(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167178
(43)【公開日】2024-12-03
(54)【発明の名称】高い効能を有する細胞外小胞
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20241126BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20241126BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20241126BHJP
A61K 35/35 20150101ALI20241126BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241126BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20241126BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20241126BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20241126BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20241126BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20241126BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20241126BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P11/00
A61P9/12
A61K35/35
A61P43/00 121
A61K31/519
A61P37/02
A61P9/00
A61P43/00 105
C12N5/0775
C12Q1/02
C12Q1/68 100Z
【審査請求】有
【請求項の数】27
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024113965
(22)【出願日】2024-07-17
(62)【分割の表示】P 2018565684の分割
【原出願日】2017-06-16
(31)【優先権主張番号】62/351,627
(32)【優先日】2016-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】511266520
【氏名又は名称】ユナイテッド セラピューティクス コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196966
【弁理士】
【氏名又は名称】植田 渉
(72)【発明者】
【氏名】ホーガン,サラ
(72)【発明者】
【氏名】イルガン,ロジャー マルケス
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス,マリア ピア
(72)【発明者】
【氏名】メドラノ,カロライナ
(72)【発明者】
【氏名】チードル,ジョン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ミトコンドリア機能の標的化などにより肺高血圧症を治療するための、改良型治療用組成物および方法を提供する。
【解決手段】間葉系間質細胞から強力な細胞外小胞またはエクソソーム集団を単離する方法と、肺高血圧症、気管支肺異形成症を含めた血管障害、ならびにミトコンドリア機能障害と関連した疾患および状態の治療における単離細胞外小胞またはエクソソームの使用とを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺高血圧症を治療する方法であって、それを必要とする対象に間葉系間質細胞から得た
単離細胞外小胞またはエクソソームを投与することを含み、前記単離細胞外小胞またはエ
クソソームが、前記間葉系間質細胞から得た全細胞外小胞またはエクソソームにおける発
現産物の平均量と比較して、(a)解糖経路中の遺伝子、(b)TCA回路中の遺伝子、
および(c)電子伝達系中の遺伝子からなる群から選択される1つまたは複数の発現産物
の発現が増加している細胞外小胞またはエクソソームを含む、方法。
【請求項2】
前記細胞外小胞またはエクソソームが、前記間葉系間質細胞から得た全細胞外小胞また
はエクソソームにおける同じ発現産物の平均量と比較して、少なくとも20%高い発現産
物の発現を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(a)解糖経路中の遺伝子がPK、AGI、ALDO、ALDOA、ENO3、GPI
、HK2、HK3、PFK、PGM、TPI、GAPDH、ENO、およびPGAMから
なる群から選択され、(b)TCA回路中の遺伝子がMDH2、OGDH、PC、PDH
A1、PDHB、SDHA、SDHC、およびSUCLG2からなる群から選択され、(
c)電子伝達系中の遺伝子がETFA、ATPase、NDUFC2、NDUFB1、N
DUFS5、NDUFA8、NDUFA9、NDUFS2、SDHA、SDHC、UQC
RH1、Cox6c1、およびCox10からなる群から選択される、請求項1に記載の
方法。
【請求項4】
前記遺伝子がPKである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記遺伝子がATPaseである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記単離細胞外小胞またはエクソソームが前記対象の肺組織におけるグルコース酸化を
正常化する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記単離細胞外小胞またはエクソソームが少なくとも0.15nmol/min/mL
のPK活性を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記単離細胞外小胞またはエクソソームが、3週間の慢性低酸素状態曝露を施しPBS
で処理した対照マウスと比較して少なくとも10%、3週間の慢性低酸素状態曝露を施し
たマウスの右室収縮期圧(RVSP)を下げることができる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記単離細胞外小胞またはエクソソームが、24時間の低酸素状態曝露を施しPBS対
照で処理した対照SMC細胞溶解物と比較して少なくとも20%、24時間の低酸素状態
曝露を施したSMC細胞溶解物によるO2消費を増大することができる、請求項1に記載
の方法。
【請求項10】
ミトコンドリア機能障害と関連した疾患または状態を治療する方法であって、それを必
要とする対象に間葉系間質細胞から得た単離細胞外小胞またはエクソソームを投与するこ
とを含み、前記単離細胞外小胞またはエクソソームが、前記間葉系間質細胞から得た全細
胞外小胞またはエクソソームにおける発現産物の平均量と比較して、(a)解糖経路中の
遺伝子、(b)TCA回路中の遺伝子、および(c)電子伝達系中の遺伝子からなる群か
ら選択される1つまたは複数の発現産物の発現が増加した細胞外小胞またはエクソソーム
を含む、方法。
【請求項11】
(a)解糖経路中の遺伝子がPK、AGI、ALDO、ALDOA、ENO3、GPI
、HK2、HK3、PFK、PGM、TPI、GAPDH、ENO、およびPGAMから
なる群から選択され、(b)TCA回路中の遺伝子がMDH2、OGDH、PC、PDH
A1、PDHB、SDHA、SDHC、およびSUCLG2からなる群から選択され、か
つ(c)電子伝達系中の遺伝子がETFA、ATPase、NDUFC2、NDUFB1
、NDUFS5、NDUFA8、NDUFA9、NDUFS2、SDHA、SDHC、U
QCRH1、Cox6c1、およびCox10からなる群から選択される、請求項10に
記載の方法。
【請求項12】
前記遺伝子がPKである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記単離細胞外小胞またはエクソソームが少なくとも0.15nmol/min/mL
のPK活性を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項14】
前記遺伝子がATPaseである、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記単離細胞外小胞またはエクソソームが前記対象の肺組織におけるグルコース酸化を
正常化する、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記ミトコンドリア機能障害と関連した疾患または状態が、前記対象におけるミトコン
ドリアのグルコース酸化の低減と関連している、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記ミトコンドリア機能障害と関連した疾患または状態が、フリードライヒ運動失調症
、レーベル遺伝性視神経症、カーンズセイヤー症候群、乳酸アシドーシスおよび脳血管発
作様症状発現を伴うミトコンドリア脳筋症、リー症候群、肥満症、アテローム性動脈硬化
症、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、がん、心不全、心筋梗塞(MI)、アルツハ
イマー病、ハンチントン病、統合失調症、双極性障害、脆弱X症候群、および慢性疲労症
候群からなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
肺高血圧症を治療または予防することができる細胞外小胞またはエクソソームを単離す
る方法であって、以下のステップ:
a.細胞外小胞またはエクソソームを含む間葉系間質細胞の培養培地を用意するステッ
プ、
b.前記培養培地の他の成分から前記細胞外小胞またはエクソソームの少なくとも一部
分を分離するステップ、
c.他の細胞外小胞またはエクソソーム集団から細胞外小胞またはエクソソーム集団を
単離するステップであって、前記集団が、前記間葉系間質細胞から得た全細胞外小胞また
はエクソソームにおける発現産物の平均量と比較して、(a)解糖経路中の遺伝子、(b
)TCA回路中の遺伝子、および(c)電子伝達系中の遺伝子からなる群から選択される
1つまたは複数の発現産物の発現が増加している、ステップ
を含む方法。
【請求項19】
前記細胞外小胞またはエクソソーム集団をリン脂質検出によって単離する、請求項18
に記載の方法。
【請求項20】
(a)解糖経路中の遺伝子がPK、AGI、ALDO、ALDOA、ENO3、GPI
、HK2、HK3、PFK、PGM、TPI、GAPDH、ENO、およびPGAMから
なる群から選択され、(b)TCA回路中の遺伝子がMDH2、OGDH、PC、PDH
A1、PDHB、SDHA、SDHC、およびSUCLG2からなる群から選択され、か
つ(c)電子伝達系中の遺伝子がETFA、ATPase、NDUFC2、NDUFB1
、NDUFS5、NDUFA8、NDUFA9、NDUFS2、SDHA、SDHC、U
QCRH1、Cox6c1、およびCox10からなる群から選択される、請求項18に
記載の方法。
【請求項21】
前記遺伝子がPKである、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記遺伝子がAPTaseである、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
肺高血圧症を治療または予防することができる細胞外小胞またはエクソソームを単離す
る方法であって、以下のステップ:
a.細胞外小胞またはエクソソームを含む間葉系間質細胞の培養培地を用意するステッ
プ、
b.前記培養培地の他の成分から前記細胞外小胞またはエクソソームの少なくとも一部
分を分離するステップ、
c.分子量に基づき細胞外小胞またはエクソソームの異なる集団を分離するステップ、
d.前記細胞外小胞またはエクソソームの異なる集団で低酸素状態曝露マウスを処理す
るステップ、
e.酸素正常状態マウス、低酸素状態曝露マウス、および前記細胞外小胞またはエクソ
ソームで処理した低酸素状態曝露マウスの右室収縮期圧(RVSP)を測定するステップ
、
f.前記RVSPに基づき細胞外小胞またはエクソソームの強力な集団を同定するステ
ップ
を含む方法。
【請求項24】
細胞外小胞またはエクソソームで処理した低酸素状態曝露マウスのRVSPと低酸素状
態曝露マウスのRVSPの比が0.85以下である場合、細胞外小胞またはエクソソーム
の集団が強力である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
デルタRVSPが5未満であり、デルタRVSPが細胞外小胞またはエクソソームで処
理した低酸素状態曝露マウスのRVSPマイナス酸素正常状態マウスのRVSPである場
合、細胞外小胞またはエクソソームの集団が強力である、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
ステップcにおいて、細胞外小胞またはエクソソームの異なる集団をリン脂質検出によ
って分離する、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記細胞外小胞またはエクソソームの強力な集団が、前記間葉系間質細胞から得た全細
胞外小胞またはエクソソームにおける発現産物の平均量と比較して、(a)解糖経路中の
遺伝子、(b)TCA回路中の遺伝子、および(c)電子伝達系中の遺伝子からなる群か
ら選択される1つまたは複数の発現産物の発現が増加している、請求項23に記載の方法
。
【請求項28】
(a)解糖経路中の遺伝子がPK、AGI、ALDO、ALDOA、ENO3、GPI
、HK2、HK3、PFK、PGM、TPI、GAPDH、ENO、およびPGAMから
なる群から選択され、(b)TCA回路中の遺伝子がMDH2、OGDH、PC、PDH
A1、PDHB、SDHA、SDHC、およびSUCLG2からなる群から選択され、か
つ(c)電子伝達系中の遺伝子がETFA、ATPase、NDUFC2、NDUFB1
、NDUFS5、NDUFA8、NDUFA9、NDUFS2、SDHA、SDHC、U
QCRH1、Cox6c1、およびCox10からなる群から選択される、請求項23に
記載の方法。
【請求項29】
前記遺伝子がPKである、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
前記遺伝子がATPaseである、請求項23に記載の方法。
【請求項31】
気管支肺異形成症を治療または予防することができる細胞外小胞またはエクソソームを
単離する方法であって、以下のステップ:
a.細胞外小胞またはエクソソームを含む間葉系間質細胞の培養培地を用意するステッ
プ、
b.前記培養培地の他の成分から前記細胞外小胞またはエクソソームの少なくとも一部
分を分離するステップ、
c.分子量に基づき細胞外小胞またはエクソソームの異なる集団を分離するステップ、
d.前記細胞外小胞またはエクソソームの異なる集団で低酸素状態曝露マウスを処理す
るステップ、
e.酸素正常状態マウス、低酸素状態曝露マウス、および前記細胞外小胞またはエクソ
ソームで処理した低酸素状態曝露マウスの右室収縮期圧(RVSP)を測定するステップ
、
f.前記RVSPに基づき細胞外小胞またはエクソソームの強力な集団を同定するステ
ップを
含む方法。
【請求項32】
ステップbにおける分離がサイズ排除クロマトグラフィーによる、請求項23または請
求項31に記載の方法。
【請求項33】
請求項23または請求項31に従って得られる単離細胞外小胞またはエクソソームを含
む組成物。
【請求項34】
前記単離細胞外小胞またはエクソソームが約100nmの平均直径を有する、請求項3
3に記載の組成物。
【請求項35】
前記単離細胞外小胞またはエクソソームがFLOTおよび/またはANXA2を発現す
る、請求項33に記載の組成物。
【請求項36】
前記単離細胞外小胞またはエクソソームが、前記間葉系間質細胞の全細胞外小胞または
エクソソームにおけるmir204の平均量と比較してmir204の発現が増加してい
る、請求項33に記載の組成物。
【請求項37】
前記単離細胞外小胞またはエクソソームが、全間葉系間質細胞中のCD105、GAP
DH、DLST、および/またはATP5A1の平均量と比較してCD105、GAPD
H、DLST、および/またはATP5A1の増大した発現を含有するMSCから分泌さ
れる、請求項33に記載の組成物。
【請求項38】
前記単離細胞外小胞またはエクソソームが、間葉系間質細胞の全細胞外小胞またはエク
ソソームにおけるSORCS1、FHITおよび/またはANKRD30BLの平均量と
比較してSORCS1、FHITおよび/またはANKRD30BLのRNA発現が増大
している、請求項33に記載の組成物。
【請求項39】
前記単離細胞外小胞またはエクソソームがMHCII汚染物質を実質的に含まない、請
求項33に記載の組成物。
【請求項40】
前記単離細胞外小胞またはエクソソームがフィブロネクチンを実質的に含まない、請求
項33に記載の組成物。
【請求項41】
気管支肺異形成症を治療または予防する方法であって、それを必要とする対象に請求項
31から40のいずれか一項に記載の単離細胞外小胞またはエクソソームを投与すること
を含む方法。
【請求項42】
前記単離細胞外小胞またはエクソソームが前記対象の免疫調節能力を増大させる、請求
項41に記載の方法。
【請求項43】
前記単離細胞外小胞またはエクソソームが前記対象におけるIL-6および/またはT
NFαの発現を低減させる、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記単離細胞外小胞またはエクソソームが前記対象の血管形成を促進する、請求項41
に記載の方法。
【請求項45】
前記単離細胞外小胞またはエクソソームが前記対象における酸素過剰誘導型アポトーシ
スを低減させる、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記単離細胞外小胞またはエクソソームが前記対象におけるシトクロムCレベルを低減
させる、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
前記単離細胞外小胞またはエクソソームが前記対象のミトコンドリア代謝を増大させる
、請求項41に記載の方法。
【請求項48】
前記単離細胞外小胞またはエクソソームが前記対象における管形成を修復する、請求項
41に記載の方法。
【請求項49】
前記単離細胞外小胞またはエクソソームが前記対象におけるGLUD1および/または
PDH遺伝子発現を上方制御する、請求項41に記載の方法。
【請求項50】
前記単離細胞外小胞またはエクソソームが前記対象におけるPDK4遺伝子発現を下方
制御する、請求項41に記載の方法。
【請求項51】
前記単離細胞外小胞またはエクソソームが前記対象におけるSIRT4遺伝子発現を下
方制御する、請求項41に記載の方法。
【請求項52】
前記対象にシルデナフィルを投与することをさらに含む、請求項1から17および41
から51に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全容が参照により本明細書に組み込まれている、2016年6月17日
に出願された米国仮特許出願第62/351,627号の優先権を主張するものである。
【0002】
本出願は、エクソソームを含めた強力な細胞外小胞を単離する方法と、肺動脈性肺高血
圧症(PAH)を含めた肺高血圧症、ならびにミトコンドリア機能障害と関連した状態お
よび疾患の治療における細胞外小胞またはエクソソームの使用とに関する。
【背景技術】
【0003】
肺高血圧症は進行性であり、肺血管の圧力の増大によって特徴付けられる致命的疾患で
あることが多い。肺循環の狭窄の増大は右心に対するストレスの増大をもたらし、これに
よって右心不全を発症する可能性がある。定義によって、慢性肺高血圧症の症例における
平均肺動脈圧(mPAP)は、安静時>25mmHgまたは作業時>30mmHg(正常
値<20mmHg)である。例えば、未治療の肺動脈性肺高血圧症は、診断後平均2.8
~5年以内で死に至る(Keily et al. (2013) BMJ 346:f2028)。肺動脈性肺高血圧症の
病態生理は、肺血管の血管収縮および再構築によって特徴付けられる。慢性PAHでは、
当初は非筋肉形成状態であった肺血管の新たな筋肉形成があり、既に筋肉形成状態であっ
た血管の血管筋肉は周径が増大する。この結果として生じる肺動脈圧の増大は右心に対す
る進行的ストレスをもたらし、これは右心からの心拍出量の減少につながり、最終的に右
心不全に至る(M. Humbert et al., J. Am. Coll. Cardiol. 2004, 43, 13S-24S)。PA
Hは稀な障害であり、百万人あたり1~2人の罹患率である。患者の平均年齢は36才で
あると推定されており、患者のわずか10%が60才を超えていた。男性より女性が明ら
かに罹患している(G. E. D'Alonzo et al., Ann. Intern. Med. 1991, 115, 343-349)
。
【0004】
数多くの機序がPAHの病因に関係している。重要なことに、この疾患における異常な
ミトコンドリアのグルコース酸化の下流での全体代謝の抑制が記載されている。ミトコン
ドリア機能の低下によって、多数の細胞型の関与、肺血管細胞のがん様増殖、およびアポ
トーシスに対するこれらの細胞の耐性などの、多くの明らかに無関係なPAHにおける異
常が1つになる可能性がある。PAHにおけるミトコンドリア機能障害の役割を示す証拠
があるにもかかわらず、ミトコンドリア機能の治療標的化は難しいことが証明されている
。
【発明の概要】
【0005】
したがって、ミトコンドリア機能の標的化などにより肺高血圧症を治療するための、改
良型治療用組成物および方法を開発する必要がある。
【0006】
一態様では、本開示は、(予防を含めた)肺高血圧症を治療する方法であって、それを
必要とする対象に間葉系間質細胞から得た単離細胞外小胞またはエクソソームを投与する
ことを含み、単離細胞外小胞またはエクソソームが、間葉系間質細胞から得た全細胞外小
胞またはエクソソームにおける発現産物の平均量と比較して、(a)解糖経路中の遺伝子
、(b)TCA回路中の遺伝子、および(c)電子伝達系中の遺伝子からなる群から選択
される1つまたは複数の発現産物の発現が増加した細胞外小胞またはエクソソームを含む
、方法を提供する。幾つかの実施形態では、細胞外小胞またはエクソソームは、間葉系間
質細胞から得た全細胞外小胞またはエクソソームにおける同じ発現産物の平均レベルと比
較して、少なくとも10%、20%、30%、50%、または100%高い発現産物の発
現を含む。
【0007】
幾つかの実施形態では、単離細胞外小胞またはエクソソームは、(a)解糖経路中の遺
伝子、(b)TCA回路中の遺伝子、および(c)電子伝達系中の遺伝子からなる群から
選択される1つまたは複数の遺伝子のタンパク質(複数可)の発現が増加している。幾つ
かの実施形態では、単離細胞外小胞またはエクソソームは、(a)解糖経路中の遺伝子、
(b)TCA回路中の遺伝子、(c)電子伝達系中の遺伝子からなる群から選択される1
つまたは複数の遺伝子のRNA(複数可)の発現が増加している。
【0008】
幾つかの実施形態では、(a)解糖経路中の遺伝子はPK、AGI、ALDO、ALD
OA、ENO3、GPI、HK2、HK3、PFK、PGM、TPI、GAPDH、EN
O、およびPGAMからなる群から選択され、(b)TCA回路中の遺伝子はMDH2、
OGDH、PC、PDHA1、PDHB、SDHA、SDHC、およびSUCLG2から
なる群から選択され、かつ(c)電子伝達系中の遺伝子はETFA、ATPase、ND
UFC2、NDUFB1、NDUFS5、NDUFA8、NDUFA9、NDUFS2、
SDHA、SDHC、UQCRH1、Cox6c1、およびCox10からなる群から選
択される。
【0009】
幾つかの実施形態では、遺伝子はPKである。幾つかの他の実施形態では、遺伝子はA
TPaseである。
【0010】
幾つかの実施形態では、単離細胞外小胞またはエクソソームは対象におけるグルコース
酸化を正常化する。幾つかの実施形態では、単離細胞外小胞またはエクソソームは対象の
肺組織におけるグルコース酸化を正常化する。幾つかの実施形態では、単離細胞外小胞ま
たはエクソソームは少なくとも0.15nmol/min/mLのPK活性を有する。
【0011】
幾つかの実施形態では、単離細胞外小胞またはエクソソームは、3週間の慢性低酸素状
態曝露を施しPBSで処理した対照マウスと比較して少なくとも10%、3週間の慢性低
酸素状態曝露を施したマウスの右室収縮期圧(RVSP)を下げることができる。
【0012】
幾つかの実施形態では、単離細胞外小胞またはエクソソームは、24時間の低酸素状態
曝露を施しPBS対照で処理した対照SMC細胞溶解物と比較して少なくとも20%、2
4時間の低酸素状態曝露を施した平滑筋細胞(SMC)細胞溶解物によるO2消費を増大
することができる。
【0013】
別の態様では、本開示は、ミトコンドリア機能障害と関連した疾患または状態を治療す
る方法であって、それを必要とする対象に間葉系間質細胞から得た単離細胞外小胞または
エクソソームを投与することを含み、単離細胞外小胞またはエクソソームが、間葉系間質
細胞から得た全細胞外小胞またはエクソソームにおける発現産物の平均レベルと比較して
、(a)解糖経路中の遺伝子、(b)TCA回路中の遺伝子、および(c)電子伝達系中
の遺伝子からなる群から選択される1つまたは複数の発現産物の発現が増加した細胞外小
胞またはエクソソームを含む、方法を提供する。
【0014】
幾つかの実施形態では、単離細胞外小胞またはエクソソームは、(a)解糖経路中の遺
伝子、(b)TCA回路中の遺伝子、および(c)電子伝達系中の遺伝子からなる群から
選択される1つまたは複数の遺伝子のタンパク質(複数可)の発現が増加している。幾つ
かの実施形態では、単離細胞外小胞またはエクソソームは、(a)解糖経路中の遺伝子、
(b)TCA回路中の遺伝子、(c)電子伝達系中の遺伝子からなる群から選択される1
つまたは複数の遺伝子のRNA(複数可)の発現が増加している。
【0015】
幾つかの実施形態では、(a)解糖経路中の遺伝子はPK、AGI、ALDO、ALD
OA、ENO3、GPI、HK2、HK3、PFK、PGM、TPI、GAPDH、EN
O、およびPGAMからなる群から選択され、(b)TCA回路中の遺伝子はMDH2、
OGDH、PC、PDHA1、PDHB、SDHA、SDHC、およびSUCLG2から
なる群から選択され、かつ(c)電子伝達系中の遺伝子はETFA、ATPase、ND
UFC2、NDUFB1、NDUFS5、NDUFA8、NDUFA9、NDUFS2、
SDHA、SDHC、UQCRH1、Cox6c1、およびCox10からなる群から選
択される。
【0016】
幾つかの実施形態では、遺伝子はPKである。幾つかの他の実施形態では、遺伝子はA
TPaseである。幾つかの実施形態では、単離細胞外小胞またはエクソソームは対象の
肺組織におけるグルコース酸化を正常化する。幾つかの実施形態では、単離細胞外小胞ま
たはエクソソームは少なくとも0.15nmol/min/mLのPK活性を有する。
【0017】
幾つかの実施形態では、ミトコンドリア機能障害と関連した疾患または状態は、対象に
おけるミトコンドリアのグルコース酸化の低減と関連している。幾つかの実施形態では、
ミトコンドリア機能障害と関連した疾患または状態は、フリードライヒ運動失調症、レー
ベル遺伝性視神経症、カーンズセイヤー症候群、乳酸アシドーシスおよび脳血管発作様症
状発現を伴うミトコンドリア脳筋症、リー症候群、肥満症、アテローム性動脈硬化症、筋
萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、がん、心不全、心筋梗塞(MI)、アルツハイマー
病、ハンチントン病、統合失調症、双極性障害、脆弱X症候群、および慢性疲労症候群か
らなる群から選択される。
【0018】
別の態様では、本開示は、肺高血圧症を治療または予防することができる細胞外小胞ま
たはエクソソームを単離する方法であって、以下のステップ:(a)細胞外小胞またはエ
クソソームを含む間葉系間質細胞の培養培地を用意するステップ、(b)培養培地の他の
成分から細胞外小胞またはエクソソームの少なくとも一部分を分離するステップ、および
(c)他の細胞外小胞またはエクソソーム集団から細胞外小胞またはエクソソーム集団を
単離するステップであって、集団が、間葉系間質細胞から得た全細胞外小胞またはエクソ
ソームにおける発現産物の平均量と比較して、(a)解糖経路中の遺伝子、(b)TCA
回路中の遺伝子、および(c)電子伝達系中の遺伝子からなる群から選択される1つまた
は複数の発現産物の発現が増加している、ステップを含む方法を提供する。
【0019】
別の態様では、本開示は、肺高血圧症を治療または予防することができる細胞外小胞ま
たはエクソソームを単離する方法であって、以下のステップ:(a)細胞外小胞またはエ
クソソームを含む間葉系間質細胞の培養培地を用意するステップ、(b)培養培地の他の
成分から細胞外小胞またはエクソソームの少なくとも一部分を分離するステップ、(c)
分子量に基づき細胞外小胞またはエクソソームの異なる集団を分離するステップ、(d)
細胞外小胞またはエクソソームの異なる集団で低酸素状態曝露マウスを処理するステップ
、(e)酸素正常状態マウス、低酸素状態曝露マウス、および細胞外小胞またはエクソソ
ームで処理した低酸素状態曝露マウスの右室収縮期圧(RVSP)を測定するステップ、
および(f)RVSPに基づき細胞外小胞またはエクソソームの強力な集団を同定するス
テップを含む方法を提供する。
【0020】
幾つかの実施形態では、細胞外小胞またはエクソソームで処理した低酸素状態曝露マウ
スのRVSPと低酸素状態曝露マウスのRVSPの比が0.85以下である場合、細胞外
小胞またはエクソソームの集団は強力である。
【0021】
幾つかの実施形態では、デルタRVSPが5mmHg未満であり、デルタRVSPが細
胞外小胞またはエクソソームで処理した低酸素状態曝露マウスのRVSPマイナス酸素正
常状態マウスのRVSPである場合、細胞外小胞またはエクソソームの集団は強力である
。
【0022】
幾つかの実施形態では、ステップcにおいて、細胞外小胞またはエクソソームの異なる
集団をリン脂質検出によって分離する。
【0023】
幾つかの実施形態では、細胞外小胞またはエクソソームの強力な集団は、間葉系間質細
胞から得た全細胞外小胞またはエクソソームにおける発現産物の平均量と比較して、(a
)解糖経路中の遺伝子、(b)TCA回路中の遺伝子、および(c)電子伝達系中の遺伝
子からなる群から選択される1つまたは複数の発現産物の発現が増加している。幾つかの
実施形態では、細胞外小胞またはエクソソームの強力な集団は、(a)解糖経路中の遺伝
子、(b)TCA回路中の遺伝子、および(c)電子伝達系中の遺伝子からなる群から選
択される1つまたは複数の遺伝子のタンパク質(複数可)の発現が増加している。幾つか
の実施形態では、細胞外小胞またはエクソソームの強力な集団は、(a)解糖経路中の遺
伝子、(b)TCA回路中の遺伝子、および(c)電子伝達系中の遺伝子からなる群から
選択される1つまたは複数の遺伝子のRNA(複数可)の発現が増加している。
【0024】
幾つかの実施形態では、(a)解糖経路中の遺伝子はPK、AGI、ALDO、ALD
OA、ENO3、GPI、HK2、HK3、PFK、PGM、TPI、GAPDH、EN
O、およびPGAMからなる群から選択され、(b)TCA回路中の遺伝子はMDH2、
OGDH、PC、PDHA1、PDHB、SDHA、SDHC、およびSUCLG2から
なる群から選択され、かつ(c)電子伝達系中の遺伝子はETFA、ATPase、ND
UFC2、NDUFB1、NDUFS5、NDUFA8、NDUFA9、NDUFS2、
SDHA、SDHC、UQCRH1、Cox6c1、およびCox10からなる群から選
択される。
【0025】
幾つかの実施形態では、遺伝子はPKである。幾つかの実施形態では、遺伝子はATP
aseである。
【0026】
別の態様では、本開示は、気管支肺異形成症を治療または予防することができる細胞外
小胞またはエクソソームを単離する方法であって、以下のステップ:(a)細胞外小胞ま
たはエクソソームを含む間葉系間質細胞の培養培地を用意するステップ、(b)培養培地
の他の成分から細胞外小胞またはエクソソームの少なくとも一部分を分離するステップ、
(c)分子量に基づき細胞外小胞またはエクソソームの異なる集団を分離するステップ、
(d)細胞外小胞またはエクソソームの異なる集団で低酸素状態曝露マウスを処理するス
テップ、(e)酸素正常状態マウス、低酸素状態曝露マウス、および細胞外小胞またはエ
クソソームで処理した低酸素状態曝露マウスの右室収縮期圧(RVSP)を測定するステ
ップ、および(f)RVSPに基づき細胞外小胞またはエクソソームの強力な集団を同定
するステップを含む方法を提供する。
【0027】
幾つかの実施形態では、方法のステップ(b)は、サイズ排除クロマトグラフィーによ
り培養培地の他の成分から細胞外小胞またはエクソソームの一部分を分離する。
【0028】
別の態様では、本開示は、本開示中に記載したいずれかの方法に従って得られる単離細
胞外小胞またはエクソソームを含む組成物を提供する。幾つかの実施形態では、単離細胞
外小胞またはエクソソームは約100nmの平均直径を有する。幾つかの実施形態では、
単離細胞外小胞またはエクソソームはFLOTおよび/またはANXA2を発現する。幾
つかの実施形態では、単離細胞外小胞またはエクソソームは、間葉系間質細胞の全細胞外
小胞またはエクソソームにおけるmir204の平均量と比較してmir204の発現が
増加している。幾つかの実施形態では、単離細胞外小胞またはエクソソームは、間葉系間
質細胞の全細胞外小胞またはエクソソームにおけるCD105、GAPDH、DLST、
および/またはATP5A1の平均量と比較してCD105、GAPDH、DLST、お
よび/またはATP5A1の増大した発現を含有するMSCから分泌されている。幾つか
の実施形態では、単離細胞外小胞またはエクソソームは、間葉系間質細胞の全細胞外小胞
またはエクソソームにおけるSORCS1、FHITおよび/またはANKRD30BL
の平均量と比較してSORCS1、FHITおよび/またはANKRD30BLのRNA
発現が増大している。幾つかの実施形態では、単離細胞外小胞またはエクソソームはMH
CII汚染物質を実質的に含まない。幾つかの実施形態では、単離細胞外小胞またはエク
ソソームはフィブロネクチンを実質的に含まない。
【0029】
別の態様では、本開示は、気管支肺異形成症を治療または予防する方法であって、それ
を必要とする対象に本開示中に記載したいずれかの方法に従って得られる単離細胞外小胞
またはエクソソームを投与することを含む方法を提供する。幾つかの実施形態では、単離
細胞外小胞またはエクソソームは対象の免疫調節能力を増大させる。幾つかの実施形態で
は、単離細胞外小胞またはエクソソームは、対象におけるIL-6および/またはTNF
αの発現を低減させる。幾つかの実施形態では、単離細胞外小胞またはエクソソームは対
象の血管形成を促進する。幾つかの実施形態では、単離細胞外小胞またはエクソソームは
対象における酸素過剰誘導型アポトーシスを低減させる。幾つかの実施形態では、単離細
胞外小胞またはエクソソームは対象におけるシトクロムCレベルを低減させる。幾つかの
実施形態では、単離細胞外小胞またはエクソソームは対象のミトコンドリア代謝を増大さ
せる。幾つかの実施形態では、単離細胞外小胞またはエクソソームは対象における管形成
を修復する。幾つかの実施形態では、単離細胞外小胞またはエクソソームは対象における
GLUD1および/またはPDH遺伝子発現を上方制御する。幾つかの実施形態では、単
離細胞外小胞またはエクソソームは対象におけるPDK4遺伝子発現を下方制御する。幾
つかの実施形態では、単離細胞外小胞またはエクソソームは対象におけるSIRT4遺伝
子発現を下方制御する。
【0030】
幾つかの実施形態では、肺高血圧症および/または気管支肺異形成症の治療または予防
方法は、対象にシルデナフィルを投与することをさらに含む。
【0031】
提供する図面は、開示する主題を例示するものであり、限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1-1】MSC培養培地からのエクソソームの単離、およびマウスにおいて慢性低酸素状態誘導型PAHを予防する際のそれらの効能を示す図である。
図1Aは、サイズ排除クロマトグラフィーに基づき単離した異なるエクソソーム集団を示す。
図1Bは、リン脂質濃度検出およびA280クロマトグラムによって単離したエクソソームのオーバーレイを示す。
【
図1-2】MSC培養培地からのエクソソームの単離、およびマウスにおいて慢性低酸素状態誘導型PAHを予防する際のそれらの効能を示す図である。
図1Cは、低酸素状態誘導型PAHを有するマウスを治療した際の単離エクソソームの影響を示す。強力なエクソソーム集団(緑色ドットとして示すEXM2)はマウスにおいて慢性低酸素状態誘導型PAHを予防したが、一方で他のエクソソーム集団(赤色ドットとして示すEXM1)は予防しなかった。
【
図2】強力なエクソソーム集団の同定を示す図である。
図2Aは、低酸素状態治療群と低酸素状態対照の間の、RVSP変化倍率に対してプロットしたエクソソーム集団のピルビン酸キナーゼ活性を示す。
図2Bは、デルタRVSPに対してプロットしたエクソソーム集団のピルビン酸キナーゼ活性を示す。赤色ドットは、RVSPの有意な改善を誘導した強力なエクソソーム集団を表す。青色ドットは、低酸素状態誘導型PAHマウスの治療において強力ではないエクソソーム集団を表す。
図2Cは、箱ひげ図でグラフ化した強力なエクソソーム集団のピルビン酸キナーゼ活性を示す。
【
図3】異なるエクソソーム集団のプロテオーム解析を例証する図である。
図3Aは、強力なエクソソーム集団において、発現レベルが増加したタンパク質が解糖、TCA回路、および電子伝達系に関与したことを示す。
図3Bは、強力なエクソソーム集団(EXM2)と非強力なエクソソーム集団(EXM1)の両方のピルビン酸キナーゼのウエスタンブロット解析を示す。
【
図4】異なるエクソソーム集団のRNAseq解析を示す図である。結果は、強力なエクソソーム集団が、解糖、TCA回路、および電子伝達系に関与した富化遺伝子を含有していたことを実証し、これはグルコース酸化増大のための遺伝子リプログラミングに関する強力なエクソソーム集団の可能性を示唆する(a)。
【
図5-1】酸素正常状態または4%O
2低酸素状態のいずれかに24時間曝露した後の、エクソソーム治療SMC細胞溶解物におけるO
2消費アッセイを示す図である。
図5Aは、PBS対照に標準化した勾配として計算したO
2消費を示す。
【
図5-2】酸素正常状態または4%O
2低酸素状態のいずれかに24時間曝露した後の、エクソソーム治療SMC細胞溶解物におけるO
2消費アッセイを示す図である。
図5Bは、PBS対照に標準化した曲線下面積として計算したO
2消費を示す。
図5Aおよび
図5Bの結果は、エクソソームが、酸素正常状態曝露SMCにおける細胞O
2消費を有意に変えることはないことを示す。他方で、エクソソーム治療は低酸素状態ストレス下でO
2消費の増大を誘導し、これはミトコンドリア機能の増大を示す。
【
図6-1】急性低酸素状態曝露後のSMC溶解物のマイクロアレイ解析の結果を例証する図である。
図6Aは、エクソソーム治療によって標準化した、低酸素状態曝露後の解糖におけるENO1遺伝子発現の増加を示す。
【
図6-2】急性低酸素状態曝露後のSMC溶解物のマイクロアレイ解析の結果を例証する図である。
図6Bは、エクソソーム治療によって標準化した、低酸素状態曝露後のTCA回路におけるPDHBおよびACLY遺伝子発現の増加を示す。
図6Cは、エクソソーム治療によって標準化した、低酸素状態曝露後の電子伝達系におけるNDUFAF3、ATP2B4、ATP5H、ATP91遺伝子発現の増加を示す。
【
図7-1】急性低酸素状態曝露後のSMC溶解物のメタボロミクス解析を示す図である。
図7Aは、解糖における代謝産物レベルの変化倍率を示す。
図7Bは、TCA回路における代謝産物レベルの変化倍率を示す。
【
図7-2】急性低酸素状態曝露後のSMC溶解物のメタボロミクス解析を示す図である。
図7Cは、電子伝達系における代謝産物レベルの変化倍率を示す。
図7Dは、エクソソーム治療有りおよび無しで低酸素状態に曝露した生存SMCにおけるATP生成の比較を示す(#は酸素正常状態と比較してp≦0.05を意味し、$は低酸素状態と比較してp≦0.05を意味し、*は酸素正常状態と比較してp≦0.1、および低酸素状態と比較してp≦0.1を意味する)。結果は、解糖、TCA回路における代謝産物の構築、およびこれらの経路を介した流動の低下による低酸素状態曝露後のエネルギー代謝を示した。エクソソーム治療によってこれらの経路を介した流動は増大し、これはエクソソーム治療がグルコース酸化を増大し急性低酸素状態に対するSMCストレス応答を正常化することを示す。
【
図8-1】低酸素状態曝露後のSMC溶解物の解析を示す図である。
図8Aは、24時間の低酸素状態曝露後のSMC溶解物の培地LDHの活性を示す。
図8Bは、24時間の低酸素状態曝露後のSMC溶解物の培地クエン酸のレベルを示す。
【
図8-2】低酸素状態曝露後のSMC溶解物の解析を示す図である。
図8Cは、慢性的2週間の低酸素状態曝露後のSMC溶解物の培地LDHの活性を示す。
図8Dは、慢性的2週間の低酸素状態曝露後のSMC溶解物の培地クエン酸のレベルを示す。
【
図8-3】低酸素状態曝露後のSMC溶解物の解析を示す図である。
図8Eは、慢性的2週間の低酸素状態曝露後のSMC溶解物における、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ活性型サブユニット(PDHE1α)、PDHE1α阻害剤ピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ(PDK)、およびATPaseのタンパク質発現を示す(#は酸素正常状態と比較してp≦0.05を意味し、$は低酸素状態と比較してp≦0.05を意味し、*は酸素正常状態と比較してp≦0.1、および低酸素状態と比較してp≦0.1を意味する)。結果は、エクソソーム治療が、急性および慢性低酸素状態曝露後にミトコンドリア機能を正常化することを示す。
【
図9】エクソソーム治療に関する提示モデルを示す図である。特に、肺高血圧症はミトコンドリアのグルコース酸化を抑制し、全身ミトコンドリア機能の低下をもたらす。エクソソーム治療はグルコース酸化を正常化し、解糖(1)およびミトコンドリア内のTCA回路と電子伝達系(2)における急性期タンパク質組み込みおよび/または酵素の慢性的遺伝子上方制御の両方によってミトコンドリア能力を改善する。
【
図10】ダイアフィルトレーションステップ無し(青色)およびダイアフィルトレーションステップ有り(オレンジ色)で生成したエクソソームのクロマトグラムの比較を示す図である。青色クロマトグラムはオレンジ色のそれよりはるかに高いA280読み取り値を有し、ダイアフィルトレーション試料と比較して多量の試料中のタンパク質を示唆する。ダイアフィルトレーションステップは、エクソソームの所望濃度に達した後、TFFカセットフィルターにポンプを動かし続けながら体積維持のため容器へのPBSバッファーの添加を含む、バッファー交換と類似している。徐々に、PBSが順化培地と置き換わる。可能な限り交換を完了させるため、7合計体積のダイアフィルトレーションを保持液に実施した。このステップは、エクソソームに影響を与えずに、保持液中の一部の不純物を除去するのに役立つ。エクソソームの存在はFLOT-1ウエスタンブロットによって確認した。この図は、エクソソーム保持中の少量の全体タンパク質とリン脂質によって示されるように、ダイアフィルトレーションステップが不純物を除去するのに役立つことを示す。
【
図11】エクソソーム生成解析を示す図である。
図11Aは、12の試料のFLOT-1ウエスタンブロット解析を示す。
図11Bはエクソソームのサイズ分布を示し、約100nmの平均直径を有する。
【
図12】クロマトグラム、NTA、FLOT-1ウエスタンブロットおよびANXA2ウエスタンブロットを含めた、例示的エクソソーム生成の補足解析および評価を示す図である。
【
図13】強力なエクソソームの解析を示す図である。
図13Aは、COM1(大きく非強力なエクソソーム集団)とCOM2(小さく強力なエクソソーム集団)のクロマトグラムを示す。
図13Bは、低酸素状態対照と比較した各調製物由来の(低酸素状態誘導型肺高血圧症の動物モデルにおける)RVSPに対する全体タンパク質のプロッティングを示す。結果は、大きく非強力な分画中に多くのタンパク質が存在するとき、生成する調製物は強力であることを示す。
図13Cは、餓死前の給餌日数に対する全体タンパク質のプロッティングを示す。結果は、(強力調製物と指定した)陽性デルタタンパク質を餓死1日前にいずれも連続的に給餌したことを示す。
【
図14】mir204(RNAサイレンシングおよび遺伝子発現の転写後制御中約22のヌクレオチド官能基を含有する低分子非コードRNA分子)のプロッティングを示す図である。COM1は低分子miRNAに相当する高いサイクル閾値(CT)の値、および低い効能を有する。対照的に、COM2はmir204発現が増加している。
【
図15】エクソソームの効能は、親MSC細胞において、CD105タンパク質発現(
図15A)、GAPDH遺伝子発現(
図15B)、DLST遺伝子発現(
図15C)、およびATP5A1遺伝子発現(
図15D)とプラスの関係があることを示す図である。結果は、細胞の代謝健康状態はエクソソームの効能と直接関係があることを示す。
【
図16】気管支肺異形成症(BPD)患者の肺発達障害を示す図である。
図16Aは、異なるステージのBPDのレントゲン写真を示す。
図16Bは、マウスモデルにおける肺胞傷害を示す。
【
図17】酸素過剰in vitroモデルおよびウネキシソーム(unexisome)媒介炎症抑制を示す図である。肺胞細胞を24時間接種し、0.1%FBS培地に移し、酸素正常状態インキュベーターにおいて3時間、強力なエクソソーム集団(ウネキシソーム)で初回抗原刺激し、酸素過剰インキュベーションチャンバー中で48時間平板培養した。
【
図18】強力なエクソソーム集団(ウネキシソーム)が、酸素過剰ストレスに曝露した細胞においてIL-6の発現低下に基づき免疫調節能力を増大させることを示す図である(酸素過剰状態はIL-6の放出を引き起こす)。「#」は酸素正常状態対照と比較したエクソソーム治療の有意性を示す。「*」は酸素過剰状態対照と比較したエクソソーム治療の有意性を示す。
【
図19】強力なエクソソーム集団(ウネキシソーム)が、酸素過剰ストレスに曝露した細胞においてTNFαの発現低下に基づき免疫調節能力を増大させることを示す図である(酸素過剰状態はTNFαの放出を引き起こす)。「*」は酸素過剰状態対照と比較したエクソソーム治療の有意性を示す。
【
図20】強力なエクソソーム集団(ウネキシソーム)が、細胞数の増大に相当する吸光度の増大によって示されるように、酸素過剰状態の下で抗アポトーシス効果を有することを示す図である。「*」は酸素過剰状態対照と比較したエクソソーム治療の有意性を示す。
【
図21】強力なエクソソーム集団(ウネキシソーム)が、酸素過剰ストレスに曝露した細胞からのシトクロムC放出を減らすことを示す図であり、これは細胞アポトーシスの減少に相当する。*は酸素過剰状態対照と比較したエクソソーム治療の有意性を示す。
【
図22】
図22Aは、酸素正常状態細胞、酸素過剰ストレスに曝露した細胞、および強力なエクソソームで治療した細胞の蛍光イメージを示す図である。
図22Bは、エクソソーム(COM2)治療は酸素過剰状態で管形成を修復することを示す。
【
図23】平滑筋細胞(SMC)慢性低酸素状態モデルの概略を示す図である。SMCはPAHおよび低酸素状態で増殖、非アポトーシス表現型に変わり、肺中の血管および動脈の肥大をもたらし、高圧、および最終的に心臓に対するダメージ/PAHにおいて負の症状を引き起こす。SMCは酸素正常状態、4%酸素状態、および4%酸素+エクソソームで培養した。培養期間中、2週間の間1週間に2回、強力なエクソソームで細胞を治療した。生成したSMCは、マイクロアレイ遺伝子発現(IPA)および/または全体的メタボロミクスによって解析した。
【
図24】経路内の中間代謝産物の全体的代謝産物解析により、エクソソームが慢性低酸素状態においてアミノ酸代謝を上方制御することを示す図である。
【
図25】エクソソームが、慢性低酸素状態においてピルビン酸およびグルタミン酸代謝を上方制御することを示す図である。
【
図26】エクソソームが、慢性低酸素状態においてGLUD1遺伝子発現を上方制御することを示す図である。
【
図27】エクソソームが、慢性低酸素状態においてPDK4を下方制御することを示す図である。
【
図28】エクソソームが、慢性低酸素状態においてSIRT4を下方制御することを示す図である。SIRT4遺伝子は、in vitro PAHモデルにおいて2つの代謝酵素、GLUD1およびPDHを阻害する。SIRT4遺伝子はin vitro PAHモデルではエクソソーム治療により下方制御され、一方GLUD1およびPDHはエクソソーム治療により上方制御される。SIRT4はエクソソーム治療の標的であると考えられる。
【
図29】エクソソームが、低酸素状態において下方制御された遺伝子を上方制御することにより、TCA回路機能を修復することを示す図である(TCA回路中9酵素のうち6酵素が下方制御される)。
【
図30】SIRT4とエクソソーム治療の間の関係を示す図である。
【
図31】TCA回路を修復する際の、強力なエクソソームの提案された機序を示す図である。特に低酸素状態は、(1)TCA回路中へのPDH、したがってピルビン酸の進入をいずれも阻害するSIRT4とPDK4の上方制御、(2)TCA回路中へのGLUD1、したがってグルタミンの進入を阻害するSIRT4の上方制御によってTCA回路機能を阻害する。強力なエクソソーム(ウネキシソーム)はSIRT4とPDK4の両方を低減させ、それによってTCA回路中へのグルタミンとピルビン酸の流動を増大させる。
【
図32】非理想的サイズのエクソソームだけでなくタンパク質と非強力な微細小胞汚染物質も単離する超遠心分離または勾配分離と比較した、サイズ排除クロマトグラフィーを使用した強力なエクソソーム集団(COM2)の単離を示す図である。
【
図33】エクソソームのTEMイメージングを示す図である。結果は、単離した強力なエクソソームは、超遠心分離試料と比較してより均一なサイズと鮮明なイメージを有することを示す。
【
図34】単離した強力なエクソソームは、MHCII汚染物質を含まないことを示す図である。対照的に、ZenBioからの市販のエクソソームはMHCII汚染物質を含有する。
【
図35】ポンソー染色に基づいて、単離した強力なエクソソームはフィブロネクチンおよび他のタンパク質汚染物質を含まないことを示す図である。
図35Aは、単離エクソソームは汚染タンパク質フィブロネクチンを含まず、一方で市販のZenBio超遠心分離調製物はフィブロネクチン汚染物質を有することを示す。
図35Bは、超遠心分離により単離したエクソソームは、濃縮細胞培養培地と同様にフィブロネクチン汚染物質を含有したことを示す。サイズ排除クロマトグラフィーにより単離したエクソソームは、ポンソーにより染色され得るフィブロネクチン汚染物質および他のタンパク質汚染物質を含まない。
【
図36】強力集団と微細小胞汚染物質のRNAseqクラスタリング解析を示す図である。結果は、強力なエクソソーム(COM2)が微細小胞汚染物質から差次的に群がることを示す。それらはSORCS1、FHITおよびANKRD30BLが富化状態である。
【
図37】強力なエクソソーム(COM2)対非強力なエクソソーム(COM1)におけるGAPDH発現を示す図である。結果は、強力なエクソソームが、GAPDHの高発現レベルに相当する低いCT値を有することを示す。
【
図38】強力なエクソソーム(ウネキシソーム)で治療したBPDマウスモデルのin vivo試験の手順を示す図である。
【
図39】in vivo試験中で使用したエクソソームの特徴付けを示す図である。
図39Aは、エクソソームの濃度が1.2×10
8粒子/mLであることを示す。
図39Bは、ウエスタンブロット解析に基づき、FLOT1がエクソソーム中に存在することを示す。
図39Cは、エクソソームの代表的TEMイメージングを示す。
【
図40】エクソソームが、BPD関連肺胞簡略化を低減したことを示す図である。
図40Aは、強力なエクソソームでの治療は、酸素正常状態(NRMX)と比較した酸素過剰状態(HYRX)媒介の肺胞簡略化の増大を救済することを示す。
図40Bは、平均空間径の代わりを表す平均肺胞径の定量化を示す。
【
図41】強力なエクソソーム(ウネキシソーム)で治療したBPD後PAHのBPD誘導型PAHマウスモデルのin vivo試験に関する手順を示す図である。
【
図42】エクソソームが、慢性的肺胞簡略化を救済したことを示す図である。
図42Aは、酸素正常状態、低酸素状態下での細胞、ならびにホウォートンゼリー由来エクソソーム、および骨髄由来エクソソームで治療した細胞のイメージを示す。
図42Bは、エクソソームがBPD関連PAHマウスモデルにおいて肺胞簡略化を救済したことを示す。
図42Cは、BPD関連PAHマウスモデルにおいて中隔野内のコラーゲン沈着によって示されたように、エクソソームが低度肺線維症を低減したことを示す。
【
図43】エクソソームがPAH肺血管再構築を救済したことを示す図であり、これはα-平滑筋アクチン染色(AとB)およびPAHに関連した圧力変化(C)によって実証された。PV-ループは酸素過剰状態(HYRX)マウスにおける有意なシフトを実証し、酸素正常状態(NRMX)対照と比較したとき肺気腫のような肺疾患および空気捕捉の特徴を示す。エクソソームは、このシフトにおいて肺機能改善を示す有意な救済を示した。
【
図44】
図44Aは、低酸素状態誘導型PAHマウスモデル治療のin vivo試験に関する手順を示す図である。
図44Bは、MSCエクソソームがマウスにおいてPAHを予防することを示す。
【
図45】
図45Aは、エクソソームとシルデナフィルの併用で治療したSugen(VEGF受容体アゴニスト)および低酸素状態誘導型PAHマウスモデルのin vivo試験の手順を示す図である。
図45Bは、エクソソームとシルデナフィルの併用療法がマウスモデルにおいてPAHを逆行させたことを示す。
【
図46】PAHにおけるエクソソーム媒介作用機序の同定に関する手順を示す図である。
【
図47】PAHのSugen/低酸素状態モデルにおいて、エクソソームがアミノ酸代謝を上方制御することを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
幾つかのMSC細胞外小胞またはエクソソーム(例えば、骨髄MSC細胞外小胞または
エクソソーム)はグルコース酸化を高め、ミトコンドリア機能を正常化することができる
。したがって、これらの細胞外小胞またはエクソソームは、PAHおよびミトコンドリア
機能障害と関連した疾患または状態において治療利点をもたらすことができる。本発明者
らは、マウスにおいて低酸素状態誘導型PAHを効率よく予防した、強力な細胞外小胞ま
たはエクソソーム集団を単離した。強力な細胞外小胞またはエクソソーム集団のプロテオ
ミクスおよびRNAseq解析によって、それらが解糖経路、TCA回路および電子伝達
系において高発現レベルの遺伝子を含有することを示す。特に、強力な細胞外小胞または
エクソソームは、高発現レベルのピルビン酸キナーゼ(PKM2)とATPase、およ
びそれらの対応する酵素活性を有する。本発明者らは、急性低酸素状態への肺動脈平滑筋
細胞(SMC)の曝露は、解糖、TCA回路、および電子伝達系に関与する多数の遺伝子
の上方制御をもたらすことも発見した。低酸素状態刺激前の細胞外小胞またはエクソソー
ムの強力な集団でのSMCの治療によって、これらの遺伝子シグネチャーを正常化した。
さらに、全体的メタボロミクス解析に基づくと、細胞外小胞またはエクソソームの強力な
集団は低酸素状態曝露SMCにおいて解糖およびATP生成を高める。理論によって拘束
されたくないが、細胞外小胞またはエクソソームの強力な集団は、解糖経路、TCA回路
、および/または電子伝達系などの主要経路内の遺伝子リプログラミングとタンパク質組
み込みの両方によって、標的細胞におけるミトコンドリア機能を改善する可能性がある(
図9参照)。
【0034】
幾つかの実施形態では、本発明の細胞外小胞またはエクソソームはPDHとGLUD1
の発現を増加させ、したがってTCA回路への流動を増加させる。
【0035】
理論によって拘束されたくないが、細胞外小胞またはエクソソームの強力な集団は、P
DHとGLUD1両方の周知の阻害剤であるSIRT4の阻害によって、PDHとGLU
D1の発現を増加させる可能性がある。したがって幾つかの実施形態では、細胞外小胞ま
たはエクソソームはTCA回路の機能を増大させる。
【0036】
PAHを含めた肺高血圧症の治療、およびミトコンドリア機能障害と関連した疾患およ
び状態の治療において、本発明を適用することができることは企図される。
【0037】
A.定義
他に指定しない限り、「a」または「an」は「1つまたは複数」を意味する。
【0038】
他に具体的に定義しない限り、本明細書で使用する全ての技術および科学用語は、当業
者により一般的に理解されているのと同じ意味を有するものと考えられたい。
【0039】
他に示さない限り、本開示中で利用する組換えタンパク質、細胞培養、および免疫技法
は、当業者によく知られている標準手順である。このような技法は、J. Perbal, A Pract
ical Guide to Molecular Cloning, John Wiley and Sons(1984), J. Sambrook et al.,
Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory Press(198
9),T. A. Brown(編集者)、Essential Molecular Biology: A Practical Approach, Vol
umes 1 and 2, IRL Press(1991),D. M. Glover and B. D. Hames(編集者)、DNA Clonin
g: A Practical Approach, Volumes 1-4, IRL Press (1995 and 1996),and F. M. Ausube
l et al.(編集者)、Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associat
es and Wiley-Interscience(1988、現在までの全ての最新版を含む)、Ed Harlow a
nd David Lane(編集者)Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Labo
ratory,(1988),and J. E. Coligan et al.(編集者)Current Protocols in Immunology,
John Wiley & Sons(現在までの全ての最新版を含む)などのソース中の文献全体で記載
され説明されており、これらは参照により本明細書に組み込まれている。
【0040】
本明細書で使用する用語「対象」(本明細書では「患者」とも呼ぶ)は、恒温動物、好
ましくはヒトを含めた哺乳動物を含む。好ましい実施形態では、対象は霊長類である。さ
らにより好ましい実施形態では、対象はヒトである。
【0041】
本明細書で使用する用語「治療すること」、「治療する」または「治療」は、血管障害
の少なくとも1つの症状の低減、緩和、または排除を含む。
【0042】
本明細書で使用する用語「予防すること」、「予防する」または「予防」は、血管障害
の少なくとも1つの症状の様相または存在の停止または妨害を含む。
【0043】
本明細書で使用する用語「発現」は、1つまたは複数の遺伝子のRNA発現および/ま
たはタンパク質発現レベルを意味する。言い換えると、用語「発現」はRNA発現または
タンパク質発現のいずれかを指すことができる。
【0044】
本明細書で使用する用語「低酸素状態」は、大気中O2濃度、20%未満の酸素(O2
)濃度を有する状態を指す。幾つかの実施形態では、低酸素状態は、0%と10%の間、
0%と5%の間のO2、5%と10%の間、または5%と15%の間にあるO2濃度を有
する状態を指す。一実施形態では、低酸素状態は約10%O2酸素の濃度を指す。
【0045】
本明細書で使用する用語「酸素正常状態」は、正常大気中濃度の酸素、約20%~21
%O2を有する状態を指す。
【0046】
本明細書で使用する用語「単離する」または「単離した」は、細胞培養または培地から
単離した細胞外小胞またはエクソソームの文脈で使用するとき、人間の手作業によってそ
の天然環境から離れて存在する細胞外小胞またはエクソソームを指す。
【0047】
本明細書で使用する用語「細胞外小胞」は、エクソソームを包含する。
【0048】
本明細書で使用する用語「細胞外小胞またはエクソソームの集団」は、独自の特性を有
する細胞外小胞またはエクソソームの集団を指す。用語「細胞外小胞またはエクソソーム
の集団」と「細胞外小胞またはエクソソーム」を同義で使用して、独自の特性を有する細
胞外小胞またはエクソソームの集団を指すことができる。
【0049】
本明細書で使用する用語「間葉系間質細胞」は、間葉系幹細胞を含む。間葉系幹細胞は
、骨髄、血液、歯髄細胞、脂肪組織、皮膚、脾臓、膵臓、脳、腎臓、肝臓、心臓、網膜、
脳、毛包、腸、肺、リンパ節、胸腺、骨、靭帯、腱、骨格筋、真皮、および骨膜において
見られる細胞である。
【0050】
間葉系幹細胞は、中胚葉、内胚葉、および外胚葉などの異なる生殖系列に分化すること
ができる。したがって間葉系幹細胞は、脂肪、骨、軟骨、弾性、筋肉、および線維性結合
組織には限られないが、これらを含めた多数の細胞型に分化することができる。間葉系幹
細胞によって進入される特異的系統関係および分化経路は、機械的影響を含めた様々な影
響、および/または増殖因子、サイトカインなどの内在生体活性因子、および/または宿
主組織によって確定する局所微小環境条件に依存する。したがって、間葉系幹細胞は非造
血前駆細胞であり、それらは分裂して幹細胞または前駆細胞のいずれかである娘細胞にな
り、いずれ不可逆的に分化して1つの表現型の細胞となる。
【0051】
本発明の幾つかの実施形態は、広義には、間葉系間質細胞の細胞外小胞またはエクソソ
ームに関するものであり、これらは同義で間葉系間質細胞の細胞外小胞またはエクソソー
ム、またはMSCの細胞外小胞またはエクソソーム、または細胞外小胞またはエクソソー
ムを指す。
【0052】
B.血管障害
血管障害には、肺動脈性肺高血圧症(PAH)などの肺高血圧症、末梢血管疾患(PV
D)、重症下肢虚血(CLI)、冠動脈疾患、および糖尿病性血管障害があるが、これら
には限られない。
【0053】
肺高血圧症、例えば肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、肺循環中の圧力が増大し、最終
的に心不全および死を引き起こす状態を指す。多くの原因および条件がPAHと関連する
ことが分かっているが、それらの多くは幾つか共通の根本的な病態生理学的特徴を共有す
る。これらのプロセス間の1つの特徴は、血管状態を制御し血塊形成を修復および阻害す
る多くの物質群の生成と代謝を通常担う、内皮、全血管壁の内側細胞層の機能障害である
。PAHの状態では、内皮機能障害が、有害物質の過剰生成および保護物質の生成障害を
もたらす可能性がある。これがPAH発症または下流カスケードの一部における主要事象
であるかどうかは依然知られていないが、いずれかの場合、それはこの疾患を特徴付ける
進行性血管収縮および血管増殖における一因である。本発明は、単離細胞外小胞またはエ
クソソームを使用して、PAHを含めた肺高血圧症を治療する方法を提供する。
【0054】
用語末梢血管疾患(PVD)は、末梢動脈および静脈内の損傷、機能障害または閉塞を
指す。末梢動脈疾患は最も一般的な型のPVDである。末梢血管疾患は最も一般的な動脈
の疾患であり、米国内では非常に一般的な状態である。それは大抵50才を超える人々に
おいて発生する。末梢血管疾患は、50才を超える人々の間、および糖尿病を有する人々
において身体障害の主な原因である。米国内の約1千万人に末梢血管疾患があり、これは
50才を超える人々の約5%と換言できる。この状態を有する人々の数は人口の年齢と共
に増大すると予想される。男性は女性よりわずかに末梢血管疾患を有する可能性が高い。
【0055】
末梢動脈閉塞の進行が原因である重症下肢虚血(CLI)は、安静時の血流および酸素
送達の低下によって特徴付けられ、安静時の筋肉痛および非癒合性皮膚潰瘍または壊疽を
もたらす(Rissanen et al., Eur. J. Clin. Invest. 31:651-666 (2001); Dormandy and
Rutherford, J. Vasc. Surg. 31:S1-S296 (2000))。重症下肢虚血は、1年間で個体百
万人あたり500~1000人において発症すると推定される(“Second European Cons
ensus Document on Chronic Critical Leg Ischemia”, Circulation 84 (4Suppl.) IV 1
-26 (1991))。重症下肢虚血を有する患者では、その関連罹患率、死亡率および機能的関
与にもかかわらず、身体障害症状に対する解決策として切断を勧められることが多い(M.
R. Tyrrell et al., Br. J. Surg. 80: 177-180 (1993); M. Eneroth et al., Int. Ort
hop. 16: 383-387 (1992))。重症下肢虚血に最適な医療法は存在しない(Circulation 8
4 (4 Suppl.): IV 1-26 (1991))。
【0056】
冠動脈疾患(アテローム性動脈硬化症)は、1つまたは複数の冠動脈がプラークの構築
により徐々に閉塞状態になる、ヒトにおける進行性疾患である。この疾患を有する患者の
冠動脈は、バルーン血管形成術またはステントの挿入により治療され、部分的に閉塞した
動脈を適切に開放することが多い。最終的にこれらの患者は、多大な出費とリスクで冠動
脈バイパス手術を受けることが必要となる。
【0057】
気管支肺異形成症(BPD)は未熟児の慢性肺疾患である。それは、持続的肺炎症、肺
胞数の減少および肺胞隔膜の肥大、末端血管の「剪定」を伴う異常な血管増殖、ならびに
限られた代謝および抗酸化能力によって特徴付けられる。米国では1年間あたり14,0
00のBPDの新たな症例がある。重要なことに、BPDの診断は、PAH、肺気腫、喘
息、心臓血管疾患罹患率および出生後死亡率の増大、神経発達障害および脳性麻痺の増加
、青少年肺気腫を含めた、他のさらなる状態につながることが多い。現在、BPDに関す
る標準療法は存在しない。一部のBPD患者は適度な換気とコルチコステロイドで治療さ
れているが、これらの治療は神経系の成り行きまたは死に対して影響を示さない。BPD
に関する主なリスクは、嚢発達の初期に相当する出生後24~28週の幼児に存在する。
高リスクの幼児は1.3~2.2ポンドである。
【0058】
一態様では、本発明のエクソソームを使用してBPDを治療することができる。幾つか
の実施形態では、エクソソームは肺の免疫調節能力を増大させる。幾つかの実施形態では
、エクソソームは肺中の血管形成を促進する。幾つかの実施形態では、エクソソームは肺
のミトコンドリア代謝を増大させる。
【0059】
C.ミトコンドリア機能障害
ミトコンドリアは、幾つかの代謝形質転換および制御機能を担う細胞内オルガネラであ
る。ミトコンドリアは、真核生物細胞によって利用されるATPの大部分を生成する。ミ
トコンドリアは、酸化ストレスを引き起こすフリーラジカルおよび活性酸素種の主要供給
源でもある。結果として、ミトコンドリアの欠陥は、高いエネルギーレベルが要求される
神経および筋肉組織に対して特に有害である。したがってエネルギーの欠陥は、運動障害
、心筋症、筋症、失明、および難聴の形態に関係している(DiMauro et al. (2001) Am.
J. Med. Genet. 106, 18-26; Leonard et al.(2000) Lancet. 355, 299-304)。ミトコン
ドリア機能障害は、乳酸生成の増大、呼吸およびATP生成の低減に関与し得る。ミトコ
ンドリア機能障害は、酸化ストレスの結果として現れる可能性がある。
【0060】
本発明は、ミトコンドリア機能障害と関連した疾患または状態を治療する方法を提供す
る。ミトコンドリア機能障害は、対象におけるミトコンドリアのグルコース酸化の低減と
関連し得る。
【0061】
幾つかの実施形態では、ミトコンドリア機能障害と関連した疾患または状態は、フリー
ドライヒ運動失調症、レーベル遺伝性視神経症、カーンズセイヤー症候群、乳酸アシドー
シスおよび脳血管発作様症状発現を伴うミトコンドリア脳筋症、リー症候群、肥満症、ア
テローム性動脈硬化症、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、がん、心不全、心筋梗塞
(MI)、アルツハイマー病、ハンチントン病、統合失調症、双極性障害、脆弱X症候群
、および慢性疲労症候群からなる群から選択される。
【0062】
D.ミトコンドリアのエネルギー生成
真核生物における細胞は、細胞プロセスを行うのにエネルギーを必要とする。このよう
なエネルギーはアデノシン5’-三リン酸(「ATP」)のリン酸結合内に主に蓄えられ
る。(1)解糖、(2)(クレブス回路またはクエン酸回路とも呼ばれる)TCA回路、
および(3)酸化的リン酸化を含めた、真核生物中でエネルギーを生成する特定の経路が
存在する。合成されるATPに関して、炭水化物は最初に単糖(例えばグルコース)に加
水分解され、脂質は脂肪酸とグリセロールに加水分解される。同様に、タンパク質はアミ
ノ酸に加水分解される。これらの加水分解分子の化学結合中のエネルギーは次いで放出さ
れ、細胞によって利用され多数の異化作用経路を介してATP分子が形成される。
【0063】
生存生物の主要エネルギー源はグルコースである。グルコース分解中、グルコース分子
の化学結合におけるエネルギーが放出され、細胞によって利用されATP分子を形成し得
る。これが起こるプロセスは数段階からなる。最初の段階は解糖と呼ばれ、その中ではグ
ルコース分子が、ピルビン酸と呼ばれる2つの小分子に分解される。
【0064】
解糖において、グルコースとグリセロールは解糖経路を介してピルビン酸に代謝される
。このプロセス中、2つのATP分子が生成する。2分子のNADHも生成し、これらは
電子伝達系を介してさらに酸化され、追加的ATP分子の生成をもたらし得る。
【0065】
解糖は、グルコース(および他の単糖)を2分子のピルビン酸に分解する多くの酵素触
媒ステップを含む。引き換えに、この経路は合計2分子のATPの生成をもたらす。解糖
経路から生じたピルビン酸分子はサイトゾルからミトコンドリアに入る。次いでこれらの
分子は、TCA回路への進入のためアセチルコエンザイムA(アセチル-CoA)に転換
される。TCA回路は、アセチルコエンザイム-Aとオキサロ酢酸が結合してクエン酸を
形成することからなる。形成されたクエン酸は、次いで一連の酵素触媒ステップを介して
分解され追加的ATP分子が生成する。
【0066】
ミトコンドリアマトリックス内のTCA回路から放出されたエネルギーは、NADH(
複合体I)およびFADH2(複合体II)としてミトコンドリア電子伝達系に入る。こ
れらは、ATP生成に関与する5つのタンパク質複合体の最初の2つであり、いずれもミ
トコンドリア内膜中に局在する。(NADH特異的デヒドロゲナーゼでの酸化により)N
ADHおよび(コハク酸デヒドロゲナーゼでの酸化により)FAD3/4由来の電子は呼
吸鎖に移動し、ミトコンドリアマトリックスから内膜空間への(すなわち、ミトコンドリ
ア内膜を介した)プロトンの能動的輸送を誘導することによって、個別ステップにおいて
それらのエネルギーを放出する。呼吸鎖中の電子担体には、フラビン、タンパク質結合鉄
-硫黄中心、キノン、シトクロムおよび銅がある。電子を複合体間で移動させる2分子が
存在する:コエンザイムQ(複合体I→III、および複合体II→III)およびシト
クロムc(複合体III→IV)。呼吸鎖中の最終電子受容体は複合体IVである(3/
4、3/40に転換される。
【0067】
本発明の幾つかの実施形態は、解糖、TCA回路、および/または電子伝達系における
少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質の発現が増加した細胞外小胞またはエクソソー
ムに関する。幾つかの実施形態では、以下の表1によって表される遺伝子群から遺伝子が
選択される。
【0068】
【0069】
幾つかの実施形態では、解糖経路中の遺伝子はPK、AGI、ALDO、ALDOA、
ENO3、GPI、HK2、HK3、PFK、PGM、TPI、GAPDH、ENO、お
よびPGAMからなる群から選択される。
【0070】
幾つかの実施形態では、TCA回路中の遺伝子はMDH2、OGDH、PC、PDHA
1、PDHB、SDHA、SDHC、およびSUCLG2からなる群から選択される。
【0071】
幾つかの実施形態では、電子伝達系中の遺伝子はETFA、ATPase、NDUFC
2、NDUFB1、NDUFS5、NDUFA8、NDUFA9、NDUFS2、SDH
A、SDHC、UQCRH1、Cox6c1、およびCox10からなる群から選択され
る。
【0072】
幾つかの実施形態では、細胞外小胞またはエクソソームはPKの発現が増加している。
【0073】
幾つかの実施形態では、細胞外小胞またはエクソソームはATPaseの発現が増加し
ている。
【0074】
幾つかの実施形態では、細胞外小胞またはエクソソームはPKとATPaseの発現が
増加している。
【0075】
E.間葉系間質細胞から単離した細胞外小胞
本発明の細胞外小胞またはエクソソームは、例えば間葉系間質細胞から切り離された膜
(例えば、脂質二重層)小胞であり得る。それらは、例えば約30nm~100nmの範
囲の直径を有し得る。電子顕微鏡によって、細胞外小胞またはエクソソームはカップ様形
態を有し得るようである。それらは例えば約100,000×gで沈殿する可能性があり
、約1.10~約1.21g/mlのスクロース中ブイヨン密度を有する。
【0076】
間葉系間質細胞は、骨髄、血液、骨膜、真皮、臍帯血および/またはマトリックス(例
えば、ホウォートンゼリー)、および胎盤には限られないが、これらを含めた幾つかの供
給源から採取することができる。間葉系間質細胞の採取法は実施例中でさらに詳細に記載
する。本発明において使用することができる他の採取法に関しては、参照により本明細書
に組み込まれている米国特許第5,486,359号明細書を参照することもできる。
【0077】
本発明の方法中での使用が企図される間葉系間質細胞、したがって細胞外小胞またはエ
クソソームは、治療する同一対象から得ることができ(したがって対象自家由来と言える
)、またはそれらは異なる対象、好ましくは同種の対象から得ることができる(したがっ
て対象と同種異系と言える)。
【0078】
本明細書で使用するように、本発明の態様および実施形態は、他に示さない限り、細胞
および細胞集団に関することを理解されたい。したがって他に示さない限り、細胞を列挙
する場合、細胞集団も企図されることを理解されたい。
【0079】
本発明の幾つかの態様は、単離細胞外小胞またはエクソソームを言及する。本明細書で
使用するように、単離細胞外小胞またはエクソソームは、その天然環境から物理的に分離
された細胞外小胞またはエクソソームである。単離細胞外小胞またはエクソソームは、間
葉系間質細胞を含めて、それが本来存在した組織または細胞環境から、全部または一部を
物理的に分離することができる。本発明の幾つかの実施形態では、単離細胞外小胞または
エクソソームの組成物は間葉系間質細胞などの細胞を含まない可能性があり、または組成
物は順化培地を含まないもしくは実質的に含まない可能性がある。幾つかの実施形態では
、単離細胞外小胞またはエクソソームを、未処理順化培地中に存在した細胞外小胞または
エクソソームより高い濃度で提供することができる。細胞外小胞またはエクソソームは順
化培地から、間葉系間質細胞培養物から単離することができる。
【0080】
一般に、磁気粒子、濾過、透析、超遠心分離、ExoQuick(商標)(Syste
ms Biosciences、CA、USA)、および/またはクロマトグラフィーを
含めた方法などの、細胞外小胞またはエクソソームの精製および/または富化に適した任
意の方法を使用することができる。幾つかの実施形態では、遠心分離および/または超遠
心分離によって細胞外小胞またはエクソソームを単離する。細胞外小胞またはエクソソー
ムは、清浄順化培地の超遠心分離によって精製することもできる。それらは、スクロース
クッション中への超遠心分離によって精製することもできる。そのプロトコールは、例え
ば参照により本明細書に組み込まれている、Thery et al. Current Protocols in Cell B
iol. (2006) 3.22中に記載されている。幾つかの実施形態では、1ステップのサイズ排除
クロマトグラフィーによって細胞外小胞またはエクソソームを単離する。そのプロトコー
ルは、例えば参照により本明細書に組み込まれている、Boing et al. Journal of Extrac
ellular Vesicles (2014) 3:23430中に記載されている。間葉系間質細胞または間葉系幹
細胞から細胞外小胞またはエクソソームを採取するための詳細な方法は、実施例中に提供
する。
【0081】
本発明は、細胞外小胞もしくはエクソソームの即時使用、または例えば使用前の低温保
存状態における、代替的に細胞外小胞もしくはエクソソームの短期および/または長期保
存も企図する。典型的にはプロテイナーゼ阻害剤が、それらが長期保存中に細胞外小胞も
しくはエクソソームの完全性をもたらすので凍結培地中に含まれる。-20℃での凍結は
、それが細胞外小胞もしくはエクソソーム活性の多大な損失と関係するので好ましくない
。-80℃での急速凍結が、それが活性を保つのでより好ましい。例えば参照により本明
細書に組み込まれている、Kidney International(2006)69,1471-1476を参照。凍結培地へ
の添加剤を使用して、細胞外小胞もしくはエクソソームの生物学的活性の保存状態を高め
ることができる。このような添加剤は無傷細胞の低温保存に使用する添加剤と同様であり
、DMSO、グリセロールおよびポリエチレングリコールには限られないが、これらを含
み得る。
【0082】
F.細胞外小胞またはエクソソームの効能の評価
本発明は、低酸素状態誘導型PAHマウスモデルに対する細胞外小胞またはエクソソー
ム治療の影響を測定するため、および細胞外小胞またはエクソソームの強力な集団を同定
するための右室収縮期圧(RVSP)の使用を提供する。幾つかの実施形態では、細胞外
小胞またはエクソソームの強力な集団は、3週間の慢性低酸素状態曝露を施しPBSバッ
ファーで処理した対照マウスと比較して少なくとも約10%、12.5%、15%、17
.5%、20%、22.5%、25%、27.5%、または30%、3週間の慢性低酸素
状態曝露を施したマウスのRVSPを下げることができる。
【0083】
幾つかの実施形態では、デルタRVSPによって細胞外小胞またはエクソソームの強力
な集団を同定する。本明細書で使用するデルタRVSPは、細胞外小胞またはエクソソー
ムで治療した低酸素状態曝露マウスのRVSPマイナス酸素正常状態マウスのRVSPと
して定義する。幾つかの実施形態では、デルタRVSPが約6、5、4、3、または2m
mHg未満である場合、細胞外小胞またはエクソソームの集団は強力である。
【0084】
幾つかの実施形態では、細胞外小胞またはエクソソームの集団の効能は、平滑筋細胞(
SMC)溶解物によるO2消費を増大させるそれらの能力によって特徴付けられる。幾つ
かの実施形態では、細胞外小胞またはエクソソームの強力な集団は、24時間の低酸素状
態曝露を施しPBS対照で処理した対照SMC細胞溶解物と比較して少なくとも約10%
、15%、20%、25%、30%、35%、または40%、24時間の低酸素状態曝露
を施したSMC溶解物によるO2消費を増大させることができる。
【0085】
幾つかの実施形態では、細胞外小胞またはエクソソームの集団の効能は、それらのPK
活性によって特徴付けられる。幾つかの実施形態では、細胞外小胞またはエクソソームの
強力な集団は、少なくとも約0.15nmol/min/ml、0.16nmol/mi
n/ml、0.17nmol/min/ml、0.18nmol/min/ml、0.1
9nmol/min/ml、0.20nmol/min/ml、0.21nmol/mi
n/ml、0.22nmol/min/ml、0.23nmol/min/ml、0.2
4nmol/min/ml、0.25nmol/min/ml、0.3nmol/min
/ml、または0.4nmol/min/mlのPK活性を有する。
【0086】
幾つかの実施形態では、細胞外小胞またはエクソソームの集団の効能は、それらのLD
H活性によって特徴付けられる。幾つかの実施形態では、細胞外小胞またはエクソソーム
の集団の効能は、低酸素状態曝露SMCにより分泌されるLDHを少なくとも約10%、
20%、30%、または40%減少させる、それらの能力によって特徴付けられる。
【0087】
幾つかの実施形態では、本発明の細胞外小胞またはエクソソームを、以下の表中の1つ
または複数の基準に基づいて単離する:
【0088】
【0089】
幾つかの実施形態では、単離細胞外小胞またはエクソソームは、間葉系間質細胞の全細
胞外小胞またはエクソソーム中の平均レベルのmir204より少なくとも10%、20
%、30%、50%、または100%を超える量のmir204を含む。
【0090】
幾つかの実施形態では、単離細胞外小胞またはエクソソームは、間葉系間質細胞の全細
胞外小胞またはエクソソーム中の平均レベルのCD105、GAPDH、DLST、およ
び/またはATP5A1より少なくとも10%、20%、30%、50%、または100
%を超える量のCD105、GAPDH、DLST、および/またはATP5A1を含む
。
【0091】
幾つかの実施形態では、単離細胞外小胞またはエクソソームは、間葉系間質細胞の全細
胞外小胞またはエクソソーム中のSORCS1、FHITおよび/またはANKRD30
BLの平均レベルのRNA発現より少なくとも10%、20%、30%、50%、または
100%を超える量のRNA発現のSORCS1、FHITおよび/またはANKRD3
0BLを含む。
【0092】
幾つかの実施形態では、単離細胞外小胞またはエクソソームは少量のMHCII汚染物
質を有するか、またはMHCII汚染物質をほぼもしくは全く含まず、例えば間葉系間質
細胞の全細胞外小胞またはエクソソーム中の平均レベルのMHCII汚染物質より少なく
とも50%、70%、80%、90%、95%、98%、または99%少ない量のMHC
II汚染物質を含む。
【0093】
幾つかの実施形態では、単離細胞外小胞またはエクソソームは少量のフィブロネクチン
含有物を有するか、またはフィブロネクチンをほぼもしくは全く含まず、例えば間葉系間
質細胞の全細胞外小胞またはエクソソーム中の平均レベルのフィブロネクチンより少なく
とも50%、70%、80%、90%、95%、98%、または99%少ない量のフィブ
ロネクチンを含む。
【0094】
G.細胞外小胞またはエクソソームを使用した治療
本開示の方法に有用な組成物は、特にカテーテル投与を含めた局所注射、全身注射、局
所注射、静脈内注射、子宮内注射または非経口投与によって投与することができる。本明
細書に記載する治療用組成物(例えば、医薬組成物)を投与するとき、それは一般に注射
可能な単位剤形(例えば溶液、懸濁液、またはエマルジョン)に製剤化する。
【0095】
本発明は、2、3、4、5回またはそれより多くの細胞外小胞またはエクソソームの投
与を含めた、細胞外小胞またはエクソソームの1回または反復投与を企図する。幾つかの
実施形態では、細胞外小胞またはエクソソームを連続的に投与することができる。反復ま
たは連続投与は、治療する状態の重症度に応じて、数時間(例えば、1~2、1~3、1
~6、1~12、1~18、または1~24時間)、数日間(例えば、1~2、1~3、
1~4、1~5、1~6日間、または1~7日間)、または数週間(例えば、1~2週間
、1~3週間、または1~4週間)の間にわたって行うことができる。投与が連続的でな
く反復的である場合、投与間の時間は数時間(例えば、4時間、6時間、または12時間
)、数日間(例えば、1日、2日、3日、4日、5日、または6日)、または数週間(例
えば、1週間、2週間、3週間、または4週間)であってよい。投与間の時間は同じであ
ってよく、またはそれらは異なってよい。一例として、疾患の症状が悪化する可能性があ
る場合、細胞外小胞またはエクソソームはより頻繁に投与することができ、次いで症状が
安定化または低減した後、細胞外小胞またはエクソソームは低頻度で投与することができ
る。
【0096】
本発明は、少量剤形の細胞外小胞またはエクソソームの反復投与、および多量剤形の細
胞外小胞またはエクソソームの1回投与も企図する。少量剤形は非制限的に1キログラム
あたり1~50マイクログラムの範囲であってよく、一方で多量剤形は非制限的に1キロ
グラムあたり51~1000マイクログラムの範囲であってよい。特に疾患の重症度、対
象の健康状態、および投与の経路に応じて、低または高用量の細胞外小胞またはエクソソ
ームの単回または反復投与が本発明によって企図されることは理解されよう。
【0097】
細胞外小胞またはエクソソームは、典型的には薬学的に許容される担体と組合せたとき
、薬学的に許容される調製物(または薬学的に許容される組成物)中で使用(例えば投与
)することができる。語句「薬学的に許容される」は、正常な医学的判断の範囲内にあり
、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症無しで人間および
動物の組織と接触させて使用するのに適しており、妥当なベネフィット/リスク比に見合
った、化合物、物質、組成物、および/または剤形を指す。本明細書で使用する語句「薬
学的に許容される担体」は、薬学的に許容される物質、組成物またはビヒクル、例えば、
液体または固形充填剤、希釈剤、賦形剤、または溶媒、被包性物質を意味する。
【0098】
このような調製物は、薬学的に許容される濃度の塩、緩衝剤、防腐剤、適合担体を通常
含有することができ、他の(すなわち二次的)治療剤を任意選択で含むことができる。薬
学的に許容される担体は、予防もしくは治療活性剤の担持または輸送に関与する、薬学的
に許容される物質、組成物またはビヒクル、例えば、液体または固形充填剤、希釈剤、賦
形剤、溶媒または被包性物質などである。それぞれの担体は、製剤の他の成分と適合性が
あり対象に有害でないという意味で「許容可能」でなければならない。薬学的に許容され
る担体として働くことができる数例の物質には、ラクトース、グルコースおよびスクロー
スなどの糖、プロピレングリコールなどのグリコール、グリセリン、ソルビトール、マン
ニトールおよびポリエチレングリコールなどのポリオール、オレイン酸エチルおよびラウ
リル酸エチルなどのエステル、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムなどの緩衝
剤、発熱因子を含まない水、等張生理食塩水、リンガー液、エチルアルコール、リン酸バ
ッファー溶液、および医薬製剤において利用される他の無毒な適合物質がある。
【0099】
本発明の調製物は有効量投与する。有効量とは、所望の結果を単独でもたらす作用物質
の量である。絶対量は、投与に選択する物質、投与が1回または複数回投与であるかどう
か、ならびに年齢、身体状態、サイズ、体重、および疾患のステージを含めた個々の患者
のパラメーターを含めた様々な要因に依存する。これらの要因は当業者にはよく知られて
おり、通常の実験を超えずに対処することができる。
【0100】
本発明は、パッケージ付きおよびラベル付き医薬品も包含する。この製造品またはキッ
トは、気密封止されたガラス製バイアル、またはプラスチック製アンプル、または他のコ
ンテナなどの適切な容器またはコンテナ中に適切な単位剤形を含む。単位剤形は、例えば
エアロゾルによる肺送達に適していなければならない。製造品またはキットは、医薬品の
投与の仕方を含めた使用法に関する説明書を、さらに含むことが好ましい。説明書は、問
題の疾患または障害の適切な予防または治療法を医療従事者、技術者または対象にアドバ
イスする情報資料をさらに含有し得る。言い換えると製造品は、実際用量、モニタリング
手順、および他のモニタリング情報には限られないが、これらを含めた使用用量レジメン
を示すまたは示唆する説明書を含む。
【0101】
任意の医薬品と同様に、パッケージ材料およびコンテナは、保存および出荷中に製品の
安定性を保護するよう設計されている。キットは滅菌水性懸濁液に懸濁したMSC細胞外
小胞またはエクソソームを含むことができ、これは直接使用することができ、または静脈
内注射用もしくはネブライザー中での使用のため正常生理食塩水で希釈することができ、
気管内投与用に界面活性剤で希釈する、またはそれと組合せることができる。したがって
キットは、生理食塩水または界面活性剤などの希釈溶液または作用物質も含有し得る。
【実施例0102】
以下の実施例は、本明細書に記載する方法および組成物の作製法と使用法の完全な開示
と記載を当業者に提供することを意味するものであり、限定的であることは意味しない。
【0103】
[実施例1-エクソソーム集団の単離]
この実施例は、細胞培養培地からのエクソソームの単離を実証する。
【0104】
濾過:間葉系幹細胞(MSC)から得た順化培地を、0.2umフィルターを有する5
LのSartorius-stedium Flexboy(登録商標)バッグ中に回収
した。回収した順化培地は、フィルターラインを介してポンプで移動させ、任意の細胞、
死細胞、および細胞残骸をすぐに排除した。順化培地には、140mlのluer-lo
kシリンジを使用して25mMのHEPESおよび10mMのEDTAバッファーを補充
した。
【0105】
タンジェンシャルフロー濾過:順化培地を含有する5LのFlexboy(登録商標)
バッグを、Flexboyバッグと結合しTFF容器の上部に連結した試料ラインにより
、タンジェンシャルフロー濾過(TFF)システムに連結させた。シングル100kDa
MWCO 0.1m2Hydrosart(登録商標)カセットを有するSartori
us Sartocon Slice TFFを使用した。水中完全性試験を各TFF実
施の最初と最後に行い、カセットの完全性を測定した。次いでシステムを1LのPBSで
刺激した。次いで培地試料を容器に比重分離供給した。TFFは600LMHで実施した
。5L体積の初期培地を100mLまで濃縮した(50倍濃縮)。保持液を回収し、0.
22umフィルターを使用して濾過した。濾過液は10mLアリコート試料に分け-80
℃で凍結させた。
【0106】
分画化:試料は37℃で約10分間解凍した。全ての試料は150mlのコーニングボ
トル(corning bottle)中に1つにプールした。Sepharose CL-2B樹脂(
GE)を使用してXK50/100カラムを充填した。XK50/100カラムはAKT
A Aant150(GE)に連結させた。試料ラインを介してカラム中に試料を導入し
た。全試料をカラムに導入した後、溶出ステップを開始した(設定:4.6ml/分の流
速)。0.2CVの空カラムから溶出させ、次いでフラクションコレクターで、分画あた
り1分の割合で分画の回収を開始した(各分画において4.6ml)。0.6CVが溶出
するまで分画を回収した(エクソソームは0.3CVと0.4CVの間で溶出した)。実
験全体でPBSを使用した。分画試料はフード下においてキャップで覆い4℃で保存した
。
【0107】
ダイアフィルトレーション:好ましくはTFFステップ後および分画化ステップ前に、
試料に任意選択で、バッファー交換と類似したダイアフィルトレーションステップを施す
ことができる。エクソソームの所望濃度に達した後、TFFカセットフィルターにポンプ
を動かし続けながら、容器を介してPBSバッファーを試料に加え体積を維持した。徐々
に、PBSが順化培地と置き換わった。可能な限り交換を完了させるため、7合計体積の
ダイアフィルトレーションを保持液に実施した。このステップは、エクソソームに影響を
与えずに、保持液中の一部の不純物を除去するのに役立つ。少量の全体タンパク質とリン
脂質を示すエクソソームの存在を、FLOT-1ウエスタンブロットによって確認した。
【0108】
リン脂質濃度の測定:エクソソーム検出用にリン脂質シグナル伝達を使用した。簡単に
言うと、分画化後、20uLの各エクソソーム調製物および80uLの反応混合物(Si
gma)を暗所の、透明底96ウエルプレート(Corning、Corning、NY
)に移し、光から保護して室温で30分間インキュベートした。FLUOstar Om
egaマイクロプレートリーダー(BMG Labtech、Ortenberg、ドイ
ツ)を使用し530/585nmで蛍光強度を測定した。示したエクソソーム生成実験に
おいて、A280クロマトグラムとリン脂質の両方をエクソソーム検出に利用した。
【0109】
図1C中に示したように、リン脂質シグナル伝達はエクソソーム検出に関するA280
クロマトグラムと充分一致する。
【0110】
[実施例2-マウスモデルにおける肺動脈性肺高血圧症(PAH)の治療]
マウスを3週間の慢性低酸素状態曝露に施し(右室収縮期圧の増大として示される)P
AHを誘導した。エクソソーム治療は低酸素状態曝露前の1回の尾静脈注射からなってい
た。
【0111】
[実施例3-強力なエクソソーム集団の同定]
強力なエクソソーム集団を同定するため、各エクソソーム調製物を、PKM2抗体(C
ell Signaling、Danvers、MA)を使用しピルビン酸キナーゼタン
パク質発現に関して解析した。キャピラリー電気泳動イムノアッセイを、製造者のプロト
コールに従いWES(商標)機器(ProteinSimple、San Jose、C
A)を使用して実施した。簡単に言うと、4.2uLの試料をマスター蛍光混合物(Pr
oteinSimple)と1:5で混合した。次いで試料を5分間95℃で加熱し、氷
上に置いた。一次PKM2抗体は抗体希釈液(ProteinSimple)中に1:1
5で希釈し、専売抗ウサギ二次抗体(ProteinSimple)を使用した。専売ペ
ルオキシドおよびルミノール-S(ProteinSimple)を1:1で混合して化
学発光基質を作製した。試料、ブロッキング試薬、一次抗体、二次抗体、化学発光基質、
および洗浄バッファーを、提供マイクロプレート中の指定ウエルに充填した。プレートは
5分間1,000gで回転させてウエル中の気泡を除去した。プレートとキャピラリーカ
ートリッジをWES機器に充填した。プレート充填後、完全自動式電気泳動および免疫学
的検出をキャピラリーシステムにおいて行った。WES標準実験設定を使用してタンパク
質を分離した。データは内蔵Compassソフトウエア(Proteinsimple
)で解析し、試料あたりのピーク分子量シグナルおよび曲線下面積値を得た。
【0112】
ピルビン酸キナーゼ活性:ピルビン酸キナーゼは、ピルビン酸1分子とATP1分子を
もたらすホスホエノールピルビン酸(PEP)からADPへのリン酸の移動を触媒する、
解糖中の酵素である。ピルビン酸キナーゼはabcamキット(ab83432)によっ
て測定し、PEPとADPはPKにより触媒されピルビン酸とATPが生成する。生成し
たピルビン酸はピルビン酸オキシダーゼにより酸化され(λ=570nmで)発色する。
発色強度はピルビン酸量に比例するので、PK活性を測定することができる。PK活性は
キネティックアッセイにおいて生じる。データ解析は、以下の等式を使用して行うことが
できる:
PK活性=(ピルビン酸×希釈係数)/(T2-T1)×ウエル体積
【0113】
上式でT2-T1は、時点2-時点1における時間(分)である。ピルビン酸(nmo
l)はピルビン酸標準曲線を使用して計算する(この場合ピルビン酸は、T2における最
終ピルビン酸濃度マイナスT1における初期ピルビン酸濃度として計算する)。この数字
はブランク補正される必要がある。活性測定値は直線範囲内に存在することが重要である
。データセットは多数の時点で解析することができる。選択すべき最良の方法は、曲線を
見て直線範囲内から少なくとも2分間離れたデータ地点を選択することである。プレート
内のそれぞれの試料は同じ方法で解析する。この実験では、T1=2分、T2=4分を選
択した。この2つの時点は充分直線範囲内にあったからである。
【0114】
次に、ピルビン酸キナーゼ活性を、低酸素状態対照を超える各エクソソーム調製物治療
条件のin vivo RVSP変化倍率に対してプロットした。これによって、エクソ
ソーム治療によるRVSP改善倍率とピルビン酸キナーゼ活性の比較が可能である。
図2
A参照。ピルビン酸キナーゼ活性はデルタRVSPに対してもプロットした。デルタRV
SPはエクソソーム条件で治療した低酸素状態マイナス酸素正常状態対照である。
図2B
参照。赤色ドットは、RVSPの有意な改善を誘導した強力なエクソソーム集団を表す。
青色ドットは、低酸素状態誘導型PAHマウスの治療において強力ではないエクソソーム
集団を表す。これらの最も強力なエクソソーム集団のピルビン酸キナーゼ活性を次いで箱
ひげ図にグラフ化した。
図2C参照。したがって(C)中のグラフは、本発明の最も強力
なエクソソーム調製物のピルビン酸キナーゼ活性範囲を表す。
【0115】
[実施例4-強力なエクソソーム集団のプロテオーム解析およびRNAseq解析]
プロテオーム解析のため、エクソソーム試料をBioproximity(Chant
illy、VA)に送付した。非強力なエクソソーム集団と比較して強力なエクソソーム
集団において発現レベルが増加したタンパク質を
図3(a)中に示す。
【0116】
RNAseq解析のため、エクソソーム試料をSBIに送付した。非強力なエクソソー
ム集団と比較して強力なエクソソーム集団において発現レベルが増加した遺伝子を
図4中
に示す。
【0117】
[実施例5-細胞外O
2消費の測定]
abcam細胞外O
2消費アッセイキット(ab197243)を使用して、酸素正常
状態または4%O
2低酸素状態のいずれかに24時間曝露した後、PBS(対照)または
エクソソームで治療した平滑筋細胞(SMC)溶解物の酸素消費を測定した。この細胞溶
解物は電子伝達系を介して酸素を消費するので、酸素は周辺培養培地において枯渇し、こ
れはリン光シグナルの増大として見られる。各ウエルに鉱油を加えることにより周辺空気
の拡散から微小環境を保護し、製造者により供給されたO
2プローブのクエンチング(qu
enching)としてリン光シグナルを測定する。これらのデータは、曲線下面積として、お
よび時間に対する勾配として2つの方法で計算した(この勾配を使用したデータ解析が製
造者により推奨されている)。
図5A~
図5Bは、エクソソームが、酸素正常状態曝露S
MCにおける細胞O
2消費を有意に変えることはないことを実証する。しかしながら、エ
クソソーム治療は低酸素状態ストレス下でO
2消費の増大を誘導し、これはミトコンドリ
ア機能の増大を示す。
【0118】
[実施例6-急性低酸素状態に曝露したSMCのマイクロアレイ解析]
平滑筋細胞(SMC)をPBS対照またはエクソソーム(EXSM)のいずれかで治療
し、酸素正常状態または低酸素状態(4%O
2)条件のいずれかで24時間インキュベー
トした。SMCのRNAを単離し、全体的マイクロアレイプラットホームを使用した解析
用にQiagenに送付した。
図6A~
図6Cは、急性低酸素状態曝露後に、グルコース
代謝において遺伝子発現の増加があることを示す。EXSM治療は、(a)解糖、(b)
TCA回路および(c)電子伝達系においてこの応答を正常化した。これらのデータは、
おそらくこれらの経路へのEXSMタンパク質または遺伝子取り込みが原因で、エクソソ
ーム治療は、低酸素状態ストレス中のグルコース酸化遺伝子の遺伝子上方制御に関する必
要性を低減または排除したことを示唆する。
【0119】
[実施例7-急性低酸素状態に曝露したSMCのメタボロミクス解析]
平滑筋細胞(SMC)をPBS対照またはエクソソーム(EXSM)のいずれかで治療
し、酸素正常状態または低酸素状態(4%O
2)条件のいずれかで24時間インキュベー
トした。細胞溶解物をペレット状にして、全体的代謝産物解析のためMetabolon
(North Carolina)に送付した。
図7中に示したように、SMC溶解物は
、急性低酸素状態曝露後に解糖、TCA回路、およびエネルギー代謝経路において、これ
らの経路を介した流動の低下による代謝産物の構築を示した。エクソソーム治療によって
、(a)解糖および(b)TCA回路を介した流動は増大した(代謝産物構築の減少によ
って表される)。これらのデータは、グルコース酸化の増大を示す。
図7A~
図7Dは、
急性低酸素状態曝露が、ATPとNADの構成単位であるアデノシンとニコチンアミドリ
ボシドの構築をもたらしたことを示す。おそらくATP生成の増大のため、エクソソーム
治療がアデノシンとニコチンアミドリボシド使用につながった(c)。急性低酸素状態に
曝露した生存SMCにおいてATP生成を測定し(d)、EXSM媒介のATP生成増大
を確認した。
【0120】
[実施例8-追加的方法]
マウスモデル:C57BL/6マウスを、3週間10%酸素に制御した酸素レベルで低
酸素状態テントに収容して、肺高血圧症を誘導した。エクソソーム治療に関しては、低酸
素状態曝露3時間前に尾静脈に1回用量を注射した。
【0121】
エクソソームの単離および解析:無血清順化培地を40時間の間に融合MSC培養物か
ら回収した。タンジェンシャルフロー濾過を使用して順化培地を50倍濃縮した。濃縮物
は蛍光脂溶性色素、DiIとインキュベートし、次いでSepharose CL-2B
樹脂を充填したXK50/100カラム(GE Heathcare)を使用して分画化
した。エクソソーム含有分画は、DiIの蛍光検出およびリン脂質定量化によって同定し
た(Sigma)。選択した分画に関するRNAシークエンシングはSystem Bi
osciences(CA)によって行われた。選択した分画に関するプロテオミクスは
LC-MS/MSを使用してBioproximityによって行われた(Chanti
lly、VA)。ピルビン酸キナーゼタンパク質および酵素活性は、それぞれProte
inSimpleイムノアッセイおよび比色キネティックアッセイ(Abcam、ab8
3432)によって評価した。
【0122】
in vitroモデル:平滑筋細胞(SMC)を、酸素正常状態または低酸素状態(
4%酸素)のいずれかにおいてPBSまたはエクソソームで24時間治療した。Illu
minaプラットホーム(Qiagen)を使用しマイクロアレイ解析用に、またはHD
4プラットホーム(Metabolon、RTP、NC)を使用しメタボロミクス解析用
に実験用レプリカを処理した。酸素消費は、abcam細胞外O2消費アッセイキット(
Abcam、ab197243)を使用して測定した。
【0123】
肺胞細胞を24時間接種し、0.1%FBS培地に移し、酸素正常状態インキュベータ
ーにおいて3時間、強力なエクソソーム集団で初回抗原刺激し、酸素過剰インキュベーシ
ョンチャンバー中で48時間平板培養した(
図17)。
【0124】
SMC慢性低酸素状態モデル:SMCはPAHおよび低酸素状態で増殖、非アポトーシ
ス表現型に変わり、肺中の血管および動脈の肥大をもたらし、高圧、および最終的に心臓
に対するダメージ/PAHにおいて負の症状を引き起こすことが知られている。SMCは
酸素正常状態、低酸素状態(4%酸素)、および低酸素状態(4%酸素)+エクソソーム
で培養した。培養期間中、2週間の間1週間に2回、強力なエクソソームで細胞を治療し
た。生成したSMCは、マイクロアレイ遺伝子発現(IPA)および/または全体的メタ
ボロミクスによって解析した。
【0125】
[実施例9-ウネキシソームを用いたin vitro治療]
in vitro実験によって、ウネキシソームが免疫調節能力を有することが実証さ
れている。
図18中に示したように、ウネキシソーム治療は、酸素過剰ストレスに曝露し
た細胞においてIL-6の発現低下に基づき免疫調節能力を増大させた(酸素過剰状態は
IL-6の放出を引き起こす)。
図19中に示したように、ウネキシソーム治療は、酸素
過剰ストレスに曝露した細胞においてTNFαの発現低下に基づき免疫調節能力を増大さ
せた(酸素過剰状態はTNFαの放出を引き起こす)。
【0126】
ウネキシソームが抗アポトーシス効能を有することもin vitro実験によって実
証されている。
図20中に示したように、ウネキシソーム治療によって、細胞数の増大に
相当する吸光度の増大によって示されたように、酸素過剰状態の下での抗アポトーシス効
果を示した。
図21中に示したように、ウネキシソーム治療によって、酸素過剰ストレス
に曝露した細胞からのシトクロムC放出を減らした。
【0127】
ウネキシソームを使用してBPDにおける肺血管形成を促進できることが、in vi
tro実験によってさらに実証されている。
図22A中に示したように、ウネキシソーム
治療によって急性酸素過剰曝露状態で管形成を修復することができる。
【0128】
ウネキシソームを使用してBPD関連PAHにおいてミトコンドリア代謝を改善するこ
とができることが、in vitro実験によって追加的に実証されている。
図24中に
示したように、経路内の中間代謝産物の全体的代謝産物解析により、ウネキシソームは慢
性低酸素状態においてアミノ酸代謝を上方制御した。
図25中に示したように、ウネキシ
ソームは慢性低酸素状態においてピルビン酸およびグルタミン酸代謝を上方制御した。
【0129】
図26中に示したように、ウネキシソームは慢性低酸素状態においてGLUD1遺伝子
発現を上方制御した。
図27中に示したように、ウネキシソームは慢性低酸素状態におい
てPDK4を下方制御した。
図28中に示したように、ウネキシソームは慢性低酸素状態
においてSIRT4を下方制御した。SIRT4遺伝子は、in vitro PAHモ
デルにおいて2つの代謝酵素、GLUD1およびPDHを阻害する。SIRT4遺伝子は
in vitro PAHモデルではウネキシソーム治療により下方制御され、一方GL
UD1およびPDHはエクソソーム治療により上方制御された。SIRT4はエクソソー
ム治療の標的であると考えられる。
図29中に示したように、ウネキシソームは、低酸素
状態において下方制御された遺伝子を上方制御することにより、TCA回路機能を修復し
た(TCA回路中9酵素のうち6酵素が下方制御される)。
【0130】
[実施例10-ウネキシソームを用いたin vivo治療]
酸素過剰状態誘導型BPDの試験:C57BL/6マウスに出生後(PN)第1日から
第7日まで75%酸素を施し、出生後第7日から第14日まで室内空気および正常酸素レ
ベルに移した。PN4で、1回用量の強力なエクソソームを浅側頭静脈に注射した。PN
7およびPN14で、RNAおよび組織学的解析を行った(
図38)。
【0131】
BPD誘導型PAHの試験:C57BL/6マウスに出生後(PN)第1日から第7日
まで75%酸素を施し、出生後第7日から第42日まで室内空気および正常酸素レベルに
移した。PN4で、1回用量の強力なエクソソームを浅側頭静脈に注射した。PN7およ
びPN14で、RNA、組織学的および血球計算解析を行った。PN42で、組織学的お
よび血球計算解析を行い、追加的生理学的測定、肺機能試験、およびRV圧測定も行った
(
図38)。
【0132】
併用療法:C57BL/6マウスに第1日から第29日まで10%酸素を施し、第29
日から第56日まで正常状態に移した。第1日に、マウスにセマキサニブを注射し、第2
9日から第56日まで、シルデナフィルを1日2回、およびエクソソームを3日に1回マ
ウスに注射した。RVSPレベルを測定した(
図45A~
図45B)。
【0133】
図40中に示したように、ウネキシソーム治療はBPD関連肺胞簡略化を救済した。図
40Aは、強力なエクソソームでの治療は、酸素正常状態(NRMX)と比較した酸素過
剰状態(HYRX)媒介の肺胞簡略化の増大を救済することを示す。
図40Bは、平均空
間径の代わりを表す平均肺胞径の定量化を示す。
【0134】
図42A~
図42C中に示したように、ウネキシソーム治療は慢性的肺胞簡略化を救済
した。
図42Aは、酸素正常状態、低酸素状態下での細胞、ならびにホウォートンゼリー
由来エクソソーム、および骨髄由来エクソソームで治療した細胞のイメージを示す。
図4
2Bは、エクソソームがBPD関連PAHマウスモデルにおいて肺胞簡略化を救済したこ
とを示す。
図42Cは、BPD関連PAHマウスモデルにおいて中隔野内のコラーゲン沈
着によって示されたように、エクソソームが低度肺線維症を低減したことを示す。
【0135】
図43A~
図43D中に示したように、ウネキシソーム治療がPAH肺血管再構築を救
済したことを示す図であり、これはα-平滑筋アクチン染色(AとB)およびPAHに関
連した圧力変化(C)によって実証された。PV-ループは酸素過剰状態(HYRX)マ
ウスにおける有意なシフトを実証し、酸素正常状態(NRMX)対照と比較したとき肺気
腫のような肺疾患および空気捕捉の特徴を示す。エクソソームは、このシフトにおいて肺
機能改善を示す有意な救済を示した。
【0136】
図44A~
図44B中に示したように、MSCエクソソームは低酸素状態誘導型PAH
マウスモデルにおいてPAHを予防した。
図45A~
図45B中に示したように、エクソ
ソームとシルデナフィルの併用療法は、Sugen/低酸素状態誘導型PAHマウスモデ
ルにおいてPAHを逆行させた。
図46中に示したように、エクソソームはPAHのSu
gen/低酸素状態モデルにおいてアミノ酸代謝を上方制御した。
【0137】
[実施例11-ウネキシソームの特徴付け]
図32中に示したように、サイズ排除クロマトグラフィーを使用した強力なエクソソー
ム集団(COM2)の単離は、非理想的サイズのエクソソームだけでなくタンパク質と非
強力な微細小胞汚染物質も単離する超遠心分離または勾配分離と比較して、有意に減少し
た汚染物質をもたらす。
図33中に示したように、単離した強力なエクソソームは、超遠
心分離試料と比較してより均一なサイズと鮮明なイメージを有する。
【0138】
図34中に示したように、単離した強力なエクソソームはMHCII汚染物質を含まな
い。対照的に、ZenBioからの市販のエクソソームはMHCII汚染物質を含有する
。
【0139】
図35A~
図35B中に示したように、ポンソー染色に基づいて、サイズ排除クロマト
グラフィーにより単離した強力なエクソソームは、フィブロネクチンおよび他のタンパク
質汚染物質を含まず、一方で市販のZenBio超遠心分離調製物はフィブロネクチン汚
染物質を有する。
【0140】
図36中に示したように、強力集団と微細小胞汚染物質のRNAseqクラスタリング
解析において、強力なエクソソーム(COM2)が微細小胞汚染物質から差次的に群がり
、それらはSORCS1、FHITおよびANKRD30BLが富化状態である。
図37
中に示したように、強力なエクソソーム(COM2)は、GAPDH発現の高発現レベル
に相当するCOM1より低いCT値を有する。
前記細胞外小胞またはエクソソームの強力な集団が、前記間葉系間質細胞から得た全細胞外小胞またはエクソソームにおける発現産物の平均量と比較して、(a)解糖経路中の遺伝子、(b)TCA回路中の遺伝子、および(c)電子伝達系中の遺伝子からなる群から選択される1つまたは複数の発現産物の発現が増加しており、前記細胞外小胞またはエクソソームが、前記間葉系間質細胞から得た全細胞外小胞またはエクソソームにおける同じ発現産物の平均量と比較して、少なくとも20%高い発現産物の発現を含む、請求項1に記載の方法。
(a)解糖経路中の遺伝子がPK、AGI、ALDO、ALDOA、ENO3、GPI、HK2、HK3、PFK、PGM、TPI、GAPDH、ENO、およびPGAMからなる群から選択され、(b)TCA回路中の遺伝子がMDH2、OGDH、PC、PDHA1、PDHB、SDHA、SDHC、およびSUCLG2からなる群から選択され、かつ(c)電子伝達系中の遺伝子がETFA、ATPase、NDUFC2、NDUFB1、NDUFS5、NDUFA8、NDUFA9、NDUFS2、SDHA、SDHC、UQCRH1、Cox6c1、およびCox10からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
前記単離細胞外小胞またはエクソソームが、全間葉系間質細胞中のCD105、GAPDH、DLST、および/またはATP5A1の平均量と比較してCD105、GAPDH、DLST、および/またはATP5A1の少なくとも20%増大した発現を含有するMSCから分泌される、請求項8に記載の組成物。
前記単離細胞外小胞またはエクソソームが、間葉系間質細胞の全細胞外小胞またはエクソソームにおけるSORCS1、FHITおよび/またはANKRD30BLの平均量と比較してSORCS1、FHITおよび/またはANKRD30BLのRNA発現が少なくとも20%増大している、請求項8に記載の組成物。