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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167394
(43)【公開日】2024-12-03
(54)【発明の名称】製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20241126BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20241126BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20241126BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20241126BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20241126BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20241126BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
A61K38/16
A61K47/26
A61K47/04
A61K47/12
A61K9/08
A61K9/19
A61P35/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024152268
(22)【出願日】2024-09-04
(62)【分割の表示】P 2021541283の分割
【原出願日】2020-01-16
(31)【優先権主張番号】1900658.4
(32)【優先日】2019-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1905105.1
(32)【優先日】2019-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】510019129
【氏名又は名称】イムノコア リミテッド
【住所又は居所原語表記】92 Park Drive Milton Park,Abingdon Oxfordshire OX14 4RY,United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン,アンディ
(72)【発明者】
【氏名】エブナー,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】グルジェン,ルーカス
(57)【要約】      (修正有)
【課題】低タンパク質濃度での、及び比較的高温での長期貯蔵期間中のタンパク質安定性を維持する、可溶性T細胞レセプター(TCR)及びscFVを含んでなる二重特異性タンパク質の製剤を提供する。
【解決手段】本発明は、(i)治療有効量の、可溶性T細胞レセプター(TCR)及びscFVを含んでなる二重特異性タンパク質;及び(ii)界面活性剤を含んでなる医薬製剤に関する。界面活性剤対タンパク質のw/w比は0.75:1~1.5:1の範囲内である。製剤は増量剤及び/又は安定化剤を更に含んでなってもよい。更なる医薬製剤は、(i)治療有効量の、可溶性T細胞レセプター(TCR)及びscFVを含んでなる二重特異性タンパク質;(ii)増量剤;及び(iii)安定化剤を含んでなる。w/w安定化剤対増量剤の比は1:1より大きくてもよい。
【選択図】図1-1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量の、可溶性T細胞レセプター(TCR)及びscFVを含んでなる二重特異性タンパ
ク質;及び
界面活性剤
を含んでなり、界面活性剤対タンパク質のw/w比が0.75:1~1.5:1の範囲内である、医薬製剤。
【請求項2】
界面活性剤対タンパク質のw/w比が1:1である請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
増量剤を更に含んでなる請求項1又は2に記載の製剤。
【請求項4】
安定化剤を更に含んでなる請求項1~3のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項5】
安定化剤対増量剤の比が1:1より大きい、請求項3を引用する請求項4の製剤。
【請求項6】
治療有効量の、可溶性T細胞レセプター(TCR)及びscFVを含んでなる二重特異性タンパ
ク質;
増量剤;及び
安定化剤
を含んでなり、安定化剤対増量剤のw/w比が1:1より大きい、医薬製剤。
【請求項7】
安定化剤対増量剤の比が1.5:1より大きい、請求項5又は6に記載の製剤。
【請求項8】
安定化剤対増量剤の比が3:1~7:1の範囲内である、請求項7に記載の製剤。
【請求項9】
界面活性剤を更に含んでなる請求項6~8のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項10】
界面活性剤がポリソルベートである、請求項1~5及び9のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項11】
ポリソルベートがポリソルベート20である、請求項10に記載の製剤。
【請求項12】
増量剤がポリオールである、請求項3~11のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項13】
ポリオールがマンニトールである、請求項12に記載の製剤。
【請求項14】
安定化剤が二糖である、請求項4~13のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項15】
緩衝剤を更に含んでなる請求項1~14のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項16】
緩衝剤がリン酸/クエン酸である、請求項15に記載の製剤。
【請求項17】
6~7の範囲内のpHを有する請求項1~16のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項18】
水溶液である請求項1~17のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項19】
凍結乾燥されている請求項1~17のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項20】
(i)治療有効量の、可溶性T細胞レセプター(TCR)及びscFVを含んでなる二重特異性タンパク質と、(ii)界面活性剤とを製剤化すること
を含んでなり、ここで、界面活性剤対タンパク質のw/w比が0.75:1~1.5:1の範囲内である、水性医薬を製造する方法。
【請求項21】
(i)治療有効量の、可溶性T細胞レセプター(TCR)及びscFVを含んでなる二重特異性タンパク質と、(ii)増量剤と、(iii)安定化剤とを製剤化すること
を含んでなり、ここで、安定化剤対増量剤の比が1:1より大きい、水性医薬を製造する
方法。
【請求項22】
請求項2~5及び7~19のいずれか1項に記載の特徴により改変された、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
医薬に使用するための、請求項1~19のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項24】
ガン、好ましくはメラノーマを治療する方法に用いるための、請求項23に記載の製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製剤に関する。具体的には、本発明は可溶性T細胞レセプター(TCR)及びscFv
を含んでなる二重特異性タンパク質の医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオテクノロジーの進歩により、薬学用途のタンパク質を作製することが可能となっている。タンパク質は伝統的な有機及び無機薬物より大きく複雑である(例えば、複雑な
三次元構造に加えて多数の官能基を有する)ので、このようなタンパク質の製剤化は問題
をもたらす。タンパク質が生物学的に活性のままであるためには、製剤は、タンパク質のアミノ酸の少なくともコア配列の立体的な完全性をインタクトに保存する一方、同時に、タンパク質の多数の官能基を分解から保護しなければならない。タンパク質の分解経路には、化学的不安定性(例えば、新たな化学物質を生じる結合形成又は切断によるタンパク
質の改変を含む任意のプロセス、又は物理的不安定性(例えば、タンパク質の高次構造の
変化)が関与することもある。化学的不安定性は、脱アミド化、ラセミ化、加水分解、酸
化、β脱離又はジスルフィド交換の結果であり得る。物理的不安定性は、例えば変性、凝集、沈澱又は吸着の結果であり得る。3つの最も一般的なタンパク質分解経路は、タンパク質凝集、脱アミド化及び酸化である(Clelandら,Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems 10(4): 307-377(1993))。
【0003】
抗体(フラグメント及びバリアントを含む)は、成功した医薬製剤が記載されている治療用タンパク質の1つのクラスである(Wangら,J Pharm Sci. 2007 Jan;96(1):1-26.)。し
かし、可溶性T細胞レセプター(TCR)及びscFVを含んでなる二重特異性タンパク質につい
ての安定な医薬製剤に関する技術分野は、極端に制限されている。タンパク質製剤の既知の複雑性及びTCR二重特異性タンパク質と抗体との間の多くの差異のために、抗体の製剤
化に関して開発された技術は、これら二重特異性TCRタンパク質に当てはまると期待する
ことはできない。例えば、抗体製剤では、高いタンパク質濃度(すなわち1mg/ml以上)は
、必要な治療効果を維持しつつ、患者に投与する医薬品の体積を最小化するために望ましい。TCR-scFv二重特異性タンパク質は、特に低タンパク質濃度で強力であるように設計されるので、低タンパク質濃度(すなわち1mg/ml以下)の製剤が望ましい。低タンパク質濃
度は特に問題がある。なぜならば、低レベルの凝集又はバイアル表面との短時間の接触(
すなわち吸収損失)でさえ、タンパク質活性の有意な損失をもたらすことがあるからであ
る。
【0004】
更に、抗体とは異なり、TCRは溶液中で本質的に不安定であることが知られており、こ
のことは、比較的高温(例えば-30℃又は-20℃以上、例えば2~8℃)で及び/又は長期
貯蔵期間中にタンパク質安定性を維持することは容易ではないことを意味する。比較的高温での及び長期貯蔵の期間中の治療用タンパク質の安定性は、望ましい特徴であり、このことにより、臨床施設への/での簡便で低コストの輸送及び貯蔵が可能となる。最後に、
グコシル化は、抗体製剤においては重要な検討事項である。なぜならば、グコシル化の変化は、タンパク質分解の速度に影響することがあるからである。TCR-scFv二重特異性タンパク質は、一般には、E.coliにおいて産生されるので、グリコシル化されない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
TCR-scFv二重特異性タンパク質についての医薬製剤を提供する必要性が存在する。この製剤は、低タンパク質濃度での及び比較的高温での長期貯蔵期間中のタンパク質安定性を維持することが特に望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1の観点において、
治療有効量の、可溶性T細胞レセプター(TCR)及びscFVを含んでなる二重特異性タンパ
ク質;及び
界面活性剤
を含んでなり、界面活性剤対タンパク質のw/w比が0.75:1~1.5:1の範囲内である、医薬製剤を提供する。
【0007】
本発明は、第2の観点において、
治療有効量の、可溶性T細胞レセプター(TCR)及びscFVを含んでなる二重特異性タンパ
ク質;
増量剤;及び
安定化剤
を含んでなり、安定化剤対増量剤のw/w比が1:1より大きい、医薬製剤を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、0.2mg/mlのTCR-scFv二重特異性タンパク質、50mMリン酸-クエン酸pH6.5、5%トレハロース、1%マンニトール及び0.02% Tween 20を含んでなる製剤についてのSE-UPLC、AE-HPLC及びCGE分析の結果を提供する。
図2図2は、0.2mg/mlの代替のTCR-scFv二重特異性タンパク質、50mMリン酸-クエン酸pH6.5、5%トレハロース、1%マンニトール及び0.02% Tween 20を含んでなる製剤についてのSE-UPLC、AE-HPLC及びCGE分析の結果を提供する。
図3図3は、0.2mg/mlのTCR-scFv二重特異性タンパク質、50mMリン酸-クエン酸pH6.5、5%トレハロース、1%マンニトール及び0.06%、0.04%、0.02%、0.01%又は0.005%のいずれかのTween 20を含んでなる製剤についての光遮蔽分析の結果を提供する。
図4図4は、0.2mg/mlのTCR-scFv二重特異性タンパク質、50mMリン酸-クエン酸pH6.5、5%トレハロース、1%マンニトール及び0.02%、0.03%、0.04%、0.05%、0.06%、0.07%又は0.08%のいずれかのTween 20を含んでなる製剤についての実験計画法(DoE)分析の結果を提供する。
図5図5は、0.5mg/mlのTCR-scFv二重特異性タンパク質、50mMリン酸-クエン酸pH7.5、120mM NaCl及び0.05% Tween 20を含んでなる製剤についてのSE-UPLC、AE-HPLC及びCGE分析の結果を提供する。
図6図6は、0.2mg/mlのTCR-scFv二重特異性タンパク質、50mMリン酸-クエン酸pH6.5、5%マンニトール及び0.02% Tweenを、1%スクロースの存在下又は不在下に含んでなる製剤についての濁度分析の結果を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
第1の観点において、本発明は、
治療有効量の、可溶性T細胞レセプター(TCR)及びscFVを含んでなる二重特異性タンパ
ク質;及び
界面活性剤
を含んでなり、界面活性剤対タンパク質のw/w比が0.75:1~1.5:1の範囲内である、医薬製剤を提供する。
【0010】
本発明者らは、界面活性剤対タンパク質のw/w比が0.75:1~1.5:1の範囲内であることが安定な製剤をもたらすことを見出した。界面活性剤は、タンパク質製剤中で、タンパク質の凝集及び表面吸収の両方を予防するために一般的に用いられる賦形剤である。広範囲の界面活性剤濃度が凝集予防に適切であること(0.02~2.0mg/mL又は0.002~0.2%)及び濃度が高いほど、沈澱が良好に予防されることが当該分野において示されている(Wang,Eur
J Pharm Biopharm. 2017 May;114: 263-277)。更に、既知のタンパク質製剤においては
、共通して、タンパク質の重量は界面活性剤の重量に対して相当に過剰である;例えば、市販されている治療用抗体トラツズマブ(Heceptin登録商標)及びベバシズマブ(Avastin登録商標)の製剤中では、抗体は、界面活性剤に対して50倍以上過剰に存在する。本発明者
らは、TCR-scFv二重特異性タンパク質製剤において、界面活性剤対タンパク質のw/w比が0.75:1~1.5:1の幅狭な範囲から外れるように増加又は減少させると、予想外にも、タンパク質安定性が実質的に喪失することを見出した。理論により拘束されないが、本発明者らは、薬剤が高効力である結果、製剤中でタンパク質濃度が低いことは、該タンパク質が界面活性剤濃度の僅かな変化に対してより感受性であることを意味するという仮説を立てた。
【0011】
界面活性剤対タンパク質のw/w比は、0.8:1~1.2:1、0.9:1~1.1:1又は0.95:1~1.05:1の範囲内であり得る。この比は、0.75:1、0.8:1、0.85:1、0.9:1、0.95:1、1:1、1.05:1、1.1:1、1.15:1、1.2:1であり得る。好適な比は1:1である。
本発明の製剤は、1又は2以上の薬学的に許容され得る界面活性剤を含んでなり得る。薬学的に許容され得る界面活性剤の例として、ポリソルベート(例えばポリソルベート20
、40、60又は80);ポロキサマー(例えばポロキサマー188);トリトン;オクチルグリコシドナトリウム;ラウリル-、ミリスチル-、リノレイル-又はステアリル-スルホベタミン;ラウリル-、ミリスチル-、リノレイル-又はステアリル-サルコシン;リノレイル-、ミリ
スチル-又はセチル-ベタミン;ラウロアミドプロピル-、コカミドプロピル-、リノレアミドプロピル-、ミリストアミドプロピル-、パルミドプロピル-又はイソステアラミドプロ
ピル-ベタミン(例えばラウロアミドプロピル);ミリストアミドプロピル-、パルミドプロピル-又はイソステアラミドプロピル-ジメチルアミン;ココイルメチルタウリン ナトリ
ウム、オレイルメチルタウリン ジナトリウム、ポリエチルグリコール、ポリプロピルグ
リコール及びエチレンとプロピレングリコールとの共重合体が挙げられる。好ましくは、本発明の製剤中の界面活性剤は、ポリソルベート、例えばポリソルベート20(商品名Tween登録商標20)又はポリソルベート80(商品名Tween登録商標80)である。より好ましくは、界面活性剤はポリソルベート20(Tween(登録商標)20)である。界面活性剤は、0.1%以下のw/v濃度、例えば0.9%、0.8%、0.7%、0.6%、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%で存在し得る
。界面活性剤の濃度は0.02%であり得る。界面活性剤の濃度は0.05%であり得る。好適には、界面活性剤はポリソルベート20であり、0.02%の濃度で存在する。
第1の観点の製剤は、増量剤(bulking agent)及び/又は安定化剤を更に含んでなり得る。好ましくは、安定化剤対増量剤の比は1:1より大きい。
【0012】
第2の観点において、本発明は、
治療有効量の、可溶性T細胞レセプター(TCR)及びscFVを含んでなる二重特異性タンパ
ク質;
増量剤;及び
安定化剤
を含んでなり、安定化剤対増量剤のw/w比が1:1より大きい、医薬製剤を提供する。
【0013】
本発明者らは、増量剤及び安定化剤を安定化剤対増量剤のw/w比が1:1より大きくなるように使用することにより、容易に凍結乾燥される安定な製剤がもたらされることを見出した。二糖安定化剤(例えばトレハロース又はスクロース)と増量剤(例えばマンニトール)とを含んでなる混合物は、凍結乾燥タンパク質製剤に適切な賦形剤であることが知られている(Johnson,J Pharm Sci. 2002 Apr;91(4):914-22)。マンニトールは、容易に結晶構造を形成し、乾燥期間中に崩壊しない安定ケーキの生成を促進する。しかし、結晶状態で、マンニトールはタンパク質と反応できず、凝集する可能性がある。スクロース(非晶質
相を形成する)の添加により凝集を予防可能である。ケーキ安定性と凝集予防との間の十
分なバランスを提供するためには、少なくとも3:1のマンニトール対スクロース重量比
が必要であると提案されている;より低い比は、マンニトールの結晶化を阻害することが示されている(Jenaら,Pharm Res. 2016 Jun;33(6):1413-25;Johnsonら,J Pharm Sci. 2002 Apr;91(4):914-22)。当該分野における教示に反して、本発明者らは、1:1(好ましくは1:5)より小さい増量剤(例えばマンニトール)対安定化剤(例えばスクロース/トレハロース)の比により、凝集が最小化される安定ケーキが生じることを見出した。本発明者
らは、結晶性マンニトールは、過剰に存在するとき、凍結乾燥状態のTCR-scFv二重特異性タンパク質の構造に過剰な歪を引き起こし、続いてアンフォールディング、変性及び凝集に至る可能性があるという仮説を立てた。
【0014】
安定化剤対増量剤のw/w比は、好ましくは3:1~5:1、より好ましくは4:1~6:1
の範囲であり得る。例えば、比は、2:1又は3:1又は4:1又は5:1又は6:1であり
得る。安定化剤対増量剤の比は、好ましくは約5:1、例えば5.5:0.9~4.5:1であり得る。安定化剤対増量剤の比は、より好ましくは5:1であり得る。安定化剤の濃度は、4.5~5.5%(w/v)の範囲内、例えば5%であり得る。製剤中で用いる増量剤の濃度は0.9~1.1%(w/v)の範囲内、例えば1%であり得る。
増量剤は、凍結乾燥ケーキ(ライオケーキ)の嵩を増すように機能する薬学的に許容され得る化合物である。増量剤として機能する化合物は、当該分野において公知であり、ポリオール(例えばマンニトール又はソルビトール)、炭水化物、単糖、ポリマー又はタンパク質を含む。好ましくは、増量剤はポリオールである。より好ましくは、増量剤はマンニトールである。好ましくは、マンニトールは1%の濃度で存在する。
【0015】
安定化剤は、凍結又は凍結乾燥に際してリオプロテクタント/クライオプロテクタント
として機能し、したがって凝集及び/又は別の化学的若しくは物理的不安定性を防止する
薬学的に許容され得る化合物である。安定化剤として機能する化合物は、当該分野において公知である。安定化剤の例としては、糖、糖-アルコール及びアミノ酸が挙げられる。
好ましくは、安定化剤は二糖である。より好ましくは、安定化剤はトレハロース又はスクロースである。安定化剤は、トレハロース及びスクロースの混合物であり得る。好ましくは、安定化剤はトレハロースであり、5%の濃度で存在する。本発明の好適な製剤において、安定化剤はトレハロースであり、増量剤はマンニトールである。トレハロース対マンニトールのw/w比は好ましくは5:1である。
【0016】
本発明の製剤は、緩衝剤を更に含んでなり得る。薬学的に許容され得る緩衝剤は、当該分野において公知である。例としては、リン酸、クエン酸、リジン、ヒスチジン、酢酸、コハク酸及びトリス緩衝剤が挙げられる。これらの任意のものを本発明において使用することができる。好適な緩衝剤はリン酸-クエン酸緩衝剤である。緩衝剤の濃度は、約20mM
~約50mM、例えば20mM、30mM、40mM又は50mMであり得る。好ましくは、緩衝剤濃度は50mMである。好ましくは、製剤は50mMのリン酸-クエン酸緩衝剤を含んでなる。
医薬製剤の最適pHは、タンパク質の一次配列及びその濃度並びに他の賦形剤の同一性及び濃度に依存する。本発明の好適な製剤において、pHは、約pH6~約pH7、好ましくは6.3~6.7の範囲内である。例えば、pHはpH6.0又はpH6.1又はpH6.2又はpH6.3又はpH6.4又はpH6.5又はpH6.6又はpH6.7又はpH6.8又はpH6.9又は7.0であり得る。pH6.5が好ましい。pH6.0もまた好ましい。
【0017】
製剤は水性製剤であり得る。好ましくは、水性キャリアは、薬学的に許容され得る(ヒ
トへの投与に関して安全で非毒性である)ものである。水性キャリアは蒸留水又は滅菌水
であり得る。幾つかの実施形態において、水性製剤は凍結されていてもよい。或いは、水性製剤は凍結乾燥されて凍結乾燥製剤として製造されてもよい。液体製剤から凍結乾燥医薬製剤を製造する適切なプロトコル及び方法は、当該分野において公知である。凍結乾燥製剤を投与前に再構成する方法は、当該分野において公知である。簡潔には、凍結乾燥は、製剤を凍結させた後、一次乾燥に適切な温度で凍結内容物から氷を昇華させることによ
り達成することができる。代表的には、一次乾燥は、適切な圧力(代表的には約0.05mBar
~約0.5mBarの範囲内の圧力)にて、約-30~25℃の範囲である(但し、製剤は一次乾燥期
間中凍結したままである)。製剤、サンプルを保持する容器のサイズ及びタイプ(例えば、ガラスバイアル)並びに液体の体積が主に、乾燥に要する時間(2、3時間~数日の範囲であり得る)に影響する。二次乾燥ステージは、容器のタイプ及びサイズ並びに用いるタン
パク質のタイプに主に依存して約0~40℃で行われ得る。二次乾燥に要する時間及び圧力は、適切な凍結乾燥ケーキを生成するものであり、例えば温度その他のパラメータに依存する。二次乾燥時間は、製剤中の所望の残留水分レベルにより影響され、代表的には少なくとも約5時間(例えば15~24時間)を要する。圧力は、一次乾燥工程の期間中に用いるものと同じであり得る。凍結乾燥条件は、製剤及びバイアルサイズに依存して変わり得る。
【0018】
本発明の医薬製剤は好ましくは安定である。用語「安定性」又は「安定な」は、本明細書においては、二重特異性タンパク質の1又は2以上の生物物理学的及び/又は化学的特
性が、2~8℃にて長期間貯蔵したときに本質的に変化しない製剤を意味する。長期間とは、少なくとも2年間まで、より好ましくは少なくとも5年間まで又はより長期間を意味する。追加的又は代替的条件を、2~8℃での製剤の長期安定性の能力の指標として用い得る。例えば、「安定な」は、タンパク質が、規定する数の凍結解凍サイクル後、例えば少なくとも5又は少なくとも10の凍結解凍サイクル後に、本質的に変化していないことを意味してもよい;或いは、「安定な」は、当該タンパク質が、より高い温度でのより短期間の貯蔵後、例えば約30℃の温度での少なくとも1月の貯蔵後に、本質的に変化していないことを意味してもよい。
【0019】
製剤の安定性は、1又は2以上の生物物理学的又は化学的特性(外観(色及び濁度)、タ
ンパク質濃度、pH、肉眼非可視粒子(subvisible particle)の存在、凝集、変性及びタン
パク質活性を含むが、これらに限定されない)を試験することにより評価してもよい。当
業者は、タンパク質製剤の安定性を評価するために用い得る種々の分析技法を知っている。例として、目視検査、ネフェロメトリー、光遮蔽、280nmでの吸光度、キャピラリーゲ
ル電気泳動(CGE)、アニオン交換クロマトグラフィー(AIEX)、サイズ排除クロマトグラフ
ィー(SEC)、タンパク質活性アッセイが挙げられるが、これらに限定されない。凍結乾燥
サンプルについて、更なる分析技法として、ケーキの物理的安定性評価及び水分含量測定(例えばカールフィッシャー評価による)を挙げ得る。具体的技法については実証セクションに更に提供される。好ましくは、製剤の安定性は、次の特性:pH、外観、タンパク質濃度、肉眼非可視粒子の存在、CGE、SEC、AIEX及びタンパク質活性の1又は2以上、好ましくは全てを評価することにより決定する。
【0020】
二重特異性タンパク質は可溶性TCR及びscFv抗体フラグメントを含んでなり、好ましく
は両者はリンカーを介して融合している。リンカー配列は、通常、可撓性を限定する虞れがある嵩高い側鎖を有しないアミノ酸、例えばグリシン、アラニン及びセリンから作られている点で、可撓性である。リンカー配列の使用可能な又は最適な長さは、容易に決定される。多くの場合、リンカー配列は、約12アミノ酸長以下、例えば10アミノ酸長以下又は5~10アミノ酸長である。TCRは、ジスルフィド連結された2つの鎖からなる。各鎖(α及びβ)は、一般には、2つのドメイン、すなわち可変及び定常ドメイン(それぞれ、TRAV/TRBV及びTRAC/TRBCを呼ばれる)を有するとされる。各鎖の可変ドメインは、N末端側に位
置し、フレームワーク配列に埋め込まれた3つの相補性決定領域(CDR)を含んでなる。CDRは、ペプチド-MHC結合の認識部位を含んでなる。可溶性TCRは、TRAV及びTRBVを含んでな
り得、好ましくはヒトのものであり得る。可溶性TCRは、抗原(抗原の例にはNY-ESO、MAGEA4又はPRAMEが含まれる)に関して生理学的親和性を超える親和性を有するように、天然型又は野生型(好ましくはヒト)TCRに関して変異を含み得る。可溶性TCRは、α及びβポリペプチドが各々TCR可変及び定常領域を有するが、TCR膜貫通及び細胞質領域を欠くヘテロ二量体αβ TCRポリペプチド対であり得る。TCR α及びβポリペプチドの定常領域の残基同
士間での非天然型ジスルフィド結合が存在してもよい。可溶性TCRは、罹患した細胞(例えばガン細胞)又はウイルス若しくは細菌に感染した細胞に提示された抗原を認識し得る。
可溶性TCRの2つの鎖は、単鎖(WO2004/033685)として又はジスルフィド連結二量体(WO03/020763)として作製され得る。1つの具体的実施形態において、可溶性TCRは、TRAV及びTRBV領域と、細胞外α鎖TRAC定常ドメイン配列及び細胞外β鎖TRBC1又はTRBC2定常ドメイン配列とを有するαβヘテロ二量体を含んでなる。TRAC又はTRBV配列は、TRACのエキソン2のCys4とTRBC1又はTRBC2のエキソン2のCys2との間の天然型ジスルフィド結合を欠失させるように短縮化又は置換により改変されていてもよい。TRAC又はTRBV配列は、TRACのThr 48及びTRBC1又はTRBC2のSer 57からシステイン残基への置換により改変され、該システインがTCRのα定常ドメインとβ定常ドメインとの間のジスルフィド結合を形成していても
よい。α及びβポリペプチドの定常領域は、TRAC*01のエキソン2のCys4とTRBC1又はTRBC2のエキソン2のCys2との間の天然型ジスルフィド結合により連結されていてもよい。可
溶性TCRは、Vα-L-Vβ、Vβ-L-Vα、Vα-Cα-L-Vβ又はVα-L-Vβ-Cβタイプ(ここで、V
α及びVβはそれぞれTCR α及びβ可変領域であり、Cα及びCβはそれぞれTCR α及びβ
定常領域であり、Lはリンカー配列である)の単鎖αβ TCRポリペプチドであり得る。
【0021】
用語「単鎖Fv」又は「scFv」とは、抗体のVH及びVLドメインを含んでなり、これらドメインが単一ポリペプチド鎖中に存在する抗体フラグメントをいう。一般には、Fvポリペプチドは、VHドメインとVLドメインとの間に、scFvが抗原結合に関して所望の構造を形成することを可能とするポリペプチドリンカーを更に含んでなる。scFvはヒト抗体から誘導されてもよいし、ヒト化されていてもよい。scFvはCD3を認識する抗体から誘導され得る。
1つの具体的実施形態において、抗CD3 scFvはUCHT1抗体から誘導され得る(Shalabyら,J
Exp Med. 1992 Jan 1;175(1):217-25、US5821337)。scFvは可溶性TCRのN又はC末端に
融合されていてもよい。scFvが可溶性TCRのN末端に融合されていることが好適である(WO2010/133828)。
TCR-scFv二重特異性タンパク質は、1mg/ml以下、0.5mg/ml以下、好ましくは0.3mg/l以下の濃度で存在し得る。TCR-scFv二重特異性タンパク質の濃度は0.05~0.5mg/ml又は0.1
~0.3mg/mlの範囲内であり得、0.5、0.4、0.3、0.2又は0.1mg/mlであり得る。好適な濃度は0.2mg/mlである。
【0022】
本発明の製剤に含まれ得る具体的TCR-scFv二重特異性タンパク質は、WO2011001152、WO2017/109496、WO2017/175006及びWO2018234319に開示のものを含む。WO2011/001152の特
定のTCR-scFv二重特異性タンパク質は、配列番号45のα鎖(ここで、アミノ酸1~109は配列番号8で置換されており、1位のアミノ酸はAであり、α鎖のC末端は、配列番号45の
番号付けに基づいてF196からS203まで(両端を含む)の8アミノ酸が短縮されている);及
び配列番号36のβ鎖(ここで、残基259~370は配列番号27に相当し、1位及び2位のアミ
ノ酸はそれぞれA及びIである)を有する。このようなTCR-scFv二重特異性タンパク質を含
む製剤は、好ましくはpH6.5を有し得る。
【0023】
本発明に従う1つの具体的製剤は、
TCR-scFv二重特異性タンパク質、これは、WO2011001152の配列番号45のα鎖(ここで、
アミノ酸1~109はWO2011001152の配列番号8で置換されており、1位のアミノ酸はAであり、α鎖のC末端は、配列番号45の番号付けに基づいてF196からS203まで(両端を含む)の8アミノ酸が短縮されている)及びWO2011001152の配列番号36のβ鎖(ここで、残基259~370はWO2011001152の配列番号27に相当し、1位及び2位のアミノ酸はそれぞれA及びIである)を有し、0.2mg/mlの濃度で存在する
50mMリン酸-クエン酸緩衝剤、
5%トレハロース、
1%マンニトール、及び
0.02%w/vポリソルベート20
を含んでなり、pH6.5を有する。
【0024】
1つの代替の好適な実施形態において、製剤は、
0.5mg/ml TCR-scFv二重特異性タンパク質、例えばWO2017/109496に記載のもの、
50mMリン酸-クエン酸緩衝剤、
5%トレハロース、
1%マンニトール、及び
0.05%w/vポリソルベート20
を含んでなり、pH6.0を有する。
【0025】
1つの更なる代替の好適な実施形態において、製剤は、
0.2mg/ml TCR-scFv二重特異性タンパク質、例えばWO2017/175006に記載のもの、
50mMリン酸-クエン酸緩衝剤、
5%トレハロース、
1%マンニトール、及び
0.02%w/vポリソルベート20
を含んでなり、pH6.0を有する。
好ましくは、本発明の製剤中の二重特異性タンパク質はグリコシル化されていない。
【0026】
1つの更なる観点において、本発明はまた、
(i)治療有効量の、可溶性T細胞レセプター(TCR)及びscFVを含んでなる二重特異性タンパク質、及び(ii)界面活性剤を製剤化することを含んでなり、
ここで、界面活性剤対タンパク質のw/w比は0.75:1~1.5:1の範囲内である、医薬製剤を製造する方法を提供する。
1つの更なる観点において、本発明はまた、
(i)治療有効量の、可溶性T細胞レセプター(TCR)及びscFVを含んでなる二重特異性タンパク質、(ii)増量剤及び(iii)安定化剤を製剤化することを含んでなり、
ここで、安定化剤対増量剤の比は1:1より大きい、医薬製剤を製造する方法を提供す
る。
【0027】
本発明はまた、医薬に用いるための本発明の製剤を提供する。製剤は、ガンを含む疾患又は感染性疾患を治療する方法において用いるものであり得る。ガンは、メラノーマ(皮
膚メラノーマ又はブドウ膜メラノーマ(眼内メラノーマとしても知られる)、悪性黒子型メラノーマ、表在拡大型メラノーマ、末端黒子型メラノーマ、粘膜部メラノーマ、結節型メラノーマ、ポリープ様メラノーマ、線維化型(desmoplastic)メラノーマ、無色素性メラノーマ、軟部組織(soft-tissue)メラノーマ、小母斑様細胞を伴う小細胞メラノーマ(small cell melanoma with small nevus-like cells)及びスピッツ様(spitzoid)メラノーマを含むが、これらに限定されない)であり得る。或いは、ガンは、乳ガン(トリプルネガティブを含む)、卵巣ガン、子宮内膜ガン、食道ガン、肺ガン(NSCLC及びSCLC)、膀胱ガン、結腸ガン、胃ガン、肝臓ガン、膵臓ガン、前立腺ガン、結合組織ガン(すなわち、肉腫)若しくは頭部頸部ガンであり得る;又は、ガンは白血病若しくはリンパ腫であり得る。
【0028】
好適な実施形態において、製剤は注射、例えば静脈内注射により投与され得る。製剤は、連続注入(例えば数時間、数日又は数週間にわたる)又は間欠注入(例えば週あたり1回
、2回若しくは3回、又はより低頻度)により投与され得る。
或いは、製剤は、他の任意の適切な経路(腫瘍内、皮下、筋肉内、髄腔内、経腸(経口又は直腸を含む)、吸入又は鼻内を含む)による投与について適合され得る。
【0029】
1つの更なる観点において、本発明は、治療有効量の、本明細書に開示の医薬製剤をヒト対象に投与することを含んでなる、ヒト対象を処置する方法を提供する。
本発明のいずれか1つの観点の好適な特徴は、本発明の他の各観点に必要な変更を加えて当てはまる。本明細書で言及する先行技術書類は法が許容する最大限の範囲で組み込まれる。
【0030】
ここで、本発明を、下記の非限定的実施例において説明する。下記の添付図面を参照する。
図1は、0.2mg/mlのTCR-scFv二重特異性タンパク質、50mMリン酸-クエン酸pH6.5、5%トレハロース、1%マンニトール及び0.02% Tween 20を含んでなる製剤についてのSE-UPLC、AE-HPLC及びCGE分析の結果を提供する。

図2は、0.2mg/mlの代替のTCR-scFv二重特異性タンパク質、50mMリン酸-クエン酸pH6.5、5%トレハロース、1%マンニトール及び0.02% Tween 20を含んでなる製剤についてのSE-UPLC、AE-HPLC及びCGE分析の結果を提供する。

図3は、0.2mg/mlのTCR-scFv二重特異性タンパク質、50mMリン酸-クエン酸pH6.5、5%トレハロース、1%マンニトール及び0.06%、0.04%、0.02%、0.01%又は0.005%のいず
れかのTween 20を含んでなる製剤についての光遮蔽分析の結果を提供する。

図4は、0.2mg/mlのTCR-scFv二重特異性タンパク質、50mMリン酸-クエン酸pH6.5、5%トレハロース、1%マンニトール及び0.02%、0.03%、0.04%、0.05%、0.06%、0.07%又は0.08%のいずれかのTween 20を含んでなる製剤についての実験計画法(DoE)分析の結果
を提供する。

図5は、0.5mg/mlのTCR-scFv二重特異性タンパク質、50mMリン酸-クエン酸pH7.5、120mM NaCl及び0.05% Tween 20を含んでなる製剤についてのSE-UPLC、AE-HPLC及びCGE分析の結果を提供する。

図6は、0.2mg/mlのTCR-scFv二重特異性タンパク質、50mMリン酸-クエン酸pH6.5、5%マンニトール及び0.02% Tweenを、1%スクロースの存在下又は不在下に含んでなる製剤についての濁度分析の結果を提供する。
【実施例0031】
実施例
実施例1-可溶性TCR-scFv二重特異性タンパク質のための安定な水性製剤
A)
抗CD3 scFvに融合した可溶性TCRを含んでなる二重特異性タンパク質(WO2011/001152の
配列番号45のα鎖(ここで、アミノ酸1~109はWO2011001152の配列番号8で置換されており、1位のアミノ酸はAであり、α鎖のC末端は、配列番号45の番号付けに基づいてF196
からS203まで(両端を含む)の8アミノ酸が短縮化されている)及びWO2011/001152の配列番号36のβ鎖(ここで、残基259~370はWO2011/001152の配列番号27に相当し、1位及び2位のアミノ酸はそれぞれA及びIである)を、公知の方法を用いて調製し、サイズ排除クロマ
トグラフィー(SEC)を用いて製剤緩衝剤中に緩衝剤交換した。その後、タンパク質を、0.20±0.02mg/mLの最終濃度に製剤緩衝剤を用いて希釈し、薄層気流(LAF)ベンチ内でボトル
に充填した。
製剤緩衝剤は、50mMリン酸-クエン酸、5%トレハロース、1%マンニトール及び0.02
% Tween 20.を含んでいた。pHは6.5であった。
【0032】
タンパク質安定性を<-60℃又は+5℃のいずれかにて24月にわたってモニターした。各温度での安定性を、キャピラリーゲル電気泳動(CGE)、アニオン交換高速液体クロマト
グラフィー(AE-HPLC)及びサイズ排除超高速液体クロマトグラフィー(SE-UPLC)を含む種々
の分析法を用いて評価した。更なる評価は、目視検査、タンパク質含量及びpHの測定、光遮蔽法による肉眼非可視粒子の検出及び機能を確証するための活性アッセイを含んでいた。タンパク質安定性はまた、10回の凍結解凍サイクルにわたっても証明された。
SE-UPLCを用いて多量体その他の高分子量種の存在を検出した。SE-UPLCは、1.7μm、4.6×300mm UPLC SEカラムを、0.2MホスフェートpH7.5のイソクラティック移動相(0.2ml/分)と共に用いるUPLCシステムで行った。この方法は、カラムへの適切な量の注射後にUPLC
システムでの蛍光による検出を利用する、SEカラムでの試験サンプル中のタンパク質成分の分離を含む。図1Aは、+5℃にて24月の期間中にわたって8時点でSE-UPLCにより測定
した純度の評価を示す。0月での純度は99.2%であり、24月では99.3%であった。最少許容基準≧95%。
【0033】
AE-HPLCを用いて電荷ベースの分解を検出した。AE-HPLCは、2×250mm weak AEカラム
をホスフェートpH8.2の移動相(0.2ml/分)と共に用いるHPLCシステムで行った。タンパク
質は、ホスフェート(pH8.2)緩衝剤中のNaClグラジエントを用いて溶出させた。この方法
は、カラムへの適切な量の注射後にHPLCシステムでの蛍光による検出を利用する、AEカラムでの試験サンプル中のタンパク質成分の分離を含む。図1Bは、+5℃にて24月の期間中にわたって8時点でAE-HPLCにより測定した電荷状態の評価を示す。0月での%主ピーク
は参照値と比較して+3.4%であり、24月での読取値は-1.9%であった。このことは、この生成物がこの製剤中で安定であったことを証明する(許容基準:;参照の±15%以内)。
CGEを用いて、低分子量の不純物及び分解物(例えばフラグメント)の存在を決定した。
この方法はチップ及び標準のCGEを用いて行った。チップ法では、サンプルを0.2mg/mLの
最終濃度に調製し、5分間70℃にて加温した。冷却後、変性サンプルをチップにロードし、Bioanalyzer(Agilent technologies)で分離した。標準CGEは、ダイオードアレイ検出器(Beckman Coulter)を備えるPA 800 plus装置で、Proteolab SDS MW分析キットの試薬及び分離キャピラリー(57cm×50μm ID、未修飾石英シリカ(bare fused-silica))を用いて行
った。サンプルは、SDSサンプル緩衝剤中への希釈前で0.2mg/mLに調製し、5分間70℃に
て加温した。分析は220nmで読み取り、移動時間及び%補正済みピーク面積を記録した。
最少許容基準≧95%。
【0034】
図1Cは、+5℃にて24月の期間中にわたって7時点でCGEによる純度の評価を示す。0
月での純度は99.6%であり、T=24月では99.7%であった。このことは、この生成物がこの製剤中で安定であったことを証明している。
複数回の凍結/解凍サイクル後の安定性評価を、長期安定性1つの更なる指標として用
いた。凍結解凍サイクルは、迅速にサンプルを<-60℃に凍結した後、室温(約22℃)で保温することにより行った。安定性は上述したSE-UPLCにより評価した。結果は、10回の凍
結解凍サイクル前には99.6%の純度を示し、その後99.5%の純度を示した。このことは、この生成物がこの製剤中で安定であったことを示している。
目視分析は、薬局方(欧州薬局方2.2.1、2.2.2及び2.9.20)に記載の方法の原理に従って行った。明澄な無色溶液(本質的に粒子を有さない)を、0月及び+5℃にて24月後に観察した。加えて、10回の凍結解凍サイクル後に、視認可能な変化は検出されなかった。
【0035】
タンパク質濃度及びpHは、24月後の値の±0.02mg/ml及び±0.2pH単位の範囲内であった。
レーザ光遮蔽法による肉眼非可視粒子の評価により、24月後、≧25μmの粒子が≦600/
バイアルで存在し、≧10μmの粒子が≦6000/バイアルで存在する(すなわち、許容基準内
である)ことが示された。濁度測定は許容範囲内(<3 NTU(乳濁標準I(standard of opalescence I))であった。
これらデータは、この製剤が、2~8℃の温度での長期貯蔵期間の間安定であったことを証明している。
凍結乾燥製剤は、2Rガラスバイアル中で0.6mlサンプルを凍結させて、-45℃にて2時
間保持し、続く-15℃/0.07mbarにて22時間の一次乾燥、次いで+40℃/0.07mbarにて23時間の二次乾燥により調製した。次いで、サンプルを真空下にゴム栓によりバイアル中に封入した。凍結乾燥サンプルを+5℃にて長期間貯蔵した。0.6mlの注射用滅菌水をバイア
ルに添加して混合することによりサンプルを再構成した。
【0036】
B)
抗CD3 scFvに融合した代替の可溶性TCR(WO2017/175006に記載)を含んでなる第2の二重特異性タンパク質を、0.20±0.02mg/mLの最終濃度に調製した。この製剤緩衝剤は、20mM
リン酸-クエン酸、5%トレハロース、1%マンニトール及び0.02% Tween 20を含んでいた。pHは6.0であった。
「A」部と同じ方法を用いて12月の期間にわたって安定性評価を行った。
SE-UPLC、AE-HPLC及びCGEのデータをそれぞれ図2A~Cに示す。SE-UPLCによる純度は、
0月で98.9%、12月で99.3%であった。AE-HPLCによる電荷状態は、参照と比較して、0
月で-12.2%主ピークであり、12月で-19.5%主ピークであった(許容基準:参照の±20
%以内)。CGEによる純度は0月で98.8%であり、12月で98.3%であった。各場合において、データの外挿により、安定性は≧24月であると予測可能であることが示される。
安定性はまた、10回の凍結解凍サイクル後のSE-UPLCによっても証明された。
これらデータは、この製剤が2~8℃の間の温度での長期貯蔵の間に安定であることを証明する。
【0037】
実施例2-製剤最適化
A-界面活性剤とタンパク質との比
界面活性剤とタンパク質との重量比は、安定製剤の製造に重要な因子であることが判明した。
このことの証拠は、5回の凍結解凍サイクル後にサイズ2μm又はそれより大きいサイ
ズの肉眼非可視粒子の存在を評価したレーザ光遮蔽(LO)測定から得られた。この製剤緩衝剤は、実施例1AのTCR-scFv二重特異性タンパク質、50mMリン酸-クエン酸、5%トレハロ
ース、1%マンニトール及び異なる5濃度のうちの1つの濃度のTween 20を含んでいた。pHは6.5であった。タンパク質濃度は0.2mg/mlで一定に維持された。アッセイはPAMAS SVSS-C又は等価な粒子サイズ決定装置で行った。0.4mlの予備運転容量及び0.1mlの測定容量
でサンプルをそのまま(neat)分析した。分析は3連(in triplicate)で行った。≧2μm、≧10μm及び≧25μmの粒子について粒子数を測定した。
【0038】
図3は、粒子サイズ≧10μmについての最少数、したがって最も高い安定性が、Tween-20対タンパク質の比が1であるときに得られたことを示している。
界面活性剤対タンパク質の比が重要であることの更なる証拠が実験計画(DoE)研究から
得られた。本実験では、実施例1Aの二重特異性タンパク質の安定性を、固定のタンパク質濃度0.2mg/mlで、32の異なる条件下で試験した。変量には界面活性剤の濃度が含まれていた。各場合において、製剤を+30℃±3℃にて1月間貯蔵し、安定性を高温にて5×凍結解凍サイクルの間モニターした。Tween 20の濃度(したがって、1~4の間のTween 20/タンパク質のw/w比)の効果を、SE-UPLC、AE-HPLC及びCGEを含む幾つかの分析法により評価
した。加えて、二重特異性タンパク質の活性を、ELISAを用いて評価した。結果を図4
まとめた。
【0039】
B-マンニトール+スクロース/トレハロース
マンニトールとスクロース又はトレハロースとの両方を含ませることが、製剤中の重要な因子であり、凍結乾燥が容易な製剤を提供するために必要であると判明した。
実施例1Aの二重特異性タンパク質は、50mMリン酸-クエン酸、120mM NaCl及び0.05% Tween 20を含む製剤緩衝剤中で、最終タンパク質濃度0.5mg/mlに調製した。pHは7.5であっ
た。実施例1に記載のものと同じ方法を用いて安定性を評価した。図5A~Cは、+5℃で
の36月の期間にわたるSE-UPLC、AE-HPLC及びCGEのデータを示す。データは、この製剤が12月後に安定でなかったことを示す。その後、DoE方法論を用いて、5%マンニトール又は5%スクロースのいずれかの添加により安定性が向上することが判明した。NaClを含ませないことも好ましかった。しかし、5%マンニトールを含む製剤は、レーザ光遮蔽(LO)法及び濁度(NTU)測定により特定したとき、10回の凍結解凍サイクル後に、高レベルの凝集
を生じた。濁度は、濁度計及び既知の濁度標準に対する校正を用いて、ネフェロメトリーにより測定した。
図6は、1%スクロースの添加により、凍結解凍によって誘導される凝集が低減したことを証明する。
【0040】
凍結乾燥の容易性を更に調べるため、50mMリン酸-クエン酸、5%マンニトール、1%
スクロース、0.02% Tween 20を含み、最終タンパク質濃度が0.2mg/mlである製剤を調製
した。pHは6.5であった。サンプルをガラスDP lyoバイアル中で凍結乾燥し、50℃、25℃
及び40℃にて1月、2月及び3月間貯蔵した。その後、0.5mlの超純水を添加し、1時間
室温にて保温することにより、サンプルを再水和させた後、濁度、レーザ光遮蔽、SE-UPLC、AE-HLPC、CGE及びタンパク質活性を含む幾つかの技法を用いて評価した。凝集の増加
及びタンパク質活性の有意な喪失がより高い温度で観察された。このことは、この製剤が長期貯蔵に適切ではないことを示している。
続いて、長期安定性を向上させ、液体安定性を維持するため、マンニトール対スクロースの比が安定性の維持に重要であり、トレハロースはスクロースと交換可能であることを見出した。実施例1Aの二重特異性タンパク質を2つの異なるマンニトール/スクロース比
と共に含む製剤を、凍結乾燥及び25℃又は40℃で4週間の貯蔵後に評価した。濁度、レーザ光遮蔽、SE-UPLC、AE-HLPC及びタンパク質活性を含む幾つかの技法を用いて安定性の評価を行った。濁度データを下記表に示す。データは、スクロースに比してより高濃度のマンニトールが凝集増加をもたらすことを示している。
【0041】
【表1】
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6
【手続補正書】
【提出日】2024-09-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量の、可溶性T細胞レセプター(TCR)及びscFVを含んでなる二重特異性タンパ
ク質;及び
界面活性剤
を含んでなり、界面活性剤対タンパク質のw/w比が0.75:1~1.5:1の範囲内である、医薬
製剤。
【外国語明細書】