
【0066】
ここで、耐火被覆層5は、
(1)シルト由来の複数の中空粒子(以下、「シルト中空粒子」という)を含む塗布剤、
(2)複数の中空セラミックスと、複数の中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダーを含む被覆剤、
の少なくとも一方を含む。
【0067】
また、複数のシルト中空粒子は、複数の異なる粒径のシルト中空粒子を含む。同様に、被覆剤の中空セラミックスは、複数の異なる粒径の中空セラミックスを含む。
【0068】
シルト中空粒子であっても、被覆剤であっても、耐火被覆層5は、加わる熱を遠赤外線に変換して放射する。例えば、耐火木製構造部材1の使用されている建築物で火災などが発生した場合には、火災により付与される熱を、耐火被覆層5は、遠赤外線に変換して放射する。この変換・放射によって、熱による温度上昇を抑制して、耐火木製建築部材1の一番重要で中心的な要素である木製基材2の温度上昇を抑え、燃え落ちるまでの時間を長大化させることができる。
【0069】
結果として、火災などの火や熱に対応する耐久時間を長くできる。すなわち、耐火時間を長くして、耐火能力を高めることができる。
【0070】
以上のように、本発明の耐火木製構造部材1は、構造部材の中心的要素となる木製基材の耐火時間、耐火能力を高めることができる。特に、柱や梁などの建築物の構造中心を、火災時に長時間維持させることができる。結果として、建築物の耐火時間を長くし、耐火能力を高めて建築物の燃え落ち等を抑制できる。勿論、建築物からの避難時間を確保することにも繋がり、一部あるいは全部を木製建築材とする木造建築物であっても、火災に対する安全性を高めることができる。
【0071】
次に、各部の詳細やバリエーションなどについて説明する。
【0072】
(空気層)
木製基材2と耐火被覆層5との間の空間において、石膏部材3以外の残りの空間に、空気層4が形成される。図1では、横断面図であるので、空気層4は、長手方向に沿って存在する。
【0073】
空気層4が存在することで、変換放射された遠赤外線の逃げ道が確保される。
【0074】
また、空気層4は、熱の伝導を抑制する効果を有する。耐火木製構造部材1の外部から熱が加わる場合でも、空気層4は、この熱が木製基材2に伝導するのを抑える。木製基材2は、耐火木製構造部材1の中心要素であり、柱や梁であれば、木製基材2が、柱や梁などの要素である。木製基材2の燃焼が送らされることにより、柱や梁などの構造部材が維持されて、建築物の燃焼に対する耐久時間や耐久性を高めることができる。
【0075】
また、火災などでの熱は、耐火木製構造部材1の外部から伝わる。このとき、耐火被覆層5は、この熱を遠赤外線に変換して放射する。空気層4は、この遠赤外線の放射領域となる。これにより、熱の遠赤外線への変換が促進されて、加わる熱による耐火木製構造部材1での温度上昇を抑えることができる(変換された遠赤外線は、耐火木製構造部材1の外側にも放射される)。
【0076】
このように、空気層4は、外部から木製基材2への熱伝導を抑えると共に、耐火被覆層5での遠赤外線変換を助ける。これらが相まって、耐火木製構造部材1全体はもちろん、最も重要な木製基材2の温度上昇や燃焼を抑制できる。建築物に必要な構造部材の火災などへの耐久性を高めることができる。
【0077】
また、空気層4を真空状態に近い状態にしておくこともよい。真空状態としておくことでの、木製基材2への熱伝導を抑制することができる。
【0078】
(木製基材)
木製基材2は、耐火木製構造部材1の建築物への使用における中心的要素である。すなわち、耐火木製構造部材1が柱や梁などに使われる場合には、木製基材2は、木製の柱や梁などに相当する。他の要素が、耐火や外観などを機能させるために、周囲に備わる。
【0079】
木製基材2は、用途や建築物の特性に応じた形状や大きさを有していればよい。一例として多角形の断面形状を有している。図1では、角形の断面形状を有している。勿論、円形や楕円形の断面形状を有する場合でもよい。
【0080】
木製基材2の材料は、杉、ヒノキ、その他、建築物に使用できるものであればなんでもよい。また、いわゆる一枚板であってもよいし、合板であってもよい。
【0081】
(石膏部材)
石膏部材3は、空気層4を形成できるように、木製基材2の外周の一部に備わる。図1のように、木製基材2が多角形の断面形状を有する場合には、多角形の角部に石膏部材3が取り付けられることも好適である。このような角部に取り付けられることで、全体のバランスよい構造が形成できる。また、図1のように木製基材2の周囲に適切な空気層4を形成しやすい。また、適切な距離を持った耐火被覆層5を、外周に形成しやすい。耐火被覆層5と木製基材2との間隔も適切に取れるので、耐火被覆層5による遠赤外線変換にもメリットが生じる。
【0082】
また石膏部材3は、石膏ボードが利用されてもよい。
【0083】
もちろん、石膏部材3が、角部以外に、あるいは角部と角部以外のそれぞれに設けられてもよい。耐火被覆層5や外観用部材6の取り付けが容易となるように、バリエーションがあってもよい。
【0084】
また、石膏部材3は、木製基材2への熱伝導を抑えることができる。これにより、木製基材2での温度上昇が抑制でき、耐火能力を更に高めることができる。すなわち、石膏部材3は、空気層4を形成することと合わせて自身の耐火能力を、耐火木製構造部材1に追加できる。
【0085】
当然に、耐火被覆層5での遠赤外線変換もあり、これらの各要素での耐熱能力の最適な組み合わせにより、耐火木製構造部材1は、高い耐火能力を実現できる。
【0086】
(外観用部材)
外観用部材6は、耐火木製構造部材1の外周全体を覆うことも好適である。外周全体とは、断面での外周と長手方向の外周のそれぞれを含む。図1では、断面での外周の全体を覆っている。
【0087】
全体を覆うことで、視覚的安定性が高まり、室内などに見える場合でも住人にリラックスを与えることができる。
【0088】
もちろん、外周の一部に外観用部材6が備わってもよい。用途や仕様などに応じて、適宜選択すればよい。
【0089】
また、外観用部材6は、木製もしくは木調であることも好適である。木造建築物の視覚的イメージが向上するからである。木調である場合には、木製でもよいし、他の素材であってもよい。
【0090】
(耐火被覆層)
耐火被覆層5は、木製基材2と石膏部材3とから形成される外周全体に備わることも好適である。全体に備わることで、火災時などに熱がどのような方向から付与されても、耐火被覆層5による耐火能力の発揮ができるからである。
【0091】
また、耐火木製構造部材1全体の構成バランスも適切になるからである。
【0092】
もちろん、外周全体に限定されるとの意図ではなく、外周の一部(断面において、あるいは長手方向において)で、耐火被覆層5が備わっていない部分があってもよい。
【0093】
また、耐火被覆層5は、金属箔や金属板に積層されていてもよい。このとき、シルト中空粒子あるいは被覆剤が、金属箔や金属板に塗布されることでもよい。
【0094】
金属箔や金属板に積層されていることで、被覆剤などによる遠赤外線への変換が促進される。外部から付与される熱を、金属箔や金属板が高い熱伝導によりシルト中空粒子や被覆剤に伝導する。これにより、シルト中空粒子や被覆材などにおける遠赤外線への変換・放射が促進される。
【0095】
また、金属箔や金属板に積層されていることで、外周に耐火被覆層5を形成しやすくなる。ユニットして提供して、建築現場で構成することも、耐火木製構造部材1として製造する場合でも、その工程が容易化される。
【0096】
金属箔は、アルミニウム箔、鉄箔、銅箔などであればよい。金属板も同様である。
【0097】
(耐火被覆層における熱の遠赤外線変換と放射)
耐火被覆層5は、外部から加わる熱を遠赤外線に変換して放射する。耐火被覆層5は、シルト中空粒子、もしくは被覆剤を含む。シルト中空粒子は、シルト由来の中空粒子であり、内部空間を持つ中空形状を有する。耐火被覆層5がシルト中空粒子を含む場合には、適宜、バインダーなどで複数のシルト中空粒子が接続されていればよい。
【0098】
被覆剤は、複数の中空セラミックスと複数の中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダーを含む。樹脂バインダー同士で複数の中空セラミックス同士が接続されて被覆剤が構成される。中空セラミックスも内部空間を持つ中空形状を有する。
【0099】
シルト中空粒子も中空セラミックスも、複数の異なる粒径のそれぞれを含んでいる。シルト中空粒子および中空セラミックスのそれぞれは、外部から加わる熱を遠赤外線に変換して放射する。図2を用いて、耐火被覆層5が遠赤外線に変換して放射する状態を示す。ここでは、中空セラミックスと樹脂バインダーからなる被覆剤を例として説明する。シルト中空粒子も、同様の説明である。
【0100】
図2は、本発明の実施の形態1における耐火被覆層での遠赤外線変換と放射を示す模式図である。図3は、本発明の実施の形態1における中空セラミックスにおける遠赤外線変換を示す模式図である。図3では、中空セラミックス51の内部空間510が乱反射により熱を遠赤外線に変換している状態を示している。
【0101】
耐火被覆層5の一例として、金属箔53の上に被覆剤50が形成されている。被覆剤50は、中空セラミックス51と樹脂バインダー52を含む。耐火被覆層5は、空気層4と外観用部材6との間に備わる。図2では、上側が空気層4であり、下側が外観用部材6である。
【0102】
耐火被覆層5は、外部である外観用部材6の外側から加わる熱を遠赤外線に変換して放射する。図2では、この熱を遠赤外線に変換して放射する状態も示している。
【0103】
火災などが発生すると矢印Y1のように、火災による熱が耐火木製構造部材1に加わる。耐火被覆層5は、熱を遠赤外線に変換して放射する。矢印X1、X2は、遠赤外線としての放射を示している。耐火被覆層5は、空気層4に向けた放射方向X1で遠赤外線を放射し、場合によっては、外部へのX2方向へも遠赤外線を放射する。
【0104】
遠赤外線への変換放射によって、火災などによる熱が耐火建築構造部材1に加わっても、耐火建築構造部材1での温度上昇が抑制される。
【0105】
中空セラミックス51は、内部空間510を有する。内部空間510は、加わる熱を、その内部で乱反射させることで、遠赤外線に変換する。
【0106】
図3に示されるように、内部空間510において加わった熱が乱反射する。この乱反射を通じて、熱は、遠赤外線に変換される。変換された遠赤外線は、放射される。
【0107】
このように、耐火被覆層5は、複数の中空セラミックス51を備えることで、熱を遠赤外線に変換できる。
【0108】
また、複数の中空セラミックス51は、粒径の異なる中空セラミックス51を含んでいる。粒径が異なることで、中空セラミックス51のそれぞれの内部空間510での乱反射がより多く起こる。また、粒径の異なる中空セラミックス51同士での乱反射も加わり、熱の遠赤外線への変換が、より効果的に生じる。
【0109】
また、加わる熱は、異なる波長の成分を含んでいる。この異なる波長の成分のそれぞれに、粒径の異なる中空セラミックス51が対応する。この対応により、ある粒径の中空セラミックス51は、ある波長の成分の熱を遠赤外線に変換する。別の粒径の中空セラミックス51は、別の波長の成分の熱を遠赤外線に変換する。
【0110】
このように、異なる粒径の中空セラミックス51が含まれていることで、加わる熱を効率的かつ確実に、遠赤外線に変換できる。異なる粒径の中空セラミックス51が含まれていると、異なる波長の成分を有する熱全体を、遠赤外線に変換できる。これにより、耐火木製構造部材1に火災などの熱が加わっても、燃焼を遅らせることが、より確実に行える。
【0111】
また、中空セラミックス51は、その表面での熱の変換により遠赤外線を生み出して、これを放射するメカニズムも発揮する。熱が加わると、中空セラミックス51の表面が、これを遠赤外線に変換する。これにより、耐火被覆層5は、加わる熱を次々と遠赤外線に変換して放射できる。これにより、耐火木製構造部材1に火災などの熱が加わっても、燃焼を遅らせることができる。
【0112】
この点から、耐火被覆層5が異なる粒径の中空セラミックス51を含むことが好適である。異なる粒径の中空セラミックス51が含まれることで、耐火被覆層5における中空セラミックス51の重点密度が高まる。大きな粒径の中空セラミックス51同士の間にできる隙間に、中程度あるいは小さな粒径の中空セラミックス51が入り込むからである。
【0113】
この結果、耐火被覆層5が含む中空セラミックス51の個数密度が高まる。
【0114】
個数密度が高まれば、含まれる中空セラミックス51全体の表面積が増加する。上述の通り、中空セラミックス51は、その表面で熱を遠赤外線に変換する。この表面全体の表面積が増加することで、遠赤外線への変換量が多くなる。この増加によって、加わる熱を遠赤外線に変換することでの耐火能力が更に高まる。
このように、耐火被覆層5が異なる粒径の中空セラミックス51を含むことは、熱を遠赤外線に変換することの能力向上に寄与する。
【0115】
ここで、複数の中空セラミックス51の粒径は、10μm~150μmであることも好適である。また、平均粒径が40μmであることも好適である。
【0116】
中空セラミックス51の粒径が、このような広い範囲であることで、加わる熱を、確実かつ効率的に遠赤外線に変換できる。熱によっては、含まれる波長も様々であるが、中空セラミックス51の粒径が、このような広い範囲でばらついていることは、どのような波長の熱や成分に対しても、遠赤外線への変換が可能となるからである。
【0117】
また、平均粒径が40μmであることで、耐火被覆層5の形成が容易となる。耐火被覆層5は、中空セラミックス51および樹脂バインダー52を含む塗料が、基材2の表面などに塗布されることで形成されることもある。この場合に、中空セラミックス51の平均粒径が40μmであることで、塗布などが容易となるメリットがある。また、適切な厚みの耐火被覆層5が形成できるメリットもある。
【0118】
中空セラミックス51は、金属酸化物を含むことも好適である。このような金属酸化物を含むことで、熱を遠赤外線に効率的に変換できる。ここで、金属酸化物は、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化第二鉄(Fe2O3)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)、酸化チタン(TiO)、酸化セリウム(CeO)、二酸化ケイ素(SiO)、三酸化アンチモン(Sb)の少なくとも一つを含む。
【0119】
これらの金属酸化物を含むことで、中空セラミックス51は、熱を効率的かつ確実に遠赤外線に変換できる。金属酸化物は、内部空間510での乱反射を促進しつつ、乱反射の過程で遠赤外線を生じさせる。このように、金属酸化物を含む中空セラミックス51が含まれる耐火被覆層5は、耐火木製構造部材1に付与される熱を、効率的かつ確実に遠赤外線に変換できる。
【0120】
樹脂バインダー52は、中空セラミックス51同士を接続する。接続することで、耐火被覆層5が一つの層として形成できる。ここで、樹脂バインダー52は、アクリル系樹脂であることも好適である。アクリル系樹脂であることで、樹脂バインダー52による中空セラミックス51同士をより確実に接続できる。
【0121】
また、アクリル系樹脂であることで、耐火被覆層5の軽量化も図ることができる。
【0122】
また、耐火被覆層5がシルト中空粒子を含む場合には、シルト中空粒子は、非晶質であることが好適である。非晶質であることで、その形状や粒径のバリエーションが広がり、それぞれでの放熱効果が高まるからである。
【0123】
シルト中空粒子は、SiOおよびAlを含むことも好適である。これらの成分を含むことで、熱を遠赤外線に変換して放射する。また、断熱性能も発揮して、外部からの熱を、本体である木製基材2に伝導させるのを遅らせる。勿論、遠赤外線への変換で、木製基材2の温度上昇を抑制できる。
【0124】
また、シルト中空粒子は、FeO、NaO、KO、CaO、MgOの少なくとも一つを、更に含むことも好適である。これらの成分を含むことで、シルト中空粒子は、遠赤外線変換能力を高めることができる。
【0125】
SiOおよびAlは、シルト中空粒子全体に対して、88wt%以上であることも好適である。これらの2つの組成がシルト中空粒子全体での主成分であることで、放射能力を高める。
【0126】
また、シルト中空粒子の平均粒径は、10μm以上200μm以下であることも好適である。この範囲の平均粒径であることで、シルト中空粒子は、塗布剤を構成して塗布が容易となる。塗布が容易となることで、金属箔などに塗布されて耐火被覆層5を容易に形成できる。
【0127】
シルト中空粒子も被覆剤50の中空セラミックス51も、外表面および内部空間を有し、外観部材6などから伝わる熱は、外表面に伝わる。シルト中空粒子、中空セラミックス51のそれぞれは、外表面での遠赤外線への変換、内部空間での乱反射での遠赤外線への少なくとも一方で、付与される熱を遠赤外線に変換する。この遠赤外線は放射され、このメカニズムが継続することで、熱による温度上昇を遅らせて抑制できる。
【0128】
このようにして形成された耐火被覆層5は、加わる熱を遠赤外線に変換して放射できる。この機能は、加わる熱が、耐火木製構造部材1にとどまって蓄積されて行くことを抑制できる。特に木製基材2での温度上昇を抑制して遅らせることができる。結果として、耐火能力を高めることができる。
(複数の中空セラミックス層)
【0129】
複数の中空セラミックス51は、その接続により生じる構成や粒径によって、耐火被覆層5の中に、複数のセラミックス層を形成できる。図5は、中空セラミックスの接続構造により、複数のセラミックス層を形成している被覆層の模式図である。図5では、耐火被覆層5は、第1セラミックス層511と第2セラミックス層512とを備える構成を有している。
【0130】
複数のセラミックス層のそれぞれは、加わる熱を変換した遠赤外線を放射する。図4に示されるように、第1セラミックス層511は、遠赤外線を放射し、合わせて第2セラミックス層512も、遠赤外線を放射する。それぞれのセラミックス層が遠赤外線を放射する態様を備える。
【0131】
耐火被覆層5を形成する際に、例えば耐火被覆層5の原料となる塗材を金属箔などに塗布する。このとき、塗材の塗布を複数回に分けることで、図4のような複数のセラミックス層を形成することができる。
【0132】
耐火被覆層5が複数のセラミックス層を備えることで、それぞれのセラミックス層での遠赤外線の変換と放射が行われる。第1セラミックス層511での遠赤外線の変換と放射、および、第2セラミックス層512での遠赤外線の変換と放射がそれぞれで行われる。このそれぞれで行われることで、より効率的な遠赤外線への変換が行われる。
【0133】
特に、セラミックス層のそれぞれで遠赤外線への変換が行われると、空間的に異なる場所での遠赤外線変換が行われる。これにより、多くの中空セラミックス51全体が遠赤外線変換に活用される。
【0134】
また、図5のように第1セラミックス層511~第3セラミックス層513を備える耐火被覆層5の構成であってもよい。図4図5は、本発明の実施の形態1における耐火被覆層の模式図である。
【0135】
また、セラミックス層のそれぞれで遠赤外線放射が行われると、多面的かつ多重的な遠赤外線放射が行われる。これにより、耐火木製構造部材1に熱が付与される場合でも、より多くの熱が遠赤外線となって放射される。結果として、燃焼を遅らせることができる。
【0136】
また、耐火被覆層5の複数のセラミックス層は、中空セラミックス51の粒径によって形成されてもよい。図6は、中空セラミックスの粒径により形成される複数のセラミックス層を含む被覆層の模式図である。
【0137】
例えば、ある粒径の中空セラミックス51を含む塗材を塗布し、次に、別の粒径の中空セラミックス51を含む塗材を塗布し、更に別の粒径の中空セラミックス51を含む塗材を塗布することを繰り返せば、図6のような、粒径の異なる複数のセラミックス層を形成できる。
【0138】
図6では、一例として、第1セラミックス層511、第2セラミックス層512、第3セラミックス層513が形成されている。それぞれのセラミックス層は、中空セラミックス51の粒径の相違により形成されている。
【0139】
第1セラミックス層511、第2セラミックス層512、第3セラミックス層513のそれぞれは、耐火部材1に加わる熱を、遠赤外線に変換して放射する。この状態は、図6に示される通りである。
【0140】
中空セラミックス51の粒径が異なることで形成される複数のセラミックス層のそれぞれは、加わる熱が含む異なる波長成分のそれぞれに対応した遠赤外線変換を行える。これにより、第1セラミックス層511は、ある波長成分(あるいは温度成分)の熱を遠赤外線に変換して放射する。第2セラミックス層512は、別の波長成分(あるいは温度成分)の熱を遠赤外線に変換して放射する。第3セラミックス層513は、更に別の波長成分(あるいは温度成分)の熱を遠赤外線に変換して放射する。
【0141】
(異なる金属酸化物の中空セラミックスが含まれること)
【0142】
中空セラミックス51は、金属酸化物を含む。更に、金属酸化物は、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化第二鉄(Fe2O3)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)、酸化チタン(TiO)、酸化セリウム(CeO)、二酸化ケイ素(SiO)、三酸化アンチモン(Sb)の少なくとも一つを含む。
【0143】
ここで、耐火被覆層5を構成する中空セラミックス51が、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化第二鉄(Fe2O3)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)、酸化チタン(TiO)、酸化セリウム(CeO)、二酸化ケイ素(SiO)、三酸化アンチモン(Sb)の少なくとも2以上の種類の金属酸化物を含むことも好適である。
【0144】
異なる2種以上の種類の金属酸化物による中空セラミックス51が、耐火被覆層5に含まれることで、それぞれの中空セラミックス51が、加わる熱の異なる成分(波長成分や温度成分など)のそれぞれに対応して遠赤外線への変換を行える。ある金属酸化物の中空セラミックス51は、ある成分の熱を遠赤外線に変換し、別の種類の金属酸化物の中空セラミックス51は、別の成分の熱を遠赤外線に変換する。
【0145】
このように、複数の種類の金属酸化物による中空セラミックス51が耐火被覆層5を構成することで、加わる熱を、満遍なくかつ確実に遠赤外線に変換できる。この変換後の遠赤外線が放射されて、熱による燃焼を確実に遅らせることができる。
【0146】
(実施の形態2)
【0147】
次に実施の形態2について説明する。実施の形態2では、耐火被覆層5の一例である「(2)複数の中空セラミックスと、複数の中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダーとを有する被覆剤」の、熱の遠赤外線変換と放射機能の確認実験について説明する。
【0148】
(遠赤外線放射の確認実験)
付与された熱を遠赤外線に変換して放射することの確認実験を、公的研究機関(島根県産業技術センター)にて行った。この実験において、試験成績書を受領しており、図7図8において示す。図7図8は、本発明の熱放射層による遠赤外線変換と放射を示す試験成績書である。
【0149】
図7図8において「ガイナ」と記載されているものが、耐火被覆層の一例である「(2)複数の中空セラミックスと、複数の中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダーとを有する被覆剤」である。
【0150】
測定機器:日本電子株式会社製 本体JTR―WINSPEC100および赤外線測定ユニットIR-IRR200
【0151】
測定方法:測定機器を用いて遠赤外線放射の放射率を測定した。
【0152】
この測定に基づいて、熱放射層による熱を加えた場合の遠赤外線放射の状態を確認した。遠赤外線の波長域(一般的には3μm~1000μm)に含まれる5.0μm~22.5μmの波長域での積分放射率が94.6%と非常に高いことが確認された。トルマリンなどの遠赤外線変換能力が知られている素材に匹敵する。このように、公的研究機関での試験成績書においても、熱放射層3による熱の遠赤外線変換の能力や効率が確認された。
【0153】
(実施の形態3)
【0154】
次に、実施の形態3について説明する。実施の形態3では、耐火木製建築部材の耐火能力の実験結果について説明する。
【0155】
図9は、本発明の実施の形態3における実験方法を示す概略図である。図10は、本発明の実施の形態3における耐火実験結果を示す表である。耐火実験においては、比較例1、比較例2、実施例の3種類の木製建築部材を製作して、耐火能力を計測する実験を行った。
【0156】
(比較例1)
比較例1は、角柱形状の木製建築部材であり、木製基材として厚さ105mmの芯材と、この芯材に直接接触するように外周を覆う外観用部材としての厚さ45mmの杉板で構成したものである。
【0157】
すなわち、木製基材と外観用部材のみで構成された木製建築部材が比較例1である。
【0158】
(比較例2)
比較例2は、角柱形状の木製建築部材であり、木製基材として厚さ105mmの芯材と、この木製基材の角部の石膏部材と、石膏部材の外周を覆う厚さ45mmの杉板での外観用部材とで構成したものである。
【0159】
石膏部材が角部に設けられることで、図1に示すような空気層が、木製基材と外観用部材との間に形成されている。
【0160】
(実施例)
実施例は、図1に示されるような本発明の構造を有する木製建築部材である。すなわち、木製基材として厚さ105mmの芯材と、木製基材の角部の石膏部材と、石膏部材の外周を覆う金属箔としてアルミ箔と、アルミ箔に形成されるセラミックスによる耐火被覆層と、その外周を覆う厚さ45mmの杉板での外観用部材で構成されたものである。セラミックスによる耐火被覆層は、アルミ箔の内側(芯材側)に形成されている。
【0161】
すなわち、金属箔とセラミックスによる耐火被覆層を備えた本発明に対応する構成を有する木製建築部材が、実施例である。なお、耐火被覆層のセラミックスは、中空セラミックスとこれらを接続するバインダーを含む被覆剤で構成されている。
【0162】
なお、比較例1,2、実施例における木製基材である芯材、外観用部材である杉板は、それぞれ厚みなども含めて共通している。耐火被覆層などの耐火能力を発揮する構成が異なる。
【0163】
(実験方法)
比較例1、比較例2,実施例の木製構造部材のそれぞれに、図9に示すように外側からバーナーでの炎を付与して、中央に備わる木製基材の芯材が、どの深さまで炭化するかを測定する。炭化の深度が深ければ、耐火能力が低く、木製構造部材が短い時間で燃え落ちてしまうことを示している。逆に、炭化の深度が浅ければ、耐火能力が高く、木製構造部材の燃え落ちるまでの時間を稼げることを示している。
【0164】
図9に示すように、比較例などの木製構造部材の外側から、直角2面に設置されたバーナーで炎を付与する。このとき、60分間においてISO加熱曲線に準じた温度帯(約600℃~約1000℃)で、炎を付与した。
【0165】
(実験結果)
図10の表の一番下には、炭化状態を示している。これが上述の実験方法(確認方法)での耐火能力の指標を示している。
【0166】
比較例1は、芯材(木製基材)での炭化深度が18mmであった。他の2つよりも非常に深く、外部からの熱の付与で、木製構造部材の中心要素である木製基材の炭化が進んでしまっている。このため、比較例1のように、耐火被覆層などが備わっていない構造では、火災発生時に短時間で燃え落ちてしまう。
【0167】
比較例2は、芯材(木製基材)での炭化深度が10mmであった。比較例1と比較して空気層が備わることで、熱伝導が抑制されている。この抑制により、比較例1よりも燃え落ちるまでの時間は延ばすことができる。
【0168】
しかしながら、やはり木製構造部材の中心要素である木製基材の炭化が進んでしまっている。従来技術においては、木製基材の耐火能力の実現のために、木製基材と外観用基材との間に空気層を設けることも提案されていたが(比較例2のような構造)、この程度の構造では耐火能力が不十分であることが確認された。
【0169】
実施例は、芯材(木製基材)の炭化が確認されなかった。すなわち、木製建築部材の中心要素である木製基材が、外部からの熱に燃焼することなく耐えていることが分かる。すなわち、耐火能力が高い。耐火能力が高いことで、火災発生時などにおいても、燃え落ちるまでの時間を十分に稼げることが分かる。実施例は、比較例1、2よりも耐火能力が高いことが確認された。
【0170】
実施例は、本発明の耐火木製建築部材である。実験結果からも、本発明の耐火木製建築部材の耐火能力が高いことが確認された。例えば、耐火木製建築部材が建築物の柱や梁に使用されると、建築物での火災が発生しても、柱や梁の燃え落ちるのが遅くなる。燃え落ちるのが遅くなれば、建築物の基本骨格が長時間維持されることになり、避難活動や消火活動を助けることができる。
【0171】
このように、実験からも本発明の耐火木製構造部材の耐火能力が優れていることを確認できた。
【0172】
以上のように、実際の耐火実験からも、本発明の耐火木製建築部材の効果が確認された。
【0173】
以上、実施の形態1~3で説明された耐火木製建築部材は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含む。
【符号の説明】
【0174】
1 耐火木製建築部材
2 木製基材
3 石膏部材
4 空気層
5 耐火被覆層
51 中空セラミックス
52 樹脂バインダー
510 内部空間
511 第1セラミックス層
512 第2セラミックス層
513 第3セラミックス層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10