(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167280
(43)【公開日】2024-12-03
(54)【発明の名称】情報処理システム及び情報処理方法
(51)【国際特許分類】
G16B 30/00 20190101AFI20241126BHJP
C07K 14/82 20060101ALI20241126BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20241126BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20241126BHJP
【FI】
G16B30/00
C07K14/82
C12M1/00 A
C12Q1/68
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024141958
(22)【出願日】2024-08-23
(62)【分割の表示】P 2023541419の分割
【原出願日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2021130423
(32)【優先日】2021-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100131451
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 理
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(74)【代理人】
【識別番号】100220423
【弁理士】
【氏名又は名称】榊間 城作
(72)【発明者】
【氏名】高橋 真吾
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄希
(72)【発明者】
【氏名】尾上 広祐
(57)【要約】 (修正有)
【課題】変異ペプチドを合成するために、品質が良い合成用DNA/RNAデータを出力できる情報処理システム及び委情報処理方法を提供する。
【解決手段】情報処理システム1は、患者の組織から抽出されたサンプルに対して、第1シーケンサ21が出力した第1断片化DNA/RNAデータの品質を診断し、診断結果を表す第1診断データを決定する第1診断部11と、第2シーケンサ22が出力した第2断片化DNA/RNAデータの品質を診断し、診断結果を表す第2診断データを決定する第2診断部12と、第1診断データと第2診断データを踏まえて、第1断片化DNA/RNAデータと第2断片化DNA/RNAデータから、合成用DNA/RNAデータを出力する出力部13と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんの遺伝子変異に由来する変異ペプチドを合成するために使用される合成用DNA/RNAデータを出力する情報処理システムであって、
対象患者の組織から抽出されたサンプルに対して第1シーケンサが出力した第1断片化DNA/RNAデータと前記対象患者の組織から抽出されたサンプルに対して第2シーケンサが出力した第2断片化DNA/RNAデータを結合して合成用DNA/RNAデータとして出力する出力部
を備える情報処理システム。
【請求項2】
前記出力部は、前記合成用DNA/RNAデータを出力する際に、当該合成用DNA/RNAデータとともに、前記変異ペプチドの優先順位を含む診断データを出力する
請求項1に記載の情報処理システム。
【請求項3】
がんの遺伝子変異に由来する変異ペプチドを合成するための合成用DNA/RNAデータを出力する情報処理システムであって、
対象患者の組織から抽出されたサンプルに対して第1シーケンサが出力した第1断片化DNA/RNAデータ、前記対象患者の組織から抽出されたサンプルに対して第2シーケンサが出力した第2断片化DNA/RNAデータ、及び前記対象患者の組織から抽出されたサンプルに対して第3シーケンサが出力した第3断片化DNA/RNAデータの対応する順番の塩基同士を多数決してそれぞれの順番の塩基を決定することにより、合成用DNA/RNAデータを決定する出力部
を備える情報処理システム。
【請求項4】
がんの遺伝子変異に由来する変異ペプチドを合成するための合成用DNA/RNAデータを出力する情報処理方法であって、
対象患者の組織から抽出されたサンプルに対して第1シーケンサが出力した第1断片化DNA/RNAデータと前記対象患者の組織から抽出されたサンプルに対して第2シーケンサが出力した第2断片化DNA/RNAデータを結合して合成用DNA/RNAデータとして出力する手順
を有する情報処理方法。
【請求項5】
がんの遺伝子変異に由来する変異ペプチドを合成するために使用される合成用DNA/RNAデータを出力する情報処理方法であって、
対象患者の組織から抽出されたサンプルに対して第1シーケンサが出力した第1断片化DNA/RNAデータ、前記対象患者の組織から抽出されたサンプルに対して第2シーケンサが出力した第2断片化DNA/RNAデータ、及び前記対象患者の組織から抽出されたサンプルに対して第3シーケンサが出力した第3断片化DNA/RNAデータの対応する順番の塩基同士を多数決してそれぞれの順番の塩基を決定することにより、合成用DNA/RNAデータを決定する手順
を有する情報処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理システム及び情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、既存の医薬品は予め製造されて薬局に保管されており、医師の処方箋に応じて患者に処方されてきた。近年、患者さんの体質や病気の特徴にあった薬(以下、個別化薬という)が患者に投与されつつある。
【0003】
これまでのがん医療では、肺がん、大腸がん、乳がんといったがんの種類別に治療や薬が選ばれていた。しかし、2000年代に入り、がんの原因となっている分子(タンパク質)やその基となる遺伝子の解明が進み、このような分子や遺伝子などに働く「分子標的薬」を使うことができるようになってきた。分子標的薬からさらに発展して、患者個別の分子や遺伝子を対象にした治療法も発展している。ここでがんの種類だけではなく、遺伝子変異などのがんの特徴に合わせて、一人一人に適した治療を行うことを、「個別化治療」と呼ぶ。従来、がんの遺伝子情報に基づく「個別化治療」は、主に、少数の遺伝子を調べる「がん遺伝子検査」と、多数の遺伝子を同時に調べる「がん遺伝子パネル検査」に基づいて行われてきた。
【0004】
近年、更に「人間が本来もつ免疫の力でがん細胞を攻撃、排除する」というがん免疫療法を用いた治療(以下、がんワクチン治療という)が進んでいる。がんワクチン治療の一つとして「ペプチドワクチン」が知られている。ペプチドワクチンは、がんの目印である抗原を含む。この抗原を直接体内に注射すると、人間が本来持っている免疫機能が異常を察知し、がんの目印である抗原をターゲットに攻撃してがん細胞を死滅させるしくみである。
【0005】
近年、各患者のがんの遺伝子変異のすべてが簡単に分かる時代になり、がんの免疫療法において、その遺伝子変異により新たに生じる「ペプチド」の重要性がクローズアップされている。このペプチドは、「ネオアンチゲン」と呼ばれる変異ペプチドである。それらがヒト白血球抗原(Human Leukocyte Antigen:HLA)に乗ってがん細胞の表面に出ると、それらは正常細胞の表面にはないペプチドであるから、細胞障害性T細胞(Cytotoxic T lymphocyte:CTL)はそれを敵とみなし、がん細胞を殺せることが明らかとなってきた。
今では、「ネオアンチゲン」を使った個別化のがんワクチン療法が、がんの治療法や再発予防法として有効かどうかを確かめる臨床試験が、欧米で行われている。また特許文献1では、特定のヒト被験者に対して免疫原性であるポリペプチドの断片を同定する方法や当該ポリペプチド断片を含む個別化された医薬組成物の調製方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
「ネオアンチゲン」と呼ばれる変異ペプチドは患者個々によって種類も数も異なるため、患者毎に個別に、患者のがん組織の遺伝子変異からペプチドワクチンを生産する必要がある。患者の病気が進行する前にペプチドワクチンを患者に届けなければならないが、この生産は受注生産になるため、複数の工程のうち一つの工程でミスがあると、もう一度、その工程を繰り返す必要があるので、患者への提供が遅れるという問題がある。
【0008】
ペプチドワクチンの生産工程では、ワクチンレシピの作成前に、分析前プロセス及び分析プロセスを経て、断片化されたDNA(DeoxyriboNucleic Acid)データが出力される。ここで、分析前プロセスは例えば、検体採取、ホルマリン固定、病理組織標本作成、腫瘍細胞比率の確認、遺伝子検査用病理組織標本の確定、確定標本からの核酸抽出を含む。分析プロセスは例えば、ライブラリ調整、PCR(Polymerase Chain Reaction)による複製、シーケンシング、データ出力を含む。シーケンサの出力データは、ライブラリ調整において施される断片化の影響を受け、DNA/RNAデータの多数の断片を集めたデータの集合体である。
【0009】
シーケンサの出力データは、分析前プロセスと分析プロセスの影響によって結果が一定にならない。特に、入力されるDNAサンプルの品質、PCR工程のバラつき、シーケンシングの精度の影響を受ける。通常、プロセスごとに設けられた品質管理基準にもとづき、バリデーション、内部精度管理、外部精度管理を実施することで、出力データの品質を担保する。しかしながら、工程の最後に品質が悪いことが発覚することもあり、再度のやり直しが発生した場合に、ワクチン製造が遅れ、患者への提供が遅れるという問題がある。
【0010】
なお、がんワクチンだけでなく、自己免疫疾患も同様なネオアンチゲンでの治療の可能性があり、自己免疫疾患の個別化医療においても同様の問題がある。
【0011】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、個別化医療用のワクチンの製造の遅延を抑制することを可能とする情報処理システム及び情報処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様に係る情報処理システムは、がんの遺伝子変異に由来する変異ペプチドを合成するために使用される合成用DNA/RNAデータを出力する情報処理システムであって、対象患者の組織から抽出されたサンプルに対して第1シーケンサが出力した第1断片化DNA/RNAデータの配列の品質を当該第1シーケンサから出力された品質データを用いて診断し、診断結果を表す第1診断データを少なくとも一つ決定する第1診断部と、前記対象患者の組織から抽出されたサンプルに対して第2シーケンサが出力した第2断片化DNA/RNAデータの配列の品質を第2シーケンサから出力された品質データを用いて診断し、診断結果を表す第2診断データを少なくとも一つ決定する第2診断部と、前記第1診断データと前記第2診断データを踏まえて、前記第1断片化DNA/RNAデータと前記第2断片化DNA/RNAデータから、前記合成用DNA/RNAデータを出力する出力部と、を備える。
【0013】
この構成によれば、変異ペプチドを合成するために、品質が良い合成用DNA/RNAデータが出力される可能性が向上し、合成用DNA/RNAデータの品質悪化に伴うやり直しを抑制するので、個別化がんワクチンの製造の遅延を抑制することができる。
【0014】
本発明の第2の態様に係る情報処理システムは、第1の態様に係る情報処理システムであって、前記第1診断部は、前記第1シーケンサから出力された品質データに加えて前記第1シーケンサのシーケンスの前に実施される分析前プロセスの品質情報を用いて前記第1断片化DNA/RNAデータの配列の品質を診断して前記第1診断データを決定し、前記第2診断部は、前記第2シーケンサから出力された品質データに加えて前記第2シーケンサのシーケンスの前に実施される分析前プロセスの品質情報を用いて前記第2断片化DNA/RNAデータの配列の品質を診断して前記第2診断データを決定してもよい。
【0015】
本発明の第3の態様に係る情報処理システムは、第1または第2の態様に係る情報処理システムであって、前記出力部は、前記第1診断データと前記第2診断データを踏まえて、前記第1断片化DNA/RNAデータと前記第2断片化DNA/RNAデータを切り替えて前記合成用DNA/RNAデータとして出力してもよい。
【0016】
本発明の第4の態様に係る情報処理システムは、第1または第2の態様に係る情報処理システムであって、前記出力部は、前記第1診断データと前記第2診断データを踏まえて、前記第1断片化DNA/RNAデータの一部と前記第2断片化DNA/RNAデータの一部を組み合わせて前記合成用DNA/RNAデータとして出力してもよい。
【0017】
本発明の第5の態様に係る情報処理システムは、がんの遺伝子変異に由来する変異ペプチドを合成するために使用される合成用DNA/RNAデータを出力する情報処理システムであって、対象患者の組織から抽出されたサンプルに対して第1シーケンサが出力した第1断片化DNA/RNAデータと前記対象患者の組織から抽出されたサンプルに対して第2シーケンサが出力した第2断片化DNA/RNAデータを結合して合成用DNA/RNAデータとして出力する出力部を備える。
【0018】
本発明の第6の態様に係る情報処理システムは、第5の態様に係る情報処理システムであって、前記出力部は、前記合成用DNA/RNAデータを出力する際に、当該合成用DNA/RNAデータとともに、前記変異ペプチドの優先順位を含む診断データを出力してもよい。
【0019】
本発明の第7の態様に係る情報処理システムは、がんの遺伝子変異に由来する変異ペプチドを合成するための合成用DNA/RNAデータを出力する情報処理システムであって、対象患者の組織から抽出されたサンプルに対して第1シーケンサが出力した第1断片化DNA/RNAデータ、前記対象患者の組織から抽出されたサンプルに対して第2シーケンサが出力した第2断片化DNA/RNAデータ、及び前記対象患者の組織から抽出されたサンプルに対して第3シーケンサが出力した第3断片化DNA/RNAデータの対応する順番の塩基同士を多数決してそれぞれの順番の塩基を決定することにより、合成用DNA/RNAデータを決定する出力部を備える。
【0020】
本発明の第8の態様に係る情報処理方法は、がんの遺伝子変異に由来する変異ペプチドを合成するための合成用DNA/RNAデータを出力する情報処理方法であって、対象患者の組織から抽出されたサンプルに対して第1シーケンサが出力した第1断片化DNA/RNAデータの配列の品質を当該第1シーケンサから出力された品質データを用いて診断し、診断結果を表す第1診断データを少なくとも一つ決定する手順と、対象患者の組織から抽出されたサンプルに対して第2シーケンサが出力した第2断片化DNA/RNAデータの配列の品質を第2シーケンサから出力された品質データを用いて診断し、診断結果を表す第2診断データを少なくとも一つ決定する手順と、前記第1診断データと前記第2診断データを踏まえて、前記第1断片化DNA/RNAデータと前記第2断片化DNA/RNAデータから、前記合成用DNA/RNAデータを出力する手順と、を有する。
【0021】
本発明の第9の態様に係る情報処理方法は、がんの遺伝子変異に由来する変異ペプチドを合成するための合成用DNA/RNAデータを出力する情報処理方法であって、対象患者の組織から抽出されたサンプルに対して第1シーケンサが出力した第1断片化DNA/RNAデータと前記対象患者の組織から抽出されたサンプルに対して第2シーケンサが出力した第2断片化DNA/RNAデータを結合して合成用DNA/RNAデータとして出力する手順を有する。
【0022】
本発明の第10の態様に係る情報処理方法は、がんの遺伝子変異に由来する変異ペプチドを合成するために使用される合成用DNA/RNAデータを出力する情報処理方法であって、対象患者の組織から抽出されたサンプルに対して第1シーケンサが出力した第1断片化DNA/RNAデータ、前記対象患者の組織から抽出されたサンプルに対して第2シーケンサが出力した第2断片化DNA/RNAデータ、及び前記対象患者の組織から抽出されたサンプルに対して第3シーケンサが出力した第3断片化DNA/RNAデータの対応する順番の塩基同士を多数決してそれぞれの順番の塩基を決定することにより、合成用DNA/RNAデータを決定する手順を有する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一態様によれば、変異ペプチドを合成するために、品質が良い合成用DNA/RNAデータが出力される可能性が向上し、合成用DNA/RNAデータの品質悪化に伴うやり直しを抑制するので、個別化がんワクチンの製造の遅延を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】個別化がんワクチンの製造工程の一例を示す模式図である。
【
図2】第1の実施形態に係る情報処理システムの概略ブロック図である。
【
図3A】第1の実施形態に係る出力部の処理を示す模式図である。
【
図3B】第1の実施形態の変形例1に係る出力部の処理を示す模式図である。
【
図4】第1の実施形態の変形例2に係る情報処理システムの概略ブロック図である。
【
図5】第2の実施形態に係る情報処理システムの概略ブロック図である。
【
図6】第3の実施形態に係る情報処理システムの概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、各実施形態について、図面を参照しながら説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0026】
図1は、個別化がんワクチンの製造工程の一例を示す模式図である。
【0027】
(ステップS10)まず医師による手術によって対象患者からがん組織が切除され、このがん組織または組織標本からDNA/RNAサンプルを抽出する。
【0028】
(ステップS20)次にDNA/RNAサンプルが輸送され、例えばベンダーで保管される。ここでベンダーは次世代シーケンサを保有している。
【0029】
(ステップS30)次に次世代シーケンサによってDNA/RNAサンプルのゲノムが読み込まれ、がんの遺伝子変異に由来する変異ペプチド(すなわちネオアンチゲン)を合成するために使用される合成用DNA/RNAデータが出力される。
【0030】
(ステップS40)次に、合成用DNA/RNAデータから、個別化がんワクチンのレシピが作成される。
【0031】
(ステップS50)次に、作成されたレシピから、個別化がんワクチンが製造される。
【0032】
(ステップS60)次に、製造された個別化がんワクチンが輸送され病院で保管される。
【0033】
(ステップS70)対象患者に個別化がんワクチンが注射される。
【0034】
ここで合成用DNA/RNAデータの品質が悪化すると、再度、ステップS20のサンプルの輸送からやり直す必要があり、個別化がんワクチンの製造が遅れるという問題がある。この問題に対して、本実施形態では、合成用DNA/RNAデータの品質の悪化を抑制するための情報処理システム及び情報処理方法を提供する。
【0035】
<第1の実施形態:出力切替>
本実施形態では、シーケンサを並列化し、分析前のプロセスごとの品質情報を含む動作ロ及び/または出力の品質データを診断する診断機能を踏まえて、出力データを統合する。ここで品質データは例えば、カバレッジ(標的領域)のデプス(読み取り深度)(Depth of coverage)、カバレッジ(標的領域)の均一性・網羅性(Uniformity of coverage)、GCバイアス(GC bia)、Ti/Tv比(Transition/transversion ratio)、ベースコール品質スコア(Base call quality scores)、マッピングの品質(Mapping quality)、重複リードの割合と除去(Duplicate read success rate and removal of duplicate reads)、リードの1塩基目の成功率(First base read success)、シグナルインテンシティの減衰(Decline in signal intensity)、DNA鎖間のバイアス(Strand bias)を少なくとも一つを含む。
【0036】
検体採取においては、FFPE検体を使用することが望ましく、温虚血時間(血流停止から摘出まで)、冷虚血時間 (摘出から固定まで)が重要である。
【0037】
抽出核酸の品質基準については、核酸の品質(主に断片化の程度を評価)として、ΔCt値(ΔΔCq)、DIN 値、Q-value、DV200などを用いてもよい。
【0038】
ライブラリの品質基準については、ライブラリ調製後、適切な品質チェックを行い、シークエンス解析に進んで良いかどうかを判断するために予め指標を設定してもよい。この指標として、DNA量、フラグメントサイズを用いてもよい。
【0039】
図2は、第1の実施形態に係る情報処理システムの概略ブロック図である。
図2に示すように、情報処理システム1は、がんの遺伝子変異に由来する変異ペプチドを合成するために使用される合成用DNA/RNAデータを出力するものであり、プロセッサ10を備える。プロセッサ10は、プログラムをメモリ(図示せず)にロードし、当該プログラムに含まれる一連の命令を実行することによって、第1診断部11、第2診断部12、出力部13として機能する。
【0040】
第1シーケンサ21は例えば次世代シーケンサであり、対象患者のがん組織から抽出されたサンプルをゲノムシーケンスして、第1断片化DNA/RNAデータと当該ゲノムシーケンスの品質を示す品質データを生成する。第1シーケンサ21はHLAタイピング機能を有してもよい。
【0041】
同様に、第2シーケンサ22は例えば次世代シーケンサであり、対象患者のがん組織から抽出されたサンプルをゲノムシーケンスして、第2断片化DNA/RNAデータと当該ゲノムシーケンスの品質を示す品質データを生成する。
【0042】
第1診断部11は、第1シーケンサ21から第1断片化DNA/RNAデータと品質データを取得する。第1診断部11は、対象患者の組織から抽出されたサンプルに対して第1シーケンサが出力した第1断片化DNA/RNAデータの配列の品質を当該第1シーケンサから出力された品質データを用いて診断し、診断結果を表す第1診断データを少なくとも一つ決定する。
【0043】
第2診断部12は、第2シーケンサ22から第2断片化DNA/RNAデータと品質データを取得する。第2診断部12は、前記対象患者の組織から抽出されたサンプルに対して第2シーケンサが出力した第2断片化DNA/RNAデータの配列の品質を第2シーケンサから出力された品質データを用いて診断し、診断結果を表す第2診断データを少なくとも一つ決定する。
【0044】
出力部13は、第1シーケンサ21から第1断片化DNA/RNAデータを取得し、第2シーケンサ22から第2断片化DNA/RNAデータを取得し、第1診断部11から第1診断データを取得し、第2診断部12から第2診断データを取得する。出力部13は、前記第1診断データと前記第2診断データを踏まえて、前記第1断片化DNA/RNAデータと前記第2断片化DNA/RNAデータから、前記合成用DNA/RNAデータを出力する。
【0045】
この構成によれば、変異ペプチドを合成するために、品質が良い合成用DNA/RNAデータが出力される可能性が向上し、合成用DNA/RNAデータの品質悪化に伴うやり直しを抑制するので、個別化がんワクチンの製造の遅延を抑制することができる。
【0046】
図3Aは、第1の実施形態に係る出力部の処理を示す模式図である。第1の実施形態では、
図3Aに示すように、出力部13は、前記第1診断データと前記第2診断データを踏まえて、前記第1断片化DNA/RNAデータと前記第2断片化DNA/RNAデータを切り替えて前記合成用DNA/RNAデータとして出力する。より詳細には、出力部13は、第1診断データと第2診断データに基づき、第1断片化DNA/RNAデータと第2断片化DNA/RNAデータのどちらが適切なデータなのかを判断し、出力を切り替える。
【0047】
具体的には例えば、出力部13は、診断データの複数の指標に設定された指標の内、優れている指標が設定閾値より多い断片化DNA/RNAデータのみを出力してもよい。この構成によれば、変異ペプチドを合成するために、優れている指標が多い断片化DNA/RNAデータが出力されるので、合成用DNA/RNAデータの品質悪化に伴うやり直しを抑制するので、個別化がんワクチンの製造の遅延を抑制することができる。
【0048】
<第1の実施形態の変形例1:出力混合>
図3Bは、第1の実施形態の変形例1に係る出力部の処理を示す模式図である。
図3Bに示すように、出力部13は、前記第1診断データと前記第2診断データを踏まえて、前記第1断片化DNA/RNAデータの一部と前記第2断片化DNA/RNAデータの一部を組み合わせて前記合成用DNA/RNAデータとして出力してもよい。
【0049】
具体的には例えば、出力部13cは、断片化DNA/RNAデータごとに指標がある場合、その指標が優れている順にあらかじめ決められた数の断片化DNA/RNAデータを出力してもよい。
【0050】
もしくは、出力部13cは例えば、第1シーケンサ21、第2シーケンサ22双方の出力データ(すなわち第1断片化DNA/RNAデータ、第2断片化DNA/RNAデータ)に含まれる断片化データの頻度を分析し、その頻度が多い順に断面化データを出力してもよい。
【0051】
<第1の実施形態の変形例2>
図4は、第1の実施形態の変形例2に係る情報処理システムの概略ブロック図である。
図4の情報処理システム1bは、
図2の情報処理システム1に比べて、プロセッサ10bの処理が異なり、第1診断部11が第1診断部11bに変更され、第2診断部12が第2診断部12bに変更されたものになっている。
【0052】
第1診断部11bは、分析前プロセスの品質情報を含む動作ログを取得する。第1診断部は、第1シーケンサ21から出力された品質データに加えて前記第1シーケンサ21のシーケンスの前に実施される分析前プロセスの品質情報を用いて前記第1断片化DNA/RNAデータの配列の品質を診断して診断して第1診断データを決定する。具体的には例えば、第1診断部11bは、この品質データが第1基準を満たし且つこの品質情報が第2基準を満たす場合、品質が良いと診断し、それ以外の場合、品質が悪いと判断して、診断結果を表す第1診断データを決定してもよい。
【0053】
同様に、第2診断部12bは、分析前プロセスの品質情報を含む動作ログを取得する。第2診断部12bは、第2シーケンサ22から出力された品質データに加えて第2シーケンサ22のシーケンスの前に実施される分析前プロセスの品質情報を用いて診断して前記第2断片化DNA/RNAデータの配列の品質を診断して前記第2診断データを決定する。具体的には例えば、第2診断部12bは、この品質データが第1基準を満たし且つこの品質情報が第2基準を満たす場合、品質が良いと診断し、それ以外の場合、品質が悪いと判断して、診断結果を表す第1診断データを決定してもよい。
【0054】
<第1の実施形態の変形例3>
なお、出力部13は、第1断片化DNA/RNAデータと第2断片化DNA/RNAデータを合わせた2倍の出力データに対して、第1診断データ及び第2診断データに基づいてフィルタして出力される合成用DNA/RNAデータ量を制限してもよい。このフィルタは、個数制限、リードごとの診断データ値の大小、リードの重複などの統計値の少なく一つ以上を用いてもよい。
【0055】
この構成によれば、変異ペプチドを合成するために、品質が良い合成用DNA/RNAデータが出力される可能性が向上し、合成用DNA/RNAデータの品質悪化に伴うやり直しを抑制するので、個別化がんワクチンの製造の遅延を抑制することができる。
【0056】
<第2の実施形態:出力結合>
図5は、第2の実施形態に係る情報処理システムの概略ブロック図である。
図5に示すように、情報処理システム1cは、プロセッサ10cは備える。プロセッサ10cは、プログラムをメモリ(図示せず)にロードし、当該プログラムに含まれる一連の命令を実行することによって、出力部13cとして機能する。出力部13cは、対象患者の組織から抽出されたサンプルに対して第1シーケンサが出力した第1断片化DNA/RNAデータと前記対象患者の組織から抽出されたサンプルに対して第2シーケンサが出力した第2断片化DNA/RNAデータを結合して合成用DNA/RNAデータとして出力する。
【0057】
具体的には例えば出力部13cは、診断データの複数の指標がともに閾値を超えている場合、双方のデータを結合し2倍のデータとして出力してもよい。
【0058】
もしくは出力部13cは例えば、双方の出力データを比較し、その差異が小さい場合は、双方のデータを結合し2倍のデータとして出力してもよい。
【0059】
また出力部13cは、前記合成用DNA/RNAデータを出力する際に、当該合成用DNA/RNAデータとともに、前記変異ペプチド(ネオアンチゲン)の優先順位を含む診断データを出力してもよい。優先順位は、上記品質情報及び/または上記品質データに基づいて決定されてもよく、品質が高いほど優先順位が高く設定されてもよい。この構成によれば、変異ペプチドを合成するために、品質が高い合成用DNA/RNAデータが優先して使用されるので、合成用DNA/RNAデータの品質悪化に伴うやり直しを抑制するので、個別化がんワクチンの製造の遅延を抑制することができる。
【0060】
なお、第1及び第2の実施形態では並列数が2であるものとして説明したが、並列数が3以上であってもよく、並列数が手術で採取されるサンプルの量で決定されてもよい。
【0061】
<第3の実施形態:多数決>
図6は、第3の実施形態に係る情報処理システムの概略ブロック図である。
図6に示すように、情報処理システム1dは、プロセッサ10dは備える。プロセッサ10dは、プログラムをメモリ(図示せず)にロードし、当該プログラムに含まれる一連の命令を実行することによって、出力部13dとして機能する。
【0062】
出力部13dは、第1シーケンサ21から第1断片化DNA/RNAデータを取得する。また出力部13dは、第2シーケンサ22から第2断片化DNA/RNAデータを取得する。また出力部13dは、第3シーケンサ23から第3断片化DNA/RNAデータを取得する。
【0063】
出力部13dは、対象患者の組織から抽出されたサンプルに対して第1シーケンサが出力した第1断片化DNA/RNAデータ、前記対象患者の組織から抽出されたサンプルに対して第2シーケンサが出力した第2断片化DNA/RNAデータ、及び前記対象患者の組織から抽出されたサンプルに対して第3シーケンサが出力した第3断片化DNA/RNAデータの対応する順番の塩基同士を多数決してそれぞれの順番の塩基を決定することにより、合成用DNA/RNAデータを決定する。
【0064】
この構成により、変異ペプチドを合成するために使用される合成用DNA/RNAデータの精度が向上するので、個別化がんワクチンの製造の遅延を抑制することができる。
【0065】
なお、がんワクチンだけでなく、自己免疫疾患も同様なネオアンチゲンでの治療の可能性があり、自己免疫疾患の個別化医療においても同様の実施形態をとることができる。
【0066】
なお、上述した実施形態で説明した情報処理システム1の少なくとも一部は、ハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、情報処理システム1の少なくとも一部の機能を実現するプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。
【0067】
また、情報処理システム1の少なくとも一部の機能を実現するプログラムを、インターネット等の通信回線(無線通信も含む)を介して頒布してもよい。さらに、同プログラムを暗号化したり、変調をかけたり、圧縮した状態で、インターネット等の有線回線や無線回線を介して、あるいは記録媒体に収納して頒布してもよい。
【0068】
さらに、一つまたは複数の情報機器によって情報処理システム1を機能させてもよい。複数の情報機器を用いる場合、そのうちの1つをコンピュータとし、当該コンピュータが所定のプログラムを実行することにより情報処理システム1の少なくとも1つの手段として機能が実現されてもよい。
【0069】
また、方法の発明においては、全ての工程(ステップ)をコンピュータによって自動制御で実現するようにしてもよい。また、各工程をコンピュータに実施させながら、工程間の進行制御を人の手によって実施するようにしてもよい。また、さらには、全工程のうちの少なくとも一部を人の手によって実施するようにしてもよい。
【0070】
以上、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1、1b、1c、1d 情報処理システム
10、10b、10c、10d プロセッサ
11、11b 第1診断部
12、12b 第2診断部
13、13c、13d 出力部
21 第1シーケンサ
22 第2シーケンサ
23 第3シーケンサ