(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167241
(43)【公開日】2024-12-03
(54)【発明の名称】薬物送達組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 47/46 20060101AFI20241126BHJP
C12N 1/13 20060101ALI20241126BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20241126BHJP
A61K 36/04 20060101ALI20241126BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20241126BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20241126BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241126BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20241126BHJP
A23K 10/30 20160101ALI20241126BHJP
C12N 1/12 20060101ALN20241126BHJP
A61P 31/00 20060101ALN20241126BHJP
【FI】
A61K47/46
C12N1/13 ZNA
A23L33/10
A61K36/04
A61K48/00
A61K38/02
A61K45/00
A61K39/00 Z
A23K10/30
C12N1/13
A61K36/04 ZNA
C12N1/12 Z
A61P31/00 171
【審査請求】有
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024135405
(22)【出願日】2024-08-14
(62)【分割の表示】P 2021512028の分割
【原出願日】2020-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2019069029
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】藤原 崇之
(72)【発明者】
【氏名】廣岡 俊亮
(72)【発明者】
【氏名】宮城島 進也
(72)【発明者】
【氏名】大松 勉
(57)【要約】
【課題】新規の薬物送達組成物、前記薬物送達組成物に使用可能な耐酸性細胞及び薬物キャリア、並びに前記耐酸性細胞の製造方法の提供。
【解決手段】細胞内に薬物を内包する耐酸性細胞を含む、薬物送達組成物。また、細胞内に薬物を内包する耐酸性細胞であって、前記薬物が、前記耐酸性細胞が有する袋状膜構造に局在している、耐酸性細胞。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物を内包する耐酸性細胞を含む薬物送達組成物。
【請求項2】
前記薬物が、前記耐酸性細胞が有する袋状膜構造に局在している、
請求項1に記載の薬物送達組成物。
【請求項3】
前記袋状膜構造が、外因性リポソーム、細胞膜、及び細胞小器官からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の薬物送達組成物。
【請求項4】
前記細胞小器官が、ミトコンドリア、葉緑体、小胞体、液胞、細胞核、ペルオキシソーム、及びゴルジ体からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項3に記載の薬物送達組成物。
【請求項5】
前記薬物が、低分子化合物、ペプチド、タンパク質、及び核酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~4のいずれか一項に記載の薬物送達組成物。
【請求項6】
前記薬物が、腸で作用する薬物である、請求項1~5のいずれか一項に記載の薬物送達組成物。
【請求項7】
前記薬物が、免疫原性を有する薬物である、請求項1~6のいずれか一項に記載の薬物送達組成物。
【請求項8】
前記耐酸性細胞が、pH7以上で細胞破裂を生じる細胞である、請求項1~7のいずれか一項に記載の薬物送達組成物。
【請求項9】
前記耐酸性細胞が、pH1~3の酸性条件に耐性を有する細胞である、請求項1~8のいずれか一項に記載の薬物送達組成物。
【請求項10】
前記耐酸性細胞が、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に属する藻類の細胞である、請求項1~9のいずれか一項に記載の薬物送達組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の薬物送達組成物を含有する、飼料。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか一項に記載の薬物送達組成物を含有する、医薬品。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか一項に記載の薬物送達組成物を含有する、食品。
【請求項14】
細胞内に薬物を内包する耐酸性細胞。
【請求項15】
細胞内に薬物を内包する耐酸性細胞であって、前記薬物が、前記耐酸性細胞が有する袋状膜構造に局在している、耐酸性細胞。
【請求項16】
薬物としてのペプチド若しくはタンパク質と、細胞膜若しくは細胞小器官に対する局在性ペプチド若しくはタンパク質と、を含む融合タンパク質をコードする遺伝子を、耐酸性細胞に導入する工程を含む、
請求項15に記載の耐酸性細胞の製造方法。
【請求項17】
耐酸性細胞を含む薬物キャリア。
【請求項18】
前記耐酸性細胞が、pH7以上で細胞破裂を生じる細胞である、請求項17に記載の薬物キャリア。
【請求項19】
前記耐酸性細胞が、pH1~3の酸性条件に耐性を有する細胞である、請求項17又は18に記載の薬物キャリア。
【請求項20】
前記耐酸性細胞が、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に属する藻類の細胞である、請求項17~19のいずれか一項に記載の薬物キャリア。
【請求項21】
外因性物質を含む耐酸性細胞。
【請求項22】
前記外因性物質が、前記耐酸性細胞が有する袋状膜構造に局在している、請求項21に記載の耐酸性細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物送達組成物に関する。また、前記薬物送達組成物に使用可能な耐酸性細胞、及び薬物キャリア、並びに前記耐酸性細胞の製造方法に関する。
本願は、2019年3月29日に、日本に出願された特願2019-069029号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
ヒトをはじめとして消化管を有する動物では、口から摂取したものは食道を通り胃に送られる。たとえば、薬物の経口投与においては、特に薬物がペプチドやタンパク質を主成分とする場合、薬物が胃で酵素分解される可能性が高い。また、胃の内部は強い酸性であることから、低分子化合物の薬物であっても、非酵素的に胃で分解される懸念がある。また、酸性化合物を腸で吸収させたい場合であっても、胃で吸収されてしまうことがある。そのため、胃では溶解せず、腸で溶解するカプセルを用いた経口投与は有用である。
【0003】
薬物の腸への送達を実現する方法としては、脂質にプロテインBを導入したものは胃内で安定であるとの性質を利用するbilosomeと言われる技術(非特許文献1)、コメの細胞小器官であるプロテインボディが消化酵素に対して耐性を示すことを利用するコメワクチン(非特許文献2)、あるいは、消化酵素、温度変化、及びpH変化に対して耐性を有する芽胞を利用した芽胞ワクチン(非特許文献3)などが知られている。
【0004】
工業的な経口ワクチンを目指すものとしては酵母を利用するものが知られている。たとえば、特許文献1には、酵母菌体内で抗原性タンパク質を発現させた経口ワクチンが記載されている。特許文献1には、酵母菌体を凍結乾燥することで胃および空腸では消化されず回腸で消化分解されることが示されているが、酵母からの抗原性タンパク質の放出は小腸の消化酵素の機能に依存する。特許文献2には、外来性遺伝子を組み込んだ酵母株を経粘膜/経口投与を行い免疫が誘導されることが示唆されているが、用いた酵母由来のタンパク質にも抗原性があることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006/028214号
【特許文献2】特表2012-508697号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Mann JF et al., Lipid vesicle size of an oral influenza vaccine delivery vehicle influences the Th1/Th2 bias in the immune response and protection against infection. Vaccine. 2009 Jun 2;27(27):3643-9.
【非特許文献2】Nochi T et al., Rice-based mucosal vaccine as a global strategy for cold-chain- and needle-free vaccination. Proc Natl Acad Sci U S A. 2007Jun 26;104(26):10986-91.
【非特許文献3】Huang JM et al., Mucosal delivery of antigens using adsorption to bacterial spores. Vaccine. 2010 Jan 22;28(4):1021-30.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
畜産業においては、伝染病が発生すると伝染病の感染拡大を抑制することが困難であり、時として大量の家畜の殺処分が行われる。伝染病の中には、腸管免疫により予防できるとされているものもあり、畜産動物に対して腸管において病原菌に対する免疫を確立する技術の開発は喫緊の課題である。また、腸管免疫を付与することで、他の粘膜免疫や全身免疫も付与できる可能性がある。そのため、ワクチンを経口投与して直接腸に送達できる腸溶性組成物の開発が求められている。しかしながら、非特許文献1~3に記載の技術は、畜産業において用いるにはコスト面での問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、腸に薬物を送達可能な、新規の薬物送達組成物、前記薬物送達組成物に使用可能な耐酸性細胞及び薬物キャリア、並びに前記耐酸性細胞の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]薬物を内包する耐酸性細胞を含む薬物送達組成物。
[2]前記薬物が、前記耐酸性細胞が有する袋状膜構造に局在している、[1]に記載の薬物送達組成物。
[3]前記袋状膜構造が、外因性リポソーム、及び細胞小器官からなる群より選択される少なくとも1種である、[2]に記載の薬物送達組成物。
[4]前記細胞小器官が、ミトコンドリア、葉緑体、小胞体、液胞、細胞核、ペルオキシソーム、及びゴルジ体からなる群より選択される少なくとも1種である、[3]に記載の薬物送達組成物。
[5]前記薬物が、低分子化合物、ペプチド、タンパク質、及び核酸からなる群より選択される少なくとも1種である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の薬物送達組成物。
[6]前記薬物が、腸で作用する薬物である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の薬物送達組成物。
[7]前記薬物が、免疫原性を有する薬物である、[1]~[6]のいずれか一つに記載の薬物送達組成物。
[8]前記耐酸性細胞が、pH7以上で細胞破裂を生じる細胞である、[1]~[7]のいずれか一つに記載の薬物送達組成物。
[9]前記耐酸性細胞が、pH1~3の酸性条件に耐性を有する細胞である、[1]~[8]のいずれか一つに記載の薬物送達組成物。
[10]前記耐酸性細胞が、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に属する藻類の細胞である、[1]~[9]のいずれか一つに記載の薬物送達組成物。
[11][1]~[10]のいずれか一つに記載の薬物送達組成物を含有する、飼料。
[12][1]~[10]のいずれか一つに記載の薬物送達組成物を含有する、医薬品。
[13][1]~[10]のいずれか一つに記載の薬物送達組成物を含有する、食品。
[14]薬物を内包する耐酸性細胞。
[15]前記薬物が、前記耐酸性細胞が有する袋状膜構造に局在している、[14]に記載の耐酸性細胞。
[16]前記薬物が、前記耐酸性細胞が有する袋状膜構造外に局在している、[14]に記載の耐酸性細胞。
[17]前記薬物が、低分子化合物、ペプチド、タンパク質、及び核酸からなる群より選択される少なくとも1種である、[14]~[16]のいずれか1つに記載の耐酸性細胞。
[18]薬物としてのペプチド若しくはタンパク質と、細胞膜若しくは細胞小器官に対する局在性ペプチド若しくはタンパク質と、を含む融合タンパク質をコードする遺伝子を、耐酸性細胞に導入する工程を含む[15]に記載の耐酸性細胞の製造方法。
【0010】
また、本発明は、以下の態様も含む。
[19]耐酸性細胞を含む薬物キャリア。
[20]前記耐酸性細胞が、pH7以上で細胞破裂を生じる細胞である、[19]に記載の薬物キャリア。
[21]前記耐酸性細胞が、pH1~3の酸性条件に耐性を有する細胞である、[19]又は[20]に記載の薬物キャリア。
[22]前記耐酸性細胞が、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に属する藻類の細胞である、[19]~[21]のいずれか一つに記載の薬物キャリア。
[23][19]~[22]のいずれか一つに記載の薬物キャリアに、薬物が内包された薬物カプセル。
[24]前記薬物が、前記耐酸性細胞が有する袋状膜構造に局在している、[23]に記載の薬物キャリア。
【0011】
また、本発明は、以下の態様も含む。
[25]外因性物質を含む耐酸性細胞。
[26]前記外因性物質が、前記耐酸性細胞が有する袋状膜構造に局在している、[25]に記載の耐酸性細胞。
[27]前記外因性物質が、低分子化合物、ペプチド、タンパク質、核酸、及び合成高分子化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、[25]又は[26]に記載の耐酸性細胞。
[28]前記外因性物質が、腸で作用する物質である、[25]~[27]のいずれか一つに記載の耐酸性細胞。
[29]前記外因性物質が免疫原性を有する物質である、[25]~[28]のいずれか一つに記載の耐酸性細胞。
[30]前記袋状膜構造が、外因性リポソーム、細胞膜、及び細胞小器官からなる群より選択される少なくとも1種である、[26]~[29]のいずれか一つに記載の耐酸性細胞。
[31]前記細胞小器官が、ミトコンドリア、葉緑体、小胞体、液胞、細胞核、ペルオキシソーム、及びゴルジ体からなる群より選択される少なくとも1種である、[30]に記載の耐酸性細胞。
[32]前記耐酸性細胞が、pH7以上で細胞破裂を生じる細胞である、[25]~[31]のいずれか一つに記載の耐酸性細胞。
[33]前記耐酸性細胞が、pH1~3の酸性条件に耐性を有する細胞である、[25]~[32]のいずれか一つに記載の耐酸性細胞。
[34]前記耐酸性細胞が、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に属する藻類の細胞である、[25]~[33]のいずれか一つに記載の耐酸性細胞。
[35][25]~[34]のいずれか一つに記載の耐酸性細胞を含有する飼料。
[36][25]~[34]のいずれか一つに記載の耐酸性細胞を含有する医薬品。
[37][25]~[34]のいずれか一つに記載の耐酸性細胞を含有する食品。
[38][25]~[34]のいずれか一つに記載の耐酸性細胞を対象に経口投与することを含む、前記外因性物質の投与方法。
[39][25]~[34]のいずれか一つに記載の耐酸性細胞を動物に摂食させることを含む、動物の飼育方法。
[40][25]~[34]のいずれか一つに記載の耐酸性細胞を経口投与することを含む、腸管免疫の付与方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、腸に薬物を送達可能な、新規の薬物送達組成物、前記薬物送達組成物に使用可能な耐酸性細胞及び薬物キャリア、並びに前記耐酸性細胞の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】MG-132の存在下及び非存在下で培養したGAPDH-GP-sfGFP発現株について、抗GFP抗体を用いてイムノブロットを行った結果を示す図である。図中、矢頭は、GAPDH-GP-sfGFPタンパク質のバンドを示す。
【
図2】GAPDH-GP-sfGFP発現株の蛍光顕微鏡画像である。(A)PC:細胞の輪郭を示す位相差顕微鏡像;(B)Chl:葉緑体の自家蛍光像;(C)sfGFP:sfGFPの蛍光画像。
【
図3】実施例2で、Chl-TP-3HA-GP-Co1発現株の作製に用いた、DNA断片の構造を示す図である。
【
図4】MG-132の存在下及び非存在下で培養したChl-TP-3HA-GP-Co1発現株について、抗HA抗体を用いてイムノブロットを行った結果を示す図である。図中、矢頭は、Chl-TP-3HA-GP-Co1タンパク質のバンドを示す。
【
図5】Chl-TP-3HA-GP-Co1発現株の蛍光顕微鏡画像である。(A)PC:細胞の輪郭を示す位相差顕微鏡像;(B)Chl:葉緑体の自家蛍光像;(C)sfGFP:抗HA抗体による免疫蛍光染色画像。
【
図6】イムノブロット法により、sfGFP発現株の懸濁液(コントロール懸濁液投与群)、Chl-TP-3HA-GP-Co1発現株の懸濁液(懸濁液投与群)、又はChl-TP-3HA-GP-Co1発現株のアルギン酸固化飼料(アルギン酸固化飼料投与群)を投与したマウスについて、抗GPタンパク質抗体産生を評価した結果を示す図である。(A):アルギン酸固化飼料投与群;(B)懸濁液投与群;(C)コントロール懸濁液投与群。1~4の番号は、マウスの個体番号を示す。
【
図7】葉緑体リブロース1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ大サブユニット遺伝子に基づくイデユコゴメ綱に属する藻類の分子系統樹を示す。各枝の近傍に最尤法によるローカルブートストラップ値(50以上のみ記載、左)及びベイズ法による事後確率(0.95以上のみ記載、右)を示す。既知のシアニディオシゾン・メロラエを点線で囲み、YFU3株及びHKN1株を実線で囲んだ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[定義]
本明細書において、「ペプチド」及び「タンパク質」という用語は、相互に互換的に使用され、アミド結合によって結合したアミノ酸のポリマーを指す。「ペプチド」又は「タンパク質」は、天然アミノ酸のポリマーであってもよく、天然アミノ酸と非天然アミノ酸(天然アミノ酸の化学的類似体、修飾誘導体等)とのポリマーであってもよく、非天然アミノ酸のポリマーであってもよい。特に明示しない限り、アミノ酸配列は、N末端側からC末端側に向かって記載する。
「ペプチド」又は「タンパク質」を構成するアミノ酸残基の数は、特に制限されず、2以上のアミノ酸残基を有するアミノ酸ポリマーは、「ペプチド」又は「タンパク質」に包含される。本明細書においては、特に明記しない限り、アミノ酸残基数の多いもの(例えば、100アミノ酸残基以上)を「タンパク質」、アミノ酸残基数の少ないもの(例えば、100アミノ酸未満)を「ペプチド」と記載する。
【0015】
本明細書において、「ポリヌクレオチド」及び「核酸」という用語は、相互に互換的に使用され、ヌクレオチドがホスホジエステル結合によって結合したヌクレオチドポリマーを指す。「ポリヌクレオチド」及び「核酸」は、DNAであってもよく、RNAであってもよく、DNAとRNAとの組み合わせから構成されてもよい。また、「ポリヌクレオチド」及び「核酸」は、天然ヌクレオチドのポリマーであってもよく、天然ヌクレオチドと非天然ヌクレオチド(天然ヌクレオチドの類似体、塩基部分、糖部分及びリン酸部分のうち少なくとも一つの部分が修飾されているヌクレオチド(例えば、ホスホロチオエート骨格)等)とのポリマーであってもよく、非天然ヌクレオチドのポリマーであってもよい。特に明示しない限り、塩基配列は、5’側から3’側に向かって記載する。
【0016】
本明細書において、「遺伝子」という用語は、特定のタンパク質をコードする少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含むポリヌクレオチドを指す。遺伝子は、エクソン及びイントロンの両方を含み得る。
【0017】
本明細書において、ポリヌクレオチドに関して用いる「作動可能に連結」という用語は、第一の塩基配列が第二の塩基配列に十分に近くに配置され、第一の塩基配列が第二の塩基配列又は第二の塩基配列の制御下の領域に影響を及ぼしうることを意味する。例えば、ポリヌクレオチドが「プロモーターに作動可能に連結」するとは、当該ポリヌクレオチドが、当該プロモーターの制御下で発現するように連結されていることを意味する。
本明細書において、「プロモーターが機能し得る」とは、対象の細胞内において、プロモーターが、当該プロモーターに作動可能に連結されたポリヌクレオチドを発現させることができることを意味する。
本明細書において、「発現可能な状態」とは、ポリヌクレオチドが導入された細胞内で、該ポリヌクレオチド又は遺伝子が転写され得る状態にあることを意味する。
本明細書において、「発現ベクター」とは、対象ポリペプチドを含むベクターであって、該ベクターを導入した細胞内で、対象ポリヌクレオチドを発現可能な状態にするシステムを備えたベクターを意味する。
【0018】
本明細書において、「薬物送達組成物」とは、生体内の任意の部位(臓器、器官、組織、疾患部位等)に薬物を送達するために用いられる組成物を意味する。
【0019】
本明細書において、「薬物キャリア」とは、薬物の送達に用いられる運搬体を意味する。薬物キャリアは、有機物及び無機物のいずれであってもよい。薬物キャリアが有機物で構成される場合、前記薬物キャリアは細胞であってもよい。
【0020】
本明細書において、細胞が「薬物を内包する」とは、薬物が細胞内に存在すること、及び/又は薬物が細胞膜に存在することを意味する。薬物が細胞内に存在する場合、薬物は、細胞小器官の内部に存在していてもよい。
【0021】
本明細書において、薬物が「袋状膜構造に局在する」とは、薬物の大部分が対象の袋状膜構造の内部(袋の内部)又は袋状膜構造を形成する膜(以下、「袋状膜」という)に存在していることを意味する。薬物が、細胞が有する袋状膜構造に局在する場合、細胞に内包される全ての薬物が当該袋状膜構造の内部又は袋状膜に存在している必要はなく、一部の薬物は当該袋状膜構造の外部に存在していてもよい。薬物が「袋状膜構造に局在する」場合、当該袋状構造に存在する薬物の割合は、例えば、細胞が内包する全薬物量の50%以上であることができ、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。
【0022】
本明細書において、「低分子化合物」とは、分子量が約2,000以下の化合物を意味する。但し、分子量2,000以下のペプチド及び核酸は、「低分子化合物」には含まれないものとする。
本明細書において、「合成高分子化合物」とは、分子量が2000以上の非天然化合物を意味する。「非天然化合物」とは、自然界には存在しない化合物意味する。合成高分子化合物としては、各種合成ポリマー(ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリエチレングリコール、ポリ(2-オキサゾリン)など)が挙げられる。人工的に化学合成したペプチド、タンパク質、及び核酸は、「合成高分子化合物」には含まれないものとする。
【0023】
本明細書において、「外因性物質」とは、細胞外から導入された物質、又は細胞外から導入された物質により細胞内で生成される物質を意味する。細胞外から導入された物質により細胞内で生成される物質の具体例としては、例えば、外来遺伝子が導入された細胞における前記外来遺伝子の転写産物(mRNA)及び翻訳産物(タンパク質);プロドラックが導入された細胞における前記プロドラックの活性代謝物(目的の薬効を示す薬剤)等が挙げられる。外因性物質は、細胞が元々有する物質(内因性物質)とは異なる物質である。
【0024】
本明細書において、「薬物」とは、生体中で有益な活性を示す物質を意味する。薬物が示す有益な活性は、特に限定されず、生理活性、薬理活性、生物活性、及び診断等に有用な化学活性等を包含する。例えば、前記活性は、医薬品の有効成分として公知の化合物が有する薬理活性、及び体内に投与されて使用される診断薬が有する化学活性又は生理活性を含み得る。前記活性としては、例えば、免疫誘導活性、免疫賦活活性、抗がん活性、シグナル伝達阻害活性、シグナル伝達促進活性、代謝拮抗活性、鎮痛活性、抗炎症活性、殺菌活性、抗ウイルス活性、抗アレルギー活性、酵素阻害活性、造影作用、蛍光活性等が挙げられるが、これらに限定されない。薬物は、生体内で、有益な活性を示す化合物を放出する化合物(いわゆるプロドラッグ)であってもよい。
【0025】
本明細書において「医薬品」は、医療用の医薬品と、病気の治療や予防、あるいは健康増進のために服用される広義の薬を包含する。「医薬品」は、公的に登録されているか否か、医療用に用いられるか医療用以外に用いられるかを問わない。
本明細書において、「食品」とは、一般的な食品、健康食品、栄養補助食品、健康補助食品、機能性食品、美容補助食品、及びサプリメント等を包含する概念で用いられる。
【0026】
本明細書において、「変異株」とは、自然発生的又は人為的に、元の細胞株のゲノム(核ゲノム、葉緑体ゲノム、ミトコンドリアゲノムを含む。以下、同じ。)に変異が生じた細胞株を意味する。ゲノムに変異を生じさせる人為的手法は、特に限定されない。前記人為的手法としては、例えば、紫外線照射、放射線照射、亜硝酸などによる化学的処理;遺伝子導入、ゲノム編集などの遺伝子工学的手法等が挙げられる。
本明細書において、「YFU3株の変異株」とは、YFU3株のゲノムに変異が生じた藻類株であって、2倍体の細胞形態と、1倍体の細胞形態と、を有する藻類株を指す。「HKN1株の変異株」とは、HKN1株のゲノムに変異が生じた藻類株であって、2倍体の細胞形態と、1倍体の細胞形態と、を有する藻類株を指す。
【0027】
本明細書において、「近縁種」とは、例えば、rbcL遺伝子、18SrRNA遺伝子、又は16sRNA遺伝子の塩基配列が、元の生物種の前記遺伝子の塩基配列と、90%以上の同一性を有する細胞株である。生物種が藻類である場合、前記比較対象の遺伝子は、rbcL遺伝子、又は18SrRNA遺伝子であり、rbcL遺伝子であることが好ましい。元の藻類が有するrbcL遺伝子の塩基配列と、近縁種の藻類が有するrbcL遺伝子の塩基配列との同一性は、95%以上であることが好ましく、97%以上であることがより好ましく、98%以上であることがさらに好ましく、99%以上であることが特に好ましい。藻類が有するrbcL遺伝子の塩基配列は、公知の方法により得ることができる。例えば、対象とする藻類の細胞から公知の方法によりDNAを抽出し、PCR法等によりrbcL遺伝子のDNA断片を増幅し、増幅したDNA断片の塩基配列をDNAシーケンサーで解析することにより、対象とする藻類のrbcL遺伝子の塩基配列を得ることができる。
【0028】
[薬物送達組成物]
1実施形態において、本発明は、薬物を内包する耐酸性細胞を含む薬物送達組成物、を提供する。好ましい実施形態において、前記薬物は、前記耐酸性細胞が有する袋状膜構造に局在している。
【0029】
<耐酸性細胞>
本明細書において、「耐酸性細胞」とは、酸性条件に対して耐性を有する細胞を意味する。前記酸性条件としては、具体的には、pH1~3のpH条件が挙げられる。耐酸性細胞は、pH1~4のpH条件に対して耐性であることが好ましく、pH1~5のpH条件に対して耐性であることがより好ましい。
酸性条件に対して「耐性を有する」とは、酸性条件下において細胞破裂が生じず、細胞内容物の溶出が生じないことを意味する。
【0030】
耐酸性細胞は、生細胞であってもよく、死細胞であってもよいが、細胞の形態が維持されているものであることが好ましい。耐酸性細胞は、細胞膜及び/又はその外膜に破損が生じておらず、細胞内容物の溶出が生じていないものであることが好ましい。耐酸性細胞が生細胞である場合、当該細胞は、酸性条件下で生育し得るものである。
【0031】
耐酸性細胞は、その細胞の種類は特に限定されない。耐酸性細胞としては、例えば、耐酸性の藻類細胞が挙げられる。そのような藻類細胞としては、例えば、酸性温泉等の酸性環境から単離された微細藻類の細胞が好ましく例示される。そのような微細藻類の具体例としては、例えば、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に属する藻類が挙げられる。
【0032】
イデユコゴメ綱は、分類学上、紅色植物門(Rhodophyta)、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に分類される。イデユコゴメ綱には、現在、シアニディオシゾン(Cyanidioschyzon)属、シアニジウム(Cyanidium)属、及びガルデリア(Galdieria)属の3属が分類されている。耐酸性細胞は、これらのいずれの属に属する藻類であってもよい。ある藻類が、イデユコゴメ綱に属するか否かの判定は、例えば、18S rRNA遺伝子又は葉緑体リブロース1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ大サブユニット(rbcL)遺伝子の塩基配列を用いた系統解析により行うことができる。系統解析は、公知の方法で行えばよい。イデユコゴメ綱に属する藻類のrbcL遺伝子の塩基配列に基づく分子系統樹を
図7に示す。
【0033】
イデユコゴメ綱に属する藻類の中には、2倍体の細胞形態と1倍体の細胞形態との両方を有するものがある。1倍体の細胞形態は、2倍体の細胞形態が減数分裂することにより生じ得る。そして、1倍体の細胞は、2個の細胞の接合により、2倍体の細胞を生じると考えられる。
1倍体の細胞では、2倍体の細胞に比べて、遺伝子組換技術を用いた形質転換体の作製が容易である。そのため、後述するように、薬物としてのペプチドをコードする遺伝子を耐酸性細胞に導入する場合には、1倍体の細胞を好ましく用いることができる。また、1倍体の細胞を用いて任意の薬物コード遺伝子を導入した形質転換体を複数作製し、それらの形質転換体同士を掛け合わせることにより、複数の薬物コード遺伝子を併せ持ち、複数の薬物を内包する2倍体を作製することが可能である。
【0034】
藻類が2倍体であるか、1倍体であるかの判定は、同一遺伝子座のコピー数を確認することにより行うことができる。すなわち、同一遺伝子座のコピー数が1であれば、1倍体であると判定される。また、次世代シーケンサー等を用いて、藻類が1倍体であることの判定を行うこともできる。例えば、次世代シーケンサー等で全ゲノムのシーケンスリードを取得し、それらのシーケンスリードをアセンブルした後、アセンブルして得られた配列に対して、シーケンスリードをマッピングする。2倍体ではアレルごとの塩基の違いがゲノム上の様々な領域で見つかるが、1倍体では1アレルしか存在しないため、その様な領域は見つからない。
あるいは、DAPI等の核染色試薬で細胞を染色し、1倍体であることが既知である細胞と比較して、同等の蛍光輝度を示す細胞を1倍体と判定し、約2倍の蛍光輝度を示す細胞を2倍体と判定してもよい。あるいは、DAPI等の核染色試薬で細胞を染色し、2倍体であることが既知である細胞と比較して、同等の蛍光輝度を示す細胞を2倍体と判定し、約1/2倍の蛍光輝度を示す細胞を1倍体と判定してもよい。
【0035】
耐酸性細胞は、腸内で速やかに薬物を放出するために、強固な細胞壁を有さないことが好ましい。本明細書において、「強固な細胞壁を有さない」とは、下記(A)~(C)の細胞破裂処理のいずれかで細胞破裂を生じることを意味する。
【0036】
(A)細胞をpH7以上の等張液に懸濁し、1週間以上放置する。
(B)細胞を蒸留水に懸濁し、1分以上放置する。
(C)細胞の乾燥処理を行い、pH7以上の等張液に懸濁する。
上記(A)~(C)において、細胞が培養細胞である場合、各処理を行う前に、遠心分離等により培地を除去し、等張液等で藻類細胞を洗浄してもよい。
上記(A)及び(C)において、等張液としては、10%スクロース及び20mMのHEPESを含むpH7の緩衝液が挙げられる。
上記(C)において、乾燥処理としては、冷蔵庫内(4℃)での乾燥、凍結乾燥等が挙げられる。乾燥処理には、遠心分離により回収した藻類細胞の沈殿を用いる。冷蔵庫内で乾燥する場合、乾燥処理時間は、細胞の量によるが、3日以上が例示される。
【0037】
また、細胞破裂が生じたか否かは、上記(A)~(C)の細胞破裂処理後の細胞懸濁液を遠心分離(1,500×g、3分)し、細胞懸濁液中の全タンパク質量に対する、遠心上清中のタンパク質量の割合を求めることにより、判定することができる。具体的には、下記式により求められる破裂率が、20%以上である場合に、細胞破裂が生じたと判定することができる。
【0038】
【0039】
あるいは、細胞懸濁液中の細胞を光学顕微鏡(例えば、倍率600倍)で観察し、細胞破裂が生じている細胞の割合が、細胞全体の10%程度以上、好ましくは20%程度以上である場合に、細胞破裂が生じたと判断してもよい。
【0040】
細胞が強固な細胞壁を有さない場合、光学顕微鏡による観察(例えば、倍率600倍)では、通常、細胞壁が観察されない。なお、pH6以下の条件での温和な低張処理により細胞破裂が生じるか否かは、強固な細胞壁を有さない藻類であるか否かの判定には影響しない。
【0041】
上記(A)及び(C)の細胞破裂処理では、pH7以上の等張液を用いることができるため、上記(A)及び(C)のいずれかの細胞破裂処理で細胞破裂が生じる細胞は、pH7以上の条件下で細胞破裂が生じる細胞であるということができる。耐酸性細胞は、腸において速やかに薬物を放出するために、pH7以上で細胞破裂が生じる細胞であることが好ましい。
【0042】
また、pH7以上の条件下で、その細胞が破裂する細胞であるか否かは、pH7以上の緩衝液等に細胞を浸漬し、10~30分程度観察して、藻類細胞が破裂するか否かを確認することによっても、判定することができる。
【0043】
上記のような特徴を有する耐酸性細胞としては、イデユコゴメ綱に属する藻類の中でも、例えば、シアニディオシゾン・メロラエ(Cyanidioschyzon merolae)、ガルデリア属に属する藻類の1倍体、及びシアニジウム属に属する藻類の1倍体等が挙げられる。これらの藻類は、酸性温泉などの酸性環境下から単離してもよく、カルチャー・コレクション等から入手してもよい。そのようなカルチャー・コレクションとしては、国立研究開発法人国立環境研究所微生物系統保存施設(日本国茨城県つくば市小野川16-2)、及びAmerican Type Culture Collection(ATCC;10801 University Boulevard Manassas, VA 20110 USA)等が挙げられる。
【0044】
ガルデリア属に属する藻類の1倍体としては、Galdieria sulphuraria、及びGaldieria partitaの1倍体、並びにこれらの近縁種、変異株、及び子孫の1倍体等が挙げられる。例えば、カルチャー・コレクション等から入手したガルデリア属に属する藻類の2倍体を、静止期になるまで培養し、その後も任意の期間培養を継続することで、1倍体の細胞が培養液中に出現する。当該1倍体の細胞を回収し、耐酸性細胞として用いてもよい。
【0045】
シアニジウム属に属する藻類の1倍体としては、シアニジウム・エスピー(Cyanidium sp.)YFU3株(FERM BP-22334)(以下、「YFU3株」という)の1倍体、及びシアニジウム・エスピー(Cyanidium sp.)HKN1株(FERM BP-22333)(以下、「HKN1株」という)の1倍体、並びにこれらの近縁種、変異株、及び子孫等が挙げられる。
YFU3株(1倍体)は、日本国大分県由布市の温泉の高温酸性水より単離された単細胞紅藻である。YFU3株は、2017年5月30日付で、受託番号FERM P-22334として、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に寄託され、受託番号FERM BP-22334として、2018年4月20日付で国際寄託に移管されている。
HKN1株は、日本国神奈川県足柄下郡箱根町の温泉の高温酸性水より単離された単細胞紅藻である。HKN1株(1倍体)は、2017年5月30日付で、受託番号FERM P-22333として、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託され、受託番号FERM BP-22333として、2018年4月20日付で国際寄託に移管されている。
【0046】
イデユコゴメ綱に属する藻類は、微細藻類培養用の培地を用いて培養することができる。培地としては、特に限定されないが、窒素源、リン源、微量元素(亜鉛、ホウ素、コバルト、銅、マンガン、モリブデン、鉄など)等を含む無機塩培地が例示される。例えば、窒素源としては、アンモニウム塩、硝酸塩、亜硝酸塩、尿素、アミン類等が挙げられ、リン源としては、リン酸塩等が挙げられる。そのような培地としては、例えば、2×Allen培地(Allen MB. Arch. Microbiol. 1959 32: 270-277.)、M-Allen培地(Minoda A et al. Plant Cell Physiol. 2004 45: 667-71.)、MA2培地(Ohnuma M et al. Plant Cell Physiol. 2008 Jan;49(1):117-20.)等が挙げられる。
【0047】
イデユコゴメ綱に属する藻類は、酸性温泉排水を用いた培地で培養することもできる。「酸性温泉排水」とは、温泉施設から排出される酸性の排水を意味する。酸性温泉排水としては、特に限定されないが、pH1.0~4.0であることが好ましく、pH1.0~3.0であることがより好ましい。「酸性温泉排水を用いた培地」とは、酸性温泉排水に窒素源、リン源、微量元素等を添加して調製した培地を意味する。酸性温泉排水を用いた培地としては、酸性温泉排水に窒素源を添加したものが好ましく、窒素源及びリン源を添加したものがより好ましい(例えば、Hirooka S and Miyagishima S.Y. (2016) Cultivation of Acidophilic Algae Galdieria sulphuraria and Pseudochlorella sp. YKT1 in Media Derived from Acidic Hot Springs. Front Microbiol. Dec 20;7:2022.参照)。窒素源としては、アンモニウム塩(硫酸アンモニウム等)、尿素、硝酸塩(硝酸ナトリウム等)等が挙げられるが、アンモニウム塩、尿素が好ましく、アンモニウム塩がより好ましい。窒素源の添加量としては、例えば、窒素添加量として1~50mMを挙げることができる。窒素源の添加量は、窒素添加量として5~40mMが好ましく、10~30mMがより好ましい。リン源としては、リン酸塩(リン酸二水素カリウム等)が挙げられる。リン源の添加量としては、リン添加量として0.1~10mMを挙げることができる、リン源の添加量は、リン添加量として0.5~5mMが好ましく、1~3mMがより好ましい。イデユコゴメ綱に属する藻類は、酸性温泉排水を用いた培地で培養することもできるため、酸性温泉排水の有効利用が可能であり、且つ低コストで培養することができる。
イデユコゴメ綱に属する藻類が、ガルデリア属に属する藻類である場合、上記の窒素源としては、アンモニア塩、尿素が好ましく、アンモニア塩がより好ましい。イデユコゴメ綱に属する藻類が、シアニジウム属に属する藻類である場合、上記の窒素源としては、アンモニア塩、硝酸塩が好ましく、アンモニア塩がより好ましい。
【0048】
イデユコゴメ綱に属する藻類は、上記のとおり、比較的幅広い培養条件で高密度に増殖させることができる。pH条件としては、pH1.0~6.0を例示することができ、pH1.0~5.0が好ましい。屋外で培養する場合には、他の生物の増殖を防ぐために、酸性度が高い条件で培養することが好ましく、そのような条件としてはpH1.0~3.0が挙げられる。
温度条件としては、15~50℃を例示することができ、30~50℃が好ましい。屋外で培養する場合には、他の生物の増殖を防ぐために、高温で培養することが好ましく、そのような条件としては35~50℃が挙げられる。
光強度としては、5~2000μmol/m2sを例示することができ、5~1500μmol/m2sが好ましい。屋外で培養する場合には、太陽光下で培養すればよい。室内で培養する場合には、連続光で培養してもよく、明暗周期(10L:14Dなど)を設けてもよい。
【0049】
<薬物>
耐酸性細胞が内包する薬物は、特に限定されず、任意の薬物であり得る。薬物としては、例えば、低分子化合物、ペプチド、タンパク質、核酸、脂質、糖類、ビタミン類、ホルモン類、合成高分子化合物等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの中でも、薬物は、低分子化合物、ペプチド、タンパク質、及び核酸からなる群より選択される少なくとも1種の薬物であることが好ましい。
【0050】
低分子化合物としては、医薬品の有効成分として知られている低分子化合物を特に制限なく用いることができる。低分子化合物は、診断薬に用いられる造影剤、蛍光色素等であってもよい。低分子化合物としては、例えば、免疫賦活剤、抗がん剤、グナル伝達阻害剤、代謝拮抗剤、鎮痛剤、抗炎症剤、抗生物質、抗アレルギー剤、中枢神経系疾患治療薬、循環器官疾患治療薬、呼吸器官系疾患治療薬、消化器官系疾患治療薬、泌尿生殖器官疾患治療薬等、造影剤、蛍光色素等が挙げられるが、これらに限定されない。低分子化合物は、医薬品の有効成分に限定されず、食品中の成分(例えば、アミノ酸、ビタミン等の栄養成分など)、及び食品添加物(香料など)であってもよい。
【0051】
核酸としては、例えば、核酸医薬として用いられる核酸分子等(siRNA、miRNA、アンチセンスRNA、アプタマー、デコイ、CpGオリゴ核酸など)が挙げられる。
【0052】
合成高分子化合物としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミドなどの工業的に製造される高分子化合物であって、粒状又は球状のものが挙げられる。これらの中には免疫賦活作用が期待されるものがある。
薬物は、低分子化合物を含むマイクロカプセルであってもよく、徐放性のマイクロカプセル、又は温度、pH、圧力など環境依存的に薬物を放出するマイクロカプセルであってもよい。
【0053】
ペプチド又はタンパク質(以下、まとめて「薬物ペプチド」ともいう)としては、医薬品の有効成分として知られているペプチド及びタンパク質を特に制限なく用いることができる。薬物ペプチドとしては、例えば、抗原、サイトカイン、成長因子、ホルモン、酵素、抗体、抗体断片、リガンド、血液成分タンパク質等が挙げられるが、これらに限定されない。
中でも、薬物ペプチドとしては、免疫原性を有するものが好ましい。薬物ペプチドが「免疫原性を有する」とは、当該薬物ペプチドを投与された生体内で、当該薬物ペプチドに対する免疫が誘導されることを意味する。薬物ペプチドによって誘導される免疫は、細胞性免疫であってもよく、液性免疫であてもよく、これらの両方であってもよい。
【0054】
薬物ペプチドは、腸管免疫に寄与するものであることがより好ましい。「腸管免疫」とは、腸管から体内への異物の侵入を阻止するための生体防御システムを意味する。腸管免疫系は、パイエル板などのリンパ組織、粘膜固有層の免疫担当細胞、腸管上皮細胞とその間に存在するリンパ球等から構成されている。腸管免疫に寄与する薬物ペプチドは、これらの腸管免疫系のいずれか1つ以上に作用し、腸管免疫系を強化するものであることができる。
【0055】
腸管免疫に寄与する薬物ペプチドとしては、例えば、病原性微生物又は病原性ウイルス(以下、まとめて「病原菌」ともいう)の免疫原性ペプチド又は免疫原性タンパク質が挙げられる。免疫原性の薬物ペプチドは、本実施形態の薬物送達組成物の適用対象が罹患する感染症に応じて、適宜選択することができる。免疫原性ペプチド又は免疫原性タンパク質は、抗原性ペプチド又は抗原性タンパク質ともいう。
【0056】
例えば、本実施形態の薬物送達組成物をヒトに適用する場合、薬物ペプチドとしては、ヒト病原菌の免疫原性ペプチド又は免疫原性タンパク質を用いることができる。ヒトの病原菌としては、例えば、狂犬病ウイルス、ロタウイルス、インフルエンザウイルス、エイズウイルス、ポリオウイルス、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、ヒトパピローマウイルス、コレラ菌、サルモネラ菌、結核菌、肺炎連鎖球菌、炭疽菌、腸チフス菌等が挙げられるが、これらに限定されない。
例えば、本実施形態の薬物送達組成物を家畜に適用する場合、薬物ペプチドとしては、家畜病原菌の免疫原性ペプチド又は免疫原性タンパク質を用いることができる。家畜病原菌としては、例えば、狂犬病ウイルス、ウシロタウイルス、ウシコロナウイルス、アカバネウイルス、ウシアデノウイルス、ウシパラインフルエンザウイルス、ウシサルモネラ菌、結核菌、ブタサーコウイルス、ブタインフルエンザウイルス、ブタパルボウイルス、ブタコレラウイルス、ブタ連鎖球菌等が挙げられるが、これらに限定されない。
免疫原性ペプチド又は免疫原性タンパク質は、例えば、病原性ウイルスのエンベロープ若しくはカプシドを構成するタンパク質の全長タンパク質若しくはそれらの部分ペプチド;又は病原性細菌の細胞膜タンパク質の全長タンパク質若しくはそれらの部分ペプチドを用いて設計することができる。例えば、病原菌が狂犬病ウイルスである場合、免疫原性タンパク質として、グリコプロテイン(塩基配列:配列番号1、アミノ酸配列:配列番号2)の全長又はその部分ペプチドが例示される。
【0057】
(袋状膜構造への薬物の局在化)
薬物は、耐酸性細胞の細胞において、耐酸性細胞が有する袋状膜構造に局在していることが好ましい。本明細書において、「袋状膜構造」とは、生体膜若しくは生体膜模倣構造により袋状に区画された構造を意味し、具体例としては、細胞膜、細胞小器官、及び外因性リポソーム等が挙げられる。細胞小器官としては、例えば、ミトコンドリア、葉緑体、小胞体、液胞、細胞核、ペルオキシソーム、及びゴルジ体等が挙げられるが、これらに限定されない。「外因性リポソーム」とは、細胞に外部から導入されたリポソームを意味する。
薬物が、耐酸性細胞の袋状膜構造に局在することで、細胞質中の分解酵素による薬物の分解を抑制することができる。そのため、耐酸性細胞が、生体内の所定部位(例えば、腸)に送達されて耐酸性細胞が細胞破裂するまで、薬物が、細胞内酵素による分解から保護される。
【0058】
薬物を袋状膜構造に局在させる方法は、特に限定されないが、例えば、任意の袋状構造への移行を指示するシグナルペプチド(以下、「移行シグナル」という)又は当該袋状構造に移行するタンパク質(以下、「移行タンパク質」という)を利用する方法が挙げられる。例えば、薬物に、任意の袋状構造を標的とする移行シグナル又は移行タンパク質を結合させて、耐酸性細胞に導入することにより、当該袋上構造に薬物を局在させることができる。例えば、ミトコンドリア、液胞、ペルオキシソーム、小胞体、細胞膜、ゴルジ体、及び細胞核のいずれかに薬物を局在させる場合、ミトコンドリア、液胞、ペルオキシソーム、小胞体、細胞膜、ゴルジ体、又は細胞核に対する移行シグナル又は移行タンパク質を薬物に結合させることができる。これらの移行シグナル及び移行タンパク質は、耐酸性細胞の種類に応じて、公知のものを種々選択することが可能である。あるいは、耐酸性細胞から薬物を局在させたい袋状膜構造を、密度勾配遠心等による細胞分画法により単離し、当該袋状膜構造中のタンパク質を解析することにより、当該袋状膜構造に対する移行シグナル又は移行タンパク質を取得してもよい。
【0059】
例えば、耐酸性細胞として、シアニディオシゾン・メロラエを用いる場合、移行シグナル又は移行タンパク質としては、例えば、以下のものを用いることができる。
葉緑体に対する移行タンパク質としては、chloroplast preprotein translocase SecA subunit(CMQ393C;塩基配列:配列番号3、アミノ酸配列:配列番号4)のN末端側130残基(塩基配列:配列番号5、アミノ酸配列:配列番号6)からなるタンパク質等を用いることができる(Sumiya et al 2016, Proc Natl Acad Sci U S A. 113(47):E7629-E7638; PMID: 27837024)。
ミトコンドリアのマトリクスに対する移行シグナルとしては、EF-TU(CMS502C)(塩基配列:配列番号7、アミノ酸配列:配列番号8)のN末端側78残基(塩基配列:配列番号9、アミノ酸配列:配列番号10)からなるペプチド等を用いることができる(Imoto et al 2013, BMJ. 300(6735):1316-8;PMID: 2369666)。
液胞に対する移行タンパク質としては、prenylated Rab acceptorPRA1(CMJ260C)(塩基配列:配列番号7、アミノ酸配列:配列番号8)、ABC transporter(CMS401C)(塩基配列:配列番号13、アミノ酸配列:配列番号14)、又はo-methyltransferase(CMT369C)(塩基配列:配列番号15、アミノ酸配列:配列番号16)等を用いることができる(Yagisawa et al 2009, Plant J. 60(5):882-93; PMID: 19709388)。
ペルオキシソームに対する移行タンパク質としては、Catalase(CMI050C)(塩基配列:配列番号17、アミノ酸配列:配列番号18)を用いることができる(Moriyama et al 2014, Planta. 240(3):585-98; PMID: 25009310)。
小胞体に対する移行タンパク質としては、ACC1(CMM188C)(塩基配列:配列番号19、アミノ酸配列:配列番号20)、PAP(CMT239C)(塩基配列:配列番号21、アミノ酸配列:配列番号22)、又はALA1 (CMR396C)(塩基配列:配列番号23、アミノ酸配列:配列番号24)等を用いることができる (Mori et al 2016, Front Plant Sci. 7:958; PMID: 27446184)。
細胞膜に対する移行タンパク質としては、ALA1(CMR396C)等を用いることができる(Mori et al 2016, Front Plant Sci. 7:958; PMID: 27446184)。ALA1(CMR396C)は、小胞体に対する移行タンパク質でもあるため、ALA1(CMR396C)を用いることにより、細胞膜及び小胞体の両方に薬物を局在させることができる。
ゴルジ体に対する移行タンパク質としては、Got1(CMI302C)(塩基配列:配列番号25、アミノ酸配列:配列番号286)等を用いることができる(Yagisawa et al 2013, Protoplasma. 250(4):943-8; PMID: 23197134)。
細胞核に対する移行タンパク質としては、Topoisomerase I type IB(CMM263C)(塩基配列:配列番号27、アミノ酸配列:配列番号28)等を用いることができる(Moriyama et al 2014, Genome Biol Evol. 6(1):228-37; PMID: 24407855)。
【0060】
薬物が、薬物ペプチドである場合、前記薬物ペプチドは、移行シグナル又は移行タンパク質との融合タンパク質として、耐酸性細胞に内包させてもよい。薬物ペプチドを、移行シグナル又は移行タンパク質との融合タンパク質とすることで、当該移行シグナル又は移行タンパク質が標的とする袋状膜構造に、薬物ペプチドを局在させることができる。
例えば、薬物ペプチドと移行シグナル又は移行タンパク質との融合タンパク質をコードする遺伝子(以下、「融合タンパク質遺伝子」ともいう)を、耐酸性細胞に導入し、当該耐酸性細胞内で融合タンパク質を発現させることにより、前記移行シグナル又は移行タンパク質が標的とする袋状膜構造に前記融合タンパク質が移行する。その結果として、前記融合タンパク質に含まれる薬物ペプチドが、前記袋状膜構造に局在する。したがって、好ましい態様において、耐酸性細胞は、移行シグナル若しくは移行タンパク質と、薬物ペプチドとを含む融合タンパク質をコードする融合タンパク質遺伝子が発現可能な状態で導入された細胞であり、前記融合タンパク質遺伝子を有する細胞である。また、好ましい態様において、耐酸性細胞は、前記融合タンパク質遺伝子を発現している細胞である。
前記融合タンパク質遺伝子は、薬物ペプチドのコード配列、及び移行シグナル若しくは移行タンパク質のコード配列に加えて、腸管細胞による認識を向上させるペプチドをコードする配列等を含んでいてもよい。腸管細胞による認識を向上させるペプチドとしては、例えば、Co1ペプチド(配列番号43)等が挙げられる。
【0061】
薬物ペプチドと移行シグナル又は移行タンパク質との融合タンパク質遺伝子は、耐酸性細胞において機能し得るプロモーターに、作動可能に連結されていることが好ましい。プロモーターは、耐酸性細胞において機能し得るものであれば、特に限定されないが、細胞内の薬物量を維持する観点から、発現量の多いハウスキーピング遺伝子のプロモーターであることが好ましい。例えば、耐酸性細胞が、シアニディオシゾン・メロラエである場合、プロモーターとしては、例えば、APCC(CMO250C)のプロモーター(例、-600~-1;「-1」は開始コドンの直前のヌクレオチドを示す。)、CPCC(CMP166C)のプロモーター、Catalase(CMI050C)のプロモーター等を好適に用いることができる。シアニディオシゾン・メロラエのAPCCのプロモーター配列を配列番号29に、シアニディオシゾン・メロラエのCPCC(CMP166C)のプロモーター配列を配列番号30に、シアニディオシゾン・メロラエのCatalase(CMI050C)のプロモーター配列を配列番号31に示す。これらのシアニディオシゾン・メロラエのプロモーターは、他のイデユコゴメ綱に属する藻類においても使用可能である。
【0062】
前記融合タンパク質をコードする遺伝子は、発現可能な状態で耐酸性細胞に導入され、例えば、発現ベクターの形態で耐酸性細胞に導入される。発現ベクターは、前記融合タンパク質及びプロモーターに加えて、エンハンサー、ポリA付加シグナル、ターミネーター、3’UTR等の制御配列、薬剤耐性遺伝子等のマーカー遺伝子を含み得る。ターミネーター及び3’UTRとしては、例えば、β-チューブリンの3’UTRが例示される。
ベクターの種類は特に限定されず、一般的に使用される発現ベクターを、耐酸性細胞の種類に応じて適宜選択して使用することができる。ベクターは、直鎖状でも環状でもよく、プラスミドなどの非ウィルスベクターでも、ウィルスベクター(例えば、レンチウィルスベクターなどのレトロウィルスベクター)でも、トランスポゾンによるベクターでもよい。
【0063】
耐酸性細胞がシアニディオシゾン・メロラエである場合、選択マーカーとして、URA5.3遺伝子(CMK046C)を用いてもよい。シアニディオシゾン・メロラエには、ウラシル栄養要求性の変異株であるシアニディオシゾン・メロラエ M4株(Minoda etal., Plant Cell Physiol. 2004 Jun;45(6):667-71.)が存在する。シアニディオシゾン・メロラエ M4株は、URA5.3遺伝子に変異を有しており、ウラシルを合成することができない。そのため、シアニディオシゾン・メロラエ M4株は、ウラシルを含まない培地では生育できない。そこで、シアニディオシゾン・メロラエ M4株を親株とし、選択マーカーに野生株のURA5.3遺伝子を用いることにより、融合遺伝子が導入された形質転換体を選択することができる。より具体的には、シアニディオシゾン・メロラエ野生株(例えば、10D株)のURA5.3遺伝子セットに、プロモーターに作動可能に連結された前記融合タンパク質遺伝子を連結し、シアニディオシゾン・メロラエ M4株に導入する。その後、ウラシルを含まない培地で培養することにより、前記融合タンパク質遺伝子が導入された細胞を得ることができる。
【0064】
耐酸性細胞に任意の融合タンパク質遺伝子を導入する方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。遺伝子導入法としては、例えば、ポリエチレングリコール法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、DEAEデキストラン法、遺伝子銃法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法などが挙げられる。
【0065】
融合タンパク質遺伝子は、耐酸性細胞において、プラスミド等として存在していていてもよく、核ゲノム、葉緑体ゲノム、及びミトコンドリアゲノムのいずれかに挿入されていてもよい。融合タンパク質遺伝子をゲノムに挿入する場合、ゲノムの特定の位置に挿入してもよく、ランダムにゲノムに挿入してもよい。
ゲノムの特定の位置に融合タンパク質遺伝子を挿入する方法としては、相同組換えを用いることができる。例えば、シアニディオシゾン・メロラエでは、全ゲノム配列の解読が終了しているため(Matsuzaki M et al., Nature. 2004 Apr 8;428(6983):653-7.)、ゲノム上の所望の位置に融合タンパク質遺伝子を挿入することが可能である。シアニディオシゾン・メロラエにおける融合タンパク質遺伝子の挿入位置は、特に限定されないが、例えば、CMD184CとCMD185Cとの間の領域が例示される。
【0066】
融合タンパク質遺伝子において、薬物ペプチドと、移行シグナル又は移行タンパク質とを配置する順序は、移行シグナル又は移行タンパク質の種類に応じて、適宜選択される。一般的には、移行シグナル又は移行タンパク質のコード配列が、薬物ペプチドのコード配列よりも5’側に配置される。
【0067】
薬物ペプチドをコードする遺伝子(以下、「薬物ペプチド遺伝子」という)を葉緑体ゲノム又はミトコンドリアゲノムに挿入する場合、薬物ペプチドは、必ずしも移行シグナル又は移行タンパク質との融合タンパク質とする必要はない。例えば、薬物ペプチド遺伝子を葉緑体で機能し得るプロモーターに作動可能に連結し、葉緑体ゲノムに発現可能な状態で挿入して、薬物ペプチド遺伝子を葉緑体内で発現させることにより、葉緑体に薬物ペプチドを局在させることができる。同様に、薬物ペプチド遺伝子をミトコンドリアで機能し得るプロモーターに作動可能に連結し、ミトコンドリアゲノムに発現可能な状態で挿入して、薬物ペプチド遺伝子をミトコンドリア内で発現させることにより、ミトコンドリアに薬物ペプチドを局在させることができる。
【0068】
本実施形態の薬物送達組成物では、薬物は、細胞小器官に局在していることが好ましく、葉緑体に局在していることがより好ましい。また、薬物は、薬物ペプチドであることが好ましく、移行シグナル又は移行タンパク質との融合タンパク質の形態で、当該移行シグナル又は移行タンパク質の標的となる細胞小器官に局在していることが好ましい。前記移行シグナル又は移行タンパク質は、葉緑体移行シグナル又は葉緑体移行タンパク質であることがより好ましい。
【0069】
<任意成分>
本実施形態の薬物送達組成物は、前記耐酸性細胞に加えて、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、特に限定されないが、例えば、薬学的に許容される担体等が挙げられる。「薬学的に許容される担体」とは、耐酸性細胞が内包する薬物の機能を阻害せず、且つ、その投与対象に対して実質的な毒性を示さない担体を意味する。「実質的な毒性を示さない」とは、その成分が通常使用される投与量において、投与対象に対して毒性を示さないことを意味する。薬学的に許容される担体としては、特に限定されないが、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、乳化剤、安定剤、希釈剤、油性基剤、増粘剤、酸化防止剤、還元剤、酸化剤、キレート剤、溶媒等が挙げられる。薬学的に許容される担体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。薬学的に許容される担体は、耐酸性細胞に損傷を与えないものであることが好ましい。
【0070】
本実施形態の薬物送達組成物は、適宜他の成分と混合し、定法に従って、顆粒剤、錠剤、ゼリー剤、液剤、カプセル剤等の形態とすることができる。これらの薬剤形態の中でも、耐酸性細胞に損傷を与えない薬剤形態が好ましく、例えば、ゼリー剤、液剤、カプセル剤等が好ましい。例えば、後述する実施例に示すように、耐酸性細胞を含むアルギン酸の固化体の形態としてもよい。また、アルギン酸の他、ゼラチン、寒天、カラギーナン、ローストビーンガム、グァーガム、キサンタンガム、ペクチン、ジェランガム、タマリンドシードガム、アラビアガムなどの増粘剤又はゲル化剤を用いて、耐酸性細胞を含む懸濁液を固化し、本実施形態の薬物送達組成物として用いてもよい。前記耐酸性細胞の懸濁に用いる媒体は、特に限定されないが、耐酸性細胞の細胞破裂を生じないものであることが好ましく、pH1~6程度の等張液が好ましい。前記等張液としては、例えば、耐酸性細胞の培養に用いる培地、並びにpH1~6程度に調製したグルコース等張液、スクロース等張液及び各種緩衝液(リン酸緩衝生理食塩水、HEPES緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液など)等が挙げられる。一実施形態において、薬物送達組成物は、増粘剤又はゲル化剤による耐酸性細胞の固化体である。増粘剤及び/又はゲル化剤による固化体とすることにより、耐酸性細胞の乾燥を防止することができる。「増粘剤又はゲル化剤による耐酸性細胞の固化体」とは、耐酸性細胞の懸濁液を増粘剤又はゲル化剤でゲル化し、固化したものをいう。換言すれば、「増粘剤又はゲル化剤による耐酸性細胞の固化体」は、耐酸性細胞と、増粘剤及びゲル化剤からなる群より選択される少なくとも1種と、を含有するゲル組成物である。
【0071】
本実施形態の薬物送達組成物の投与経路は、特に限定されず、経口投与であってもよく、非経口投与であってもよいが、経口投与であることが好ましい。本実施形態の薬物送達組成物では、薬物が耐酸性細胞に内包されているため、胃酸による薬物の分解を抑制することができる。そのため、本実施形態の薬物送達組成物は、経口投与に適している。
本実施形態の薬物送達組成物の薬物送達目標は、好ましくは腸(腸管)であり、より好ましくは小腸である。本実施形態の薬物送達組成物を経口投与すると、耐酸性細胞の細胞内で薬物が保護されて胃を通過する。次いで、腸に到達したところで、腸管内の中性~弱アルカリ性のpH条件(pH7以上)により、耐酸性細胞の細胞破裂が生じ、薬物が腸管内に放出される。腸管内に放出された薬物は、腸管内で作用し、腸管免疫の強化等に寄与する。さらに、腸管免疫の強化により、他の粘膜免疫及び全身免疫も賦活化することが期待できる。
【0072】
以上のとおり、本実施形態の薬物送達組成物によれば、耐酸性細胞に薬物が内包されているため、胃における薬物の分解が抑制され、腸に薬物を送達することができる。また、耐酸性細胞において、薬物は、袋状膜構造に局在しているため、細胞質中の分解酵素による分解から保護される。
さらに、薬物ペプチド遺伝子、又は薬物ペプチドのコード配列を含む融合タンパク質遺伝子が導入された耐酸性細胞を用いることにより、薬物を内包する耐酸性細胞を簡易に増殖させることができる。特に、イデユコゴメ綱に属する藻類は、酸性度が高く他の生物が生存できない条件で増殖可能であるため、屋外での大量培養も可能である。そのため、製造コストの低減が期待できる。
【0073】
[飼料]
1実施形態において、本発明は、上記実施形態の薬物送達組成物を含む飼料を提供する。
【0074】
本実施形態の飼料が与えられる動物の種類は特に限定されない。例えば、家畜類(牛、豚、鶏、馬、ヒツジ、ヤギなど)、ペット(イヌ、ネコ、ハムスター、ウサギ、インコ、熱帯魚、爬虫類、両生類、昆虫など)、水産動物(魚類、貝類等)、実験動物(マウス、ラット、モルモットなど)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
本実施形態の飼料は、上記実施形態の薬物送達組成物に加えて、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、一般的に用いられる飼料(家畜飼料、水産飼料、ペットフードを含む)等が挙げられる。例えば、上記実施形態の薬物送達組成物は、飼料添加剤として、既存の飼料に添加してもよい。上記実施形態の薬物送達組成物を添加する飼料は、特に限定されず、対象の動物に応じて、適宜選択すればよい。前記実施形態の薬物送達組成物を通常の飼料に添加して、動物に与えることにより、通常の摂食行動により、動物に薬物を摂取させることができる。
【0076】
本実施形態の飼料に用いる前記薬物送達組成物は、どのような形態であってもよいが、前記耐酸性細胞からの薬物漏出を防止するために、前記耐酸性細胞の細胞が損傷しない形態であることが好ましい。例えば、上記で例示したゼリー剤、カプセル剤、並びにゲル化剤及び/又は増粘剤で固化した形態等が挙げられる。前記薬物送達組成物を飼料添加物として飼料に添加する場合には、例えば、増粘剤及び/又はゲル化剤による前記薬物送達組成物の固化体を適当な大きさに調製して、飼料に添加して混合すればよい。あるいは、前記薬物送達組成物を飼料に添加して混合した後、前記混合物をゲル化剤及び/又は増粘剤を用いて固化してもよい。前記固化体は、動物の大きさに応じて、適宜適当な大きさに調製することができる。増粘剤及び/又はゲル化剤による固化体とすることにより、耐酸性細胞の乾燥を防止することができる。
【0077】
本実施形態の飼料における、上記実施形態の薬物送達組成物の含有量は特に限定されず、飼料の種類に応じて適宜含有量を設定すればよい。例えば、飼料における薬物送達組成物の含有量としては、0.01~80質量%が例示され、0.1~70質量%が好ましく、0.1~60質量%がさらに好ましく、0.1~50質量%が特に好ましい。飼料における耐酸性細胞の含有量としては、例えば、0.1~100mg(湿重量)/g、0.5~80mg(湿重量)/g、1~60mg(湿重量)/g等が例示される。
【0078】
本実施形態の飼料によれば、上記実施形態の薬物送達組成物を含むため、任意の薬物を飼料として動物に摂取させることができる。上記のとおり、前記薬物送達組成物は、任意の薬物を、胃での分解から保護して、腸に送達することができる。そのため、腸で作用する薬物を前記薬物送達組成物に用いることにより、当該薬物を効率的に動物の腸に作用させることができる。また、薬物が、免疫原性を有する薬物ペプチドである場合には、薬物送達組成物を摂取した動物において、効率的に、腸管免疫を賦活化することができる。さらに、腸管免疫の賦活化により、他の粘膜免疫及び全身免疫も賦活化することが期待できる。
【0079】
他の態様において、本発明は、上記実施形態の薬物送達組成物を含む飼料を動物に摂食させることを含む、動物の飼育方法を提供する。
また、他の態様において、本発明は、上記実施形態の薬物送達組成物を含む飼料を動物に摂食させることを含む、動物に腸管免疫を付与する方法を提供する。
【0080】
[医薬品]
1実施形態において、本発明は、上記実施形態の薬物送達組成物を含む医薬品を提供する。
【0081】
本実施形態の医薬品は、ヒト用医薬品であってもよく、動物用医薬品であってもよい。動物用医薬品である場合、適用する動物の種類は特に限定されない。例えば、家畜類(牛、豚、鶏、馬、ヒツジ、ヤギなど)、ペット(イヌ、ネコ、ハムスター、ウサギ、インコ、熱帯魚、爬虫類、両生類、昆虫など)、水産動物(魚類、貝類等)、実験動物(マウス、ラット、モルモットなど)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
本実施形態の医薬品は、上記実施形態の薬物送達組成物に加えて、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、特に限定されないが、薬学的に許容される担体が挙げられる。「薬学的に許容される担体」とは、薬物の機能を阻害せず、且つ、その投与対象に対して実質的な毒性を示さない担体を意味する。また、「実質的な毒性を示さない」とは、その成分が通常使用される投与量において、投与対象に対して毒性を示さないことを意味する。薬学的に許容される担体としては、特に限定されないが、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、乳化剤、安定剤、希釈剤、油性基剤、増粘剤、酸化防止剤、還元剤、酸化剤、キレート剤、溶媒等が挙げられる。薬学的に許容される担体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。他の成分は、上記以外の成分であってもよく、例えば、医薬品に一般的に用いられる医薬品添加物を特に制限なく用いることができる。また、他の成分は、前記薬物送達組成物に含まれる薬物以外の活性成分であってもよい。前記活性物質は、特に限定されないが、例えば、整腸剤、抗炎症剤、抗生物質、抗菌性物質、生薬、結構促進剤、解熱剤、鎮痛剤等が挙げられる。
【0083】
本実施形態の医薬品の剤型は特に限定されないが、前記耐酸性細胞からの薬物漏出を防止するために、前記耐酸性細胞の細胞が損傷しない形態であることが好ましい。例えば、錠剤、顆粒剤、ゼリー剤、カプセル剤、液剤、及びシロップ剤等が挙げられる。例えば、本実施形態の医薬品は、増粘剤及び/又はゲル化剤による耐酸性細胞の固化体を含んでいてもよい。
【0084】
本実施形態の医薬品における、上記実施形態の薬物送達組成物の含有量は特に限定されず、前記薬物送達組成物が含む薬剤の種類に応じて適宜含有量を設定すればよい。例えば、医薬品における薬物送達組成物の含有量としては、0.01~80質量%が例示され、0.1~70質量%が好ましく、0.1~60質量%がさらに好ましく、0.1~50質量%が特に好ましい。医薬品における耐酸性細胞の含有量としては、例えば、0.1~100mg(湿重量)/g、0.5~80mg(湿重量)/g、1~60mg(湿重量)/g等が例示される。
【0085】
本実施形態の医薬品の投与経路は、特に限定されず、経口投与であってもよく、非経口投与であってもよいが、経口投与であることが好ましい。本実施形態の医薬品では、薬物が耐酸性細胞に内包されているため、胃酸による薬物の分解を抑制することができる。
本実施形態の医薬品の薬物送達目標は、好ましくは腸(腸管)であり、より好ましくは小腸である。
【0086】
本実施形態の医薬品によれば、上記実施形態の薬物送達組成物を含むため、任意の薬物を、胃での分解から保護して、腸に送達することができる。そのため、腸で作用する薬物を前記薬物送達組成物に用いることにより、当該薬物を効率的に腸に作用させることができる。また、薬物が、免疫原性を有する薬物ペプチドである場合には、薬物送達組成物を摂取した動物において、効率的に、腸管免疫を賦活化することができる。さらに、腸管免疫の賦活化により、他の粘膜免疫及び全身免疫も賦活化することが期待できる。
そのため、本実施形態の医薬品は、ヒトの病気の予防、治療、健康増進に用いることができる。特に、胃ではなく腸において吸収が望まれる薬物、胃酸により分解したり不溶化したりして腸での吸収が妨げられる薬物、複数の薬物を一度に腸で吸収させるための医薬品等に好適に用いることができる。
【0087】
他の態様において、本発明は、上記実施形態の薬物送達組成物を含む医薬品を対象に経口投与することを含む、薬物の投与方法を提供する。
また、他の態様において、本発明は、上記実施形態の薬物送達組成物を含む医薬品を対象に経口投与することを含む、対象に腸管免疫を付与する方法を提供する。
【0088】
[食品]
1実施形態において、本発明は、上記実施形態の薬物送達組成物を含む食品を提供する。
【0089】
本実施形態の食品は、一般食品であってもよく、栄養補助食品、機能性食品、又はサプリメント等であってもよい。前記薬物送達組成物は、食品添加剤として、食品に添加されてもよい。
【0090】
本実施形態の食品において、食品の種類は特に限定されないが、前記耐酸性細胞からの薬物漏出を防止するために、前記耐酸性細胞の細胞が損傷しない形態であることが好ましく、乾燥食品でないことが好ましい。食品としては、例えば、青汁、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、野菜飲料、乳酸飲料、乳飲料、スポーツ飲料、茶、コーヒーなどの飲料;カレールー、シチュールー、インスタントスープなどの各種スープ類;アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷などの冷菓類;飴、ゼリー、ジャム、クリームなどの菓子類;かまぼこ、はんぺん、ハム、ソーセージなどの水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳、バター、チーズ、ヨーグルトなどの乳製品;ソース、ドレッシング、味噌、醤油、たれなどの調味料;各種レトルト食品などのその他加工食品、等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0091】
本実施形態の食品において、前記薬物送達組成物の含有量は特に限定されず、食品の種類に応じて適宜含有量を設定すればよい。例えば、食品の風味等を考慮し、食品における薬物送達組成物の含有量としては、0.01~80質量%が例示され、0.1~70質量%が好ましく、0.1~60質量%がさらに好ましく、0.1~50質量%が特に好ましい。食品における耐酸性細胞の含有量としては、例えば、0.1~100mg(湿重量)/g、0.5~80mg(湿重量)/g、1~60mg(湿重量)/g等が例示される。
【0092】
また、食品が、機能性食品、栄養補助食品、又はサプリメント等である場合、上述のような一般的な食品の形態であってもよく、顆粒剤、錠剤、ゼリー剤、ドリンク剤等の形態であってもよい。例えば、本実施形態の食品は、増粘剤及び/又はゲル化剤による耐酸性細胞の固化体を含んでいてもよい。
【0093】
本実施形態の食品によれば、上記実施形態の薬物送達組成物を含むため、任意の薬物を食品として摂取することができる。上記のとおり、前記薬物送達組成物は、任意の薬物を、胃での分解から保護して、腸に送達することができる。本実施形態の食品は、1つ以上の特定の栄養成分を、胃酸の影響を受けず腸で吸収させたい場合に有用である。
【0094】
[薬物キャリア]
1実施形態において、本発明は、耐酸性細胞を含む薬物キャリアを提供する。
本実施形態の薬物キャリアが含む耐酸性細胞は、上述の「[薬物送達組成物]」の「<耐酸性細胞>」において説明した耐酸性細胞と同様であり、好ましい例も同様のものが挙げられる。前記耐酸性細胞は、酸に耐性があり、胃のような酸性環境下でも細胞が破損しない。そのため、細胞内に薬物を内包させることにより、耐酸性の薬物キャリアとして用いることができる。細胞内に薬物を内包させる方法は、上記「[薬物送達組成物]」において記載した方法と同様の方法が挙げられる。本実施形態の薬物キャリアは、好ましくは、耐酸性細胞から構成される。
本実施形態の薬物キャリアは、薬物を腸に送達するために好適に用いることができ、経口投与される医薬品、又は経口摂取される飼料若しくは食品に好適に適用可能である。
【0095】
[薬物カプセル]
1実施形態において、本発明は、前記実施形態の薬物キャリアに、薬物が内包された薬物カプセルを提供する。
前記耐酸性細胞は、細胞内に薬物が内包されており、後述する実施例で示すように、胃のような酸性環境下では、薬物の放出はほとんど起こらない。そのため、前記耐酸性細胞を含む薬物キャリアは、前記耐酸性細胞の細胞内に薬物を内包させることにより、耐酸性の薬物カプセルとして用いることができる。本実施形態の薬物カプセルは、薬物を腸に送達することを目的とした、経口薬物カプセルとして使用することができる。
【0096】
[耐酸性細胞]
1実施形態において、本発明は、細胞内に薬物を内包する耐酸性細胞を提供する。好ましい実施形態において、前記薬物は、耐酸性細胞が有する袋状膜構造に局在している。
本実施形態の耐酸性細胞は、上記実施形態の薬物送達組成物が含む耐酸性細胞と同様であり、好ましい例も同様のものが挙げられる。あるいは、前記薬物は、耐酸性細胞が有する袋状膜構造外に局在している。薬物が、袋状膜構造外に局在する場合、薬物は、耐酸性細胞の細胞質に存在する。
【0097】
薬物は、特に限定されないが、例えば、低分子化合物、ペプチド、タンパク質、及び核酸からなる群より選択される少なくとも1種の薬物であることが好ましい。例えば、細胞質中の分解酵素等の影響から薬物である場合、薬物は、袋状膜構造に局在することが好ましい。袋状膜構造に局在することにより、薬物は細胞質中の分解酵素等の影響から保護される。そのため、生体内内の所定部位まで薬物を効率的に送達することができる。例えば、薬物がペプチド、タンパク質、又は核酸である場合、細胞質中のプロテアーゼ又はヌクレアーゼの影響を受けやすい。そのため、袋状膜構造に局在していることが好ましい。一方、細胞質中の分解酵素等の影響を受けにくい薬物(例えば、、低分子化合物)である場合、薬物は、袋状膜構造外に局在してもよい。
【0098】
また、1実施形態において、本発明は、外因性物質を含む耐酸性細胞を提供する。
本実施形態の耐酸性細胞は、上記「[薬物送達組成物]」の「<耐酸性細胞>」で説明した耐酸性細胞と同様であり、好ましい例も同様である。
外因性物質は、特に限定されず、薬物、毒物、染料、香料、及び生体に対する作用が不明な化合物等が挙げられるが、これらに限定されない。前記外因性物質の耐酸性細胞への導入方法は、特に限定されないが、例えば、細胞透過性物質(細胞透過性ペプチドなど)に結合させる方法、及び細胞透過型ミセルに内包させる方法等が挙げられる。また、外因性物質が薬物である場合には、上記「[薬物送達組成物]」に記載した方法と同様の方法が挙げられる。
本実施形態の耐酸性細胞は、例えば、外因性物質を送達するために用いることができる。より具体的には、本実施形態の耐酸性細胞は、外因性物質を腸に送達するための経口用組成物に適用することができる。
【0099】
また、他の態様において、本発明は、前記耐酸性細胞を含有する飼料を提供する。
また、他の態様において、本発明は、前記耐酸性細胞を含有する医薬品を提供する。
また、他の態様において、本発明は、前記耐酸性細胞を含有する食品を提供する。
また、他の態様において、本発明は、前記耐酸性細胞を対象に経口投与することを含む、前記外因性物質の投与方法を提供する。
また、他の態様において、本発明は、前記耐酸性細胞を動物に摂食させることを含む、動物の飼育方法を提供する。
また、他の態様において、本発明は、前記耐酸性細胞を経口投与することを含む、腸管免疫の付与方法を提供する。
【0100】
[耐酸性細胞の製造方法]
1実施形態において、本発明は、薬物としてのペプチド若しくはタンパク質と、細胞膜若しくは細胞小器官に対する局在性ペプチド若しくはタンパク質と、を含む融合タンパク質をコードする遺伝子を、耐酸性細胞に導入する工程を含む、薬物を内包した耐酸性細胞の製造方法を提供する。
本実施形態の製造方法は、上記「[薬物送達組成物]<耐酸性細胞>(袋状膜構造への薬物の局在化)」で記載したように行うことができる。
【実施例0101】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0102】
[実施例1]
(GAPDH-GP-sfGFP発現株の作製)
GAPDH-GP-sfGFPのDNA断片をCyanidioschyzon merolae 10Dの染色体のCMD184C(遺伝子番号)の下流に挿入するために、まず以下のようにプラスミドpD184-HSp-GAPDH-GP-sfGFPを作製した。
このプラスミドは、pQE80プラスミド(大腸菌内での維持、複製用;QIAGEN社製)のマルチクローニングサイトに、次の配列が順に並ぶように設計された。配列は5’側から順に、CMD184C遺伝子の後半部(遺伝子読み取り枠(ORF)の773bp-2773bpと終始コドンを含む下流25bp)、ヒートショック(HS)プロモーター(HSP20/CMJ101C遺伝子開始コドンに近接する上流の配列200bp;Sumiya et al 2014, PLoS One. 22;9(10):e111261; PMID:25337786)、GAPDH(CMJ042C遺伝子の読み取り枠1bp-1209bp;GAPDHは、Moriyama et al 2014, Planta. 240(3):585-98; PMID:25009310に記載)、狂犬病ウイスルグリコプロテイン遺伝子GP(ORF全長1-1572bp,UniProtKB accession No.P19462)、βチューブリンターミネーター(β-tubulin/CMN263C遺伝子の終止コドンを含む下流200bp)、URA選抜マーカー、及びCMD185遺伝子の下流(終始コドン下流28bpから1880bpまでの塩基配列)というように並んでいる。HSプロモーターは、培地を加温してGAPDH-GP-sfGFPの発現を誘導するために必要である。URA選抜マーカーはGAPDH-GP-sfGFP株の選抜に必要である。CMD184Cの後半部と下流の配列及びCMD185C遺伝子の下流は、相同組換えによってDNA断片をCMD184C下流へ挿入するために必要である。
【0103】
まず、プラスミドpD184-HSp-GAPDH-GP-sfGFPを作成するために、次の(1)、(2)、(3)、(4)及び(5)の各DNA断片を用意した。
(1)プラスミドpD184-APCCp-EGFP-URACm-Cm(pQE80(配列番号32)、CMD184Cの後半部(配列番号33)、APCCプロモーター(配列番号34)、EGFP(配列番号35)、βチューブリンターミネーター(配列番号36)、URA選抜マーカー(配列番号37)、及びCMD185C遺伝子の下流のDNA配列(配列番号38)を含む;Fujiwara et al 2013, PLoS One. 8(9): e73608; PMID:24039997)を鋳型にプライマーセット[#1d184(+25)R/#2bT3’(+1)F]を用いてPCR法によって、APCCプロモーターおよびEGFPを除く部分のDNA配列を増幅した。(1)のDNA断片の塩基配列を配列番号31に示す。
(2)HSプロモーターのDNA配列(配列番号39)を、C.merolae 10DのゲノムDNAを鋳型としてプライマーセット[#3HS(-200)Fd184/#4HS(-1)R]を用いてPCR法で増幅した。
(3)GAPDH遺伝子読み取り枠(配列番号40)を、C.merolae 10DのゲノムDNAを鋳型としてプライマーセット[#5J042(1)Fhs/#6J042(1209)R-link3]を用いてPCR法で増幅でした。
(4)GPのDNA配列をC.merolaeのコドン使用頻度に合わせて化学合成し(配列番号41)、これを鋳型にプライマーセット[#7GP(1)F-linker3/#8GP(1572)R-linker2]を用いてPCR法で増幅でした。
(5)sfGFP(配列番号42)を、pAPCC-promoter-sfGFP-pmE2F-URA(Miyagishima et al 2014, Nat Commun. 5: 3807; PMID:24806410)を鋳型としてプライマーセット[#9sfGFP(1)F-linker2/#10sfGFP(714)Rbt]を用いてPCR法により増幅でした。
【0104】
上記(1)、(2)、(3)、(4)及び(5)の各DNA断片を混ぜ、In-Fusion(登録商標)HD Cloning Kit(製品コード:639648、TAKARA)を用いてそれらを融合し、pD184-APCCp-EGFP-URACm-GsのAPCCプロモーターおよびEGFPの部分を置き換えるように、HSプロモーター、GAPDH、GP、及びsfGFPを挿入した。InFusion反応後、大腸菌コンピテントセルに導入してプラスミドを増幅し、pD184-HSp-GAPDH-GP-sfGFPを得た。次に、これを鋳型としてプライマーセット[#11D184(1200)F/#12D184(+1400)R]を用い、PCR法により、CMD184遺伝子の後半部(遺伝子ORFの1200bp-2773bpと終始コドンを含む下流25bp)、HSプロモーター、GAPDH、GP、sfGFP、βチューブリンターミネーター、URA選抜マーカー、及びCMD184C遺伝子の下流(終止コドン下流28bpから1440bpまでの塩基配列)が連結されたDNA断片を増幅した。
このDNA断片をPEG法(Ohnuma et al 2008, Plant Cell Physiol.49(1):117-20; PMID:18003671)によってC.merolaeのウラシル要求性株M4(Minoda et al 2004, Plant Cell Physiol.45(6):667-71.; PMID:15215501)に導入し、ウラシル非含有のMA2固形培地で選抜し、GAPDH-GP-sfGFP発現株を得た。
【0105】
(GAPDH-GP-sfGFPタンパク質のプロテアソームによる分解の評価)
上記のように作製したC.merolaeのGAPDH-GP-sfGFP発現株(以下、「GAPDH-GP-sfGFP発現株」という)を、三角フラスコに入ったMA2培地60mLにOD750=0.2の細胞濃度で植え継ぎ、光照射下(50μmol m-2 s-1)、40℃で2日間旋回培養した(発現前)。次に、この培養液を20mLずつ2つの三角フラスコに移した。熱刺激によってGAPDH-GP-sfGFP遺伝子発現を誘導するために、前記2つの三角フラスコを50℃のインキュベーターに移し光照射下で1時間にわたり旋回培養した。50℃に移す直前に、前記2つの三角フラスコの一方にはプロテアソームによるタンパク質分解を阻害するためにプロテアソームインヒビターMG-132を最終濃度100μMになるように加えた(MG-132(+))(Nishida et al 2005; Mol Biol Cell. 16(5):2493-502; PMID:15772156)。他方の三角フラスコにはコントロールとしてMG-132の溶媒であるDMSOのみを40μL加えた(MG-132(-))。イムノブロット法により、GAPDH-GP-sfGFPタンパク質の発現を確認し、プロテアソーム阻害の効果をバンドパターンの比較により検証した。GAPDH-GP-sfGFPタンパク質の検出には抗GFP抗体(clone JL-8,製品コード:632381、Takara)を用いた。
【0106】
イムノブロットの結果を
図1に示す。MG-132(-)では、MG-132(+)と比較してGAPDH-GP-sfGFPタンパク質のバンドが薄くなっていた。この結果から、GAPDH-GP-sfGFPタンパク質は発現後プロテアソームによって一部が分解されていることが示された。
【0107】
(GAPDH-GP-sfGFPタンパク質の細胞内局在の解析)
GAPDH-GP-sfGFPタンパク質の細胞内局在を解析するために、GAPDH-GP-sfGFP発現株を、光照射下、50℃、MG-132存在下で、1時間培養後、蛍光顕微鏡でGAPDH-GP-sfGFPタンパク質の蛍光を観察した。
【0108】
GAPDH-GP-sfGFP発現株の蛍光顕微鏡画像を
図2に示す。sfGFPの蛍光シグナルにより、GAPDH-GP-sfGFPタンパク質は細胞質に局在することが示された。
図2(A)の画像(PC)は、細胞の輪郭を示す位相差顕微鏡像であり、
図2(B)の画像(Chl)は、葉緑体の自家蛍光像であり、
図2(C)の画像(sfGFP)は、sfGFPの蛍光画像である。
【0109】
[実施例2]
(Chl-TP-3HA-GP-Co1発現株の作製)
Chl-TP-3HA-GP-Co1(
図3参照)を発現させるためのDNA断片をC.merolae 10Dの染色体のCMD184C(遺伝子番号)の下流に挿入するために、まず以下のようにプラスミドpD184-APCCp-Chl-TP-3HA-GP-Co1を作製した。
このプラスミドは、pQE80プラスミドのマルチクローニングサイトに次の配列が5’側から順に並ぶように設計された。配列は5’側から順に、CMD184C遺伝子の後半部(遺伝子ORFの773bp-2773bpと終始コドンを含む下流25bp)、APCCプロモーター(APCC/CMO250C遺伝子開始コドンに近接する上流の配列600bp)、葉緑体移行シグナルChl-TP(SECA/CMQ393C遺伝子ORFの1bp-390bp;Sumiya et al 2016, Proc Natl Acad Sci U S A. 113(47):E7629-E7638; PMID:27837024)、3xHAタグをコードする配列(HA抗体で発現を確認するため)、狂犬病ウイスルグリコプロテイン遺伝子GP(1572bp,UniProtKB accession No.P19462)、Co1ペプチドをコードする配列(Co1ペプチド:SFHQLPARSPLP(配列番号43)、腸管免疫に関与するM細胞の抗原認識を向上させるペプチド; Kim et al 2010, J Immunol. 185(10):5787-95; PMID:20952686)、βチューブリン遺伝子ターミネーター(β-tubulin/CMN263C遺伝子の終止コドンを含む下流200bp)、URA
Cm-Gs選抜マーカー、及びCMD185遺伝子の下流(終始コドン下流28bpから880bpまでの塩基配列)というように並んでいる。CMD184Cの後半部と下流の配列及びCMD185遺伝子の下流は、相同組換えによってDNA断片をCMD184C下流へ挿入するために必要である。APCCプロモーターはChl-TP-HA-GP-Co1を恒常的に発現させるために必要である(Watanabe et al 2011, J Gen Appl Microbiol. 57(1):69-72; PMID:21478650)。URA
Cm-Gs選抜マーカーはChl-TP-3HA-GP-Co1が挿入された形質転換体を選抜するために必要であり(Imamura et al 2010, Plant Cell Physiol. 51(5):707-17; PMID:20375110)、更に当該遺伝子を多コピー化させタンパク質発現量を上昇させることが可能である(Fujiwara et al 2013, PloS One 8(9):e73608; PMID:24039997)。
【0110】
プラスミドpD184-APCCp-Chl-TP-HA-GP-Co1を作成するために、次の(1)、(2)、(3)及び(4)のDNA断片を用意した。
(1)プラスミドpD184-APCCp-EGFP-URACm-Gs(pQE80(配列番号32)、CMD184Cの後半部(配列番号33)、APCCプロモーター(配列番号34)、EGFP(配列番号35)、βチューブリンターミネーター(配列番号36)、URACm-Gs選抜マーカー(配列番号44)、及びCMD185遺伝子の下流のDNA配列(配列番号38)を含む;Fujiwara et al 2013, PLoS One. 8(9):e73608; PMID:24039997)を鋳型にプライマー[#13APCC(-1)R/#14bT3’(+1)]を用いてPCR法により、EGFPを除く部分のDNA配列を増幅した。
(2)Chl-TPのDNA配列(配列番号45)を、C.merolae 10DのゲノムDNAを鋳型としてプライマーセット[#15SecA(1)Fapcc/#16SecA(390)R-linker-ha]を用いてPCR法により増幅した。
(3)3xHA(配列番号46)を、これを含むプラスミドDNA:pBSb-THA(Ohnuma et al 2008, Plant Cell Physiol. 49(1):117-20; PMID:18003671)を鋳型としてプライマーセット[#17HA(1)F/#18HA(90)R]を用いてPCR法により増幅した。
(4)GPのORFをC.merolaeのコドン使用頻度に合わせて化学合成し(配列番号40)、これを鋳型にプライマーセット[#19GP(1)Fha/#20Co1-GP(1680)Rbt]を用いてPCR法により増幅した。
【0111】
上記(1)、(2)、(3)及び(4)の各DNA断片を混ぜ、In-Fusion(登録商標)HD Cloning Kit(製品コード:639648、TAKARA)を用いてそれらを融合し、pD184-APCCp-EGFP-URACm-GsのEGFP部分を置き換えるように、Chl-TP、3xHA、及び狂犬病ウイスルグリコプロテインORFを挿入した。InFusion反応後、大腸菌コンピテントセルに導入してプラスミドを増幅し、pD184-APCCp-Chl-TP-3HA-GP-bt-URACm-Gsを得た。次に、これを鋳型として、プライマー[#11D184(1200)F/#12D184(+1400)R]を用いてPCR法により、CMD184C遺伝子の後半部(遺伝子ORFの1200bp-2773bpと終始コドンを含む下流25bp)、APCCプロモーター、Chl-TP、3xHA、GP、Co1ペプチド、βチューブリンターミネーター、URACm-Gs選抜マーカー、及びCMD185C遺伝子の下流(28番目から1440bp番目までの塩基配列)が連結されたDNA断片を増幅した。
このDNA断片をPEG法(Ohnuma et al 2008, Plant Cell Physiol. 49(1):117-20; PMID:18003671)によってC.merolaeのウラシル要求性株M4(Minoda et al 2004, Plant Cell Physiol. 45(6):667-71; PMID:15215501)に導入し、ウラシル非含有のMA2固形培地で選抜し、Chl-TP-3HA-GP-Co1発現株を得た。
【0112】
(Chl-TP-3HA-GP-Co1タンパク質のプロテアソームによる分解の評価)
上記のように作製したC.merolaeのChlTP-sfGFP-HA-GP-Co1発現株(以下、「Chl-TP-3HA-GP-Co1発現株」という)、及びネガティブコントロールとしての野生株(WT)を、それぞれ三角フラスコに入ったMA2培地60mLにOD750=0.2の細胞濃度で植え継ぎ、光照射下(50μmol m-2 s-1)、40℃で2日間旋回培養した。次に、各株の培養液を20mLずつそれぞれ2つの三角フラスコに移した。前記2つの三角フラスコの一方にはプロテアソームによるタンパク質分解を阻害するためにプロテアソームインヒビターMG-132を最終濃度100μMになるように加えた(MG-132(+))(Nishida et al 2005; Mol Biol Cell. 16(5):2493-502; PMID:15772156)。他方の三角フラスコにはコントロールとしてMG-132の溶媒であるDMSOのみを40μL加えた(MG-132(-))。イムノブロット法により、ChlTP-sfGFP-HA-GP-Co1タンパク質の発現を確認し、プロテアソーム阻害の効果をバンドパターンの比較により検証した。ChlTP-sfGFP-HA-GP-Co1タンパク質の検出には抗HA抗体(clone 16B12,製品コード:901503、Biolegend)を用いた。
【0113】
イムノブロットの結果を
図4に示す。MG-132(-)及びMG-132(+)の間で、ChlTP-sfGFP-HA-GP-Co1タンパク質のバンドパターンの違いは見られなかった。この結果から、ChlTP-sfGFP-HA-GP-Co1タンパク質はプロテアソームによる分解を受けていないことが示された。
【0114】
(ChlTP-sfGFP-HA-GP-Co1タンパク質の細胞内局在の解析)
ChlTP-sfGFP-HA-GP-Co1タンパク質の細胞内局在を解析するために、光照射下、40℃、MG-132非存在下で2日間培養したChl-TP-3HA-GP-Co1発現株を固定し、抗HA抗体を用いて免疫蛍光染色を行った。
【0115】
免疫蛍光染色の結果を
図5に示す。抗HA抗体のシグナルにより、ChlTP-sfGFP-HA-GP-Co1タンパク質が葉緑体(中央部分にあるチラコイドと包膜の間)に局在することが示された。
図5(A)の画像(PC)は、細胞の輪郭を示す位相差顕微鏡像であり、
図5(B)の画像(Chl)は、葉緑体の自家蛍光像であり、
図5(C)の画像(anti-HA)は、抗HA抗体による免疫蛍光染色画像である。抗HA抗体により検出されたChlTP-sfGFP-HA-GP-Co1タンパク質の葉緑体への局在が確認できる。
【0116】
実施例1及び実施例2で用いたプライマーの配列を表1に示す。
【0117】
【0118】
[実施例3]
(GAPDH-GP-sfGFP発現株のマウスへの投与)
GAPDH-GP-sfGFP発現株を1.3×108cells/mL(OD750=4)となるように、300mMグルコース液(等張液)に懸濁し、懸濁液250μLを、ゾンデを用いてマウス(ICR系)の胃に直接送達した。その後、0、0.5、1.0時間後に、胃、小腸上部、および小腸下部を摘出し、300mMグルコース液1mLに摘出した各臓器を懸濁した。前記懸濁液を遠心後、その上清を分取してsfGFPに対するELISAアッセイを行い、450nmの吸光度を測定した。
【0119】
各臓器におけるsfGFPの相対濃度(ELISAアッセイによる450nmの吸光度)の測定結果を表2に示す。sfGFPは、胃ではほとんど検出されず、投与直後から小腸で検出された。この結果は、藻体の細胞が、投与後直ちに胃から腸に移行し、胃では破裂せず腸で破裂したことを示す。
【0120】
【0121】
[実施例4]
(sfGFP発現株を含むアルギン酸固化飼料のマウスへの給餌)
sfGFPを細胞質に発現させラベルしたC.merolae 10D(Sumiya et al 2014, PLoS One. 9(10):e111261; PMID:25337786)の細胞(sfGFP発現株)を市販餌(CLEA Rodent Diet CE-2、日本クレア株式会社)に混ぜ、以下のようにアルギン酸で固化させて飼料サンプルとした。
sfGFP発現株を懸濁した300mMグルコース液(等張液)(OD750=4)27mLを、3,000gで10分間遠心し、沈殿した細胞を採取した。前記sfGFP発現株の細胞、及び1.12gの市販餌(CE-2)を、1%アルギン酸ナトリウムを含む2.5%スクロース溶液10mLに懸濁した。次いで、前記懸濁液を10%塩化カルシウム溶液に滴下して、sfGFP発現株及び市販餌を含むアルギン酸固化体の飼料サンプルを得た。前記飼料サンプルにおけるsfGFP発現株の含有量は、4.6mg湿重量/g(一粒80~110mg)である。
前記飼料サンプルを、マウス(ICR系)に4時間自由摂取させた後、通常飼育を行った。摂取開始の4、8、24、及び48時間後に、マウスの胃腸、小腸上部、小腸下部を摘出した。摘出した各臓器を300mMグルコース溶液に懸濁し、1,000gで遠心した後、上清を回収し、sfGFPの細胞外濃度測定用サンプルとした。上清回収後、回収した上清と等量の蒸留水(DW)を加えて沈殿を再懸濁し、1,000gで遠心した後、上清を回収し、sfGFPの細胞内濃度測定用サンプルとした。前記細胞外濃度測定用サンプル及び細胞内濃度測定用サンプルにおけるsfGFP量を市販のELISA kit(GFP ELISA kit;cat no.ab171581、abcam)で定量し、それぞれ細胞外濃度、及び細胞内濃度とした。
【0122】
各臓器におけるsfGFPの相対濃度(ELISAアッセイによる450nmの吸光度)の測定結果を表3示す。sfGFPは、細胞外濃度及び細胞内濃度のいずれも、胃よりも小腸の方が高い濃度で検出された。また、小腸下部では、小腸上部に比較して、sfGFP濃度が高く、細胞外濃度に対する細胞内濃度の比率も増加した。この結果は、藻体の細胞が、小腸で破裂し、sfGFPが小腸細胞に取り込まれたことを示す。
【0123】
【0124】
[実施例5]
(投与実験と血清の採取)
「コントロール懸濁液投与群」として、sfGFP発現株を1.3×108cells/mL(OD750=4)となるように、300mMグルコース液(等張液)に懸濁し、懸濁液300μLを、ゾンデを用いてマウス(ICR系;3個体)の胃に直接送達した。隔週で同量を6回経口投与し、最終投与2週後に血清を取った。
【0125】
「懸濁液投与群」としてChl-TP-3HA-GP-Co1発現株(C.merolaeのChlTP-sfGFP-HA-GP-Co1タンパク質発現株)を1.3×108cells/mL(OD750=4)となるように、300mMグルコース液に懸濁し、懸濁液300μLを、ゾンデを用いてマウス(ICR系;4個体)の胃に直接送達した。隔週で同量を6回経口投与し、最終投与2週後に血清を取った。
【0126】
「アルギン酸固化飼料投与群」としてChl-TP-3HA-GP-Co1発現株(C.merolaeのChlTP-sfGFP-HA-GP-Co1タンパク質発現株)を懸濁した300mMグルコース液(OD750=4)27mLを、3,000gで10分間遠心し、沈殿した細胞を採取した。Chl-TP-3HA-GP-Co1発現株の細胞、及び1.12gの市販餌(CE-2)を、1%アルギン酸ナトリウムを含む2.5%スクロース溶液10mLに懸濁した。次いで、この懸濁液を10%塩化カルシウム溶液に滴下して、Chl-TP-3HA-GP-Co1発現株及び市販餌を含むアルギン酸固化体の飼料サンプルを得た。Chl-TP-3HA-GP-Co1株の含有量は、4.6mg湿重量/g(一粒80~110mg)である。飼料サンプルを、マウス(ICR系;4個体)に自由接取させた後、通常飼育を行った。飼料サンプルの接餌は隔週で6回行い、最終接餌2週後に血清を取った。
【0127】
(抗GPタンパク質抗体産生の評価)
イムノブロット法によって抗GPタンパク質抗体の産生を確認した。まず狂犬病ウイルスのGPタンパク質のアミノ末端に6×ヒスチジンタグ配列を融合するために、GP遺伝子のORFをpQE80ベクター(6×ヒスチジンタグ配列を含む、製品コード:32923、QIAGEN)にクローニングしプラスミドを作成した。大腸菌にこのプラスミドを導入し、6×ヒスチジンタグ融合GPタンパク質(タンパク質サイズ:約50kDa)を発現させた。これをニッケルカラム(製品コード:17531901、GEヘルスケア)を使って濃縮した。次にSDS-PAGE法によって6×ヒスチジンタグ融合GPタンパク質濃縮液を電気泳動で分離した。電気泳動後のゲルからポリフッ化ビニリデン(PVDF)メンブレン(製品コード:IPVH00010、メルク)にタンパク質を転写した。これを各マウス個体から採取された血清の希釈液に漬けて室温で1時間インキュベートした。血清希釈液は、血清をトリス緩衝液(pH7.5,0.1%Tween20を含む)に500分の1に希釈することで調整した。血清に含まれる抗GPタンパク質抗体の有無は、50kDa付近に位置するGPタンパク質への抗体反応の有無として判断された。
【0128】
(結果)
イムノブロットの結果を
図6に示す。ネガティブコントロールである「コントロール投与群(液)」のマウス個体1、2、3の血清希釈液では、狂犬病GPタンパク質の分子量サイズである約50kDaの位置にバンドが検出されなかった(
図6(C))。これに対し、「アルギン酸固化飼料投与群」のマウス個体2、3、4(
図6(A))および「懸濁液投与群」のマウス個体3、4(
図6(B))では、約50kDaの位置にバンドが検出された。この結果から、狂犬病GPタンパク質を発現させたC.merolaeの懸濁液又はアルギン酸固化飼料を投与したマウスは、抗GPタンパク質抗体を産生したことが示された。
【0129】
(考察)
「コントロール懸濁液投与群」のマウス個体2では、6×ヒスチジンタグ融合GPタンパク質の予測サイズよりも小さなサイズのバンドが検出されたが、これは6×ヒスチジンタグ融合GPタンパク質濃縮液に含まれる大腸菌由来のタンパク質に対して、GPタンパク質の投与とは無関係に、当該マウス個体が持つ抗体が非特異的に反応したものであると考えられる。
【0130】
一連の実施例により、本発明に用いられる耐酸性細胞を利用して、適切に導入した抗原性タンパク質は、小腸上部以降の部位に送達できることが確かめられた。また、本発明の抗原性タンパク質が導入された耐酸性細胞を通常の畜産、養殖業で用いることが可能な形態として食餌中に混入させた場合においても、同様に目的の部位に抗原性タンパク質を送達できることが確かめられた。さらには、そのようにして送達された抗原性タンパク質は腸管免疫システムを駆動させることにより血中においても抗体が産生されていることが確かめられた。