(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167331
(43)【公開日】2024-12-03
(54)【発明の名称】旅客流動予測装置、旅客流動予測方法および旅客流動予測プログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/01 20060101AFI20241126BHJP
G06Q 50/40 20240101ALI20241126BHJP
【FI】
G08G1/01 F
G06Q50/40
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024147378
(22)【出願日】2024-08-29
(62)【分割の表示】P 2020178757の分割
【原出願日】2020-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129012
【弁理士】
【氏名又は名称】元山 雅史
(72)【発明者】
【氏名】廣田 敦士
(72)【発明者】
【氏名】幡山 五郎
(72)【発明者】
【氏名】櫻木 伸也
(57)【要約】 (修正有)
【課題】鉄道輸送における旅客流動の予測結果を向上する。
【解決手段】旅客流動予測装置1が、各旅客の入退場駅および入退場時刻を示す通過データを取得する通過データ取得部と、取得された通過データと列車の運行計画データとに基づいて通過データが示す所定の時間帯における入場旅客数を列車の乗員数として割り振り列車の混雑度を推定する混雑度推定部と、を備え、混雑度推定部は、運行計画データに基づいて所定の時間帯に各駅に入場した旅客が退場駅までの移動に利用する列車を所定の検索条件に基づいて検索し、検索された列車に当該旅客を乗員数として割り当てる列車割当処理を実行する列車割当部を有し、列車割当部は入場旅客数を前記所定の検索条件に応じて割り振る。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道輸送における旅客の流動を予測する旅客流動予測装置であって、
各旅客の入退場駅および入退場時刻を示す通過データを取得する通過データ取得部と、
取得された前記通過データと、列車の運行計画データとに基づいて、前記通過データが示す所定の時間帯における入場旅客数を列車の乗員数として割り振り、列車の混雑度を推定する混雑度推定部と、
を備え、
前記混雑度推定部は、前記運行計画データに基づいて、前記所定の時間帯に各駅に入場した旅客が退場駅までの移動に利用する列車を、所定の検索条件に基づいて検索し、検索された列車に当該旅客を乗員数として割り当てる列車割当処理を実行する列車割当部を有し、
前記列車割当部は、前記入場旅客数を前記所定の検索条件に応じて割り振る、
旅客流動予測装置。
【請求項2】
前記列車割当部は、前記所定の検索条件ごとに割り振られた入場旅客数を、前記所定の時間帯を所定の時間単位で分割した複数の入場時刻それぞれで入場した旅客として更に振り分ける、
請求項1に記載の旅客流動予測装置。
【請求項3】
前記所定の検索条件が2以上の条件を含み、
前記混雑度推定部は、前記各駅に入場した旅客を前記検索条件の条件数に応じて所定の比率で割り振り、割り振られた旅客が退場駅までの移動に利用する列車を対応する条件に基づいて検索し、検索された列車に当該旅客を乗員数として割り振る、
請求項1または2に記載の旅客流動予測装置。
【請求項4】
前記所定の検索条件は、最速で目的地に到達できる経路を優先的に抽出する条件や、乗換回数が最少で済む経路を優先的に抽出する条件を含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載の旅客流動予測装置。
【請求項5】
前記列車割当部は、前記所定の検索条件ごとに割り振られた入場旅客数を、前記複数の入場時刻それぞれで入場した旅客として均等に振り分ける、
請求項1~4のいずれか1項に記載の旅客流動予測装置。
【請求項6】
前記所定の時間単位は、1分単位である、
請求項1~5のいずれか1項に記載の旅客流動予測装置。
【請求項7】
前記通過データ取得部は、前記通過データを各駅に設置された改札機から取得する、
請求項1~6のいずれか1項に記載の旅客流動予測装置。
【請求項8】
前記所定の時間帯の長さは、前記通過データ取得部における前記通過データの取得周期と同じに設定される、
請求項1~7のいずれか1項に記載の旅客流動予測装置。
【請求項9】
前記混雑度推定部は、取得された前記通過データと、列車の運行計画データとに基づいて、前記通過データが示す、切れ目なく連続するように設定された複数の時間帯における入場旅客数を列車の乗員数として割り振り、列車の混雑度を推定する、
請求項1~8のいずれか1項に記載の旅客流動予測装置。
【請求項10】
前記列車割当部は、前記運行計画データのほか、各駅の改札機からプラットフォームまでの移動に要する時間に関する情報を含む検索用データに基づいて、前記複数の入場時刻に入場した旅客がプラットフォームに到達する時刻を推定し、前記所定の時間帯に各駅に入場した旅客が退場駅までの移動に利用する列車を検索する、
請求項2に記載の旅客流動予測装置。
【請求項11】
鉄道輸送における旅客の流動を予測する旅客流動予測方法であって、
各旅客の入退場駅および入退場時刻を示す通過データを取得する通過データ取得工程と、
取得された前記通過データと、列車の運行計画データとに基づいて、前記通過データが示す所定の時間帯における入場旅客数を列車の乗員数として割り振り、列車の混雑度を推定する混雑度推定工程と、
を備え、
前記混雑度推定工程は、前記運行計画データに基づいて、前記所定の時間帯に各駅に入場した旅客が退場駅までの移動に利用する列車を、所定の検索条件に基づいて検索し、検索された列車に当該旅客を乗員数として割り当てる列車割当処理を実行する列車割当工程を有し、
前記列車割当工程では、前記入場旅客数を前記所定の検索条件に応じて割り振る、
旅客流動予測方法。
【請求項12】
請求項11に記載の旅客流動予測方法をコンピュータに実行させる、
旅客流動予測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道輸送における旅客の流動を予測する旅客流動予測装置、旅客流動予測方法および旅客流動予測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道輸送における旅客の流動を予測するための手法がいくつか提案されている。特許文献1に開示される手法によれば、自動改札機から取得される通過データに基づいて、当日の現時点までの旅客の流動が実測される。次に、過去のOD(Origin-Destination)データから実測結果と最も類似する過去のデータが抽出される。次に、抽出された過去のODデータそのもの、あるいはこれを微調整したものが、当日の現時点以降の旅客の流動の予測値として設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の手法によれば、過去のODデータが予測値に直接的にあるいは強く反映される。しかし、現時点までの旅客の流動が過去のデータと一致していても、現時点以降の旅客の流動が当該過去のデータと一致するとは限らない。また、通過データもODデータも、入退場の場所と時刻を示すという意味で旅客の流動を示すものの、入退場の間の期間における旅客の流動を直接的に示すものではない。
【0005】
よって、従来の鉄道輸送における旅客の流動を予測するための手法には、その予測結果(例えば、予測精度および予測内容)に改善の余地があると考えられる。
そこで本発明は、鉄道輸送における旅客流動の予測結果を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係る旅客流動予測装置は、鉄道輸送における旅客の流動を予測する。旅客流動予測装置は、通過データ取得部、OD予測部および混雑度推定部を備える。通過データ取得部は、各旅客の入退場駅および入退場時刻を示す当日の通過データを逐次取得する。OD予測部は、取得された当日の通過データに基づいて、当日のODデータの予測結果を示すOD予測データを随時更新する。混雑度推定部は、OD予測データと、当日の列車の運行計画データとに基づいて、OD予測データが示す入場旅客数を当日の列車の乗員数として割り振り、各列車の混雑度を推定する。
【0007】
「通過データ」は、旅客1人1人の入場駅、入場時刻、退場駅および退場時刻を示す。通過データは、各旅客が改札を通過する際に取得される。
「ODデータ」は、通過データを集計することによって生成されることができる。ODデータは、データ取得範囲(例えば、当該旅客流動予測装置を導入した一鉄道事業者により列車の運行がなされる鉄道路線)内における複数の駅のうち、入場駅(出発地Origin)と退場駅(目的地Destination)の組合せごとの旅客数を示す。データ取得範囲内の駅数がnの場合、入場駅と退場駅の組合せは、n×(n-1)通りである。
【0008】
上記構成によれば、OD予測部が、通過データ取得部によって取得される当日の通過データを用いて、ODデータの予測結果を示すOD予測データを随時更新する。当日の通過データを用いるため、ODデータをリアルタイムで予測することができ、予測精度が向上する。
そして、混雑度推定部が、このリアルタイムで随時更新されていくOD予測データに基づいて列車の混雑度を推定する。混雑度もリアルタイムで推定することができ、推定精度が向上する。混雑度は、通過データあるいはODデータによって示すことが困難な、入退場間の期間における旅客の流動を示す指標である。よって、鉄道輸送における旅客流動の予測内容を拡充することができる。すなわち、予測結果を向上することができる。
【0009】
通過データ取得部は、通過データを各駅に設置された改札機から取得してもよい。
上記構成によれば、通過データが改札機から取得される。改札の通過に使用された乗車券から、入場駅と退場駅とを簡単に紐付けることができる。そのため、確実性の高い通過データを生成することができ、これに基づいて確実性の高いOD予測データを生成することができる。混雑度がこのOD予測データに基づいて推定されるので、推定精度が向上する。
【0010】
一般に、改札機は、鉄道事業者が保有する鉄道設備である。当該旅客流動予測装置が鉄道事業者に導入された場合、鉄道事業者は、自身が保有する鉄道設備を応用することで、ODデータを予測し、混雑度を推定することができる。外部から提供されるデータへの依存度を低くまたは無くして、混雑度を推定することができる。また、列車そのものに混雑度を推定するためのハードウェア(例えば、重量センサ)が搭載されていなくても、混雑度を推定することができる。したがって、鉄道事業者は、低コストで混雑度の推定結果を得ることができる。
【0011】
OD予測部は、当日のODデータの予測結果を時間帯別に示した複数のOD予測データを随時更新するように構成されていてもよい。混雑度推定部は、複数のOD予測データに基づいて、混雑度を推定するように構成されていてもよい。
上記構成によれば、複数のOD予測データが時間帯別に生成される。例えば、15:00~15:05の旅客数は〇〇人、15:05~15:10の旅客数は△△人のように、時間を細分してODデータが予測される。これにより、当日の通過データに基づき、各OD予測データの対象時間帯内に発生した旅客数を即時に容易に確定することができる。よって、対象時間帯内に発生した旅客がどの目的地に何人移動したのかを即時に容易に測定することもでき、ODデータの予測精度が向上する。また、時間を細かく区切って生成されたOD予測データに基づいて混雑度を推定するため、各対象時間帯内に発生した旅客が乗車すると想定される列車の特定作業も容易となり、混雑度の推定精度および即時性が向上する。
【0012】
OD予測部は、過去のODデータに基づいてOD予測データの初期値を設定する初期化処理を実行する初期化部と、当日の通過データに基づいて初期値を補正することで、OD予測データを更新する更新処理を実行する更新部とを有していてもよい。
上記構成によれば、まず、初期化部が、過去のODデータに基づいてOD予測データの初期値を設定し、次いで、更新部が、初期値を補正してOD予測データを更新していく。初期値が闇雲に設定される場合と対比し、OD予測データの予測精度が向上する。OD予測データの更新が当日の通過データに基づくので、予測精度が向上する。
【0013】
初期化部は、過去のODデータからOD予測データと類似すると推定されるデータを抽出し、抽出された過去のODデータを初期値として設定してもよい。
上記構成によれば、過去のODデータに基づいて初期値を設定する際に、初期化部が、OD予測データと類似すると推定される過去のODデータを抽出する。類似すると推定されるデータが初期値として設定されるため、OD予測データの予測精度が向上する。
【0014】
OD予測部が、当日のODデータの予測結果を時間帯別に示した複数のOD予測データを随時更新するように構成される場合において、更新部は、OD予測データの対象時間帯の終期に取得された通過データに基づき、OD予測データの対象時間帯における各駅の入場旅客数を確定してもよい。
上記構成によれば、OD予測部は、時間帯別にOD予測データを生成するため、当該対象時間帯の終期に取得された通過データに基づいて、OD予測データの対象時間帯における各駅の入場旅客数を確定する。入場旅客数が確定されるので、予測精度が向上する。
【0015】
更新部は、確定された各駅の入場旅客数を、その他の駅を退場駅とする旅客数として、初期値と同じ比率で割り振ることにより、OD予測データを更新してもよい。
上記構成によれば、過去のODデータに基づいて生成された初期値が、当日の通過データに基づいて更新される。OD予測データのリアルタイム更新を実現することができ、予測精度が向上する。
【0016】
更新部は、対象時間帯の終期よりも後の時点で取得された通過データに基づいて、対象時間帯内に入場した旅客のうち退場を済ませた旅客数を部分的に確定することにより、OD予測データを更新していてもよい。
上記構成によれば、対象時間帯の終期よりも後の時点で取得された通過データに基づいて、退場済の旅客数が部分的に確定されるので、予測精度が向上する。
【0017】
更新部は、対象時間帯の終期よりも後の時点で取得された通過データと、入場駅と退場駅の組合せごとに2駅間移動に要すると予想される最長移動時間を定義した最長移動時間データとに基づき、OD予測データの対象時間帯内に入場した旅客のうち、最長移動時間が対象時間帯の始期から当該時点までの期間よりも短い組合せの旅客数を確定してもよい。
【0018】
上記構成によれば、最長移動時間の概念を使ってODデータが予測される。最長移動時間とは、入場駅および退場駅の任意の2駅の組合せごとに定義された、2駅間移動に要すると予想される時間である。例えば、A駅からB駅への最長移動時間が10分であれば、対象時間帯内にA駅に入場してB駅へ移動しようとする旅客の全員が、対象時間帯の始期から10分以内にB駅を退場したものと推定される。通過データが対象時間帯の始期から10分以上経過した時点で再取得される場合、A駅を入場駅としてB駅を退場駅とする組合せの旅客数が、この通過データに基づいて確定される。このように、比較的に短距離移動をした旅客数が退場を済ませたものとして確定され、予測精度が向上する。
【0019】
更新部は、確定された入場旅客数から確定された2駅間移動の旅客数を減算することで未退場の旅客数を推定し、推定された未退場の旅客数を最長移動時間が始期から当該時点よりも長い組合せの2駅間移動の退場旅客数として割り振ることにより、OD予測データを更新してもよい。
上記構成によれば、確定された入場旅客数と退場済の旅客数とから未退場の旅客数が推定される。この未退場の旅客数が長距離移動をする旅客数として割り振られる。退場済の旅客数を部分的に確定した後、未退場の旅客数がどこで何人退場するのかを予測することができ、予測精度が向上する。
【0020】
混雑度推定部は、運行計画データに基づいて、OD予測データの対象時間帯内に各駅に入場した旅客が退場駅までの移動に利用する列車を所定の検索条件に基づいて検索し、検索された列車に当該旅客を乗員数として割り振る列車割当処理を実行する列車割当部を有していてもよい。
上記構成によれば、ODデータの予測値に基づいて旅客が利用する列車を検索することで、列車の乗員数が推定される。列車の混雑度を、運行計画データとOD予測データとに基づいて推定することができる。したがって、外部データへの依存を減らして低コストで混雑度を推定することができる。
【0021】
所定の検索条件が2以上の条件を含んでいてもよい。列車割当部は、各駅に入場した旅客を検索条件の条件数に応じて所定の比率で割り振り、割り振られた旅客が退場駅までの移動に利用する列車を対応する条件に基づいて検索し、検索された列車に当該旅客を乗員数として割り振ってもよい。
なお、2駅間を移動する場合、到達時間が早くなる経路を選択したり、乗換回数が少なくなる経路を選択したりするなど、旅客が嗜好に応じて経路を選択する場合がある。2以上の検索条件は、このような嗜好に対応したもので、最速で目的地に到達できる経路を優先的に抽出する条件や、乗換回数が最少で済む経路を優先的に抽出する条件を含む。
【0022】
上記構成によれば、条件数に応じて旅客が所定の比率で割り振られる。条件ごとに割り振られた旅客によって利用されるであろう列車が、当該条件に従って検索される。そして、旅客が検索された列車の乗員数として割り振られる。これにより、同じ2駅間を移動する旅客の間で、旅客の嗜好によって乗車する列車が異なる可能性があっても、これに対応することができる。よって、列車の混雑度の推定精度が向上する。
【0023】
本発明の一形態に係る旅客流動予測方法は、鉄道輸送における旅客の流動を予測する旅客流動予測方法であって、通過データ取得工程、OD予測工程および混雑度予測工程を備える。通過データ取得工程では、各旅客の入退場駅および入退場時刻を示した当日の通過データを逐次取得する。OD予測工程では、取得された当日の通過データに基づいて、当日のODデータの予測結果を示すOD予測データを随時更新する。混雑度推定工程では、前記OD予測データと、当日の列車の運行計画とに基づいて、旅客が乗車する列車を推定し、前記OD予測データが示す入場人数を運行される列車の乗員数として割り振り、各列車の混雑度を推定する。
【0024】
本発明の一形態に係る旅客流動予測プログラムは、上記旅客流動予測方法をコンピュータに実行させる。
上記方法およびプログラムは、前述した旅客流動予測装置と対応する技術的特徴を具備しており、同様の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、鉄道輸送における旅客流動の予測結果を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施形態に係る旅客流動予測装置を示すブロック図である。
【
図3】通過データの一例をテーブル状に示す図である。
【
図4】(A)は、ODデータの一例を行列状に示す図である。(B)は、時間帯別ODデータの一例を行列状に示す図である。
【
図6】OD予測部および混雑度推定部により実行される処理のタイムチャートである。
【
図7】初期化処理および第1更新処理を示す図である。
【
図11】本発明の実施形態に係る旅客流動予測方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
(旅客流動予測装置)
図1は、本発明の一実施形態に係る旅客流動予測装置1を示す。旅客流動予測装置1は、鉄道輸送における旅客の流動を予測する。旅客流動予測装置1は、一例として、鉄道事業者の旅客運送業務に活用され、また、旅客向けの情報提供サービスに好適に適用される。
【0028】
旅客流動予測装置1は、中央演算部11、記憶部12、入力部13および出力部14を備え、これらは通信バス15を介して相互に接続されている。
中央演算部11は、記憶部12に記憶される旅客流動予測プログラムPに従って旅客流動予測方法を実行する。中央演算部11またはこれを備える旅客流動予測装置1は、旅客流動予測方法を実行するコンピュータの一例である。
【0029】
記憶部12は、旅客流動予測プログラムPのほか、旅客流動予測方法を実行するために必要なデータを一時的にあるいは永続的に記憶している。本実施形態では、記憶部12が、主記憶部12aおよび補助記憶部12bを含む。
主記憶部12aは、例えばROM(Read-Only-Memory)、RAM(Random Access Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)等の記憶装置によって実現される。主記憶部12aは、旅客流動予測プログラムPを記憶している。また、主記憶部12aは、後述するOD予測データD20を一時的に記憶する。
【0030】
補助記憶部12bは、例えばハードディスクドライブ等によって実現される大型記憶装置である。補助記憶部12bは、通信バス15から分離されたクラウドサーバによって実現されてもよい。
補助記憶部12bは、旅客の流動を予測する際に参照される各種のデータを記憶している。この各種のデータには、過去のODデータD1、最長移動時間データD2、運行データD3、祝祭日データD4、駅データD5、路線データD6および経路データD7などが含まれる。
【0031】
入力部13は、通信ネットワーク9を介し、通過データ収集サーバ2から、各旅客の移動を示す通過データD10(
図3参照)を収集する。中央演算部11は、収集された通過データと、記憶部12に記憶される各種のデータとに基づいて旅客の流動を予測する。出力部14は、通信ネットワーク9を介し、管理者端末3、サイネージ4および利用者端末5に、旅客流動の予測結果を示す情報を出力する。
【0032】
管理者端末3は、旅客流動予測装置1が導入される鉄道事業者の業務員によって管理される情報端末であり、出力部14から出力された情報を表示する表示装置を備えている。サイネージ4は、各駅に設置された電子看板であり、出力部14から出力された情報を表示する表示部を有している。利用者端末5は、スマートフォンやタブレットのような旅客が携帯する情報端末である。専用のアプリケーション5Aが利用者端末5にインストールされていると、旅客は、利用者端末5で旅客流動の予測結果を示す情報を確認することができる。このアプリケーション5Aの提供者は、例えば、旅客流動予測装置1を導入した鉄道事業者である。
【0033】
(通過データ・ODデータ)
図2に示すように、鉄道事業者は、線路および複数の駅などの鉄道施設一式を保有し、線路上で列車を運行して旅客を運送する。鉄道施設一式には、各駅に設置されている改札機6が含まれる。
図2では、単なる一例として、一鉄道事業者が、A~F駅までのP路線と、D駅でP路線から分岐してG,H駅に至るQ路線との2路線で、列車を運行している。「列車」は、1両単独の鉄道車両により、または、2両以上の鉄道車両を連結することにより構成された列車編成を意味する。
【0034】
各旅客は、改札機6の通過に必要な乗車券を準備し、改札機6を通過して出発地の駅(以下、「入場駅」とも称する)へ入場し、鉄道事業者が運行する列車で移動し、改札機6を通過して目的地の駅(以下、「退場駅」とも称する)から退場する。以下では、出発地での入場から目的地での退場までの旅客個々の一連の流動を「トリップ」と称する。
「乗車券」には、磁気券および非接触型IC(integrated circuit)カードが含まれ、各乗車券には、乗車券を識別する乗車券ID(Identity Document)等の各種情報が記録される。「乗車券」には、普通乗車券、定期乗車券および乗越精算券が含まれる。
【0035】
改札機6は、乗車券に記録される情報を読み取る。乗車券に入場記録がなく駅構外から駅構内への移動方向で改札機6を通過した場合、改札機6は、旅客が入場するものとして乗車券に入場記録を行う。乗車券に入場記録があり駅構内から駅構外への移動方向で改札機6を通過した場合、改札機6は、旅客が退場するものとして乗車券に退場記録を行う(あるいは、当該乗車券を回収する)。
【0036】
改札機6は、乗車券に関する情報とともに旅客の入退場に関する情報を通過データ収集サーバ2に送信する。旅客が入場のため改札機6を通過した場合、改札機6は、少なくとも、入場駅情報および入場時刻情報を送信する。旅客が退場のため改札機6を通過した場合、改札機6は、少なくとも、退場駅情報および退場時刻情報を送信する。また、この退場駅の改札機6は、乗車券から読み取った入場記録(入場駅情報および入場時刻情報)を退場駅情報および退場時刻情報と併せて送信する。
【0037】
図3に示すように、通過データ収集サーバ2は、多数の駅の改札機6から送信される情報に基づいて、入場および退場を1セットとする1トリップを表した通過データD10を生成する。通過データD10は、入場駅情報、入場時刻情報、退場駅情報および退場時刻情報を含む。入場駅情報は、乗車券の情報を読み取った改札機6が設置されている入場駅を示す。入場時刻情報は、入場駅で改札機6を通過した時刻を示す。退場駅情報は、乗車券の情報を読み取った改札機6が設置されている退場駅を示す。退場時刻情報は、退場駅で改札機6を通過した時刻を示す。
【0038】
旅客の移動中は、退場駅情報および退場時刻情報が存在しない(2行目の通過データD10を参照)。そこで、通過データ収集サーバ2は、旅客が退場するまで未完の通過データD10を保管する。通過データ収集サーバ2は、旅客流動予測装置1からの要求に応じて、未完の通過データD10も旅客流動予測装置1に送信することができる。
一日の列車運行業務が終了すると、全旅客が目的地の駅から退場し、かつ、翌日の始発運行まで旅客が出発地の駅へ入場することはない。よって、一日間の全トリップが確定される。通過データ収集サーバ2は、確定された通過データD10群に基づいて、この一日間におけるODデータD1(
図4(A)を参照)を生成する。
【0039】
図4(A)に示すように、ODデータD1は、データ測定範囲内における複数の駅(
図2の例では、一鉄道事業者によって運営されるP,Q路線上のA~H駅)のなかで、入場駅と退場駅の組合せごとの旅客数(すなわち、トリップ数)を示す。ODデータD1は、例えば、入場駅を行、退場駅を列に配列した行列状に表される。
図2および
図4(A)を参照して、記号「a~h」は、A~H駅と対応する。不図示であるが本書で用いる記号「i,j」は、任意の異なる2駅を表し、記号「a~h」に適宜置換え可能である。記号「Tij」は、i駅で入場してj駅で退場した延べ旅客数である。換言すれば、i駅を入場駅としてj駅を退場駅としたトリップ数である。更に換言すれば、集計された通過データD10群のうち、入場駅情報がi駅を示し退場駅情報がj駅を示す通過データD10の数である。記号「Gi」は、i駅での延べ入場旅客数を示し、記号「Ai」は、i駅での延べ退場旅客数を示す。Gaは、Tab,Tac,…,Tag,Tahの総和であり、Aaは、Tba,Tca,…,Tga,Thaの総和である。記号「Σ」は、全トリップ数(集計された通過データD10の数)を示し、Ga,Gb,…,Gg,Ghの総和であって、Aa,Ab,…,Ag,Ahの総和でもある。
【0040】
ODデータD1を生成するための通過データD10の収集期間は、一日単位に限られず、1日よりも短い所定の時間単位(例えば、1時間単位、10分単位など)でもよい。この場合には、
図4(B)に示すように、通過データD10の収集期間が互いに異なった複数の「時間帯別ODデータD1A」が生成される。以下、各時間帯別ODデータD1Aに対応した通過データD10の収集期間を「対象時間帯T1」と称する。
【0041】
図4(B)は、単なる一例として、収集期間を5分単位とした場合における、同日の時間帯別ODデータD1Aを簡略的に示している。複数の時間帯別ODデータD1Aとして、14:50~14:55を対象時間帯T1としたもの、その次の14:55~15:00を対象時間帯T1としたもの、その次の15:00~15:05を対象時間帯T1としたものが例示されている。
収集期間が5分単位のように短ければ、トリップの所要時間が収集期間よりも長くなる場合がある。時間帯別ODデータD1Aは、退場時刻が対象時間帯T1内に収まるか否かに関わらず、入場時刻が対象時間帯T1内である全トリップを対象とする。時間帯別ODデータD1Aでは、記号「Σ」は、入場時刻が対象時間帯T1内である全トリップ数を示し、記号「Gi」は、対象時間帯T1におけるi駅での入場旅客数を示す。
【0042】
通過データ収集サーバ2は、当日の終電運行後、翌日の始発運行前にODデータD1を生成する。入力部13(
図1参照)は、始発運行までに通過データ収集サーバ2からODデータD1を取得し、取得されたODデータD1が、記憶部12(
図1参照)に過去のODデータD1として蓄積記憶される。旅客流動予測装置1は、過去のODデータD1として時間帯別ODデータD1Aを記憶していてもよい。時間帯別ODデータD1Aは、通過データ収集サーバ2によって生成されてもよいし、旅客流動予測装置1によって生成されてもよい。
【0043】
図5は、旅客流動予測装置1を示すブロック図である。旅客流動予測装置1は、旅客流動予測プログラムPを実行することで、通過データ取得部21、OD予測部22および混雑度推定部23を備えている。
通過データ取得部21は、通過データ収集サーバ2から所定の取得周期で当日の通過データD10を逐次取得する。通過データD10は、各駅に設置された改札機6で取得される。通過データD10は、各旅客の入退場駅および入退場時刻を示す(
図1(B)を参照)。ただし、取得される通過データD10には、旅客の未退場によって入場駅および入場時刻のみを示した未完のものも含まれる。通過データD10の取得周期は、特に限定されない。例えば、取得周期は、通過データ収集サーバ2での通過データD10の収集期間と同じ(例えば、5分)に設定される。
【0044】
(OD予測)
OD予測部22は、取得された当日の通過データD10に基づいて、当日のODデータの予測結果を示すOD予測データD20を随時更新する。特に、OD予測部22は、複数の時間帯別OD予測データD21を生成する。各時間帯別OD予測データD21の対象時間帯T1の長さは、特に限定されない。例えば、対象時間帯T1の長さは、通過データ取得部21における通過データD10の取得周期と同じ(例えば、5分)に設定される。
【0045】
OD予測部22は、初期化部31および更新部32を備えている。初期化部31は、記憶部12に記憶される過去のODデータD1に基づいて、OD予測データD20の初期値を設定する初期化処理を実行する。
更新部32は、OD予測データD20の初期値を、随時取得される当日の通過データD10に基づいて補正し、それによりOD予測データD20を随時更新する更新処理を実行する。すなわち、更新部32は、時間経過に伴い断続的に取得される通過データD10の最新版に基づいて、OD予測データD20を複数回にわたって更新する。
【0046】
本実施形態では、更新が3回行われる。更新処理が、第1更新処理、第2更新処理および第3更新処理を含み、更新部32は、第1更新部36、第2更新部37および第3更新部38を備えている。第1更新部36は、初期化処理後のOD予測データに対して第1更新処理を実行する。第2更新部37は、第1更新処理後のOD予測データに対して第2更新処理を実行する。第3更新部38は、第2更新処理後のOD予測データに対して第3更新処理を実行する。
【0047】
図6も参照して、第1更新部36は、OD予測データD20の対象時間帯T1の終期t1に第1更新処理を実行する。第2更新部37および第3更新部38は、対象時間帯T1の終期(第1更新時点)t1よりも後の第2更新時期t2および第3更新時期t3それぞれで、第2更新処理および第3更新処理をそれぞれ実行する。
第2更新時期t2および第3更新時期t3はどのように設定されてもよい。本実施形態では、単なる一例として、第2更新時期t2が、対象時間帯T1の終期t1から対象時間帯T1の長さだけ後の時点(例えば、始期t0から10分後、終期t1から5分後)に設定される。第3更新時期t3が、第2更新時期t2から同じ長さだけ後の時点(始期t0から15分後、終期t1から10分後、第2更新時期t2から5分後)に設定される。
【0048】
なお、複数の時間帯別OD予測データD21の対象時間帯T1は、切れ目なく連続するように設定されている。ある時間帯別OD予測データD21の対象時間帯T1の終期t1は、次の時間帯別OD予測データD21の対象時間帯T1の始期t0と同じである。ある時間帯別OD予測データD21の第2更新時期t2は、2つ後の時間帯別OD予測データD21の対象時間帯T1の始期t0と同じである。よって、複数の時間帯別OD予測データD21が、同時進行で生成されていく。
【0049】
(初期化)
図7は初期化処理および第1更新処理を示す図である。
図7およびそれ以降の図面では、説明の簡略化のため、A、D、F、Hの4駅のみを抜粋して入退場駅としているが、他の2駅間移動の旅客数についても同様にして予測が行われる。なお、AおよびFは、P路線の終端駅である。Dは、P路線の中間駅であってQ路線の終端駅であり、P路線とQ路線の間の乗換駅である。Hは、Q路線の反対側の終端駅である。
【0050】
初期化処理では、初期化部31が、過去のODデータD1から、今回生成される時間帯別OD予測データD21と類似すると推定されるデータを抽出する。初期化部31は、抽出されたデータを初期値として設定する。これにより、初期化された時間帯別OD予測データ(初期データD21(t0))が生成される。
抽出方法も、抽出する過去のODデータD1の個数も、抽出されたデータの加工要否も特に限定されない。図示例では、1週前の同じ曜日・同じ時間帯の過去の時間帯別のODデータD1の数値がそのまま初期値として設定されている。通勤通学需要が高い路線では、曜日が同じであることで類似したデータを抽出しやすくなる。初期化部31は、昨日の同じ時間帯の過去の時間帯別ODデータを抽出してもよい。沿線で集客力が高いイベント行事(例えば、スポーツの試合、コンサート、お祭りなど)が行われる日では、初期化部31は、同様のイベント行事が行われた日の同じ時間帯の過去の時間帯別ODデータを抽出する。初期化部31は、単一の過去の時間帯別ODデータの数値をそのまま初期値に設定するほか、複数の時間帯別ODデータの平均値を初期値として設定してもよい。
初期化処理は、対象時間帯T1の終期t1までに完了していればどのようなタイミングで実行されてもよい。例えば、初期化処理は、対象時間帯T1の始期t0に実行される。
【0051】
(第1更新)
第1更新処理は、対象時間帯T1の終期t1に実行される。第1更新部36は、対象時間帯T1の終期t1に取得された通過データD10(t1)から、入場時刻が対象時間帯T1内である通過データD10を集計する。それにより、第1更新部36は、対象時間帯T1における各駅の入場旅客数Giを確定する。なお、旅客のなかには、対象時間帯T1において退場を済ませたものもいるかもしれないが、第1更新部36は、第1更新処理において、通過データD10(t1)のうち退場駅情報および退場時刻情報を必要としない。
【0052】
第1更新部36は、確定された各駅の入場旅客数Giを、初期値と同じ比率で、他の駅で退場した旅客数として割り振る。これにより、初期値が補正され、第1更新処理済の時間帯別OD予測データ(第1更新データD21(t1))が生成される。
初期データD21(t0)におけるi駅での入場旅客数をGi(t0)、初期データD21(t0)においてi駅で入場してj駅で退場する旅客数をTij(t0)とした場合、i駅で入場してj駅で退場する旅客数Tij(t1)は、式:Tij(t1)=Gi×(Tij(t0)/Gi(t0))に基づいて予測される。そして、この予測値Tij(t1)が、初期値Tij(t0)と置き換えられる。
【0053】
具体的には、第1更新データD21(t1)においてA駅で入場してD駅で退場する旅客数Tad(t1)は、10人と予測されている。これは、確定されたA駅の入場旅客数Ga(80人)に、初期データD21(t0)におけるA駅で入場してD駅で退場する旅客数Tad(t0)のA駅の入場旅客数Ga(t0)に対する比率(11/(11+33+44))を乗算することによって、導出されている。
【0054】
別の言い方では、初期データD21(t0)では、A駅で入場した88人の旅客が、1:3:4の比率でその他の駅(D駅、F駅、H駅)で退場している。第1更新データD21(t1)の生成に際し、確定されたA駅の入場旅客数Ga(80人)が、初期値と同じ1:3:4の比率で、その他の駅(D駅、F駅、H駅)で退場した旅客数(10人、30人、40人)として割り振られている。
【0055】
(第2更新)
図8は、第2更新処理を示す図である。第2更新処理は、対象時間帯T1の終期t1より後の第2更新時期t2に実行される。第2更新時期t2になれば、対象時間帯T1に入場した旅客の一部が、退場し始める。第2更新処理では、入場時刻が対象時間帯T1内にある通過データD10のうち、退場駅情報および退場時刻情報が参照される。
【0056】
第2更新処理では、第2更新部37が、第2更新時期t2に取得された通過データD10(t2)から、2駅間移動の旅客数が第1更新データD21(t1)の対応する旅客数よりも多いものを抽出する。そして、第1更新データD21(t1)の数値が、抽出された旅客数へと増加補正される。
次に、第2更新部37は、入場駅が同じで退場駅が異なる他の組合せの旅客数を減少補正することによって増加補正量を相殺し、それにより、入場駅の入場旅客数を確定済人数で維持する。なお、減少補正量の分担比は、第1更新データD21(t1)における他の組合せの旅客数の比率によって決定される。このようにして、第2更新処理済の時間帯別OD予測データ(第2更新データD21(t2))が生成される。
【0057】
具体的には、第2更新時期t2において、F駅で入場してD駅で退場を済ませた旅客数Tfd(t2)は、通過データD10(t2)から12人と判明している。これは、第1更新データD21(t1)の対応する旅客数Tfd(t1)の10人よりも多い。よって、第2更新部37は、当該2駅間移動に係る旅客数Tfd(t1)を、第2更新時期t2で取得された通過データD10(t2)から判明された旅客数Tfd(t2)に置き換える。このようにして増加補正がなされる。
【0058】
増加補正量ΔTfd(Tfd(t2)-Tfd(t1))は2人である。仮に、増加補正が個別になされたままとすれば、F駅の入場旅客数Gfが47人に増加し、確定されたはずの45人が維持されない。そのため、増加補正がなされた組合せと同じF駅を入場駅として、退場駅は異なる他の組合せの旅客数Tfa(t1),Tfh(t1)を減少補正する。
減少補正の対象は、入場駅が同じであることを前提として、増加補正がなされた組合せ以外の全組合せの旅客数Tfa(t1),Tfh(t1)である。減少補正量は増加補正量ΔTfdと等しく、それにより入場旅客数Gfが維持される。減少補正量の分担比は、減少補正の対象となった組合せの旅客数Tfa(t1),Tfh(t1)の比率であり、本例では3:2である。
【0059】
A駅を退場駅とする旅客数Tfa(t1)は、減少補正を6割負担し、21人から1.2人減少補正される。H駅を退場駅とする旅客数Tfh(t1)は、減少補正を4割負担し、14人から0.8人減少補正される。減少補正の対象となった組合せの旅客数Tfa,Tfhの比率は、減少補正後も、減少補正前の3:2で維持される。なお、旅客数の単位は人であるが、旅客数の予測値は、整数である必要はない。
【0060】
(第3更新)
図9は、第3更新処理を示す図である。第3更新処理は、対象時間帯T1の終期t1および第2更新時期t2よりも後の第3更新時期t3に実行される。第3更新時期t3になれば、対象時間帯T1に入場した旅客のうち、目的地が入場駅から近かった旅客は全員退場を済ませていると考えられる。そこで、第3更新部38は、入場駅と退場駅とが近接している組合せの2駅間移動の旅客数を確定する。
【0061】
第3更新部38は、この旅客数の確定のため、記憶部12に記憶される最長移動時間データD2を参照する。最長移動時間データD2は、入場駅と退場駅の組合せと、入場駅から退場駅への移動に要すると予想される最長移動時間との対応関係を定義している。各組合せに対する最長移動時間は、これまでに蓄積された通過データD10を参照することによって経験的に得られる値であり、旅客流動予測装置1の設計および製造段階で予め決定されることができる。
【0062】
図示例では、A駅の行とD駅の列が交差するマスに「8」と記載されている。すなわち、最長移動時間データD2において、入場駅をA駅とし退場駅をD駅とする組合せが、8分の最長移動時間と対応付けられている。入退場駅を入れ替えると、最長時間が変化する場合も考えられる。本実施形態ではこの場合にも対応している(D駅の行とA駅の列が交差するマスの「11」を参照)。本実施形態では、データ測定範囲内の駅数がnである場合に、最長移動時間データD2によってn×(n-1)通りの対応関係が定義されている。
【0063】
第3更新部38は、最長移動時間が、対象時間帯T1の始期t0から第3更新時期t3までの期間T3よりも短い2駅間移動について、第3更新時期t3で取得された通過データD10(t3)に基づいて、その組合せの旅客数を確定する。退場駅が入場駅と近接しているほど、最長移動時間は短い。この処理の実行により、退場駅が入場駅と近接している組合せの旅客数が確定される。
【0064】
そして、第3更新部38は、入場駅が同じである組合せ群について、確定された入場旅客数から確定された組合せの旅客数を減算することにより、未退場の旅客数を推定する。推定された未退場の旅客数を、未確定の組合せの旅客数として割り振る。これにより、第3更新処理済のOD予測データ(以下、第3更新データD21(t3)と称する)が生成される。
【0065】
具体的には、A駅に入場した場合、D駅から退場する最長移動時間(8分)と、F駅から退場する最長移動時間(10分)とが、上記期間T3(15分)よりも短い。第3更新時期t3で取得された通過データD10(t3)により、A駅に入場してD駅から退場を済ませた旅客数Tadは、9人と判明している。この9人が、A駅を入場駅としD駅を退場駅とする組合せの旅客数Tad(t3)として確定される。これと同様にして、25人が、A駅を入場駅としてF駅を退場駅とする組合せの旅客数Taf(t3)として確定される。
【0066】
一方、H駅を退場駅とする場合の最長移動時間(16分)は、上記期間T3より長い。よって、A駅を入場駅としてH駅を退場駅とする組合せの旅客数Tah(t3)の推定には、通過データD10(t3)から判明された値(10人)を用いない。代わりに、A駅の入場旅客数Gaから、A駅に入場して退場が確定された組合せの旅客数Tad(t3),Taf(t3)の和を減算する。これにより、A駅で入場したが未退場の旅客数が推定される(80-(9+25)=46)。
【0067】
本例では、最長移動時間が期間T3よりも長く退場を確定できない組合せが、1つしか残っていない。そのため、推定された未退場の旅客数(46人)が、当該組合せの旅客数Tah(t3)としてそのまま割り振られる。最長移動時間が期間T3よりも長い組合せが、2以上存在する場合には、推定された未退場の旅客数が、第2更新データD21(t2)における旅客数の比率で、未確定で残った2以上の組合せの旅客数として割り振られてもよい。
なお、この最長移動時間を用いた旅客数の確定は、第2更新時期t2で第2更新処理において実行されてもよい。
【0068】
(混雑度推定)
図5および
図6に戻り、混雑度推定部23は、列車割当処理を実行する列車割当部41と、混雑度導出処理を実行する混雑度導出部42を有している。
【0069】
列車割当部41は、列車割当処理において、OD予測部22によって生成されたOD予測データD20と、当日の列車の運行計画データとに基づいて、OD予測データD20が示す入場旅客数を当日運行される列車の乗員数として割り振る。混雑度導出部42は、混雑度導出処理において、列車割当部41によって推定された列車の乗員数に基づいて、列車の混雑度を推定する。
【0070】
前述したとおり、OD予測部22は、複数の時間帯別OD予測データD21を同時進行で生成する。混雑度推定部23が混雑度を推定するタイミング(推定時点)は、ある時間帯別OD予測データD21の対象時間帯の始期t0と同一であり、その前の時間帯別OD予測データD21の対象時間帯の終期t1(第1更新時期)と同一であり、更にその前の時間帯別OD予測データD21の第2更新時期t2と同一であり、更にその前の時間帯別OD予測データD21の第3更新時期t3と同一である。
【0071】
上記のOD予測の手法によれば、各推定時点において、少なくとも、初期データD21(t0)と、更新途上にある第1更新データD21(t1)および第2更新データD21(t2)と、更新を完了した直後の第3更新データD21(t3)が存在する。また、記憶部12は、当該推定時点以前に更新を完了した1以上の第3更新データD21(t3)を記憶していてもよい。
【0072】
混雑度推定部23は、各推定時点において、当該推定時点を対象時間帯の始期t0とする初期データD21(t0)に基づいて、列車の割当ておよび混雑度の推定を行ってもよい。この場合、推定時点で対象時間帯T1における入場旅客がまだ誰も存在しない状況で、混雑度の推定を行うことができる。
混雑度推定部23は、各推定時点において、更新途上にある又は更新を完了した1以上の更新データD21(t1)~(t3)を加味して、列車の割当ておよび混雑度の推定を行ってもよい。この場合、当日の通過データD10を用いてリアルタイムで更新されていくOD予測データに基づき、混雑度を精度よく推定することができる。
【0073】
(列車割当)
列車割当部41によって参照される運行計画データは、記憶部12に記憶されている。運行計画データは、どの日にどの列車をどの時間に運行するのか、各列車の運行区間および停車駅、各停車駅での停車時刻および発車時刻、各列車を構成する車両数、各列車の運送能力(定員)など、列車の運行スケジュールおよび仕様に関する様々な情報を含む。
【0074】
記憶部12は、運行計画データの一例として、運行データD3および祝祭日データD4を記憶している。
運行データD3は、列車の運行パターンを示す運行パターン情報や、その列車の仕様(例えば、当該列車の運送能力)を示す列車情報を含む。運行パターン情報は、時刻表のようなものである。平日と週末および祝日とで別の時刻表に従って列車が運行される場合、運行データD3は、複数の時刻表に対応した複数の運行パターン情報を含む。沿線でイベント行事が行われるイベント日に臨時列車が運行される場合、記憶部12は、運行データD3として、この臨時列車に対応した運行パターン情報を含む。
【0075】
祝祭日データD4は、当日が平日であるか週末および祝日であるかを特定するためのカレンダー情報を含む。カレンダー情報には、イベント日であるか否かを示す情報も含まれる。祝祭日データD4を参照することで、運行データD3が複数の運行パターン情報を含む場合に、いずれの運行パターン情報を適用すべきか決めることができる。
列車割当部41は、運行計画データのほか、各駅に入場した旅客がどの列車に乗車するのかを推定するため、その列車の検索に必要な検索用データを参照する。記憶部12は、検索用データの一例として、駅データD5、路線データD6、および経路データD7を記憶している。
【0076】
駅データD5は、乗換に必要な時間(本例ではD駅が乗換駅)や、各駅の改札機6からプラットフォームまでの移動に要する時間に関する情報を有する。路線データD6は、データ測定範囲内における路線図に関する情報を有する。経路データD7は、ある時刻、ある入場駅のプラットフォームにいるとき、ある退場駅へ移動する際に利用される路線経路に関する情報を有する。この経路データD7と過去の通過データD10とを組み合わせることで、経路テーブルが生成される。各駅間、時間帯ごとの最早移動経路や、乗換最少移動などの条件ごとに移動経路テーブルが事前に生成され、これら複数の移動経路テーブルが装置1内に記憶される。
【0077】
図8は、列車割当部41により実行される処理を示す図である。図示例では、列車割当部41が、現在の推定時点が対象時間帯T1の終期t1である第1更新データD21(t1)を参照して列車割当処理を実行している。前述したとおり、第1更新データD21(t1)では、対象時間帯T1における各駅の入場旅客数が終期t1(すなわち、当該推定時点)に取得された通過データD10(t1)を用いて確定されており、この確定された入場旅客数と初期値とに基づいて、入場駅と退場駅の各組合せの旅客数が予測されている。そして、第1更新データD21(t1)では、退場済の旅客数が一人も確定されていない。
【0078】
列車割当部41は、入場駅へ入場した旅客が退場駅までの移動に利用する列車を所定の検索条件に基づいて検索し、検索された列車に当該旅客を乗員数として割り振る。なお、検索条件は2以上の条件を含む。検索条件として、最速で退場駅に到達する条件(条件1)および乗換回数が最少となる条件(条件2)を例示することができる。列車割当部41は、検索条件の条件数に応じて、所定の比率で、旅客を条件ごとに割り振る。
【0079】
列車割当部41は、条件ごとに割り振られた旅客を入場時刻ごとに更に振り分ける。列車割当部41は、対象時間帯T1を所定の時間単位(例えば、1分単位)で分割することで複数の推定入場時刻を設定する。そして、条件ごとに割り振られた旅客が、複数の推定入場時刻それぞれで入場した旅客として更に振り分けられる。一例として、列車割当部41は、条件ごとに割り振られた旅客を、各推定入場時刻で入場した旅客として均等に振り分ける。
【0080】
列車割当部41は、駅データD5を参照して、各推定入場時刻に入場した旅客がプラットフォームに到達する時刻を推定する。そして、列車割当部41は、推定された時刻にプラットフォームに到達した旅客が、退場駅までどの列車を利用するのか、運行データD3、経路データD7あるいは経路テーブルを参照して予測する。
以上の処理を具体的に説明する。例えば、第1更新データD21(t1)において、A駅を入場駅としてF駅を退場駅とする旅客数が30人と予測されている。列車割当部41は、この30人がどの列車に乗車してF駅まで移動するのかを予測する。
【0081】
旅客が選択する列車には旅客の嗜好も関わる。この30人が、旅客の嗜好に対応した複数の検索条件ごとに振り分けられる。本例では、最速で退場駅に到達する条件1と、乗換回数が最少となる条件2の2つの条件が設定されている。そして、条件1に従って移動する旅客と条件2に従って移動する旅客の比率は、一例として、6:4に設定されている。
列車割当部41は、30人の旅客のうち条件1に従って移動する旅客が18人と推定し、条件2に従って移動する旅客は12人と推定する。これにより、30人の旅客が、2つの条件に割り振られる。
【0082】
本例では、対象時間帯T1が15:00~15:05であり、5つの推定入場時刻が1分単位で設定されている。列車割当部41は、条件1に割り振られた18人の旅客を、5つの推定入場時刻それぞれで入場した旅客として均等に割り振る。すなわち、列車割当部41は、18/5人の旅客が、各推定入場時刻にA駅の改札機6を通過してA駅に入場したと推定する。これと同様に、列車割当部41は、条件2に割り振られた12人の旅客を、5つの推定入場時刻それぞれで入場した旅客として均等に割り振る。なお、入場時刻「15:00」とは、より厳密に言えば「15:00:00~15:00:59」の時間帯であるが、ここでは秒単位が省略された時間帯を便宜上「時刻」と称する。また、旅客の推定人数は、整数である必要はない。
【0083】
ここで、運行データD3として例示するように、当日の土曜日にA駅では、P路線の終端であるF駅行きの列車と、D駅からQ路線に直通するH駅行きの列車とが、5分おきに交互に発車するものとする。また、詳細図示を省略するが、P路線では、D駅とF駅との間で往復する列車が運行され、A駅でH駅行きの列車に乗車してD駅で降車すると、当該往復列車に円滑に乗り換えられるものとする。ただし、この運行パターンは、説明の便宜のため簡略化された単なる一例である。
【0084】
また、駅データD5として例示するように、A駅では、改札機6からプラットフォームまでの移動に2分要するものとする。
列車割当部41は、各推定入場時刻でA駅に入場した旅客が、F駅まで移動するために乗車するであろう列車を、検索条件に従って、検索する。
15:00にA駅の改札機6を通過した旅客は、15:02にA駅のプラットフォームに到達する。15:02にプラットフォームに着いた旅客は、最速でF駅へ移動したい場合、15:04発のF駅行きの列車Aに乗車すると推定される。そこで、列車割当部41は、15:00に入場した18/5人の旅客が、15:04発の列車Aに乗車すると推定する。これと同様に、列車割当部41は、15:01に入場した18/5人の旅客も、15:02に入場した18/5人の旅客も、最速でF駅へ移動するために、同じ列車Aに乗車するものと推定する。
【0085】
15:03に入場した旅客は、列車A発車後の15:05にプラットフォームに到達する。15:05にプラットフォームに着いた旅客は、最速でF駅へ移動したい場合、15:09発のH駅行きの列車Bに乗車し、D駅でF駅行きの列車に乗り換えるものと推定される。列車割当部41は、15:03に入場した18/5人の旅客が、15:09発の列車Bと、D駅とF駅との間の往復列車に乗車すると推定する。これと同様に、列車割当部41は、15:04に入場した18/5人の旅客も、最速でF駅へ移動するために、列車Bおよび往復列車に乗車するものと推定する。
【0086】
他方、15:00にA駅に入場して15:02にプラットフォームに着いた旅客は、最少の乗換回数でF駅へ移動したい場合、15:04発のF駅行きの列車Aに乗車すると推定される。列車割当部41は、15:00に入場した12/5人の旅客が、列車Aに乗車すると推定する。列車割当部41は、15:01に入場した12/5人の旅客も、15:02に入場した12/5人の旅客も、最少の乗換回数でF駅へ移動するために、列車Aに乗車するものと推定する。
【0087】
15:03にA駅に入場して15:05にプラットフォームに着いた旅客は、最少の乗換回数でF駅へ移動したい場合、D駅での乗換を要する15:09発のH駅行きの列車Bを見送って、次の15:14発のF駅行きの列車Cに乗車するものと推定される。列車割当部41は、15:03に入場して条件2に従って移動する12/5人の旅客が、15:14発の列車Cに乗車すると推定する。これと同様に、列車割当部41は、15:04に入場した12/5人の旅客も、最少の乗換回数でF駅へ移動するために、列車Cに乗車するものと推定する。
【0088】
以上の列車割当処理は、第1更新データD21(t1)において、入場駅と退場駅の全組合せのうち1つの組合せの旅客数Taf(t1)に対するものである。列車割当部41は、第1更新データD21(t1)における残りの全組合せについて上記同様の処理を行う。
そして、列車割当部41は、推定時点が対象時間帯T1の始期t0である初期化データD21(t0)を参照して、上記同様の処理を行う。
【0089】
更に、列車割当部41は、推定時点が第2更新時期t2である第2更新データD21(t2)を参照して、上記同様の処理を行い、推定時点が第3更新時期t3である第3更新データD21(t3)を参照して、上記同様の処理を行う。第2更新データD21(t2)および第3更新データD21(t3)においては、初期化データD21(t0)および第1更新データD21(t1)とは異なり、退場済の旅客数が部分的に確定されている。退場済の旅客は列車での移動を既に完了している。このため、これらの更新データD21(t2)およびD21(t3)を用いる場合には、列車割当部41は、退場が未確定の組合せの旅客を対象に、どの列車に何人乗車したのかを推定する。
【0090】
(混雑度導出)
混雑度導出部42は、このような列車割当部41による列車割当処理後に、混雑度導出処理を実行する。混雑度導出部42は、推定された各列車の乗員を当該列車の運送能力(定員)で除算することによって、各列車の混雑度の推定値を導出する。一例として、列車の運送能力を示す情報は、運行データD3に列車の仕様の一部として含まれていてもよい(
図10下部参照)。
【0091】
(出力)
図1および
図5に戻り、出力部14は、旅客流動の予測結果を管理者端末3、サイネージ4および利用者端末5に出力する。サイネージ4および利用者端末5には、予測結果のうち、各列車の混雑度のみが出力されてもよい。管理者端末3には、予測結果として混雑度と共にOD予測データD20も併せて出力されてもよい。
【0092】
(旅客流動予測方法)
図11は、本実施形態に係る旅客流動予測方法を示すフローチャートである。旅客流動予測装置1の上記各部の動作は、旅客流動予測方法を実行させる旅客流動予測プログラムPによって実現されるものである。そのため、旅客流動予測方法については簡略に説明する。
【0093】
図11に示されるフローは、前述した通過データD10の取得周期(例えば、5分)おきに逐次実行される。まず、通過データ取得部21が、通過データ取得工程S1を実行し、通信ネットワーク9および通過データ収集サーバ2を介して改札機6から通過データD10を取得する。次に、OD予測部22が、OD予測工程S2を実行する。そして、混雑度推定部23が、混雑度推定工程S3を実行する。
【0094】
OD予測工程S2では、OD予測部22が、今回の処理時点において、互いに対象時間帯T1が異なる複数の時間帯別OD予測データD21を生成あるいは更新する処理を実行する。本実施形態では、一つの時間帯別OD予測データD21について、初期化と3回の更新が行われる。よって、4つの時間帯別OD予測データD21に対し、今回の処理時点で取得された通過データD10に基づいて、互いに異なる処理が同時に実行される。
【0095】
OD予測工程S2は、初期化工程S20、第1更新工程S21、第2更新工程S22および第3更新工程S23を含む。初期化工程S20において、初期化部31は、今回の処理時点を対象時間帯T1の始期t0とする時間帯別OD予測データD21を初期化する。
第1更新工程S21において、更新部32の第1更新部36が、今回の処理時点を対象時間帯の終期t1とする時間帯別OD予測データD21(t1)を、今回の処理時点で取得された通過データD10に基づいて更新する。
【0096】
第2更新工程S22において、第2更新部37は、今回の処理時点を第2更新時期t2とする時間帯別OD予測データD21(t2)を、今回の処理時点で取得された通過データD10に基づいて更新する。
第3更新工程S23において、第3更新部38は、今回の処理時点を第3更新時期t3とする時間帯別OD予測データD21(t3)を、今回の処理時点で取得された通過データD10に基づいて更新する。
【0097】
混雑度推定工程S3は、列車割当工程S31および混雑度導出工程S32を含む。列車割当工程S31において、列車割当部41は、今回の処理時点で第1更新工程S21が実施された時間帯別OD予測データD21(t1)を用いて各旅客がどの列車に何人乗車するのかを推定する。混雑度導出工程S32において、混雑度導出部42は、推定された乗員数に応じて各列車の混雑度を推定する。
【0098】
(作用・効果)
本実施形態に係る旅客流動予測装置1によれば、OD予測部22が、通過データ取得部21によって取得される当日の通過データD10を用いて、ODデータの予測結果を示すOD予測データD20を随時更新する。当日の通過データD10を用いるため、ODデータをリアルタイムで予測することができ、予測精度が向上する。
【0099】
そして、混雑度推定部23が、このリアルタイムで随時更新されていくOD予測データに基づいて列車の混雑度を推定する。混雑度もリアルタイムで推定することができ、推定精度が向上する。
混雑度は、通過データD10あるいはODデータD1によって示すことが困難な、入退場間の期間における旅客の流動を示す指標である。鉄道輸送における旅客流動の予測内容を拡充することができる。すなわち、旅客流動の予測結果を向上することができる。
【0100】
通過データD10が、通過データ収集サーバ2を介して改札機6から取得される。改札機6を通過するために使用された乗車券から、入場駅と退場駅とを簡単に紐付けることができる。そのため、確実性の高い通過データD10を生成することができ、これに基づいて確実性の高いODデータを生成することができる。更に、このODデータに基づいて、混雑度の推定結果の推定精度が向上する。
【0101】
改札機6は、鉄道事業者が保有する鉄道設備である。旅客流動予測装置1が鉄道事業者に導入された場合、鉄道事業者は、自身が保有する鉄道設備を応用することで、ODデータD1を予測することができ、混雑度を推定することができる。外部から提供されるデータへの依存度を低くまたは無くして、混雑度を推定することができる。また、列車そのものに混雑度を推定するためのハードウェア(例えば、重量センサ)が搭載されていなくても、混雑度を推定することができる。したがって、鉄道事業者は、低コストで混雑度の推定結果を得ることができる。
【0102】
OD予測データD20は時間帯別に複数生成される。時間を細分してOD予測データを生成することで、当日の通過データD10に基づいて各時間帯別OD予測データD21の対象時間帯T1に発生した旅客数を即時に容易に確定することができる。よって、対象時間帯T1に発生した旅客がどの目的地に何人移動したのかを即時に容易に測定することもでき、ODデータの予測精度が向上する。また、時間を細かく区切って生成されたOD予測データに基づいて混雑度を推定するため、各対象時間帯に発生した旅客が乗車すると想定される列車の特定作業も容易となり、混雑度の推定精度が向上する。
【0103】
これまで本発明の実施形態について説明したが、上記構成は、本発明の範囲内で適宜変更、削除および/または追加されることができる。
【符号の説明】
【0104】
1 旅客流動予測装置
6 改札機
21 通過データ取得部
22 OD予測部
23 混雑度推定部
31 初期化部
32 更新部
41 列車割当部
42 混雑度導出部
D1 過去ODデータ
D2 最長移動時間データ
D3 運行データ
D20 OD予測データ
D21 時間帯別OD予測データ
S1 通過データ取得工程
S2 OD予測工程
S3 混雑度推定工程
P 旅客流動予測プログラム