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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016734
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】石膏成形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/16 20060101AFI20240131BHJP
   C04B 28/14 20060101ALI20240131BHJP
   C04B 24/14 20060101ALI20240131BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20240131BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20240131BHJP
   B28C 7/04 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
B28B1/16
C04B28/14
C04B24/14
C04B22/14 B
C04B22/06
B28C7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119055
(22)【出願日】2022-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】521231927
【氏名又は名称】株式会社On-Co
(74)【代理人】
【識別番号】100135460
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 康利
(74)【代理人】
【識別番号】100084043
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 喜多男
(74)【代理人】
【識別番号】100142240
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 優
(72)【発明者】
【氏名】村上 結輝
【テーマコード(参考)】
4G052
4G056
4G112
【Fターム(参考)】
4G052AB16
4G056AA08
4G056CB25
4G112PB03
4G112PB11
4G112PB21
4G112PE00
(57)【要約】
【課題】所望の意匠性表面を有する石膏成形物を得ることのできる石膏成形物の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、カゼインを1質量部あたり1質量部以上20質量部以下の水に3時間以上6時間以下で浸漬した後、70℃以上90℃以下に加熱してアンモニア水をカゼイン1質量部あたり0.2質量部添加して希釈カゼインを生成する希釈カゼイン生成工程と、半水石膏100質量部に対して、消石灰10質量部以上100質量部以下、及び希釈カゼイン50質量部以上90質量部以下、を含む本体組成物を混練することによって本体混練組成物を得る混練工程と、本体混練組成物の表面に当該本体混練組成物とは組成の異なる意匠性表面材料を配置する配置工程と、意匠性表面材料が配置された本体混練組成物を所定形状に成形する成形工程と、成形された本体混練組成物を乾燥させて意匠性表面材料が表面に露出する石膏成形物を得る乾燥工程と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カゼインを、当該カゼイン1質量部あたり1質量部以上20質量部以下の水に3時間以上6時間以下浸漬した後、70℃以上90℃以下に加熱してアンモニア水をカゼイン1質量部あたり0.2質量部添加して希釈カゼインを生成する希釈カゼイン生成工程と、
半水石膏100質量部に対して、消石灰10質量部以上100質量部以下、及び前記希釈カゼイン50質量部以上90質量部以下、を含む本体組成物を混練することによって本体混練組成物を得る混練工程と、
前記本体混練組成物の表面に、当該本体混練組成物とは組成の異なる意匠性表面材料を配置する配置工程と、
前記意匠性表面材料が配置された本体混練組成物を所定形状に成形する成形工程と、
成形された本体混練組成物を乾燥させて前記意匠性表面材料が表面に露出した石膏成形物を得る乾燥工程と、
を含む
ことを特徴とする石膏成形物の製造方法。
【請求項2】
前記半水石膏には、半水石膏全体のうち廃石膏を粉砕し、かつ焼成して得られた再生半水石膏が50質量%以上含まれる
請求項1に記載の石膏成形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石膏を主材料とした組成物の表面に意匠性表面材料を配置した石膏成形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に開示されている塗材用石膏組成物のような、石膏を用いた組成物は種々知られている。
【0003】
また、消石灰(水酸化カルシウム)は漆喰の材料として知られ、古くから塗材として使用されてきた。
【0004】
さらに、カゼインは添加物として特許文献1等にも開示されており、これもまた従来から多く用いられてきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2017/099102号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者らは、鋭意努力の結果、半水石膏、消石灰、及びカゼインの混合物に水を加えて混練することにより所望の粘度を有する混錬組成物を得ることに成功した。当該混練組成物は表面に配置した所定の材料(意匠性表面材料)が沈むことなく表面に付着したまま滞留する。これにより、当該混練組成物を所定の形状に成形した後乾燥させて得られる成形物(石膏成形物)にも当該意匠性表面材料が表面に露出したままであるため、所望の意匠性表面を有した石膏成形物を得ることができる。
【0007】
本発明は、所望の意匠性表面を有する石膏成形物を得ることのできる石膏成形物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、カゼインを、当該カゼイン1質量部あたり1質量部以上20質量部以下の水に3時間以上6時間以下浸漬した後、70℃以上90℃以下に加熱してアンモニア水をカゼイン1質量部あたり0.2質量部添加して希釈カゼインを生成する希釈カゼイン生成工程と、半水石膏100質量部に対して、消石灰10質量部以上100質量部以下、及び前記希釈カゼイン50質量部以上90質量部以下、を含む本体組成物を混練することによって本体混練組成物を得る混練工程と、前記本体混練組成物の表面に、当該本体混練組成物とは組成の異なる意匠性表面材料を配置する配置工程と、前記意匠性表面材料が配置された本体混練組成物を所定形状に成形する成形工程と、成形された本体混練組成物を乾燥させて前記意匠性表面材料が表面に露出した石膏成形物を得る乾燥工程と、を含むことを特徴とする石膏成形物の製造方法である。
【0009】
かかる構成にあっては、上記組成の本体組成物が所望の粘度を有するため、前記意匠性表面材料を所望の位置に配置して前記石膏成形物の表面を所望の意匠で彩ることができる。カゼインはカビが発生するおそれがあるが、消石灰が含まれるために殺菌作用が強く、カビの発生を効果的に防止することができる。
【0010】
また、前記石膏には、石膏全体のうち廃石膏を粉砕し焼成して得られた再生半水石膏が50質量%以上含まれる構成が提案される。
【0011】
かかる構成とすることにより、廃石膏を有効活用できる。また、例えば廃石膏ボードの場合には壁紙材等の付着物が混入してしまうが、これらが粘度の向上に寄与することでより石膏成形物の製造が容易となる。なお当然のことながら、廃石膏の材料としては廃石膏ボード以外の使用済み石膏材料が含まれる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、所望の意匠性表面を有する石膏組成物を安定して得ることができる優れた効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明にかかる石膏成形物の製造方法を具体化した実施例を詳細に説明する。なお、本発明は、下記に示す実施例に限定されることはなく、適宜設計変更が可能である。
【0014】
本発明の本体組成物は、半水石膏100質量部に対して消石灰10質量部以上100質量部以下、希釈カゼイン50質量部以上90質量部以下を含む。以下に順に説明する。
〔半水石膏〕
本発明で用いられる半水石膏はα型半水石膏又はβ型半水石膏のいずれでもよく、またα型半水石膏及びβ型半水石膏の混合物であっても構わない。
【0015】
また、半水石膏としては、半水石膏全体のうち廃石膏を粉砕し焼成して得られた再生半水石膏が50質量%以上含まれていてよい。再生半水石膏は例えば石膏ボードの廃材等を粉砕し焼成して得られる。廃石膏には石膏以外の例えば壁紙材等が混入してしまうが、本発明においてはそれらが粘度の向上に寄与する。また廃石膏の再利用にも大きく寄与することができる。
【0016】
粉砕は、例えば20メッシュの網目を通る程度であればよく、30~60メッシュの網目を通るものがより好適に用いられる。なお、他の半水石膏、消石灰、及びカゼインも同様の粒度であることが望ましい。材料の粒が大きすぎると粘度の低下や成形の不具合が発生するおそれがある。
【0017】
焼成は、本実施例においては130℃の温度で60分間かけて大気圧で加熱したものを用いる。一般的には120℃~150℃で60分前後かけて大気圧で加熱することによって再生半水石膏が得られる。
【0018】
〔消石灰〕
本発明で用いられる消石灰(水酸化カルシウム)は上述のように粉末のものが用いられる。粒が大きすぎると混練に時間がかかったり、塊状の消石灰が成形物中に残留して強度の低下をまねいたりするおそれがある。消石灰を加えることによってカゼインを原因とするカビの発生を防止することができる。
【0019】
なお、本体組成物のうち消石灰が10質量部に満たないとカビの発生を抑える効果が十分に得られない。また、本体組成物のうち消石灰が100質量部を超えると後述の乾燥工程において十分に乾燥させることが困難となる。
【0020】
〔希釈カゼイン〕
本発明で用いられるカゼインは、水で希釈した希釈カゼインとして半水石膏及び消石灰の混合物に加えられる。希釈率はカゼイン1質量部に対して水4質量部以上14質量部以下であるが、9質量部以上11質量部以下であることが好ましく、カゼイン1質量部に対して水10質量部であることが最も好ましい。カゼインを加えることによって本体組成物に良好な粘度が与えられるとともに、成形した際に十分な強度が得られる。
【0021】
なお、本発明で用いられる希釈カゼインは、固形粉末状のカゼインを1質量部あたり1質量部以上20質量部以下の水に3時間以上6時間以下で浸漬した後、70℃以上90℃以下に加熱してアンモニア水をカゼイン1質量部あたり0.2質量部添加することによってカゼインを水に溶いて用いられる。添加されるアンモニア水の濃度は9.5w/v%以上10.5w/v%以下のものが好適に使用可能である。
【0022】
なお、本体組成物のうち希釈カゼインが50質量部に満たないと後述の混練工程において本体組成物がうまくまとまらず、成形が困難となる。また、本体組成物のうち希釈カゼインが90質量部を超えると水分が多すぎて成形が困難となり、また成形物の強度が低下してしまう。
【0023】
〔その他の成分〕
本体組成物には、上述の半水石膏、消石灰、及び希釈カゼインを含む以外にもその他の成分が加えられていて構わない。加えられるその他の成分としては、環境に配慮して自然由来のものであることが望ましい。本発明におけるその他の成分としては、苦土石灰、苛性ソーダ、生石灰、炭酸カリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、又はセスキ炭酸ナトリウム等のアルカリ性材料、膠、コーンスターチ、小麦粉、デンプン系接着剤、キチン、キトサン、ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリウム、大豆グルー、天然ゴム、ロジン、アラビアガム、寒天、カラギーナン、ローカストンビーンガム、多糖類、リグニン、又は漆等の粘性材料、ベンガラ、酸化チタン、アンバー、炭、カオリン、炭酸カルシウム、シェンナ、ラピスラズリ、孔雀石、又は辰砂等の顔料、麻、綿、絹、藁、竹等の植物繊維、ガラス繊維、セルロースナノファイバー、紙、布、又は糸等の繊維材料、ベントナイト、フライアッシュ、フライアッシュバルーン、モンモリロナイト、砂、土、石、コンクリート片、ガラス片、陶器片、紙、木片、種、プラスチック片、又は金属片等の骨材、さらにはペーパースラッジ灰、カルシウムアルミネート、ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリウム、ガラスコート、又は蝋等が考えられる。さらにはレゾール型フェノール樹脂、メチロール化尿素樹脂、メチロール化メラミン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミド、又はカルボシキメチルセルロース等の水溶性合成樹脂が用いられてもよい。これらの成分を添加することによって強度の向上やカビの発生の抑制、また廃材の再利用を促すこともできる。加えられるその他の成分によっては着色による意匠性の向上を図ることもできる。
【0024】
〔意匠性表面材料〕
本発明の石膏成形物は、表面に意匠性表面材料が露出して意匠性を有する表面が得られる。用いられる意匠性表面材料としては、各種の染料、顔料等の着色材料や、麻、綿、絹、藁、竹等の植物繊維、ガラス繊維、セルロースナノファイバー、紙、布、又は糸等の繊維材料や、ガラスビーズ等の透光性材料や、石片等の非透光性材料等が考えられる。着色材料にあっては、着色の境界線を明瞭にしたい場合は非水溶性のものを用いることが望ましい。逆に着色の境界線を不明瞭にしたい場合は水溶性のものを用いることによって本体組成物中の水に着色材料が溶けだして境界線が不明瞭なものとすることができる。
【0025】
〔製造方法〕
本発明の石膏成形物は以下に示す手順によって製造される。
【0026】
(希釈カゼイン生成工程)
まず、固形粉末状のカゼインを1質量部あたり1質量部以上20質量部以下の水に3時間以上6時間以下で浸漬した後、70℃以上90℃以下に加熱し、その後アンモニア水をカゼイン1質量部あたり0.2質量部添加することによってカゼインを水に溶いて希釈カゼインを生成する。
【0027】
(混練工程)
次に、半水石膏及び消石灰に希釈カゼイン生成工程で生成した希釈カゼインを加えた本体組成物を混練する。ベントナイトやその他の成分も必要であれば添加して混練する。これにより本体混練組成物が得られる。得られる本体混練組成物はいわゆる搗きたての餅のような粘度を有する。
【0028】
(配置工程)
混練工程によって得られた本体混練組成物には、表面の所望の部位に上述の意匠性表面材料が配置される。本体混練組成物は搗きたての餅のような粘度を有しているため、意匠性表面材料が内部に沈むことなく配置した表面に残留して成形後も表面にそのまま残るため、この時点である程度所望の意匠を決定することができる。なお、後述の成形工程において意匠性表面材料の配置が変わって意匠性が低下するおそれのある場合には、配置工程の前に一旦所定形状に成形する前成形工程を追加してもよい。
【0029】
(成形工程)
意匠性表面材料が配置された本体混練組成物は、型に入れる等の処理によって所定形状に成形される。
【0030】
(乾燥工程)
所定形状に成形された本体混練組成物は自然乾燥によって乾燥される。本体混練組成物の組成にもよるが、型に入れられたものにおいては約6時間程度で型から取り出すことができるようになり、その後3~4日さらに乾燥することによって乾燥が終了して意匠性表面材料が表面に露出する石膏成形物が得られる。
【0031】
本体組成物の組成を変えて石膏成形物を製造した結果を以下に示す。
【0032】
使用した材料は以下の通りである。
半水石膏:家庭化学工業株式会社製高級工作石膏
消石灰:入交石灰工業株式会社製水酸化カルシウム
カゼイン:株式会社箕輪漆行製カゼイン
アンモニア水:健栄製薬株式会社製アンモニア水
意匠性表面材料:有限会社シマモト製弁柄、東洋赤
【0033】
【表1】
【0034】
本体混練組成物の所見としては、以下のとおりである。
◎:適度な粘度が得られ、意匠性表面材料が配置しやすい
○:粘度があり、意匠性表面材料が沈下せずに表面に残留する
×:粘度が足りず成形できない
【0035】
成形物の所見としては、以下のとおりである。
◎:所望の位置に意匠性表面材料が配置された良好な強度を有する成形物が得られた。
○:所望の位置に意匠性表面材料が配置された成形物が得られた。
-:石膏成形物が得られなかった。
【0036】
表1より、本発明の本体混練組成物の範囲内のものは全て良好な粘度を有し、意匠性表面材料を所望の位置に配置したまま乾燥して成形物とすることができた。
【0037】
消石灰やカゼインが不足したり過剰であったものは粘度が不足して成形できなかったり、混練しても塊にならなくて成形できなかったりして成形物とすることができなかった。