(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167324
(43)【公開日】2024-12-03
(54)【発明の名称】スパッタリング装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20241126BHJP
【FI】
C23C14/34 S
C23C14/34 T
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024147157
(22)【出願日】2024-08-29
(62)【分割の表示】P 2022532493の分割
【原出願日】2021-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2020107889
(32)【優先日】2020-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501232056
【氏名又は名称】三国電子有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】田中 栄
(57)【要約】 (修正有)
【課題】スパッタリング装置に設けられる誘導結合プラズマ生成用のアンテナの大型化を可能とし、メンテナンス性の改善を図る。
【解決手段】スパッタリング装置は、成膜チャンバ108と、スパッタリングターゲット124を覆いスパッタリングターゲット124の表面と重なる位置に長方形状の開口部が設けられたプラズマ拡散防止板140と、断面視でU字溝形状を有しプラズマ拡散防止板140で囲まれた領域内に突出しスパッタリングターゲット124の長手方向に沿って延びる絶縁部材146と、スパッタリングターゲット124の長手方向に沿って延びる誘導結合プラズマ生成用の棒状アンテナ148とを有する。絶縁部材146は、成膜チャンバ108の真空となる空間と大気側の空間とを隔てるように配置され、棒状アンテナ148は、絶縁部材146の大気側であってU字溝形状の溝の部分に配置され、U字溝形状を有する絶縁部材146とは接触していない。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視で長方形状のスパッタリングターゲットが設置される成膜チャンバと、
前記スパッタリングターゲットを覆い、前記スパッタリングターゲットの表面と重なる
位置に長方形状の開口部が設けられたプラズマ拡散防止板と、
断面視でU字溝形状を有し、前記プラズマ拡散防止板で囲まれた領域内に突出し、前記
スパッタリングターゲットの長手方向に沿って延びる絶縁部材と、
前記スパッタリングターゲットの長手方向に沿って延びる誘導結合プラズマ生成用の棒
状アンテナと、
を有し、
前記絶縁部材は、前記成膜チャンバの真空となる空間と、大気側の空間とを隔てるよう
に配置され、
前記棒状アンテナは、前記絶縁部材の大気側であって、前記U字溝形状の溝の部分に配
置され、
前記棒状アンテナは、前記U字溝形状を有する前記絶縁部材とは接触していない
ことを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項2】
前記絶縁部材が、前記成膜チャンバに設けられた貫通孔に大気側から挿入されている、
請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
前記絶縁部材の表面に、ガラス層が設けられている、請求項1に記載のスパッタリング
装置。
【請求項4】
前記絶縁部材が、前記成膜チャンバの大気側の壁に接して真空シール部が設けられてい
る、請求項2に記載のスパッタリング装置。
【請求項5】
前記絶縁部材は、石英、アルミナ、イットリア(Y2O3)、フォルステライト(Mg
2SiO4)、ステアタイト(MgO・SiO2)から選ばれた一種の材料で形成されて
いる、請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項6】
前記棒状アンテナが、前記スパッタリングターゲットの表面から突出する位置に設けら
れている、請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項7】
前記棒状アンテナが、前記スパッタリングターゲットの長手方向に沿って複数に分割さ
れている、請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項8】
前記棒状アンテナが、複数の金属管で形成され、前記複数の金属管がコンデンサを介し
て接続されている、請求項6に記載のスパッタリング装置。
【請求項9】
前記棒状アンテナは、前記複数の金属管が、絶縁性を有する中空管で連結された構造を
有する、請求項8に記載のスパッタリング装置。
【請求項10】
前記絶縁部材及び前記棒状アンテナが、前記スパッタリングターゲットの両側に設けら
れている、請求項1に記載のスパッタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)を
利用した成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリング法は、薄膜形成に用いられる物理的気相成長法(PVD)の一種である
。スパッタリング法は、真空中でプラズマを発生させて、プラズマ中のイオンを高速でス
パッタリングターゲットに衝突させることによりスパッタリングを生じさせ、ターゲット
を構成する成膜材料の粒子(原子又は分子)を基板の表面に堆積させることで薄膜を形成
する技術として知られている。
【0003】
スパッタリング装置としては、スパッタリングターゲットの背面にマグネトロンを配置
したマグネトロン方式が良く知られているが、その他に、誘導結合プラズマ(ICP)を
利用したスパッタリング装置も開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、誘導
結合プラズマを発生させるためのアンテナ構造も開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-065299号公報
【特許文献2】特開2016-072168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マグネトロンスパッタリング法は、マグネットにより生成される磁界(磁場の強さ)が
不均一であることから、スパッタリングターゲットのエロージョンが不均一となるためタ
ーゲット材の有効利用率が低く、ノジュールが発生しやすいという問題がある。また、磁
界によりプラズマが局部に集中するために、ターゲット材に熱応力がかかりやすく、ター
ゲット材にクラックが発生しやすいという問題がある。
【0006】
また、マグネトロンスパッタリング法で金属膜を成膜する場合には、マグネットによる
磁場強度が強いと堆積される膜の高密度化を図ることができる。しかし、酸化物材料(例
えば、酸化物半導体膜、酸化物導電膜)を成膜する場合には、酸素ガスが分解されるのは
スパッタリングターゲットの近傍の磁場強度の強い領域のみとなり、未反応の酸素分子(
O2)が堆積表面に吸着し、酸素分子の状態で膜中に取り込まれてしまい、堆積される膜
の密度が低下するという問題がある。
【0007】
また、従来の誘導結合プラズマ(ICP)を利用するスパッタリング装置では、誘導結
合プラズマを効率良く発生させるために成膜チャンバの内部にアンテナ本体とアンテナを
被覆する絶縁物の円筒管を配置していたが、成膜チャンバが3mを超えるような大型化に
対応する場合、アンテナ本体やアンテナを被覆する絶縁物の円筒管を安定して保持するこ
とが非常に難しくなっている。
【0008】
さらに、特許文献1に開示されているような誘導結合プラズマ(ICP)スパッタリン
グ装置では、発生した誘導結合プラズマは成膜チャンバの内部全域に拡散してしまい、マ
グネトロンスパッタリング装置のようにスパッタリングターゲット近傍にプラズマを閉じ
込めることができない。このため、マグネトロンスパッタリング装置よりも成膜チャンバ
内壁に吸着されている水分(H2O)、酸素(O2)、ハイドロカーボン類が成膜開始時
に成膜チャンバの内壁から大量に離脱して成膜中の被膜に取り込まれやすいという原理的
な問題を抱えている。スパッタリングターゲット近傍のプラズマ密度を上げるには、アン
テナ本体に流す電流を増大させるしか方法はなく、それが却って成膜チャンバ内壁から離
脱する汚染ガスの量を増大させてしまい、堆積された膜の膜質の再現性を低下させる要因
となっている。
【0009】
このような問題に鑑み、本発明の一実施形態は、スパッタリングによる成膜において、
高品質な薄膜を再現性良く、かつ効率よく形成することができる成膜方法及び装置を提供
することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態に係る成膜装置は、スパッタリングターゲットが設置される成膜チ
ャンバと、スパッタリングターゲットを覆い、スパッタリングターゲットの表面と重なる
位置に開口部が設けられたプラズマ拡散防止板と、スパッタリングターゲットに隣接し、
プラズマ拡散防止板で囲まれた領域の内側に突出するように設けられた誘導結合プラズマ
生成用のアンテナと、プラズマ拡散防止板の内側に配置され、成膜チャンバ内にガスを導
入するガス導入管とを含み、スパッタリングターゲットには、マイナスのパルス電圧が印
加される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、プラズマ拡散防止板が誘導結合プラズマ生成用のアンテ
ナとスパッタリングターゲットとを覆うように設けられることにより、誘導結合プラズマ
が成膜チャンバの内側空間の全体に広がることを防止することができ、成膜される薄膜へ
不純物が取り込まれることを防止することができる。さらに、スパッタリングターゲット
近傍のプラズマ密度を高めることができるので、スパッタリングレートを高めることも可
能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る成膜装置の全体的な構成を示す。
【
図2】本発明の一実施形態に係る成膜装置の構成を示す図であり、ロード・アンロードチャンバを除く前処理チャンバ、搬送チャンバ、成膜チャンバに設けられ又は接続される主要な構成要素を示す。
【
図3】本発明の一実施形態に係る成膜装置の成膜チャンバを上面から見たときの部分的な断面模式図を示す。
【
図4】本発明の一実施形態に係る成膜装置に用いられる誘導結合プラズマ生成用のアンテナの詳細な断面構造を示す。
【
図5】本発明の一実施形態に係る成膜装置に用いられる誘導結合プラズマ生成用のアンテナの詳細な断面構造を示す。
【
図6】本発明の一実施形態に係る成膜装置の成膜チャンバに設けられるプラズマ拡散防止板を正面から見たときの模式図を示す。
【
図7】本発明の一実施形態に係る成膜装置の成膜チャンバに設けられるプラズマ拡散防止板を正面から見たときの模式図を示す。
【
図8A】成膜チャンバに設けられる誘導結合プラズマ生成用のアンテナが基板表面に与える影響を説明する図であり、プラズマ拡散防止板が無い場合を示す。
【
図8B】成膜チャンバに設けられる誘導結合プラズマ生成用のアンテナが基板表面に与える影響を説明する図であり、プラズマ拡散防止板が設けられた場合を示す。
【
図9】成膜チャンバに設けられる誘導結合プラズマ生成用のアンテナが基板表面に与える影響を説明する図であり、プラズマ拡散防止板が無い場合に起こり得る、堆積される薄膜の不均一性の問題を説明する図である。
【
図10A】本発明の一実施形態に係る成膜装置に装着される成膜ターゲットの一例を示し、2種類のターゲット材が用いられる場合を示す。
【
図10B】本発明の一実施形態に係る成膜装置に装着される成膜ターゲットの一例を示し、3種類のターゲット材が用いられる場合を示す。
【
図11】本発明の一実施形態に係る成膜装置の成膜チャンバに設けられる誘導結合プラズマ生成用のアンテナの構成を説明する図である。
【
図12】本発明の一実施形態に係る成膜装置に用いられる結合プラズマ生成用のアンテナのアンテナ本体のアンテナ連結領域の断面構造を示す。
【
図13】本発明の一実施形態に係る成膜装置の成膜チャンバに設けられる誘導結合プラズマ生成用のアンテナに印加される交流電圧と、成膜ターゲットに印加されるパルス電圧の波形を示す図である。
【
図14】酸化物半導体膜としてInGaZnO膜を成膜したときのターゲット電圧と膜密度の関係を模式的に示す。
【
図15】本発明の一実施形態に係る成膜装置の前処理チャンバの構成を示す断面模式図を示す。
【
図16A】本発明の一実施形態に係る成膜装置の成膜チャンバに設けられる誘導結合プラズマ生成用のアンテナの正面図を示す。
【
図16B】本発明の一実施形態に係る成膜装置の成膜チャンバに設けられる誘導結合プラズマ生成用のアンテナの断面図を示し、
図16Aに示すA1-A2間に対応する断面構造を示す。
【
図17A】本発明の一実施形態に係る成膜装置の成膜チャンバに設けられる誘導結合プラズマ生成用のアンテナの正面図を示す。
【
図17B】本発明の一実施形態に係る成膜装置の成膜チャンバに設けられる誘導結合プラズマ生成用のアンテナの断面図を示し、
図17Aに示すB1-B2間に対応する断面構造を示す。
【
図18A】本発明の一実施形態に係る成膜装置を用いて作製される素子の一例を示す。
【
図18B】本発明の一実施形態に係る成膜装置を用いて作製される素子における酸化物半導体層の詳細な構造を示す。
【
図18C】本発明の一実施形態に係る成膜装置を用いて作製される素子における酸化物半導体層の詳細な構造を示す。
【
図19】本発明の一実施形態に係る成膜装置の全体的な構成を示す。
【
図20】本発明の一実施形態に係る成膜装置の構成を示す図であり、ロード・アンロードチャンバを除く前処理チャンバ、搬送チャンバ、成膜チャンバに設けられ又は接続される主要な構成要素を示す。
【
図21】本発明の一実施形態に係る成膜装置を用いて作製される素子の一例を示す。
【
図22A】本発明の一実施形態に係る成膜装置の成膜チャンバを上面から見たときの部分的な断面模式図を示す。
【
図22B】
図22Aに示す成膜チャンバに用いられるセラミックス部材の正面図を示す。
【
図23A】本発明の一実施形態に係る成膜装置の成膜チャンバを上面から見たときの部分的な断面模式図を示す。
【
図23B】
図23Aに示す成膜チャンバに用いられるセラミックス部材の正面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を、図面等を参照しながら説明する。但し、本発明は多くの異
なる態様を含み、以下に例示する実施形態に限定して解釈されるものではない。本明細書
に添付される図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形
状等について模式的に表される場合があるが、それはあくまで一例であって、本発明の内
容を必ずしも限定するものではない。また、本発明において、ある図面に記載された特定
の要素と、他の図面に記載された特定の要素とが同一又は対応する関係にあるときは、同
一の符号(又は符号として記載された数字の後にa、b等を付した符号)を付して、繰り
返しの説明を適宜省略することがある。さらに各要素に対する「第1」、「第2」と付記
された文字は、各要素を区別するために用いられる便宜的な標識であり、特段の説明がな
い限りそれ以上の意味を有さない。
【0014】
本明細書において、ある部材又は領域が他の部材又は領域の「上に(又は下に)」ある
とする場合、特段の限定がない限りこれは他の部材又は領域の直上(又は直下)にある場
合のみでなく他の部材又は領域の上方(又は下方)にある場合を含む。すなわち、他の部
材又は領域の上方(又は下方)においてある部材又は領域との間に別の構成要素が含まれ
ている場合も含む。
【0015】
[第1実施形態]
図1は、本発明の一実施形態に係るスパッタリング成膜を行う成膜装置100の全体的
な構成を示す。成膜装置100は、成膜前及び成膜後の基板が収納されるロード・アンロ
ードチャンバ102、基板の前処理を行う前処理チャンバ104、搬送ロボット116が
設けられた第1搬送チャンバ106a、プラテン機構118が設けられた第2搬送チャン
バ106b、スパッタリング成膜を行う第1成膜チャンバ108a及び第2成膜チャンバ
108bを含む。これらのチャンバはゲートバルブによって連結され、図示されない真空
排気手段が設けられている。
【0016】
薄膜が形成される基板は、カセットに保持された状態でロード・アンロードチャンバ1
02に収納される。基板は、例えば、ガラス基板である。ロード・アンロードチャンバ1
02に収納された基板は、第1搬送チャンバ106aに設けられた搬送ロボット116に
よって前処理チャンバ104に搬送される。前処理チャンバ104は、薄膜を形成する基
板に対する前処理が行われる。前処理チャンバ104は、高周波電源120に接続された
高周波放電電極を含む。前処理としては、加熱機構が設けられたステージと高周波放電電
極によって生成される高周波放電プラズマにより基板に対する脱ガス処理が行われる。図
1は、第1搬送チャンバ106aを挟んで前処理チャンバ104が2つ設置される態様を
示すが、前処理チャンバ104の数に限定はない。
図1に示すように、成膜装置100に
前処理チャンバ104が2つ設置されていると、脱ガス処理を十分に行いながら、時間的
に余裕をもって連続的にスパッタリング成膜を行うことができる。なお、成膜装置100
は、
図1に示す形態に限定されず、前処理チャンバ104の数は1つでもよいし、3つ以
上設けられていてもよい。
【0017】
前処理チャンバ104で前処理がされた基板は、搬送ロボット116により第2搬送チ
ャンバ106bへ搬送される。基板は、ロード・アンロードチャンバ102から前処理チ
ャンバ104までは水平状態で搬送される。第2搬送チャンバ106bは、プラテン機構
118が備えられ、水平状態で搬入された基板が、
図1では示されない搬送キャリアによ
って保持されるように垂直状態又は垂直状態から20度程度の範囲で傾けられた状態に立
てられる。
【0018】
第1成膜チャンバ108a及び第2成膜チャンバ108bは、誘導結合プラズマ生成用
のアンテナ126が設けられ、スパッタリングターゲット124が装着される。第1成膜
チャンバ108a及び第2成膜チャンバ108bは、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ
126により生成される誘導結合プラズマ(ICP)によりスパッタリング成膜が行われ
る。スパッタリングターゲット124にはパルス電源123が接続され、イオンの加速エ
ネルギーを制御することが可能とされている。成膜装置100は、このような機構により
、基板上に堆積される薄膜の密度を制御することが可能とされている。
【0019】
第1成膜チャンバ108aと第2成膜チャンバ108bには、異なる材質(成分、組成
、密度)のスパッタリングターゲット124を装着することができ、真空中で組成の異な
る薄膜を連続して堆積することができる。また、第1成膜チャンバ108aと第2成膜チ
ャンバ108bには、同種(成分、組成、密度)のスパッタリングターゲット124が装
着されていてもよく、それにより異なる成膜条件を適用して異なる膜質の薄膜を堆積させ
ることができる。なお、
図1は、2つの成膜チャンバ108を示すが、成膜装置100は
このような構成に限定されず、作製する薄膜の構造や種類に応じて成膜チャンバ108の
数を適宜変更することができる。成膜装置100は、例えば、単層の薄膜を形成する場合
には、成膜チャンバ108の数が1つでもよく、多層の薄膜を形成する場合には3つ以上
の成膜チャンバ108が連結されていてもよい。
【0020】
図2は、成膜装置100の構成を示す図であり、ロード・アンロードチャンバを除く前
処理チャンバ104、第1搬送チャンバ106a、第2搬送チャンバ106b、第1成膜
チャンバ108a、第2成膜チャンバ108bに設けられ又は接続される主要な構成要素
を示す。各チャンバには真空排気系110が接続される。真空排気系110は、ターボ分
子ポンプ(TMP)及びドライポンプ(DRP)等の真空ポンプで構成される。真空排気
系110の構成は、第1搬送チャンバ106a及び第2搬送チャンバ106bと、第1成
膜チャンバ108a及び第2成膜チャンバ108bとで異なっていてもよいし、同じであ
ってもよい。第1成膜チャンバ108a及び第2成膜チャンバ108bには、圧力コント
ロールのためのコンダクタンスバルブが設けられていてもよい。また、前処理チャンバ1
04、第1成膜チャンバ108a、第2成膜チャンバ108bにはガス供給系112が接
続される。ガス供給系112は、マスフローコントローラ、フィルタ等で構成される。
【0021】
前処理チャンバ104には、基板ステージ114と高周波放電電極115が設けられる
。高周波放電電極115は高周波電源120に接続される。前処理チャンバ104では、
基板ステージ114と高周波放電電極115によって生成される高周波放電プラズマによ
って基板の前処理が行われる。
【0022】
前処理チャンバ104と第1成膜チャンバ108aとの間には、搬送ロボット116が
設けられた第1搬送チャンバ106a及びプラテン機構118が設けられた第2搬送チャ
ンバ106bが設けられる。前処理チャンバ104で吸着分子の脱離処理が行われた基板
は、大気に触れることなく第1搬送チャンバ106a及び第2搬送チャンバ106bを経
由して第1成膜チャンバ108aに搬送される。前処理チャンバ104で前処理がされた
基板は、第1搬送チャンバ106aの搬送ロボット116によって第2搬送チャンバ10
6bに搬送される。搬送ロボット116は基板を水平状態に保って搬送を行う。第2搬送
チャンバ106bに搬送された基板は、プラテン機構118によって垂直又は垂直から2
0度程度の範囲で傾けられた状態に立てられ、第1成膜チャンバ108aに搬入される。
【0023】
スパッタリング法による成膜は、堆積される薄膜にピンホールが形成されないように基
板を水平ではなく直立した状態で成膜することが好ましいと考えられる。しかし、例えば
ディスプレイの用途におけるように基板のサイズが大型化すると(例えば、液晶プロセス
の第8世代のガラス基板は2200mm×2400mmである)、自重により撓んでしま
うので常に垂直に立てた状態で基板を搬送することが困難である。また、クラスタ型枚葉
式スパッタリング装置のように、基板を水平状態に保って成膜を行う装置では、基板の大
型化により装置の床面積が増大(すなわち、クリーンルームの床面積が増大)することが
問題となる。このような問題に対して成膜装置100は、基板の搬送経路の途中にプラテ
ン機構118を設け、成膜の前段階までは基板を水平に扱い、成膜段階では基板を垂直又
は垂直から20度程度の範囲で傾けられた状態に立てて行うようにしているので、基板の
取り扱いが容易となる。さらに、成膜装置100は、設置に必要な床面積を小さくできる
という利点を有する。
【0024】
第1成膜チャンバ108aは、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ126が設けられ、
スパッタリングターゲット124が取り付けられる。誘導結合プラズマ生成用のアンテナ
126はメガヘルツ帯の高周波を出力する高周波電源120と接続される。また、誘導結
合プラズマ生成用のアンテナ126は高周波電力に重畳するようにキロヘルツ帯の交流電
圧を印加可能とするように交流電源122が接続されていてもよい。スパッタリングター
ゲット124には前述のようにパルス電源123が接続される。また、第1成膜チャンバ
108aには、基板を加熱するヒータ127が設けられていてもよい。
【0025】
詳細な説明は省略されるが、第2成膜チャンバ108bも第1成膜チャンバ108aと
同様の構成を有する。なお、
図2では示されないが、第1成膜チャンバ108a及び第2
成膜チャンバ108bには、基板を垂直又は垂直から20度程度の範囲で傾けられた状態
で搬送する搬送機構が設けられる。
【0026】
図3は、成膜チャンバ108(第1成膜チャンバ108a、第2成膜チャンバ108b
)を上面から見たときの部分的な断面模式図を示す。成膜チャンバ108は、内部空間が
大気から遮断された閉空間を形成するように構成されるが、
図3は2つの壁面(第1チャ
ンバ壁109a、第2チャンバ壁109b)の間の模式的な構造を示す。
【0027】
成膜チャンバ108は、スパッタリングターゲット124を覆うように設けられたプラ
ズマ拡散防止板140と、プラズマ拡散防止板140で囲まれた領域に突出するように設
けられる誘導結合プラズマ生成用のアンテナ126(第1アンテナ126a、第2アンテ
ナ126b)と、スパッタガスを導入するガス導入管138とを含む。成膜装置100は
、成膜チャンバ108にスパッタリングターゲット124が装着された状態で使用される
が、スパッタリングターゲット124はいわば消耗品であり成膜装置100に固定される
構成部材ではなく、適宜交換される付属部材である。成膜チャンバ108には、スパッタ
リングターゲット124、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ126等の部材が取り付け
られるが、各部材の取り付け部にはOリング、ガスケット等のシール部材が設けられる。
【0028】
スパッタリングターゲット124は、ターゲット材132とバッキングプレート130
とを含む。ターゲット材132は、銅(Cu)、チタン(Ti)等の金属で形成されるバ
ッキングプレート130に、インジウム合金等のボンディング材でボンディングされる。
ターゲット材132は一体成型品であることが好ましい。スパッタリングターゲット12
4は、成膜チャンバ108の第1チャンバ壁109aに取り付けられる。第1チャンバ壁
109aには第1貫通孔128aが設けられ、スパッタリングターゲット124はバッキ
ングプレート130が第1貫通孔128aに嵌め込まれるようにして取り付けられる。ス
パッタリングターゲット124にはバイアス電圧が印加されるため、バッキングプレート
130と第1チャンバ壁109aとの間には絶縁部品136が設けられる。
【0029】
スパッタリングターゲット124は、正面から見た場合、長方形状であり長手方向が垂
直方向と平行に設けられる。ターゲット材132は、各種のスパッタリング可能な材料が
取り付け可能である。例えば、ターゲット材132として、透明導電膜、酸化物半導体膜
を形成するための金属酸化物の焼結体を適用することができる。ターゲット材132は、
スパッタリング成膜時にイオンが衝突することにより温度が上昇する。このため成膜装置
100は、ターゲット材132の温度上昇を抑制するために、バッキングプレート130
を冷却する機構が設けられる。
図3は、その一例として、バッキングプレート130に冷
却水を流す流水孔が設けられた構造を示す。
【0030】
第1チャンバ壁109aにスパッタリングターゲット124が取り付けられると、ター
ゲット材132は成膜チャンバ108の内部空間に露出する。成膜チャンバ108には、
ターゲット材132の周縁部を覆うようにシールド板134が設けられる。シールド板1
34は、ターゲット材132と第1チャンバ壁109aとの間の領域に露出するバッキン
グプレート130の表面を覆うように設けられる。このような構造により、バッキングプ
レート130が誘導結合プラズマに晒されてスパッタリングされないようにすることがで
きる。
【0031】
成膜チャンバ108は、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ126(第1アンテナ12
6a、第2アンテナ126b)が設けられる。誘導結合プラズマ生成用のアンテナ126
は、スパッタリングターゲット124の長手方向に沿って、かつスパッタリングターゲッ
ト124を挟むように配置される。すなわち、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ126
としての第1アンテナ126aと第2アンテナ126bとが、スパッタリングターゲット
124を挟むように配置される。
【0032】
誘導結合プラズマ生成用のアンテナ126としての第1アンテナ126a及び第2アン
テナ126bは、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ本体148(第1アンテナ本体14
8a、第2アンテナ本体148b)と、U字溝形状をした絶縁部材146(第1絶縁部材
146a、第2絶縁部材146b)とを含む。第1アンテナ本体148aは第1絶縁部材
146aの中に設けられ、第2アンテナ本体148bは第2絶縁部材146bの中に設け
られる。誘導結合プラズマ生成用のアンテナ126は、絶縁部材146が第1チャンバ壁
109aの第2貫通孔128bに挿入され、スパッタリングターゲット124の両側に突
出するように設けられる。このように、絶縁部材146の中に誘導結合プラズマ生成用の
アンテナ本体148が設けられることで、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ本体148
にターゲット材132からスパッタリングされた物質が付着しないようにすることができ
る。さらに、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ本体148が誘導結合プラズマに晒され
ないようにすることができる。
【0033】
誘導結合プラズマ生成用のアンテナ126は、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ本体
148がターゲット材132の表面よりも高い位置(成膜チャンバ108内の中央寄りの
位置、又は基板200側の位置)に突出するように設けられる。例えば、誘導結合プラズ
マ生成用のアンテナ本体148は、ターゲット材132の表面から長さD2だけ突出する
ように設けられる。このように、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ本体148をターゲ
ット材132の表面から突出させて設けることで、ターゲット材132の表面においてプ
ラズマ密度を高めることができる。
【0034】
図22Aは、成膜チャンバ108(第1成膜チャンバ108a、第2成膜チャンバ10
8b)の他の構成を示す。
図22Aは、
図3と同様に成膜チャンバ108を上から見たと
きの部分的な断面模式図を示す。
図22Aに示す成膜チャンバ108は、誘導結合プラズ
マ生成用のアンテナ126(第1アンテナ126a、第2アンテナ126b)及びスパッ
タリングターゲット124を取り付ける第1チャンバ壁109aの一部がセラミックス部
材180aで形成された構造を示す。
図22Bは、このセラミックス部材180aの正面
図を示す。
【0035】
図22A及び
図22Bに示すように、セラミックス部材180aには、スパッタリング
ターゲット124を取り付ける第1貫通孔128aが設けられている。セラミックス部材
180aは絶縁性を有するため、スパッタリングターゲット124を直接取り付けること
ができる。すなわち、スパッタリングターゲット124を成膜チャンバ108に取り付け
るに当たり、
図3に示すような絶縁部品136が省略可能である。また、セラミックス部
材180aには、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ126(第1アンテナ126a、第
2アンテナ126b)を取り付けるための第2貫通孔128bが設けられている。U字溝
形状をした絶縁部材146(第1絶縁部材146a、第2絶縁部材146b)は、この第
2貫通孔128bから挿入され、セラミックス部材180aの裏面側でOリングによって
真空シールされている。また、セラミックス部材180aは絶縁性であるため、ターゲッ
ト材132の周縁部を覆うシールド板134を一体化することができる。
【0036】
図23Aは、成膜チャンバ108(第1成膜チャンバ108a、第2成膜チャンバ10
8b)において、第1チャンバ壁109aの一部がセラミックス部材180bに誘導結合
プラズマ生成用のアンテナ本体148(第1アンテナ本体148a、第2アンテナ本体1
48b)を覆うU字溝形状をした絶縁部材146(第1絶縁部材146a、第2絶縁部材
146b)が一体化された構造を示す。また、
図23Bは、セラミックス部材180bの
正面図を示す。
図23A及び
図23Bに示すように、U字溝形状をした絶縁部材146(
第1絶縁部材146a、第2絶縁部材146b)を第1チャンバ壁109aの一部と一体
成形することにより部品点数を減らすことができ、リーク(真空の気密漏れ)を防ぐこと
ができる。また、セラミックス部材180bのU字溝形状をした絶縁部材(第1絶縁部材
146a、第2絶縁部材146b)に相当する部分の大気側(誘導結合プラズマ生成用の
アンテナ本体148が設けられる側)にガラス層が形成されてもよい。ガラス層を設ける
ことで、大気側からのリークをさらに減少させることができる。
【0037】
セラミックス部材180a、180bは、絶縁性に優れるばかりでなく、耐熱温度が高
く熱膨張係数が小さく、精密加工が可能であり、ガス放出量も少ないことから成膜チャン
バ108の壁材として好適に用いることができる。誘導結合プラズマ生成用のアンテナ1
26付近の壁材にセラミックス部材180a、180bを用いることで、誘導結合プラズ
マ生成用のアンテナ126のパワーロスを低減することができる。それにより、ターゲッ
ト材132の表面付近におけるプラズマ密度を高めることができる。
【0038】
図22A及び
図23Aに示すように、スパッタリングターゲット124を取り付ける第
1チャンバ壁109aをセラミックス部材180a、180bで形成することにより、チ
ャンバ内壁からの脱ガス量を減らすことができ、プラズマ密度を高めることができる。ま
た、ターゲット材132の周辺部を絶縁部材であるセラミックス部材180a、180b
で構成されていることにより、ターゲット材132の表面に対する垂直電界の発生領域を
拡大することができ、より密度の高い膜を作製することができる。
【0039】
図4は、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ126の詳細な断面構造を示す。誘導結合
プラズマ生成用のアンテナ本体148は中空の金属管150で形成される。例えば、誘導
結合プラズマ生成用のアンテナ本体148は、銅(Cu)、真鍮、アルミニウム(Al)
等の中空の金属管150で形成される。誘導結合プラズマ生成用のアンテナ本体148は
、このような金属管により棒状アンテナを形成し、中空部分には冷却水が流される。金属
管150の内側表面には、腐食を防止するためにニッケル(Ni)又はスズ(Sn)のメ
ッキ膜で形成された導電層151が形成されていることが好ましい。絶縁部材146は、
石英、又はアルミナ、イットリア(Y
2O
3)、フォルステライト(Mg
2SiO
4)、
ステアタイト(MgO・SiO
2)等のセラミクス製で形成される。絶縁部材146は誘
導結合プラズマ生成用のアンテナ本体148が配置されるU字溝形状の部材であり、真空
と大気を隔てるように配置される。絶縁部材146の表面(特に大気側の表面)には、気
密性を高めるために(リークを防止するために)、ガラス層147が設けられていること
が好ましい。誘導結合プラズマ生成用のアンテナ本体148は絶縁部材146の中に通さ
れることにより、大気側に配置される。このように、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ
本体148を大気側に配置することで、その設置位置の精度を高めることができ、ターゲ
ット材132近傍のプラズマ密度の均一性を高めることができる。また、誘導結合プラズ
マ生成用のアンテナ本体148の保持機構も自由に設計することができる。
【0040】
なお、
図5に示すように、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ126は、誘導結合プラ
ズマ生成用のアンテナ本体148を複数本含んで構成されてもよい。すなわち、誘導結合
プラズマ生成用のアンテナ本体148が複数の誘導結合プラズマ生成用のアンテナ本体1
48からなり、絶縁部材146の大気側に配置されていてもよい。誘導結合プラズマ生成
用のアンテナ本体148を構成する金属管150は、表皮効果により周波数が高くなるに
従い交流抵抗が高くなる。例えば、13.56MHzの高周波電力を誘導結合プラズマ生
成用のアンテナ本体148に印加した場合、金属管150の肉厚が5mmであったとして
も、電流は金属管150の表面から約17.7μmの深さの領域しか流れないことになる
。表皮効果による電力損失を防止するためには、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ12
6は、
図5に示すように複数の誘導結合プラズマ生成用のアンテナ本体148が並列に配
置されていてもよい。
【0041】
図3に示すように、ガス導入管138は、プラズマ拡散防止板140の内側の領域であ
って、第1アンテナ126aに隣接して設けられる。ガス導入管138は、スパッタガス
を成膜チャンバ108の中に導入するために設けられる。ガス導入管138は、誘導結合
プラズマ生成用のアンテナ126と同様にスパッタリングターゲット124の長手方向に
沿って設けられる。ガス導入管138は、金属製の管にシャワーノズルが設けられた構造
を有していても良いが、絶縁性の多孔質体、例えばセラミックスの多孔質体の管で形成さ
れていることが好ましい。ガス導入管138に多孔質体を用いることで、スパッタリング
ターゲット124の長手方向に沿ってスパッタガスを均一に導入することができる。
【0042】
プラズマ拡散防止板140は、スパッタリングターゲット124が配置される領域を囲
むように設けられる。プラズマ拡散防止板140は箱形の部材であり、成膜チャンバ10
8の内側に第1チャンバ壁109aとプラズマ拡散防止板140とで囲まれた空間を形成
するように設けられる。プラズマ拡散防止板140は、第1チャンバ壁109aの面と略
平行な第1面142と、第1面142から第1チャンバ壁109aに向かう第2面143
とを有する。また、プラズマ拡散防止板140で囲まれる領域には、第1チャンバ壁10
9aの表面を覆うように防着板141が設けられる。プラズマ拡散防止板140の第1面
142には、第1開口部144が設けられる。第1開口部144は、ターゲット材132
と重なる位置に設けられる。
【0043】
図6は、プラズマ拡散防止板140を正面から見たときの構造の模式図を示す。スパッ
タリングターゲット124はプラズマ拡散防止板140で囲まれる領域に設けられる。ス
パッタリングターゲット124を正面からみたときターゲット材132は、プラズマ拡散
防止板140の第1開口部144から露出する。
【0044】
誘導結合プラズマ生成用のアンテナ126(第1アンテナ126a、第2アンテナ12
6b)はプラズマ拡散防止板140に覆われる位置に配置される。第1アンテナ本体14
8aは、第1金属管150aと第2金属管150bが第1コンデンサ152aを介して接
続された構造を有し、第2アンテナ本体148bは、第3金属管150cと第4金属管1
50dが第2コンデンサ152bを介して接続された構造を有する。
【0045】
プラズマ拡散防止板140には、第2面143から第1面142にかけてスリット状の
第2開口部154が設けられる。第2開口部154は誘導結合プラズマ生成用のアンテナ
126の長手方向と交差する方向に細長く伸び、複数個設けられる。第2開口部154は
、スパッタガスに対するオリフィスであり、プラズマ拡散防止板140によって囲まれた
空間に供給されるスパッタガスの流れを制御する機能を有する。すなわち、第2開口部1
54は、プラズマ拡散防止板140で囲まれた空間にスパッタガスが所定の時間だけ滞留
し、成膜エリアにおいて均一なガス圧を形成するように、ガス流のコンダクタンスを制御
する機能を有する。さらに、スリット状の第2開口部154は、誘導結合プラズマ生成用
のアンテナ126によってプラズマ拡散防止板140に発生する誘導電流を防止する機能
を有し、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ126から誘導結合プラズマへのエネルギー
伝達効率を高めることができる。
【0046】
プラズマ拡散防止板140は、二次電子放出率が1より大きい材料で形成されることが
好ましい。例えば、プラズマ拡散防止板140は、アルミニウムを主体としたマグネシウ
ム合金、バリウム合金、又はカルシウム合金で形成されることが好ましい。さらに、これ
らの金属材料で形成されるプラズマ拡散防止板140は、スパッタリングターゲット12
4に面する内側表面が陽極酸化されていることが好ましい。プラズマ拡散防止板140の
内側表面にマグネシウム合金、バリウム合金、又はカルシウム合金の陽極酸化膜を形成す
ることで二次電子放出比率を1より大きくすることができる。これにより、陽極酸化膜の
表面はプラスに耐電し、アルゴンイオン(プラスイオン)のプラズマ拡散防止板140へ
の入射、衝突を防止することができる。すなわち、アルゴンイオン(プラスイオン)によ
るプラズマ拡散防止板140のスパッタリングが防止され、成膜チャンバ108で成膜さ
れる薄膜に取り込まれる不純物を低減することができる。
【0047】
スパッタリングによってn型酸化物半導体膜のキャリア濃度を精密に制御する場合、エ
レクトロンキラー効果を生じさせる不純物の混入を防ぐ必要がある。その対策として、誘
導結合プラズマに晒されるプラズマ拡散防止板140の内側表面を、エレクトロンキラー
効果を生じさせない絶縁膜で覆うことが好ましい。エレクトロンキラー効果の生じない絶
縁膜として、例えば、酸化シリコン(SiO2)、酸化マグネシウム(MgO)、アルミ
ナ(Al2O3)が例示される。特に、絶縁膜として、二次電子放出率の高い酸化マグネ
シウム(MgO)が好ましく、また酸化マグネシウム(MgO)含有させた酸化シリコン
、酸化アルミニウム等でプラズマ拡散防止板140の表面を覆うことが好ましい。
【0048】
プラズマ拡散防止板140は、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ126によって形成
される誘導結合プラズマが、成膜チャンバ108の全体に広がらないようにするために設
けられる。プラズマ拡散防止板140という物理的な壁を形成することで、成膜チャンバ
108の中で誘導結合プラズマが不必要に広がらないようにすることができる。すなわち
、成膜チャンバ108は、プラズマ拡散防止板140、防着板141で囲まれた領域に誘
導結合プラズマが生成され、それ以外の領域には誘導結合プラズマが広がらない構造を有
する。プラズマ拡散防止板140、防着板141は、表面に陽極酸化膜が形成されている
ことで、プラズマ閉じ込め作用を増進することができ、プラズマ密度を高めることができ
る。
【0049】
従来のマグネトロンスパッタリング装置では、酸化物半導体成膜の膜密度を向上させる
ために、成膜時のガス圧力を0.5Pa以下に保つことを要求される。さらに成膜チャン
バの内壁から離脱する不純物ガスだけでなく、成膜チャンバ内部の組材がスパッタリング
されて不純物として膜中に取り込まれてしまうことに注意を払う必要がある。
【0050】
InGaSnOxに代表される酸化物半導体は、導電型がn型であるために、エレクト
ロンキラー効果が大きい鉄(Fe)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)等の含むステン
レス鋼材で成膜チャンバを作製した場合には、チャンバ壁がプラズマと接触することを完
全に防止する必要がある。酸化物半導体膜を成膜するときに、基板表面に吸着している水
(H2O)、ハイドロカーボン等を離脱させる処理を行わない場合は、膜密度が高くなら
ず信頼性の高い薄膜トランジスタを作製することができない。
【0051】
基板表面を脱ガス処理して成膜チャンバへ搬送する迄の間でも、基板温度を150℃以
上に保持していないと真空チャンバ内の水分(H2O)が再吸着してしまい、再現性を向
上させることができない。さらに、成膜されたままの酸化物半導体膜の膜密度を向上させ
るには、基板温度を200℃以上に高めて結晶化率を向上させる必要がある。スパッタリ
ングガス(Ar+O2)に微量の水素ガス(H2)を添加することで、成膜チャンバの内
壁から離脱する不純物ガスによる汚染を低減することができ、成膜後の熱処理も省略する
ことができる。薄膜トランジスタでは素子完成後の熱処理温度を200℃程度まで低下さ
せることができるので、製造コストも大幅に下げることができる。
【0052】
このように、成膜チャンバ108は、プラズマ拡散防止板140、防着板141によっ
て誘導結合プラズマが閉じ込められる構造を有するので、チャンバ壁109(第1チャン
バ壁109a、第2チャンバ壁109b等)に吸着した不純物(水分(H2O)、水素(
H2)、ハイドロカーボン等)が基板上に堆積される薄膜に取り込まれることを防止する
ことができる。そして、成膜チャンバ108をステンレス鋼(SUS304)で作製した
場合でも、鉄(Fe)、クロム(Cr)等による汚染の問題を防止することができる。
【0053】
なお、
図7に示すように、第1開口部144にメッシュ170が設けられていてもよい
。メッシュ170を設けることで、誘導結合プラズマの閉じ込め効果を高めることができ
る。メッシュ170は、エレクトロンキラー効果のない金属材料で形成されていることが
好ましい。例えば、メッシュ170は、チタン(Ti)、タングステン(W)、ニッケル
(Ni)、タンタル(Ta)から選ばれた金属材料で形成されていることが好ましい。こ
れにより、成膜チャンバ108内へのプラズマの広がりを確実に防止し、また、酸化物半
導体膜を堆積する際において、膜中にエレクトロンキラーとなる不純物が取り込まれてし
まうことを防止することができる。メッシュ170を設置することで、マイナス酸素イオ
ンを基板200に垂直入射させやすくなり、成膜された酸化物半導体膜の結晶化を促進す
ることができる。
【0054】
メッシュ170の開口率は70%以上であることが好ましい。メッシュ170を形成す
るワイヤ(又はメッシュパターン)は、
図7に示すように、基板の移動方向(水平方向)
に対して30度から60度の範囲で傾き交差するように配置されていることで、メッシュ
170のパターンが成膜された膜に転写されることを防止することができる。
【0055】
プラズマ拡散防止板140は、また、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ126(第1
アンテナ126a、第2アンテナ126b)と基板200との間に介在するように設けら
れていることが好ましい。仮に、プラズマ拡散防止板140がないと、
図8Aに示すよう
に、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ126(第1アンテナ126a、第2アンテナ1
26b)が基板200に堆積される薄膜の膜質に影響を与えることが問題となる。すなわ
ち、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ126(第1アンテナ126a、第2アンテナ1
26b)に近接する基板200の表面202が、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ12
6(第1アンテナ126a、第2アンテナ126b)のセルフバイアスの影響を受けるた
めに、堆積される薄膜の膜質が大きく異なってしまう。これに対し、
図8Bに示すように
、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ126(第1アンテナ126a、第2アンテナ12
6b)と基板200との間にプラズマ拡散防止板140が介在すると、セルフバイアスの
影響が遮蔽されるので、基板200に堆積される薄膜の膜質を一定に保つことができる。
また、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ126が連結領域(2つの導体が容量結合され
る領域であり、詳細は後述される。)を有する場合において、プラズマ拡散防止板140
を有することでプラズマの不均一性の問題を解決することができる。
【0056】
また、プラズマ拡散防止板140が設けられていない場合には、基板200が第1開口
部144の前を一方向に移動する移動式成膜法においても、
図9に示すように、誘導結合
プラズマ生成用のアンテナ本体148を構成する金属管150(第1金属管150aと第
2金属管150b、第3金属管150cと第4金属管150d)を繋ぐコンデンサ152
(第1コンデンサ152a、第2コンデンサ152b)と重なる領域の膜質が異なること
が問題となる。
【0057】
すなわち、プラズマ拡散防止板140が設けられていない場合には、第1アンテナ12
6a及び第2アンテナ126bにそれぞれ設けられる第1コンデンサ152a及び第2コ
ンデンサ152bの部分のプラズマ密度が異なり、その部分と重なるアンテナ連結領域2
04に堆積される薄膜の膜質に影響を与えるので、基板200全面に均一な薄膜を形成す
ることができなくなる。これに対し、プラズマ拡散防止板140が設けられている場合に
は、アンテナ連結領域204に相当する領域が存在しないことになり、プラズマの不均一
性の影響が無くなるので、基板200の全面に均一な膜を形成することが可能となる。
【0058】
成膜装置100は移動成膜方式であり、
図3に示すように、基板200は搬送トレイ1
60に装着されてスパッタリングターゲット124の前を搬送される。基板200は、プ
ラズマ拡散防止板140に近接する位置を搬送される。
図3に示すように、ターゲット材
132の表面から基板200の表面までの距離をD1とし、基板200の表面とプラズマ
拡散防止板140の表面との間隔をD3とする。この場合、間隔D3は、距離D1の5分
の1以下となるように、プラズマ拡散防止板140、搬送トレイ160が配置される。例
えば、距離D1が55mmである場合、間隔D3は5mmの長さを有する。
【0059】
このように、基板200をプラズマ拡散防止板140に近接させて搬送することで、プ
ラズマ拡散防止板140で囲まれた領域に供給されたスパッタガスが、第1開口部144
を通して成膜チャンバ108内に流れ出るときのコンダクタンスを低下させることができ
る。さらにこの構成は、チャンバ壁109に吸着した不純物(水分(H2O)、水素(H
2)、ハイドロカーボン等)が成膜領域に拡散して流入することを防止する作用を有し、
成膜される薄膜の物性の再現性を向上させるという効果を発現させることができる。
【0060】
図10A及び
図10Bは、移動成膜方式に適用できるスパッタリングターゲット124
の一例を示す。
図10Aは、バッキングプレート130に、2種類のターゲット材132
(第1ターゲット材132a、第2ターゲット材132b)がボンディング材131で固
定された構造を示す。ボンディング材131としてはインジウム又はインジウム合金が用
いられる。
【0061】
第1ターゲット材132aと第2ターゲット材132bとは、組成又は材質が異なるも
のが組合わされる。例えば、ターゲット材が酸化物半導体である場合、第1ターゲット材
132aとして、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、スズ(Sn)を含む三元系の
酸化物半導体ターゲットが用いられ、第2ターゲット材132bとして、第1ターゲット
材132aに比較してガリウム(Ga)の濃度が高い酸化物半導体ターゲットが用いられ
る。このように2種類のターゲット材を基板の搬送方向に並べて配置することで、組成の
異なる2つの層を連続して堆積することができる。
【0062】
第1ターゲット材132aと第2ターゲット材132bとは、熱膨張による破損を防ぐ
ためにバッキングプレート130上で所定の間隔をもって配置される。その間隔G1は0
.5mm程度である。この場合において、その離隔部分でバッキングプレート130又は
ボンディング材131が露出しないように、第1ターゲット材132a及び第2ターゲッ
ト材132bは、断面視で端部がテーパ状に成型されている。具体的には、
図10Aに示
すように、第1ターゲット材132aは、ボンディング材131と接する底面に対し上面
側の端部が突出するようにテーパ面が形成され、第2ターゲット材132bは上面側に対
して底面が突出するテーパ面が形成されている。この2つのテーパ面が咬み合うように第
1ターゲット材132aと第2ターゲット材132bとを配置することで、スパッタリン
グターゲット124を平面視したときに、バッキングプレート130やボンディング材1
31が露出しないようにすることができる。すなわち、一つのバッキングプレート130
に2種類のターゲット材を配置した場合でも、その境界領域でバッキングプレート130
やボンディング材131がスパッタリングされないようにすることができ、不純物が堆積
される膜中に取り込まれないようにすることができる。
【0063】
成膜チャンバ108において基板200は一定速度でスパッタリングターゲット124
の前を一方向に搬送されるので、第1ターゲット材132aに対して第2ターゲット材1
32bの幅を狭くすることにより、堆積される薄膜の膜厚を異ならせることができる。例
えば、第1ターゲット材132aの幅に対して第2ターゲット材132bの幅を狭くする
ことで、第1ターゲット材132aで堆積される薄膜の膜厚を厚くし、第2ターゲット材
132bで堆積される薄膜の膜厚を薄くすることができる。
【0064】
図10Bは、3種類のターゲット材132(第1ターゲット材132a、第3ターゲッ
ト材132c、第2ターゲット材132b)を配置した例を示す。この場合も
図10Aに
示す例と同様に、各ターゲット材が隣接し合う側端部がテーパ状に成型されている。具体
的には、第1ターゲット材132aと第2ターゲット材132bに挟まれた第3ターゲッ
ト材132cは、台形状の断面形状を有している。このような断面形状を有する第3ター
ゲット材132cの両側から、テーパ面が逆向きの第1ターゲット材132aと第2ター
ゲット材132bが配置されることで、スパッタリングターゲット124は、バッキング
プレート130やボンディング材131が平面視で露出しない構造を有する。
【0065】
図11は、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ126(第1アンテナ126a、第2ア
ンテナ126b)の詳細を示す。第1アンテナ126aは、第1絶縁部材146a及び第
1アンテナ本体148aを含み、第2アンテナ126bは、第2絶縁部材146b及び第
2アンテナ本体148bを含む。第1アンテナ本体148aは、第1金属管150aと第
2金属管150bとがアンテナ連結領域204に形成される第1コンデンサ152aを介
して接続された棒状アンテナであり、第2アンテナ本体148bは、第3金属管150c
と第4金属管150dとがアンテナ連結領域204に形成される第2コンデンサ152b
を介して接続された棒状アンテナである。第1アンテナ本体148a及び第2アンテナ本
体148bは、このような構造を有することによりインピーダンスを低減することができ
る。それにより、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ本体148を長くする場合でも、イ
ンピーダンスの増大を防ぐことができ、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ本体148の
両端に大きな電位差が生じるのを防ぐことができる。その結果、スパッタリングターゲッ
ト124の大型化にも対応することができる。
【0066】
図12は、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ本体148のアンテナ連結領域204の
断面構造を示す。アンテナ連結領域204は、第1金属管150aと第2金属管150b
(又は第3金属管150cと第4金属管150d)とが絶縁材料で形成された中空管17
2に嵌め込まれた構造を有する。中空管172が第1金属管150a及び第2金属管15
0bと嵌合する部分にはOリング153が設けられ気密が保たれており、冷却水が流れて
も漏れ出ない構造を有している。Oリング153は、耐熱性を有するものが好ましく、例
えば、フッ素ゴム系のものが用いられる。
【0067】
中空管172の内側表面にはコンデンサ152の電極として用いられる導電層174が
形成されている。導電層174は、低抵抗化を図るため第1導電層174aが銅メッキで
形成され、銅メッキ皮膜の腐食を防止するために第2導電層174bがニッケル(Ni)
メッキ又はスズ(Sn)メッキにより形成されている。また、前述のように第1金属管1
50a及び第2金属管150bの内側表面にも導電層151が形成されている。
【0068】
導電層174は、絶縁材料で形成される中空管172を介して第1金属管150a及び
第2金属管150bと対向するように配置されることで、コンデンサ152が形成される
。すなわち、第1金属管150aと第2金属管150bとは、内側表面に導電層174が
形成された中空管172に嵌め込まれることで容量結合され、誘導結合プラズマ生成用の
アンテナ本体148を形成している。このように絶縁材料で形成された中空管172を第
1金属管150a及び第2金属管150bの内周部に配置することで、誘導結合プラズマ
生成用のアンテナ本体148の凹凸を減らし誘導結合プラズマの均一化を図ることができ
る。
【0069】
また、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ本体148は、大気側に設けられるため、コ
ンデンサ152に並列に可変コンデンサ176を設けることができる。これにより誘導結
合プラズマ生成用のアンテナ本体148のインピーダンスを精密に、また広い範囲で調整
することができる。これにより、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ126は、高周波電
源120との間で整合をとりやすくなる。
【0070】
さらに、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ本体148は、コンデンサ152が冷却水
の流路の中に設けられるため(コンデンサ152が冷却水に接するため)、コンデンサ1
52の発熱を効果的に抑制することができる。このような構成により、コンデンサ152
の発熱による故障及び破壊を防止することができ、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ1
26に印加する高周波電力を大電力化することもできる。
【0071】
なお、
図11に示すように、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ126に13.56M
Hzの高周波電力を印加する場合、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ本体148の長さ
が3mを超えると定在波の問題が無視できなくなる。しかし、定在波の問題は、誘導結合
プラズマ生成用のアンテナ本体148を
図16及び
図17に示すように2本以上に分割し
、共振用の可変コンデンサ176を介して直列に接続することで解消することができる。
【0072】
誘導結合プラズマ生成用のアンテナ本体148は発振周波数が13.56MHz又は2
7MHzの高周波電源120と接続される。具体的には、第1アンテナ本体148aが第
1高周波電源120aと接続され、第2アンテナ本体148bが第2高周波電源120b
と接続される。第1高周波電源120aと第2高周波電源120bとは、出力される高周
波電力の位相が同じであってもよいが、むしろ半波長(180度)ずれていることが好ま
しい。それにより、ターゲット材132表面のプラズマ密度を高めることができる。また
、第1アンテナ本体148aは第1可変容量コンデンサ158aとも接続され、第2アン
テナ本体148bは第2可変容量コンデンサ158bと接続される。可変容量コンデンサ
158(第1可変容量コンデンサ158a及び第2可変容量コンデンサ158b)は、誘
導結合プラズマ生成用のアンテナ本体148(第1アンテナ本体148a及び第2アンテ
ナ本体148b)のインピーダンスを調整し、高周波電源120(第1高周波電源120
a、第2高周波電源120b)とインピーダンス整合をとりやすくするために設けられる
。
【0073】
誘導結合プラズマ生成用のアンテナ本体148(第1アンテナ本体148a、第2アン
テナ本体148b)は、周波数が10kHzから1000kHzの交流電源122とも接
続される。誘導結合プラズマ生成用のアンテナ本体148(第1アンテナ本体148a、
第2アンテナ本体148b)と交流電源122との間には高周波を遮断するためのコイル
156が挿入される。高周波電力に加え、交流電圧を誘導結合プラズマ生成用のアンテナ
本体148(第1アンテナ本体148a、第2アンテナ本体148b)に印加することで
、ターゲット材132表面のプラズマ密度を高めることができる。
【0074】
さらに、交流電圧を高周波電力に重畳させることで、絶縁部材146に付着した堆積物
(ターゲット材132からスパッタリングされた生成物)を、スパッタリング現象で除去
することができる。それにより、放電特性の経時変化を抑制することができる。特に、抵
抗値の低い透明導電膜を成膜する場合には、
図11に示す誘導結合プラズマ生成用のアン
テナ126の回路構成は安定した放電を得る上で有利な効果を発揮する。なお、抵抗値の
高い酸化物半導体膜を成膜する場合には、絶縁部材146に堆積物が付着しても大きな影
響を受けないので交流電源122は必須なものとはならない。一方、第1アンテナ126
aと第2アンテナ126bとの間隔が300mm以上に大きくなると、スパッタリングタ
ーゲット124の中央領域のプラズマ密度が低下するので、交流電源122を用いて第1
アンテナ本体148aと第2アンテナ本体148bとの間に交流電圧を印加することで、
プラズマ密度を均一化することができる。
【0075】
スパッタリングターゲット124にはパルス電源123が接続される。パルス電源12
3は、スパッタリングターゲット124に-100Vから-600V程度のマイナスのパ
ルス電圧を印加する。
図13に示すように、マイナスのパルス電圧は、誘導結合プラズマ
生成用のアンテナ本体148に印加する交流電圧が0Vになるタイミングで印加すること
で、基板に対し垂直方向にスパッタリング粒子を放出させることが可能となる。それによ
り緻密な膜を堆積することができる。
【0076】
図14は、酸化物半導体膜として、InGaZnO膜をスパッタリング成膜したときの
、ターゲット電圧と膜密度の関係を模式的に示す。誘導結合プラズマを利用したスパッタ
リング法の利点は、プラズマを発生させ維持する電源と、スパッタリング成膜を制御する
電源との2つの電源を分離し、独立して制御することが可能であるという点にある。従来
のDCマグネトロン方式では、スパッタリングターゲットに印加する電圧を-300V以
下にするとプラズマの発生が不均一となり安定した放電を維持することができなくなる。
【0077】
これに対し誘導結合プラズマを利用する場合には、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ
に印加する高周波電力を増加させてプラズマ密度を高めれば、マイナス酸素イオン及び酸
素ラジカルを大量に発生させることが可能となる。誘導結合プラズマを利用する方式では
、マグネットの磁場によりプラズマをスパッタリングターゲットの近傍に閉じ込める作用
が無いので、基板表面にプラズマを均一に接触させることができる。これにより、金属と
酸素原子との酸化反応を促進させることができる。
【0078】
誘導結合プラズマを利用したスパッタリング法では、InGaZnO膜を成膜する場合
、スパッタリングターゲットに印加する電圧を-200V程度とすることで、基板表面に
堆積される膜へのダメージを最小限に抑えながら結晶化率を高めることができる。このと
き、InGaZnO膜の膜密度は6.30g/cm3を実現することができる。この膜密
度は理論値である6.378g/cm3に近い値である。
【0079】
従来のマグネトロン方式では、ターゲット電圧を-300V以上に高めなければ安定し
た放電を維持することが出来ないために、膜へのダメージを高めてしまい、膜密度を6.
25g/cm3以上にすることは困難である。これに対し、本実施形態の誘導結合プラズ
マを利用する成膜装置100は、InGaZnO膜をはじめ各種組成の酸化物半導体膜の
膜密度を高めることが可能であり、薄膜トランジスタのしきい値電圧Vthのシフト量を
低減することができる。別言すれば、本実施形態の誘導結合プラズマを利用する成膜装置
100により、薄膜トランジスタの長期信頼性を高めることができる。
【0080】
図15は、前処理チャンバ104の構成を示す。前処理チャンバ104には、基板ステ
ージ114と高周波放電電極115が設けられる。基板ステージ114は、載置された基
板200を上方に浮かせる昇降機構164が付加される。基板ステージ114は、基板2
00と接するピン162が複数箇所に設けられ、昇降機構164によりピン162が上方
に突き出ることにより、基板200を浮いた状態に持ち上げる機能を有する。
【0081】
基板ステージ114は接地電極として機能するように導体で形成されており、前処理チ
ャンバ104のチャンバ壁と同じ電位となるようにされている。基板ステージ114には
、図示されない基板を加熱するヒータが内蔵されていてもよい。高周波放電電極115は
、基板ステージ114と対向するように配置される。高周波放電電極115と基板ステー
ジ114とは、発振周波数が13.56MHz又は27MHzの高周波電源120と接続
される。前処理チャンバ104には、また、ガス導入管166が設けられる。ガス導入管
166からは、前処理ガスとして、例えば、窒素(N2)ガス、酸素(O2)ガス、又は
亜酸化窒素(N2O)ガスが導入される。また、ガス導入管166の代わりに、シャワー
板で形成された高周波放電電極115を用い、そこからガスが導入されるようにされてい
てもよい。前処理時にプラズマを生成するときの圧力は、10Paから103Paの範囲
が好ましい。
【0082】
前処理チャンバ104は、前処理ガスが導入され、高周波放電電極115に高周波電力
が印加されると、高周波放電プラズマ168が生成される。高周波放電プラズマ168が
安定状態になった後、基板200がピン162により持ち上げられ、基板ステージ114
の上で浮いた状態に設置される。この状態で、高周波放電プラズマ168は、基板200
の表面のみならず裏面側にも回り込むように生成される。これにより、基板200の表面
(薄膜が堆積される面)のみならず、裏面及び側面に吸着した水分等の不純物や汚染物の
分子を除去することができる。ピン162はプラズマに晒されるため、不純物を放出しな
いために絶縁性のセラミックスで形成されているものが好ましい。
【0083】
これまでも、基板200の前処理として真空中でのプラズマ処理が行われている。しか
し、通常は基板200の表面側のみのプラズマ処理であり、裏面側はプラズマに晒されな
い状態で行われている。このような状態では、基板200の表面が清浄化されても、裏面
側に吸着した水分が残留していることにより、基板200を成膜チャンバに搬送した後も
裏面からの脱ガスが継続する。特に、酸化物半導体膜の成膜におけるようにスパッタ成膜
時のガス圧力が低い場合には、基板200の表面片側だけの脱ガス処理では不十分となる
。その結果、成膜チャンバをいくら高真空に排気しても、基板200の裏面側から吸着分
子(水分(H2O)、水素(H2)、ハイドロカーボン等)が放出され続けるので、基板
200の中央付近と周辺付近とで膜質が大きく異なってしまう。例えば、酸化物半導体膜
をスパッタリング法で成膜する場合には、基板200の裏面から放出される脱ガス成分を
制御できないことにより、基板200の中央付近と周辺付近とで、キャリア濃度が大きく
異なってしまう。基板200のサイズが大きくなればなるほど、この問題が大きくなる。
【0084】
基板200の脱ガス処理としては、真空中で200℃以上の温度で加熱することも考え
られるが、吸着している水分を完全に除去するには数時間かかり量産には適していない。
酸化物半導体膜の成膜を枚葉式で処理する際に、基板200ごとに数時間の熱処理をする
ことは現実的でない。
【0085】
しかしながら、本実施形態で示すように、前処理チャンバ104において、基板200
を浮かせてプラズマ処理を行うことで、表面のみでなく裏面もプラズマに晒されることで
全面の脱ガスが可能となり、短時間で基板全面の清浄化を行うことができ、キャリア濃度
の精密な制御が可能となる。
【0086】
繰り返しとなるが、酸化物半導体膜を形成する成膜装置100において重要な点は、ス
パッタリング成膜前に基板200の全面に吸着している吸着成分(水分(H2O)、水素
(H2)、ハイドロカーボン)を、窒素プラズマや酸素プラズマで強制的に脱ガス処理す
ることである。それにより、基板200の全面に亘ってキャリア濃度が一定な均質な酸化
物半導体膜を作製することが可能となる。
【0087】
以上において説明される成膜装置100の成膜チャンバ108は、脱ガスの少ない金属
材料で形成されていることが好ましい。例えば、薄膜トランジスタを形成するための酸化
物半導体膜を成膜する場合には、信頼性を向上させるために膜密度を高める必要がある。
膜密度を高めるためには、スパッタリング成膜時のスパッタ圧を約0.1Paから1.5
Pa程度で行う必要がある。このような圧力範囲では、誘導結合プラズマが成膜チャンバ
108の全体に広がるため、内壁がプラズマに晒されることになる。プラズマ中のプラス
イオンが成膜チャンバの内壁に衝突すると、吸着していた水分(H2O)、水素(H2)
、ハイドロカーボン等の分子が大量に離脱することとなる。これらの不純物は、酸化物半
導体膜で形成されるトランジスタの特性に影響を与える原因となる。
【0088】
本実施形態において示す成膜装置100の成膜チャンバ108は、強度を考慮してステ
ンレス鋼が使用される。しかし、ステンレス鋼の成分である鉄(Fe)、モリブデン(M
o)、マンガン(Mn)等の元素は、n型の酸化物半導体に対してエレクトロンキラー不
純物となるので、好ましくない。つまり、成膜チャンバ108の中でステンレス鋼が剥き
出しで存在すると、酸化物半導体膜を用いたトランジスタの特性に悪影響が及んでしまう
。従来のスパッタリング装置では、成膜チャンバにおいてステンレス鋼が剥き出しのまま
使用されていたので、酸化物半導体膜を用いたトランジスタの製造歩留まりを低下させ、
プロセスの再現性を低下させる要因となっている。
【0089】
このような問題を解決するために、本実施形態に係る成膜装置100は、成膜チャンバ
108の中に、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、タング
ステン(W)、ニッケル(Ni)等の金属で形成されるプラズマ拡散防止板140を設け
、プラズマを閉じ込める構成が採用されている。さらに、プラズマ中の電子密度を高め放
電の安定性を高めるために、プラズマ拡散防止板140の表面に、二次電子放出率の高い
酸化マグネシウム(MgO)や酸化バリウム(BaO)、酸化ストロンチウム(SrO)
、酸化カルシウム(CaO)等のアルカリ土類金属の酸化物の膜、又はこれらを含有した
酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化イットリウム等の絶縁膜を設ける構造が採用され
ている。
【0090】
図1及び
図2に示すように、成膜装置100は第1成膜チャンバ108a及び第2成膜
チャンバ108bが設けられている。このような第1成膜チャンバ108a及び第2成膜
チャンバ108bの構成により膜質の異なる2種類の酸化物半導体膜を積層させることが
可能となる。例えば、第1成膜チャンバ108aで第1酸化物半導体膜を堆積し、第2成
膜チャンバ108bで第2酸化物半導体膜を堆積することができる。
【0091】
例えば、第1成膜チャンバ108aでは、酸化物半導体のターゲットを用い、スパッタ
ガスとしてアルゴン(Ar)のみ又はアルゴン(Ar)と酸素(O2)を用いて成膜を行
い、第2成膜チャンバ108bではアルゴン(Ar)と酸素(O2)を用い(このとき、
酸素分圧を第1成膜チャンバ108aにおける条件よりも高くする)、成膜を行うことが
できる。酸化物半導体膜のスパッタリング成膜において、酸素分圧を高めることで酸素の
マイナスイオンの密度を高めることができ、薄膜の堆積表面に対する酸素のマイナスイオ
ンの照射密度を高めることができる。それにより、第1成膜チャンバ108aで堆積され
る酸化物半導体膜に対し、第2成膜チャンバ108bで堆積される酸化物半導体膜はキャ
リア密度を低減させることができ、また結晶性を高めることが可能となる。
【0092】
さらに、スパッタリングターゲット124にマイナスのパルス電圧を印加することで、
放電中に生じた酸素のマイナスイオンがパルス電圧印加中に酸化物半導体膜の堆積表面に
到達し、膜の緻密化を促進し、結晶化しやすくすることができる。本実施形態では、誘導
結合プラズマ生成用のアンテナ126により、大量の酸素ラジカルを生成することができ
、誘導結合プラズマが基板200の表面に接触又は近接することで金属元素が酸素と反応
しやすくなるため、未反応の酸素(O2)分子が膜中に取り込まれる確率を低減すること
ができる。
【0093】
このように、本実施形態に係る成膜装置100は、移動成膜方式を採用すると共に、第
1成膜チャンバ108a及び第2成膜チャンバ108bを複数個直列に接続した構成を有
することで、酸化物半導体膜を堆積する際に、精密にキャリア濃度を制御することができ
る。なお、本実施形態では、成膜装置100で酸化物半導体膜を作製する例を中心に述べ
ているが、これに限定されず、成膜装置100は透明導電膜、他の半導体膜、金属膜の作
製にも適用することができる。
【0094】
なお、本実施形態では、
図16Aの正面図及び
図16Bの断面図(
図16Aに示すA1
-A2間に対応する断面構造)に示すように、第1アンテナ126a、第2アンテナ12
6bが、スパッタリングターゲット124の長手方向と同じ方向に、略同じ長さに伸びる
棒状アンテナである例を示す。この例では、U字溝形状を有する第1絶縁部材146a、
第2絶縁部材146bが第1チャンバ壁109aとプラズマ拡散防止板140とで囲まれ
た領域の内側に突出するように設けられ、第1アンテナ本体148a、第2アンテナ本体
148bは、U字溝形状を有する第1絶縁部材146a、第2絶縁部材146bに囲まれ
るように設けられる。
【0095】
しかしながら、第1アンテナ126a、第2アンテナ126bは、
図16A及び
図16
Bに示す形態に限定されず、U字型の第1アンテナ126a、第2アンテナ126bがそ
れぞれ複数に分割されて配置されていてもよい。例えば、
図17Aの正面図及び
図17B
の断面図(
図17Aに示すB1-B2間に対応する断面構造)に示すように、複数の第1
アンテナ本体148a_1~148a_3、複数の第2アンテナ本体148b_1~14
8b_3が、スパッタリングターゲット124の長手方向に沿って分割されていてもよい
。このような第1アンテナ126a、第2アンテナ126bの配置によっても、同様にプ
ラズマ密度を高めることができ、緻密な膜を堆積することができる。なお、
図17A及び
図17Bは、スパッタリングターゲット124の長手方向に誘導結合プラズマ生成用のア
ンテナ本体148が3つに分割されて配置される態様を示すが、誘導結合プラズマ生成用
の第1アンテナ126a、第2アンテナ126bにおいて誘導結合プラズマ生成用のアン
テナ本体148が分割される数に限定はなく、誘導結合プラズマ生成用のアンテナ本体1
48が3以上に分割された誘導結合プラズマ生成用のアンテナが配置されていてもよい。
【0096】
本発明は上記の実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更す
ることが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせることが可能である。
【0097】
図18Aは、成膜装置100を用いて作製される素子の一例を示す。素子の一例はトラ
ンジスタであり、
図18Aはトランジスタ230の断面構造を示す。トランジスタ230
は、成膜装置100によって基板200上に形成された酸化物半導体層216を含む。
【0098】
トランジスタ230は、詳細には、基板200の表面に形成された第1絶縁層210上
に形成される。第1絶縁層210上には、ソース電極を形成する第1導電層212a及び
ドレイン電極を形成する第1導電層212bが対をなして設けられる。第1導電層212
a、212bは、例えば、酸化インジウム・スズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZ
O)等の透明導電膜で形成される。第1導電層212a、212b上には、低抵抗化のた
めにアルミニウム(Al)等の金属材料で形成される第2導電層214a、214bが設
けられていてもよい。
【0099】
酸化物半導体層216は、第1導電層212a、212b(及び第2導電層214a、
214b)を覆うように形成される。酸化物半導体層216の上にはゲート絶縁層として
機能する第2絶縁層218が設けられ、その上に酸化物半導体層216と重なるようにゲ
ート電極220が設けられる。
【0100】
酸化物半導体層216は、組成、結晶性の異なる複数の層で形成されていてもよい。例
えば、
図18Bに示すように第1酸化物半導体層216aと第2酸化物半導体層216b
が積層された構造を有していてもよい。第1酸化物半導体層216aは、インジウム(I
n)、ガリウム(Ga)、スズ(Sn)を含む三元系酸化物半導体であり、第2酸化物半
導体層216bは、第1酸化物半導体層216aに対してガリウム(Ga)の割合が高く
、また結晶性も高いことが好ましい。第2酸化物半導体層216bは、第1酸化物半導体
層216aよりも薄く形成される。第2酸化物半導体層216bは、ガリウム(Ga)の
濃度が高いことから、第1酸化物半導体層216aと比較してバンドギャップが広くキャ
リア濃度が低いという物性を有する。例えば、第1酸化物半導体層216aが40nmか
ら60nmの膜厚で形成されるのに対し、第2酸化物半導体層216bは4nmから6n
mと約10分の1の膜厚で形成される。
【0101】
トランジスタ230は、第1酸化物半導体層216aと第2絶縁層218(ゲート絶縁
層)との間に、このような第2酸化物半導体層216bが設けられることで、キャリアが
流れるチャネル領域が第1酸化物半導体層216aに形成される、所謂埋め込みチャネル
が形成される。すなわち、トランジスタ230は、第2絶縁層218(ゲート絶縁層)と
酸化物半導体層216との界面に形成される欠陥の影響を受けないでチャネル領域にキャ
リアを流すことができる。トランジスタ230は、このような構造を有することにより、
特性の安定化を図り、特性ばらつきを低減することができる。
【0102】
また、
図18Cに示すように、酸化物半導体層216は、第1酸化物半導体層216a
と第2酸化物半導体層216bとの間に第3酸化物半導体層216cが設けられていても
よい。第3酸化物半導体層216cは、同じ三元系の酸化物半導体でありながら、インジ
ウム(In)の濃度が第1酸化物半導体層216a及び第2酸化物半導体層216bより
も高められている。このような第3酸化物半導体層216cが設けられることで、トラン
ジスタ230は電界効果移動度を高めることができる。
【0103】
本実施形態に係る成膜装置100によれば、
図18Bに示す酸化物半導体層216の構
造は、
図10Aに示すスパッタリングターゲット124を用いることで作製することがで
き、
図18Cに示す酸化物半導体層216の構造は、
図10Bに示すスパッタリングター
ゲット124を用いて作製することができる。すなわち、組成、結晶性の異なる酸化物半
導体を真空中で連続して成膜することができる。
【0104】
図10A及び
図10Bに示すような複合分割ターゲットは、従来のマグネトロン方式の
スパッタリング装置では分割部分で異常放電が発生しやすく使用できない。一方、マグネ
ットを用いない方式ではスパッタリングターゲットの表面全域にプラスに帯電したアルゴ
ンイオンがほぼ均一に入射するため異常放電が発生しにくい。また、スパッタリングター
ゲットの表面全域が均一にスパッタリングされるため、スパッタリングターゲットの表面
の発熱も均一に生じる。そのため、スパッタリングターゲットの熱応力によるクラックも
発生しにくい。
【0105】
高い電子移動度を有する酸化物半導体膜を作製することができるInGaSnOxター
ゲットは、従来のマグネトロン方式スパッタリング装置では、スパッタリングターゲット
にヘアラインクラックと呼ばれる微細なクラックが発生しやすく、量産工場では使用する
ことができなかった。これに対し、本実施形態に係る成膜装置100は、マグネットを使
用しないためプラズマが局部的に集中することがなく、局所的な発熱も生じない。このた
め熱応力によるヘアラインクラックも発生しにくくなっている。
【0106】
本実施形態に係る成膜装置100のように、プラズマ拡散防止板140で、誘導結合プ
ラズマ(ICP)が成膜チャンバ108の内部領域全域にプラズマが拡散するのを防止す
ることで、基板を移動させながらスパッタリング成膜を行う移動成膜方式でも堆積速度を
低下させることなく成膜することが可能となる。
【0107】
さらに、スパッタリングターゲット124にマイナスのパルス電圧を印加することで、
ターゲット材132が高抵抗材料であっても安定したスパッタリング成膜を行うことがで
きる。さらに、マイナス酸素イオンを基板200に対して垂直に入射させることができる
ので、成膜ガス圧力が1.5Pa付近でも膜密度の低下を防止することができる。例えば
、第11世代のガラス基板(3000mm×3320mm)でも、膜密度を高めて高移動
度で高信頼性を有する酸化物半導体膜の堆積を行うことができる。
【0108】
なお、
図18Aに示すトランジスタ230の構造は一例であり、本実施形態に係る成膜
装置100はトップゲート型、ボトムゲート型に拘わらず、様々な構造の酸化物半導体ト
ランジスタの作製に用いることができる。
【0109】
[第2実施形態]
本実施形態は、誘導結合プラズマを利用したスパッタリングと真空蒸着(及び/又は、
電子ビーム蒸着)を連続して行うことのできる成膜装置の一例を示す。本実施形態で示す
成膜装置は、例えば、有機エレクトロルミネセンス素子(又は有機エレクトロルミネセン
ス表示装置)の作製に適用することができる。以下においては、第1実施形態に示す成膜
装置100と相違する部分を中心に説明する。
【0110】
図19は、本実施形態に係る成膜装置101の全体的な構成を示す。成膜装置101は
、成膜前及び成膜後の基板が収納されるロード・アンロードチャンバ102、基板の前処
理を行う前処理チャンバ104、搬送ロボット116が設けられた第1搬送チャンバ10
6a、プラテン機構118が設けられた第2搬送チャンバ106b、スパッタリング成膜
を行う第1成膜チャンバ108a、プラテン機構118が設けられた第3搬送チャンバ1
06c、搬送ロボット116が設けられた第4搬送チャンバ106d、蒸発源111が設
けられた第3成膜チャンバ108c、第4成膜チャンバ108d及び第5成膜チャンバ1
08eを含む。これらのチャンバはゲートバルブによって連結され、図示されない真空排
気手段が設けられている。
【0111】
前処理チャンバ104、第1搬送チャンバ106a、第2搬送チャンバ106b、第3
搬送チャンバ106c、及び第4搬送チャンバ106dのそれぞれの構成は第1実施形態
と同様である。第1成膜チャンバ108aでは、誘導結合プラズマによりスパッタリング
成膜が行われるチャンバであり、後述される電子注入層の成膜が行われる。第3成膜チャ
ンバ108c及び第4成膜チャンバ108dは蒸発源111が設けられ真空蒸着が行われ
るチャンバであり、後述される発光層、正孔輸送層等の有機膜の成膜が行われるチャンバ
である。また、第5成膜チャンバ106eは蒸発源111が設けられ、真空蒸着法(及び
/又は、電子ビーム蒸着法)により後述される陽極の成膜が行われるチャンバである。
【0112】
図19に示す成膜装置101は、誘導結合プラズマによるスパッタリング成膜が行われ
るチャンバと真空蒸着法(及び/又は、電子ビーム蒸着法)で成膜が行われるチャンバと
が搬送チャンバを介して連結されていることで無機膜と有機膜を真空中で連続して堆積す
ることができる。また、誘導結合プラズマによるスパッタリング成膜が行われる第1成膜
チャンバ108aを挟んで、プラテン機構118が設けられた第2搬送チャンバ106b
及び第3搬送チャンバ106cが設けられていることで、スパッタリング成膜は基板20
0を垂直又は垂直から20度程度傾けた状態で成膜を行い、真空蒸着法(及び/又は、電
子ビーム蒸着法)による成膜では基板200を略水平に保持した状態で成膜を行うことが
できる。
【0113】
なお、真空蒸着法(及び/又は、電子ビーム蒸着法)で成膜を行うチャンバの数は任意
であり、蒸着膜の積層数、膜種に応じて適宜連結することができる。
【0114】
図20は、成膜装置101の構成を示す図であり、ロード・アンロードチャンバ102
を除く前処理チャンバ104、第1搬送チャンバ106a、第2搬送チャンバ106b、
第1成膜チャンバ108a、第3搬送チャンバ106c、第4搬送チャンバ106d、第
3成膜チャンバ108cに設けられ又は接続される主要な構成要素を示す。第3成膜チャ
ンバ108cを除く、他のチャンバの構成は第1実施形態と同様である。
【0115】
真空蒸着法(及び/又は、電子ビーム蒸着法)で成膜が行われる第3成膜チャンバ10
8cは、真空排気系110としてターボ分子ポンプ、ドライポンプに加えクライオポンプ
が追加される。このような真空排気系110により高真空排気を実現し、チャンバ内に残
留する水分を効果的に除去することができる。真空蒸着による成膜は、線状の蒸発源11
1の前を基板が移動する移動成膜方式が採用されてもよいし、蒸発源111が基板の面内
を走査するように移動するスキャン成膜方式が採用されてもよい。
【0116】
成膜装置101は、スパッタリング法による成膜及び真空蒸着法(及び/又は、電子ビ
ーム蒸着法)による成膜において、移動成膜方式が採用されるため、様々なサイズの基板
に対応することができる。例えば、成膜装置101は、第11世代のガラス基板(300
0mm×3320mm)の成膜に用いることができる。
【0117】
図21は、成膜装置101を用いて作製される素子の一例を示す。
図21に例示される
素子は、有機エレクトロルミネセンス素子300の断面構造を示す。有機エレクトロルミ
ネセンス素子300は、基板200上に、キャリア注入量制御電極302、第1絶縁層3
04、第1電極(陰極)306、電子輸送層308、開口部311が形成された第2絶縁
層310、電子注入層312、発光層314、正孔輸送層316、正孔注入層318、第
2電極(陽極)320が積層された構造を有する。有機エレクトロルミネセンス素子30
0は、開口部311が設けられた領域において、キャリア注入量制御電極302、第1絶
縁層304、電子輸送層308、電子注入層312、発光層314、正孔輸送層316、
正孔注入層318、第2電極(陽極)320が重なる領域を有する。
【0118】
キャリア注入量制御電極302は、電子輸送層308から絶縁されており、プラスのバ
イアス電圧が印加されることにより、電子輸送層308から電子注入層312を介して発
光層314に注入されるキャリア(電子)の量及び発光層314における発光位置を制御
する機能を有する。有機エレクトロルミネセンス素子300は、ボトムミッション型であ
るため、キャリア注入量制御電極302は透明導電膜で形成される。
【0119】
電子輸送層308は2層構造を有する。第1電子輸送層308aは、第1絶縁層304
の上でキャリア注入量制御電極302よりも広面積に設けられる。第1電極(陰極)30
6は、開口部311の外側(第2絶縁層310と重なる領域)に設けられる。第1電極(
陰極)306は、例えば、第1導電層306aと第2導電層306bとの二層構造で形成
されていてもよく、第1導電層306aの端部がキャリア注入量制御電極302と重なる
ように設けられる。第1導電層306aは、ITO、IZO等の透明導電膜で形成され、
電子輸送層308とオーミックコンタクトを形成し電子を注入する機能を有する。第2導
電層306bは、第1電極(陰極)306の低抵抗化のため適宜設けられる。
【0120】
第1電子輸送層308aは、半導体特性を有する金属酸化物で形成される。そのような
金属酸化物としては、In2O3-Ga2O3-SnO2-ZnO系酸化物材料、In2
O3-Ga2O3-SnO2系酸化物材料、In2O3-SnO2-ZnO系酸化物材料
、In2O3-Al2O3-ZnO系酸化物材料、Ga2O3-SnO2-ZnO系酸化
物材料、Ga2O3-Al2O3-ZnO系酸化物材料、SnO2-Al2O3-ZnO
系酸化物材料、In2O3-ZnO系酸化物材料、SnO2-ZnO系酸化物材料、Al
2O3-ZnO系酸化物材料、Ga2O3-SnO2系酸化物材料、Ga2O3-ZnO
系酸化物材料、Ga2O3-MgO系酸化物材料、MgO-ZnO系酸化物材料、SnO
2-MgO系酸化物材料、In2O3-MgO系酸化物材料、In2O3系金属酸化物材
料、Ga2O3系金属酸化物材料、SnO2系金属酸化物材料、ZnO系金属酸化物材料
等を用いることができる。このような第1電子輸送層308aは、第1実施形態で示す成
膜装置100を用いてスパッタリング法で作製することができる。
【0121】
第1電子輸送層308aの上には第2絶縁層310が設けられる。第2絶縁層310に
は、第1電子輸送層308aの表面を露出させる開口部311が設けられる。第2電子輸
送層308bは、第1電子輸送層308aと同様に半導体特性を有する金属酸化物材料で
形成される。第2電子輸送層308bはスパッタリング法で作製されてもよいが、開口部
311の領域に塗布法で作製されてもよい。
【0122】
このとき第2絶縁層310は、極性を有する絶縁膜で形成されていることが好ましい。
そのような第2絶縁層310は、直鎖系フッ素有機材料を用いて形成することができる。
直鎖系フッ素有機材料としては、例えば、フルオロアルキルシラン(FAS)系材料が用
いられる。フルオロアルキルシラン(FAS)系材料としては、例えば、H,1H,2H
,2H-ペルフルオロデシルトリクロロシラン(FDTS)、トリデカフルオロ-1,1
,2,2-テトラヒドロオクチルトリクロロシラン(FOTS)等が用いられる。第2絶
縁層310は、直鎖系フッ素有機材料を用いて形成されることで、撥水性を有する表面が
形成される。このような第2絶縁層310に開口部311が形成される。第2絶縁層31
0の撥水性は表面に強く表れ、開口部311の側壁面は表面に対比して親水性を有する状
態となる。
【0123】
第2電子輸送層308bを塗布法で作製する場合には、上記の四元系酸化物材料、三元
系酸化物材料、二元系酸化物材料、一元系酸化物材料、又はそれらの前駆体を含む組成物
溶液を開口部311が形成された第2絶縁層310の上から塗布し、乾燥及び焼成するこ
とで作製される。具体例としては、酸化亜鉛(ZnO)に3価の金属元素としてアルミニ
ウム(Al)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)等をドーピングして、比抵抗が1
02Ωcm~105Ωcmの範囲になるように焼成したものが用いられる。第2絶縁層3
10の表面が撥水性を有する場合、塗布される組成物の粘度を適宜調整することにより、
塗布膜は開口部311に選択的に形成される。焼成後の第2電子輸送層308bは、開口
部311の側壁面が親水性を有していることにより、第2絶縁層310との接触面が上方
にせり上がり、内側に向かうに従いなだらかなテーパ状の傾斜面を有する断面形状が形成
される。第2電子輸送層308bの平均膜厚は200nm以上であればよく、好ましくは
400nm以上あればよい。第2電子輸送層308bがこのような膜厚を有することによ
り、有機エレクトロルミネセンス素子300の短絡不良が激減し、歩留まりを向上させる
ことができる。
【0124】
有機エレクトロルミネセンス素子300は、発光層314を形成する前に、第1電子輸
送層308aの上面を露出させる開口部311が形成された第2絶縁層310が設けられ
ることにより、発光領域を画定することができる。また、開口部311に設けられる第2
電子輸送層308bの端部が、開口部311の壁面からなだらかに傾斜するテーパ状の断
面形状を有することにより、次の段階で成膜される電子注入層312及び発光層314の
段差被覆性(ステップカバレッジ)を向上させることができる。
【0125】
電子注入層312は、発光層314に電子を注入するために仕事関数の小さな材料で形
成される。例えば、電子注入層312は、カルシウム(Ca)酸化物、アルミニウム(A
l)酸化物を含む材料で形成される。一例として、電子注入層312は、C12A7(1
2Ca・7Al2O3)エレクトライドで形成される。C12A7エレクトライドは半導
体特性を有し、高抵抗から低抵抗まで制御することが可能であり、仕事関数も2.4eV
~3.2eVとアルカリ金属と同程度であるので、電子注入層312として好適に用いる
ことができる。
【0126】
電子注入層312として、Zn0.7Mg0.3O、Zn0.75Si0.25O等を
利用することも可能である。これらの金属酸化物は半導体特性を有し、仕事関数が3.1
eVと小さいため発光層314への電子注入を行うことができる。これらの金属酸化物は
、またバンドギャップが3.9eV~4.1eVと大きいので、正孔が発光層314を通
過して電子輸送層308に流れ込むことを阻止することができる。Zn0.7Mg0.3
OとZn0.75Si0.25Oとの2種類の金属酸化物を1:4~1:10の範囲で混
合した三元系金属酸化物半導体材料を、電子注入層312として用いることも可能である
。
【0127】
このような電子注入層312は、成膜装置101で成膜される。すなわち、C12A7
エレクトライドの多結晶体をスパッタリングターゲット124として用い、第1成膜チャ
ンバ108aで成膜される。C12A7エレクトライドによる電子注入層312は、1n
m~100nmの膜厚で形成される。C12A7エレクトライドによる電子注入層312
は、アモルファス状態の薄膜で形成されるが、結晶性を有していてもよい。C12A7エ
レクトライドは、大気中でも安定であるので、従来から電子注入層として用いられている
フッ化リチウム(LiF)、酸化リチウム(Li2O)、塩化ナトリウム(NaCl)、
塩化カリウム(KCl)等のアルカリ金属化合物と比較して取り扱いが簡便でありスパッ
タリング法で成膜可能であるという利点を有する。
【0128】
Zn0.7Mg0.3O、Zn0.75Si0.25O等の多結晶体をスパッタリング
ターゲット124として用い、誘導結合プラズマを利用したスパッタリング法を用いるこ
とで電子注入層312を形成することができる。Zn0.7Mg0.3OとZn0.75
Si0.25Oとを1:4~1:10の範囲で混合した三元系金属酸化物材料の多結晶体
をスパッタリングターゲット124として用い、誘導結合プラズマを利用した成膜装置1
00でスパッタリング成膜を行うことで、電子注入層312を形成することができる。C
12A7エレクトライドは大気中で安定であるが、水に溶解しやすいのでターゲット材と
して用いる場合には保管及び管理に防湿対策が必要となる。これに対し、Zn0.7Mg
0.3OとZn0.75Si0.25Oとを1:4~1:10の範囲で混合した三元系金
属酸化物の多結晶体のターゲット材は水に溶解しにくいので、保管及び管理が容易である
。
【0129】
電子注入層312として用いられるZn0.7Mg0.3OやZn0.75Si0.2
5Oの比抵抗は非常に高いために、従来のDCマグネトロンスパッタリング装置ではスパ
ッタリングを行うことができない。スパッタリングターゲットを2つに分割し、AC電源
を用いてそれぞれのターゲットで交互にスパッタリングを行うACデュアルマグネトロン
スパッタリング装置を用いることも考えられるが、膜密度を上げて結晶化率を高めるには
スパッタリング時の放電圧力を0.3Pa以下にする必要がある。しかし、基板サイズが
G8.5(2500mm×2200mm)以上になると、0.3Pa以下で面内の均一性
を保持したまま安定して放電をすることが難しくなる。これに対し、本実施形態で示され
るように誘導結合プラズマを利用した方式では、スパッタリングターゲット124にマイ
ナスパルス電圧を印加して成膜を行うことが可能であり、スパッタリング成膜時の圧力を
1.3Pa付近まで上げても結晶化を促進し膜密度を高めることができる。
【0130】
なお、第1成膜チャンバ108aで電子注入層312を成膜する前に、電子輸送層30
8まで形成された基板200は、前処理チャンバ104で脱ガス処理が行われてもよい。
前処理を行うことにより、有機エレクトロルミネセンス素子300に取り込まれる水分等
の不純物を減少させることができる。
【0131】
第1成膜チャンバ108aで電子注入層312が形成された後、基板200は第3搬送
チャンバ106cのプラテン機構118により水平状態に戻され、第4搬送チャンバ10
6dを介して第3成膜チャンバ108cに搬送される。第3成膜チャンバ108cでは、
真空蒸着法(及び/又は、電子ビーム蒸着法)により発光層314の成膜が行われる。
【0132】
発光層314は、開口部311の配置に合わせて貫通孔が設けられたメタルマスクを用
いて行われる。発光層314は公知の各発光色に対応した材料を用いて真空蒸着法により
作製される。発光層314の膜厚は適宜設定されるが、例えば、10nm~100nmの
膜厚で形成される。なお、発光層314として、白色発光層を形成する場合には、メタル
マスクを用いずに素子形成領域の全面に発光層314が成膜されてもよい。
【0133】
発光層314が成膜された後、基板200は第4搬送チャンバ106dを介して第4成
膜チャンバ108dに搬送され、正孔輸送層316、正孔注入層318の成膜が行われる
。正孔輸送層316は、アリールアミン系化合物、カルバゾール基を含むアミン化合物、
フルオレン誘導体を含むアミン化合物等の公知の材料を用いて真空蒸着法(及び/又は、
電子ビーム蒸着法)により成膜される。また、正孔注入層318は、モリブデン酸化物や
バナジウム酸化物、ルテニウム酸化物、タングステン酸化物、マンガン酸化物等の金属酸
化物、又は銅フタロシアニン等のフタロシアニン系材料を用いて真空蒸着法(及び/又は
、電子ビーム蒸着法)で成膜される。例えば、正孔輸送層316は、10nm~500n
mの膜厚で形成され、正孔注入層318は、1nm~100nmの膜厚で形成される。
【0134】
なお、本実施形態では、正孔輸送層316と正孔注入層318が同じ成膜チャンバで成
膜される例を示す。しかし、この例に限定されず、成膜装置101はさらに多くの成膜チ
ャンバを備え、正孔輸送層316と正孔注入層318とが異なる成膜チャンバで成膜され
てもよい。
【0135】
正孔輸送層316、正孔注入層318が成膜された後、基板200は第4搬送チャンバ
106dを介して第4成膜チャンバ108dに搬送され、第2電極(陽極)320の成膜
が行われる。第2電極(陽極)320は、アルミニウム(Al)等の金属膜、又はITO
、IZO等の透明導電膜とアルミニウム(Al)等の金属膜の積層体で形成される。この
ような第2電極(陽極)320は、第4成膜チャンバ108dにおいて、真空蒸着法(及
び/又は電子ビーム蒸着法)で作製される。
【0136】
以上のように、成膜装置101により、有機エレクトロルミネセンス素子300を作製
することができる。成膜装置101は、誘導結合プラズマによるスパッタリング成膜が行
われるチャンバと真空蒸着法(及び/又は、電子ビーム蒸着法)で成膜が行われるチャン
バとが搬送チャンバ106を介して連結されていることで、電子注入層312、発光層3
14、正孔輸送層316、正孔注入層318、及び第2電極(陽極)320を真空中で連
続して堆積することができる。このような構成の成膜装置101を用いることにより、再
現性に優れ、信頼性の高い有機エレクトロルミネセンス素子300及び有機エレクトロル
ミネセンス素子300を備えた表示パネルを作製することができる。
【符号の説明】
【0137】
100・・・成膜装置、101・・・成膜装置、102・・・ロード・アンロードチャン
バ、104・・・前処理チャンバ、106・・・搬送チャンバ、108・・・成膜チャン
バ、109・・・チャンバ壁、110・・・真空排気系、111・・・蒸発源、112・
・・ガス供給系、114・・・基板ステージ、115・・・高周波放電電極、116・・
・搬送ロボット、118・・・プラテン機構、120・・・高周波電源、122・・・交
流電源、123・・・パルス電源、124・・・スパッタリングターゲット、126・・
・誘導結合プラズマ生成用のアンテナ、127・・・ヒータ、128・・・貫通孔、13
0・・・バッキングプレート、131・・・ボンディング材、132・・・ターゲット材
、134・・・シールド板、136・・・絶縁部品、138・・・ガス導入管、140・
・・プラズマ拡散防止板、141・・・防着板、142・・・第1面、143・・・第2
面、144・・・第1開口部、146・・・絶縁部材、147・・・ガラス層、148・
・・誘導結合プラズマ生成用のアンテナ本体、150・・・金属管、151・・・導電層
、152・・・コンデンサ、153・・・Oリング、154・・・第2開口部、156・
・・コイル、158・・・可変容量コンデンサ、160・・・搬送トレイ、162・・・
ピン、164・・・昇降機構、166・・・ガス導入管、168・・・高周波放電プラズ
マ、170・・・メッシュ、172・・・中空管、174・・・導電層、176・・・可
変コンデンサ、180・・・セラミックス部材、200・・・基板、202・・・表面、
204・・・アンテナ連結領域、210・・・第1絶縁層、212・・・第1導電層、2
14・・・第2導電層、216・・・酸化物半導体層、218・・・第2絶縁層、220
・・・ゲート電極、230・・・トランジスタ、300・・・有機エレクトロルミネセン
ス素子、302・・・キャリア注入量制御電極、304・・・第1絶縁層、306・・・
第1電極(陰極)、308・・・電子輸送層、310・・・第2絶縁層、311・・・開
口部、312・・・電子注入層、314・・・発光層、316・・・正孔輸送層、318
・・・正孔注入層、320・・・第2電極(陽極)