(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167449
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】情報処理方法、プログラム及び画像診断装置
(51)【国際特許分類】
A61B 8/08 20060101AFI20241127BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20241127BHJP
【FI】
A61B8/08
G06T7/00 612
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142604
(22)【出願日】2021-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】517346521
【氏名又は名称】株式会社Lily MedTech
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】小池 樹
(72)【発明者】
【氏名】陣内 佑
(72)【発明者】
【氏名】ピツワラ カンカナマゲ カウシャリヤ マーデワ
(72)【発明者】
【氏名】東 隆
【テーマコード(参考)】
4C601
5L096
【Fターム(参考)】
4C601BB03
4C601DD08
4C601DD18
4C601EE09
4C601EE10
4C601GB05
4C601GC10
4C601JB28
4C601JB34
4C601JB48
4C601JB51
4C601JC05
4C601JC06
4C601JC11
4C601JC12
4C601KK31
5L096AA06
5L096BA06
5L096BA13
5L096DA02
5L096EA14
5L096HA09
5L096HA11
5L096JA11
5L096JA18
5L096KA04
5L096KA15
(57)【要約】
【課題】スピキュラ等の構築の乱れを好適に特定することができる情報処理方法等を提供する。
【解決手段】情報処理方法は、乳房の断面を複数位置で撮像した複数のフレーム画像を取得し、各フレーム画像内の各点について、線構造の集中度合いを示す線集中度を算出し、前記線集中度が一定以上の領域を前記各フレーム画像から抽出し、抽出した領域の前記各フレーム画像間の移動量に応じて、前記各フレーム画像における構築の乱れが偽陽性であるか否かを判定する処理をコンピュータが実行する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳房の断面を複数位置で撮像した複数のフレーム画像を取得し、
各フレーム画像内の各点について、線構造の集中度合いを示す線集中度を算出し、
前記線集中度が一定以上の領域を前記各フレーム画像から抽出し、
抽出した領域の前記各フレーム画像間の移動量に応じて、前記各フレーム画像における構築の乱れが偽陽性であるか否かを判定する
処理をコンピュータが実行する情報処理方法。
【請求項2】
前記複数のフレーム画像から成る3次元ボリュームデータを入力した場合に構築の乱れが生じている領域を検出するよう学習済みのモデルに、取得した前記複数のフレーム画像を入力することで前記構築の乱れが生じている領域を検出し、
前記線集中度が一定以上の領域の前記フレーム画像間の移動量に応じて、前記構築の乱れが生じている領域が偽陽性であるか否かを判定する
請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項3】
前記構築の乱れが生じている領域が陽性であると判定した場合、構築の乱れであることを表すラベルを該領域に重畳した乳房画像を出力する
請求項2に記載の情報処理方法。
【請求項4】
前記線集中度が一定以上の領域の前記フレーム画像間の移動経路を表すオブジェクトを重畳した前記乳房画像を出力する
請求項3に記載の情報処理方法。
【請求項5】
前記各フレーム画像に所定の画像フィルタを適用することで、前記各フレーム画像内の各点における前記線構造の方向を抽出し、
抽出した前記線構造の方向に基づき、前記各フレーム画像内の各点における前記線集中度を算出する
請求項1~4のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項6】
前記各フレーム画像にガボールフィルタを適用することで、前記線構造の方向及び強度を抽出し、
抽出した前記線構造の方向及び強度に基づき、前記線集中度を算出する
請求項5に記載の情報処理方法。
【請求項7】
前記線構造の強度が所定の閾値以上であるか否かに応じて、該線構造の強度を二値化し、
二値化した前記強度と、前記方向との積に基づいて前記線集中度を算出する
請求項5又は6に記載の情報処理方法。
【請求項8】
前記フレーム画像内の各点について、該各点の強度と、前記各点の周辺点の強度との平均値を算出し、
前記各点について算出した前記平均値が前記閾値以上であるか否かに応じて、前記各点の強度を二値化する
請求項7に記載の情報処理方法。
【請求項9】
前記フレーム画像内の各点を注目点として、該注目点、及び前記注目点から一定の距離内にある他の点を結ぶベクトルと、該他の点における前記線構造の方向との内積値を、前記一定の距離内にある各点について算出し、
前記注目点と前記他の点との距離が近いほど高くなる距離関数を用いて、前記一定の距離内にある各点に対応する前記内積値を重み付けし、
重み付け後の前記内積値の平均値を算出することで、前記注目点の前記線集中度を算出する
請求項5~8のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項10】
前記フレーム画像内の各点を注目点として、該注目点を中心とする円領域内の各点における前記線構造の方向に基づき、複数の方向それぞれから前記注目点に向かう前記線構造の確率値を算出し、
算出した確率値に基づき、前記注目点に向かう前記線構造が前記複数の方向それぞれに均等に分布している度合いを表す指標値を算出し、
算出した指標値に基づき、前記線集中度を補正する
請求項5~9のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項11】
前記フレーム画像は、乳頭から大胸筋に向かう方向と直交する断面を撮像した画像であり、
前記乳房の周縁から中心に向かって値が高くなるように、前記フレーム画像内の各点の値を設定した正規化用マップを生成し、
前記正規化用マップにおける各点の値で、各点における前記線集中度を除算することで前記線集中度を補正する
請求項1~10のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項12】
取得した前記複数のフレーム画像を所定数毎に積算して積算画像を生成し、
生成した各積算画像内の各点について、線構造の集中度合いを示す線集中度を算出し、
前記線集中度が一定以上の領域を前記積算画像から抽出した場合に、前記積算画像の生成に用いた前記フレーム画像に対して、各フレーム画像内の各点について、線構造の集中度合いを示す線集中度を算出する
請求項1~11のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項13】
乳房の断面を複数位置で撮像した複数のフレーム画像を取得し、
各フレーム画像内の各点について、線構造の集中度合いを示す線集中度を算出し、
前記線集中度が一定以上の領域を前記各フレーム画像から抽出し、
抽出した領域の前記各フレーム画像間の移動量に応じて、前記各フレーム画像における構築の乱れが偽陽性であるか否かを判定する
処理をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項14】
乳房の断面を複数位置で撮像した複数のフレーム画像を取得する取得部と、
各フレーム画像内の各点について、線構造の集中度合いを示す線集中度を算出する算出部と、
前記線集中度が一定以上の領域を前記各フレーム画像から抽出する抽出部と、
抽出した領域の前記各フレーム画像間の移動量に応じて、前記各フレーム画像における構築の乱れが偽陽性であるか否かを判定する判定部と
を備える画像診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波画像診断における、情報処理方法、プログラム及び画像診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非侵襲性である超音波による診断システムは、生体を直接切開して観察する外科手術の必要がないため、被検体内部の情報を診断する技術として医療分野で広く用いられている。
【0003】
超音波診断の一手法である超音波CT(Computed Tomography)は、超音波を被検体に照射し、散乱波や透過波を用いて被検体の断層画像を作成するものであり、近年の研究により、乳癌の検出に有用性があることが示されている。例えば、特許文献1では、送受信を行う多数の超音波振動子をリング状に被検体を取り囲むように配置し、これを上下方向に移動させながら、自動的に三次元撮像を行う。
【0004】
取得された断層像は、診断医によって読影される。医師は所定の画像診断所見を検出する事で診断を行う。読影を支援する装置として、医療画像撮像装置から検査画像を取得し、画像処理や機械学習処理を通じて画像中に含まれる腫瘍等の異常領域を検出し、医師等に提示することにより画像診断を支援する診断支援装置が開発されている。
【0005】
例えば特許文献2では、乳房内部の乳頭から大胸筋へ向かう乳腺の正常な構造(方向)を表す正常構築モデルを乳房X線画像から計算すると共に、乳房X線画像にガボールフィルタ(Gabor Filter)を適用することで乳腺の方向を抽出し、本来の正常な乳腺の方向と、抽出した乳腺の方向とを比較することで、乳腺の構築の乱れがあるか否かを判定する乳房画像病変検出システム等が開示されている。乳腺の構築の乱れは、乳癌の画像診断所見の一つであり、腫瘍周辺の組織が腫瘍に集中することで観察されるスピキュラ構造が、検出のための1つの指標となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2017/051903号
【特許文献2】特許第6256954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
超音波CTによる断層撮像では、従来のハンドヘルド型超音波装置によって得られる反射波を用いた散乱像の特徴を有しつつ、X線CTのように対象部位全体を3D撮像したボリューム画像を取得できる。しかしながら、乳癌用画像診断所見は撮像装置種類により見え方がことなる。例えば、X線マンモグラフィでは乳腺と病変が白く映るが、超音波画像では乳腺は白く病変は暗い。また、既存のハンドヘルド超音波装置による反射波像では、病変の後方陰影により周辺組織の一部が観測できないが、超音波CTでは、病変の周辺組織の全容が撮像される。これは、前者は、病変に対し一方から超音波が送信されるため、送信アレイから見て病変の反対側が陰となるが、後者は、病変を取り囲む全方位から超音波を照射するため影が打ち消されるからである。従って、超音波CT画像においては、既存の診断画像の診断所見に相当する診断所見を容易に特定するための診断支援機能が望まれる。
【0008】
一つの側面では、3次元超音波撮像においてスピキュラ等の構築の乱れを好適に特定することができる情報処理方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一つの側面に係る情報処理方法は、乳房の断面を複数位置で撮像した複数のフレーム画像を取得し、各フレーム画像内の各点について、線構造の集中度合いを示す線集中度を算出し、前記線集中度が一定以上の領域を前記各フレーム画像から抽出し、抽出した領域の前記各フレーム画像間の移動量に応じて、前記各フレーム画像における構築の乱れが偽陽性であるか否かを判定する処理をコンピュータが実行する。
【発明の効果】
【0010】
一つの側面では、スピキュラ等の構築の乱れを好適に特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】画像診断システムの構成例を示す説明図である。
【
図3】画像処理装置の構成例を示すブロック図である。
【
図7】注目点と各点との距離に応じた線集中度の算出過程を示す説明図である。
【
図8】方向分布に応じた線集中度の補正処理に関する説明図である。
【
図9】中心バイアスの補正処理に関する説明図である。
【
図10】スピキュラの検出結果の表示画面を示す説明図である。
【
図11】検出モデルの生成処理の手順を示すフローチャートである。
【
図12】スピキュラ検出処理の手順を示すフローチャートである。
【
図13】線集中度の算出過程の他の例を示す説明図である。
【
図14】スピキュラ検出処理の手順の他の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
(実施の形態)
図1は、画像診断システムの構成例を示す説明図である。本実施の形態では、被検者の乳房の断面を撮像した画像からスピキュラ(構築の乱れ)を検出する画像診断システムについて説明する。画像診断システムは、サーバ1及び画像診断装置2を含む。サーバ1及び画像診断装置2は、ネットワークNを介して通信接続されている。
【0013】
なお、本実施の形態では画像診断の対象とする生体部位の一例として乳房を挙げるが、他の生体部位であってもよい。
【0014】
また、本実施の形態では検出対象として「スピキュラ」を挙げるが、検出対象となる事象は乳腺の構築の乱れであればよく、構築の乱れはスピキュラと呼ばれるものに限定されない。
【0015】
サーバ1は、種々の情報処理、情報の送受信が可能なサーバコンピュータである。なお、サーバ1に相当する装置はサーバコンピュータに限定されず、例えばパーソナルコンピュータ等であってもよい。本実施の形態においてサーバ1は、所定の訓練データを学習する機械学習を行うことで、乳房の断面を複数位置で撮像した複数のフレーム画像を入力した場合に、スピキュラがある領域(以下、「スピキュラ領域」と呼ぶ)を検出する検出モデル50(
図4参照)を生成する生成装置として機能する。サーバ1が生成した検出モデル50のデータは画像診断装置2にインストールされており、画像診断装置2は、検出モデル50を用いて撮像画像からスピキュラ領域を検出する。
【0016】
画像診断装置2は、超音波エコー検査のための画像診断装置であり、画像処理装置20及び撮像装置30を備える。画像処理装置20は、画像診断装置2のコンソールとして機能するコンピュータであり、乳房断面の超音波画像を生成(再構成)して表示する。なお、画像処理装置20は超音波画像診断用のコンピュータ(コンソール)に限定されず、パーソナルコンピュータ等の汎用コンピュータであってもよい。
【0017】
撮像装置30は、超音波信号の送受信を行う撮像装置である。
図1に示すように、撮像装置30は、被検者がうつ伏せになった状態で乳房を撮像可能に構成されている。具体的には、撮像装置30はベッド状の形状を有し、天板31に乳房を挿入するための孔32が設けられている。孔32の下方には水槽33が設けられ、被検者は孔32から水槽33に乳房を挿入する。
【0018】
水槽33には、リングアレイ34が設けられている。リングアレイ34は、複数の超音波素子(トランスデューサ)を備えるリング状の振動子アレイである。リングアレイ34には複数の超音波素子が等間隔で配置され、各超音波素子は超音波信号を送信すると共に、反射波を受信する。画像処理装置20は、各超音波素子から得た複数方向の反射波データを再構成することで、一断面の超音波画像(フレーム画像)を生成する。反射波信号は組織の境界線に生じる音響インピーダンスの差によって強度が異なる為、再構成された反射波像では、組織や病変の境界情報、組織内の密度が輝度で表現される。リングアレイ34は上下方向に移動可能に構成されており、画像診断装置2はリングアレイ34を上下に移動させて乳房の各位置(高さ)における超音波画像を撮像する。
【0019】
本実施の形態に係る画像診断装置2として、引用文献1に記載の超音波診断システムを採用することができる。
【0020】
なお、画像診断装置2は上記の構成に限定されない。例えばベッド型の撮像装置30に代えて、ハンディスキャナを用いた画像診断装置としてもよい。
【0021】
また、本実施の形態では乳房の撮像画像として超音波画像を用いるが、X線画像(マンモグラフィ等)のように、他のモダリティの画像を用いてもよい。ようは、被検体の断面を複数位置で撮像した複数のフレーム画像を取得し、連続した生体構造を撮像する装置であって、XY面のスライス画像を第三の軸上に連続して再構成する三次元医療画であればよい。
【0022】
画像診断装置2は撮像装置30により、乳頭から大胸筋に向かう方向とほぼ直交する乳房の断面を撮像する。本実施の形態において画像診断装置2は、上述の検出モデル50を用いて、乳腺の構築の乱れが生じているスピキュラ領域を撮像画像から検出する。具体的には、画像診断装置2は、乳房の断面を複数位置で撮像した各フレーム画像から成る3次元ボリュームデータを検出モデル50に入力することで、スピキュラ領域を検出する。複数のフレーム画像を一のデータとして検出モデル50に入力することで、前後のフレームの情報を参照しながらスピキュラ領域を検出することができる。
【0023】
更に画像診断装置2は、後述の如く、検出モデル50によるスピキュラ領域の検出結果が妥当であるか否か、すなわち偽陽性でないかを判定する。具体的には、画像診断装置2は、各フレーム画像内の各点について、線構造の集中度合いを示す線集中度を算出する。そして画像診断装置2は、線集中度が一定以上の領域のフレーム間の移動量に応じて、検出モデル50で検出したスピキュラ領域が偽陽性であるか否かを判定する。
【0024】
なお、本実施の形態ではサーバ1が検出モデル50の生成(学習)を行うものとするが、ローカルの画像診断装置2が検出モデル50を生成するようにしてもよい。また、本実施の形態では画像診断装置2がスピキュラ領域の検出及び偽陽性の判定を行うものとするが、クラウド上のサーバ1が当該処理を実行するようにしてもよい。すなわち、両者の区別は便宜的なものであり、単一のコンピュータが一連の処理を行うようにしてもよい。
【0025】
図2は、サーバ1の構成例を示すブロック図である。サーバ1は、制御部11、主記憶部12、通信部13、及び補助記憶部14を備える。
制御部11は、一又は複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサを有し、補助記憶部14に記憶されたプログラムP1を読み出して実行することにより、種々の情報処理を行う。主記憶部12は、SRAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の一時記憶領域であり、制御部11が演算処理を実行するために必要なデータを一時的に記憶する。通信部13は、通信に関する処理を行うための通信モジュールであり、外部と情報の送受信を行う。補助記憶部14は、大容量メモリ、ハードディスク等の不揮発性記憶領域であり、制御部11が処理を実行するために必要なプログラムP1、その他のデータを記憶している。
【0026】
なお、補助記憶部14はサーバ1に接続された外部記憶装置であってもよい。また、サーバ1は複数のコンピュータからなるマルチコンピュータであっても良く、ソフトウェアによって仮想的に構築された仮想マシンであってもよい。
【0027】
また、本実施の形態においてサーバ1は上記の構成に限られず、例えば操作入力を受け付ける入力部、画像を表示する表示部等を含んでもよい。また、サーバ1は、非一時的なコンピュータ読取可能な記録媒体1aを読み取る読取部を備え、記録媒体1aからプログラムP1を読み込んでもよい。また、プログラムP1は単一のコンピュータ上で実行されてもよく、ネットワークNを介して相互接続された複数のコンピュータ上で実行されてもよい。
【0028】
図3は、画像処理装置20の構成例を示すブロック図である。画像処理装置20は、制御部21、主記憶部22、通信部23、表示部24、入力部25、送受信部26、画像処理部27、及び補助記憶部28を備える。
制御部21は、一又は複数のCPU等のプロセッサを有し、補助記憶部28に記憶されたプログラムP2を読み出して実行することにより、種々の情報処理を行う。主記憶部22は、RAM等の一時記憶領域であり、制御部21が演算処理を実行するために必要なデータを一時的に記憶する。通信部23は、通信に関する処理を行うための通信モジュールであり、外部と情報の送受信を行う。表示部24は、液晶ディスプレイ等の表示画面であり、画像を表示する。入力部25は、キーボード、マウス等の操作インターフェイスであり、ユーザから操作入力を受け付ける。送受信部26は、リングアレイ34の超音波素子を制御し、超音波信号を送受信する。画像処理部27は、画像処理を行うモジュールであり、超音波素子で受信した反射波データを再構成し、超音波画像を生成する。
【0029】
補助記憶部28は、ハードディスク、大容量メモリ等の不揮発性記憶領域であり、制御部21が処理を実行するために必要なプログラムP2、その他のデータを記憶している。また、補助記憶部28は、検出モデル50を記憶している。検出モデル50は、所定の訓練データを学習済みの機械学習モデルであり、複数のフレーム画像から成る3次元ボリュームデータを入力した場合に、構築の乱れが生じているスピキュラ領域を検出するよう学習済みのモデルである。検出モデル50は、人工知能ソフトウェアの一部を構成するプログラムモジュールとしての利用が想定される。
【0030】
なお、画像処理装置20は、非一時的なコンピュータ読取可能な記録媒体2aを読み取る読取部を備え、記録媒体2aからプログラムP2を読み込んでもよい。また、プログラムP2は単一のコンピュータ上で実行されてもよく、ネットワークNを介して相互接続された複数のコンピュータ上で実行されてもよい。
【0031】
図4は、検出モデル50の概要を示す説明図である。以下では本実施の形態の概要を説明する。
【0032】
図4では、乳房の断面を複数位置で撮像した複数のフレーム画像を検出モデル50に入力した場合に、スピキュラ領域を検出する様子を図示している。検出モデル50は、複数のフレーム画像から成る3次元ボリュームデータを入力した場合に、スピキュラ領域を検出するよう学習済みのモデルである。例えば検出モデル50は、深層学習により生成されるニューラルネットワークであり、CNN(Convolution Neural Network;畳み込みニューラルネットワーク)の一種であるFaster R-CNNである。
【0033】
なお、検出モデル50はFaster R-CNN以外のニューラルネットワークであってもよい。また、検出モデル50は、決定木、ランダムフォレスト、SVM(Support Vector Machine)等の他の学習アルゴリズムに基づくモデルであってもよい。
【0034】
サーバ1は、訓練用の3次元ボリュームデータ群に対し、正解のスピキュラ領域を示すラベルが付与された訓練データを用いて、検出モデル50を生成する。3次元ボリュームデータは、被検者の乳房を撮像装置30で撮像した画像データであり、乳房の複数位置の断面を撮像したフレーム画像群である。サーバ1は、複数の被検者それぞれの乳房を一方向(乳頭から大胸筋に向かう方向)に沿って撮像したフレーム画像群を、訓練用の3次元ボリュームデータ群として用いる。3次元ボリュームデータに付与されるラベルは、スピキュラ領域の正解の座標範囲を示すデータであり、例えば医療従事者(医師等)が各フレーム画像に対してスピキュラ領域を囲むように設定したラベルである。サーバ1は、3次元ボリュームデータを構成する各フレーム画像に対し、スピキュラ領域を表すラベルが付与された訓練データを用いて検出モデル50を生成する。
【0035】
サーバ1は、複数のフレーム画像を一の入力データセットとして検出モデル50に与えることで、3次元ボリュームデータからスピキュラ領域を検出する検出モデル50を生成する。すなわち、サーバ1は、
図4左側に示すように、2次元の各フレーム画像を撮像位置(リングアレイ34の高さ)に沿って並べた3次元データを、検出モデル50の入力に用いる。これにより、前後のフレーム画像の特徴(構築の乱れ)を参照して、各フレーム画像におけるスピキュラ領域を検出することができる。
【0036】
3次元ボリュームデータが入力された場合、検出モデル50は、スピキュラ領域の検出結果を出力する。具体的には、検出モデル50は、スピキュラ領域を囲む矩形状のバウンディングボックスと、スピキュラ領域の境界内部を表すマスクとをフレーム画像毎に出力する。なお、本実施の形態に係る検出モデル50がFaster R-CNNであるため、検出モデル50はバウンディングボックス及びマスクの双方を出力するが、検出モデル50は何れか一方のみを出力するものであってもよい。
【0037】
サーバ1は、訓練用の3次元ボリュームデータを検出モデル50に入力することで、スピキュラ領域を検出する。サーバ1は、検出したスピキュラ領域を正解のラベルと比較し、両者が近似するように、ニューロン間の重み等のパラメータを更新する。サーバ1は、訓練用の各3次元ボリュームデータを検出モデル50に順次入力してパラメータを更新し、最終的にパラメータを最適化した検出モデル50を生成する。
【0038】
画像診断装置2には、サーバ1が生成した検出モデル50のデータがインストールされている。撮像装置30により被検者の乳房を撮像した場合、画像診断装置2は、検出モデル50を用いてスピキュラ領域を検出する。すなわち、画像診断装置2は、複数のフレーム画像から成る3次元ボリュームデータを検出モデル50に入力することで、スピキュラ領域を検出する。
【0039】
図5は、偽陽性判定処理に関する説明図である。本実施の形態において画像診断装置2は、検出モデル50によるスピキュラ領域の検出結果が妥当であるか否か、すなわち偽陽性でないかを、線構造が集中している領域のフレーム間の移動量に応じて判定する。
【0040】
具体的には、画像診断装置2は、各フレーム画像内の各点における線集中度を算出し、算出した線集中度が一定以上の領域がフレーム間でどの程度移動しているか、その移動量を算出する。そして画像診断装置2は、移動量が所定の閾値以上であると判定した場合、その領域に対応するスピキュラ領域が偽陽性であると判定する。
【0041】
図5では、フレーム画像内の各点の線集中度を表すマップ(以下、「線集中度マップ」と呼ぶ)を左側に、線集中度が一定以上の領域のフレーム間における移動経路を表したフレーム画像を右側に図示する。
図5に基づき、偽陽性判定処理の概要を説明する。
【0042】
画像診断装置2は、フレーム画像内の各点の線集中度を、フレーム画像毎に算出する。線集中度は、線構造の集中度合いを示す数値である。線構造は、フレーム画像に現れる線状の構造(エッジ)であり、乳腺等の線状組織に相当する。スピキュラは、乳腺等の周辺組織が腫瘍に集中するものであるため、線集中度の高低により、スピキュラの疑いが強い領域を抽出することができる。
【0043】
画像診断装置2は、フレーム画像に所定の画像フィルタを適用することで線集中度を算出する。本実施の形態において画像診断装置2は、画像フィルタとして、特定方向成分を画像から抽出するガボールフィルタを用いる。画像の横軸をx軸、縦軸をy軸とした場合、ガボールフィルタのフィルタ関数g(x,y)は、以下の式(1)で規定される。
【0044】
【0045】
なお、σx及びσyはガウス関数の標準偏差、f0は三角関数の周波数を表す。ガボールフィルタ(フィルタ関数g)自体は公知のものと大きな差異はないため、本実施の形態では詳細な説明省略する。
【0046】
画像診断装置2は、ガボールフィルタをフレーム画像に適用することで、フレーム画像内の各点における線構造の方向及び強度を抽出する。具体的には、画像診断装置2は、抽出方向θ(Orientation)が互いに異なる複数のガボールフィルタをフレーム画像に適用し、各方向θに対応するフィルタ関数g(x,y)と、フレーム画像の画素値f(x,y)との直積h(x,y)を算出する。例えば画像診断装置2は、h(x,y)の最大値を線構造の強度、h(x,y)が最大となる方向θを線構造の方向として抽出する。
【0047】
本実施の形態において画像診断装置2は、画像の水平方向(x軸方向)を0°として、0°、22.5°、45°、…157.5°の、22.5°刻みの8方向のガボールフィルタを用意してある。画像診断装置2は、一のフレーム画像に対し8通りのガボールフィルタを適用することで、線構造の方向及び強度を抽出する。
【0048】
画像診断装置2は、上記で抽出した線構造の方向及び強度に基づき、フレーム画像内の各点(各注目点)の線集中度を算出する。具体的な線集中度の算出方法については後述する。
【0049】
上述の処理により、画像診断装置2は、
図5左側に示すように、各点の線集中度を表す線集中度マップを生成する。なお、実際の線集中度マップは各点(画素)の値が連続的に変化するヒートマップで表現されるが、
図5では図示の便宜上、線集中度が高い部分(領域)にハッチングを付し、その他の部分を白抜きで図示している。
【0050】
画像診断装置2は、生成した線集中度マップから、線集中度が一定以上の領域を抽出する。すなわち、画像診断装置2は、スピキュラ(構築の乱れ)が生じている可能性が高い領域を抽出する。
【0051】
画像診断装置2は、抽出した領域のフレーム間の移動量に応じて、検出モデル50が検出したスピキュラ領域が偽陽性であるか否かを判定する。具体的には、画像診断装置2は、線集中度が一定以上の領域の中心(重心)座標を各フレーム画像から特定し、特定した中心座標のフレーム間の移動距離、及び/又は移動速度に応じて、スピキュラ領域が偽陽性であるか否かを判定する。
【0052】
図5右側には、線集中度が一定以上である領域の中心の移動経路を、折れ線で図示している。例えば画像診断装置2は、連続する所定数のフレーム画像を取り出し、最初のフレームから最後のフレームに至る中心の総移動距離(折れ線の総長)、及び/又は隣り合う2フレーム間の移動速度の平均値を算出する。画像診断装置2は、算出した移動距離及び/又は移動速度が所定の閾値以上であるか否かを判定する。移動距離及び/又は移動速度が閾値以上である場合、画像診断装置2は偽陽性であると判定する。移動距離及び/又は移動速度が閾値未満である場合、画像診断装置2は陽性であると判定する。
【0053】
例えば画像診断装置2は、検出モデル50が検出したスピキュラ領域と、線集中度が一定以上である領域とを比較して、スピキュラ領域と重複する後者の領域を特定する。画像診断装置2は、特定した領域の移動量に応じて、スピキュラ領域が偽陽性であるか否かを判定する。例えば画像診断装置2は、偽陽性でないと判定したスピキュラ領域を、最終的なスピキュラ領域の検出結果として出力(表示)する(
図10参照)。なお、画像診断装置2は、偽陽性であると判定したスピキュラ領域も、偽陽性でないと判定したスピキュラ領域と識別可能に出力するようにしてもよい。スピキュラの中心がフレーム間で大きく移動することは考えにくいため、移動量が閾値以上の領域を偽陽性と判定することで、誤検出を減らすことができる。
【0054】
図6は、線集中度の算出過程を示す説明図である。
図6では、本実施の形態に係る線集中度の算出過程を概念的に図示している。本実施の形態において画像診断装置2は、スピキュラの検出という目的に合わせて、ガボールフィルタによる線構造の抽出結果にいくつかの処理を施した上で、線集中度を算出する。
図6に基づき、当該線集中度の算出方法について説明する。
【0055】
上述の如く、画像診断装置2は、フレーム画像内の各点における線構造の方向(Orientation)及び強度(Magnitude)を各フレーム画像から抽出する。これにより、
図6の上から2段目に図示するように、フレーム画像内の線構造の強度マップ(強度の分布)と、方向マップ(方向の分布)とが生成される。なお、実際の強度マップ及び方向マップはヒートマップで表現されるが、
図6では便宜上、線構造の強度を線で、線構造の方向を矢印で図示している。
【0056】
ここで画像診断装置2は、強度マップに対して所定の前処理を行う。具体的には、画像診断装置2は、フレーム画像内の各点(画素)について、各点の強度と、各点の周辺点の強度との平均値を算出し、算出した点を対象の点の強度とする。例えば画像診断装置2は、対象の点を含む6×6の点(画素)の強度の平均値を、各対象点の強度とする。
【0057】
更に画像診断装置2は、平均化した各点の強度が所定の閾値以上であるか否かに応じて、各点の強度を二値化する。具体的には、画像診断装置2は大津法(Otsu Method)を用いてフレーム画像全体の強度分布から閾値を設定し、当該閾値以上の点の強度を「1」、閾値未満の点の強度を「0」に設定する。なお、二値化する値は「1」及び「0」に限定されず、閾値以上であるか否かに応じて異なる値であればよい。
【0058】
スピキュラの発見に、線自体の明るさ、太さ等は関係性が低いと考えられる。そのため、強度を二値化(及び平均化)することで偽陽性を減らすことが期待できる。
【0059】
画像診断装置2は、二値化した各点の強度と、各点の方向との積を算出する。すなわち、画像診断装置2は、
図6に示す二値化後の強度マップと、方向マップとを乗算した、新たなマップを生成する。強度が二値化されているため、当該マップは、強度が閾値未満の点の線構造を低減(捨象)し、強度が閾値以上の線構造を強調した方向分布を意味する。
【0060】
以下の説明では便宜上、二値化した強度と方向との積を、強度が閾値未満の線構造を低減(捨象)した方向という意味で、「マスク方向」(Masked Orientation)と呼ぶ。
【0061】
このように、画像診断装置2は、強度が閾値以上の線構造を強調したマスク方向マップ(マスク方向の分布)を生成する。画像診断装置2は、生成したマスク方向マップに基づき、
図6最下段に示す最終的な線集中度マップを生成する。
【0062】
なお、本実施の形態では線構造の方向及び強度の積を取ることでマスク方向を抽出し、そのマスク方向の分布から線集中度を算出するものとするが、強度に応じた方向(マスク方向)の抽出を行わず、一次的に取得した線構造の方向分布から線集中度を算出するものとしてもよい。すなわち、画像診断装置2は、フレーム画像から少なくとも線構造の方向を抽出し、抽出した線構造の方向に基づいて線集中度を算出可能であればよく、線構造の強度も用いて線集中度を算出する構成は必須ではない。
【0063】
図7は、注目点と各点との距離に応じた線集中度の算出過程を示す説明図である。
図7に基づき、マスク方向から線集中度を算出する際の処理内容について説明する。
【0064】
画像診断装置2は、フレーム画像内の各点を注目点として、当該注目点と、注目点以外の他の各点とを結ぶ相対ベクトルを取る。画像診断装置2は、当該相対ベクトルと、相対ベクトルの始点である他の点でのマスク方向(線構造の方向)との内積値を取ることで、線集中度を算出する。
【0065】
具体的な算出過程を、
図7左側に概念的に図示する。フレーム画像内の任意の注目点Pについて線集中度を算出する場合、画像診断装置2は、注目点Pから一定の距離内にある点Q、具体的には、所定の内径Aから外径Bの範囲内にある点Qでのマスク方向を元に線集中度を算出する。画像診断装置2は、注目点Pと点Qとの相対ベクトルを取り、当該相対ベクトルと、点Qでのマスク方向との内積値を算出する。画像診断装置2は、内径Aから外径Bの範囲内にある全ての点Qについて内積値を算出し、各点Qに係る内積値の平均値を算出する。画像診断装置2は、算出した平均値を注目点Pの線集中度とする。
【0066】
本実施の形態において画像診断装置2は、上記のようにして線集中度を算出する場合に、注目点Pに近い位置にある線構造ほど重視するように、各点Qに係る内積値の重み付けを行う。具体的には、画像診断装置2は、各点Qについて相対ベクトルとマスク方向との内積値を算出する際に、点Qからの距離rが近いほど高くなる距離関数d(r)を乗算することで、重み付けを行う。距離関数d(r)は、例えば以下の式(2)で規定される。
【0067】
【0068】
なお、式(2)のβは定数である。
図7右側に、点Qからの距離rに応じて距離関数d(r)が変化する様子を、ハッチングで概念的に図示している。画像診断装置2は、距離rが近いほど高くなるように設計された距離関数d(r)を乗算することで、注目点Pに近い位置にある線構造ほど重視して線集中度を算出するようにする。
【0069】
図8は、方向分布に応じた線集中度の補正処理に関する説明図である。画像診断装置2は更に、全方位から線構造が集中する領域を抽出するべく、注目点に向かう線構造のばらつき(分布)に応じた重み付けを行う。具体的には、画像診断装置2は、注目点に向かう線構造が全方位(複数の方向)に均等に分布している度合いを評価するための指標値を算出し、算出した指標値の大小に応じて、線集中度を補正する。
【0070】
例えば画像診断装置2は、
図8に示すように、注目点Pを中心とする所定距離内の円領域を、ガボールフィルタの抽出方向θに合わせて、所定角度(22.5°)ずつ複数の扇状領域に分割する。そして画像診断装置2は、扇状領域内の各点における線構造から、注目点Pに向かう方向成分を抽出することで、扇状領域内の各点から注目点Pに向かう線構造の確率値P
i(iは各扇状領域の番号。i=1,2,3,…8)を算出する。画像診断装置2は、注目点Pに向かう線構造が全ての扇状領域に均等に分布しているか、その度合いを表す指標値として、以下の式(3)で示すエントロピーを算出する。
【0071】
【0072】
画像診断装置2は、算出したエントロピーの大小に応じて、注目点Pの線集中度を補正する。具体的には、画像診断装置2は、エントロピーが大きいほど線集中度を高く補正する。
【0073】
なお、本実施の形態では指標値としてエントロピーを用いるが、指標値はこれに限定されるものではなく、他の値(例えば確率値Piの平均値等)であってもよい。
【0074】
図9は、中心バイアスの補正処理に関する説明図である。画像診断装置2は更に、乳腺等の線構造が乳房の中心に向かって集中する傾向(バイアス)の影響を低減すべく、補正を行う。
【0075】
上述の如く、画像診断装置2は、乳頭から大胸筋に向かう方向とほぼ直交する断面を撮像する。一方で、当該断面視において乳腺は乳頭から周囲に向かって放射状に広がっているため、撮像装置30によって撮像した画像では、乳房の中心に向かって自ずと線構造が集中することになる。そこで画像診断装置2は、乳房中心に線構造が集中することによる影響を低減するため、以下の処理を行う。
【0076】
具体的には、画像診断装置2は、全ての点で線構造が注目点を向く場合に線集中度が一定(例えば1)となるよう、線集中度の正規化を行う。画像診断装置2はまず、フレーム画像から乳房と乳房以外の領域との境界を検出し、乳房及び乳房以外の領域を二値化したマップ(左上)を生成する。画像診断装置2は当該マップに、乳房の中心に近いほど高くなるように所定の距離関数を乗算する(重み付けする)ことで、乳房の周縁から中心に向かって値が高くなるように設定した正規化用マップを生成する(右上)。
【0077】
画像診断装置2は、生成した正規化用マップで線集中度マップ(左下)を除算することで、線集中度を正規化する。すなわち、画像診断装置2は、正規化用マップにおける各点の値で、線集中度マップにおける各点の線集中度を除算することで、線集中度を補正する。これにより、全ての点で線構造が注目点を向いた場合の値が1になるように正規化され、中心バイアスの影響が低減される。
【0078】
以上より、画像診断装置2は、スピキュラ検出に合わせてガボールフィルタの抽出結果に一定の処理を施した上で、線集中度を算出する。
図5で説明したように、画像診断装置2は、線集中度が一定以上の領域を線集中度マップから抽出し、当該領域のフレーム間の移動量に応じて、検出モデル50が検出したスピキュラ領域が偽陽性であるか否かを判定する。
【0079】
図10は、スピキュラの検出結果の表示画面を示す説明図である。乳房の撮像画像からスピキュラ領域を検出した場合、画像診断装置2は、
図10で例示する画面を表示する。
【0080】
例えば画像診断装置2は、スピキュラ領域を表すラベルを重畳した乳房画像を当該画面に表示する。具体的には、画像診断装置2は、スピキュラ領域を囲むバウンディングボックスと、スピキュラ領域内部を色付けする半透明マスクとを重畳したフレーム画像を表示する。なお、
図10では便宜上、スピキュラ領域が色付けされている様子をハッチングで図示する。画像診断装置2は、検出モデル50が検出したスピキュラ領域のうち、偽陽性と判定されたスピキュラ領域を除外したスピキュラ領域に対し、バウンディングボックス及びマスクを重畳する。
【0081】
また、画像診断装置2は、検出モデル50から出力される、スピキュラ領域の検出結果の確からしさを表す確率値(
図10では「Pred」で図示)を各スピキュラ領域に対応付けて表示する。更に画像診断装置2は、確率値が所定値以上(例えば90%以上)のスピキュラ領域を強調表示する。例えば
図10に示すように、画像診断装置2は、確率値が所定値以上のスピキュラ領域に対応するバウンディングボックスを太線にすると共に、当該スピキュラ領域のマスク色を変更する。例えば画像診断装置2は画面下部に変更ボタン101を表示し、当該変更ボタン101への操作入力に応じて別のフレーム画像へと切り替える。
【0082】
また、画像診断装置2は、スピキュラ領域の陽性/偽陽性の判定結果を表示するための表示ボタン102を当該画面に表示する。表示ボタン102への操作入力を受け付けた場合、画像診断装置2は、線集中度に基づくスピキュラ領域の陽性/偽陽性の判定結果を、乳房画像上に表示する。
【0083】
具体的には、画像診断装置2は、
図5右側に例示した移動経路のオブジェクト(折れ線)を、
図10で例示する乳房画像に重畳表示する。すなわち、画像診断装置2は、線集中度が一定以上である領域のフレーム間の移動経路を表示する。これにより、乳房画像を閲覧する医療従事者は、ラベルが重畳された領域が何故陽性と判定され、それ以外の領域が何故偽陽性と判定されたか、客観的に判断することができる。なお、当該オブジェクトを表示する場合、例えば画像診断装置2は、各移動経路に係る移動量が閾値以上であるか否か、すなわち偽陽性であるか否かに応じて、オブジェクトの表示態様(例えば折れ線の色)を変更してもよい。
【0084】
なお、本実施の形態では2次元のフレーム画像(乳房断面の画像)を最終的な検出結果として表示するものとするが、例えば画像診断装置2は、複数のフレーム画像を再構成した3次元画像を生成し、当該3次元画像にスピキュラ領域を表すラベルを重畳表示してもよい。この場合、例えば画像診断装置2は、3次元形状のスピキュラ領域を囲む格子状のバウンディングボックスを重畳表示すると共に、当該スピキュラ領域を色付けする3次元形状のマスクを重畳表示する。このように、画像診断装置2は撮像画像(複数のフレーム画像)を元にスピキュラ領域を表すラベルを重畳した乳房画像を表示可能であればよく、その乳房画像は2次元のフレーム画像に限定されない。
【0085】
以上より、本実施の形態によれば、複数のフレーム画像からスピキュラ領域を検出すると共に、線集中度が高い領域のフレーム間の移動量に応じて、スピキュラ領域が偽陽性であるか否かを判定する。このように、3次元の情報を用いることで、スピキュラに代表される構築の乱れを好適に特定することができる。
【0086】
なお、本実施の形態において画像診断装置2は、スピキュラ領域の検出手段として機械学習モデル(検出モデル50)を用いたが、スピキュラ領域をルールベースで検出するようにしてもよい。例えば画像診断装置2は、線集中度が一定以上の領域をスピキュラ領域として検出するようにしてもよい。
【0087】
また、本実施の形態において画像診断装置2は、自装置で検出したスピキュラ領域が偽陽性であるか否かを判定するものとしたが、他の装置(コンピュータ)で検出したスピキュラ領域、あるいはユーザ(医療従事者)が指定したスピキュラ領域が偽陽性であるか否かを判定するようにしてもよい。すなわち、画像診断装置2は、少なくとも各フレーム画像におけるスピキュラ領域(構築の乱れ)が偽陽性であるか否かを判定可能であればよく、判定対象とするスピキュラ領域を検出する構成は必須ではない。
【0088】
図11は、検出モデル50の生成処理の手順を示すフローチャートである。
図11に基づき、機械学習により検出モデル50を生成する際の処理について説明する。
サーバ1の制御部11は、訓練用の3次元ボリュームデータ群に対し、正解のスピキュラ領域を表すラベルが付与された訓練データを取得する(ステップS11)。訓練用の3次元ボリュームデータは、被検者の乳房の断面を複数位置で撮像したフレーム画像群である。制御部11は、3次元ボリュームデータを構成する各フレーム画像に対し、スピキュラ領域の正解の座標範囲を表すラベルが付与された訓練データを取得する。
【0089】
制御部11は訓練データに基づき、複数のフレーム画像から成る3次元ボリュームデータを入力した場合に、構築の乱れが生じているスピキュラ領域を検出する検出モデル50を生成する(ステップS12)。例えば制御部11は、Faster R-CNNを検出モデル50として生成する。制御部11は、訓練用の3次元ボリュームデータを検出モデル50に入力することで、スピキュラ領域を検出する。制御部11は、検出したスピキュラ領域を正解のラベルと比較し、両者が近似するようにニューロン間の重み等を最適化することで検出モデル50を生成する。制御部11は一連の処理を終了する。
【0090】
図12は、スピキュラ検出処理の手順を示すフローチャートである。
図12に基づき、スピキュラ領域を検出する際の処理について説明する。
画像診断装置2の制御部21は、乳房の複数位置の断面を撮像した複数のフレーム画像を取得する(ステップS31)。具体的には上述の如く、制御部21は、超音波信号を送受信することで得た超音波画像であって、乳頭から大胸筋に向かう方向と直交する複数断面を撮像したフレーム画像群を取得する。制御部21は、取得した複数のフレーム画像から成る3次元ボリュームデータを検出モデル50に入力することで、構築の乱れが生じているスピキュラ領域を検出する(ステップS32)。
【0091】
制御部21は、フレーム画像内の各点における線構造の方向及び強度を、各フレーム画像から抽出する(ステップS33)。具体的には、制御部21は、互いに抽出方向θが異なる複数のガボールフィルタをフレーム画像に適用することで、フレーム画像内の各点における線構造の方向(Orientation)と、線構造の強度(Magnitude)とを抽出する。
【0092】
制御部21は、抽出した線構造の方向及び強度に基づき、各フレーム画像内の各点における線集中度を算出する(ステップS34)。具体的には、制御部21は、各点の強度と、各点の周辺点の強度との平均値を算出し、算出した平均値が所定の閾値以上であるか否かに応じて、フレーム画像内の各点の強度を二値化する。制御部21は、二値化した強度と、ステップS33で抽出した方向との積を取ることで、マスク方向を抽出する。制御部21は、フレーム画像内の各点を注目点として、注目点から所定距離内にある各点と注目点との相対ベクトルを取り、相対ベクトル及びマスク方向の内積値を算出する。この場合に制御部21は、注目点と他の点との距離が近いほど高くなる距離関数を用いて、各点に対応する内積値を重み付けする。制御部21は、重み付け後の内積値の平均値を算出することで、注目点の線集中度を算出する。
【0093】
制御部21は、注目点に向かう線構造が全方位(複数の方向)に均等に分布するほど高くなるように、線集中度を補正する(ステップS35)。具体的には、制御部21は、注目点を中心とする円領領域を、複数の抽出方向θにそれぞれ対応する複数の扇状領域に分割し、各扇状領域内の各点における線構造の方向に基づき、各方向から注目点に向かう線構造の確率値を算出する。制御部21は、算出した確率値に基づき、注目点に向かう線構造が各方向に均等に分布している度合いを表す指標値(エントロピー)を算出し、算出した指標値の大小に応じて線集中度を補正する。
【0094】
制御部21は、全ての点で線構造が注目点を向く場合に線集中度が一定になるように、線集中度を正規化(補正)する(ステップS36)。具体的には、制御部21は、乳房周縁から中心に向かって値が高くなるように、フレーム画像内の各点の値を設定した正規化用のマップを生成し、正規化用マップにおける各点の値で、各点における線集中度を除算することで線集中度を補正する。
【0095】
制御部21は、線集中度が一定以上の領域を各フレーム画像から抽出する(ステップS37)。そして制御部21は、抽出した領域のフレーム間の移動量に応じて、ステップS32で検出したスピキュラ領域が偽陽性であるか否かを判定する(ステップS38)。具体的には上述の如く、制御部21は、スピキュラ領域のフレーム間の移動距離及び/又は移動速度が所定の閾値以上である場合、当該スピキュラ領域は偽陽性であると判定する。
【0096】
制御部21は、偽陽性でないと判定したスピキュラ領域にラベルを重畳した乳房画像を表示部24に表示する(ステップS39)。具体的には、制御部21は、スピキュラ領域を囲むバウンディングボックスと、スピキュラ領域内部を色付けする半透明マスクとを重畳したフレーム画像を表示する。また、制御部21は、線集中度が一定以上の領域のフレーム間の移動経路を表すオブジェクト(折れ線)をフレーム画像に重畳表示する。制御部21は一連の処理を終了する。
【0097】
以上より、本実施の形態によれば、スピキュラ等の構築の乱れを好適に特定することができる。
【0098】
(変形例)
上述した実施の形態において、線集中度はフレーム画像毎に検出しているが、複数の連続するフレーム画像を積算して得られる積算画像を用いて線集中度を検出してもよい。
図13は、線集中度の算出過程の他の例を示す説明図である。本変形例では、
図13の上から1段目及び2段目に図示するように、画像診断装置2は、撮像装置30で撮像したフレーム画像から、撮像位置が連続する複数のフレーム画像を積算した積算画像を生成する。そして、画像診断装置2は、生成した各積算画像から、画像内の各点における線構造の方向及び強度を抽出し、
図13の上から3段目に図示するように、積算画像内の線構造の強度マップ及び方向マップを生成する。
【0099】
積算画像は、例えば5枚のフレーム画像毎に、フレーム画像の各画素の輝度(画素値)の平均値を算出し、算出した平均値を各画素の画素値として生成される。なお、積算画像を生成するフレーム画像の数は、5枚に限定されず、3~7枚程度の任意の数としてもよく、他の方法によって積算画像を生成してもよい。
【0100】
図14は、スピキュラ検出処理の手順の他の例を示すフローチャートである。
図14に示す処理は、
図12に示す処理において、ステップS31,S32の間にステップS41~S49を追加したものである。
図12と同じステップについては説明を省略する。
【0101】
本変形例において、画像診断装置2の制御部21は、乳房の複数位置の断面を撮像した複数のフレーム画像を取得した場合(ステップS31)、取得したフレーム画像を、所定数毎に積算して積算画像を生成する(ステップS41)。例えばステップS31で60枚のフレーム画像による3次元ボリュームデータが得られた場合、制御部21は、上述の積算処理を5枚毎に行い、12枚の積算画像を生成する。そして、制御部21は、生成した積算画像(例えば12枚の積算画像)に基づいて、ステップS42~S47の処理を実行する。ステップS42~S47の処理は、ステップS32~S37と同様の処理である。
【0102】
なお、ステップS42において、積算画像中のスピキュラ領域の検出に用いる検出モデルは、
図4に示す検出モデル50と同様の構成であるが、複数の積算画像から成る3次元ボリュームデータを訓練用のデータとし、訓練用の3次元ボリュームデータを構成する各積算画像に対し、積算画像中のスピキュラ領域を表すラベルが付与された訓練データを用いて学習したモデルである。ここでの訓練用の3次元ボリュームデータは、撮像装置30で撮像した複数のフレーム画像を所定枚数毎に積算した積算画像群であり、ラベルは、各フレーム画像に付与されたラベルを所定枚数毎に積算したラベルである。所定枚数毎に積算したラベルは、例えば各フレーム画像に付与されたラベルが示すスピキュラ領域の正解の座標範囲を全て含むデータである。このような訓練データを用いて学習することにより、複数の積算画像から成る3次元ボリュームデータを入力した場合に、スピキュラ領域を検出する検出モデルが生成される。このような検出モデルも、サーバ1で生成されて画像診断装置2にインストールされる。よって、画像診断装置2の制御部21は、このような検出モデルに、ステップS41で生成した複数の積算画像による3次元ボリュームデータを入力することで、スピキュラ領域を検出する(ステップS42)。
【0103】
また、制御部21は、ステップS41で生成した積算画像内の各点における線構造の方向及び強度を、各積算画像から抽出し(ステップS43)、抽出した線構造の方向及び強度に基づき、各積算画像内の各点における線集中度を算出する(ステップS44)。また、制御部21は、注目点に向かう線構造が全方位(複数の方向)に均等に分布するほど高くなるように、線集中度を補正し(ステップS45)、全ての点で線構造が注目点を向く場合に線集中度が一定になるように、線集中度を正規化する(ステップS46)。そして、制御部21は、線集中度が一定以上の領域を各積算画像から抽出する(ステップS47)。
【0104】
制御部21は、ステップS47で、線集中度が一定以上の領域を積算画像から抽出したか否か(抽出領域があるか否か)を判断し(ステップS48)、抽出領域がないと判断した場合(ステップS48:NO)、一連の処理を終了する。
【0105】
抽出領域があると判断した場合(ステップS48:YES)、制御部21は、抽出領域があると判断した積算画像の生成に用いたフレーム画像を、ステップS38の偽陽性の判定処理における処理対象の画像に特定する(ステップS49)。なお、制御部21は、抽出領域があると判断した積算画像に加えて、当該積算画像と撮像位置が前後する2つの積算画像を含む3つの積算画像の生成に用いたフレーム画像を処理対象の画像に特定してもよい。その後、制御部21は、処理対象に特定したフレーム画像に対して、ステップS32~S39の処理を実行する。上述した処理により、積算画像に対するスピキュラ領域の検出及び線集中度の算出の結果に基づいて、検出したスピキュラ領域に対する偽陽性の判定処理を行うフレーム画像を絞り込むことができる。また、偽陽性の判定処理対象についてはフレーム画像単位で処理を行うことにより、上述の実施の形態と同様に、スピキュラ等の構築の乱れを好適に特定することができる。
【0106】
以上より、本変形例によれば、積算画像に対する処理結果に基づいて、検出されたスピキュラ領域が偽陽性であるか否かを判定する処理対象のフレーム画像を絞り込むことができるので、偽陽性の判定を効率的に行うことができ、演算処理に要する時間を短縮することができる。
【0107】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0108】
1 サーバ
11 制御部
12 主記憶部
13 通信部
14 補助記憶部
P1 プログラム
2 画像診断装置
20 画像処理装置
21 制御部
22 主記憶部
23 通信部
24 表示部
25 入力部
26 送受信部
27 画像処理部
28 補助記憶部
P2 プログラム
50 検出モデル
30 撮像装置
31 天板
32 孔
33 水槽
34 リングアレイ