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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167162
(43)【公開日】2024-12-03
(54)【発明の名称】金属-半導体-金属光検出器
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/108 20060101AFI20241126BHJP
【FI】
H01L31/10 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024070689
(22)【出願日】2024-04-24
(31)【優先権主張番号】23315119.0
(32)【優先日】2023-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】523164067
【氏名又は名称】アルメ テクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】520179305
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ パリ-サクレー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS-SACLAY
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ディーブ クレア
(72)【発明者】
【氏名】ペルアール ジャン-リュック
(72)【発明者】
【氏名】パルド ファブリス
(57)【要約】      (修正有)
【課題】所与の波長範囲の光を吸収するために低バンドギャップ半導体層を用いるときでも非常に低い暗電流密度を示す金属-半導体-金属光検出器を提供する。
【解決手段】金属-半導体-金属光検出器は、吸収半導体層325と電気的に接触する第1の半導体材料からなる第1の半導体層321と、第1の半導体層321と電気的に接触し、第1の半導体層321と共に電子ショットキー接合を生成するように構成された第1の金属電極340と、吸収半導体層325と電気的に接触する、第1の半導体材料321とは異なる第2の半導体材料からなる第2の半導体層322と、第2の半導体層322と電気的に接触し、第2の半導体層322と共に正孔ショットキー接合を生成するように構成された第2の金属電極330と、を含む。
【選択図】図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所与の波長範囲の入射光を検出するように構成された金属-半導体-金属光検出器であって、
前記所与の波長範囲内の光を吸収するように構成された吸収半導体層(325)と、
第1のバンドギャップを有する第1の半導体材料からなり、前記吸収半導体層と電気的に接触する第1の半導体層(321)と、
電圧発生器の負極と電気的に接続されるように構成された第1の金属電極(340)であって、
前記第1の金属電極(340)は、前記第1の半導体層(321)と電気的に接触しており、
前記第1の半導体層(321)は、前記第1の金属電極(340)と前記吸収半導体層(325)との間に配置され、
前記第1の金属電極(340)および前記第1の半導体層(321)は、バイアス電圧の印加の下で電子ショットキー接合を生成するように構成され、前記電子ショットキー接合は、前記第1の半導体材料の前記第1のバンドギャップの半分よりも大きい前記電子から見た電子ショットキー障壁(φ)を有する、前記第1の金属電極(340)と、
第2のバンドギャップを有し、前記第1の半導体材料とは異なる第2の半導体材料からなり、前記吸収半導体層と電気的に接触する、第2の半導体層(322)と、
前記電圧発生器の正極と電気的に接続されるように構成された第2の金属電極(330)であって、
前記第2の金属電極(330)は、前記第2の半導体層と電気的に接触し、
前記第2の半導体層(322)は、前記第2の金属電極(330)と前記吸収半導体層(325)との間に配置され、
前記第2の金属電極(330)および前記第2の半導体層(322)は、バイアス電圧の印加の下で正孔ショットキー接合を生成するように構成され、前記正孔ショットキー接合は、前記第2の半導体材料の前記第2のバンドギャップの半分よりも大きい前記正孔から見た正孔ショットキー障壁(φ)を有する、前記第2の金属電極(330)と、を含む、金属-半導体-金属光検出器。
【請求項2】
請求項1に記載の金属-半導体-金属光検出器であって、前記吸収半導体層(325)は、ゲルマニウム、III-V化合物、またはII-VI化合物から選択される半導体材料を含む、金属-半導体-金属光検出器。
【請求項3】
請求項1に記載の金属-半導体-金属光検出器であって、前記吸収半導体層(325)は、シリコンを含む、金属-半導体-金属光検出器。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれかに記載の金属-半導体-金属光検出器であって、前記第1の金属電極(340)は、前記吸収半導体層(325)の第1の側に配置され、前記第2の金属電極(330)は、前記第1の側とは反対の前記吸収半導体層の第2の側に配置される、金属-半導体-金属光検出器。
【請求項5】
請求項4に記載の金属-半導体-金属光検出器であって、前記吸収半導体層(325)の表面および前記第1の半導体層(321)の表面と接触する第1の勾配半導体ヘテロ構造(326)をさらに含む、金属-半導体-金属光検出器。
【請求項6】
請求項4または5に記載の金属-半導体-金属光検出器であって、前記吸収半導体層の表面および前記第2の半導体層(322)の表面と接触する第2の勾配半導体ヘテロ構造(327)をさらに含む、金属-半導体-金属光検出器。
【請求項7】
請求項1~3のいずれかに記載の金属-半導体-金属光検出器であって、前記第1の金属電極(340)および前記第2の金属電極(330)は、前記吸収半導体層(325)の同じ側に配置される、金属-半導体-金属光検出器。
【請求項8】
請求項7に記載の金属-半導体-金属光検出器であって、前記吸収半導体層(325)の表面および前記第1の半導体層(321)の表面と接触する第1の勾配半導体ヘテロ構造(326)、または、前記吸収半導体層の表面および前記第2の半導体層(322)の表面と接触する第2の勾配半導体ヘテロ構造(327)をさらに含む、金属-半導体-金属光検出器。
【請求項9】
請求項7または8に記載の金属-半導体-金属光検出器であって、前記第1の半導体層(321)の表面および前記第2の半導体層(322)の表面と接触する第3の勾配半導体ヘテロ構造をさらに含む、金属-半導体-金属光検出器。
【請求項10】
請求項1~請求項9のいずれかに記載の金属-半導体-金属光検出器であって、前記第1の半導体層(321)の表面および前記第1の金属電極(340)の表面と接触する界面層と、前記第2の半導体層(322)の表面および前記第2の金属電極(330)の表面と接触する界面層と、の少なくとも一方を、さらに含む、金属-半導体-金属光検出器。
【請求項11】
光検出回路であって、
請求項1~請求項10のいずれかに記載の金属-半導体-金属光検出器と、
電圧発生器であって、前記第1の金属電極(340)が前記電圧発生器の負極と電気的に接続され、前記第2の金属電極(330)が前記電圧発生器の正極と電気的に接続される、前記電圧発生器とを含む、光検出回路。
【請求項12】
請求項1に記載の金属-半導体-金属光検出器を製造する方法であって、
基板(901)上に、前記吸収半導体層(325)、前記第1の半導体層(321)、前記第2の半導体層(322)を含む半導体スタック(320)を堆積させることと、
前記半導体スタック(320)上に金属層を堆積させて、前記第1の金属電極を形成することと、
前記基板(901)を前記半導体スタック(320)と共に反転して、ホスト基板(905)上に貼り付けることと、
前記基板(901)をエッチングし、金属層を堆積させて、前記第2の電極(330)を形成することとを含む、方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって、前記半導体スタック(320)は、前記吸収半導体層(325)の表面および前記第1の半導体層(321)の表面と接触する第1の勾配半導体ヘテロ構造(326)と、前記吸収半導体層の表面および前記第2の半導体層の表面と接触する第2の勾配半導体ヘテロ構造(327)と、の少なくとも一方を、さらに含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は金属-半導体-金属光検出器に関する。さらに、本明細書はそのような光検出器を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属-半導体-金属(MSM:Metal-semiconductor-metal)光検出器は、一般的に高速の光検出器として公知であり、特にたとえば光ファイバネットワークなどの光通信システムにおいて有益な適用を有する。
【0003】
一般的にいうと、光検出器の有効性は、多くの異なるパラメータにおけるその性能によって測定される。これらのパラメータは、応答のスペクトル範囲、速度、応答性(または感度)、および暗電流密度を含む。光検出器の速度は、入射光がスイッチオンされたときにデバイスが自身の光電流を定常状態の値まで増加させ、かつ光がスイッチオフされたときにそれを減少させるために必要な時間である。当該感度は、光検出器の応答性または外部量子効率とも呼ばれ、これは光検出器上にどれだけの入射光が収集されて外部電流密度として出力されるかの尺度である。これは、光電流を合計入射光電力で割った比率によって定義される。暗電流密度は、光検出器に放射束(光源)が入射していないときに光検出器内を流れる電流密度として、一般的に定義される。
【0004】
光遠隔通信の速度が絶え間なく増加するために、さらに高速かつより高感度の光検出器が必要とされる。光検出器の固有速度が増加することによって、通信プロトコルまたはネットワークのアーキテクチャのいずれかを変更することなく情報速度を増加させることが可能になる。一方で、光検出器の感度が増加することによって、データフローが増加したときに電力消費の増加を抑えることが可能になる。加えて、非常に高速かつ高感度の光検出器を有することで、たとえば同じ印刷回路基板上のチップ間などの非常に短い範囲の通信に対して現在用いられる電気的接続を光接続に置き換えて、それらの電力消費を低減することを可能にし得る。
【0005】
先行技術の従来のMSM光検出器は、図1Aおよび図1Bに示されており、これはたとえばシャイ(Shi)ら[非特許文献1]などに記載されている。
【0006】
MSM光検出器は、基板15上に配置された、半導体層10と、第1および第2の金属電極11、12とを含むいくつかの層を有する平坦な(平面)構造である。
【0007】
半導体層10は、動作スペクトル範囲の入射光を吸収するのに十分に小さいバンドギャップを有することによって、各々の吸収された光子ごとに電子を価電子帯から伝導帯に励起する。こうして、一対の自由キャリア、すなわち伝導帯の電子および価電子帯の正孔が、生成される。自由キャリアは局所的な静電界によって電極に向かって駆動され、電極において収集されて外部電流に寄与する。動作波長がたとえば約1.3μmまたは約1.5μmなどである光通信システムにおける適用に対して、それらのバンドギャップが、入射光子のエネルギ、すなわちそれぞれ0.95eVおよび0.82eV、よりも小さいため、たとえばゲルマニウム、III-V化合物、またはII-VI化合物などの、低バンドギャップ半導体材料が適合される。
【0008】
図1Aおよび図1Bに示されるとおり、第1および第2の金属電極11、12は、半導体層の両側に堆積される(「縦型配置」、図1A)か、または半導体層の上に堆積される(「横型配置」、図1B)。電極は、デバイスと入来する光との光結合を改善するように(図1Aおよび図1Bに示されるとおりに)構造化され得る。第1の電極11(例えば、陰極)と第2の電極12(例えば、陽極)との間に、バイアス電圧Vが印加される。
【0009】
MSM光検出器において、金属電極は、半導体層と共に、ショットキー接合を形成するように構成される。ショットキー接合は、本明細書においてショットキー障壁またはショットキー接触とも呼ばれ、これは金属-半導体界面に形成される電子または正孔に対する電位障壁である。ショットキー障壁は、整流する特徴を有し、ダイオードとして使用するのに好適である。したがって、ショットキー接合において、正バイアス電圧に対して電流は、電圧とともに指数関数的に増加し、一方で、ボルツマン定数をk、温度をTとすると、負バイアス電圧に対して電流は、バイアス電圧が数kT(熱エネルギ)よりも大きい場合、電圧に対してほぼ一定である。図1Bに示される横型配置においては、両方の電極(陽極および陰極)が同じ半導体層の上にある。それらの電極は「インターディジテイテッド」であり、よってバイアス電圧Vは2つの隣接するショットキー接合間に印加される。
【0010】
ショットキー接合の主な特徴の1つは、電位障壁の高さである。十分に高い逆バイアス電圧(すなわち、少なくとも数kT)下の電流が接合を横切る電子の束によって独占される電子ショットキー接合に対して、電位障壁高さは、半導体層に注入された電子から見た電位障壁の高さであり、本明細書においてφと示されて「電子ショットキー障壁高さ」と呼ばれる。十分に高い逆バイアス電圧(すなわち、少なくとも数kT)下の電流が接合を横切る正孔の束に独占されている正孔ショットキー接合に対して、電位障壁高さは、半導体層に注入された正孔から見た電位障壁の高さであり、本明細書においてφと示されて「正孔ショットキー障壁高さ」と呼ばれる。ショットキー障壁高さφおよびφの値は、界面における金属および半導体の組み合わせに依存する。
【0011】
図2Aは、たとえばイト(Ito)ら[非特許文献2]などに記載される、両方の電極に対して同じ金属を使用した先行技術のMSM光検出器の理論的バンド図を示す。バンド図のグラフィック変換については、たとえばダーリング(Darling)ら[非特許文献3]などを参照されたい。図2Bは、たとえばフレッサー(Fresser)ら[非特許文献4]および特許文献1などに記載される、両方の電極に対して異なる金属を使用した先行技術のMSM光検出器のバンド図を示す。
【0012】
このバンド図は、1D近似において、2つの電極間の一定の静電流密度の任意に選択された線(x軸)に沿ったエネルギレベル(E軸)を概略的に表す。2つの電極間の一定の静電流密度のそのような任意に選択された線は、図1Aおよび図1Bにおいて破線20によって示される。Eは金属部分におけるフェルミ準位を示し、Eは半導体伝導帯の最小エネルギを示し、Eは半導体価電子帯の最大エネルギを示す。
【0013】
図2Aおよび図2Bの両方の実施形態について、電極の間に印加されたバイアス電圧が、V=0(左)の場合、および、V≠0(右)の場合のバンド図が示される。
【0014】
図2Aの例において、電極11、12(この例においてはそれぞれ陰極および陽極)は、半導体層の上に堆積された同じ金属によって形成されており、V=0において、金属のフェルミ準位(E)は両方の金属-半導体界面において(E軸に沿った)同じエネルギレベルに位置する。半導体層の上に堆積された同じ金属を有する結果として、所与のバイアス電圧V≠0の下で、半導体層に注入された電子から見た電位障壁(電子ショットキー障壁高さφ)と、半導体層に注入された正孔から見た電位障壁(正孔ショットキー障壁φ)とは両方の電極において同じである。
【0015】
MSM光検出器において、所与のバイアス電圧V≠0における暗電流密度Idarkは、負電位をかけられた金属部を有するショットキー接合によって半導体に注入された電子の電流密度Iと、正電位をかけられた金属部を有するショットキー接合によって半導体に注入された正孔の電流密度Iとの和に等しい。これらの電流密度の各々は、異なる可能な機構を介してショットキー障壁によって制御される。その機構はトンネル電流、電界支援(field-assisted)トンネル電流、熱イオン電流である。適度な逆バイアス電圧(すなわち、数kTよりわずかに大きいもの)において、これらの電流密度は次のとおりの良好な近似として書くことができる。
=I0eexp[-φ/kT]、ここでI0e=A [exp(qV/kT)-1]
=I0hexp[-φ/kT]、ここでI0h=A [exp(qV/kT)-1]
ここでA (それぞれ(resp.)A )は、電子(それぞれ(resp.)正孔)放出に対する実効リチャードソン定数である[非特許文献3]。
【0016】
Tは室温にて約25meVであるため、したがって、IおよびIは、障壁高さに対して非常に高感度である。目的は、半導体層上に製造されるショットキー接触を選択することによって、検出器の暗電流密度Idarkを非常に低くすることである。
【0017】
しかし、同じ金属を用いるショットキー接触を採用するそのようなMSM光検出器において、ショットキー障壁高さ(正孔および電子)は半導体のバンドギャップによって制限される。実際に、2つの障壁高さの和φ+φは、半導体のバンドギャップEに等しい。したがって、たとえば電子から見た電位障壁の高さφの(たとえば金属の性質を変えることなどによる)変更は、結果的に、正孔から見た電位障壁の高さφに等しくかつ反対に変更される。結果として、Iはφの減少関数であり、Iはφの増加関数である。したがって、これら2つの電流密度の和は、光検出器の最良の最適化に対応する最小値を有する。
【0018】
一例として、本出願人は、ショットキー接触としてAu/Ti/InP(金/チタン/リン化インジウム)を用いたMSM光検出器の暗電流密度が、129fA.μm-2未満になり得ないと判断した。実際には、そのような最小値に対応するショットキー接触を製造するための条件(金属の性質、半導体の表面の処理など)を定義することは困難である。最良でもそのような最小値に近づけることしかできず、それは上記で定義された絶対最小値と比較して暗電流密度が増加するだろう。
【0019】
図2Bの例においては、各電極に対して異なる金属が用いられる。
【0020】
そのような実施形態において、一方の金属電極は高い電子ショットキー障壁高さ(φ)を有するように選択され得、他方の電極は高い正孔ショットキー障壁高さ(φ)を有するように選択され得る。暗電流は減衰して、上述の最小値よりも低い値に到達し得る。
【0021】
しかし、III-V半導体において観察される金属/半導体界面におけるフェルミ準位の捕捉[非特許文献5]は、たとえばシリコンに対して観察されるものと同じくらい大きい障壁高さを変更するためのダイナミックレンジへのアクセスを提供しない。実際に、再現可能かつ工業的なやり方で金属/III-V半導体界面を生成することが困難であるため、そのような半導体におけるショットキー障壁の高さを変更する可能性は、かなり制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】米国特許第5,780,916号
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】C-X.Shi et al.,IEEE Trans.Electron.Dev.39(5)1028(1992)
【非特許文献2】M.I. Ito et al., Contacts, IEEE J.Quant. Elec.QE-22(7), 1073(1986)
【非特許文献3】R.B.Darling et al.,J.App.Phys. 673152(1990)
【非特許文献4】H.S.Fresser et al.,J.Vac.Sci. Technol.B13(6)2553(1995)
【非特許文献5】N.Newman et al.,J.Vac.Sci.Technol.B4(4)931(1986)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
よって、長い波長の光を吸収するために低バンドギャップ半導体層を用いるときでも非常に低い暗電流密度を示すMSM光検出器の代替的設計が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0025】
以下において、「含む(comprises)」という用語は、「含む(includes)」および「含有する(contains)」の同義語(それと同じ意味)であり、包括的かつオープンであり、他の記述されていない構成要素を除外しない。さらに、本開示において数値を示すときの「約」および「実質的に」という用語は、その数値の80%~120%、好ましくは90%~110%に含まれる範囲の同義語(それと同じ意味)である。
【0026】
第1の態様によると、本明細書は、所与の波長範囲の入射光を検出するように構成された金属-半導体-金属光検出器であって、
前記所与の波長範囲内の光を吸収するように構成された吸収半導体層と、
第1のバンドギャップを有する第1の半導体材料からなり、前記吸収半導体層と電気的に接触する第1の半導体層と、
電圧発生器の負極と電気的に接続されるように構成された第1の金属電極であって、前記第1の金属電極は、前記第1の半導体層と電気的に接触しており、前記第1の半導体層は、前記第1の金属電極と前記吸収半導体層との間に配置され、前記第1の金属電極および前記第1の半導体層は、バイアス電圧の印加の下で電子ショットキー接合を生成するように構成された、前記第1の金属電極と、
前記第1の半導体材料とは異なる、第2のバンドギャップを有する第2の半導体材料からなり、前記吸収半導体層と電気的に接触する、第2の半導体層と、
前記電圧発生器の正極と電気的に接続されるように構成された、第2の金属電極であって、前記第2の金属電極は、前記第2の半導体層と電気的に接触し、前記第2の半導体層は、前記第2の金属電極と前記吸収との間に配置され、前記第2の金属電極および前記第2の半導体層は、バイアス電圧の印加の下で正孔ショットキー接合を生成するように構成された前記第2の金属電極と、を含む、金属-半導体-金属光検出器に、関する。
【0027】
電子ショットキー接合において、バイアス電圧、たとえば数kTよりも大きいバイアス電圧、すなわち周囲温度において約0.1V以上のバイアス電圧の印加の下での電流は、接合を横切る電子の束に独占される。
【0028】
正孔ショットキー接合において、バイアス電圧、たとえば数kTよりも大きいバイアス電圧、すなわち周囲温度において約0.1V以上のバイアス電圧の印加の下での電流は、接合を横切る正孔の束に独占される。
【0029】
そのような最初の配置によって、所与のバイアス電圧において、暗電流密度の2つの成分を別々に最小化できる。その成分の一方は電子ショットキー接合によって吸収半導体層に注入された電子の電流密度であり、他方は正孔ショットキー接合によって吸収半導体層に注入された正孔電流密度である。これを可能にするのは、異なる半導体材料でできた、本明細書においては「電子ショットキー半導体層」とも呼ばれる第1の半導体層と、本明細書においては「正孔ショットキー半導体層」とも呼ばれる第2の半導体層との非対称性である。
【0030】
さらに、第1の半導体材料および第1の金属電極は、電子ショットキー接合が第1の半導体層の第1のバンドギャップの半分よりも大きい電子ショットキー障壁φを有するように選択され、第2の半導体材料および第2の金属電極は、正孔ショットキー接合が第2の半導体層の第2のバンドギャップの半分よりも大きい正孔ショットキー障壁φを有するように選択される。先行技術の光検出器と比較して、電子の電流密度Iおよび正孔の電流密度Iの各々を両方とも低減でき、結果として、暗電流の低減、および、より良好な感度が、得られる。
【0031】
1つまたは複数の実施形態によると、前記吸収半導体層は、ゲルマニウム、III-V化合物、またはII-VI化合物から選択される半導体材料を含む。たとえば、吸収半導体層は、InGaAlAs合金、たとえば最大1.6μmの検出に対するInGaAs(バンドギャップEg=0.79eV)など、InAs/(In,Ga)Sb II型の超格子、またはより大きい波長(最大14μm)に対するHgCdTe合金から選択された半導体材料を含む。
【0032】
1つまたは複数の実施形態によると、前記吸収半導体層は、シリコンを含む。
【0033】
1つまたは複数の実施形態によると、第1の半導体材料および第2の半導体材料の少なくとも一方は、たとえばInAlAsなどのInGaAlAs合金、たとえばInPなどのInGaAs、たとえばCdTeなどのHgCdTe合金から選択される。
【0034】
すべての実施形態において、第1の半導体材料と第2の半導体材料とは異なる。さらに、第1の半導体材料および第2の半導体材料の各々は、吸収半導体層の半導体材料とは異なる。
【0035】
1つまたは複数の実施形態によると、第1の金属電極および第2の金属電極の少なくとも一方は、以下の材料のうちの1つまたは複数を含む。チタン、白金、アルミニウム、クロム、タングステン、モリブデン、およびケイ化タングステン(WSi)、ケイ化モリブデン(MoSi)などの化合物。
【0036】
1つまたは複数の実施形態によると、第1の金属電極および第2の金属電極の少なくとも一方は、異なる金属のスタックを含む。
【0037】
1つまたは複数の実施形態によると、光検出器は、吸収半導体層の表面および第1の半導体層の表面と接触する第1の勾配半導体ヘテロ構造をさらに含む。
【0038】
1つまたは複数の実施形態によると、光検出器は、吸収半導体層の表面および第2の半導体層の表面と接触する第2の勾配半導体ヘテロ構造をさらに含む。
【0039】
本明細書において、勾配半導体ヘテロ構造は、吸収半導体層との界面における吸収半導体層のバンドギャップの値に近い値から反対側の界面における半導体層の値に近い値までの範囲のバンドギャップの勾配を示す、いくつかの半導体層のスタックである。勾配半導体ヘテロ構造は、異なるバンドギャップを有する半導体のいくつかの層を積み重ねること、または四元半導体合金(たとえば、InAlGaAsまたはInGaAsP)の組成を段階的に変動させることによって得られてもよい。
【0040】
勾配半導体ヘテロ構造により、2つの異なる半導体層の間に存在し得る伝導帯および価電子帯の不連続性を排除出来得る。寄生電位障壁を低減させることによって、電荷(電子および正孔)の光発生キャリアのより良好な収集が得られ、したがって光検出器のより良好な量子効率がもたらされる。
【0041】
1つまたは複数の実施形態によると、光検出器は、前記第1の半導体層の表面および前記第1の金属電極の表面と接触する界面層と、前記第2の半導体層の表面および前記第2の金属電極の表面と接触する界面層と、の少なくとも一方をさらに含む。
【0042】
たとえば、前記界面層はたとえば酸化ケイ素、リン化インジウム酸化物、またはInAlAs酸化物などの酸化物を含む。この酸化物層は、その厚さを調整することによってショットキー接合のショットキー障壁を制御するために用いられてもよい。
【0043】
1つまたは複数の実施形態によると、前記第1の金属電極は、前記吸収半導体層の第1の側に配置され、前記第2の金属電極は、前記第1の側とは反対の前記吸収半導体層の第2の側に配置される。これは、本明細書において光検出器の縦型配置と、呼ばれる。
【0044】
そのような縦型配置において、第1の勾配半導体ヘテロ構造が前記吸収半導体層の表面および前記第1の半導体層の表面と接触して配置されてもよい、および、第2の勾配半導体ヘテロ構造が前記吸収半導体層の表面および前記第2の半導体層の表面と接触して配置されてもよい、の少なくとも一方である。
【0045】
1つまたは複数の実施形態によると、前記第1の金属電極および前記第2の金属電極は、前記吸収半導体層の同じ側に配置される。これは、本明細書において光検出器の横型配置と、呼ばれる。
【0046】
そのような横型配置において、第1の勾配半導体ヘテロ構造が、前記吸収半導体層の表面および前記第1の半導体層の表面と接触して配置されてもよいし、または、第2の勾配半導体ヘテロ構造が、前記吸収半導体層の表面および前記第2の半導体層の表面と接触して配置されてもよい。
【0047】
さらに、第3の勾配半導体ヘテロ構造が、前記第1の半導体層の表面および前記第2の半導体層の表面と接触して配置されてもよい。
【0048】
第2の態様によると、本明細書は、
第1態様による光検出器と、
電圧発生器であって、前記第1の金属電極が、前記電圧発生器の負極と電気的に接続され、前記第2の金属電極が、前記電圧発生器の正極と電気的に接続される、前記電圧発生器と、を含む、光検出回路に言及する。
【0049】
第3の態様によると、本明細書は第1の態様による光検出器を製造する方法に言及する。
【0050】
いくつかの実施形態において、第2態様による方法は、
基板上に、前記吸収半導体層、前記第1の半導体層、前記第2の半導体層を含む半導体スタックを堆積させることと、
前記半導体スタック上に金属層を堆積させて、前記第1の金属電極を形成することと、
前記基板を前記半導体スタックと共に反転して、ホスト基板上に貼り付けることと、
前記基板をエッチングし、金属層を堆積させて、前記第2の電極を形成することとを含む。
【0051】
1つまたは複数の実施形態によると、前記半導体スタックは、前記吸収半導体層の表面および前記第1の半導体層の表面と接触する第1の勾配半導体ヘテロ構造と、前記吸収半導体層の表面および前記第2の半導体層の表面と接触する第2の勾配半導体ヘテロ構造と、の少なくとも一方を、さらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0052】
以下の図面によって示される説明を読むことによって、本発明の他の利点および特徴が明らかになるだろう。
【0053】
図1A】すでに説明されているが、先行技術によるMSM光検出器(縦型配置)を示す断面図である。
図1B】すでに説明されているが、先行技術によるMSM光検出器(横型配置)を示す断面図である。
図2A】すでに説明されているが、両方の電極に対して同じ金属を用いる先行技術のMSM光検出器の理論的エネルギバンド図である。
図2B】すでに説明されているが、両方の電極に対して異なる金属を用いる先行技術のMSM光検出器の理論的エネルギバンド図である。
図3A】本明細書の実施形態によるMSM光検出器(縦型配置)の断面図によって光検出回路を示す図である。
図3B】本明細書の実施形態によるMSM光検出器(横型配置)の断面図によって光検出回路を示す図である。
図4A】両方の電極に対して同じ金属を用い、かつ金属-半導体界面において異なる半導体材料を用いる本明細書の実施形態によるMSM光検出器の理論的エネルギバンド図である。
図4B】金属-半導体界面において異なる金属および異なる半導体材料を用いる本明細書の実施形態によるMSM光検出器の理論的エネルギバンド図である。
図5A】本明細書の実施形態によるMSM光検出器(縦型配置)の断面図によって光検出回路を示す図である。
図5B】本明細書の実施形態による、図5Aに示されるMSM光検出器の理論的エネルギバンド図である。
図6A】本明細書の実施形態によるMSM光検出器(横型配置)の断面図によって光検出回路を示す図である。
図6B】本明細書の実施形態による横型配置のMSM光検出器の理論的エネルギバンド図である。
図7A】本明細書の実施形態によるMSM光検出器(横型配置)の断面図によって光検出回路を示す図である。
図7B】本明細書の実施形態による横型配置のMSM光検出器の理論的エネルギバンド図である。
図8】本明細書による光検出器の実施形態における電子障壁高さの関数として計算された暗電流密度を示す曲線を示す図である。
図9A】本明細書の実施形態による非対称MSM光検出器を製造する方法の第1のステップを示す図である。
図9B】本明細書の実施形態による非対称MSM光検出器を製造する方法の第2のステップを示す図である。
図9C】本明細書の実施形態による非対称MSM光検出器を製造する方法の第3のステップを示す図である。
図9D】本明細書の実施形態による非対称MSM光検出器を製造する方法の第4のステップを示す図である。
図9E】本明細書の実施形態による非対称MSM光検出器を製造する方法の第5のステップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
図3Aおよび図3Bは、本明細書の実施形態によるMSM光検出器の2つの構成を有する光検出回路を示す。これらの実施形態において、2つの金属電極330、340は、吸収半導体層325の両側に堆積される(「縦型配置」、図3A)か、または吸収半導体層325の同じ側に堆積される(「横型配置」、図3B)。Vは金属電極330、340に印加されるバイアス電圧であり、線20は1D近似において2つの電極間の電流密度線に従う任意の線を示す。
【0055】
MSM光検出器は、光通信適用に対しては、約1.3μmから約1.5μmの間など、たとえば約1.3μmまたは約1.5μmなど、の所与の波長範囲の入射光を検出するように構成される。
【0056】
図3Aおよび図3Bの実施形態において、MSM光検出器は支持体310および半導体スタックを含み、半導体スタックは吸収半導体層325と、吸収半導体層と電気的に接触する第1の半導体層321と、吸収半導体層と電気的に接触する第2の半導体層322とを含む。吸収半導体層325は、前記波長範囲の光を吸収するように構成される。
【0057】
たとえば図3Aなどに示される縦型配置において、半導体スタックはホスト基板上に移される。支持体310はホスト基板に対応し、たとえば金属(たとえばAlまたはCuなど)、ガラス(たとえばSiOなど)、または半導体(たとえばシリコンなど)などの任意の機械的支持体であり得る。
【0058】
たとえば図3Bなどに示される横型配置において、支持体310は、たとえばInGaAlAsおよびInGaAsP合金の少なくとも一方の成長に対するリン化インジウム(InP)基板、またはAlGaAs合金の成長に対するガリウムヒ素(GaAs)基板、またはHgCdTe合金の成長に対するCdZnTe、またはタイプ2超格子GaSb/InAsの成長に対するGaSbもしくはInAs基板などを含む。
【0059】
第1の半導体層321は第1の半導体材料でできており、かつ第1の金属電極340(図3Aおよび図3Bの例における陰極)と電気的に接触しており、よってこれらの実施形態において第1の半導体-金属界面を形成する。第1の金属電極340は、第1の半導体層321と共に、電子から見たショットキー障壁高さφを有する電子ショットキー接合を生成する。よって、本明細書において、第1の半導体層321は「電子ショットキー半導体層」とも呼ばれる。
【0060】
第2の半導体層322は、第1の半導体材料とは異なる第2の半導体材料でできており、かつ第2の金属電極330(図3Aおよび図3Bの例における陽極)と電気的に接触しており、よって、これらの実施形態において第2の半導体-金属界面を形成する。第2の金属電極330は、第1の金属電極340の金属と同じであってもなくてもよい金属で形成されている。第2の電極330は、第2の半導体層322と共に、正孔から見たショットキー障壁高さφを有する正孔ショットキー接合を生成する。よって、本明細書において、第2の半導体層322は「正孔ショットキー半導体層」とも呼ばれる。
【0061】
図4Aおよび図4Bは、図3Aおよび図3Bに示されるMSM光検出器の実施形態のエネルギバンド図を示す。V=0(左)およびV≠0(右)に対して、第1および第2の金属電極340、330間にバイアス電圧を印加した場合のエネルギバンド図が示される。図4Aの実施形態において、第1および第2の電極340、330は同じ金属からなるが、図4Bの実施形態においては、第1および第2の電極340、330は異なる金属からなる。
【0062】
図4Aに示されるとおり、V=0において、金属のフェルミ準位Eは両方の金属-半導体界面において(E軸に沿った)同じエネルギレベルに位置するが、EおよびEは平行ではなく、半導体スタック内に準電界が存在することを示す。エネルギバンド図において、破線は目に対する単なるガイドであり、半導体スタックはこれらのスキームにおける2つの界面の間に画成されない。動作中にバイアス電圧Vが印加されて、光キャリアの収集のための収集電界が確立される。図4Aに示されるとおり、金属-半導体界面における半導体材料が異なるため、第1の半導体層に注入された電子から見た電位障壁(電子ショットキー障壁高さφ)と、第2の半導体層に注入された正孔から見た電位障壁(正孔ショットキー障壁高さφ)は、独立して制御され得る。したがってこの場合、2つの障壁高さの和は、もはや先行技術のように半導体バンドギャップと等しい値に固定されない。逆に、本明細書は、これらの障壁高さの各々が、これらの電極の各々と接触する対応する半導体層のバンドギャップの半分よりも大きくなることを可能にする。
【0063】
図4Bは、両方の電極(330および340)に対して異なる金属を用い、かつ金属-半導体界面における電子ショットキー半導体層321および正孔ショットキー半導体層322に対して異なる半導体材料を用いる、たとえば図3Aおよび図3Bなどに示されるMSM光検出器のエネルギバンド図を示す。この場合、一方の金属-半導体界面は高い電子ショットキー障壁高さを有するように選択され、他方の金属-半導体界面は高い正孔ショットキー障壁高さを有するように選択される。したがって、2つの電位障壁を独立して最大化し得ることによって、電極から半導体層321、322にそれぞれ注入される電子および正孔のどちらも、乗り越えるべき障壁高さが図2Bと比較してより高くなる。
【0064】
よって、2つのショットキー接合における電流が極度に低減され、MSM光検出器の暗電流密度も同様となる。
【0065】
したがって、たとえば図3Aおよび図3Bなどに記載される最初の配置によって、金属電極340-電子ショットキー半導体層321の界面と、金属電極330-正孔ショットキー半導体322の界面との間に、非対称性が得られる。この非対称性は、電子ショットキー接合によって電子ショットキー半導体層321に注入される電子の電流密度と、正孔ショットキー接合によって正孔ショットキー半導体層322に注入される正孔電流とを別々に最小化することを可能にする。
【0066】
そして、当業者は、利用可能な材料の中から、逆バイアス下で最も弱い電流密度(電子および正孔)を有するショットキー接合を形成する半導体材料/金属の対を決定することができる。たとえば、2つの接合(電子および正孔)の各々に対して、テストのための特定の構造を作ることができる。そのような構造は、たとえばテストされる金属層およびショットキー半導体層などを含み、後者はドープ半導体上にエピタキシャル成長され、電子ショットキー半導体-金属界面をテストするためにN型を有するか、または正孔ショットキー半導体-金属界面をテストするためにP型を有する。
【0067】
一例として、上述のテスト手順により、電子に対するInAlAs上および正孔に対するInP上にTi/Au接触によって生成されるショットキー接合の障壁高さを決定することが可能になった。
【0068】
発明者らは、ショットキーInAlAs/Ti/Au接合において電子から見た障壁高さをφ=735meV、すなわち暗電流密度I=4fA.μm-2と決定した。
【0069】
発明者らはさらに、ショットキーInP/Ti/Au接合において正孔から見た障壁高さをφ=786meV、すなわち暗電流密度I=0.5fA.μm-2と決定した。
【0070】
したがって、MSM光検出器に対する暗電流密度(InAlAs/Ti/Au接合において注入された電子流と、InP/Ti/Au接合において注入された正孔電流との和)は4.5fA.μm-2に等しく、すなわちショットキー接触としてAu/Ti/InP(金/チタン/リン化インジウム)を用いる対称MSM光検出器に対して記載される対称検出器の絶対最小電流密度の28分の1である。
【0071】
図5A図6A図7Aは、本明細書の各実施形態によるMSM光検出器の他の実施形態を示し、図5B図6B図7Bは、本明細書の各実施形態によるMSM光検出器のバンド図を示す。図5B図6B図7Bにおいては、簡略化のために各層における電界を0Ti/Au接触 半導体としている。
【0072】
図5Aは、縦型配置における、本明細書の実施形態によるMSM光検出器の別の実施形態を示す。
【0073】
図5Aに示されるMSM光検出器は、吸収半導体層325と、電子ショットキー半導体層321と、正孔ショットキー半導体層322とを有する半導体スタック320を含む。この半導体スタックは、吸収半導体層325の表面と接触し、かつ電子ショットキー半導体層321の表面と接触する第1の勾配半導体ヘテロ構造326と、吸収半導体層325の表面および正孔ショットキー半導体層322の表面と接触する第2の勾配半導体ヘテロ構造327とをさらに含む。そのような縦型配置において、金属電極330、340は半導体スタックの両側に配置され、それぞれ正孔ショットキー半導体層322および電子ショットキー半導体層321と電気的に接触する。
【0074】
たとえば、吸収半導体層325がInGaAsからなり、かつ電子ショットキー半導体層321がInAlAsからなる場合、第1の勾配半導体ヘテロ構造326はInGaAlAsの合金を含んでもよく、よって、InAlAsのバンドギャップからInGaAsのバンドギャップまで変動するバンドギャップを有してもよい。
【0075】
第1の勾配半導体ヘテロ構造326は、吸収半導体層325と電子ショットキー半導体層321との間に存在する伝導帯および価電子帯の不連続性の平滑化を可能にする。結果として得られる寄生電位障壁を制限することによって、光生成電荷キャリアのより良好な収集が行われ得る。
【0076】
一方で、吸収半導体層325がInGaAsからなり、かつ正孔ショットキー半導体層322がInPからなる場合、第2の勾配半導体ヘテロ構造327はInGaAsPの合金を含んでもよく、よって、InPのバンドギャップからInGaAsのバンドギャップまで変動するバンドギャップを有してもよい。
【0077】
なお、両方の勾配半導体ヘテロ構造によってより良好な性能が期待されるが、いくつかの実施形態において、MSM光検出器は第1の勾配半導体ヘテロ構造または第2の勾配半導体ヘテロ構造の一方のみを含んでもよい。
【0078】
図5Bは、図5Aに示されるMSM光検出器のバンド図を表す。この半導体スタックは、バンドギャップEを有する吸収半導体層325と、バンドギャップEg1を有する電子ショットキー半導体層321と、バンドギャップEg2を有する正孔ショットキー半導体層322と、電子ショットキー半導体層321および吸収半導体層325の間に配置された第1の勾配半導体ヘテロ構造326と、正孔ショットキー半導体層322および吸収半導体層325の間に配置された第2の勾配半導体ヘテロ構造327とを含む。
【0079】
たとえば、電極330、340はチタン層および金層の2つの金属層のスタックを含む。第1の金属電極340におけるチタン層は第1の半導体層321と共に電子ショットキー障壁を生成し、第2の金属電極330におけるチタン層は第2の半導体層322と共に正孔ショットキー障壁を生成する。金層は、チタンを保護するための不活性金属として用いられ、さらに非常に良好な導体である。
【0080】
吸収半導体層325は、バンドギャップE=0.74eVを有するInGaAsからなる。電子ショットキー半導体層321は、バンドギャップEg1=1.45eVを有するInAlAsからなり、よって、チタン-InAlAs界面において、チタンからInAlAsに注入される電子に対する高い電位障壁φ=0.73eVを示す電子ショットキー接合が生成される。正孔ショットキー半導体層322はバンドギャップEg2=1.35eVを有するInPでできており、よって、チタン-InP界面において、チタンからInPに注入される正孔に対する高い電位障壁φ=0.79eVを示す正孔ショットキー接合が生成される。
【0081】
図5Bにおいて、ΔEC1およびΔEC2はそれぞれ、電子ショットキー半導体層321および吸収半導体層325の伝導帯間のエネルギ差、および正孔ショットキー半導体層322および吸収半導体層325の伝導帯間のエネルギ差である。たとえば、上述の例においてΔEC1=0.52eVであり、ΔEC2=0.25eVである。
【0082】
さらに、ΔEV1およびΔEV2はそれぞれ、吸収半導体層320および電子ショットキー半導体層321の価電子帯間のエネルギ差、および吸収半導体層325および正孔ショットキー半導体層322の価電子帯間のエネルギ差である。たとえば、上述の例においてΔEV1=0.19eVであり、ΔEV2=0.35eVである。
【0083】
この例においても、先行技術の対称MSM光検出器と比較して暗電流がかなり低減される(対称MSM光検出器のAu/Ti/InP接合と比較して28分の1である)。さらに、両方の電極に対して同じ金属を用い得るため、製造が簡素化される。
【0084】
図6Aは、横型配置における、本明細書の実施形態によるMSM光検出器の別の実施形態を示す。
【0085】
図6Aに示されるMSM光検出器は半導体スタック320と、半導体スタックの上に配置された2つの電極330、340とを含む。半導体スタック320は吸収半導体層325と、第1の電極340と電気的に接触する電子ショットキー半導体層321と、第2の電極330と電気的に接触する正孔ショットキー半導体層322とを含む。図6Aの例において、正孔ショットキー半導体層322は、電子ショットキー半導体層321と吸収半導体層325との間に配置される。さらに、第2の電極330が正孔ショットキー半導体層322と接触して配置され得るように、電子ショットキー半導体層321が構成される。有利なことに、図6Aの例において、半導体スタックは、吸収半導体層325の表面と接触し正孔ショットキー半導体層322の表面とも接触する、勾配半導体ヘテロ構造327を、さらに含む。なお、半導体スタックは、電子ショットキー半導体層321の表面と接触し正孔ショットキー半導体層322の表面とも接触する、勾配半導体ヘテロ構造(図6Aには示さず)もさらに含んでもよい。
【0086】
図6Bは、図6Aに示されるMSM光検出器のバンド図を表しており、ここでは電子ショットキー半導体層321の表面と接触し、かつ正孔ショットキー半導体層322の表面と接触する勾配半導体ヘテロ構造がさらに配置されている。上記で詳述されたとおり、半導体スタックはバンドギャップEを有する吸収半導体層325と、バンドギャップEg1を有する電子ショットキー半導体層321と、バンドギャップEg2を有する正孔ショットキー半導体層322とを含む。そのような実施形態において、電子ショットキー半導体321は正孔ショットキー半導体322の上で成長する。さらに、正孔ショットキー半導体層322と吸収半導体層325との間に勾配半導体ヘテロ構造327が配置され、電子ショットキー半導体層321と正孔ショットキー半導体層322との間に勾配半導体ヘテロ構造(図6Aには示さず)が配置される。
【0087】
たとえば、電極330、340はチタン/金からなる。吸収半導体層325はバンドギャップE=0.74eVを有するInGaAsからなる。電子ショットキー半導体層321はバンドギャップEg1=1.45eVを有するInAlAsからなり、よって、チタン-InAlAs界面において、チタンからInAlAsに注入された電子に対する高い電位障壁φ=0.73eVを示す電子ショットキー接合が生成される。正孔ショットキー半導体層322はバンドギャップEg2=1.35eVを有するInPからなり、よって、チタン-InP界面において、チタンからInPに注入された正孔に対する高い電位障壁φ=0.79eVを示す正孔ショットキー接合が生成される。
【0088】
図6Bにおいて、ΔEC2は、正孔ショットキー半導体層322および吸収半導体層325の伝導帯間のエネルギ差である。ΔEC3は、電子ショットキー半導体層321および正孔ショットキー半導体層322の伝導帯間のエネルギ差である。たとえば、上述の例においてΔEC2=0.25eV、ΔEC3=0.34eVである。
【0089】
さらにΔEV2は、吸収半導体層325および正孔ショットキー半導体層322の価電子帯間のエネルギ差である。ΔEV3は、電子ショットキー半導体層321および正孔ショットキー半導体層322の価電子帯間のエネルギ差である。たとえば、上述の例においてΔEV2=0.35eVおよびΔEV3=0.19eVである。
【0090】
先行技術の対称MSM光検出器と比較して、暗電流が同様に低減されていることが観察される。
【0091】
図7Aは、横型配置における、本明細書の実施形態によるMSM光検出器の別の実施形態を示す。
【0092】
図7Aに示されるMSM光検出器は半導体スタック320と、半導体スタックの上に配置された2つの電極330、340とを含む。半導体スタックは吸収半導体層325と、第1の電極340と電気的に接触する電子ショットキー半導体層321と、第2の電極330と電気的に接触する正孔ショットキー半導体層322とを含む。図7Aの例において、電子ショットキー半導体層321は、正孔ショットキー半導体層322と吸収半導体層325との間に配置される。さらに、第1の電極340が電子ショットキー半導体層321と接触して配置され得るように、正孔ショットキー半導体層322が構造化される。有利なことに、図7Aの例において、半導体スタックは、吸収半導体層325の表面と接触し電子ショットキー半導体層321の表面とも接触する、勾配半導体ヘテロ構造326を、さらに含む。半導体スタックは、電子ショットキー半導体層321の表面と接触し正孔ショットキー半導体層322の表面とも接触する、勾配半導体ヘテロ構造(図7Aには示さず)も、さらに含んでもよい。
【0093】
図7Bは、図7Aに示されるMSM光検出器のバンド図を表しており、勾配半導体ヘテロ構造が、電子ショットキー半導体層321の表面と接触し、かつ正孔ショットキー半導体層322の表面と接触して、さらに配置されている。上記で詳述されたとおり、半導体スタックはバンドギャップEを有する吸収半導体層325と、バンドギャップEg1を有する電子ショットキー半導体層321と、バンドギャップEg2を有する正孔ショットキー半導体層322とを含む。本実施形態において、正孔ショットキー半導体322は電子ショットキー半導体321の上で成長する。さらに、電子ショットキー半導体321と吸収半導体層325との間に勾配半導体ヘテロ構造326が配置され、電子ショットキー半導体層321と正孔ショットキー半導体層322との間に勾配半導体ヘテロ構造(図7Aには示さず)が配置される。
【0094】
たとえば、電極330、340はチタン/金からなる。吸収半導体層325はバンドギャップE=0.74eVを有するInGaAsからなる。電子ショットキー半導体層321はバンドギャップEg1=1.45eVを有するInAlAsからなり、よって、チタン-InAlAs界面において、チタンからInAlAsに注入された電子に対する高い電位障壁φ=0.73eVを示す電子ショットキー接合が生成される。正孔ショットキー半導体層322はバンドギャップEg2=1.35eVを有するInPからなり、よって、チタン-InP界面において、チタンからInPに注入された正孔に対する高い電位障壁φ=0.79eVを示す正孔ショットキー接合が生成される。
【0095】
図7Bにおいて、ΔEC1は、電子ショットキー半導体層321および吸収半導体層325の伝導帯間のエネルギ差である。ΔEC3は、電子ショットキー半導体層321および正孔ショットキー半導体層322の伝導帯間のエネルギ差である。たとえば、ΔEC1=0.52eVおよびΔEC3=0.34eVである。
【0096】
さらに、ΔEV1は、吸収半導体層325および電子ショットキー半導体層321の価電子帯間のエネルギ差である。ΔEV3は、電子ショットキー半導体層321および正孔ショットキー半導体層322の価電子帯間のエネルギ差である。たとえば、ΔEV1=0.19eVおよびΔEV3=0.19eVである。
【0097】
この配置の利点は、図6A図6Bに対して記載されたものと同じである。さらに、正孔の輸送は電子の輸送よりも低速であるため、図7Aの配置は、正孔の収集電極までの平均経路が短縮されるので有利であり得る。
【0098】
図8は、先行技術の光検出器において計算された暗電流と比較された、本明細書による光検出器の実施形態における電子障壁高さの関数として計算された暗電流密度を示す曲線を表す。
【0099】
図8において、曲線801は、良好な近似としてチタン層からInP層に注入された電子から見たショットキー障壁高さに等しい、伝導帯の最小エネルギEとフェルミ準位Eとの差の関数としてチタン/InPショットキー接合に対して計算された電子暗電流密度である。曲線803は、同じショットキー接合に対して計算された正孔暗電流密度を示す。2つの電流密度の和802は、先行技術による対称MSM光検出器における暗電流密度に相当する。これは光検出器の最良の最適化に対応する最小値を有する。そのような最小値は絶対最小値であり、ショットキー接合に対して用いられた材料(半導体および金属)の性質に依存する。
【0100】
図8は、本明細書による非対称MSM光検出器において計算された暗電流密度804も示す。この例において、電子ショットキー半導体は前の場合と同様にInPであり、正孔ショットキー半導体はInAlAsである。金属電極はチタンからなる。曲線801は計算された電子暗電流密度であり、曲線805は計算された正孔暗電流密度である。図8に示されるとおり、非対称MSMの合計電流密度804は、対称MSMの絶対最小値よりも低い絶対最小値を示す。
【0101】
図9A図9B図9C図9D図9Eは、本明細書の実施形態による非対称MSM光検出器を製造する方法のステップを示す。
【0102】
第1のステップ(図9A)において、吸収半導体層と、電子ショットキー半導体層と、正孔ショットキー半導体層と、(任意の)勾配半導体層(単数または複数)とを含む半導体スタック320が、たとえばInPなどでできた基板901の上に、堆積される。半導体スタック320は、たとえば約500nmから約1000nmの間などに含まれる厚さを有する。MSM光検出器の第1の電極を作るために、半導体スタック320の上に堆積される、約150nmから約250nmの間に含まれる厚さを有する金属層340は、たとえばチタンなどの1つの金属を含んでもよいし、たとえばチタン/金などの金属層のスタックを含んでもよい。チタンは、金原子が半導体スタックに拡散することを防ぐための金に対する拡散障壁として、用いられる。金は不活性材料であるため、時間の経過とともに酸化するリスクが低く、また、抵抗率も非常に低いという特性がある。
【0103】
第2のステップ(図9B)において、基板901は半導体スタック320および金属層340と共に反転され、接着層906を用いてホスト基板905上に貼り付けられる。ホスト基板は、たとえばガラスまたはシリコンなどからなる。接着層は、たとえばガラスなどの基板上に半導体スタックを貼り付けるためのUV硬化後にガラスの様な特性を提供するポリマーか、またはたとえばシリコンなどの不透明な基板上に半導体スタックを貼り付けるためのたとえばベンゾシクロブテン(Benzocyclobutene)BCBなどの別のタイプのポリマーを含んでもよい。
【0104】
第3のステップ(図9C)において、基板901がエッチングされ、金属層330を堆積させて第2の電極を形成する。金属層330はたとえば約150nmなどであり、たとえば光リソグラフィなどによって構造化されてもよい。金属層330は、たとえばチタンなどの1つの金属を含んでもよいし、たとえばTi/Auなどの金属層のスタックを含んでもよい。
【0105】
第4のステップ(図9D)において、光検出器を電気的に分離するメサを製造するために半導体スタック320がエッチングされる。このステップは、たとえば化学溶液などのウェットエッチング技術を用いるか、またはたとえば誘導電流プラズマ法(induced current plasma recipes)などのドライエッチング技術を用いてなされてもよい。
【0106】
図9Eに示されるとおり、縦型MSM光検出器が得られ、電極330、340間にバイアス電圧Vが印加されてもよい。
【0107】
上記の方法は、たとえば図3Aまたは図5Aなどに記載されるMSM光検出器の縦型配置に対して記載されたものであるが、当業者はたとえば図3B図6A図7Aなどに記載されるMSM光検出器の横型配置に対してこの方法を適合させるだろう。
【0108】
横型配置の各電極は半導体スタックの同じ側に位置するため、ホスト基板上へのスタックの移行(図9B)は任意である。その後の製造ステップは、前述のもの、すなわち各電極を形成する金属堆積(図9C)、分離メサ(図9D)と同一であってもよい。外部回路との接続(図9E)は、図1Bに示される「インターディジテイテッド」回路に基づくため、縦型配置とは異なる。
【0109】
本発明を限られた数の実施形態に関して記載したが、この開示の利益を有する当業者は、本明細書に開示される本発明の趣旨から逸脱しない他の実施形態が考案され得ることを認識するだろう。したがって、本発明の範囲は添付の請求項のみによって限定されるべきである。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
【外国語明細書】