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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167183
(43)【公開日】2024-12-03
(54)【発明の名称】爪真菌症治療用組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20241126BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20241126BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20241126BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20241126BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20241126BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20241126BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20241126BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20241126BHJP
   A61K 31/137 20060101ALI20241126BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P31/10
A61K9/08
A61K47/12
A61K47/10
A61K47/14
A61K47/22
A61K47/38
A61K31/137
A61P17/00 101
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024114840
(22)【出願日】2024-07-18
(62)【分割の表示】P 2022521212の分割
【原出願日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】62/912,494
(32)【優先日】2019-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】522140367
【氏名又は名称】ハルクス,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】HALLUX INC.
【住所又は居所原語表記】23052 Alcalde Dr.,Suite A,Laguna Hills,California 92653(US)
(74)【代理人】
【識別番号】100109634
【弁理士】
【氏名又は名称】舛谷 威志
(74)【代理人】
【識別番号】100160831
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 元
(72)【発明者】
【氏名】アギー,クリストファー アール.
(72)【発明者】
【氏名】オアー,ロバート エル.
(72)【発明者】
【氏名】トレンブレイ,トマス マーク
(57)【要約】      (修正有)
【課題】爪下に投与できる処方物の物理的且つ薬学的パラメータを大幅に改善する組成物を提供する。
【解決手段】液体医薬組成物であって、疎水性溶媒と、任意の親水性溶媒と、任意の被膜形成剤とを含む薬学的に許容される担体と、抗真菌剤と、を含み、抗真菌剤が薬学的に許容される担体中に溶解され、10重量%以上の濃度で存在し、かつ医薬組成物は粘度が約500~2,500cP(mPa・s)である、組成物が提供される。最も有益なものとして、本開示で提示される組成物は、十分な量で液体処方物を保持し、一般に爪真菌症と関連した多糖類マトリックスを透過するのを助ける粘性と膜形成能とを有する。特に好ましい態様においては、最小発育阻止濃度以上で、より大きな治療空間への活性な薬学的活性成分(API)の爪甲への拡散を促進しつつ、APIが高濃度となり、爪下腔の中での処方物の移動を可能とし、体内吸収を減らすように、担体が配合される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体医薬組成物であって、
疎水性溶媒と、任意の親水性溶媒と、任意の被膜形成剤とを含む薬学的に許容される担体と、
抗真菌剤と、を含み、
前記抗真菌剤が前記薬学的に許容される担体中に溶解され、10重量%以上の濃度で存在し、かつ前記医薬組成物は粘度が約500~2,500cP(mPa・s)である、組成物。
【請求項2】
前記疎水性溶媒がイソステアリン酸、ベンジルアルコール、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、及びミリスチン酸イソプロピルからなる群から選択され、前記任意の親水性溶媒がジメチルイソソルビド、プロピレンカーボネート、及びD,L-乳酸からなる群から選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記高分子被膜形成剤が置換セルロースを含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記抗真菌剤がアリルアミン抗真菌剤、モルホリン抗真菌剤、ポリエン抗真菌剤、又はアゾール抗真菌剤である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記抗真菌剤がアリルアミン抗真菌剤である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記抗真菌剤が20重量%以上の濃度で存在し、前記組成物を25℃、相対湿度60%で保存した場合に少なくとも4週間安定であり、前記組成物を5℃で保存した場合に前記抗真菌剤が安定である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記抗真菌剤が40重量%以上の濃度で存在し、前記組成物を25℃、相対湿度60%で保存した場合に少なくとも4週間安定であり、前記組成物を5℃で保存した場合に前記抗真菌剤が安定である、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物は、粘度が約750~1,500cP(mPa・s)である、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記疎水性溶媒がイソステアリン酸、ミリスチン酸イソプロピル、及び/又はアジピン酸ジイソプロピルを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記疎水性溶媒がベンジルアルコールを更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記抗真菌剤はテルビナフィン遊離塩基である、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記疎水性溶媒がイソステアリン酸、アジピン酸ジイソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、及びベンジルアルコールを含む請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記高分子被膜形成剤がエチルセルロースである請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記抗真菌剤はテルビナフィン遊離塩基である請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記抗真菌剤が40重量%以上の濃度で存在する請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記医薬組成物は、粘度が約750~1,500cP(mPa・s)である、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
哺乳動物において爪下腔を治療する方法であって、
爪甲と爪床との間にある爪下腔に液体医薬組成物を投与すること、を含み、
前記医薬組成物は、治療剤を溶解するか、分散するか、又は分配する疎水性溶媒と、任意の親水性溶媒と、任意の被膜形成剤とを含む薬学的に許容される担体を含み、前記医薬組成物は粘度が約500~2,500cP(mPa・s)であり、
前記治療剤は、前記爪下腔と、前記爪下腔を超えて延在する治療空間において、前記治療剤の最小発育阻止濃度を確保する量で前記医薬組成物中に存在する、方法。
【請求項18】
前記液体医薬組成物を投与するステップが、前記爪甲と前記爪床との間にカニューレを挿入し、前記カニューレを通して前記液体医薬組成物を投与することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記カニューレが、前記カニューレの遠位部に横穴を少なくとも一つ有する鈍端カニューレである請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記爪下腔が真菌に感染している領域を含み、前記治療剤が抗真菌剤である請求項17~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記疎水性溶媒が、ジメチルスルホキシド(DMSO)又はジメチルホルムアミド(DMF)と比較して、体循環への前記治療剤の吸収率を減少させ、前記爪床への前記治療剤の吸収率を増加させる請求項17~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記液体医薬組成物を投与するステップが、前記爪下腔に10~100μLを注射することを含む、請求項17~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記液体医薬組成物を投与するステップが、更に前記爪床における治療剤の最小治療濃度を確保する、請求項17~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記高分子被膜形成剤が、皮膚糸状菌によって産生される多糖類マトリックス内に浸透する請求項17~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記液体医薬組成物の粘性によって前記爪下腔の中で横方向に流れることが可能となる請求項17~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記液体医薬組成物の粘性によって、前記液体医薬組成物の投与された量の80%以上の保持が可能となる請求項17~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記疎水性溶媒がイソステアリン酸、ベンジルアルコール、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、及びミリスチン酸イソプロピルからなる群から選択され、前記任意の親水性溶媒がジメチルイソソルビド、プロピレンカーボネート、及びD,L-乳酸からなる群から選択される請求項17~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記高分子被膜形成剤が置換セルロースを含む、請求項17~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記治療剤がアリルアミン抗真菌剤、モルホリン抗真菌剤、ポリエン抗真菌剤、又はアゾール抗真菌剤からなる群から選択される抗真菌剤である請求項17~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
爪真菌症を治療する方法であって、
疎水性溶媒、任意の親水性溶媒、任意の高分子被膜形成剤、及び抗真菌剤を含む薬学的に許容される担体を含有する液体医薬組成物を爪下投与することを含み、
前記抗真菌剤が前記薬学的に許容される担体中に溶解され、10重量%以上の濃度で存在し、かつ前記医薬組成物は粘度が約500~2,500cP(mPa・s)であり、
前記抗真菌剤は、爪下腔と、前記爪下腔を超えて延在する治療空間において、前記抗真菌剤の最小発育阻止濃度を確保する量で前記医薬組成物中に存在する、方法。
【請求項31】
前記疎水性溶媒がイソステアリン酸、ベンジルアルコール、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、及びミリスチン酸イソプロピルからなる群から選択され、前記任意の親水性溶媒がジメチルイソソルビド、プロピレンカーボネート、及びD,L-乳酸からなる群から選択される請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記高分子被膜形成剤が置換セルロースを含む、請求項30又は31に記載の方法。
【請求項33】
前記抗真菌剤がアリルアミン抗真菌剤、モルホリン抗真菌剤、ポリエン抗真菌剤、又はアゾール抗真菌剤である請求項30~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記抗真菌剤がアリルアミン抗真菌剤である請求項30~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記抗真菌剤が20重量%以上の濃度で存在し、前記組成物を25℃、相対湿度60%で保存した場合に少なくとも4週間安定である、請求項30~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記抗真菌剤が40重量%以上の濃度で存在し、前記組成物を25℃、相対湿度60%で保存した場合に少なくとも4週間安定である、請求項30~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記組成物は、粘度が約750~1,500cP(mPa・s)である、請求項30~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記疎水性溶媒がイソステアリン酸、ミリスチン酸イソプロピル、及び/又はアジピン酸ジイソプロピル、及び任意のベンジルアルコールを含む、請求項30~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記抗真菌剤はテルビナフィン遊離塩基である、請求項30又は31に記載の方法。
【請求項40】
皮膚糸状菌症を治療する方法であって、
爪甲と爪床との間にある多糖類マトリックス内に液体医薬組成物を爪下投与することを含み、
前記液体医薬組成物は、疎水性溶媒、任意の親水性溶媒、任意の高分子被膜形成剤、及び抗真菌剤を含む薬学的に許容される担体を含有し、
前記抗真菌剤が前記薬学的に許容される担体中に溶解され、20重量%以上の濃度で存在し、かつ前記医薬組成物は粘度が約500~2,500cP(mPa・s)であり、
前記抗真菌剤は、爪下腔と、前記爪下腔を超えて延在する治療空間において、前記治療剤の最小発育阻止濃度を確保する量で前記医薬組成物中に存在する、方法。
【請求項41】
前記疎水性溶媒がベンジルアルコール、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、及びミリスチン酸イソプロピルからなる群から選択され、前記任意の親水性溶媒がジメチルイソソルビド、プロピレンカーボネート、及びD,L-乳酸からなる群から選択される請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記高分子被膜形成剤が置換セルロースを含む、請求項40又は41に記載の方法。
【請求項43】
前記抗真菌剤がアリルアミン抗真菌剤、モルホリン抗真菌剤、ポリエン抗真菌剤、又はアゾール抗真菌剤である請求項40~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記抗真菌剤がアリルアミン抗真菌剤である請求項40~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記抗真菌剤が40重量%以上の濃度で存在し、前記組成物を25℃、相対湿度60%で保存した場合に少なくとも4週間安定である、請求項40~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記組成物は、粘度が約750~1,500cP(mPa・s)である、請求項40~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記疎水性溶媒がミリスチン酸イソプロピル、及び/又はアジピン酸ジイソプロピル、及び任意のベンジルアルコールを含む、請求項40~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記抗真菌剤はテルビナフィン遊離塩基である、請求項40~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
抗真菌剤を含有する液体医薬組成物を爪下腔に保持する方法であって、
前記爪下腔に前記液体医薬組成物を爪下投与することを含み、
前記液体医薬組成物は、薬学的に許容される担体に溶解した、疎水性溶媒、任意の親水性溶媒、任意の高分子被膜形成剤、及び前記抗真菌剤を含む前記薬学的に許容される担体を含有し、
前記液体医薬組成物の粘度は約500~2,500cP(mPa・s)であり、
前記抗真菌剤は、前記爪下腔と、前記爪下腔を超えて延在する治療空間において、前記治療剤の最小発育阻止濃度を確保する量で前記医薬組成物中に存在する、方法。
【請求項50】
投与された体積の80%以上が前記爪下腔内に保持される請求項49に記載の方法。
【請求項51】
投与された体積の90%以上が前記爪下腔内に保持される請求項49又は50に記載の方法。
【請求項52】
前記疎水性溶媒がイソステアリン酸、ベンジルアルコール、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、及びミリスチン酸イソプロピルからなる群から選択され、前記任意の親水性溶媒がジメチルイソソルビド、プロピレンカーボネート、及びD,L-乳酸からなる群から選択される請求項49~51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記高分子被膜形成剤が置換セルロースを含む、請求項49~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記抗真菌剤がアリルアミン抗真菌剤、モルホリン抗真菌剤、ポリエン抗真菌剤、又はアゾール抗真菌剤である請求項49~53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記抗真菌剤がアリルアミン抗真菌剤である請求項49~54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記抗真菌剤が20重量%以上の濃度で存在し、前記組成物を25℃、相対湿度60%で保存した場合に少なくとも4週間安定である、請求項49~55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
前記抗真菌剤が40重量%以上の濃度で存在し、前記組成物を25℃、相対湿度60%で保存した場合に少なくとも4週間安定である、請求項49~56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
前記組成物は、粘度が約1,000~1,500cP(mPa・s)である、請求項49~57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
高用量抗真菌性液体医薬組成物であって、
疎水性溶媒、任意の親水性溶媒、任意の高分子被膜形成剤、及び抗真菌剤を、前記組成物の30重量%以上の濃度で含む薬学的に許容される担体を含み、
前記抗真菌剤が前記薬学的に許容される担体中に溶解しており、組成物を25℃、相対湿度60%で保存した場合に少なくとも4週間安定であり、
前記医薬組成物の濃度は約500~2,500cP(mPa・s)である、組成物。
【請求項60】
前記抗真菌剤が、組成物の40重量%以上の濃度で存在する、請求項59に記載の高用量抗真菌性組成物。
【請求項61】
前記組成物を25℃、相対湿度60%で保存した場合に、前記抗真菌剤が少なくとも3ヶ月間安定である、請求項59又は60に記載の高用量抗真菌性組成物。
前記組成物を25℃、相対湿度60%で保存した場合に、前記抗真菌剤が少なくとも6ヶ月間安定である、請求項59~61のいずれか一項に記載の高用量抗真菌性組成物。
【請求項62】
前記疎水性溶媒がイソステアリン酸、ベンジルアルコール、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、及びミリスチン酸イソプロピルからなる群から選択され、前記任意の親水性溶媒がジメチルイソソルビド、プロピレンカーボネート、及びD,L-乳酸からなる群から選択される請求項59~61のいずれか一項に記載の高用量抗真菌性組成物。
【請求項63】
前記高分子被膜形成剤が置換セルロースを含む、請求項59~62のいずれか一項に記載の高用量抗真菌性組成物。
【請求項64】
前記抗真菌剤がアリルアミン抗真菌剤、モルホリン抗真菌剤、ポリエン抗真菌剤、又はアゾール抗真菌剤である請求項59~63のいずれか一項に記載の高用量抗真菌性組成物。
【請求項65】
前記抗真菌剤がテルビナフィン遊離塩基である請求項59~64のいずれか一項に記載の高用量抗真菌性組成物。
【請求項66】
前記医薬組成物は、粘度が約750~1,500cP(mPa・s)である、請求項59~65のいずれか一項に記載の高用量抗真菌性組成物。
【請求項67】
爪真菌症を治療する方法であって、
爪真菌症の患部の視認可能な近位端に接触しない場所に、液体医薬組成物を爪下投与することであって、
ここで前記組成物は、疎水性溶媒、任意の親水性溶媒、任意の高分子被膜形成剤、及び前記疎水性溶媒に溶解した抗真菌剤を含む薬学的に許容される担体を含有し、前記医薬組成物の粘度が約500~2,500cP(mPa・s)である、ことと、
液体医薬組成物を、前記場所から、少なくとも爪真菌症の前記患部の前記視認可能な近位端に移動させることであって
ここで前記爪真菌症は、爪下腔と、前記爪下腔を超えて延在する治療空間において、前記治療剤の最小発育阻止濃度を確保する量で前記医薬組成物中に存在する、ことと、を含む方法。
【請求項68】
前記場所が、爪真菌症の前記患部の前記視認可能な近位端から1mm以上離れている請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記場所が、爪真菌症の前記患部の前記視認可能な近位端から3mm以上離れている請求項67に記載の方法。
【請求項70】
前記爪下投与が、鈍端カニューレを通して前記液体医薬組成物を送達することを含む、請求項67~69のいずれか一項に記載の方法。
【請求項71】
液体抗真菌性組成物であって、
イソステアリン酸、ベンジルアルコール、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、及びミリスチン酸イソプロピルからなる群から選択される疎水性溶媒を含む薬学的に許容される担体と、
ジメチルイソソルビド、プロピレンカーボネート、及びD,L-乳酸からなる群から選択される任意の親水性溶媒と、
任意の高分子被膜形成剤としての置換セルロースと、
テルビナフィンと、を含み、前記テルビナフィンの濃度は20重量%以上であり、
前記液体抗真菌性組成物の粘度は約500~2,500cP(mPa・s)である、組成物。
【請求項72】
前記テルビナフィンの濃度が30重量%以上である請求項71に記載の抗真菌性組成物。
【請求項73】
前記テルビナフィンの濃度が40重量%以上である請求項71に記載の抗真菌性組成物。
【請求項74】
前記テルビナフィンがテルビナフィン遊離塩基である請求項71に記載の抗真菌性組成物。
【請求項75】
前記医薬組成物は、粘度が約750~1,500cP(mPa・s)である、請求項71~74のいずれか一項に記載の抗真菌性組成物。
【請求項76】
前記薬学的に許容される担体は、イソステアリン酸、アジピン酸ジイソプロピル、又はミリスチン酸イソプロピルを含む、請求項71~74のいずれか一項に記載の抗真菌性組成物。
【請求項77】
前記高分子被膜形成剤がエチルセルロースである、請求項71~74のいずれか一項に記載の抗真菌性組成物。
【請求項78】
前記高分子被膜形成剤がエチルセルロースである請求項76に記載の抗真菌性組成物。
【請求項79】
請求項71~78のいずれか一項に記載の前記液体抗真菌性組成物の、爪真菌症及び/又は皮膚糸状菌症の治療における使用。
【請求項80】
前記治療が、爪下腔に前記液体抗真菌性組成物の非外傷性の送達を含む請求項79に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は、2019年10月8日に出願された、係属中の米国仮特許出願第62/912,494号に対する優先権を主張し、その内容は参照により援用される。
【技術分野】
【0002】
本開示は、爪下腔を治療する組成物及び方法に関し、特に爪真菌症(onychomycosis)や皮膚糸状菌症(dermatophytoma)の治療に関する。
【背景技術】
【0003】
背景の説明は、本開示を理解するのに有用であり得る情報を含む。背景の説明は、本開示で提供されるいずれかの情報が先行技術であるか、本願の特許請求の範囲に記載した発明に関連するということを自認するものではなく、また具体的に又は暗示的に参照されたいずれかの刊行物が先行技術であることを自認するものでもない。
【0004】
本開示内の全ての刊行物及び特許出願は、個々の刊行物又は特許出願が参照により援用されるように具体的かつ個別に示されているのと同程度に、参照により援用される。援用された参照の中における用語の定義や用法が本開示で提示されるその用語の定義と一致しない場合又は相反する場合、本開示で提示されたその用語の定義が適用され、参照の中のその用語の定義は適用しない。
【0005】
爪真菌症は、かなり一般的な爪床の感染症である。その感染の場所により、十分に高い(治療上有効な)濃度の抗真菌剤を送達させることは難しい。さらに、真菌感染症には細胞と芽胞の分裂が含まれることから、比較的強力な薬剤が使用される場合でさえ、治療的に有効な濃度は比較的高い。例えば、テルビナフィンは強力な抗真菌剤であり、経口型で爪真菌症の治療用として承認されている。経口型は疾患の原因となる皮膚糸状菌が増殖する爪(爪床)の下の軟部組織に薬剤を全身送達するため、疾患の治療にはある程度有効ではあるが、テルビナフィンの全身毒性(特に肝毒性)のために、治療が成功することは限定的である場合が多い。実際に、爪甲内での局所薬剤濃度が低いことと、高い最小発育阻止濃度(MIC)を必要とすることから、単剤療法は高い失敗率と関連していたことが示されている(例えば、Mycoses 2003,46,506-510を参照のこと)。有効性を改善するために、テルビナフィンの投与は、治癒率を高めるための手術を伴う場合がある(Journal of Dermatological Treatment(2000)11,259-262)。しかしながら、その治療では爪甲の除去を必要とし、望ましいとは言えない。毒性を軽減するために、2~4ヵ月おきに250mg/日の量で7日間、断続的にパルス投与を行うと、少なくとも幾分かは結果が改善された(例えば.Arch Dermatol Vol 140,June 2004,p691-695を参照のこと)。しかし、治癒率はまだ所望のレベルよりは低く、潜在的毒性の問題も残ったままである。
【0006】
高い全身曝露に関連する問題を避けるために、抗真菌剤を爪甲に局所的に適用する場合もある。例えば、10%のエフィナコナゾール(JUBLIA(商標)として市販されている)のアルコール溶液が開発されている。残念なことに、爪甲への浸透性がかなり低いために、完全に治癒した割合は治療をうけた集団の15.2%~17.8%であり、かなり低かった(FDAの処方報を参照のこと)。
【0007】
最近では、抗真菌剤を感染部位に送達する手段として爪下への投与が提案されており、組成と方法の例が米国特許出願公開第2013/0210925号明細書に記載されている。例えば、米国特許出願公開第2010/0048724号明細書と米国特許第9446009号明細書では、爪下腔へ直接投与するための非液体状テルビナフィン塩酸塩組成物が教示されており、米国特許第7135194号明細書では爪下への投与のための固体状又は半固体状の処方物が教示されている。更に別の例においては、米国特許出願公開第2004/0062733号明細書及び米国特許出願公開第2007/0014743号明細書に記載されているように、爪下への送達のために半固体を使用することができる。しかしながら、比較的高い薬物濃度で局所的に投与することはできるものの、固体状又は半固体状の担体からテルビナフィンを送達させても、隣接する領域への活性成分の拡散を促進できないことが多い。さらに、そのような固体状又は半固体状の担体は、活性成分の爪床及び爪甲への拡散も促進しないことが多い。したがって、担体は典型的には患部の前縁に挿入する必要があるが、多くの場合外傷と穿刺出血を伴い、爪甲が浮き上がる。
【0008】
感染の部位に到達させるためのさらに他の試みにおいて、エフィナコナゾールのアルコール溶液に類似の蛍光標識されたアルコール溶液を爪下皮と足指の先に塗布し、爪の表面と遠位皮膚領域の下に溶液を広げることが行われた。特に、塗布された溶液の一部は、爪下皮を通して爪床と爪甲の間の場所に浸透するように見え、溶液の他の一部は爪甲に付着していた(J Drugs Dermatol 2014,Vol.13,No.11,1394-8を参照のこと)。しかしながら抗真菌剤は使用されておらず、そのため抗真菌活性は評価されなかった。エフィナコナゾールの濃度が比較的低く、賦形剤の拡散体積が比較的少ない場合ことを考えると、そのような低濃度の処方を用いた抗真菌治療の有効性はどうよく見ても当てにならない。
【0009】
既知の爪下投与の困難さを更に増すものとして、菌類の塊によって産生される多糖類マトリックスの存在があり、それは「皮膚糸状菌症(dermatophytoma)」として現れる。実際に、多糖類マトリックスが広範囲にわたる部分では、抗真菌剤の浸透量が減少して標準的な抗真菌治療に耐性のある状態となり、テルビナフィンの経口投与に、爪甲の外科的な切除を組み合わせることのみがある程度治療効果のある方法となる場合が多い。
【0010】
さらに、爪が健康な状態及び健康な見た目で成長し、完全に治癒に至るのに必要とされる期間、有効な抗真菌剤濃度を維持することは難しい。爪は1月当たり1mm伸び、爪が完全に伸びきるまでには12ヶ月かかる。結果として、高い局所投与量を達成できる、より長く持続する抗真菌剤の貯蔵部があればより効果的であろう。残念なことに、現在公知の抗真菌剤の濃度は、典型的にはそのような高い局所投与量を達成することができない。さらに、休眠期の真菌胞子を根絶するためには、1000倍高い濃度の抗真菌剤が必要とされることは理解されるべきである(例えば、Mycoses(2002)46,506-510を参照のこと)。
【0011】
このように、当該技術分野で様々な組成物や方法が公知であるとしても、それらの全て、又はほぼ全てには様々な欠点がある。したがって、爪下腔の有効な治療を提供する、改良された組成物及び方法、特に爪真菌症や皮膚糸状菌症の治療に関する組成物や方法を提供してほしいというニーズがある。
【発明の概要】
【0012】
爪下治療領域、局所濃度、及び(ほとんどの場合において抗真菌剤である)治療剤の保持を最大化する、制御された物理化学的パラメータを備えた医薬組成物を使用する、爪真菌症及び/又は皮膚糸状菌症の治療のための組成物及び方法が提示される。有利にも、企図されている組成物は、(1)皮膚糸状菌症に多くの場合関連する多糖類マトリックスへの高い付着力及び浸透力、(2)高い局所用量と有効薬剤利用可能期間、及び(3)治療剤の低い全身吸収性を伴う、爪甲と爪床における高い二次拡散性をも発揮する。さらに、上記組成物は痛み及び/又は外傷を誘発しない方法を用いて、毒性のある副作用に対する懸念を与えることのない用量で臨床的に投与することができる。
【0013】
ある態様において、本発明者らは、疎水性溶媒、任意の高分子被膜形成剤、及び抗真菌剤を含む薬学的に許容される担体(ビヒクル)を含有する液体医薬組成物を企図している。最も典型的には、抗真菌剤は薬学的に許容される担体中に溶解され、10重量%以上(より好ましくは20%以上、更により好ましくは40%以上)の濃度で存在する。高分子被膜形成剤は、好ましくは約500~2,500cP(mPa・s)、より好ましくは約750~1,500cP(mPa・s)の粘度を付与するように組成物に含まれていてもよい。
【0014】
例えば、実施形態の一部においては、上記疎水性溶媒はベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、イソステアリン酸、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、及び/又はミリスチン酸イソプロピルであり、好適な親水性溶媒にはプロピレンカーボネート、ジメチルイソソルビド、及び/又は乳酸が含まれ、好適な被膜形成剤は乳酸エチル、クエン酸トリエチル、フタル酸ジメチル、ジエチル、又はジブチル、及び/又は置換高分子セルロースを含む。好適な抗真菌剤に関して、抗真菌剤がアリルアミン抗真菌剤、モルホリン抗真菌剤、ポリエン抗真菌剤やアゾール抗真菌剤であり得ることが企図されている。なかでも好ましい抗真菌剤はアリルアミン抗真菌剤であり、特にテルビナフィンである。
【0015】
他の例においては、組成物を25℃、相対湿度60%で保存した場合、抗真菌剤は20重量%以上又は40重量%以上の濃度で存在してもよく、少なくとも4週間(又は少なくとも12週間、又は少なくとも6ヵ月間)安定である。したがって、ある実施形態においては疎水性溶媒はイソステアリン酸、ミリスチン酸イソプロピル、及び/又はアジピン酸ジイソプロピルを含んでもよく、ジメチルイソソルビド、プロピレンカーボネート、乳酸、又はベンジルアルコールを更に含んでもよい。さらに、好ましい高分子被膜形成剤には、特にクエン酸トリエチルとエチルセルロースが含まれる。抗真菌剤がテルビナフィンである場合、抗真菌剤が遊離塩基の形態のテルビナフィンであることも更に企図されている。
【0016】
したがって、及び異なる視点から見ると、本発明者らは、疎水性溶媒、高分子被膜形成剤、及び抗真菌剤を含む薬学的に許容される担体を、組成物の30重量%以上の濃度で含有する高用量抗真菌性液体医薬組成物をも企図している。最も典型的には、抗真菌剤は薬学的に許容される担体中に溶解しており、組成物を25℃、相対湿度60%で保存した場合、少なくとも4週間(又は少なくとも12週間、又は少なくとも6ヵ月間)安定であり、医薬組成物の粘度は約500~2,500cP(mPa・s)、より好ましくは約750~1,500cP(mPa・s)である。
【0017】
さらに企図されている実施形態において、抗真菌剤は組成物の40重量%以上の濃度で存在し、好ましい疎水性溶媒にはベンジルアルコール、イソステアリン酸、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、及びミリスチン酸イソプロピルが含まれ、また使用される場合には、好ましい親水性溶媒にはジメチルイソソルビド、プロピレンカーボネート、及び乳酸が含まれる。高分子被膜形成剤が置換セルロースを含有するのが更に好ましい。最も典型的には、抗真菌剤はアリルアミン抗真菌剤、及びモルホリン抗真菌剤、ポリエン抗真菌剤、又はアゾール抗真菌剤であり、最も好ましくは遊離塩基の形態のテルビナフィンである。
【0018】
発明の主題の更に別の態様において、本発明者らは、爪甲と爪床との間にある爪下腔に液体医薬組成物を投与するステップを含む、哺乳動物の爪下腔に治療を提供する方法を企図している。最も典型的には、上記医薬組成物は、治療剤が溶解された疎水性溶媒と、任意の被膜形成剤とを含む薬学的に許容される担体を含有し、医薬組成物の粘度が約500~2,500cP(mPa・s)である。さらに、上記方法において、治療剤は、爪下腔において、及び好ましくはさらに治療空間において、治療剤の最小発育阻止濃度を確保する量で医薬組成物中に存在することに注目すべきである。最も典型的には、治療剤は、爪下腔と、爪下腔を超えて延在する治療空間において、治療剤の最小発育阻止濃度を確保する量で医薬組成物中に存在する。固体のインプラントを用いる場合、治療空間にアクセスしようとすると出血と外傷を伴ったことから、高濃度液体製剤の使用は特に望ましい。対照的に、高濃度液体製剤は爪下腔内の至る所に分配することができ、MICで治療空間に活性成分を拡散させることができる。
【0019】
発明の主題を制限するものではないが、液体医薬組成物を爪下に投与するステップが、爪甲と爪床の間にカニューレを非外傷的に挿入するステップと、カニューレを通して液体医薬組成物を投与するもう一つのステップとを含むのが通常は好ましい。必須ではないが、好ましくは上記カニューレが、カニューレの遠位部に横穴を少なくとも一つ有する鈍端カニューレである。さらに、爪下腔は、爪甲が爪床から部分的に剥がれた(爪甲離床症)、真菌に感染している領域であって、治療剤が抗真菌剤である領域を典型的には含むことには注目すべきである。しかし、液体医薬組成物が感染領域に直接届けられることは必須ではなく、液体医薬組成物が移行と拡散の作用によって感染領域に受動的に移動してもよい点に注目すべきである。有利にも、液体医薬組成物を投与するステップは、更に爪床と爪甲における治療剤の最小治療濃度を確保する。さらに有利な態様では、本明細書で企図される組成物は、MICをはるかに超える濃度の抗真菌剤を有し、そのため、より長期間の抗真菌保護を提供し、場合によっては、休眠胞子に対してさえ毒性であることは認識されるはずである。
【0020】
実施形態の一部においては、疎水性溶媒が、ジメチルスルホキシド(DMSO)又はジメチルホルムアミド(DMF)と比較して、体循環への治療剤の吸収率を減少させ、爪床とその表面への治療剤のアベイラビリティを増加させる。最も典型的には、10~100μLの液体医薬組成物が爪下腔に注射される。大部分の実施形態において、鈍端カニューレによる穏やかな、非外傷性の機械的に突き刺す動作によって、皮膚糸状菌によって産生される多孔性多糖類マトリックスに侵入し、液体状態によって多孔性マトリックス、及び高分子被膜形成剤を通した横方向の流動が可能となること、及び/又は液体医薬組成物の粘性によって、典型的には過度な発現が起こったり、爪下腔から失われたりすることなく、爪下腔内の横方向の流れが可能となることは認識されるはずである。したがって、例示的な液体医薬組成物の粘度によって、爪下腔で液体医薬組成物の投与された体積の80%以上の保持が可能となる点は注目すべきである。
【0021】
最も好ましくは、疎水性溶媒はイソステアリン酸、ベンジルアルコール、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、及び/又はミリスチン酸イソプロピルであり、好適な親水性溶媒はジメチルイソソルビド、プロピレンカーボネート、及び/又は乳酸であり、高分子被膜形成剤は置換セルロース(例えば、エチルセルロース)であるか、及び/又は治療剤は、アリルアミン抗真菌剤、モルホリン抗真菌剤、ポリエン抗真菌剤、及び/又はアゾール抗真菌剤等の抗真菌剤である。
【0022】
発明の主題のさらに別の態様では、本発明者らは、疎水性溶媒、任意の親水性溶媒、任意の高分子被膜形成剤、及び抗真菌剤を含む薬学的に許容される担体を含有する液体医薬組成物を爪下に投与するステップを含む、爪真菌症を治療する方法をも企図している。抗真菌剤は、好ましくは薬学的に許容される担体中に溶解されて10重量%以上の濃度で存在し、医薬組成物は粘度が約500~2,500cP(mPa・s)である。最も典型的には、抗真菌剤は、爪下腔と、爪下腔を超えて延在する治療空間において、抗真菌剤の最小発育阻止濃度を確保する量で医薬組成物中に存在する。
【0023】
上述した通り、疎水性溶媒はイソステアリン酸、ベンジルアルコール、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、及び/又はミリスチン酸イソプロピルであってもよく、好適な親水性溶媒はジメチルイソソルビド、プロピレンカーボネート、及び/又は乳酸であってもよいこと、高分子被膜形成剤は置換セルロースであること、及び/又は抗真菌剤は、アリルアミン抗真菌剤(最も好ましくはテルビナフィン)、モルホリン抗真菌剤、ポリエン抗真菌剤、及び/又はアゾール抗真菌剤等の抗真菌剤であることが企図されている。
【0024】
実施形態の一部においては、組成物を25℃、相対湿度60%で保存した場合に抗真菌剤が20重量%以上の濃度で存在し、少なくとも4週間安定であるか、又は組成物を25℃相対湿度60%で保存した場合に抗真菌剤が40重量%以上の濃度で存在し、少なくとも4週間安定である。さらに、組成物を5℃で保存した場合、組成物は少なくとも4週間均一で流動可能な形態で安定なままである。他の実施形態において、組成物の濃度は約750~1,500cP(mPa・s)である。例えば、疎水性溶媒はミリスチン酸イソプロピル及び/又はアジピン酸ジイソプロピル、及び任意のベンジルアルコールを含有してもよく、抗真菌剤はテルビナフィン遊離塩基である。
【0025】
したがって、本発明者らは、爪甲と爪床との間にある多糖類マトリックス内に液体医薬組成物を爪下投与するステップを含む、皮膚糸状菌症の治療方法もまた企図している。その方法においては、液体医薬組成物は、疎水性溶媒、任意の親水性溶媒、高分子被膜形成剤、及び抗真菌剤を含み、抗真菌剤は薬学的に許容される担体に溶解し、20重量%以上の濃度で存在しており、医薬組成物の粘度は約500~2,500cP(mPa・s)である。
【0026】
最も典型的には、疎水性溶媒はベンジルアルコール、イソステアリン酸、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、及び/又はミリスチン酸イソプロピルであってもよく、親水性溶媒は任意であって、ジメチルイソソルビド、プロピレンカーボネート、及び/又は乳酸を含み、高分子被膜形成剤は置換セルロースを含み、及び/又は抗真菌剤は、アリルアミン抗真菌剤、モルホリン抗真菌剤、ポリエン抗真菌剤、又はアゾール抗真菌剤である。上記方法においては、組成物を25℃、相対湿度60%で保存した場合、抗真菌剤が40重量%以上の濃度で存在し、少なくとも4週間安定であってもよく、及び/又は組成物の濃度が約750~1,500cP(mPa・s)であってもよい。例えば、好ましい疎水性溶媒は、イソステアリン酸、ミリスチン酸イソプロピル、及び/又はアジピン酸ジイソプロピル、並びに任意のベンジルアルコールを含有してもよく、抗真菌剤はテルビナフィン遊離塩基である。
【0027】
発明の主題のさらに別の態様においては、爪真菌症の患部の視認可能な近位端に接触する必要がない場所に挿入されるカニューレを通して液体医薬組成物を爪下に投与するステップであって、液体組成物が爪真菌症の患部の視認可能な近位端に移動する、爪真菌症を治療する方法を本発明者らは企図している。最も典型的には、疎水性(そして、場合によっては親水性の)溶媒、高分子被膜形成剤、及び疎水性/親水性溶媒混合物に溶解した抗真菌剤を含む薬学的に許容される担体を含有し、医薬組成物の粘度が約500~2,500cP(mPa・s)である。爪下に投与する際には、次に液体医薬組成物を、上記場所から、少なくとも爪真菌症の患部の視認可能な近位端に移動させる。最も典型的には、抗真菌剤は、爪下腔と、爪下腔を超えて延在する治療空間において、抗真菌剤の最小発育阻止濃度を確保する量で医薬組成物中に存在する。
【0028】
例えば、(カニューレの)上記場所は、爪真菌症の患部の視認可能な近位端から少なくとも1mm又は少なくとも3mm離れている。さらに、爪下投与が、鈍端カニューレを通して液体医薬組成物を送達するステップを用いることが通常好ましい。
【0029】
さらにもう一つの視点から見ると、本発明者らは、爪下腔へ液体医薬組成物を爪下投与するステップを含む、爪下腔に抗真菌剤を含有する液体医薬組成物を保持する方法をも企図している。最も典型的には、液体医薬組成物は、疎水性溶媒、高分子被膜形成剤を少なくとも含む薬学的に許容される担体を含有し、抗真菌剤は薬学的に許容される担体に溶解している。最も典型的には、液体医薬組成物の粘度は約750~1,500cP(mPa・s)、又は約500~2,500cP(mPa・s)である。
【0030】
必須ではないが、好ましくは、投与された体積の80%以上、又は90%以上は爪下腔の中で保持される。上記したように、好ましい疎水性溶媒はベンジルアルコール、イソステアリン酸、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、及びミリスチン酸イソプロピルを含み、一方、親水性溶媒が任意成分であって、ジメチルイソソルビド、プロピレンカーボネート、及び/又は乳酸であってもよく、好ましい高分子被膜形成剤は置換セルロース(例えば、エチルセルロース)を含有する。大部分の実施形態において、抗真菌剤はアリルアミン抗真菌剤(例えば、テルビナフィン)、モルホリン抗真菌剤、ポリエン抗真菌剤、及び/又はアゾール抗真菌剤である。有利にも、組成物を25℃、相対湿度60%で保存した場合、抗真菌剤は20重量%以上、又は30重量%以上、又は40重量%以上で存在し、少なくとも4週間は安定である。なお更に好ましい側面においては、抗真菌剤は室温以下(例えば、4~5℃)の冷凍下で安定である。
【0031】
様々な物、特徴、態様、及び利点は、添付の図面と共に、好ましい実施形態の以下のより詳細な説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】爪真菌症に罹患した足の爪の一例の写真である。
【0033】
図2】異種の投与様式ごとのテルビナフィン濃度を描写したグラフである。
【0034】
図3】テルビナフィン血漿中濃度対ハンフォードのミニブタに対し約4.2mg/kgのテルビナフィンを皮膚に直接適用する単剤局所投与を行った後の時間の関係を描いたグラフである。
【0035】
図4】テルビナフィン血漿中濃度対ハンフォードのミニブタに対し約4.2mg/kgのテルビナフィンをヒルトップチャンバに適用する単剤局所投与を行った後の時間の関係を描いたグラフである。
【0036】
図5】テルビナフィン血漿中濃度対ハンフォードのミニブタに対し約42mg/kgのテルビナフィンを皮膚に直接適用する(10カ所の適用部位)単剤局所投与を行った後の時間の関係を描いたグラフである。
【0037】
図6】テルビナフィン血漿中濃度対ハンフォードのミニブタに対し約42mg/kgのテルビナフィンをヒルトップチャンバに適用する(10カ所の適用箇所)単剤局所投与を行った後の時間の関係を描いたグラフである。
【0038】
図7】テルビナフィン血漿中濃度対ハンフォードのミニブタに対し約4.2mg/kg又は約42mg/kgのテルビナフィンの直接皮膚に適用する単剤局所投与を行った後の時間の関係を描いたグラフである。
【0039】
図8】テルビナフィン血漿中濃度対ハンフォードのミニブタに対し約4.2mg/kg又は約42mg/kgのテルビナフィンをヒルトップチャンバに適用する単剤局所投与を行った後の時間の関係を描いたグラフである。
【発明の詳細な説明】
【0040】
本発明者らは、薬学的に許容される担体内で抗真菌剤の高い濃度が達成できる、爪下投与のための液体医薬組成物を発見した。企図された担体は、疎水性溶媒、任意の親水性溶媒、及び任意の高分子被膜形成剤を含み、医薬組成物は小口径のカニューレを介して爪下腔への標的化された送達を可能とするのみならず、典型的には移動、毛管作用、及び/又は表面張力を介して、爪下腔を通して液体医薬組成物の側方、近位、遠位への受動的な分配をも可能にする粘度を有している。有利にも、本開示において提示される組成物は、患者の循環系への体内吸収を避けつつ、MIC以上の濃度で爪甲へ抗真菌剤が拡散することも可能とする。さらに、本開示において提示される組成物は、皮膚糸状菌症の多糖類マトリックス内へ、及び多糖類マトリックスを通して医薬組成物が分布されることを可能にし、したがって爪真菌症及び皮膚糸状菌症の治療にも好適である。この文脈において、上記医薬組成物は単剤療法(すなわち、第2の薬剤を含まない)として有効であるが、その組成物は追加の治療剤を含むことができる点に留意すべきである。
【0041】
本開示で使用される通り、「爪下腔」という用語は、爪床と爪甲の間に存在し、爪真菌症に罹患したヒトの体内での真菌増殖の結果である、既存の空隙をいうものと認識することが重要である。異なる視点から見ると、爪下腔は、空の場合もあり、また角質、コラーゲン及び/又は真菌物質(例えば多糖類マトリックス)由来のデブリを含む場合もある、隣接する開放空間と考えてもよい。したがって、爪下腔は、典型的には爪器官のかなりの部分にわたることもあり、現在の、及び/又は過去の真菌の増殖と共存している領域を更に含むこともある可変の空間である。このように、薬剤投与の観点からは、爪下腔とは、アクセスする際に爪甲及び爪床への損傷や分離なしで爪器官の外側の場所からアクセス可能な空間である。例えば、本開示で企図されている組成物の投与は、点状の出血や爪甲/爪床間の分離を生じることなく、小さなゲージの鈍端カニューレで行うことができる。
【0042】
したがって、治療空間もまた爪下腔の外側にあるものの、(例えば、拡散を通して)好ましくは活性成分の少なくともMIC(最小発育阻止濃度)である量で活性成分が存在する領域を含む、という点で「爪下腔」という用語は「治療空間」という用語とは区別される。したがって、ほとんどの場合において治療空間は、爪下腔よりも広く、治療組成物に直接接触していない領域を含む。例えば、治療空間は、拡散や爪の成長により活性成分が存在する空間を典型的に含む。例えば、高度に濃縮されたテルビナフィン溶液が爪下の空間に非外傷的に投与された場合、治療空間は、テルビナフィンが少なくともMICで存在する爪下の空間に隣接する空間と、テルビナフィンが拡散された爪甲の一部とを含む。特に、爪が遠位側に成長することから、爪甲の領域は治療空間を絶えず拡大する可能性がある。
【0043】
本開示で企図されている組成物と組み合わせて用いられる「液体」という語に関し、液体という語は、その中に溶解するか、分散するか、又は分配した状態で1以上の他の成分(例えば抗真菌剤)を有する液体成分(典型的には室温で液体である溶媒)を含有する組成物をいう点に留意する。さらに、固体はアモルファス相内で不安定化することもあり、その場合は液体のように見えることもある。したがって、「液体」組成物と「流動性」組成物という用語は、本開示において入れ替え可能に使用される。最も典型的には、本開示において企図される液体は、500~2,500cPの動的粘度を有する。
【0044】
したがって、企図されている組成物と方法によって、真菌性爪床全体を治療上カバーすることができ、それにより(線形成長と同時に)新しい、疾患のない爪甲とその下の爪床によって真菌性組織が入れ替わるように、増殖性及び非増殖性胞子が根絶されることが理解されるはずである。活性成分(好ましくはテルビナフィン)の濃度が比較的高いことにより、堆積部位から爪床の隆起部と洞部を通って近位に広がることができる貯留部が作られる。さらに、担体が疎水的な性質を有するために、活性成分は爪甲に素早く吸収され、近位と前面への真菌の侵入を防ぎ得る抗真菌性バリアを形成する。担体の疎水的な性質によって活性成分の全身吸収が減少すると同時に、爪甲内へ活性成分の分配を促進することもまた認識されるはずである。そのうえ、企図されている処方物は、爪下腔内の流体の分配と、小口径のカニューレ(例えば、鈍端30ゲージカニューレ)を通して処方物を注入する能力とを両立する粘度を有することにより、爪甲の更なる浮き上がり(爪甲剥離症)を防ぐか、或いは顕著に減少させる。そのようなカニューレもまた、爪床上皮への外傷又は損傷を伴うことなく真菌性爪床の空間の中心に活性成分を到達させることができるのに十分な程度に先端が鈍く、また医者が側縁部などの、処置が難しい真菌の塊(皮膚糸状菌症)の差し込み口(エントリーポイント)を処置するのに充分な程度に精密である。異なる視点から見ると、企図されている処方物の好適な粘性は、治療効果のために必要な多くの条件を並立する。液体組成物を治療量で爪下腔に保持すると共に、漏出による損失なしに(例えば、つま先の運動による毛管作用及び/又は機械的な力を介して)爪下腔全体に液体処方物を投与し、受動的に分配させることができる。最も好ましくは、そのような投与は、外傷を防止するサイズの鈍端カニューレを使って行われる。
【0045】
したがって、爪真菌症の治療用の、企図されているテルビナフィン(又は他の抗真菌性)液体処方物が、非常に高い局所的薬物濃度で、(及び/又はさらに必要に応じて)爪床の表面上に局所的に送達することができるテルビナフィンの流動性液体形態を目指していることは理解されるはずである。濃縮された粘性の液体処方物は、好ましくは小口径のカニューレを通して送達され、疾患によって作られた爪下の空間を実質的に充填することによって、疾患領域の、到達するのが難しい境界へと移動させられる。この文脈において、薬剤の移動は主に液体の流れの作用によるものであって、組織への薬剤の拡散にはあまり依存していない点に留意すべきである。患者が歩行し、足指に圧力を与えることで爪ユニット内に周期的な圧力パルスが生じ、その結果として起こるポンプ作用からもまた薬剤輸送は恩恵を受ける。小口径のカニューレは、爪下腔で皮膚糸状菌によって作られるデブリを透過する効果的なツールでもある。爪において見た目の悪い黄色の鋭尖部を生じさせる真菌性疾患の一形態である皮膚糸状菌症は、真菌によって形成される多糖類マトリックスが原因で生じるものであり、薬剤が浸透しにくいために治療するのが難しいことが知られている。特に、疾患性マトリックスを通してカニューレを挿入し、疾患領域の中央の場所へ液体薬剤を配置することが効果的な送達方法であることが示された。
【0046】
特に、患部への局所的な送達と活性抗真菌剤(好ましくはテルビナフィン)の保持は、薬の体内吸収に依存していないことが認識されるはずである。実際に、疎水性溶媒を使用することにより、活性抗真菌剤(好ましくはテルビナフィン)が爪床の毛細管系に分配されないようになる。このように、経口薬剤投与と関連する肝毒性の危険性を伴うことなく、局所的な爪下投与方法によって非常に高い局所的薬物濃度が成し遂げられる。
【0047】
テルビナフィンは最も一般的には塩酸塩として提供され、それは結晶性の高融点固体である。より融点が低い結晶性固体である、テルビナフィンの遊離塩基の形態も知られている。テルビナフィンの液体状態は、溶媒中に固体を溶解させることによって調製できる。しかしながら、達成可能な濃度は、溶解度、及び使用される溶媒の薬学的受容性によって制限される。高い薬剤濃度を達成するためにより有用であるのは、室温では液体である不定形のテルビナフィンである。したがって、熱力学的には好ましい結晶性固体の形成を妨げるように設計された適切な結晶化抑制剤を特定することによって不定形のテルビナフィンが調製されてもよい。しかしながら、低融点の遊離塩基の形態は、液体の状態で物質を安定させるのにより適しており、さらに、塩の形である対イオンに関わる材料重量がない点でメリットがある。
【0048】
例えば、特に企図されている一つの液体医薬組成物は、疎水性溶媒、任意の親水性溶媒、高分子被膜形成剤、及び抗真菌剤を含む薬学的に許容される担体を含有し、抗真菌剤は薬学的に許容される担体内で安定化され、又は溶解され、10重量%以上の濃度、又は20重量%以上の濃度、又は40重量%以上の濃度で存在しており、医薬組成物の粘度は約500~2,500cP(mPa・s)である。好ましい実施形態において、疎水性溶媒は、アジピン酸ジイソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、イソステアリン酸、及びベンジルアルコールを共溶媒として含有し、エチルセルロースを高分子被膜形成剤として含有し、40重量%以上のテルビナフィンを抗真菌剤として含有する。したがって、医薬組成物の粘度は、概ね750~1,500cP(mPa・s)であってもよい。
【0049】
好適な疎水性溶媒に関して、様々な溶媒、溶媒系、及び結晶化阻害剤もまた適切であると考えられることに留意すべきであり、また特に企図された疎水性溶媒と共溶媒にはベンジルアルコール、イソステアリン酸、イソステアリルアルコール、シンナミルアルコール、安息香酸ベンジル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、及び/又はミリスチン酸イソプロピルが含まれる。また更に企図されている疎水性溶媒には、様々なアルカン、アルカノール、ジアルキルエーテル、シクロアルカン、様々な飽和及び不飽和脂肪酸(オレイン酸、リノール酸等)、エステル(オレイン酸オレイル)、モノグリセリド(グリセロールモノオレート)、ジグリセリド、トリグリセリド、天然油及び合成油(胡麻油、大豆油、落花生油、トウモロコシ油、オリーブ油、植物油等)等が含まれる。例えば、代替的な溶媒と共溶媒には、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、1,4-ジオキサン、ヒマシ油等が含まれる。さらに企図された実施形態において、特に疎水性溶媒と混和性がある親水性溶媒が使用される場合には、上記のような親水性溶媒は、上記担体に含まれることができる。疎水相と親水相における二重の混和性を有する、特に企図されている親水性溶媒には、2-ピロリドン、N-メチルピロリドン、ジメチルイソソルビド、プロピレンカーボネート、及びD,L-乳酸が含まれる。さらに企図される態様では、テルビナフィン遊離塩基は、溶媒中に溶解した固体又は液体の酸の溶液に溶解する。無機酸にはリン酸と塩酸とが含まれ、有機酸にはD-及び/又はL-乳酸、リンゴ酸、マレイン酸、マロン酸、フマル酸、酒石酸、コハク酸、クエン酸、酢酸、アスコルビン酸、及びプロピオン酸が含まれる。酸を溶解する溶媒には、エタノール、イソプロパノール、アセトン、ベンジルアルコール、及びアセトフェノンが含まれる。
【0050】
この点について、好ましい溶媒、溶媒系、及び結晶化阻害剤(例えば、溶媒又は阻害剤の混合物として、典型的には単一相の混合物の状態の、2種以上の溶媒を有するもの)が、15重量%以上、又は20重量%以上、又は25重量%以上、又は30重量%以上、又は35重量%以上、又は40重量%以上、又は45重量%以上の濃度で、(特にテルビナフィン塩又はテルビナフィン遊離塩基である)活性成分の沈殿物を溶解するか、沈殿を防止することが認識されるはずである。例えば、疎水性溶媒中の好適な活性成分(例えば、テルビナフィン)の濃度は10~15重量%、又は15~20重量%、又は20~25重量%、又は25~30重量%、又は30~35重量%、又は35~40重量%、又は40~45重量%、又は45~50重量%、又はさらにより高い濃度である。このように、テルビナフィン濃度は、15~30重量%、又は25~40重量%であってもよく、特に40重量%、又は41重量%、又は42重量%、又は43重量%、又は44重量%、又は45重量%であってもよい。
【0051】
さらに、組成物を25℃、相対湿度60%で保存した場合に、このように溶解した又は液体化された活性成分が長期間、例えば少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも8週間、又は少なくとも12週間、又は少なくとも6ヵ月間、又は少なくとも1年間、流動可能な物理的形態において安定な(すなわち沈殿しない)ままであるのが好ましい。最も好ましくは、長期間(例えば、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも8週間、又は少なくとも12週間、又は少なくとも6ヵ月間、又は少なくとも1年間)に渡って、たとえ低温(例えば、4~5℃)で保存されるときでも、抗真菌剤は使用された濃度で安定である。
【0052】
テルビナフィンに関して、テルビナフィンは最も一般的には塩酸塩として提供され、それは結晶性の高融点固体であることもまた企図されている。より融点が低い結晶性固体である、テルビナフィンの遊離塩基の形態も知られている。テルビナフィンの液体状態は、溶媒中に上記固体を溶解させることによって調製できる。しかしながら、達成可能な濃度は、溶解度、及び使用される溶媒の薬学的受容性によって制限される。室温では液体である不定形のテルビナフィンは、高い薬剤濃度を達成するためにより有用である。熱力学的には好ましい結晶性固体の形成を妨げるように設計された適切な結晶化抑制剤を特定することによって不定形のテルビナフィンが調製されてもよい。低融点の遊離塩基の形態は、液体の状態で物質を安定させるのにより適しており、さらに、塩の形態である対イオンに関わる材料重量がない点でメリットがある。異なる視点から見ると、テルビナフィンが、沈殿又は結晶化がなく過飽和の形態で存在するテルビナフィン処方物を調製することができる。
【0053】
当然ながら、テルビナフィンが特に好ましい抗真菌剤であるものの、様々な他の抗真菌剤又は治療剤もまた本開示において使用するのに適切であると考えられることも理解されるべきであり、特に企図されている代替的な抗真菌剤には、様々なアリルアミン抗真菌剤(例えば、ナフチフィン、トルナフテート)、モルホリン抗真菌剤(例えば、アモロルフィン)、ポリエン抗真菌剤(例えば、アムホテリシンB、ナイスタチン、ナタマイシン、リモシジン、カンディシン)、及び/又はアゾール抗真菌剤(例えば、クロトリマゾール、ミコナゾール、ケトコナゾール、イトラコナゾール、フルコナゾール)が含まれる。最も典型的には、企図されている液体医薬組成物の薬剤濃度は、10重量%以上であり、より典型的には15重量%以上であり、又は20重量%以上であり、又は25重量%以上であり、又は30重量%以上であり、又は35重量%以上、又は40重量%以上であり、又はそれより高い場合さえある。例えば、疎水性溶媒中の企図される代替的な抗真菌剤の濃度は5~10重量%、10~15重量%、又は15~20重量%、又は20~25重量%、又は25~30重量%、又は30~35重量%、又は35~40重量%、又は40~45重量%、又は45~50重量%、又はさらにより高い濃度である。このように、テルビナフィン濃度は、15~30重量%、又は25~40重量%であってもよく、特に40重量%、又は41重量%、又は42重量%、又は43重量%、又は44重量%、又は45重量%であってもよい。
【0054】
有利にも、そのような高濃度でさえ、液体医薬組成物の疎水的な性質のために体内吸収が典型的には減少するか、完全に回避される。したがって、全身及び/又は肝臓への副作用が実質的に排除される。さらに、テルビナフィンと他の代替的な薬剤がそのような高濃度であれば殺菌効果が顕著であり、爪真菌の胞子の形態に対してさえ有効である。実際に、企図されている処方物を使用して、爪甲と爪床の胞子を死滅させるために必要なMICの何倍もの濃度が達成できることが示されている。
【0055】
好適な高分子被膜形成剤には特に線状高分子被膜形成剤が含まれ、その線状高分子被膜形成剤は重合体又は共重合体の骨格を有していてもよい。例えば、好適な線状高分子被膜形成剤は、適切な置換基を有する炭水化物又はポリエチレン骨格に基づくものであってもよく、またポリビニルピロリドン骨格に基づくものであってもよい。同様に、好適な被膜形成剤にもまた、様々なアクリレート、アクリルアミド等が含まれる。最も好ましくは、高分子被膜形成剤は疎水性溶媒に可溶であり、それ自体で疎水性の被膜形成剤でもある。さらに、被膜形成剤は活性成分の物理的安定性に干渉(例えば、活性成分の沈殿及び結晶化を防止)することもでき、それにより、冷蔵時の温度などの、全ての企図された保存温度において均一な流動性のある物理的形状が提供される。したがって、企図されている被膜形成剤には、アルキルセルロース(特にエチルセルロース)、ヒドロキシアルキルセルロース(特にヒドロキシプロピルセルロース)、様々な形態のカルボマー(架橋アクリル酸)及びグリコール等が含まれる異なる視点から見ると、好ましい被膜形成剤には特に、所望の粘性を達成するために必要な濃度で疎水性担体に溶解する、低極性被膜形成剤が含まれる。代替的な被膜形成剤には、クエン酸トリエチル、トリアセチン、クエン酸トリメチル、クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、乳酸エチル、脂肪酸(ラウリン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、カプリン酸、カプリル酸)、脂肪酸エステル(モノ-又はジ-ステアリン酸グリセリル、モノオレイン酸グリセリル)、アルキルアルコール(ステアリルアルコール、セトステアリルアルコール)及びエーテル(セトステアリルエーテル)が含まれ得る。
【0056】
特に好ましい態様において、疎水性溶媒と被膜形成剤は、得られる液体医薬組成物の粘度が、小口径のカニューレ、典型的には少なくとも25個のゲージ、より好ましくは27個のゲージ、さらにより好ましくは30個のゲージ(又はさらに少ない)を介して爪下投与できる粘度となるように配合される。さらに、上記粘度もまた十分に高いために、爪下腔の中に投与された体積が保持されて、液体医薬組成物の投与された体積の50%以上、又は60%以上、又は70%以上、又は80%以上、又は90%以上、又は95%以上が、通常の日常的な活動の際に排出されたり放出されたりすることなく爪下腔の中に残る。さらに、好ましい被膜形成剤は、典型的には毛管作用、ウイッキング、及び/又は表面張力による、実質的に爪下腔全体に渡る処方物の分配を促進する。なお更に別の企図される態様では、被膜形成剤は皮膚糸状菌症の爪床と爪甲の間にある多糖類マトリックスを通した処方物の浸透も促進する。有利にも、そのような浸透によって過去に治療不能であるとされた領域の治療が可能となる。
【0057】
したがって、実施形態の一部においては、被膜形成剤は、カニューレを介した投与及び爪下腔での保持に適した粘度になるような量で処方物に添加される。例えば、企図されている粘度は、500~700cP(mPa・s)、又は700~900cP(mPa・s)、又は800~1,200cP(mPa・s)、又は、1,000~1,500cP(mPa・s)、又は1,200~1,800cP(mPa・s)、又は1,500~2,000cP(mPa・s)、又は1,800~2,200cP(mPa・s)、又は2,000~5,500cP(mPa・s)、又は2,500~4,000cP(mPa・s)であり、場合によってはより高い時さえある。このように、企図されている粘度は、典型的には3,000cP未満であるか、2,500cP未満であるか、2,000cP未満であるか、1,800cP未満であるか、1,500cP未満であるか、1,000cP未満である。他の実施形態において、企図されている粘度は、500cP以上、又は600cP以上、又は700cP以上、又は800cP以上、又は900cP以上、又は1,000cP以上である。
【0058】
したがって、最も注目すべきことに、疎水性溶媒と高分子被膜形成剤の組み合せは、爪下腔の中で液体医薬組成物を保持しつつ、爪下腔への投与の際、又は投与の後、爪下腔の中での側方、近位、遠位の動きを促進すると認識されるはずである。さらに、特定の組成によって、液体医薬組成物もまた、真菌感染と関係していることが多い多糖類マトリックス内に浸透し、かつ多糖類マトリックスを通り抜ける。したがって、企図されている処方物の投与は、患部の最先端まで必ずしも行う必要があるというわけではなく、端部から幾分離れた(例えば、少なくとも1mm離れた、又は少なくとも2mm離れた、又は少なくとも3mm離れた、又は少なくとも5mm先離れた)場所に行ってもよい。
【0059】
その上、溶媒の好適な選択の際、活性薬剤の濃度は、爪下腔においてだけでなく、爪下腔内の感染領域に隣接し、感染領域から延在している治療領域全体においてもMICを達成するのに充分高い量で選択することができる。実際に、液体医薬組成物の疎水的な性質のために、活性成分(特にテルビナフィン)は爪甲と爪床に拡散することができ、治療的に効果のある濃度(例えば、MICの1倍以上、又はMICの2倍以上、MICの5倍以上、又はMICの10倍以上)で、爪甲及び/又は爪床に存在する。このように、治療的な効果(例えば、真菌の死滅、及び多くの場合においてはさらに胞子の死滅)が爪下腔だけでなく、それよりもかなり大きな治療空間においても達成できることが理解されるはずである。このように、治療空間は爪下腔の105%以上、又は110%以上で、又は115%以上、又は120%以上、又は125%以上、又は少なくとも130%、又はさらにそれ以上であると企図される。さらに、そのような処方物における疎水性溶媒の企図されている処方及び使用におけるテルビナフィンの非常に高い(体循環よりもむしろ爪甲に優先的にテルビナフィンを分配できる)濃度により、爪下腔及び治療空間において、抗真菌効果を発揮するためのMICが少なくとも1~3日間、又は少なくとも3~7日間、又は少なくとも14日間、又は少なくとも30日間、又は少なくとも60日間、又は少なくとも90日間、又はさらにより長く維持できることが理解されるはずである。
【0060】
したがって、かつ異なる視点から見ると、爪下及び/又は治療空間におけるテルビナフィン濃度は、100μL以下の体積、又は90μL以下の体積、又は80μL以下の体積、又は70μL以下の体積、又は50μL以下の体積、又は40μL以下の体積、又は30μL以下の体積、又は20μL以下の体積、又は10μL以下の体積の液体処方物の単剤投与の際、少なくとも7日にわたって、又は少なくとも14日にわたって、又は少なくとも30日にわたってMIC以上の濃度を維持することができる。
【0061】
とりわけ、治療効果の増加は、高濃度の抗真菌剤(例えば、テルビナフィン)、高濃度での爪下腔における抗真菌剤(例えば、テルビナフィン)の運動性および保持、及び疎水性溶媒から爪甲への抗真菌剤(例えば、テルビナフィン)の拡散により、爪甲において治療上有効な濃度が達成されることによってもたらされるものと考えられている。爪甲が爪の成長の間に遠位に進むにつれて、爪甲内で拡散されて保持された抗真菌剤(例えば、テルビナフィン)は、真菌の増殖と再確立に対する効果的なバリアをもたらし、最終的に、成長を通して疾患のある爪甲が健康な爪甲に置き換えられる。
【0062】
すぐに理解されるように、企図された薬学的に許容される担体は、酸化防止剤及び/又は希釈剤のような添加剤、及び必要に応じて顔料、染料、及び蛍光剤などの、視覚化を助ける非機能剤を含んでもよい。所望であれば、沈殿や結晶化を相殺する安定剤を含んでもよいが、しかしながらある実施形態においては、標準条件(25℃、相対湿度60%)で保存される場合に、少なくとも4週間、又は少なくとも8週間、又は少なくとも12週間、又は少なくとも6ヵ月間、又は少なくとも9ヵ月間、又は少なくとも12ヵ月間、非常に高い濃度で、流動可能な物理的形態で安定であることは理解されるはずである。さらに、休眠胞子の根絶が望まれる場合、シクロピロックスオラミンのような添加剤を企図されている処方物に添加することができる。
【0063】
したがって、及び異なる視点から見ると、本発明の主題の実施形態は、疎水性溶媒、高分子被膜形成剤、及び抗真菌剤を含む薬学的に許容される担体を、組成物の20重量%以上、又は25重量%以上、又は30重量%以上、又は35重量%以上、又は40重量%以上の濃度で含有する高用量抗真菌性液体医薬組成物にも向けられる。最も典型的には、上記組成物を25℃、相対湿度60%で保存した場合、抗真菌剤が薬学的に許容される担体において流動可能な物理的形態で維持され、少なくとも4週間安定であり、組成物の濃度が約500~2,500cP(mPa・s)である。上述した通り、上記処方物の安定性が4週以上にまで延長され得ることも理解されるべきであり、組成物を25℃、相対湿度60%で保存した場合、典型的な安定期間は少なくとも8週、少なくとも12週、少なくとも6ヵ月、少なくとも9ヵ月、及び少なくとも1年であるか、さらに長い場合もある。疎水性溶媒、親水性溶媒、高分子被膜形成剤、及び抗真菌剤に関し上記と同じ考慮点が適用される。
【0064】
さらに、本開示において提案される処方物は、長期間爪下腔で処方物が保持されるよう望まれる、あらゆる薬剤の爪下投与のビヒクルとして概して好適であることには注目すべきである。最も典型的には、処方物の50%以上、又は60%以上、又は70%以上、又は80%以上、又は90%以上、又は92%以上、又は95%以上が、少なくとも1日、又は少なくとも3日、又は少なくとも1週、又は少なくとも2週、又は少なくとも3週、又は少なくとも4週、又は少なくとも2ヵ月、又はさらにより長い期間にわたって保持される。
【0065】
したがって、上記観点から、企図された用途には特に哺乳動物への爪下投与の様々な方法が含まれると認識されるはずである。そのような方法では、本開示で提示される液体医薬組成物が、爪甲と爪床との間に位置する空間に、典型的には爪下皮を通して、又は爪下皮を越えて爪下腔に挿入されるカニューレからの直接の投与を通して、爪下投与される。この文脈において、液体組成物が流動可能で、患部に(例えば、通常の日常的な活動の間の加圧と圧力解放によって)受動的に移動することができることから、液体医薬組成物の投与が、患部又は感染の境界と最初に直接接触することを必須としないことも認識されるはずである。典型的には、カニューレを通した投与では、爪下皮を介したカニューレの挿入と、爪甲と爪床の間の爪下空間へのカニューレの進入を必要とする。最も好ましくは、上記カニューレは、カニューレの遠位部に1つ又は2つの横穴を備えた鈍端カニューレ(例えば、25ゲージ、28ゲージ、30ゲージ)である。さらに、液体医薬組成物が爪床と爪甲の間の空隙の50%以上、又は60%以上、又は70%以上、又は80%以上、又は90%以上、又は95%以上を満たすように投与されるのも好ましい。所望であれば、投与は側方の爪郭への局所投与も含まれ得る。真菌が豊富に存在する爪床と爪甲の間の開放空間に投与を行ってもよい。
【0066】
カニューレにより直接アクセスするのが難しい爪下の空間の領域へ進入することができる液体として処方物が投与されるので、爪下の空間に外傷なく投与することができる(すなわち、出血、及び/又は爪甲の浮き上がり、又は爪甲と爪床の分離には至らない)。その結果、治療の快適さとアドヒアランスが大幅に向上し、麻酔薬を必要としない。
【0067】
したがって、企図されている方法は、液体医薬組成物が爪下に投与される爪真菌症の治療に特に好適である。最も典型的には、液体医薬組成物は、疎水性溶媒、任意の親水性溶媒、高分子被膜形成剤、及び抗真菌剤を含む薬学的に許容される担体を含有し、抗真菌剤は薬学的に許容される担体に流動可能な物理的形態のままで維持され、10重量%以上(例えば20重量%以上、又は30重量%以上、又は40重量%以上)の濃度で存在する。上述したとおり、医薬組成物は、粘度が約500~2,500cP(mPa・s)であるのが概してさらに好ましい。同様に、多糖類マトリックス内への、及び多糖類マトリックスを通る浸透の強化の観点から、本発明者らはさらに、爪甲を除去することなく爪床と爪甲の間に位置する多糖類マトリックスへ液体医薬組成物を爪下投与する、(爪の除去なしでは治療が難しい、又は治療不能であるとこれまで考えられている)皮膚糸状菌症を治療する方法をも企図している。最も典型的には、抗真菌剤は、薬学的に許容される担体中において流動的な物理的形態のまま維持され、かつ20重量%以上の濃度で存在し、医薬組成物は粘度が約500~2,500cP(mPa・s)である。好適な液体医薬組成物に関して、上記と同じ考慮点が適用される。
【0068】
もう一つの視点から見ると、本発明者らは、爪下腔において抗真菌剤を含む液体医薬組成物を保持する方法をも企図している。この文脈において、医薬組成物の投与だけでなく患部への効果的な浸透と患部での保持(及び理想的には爪甲での保持)が治療の成功率を高めることを理解することは重要である。そのような方法においては、液体医薬組成物は、爪下腔へ爪下投与される。なおこの液体医薬組成物は上述したとおりである。有利にも、処方物の疎水的な性質のために、(例えば、シャワーや入浴による)受動的な流出もまたかなり減少する。テルビナフィン遊離塩基が使用される場合、そのような利点がさらに増幅される。
【0069】
投与の際、投与された量の60%以上、又は70%以上、又は80%以上、又は85%以上、又は90%以上が爪下腔の中で保持されることが典型的には企図されている。最も典型的には、保持は少なくとも6時間、又は少なくとも12時間、又は少なくとも24時間、又は少なくとも2日間、又は少なくとも7日間にわたる。このように、非常に高い濃度の抗真菌剤は、(上記したようにMICよりはるかに高い抗真菌剤濃度を有利に維持する)治療空間の中に局所的に投与されて、保持される。例えば、局部組織(爪床と爪甲)への吸収は、少なくとも1ヵ月、又は少なくとも2ヵ月、又は少なくとも3ヵ月の間、及びさらに長い間、かなり高い、治療的な薬物濃度を提供する。
【0070】
企図されている処方物は爪下腔内に移動して、より大きな治療領域に拡散する能力があることから、本発明者らは、本開示で提示されている液体医薬組成物が、爪真菌症の患部の視認可能な近位端に接触しない場所に爪下投与される、爪真菌症を治療する方法をも企図している。次に、上記液体医薬組成物は、典型的には歩行中の治療領域の加圧/減圧を介して、上記場所から少なくとも爪真菌症の患部の視認可能な近位端に受動的に移動できる。例えば、上記場所は、爪真菌症の患部の視認可能な近位端から少なくとも1mm、又は少なくとも2mm、又は少なくとも3mm、又は少なくとも5mm離れている。そのような受動的な移動は拡散とは同じものでないことは指摘されなければならない。それにも関わらず、爪床への、特に爪甲への液体医薬組成物からの抗真菌剤の拡散もまた特に企図されている。このように、爪甲への二次的な拡散を促進し、抗真菌剤の局所濃度の貯留部を作る賦形剤を含有するテルビナフィンの安定で流動性のある液体形態が特に望ましい。
【0071】
さらに、本開示において提示される組成物が典型的には高い抗真菌性の薬物濃度を有していることから、液体医薬組成物は投与の後少なくとも30日間、より好ましくは少なくとも60日間、さらにより好ましくは少なくとも90日間、抗真菌性の薬物濃度(例えば、MICの1倍以上)を維持するドラッグデリバリーシステムとして作用する。
【0072】
このように、テルビナフィンの流動可能な液体状態を、爪甲の下に、及び爪床の表面に、非常に高い局所濃度で非外傷的に、且つ局所的に送達できることが理解されるはずである。液体薬剤の送達は、好ましくは、爪床/爪板付着部への損傷、ならびに爪の解剖学的構造への他の外傷を回避する、小口径の鈍端カニューレを用いて行われる。濃縮された粘性のある液体薬剤は、カニューレを通して送達され、疾患によって生じた爪下の容積を実質的に満たすことで、到達困難な疾患部位の境界まで移動する。この文脈において、薬剤の移動は主に液体の流れの作用によるものであって、組織を通した薬剤の拡散にはあまり依存していない点に留意すべきである。患者が歩行し、足指に圧力を与えることで爪ユニット内に周期的な圧力パルスが生じ、その結果として起こるポンプ作用からもまた薬剤輸送は恩恵を受ける。小口径のカニューレは、爪下腔で皮膚糸状菌によって作られるデブリを透過する効果的なツールでもあることもまた理解されるはずである。爪において見た目の悪い黄色の鋭尖部を生じさせる真菌性疾患の一形態である皮膚糸状菌症は、真菌によって形成される多糖類マトリックスによって引き起こされるものであり、薬剤が浸透しにくいために治療するのが難しいことが知られている。疾患性マトリックスを通してカニューレを挿入し、患部の中央の場所へ液体薬剤を配置することは、より効果的な送達方法であることが示されている。重要なことに、テルビナフィンの患部への局所送達は、薬の体内吸収に依存しない。局所的な爪下投与方法によって、経口薬剤投与と関連する肝毒性を伴うことなく非常に高い局所的薬物濃度を達成することができる。
【実施例0073】
処方:
【0074】
上記の検討に基づいて、本発明者らは様々な組成物を調製した。例示的な処方を下記の表1に示す。
表1
【0075】
最も注目すべきは、疎水性担体においてテルビナフィンの非常に高い濃度を達成することができたことである。しかしながら、標準条件(25℃、相対湿度60%、保管9ヵ月間)で安定性を示したのは処方物F7及びF8のみであり、一方、処方物F1~F6は最終的に沈殿した。
【0076】
投与:
【0077】
企図されている処方物が爪下腔に送達できるか否かを確かめるために、本発明者らは、爪真菌症であることが確実な何人かの患者に、30ゲージの鈍端カニューレ(例えばTSK STERiGLIDE(TM) Aesthetic Cannula))を用いてアクセスを試験した。図1は、疾患の縁を黒でマークした、爪真菌症に罹患した足の爪の一例を表す。
【0078】
全てのカニューレ挿入に対して以下のプロトコルが用いられた。爪ユニットを調べ、必要に応じてネイルケアを行う(爪の患部が確実に最適に視覚化されるよう、背側の爪甲のファイリングとサンディングを行う)。カリパスを使って爪甲の幅を測定し、2~4本の提案されたカニューレ挿入経路を特定する。提案されたカニューレ挿入経路の各々に沿って爪の患部の長さを測定し、カニューレ挿入経路ごとに、カニューレ挿入の目標深さを測定する(目標挿入深さは患部の爪長の50%である)。イソプロピルアルコール又はポビドンヨードで爪下皮を浄化し、乾かして、30ゲージカニューレに目標深さを記録する。提案されたカニューレ挿入経路に沿ってカニューレを挿入する。提案されたカニューレ挿入経路ごとに印をつけた1つのカニューレを用いる。カニューレの先端が提案されたカニューレ挿入経路の深さの中央点に至るまで、30ゲージのカニューレを進入させる。カニューレ挿入が非外傷性で痛みを伴わなければ、カニューレは更に最高で3ミリメートルまで侵入させる場合もある。可能であれば、カニューレの直上の爪縁の位置に印をつける。カニューレを引き抜き、回収されたカニューレを爪甲と写真の表面に置く。提案されたカニューレ挿入経路ごとに以下の情報を記録する。目に見える爪真菌症の長さ;カニューレ挿入目標深さ;実際のカニューレ挿入深さ;カニューレ挿入の容易さ;参加者は不快さを訴えたか;及び観察されたあらゆる出血に関するメモ。手順が完了した後、挿入領域をゆるめのドレッシング又は包帯で巻く。第2趾、及び/又はそれより短い足趾のいずれかに4mm(より小さいつま先の場合には2mm)を超える爪の患部がある場合、これらの爪も同様に評価することができる。カニューレ挿入手順は、全てのカニューレ挿入に対して実行される。試験母集団の患者と結果を下記の表2及び3に示す。
表2
表3
【0079】
直ちに理解されるように、12の対象に対して28の手順が行われ、全てにおいて「非常に優しい」と調査者によって評価され、すべてのカニューレ挿入において目標長さに達し、出血はなく、自発的な痛みの訴えもなかった。患者はカニューレ挿入の75%で痛みがないと感じ、残りの25%が「非常に穏やかな痛み」(1~10のスケールでスコア1)と評価した。
【0080】
組織内濃度:
【0081】
組織で利用可能なテルビナフィンの大幅に増加した量を確立するために、本発明者らは異種の投与様式ごとにテルビナフィンの組織内濃度を比較した。具体的には、テルビナフィンの経口投与、及び米国特許第7,135,194号明細書に記載されているような固体ペレット(TMI-358)の形態でのテルビナフィンの爪下投与の場合には組織内濃度が求められており、本開示において説明したような液体処方物のテルビナフィンの爪下投与に対して組織内濃度を予測した。
【0082】
これらの治療に対する例示的な結果を表4と表5に示す。より具体的には、表4は爪床、爪甲、及び爪末端に対する全ての治療の選択肢に対するテルビナフィン濃度を示し、表5はこれらの方法の間での数値比較を行ったものである。
表4
表5
【0083】
図2にグラフィック形式で結果を示す。図2から直ちに分かるように、テルビナフィンが経口投与された場合、爪床でのテルビナフィンの濃度は相対的に低い。このとき、テルビナフィン濃度は、全身曝露のために定常レベルにまで増加した。対照的に、固体のインプラントを用いた爪下送達の場合には、比較的高いテルビナフィン濃度が達成できたが、時間とともにかなり減少した。他方、テルビナフィンが爪下腔と治療空間に投与されて、しっかりと保持された場合、非常に高い濃度が達成され、両方の代替的な投与方法と比較して、かなり高い量であり続けた。
【0084】
テルビナフィンの単剤投与薬物動態学は、ハンフォードミニブタでの局所(4.2又は42mg/kg)処方量に従った。試験物(HSG)は、抗真菌剤(49%のテルビナフィン遊離塩基)であり、小分子である。処方物の賦形剤には、ブチル化ヒドロキシトルエン、ベンジルアルコール、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、及びミリスチン酸イソプロピルが含まれる。HSGのテルビナフィン遊離塩基の濃度は0.49mg/μLであり、密度は0.98g/mlである。
【0085】
3匹のハンフォードミニブタを1グループとする4つの投与グループに分ける。それらは6匹のオスと6匹のメスを含む。メス2匹とオス1匹からなる1つのグループは、4.2mg/kgのテルビナフィンを皮膚に直接塗る単剤投与を受けた。オス2匹とメス1匹からなる1つのグループは、ヒルトップチャンバ内に4.2mg/kgのテルビナフィンの単剤投与を受けた。メス2匹とオス1匹からなる1つのグループは、約42mg/kgのテルビナフィンを皮膚の10カ所の部位に直接塗る単剤投与を受けた。オス2匹とメス1匹からなる1つのグループは、10個のヒルトップチャンバ内に42mg/kgのテルビナフィンの単剤投与を受けた。
【0086】
ハンフォードミニブタへの単剤投与による薬物動態学的研究の一部として、メス2匹とオス1匹の1つのグループは、約4.2mg/kgのテルビナフィンを直接皮膚に塗る単剤投与を受けた。オス2匹とメス1匹からなる1つのグループは、ヒルトップチャンバ内に約4.2mg/kgのテルビナフィンの単剤投与を受けた。メス2匹とオス1匹からなる1つのグループは、皮膚の10カ所の部位に直接約42mg/kgのテルビナフィンを塗る単剤投与を受けた。オス2匹とメス1匹からなる1つのグループは、10のヒルトップチャンバ内に約42mg/kgのテルビナフィンの単剤投与を受けた。各々の動物から、投与前、及び投与から1、2、4、6、8、12、24、48、72、96、120、144、168、192、216、240、288(12日目)、336(14日目)、384(16日目)、432(18日目)、及び504(21日目)時間経過後に血液サンプルを採取し、薬物動態学的分析のために血漿中テルビナフィン濃度を測定した。薬物動態パラメータは、WinNonLinソフトウェアを用いて、名目上ではなく、計算されたテルビナフィン用量を使用して計算された。
【0087】
ハンフォードミニブタへの単剤投与による薬物動態学的研究の一部として、メス2匹とオス1匹の1つのグループは、約4.2mg/kgのテルビナフィンを直接皮膚に塗る単剤投与を受けた。オス2匹とメス1匹からなる1つのグループは、ヒルトップチャンバ内に約4.2mg/kgのテルビナフィンの単剤投与を受けた。メス2匹とオス1匹からなる1つのグループは、皮膚の10カ所の部位に直接約42mg/kgのテルビナフィンを塗る単剤投与を受けた。オス2匹とメス1匹からなる1つのグループは、10のヒルトップチャンバ内に約42mg/kgのテルビナフィンの単剤投与を受けた。各々の動物から、投与前、及び投与から1、2、4、6、8、12、24、48、72、96、120、144、168、192、216、240、288(12日目)、336(14日目)、384(16日目)、432(18日目)、及び504(21日目)時間経過後に血液サンプルを採取し、薬物動態学的分析のために血漿中テルビナフィン濃度を測定した。
【0088】
用法・用量:試験物を、背面の上の4cmの領域に局所投与として一回投与した。試験物は、ガラス棒の丸い端部を用いてピペットでゆっくり投与して物質を均一に領域にすりこんだ液体である。グループ1(低用量)は1つの領域に投与し、グループ2(高用量)は10の領域に投与した。試験物(HSG)が皮膚投与後に流出していたため、プロトコルごとに3匹/グループに投与し、他の3匹/グループはヒルトップチャンバー(直径25mm)を使用して投与することを決定した。チャンバ内のウェブリルパッドを濡らすために一定量の試験物が必要であったことから、チャンバには200μLの試験物が含められた。
【0089】
血液のサンプリング:全ての研究用動物の薬物動態学的サンプルを収集した。指定されたそれぞれの時点において、一時的頸静脈カテーテルによって、又は、頸静脈又は他の適切な血管へ直接静脈穿刺することによって約4mlの全血を回収した。各回収時の許容時間は、SRC SOPと一致していた。血液サンプルを、抗凝固剤としてK2EDTAを含んでいる血液チューブに入れた。血液/血漿サンプルチューブは、SRC SOPごとにラベリングした。サンプルを優しく混ぜて、処理まで氷嚢又は湿った氷の上に置いた。
【0090】
サンプルを2000xg、約4℃で約15分間遠心分離した。次に、血漿サンプルを事前にラベル付けしたプライマリ(少なくとも0.5mL)に分注し、クライオバイアルをバックアップし、約-70℃で保存するまでドライアイス上で一時的に凍結保存した。サンプルは、ドライアイス上で冷却した状態で好適なバイオ分析的研究所(KCAS)に発送された。
【0091】
分析方法:サンプル分析では、液/液抽出を使用して、マトリックスからテルビナフィンと、添加されたテルビナフィン-d7(IS)を抽出した。抽出の後、次に残渣をPursuit C18カラム上での逆相高速液体クロマトグラフィーに供し、Sciex API5000 LC-MS/MSを用いたタンデム質量分析によって分析物を検出した。この方法は、過去に0.0200~2.00ng/mlの範囲に渡って検証されている。
【0092】
薬物動態評価:WinNonlinプロフェッショナルソフトウェア(Version4.0.1,Pharsight,Mountain View,カリフォルニア)を使用して薬物動態学的計算を行った。濃度/時間データを、非コンパートメント法を用いて分析(断面/モーメント分析)した。ピーク濃度(Cmax)、及びCmaxとなる時刻(Tmax)は観察されたデータから直接得た。分析法の定量限界未満(<0.0200)の血漿中テルビナフィン濃度はゼロとして扱った。この分析のために、WinNonlinソフトウェアは、λzの計算に含めるデータポイントを選択した。WinNonlinソフトウェアは最新の3つ、次に最新の4つ、最新の5つ、などのゼロ以外の濃度を用いて回帰を繰り返す。各回帰のために、adjusted R(調整R)を計算する。
【0093】
WinNonlinは、最大のadjusted Rによる回帰を用いてλzを推定する。adjusted Rが改善しないが、最大のR値の0.0001の範囲内である場合には、より多くの点を用いた回帰が用いられる。濃度/時間カーブ(AUC)の下の領域は、線形補間法による線形台形を使用して推定した。
【0094】
統計的分析:記述統計上の計算を除き、統計分析は行わなかった。計算は全て、データを四捨五入する前に行われた。したがって、このレポートの表の四捨五入された値を使用して記述統計と薬物動態パラメータの値を再計算すると、四捨五入による差が生じる場合がある。
【0095】
濃度/時間プロフィール:
メス2匹とオス1匹に対し、約4.2mg/kgのテルビナフィンを単剤局所投与(1箇所の適用部位)した場合の、テルビナフィン血漿中濃度/時間のプロファイルを表6に示す。時間対テルビナフィン血漿中濃度のグラフを図3に示す。
表6
【0096】
メス1匹とオス2匹に対し、ヒルトップチャンバ内に約4.2mg/kgのテルビナフィンを単剤局所投与(1箇所の適用部位)した場合の、テルビナフィン血漿中濃度/時間のプロファイルを下記表7に示す。時間対テルビナフィン血漿中濃度のグラフを図4に示す。
表7
【0097】
メス2匹とオス1匹に対し、約42mg/kgのテルビナフィンを単剤局所投与(10箇所の適用部位)した場合の、テルビナフィン血漿中濃度/時間のプロファイルを表8に示す。時間対テルビナフィン血漿中濃度のグラフを図5に示す。
表8
【0098】
メス1匹とオス2匹に対し、ヒルトップチャンバ内に約42mg/kgのテルビナフィンを単剤局所投与(10箇所の適用部位)した場合の、テルビナフィン血漿中濃度/時間のプロファイルを表9に示す。時間対テルビナフィン血漿中濃度のグラフを図6に示す。
表9
【0099】
平均4.2mg/kgと42mg/kgのテルビナフィンを直接皮膚に塗った場合の、時間対平均血漿中テルビナフィン濃度のグラフを図7に示す。平均4.2mg/kgと42mg/kgのテルビナフィンをヒルトップチャンバ内に適用した場合の、時間対平均血漿中テルビナフィン濃度のグラフを図8に示す。
【0100】
薬物動態パラメータ:直接皮膚に塗布されるテルビナフィンの体積は171μL(83.79mg)であり、ヒルトップチャンバに添加される量は200μL(98.0mg)であった。個々の動物の体重は、21.4kg~30.3kgの範囲であった。用量の値を必要とする薬物動態パラメータの計算のために、各動物が受けた実際の用量が計算され、以下の表10に示されている。ヒルトップチャンバーパッドによって吸収された可能性のある投与溶液は考慮されていない。計算されたテルビナフィン用量を薬物動態パラメータ計算のために用いた。
表10
【0101】
メス2匹とオス1匹に対し、約4.2mg/kgのテルビナフィンを単剤局所投与した場合の薬物動態パラメータの推定値を下記表11に示す。
表11
【0102】
メス1匹とオス2匹に対し、ヒルトップチャンバ内に約4.2mg/kgのテルビナフィンを単剤局所投与した場合の薬物動態パラメータの推定値を下記表12に示す。
表12
【0103】
メス2匹とオス1匹に対し、約42mg/kgのテルビナフィンを単剤局所投与した場合の薬物動態パラメータの推定値を下記表13に示す。
表13
【0104】
メス1匹とオス2匹に対し、ヒルトップチャンバ内に約42mg/kgのテルビナフィンを単剤局所投与した場合の薬物動態パラメータの推定値を下記表14に示す。
表14
【0105】
高用量/低用量パラメータの比の計算を含む、投与グループごとの平均薬物動態パラメータ推定値の比較を下記の表15に示す。
表15
【0106】
局所投与対経口投与の比較:ヒトに250mgのテルビナフィン錠(Lamisil(R))を1錠経口投与すると、投与後2時間以内にピーク血漿濃度が約0.97~1.5μg/mLになる。200~400時間の終末相半減期は、テルビナフィンが皮膚や脂肪などの組織からゆっくりと排出される結果である。AUC48hは4506ng・hr/mLである。上述したような局所的な高用量テルビナフィンの吸収は遅く、Tmaxは24時間から96時間の間に生じた。局所投与のラミシルと一致して、局所投与の高用量テルビナフィンから体循環へのテルビナフィンの浸透は最小限であった。Cmax及びAUC0-infは、皮膚に直接適用された4.2及び42mg/kgの用量群の間で増加したが、用量には比例していなかった。終末相半減期は長く、196~322時間の範囲であった。同じ局所用量の高用量テルビナフィン(4.2mg/kg)と比較するために、250mgのLamisil(R)錠(4.2mg/kg)を1錠経口投与すると、投与後2時間以内に血漿中濃度のピークが1000ng/mLになる。AUCは約4560ng・h/mLである。
【0107】
注目すべきことに、上記の高濃度製剤4.2mg/kgの単剤局所投与の結果、同じ量のヒトへの経口投与と比較して、3匹のミニブタでは平均ピーク血漿濃度の227分の1(4.4ng/mL)になった。投与後48~96時間以内に起こる局所投与由来のピークの血漿中濃度AUC504hは562ng・hr/mLであり、約200時間の遅い平均終末相半減期が観察された。同様に、低用量群と比較して10倍大きい体表面に適用されたHSGの局所用量が、より大きな42mg/kgであることにより、平均ピーク血漿濃度は11.1ng/mLとなり、AUC504hが3,077ng・hr/mLとなった。遅い吸収(24~72時間)と長い平均終末相半減期(322時間)が示された。表面積と適用用量を10倍増加させても、系のCmax及びAUCにおける比例的な増加よりも少ない結果となった。
【0108】
上記のデータから分かるように、局所/爪下投与では、高用量処方物の場合でさえ、経口送達時に観察されるようなテルビナフィンの全身曝露レベルを有利に回避する。さらに、高用量処方物を爪下腔に投与することができ、その処方物は流動性があるために実質的に爪下腔全体に分布する(同時に爪下腔内に保持される)。高濃度のため、テルビナフィンは、MICを超える濃度で爪下腔を越えて、爪甲と爪床を含むはるかに大きな治療空間に拡散することができる。さらに、爪甲で高濃度が達成できることから、テルビナフィンは、爪先に向かう爪甲内にMIC以上で存在し、それ自体、真菌の増殖に対するバリアとなり、最終的には、罹患した爪組織を健康な爪に置き換える。
【0109】
本開示にて用いられるように、医薬組成物又は薬剤の「投与」とは、医薬組成物又は薬剤の直接的又は間接的な投与をいう。直接的な投与は医療専門家(例えば、医者、看護師など)によって典型的に行われ、間接的な投与は直接投与のために医療専門家に医薬組成物又は薬剤を提供または利用可能にするステップ(例えば、注射、注入、経口送達、局所送達等)を含む。さらに、状態、疾患の発症に対する感受性、または意図された治療への応答を「予見する」又は「予測する」という用語は、(対象における状態の進行、改善、及び/又は持続を含む)状態、感受性及び/又は応答を予見又は予測する行為(ただし、治療または診断は含まない)をカバーすることを意味することに留意されたい。
【0110】
本開示において述べられる全ての方法は、本開示において特に明示しない限り、又は文脈によって明確に否定されていない限り、どんな適切な順序ででも実行することができる。本開示におけるある実施形態に関して提供される例、又は例示的な文言(例えば、「等」)のいずれか及び全ての使用は、本発明をより良く説明することを単に意図したものであり、別途請求の範囲に記載される本発明の範囲を制限するものではない。明細書の文言は、発明の実施に不可欠な、請求の範囲には記載されていない要素を示すものと解釈されるべきではない。
【0111】
本開示の明細書及び添付の請求の範囲を通して使用されるように、冠詞「a」、「an」、及び「the」の意味は、特に文脈において明確に述べていない限り、複数の言及を含む。また、本開示の明細書において用いられているように、特に文脈において明確に述べていない限り、「内(中)に(in)」は「内(中)に(in)」及び「上に(on)」を含む。本開示において使用されるよう使用されるように、また文脈において別のことが指示されていない限り、「に結合して(coupled to)」という用語は(2つの要素が互いに接触した状態で互いに結合されている)直接の結合と、(少なくとも1つの追加の要素が2つの要素の間に存在する)間接的な結合の両方を含む。したがって、「に結合されて(coupled to)」、「と結合されて(coupled with)」という用語は同義的に使用される。
【0112】
本開示における発明の概念から逸脱することなく、既に述べられているものに加えてより多くの改変が可能であることは当業者にとって明らかなはずである。したがって、発明の主題は添付の請求の範囲を除いて制限されるものではない。そのうえ、明細書と請求の範囲の両方を解釈する上で、全ての用語は、文脈と整合する可能な限り広い方法で解釈されなければならない。特に、用語「含む(comprises)」及び「含んでいる(comprising)」は、非排他的な方法で要素、部品、又はステップに言及するものとして解釈されるべきであり、参照された要素、組成物部品又はステップが、明示的に参照されていない要素、部品、又はステップと共に存在してもよく、又は共に利用されてもよく、又は組み合わされてもよいことを示す。明細書及び請求の範囲がA、B、C,・・・及びNからなる群から選択される少なくとも1つの何かに言及する場合、その文はグループから1つの要素のみを必要とし、AとN、又はBとNなどを必要としないと解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2024-08-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体医薬組成物であって、
疎水性溶媒と、任意の親水性溶媒と、任意の被膜形成剤とを含む薬学的に許容される担体と、
抗真菌剤と、を含み、
前記抗真菌剤が前記薬学的に許容される担体中に溶解され、10重量%以上の濃度で存在し、かつ前記医薬組成物は粘度が約500~2,500cP(mPa・s)である、組成物。
【外国語明細書】