(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167352
(43)【公開日】2024-12-03
(54)【発明の名称】mRNAディスプレイ抗体ライブラリー及び方法
(51)【国際特許分類】
C12N 7/01 20060101AFI20241126BHJP
C40B 40/10 20060101ALI20241126BHJP
C40B 40/08 20060101ALI20241126BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20241126BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20241126BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20241126BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241126BHJP
C07K 1/14 20060101ALI20241126BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20241126BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241126BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241126BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20241126BHJP
【FI】
C12N7/01 ZNA
C40B40/10
C40B40/08
C12N15/86 Z
C12P21/08
C07K16/28
C12N5/10
C07K1/14
A61K35/761
A61P35/00
A61K39/395 N
A61K39/395 J
C12N7/01
C07K14/705
【審査請求】有
【請求項の数】24
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024150043
(22)【出願日】2024-08-30
(62)【分割の表示】P 2021544556の分割
【原出願日】2019-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】515258402
【氏名又は名称】ナントバイオ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】クリフォード、アンダース、オルソン
(72)【発明者】
【氏名】カイバン、ニアズィ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】mRNAディスプレイライブラリー及び組換え高親和性バインダーを作製するための組成物及び方法を提供する。
【解決手段】組換えウイルスであって、別個の抗体又は抗体断片をコードする発現ライブラリーのメンバーを含む組換え核酸を含み、発現ライブラリーのメンバーは、(1)V
H-CDR1/2サブライブラリー、(2)複数のV
H-CDR3サブライブラリー、及び(3)V
Lサブライブラリーを作製するか又は提供する工程であり、複数の縮重塩基位置を有する少なくとも1つのランダムカセットを含み、並びにV
H-CDR1/2サブライブラリー、複数のV
H-CDR3サブライブラリー、及びV
Lサブライブラリーの少なくとも2つのメンバーの少なくとも一部を組み換えて、発現ライブラリー中の発現ライブラリーメンバーを形成する工程により作製されている、組換えウイルスを提供する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えウイルスであって、
別個の抗体又は抗体断片をコードする発現ライブラリーのメンバーを含む組換え核酸を含み、
前記発現ライブラリーの前記メンバーは、
(1)VH-CDR1/2サブライブラリー、(2)複数のVH-CDR3サブライブラリー、及び(3)VLサブライブラリーを作製するか又は提供する工程であり、前記サブライブラリー(1)~(3)の各々は、複数のメンバーを含み、
前記サブライブラリーの各メンバーは、複数の縮重塩基位置を有する少なくとも1つのランダムカセットを含む、作製するか又は提供する工程、並びに
前記VH-CDR1/2サブライブラリー、前記複数のVH-CDR3サブライブラリー、及び前記VLサブライブラリーの少なくとも2つのメンバーの少なくとも一部を組み換えて、前記発現ライブラリー中の前記発現ライブラリーメンバーを形成する工程
により作製されている、組換えウイルス。
【請求項2】
遺伝的に改変された低免疫原性ウイルスである請求項1に記載の組換えウイルス。
【請求項3】
下記の遺伝子:E1A、E1B、E2B、E3の少なくとも1つにおいて変異を有するヒトアデノウイルス血清型5である請求項2に記載の組換えウイルス。
【請求項4】
前記VH-CDR1/2サブライブラリーの前記複数のメンバーが、VH CDR1の一部及びVH CDR2の一部の少なくとも一方に相当するランダムカセットを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組換えウイルス。
【請求項5】
前記VH-CDR1/2サブライブラリーの複数のメンバーが、VH CDR1の少なくとも一部及びVH CDR2の一部に相当する複数のランダムカセットを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の組換えウイルス。
【請求項6】
前記VH-CDR1/2サブライブラリーの複数のメンバーが、VH CDR2の少なくとも一部に相当する複数のランダムカセットを含む、請求項4に記載の組換えウイルス。
【請求項7】
前記VH-CDR3サブライブラリーの複数のメンバーが、VH CDR3の少なくとも一部に相当するランダムカセットを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の組換えウイルス。
【請求項8】
前記VH-CDR3サブライブラリーのメンバーの少なくとも2つのランダムカセットが、様々な長さのペプチドをコードする、請求項1~7のいずれか一項に記載の組換えウイルス。
【請求項9】
前記ペプチドが、10~20個のアミノ酸の範囲の長さを有する、請求項8に記載の組換えウイルス。
【請求項10】
前記サブライブラリーの前記複数のメンバーが、共通の配列を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の組換えウイルス。
【請求項11】
前記VLサブライブラリーの前記複数のメンバーが、VL CDR3の一部でランダムカセットを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の組換えウイルス。
【請求項12】
前記組み換える工程が、前記VH-CDR1/2サブライブラリーの前記メンバーの少なくとも一部と、前記複数のVH-CDR3サブライブラリーの1つとを単離し、合わせて融合させて、VHドメインライブラリーにおけるVHドメインライブラリーメンバーを形成する工程であって、前記VHドメインライブラリーは、複数のVHドメインライブラリーメンバーを含む、形成する工程を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の組換えウイルス。
【請求項13】
発現ライブラリーの前記メンバーが、前記VLサブライブラリーの前記メンバーの少なくとも一部を単離し、前記VLサブライブラリーの前記メンバーの一部と、前記VHドメインライブラリーメンバーの1つとを融合させて、前記発現ライブラリーメンバーを形成することにより作製されている、請求項12に記載の組換えウイルス。
【請求項14】
前記組み換える工程が、前記VH-CDR1/2サブライブラリーの前記メンバーの少なくとも一部と、前記複数のVH-CDR3サブライブラリーの1つとを単離し、合わせて融合させて、発現ライブラリーメンバーの第1の群を形成する工程を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の組換えウイルス。
【請求項15】
前記組換え核酸が、前記別個の抗体又は抗体断片の分泌を促進するシグナル伝達ペプチドをコードする核酸断片をさらに含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の組換えウイルス。
【請求項16】
前記別個の抗体又は抗体断片が、scFvを含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の組換えウイルス。
【請求項17】
前記発現ライブラリーメンバーをサブクローニングして、前記scFvを有するIgG1を構築する工程をさらに含む請求項17に記載の組換えウイルス。
【請求項18】
前記ランダムカセットが、配列番号1~配列番号25から選択されるオリゴヌクレオチドを使用して作製されている、請求項1~17のいずれか一項の組換えウイルス。
【請求項19】
(1)VH-CDR1/2サブライブラリー、(2)複数のVH-CDR3サブライブラリー、及び(3)VLサブライブラリーを作製又は提供する工程であって、前記サブライブラリー(1)~(3)の各々が複数のメンバーを含み;
前記サブライブラリーの各メンバーが、複数の縮重塩基位置を有する少なくとも1つのランダムカセットを含む工程;
前記VH-CDR1/2サブライブラリー、前記複数のVH-CDR3サブライブラリー、及び前記VLサブライブラリーの少なくとも2つのメンバーの少なくとも一部を組換えて、発現ライブラリー中の発現ライブラリーメンバーを形成する工程であって、前記発現ライブラリーが、複数の発現ライブラリーメンバーを含み、各発現ライブラリーメンバーが、別個の抗体又は抗体断片をコードする工程;及び
少なくとも1つの発現ライブラリーメンバーを含む組換えウイルスベクターを作製する工程
を含む、組換え抗体を作製する方法。
【請求項20】
前記組換えウイルスベクターが、遺伝的に改変された低免疫原性ウイルスに由来する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記遺伝的に改変された低免疫原性ウイルスが、下記の遺伝子:E1A、E1B、E2B、E3の少なくとも1つにおいて変異を有するヒトアデノウイルス血清型5である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記VH-CDR1/2サブライブラリーの複数のメンバーが、VH CDR1の一部及びVH CDR2の一部のうちの少なくとも1つに相当するランダムカセットを含む、請求項19~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記VH-CDR1/2サブライブラリーの複数のメンバーが、VH CDR1の少なくとも一部及びVH CDR2の一部に相当する複数のランダムカセットを含む、請求項19~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記VH-CDR1/2サブライブラリーの複数のメンバーが、VH CDR2の少なくとも一部に相当する複数のランダムカセットを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記VH-CDR3サブライブラリーの複数のメンバーが、VH CDR3の少なくとも一部に相当するランダムカセットを含む、請求項19~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記VH-CDR3サブライブラリーのメンバーの少なくとも2つのランダムカセットが、異なる長さを有するペプチドをコードする、請求項19~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記ペプチドが、10~20個のアミノ酸の範囲の長さを有する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記VLサブライブラリーの前記複数のメンバーが、VL CDR3の一部でランダムカセットを含む、請求項19~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記サブライブラリーの前記複数のメンバーが、共通の配列を有する、請求項19~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記発現ライブラリーメンバーの各々が、複数の前記ランダムカセットを含む、請求項19~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
組み換える工程が、前記VH-CDR1/2サブライブラリーのメンバーの少なくとも一部及び前記複数のVH-CDR3サブライブラリーの1つを単離し、合わせて融合して、VHドメインライブラリーにおけるVHドメインライブラリーメンバーを形成する工程を含み、前記VHドメインライブラリーが、複数のVHドメインライブラリーメンバーを含む、請求項19~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記VLサブライブラリーのメンバーの少なくとも一部を単離し、前記VLサブライブラリーのメンバーの一部を前記VHドメインライブラリーの1つと融合して、前記発現ライブラリーメンバーを形成する工程をさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記VLサブライブラリーのメンバーの一部が、リンカーをコードする配列を介して結合される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記リンカーが、グリシンリッチペプチドである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
組み換える工程が、前記VH-CDR1/2サブライブラリーのメンバーの少なくとも一部及び前記複数のVH-CDR3サブライブラリーの1つを単離し、合わせて融合して、発現ライブラリーメンバーの第1の群を形成する工程を含む、請求項19~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
発現ライブラリーメンバーの第2の群であって、前記第2の群が、前記VLサブライブラリーのメンバーの少なくとも一部を含む前記第2の群をさらに含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記別個の抗体又は抗体断片が、scFvを含む、請求項19~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記発現ライブラリーメンバーをサブクローニングして、前記scFvを有するIgG1を構築する工程をさらに含む請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記第1の群及び第2の群の各々からそれぞれ1つのメンバーをサブクローニングして、組換えVH及びVLドメインを有するIgG1を形成する工程をさらに含む請求項36に記載の方法。
【請求項40】
以下:リガンドに対する親和性、pH感受性、及び種間交差反応性のうちの少なくとも1つに基づいて前記発現ライブラリーメンバーのサブセットを選択する工程をさらに含む、請求項19~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
50nM未満のKdで前記リガンドに結合するscFvをコードする前記発現ライブラリーメンバーのサブセットを選択する工程をさらに含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記ランダムカセットが、配列番号1~配列番号25から選択されるオリゴヌクレオチドを使用して作製される、請求項19~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記発現ライブラリーメンバーをmRNA断片に転写する工程、及び
前記mRNA断片の3’末端でピューロマイシン分子を結合する工程
をさらに含む請求項19~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記組換えウイルスベクターを有する組換えウイルスと、哺乳類細胞とを接触させる工程をさらに含む請求項19~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記接触させる工程が、哺乳類に前記組換えウイルスを投与する工程を含む、請求項19~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記哺乳類細胞が、腫瘍を有する患者の自家細胞であり、前記接触させる工程が、エキソビボで前記自家細胞と前記哺乳類細胞とを共インキュベートする工程を含む、請求項1~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
癌ネオエピトープに対する治療用組換え抗体を作製するための請求項1~18のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項48】
抗原に対して100nM以下の親和性を有する高親和性バインダーを単離する方法であって、
請求項19~46のいずれか一項に記載の方法によって構築された組成物に前記抗原を接触させる工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、特に、mRNAディスプレイライブラリー及び組換え高親和性バインダーを作製するためのmRNAディスプレイライブラリーの使用に関するため、極めて高い多様性の抗体ライブラリーのための組成物及び方法である。
【背景技術】
【0002】
背景の説明には、本発明の理解に有用であり得る情報が含まれる。本明細書で提供される情報がいずれも本明細書で請求される発明の先行技術であるか又はこれに関連するものであること、或いは具体的又は暗示的に参照される任意の刊行物が先行技術であることを認めるものではない。
【0003】
本明細書における刊行物及び特許出願はいずれも、各々の個々の刊行物又は特許出願が具体的且つ個別に参照によって組み込まれることが示された場合と同程度に、参照によって組み込まれる。組み込まれる参考文献における用語の定義及び使用が、本明細書で提供される用語の定義と一致しないか、これに反する場合、本明細書で提供されるその用語の定義が適用され、参考文献中でのその用語の定義は適用されない。
【0004】
高親和性、特異的抗体又は結合分子により腫瘍抗原又はネオエピトープを標的化することが、癌患者を治療するための効果的な方法であると証明されている。ますます多くの患者特異的且つ/若しくは癌特異的腫瘍抗原及び/又はネオエピトープが、オミクスデータ解析を介してインビボ、インビトロ、又はインシリコで同定されるにつれて、安定であり、可溶性であり、機能的であり、且つ適応可能である抗体又はバインダーを高い確率で選択できる抗体ライブラリー又はディスプレイライブラリーを作製することの要求が高まってきた。高親和性の特異的抗体又は結合分子は、天然の抗体プールの中で同定され得るか、又は天然の抗体プールに由来し得るが、そのような同定又は由来の天然抗体又はバインダーは、そのような抗原又はネオエピトープへの曝露の頻度又は強度に依存して、そのような天然抗体の多様性が制限される可能性があるため、効果的又は特異的ではない場合がある。
【0005】
このような問題を解決するための1つのアプローチとして、組換えファージディスプレイライブラリーが使用され得る。このようなアプローチは、適度に高い多様性を有するライブラリーの作製を可能にするが、多くの場合、バインダーのために何度も濃縮を行う必要があり、手間と時間がかかる。さらに、比較的大きな多様性を有するにもかかわらず、バインダーは理想的な親和性と安定性を欠く傾向がある。さらに、多様性は通常、ライブラリー量、トランスフェクション効率などの実用的な考慮事項によって制限される。そのようなアプローチ及び他のアプローチはさらに、例えば、国際公開第2006/072773号パンフレットに記載されるように複数の人工的な選択圧力を使用して最適化され得る。このような方法は、安定性の特徴を向上させる場合があるが、著しい量のライブラリー操作と時間が必要とされる。
【0006】
さらに別のアプローチにおいて、mRNAディスプレイが実施され得る。ここで、候補結合分子(典型的にはscFv)をコードするmRNA配列は、それらの3’末端でピューロマイシン分子と結合し、mRNA配列によってコードされるペプチドは、インビトロ翻訳を介して生成され、mRNAをmRNAによってコードされるタンパク質に直接結合した融合産物を生成する。しかしながら、現在のmRNAディスプレイ技術は、トランスフェクション制限に関連する問題を有利に回避し、少なくとも概念的にはより高い多様性を可能にするが、構造的完全性又は安定性、比較的低い親和性、及び/又は交差反応性の問題は依然として残っている。mRNAディスプレイからのscFvの少なくとも選択された結合特性をさらに改善するために、VH-CDR3スペクトラタイピング分析が実施された(Protein Engineering,Design & Selection,2015,vol.28 no.10,pp.427-435を参照のこと)。しかしながら、このようなプロセスは反復分析を必要とし、全ての抗原に対して生産的ではない場合がある。
【0007】
したがって、mRNAディスプレイ及び他の方法を使用して候補バインダーを作製し且つ同定する方法は知られているが、高い構造的完全性/安定性、低い親和性、及び/又は低い交差反応性を有するバインダーによる高い多様性のライブラリーは、実現しないままであった。したがって、安定な組換え高親和性バインダーを迅速に作製するためのmRNAディスプレイライブラリーの改善された組成物、方法、及び使用の必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の主題は、様々な生体分子、特に、癌抗原又はネオエピトープに対する安定で可溶性の機能的な抗体又はバインダーの信頼性があり且つ効率的な同定を可能にする複数の抗体又は抗体断片をコードする高多様性核酸ライブラリーの様々な組成物、方法、及び使用を対象とする。したがって、主題の一態様は、複数の抗体又は抗体断片をコードする高多様性核酸ライブラリーを作製する方法を含む。この方法では、各々が複数のメンバーを有する3つのサブライブラリー:(1)VH-CDR1/2サブライブラリー、(2)複数のVH-CDR3サブライブラリー、及び(3)VLサブライブラリーが作製されるか又は提供される。3つのサブライブラリーの各メンバーは、複数の縮重塩基位置を有する少なくとも1つのランダムカセットを含む。3つのライブラリーの少なくとも2つのメンバーの少なくとも一部が組み換えられて、発現ライブラリー中の発現ライブラリーメンバーを形成し、これは、複数の発現ライブラリーメンバーを有する。別々の抗体又は抗体断片をコードする各発現ライブラリーメンバー。好ましい実施形態では、発現ライブラリーメンバーは、mRNA断片に転写され、続いてこれは3’末端でピューロマイシン分子と結合される。
【0009】
本発明の主題の別の態様では、本発明者らは、複数の核酸ライブラリーを有する組成物を企図する。複数の核酸ライブラリーは、(1)VH-CDR1/2サブライブラリー、(2)複数のVH-CDR3サブライブラリー、及び(3)VLサブライブラリーを含む。サブライブラリー(1)~(3)の各々は、複数のメンバーを含み、サブライブラリーの各メンバーは、複数の縮重塩基位置を有する少なくとも1つのランダムカセットを含む。
【0010】
本発明の主題のさらに別の態様では、本発明者らは、高多様性の核酸ライブラリーを作製するための上の組成物の使用を企図する。
【0011】
本発明の主題のさらに別の態様では、本発明者らは、複数の核酸ライブラリーメンバーを有する高多様性核酸ライブラリー組成物を企図する。高多様性核酸ライブラリーメンバーは、それぞれ複数の縮重塩基位置を有する複数のランダムカセットを含む組換え核酸を含む。複数のランダムカセットは、以下:(1)VH-CDR1/2サブライブラリー、(2)複数のVH-CDR3サブライブラリー、及び(3)VLサブライブラリーからの2つのライブラリーのいずれかからの少なくとも2つのメンバーに由来する。
【0012】
本発明の主題のさらに別の態様では、本発明者らは、癌ネオエピトープに対する治療用組換え抗体を作製するための高多様性核酸ライブラリーの使用を企図する。
【0013】
本発明の主題のさらに別の態様では、本発明者らは、組換え抗体を作製する方法を企図する。この方法では、各々が複数のメンバーを有する3つのサブライブラリー:(1)VH-CDR1/2サブライブラリー、(2)複数のVH-CDR3サブライブラリー、及び(3)VLサブライブラリーが作製されるか又は提供される。3つのサブライブラリーの各メンバーは、複数の縮重塩基位置を有する少なくとも1つのランダムカセットを含む。3つのライブラリーの少なくとも2つのメンバーの少なくとも一部が組み換えられて、発現ライブラリー中の発現ライブラリーメンバーを形成し、これは、複数の発現ライブラリーメンバーを有する。別々の抗体又は抗体断片をコードする各発現ライブラリーメンバー。次に、方法は、発現ライブラリーメンバーを用いて組換え抗体又はその断片の作製を続ける。
【0014】
本発明の主題のさらに別の態様では、本発明者らは、上記の方法により構築された組成物に抗原を接触させることにより、抗原に対して100nM以下の親和性を有する高親和性バインダーを単離する方法を企図する。
【0015】
本発明の主題のさらに別の態様では、本発明者らは、下に提供される表1又は表2から選択されるオリゴヌクレオチドを用いて作製される組換え核酸断片を企図する。
【0016】
本発明の主題のさらに別の態様では、本発明者らは、下に提供される表1又は表2から選択される核酸配列を有する合成核酸混合物を企図する。
【0017】
本発明の主題のさらに別の態様では、本発明者らは、組換えウイルスを企図する。この組換えウイルスは、別個の抗体又は抗体断片をコードする発現ライブラリーのメンバーを含む組換え核酸を含む。この発現ライブラリーのメンバーは、(1)VH-CDR1/2サブライブラリー、(2)複数のVH-CDR3サブライブラリー、及び(3)VLサブライブラリーを作製するか又は提供する工程であって、これらのサブライブラリー(1)~(3)の各々は、複数のメンバーを含み、これらのサブライブラリーの各メンバーは、複数の縮重塩基位置を有する少なくとも1つのランダムカセットを含む、作製するか又は提供する工程、並びにVH-CDR1/2サブライブラリー、複数のVH-CDR3サブライブラリー、及びVLサブライブラリーの少なくとも2つのメンバーの少なくとも一部を組み換えて、発現ライブラリー中の発現ライブラリーメンバーを形成する工程により作製されている。
【0018】
典型的には、この組換えウイルスは、遺伝的に改変された低免疫原性ウイルスであり、このウイルスは、最も好ましくは、下記の遺伝子:E1A、E1B、E2B、E3の少なくとも1つにおいて変異を有するヒトアデノウイルス血清型5であり得る。
【0019】
いくつかの実施形態では、VH-CDR1/2サブライブラリーの複数のメンバーは、VH CDR1の一部及びVH CDR2の一部の少なくとも一方に相当するランダムカセットを含む。そのような実施形態では、VH-CDR1/2サブライブラリーの複数のメンバーは、VH CDR2の少なくとも一部に相当する複数のランダムカセットを含む。他の実施形態では、VH-CDR1/2サブライブラリーの複数のメンバーは、VH CDR1の少なくとも一部及びVH CDR2の一部に相当する複数のランダムカセットを含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、VH-CDR3サブライブラリーの複数のメンバーは、VH CDR3の少なくとも一部に相当するランダムカセットを含む。VH-CDR3サブライブラリーのメンバーの少なくとも2つのランダムカセットが様々な長さのペプチドをコードすることが企図される。或いは及び/又は加えて、VLサブライブラリーの複数のメンバーは、VL CDR3の一部でランダムカセットを含む。
【0021】
典型的には、組み換える工程は、VH-CDR1/2サブライブラリーのメンバーの少なくとも一部と、複数のVH-CDR3サブライブラリーの1つとを単離し、合わせて融合させて、VHドメインライブラリー中のVHドメインライブラリーメンバーを形成する工程であって、このVHドメインライブラリーは、複数のVHドメインライブラリーメンバーを含む、形成する工程を含む。そのような実施形態では、発現ライブラリーのメンバーは、VLサブライブラリーのメンバーの少なくとも一部を単離し、VLサブライブラリーのメンバーの一部と、VHドメインライブラリーメンバーの1つとを融合させて、発現ライブラリーメンバーを形成することにより作製されることが企図される。他の実施形態では、組み換える工程は、VH-CDR1/2サブライブラリーのメンバーの少なくとも一部と、複数のVH-CDR3サブライブラリーの1つとを単離し、合わせて融合させて、発現ライブラリーメンバーの第1の群を形成する工程を含む。
【0022】
任意選択により、組換え核酸は、別個の抗体又は抗体断片の分泌を促進するシグナル伝達ペプチドをコードする核酸断片をさらに含み得る。
【0023】
本発明の主題のさらに別の態様では、本発明者らは、組換え抗体を作製する方法を企図する。この方法では、(1)VH-CDR1/2サブライブラリー、(2)複数のVH-CDR3サブライブラリー、及び(3)VLサブライブラリー(これらのサブライブラリー(1)~(3)の各々は、複数のメンバーを含む)を作製するか、又は提供する。最も好ましくは、サブライブラリーの各メンバーは、複数の縮重塩基位置を有する少なくとも1つのランダムカセットを含む。次に、この方法では、VH-CDR1/2サブライブラリー、複数のVH-CDR3サブライブラリー、及びVLサブライブラリーの少なくとも2つのメンバーの少なくとも一部を組み換えて、発現ライブラリー中の発現ライブラリーメンバーを形成する工程であって、発現ライブラリーは、複数の発現ライブラリーメンバーを含み、各発現ライブラリーメンバーは、部個の抗体又は抗体断片をコードする、形成する工程が続く。次に、少なくとも1つの発現ライブラリーメンバーを含む組換えウイルスベクターが作製され得る。
【0024】
典型的には、この組換えウイルスは、遺伝的に改変された低免疫原性ウイルスであり、このウイルスは、最も好ましくは、下記の遺伝子:E1A、E1B、E2B、E3の少なくとも1つにおいて変異を有するヒトアデノウイルス血清型5であり得る。
【0025】
いくつかの実施形態では、ランダムカセットは、配列番号1~配列番号25から選択されるオリゴヌクレオチドを使用して作製されている。任意選択により、組換えウイルスベクターは、別個の抗体又は抗体断片の分泌を促進するシグナル伝達ペプチドをコードする核酸断片をさらに含む。
【0026】
好ましくは、この方法は、組換えウイルスベクターを有する組換えウイルスと、哺乳類細胞とを接触させる工程をさらに含み得る。いくつかの実施形態では、接触させる工程は、哺乳類に組換えウイルスを投与する工程を含む。他の実施形態では、哺乳類細胞は、腫瘍を有する患者の自家細胞であり、接触させる工程は、エキソビボで自家細胞と哺乳類細胞とを共インキュベートする工程を含む。
【0027】
本発明の主題の様々な目的、特徴、態様及び利点は、添付の図面とともに、好ましい実施形態の以下の詳細な説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】VH3/Vk1の対を使用する1つの例示的ランダム化戦略を示す。
【
図2】重鎖CDR1及びCDR2における配列ランダム化のための例示的位置を示す。
【
図3】重鎖CDR3における例示的配列ランダム化を示す。
【
図4】左に核酸配列、右にアミノ酸の選択を伴う軽鎖CDR3における例示的な配列ランダム化を示す。
【
図5】複数の組換え核酸セグメントのランダムカセットを単離して組み合わせることによるハイブリッド核酸エレメントの例示的な作製を示す。
【
図6】αB7-H4
801の安定なタンパク質発現を示す単一ピークを示すサイズ排除クロマトグラフィーの結果を示す。
【
図7】市販の抗体と比較してαB7-H4
801の類似した分子挙動を示すキャピラリー電気泳動ドデシル硫酸ナトリウム(CE-SDS)データを示す。
【
図8】B7-H4に対してインビトロで選択されたαB7-H4抗体の結合を示すグラフを示す。
【
図9】インビトロで選択されたαB7-H4及びαPD-L1バインダーの機能性分析のグラフを示す。
【
図10】αB7-H4 scFv及びαB7-H4 IgG1の結合親和性を示すグラフを示す。
【
図11】好中球のサイズ変化を測定することによるIL-8活性アッセイ及びその結果を示す。
【
図12】好中球サイズを増大させるIL-8活性に対するαIL-8抗体の中和作用を示す棒グラフを示す。
【
図13】好中球遊走を阻害することによるIL-8抗体活性に対するαIL-8抗体の中和作用を示す棒グラフにおいて示されるIL-8活性アッセイ及びその結果を示す。
【
図14】選択された抗原標的に関して本明細書に提示されるmRNAディスプレイライブラリー組成物を使用する例示的結果を示す。
【
図15】本明細書に提示されるmRNAディスプレイライブラリー組成物を用いてバインダーを同定した、scFv対IgGとして構成される選択されたバインダーの親和性を示す例示的なグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明者らは目下、高多様性核酸ライブラリーのメンバーによってコードされる抗体又はその断片の選択されたドメインの標的化された多様性を用いて高多様性核酸ライブラリーを構築することによって、特異的且つ効果的な組換え抗体又はその断片が、作製又は同定され得ることを発見した。このような目的を達成するために、本発明者らは目下、抗体/バインダーの1つ以上のドメイン又はサブドメインを予め選択することができ、予め選択されたドメイン又はサブドメイン内のランダムカセットを使用して、複数の核酸サブライブラリーを作製できることを発見した。本発明者らはさらに、サブライブラリーのメンバーを組み換えて、ライブラリーのメンバー間で高い多様性を可能にしながらも、癌抗原又はネオエピトープ(好ましくは癌特異的、患者特異的ネオエピトープ又はネオ抗原)に対してインビボで使用された場合に、安定であり、可溶性であり、機能的であり、且つ適応可能である抗体/バインダーを同定する確率を高める高多様性核酸ライブラリーを構築できることを発見した。
【0030】
実際に、以下でより詳細に示されるとおり、本明細書に提示されるライブラリーは、典型的には、シングルパス又はツーパスの濃縮において、バインダーが100nM以下、より典型的には10nM以下のKdを有する任意の抗原に対する少なくとも1つのバインダーの単離を可能にする。さらに、企図された系及び方法は、少なくとも109、少なくとも1010、少なくとも1011、少なくとも1012、少なくとも1013、少なくとも1014、少なくとも1015、又は少なくとも1016の異なるライブラリーメンバーの多様性を有するscFvライブラリーを、従来のライブラリー構築と比較して大幅に短縮された時間枠内で可能にする。したがって、抗体発見の速度が実質的に上昇することが理解されるはずである。
【0031】
本明細書で使用する場合、用語「腫瘍」は、人体内の1つ以上の解剖学的位置に配置され得るか、又は見出され得る1つ以上の癌細胞、癌組織、悪性腫瘍細胞、又は悪性腫瘍組織を指し、且つそれらと互換的に使用される。
【0032】
本明細書で使用する場合、用語「結合する」は、用語「認識する」及び/又は「検出する」を指し、且つそれらと互換的に使用することができ、2つの分子間の相互作用は、10-6M以下又は10-7M以下のKDを有して高親和性を有する。
【0033】
本明細書で使用する場合、用語「提供する」又は「提供すること」は、製造するか、作製するか、配置するか、使用可能にするか、又は使用の準備をすることのいずれかの行為を指し、且つ含む。
【0034】
核酸サブライブラリーの構築
一般に、抗体の構造部品(重鎖、軽鎖、定常ドメイン、可変ドメイン)は、それらの機能に密接に関係する。例えば、重鎖における可変ドメイン(VH)及び軽鎖(VL)はともに、抗体に特異性をもたらすエピトープ結合ドメインを構成する。VH及びVLの各々は、抗原に対するそれらの特異性に基づく固有のアミノ酸配列を有する3つの相補性決定領域(CDRs、CDR1~3)を含む。したがって、VH及びVLのCDRをコードする配列をランダム化することにより、抗体を作製又は同定するための組換え核酸ライブラリーが作製され得ることが以前に企図されていた。しかしながら、本発明者らは、VH及びVLの全てのCDRを完全にランダム化することは、ライブラリーに大きな多様性をもたらす可能性がある一方で、全てのランダム化されたVH及びVLが、抗体(例えば、IgG1など)を形成するために組み換えられるときに可溶性又は安定に発現され得るわけではないため、ランダム配列の全ての組合せを作製し、全てのランダム化された組合せをスクリーニングすることにおいて非効率も生じさせることを見出した。さらに、多様性空間全体を網羅することは、可能なライブラリーメンバーの数が非常に多いため、現実的ではない。
【0035】
したがって、本発明者らは、VH及びVLのサブドメインを2つのカテゴリー:異なる抗体(又はその抗体をコードする遺伝子)のVH又はVLの間で一般的に共通するフレームワーク領域、並びに最終的なペプチド生成物(例えば、scFv、IgG1など)の安定性及び/又は可溶性に著しい影響を与えることなく、少なくとも部分的に又は完全にランダム化され得る標的化される多様化領域に分割できることを企図する。好ましくは、VHの標的化される多様化領域は、CDR1、CDR2-n(CDR2のN末端側)、CDR2-c(CDR2のC末端側)、及びCDR3の少なくとも一部を含む。さらに好ましい態様では、VLの標的化される多様化領域は、CDR3の少なくとも一部を含む。
【0036】
そのため、本発明の主題の1つの例示的且つ特に好ましい態様では、核酸ライブラリーは、VH及び/又はVLの1つ以上の標的化される多様化領域における1つ以上のランダム配列カセットを含む組換え核酸を生成することによって作製され得る。一つの好ましい実施形態では、本発明者らは、単一のサブライブラリー内のランダム化された組換え配列が多すぎて、単一のサブライブラリーの量を迅速又は適時のスクリーニングのために扱うことが非実用的又は非効率的になり得ることを回避しながら、各サブライブラリーが、ランダム化された標的化される多様化領域内の多様性を保持するように、異なる標的化される多様化領域内に異なるセットのランダム配列カセットを有する3つの異なるサブライブラリーを企図している。さらに、標的化される多様化領域間の保存された領域は、最大の安定性及び可溶性のために選択されるか又は設計される。
【0037】
一実施形態では、サブライブラリーは、V
H-CDR1/2サブライブラリーを含む。
V
H-CDR1/2サブライブラリーは、V
H CDR1の少なくとも一部及び/又はV
H CDR2の一部に相当する1つ以上のランダム配列カセットを有する複数の組換え核酸(例えば、組換えDNA)を含む。本明細書で使用する場合、V
H CDR1の一部に相当するランダムカセットは、ランダムカセットが組換え核酸の領域内に位置することを意味し、その中でCDR1部分をコードする配列が、天然抗体のV
Hドメインに少なくとも構造的又は機能的に類似しているV
Hドメインの一部をコードするために存在すべきである。例えば、V
H-CDR1/2サブライブラリー中の組換え核酸は、以下のとおりの構造を有する(ランダム化された領域は下線が引かれ、固定の配列決定された領域は括弧に入れられる):
【化1】
本明細書で使用する場合、UTRは非翻訳領域を指し、FWはフレームワーク領域(例えば、FW1は、第2のフレームワーク領域(FW2)とは異なり得る第1のフレームワーク領域である)を指す。この構造において、ランダム配列カセットは、CDR1若しくはCDR2、又は好ましくは、CDR1とCDR2の両方の領域において挿入され得る。いくつかの実施形態では、2つ以上ランダム配列カセット、好ましくは2つのランダム配列カセットは、CDR2の領域において挿入され得る:CDR2-n(CDR2の5’-末端側に関して)及びCDR-c(CDR2の3’-末端側に関して)。
【0038】
サブライブラリーはまた、複数のV
H-CDR3サブライブラリーを含み得る。V
H-CDR3サブライブラリーの各々は、V
H CDR3の少なくとも一部に相当する1つ以上のランダム配列カセットを有する複数の組換え核酸(例えば、組換えDNA)を含む。
V
H-CDR1/2サブライブラリーと同様に、V
H-CDR1/2サブライブラリー中の組換え核酸は以下のとおりの構造を有し得る(ランダム化された領域は下線が引かれ、固定の配列決定された領域は括弧に入れられる):
【化2】
好ましくは、V
H-CDR1/2サブライブラリー及び/又はV
H-CDR3サブライブラリーの組換え核酸の固定配列(例えば、プロモーター-5’UTR-FW1+CDR1+FW2+CDR2+FW3、FW4)は、固定配列が最も発現可能であり、一本鎖可変断片(scFv)、scFvの改変形態、全長免疫グロブリン、又は免疫グロブリンの一部として発現されるペプチドを含む複数の形態に適応可能であるように、天然抗体(例えば、種々の抗原に対するIgG1)の中で最も一般的及び/又は保存された配列を使用するように選択される。したがって、好ましい実施形態では、V
H-CDR1/2サブライブラリーの組換え核酸及びV
H-CDR3サブライブラリーの組換え核酸の固定配列は、互いに少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%同一である(共有される)。
【0039】
サブライブラリーはまた、V
Lサブライブラリーを含み得る。V
Lサブライブラリーは、V
L CDR3の少なくとも一部に相当する1つ以上のランダム配列カセットを有する複数の組換え核酸(例えば、組換えDNA)を含む。V
H-CDR1/2サブライブラリーと同様に、V
H-CDR1/2サブライブラリー中の組換え核酸は以下のとおりの構造を有し得る(ランダム化された領域は下線が引かれ、固定の配列決定された領域は括弧に入れられる):
【化3】
好ましくは、V
Lサブライブラリーの組換え核酸の固定配列は、V
H-CDR1/2サブライブラリー又はV
H-CDR3サブライブラリーの組換え核酸のものと少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%同一である(共有される)。
【0040】
任意のランダム化された配列は、ランダム配列カセットを作製するために考慮され得るが、本発明者らは、VHのCDR1、CDR2、CDR3及びVLドメインのCDR3のための戦略化されたランダム配列カセットが、結合ペプチド(例えば、scFvなど)として発現された場合に、高い複雑性及び大きな潜在的な結合面を与えることを企図する。
例えば、VH-CDR1/2サブライブラリーのCDR1、CDR2のための戦略化されたランダム配列カセットは、カセット1個当たり3個以下、好ましくは2個以下、又はより好ましくは1個のランダム配列(カセット1個当たり3個以下、2個以下、又は1個のランダムアミノ酸をコードする)を有するセミランダム配列カセットであってもよい。ランダムカセット中のランダム配列の位置は、カセット中のランダムアミノ酸に応じて変動し得る。別の例において、VH-CDR3サブライブラリーのCDR3のための戦略化されたランダム配列カセットは、カセット1個当たり4個以上、好ましくは5個以上、又はより好ましくは6個以上のランダム配列(カセット1個当たり4個以上、好ましくは5個以上、又はより好ましくは6個以上のランダムアミノ酸をコードする)が存在するように、よりランダム化された配列を含み得る。さらに別の例において、VLサブライブラリーのCDR3のための戦略化されたランダム配列は、カセット1個当たり4個以上、好ましくは5個以上、又はより好ましくは6個以上のランダム配列(カセット1個当たり4個以上、好ましくは5個以上、又はより好ましくは6個以上のランダムアミノ酸をコードする)が存在するように、よりランダム化された配列を含み得る。
【0041】
本発明の主題の特定の好ましい態様では、本発明者らは、サブライブラリーのための好ましいランダム配列カセットが、表1(VH-CDR1/2サブライブラリー及びVH-CDR3サブライブラリーに関する)、及び表2(VLサブライブラリーに関する)において提示されるオリゴヌクレオチドを使用して作製され得ることを企図する。表1及び2において示されるとおり、各オリゴヌクレオチドは、IUPACアンビギュイティコードとして示される縮重コードを有する(強調された)ランダム配列を含む。例えば、CDR1ランダム配列カセットのための1つのオリゴヌクレオチドは、ランダム配列「RVT」を含み、これは、「A/G、A/C/G、T」を表し、その組合せは、スレオニン(T)、アラニン(A)、アスパラギン(N)、アスパラギン酸(D)、セリン(S)又はグリシン(G)のうちの1つをコードできる。縮重コドンによってコードされるアミノ酸の選択は、右に表され、Xとともに示される。
【0042】
さらに且つ好ましくは、V
H-CDR3サブライブラリーのためのランダム配列カセットは、異なる長さの核酸配列を含み得る。例えば、V
H-CDR3サブライブラリーのためのランダム配列カセットは、10~30個のアミノ酸、好ましくは10~25個のアミノ酸、より好ましくは10~20個のアミノ酸の任意の長さであり得る。したがって、表1において示されるとおり、V
H-CDR3サブライブラリーのためのランダム配列カセットを作製するためのオリゴヌクレオチドは、D/G-R/L及びA/Gをコードする配列間に「NNK」(G/A/T/C、G/A/T/C、G/Tを表す)の様々なリピート(例えば、4~10のリピート)を含み得る(
図3も参照のこと)。軽鎖配列の作製及び多様性は、
図4において例示的に示される。
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
最も典型的には、表1及び2において提示されるオリゴヌクレオチドは、一本鎖DNAにおいて提供され、これはDNAポリメラーゼI(クレノー断片)を使用して二重鎖DNA断片に変換されて、固定の配列決定された領域(例えば、VLサブライブラリーなどの組換え核酸に関して、5’-(プロモーター-5’UTR-FW1+CDR1+FW2+CDR2+FW3)-(FW4))を含む骨格に挿入され得る。さらに、表1及び2に提示されるオリゴヌクレオチドはまた、ポリメラーゼ酵素を使用せずに二重鎖核酸を形成するために相補的なオリゴヌクレオチドとともに存在することもまた企図される。
【0047】
いくつかの実施形態では、サブライブラリーの組換え核酸はまた、組換え核酸によってコードされるペプチドが、タンパク質タグに対するバインダーを使用して単離され得るように、タンパク質タグをコードする核酸配列を含む。例えば、好ましいタンパク質タグとしては、FLAGタグ(配列モチーフDYKDDDDKを有する)、Mycタグ(配列モチーフEQKLISEEDLを有する)、及びHA-タグが挙げられる。いくつかの実施形態では、タンパク質タグは、シグナルを強化するか又は検出を増大させるために繰り返され得る(例えば、FLAGタグの3回の反復(3X FLAG)など)。
【0048】
サブライブラリーの組換え核酸に挿入されたいくつかのランダム配列カセットは、フレームシフト、ナンセンス変異、及び組換え核酸によってコードされるペプチドの構造を不安定化させている配列を導入し得ることが企図される。したがって、いくつかの実施形態では、本発明者らは、不安定又はミスフォールドしたペプチドをコードする任意の組換え核酸がライブラリーから除去され得るように、サブライブラリーの組換え核酸をインビトロで試験することを企図する。例えば、VH-CDR3サブライブラリー又はVLサブライブラリーの組換え核酸は、それぞれCDR配列とは独立して免疫グロブリンのVH3ドメイン又はVL(Vκ)ドメインの構造化エピトープに結合するスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)のプロテインA又はフィネゴルディア・マグナ(Finegoldia magna)のプロテインLに対するそれらの結合親和性について試験され得る。
【0049】
プロテインA又はプロテインLに対するそれらの結合親和性によって組換え核酸をスクリーニングするための任意の好適な方法が企図される。例示的な一実施形態では、サブライブラリーの組換え核酸は、インビトロ転写によってmRNAに転写され、mRNAの3’末端がピューロマイシンに結合(共有結合)される。ピューロマイシン結合型mRNAから転写されるペプチドがピューロマイシンを介してmRNAと結合されるように、ピューロマイシン結合型mRNAはインビトロで転写される。次に、ペプチドをプロテインA又はプロテインLと接触させて、プロテインA又はプロテインLに効率的に結合するペプチドを同定する。好ましくは、10-6M以下、好ましくは10-7M以下のKDを有する親和性を有するプロテインA又はプロテインLに結合するペプチドが選択され、単離される。プロテインA又はプロテインLに対して高い親和性を有するペプチドが単離されると、単離されたペプチドのcDNAが、ピューロマイシン及びペプチドと結合したmRNAのインビトロ逆転写を介して作製され得る。次に、そうして作製された単離ペプチドのcDNAは、VH-CDR3サブライブラリー又はVLサブライブラリーの選択された組換え核酸を作製するためのランダム配列カセットとして挿入され得る。或いは、サブライブラリーの組換え核酸が、組換え核酸のためのインビトロ転写工程(DNAフォーマットにおける)が必要とされなくてもよいように、任意選択によりピューロマイシン分子と予め結合されたmRNAの形態で存在し得ることもまた企図される。
【0050】
サブライブラリーからのscFvライブラリーの構築
本発明者らはさらに、サブライブラリーのうちの少なくとも2つの組換え核酸(メンバー)を組み換えて、組換えscFv核酸を形成できることを企図する。好ましい実施形態では、少なくとも2つの組換え核酸(メンバー)の各々は、異なるサブライブラリーから選択される。例えば、1つの組換え核酸は、VH-CDR1/2サブライブラリー、複数のVH-CDR3サブライブラリー、及びVLサブライブラリーの各々から選択され得る。他の例に関して、1つの組換え核酸は、VH-CDR1/2サブライブラリー、複数のVH-CDR3サブライブラリー、及びVLサブライブラリーのうちの2つの各々から選択され得る。好ましくは、サブライブラリーから選択される組換え核酸のうちの少なくとも1つ、より好ましくはそのうちの全ては、上記のとおりの親和性結合スクリーニングにより予め選択される。
【0051】
最も典型的には、組換えscFv核酸は、サブライブラリーに由来する組換え核酸の一部を組み換えることによって構築され得る。この実施形態では、組換え核酸の一部は、組換え核酸に挿入されたランダム配列カセットを含む。したがって、例えば、第1の工程として、V
H-CDR1/2サブライブラリーの組換え核酸の一部は、
【化4】
(ランダム配列カセットは下線が引かれる)、好ましくは、
【化5】
より好ましくは、
【化6】
であってもよい。同様に、例えば、V
H-CDR3サブライブラリーの組換え核酸の一部は、
【化7】
(ランダム配列カセットは下線が引かれる)、好ましくは、
【化8】
より好ましくは、
【化9】
であってもよい。次に、V
H-CDR1/2サブライブラリー及びV
H-CDR3サブライブラリーに由来する組換え核酸の一部が単離され(例えば、PCRによって)、組み換えられて(例えば、制限-ライゲーション法を介して融合される、組換えPCRを介して作製されるなど)、V
Hドメイン組換え核酸が形成され得る。したがって、通常、V
Hドメイン組換え核酸は、
【化10】
(ランダム配列カセットは下線が引かれる)の構造であろう。任意選択により、V
Hドメイン組換え核酸はまた、上記のとおりその3’末端においてタンパク質タグ(例えば、FLAGタグ、Mycタグ、HAタグなど)をコードする核酸配列を含み得る。加えて、このように作製されたV
Hドメイン組換え核酸は、V
HドメインライブラリーメンバーとしてV
Hドメインライブラリー中に配置され得る。
【0052】
そのように形成されたV
Hドメイン組換え核酸はさらに、V
Lサブライブラリーの組換え核酸と組み換えられて、組換えscFv核酸が形成され得る。
図5は、サブライブラリーからの配列を組み換える1つの例示的な方法を示す。示されるとおり、また典型的には、V
Hドメイン組換え核酸の一部及びV
Lサブライブラリーの組換え核酸の一部が、組換えscFv核酸に融合される。例えば、V
Lサブライブラリーの組換え核酸が、V
Hドメイン組換え核酸の一部の3’末端に融合され得るように、V
Hドメイン組換え核酸の一部は、
【化11】
(好ましくは、その3’末端においてタンパク質タグをコードする任意の核酸を伴わない)を含んでもよく、且つV
Lサブライブラリーの組換え核酸の一部は、
【化12】
(プロモーター及び5’-UTRを伴わない)を含んでもよい。したがって、典型的な組換えscFv核酸は、
【化13】
の構造であろう。V
Hドメイン組換え核酸の一部及びV
Lサブライブラリーの組換え核酸の一部は、単一のポリペプチドをコードするように同じ読み枠に置かれることが非常に好ましい。
【0053】
好ましくは、VHドメイン組換え核酸の一部及びVLサブライブラリーの組換え核酸の一部は、2つの部分の間のリンカー(短いペプチドスペーサー断片)をコードする核酸を介して融合される。リンカー又はスペーサーのためのペプチド配列の任意の好適な長さ及び順序が使用され得る。しかしながら、リンカーペプチドの長さは、3~30個のアミノ酸、好ましくは5~20個のアミノ酸、より好ましくは5~15個のアミノ酸であることが好ましい。例えば、本発明者らは、グリシンリッチ配列(例えば、gly-gly-ser-gly-glyなど)が、VHとVLドメイン間でscFvの可動性をもたらすように利用されることを企図する。
【0054】
任意選択により、組換えscFv核酸はまた、上記のとおりその3’末端においてタンパク質タグ(例えば、FLAGタグ、Mycタグ、HAタグなど)をコードする核酸配列を含み得る。加えて、このように作製された組換えscFv核酸は、発現ライブラリーメンバーとして発現ライブラリー中において配置され得る。
【0055】
いくつかの実施形態では、そのように形成された組換えscFv核酸はさらに、1つ以上の目的のリガンド(例えば、癌抗原、ネオエピトープなど)に対するそれらの結合親和性、安定性、pH感受性、及び/又は種間交差反応性に基づいて、スクリーニング及び/又は分類される。例えば、組換えscFv核酸によってコードされるscFvペプチドの安定性は、経時的にペプチドのサイズを測定するサイズ排除クロマトグラフィーによって分析され得る。他の例に関して、組換えscFv核酸によってコードされるscFvペプチドのpH感受性及び結合親和性は、異なる緩衝液条件(pH、温度など)においてscFvペプチドを1つ以上のリガンドと接触させることによって分析され得る。
【0056】
発現ライブラリーに由来する所望の組換えscFv核酸のそれらの分析及びさらなる単離に関して、本発明者らは、組換えscFv核酸が、mRNAの形態で存在する場合があり、任意選択により、mRNAの3’末端でピューロマイシン分子と予め結合されることを企図する。次に、ピューロマイシン結合型mRNAから転写されるペプチドがピューロマイシンを介してmRNAと結合されるように、ピューロマイシン結合型mRNAはインビトロで転写され得る。次に、ペプチドは、1つ以上のリガンドと、任意選択により異なる緩衝液条件(pH、温度など)において接触される。好ましくは、pH5.0~8.0、好ましくはpH6.0~8.0、より好ましくはpH6.5~8.0で10-6M以下、好ましくは10-7M以下のKDを有する親和性を有してリガンドに結合するペプチドが、選択され、且つ単離される。リガンドに対して高い親和性を有するペプチドが単離されると、単離されたペプチドのcDNAが、ピューロマイシン及びペプチドと結合したmRNAのインビトロ逆転写を介して作製され得る。
【0057】
さらに、組換えscFv核酸によってコードされる単離ペプチドのそのように作製されたcDNAを、免疫グロブリンの部分に移植し、置き換えて、組換え免疫グロブリン又はその断片を形成できる。例えば、そのように作製されたcDNAは、免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の可変領域が単離ペプチドによって形成されるscFvと置き換えられ得るように、免疫グロブリン重鎖定常領域の骨格と融合され得る。或いは、本発明者らはまた、組換えscFv核酸のVH部分(又はVHドメイン組換え核酸に由来する)及びVL部分(又は組換えscFv核酸に由来する)を、免疫グロブリンの部分に移植し、置き換えて、組換え免疫グロブリン又はその断片を形成できることを企図する。例えば、組換えscFv核酸のVH部分(又はVHドメイン組換え核酸に由来する)及びVL部分(又は組換えscFv核酸に由来する)を、それぞれ免疫グロブリン重鎖定常領域又は軽鎖定常領域の骨格と融合させて、所望のリガンドに特異的な可変領域を有する免疫グロブリンを形成する。
【0058】
これらの例において、免疫グロブリンは、異なる型の免疫グロブリンを構成する重鎖又は定常ドメインの任意の型(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA及びIgY)及び任意のクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)を含み得ることが企図される。加えて、「抗体」は、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体を含んでもよいが、これらに限定されない。この文脈において、企図された系及び方法により、単離されたVH及びVLドメインを所望の種(例えば、ヒト)の抗体の残部に移植することによって種特異的抗体の作製が可能になることが留意されるべきである。別の例において、そのように作製されたcDNAを、免疫グロブリンの他の部分をコードする核酸と融合させて、免疫グロブリンの断片を形成できる。この例において、免疫グロブリンの断片は、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2、ジスルフィド結合Fv(sdFv)、及びFvであり得ることが企図される。本発明者らはさらに、そのように作製されたcDNAの一部を、免疫グロブリンの他の部分をコードする核酸と融合させて、VHセグメント及び/又はVLセグメントのいずれかを含む任意の断片を形成できることを企図する。
【0059】
さらに、本発明者らは、scFv部分が、様々なタンパク質及び非タンパク質分子のための標的化実体として使用され得ることを企図する。例えば、scFv部分を、(典型的にはキメラタンパク質として)ALT-803型分子に結合させて、特異的な標的化性能を有するTxM実体を形成してもよい(例えば、J Biol Chem.2016 Nov 11;291(46):23869-23881を参照のこと)。別の例において、scFv部分を担体タンパク質(例えば、アルブミン)に結合して、薬物が担体に結合される場合に腫瘍微小環境における特定の位置に1つ以上の薬物の標的特異的な送達を可能にし得る。
【0060】
本発明者らはさらに、ランダム配列の標的化された多様化を介してサブライブラリーを構築すること、及び/又はサブライブラリーのメンバーを予め選択することによって、発現ライブラリーが、不安定配列、非結合配列、又は誤って折り畳まれた配列を除去することにより、多様性の犠牲を最小限に抑えながら、約1012の複雑さを達成できることを企図する。したがって、発現ライブラリーを作製するための上記のアプローチは、配列の複雑さに意味のある大きさを提供しつつ、少量でバインダー/抗体をスクリーニングするのに実用的である。加えて、発現ライブラリーを作製するための上記のアプローチは、バインダー/抗体のスクリーニング手順を単純化した。従来、結合ドメイン(又はモチーフ)をコードする任意の核酸配列(例えば、ランダム化された配列)のインビトロバリデーションは、核酸配列をFabドメインに変換することを必要とし、その後、結合親和性を、目的のリガンドとのプルダウンアッセイを介して試験することができた。本明細書に提示される方法は、核酸配列をFabドメインに変換することなく、親和性(例えば、Kd値)、pH感受性、及び種間交差反応性(例えば、表面プラズモン共鳴アッセイなどを介して)による順位付けを介して、結合ドメイン(又はモチーフ)をコードする核酸配列のインビトロバリデーションを可能にする。さらに、安定性及び感受性に基づく各ライブラリーからのメンバーの事前選択は、所望のバインダー/scFv/抗体ドメインがより迅速且つ効率的に同定され得るように、ライブラリーにおいて試験されることになるプールを減少させる。したがって、本発明者らはまた、インビトロ翻訳後のライブラリーメンバーが固相結合抗原に対してスクリーニングされるmRNAディスプレイ技術を用いて、高多様性プールから高親和性バインダー(例えば、ナノ及びピコモルKdを有する)を単離するための方法を企図する。バインダーが同定されると、それらは、以下にさらに記載されるとおり、親和性及びKon/Koff特性に関して表面プラズモン共鳴分光法によってさらに特徴付けられ得る。別の観点から見ると、企図された系及び方法は、インビボ免疫系から完全に独立したプロセスにおいて、バインダーの迅速な検出及びscFv又は抗体の作製を可能にする。
【実施例0061】
実施例
効率を維持しながら多様性を最大化するために、標的化される多様化領域(複数可)を同定するための任意の好適な多様化スキームが企図され得るが、本発明者らは、VH3/Vk1が、免疫グロブリンの様々なドメインの中でランダム化のための良好な候補領域の1つであり得、VH3が、最も安定で可溶性のVHドメインであると考えられ、且つ軽鎖のVk1が、安定で可溶性であることを見出した。したがって、VH3/Vk1ランダム化対が、より効率的に完全なサイズの免疫グロブリンに変換することが企図される。したがって、本発明者らは、VH3及びVk1フレームワークを使用する事前選択戦略を開発した。
図1は、VH3/Vk1の対を使用する1つの例示的ランダム化戦略を示す。1個の抗原に特異的な少なくとも14個の免疫グロブリン分子のタンパク質配列が比較され、分析される。14個の免疫グロブリン分子の中で最も安定で保存された配列がフレームワークとして使用され、可変配列の位置を分析して、ランダム化された配列及びランダム化の程度(例えば、完全にランダム、部分的にランダムなど)として使用する。
【0062】
このランダム化戦略に基づいて、本発明者らはさらに、V
HドメインのCDR1、CDR2-n、CDR2-c(
図2を参照のこと)及びV
HドメインのCDR3(
図3を参照のこと)について、標的化された多様化配列(ランダム化された配列、ランダムオリゴ)を作製した。V
HドメインのCDR1、CDR2-n、CDR2-c、CDR3、及びV
LドメインのCDR3のランダムオリゴを用いて組換えscFv核酸を作製する工程は上に記載され、
図4の模式図においても示される。高多様性ライブラリーは、
図5において例示的に示されるとおりに構築され、上でより詳細に論じられた。
【0063】
図1~5において記載されるとおりの組換えscFv核酸を作製する標的化された多様化スキーム及び方法を使用して、本発明者らは、高多様性ライブラリーを作製し、それから組換えα-B7-H4
801(α-B7-H4、クローンナンバー801)バインダーを単離した。組換えα-B7-H4
801の安定性は、抗体の分解又は変形を評価するための15分間の分析的サイズ排除クロマトグラフィーにより決定された。
図6において示されるとおり、α-B7-H4
801の溶出物は、著しく小さいピークを伴わない単一のピークを示し、これは上記の方法によって作製されたα-B7-H4
801バインダーが、高い安定性を有するscFv又は抗体を生成できたことを示している。
【0064】
本発明者らは、組換えα-B7-H4
801が、他の市販のα-B7-H4抗体(リツキサン(登録商標)、LEAF(登録商標))と実質的に同様な抗体成分を含むことを見出した。組換えα-B7-H4
801と2つの市販のα-B7-H4抗体(リツキサン(登録商標)、LEAF(登録商標))の断片が、キャピラリー電気泳動ドデシル硫酸ナトリウム(CE-SDS)を介して分析された。
図7において示されるとおり、組換えα-B7-H4
801抗体と2つの市販のα-B7-H4抗体(リツキサン(登録商標)、LEAF(登録商標))断片のCE-SDS分離は、2つの著明なピークを示し、各々が軽鎖(中央のピーク)及びグリコシル化された重鎖(右のピーク)に相当する。左のピークは、CE-SDS分析のための10Kdの標準的なマーカーの位置を示す。
【0065】
本発明者らはさらに、様々な組換えα-B7-H4抗体が、標的リガンドに対する異なる結合特性(例えば、親和性、特異性など)を示し得ることを見出した。
図8は、平均蛍光強度(MFI)によって測定される、B7-H4発現293T細胞との結合について試験される2つの組換えα-B7-H4抗体であるα-B7-H4
801及びα-B7-H4
817を示す。結果は、α-B7-H4
801抗体が、α-B7-H4
817抗体と比較してB7-H4発現293T細胞に対してより高い結合親和性を有することを示し、これは、別々にランダム化されたCDRドメインが、リガンドに対して異なる結合親和性をもたらし得ることを示している。一番右端のパネルは、非特異的ヒトIgG1(hIgG1)による対照実験を示す。
【0066】
組換えα-B7-H4抗体はさらに、フローサイトメトリーを使用して、抗原提示細胞(APC)上で発現されるリガンド(B7-H4)に対する特異的且つ効率的な結合を決定するために試験された。
図9において示されるとおり、組換えα-B7-H4抗体は、B7-H4リガンドに特異的に結合でき(非特異的アイソタイプ結合からピークアウトを分離している)、これは、組換えα-B7-H4抗体が十分に機能的であることを示している。
【0067】
本発明者らはまた、B7-H4(scFv B7-H4
801)対するscFvペプチドとscFv B7-H4
801とともに同じscFvペプチドによって作製された組換えα-B7-H4抗体(IgG α-B7-H4
801)が、表面プラズモン共鳴アッセイを使用して機能的に互換性があることを見出した。このアッセイにおいて、Flagタグ付きscFv B7-H4
801は、表面結合ニュートラアビジンと結合されるα-Flagビオチン化抗体を介して表面に固定化される。次に、表面に固定化されたscFv B7-H4
801ペプチドは、B7-H4を含む分析物と接触される。同様のアッセイがα-B7-H4抗体により実施された。
図10及び表3において示されるとおり、scFv B7-H4
801及びIgG α-B7-H4
801は、B7-H4に対して実質的に同様の親和性及び結合特性を示し、それらが、機能的に互換性があることを示している。さらに、インビトロ翻訳ペプチド(scFv)の結合親和性は、ペプチドを抗体骨格に移植することなく直接的に測定され得るため、発現ライブラリー中のより多くの組換えscFv核酸が効率的にスクリーニングされ得る。
【0068】
【0069】
VHのCDR1~3及びVLのCDR3において様々なランダム配列カセットを有するB7-H4に対する複数のscFvペプチドの間で、本発明者らは、特定のドメイン(特定のランダム配列カセット)における類似性が、scFvペプチドにリガンドに対する同様の結合特性を有するようにし得るかどうかを試験した。5つのscFvペプチド(801、802、905、906、及び817)は、B7-H4に対するそれらの結合親和性について試験された。表4において示されるとおり、それらの中で4つのscFvペプチド(クローン801、802、905、906)は、同様のCDR3配列を有する。VHのCDR3において同様のランダム配列カセットを有するそれらの4つのscFvペプチドは、25℃と37℃の両方においてB7-H4に対する同様の結合親和性を示し(表5において示されるとおり)、これは、少なくともB7-H4に対するscFvペプチド中において、VHのCDR3における配列が、リガンドに対する結合に重要であり得ることを示している。
【0070】
【0071】
【0072】
本発明者らはまた、サブライブラリー及び発現ライブラリーを用いてインターロイキン-8(IL-8)(scFv IL-8)に結合する複数のscFvペプチドを作製し、様々な条件(温度及びpH)においてIL-8に対する親和性を試験した。例示的なscFv IL-8ペプチド及び様々な条件において測定されたそれらの結合親和性は、表6において示される。表6において示されるクローンの中で、クローン49-7、49-1及び49-12が同様のVH CDR3配列を含有し、クローン49-19、49-37、及び49-25が同様のVH CDR3配列を含有する。加えて、クローン49-3及び43-2は、同様のVH CDR3配列を含有する。B7-H4に対するscFvペプチドとは対照的に、本発明者らは、scFv IL-8ペプチドの結合親和性が、VHのCDR3におけるランダム配列における類似性に決定的に依存的ではない場合があることを見出した。例えば、クローン49-18、49-37、及び49-25が、同様のVH CDR3配列を含有する一方で、それらの配列の結合親和性(KDX10-9Mにおいて測定される単位)は、0.894X10-9Mと25X10-9Mの間で変動する。
【0073】
【0074】
本発明者らはさらに、好中球サイズを測定することにより、scFv IL-8が、IL-8を効率的に捕捉することによってIL-8の作用を中和できるかどうかを試験した。一般に、好中球は、IL-8によって刺激されると拡大される(例えば、より大きな直径を有するなど)(
図11に示されるとおり)。本発明者らは、好中球拡大に対するそのようなIL-8作用を、組換えα-IL-8抗体(mAb αIL-8
201、
図12において示されるとおり、上段左のグラフ)又はいくつかのscFv IL-8ペプチド(αIL-8
#2、αIL-8
49-3、αIL-8
49-10、
図12において示されるとおり、下段のグラフ)の添加によって大幅に消失できたことを見出したが、これは、scFv IL-8ペプチドが、培地中の遊離IL-8に結合することによってIL-8の作用を効率的に中和できたことを示している。
【0075】
IL-8は、好中球をIL-8放出の部位(例えば、感染の部位)に向かって遊走させる好中球走化性因子である。scFv IL-8ペプチドの機能的作用を評価するために、好中球を、多孔性膜を有する挿入物の底に置き、IL-8によって誘引された好中球が多孔性膜を介して挿入物から培地に向かって遊出できるように、様々な濃度のIL-8を含む媒体中に置いた。
図13において示されるとおり、培地中のIL-8濃度を増大させることによって、遊走した好中球の数が増加した。興味深いことに、そのようなIL-8作用は、scFv IL-8ペプチド(αIL-8
43-2)又はscFv IL-8ペプチドに由来する組換えIL-8抗体(mAb αIL-8
201)の添加により、ほぼ完全に消失した。
【0076】
図14は、本明細書に提示されるmRNAディスプレイライブラリーを使用して単離された様々なscFvに関するさらなる実験データを示す。より具体的には、各データポイントは下部に示される標的に対するscFvを表し、各scFvに対する親和性値を決定した。見てのとおり、(同じ)ライブラリーにより、様々な異なる標的に対して複数の高親和性のバインダーが得られ、全てのバインダーはマイクロM以下で、及び多くはナノM以下の親和性範囲を有した。さらに、本発明者らはまた、ヒトIgG上にCDRを移植した際に、scFvの親和性が維持され得るかどうかについても検討している。
図15は、ヒトIgG1足場に移植された選択されたscFvについての29個のCDR移植実験の例示的な結果を示す。
図15の結果から分かるとおり、ヒト化IgG1抗体は高い特異性と親和性を保持した(通常、1桁以内)。
【0077】
発現ライブラリーを使用する組換え実体の作製
VHドメイン組換え核酸及びVLサブライブラリーの組換え核酸の組換えにより形成された、組換えscFv核酸、又は1種若しくは複数種の抗体(例えば、IgG、IGM、IgE、IgA等)をコードする組換え核酸、又はその断片を、組換えscFv断片が、組換え実体(例えば、細菌、酵母、ウイルス)又はこの組換え実体に感染した細胞により産生され得るように、この組換え実体の発現ベクターにさらに挿入し得ることがさらに企図される。組換えscFv断片をコードする組換え核酸を担持し得る及び/又は組換え核酸を発現し得る任意の適切な組換え実体が企図される。例えば、組換え実体として、任意の適切なウイルスが挙げられ得、例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、アルファウイルス、ヘルペスウイルス、レンチウイルス等が挙げられ得る。しかしながら、アデノウイルスが特に好ましい。さらに、このウイルスが複製欠損及び非免疫原性ウイルスであることがさらに好ましく、このウイルスは、典型的には、選択されたウイルスタンパク質(例えば、E1、E3タンパク質)の標的を定めた欠失により実現される。そのような所望の特性を、E2b遺伝子機能を欠失させることによりさらに増強し得、最近報告されているように、組換えウイルスの高力価を、遺伝的に改変されたヒト293細胞を使用して実現し得る(例えば、J Virol.1998 Feb;72(2):926-933)。そのため、本発明者らは、1つの望ましいウイルスベクターが、E2b遺伝子が欠失されているか又は機能していない組換えアデノウイルスゲノムを含み得ることを企図する。
【0078】
或いは、組換え実体は細菌であり得、発現ベクターは、ヒト細胞中で内毒素反応を起こさない程度に低いレベルで内毒素を発現する遺伝子操作細菌中で発現され得る及び/又は人体に導入された場合にCD14媒介性敗血症を誘発するのに不十分であり得る細菌ベクターであり得る。改変されたリポ多糖を有する細菌株の一例として、ClearColi(登録商標)BL21(DE3)エレクトロコンピテントセルが挙げられる。この細菌株は、遺伝子型F-ompT hsdSB(rB-mB-)gal dcm lon λ(DE3[lacI lacUV5-T7遺伝子1 ind1 sam7 nin5])msbA148 ΔgutQΔkdsD ΔlpxLΔlpxMΔpagPΔlpxPΔeptAを有するBL21である。これに関連して、いくつかの特異的欠失変異(ΔgutQ ΔkdsD ΔlpxL ΔlpxMΔpagPΔlpxPΔeptA)はLPSの脂質IVAへの改変をコードするが、1つの追加的な補償変異(msbA148)によりLPS前駆体脂質IVAの存在下で細胞が生存を維持することが可能になることを理解すべきである。これらの変異により、LPSからオリゴ糖鎖が欠失される。より具体的には、6本のアシル鎖の内の2本が欠失される。LPSの6本のアシル鎖は、ミエロイド分化因子2(MD-2)との複合体であるToll様受容体4(TLR4)により認識されるトリガーであり、NF-κBの活性化及び炎症性サイトカインの産生を引き起こす。わずか4本のアシル鎖を含む脂質VIAは、TLR4により認識されず、そのため内毒素反応を引き起こさない。エレクトロコンピテントBL21細菌が一例として記載されているが、本発明者らは、遺伝的に改変された細菌はまた、化学的にコンピテントな細菌でもあり得ることを企図する。或いは又は加えて、組換え実体は酵母であり、発現ベクターはまた、酵母(好ましくはサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)(例えば、GI-400シリーズ組換え免疫療法酵母株等))中で発現され得る酵母ベクターでもあり得る。
【0079】
本発明者らは、複数の組換えscFv核酸及び/又は1種若しくは複数種の抗体(例えば、IgG、IgM、IgE、IgA等)をコードする組換え核酸を使用して組換え実体(例えば組換えウイルス)のセットを作製して、治療上有効な組換え実体の多様性を増加させ得る。好ましくは、複数の組換えscFv、及び/又は1種若しくは複数種の抗体(例えば、IgG、IgM、IgE、IgA等)をコードする核酸組換え核酸を、結合親和性又は他の結合特性が最も高いscFv断片又は抗体の上位30%、上位20%、上位10%、又は5%までをscFv断片又は抗体のプールから選択し得るように、抗原に対するscFv断片又は抗体の親和性及び/又は結合特性(例えば結合キネティクス等)に基づいて選択し得る。いくつかの実施形態では、そのような選択プロセスは、複数ラウンドの選択を介したハイパス断片(high-pass fragment)の選択及びその富化を含み得る。例えば、いくつかの実施形態では、結合親和性が最も高いscFV断片又は抗体の上位30%を、第1ラウンドの選択で選択し得、結合親和性が最も高い(第1ラウンドからの)上位30%のscFv断片又は抗体の上位50%を、第2ラウンドの選択で選択し得、以下同様である。選択の任意の適切な数のラウンド及び通過率(例えば、上位30%、上位20%等)を使用し得るが、最終セットのscFv断片又は抗体は、scFv断片又は抗体のプール全体において結合親和性が最も高いscFv断片の上位30%、上位20%、上位10%、又は5%までを構成し得ることが好ましい。
【0080】
そのようにして得られた組換えscFv核酸、及び/又は1種若しくは複数種の抗体(例えば、IgG、IgM、IgE、IgA等)をコードする組換え核酸のセットをさらに使用して、同一抗原に結合する複数の様々なscFv断片及び/又は抗体をさらに作製し得る組換え実体(例えば組換えウイルス)の異種プールを作製し得る。任意の特定の理論に拘束されることを望まないが、本発明者らは、そのようなアプローチが、高親和性の候補scFv断片のプールを増加させることにより、抗原に最も効果的に結合し得るscFv断片及び/又は抗体を同定する機会を増加させ得ると予期する。見方を変えると、結合親和性が最も高い組換えscFv断片又は抗体は、インビボでの多くの変数(例えば、患者間での抗原におけるわずかな個々の構造的差違、異なる結合条件(例えば、pH、他の環境障害等)等)に起因して、又は結合親和性が最も高い組換えscFv断片若しくは抗体が治療用抗体として望ましくないキネティック特性を有する可能性があるために、最も治療上有効なscFv断片又は抗体ではない可能性がある。そのため、様々なscFv断片又は抗体をコードする核酸のセットを使用して組換え実体の異種プールを作製することにより、(たとえ抗原への結合親和性が最も高いものでなくても)治療に有効なscFv断片を同定する機会がある。加えて、同一抗原に結合する(組換え実体の異種プールから作製された)抗体の異種プールは、特定のインビボ条件下で同時に有効性を失う可能性がある抗体の同種プールと比較して、インビボで抗原を標的とするための有効性を増加させ得る。見方を変えると、本発明者らは、組換え実体(特に、同一抗原を標的とする様々なscFv断片又は抗体をコードする組換え核酸を担持する組換えウイルス)の異種プールが、腫瘍を有する患者の治療において、より治療上の有益であり及び/又は有効であり得ると予期する。
【0081】
いくつかの実施形態では、発現ベクターは、産生された組換えscFv又は抗体が細胞から分泌され得るように、細胞外分泌用のシグナル伝達ペプチドをコードする核酸セグメントを含み得る。任意の適切なシグナル伝達ペプチドが企図されるが、例示的なシグナル伝達ペプチドは、正電荷を帯びたN末端領域(n-領域)、疎水性の中心領域(h-領域)、及び中性の極性C末端領域(c-領域)を有する5~30個のアミン酸を含み得、このアミノ酸は、細胞内輸送中に切断され得る。シグナル伝達ペプチドをコードする核酸セグメントは、好ましくは、(任意選択により、より短いリンカー(例えば、グリシンリッチリンカーをコードする核酸)を介して)scFvをコードする組換え核酸のN末端に位置し得る。
【0082】
或いは及び/又は加えて、発現ベクターは、腫瘍に対する免疫反応を誘発し得るか若しくは増加させ得る及び/又は作製されたscFv断片の活性を増加させ得る1種又は複数種の要素をさらに含み得る。そのため、いくつかの実施形態では、発現ベクターは、ネオ抗原、腫瘍関連抗原、又は腫瘍特異的患者特異的ネオエピトープ、共刺激性分子、免疫刺激性サイトカイン、組換え免疫グロブリンタンパク質複合体、及び/又はチェックポイント阻害剤をコードする別の核酸セグメントを含み得る。このサイトカインに関して、免疫反応を調節し得る(例えば、T細胞活性を増加させるか又は減少させる等)任意の適切なサイトカインが企図される。そのため、企図される共刺激性分子として、B7.1(CD80)、B7.2(CD86)、CD30L、CD40、CD40L、CD48、CD70、CD112、CD155、ICOS-L、4-1BB、GITR-L、LIGHT、TIM3、TIM4、ICAM-1、LFA3(CD58)、及びSLAMファミリのメンバーが挙げられ得る。加えて、このサイトカインは、IL-15スーパーアゴニスト(IL-15N72D)、並びに/又はIL-7、IL-15、IL-18、IL-21、及びIL-22の少なくとも1つに結合したか若しくは好ましくはIL-7及びIL-21の両方に結合したIL-15スーパーアゴニスト/IL-15RαSushi-Fc融合複合体(例えばALT-803)であり得る。企図される共刺激性分子として、B7.1(CD80)、B7.2(CD86)、CD30L、CD40、CD40L、CD48、CD70、CD112、CD155、ICOS-L、4-1BB、GITR-L、LIGHT、TIM3、TIM4、ICAM-1、LFA3(CD58)、及びSLAMファミリのメンバーが挙げられ得る。例示的なチェックポイント阻害剤として、CTLA-4(特にCD8+細胞の場合)、PD-1(特にCD4+細胞の場合)、TIM1受容体、2B4、及びCD160に対する抗体又は結合分子が挙げられ、例えば、イピリムマブ、ニボルマブが挙げられる。
【0083】
いくつかの実施形態では、組換え実体を使用して、インビトロでscFv断片及び/又は抗体を作製し得る。例えば、組換え細菌又は組換え酵母を誘導して及び/又は培養して、scFvタンパク質を発現させ得、そのように発現されたscFv断片タンパク質を、さらなる使用のために、任意の適切な方法(例えば、親和性結合精製等)によりさらに精製し得る、及び/又は単離し得る。他の実施形態では、組換え実体を使用して、インビボ及び/又はエキソビボで哺乳類細胞を感染させ得る。例えば、scFv断片をコードする組換え核酸を有する組換えウイルスは、この組換えウイルスと哺乳類細胞とを共インキュベートして、この哺乳類細胞中でscFv断片を産生させることにより、インビトロで(又はエキソビボで)哺乳類細胞に感染し得る。そのような例では、哺乳類細胞は、組換えscFv断片を分泌する外来性核酸からのタンパク質を産生し得る任意の適切な哺乳類細胞であり得、この哺乳類細胞として、任意の確立された細胞系統(ヒト若しくは非ヒト、例えば、HEK-293細胞、CHO細胞等)、又は腫瘍を有する患者から得られた自家細胞(例えば、エキソビボで単離された及び/若しくは拡大された自家B細胞等)が挙げられ得る。
【0084】
或いは、scFc断片及び/又は抗体をコードする組換え核酸を有する組換えウイルスを、このscFc断片及び/又は抗体をインビボで産生させて分泌させ得るように、(腫瘍を有する)ヒト又は哺乳類に投与し得る。そのような実施形態では、組換えウイルスを、任意の薬学的に許容される担体で製剤化し得、好ましくは、ウイルス力価が投与単位当たり104~1012個のウイルス粒子である無菌注射用組成物として製剤化し得る。しかしながら、本明細書では代替の製剤も使用に適していると思われ、本明細書では全ての既知の投与経路及び投与様式も企図される。本明細書で使用する場合、組換えウイルス製剤を「投与する」という用語は、組換えウイルス製剤の直接的投与及び間接的投与の両方を指し、組換えウイルス製剤の直接的投与は、典型的には、医療従事者(例えば、医師、看護師等)により実施され、間接的投与は、(例えば、注射、注入、経口送達、局所送達等による)直接的投与のために医療従事者に組換えウイルス製剤を提供するか又は利用可能にする工程を含む。
【0085】
いくつかの実施形態では、組換えウイルス製剤を、皮下(subcutaneous)、皮下(subdermal)注射、又は静脈内注射等の全身注射により投与する。他の実施形態では、全身注射が効率的でない可能性がある場合(例えば脳腫瘍の場合等)には、組換えウイルス製剤を腫瘍内注射により投与することが企図される。
【0086】
組換えウイルス製剤投与の用量及びスケジュールに関して、この用量及び/又はスケジュールは、腫瘍の種類、大きさ、位置、患者の健康状態(例えば、年齢、性別等を含む)、及び任意の他の関連する条件に応じて変動し得ることが企図される。変動し得るが、この用量及びスケジュールを、組換えウイルスが宿主の正常細胞に有意な毒性効果を全くもたらさないように選択して調節し得、それでも、腫瘍をそのように治療するために組換えscFv断片の産生を誘導するのに効果的であるのに十分である。例えば、組換えウイルス製剤の企図される用量は、少なくとも106個のウイルス粒子/日、又は少なくとも108個のウイルス粒子/日、又は少なくとも1010個のウイルス粒子/日、又は少なくとも1011個のウイルス粒子/日である。いくつかの実施形態では、組換えウイルス製剤の単回用量を、少なくとも1日、少なくとも3日、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも1ヶ月、又は任意の他の所望のスケジュールにわたり、少なくとも1日に1回又は1日に2回(1回の投与当たり半分の用量)で投与し得る。他の実施形態では、組換えウイルス製剤の用量を、スケジュール中に徐々に増加させ得るか、又はスケジュール中に徐々に減少させ得る。さらに他の実施形態では、組換えウイルス製剤のいくつかの一連の投与を、間隔を置いて分離し得る(例えば、3日連続にわたりそれぞれ1回の投与、及び7日の間隔を置いてさらに3日連続にわたりそれぞれ1回の投与等)。
【0087】
本明細書の発明的概念から逸脱することなく、既に記載されたもの以外にも多くの変形形態が可能であることは、当業者には明らかなはずである。したがって、本発明の主題は、添付の特許請求の範囲以外に制限されるものではない。さらに、本明細書及び特許請求の範囲の両方を解釈する際には、全ての用語は、文脈に沿った可能な限り広範な方法で解釈されるべきである。特に、用語「含む」及び「含むこと」は、非排他的な様式で要素、構成要素、又は工程を参照していると解釈されるべきであり、参照される要素、構成要素、又は工程が存在し得るか、利用され得るか、又は明示的に参照されない他の要素、構成要素、又は工程と組み合わされ得ることを示している。本明細書及び後続の特許請求の範囲全体で使用されるとおり、「a」、「an」、及び「the」の意味は、文脈が明らかにそうでないことを指示しない限り、複数の参照を含む。また、本明細書において使用されるとおり、「in」の意味は、文脈が明らかにそうでないことを指示しない限り、「in」及び「on」を含む。本明細書の請求項が、A、B、C、....及びNからなる群から選択されるもののうちの少なくとも1つを指す場合、本文は、A+N、又はB+Nなどではなく、群から1つの要素のみを必要とするものと解釈されるべきである。
前記遺伝的に改変された低免疫原性ウイルスが、下記の遺伝子:E1A、E1B、E2B、E3の少なくとも1つにおいて変異を有するヒトアデノウイルス血清型5である、請求項1に記載の方法。
以下:リガンドに対する親和性、pH感受性、及び種間交差反応性のうちの少なくとも1つに基づいて前記発現ライブラリーメンバーのサブセットを選択する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。