(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167448
(43)【公開日】2024-12-03
(54)【発明の名称】腎臓オルガノイド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/073 20100101AFI20241126BHJP
C12M 1/00 20060101ALN20241126BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20241126BHJP
【FI】
C12N5/073
C12M1/00 A
C12Q1/686 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024160470
(22)【出願日】2024-09-17
(62)【分割の表示】P 2022178961の分割
【原出願日】2022-11-08
(31)【優先権主張番号】10-2021-0153107
(32)【優先日】2021-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0120733
(32)【優先日】2022-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】515312427
【氏名又は名称】ポステック・リサーチ・アンド・ビジネス・ディベロップメント・ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】POSTECH RESEARCH AND BUSINESS DEVELOPMENT FOUNDATION
(71)【出願人】
【識別番号】515351884
【氏名又は名称】ユニスト(ウルサン ナショナル インスティテュート オブ サイエンス アンド テクノロジー)
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】キム、ドン ソン
(72)【発明者】
【氏名】パク、テ ウン
(72)【発明者】
【氏名】イム、ヒョン ジ
(72)【発明者】
【氏名】キム、ド ヒ
(57)【要約】
【課題】 腎臓オルガノイドとその製造方法を提供すること。
【解決手段】 幹細胞を後腎間葉(metanephric mesenchyme)細胞に分化させる第1ステップと、後腎間葉細胞を培養して細胞凝集体を形成する第2ステップと、後腎間葉細胞凝集体を腎臓オルガノイドに分化させる第3ステップと、を含む。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞を後腎間葉(metanephric mesenchyme)細胞に分化させる第1ステップと、
前記後腎間葉細胞を培養して細胞凝集体を形成する第2ステップと、
前記後腎間葉細胞凝集体を腎臓オルガノイドに分化させる第3ステップと、を含む
ことを特徴とする腎臓オルガノイドの製造方法。
【請求項2】
前記後腎間葉細胞に分化させR第1ステップは、酸素濃度10%未満の低酸素環境下で行われる
請求項1に記載の腎臓オルガノイドの製造方法。
【請求項3】
前記後腎間葉細胞に分化させる第1ステップは、i)GSK-3β阻害剤及びBMP4阻害剤を含む培地、ii)アクチビンAを含む培地、iii)FGF9を含む培地、及びこれらのうちの少なくとも2つを混合した培地、のうちの少なくとも1つの培地で培養するステップを含み、8~9日間行われる
請求項1に記載の腎臓オルガノイドの製造方法。
【請求項4】
前記細胞凝集体を形成する第2ステップは、GSK-3β阻害剤及びFGF9を含む培地で2~3日間行われる
請求項1に記載の腎臓オルガノイドの製造方法。
【請求項5】
前記腎臓オルガノイドに分化させる第3ステップは、FBSを含む培地で7~100日間行われる
請求項1に記載の腎臓オルガノイドの製造方法。
【請求項6】
前記腎臓オルガノイドに分化させる第3ステップは、25~50ng/mlのFGF9をさらに含んで2~5日間培養するステップを含む
請求項1に記載の腎臓オルガノイド製造方法。
【請求項7】
前記第2ステップ及び第3ステップはマイクロウェルで行われる
請求項1に記載の腎臓オルガノイドの製造方法。
【請求項8】
前記マイクロウェルは1つ以上の凹部を含む
請求項7に記載の腎臓オルガノイドの製造方法。
【請求項9】
前記マイクロウェルは多孔質マイクロウェルである
請求項8に記載の腎臓オルガノイドの製造方法。
【請求項10】
低酸素条件下で形成された後腎間葉細胞凝集体から分化した腎臓オルガノイドであって、
前記腎臓オルガノイドは、
正常酸素条件下で形成された後腎間葉細胞凝集体から分化した腎臓オルガノイドに比べて、近位尿細管に対応するmRNA、ヘンレループに対応するmRNA、及び遠位尿細管に対応するmRNAのうちの少なくとも一つの発現量が相対的に高いことを特徴とし、
前記低酸素条件は、酸素濃度1%超過~10%未満であり、
前記正常酸素条件は、酸素濃度10%以上である
ことを特徴とする腎臓オルガノイド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎臓オルガノイド及びそれを製造する方法に係り、より詳細には、透過性多孔質ウェル及び新しいプロトコルを適用して、より向上したネフロン構造を有する腎臓オルガノイドを形成する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
胚性幹細胞(ESC:embryonic stem cell)及び人工多能性幹細胞(iPSC:induced Pluripotent Stem Cell)を含む多能性幹細胞(PSC:Pluripotent Stem Cell)分化は、腎臓を含む様々な組織のオルガノイドモデルの生成を可能にした。
【0003】
腎臓オルガノイドは、腎臓の発達過程を模して形成される三次元細胞凝集体であり、様々な腎臓細胞で構成されており、腎臓に似ている構造を具現化することにより、薬物の腎毒性評価及び腎疾患治療剤の研究などのためのin vitro腎臓モデルへの潜在性を示している。そこで、腎臓オルガノイド形成のために多くの研究が行われており、様々な腎臓オルガノイド形成方法が提案されてきた。
【0004】
一般に、三次元腎臓オルガノイドを形成するには、細胞を三次元凝集体にすることができるウェルプレートやマイクロウェルアレイ(microwell array)などのウェル型プラットフォームが用いられる。しかしながら、従来の不透過性ウェルの場合、栄養素及び成長因子(growth factor)の供給と代謝物(metabolites)の除去が円滑に行われないため、腎臓オルガノイドの生存率が低下し、未成熟の原因となる可能性がある。
【0005】
一方、最近、幹細胞分野の進歩に伴い、ヒト多能性幹細胞(hPSC)から腎臓オルガノイドを生成するためのいくつかの異なるプロトコルが確立されている。hPSC由来の腎臓オルガノイドは、ネフロン様配列(arrangement)として足細胞(podocyte)、近位尿細管上皮細胞(proximal tubule epithelial cell)及び遠位尿細管上皮細胞(distal tubule epithelial cell)を含む分節構造を持っている。In vitroでのhPSC-腎臓オルガノイドとin vivoでの腎臓組織の比較分析は、腎臓オルガノイドがヒト腎臓の発達を再現することを示した。しかしながら、ネフロン様構造の限られた血管化(vascularization)及び未成熟問題は、依然として克服すべき課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の一態様は、透過性多孔質ウェル及び新しいプロトコルを適用して、より向上したネフロン構造を有する腎臓オルガノイドの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、幹細胞を後腎間葉細胞に分化させる第1ステップと、前記後腎間葉細胞を培養して細胞凝集体を形成する第2ステップと、前記後腎間葉細胞凝集体を腎臓オルガノイドに分化させる第3ステップと、を含む、腎臓オルガノイドの製造方法を提供する。
【0009】
また、本発明による腎臓オルガノイドの製造方法において、前記後腎間葉細胞に分化させR第1ステップは、酸素濃度10%未満の低酸素環境下で行われてもよい。
【0010】
さらに、本発明による腎臓オルガノイドの製造方法において、前記後腎間葉細胞に分化させる第1ステップは、i)GSK-3β阻害剤及びBMP4阻害剤を含む培地、ii)アクチビンAを含む培地、iii)FGF9を含む培地、及びこれらのうちの少なくとも2つを混合した培地、のうちの少なくとも1つの培地で培養するステップを含み、8~9日間行われてもよい。
【0011】
さらにまた、本発明による腎臓オルガノイドの製造方法において、前記細胞凝集体を形成する第2ステップは、GSK-3β阻害剤及びFGF9を含む培地で2~3日間行われてもよい。
【0012】
さらにまた、本発明による腎臓オルガノイドの製造方法において、前記腎臓オルガノイドに分化させる第3ステップは、FBSを含む培地で7~100日間行われてもよい。
【0013】
さらにまた、本発明による腎臓オルガノイドの製造方法において、前記第2ステップ及び第3ステップはマイクロウェルで行われてもよい。
【0014】
さらにまた、本発明による腎臓オルガノイドの製造方法において、前記マイクロウェルは1つ以上の凹部を含んでいてもよい。
【0015】
さらにまた、本発明による腎臓オルガノイドの製造方法において、前記マイクロウェルは多孔質マイクロウェルであってもよい。
【0016】
さらにまた、本発明による腎臓オルガノイドは、低酸素条件下で形成された後腎間葉細胞凝集体から分化した腎臓オルガノイドであって、前記腎臓オルガノイドは、正常酸素条件下で形成された後腎間葉細胞凝集体から分化した腎臓オルガノイドに比べて、近位尿細管に対応するmRNA、ヘンレループに対応するmRNA、及び遠位尿細管に対応するmRNAのうちの少なくとも一つの発現量が相対的に高いことを特徴とし、前記低酸素条件は、酸素濃度1%超過~10%未満であり、前記正常酸素条件は、酸素濃度10%以上であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、新しいプロトコルの適用により分化成功率が向上し、より明瞭な尿細管構造が形成でき、さらに透過性ウェルを活用することにより、より向上したネフロン機能を発現する腎臓オルガノイドを形成することができる。したがって、本発明により得られる腎臓オルガノイドを用いる場合、腎臓関連疾患の研究や腎毒性薬物の評価などのin vitro腎臓モデルが用いられる分野において、実際のin vivo腎臓の疾患や薬物の吸収などの現象をin vitroで模倣することができるので、製薬分野や組織工学分野で広く活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に適用できる透過性ウェルの例示的な製造工程及び製造されたウェルを示す図である。
【
図2】本発明に適用できる透過性ウェルの断面を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態によって得られた透過性ウェル上に形成された腎臓オルガノイドを示す図である。
【
図4】不透過性ウェルアレイで形成された腎臓オルガノイドの免疫蛍光染色と、透過性ウェルアレイで形成された腎臓オルガノイドの免疫蛍光染色とを比較した結果を示す図である。
【
図5】不透過性ウェルアレイで形成された腎臓オルガノイドの成熟度と、透過性ウェルアレイで形成された腎臓オルガノイドの成熟度とを比較した結果を示す図である。
【
図6】第1ステップにおける酸素条件による違いを示す図である。
【
図7】
図7の(a)は、第1ステップにおける酸素条件による違いを確認するために、後期原始線条(late primitive streak)マーカーであるBrachyury(T)の発現量を逆転写ポリメラーゼ連鎖反応により分析した結果をグラフで示す図であり、
図7の(b)は、分化21日目に形成された腎臓オルガノイドを免疫蛍光染色により分析した結果においても、低酸素条件(5%)でネフロン構造がより明瞭に観察された結果は示す図である。
【
図8】各酸素条件下で分化した腎臓オルガノイド内における管状構造または接続構造を観察した結果を示す図である。
【
図9】各酸素条件下で分化した腎臓オルガノイド内における管状構造または接続構造を観察した結果を示す図である。
【
図10】各酸素条件下で分化した腎臓オルガノイドの細胞表面を比較した図である。
【
図11】尿管芽(UB:Ureteric Bud)の形状及び分化様相を比較観察した結果を示す図である。
【
図12】第3ステップにおいてFGF9の濃度によるネフロン構造への発達を示す図である。
【
図13】第3ステップにおいてFBSが含まれている否かによる分化度を免疫蛍光染色法により分析した結果を示す図である。
【
図14】本発明の実施形態により透過性ウェル上に形成された腎臓オルガノイドの薬物毒性の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。しかし、本発明の実施形態は種々の他の形態に変形でき、本発明の範囲は以下で説明する実施形態に限定されるものではない。
【0020】
本発明の腎臓オルガノイドの製造方法は、幹細胞を後腎間葉(metanephric mesenchyme)細胞に分化させる第1ステップと、後腎間葉細胞を培養して細胞凝集体を形成する第2ステップと、後腎間葉細胞凝集体を腎臓オルガノイドに分化させる第3ステップと、を含む。
【0021】
本発明で使用可能な前記幹細胞は、人工多能性幹細胞(iPSC)及び胚性幹細胞(ESC)のうちの少なくとも一つであり得、例えば、人工多能性幹細胞(iPSC)であり得る。
【0022】
本発明で使用できる基本培地は、動物細胞の培養に用いられる基礎培地であり、例えば、IMDM培地、メディウム(Medium)199培地、イーグル最小必須培地(EMEM:Eagle’s Minimum Essential Medium)、アルファ最小必須培地(αMEM:alpha-minimum essential medium)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM:Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)、ハムF12(Ham’sF12)培地、ロズウェル・パーク・メモリアル・インスティテュート(RPMI)1640培地、高度RPMI(Advanced RPMI)1640培地、フィッシャー培地(Fischer’s medium)、マッコイ5A培地(McCoy’s 5A medium)、基本培地イーグル(BME:Basal medium Eagle’s)、MCDB培地(MCDB media)及びこれらの混合培地などが含まれる。例えば、Advanced RPMI 1640は、RPMI 1640よりもFBSの含有量が少ないため、、細胞の成長率や細胞の形態及び機能の変化なしに、より再現性の高い実験を行うことができ、好ましい。
【0023】
必要に応じて、例えば、アルブミン、トランスフェリン、ノックアウト血清交換(KSR:KnockOut Serum Replacement)(ES細胞培養時の血清代替物)(Invitrogen)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3’-チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、GlutaMAX(Invitrogen)、非必須アミノ酸(NEAA)、ビタミン、成長因子、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類及びこれらの同等物などの1つ以上の物質も含有してもよい。ReproFF2(リプロセル)、StemFit Basic medium(味の素株式会社)など予め幹細胞培養用に最適化した培地を用いてもよい。
【0024】
一方、前記後腎間葉細胞に分化させる第1ステップは、酸素濃度が1%超~10%未満の低酸素雰囲気下で行うことが好ましく、例えば、1%超~5%以下の酸素分圧であることが好ましい。前記第1ステップにおいて酸素濃度が10%以上である場合、分化の初期ステップである第1ステップで好ましくは約4日目に現れるべきドーム様の形状の安定した誘導に問題があった。また、前記第1ステップにおいて酸素濃度が1%である場合、9日目までの分化の結果、腎臓オルガノイドが比較的小さく形成され、ネフロン構造の観察が困難であり、形成されたオルガノイドの個数も、酸素濃度5%の条件での分化に比べて著しく減少する様子を示したので、酸素濃度が1%以下である条件では、分化が不安定であるという問題があることが確認された。
【0025】
実際のヒト胚の発達過程の初期には血管化がされておらず、低酸素環境で発達が進行し、このような低酸素条件下での腎臓の発達が、低酸素誘導因子であるHIFの活性化を通じて尿細管形成を向上させるという点に基づいて、本発明では、腎臓オルガノイド分化の際、初期ステップである第1ステップでの雰囲気を、胚発達環境である低酸素条件にした。一方、第2ステップ及び第3ステップでは、正常酸素分圧で分化を行った。このように、前記第1ステップで低酸素条件が導入された新しいプロトコルで分化した腎臓オルガノイドは、第3ステップ完了後、例えば、21日目で、低酸素条件が導入されていない条件で分化した腎臓オルガノイドに比べて、再現率の高い明瞭な尿細管構造を表すことができる。
【0026】
一方、前記後腎間葉細胞に分化させる第1ステップは、i)GSK-3β阻害剤及びBMP4阻害剤を含む培地、ii)アクチビンAを含む培地、iii)FGF9を含む培地、及びこれらのうちの少なくとも2つを混合した培地、のうちの少なくとも1つの培地で培養するステップを含み、8~10日間行われてもよい。
【0027】
例えば、前記後腎間葉細胞に分化させる第1ステップは、i)GSK-3β阻害剤及びBMP4阻害剤を含む培地、ii)アクチビンAを含む培地、及びiii)FGF9を含む培地で順次、培地当たり1~4日間培養するステップを含むことが好ましい。例えば、i)GSK-3β阻害剤及びBMP4阻害剤を含む培地で約4日間、ii)アクチビンAを含む培地で約3日間、及びiii)FGF9を含む培地で約2日間、順次培養してもよい。
【0028】
前記BMP4阻害剤としては、コーディン(Chordind)、ノギン(NOGGIN)、フォリスタチン(Follistatin)等のタンパク質性阻害剤、ドルソモルフィン(6-[4-(2-ピペリジン-1-イル-エトキシ)フェニル]-3-ピリジン-4-イル-ピラゾロ[1,5]-a]ピリミジン)、LDN193189(4-(6-(4-(ピペラジン-1-イル)フェニル)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル)キノリン)、グレムリン(Grem1),スクレロスチン,ねじれ原腸形成(Twisted gastrulation)(Tsg)タンパク質などが挙げられる。好ましいBMP4阻害剤は、NOGGINであり、その濃度は、例えば、1~100ng/ml、好ましくは5~20ng/mlであってもよい。
【0029】
前記GSK-3β阻害剤としては、例えば、CHIR、CHIR99021などが挙げられる。GSK-3β阻害剤の濃度は、使用するGSK-3β阻害剤に応じて当業者が適宜選択可能であるが、例えば、0.01~100μM、好ましくは0.1~10μMである。
【0030】
前記細胞凝集体を形成する第2ステップは、GSK-3β阻害剤及びFGF9を含む培地で2~3日間行われることが好ましい。
【0031】
一方、前記第1ステップ及び第2ステップで使用する培地のFGF9濃度は、5ng/ml以上25ng/ml未満の濃度であり、FGF9濃度が5ng/ml未満の場合、ネフロン幹細胞の発達と維持に問題があり、25ng/ml以上の場合、腎臓オルガノイドへの分化効率が不安定であるという問題がある。
【0032】
前記腎臓オルガノイドに分化させる第3ステップは、FBSを含む培地で7~100日間、例えば、10~50日間、または15~30日間、例えば、16~21日間行われることが好ましい。例えば、前記腎臓オルガノイドに分化させる第3ステップは、培地組成物の全体積に対して0.5~5体積%のFBSを含む培地で7~100日間行われる。FBS濃度が0.5体積%未満の場合、形成される腎臓オルガノイドのネフロン構造の観察に問題があり、5体積%超過の場合、細胞の成長率や遺伝子及びタンパク質発現に影響を与え、細胞の表現型が変わることがあるため、腎臓オルガノイドに分化させるのに問題がある。
【0033】
前述のように、FBS成分を含む場合、三次元構造の腎臓オルガノイドに、FBS内に含まれる成長因子、ECM分子、ホルモン等を供給することにより、分化が完了するまで細胞の生存率を維持しつつ分化を正常に行うことができる。
【0034】
一方、前記腎臓オルガノイドに分化させる第3ステップは、25~50ng/ml、例えば、25~40ng/mlのFGF9をさらに含んで2~5日間培養するステップを含むもので、前記第1ステップ及び第2ステップにおける低濃度のFGF9とは異なり、高濃度のFGF9を含んで行われることが好ましい。前記第3ステップにおけるFGF9濃度が25ng/ml未満の場合、腎臓オルガノイドが発達した尿細管構造を有することに問題があり、50ng/ml超過の場合、細胞増殖率に影響を与え、腎臓オルガノイドを安定して分化させることに問題がある。
【0035】
一方、前記25~50ng/mlのFGF9をさらに含んで2~5日間培養するステップは、前記第3ステップの開始時点または初期に含まれるものであってもよく、好ましくは、第3ステップの開始から2~5日間、25~50ng/mlのFGF9をさらに含む培地を用いて培養を行う。
【0036】
第2ステップで細胞凝集体に分化する場合、成長因子が細胞凝集体に十分に伝達されないため、第3ステップでネフロン幹細胞の成長と維持に必要なFGF9の濃度を25~50ng/mlに向上させて、尿細管構造への分化をより良く向上させることができる。
【0037】
一方、本発明において、前記第2ステップ及び第3ステップは、マイクロウェルで行われることが好ましく、このとき、前記マイクロウェルは、1つ以上の凹部を含み得、前記1つ以上の凹部は、マイクロウェルの下部に形成されることが好ましい。一方、前記マイクロウェルは多孔質マイクロウェルであることが好ましく、多孔質マイクロウェルは多孔質膜で形成されていてもよい。例えば、韓国登録特許第10-2224065B1号公報に記載の多孔質マイクロウェルに関する技術を採用してもよい。
【0038】
上記のような本発明のプロトコルを用いて腎臓オルガノイドを分化させる場合、分化成功率が均一で安定しており、再現性のある腎臓オルガノイドを形成することができる。
【0039】
本発明の腎臓オルガノイドの製造方法により提供されるプロトコルによれば、分化成功率が向上し、さらに尿細管の構造を円滑に形成することができる。
【0040】
以下、具体的な実施例により本発明をより具体的に説明する。下記実施例は、本発明の理解を助けるための例示に過ぎず、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0041】
実施例
1.腎臓オルガノイドの製造
実施例1
ゲルトレックス(Geltrex)1%でコーティングされた24ウェルプレートに、25,000~30,000細胞/ウェル濃度の人工多能性幹細胞(iPSC)(IMR90-4、WiCellまたはWTC-11、コリエル研究所(CORIELL INSTITUTE))を播種し、このとき、培地としては、Y-27632 10μMを含むmTeSRTM1を使用した。一日後、新しいmTeSRTM1培地に交換したところ、この時点から前記幹細胞(iPSC)がコロニー(colony、細胞群)を形成することが確認された。
【0042】
前記幹細胞(iPSC)コロニーがウェルを約35~40%満たした時点から、酸素分圧5%の分化培地で分化させるステップを実施し始めた(D0)。このとき、分化培地としては、CHIR10μM、グルタマックス(Glutamax)100×(すなわち、全培地組成物の全体積に対して1体積%)及びノギン(Noggin)10ng/mlを含むAdvanced RPMI 1640の混合培地(RPMI 1640よりもFBS含有量が低い培地)を使用し、低酸素環境(5%O2)で行った。2日目(D2)に新しい分化培地に交換し、4日目(D4)に細胞のモルフォロジー(morphology)がドーム様の形状(dome like morphology)になったときにアクチビンA培地で処理した。このとき、アクチビンA培地としては、アクチビンA10ng/ml及びGlutamax100×(全培地組成物の全体積に対して1体積%)を含むAdvanced RPMI 1640の混合培地を用いた。7日目(D7)に低濃度FGF9培地で処理し、このとき、低濃度FGF9培地としては、FGF9 10ng/ml及びGlutamax100×(全培地組成物の全体積に対して1体積%)を含むAdvanced RPMI 1640の混合培地を用いた。
【0043】
このとき使用する透過性ウェルは、
図1に示すように作製することができ、まず、
図1の(a)に示すように、透過性膜を、ヘキサフルオロ-2-プロパノール(Hexafluoro-2-propanol)溶液にポリカプロラクトン(Polycarprolacton)とプルロニック(登録商標)(Pluronic)F108を5:5で混合した濃度5~25%の溶液を用いてエレクトロスピニング(電気紡糸)工程により作製し、その後、
図1の(b)に示すように、ネガティブモールド及びポジティブモールドを用いて熱成形工程を経て透過性ウェルを製造することができる。このようにして製造された透過性ウェルは、多孔質構造を有していることが分かる(
図1の(c))。本発明で使用する透過性ウェルの断面を
図2に示した。
【0044】
9日目(D9)に、ウェルプレートで分化した後腎間葉(metanephric mesenchyme)細胞をアキュターゼ(Accutase)で処理をして分離した後、透過性ウェルに800μMウェル基準20,000細胞/ウェルで播種した。この際、使用培地としては、CHIR 3μM及びFGF9 10ng/mlを含むAdvanced RPMI 1640及びGlutamax100×(全培地組成物の全体積に対して1体積%)の混合培地を用い、9日目から酸素分圧21%で培養して細胞凝集体を形成した。
【0045】
11日目(D11)に高濃度FGF9培地に交換し、このとき、高濃度FGF9培地としては、FGF9 30ng/ml、Advanced RPMI 1640及びGlutamax100×(全培地組成物の全体積に対して1体積%)の混合培地を用い、酸素分圧21%で培養して腎小胞(Renal Vesicle)ステップに分化した。
【0046】
14日目(D14)に、基本分化培地として、全培地体積に対してFBS1.5体積%を含むAdvanced RPMI 1640及びGlutamax100×(全培地組成物の全体積に対して1体積%)の混合培地を用いて21日まで培養した。その結果、
図3に示すように、透過性ウェル上に形成された腎臓オルガノイドが確認された。
【0047】
比較例1
実施例1と同様の手順により腎臓オルガノイドを製造したが、透過性ウェルではなく不透過性ウェルとしてAggrewell(商標)を用いて腎臓オルガノイドを製造した。
【0048】
2.ウェルタイプによる腎臓オルガノイドの違いの確認
(1)分化の均一性の確認
分化した腎臓オルガノイドを分化21日目(D21)にDPBS(Dulbecco’s PBS)で5分間洗浄(Washing)した後、2時間全溶液体積に対して4体積%PFAで常温にて処理して腎臓オルガノイドを固定した。2時間後、DPBSで10分間3回ずつ洗浄し、全緩衝溶液体積に対して0.3体積%のトリトンX-100と5体積%ロバ血清(donkey serum)で処理して常温でブロッキングした。2時間処理した後、全緩衝溶液体積に対して0.3体積%のトリトンX-100と0.5体積%のウシ血清アルブミン(BSA、Bovine Serum Albumin)(0.5%BSA(質量/体積))を含有する緩衝溶液で一次抗体を希釈し、4℃で5日間処理した。全緩衝溶液体積に対して0.3体積%のトリトンX-100のPBSTで常温にて10分間3回ずつ洗浄し、全緩衝溶液体積に対して0.3体積%のトリトンX-100と0.5体積%のウシ血清アルブミン(BSA)を含む緩衝液で二次抗体を希釈し、4℃で一晩処理した。翌日、全緩衝溶液体積に対して0.3体積%のトリトンX-100のPBSTで常温にて20分間3回洗浄し、DPBSで1μg/mlの濃度にDAPI(4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)を希釈して4℃で一晩処理し、その後、DPBSで10分間3回洗浄した。この手順により、上記実施例1及び比較例1で製造した腎臓オルガノイドに対して免疫蛍光染色実験を行った。
【0049】
図4の(a)に示す、不透過性ウェルアレイで形成された腎臓オルガノイド免疫蛍光染色と透過性ウェルアレイで形成された腎臓オルガノイド免疫蛍光染色とを比較した結果から分かるように、腎臓のネフロンに存在するPODXL(ポドサイト:podocyte)、LTL(proximal tubule epithelial cell:近位尿細管上皮細胞)、ECAD(distal tubule epithelial cell:遠位尿細管上皮細胞)マーカーを比較した場合、本発明による実施例1の透過性ウェルで形成された腎臓オルガノイドは均一によく分化しているのに対し、比較例1の不透過性ウェルアレイで形成された腎臓オルガノイドでは均一性が低下することが確認された。また、均一性を定量的に見ると、
図4の(b)に示すように、不透過性ウェルアレイで形成された腎臓オルガノイドの直径は100~400μmであり、透過性ウェルアレイで形成された腎臓オーガノイドの直径は200~350μmであることが確認された。すなわち、不透過性ウェルアレイで形成された腎臓オルガノイドは、異なる直径値を持つ腎臓オルガノイドに不均一に分化したのに対し、透過性ウェルアレイで形成された腎臓オルガノイドは、比較的類似した直径値を持つ腎臓オルガノイドに均一に分化したことがわかる。
【0050】
(2)腎臓オルガノイド成熟度の確認
逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR:Reverse Transcription quantitative Polymer Chain Reaction)
法により、人工多能性幹細胞(iPSCs)を対照群として使用して、腎臓オルガノイドで発現するマーカーを定量化することにより、分化した腎臓オルガノイドの成熟度を分析した。実験条件において、95℃で1分間処理した後、95℃で15秒、56℃または62.7℃で15秒、72℃で45秒を1サイクルとして40回繰り返した。この手順により、上記実施例1及び比較例1で製造した腎臓オルガノイドの成熟度を確認する実験を行った。
【0051】
その結果、
図5に示すように、腎臓のネフロンに存在するPODXL(ポドサイト)、LTL(近位尿細管上皮細胞)、ECAD(遠位尿細管上皮細胞)マーカーを比較した場合、本発明による実施例1の透過性ウェルアレイで形成された腎臓オルガノイドは、全てのマーカーにおいて、比較例1の不透過性ウェルアレイで形成された腎臓オルガノイドよりも向上した結果を示すことが確認できた。具体的に、透過性ウェルで形成された腎臓オルガノイドは、不透過性ウェルで形成された腎臓オルガノイドと比較すると、PODXL(ポドサイト;足細胞)に対応するmRNA、LTL(近位尿細管細胞)に対応するmRNA、ECAD(遠位尿細管細胞)に対応するmRNAは、いずれも1倍超2倍以内の範囲でより高い発現量を示した。
【0052】
3.プロトコルによる腎臓オルガノイドの違いの確認
(1)細胞に分化させる第1ステップにおける酸素濃度による違い
実施例1と同様の手順により腎臓オルガノイドを製造するが、第1ステップにおいて低酸素条件ではなく酸素濃度21%で分化させた場合、
図6に示すように、分化4日目になっても細胞のモルフォロジーがドーム様の形状に密集していないが(右写真)、5%低酸素条件で分化させた場合、3日でドーム様の形状が見られ、4日目までその形状を維持し、分化4日目では各バッチともドーム様の形状が安定して見られることが確認された(左写真)。
【0053】
より明確に確認するために、後期原始線条(late primitive streak)マーカーであるブラキウリ(Brachyury)(T)の発現量を逆転写ポリメラーゼ連鎖反応により分析した結果、
図7の(a)に示すように、後期原始線条マーカーであるブラキウリ(T)の発現量は、酸素環境21%よりも低酸素環境5%で分化した腎臓オルガノイドでさらに向上することが確認された。
【0054】
さらに、分化21日目に免疫蛍光染色で分析した結果においても、低酸素条件5%でネフロン構造がより明瞭に観察された(
図7の(b))。
【0055】
また、5%低酸素条件下で9日目まで分化させた腎臓オルガノイドと、従来のプロトコルによる正常酸素条件(例えば、酸素環境21%)下で9日目まで分化させた腎臓オルガノイドとを、免疫蛍光染色実験により比較した際にも有意差があることが確認できた。具体的に、
図8の(a)に示すように、近位尿細管(LTL)マーカーと遠位尿細管(ECAD)マーカーにより染色された管構造は、低酸素条件下で分化した腎臓オルガノイドで観察されたものが、正常酸素条件下で分化した腎臓オルガノイドで観察されたものよりも長いことが確認できた。また、これを定量的に分析した結果においても、低酸素条件下で分化したオルガノイドの「オルガノイド当たりの尿細管マーカーの染色率」が、正常酸素条件下で分化したオルガノイドよりも高いことが確認できた。
図8の(b)は、各尿細管マーカーのmRNA発現量を比較したグラフであり、低酸素条件下で分化したオルガノイド内の近位尿細管に対応するmRNA(ABCB1、AQP1、SLC34A1)、ヘンレループに対応するmRNA(UMOD)、遠位尿細管に対応するmRNA(ECAD)の発現量は、正常酸素条件下で分化したオルガノイドでのものに比べて、相対的に高い値を有することが確認できた。より正確には、低酸素条件下で分化したオルガノイドの場合、正常酸素条件下で分化したものと比較して、ABCB1 mRNAは3倍以上、AQP1 mRNAは2倍以上、SLC34A1 mRNAは2倍以上、UMOD mRNAは1.5倍以上、ECAD mRNAは2倍以上の発現量を示した。
【0056】
一方、5%低酸素条件下で形成された腎臓オルガノイドは、上記のように正常酸素条件下で形成された腎臓オルガノイドよりも長い管状構造を有するだけでなく、管状構造が長くなることにより隣接するオルガノイド同士が接続される様相も見られた。ヒトのネフロン構造は、皮質の深いところでは尿細管が接続してネフロン同士が接続する構造をしていることが知られている。このように低酸素条件下で隣接するオルガノイド同士が長い管状構造によって接続されているという観察結果は、低酸素条件下で形成された腎臓オルガノイドが実際のヒトネフロンと構造が類似していることを示唆している。
【0057】
図9は、正常酸素条件(酸素環境21%)で形成された腎臓オルガノイド内での接続構造と、低酸素条件(酸素環境5%)で形成された腎臓オルガノイド内での接続構造とを比較観察した別の結果を示す。
図9の(a)を参照すると、正常酸素条件下では、写真の隣接するオルガノイド間に特別な接続構造が見られないのに対し、低酸素条件では、隣接するオルガノイド間に管状構造が形成されていることがわかる。また、
図9の(b)は、遠位尿細管と集合管の両方で染色されるECADマーカーと、集合管で染色されるCALB1マーカーとの染色結果を示したものであり、左側の正常酸素条件とは異なり、右側の低酸素環境では、隣接するオルガノイド間を接続する長い管状構造でCALB1マーカーが鮮明に見えるという点から、低酸素条件下で分化したオルガノイド内で隣接するオルガノイド間に構造的に集合管が形成されていることがわかる。参考までに、(b)の左写真は1:50μm、右写真は1:100μmのスケールで示したものである。また、
図9の(c)は、集合管を構成する3種類の細胞とそのマーカーである主細胞(principal cell)(AQP2、AQP4)、α型介在細胞(type alpha intercalated cell)(SLC4A1)、及びβ型介在細胞(type beta intercalacted cell)(SLC26A4)のマーカーを含む合計4種類の遺伝子発現量を相対的に比較したグラフである。低酸素条件下で分化したオルガノイドの場合、正常酸素条件下で分化したものに比べて、AQP2 mRNAは2倍以上、AQP4 mRNAは2倍以上、SLC4A1 mRNAは1.5倍以上、SLC26A4 mRNAは2倍以上の発現量を示した。一方、低酸素条件下で分化した腎臓オルガノイドを21日目に観察した結果、(d)に示すように、集合管の主細胞マーカーであるCALB1遺伝子発現量が、正常酸素条件下で分化した腎臓オルガノイドに比べて15倍以上高いことが確認された。
【0058】
図10の(a)は、正常酸素条件(酸素濃度21%)及び低酸素条件(酸素濃度5%)で分化した腎臓オルガノイドの細胞表面を、SEM画像で比較したものである。ヒトの腎臓において、近位尿細管上皮細胞は、1本の長い一次繊毛とその周りに存在する微細絨毛とを有し、遠位尿細管上皮細胞は、微細絨毛なしに1本の長い一次繊毛のみを有するということが知られている。このとき、一次繊毛が腎臓でのネフロンの構造と機能を維持する役割を果たしていることも知られている。
図10の(a)を参照すると、写真画像から、正常酸素条件下で分化したオルガノイドに比べて、低酸素条件下で分化したオルガノイドは、より高密度に形成された近位尿細管上皮細胞の微細絨毛を有し、近位尿細管上皮細胞及び遠位尿細管上皮細胞の一次繊毛もより長く形成され、実際のヒトの繊毛の長さに似ていることが確認できた。
図10の(b)は、一次繊毛に発現して繊毛の発達に影響を与えるタンパク質ANO1の遺伝子発現量を比較したもので、低酸素条件下でのANO1 mRNA発現量が、正常酸素条件下でのANO1 mRNA発現量に比べて1.5倍以上高いことが観察された。これにより、低酸素条件下では繊毛が長く形成されることが推論できる。
【0059】
図11は、集合管幹細胞である尿管芽(UB)の形状と分化様相を比較観察した結果を示したものである。集合管が形成されることでネフロン幹細胞が形成される時期が9日目であるが、このとき、正常酸素条件(酸素濃度21%)と低酸素条件(酸素濃度5%)での尿管芽(UB)形成及び分化様相を比較した結果、両条件で大きく異なる様相が現れることが確認された。
図11の(a)を参照すると、集合管マーカー及びUBマーカーとして使用されるCALB1が両方の条件で発現することが分かるが、その発現様相は、正常酸素条件下では特定の構造を形成しないのに対し、低酸素条件下では、CALB1が、SIX2が発現している腎小胞(renal vesicle)の周辺に沿って構造的に発現していることが確認できる。また、低酸素環境下で蓄積することが知られている低酸素誘導因子(HIF1A)を染色して比較した結果、低酸素条件での発現量が、正常酸素条件での発現量よりも著しく高いことが確認でき、CALB1の発現部位に蓄積して集合管の発達に影響を与えたことを推論できた。一方、遺伝子レベルでは、MM(Metanephric mesenchyme;後腎間葉)細胞とUB細胞のmRNA発現量を比較してみた結果、低酸素条件下で、MMマーカーであるSIX2は、正常酸素条件に比べて相対的に減少したものに対し、UBマーカーであるCALB1は、正常酸素条件に比べて1.5倍以上に増加したことが確認でき、この点から、分化過程でUB細胞が発達することにより、低酸素条件下で集合管が形成できたことが分かる。
【0060】
(2)オルガノイドに分化させる第3ステップにおけるFGF9濃度による違い
実施例1と同様の手順により腎臓オルガノイドを製造するが、第3ステップにおいて、FGF9をそれぞれ10μg/ml、20μg/mlの濃度で含む培地で処理した場合には、全ての培地で安定したネフロン構造を持たないという問題があった。
【0061】
一方、実施例1のように30ng/ml濃度で混合した培地で腎臓オルガノイドを分化させると、細胞がより安定してネフロン構造に発達し、特に尿細管構造に明確に分化することを観察し、分化第3ステップでは、30ng/mlのより高い濃度のFGF9で処理することが好ましいことを確認した。
図12は、第3ステップにおけるFGF9濃度によるネフロン構造への発達を示すものである。
【0062】
(3)オルガノイドに分化させる第3ステップにおけるFBS有無による違い
オルガノイドに分化させる第3ステップにおけるFBS有無による分化度を免疫蛍光染色法で分析し、その結果を
図13に示した。
図13に示すように、FBSなしの培地組成で分化した腎臓オルガノイドでは、内部にネフロン構造が観察できなかったが、全培地組成の1.5体積%でFBSを添加した培地組成で分化した腎臓オルガノイドでは、内部にネフロンと類似の構造を有することが確認された。
【0063】
4.腎臓オルガノイドの薬物毒性の評価
Advanced RPMI 1640に0、30、60μMでタクロリムスを濃度別に37℃で24時間処理し、24時間後にDPBSで3回洗浄した後、カルセイン-AM(calcein-AM)とエチジウムホモダイマー-1(ethidium homodimer-1)でそれぞれ生細胞と四細胞を染色した。この手順により、前記実施例1で得られた腎臓オルガノイドの薬物毒性を評価した。
【0064】
その結果、
図14に示すように、腎毒性があると知られているタクロリムス(FK506)を濃度別に処理すると、濃度が高くなるほど細胞が多く死滅することが観察され、これにより本発明による腎臓オルガノイドが製造されたことが確認できた。
【0065】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明の権利範囲はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的思想から逸脱しない範囲内で種々の修正及び変形が可能であることは、当技術分野で通常の知識を有する者には自明である。