(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016738
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】金属体の加工方法
(51)【国際特許分類】
C22F 1/053 20060101AFI20240131BHJP
C22F 1/057 20060101ALI20240131BHJP
C22F 1/05 20060101ALI20240131BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240131BHJP
C22C 21/10 20060101ALN20240131BHJP
C22C 21/12 20060101ALN20240131BHJP
C22C 21/06 20060101ALN20240131BHJP
C22C 21/02 20060101ALN20240131BHJP
【FI】
C22F1/053
C22F1/057
C22F1/05
C22F1/00 602
C22F1/00 624
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/00 691A
C22F1/00 694Z
C22C21/10
C22C21/12
C22C21/06
C22C21/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119060
(22)【出願日】2022-07-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2022年5月28日、29日に開催された一般社団法人軽金属学会(第142回春期大会)において、「RMACREO処理で導入する強ねじりひずみ量がA7075アルミニウム合金の機械的特性と金属組織に及ぼす影響」のポスター発表を行った。
(71)【出願人】
【識別番号】506253067
【氏名又は名称】有限会社リナシメタリ
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【弁理士】
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(72)【発明者】
【氏名】中村 克昭
(72)【発明者】
【氏名】中村 万里
(72)【発明者】
【氏名】安藤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】池田 賢一
(57)【要約】
【課題】高強度を実現することが可能なアルミニウム合金の加工方法を提供する。
【解決手段】A7075から成る棒状の金属体を、370℃で強ひずみを付与した後に急冷する低温固溶化工程と、低温固溶化工程の後に475℃で強ひずみを付与した後に急冷する高温固溶化工程と、高温固溶化工程の後に120℃で12~18時間保持して空冷する時効処理工程と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理型アルミニウム合金から成る金属体に、固溶化処理温度域に達しない温度域である低温固溶化処理温度域でひずみを付与し、前記金属体に含まれる晶出物及び析出物の少なくとも一部を分断した後に、冷却する低温固溶化工程と、
前記低温固溶化工程の後に、前記金属体を固溶化処理温度域まで加熱し、固溶した元素が析出しない速度で冷却する高温固溶化工程と、
前記高温固溶化工程の後に、時効処理を行う時効処理工程と、を備える
金属体の加工方法。
【請求項2】
前記低温固溶化工程は、前記低温固溶化処理温度域でひずみを付与することで、前記晶出物及び前記析出物の少なくとも一部が固溶した後に、固溶した元素が析出しない速度で冷却する
請求項1に記載の金属体の加工方法。
【請求項3】
前記高温固溶化工程は、前記低温固溶化工程で固溶した元素が析出しない速度で加熱する
請求項2に記載の金属体の加工方法。
【請求項4】
前記高温固溶化工程は、前記固溶化処理温度域でひずみを付与する
請求項1、請求項2または請求項3に記載の金属体の加工方法。
【請求項5】
前記低温固溶化工程は、固溶した元素が析出する前に冷却を開始する
請求項2または請求項3に記載の金属体の加工方法。
【請求項6】
前記高温固溶化工程は、固溶した元素が析出する前に冷却を開始する
請求項1、請求項2または請求項3に記載の金属体の加工方法。
【請求項7】
前記高温固溶化工程は、固溶化処理温度域に加熱された前記金属体の塑性加工を行うことで、前記金属体を所定形状とする
請求項1、請求項2または請求項3に記載の金属体の加工方法。
【請求項8】
前記塑性加工は鍛造加工であり、
固溶化処理温度域に加熱された金型を使用して、金属体の温度を固溶化処理温度域に保持しつつ所定形状まで塑性加工ひずみを付与すると共に、その後に冷却し、更に冷却後に時効処理を施す
請求項7に記載の金属体の加工方法。
【請求項9】
前記塑性加工は鍛造加工であり、
金型を使用して前記金属体を所定形状とするときに、固溶化熱処理温度域に加熱された金属体を同金型との接触を通じて前記金属体を冷却し、更に冷却後に時効処理を施す
請求項7に記載の金属体の加工方法。
【請求項10】
前記金属体は棒状体であり、
前記低温固溶化工程は、前記金属体の長手方向と略平行な軸を回転軸として捻回する捻回動作により前記金属体を剪断変形させて前記ひずみを付与する
請求項1、請求項2または請求項3に記載の金属体の加工方法。
【請求項11】
前記金属体は棒状体であり、
前記高温固溶化工程は、前記金属体の長手方向と略平行な軸を回転軸として捻回する捻回動作により前記金属体を剪断変形させて前記ひずみを付与する
請求項4に記載の金属体の加工方法。
【請求項12】
前記金属体は、7000系であり、
前記低温固溶化処理温度域は、315℃~420℃である
請求項1、請求項2または請求項3に記載の金属体の加工方法。
【請求項13】
前記低温固溶化処理温度域は、350℃~400℃である
請求項12に記載の金属体の加工方法。
【請求項14】
前記金属体は、2000系であり、
前記低温固溶化処理温度域は、320℃~420℃である
請求項1、請求項2または請求項3に記載の金属体の加工方法。
【請求項15】
前記低温固溶化処理温度域は、350℃~400℃である
請求項14に記載の金属体の加工方法。
【請求項16】
前記金属体は、6000系であり、
前記低温固溶化処理温度域は、280℃~380℃である
請求項1、請求項2または請求項3に記載の金属体の加工方法。
【請求項17】
前記低温固溶化処理温度域は、290℃~310℃である
請求項16に記載の金属体の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属体の加工方法に関する。詳しくは、高強度化を実現することが可能なアルミニウム合金の加工方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
7000系のアルミニウム合金(例えば、A7075合金など)は、高強度、かつ、軽量であるという特性から、航空機の構造部材に利用されている。
そして、CO2排出量の削減が求められる昨今においては、航空機の構造部材の小型化・軽量化のために、アルミニウム合金の更なる高強度化が求められている。
【0003】
なお、高強度化が求められているのは、7000系に限ることではなく、6000系や2000系のアルミニウム合金においても同様である。
【0004】
ところで、金属材料の結晶粒微細化処理により、強度等の特性が大幅に向上するために、多くの巨大ひずみを利用した結晶粒微細化プロセスが開発され、提案されている。
本発明の発明者も、アルミニウム合金の金属組織を微細化することで、アルミニウム合金の強度向上を実現する方法を提案している(特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1に記載の技術は、「金属体(アルミニウム合金)に変形抵抗を局部的に低下させた低変形抵抗領域を形成し、この低変形抵抗領域を剪断変形させて金属体の金属組織を微細化する」というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した特許文献1に記載の加工方法により、ある程度の高強度化を実現することができるものの、より一層の高強度化が求められている。
【0008】
なお、熱処理型材料(例えば、熱処理型アルミニウム合金など)においては、金属加工の最終工程で行う熱処理時の加熱により結晶粒の粗大化が生じるため、結晶粒微細化で得られる高強度化には限界がある。
【0009】
本発明は以上の点に鑑みて創案されたものであって、高強度化を実現することが可能な金属体の加工方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明の金属体の加工方法は、熱処理型アルミニウム合金から成る金属体に、固溶化処理温度域に達しない温度域である低温固溶化処理温度域でひずみを付与し、前記金属体に含まれる晶出物及び析出物の少なくとも一部を分断した後に、冷却する低温固溶化工程と、前記低温固溶化工程の後に、前記金属体を固溶化処理温度域まで加熱し、固溶した元素が析出しない速度で冷却する高温固溶化工程と、前記高温固溶化工程の後に、時効処理を行う時効処理工程と、を備える。
【0011】
ここで、低温固溶化処理温度域(即ち、マトリクスの変形抵抗が小さすぎない温度域)でひずみを付与する(即ち、晶出物や析出物に力学的負荷を作用させる)ことによって、凝集している晶出物や析出物を分断(分解)することができ、添加元素が分散されてマトリクス中に溶け込みやすく(固溶しやすく)なり、元素の過飽和固溶による高強度化が実現する。
なお、ここでの晶出物や析出物としては、MgZn2、Mg2Si、Al6Fe、Al3Fe、Al17Cu2Fe等が挙げられる。
【0012】
また、分断した晶出物や析出物の一部または全部が、低温固溶化工程で固溶せずに残存したとしても、次工程の高温固溶化工程で固溶することになる。即ち、低温固溶化工程においては、凝集している晶出物や析出物の分断(分解)ができれば良く、分断(分解)した晶出物や析出物が残存したとしても、高温固溶化工程で固溶でき、元素の過飽和固溶が実現するのである。
【0013】
更に、ここでの「低温固溶化処理温度域」とは、金属体にひずみを付与することで、マトリクスにクラック(破断)を発生させることなく、晶出物や析出物を分断することができる温度域である。
【0014】
また、低温固溶化処理温度域におけるひずみの付与を、剪断変形させることにより行う場合には、ひずみを高効率で付与することができ、より一層充分に晶出物や析出物を分断することができる。
【0015】
具体的には、低温固溶化工程において、棒状体である金属体の長手方向と略平行な軸を回転軸として捻回する捻回動作により金属体を剪断変形させてひずみを付与する場合には、ひずみを高効率で付与することができる。
【0016】
なお、晶出物や析出物を分断しない場合であっても(換言すると、低温固溶化工程を省略して、次工程の高温固溶化工程のみであっても)、金属体を固溶化処理温度域まで加熱することで、晶出物や析出物を、ある程度までは固溶することができる。
しかし、晶出物や析出物を分断しない場合には、添加元素が凝集した状態で分散が図れておらず、マトリクス中に固溶し難いため(固溶が不充分なため)、充分な強度を得ることができない。
そのため、高温固溶化工程の前段階で、晶出物や析出物を分断し、添加元素を分散しておくことで、次工程の高温固溶化工程において、元素の過飽和固溶による高強度化が実現することになる。
【0017】
ここで、低温固溶化処理温度域よりも低温の場合(即ち、温度が低すぎる場合)には、晶出物や析出物の分断はできるものの、マトリクスの延性が不足しているため、晶出物や析出物の近傍に応力が集中し、マトリクスにクラック(破断)が生じてしまう。
一方、低温固溶化処理温度域よりも高温の場合(即ち、温度が高すぎる場合)には、マトリクスの変形抵抗が小さすぎるため、晶出物や析出物の分断ができない。
【0018】
なお、「低温固溶化処理温度域」は、対象となるアルミニウム合金の材質に依存するが、7000系の場合は315℃~420℃であり、6000系の場合は320℃~420℃であり、2000系の場合は280℃~380℃である。
【0019】
また、高温固溶化工程において、固溶化処理温度域まで加熱することによって、元素をマトリクス中に溶け込ませることができ、元素の過飽和固溶による高強度化が実現する。
【0020】
なお、ここでの「固溶化処理温度域」とは、元素をマトリクス中に溶け込ませる(固溶させる)ことができる温度域を意味しており、対象となるアルミニウム合金の材質に依存するが、7000系の場合は450℃~515℃であり、6000系の場合は500℃~590℃であり、2000系の場合は490℃~530℃である。
【0021】
また、高温固溶化工程において、固溶した元素が析出しない速度で冷却することによって、高強度化が実現する。即ち、冷却速度が遅い場合には、マトリクス中に固溶した元素が中途半端に析出し、粗大化等の問題を生じて強度低下を招いてしまうため、固溶した元素が析出しない速度(換言すると、固溶した元素が拡散できない速度)での冷却が必要である。
【0022】
同様に、マトリクス中に固溶した元素が中途半端に析出し、粗大化等の問題を生じて強度低下を招かないように、高温固溶化工程における冷却については、固溶した元素が析出する前に開始する必要がある。
【0023】
ところで、低温固溶化処理温度域でひずみを付与することによって、アルミニウム合金の原子間距離を広げることができ、固溶限界が上昇するために、適切な温度域(固溶に寄与する原子拡散に必要なエネルギーを得ることができる温度域)である場合には、分断した晶出物や析出物の一部は、低温固溶化工程においても固溶する。
【0024】
即ち、低温固溶化処理温度域においては、その温度が低い(固溶化処理温度域よりも低温である)ため、加熱のみでは分断した晶出物や析出物が固溶することは無いが、大きなひずみ(例えば、400%以上のひずみ)を付与することで、アルミニウム合金の原子間距離が広がり、原子拡散に必要なエネルギーを有する温度域の場合には、分断した晶出物や析出物の固溶が実現するのである。
【0025】
具体的には、7000系の場合は350℃~400℃、6000系の場合は350℃~400℃、2000系の場合は290℃~310℃の温度域においては、晶出物や析出物を分断することができ、分断した晶出物や析出物の固溶が実現する。
【0026】
また、低温固溶化工程で晶出物や析出物を固溶した場合には、低温固溶化工程においても、固溶した元素が析出しない速度で冷却する必要がある。即ち、高温固溶化工程の冷却と同様に、冷却速度が遅い場合には、マトリクス中に固溶した元素が中途半端に析出し、粗大化等の問題を生じて強度低下を招いてしまうため、固溶した元素が析出しない速度(換言すると、固溶した元素が拡散できない速度)での冷却が必要である。
【0027】
同様に、低温固溶化工程で晶出物や析出物を固溶した場合には、マトリクス中に固溶した元素が中途半端に析出し、粗大化等の問題を生じて強度低下を招かないように、低温固溶化工程における冷却については、固溶した元素が析出する前に開始する必要がある。
【0028】
また同様に、低温固溶化工程で晶出物や析出物を固溶した場合には、マトリクス中に固溶した元素が中途半端に析出し、粗大化等の問題を生じて強度低下を招かないように、高温固溶化工程における加熱(固溶化処理温度域までの加熱)は、低温固溶化工程で固溶した元素が析出しない速度(換言すると、固溶した元素が拡散できない速度)で行う必要がある。
【0029】
また、固溶化処理温度域でひずみを付与した場合には、低温固溶化処理温度域でひずみを付与する場合と同様に、アルミニウム合金の原子間距離を広げることができ、固溶限界が上昇するために、より一層の過飽和固溶が可能となり、更なる高強度化が実現することになる。
一例としては、100%以上のひずみを付与することが挙げられる。
【0030】
なお、固溶化処理温度域におけるひずみの付与を、剪断変形させることにより行う場合には、ひずみを高効率で付与することができ、より一層充分な過飽和固溶を実現することができる。
【0031】
具体的には、高温固溶化工程において、棒状体である金属体の長手方向と略平行な軸を回転軸として捻回する捻回動作により金属体を剪断変形させてひずみを付与する場合には、ひずみを高効率で付与することができる。
【0032】
また、高温固溶化工程が、金属体を固溶化処理温度域に加熱することで、金属体の変形抵抗を局部的に低下させた低変形抵抗領域を形成し、この低変形抵抗領域を剪断変形させて、金属体に所定の元素を固溶させる場合には、局部的に形成した低変形抵抗領域への元素の過飽和固溶を、極めて容易に実現することができる。
【0033】
更に、低変形抵抗領域を、棒状体である金属体の長手方向に沿って移動させる場合には、金属体(棒状体)の全体への元素の過飽和固溶を、極めて容易に実現することができる。
【0034】
また、高温固溶化工程が、固溶化処理温度域に加熱された金属体の塑性加工を行うことで、金属体を所定形状とする場合には、ひずみを付与すると共に、所望の製品形状を得ることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の金属体の加工方法は、元素をマトリクス中に溶け込ませることができ、元素の過飽和固溶による高強度化が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】アルミニウム合金の加工方法を説明するための模式図である。
【
図3】375℃で強ひずみを付与したA7075のEPMAの分析画像である。
【
図4】本発明の変形例を説明するための模式図(1)である。
【
図5】本発明の変形例を説明するための模式図(2)である。
【
図6】本発明の変形例を説明するための模式図(3)である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」と称する)について説明を行う。
【0038】
<実施の形態>
図1は、本発明の金属体の加工方法の一例であるアルミニウム合金の加工方法を説明するための模式図である。
【0039】
本実施の形態では、棒状体であるアルミニウム合金(金属体)を用いる場合を例に挙げて説明を行う。具体的には、市販材であるA7075を用いており、重量%で、Si:0.14%、Fe:0.14%、Cu:1.7%、Mn:0.05%、Mg:2.7%、Cr:0.2%、Zn:5.7%、Ti:0.01%を含有し、残部がAl及び不可避不純物から成る。
【0040】
[低温固溶化工程]
本実施の形態に係るアルミニウム合金の加工方法では、先ず、金属体を370℃まで加熱し(
図1中の符号S1参照)、強ひずみ(400%のひずみ)を付与し(
図1中の符号S2参照)、強ひずみを付与して5秒後に、30℃/秒の速度で室温まで急冷する(
図1中の符号S3参照)。
【0041】
具体的には、
図2(a)で示すように、金属体1を高周波加熱コイル3の内部に非接触状態で挿通し、金属体1を370℃に誘導加熱することで、変形抵抗を局部的に低下させた低変形抵抗領域2を形成する。
【0042】
また、金属体1の図面手前側の端部には、回転モータ(図示せず)が連動連結されており、この回転モータにより、金属体1の回転モータ側の領域を金属体1の長手方向と平行な軸を回転軸として、
図2(a)中符号Aで示すように捻回する。こうした捻回動作により金属体1を剪断変形させて、強ひずみを付与する。
【0043】
更に、高周波加熱コイル3の両側には、給水配管(図示せず)から供給された水を吐出する環状の冷却ユニット4が配置されており、冷却ユニット4から吐出する水によって、金属体1を急冷する。
【0044】
なお、低温固溶化工程に用いる装置の一例として、上述した特許文献1(国際公開第2004/028718号)に記載の装置(
図10)が挙げられる。
【0045】
但し、特許文献1(国際公開第2004/028718号)の加工方法は、金属組織の微細化を目的としたものであり、こうした目的を実現するためには、再結晶温度直上(A7075の場合には、250℃~300℃)に加熱する必要があり、低温固溶化処理温度域(A7075の場合には、315℃~420℃)に加熱を要する本発明の低温固溶化工程とは、加熱条件が全く異なる。
【0046】
即ち、特許文献1(国際公開第2004/028718号)に開示の加工方法は、熱処理条件が全く異なるために、本発明の低温固溶化工程の代替技術とはなり得ないものの、特許文献1(国際公開第2004/028718号)に開示の装置については、本発明の低温固溶化工程に用いることができる。
【0047】
ここで、表1は、
図2(a)で示す装置でひずみを付与した場合の強度と伸びを示している。また、
図3は、
図2(a)で示す装置でひずみを付与した場合の電子線マイクロアナライザー(EPMA)の分析画像を示している。
具体的には、処理温度約375℃(648K)、試料送り速度150mm/minで、回転量が10rpm、30rpm、50rpmの強度と伸びと分析画像を示している。
なお、10rpmは200~300%のひずみに相当し、30rpmは1000%以上のひずみに相当する。また、引張試験は常温で、初期ひずみ速度2.5×10
-3/sの条件で行っている。
【0048】
【0049】
表1から、引張強さについては、回転速度(ひずみを付与する量)の増加に伴って増加していることが分かる。
【0050】
また、
図3で示す分析画像から、10rpmの場合にはMgやSiの一部が固溶できずに残っているが、30rpm、50rpmの場合にはMgやSiの大半がアルミニウムマトリクス中に固溶していることが分かる。
そのため、低温固溶化工程において、添加元素を充分に固溶させるためには、400%以上のひずみを付与することが好ましい。
【0051】
ここで、本実施の形態では、370℃まで加熱する場合を例に挙げて説明を行っているが、低温固溶化処理温度域(A7075の場合には、315℃~420℃)まで加熱することができれば充分であって、必ずしも370℃である必要は無い。
【0052】
また、本実施の形態では、金属体1の長手方向と平行な軸を回転軸として捻回する捻回動作によりひずみを付与する場合を例に挙げて説明を行っているが、ひずみを付与することができれば充分であって、必ずしも、捻回する必要は無い。
【0053】
例えば、
図2(a)中符号Aで示す捻回動作に代えて、所定の振動を印加することにより、金属体1を剪断変形させてひずみを付与しても良い。
なお、振動でひずみを付与する装置の一例としては、特許文献1(国際公開第2004/028718号)に記載の装置(
図9)が挙げられる。
【0054】
また、例えば、
図2(a)中符号Aで示す捻回動作に代えて、
図2(b)で示すように、金属体1の図面手前側の端部を把持した上で(把持する装置構成は図示していない)、
図2(b)中符号Bで示すように、金属体1の長手方向に沿って引っ張り、こうした引張動作によって、金属体1にひずみを付与しても良い。
【0055】
但し、ひずみを高効率で付与することによって、充分に晶出物や析出物を分断するといった点を考慮すると、金属体1を剪断変形させることでひずみを付与する方が好ましい。
即ち、
図2(b)の様に引張動作でひずみを付与するよりも、(1)
図2(a)の様に捻回動作でひずみを付与したり、(2)特許文献1の
図9の装置を利用して、振動でひずみを付与したりする方が、好ましい。
【0056】
更に、本実施の形態では、強ひずみを付与して5秒後に急冷を開始しているが、マトリクス中に固溶した元素が析出する前に急冷を開始することができれば充分であって、必ずしも、5秒後に限定されるものでは無い。
【0057】
また、本実施の形態では、30℃/秒の速度で370℃から室温まで急冷する場合を例に挙げて説明を行っているが、固溶した元素が析出しない速度で、固溶した元素が析出しない温度域(低温域)まで急冷すれば充分であって、必ずしも、30℃/秒の速度で370℃から室温まで急冷する必要は無い。
【0058】
[高温固溶化工程]
本実施の形態に係るアルミニウム合金の加工方法では、次に、金属体1を、5℃/秒の速度で475℃まで加熱し(
図1中の符号S4参照)、強ひずみ(400%のひずみ)を付与し(
図1中の符号S5参照)、強ひずみを付与して10秒後に、30℃/秒の速度で室温まで急冷する(
図1中符号S6参照)。
【0059】
具体的には、
図2(a)で示すように、金属体1を高周波加熱コイル3の内部に非接触状態で挿通し、金属体1を475℃に誘導加熱することで、変形抵抗を局部的に低下させた低変形抵抗領域2を形成する。
【0060】
また、上述した低温固溶化工程と同様に、金属体1の回転モータ側の領域を金属体1の長手方向と平行な軸を回転軸として、
図2(a)中符号Aで示すように捻回する。こうした捻回動作により金属体1を剪断変形させて、強ひずみを付与する。
【0061】
更に、上述した低温固溶化工程と同様に、冷却ユニット4から吐出する水によって、金属体1を急冷する。
【0062】
なお、高温固溶化工程に用いる装置の一例として、上述した特許文献1(国際公開第2004/028718号)に記載の装置(
図10)が挙げられるものの、特許文献1に開示の加工方法は、固溶化処理温度域(A7075の場合には、450℃~515℃)に加熱を要する本発明の高温固溶化工程とは、加熱条件が全く異なる。
【0063】
即ち、上記した低温固溶化工程の場合と同様に、特許文献1(国際公開第2004/028718号)に開示の加工方法は、熱処理条件が全く異なるために、本発明の高温固溶化工程の代替技術とはなり得ないものの、特許文献1(国際公開第2004/028718号)に開示の装置については、本発明の高温固溶化工程に用いることができる。
【0064】
ここで、本実施の形態では、475℃まで加熱する場合を例に挙げて説明を行っているが、固溶化処理温度域(A7075の場合には、450℃~515℃)まで加熱することができれば充分であって、必ずしも475℃である必要は無い。
【0065】
また、本実施の形態では、金属体1の長手方向と平行な軸を回転軸として捻回する捻回動作によりひずみを付与する場合を例に挙げて説明を行っているが、ひずみを付与することができれば充分であって、必ずしも、捻回する必要は無い。
例えば、特許文献1(国際公開第2004/028718号)に記載の装置(
図9)を利用して振動でひずみを付与したり、
図2(b)の様に引張動作でひずみを付与したりしても良い点は、上記した低温固溶化工程と同様である。
【0066】
更に、本実施の形態では、5℃/秒の速度で475℃まで加熱(急速加熱)する場合を例に挙げて説明を行っているが、低温固溶化工程で固溶した元素が析出しない速度で、固溶した元素が析出しない温度域(高温域)まで加熱すれば充分であって、必ずしも、5℃/秒の速度で475℃まで加熱する必要は無い。
【0067】
また、本実施の形態では、強いひずみを付与して5秒後に急冷を開始しているが、マトリクス中に固溶した元素が析出する前に急冷を開始することができれば充分であって、必ずしも、5秒後に限定されるものでは無い。
【0068】
また、本実施の形態では、30℃/秒の速度で475℃から室温まで急冷する場合を例に挙げて説明を行っているが、固溶した元素が析出しない速度で、固溶した元素が析出しない温度域(低温域)まで急冷すれば充分であって、必ずしも、30℃/秒の速度で475℃から室温まで急冷する必要は無い。
【0069】
[時効処理工程]
本実施の形態に係るアルミニウム合金の加工方法では、続いて、自然時効(常温時効)が生じる前に、120℃まで加熱し(
図1中の符号S7参照)、12~18時間保持し(
図1中の符号S8参照)、その後、室温まで空冷することで(
図1中の符号S9参照)、マトリクス中に固溶した元素を微細析出させる。
【0070】
[加工工程]
本実施の形態に係るアルミニウム合金の加工方法では、その後、棒状体であるアルミニウム合金(金属体)の切削加工を行い、所望の製品形状を得る。
【0071】
[効果]
本発明を適用した金属体の加工方法では、元素の過飽和固溶が実現し、アルミニウム合金の高強度化が実現する。
即ち、低温固溶化工程で晶出物や析出物を分断して添加元素を分散することができ、分散した添加元素を、低温固溶化工程及び高温固溶化工程で充分に固溶することが可能となり、アルミニウム合金の機械特性の向上(高強度化)が実現する。
【0072】
一例としては、通常の固溶化熱処理(固溶化処理温度域まで加熱して固溶する処理)を行った後に時効処理を行った場合には570N/mm2であり、固溶化熱処理時にひずみを付与する熱処理(固溶化処理温度域まで加熱すると共にひずみを付与して固溶する処理)を行った後に時効処理を行った場合には600N/mm2であるのに対して、本発明を適用した金属体の加工方法で得られるアルミニウム合金の場合には700N/mm2の強度を得ることができる。
【0073】
また、低温固溶化工程後の自然時効が殆ど発生しないために、低温固溶化工程後の時効処理が不要であり、低温固溶化処理温度域(本実施の形態では370℃)から急冷した状態のまま滞留が可能である。
【0074】
<変形例>
[変形例1]
上記した実施の形態の低温固溶化工程では、棒状体であるアルミニウム合金(金属体)に対して、
図2(a)で示す装置を利用して加熱とひずみ付与を行う場合を例に挙げて説明を行っているが、低温固溶化処理温度域で強ひずみを付与することができれば充分な効果が得られる。例えば、圧延加工、鍛造加工、ロータリースエージング等が挙げられる。
【0075】
[変形例2]
上記した実施の形態では、棒状体であるアルミニウム合金(金属体)に熱処理(低温固溶化工程、高温固溶化工程、時効処理工程)を行った後に、切削加工を行っているが、所望の製品形状を得ることができれば、必ずしも、熱処理後に加工工程を行う必要は無い。
例えば、高温固溶化工程において、各種の塑性加工(押出加工、圧延加工、鍛造加工、ロータリースエージング等)で所望の製品形状を得ながら、ひずみを付与しても良い。
【0076】
(変形例2の具体例:押出加工)
具体的には、押出加工の場合には、
図4で示すように、固溶化処理温度域に加熱したアルミニウム合金(長尺部材)41を、固溶化処理温度域に加熱した押出金型42を用いて押し出す。その後、
図4中符号Cで示す水冷(急冷)を行い、時効処理を経て、所望の製品形状を得る(アルミニウム合金のハッチングは、固溶化処理温度域であることを示している)。
【0077】
なお、固溶化処理温度域で更なる塑性ひずみを付与することで、添加元素の固溶が更に促進されて一段の強度向上が実現できる。また、急冷後には時効処理を施すことで高強度化の効果が得られる。
【0078】
(変形例2の具体例:鍛造加工1)
また、鍛造加工の場合には、
図5(a)で示すように、固溶化処理温度域に加熱した鍛造金型51(
図5中のハッチングは固溶化処理温度域であることを示している)を用いて、室温のアルミニウム合金(金属体)52の鍛造を行う(
図5(b)参照)。鍛造を行うことで(鍛造金型と接することで)、アルミニウム合金(金属体)52は固溶化処理温度域に加熱され(
図5(c)参照)、その後、水冷(急冷)を行い、時効処理を経て、
図5(d)で示す所望の製品形状を得る。
【0079】
なお、固溶化処理温度域で更なる塑性ひずみを付与することで、添加元素の固溶が更に促進されて一段の強度向上が実現できる。また、急冷後に時効処理を施すことで高強度化の効果が得られる。
【0080】
(変形例2の具体例:鍛造加工2)
更に、別の鍛造加工の場合には、
図6(a)で示すように、固溶化処理温度域に加熱したアルミニウム合金(金属体)61(
図6中のハッチングは固溶化処理温度域であることを示している)を、冷却した鍛造金型62(加熱していない鍛造金型)を用いて鍛造を行う(
図6(b)参照)。鍛造を行うことで(鍛造金型と接することで)、アルミニウム合金(金属体)61は急冷され(
図6(c)参照)、その後、時効処理を経て、
図6(d)で示す所望の製品形状を得る。
なお、急冷後に時効処理を施すことで高強度化の効果が得られる。
【符号の説明】
【0081】
1 金属体
2 低変形抵抗領域
3 高周波加熱コイル
4 冷却ユニット