(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167244
(43)【公開日】2024-12-03
(54)【発明の名称】投影された光を使用して粒子を制御するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
G02F 3/00 20060101AFI20241126BHJP
【FI】
G02F3/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024135524
(22)【出願日】2024-08-15
(62)【分割の表示】P 2021538947の分割
【原出願日】2020-01-03
(31)【優先権主張番号】16/239,997
(32)【優先日】2019-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】390023641
【氏名又は名称】ウイスコンシン アラムナイ リサーチ ファウンデーシヨン
【氏名又は名称原語表記】WISCONSIN ALUMNI RESEARCH FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】サフマン マーク
(57)【要約】 (修正有)
【課題】投影された光を使用して粒子を制御するためのシステム及び方法が提供される。
【解決手段】この方法は、光源を使用して光ビームを生成し、光ビームを、第1のマスク、第1のレンズ、第2のマスク及び第2のレンズを含むビームフィルタに向けることを含む。この方法はまた、ビームフィルタを使用して光パターンを形成し、複数の粒子上に光パターンを投影してこれら粒子の空間内の位置を制御することを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
投影された光を使用して粒子を制御するためのシステムであって、
複数の粒子を提供するように構成された粒子システムと、
前記複数の粒子の原子共鳴からシフトした周波数の光ビームを生成するように構成された光源と、
前記粒子システムと前記複数の粒子との間に配置され、第1のマスク、第1のレンズ、第2のマスク及び第2のレンズを含むビームフィルタと、を備え、
前記光源、前記ビームフィルタ及び前記粒子システムは、前記光源からの光ビームが前記ビームフィルタを通過し、前記複数の粒子上に投影されて、空間内の前記粒子の位置を制御する光パターンを形成するように配置されている、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<連邦政府による資金提供を受けた研究に関する記載>
本発明は、ARMY/ARLから授与されたW911NF-15-2-0061及び米国科学財団から授与された1720220の下で政府の支援を受けてなされたものである。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
本開示の分野は、粒子を制御するためのシステム及び方法に関する。より詳細には、本開示は、投影された光を使用して粒子をトラップするためのシステム及び方法に関する。
【0003】
光学技術を用いて粒子を閉じ込め操作する能力により多くの科学的進歩の道が開かれた。例えば、欠陥のない人工結晶が、トラップされた粒子を用いて作られ、相互作用及び材料特性を支配する様々な基本原理を調べるために使用されてきた。中性原子は明確に定義された量子構造及び電荷中性を有することから特に魅力的であった。電荷中性は電荷に関する摂動から原子を隔絶し、より長い時間にわたり量子情報を保持するのに役立つ。加えて、中性原子は個別に制御でき、大規模システムにスケールできる。
【0004】
原子は、適用された光の電磁場と原子に誘起された振動する電気双極子モーメントとの間のコヒーレントな相互作用によってトラップされた状態となる。具体的には、電磁場によって内部の原子エネルギーシフトが誘起され、これにより、閉じ込め力(confinement forces)を生む有効ポテンシャルが生じる。原子をトラップするために、光の周波数は通常、原子共鳴周波数に対してシフトされる、即ち離調される。特に、光の周波数が原子遷移周波数より低い場合、即ち「赤離調」された場合、誘起された原子双極子モーメントは同相であり、原子は光の強度の最大部分(intensity maxima)に(強度が最大となるほうに)引きつけられる。引力の強さは離調の大きさに依存する。これに対し、周波数が「青離調」された場合、誘起されたモーメントは位相不一致となり、原子は最大部分から反発する。さらに、引力/反発力の強さは、適用される光の強度又はパワーを制御することによって変更することができる。
【0005】
光学技術はまた、量子コンピューティングや原子時計アプリケーション向けに原子のアレイをトラップするために広く使用されてきた。アレイは、1次元、2次元又は3次元の構成又は光格子で用意される。明るい、赤離調されたアレイは局所的最大部分に原子を局在させ、暗い、青離調されたアレイは局所的最小部分に原子を局在させる。一般に、暗いアレイは、より複雑な光学系を必要とするが、強度が低いところで原子を局在させることにより、摂動を少なくするという重要な利点を提供する。これは、原子キュービットのコヒーレンス時間を延ばしたり、光学時計における原子への外乱を最小限に抑えたりするのに重要である。
【0006】
光格子は、通常、異なる光源からの光の干渉によって形成される。例えば、2つの対向伝搬レーザビームを重ね合わせることによって生成される定在波を用いて1D格子を作成することができる。より高次元の光格子は追加の光源を要する。例えば、3対の対向伝搬光源を用いて生成される3つの直交定在波を重ね合わせることにより、3Dシンプル立方格子構造を作成することができる。しかしながら、対向伝搬ビームの干渉によって生成される格子における原子の位置は、光路長に対して非常に敏感である。わずかなドリフトがビーム間の差動位相シフトを引き起こし、原子の位置に大きな影響を及ぼす。位相シフトは、原理上はアクティブな安定化を用いることによって補償することができるが、このような技術は通常単一原子に適用される。これは、複数の原子に対してはアクティブな安定
化を行うために必要なシステムの複雑さが増すためである。
【0007】
干渉縞の位置は干渉光ビームの相対的位相に対して敏感であり、従って光路長に対して敏感である。このような敏感さは、干渉安定性を必要としない強度パターンを投影することによって除去することができる。但し、投影された光は自由空間で繰り返される位相コヒーレント光の周期的性質から生じるタルボット効果により複数の光トラップ面を形成する。これによって、複数の空間面における不要な原子トラップがおこる場合がある。この効果を抑制する試みにおいて、いくつかの従来技術では、各光トラップに対して異なる周波数の光が利用されるか、又は各トラップにランダム位相を付与するために空間光変調器が利用される。しかしながらそのような手法はシステムの複雑さ及びコストを大きく増大させる多数の構成要素(例えば、音響光学偏向器、空間光変調器、回折、偏光に敏感な光コンポーネントなど)を必要とする。
【0008】
以上のことから、実施が簡単で、光学的位相ゆらぎによる位置のドリフト、クロストーク及びタルボット効果のような望ましくない影響を回避できる、粒子閉じ込めのためのシステム及び方法が必要とされる。
【発明の概要】
【0009】
本開示は、投影された光を使用して粒子を制御するためのシステム及び方法を提供することによって、従来技術の欠点を克服する。
【0010】
本開示の一態様では、投影された光を使用して粒子を制御するためのシステムが提供される。このシステムは、複数の粒子を提供するように構成された粒子システムと、複数の粒子の原子共鳴からシフトした周波数の光ビームを生成するように構成された光源と、を備える。このシステムはまた、粒子システムと複数の粒子との間に配置され、第1のマスク、第1のレンズ、第2のマスク及び第2のレンズを含むビームフィルタを備え、光源、ビームフィルタ及び粒子システムは、光源からの光ビームがビームフィルタを通過し、複数の粒子上に投影されて、空間内の粒子の位置を制御する光パターンを形成するように配置されている。
【0011】
本開示の別の態様では、投影された光を使用して粒子を制御する方法が提供される。いくつかの態様では、この方法は、光源を使用して光ビームを生成する工程と、光ビームを、第1のマスク、第1のレンズ、第2のマスク及び第2のレンズを含むビームフィルタに向ける工程と、を有する。この方法はまた、ビームフィルタを使用して光パターンを形成する工程と、複数の粒子に光パターンを投影して、空間内の複数の粒子の位置を制御する工程と、を有する。
【0012】
本発明の上記の及び他の態様及び利点は以下の記載から明らかとなるであろう。本明細書では、本明細書の一部を形成する、本発明の好ましい実施形態を例示する添付の図面を参照する。しかしながら、このような実施形態は必ずしも本発明の完全な範囲を表すものではなく、したがって本発明の範囲は、特許請求の範囲及び本明細書を参照して解釈すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の態様によるシステムの概略図である。
【
図2A】本開示の態様によるビームフィルタの一実施形態の概略図である。
【
図2B】本開示の態様によるビームフィルタの別の実施形態の概略図である。
【
図3A】本開示の態様による一例のマスクの斜視図である。
【
図3B】本開示の態様による別の例のマスクの斜視図である。
【
図4A】本開示の態様による一例のビームフィルタの図である。
【
図4B】本開示の態様による別の例のビームフィルタの図である。
【
図4C】
図4Bに示されているビームフィルタに使用される一例のマスクの図である。
【
図5】円形開口の均一な照射から得られるガウシアンビーム(I
G)及びエアリーガウシアンビーム(I
2)についての強度プロファイルを比較するグラフである。
【
図6】ガウシアンビーム(I
G)、エアリーガウシアンビーム(I
AG)、暗エアリーガウシアンビーム(|1-E
AG|
2)及び暗ガウシアンビーム(|1-E
G|
2)について、フレネル回折により計算された軸方向座標zの関数としての軸上強度を比較するグラフである。
【
図7】本開示の態様によるさらに別の例のビームフィルタの図である。
【
図8】本開示によるプロセスの工程を定めるフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
従来の粒子トラップ技術は、一般に、相互にコヒーレントな光ビーム間の干渉を頼りにしている。この手法は、ビームのミスアラインメントに対する感度、光源位相ドリフト及び位相ノイズを含む多くの欠点に関する問題を有する。対照的に、本発明者らは、投影された光の場(light fields)を用いて粒子をトラップできることを発見した。全体が参照により本明細書に組み込まれている米国特許第9,355,750号に詳しく記載されているように、投影された光の場を用いて、従来技術の欠点を克服し、多くの利点を提供することができる。例えば、投影された光の場を使用してなされた粒子のトラップは、スケールすることが可能であり、より深いトラップ深度を提供することができ、光源位相ドリフト又はノイズによって位置又は深度が変更されることがない。さらに、トラップサイトごとに必要なエネルギーが少なく、これにより、与えられたエネルギーに対してより多くのサイトをもたらすことができる。
【0015】
実施の容易さ及びコストのような実際的な考慮事項を認識し、本開示は、光の場を使用して粒子をトラップするための新規な手法を導入する。特に、本開示は、トラップの強さ及び粒子局在性を改善することによって、従来技術よりも性能を向上させるシンプルかつ低コストの解決手段を提供する。さらに、本手法はロバスト性を高めるとともに、光の効率的利用を行う。
【0016】
以下の記載から理解されるように、本発明は、様々な技術分野を改善するために使用することができる。例えば、本開示により生成される原子粒子アレイは、量子コンピュータ又は量子コンピュテーションシステムのハードウェア構成の一部であり得る。加えて、本明細書の方法を使用してトラップされた原子は、原子時計又は原子センサとして使用でき、量子シミュレーションアプリケーションでも使用できる。他の改良された技術分野には、オプトメカニクス及び小さいスフェアアプリケーションが含まれ得る。例えば、トラップ粒子(例えば、マイクロスフェア、ナノスフェア)は、物理量を測定するためのプローブとして又は光周波数コムのためのレーザ源として使用されてもよい。
【0017】
図1を参照すると、本開示の態様による一例のシステム100の概略図が示されている。システム100は概して、光源102、ビームフィルタ104及び粒子システム106を含んでもよい。システム100には、光源102、光フィルタ104及び/又は粒子システム106と通信し、これらを制御するように構成されたコントローラ108がオプションで含設けられてもよい。
【0018】
光源102は光を生成するための様々なハードウェアを含んでもよい。特に光源102は、様々な周波数、波長、電力レベル、空間プロファイル、時間的変調(例えば、周期的又は非周期的)等を有する光を生成するように構成されてもよい。いくつかの態様では、光源102は少なくとも1つの原子共鳴からシフトされた周波数を用いて光の場を生成す
るように構成されてもよい。例えば、光源102は青離調された光又は赤離調された光を生成するように構成されてもよく、離調の量はトラップされる粒子の種(例えば、原子種)に依存してもよい。一例として、離調は約10~約100ナノメートルの範囲であってもよい。
【0019】
一実施形態では、光源102は約500nm~約1500nmの範囲の波長を有する光を生成するレーザを含むが、他の波長も可能である。別の実施形態では、光源102は複数の周波数で動作する複数のレーザを含み、レーザ間の周波数分離は目標のコヒーレンスを達成するように構成される。周波数は、光パターンの様々な光領域間の完全なコヒーレンス、部分的コヒーレンス又はインコヒーレンスを達成するように選択されてもよい。ある非限定的な実施例では2つの周波数を利用することができ、波長の差は約100ナノメートルまで異ならせることができるが、他の値も可能である。このようにして、特定の光の場を形成する異なる構成要素を、相互にインコヒーレントとなるように構成することができる。
【0020】
光源102の下流に配置されるビームフィルタ104は、光源102によって生成される(複数の)光ビームを制御するように構成される。特にビームフィルタ104は生成された光を使用して光パターンを形成するように構成されており、光パターンが様々な粒子(例えば中性原子)に投影されて空間内の粒子がトラップされる。具体的に
図2Aを参照すると、ビームフィルタ104は、第1のマスク202、第1のレンズ204、第2のマスク206及び第2のレンズ208を含んでもよく、入射光200が、第1のマスク202、第1のレンズ204、第2のマスク206及び第2のレンズ208を順に通過し、その後、ビームフィルタ104を出て光パターン210を形成するように構成される。別の変形例では、
図2Bに示すように、ビームフィルタ104は、第1のマスク202と第1のレンズ202との間に配置された第3のマスク212をさらに含んでもよく、第3のマスク212は位相スクランブリングマスクを含んでもよい。位相スクランブリングマスクは多数のスクランブル領域を含んでもよく、各スクランブル領域が自身を通過する光に位相シフトを伝えて与える。いくつかの実施形態では、異なる位相スクランブリング領域によってもたらされる位相シフトは互いに異なっており、2πにわたって位相スクランブリングマスク全体にランダムに分布する。この目的のために、異なる位相スクランブリング領域は、異なる誘電特性又は層を含んでもよい。
【0021】
いくつかの態様では、第1のマスク202は、明領域及び暗領域を含む光パターンを生成するように構成された様々な透過領域(例えば、開口)及び反射領域を有してもよい。明領域及び暗領域は、光誘起されるトラップ力によって1つ又は複数の粒子の位置を所望のパターンに閉じ込めるように構成される。本明細書で使用される場合、「明」とは光強度最大部分の領域を指し、「暗」とは光強度最小部分の領域を指す。いくつかの非限定的な実施例では、光パターンは、それぞれ、1つ以上の明スポットのアレイ又は暗スポットのアレイを含んでもよい。例えば、光パターンは、一次元(1D)又は二次元(2D)アレイに配置された明スポット又は暗スポットのアレイを含んでもよい。他の1Dアレイ及び2Dアレイも可能である。例えば、平行四辺形グリッド、三角形グリッド又は六角形グリッドのような非直線グリッド、並びに明領域及び暗領域の構成が作成されてもよい。加えて、いくつかの実施例では、光パターンは、様々な望ましい空間的分離を間に有する明領域及び/又は暗領域の複数の1Dアレイ又は2Dアレイを含む3D構成を含むことができる。
【0022】
いくつかの実施形態では、ビームフィルタ104の第1のマスク202は、
図3A及び
図3Bに示すように反射面300を用いて形成されてもよい。反射面300は、所定の反射率rを有する反射層304で被覆された基板302(例えば、ガラス又は他の透明基板)を含んでもよい。
図3Aに示すように、反射層304は、光を透過させることができる
少なくとも1つの開口306を形成するために基板302の一部を覆ってもよい。このようにして、反射面300に光が当たったときに1つ又は複数の明スポットが形成されてもよい。いくつかの変形例では、開口306は基板302を貫通して延在してもよい。あるいは、反射層304は、
図3Bに示すように、少なくとも1つの暗スポットを形成するように基板302上に反射領域308を形成してもよい。
図3Aの開口306及び
図3Bの反射領域308は円形で示されているが、これらは所望の光パターンに応じて様々な他の形状(例えば、直線、長方形、正方形、楕円形及び他の規則的若しくは不規則な形状)、数、寸法及び空間的配置/間隔を有してもよい。
【0023】
再び
図1を参照すると、粒子システム106は多数の粒子を提供及び制御するように構成されてもよい。具体的には、粒子システム106は、粒子を生成、移送、操作及び概ね閉じ込めるように構成された種々の材料、気体及びハードウェアを含んでもよい。例えば、粒子システム106は真空システムを含むことができ、そして真空システム内の粒子を生成、移送及び閉じ込める能力を含むことができる。いくつかの非限定的な例では、粒子は、Rb、Cs、Ho、Sr、Tb、Caなどのような任意の種の中性原子又はそれらの組み合わせを含んでもよい。但し本発明のシステム及び方法はアルカリ又は原子粒子に限定されず、光閉じ込めに適した任意の粒子又は分子に適用することができる。いくつかの態様では、粒子システム106は、トラップを容易にするために任意の所望の温度に粒子を冷却する能力を備えるよう構成されてもよい。例えば、粒子システム106は粒子を1~100マイクロケルビンの範囲の温度に冷却するためのレーザを含んでもよいが、上記値は他の値でも可能である。あるいは、光源102をこの目的のために使用してもよい。加えて、粒子システム106は生成される光の場を内部の粒子に容易に投影するための様々な光学素子を含んでもよい。
【0024】
いくつかの実施形態では、システム100は、生成された光の場を方向づけ、伝達、変更、集束、分割、変調、増幅して、種々の形状、サイズ、プロファイル、配向、偏光、強度及び任意の他の望ましい光特性を達成するための、種々の他のハードウェア及び光学素子を含んでもよい。例えば非限定的な実施例では、システム100は、レーザによって放射されるガウス形状ビームを、例えば、鋭いエッジを有する均一強度光ビームに変換するように構成されたトップハットビームシェーパーを含んでもよい。システム100はまた、種々のビームスプリッタ、ビームシェーパー、シェーパー、回折素子、屈折素子、回折格子、ミラー、偏光子、変調器などの他の光学素子を含んでもよい。これらの光学素子は、光源102とビームフィルタ104との間に及び/又はビームフィルタ104の後に配置されてもよい。
【0025】
さらに、システム100は、本開示に従って構成及び配置された粒子の量子状態をハードウェア制御又は質問することを含む他の能力をオプションで含んでもよい。このような能力は量子コンピュテーションなどを含むアプリケーションを容易にする。これらは、他のタスクと共に、オプションで、
図1に示すコントローラ108によって実行されてもよい。例えば、コントローラ108は光源102をトリガして光を生成するように構成することができる。加えて又は代替的に、コントローラ108は粒子システム106の動作及びその種々の構成要素の動作を制御するように構成されてもよい。
【0026】
いくつかの実施形態では、システム100のビームフィルタ104は、フーリエフィルタリング又は「4f」光学配置を使用して光パターンを生成するように構成されてもよい。特に
図4Aを参照すると、ビームフィルタ104は、半径aの円形開口を有する第1のマスク402、焦点距離f
1を有する第1のレンズ404、半径bを有する円形開口を有する第2のマスク406、及び焦点距離f
2を有する第2のレンズ408を含んでもよい。図に示すように、第1のマスク402及び第2のマスク406は第1のレンズ404の焦点距離f
1に位置する。さらに、第2のマスク406は第2のレンズ408の焦点距離
f
2に位置する。ビームフィルタ104が均一に照射されると、入力光400の一部が入力面に位置する第1の開口402を横切って通り、第1のレンズ404により、第2のマスク406が位置する第1のレンズの後方の焦点面においてエアリー光パターンを生成する。その後、第2のマスク406によりエアリー光パターンがフィルタリングされ、フィルタリングされたエアリーパターンは第2のレンズ408によってフーリエ変換されて、出力面において光パターン410が生成される。標準光回折理論を用いると出力面における場は次式で与えられる。
【0027】
【0028】
式中、A0は入力光400の振幅である。式(1)のベッセル関数の有限積分は、次式を用いてbのべき級数で表すことができる。
【0029】
【0030】
ここで、2F1は超幾何関数である。いくつかの態様では、第2のマスク406の焦点距離及び開口は、f1=f2=f及びb=(f/ak)x1として選択することができ、式中、x1が3.8317がJ1の最初のゼロである。この選択は、中央ローブの外側のエアリーリングをブロックすることに対応し、この結果、中央ローブにおける総合的パワーは全パワーI0πa2(ここでI0は入力強度)の0.84であることから、わずかなパワーロスしか生じない。これらの選択により、出力場はべき級数としてρ2/aで表すことができる。主項は以下のとおりである。
【0031】
【0032】
得られた光パターンはエアリー・ガウス(AG)ビームと呼ばれるが、これはビームフィルタ104によりエアリー光パターンがフィルタリングされて強度がほぼガウシアンの形を有するためである。
図5に示すように、AGビームは原点近傍においてρ
2の二次関数である。二次項をガウシアン強度プロファイルの二次項とマッチングさせると、
【数4】
が得られ、ここでw=0.974aである。したがって、良好な近似として、均一に照らされた円形開口のフーリエフィルタリングにより、開口半径aよりもわずかに小さいウェストパラメータを有するガウシアンプロファイルが生成される。AGビームは純粋なガウシアンではなく
図5の挿入図に見られるような二次ローブを有するが、このローブはプロファイルが回折伝搬後もガウシアンのプロファイルに近いままであるほどに十分に弱い。注目すべきことは、時間反転対称性が暗示するのは、同様の二重開口セットアップにガウシアン又はガウシアンに近いビーム(near-Gaussian beam)を通過させて伝搬させることにより、均一又はほぼ均一なビームを効率的に用意することが可能であるということである。従って、いくつかの実施形態では、
図4Aに示すビームフィルタ104を使用して均一なビームを用意することもできる。そのためには、ガウシアンビーム又はガウシアンに近いビームを、逆方向に、ビームフィルタ104を通って(即ち、第2のレンズ408、第2のマスク406、第1のレンズ404及び第1のマスク402を順次通って)伝搬させて、これにより、入射ビームを均一な強度プロファイル及び鋭いエッジを有するビーム(例えば、トップハットビーム)に変換してもよい。
【0033】
ビームシェーピングに対する上記のフーリエフィルタリング手法は、ガウシアンビームのアレイを作成するために容易に拡張することができる。具体的に
図4Bを参照すると、いくつかの実施形態において、ビームフィルタ104の第1のマスク402は、間隔dを有する二次元グリッド上に配置された開口のアレイを含んでもよい。第1のマスク402の各開口を透過する光の場は、式(1)で与えられる形を有し、出力面内の位置-ρ
ijに現れる。ここでρ
ijは第1のマスク402の軸412に対するij番目の開口の位置である。間隔がおよそd>3aの関係を満足するとき、隣接するビーム間の干渉は無視できる。いくつかの態様では、出力面における明スポットのアレイを任意の所望の拡大率で再イメージングして、d
out=(df
2/f
1)×Mによって与えられる間隔を有するビームのアレイを作成することができる。ここでMは再イメージング光学系の拡大率である。
【0034】
アレイ作成の効率はε=It/Idと定義することができる。Itは出力ビームのピーク強度であり、Id=P/d2はd×d単位セル当たりのパワーPを有する入力強度である。そうするとピーク強度は次のように表すことができる。
【0035】
【0036】
したがって、ε=1.66であり、aの値とは無関係である。
【0037】
量子コンピュテーションのようないくつかのアプリケーションでは、ガウシアンプロファイルを有する暗スポットのアレイが光強度の局所的最小部分で粒子をトラップするために望まれる場合がある。このように、広い入力ビーム即ち平面波と、等しい振幅及びπ位相差を有する明ガウシアンビームとを組み合わせることで、破壊的干渉から場ゼロを作り出すことによって、暗スポットを作り出すことができる。そのようにするために、
図4Bに示すビームフィルタ104の第1のマスク402を、
図4Cに示すような、半径aを有する反射スポットのアレイを有するか、そうでなければ完全に透過させる、修正された第1のマスク402´で置き換えることができる。いくつかの実施形態では、
図3Bを参照して記載されるように、修正された第1のマスク402´は、透明基板と、部分又は全反
射領域(例えば、円形スポット)のアレイとを使用して形成されてもよい。
【0038】
特に
図4Bを参照すると、修正された第1のマスク402´を透過する光の場は次のように表すことができる。
【0039】
【0040】
式中、Edは修正された第1のマスク402´に入射する平面波の振幅であり、Eijはij番目の開口を通過する光の場であり、rは各スポットの反射率である。単一の開口の場よりもはるかに広い可能性がある平面波は、修正された第1のマスク402´及びビームフィルタ104を完全に透過するであろう。したがって、出力面での場は以下のようになる。
【0041】
【0042】
式中、E
2,ijは出力面内の位置-ρ
ijを中心とする式(1)の場である。r=1/√1.66=0.78を選択すると、ガウシアンプロファイルを有する強度パターンで囲まれた-ρ
ijの場にゼロが存在することになる。そして、効率は、
【数8】
によって与えられ得る。
【0043】
この効率は、上記したように明スポットのアレイについて得られたものよりも幾分低い。それにもかかわらず、両方の効率は従来の方法と比較して有利である。具体的には、回折光学素子を用いてガウシアンビームアレイで先に作成した暗スポットはε≦0.51であり、ラインアレイはε≦0.97である。対照的に、本フーリエフィルタリング手法は、そのようなアレイを用意するために使用される回折マルチスポット格子がおよそ0.75の効率を有することから、ラインアレイよりもかなり良い効率をもたらす。その理由の1つには、均一な照明を提供するビームシェーパー(例えば、トップハットビームシェーパー)がほぼ100%の効率を有することができることが挙げられる。
【0044】
粒子又は原子トラッピングにおいて重要なパラメータはItに比例するトラップの深さと空間的局在性である。トラップ粒子がトラップポテンシャルの深さに比べて小さい運動エネルギーを有するとき、局在度はトラップ中心付近の強度の二次変動によって支配される。強度最大部分付近に粒子を局在させる明トラップの場合、トラップポテンシャルは次のように表すことができる。
【0045】
【0046】
式中、ρは半径座標、zはトラップ軸に沿った軸座標である。運動温度Tを有する粒子に対して、ビリアルの定理は次のようになる。
【0047】
【0048】
式中、kBはボルツマン定数である。したがって、粒子位置の標準偏差は以下の通りとなる。
【0049】
【0050】
ウェストパラメータwG及び光波長λを有する理想的なガウシアンビームの場合、以下の通りとなる。
【0051】
【0052】
したがって、式(10)は次のように表され得る。
【0053】
【0054】
エアリー・ガウスビームの場合、wG=0.974aであり、位置偏差は以下のとおりである。
【0055】
【0056】
a=d/3を用いると、位置係数は次のように表すことができる。
【0057】
【0058】
式(12)及び式(14)は、明光トラップに対する位置の広がりを与える。ガウスビームと平面波を干渉させて作られた暗光トラップでは、原点から遠く離れたところでの軸プロフィルは、次式で与えられるzに対する場の位相の変動のために明トラップのものとは異なる。
【0059】
【0060】
これを
図5に示す。エアリー・ガウスビームとガウスビームでは、軸プロファイルが多少異なることに注意されたい。それにもかかわらず、主二次項は変わらないので、局在パラメータは依然として式(12)と式(14)で与えられる。これらの結果をガウスラインアレイに対する従来の手法と比較することができる。従来の手法では、
【数17】
について最適な局在が得られる。これに対し本手法では、横断方向局在はこれより45%良く、軸方向局在はこれより22%良い。具体的には、
図6に示すように、得られる局在は、
【数18】
である。数値計算に使用したパラメータは、a=b=1.0μm、λ=0.825μm、f=2μm、w
G=0.974aである。温度対トラップ深さ比が9倍より小さい場合、これは光トラップでは原子の標準であるが、これは全ディメンションでサブミクロンの局在であることを意味する。
【0061】
本明細書に記載されるフーリエフィルタリング手法は、明トラップ又は暗トラップのアレイを作成するために使用されるかにかかわらず、タルボット効果による複数のトラップ面の形成をもたらし得る。このような平面が望ましくない場合には、
図7に示すような、
図4Bの構成に対する変形形態を利用することができる。具体的には、位相スクランブリングマスク414を第1のマスク402と第1のレンズ404との間に配置してもよい。図に示されるように、位相スクランブリングマスク414はρ
ijに位置決めされたスクランブル領域416のアレイを含んでもよく、各スクランブル領域は位相シフトφ
ijとそこを通過する光の完全な透過を提供する。いくつかの態様では、各スクランブル領域416の位相シフトφ
ijは0~2πの間で変化してもよく、位相スクランブリングマスク414全体にランダムに分布されてもよい。
【0062】
次に
図8を参照すると、本開示による、投影された光を使用して粒子を制御するためのプロセス800のステップが提供される。いくつかの実施形態では、プロセス800のステップは本明細書に記載されるシステム並びに他の適切なシステム又は装置を使用して実行されてもよい。
【0063】
プロセス800は、プロセスブロック802において、光源を使用して光ビームを生成することから開始してもよい。記載されるように、光源によって生成される光ビームは、種々の周波数、波長、パワーレベル、空間プロファイル、時間的変調などを含む種々の特性を有し得る。いくつかの態様では、光ビームは、トラップされる粒子の少なくとも1つの原子共鳴からシフトされた周波数を有し得る。
【0064】
次いで、プロセスブロック804によって示されるように、光ビームをビームフィルタに向けてもよい。本開示の態様では、ビームフィルタは、第1のマスク、第1のレンズ、第2のマスク及び第2のレンズを含んでもよい。いくつかの変形例では、ビームフィルタは、第1のマスクと第1のレンズとの間に配置された第3のマスクをさらに含んでもよく、第3のマスクは位相スクランブリングマスクを含んでもよい。プロセスブロック806によって示されるように、光ビームが第1のマスク、オプションで第3のマスク、第1のレンズ、第2のマスク、そして第2のレンズを順次通過し、その後にビームフィルタが存在して光パターンが形成されるように、ビームフィルタを構成してもよい。記載されるように、光パターンは特定のアプリケーションに応じて様々な構成を有し得る。
【0065】
次いで、プロセスブロック808によって示されるように、光パターンを複数の粒子(例えば原子粒子)に投影して、これら複数の粒子の空間内の位置を制御してもよい。この
目的のために、粒子は粒子システムによって提供されてもよく、粒子システムは、これら粒子を生成して空間内の特定の体積又は大まかな位置に閉じ込めるように構成される。記載されるように、提供された粒子は、真空中に保持され、光トラップに適した温度に冷却されてもよい。
【0066】
本発明は、1つ又は複数の好ましい実施形態について説明したが、明記されているものとは別に、多くの同等物、代替物、変形及び修正が可能であり本発明の範囲内であることは理解されよう。