(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167454
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】光偏向装置、及び測距装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/481 20060101AFI20241127BHJP
G02F 1/295 20060101ALN20241127BHJP
【FI】
G01S7/481 A
G02F1/295
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021168091
(22)【出願日】2021-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】316005926
【氏名又は名称】ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140958
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100137888
【弁理士】
【氏名又は名称】大山 夏子
(74)【代理人】
【識別番号】100154036
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】安井 利文
(72)【発明者】
【氏名】安住 航平
(72)【発明者】
【氏名】安 陽太郎
(72)【発明者】
【氏名】蛯子 芳樹
【テーマコード(参考)】
2K102
5J084
【Fターム(参考)】
2K102AA28
2K102BA07
2K102BB04
2K102BC10
2K102BD09
2K102CA00
2K102DA04
2K102DA09
2K102DD03
2K102EA05
2K102EB08
2K102EB10
2K102EB22
5J084AA05
5J084AD01
5J084BA03
5J084BA20
5J084BA36
5J084BA50
5J084BA51
5J084BB02
5J084BB07
5J084BB40
5J084CA08
5J084CA48
5J084CA80
5J084DA01
5J084DA09
5J084EA40
(57)【要約】
【課題】出射光の広がりが抑制されると共に、受光の有効開口が拡大された光偏向装置、及び測距装置を提供する。
【解決手段】互いに平行に第1方向に延在して半導体層に設けられ、前記半導体層の外部空間への発光、及び前記外部空間からの受光が可能な複数の導波路と、前記半導体層を含む基板の上に設けられ、前記複数の導波路から前記第1方向に偏向されて発せられた光を前記第1方向と直交する第2方向に略平行な光線に変換する光学系と、を備える、光偏向装置。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに平行に第1方向に延在して半導体層に設けられ、前記半導体層の外部空間への発光、及び前記外部空間からの受光が可能な複数の導波路と、
前記半導体層を含む基板の上に設けられ、前記複数の導波路から前記第1方向に偏向されて発せられた光を前記第1方向と直交する第2方向に略平行な光線に変換する光学系と、
を備える、光偏向装置。
【請求項2】
前記光学系は、前記複数の導波路に亘って設けられたモジュールレンズを含む、請求項1に記載の光偏向装置。
【請求項3】
前記モジュールレンズは、前記第2方向に延在する回転軸で円周体を回転させた円環体レンズである、請求項2に記載の光偏向装置。
【請求項4】
前記モジュールレンズは、前記複数の導波路から発せられる光の波長よりも小さい周期の平面構造を有するメタレンズである、請求項2に記載の光偏向装置。
【請求項5】
前記メタレンズは、曲率集光特性を有する、請求項4に記載の光偏向装置。
【請求項6】
前記メタレンズは、スロープ集光特性を有する、請求項4に記載の光偏向装置。
【請求項7】
前記光学系は、前記モジュールレンズと前記基板との間に設けられた線形回折格子をさらに含む、請求項2に記載の光偏向装置。
【請求項8】
前記線形回折格子は、前記複数の導波路から発せられる光を前記複数の導波路の光の進行方向と反対側に回折させる、請求項7に記載の光偏向装置。
【請求項9】
前記光学系は、前記導波路ごと、又は前記複数の導波路ごとに設けられたオンチップレンズと、前記複数の導波路に亘って設けられたモジュールレンズとを含む、請求項1に記載の光偏向装置。
【請求項10】
前記オンチップレンズは、シリンドリカルレンズである、請求項9に記載の光偏向装置。
【請求項11】
前記オンチップレンズは、前記複数の導波路から発せられる光の波長よりも小さい周期の平面構造を有するメタレンズである、請求項9に記載の光偏向装置。
【請求項12】
前記オンチップレンズは、凹レンズである、請求項9に記載の光偏向装置。
【請求項13】
前記導波路の各々の近傍に設けられ、前記導波路に入射する光を集光する集光レンズをさらに含む、請求項9に記載の光偏向装置。
【請求項14】
前記集光レンズは、前記導波路に入射する光の波長よりも小さい周期の平面構造を有するメタレンズである、請求項13に記載の光偏向装置。
【請求項15】
前記集光レンズは、前記光学系を構成する部材よりも屈折率が高い部材で構成される、請求項13に記載の光偏向装置。
【請求項16】
前記複数の導波路は、中央部のほうが周辺部よりも密度が高くなるように前記第2方向に配列される、請求項9に記載の光偏向装置。
【請求項17】
前記周辺部では、前記導波路と、前記導波路に対応する前記オンチップレンズとの位置は、前記第2方向にオフセットされる、請求項16に記載の光偏向装置。
【請求項18】
前記複数の導波路から発せられる光は、周波数変調される、請求項1に記載の光偏向装置。
【請求項19】
前記複数の導波路から発せられる光は、近赤外線領域に属する光である、請求項1に記載の光偏向装置。
【請求項20】
互いに平行に第1方向に延在して半導体層に設けられ、前記半導体層の外部空間への発光、及び前記外部空間からの受光が可能な複数の導波路と、
前記半導体層を含む基板の上に設けられ、前記複数の導波路から前記第1方向に偏向されて発せられた光を前記第1方向と直交する第2方向に略平行な光線に変換する光学系と、
を備える、測距装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光偏向装置、及び測距装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周囲の物体までの距離を取得する技術として、LiDAR(Light Detection and Ranging)装置が知られている。
【0003】
LiDAR装置は、物体に光ビームを照射し、照射した光ビームの反射光を検出することで、照射した光ビームと反射光との時間差又は周波数差から物体までの距離を算出することができる。また、LiDAR装置は、光ビームを物体に二次元的に走査することで、広い視野の距離情報を取得することができる。
【0004】
例えば、下記の特許文献1には、目標とする空間解像度の測距をより短い時間で行うことを目的とするLiDAR装置の走査方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、LiDAR装置では、同一素子で、物体に対して光ビームを照射すると共に、物体で反射された反射光を受光することが検討されている。そのため、広がり角が小さい光ビームの出射と、大きな有効開口での反射光の受光とを同一素子で両立させることが望まれる。
【0007】
そこで、本開示では、出射光の広がりを抑制すると共に、受光の有効開口を大きくすることが可能な、新規かつ改良された光偏向装置、及び測距装置を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示によれば、互いに平行に第1方向に延在して半導体層に設けられ、前記半導体層の外部空間への発光、及び前記外部空間からの受光が可能な複数の導波路と、前記半導体層を含む基板の上に設けられ、前記複数の導波路から前記第1方向に偏向されて発せられた光を前記第1方向と直交する第2方向に略平行な光線に変換する光学系と、を備える、光偏向装置が提供される。
【0009】
また、本開示によれば、互いに平行に第1方向に延在して半導体層に設けられ、前記半導体層の外部空間への発光、及び前記外部空間からの受光が可能な複数の導波路と、前記半導体層を含む基板の上に設けられ、前記複数の導波路から前記第1方向に偏向されて発せられた光を前記第1方向と直交する第2方向に略平行な光線に変換する光学系と、を備える、測距装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】測距装置の構成を模式的に示すブロック図である。
【
図3】フォトニック結晶導波路の構成例を示す斜視図である。
【
図4】第1の形状例に係るモジュールレンズの形状を示す斜視図である。
【
図5】
図4に示すモジュールレンズの断面形状を示す縦断面図である。
【
図6】光アンテナの上に設けられた回折格子の構成を示す縦断面図である。
【
図7】
図4~
図6に示す回折格子及びモジュールレンズを介して出射された出射光のスポット形状を示す画像である。
【
図8】
図7に示すスポット形状の出射光がさらにθ方向に集光された場合の出射光のスポット形状を示す画像である。
【
図9】
図7に示すスポット形状の出射光がさらにθ方向に集光された場合の出射光のスポット形状を示す画像である。
【
図10】第2の形状例に係るモジュールレンズの形状を示す斜視図である。
【
図11】第3の形状例に係るモジュールレンズの形状を示す斜視図である。
【
図12】第4の形状例に係るモジュールレンズの形状を示す斜視図である。
【
図13】
図12に示すモジュールレンズの断面形状を示す縦断面図である。
【
図14】
図12及び
図13に示す回折格子及びモジュールレンズを介して出射された出射光のスポット形状を示す画像である。
【
図15】第5の形状例に係るモジュールレンズの形状を示す斜視図である。
【
図16】
図15に示すモジュールレンズの断面形状を示す縦断面図である。
【
図17】
図15及び
図16に示す回折格子及びモジュールレンズを介して出射された出射光のスポット形状を示す画像である。
【
図18】第6の形状例に係るモジュールレンズの形状を示す斜視図である。
【
図19】
図18に示すモジュールレンズの断面形状を示す縦断面図である。
【
図20】
図18及び
図19に示すモジュールレンズを介して出射された出射光のスポット形状を示す画像である。
【
図21】第7の形状例に係るモジュールレンズの形状を示す斜視図である。
【
図22】
図21に示すモジュールレンズの断面形状を示す縦断面図である。
【
図23】
図21及び
図22に示すモジュールレンズを介して出射された出射光のスポット形状を示す画像である。
【
図24】第8の形状例に係るモジュールレンズの形状を示す斜視図である。
【
図25】
図24に示すモジュールレンズの断面形状を示す縦断面図である。
【
図26】
図24及び
図25に示すモジュールレンズ、及び回折格子を介して出射された出射光のスポット形状を示す画像である。
【
図27】第1の構成例に係るオンチップレンズ及びモジュールレンズの構成を示す縦断面図である。
【
図28】第1の構成例に係るオンチップレンズ及びモジュールレンズの構成を示す縦断面図である。
【
図29】第2の構成例に係るオンチップレンズ及びモジュールレンズの構成を示す縦断面図である。
【
図30】第3の構成例に係るオンチップレンズ及びモジュールレンズの構成を示す縦断面図である。
【
図31】第3の構成例に係るオンチップレンズ及びモジュールレンズによる効果を説明する説明図である。
【
図32】第4の構成例に係る集光レンズ及びモジュールレンズの構成を示す縦断面図である。
【
図33】第4の構成例に係る集光レンズ及びモジュールレンズによる効果を説明する説明図である。
【
図34】第5の構成例に係るオンチップレンズと、発光受光単位との位置関係を示す模式的な説明図である。
【
図35】第5の構成例に係るオンチップレンズと、発光受光単位との位置関係を示す模式的な説明図である。
【
図36】第5の構成例に係るオンチップレンズと、発光受光単位との位置関係を示す模式的な説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0012】
なお、説明は以下の順序で行うものとする。
1.測距装置
1.1.概要
1.2.構成
1.3.光アンテナ
2.第1の実施形態
2.1.第1の形状例
2.2.第2の形状例
2.3.第3の形状例
2.4.第4の形状例
2.5.第5の形状例
2.6.第6の形状例
2.7.第7の形状例
2.8.第8の形状例
2.9.付記
3.第2の実施形態
3.1.第1の構成例
3.2.第2の構成例
3.3.第3の構成例
3.4.第4の構成例
3.5.第5の構成例
【0013】
<1.測距装置>
(1.1.概要)
まず、
図1を参照して、本開示に係る技術が適用される測距装置の概要について説明する。
図1は、測距装置1の構成を模式的に示すブロック図である。
【0014】
図1に示すように、測距装置1は、光源10と、変調器20と、光サーキュレータ30と、光送受信器40と、混合器50と、検出器60と、処理部70とを備える。
【0015】
光源10は、例えば、近赤外線領域に属する光を出射するレーザ光源である。光源10から発せられたレーザ光は、変調器20で周波数変調されることで、周波数が順次変化する周波数チャープ光となる。周波数変調された周波数チャープ光は、スプリッタなどで分波された後、光サーキュレータ30を介して光送受信器40から対象物2に照射される。対象物2に照射された出射光Tx(Transmitter)は、対象物2で反射されることで反射光Rx(Receiver)として光送受信器40で受光される。受光された反射光Rxは、出射前に分波された周波数チャープ光と混合器50にてミキシングされることでビート信号を発生させる。
【0016】
反射光Rxは、光送受信器40と対象物2との間での往復によって出射光Txから遅延するため、周波数チャープによって出射光Tx及び反射光Rxの間で周波数に差が生じる。これにより、混合器50は、受光された反射光Rxと、出射前に分波された周波数チャープ光とを混合することで、出射光Tx及び反射光Rxの間の遅延時間に対応した周波数差のビート信号を発生させることができる。したがって、測距装置1は、フォトダイオードなどで構成された検出器60にてビート信号を検出し、処理部70にてFFT(Fast Fourier Transform)解析等することで、光送受信器40から対象物2までの距離情報を取得することができる。
【0017】
また、測距装置1は、出射光Txの放射角を変えて対象物2を二次元的に走査しながら反射光Rxを受光することで、光送受信器40から対象物2までの距離を二次元的に取得することができる。
【0018】
(1.2.構成)
続いて、
図2を参照して、測距装置1の構成例について説明する。
図2は、測距装置1の構成例を示す縦断面図である。
【0019】
図2に示すように、測距装置1は、Siなどの半導体を用いて構成される。例えば、測距装置1は、第1半導体基板110に第1多層配線層120を積層した第1基板100と、第2半導体基板210に第2多層配線層220を積層した第2基板200と、平坦化膜310と、モジュールレンズ300とを含んで構成される。第1基板100及び第2基板200は、第1多層配線層120及び第2多層配線層220を互いに対向させることで貼り合わせられる。
【0020】
第1半導体基板110は、例えば、Si基板、又はSOI(Silicon On Insulator)基板である。第1半導体基板110には、出射光Txを出射する光アンテナ111と、光アンテナ111からの出射光Txの出射角度を偏向させるヒータ112とが設けられる。
【0021】
光アンテナ111は、後述するように、フォトニック結晶構造が形成された半導体層に設けられた導波路である。光アンテナ111は、いわゆるスローライト導波路として機能し、図示しない半導体レーザから発せられたレーザ光(例えば、近赤外線領域に属する光)を導波路に入射させることで、入射した光を導波路からモジュールレンズ300に向かって出射することができる。また、光アンテナ111は、モジュールレンズ300を介して第1基板100に入射する光を受光することができる。すなわち、光アンテナ111は、
図1の光送受信器40に相当する。
【0022】
ヒータ112は、例えば、抵抗加熱によって発熱することで光アンテナ111を構成する半導体層を加熱する。光アンテナ111を構成する半導体層は、温度によって屈折率が変化する。したがって、ヒータ112は、光アンテナ111を構成する半導体層の屈折率を変化させることで、光アンテナ111から発せられる出射光Txの偏向角度を変化させることができる。
【0023】
第1多層配線層120は、配線層122、層間絶縁膜121、及び接合電極123を含む。配線層122は、例えば、Cu、Al、Ti、又はWなどの導電性材料で構成され、光アンテナ111及びヒータ112などの素子と接合電極123とを電気的に接続する。層間絶縁膜121は、SiOx、SiNx、又はSiONなどの絶縁性材料で構成され、異なる層に設けられた配線層122を電気的に離隔する。層間絶縁膜121で電気的に離隔された配線層122は、例えば、層間絶縁膜121を貫通するビアにて電気的に接続される。
【0024】
接合電極123は、例えば、Cuなどの導電性材料で構成され、第1多層配線層120と第2多層配線層220との貼り合わせ面に露出するように設けられる。接合電極123は、第1多層配線層120と第2多層配線層220との間で電極同士を接合した電極接合構造(Cu-Cu connection)を形成することで、第1多層配線層120と第2多層配線層220との間に電気的な接続を形成することができる。
【0025】
第2半導体基板210は、例えば、Si基板、又はSOI(Silicon On Insulator)基板である。である。第2半導体基板210には、例えば、出射光Txの制御回路、ヒータ112の制御回路、又は反射光Rxの処理回路などを構成する各種トランジスタTrが設けられる。
【0026】
第2多層配線層220は、配線層222、層間絶縁膜221、及び接合電極223を含む。配線層222は、例えば、Cu、Al、Ti、又はWなどの導電性材料で構成され、第2半導体基板210に形成された各種トランジスタTrと接合電極223とを電気的に接続する。層間絶縁膜221は、SiOx、SiNx、又はSiONなどで構成され、異なる層に設けられた配線層222を電気的に離隔する。層間絶縁膜221で電気的に離隔された配線層222の各々は、例えば、層間絶縁膜221を貫通するビアにて電気的に接続される。
【0027】
接合電極223は、例えば、Cuなどの導電性材料で構成され、第1多層配線層120と第2多層配線層220との貼り合わせ面に露出するように設けられる。接合電極223は、第1多層配線層120と第2多層配線層220との間で電極同士を接合した電極接合構造(Cu-Cu connection)を形成することで、第1多層配線層120と第2多層配線層220との間に電気的な接続を形成することができる。
【0028】
平坦化膜310は、SiOx、SiNx、又はSiONなどの透明材料で構成され、第1基板100の第1半導体基板110の上に設けられる。モジュールレンズ300は、SiOx、SiNx、SiON、ガラス材料、又はアクリル樹脂などの透明材料で構成され、平坦化膜310の上に設けられる。モジュールレンズ300は、光アンテナ111から発せられた出射光Txを略平行光線に成形すると共に、光アンテナ111に入射する反射光Rxを集光する。モジュールレンズ300は、凸レンズとして設けられてもよい。
【0029】
(1.3.光アンテナ)
次に、
図3を参照して、光アンテナ111を構成するフォトニック結晶導波路について説明する。
図3は、フォトニック結晶導波路1110の構成例を示す斜視図である。
【0030】
図3に示すように、フォトニック結晶導波路1110は、回折格子1112と、導波路1111とで構成される。回折格子1112は、Siなどで構成された高屈折率領域の間に、Siよりも屈折率が低い低屈折率領域を周期的に配置することで構成される。導波路1111は、フォトニック結晶構造を有し、一方向に延在して設けられる。具体的には、導波路1111は、回折格子1112が設けられていない領域に第1方向(X軸方向)に延在して互いに平行に複数設けられる。
【0031】
フォトニック結晶導波路1110では、導波路1111に入射された光は、導波路1111を第1方向に伝搬されると共に、導波路1111の上方(Z軸方向)に放射される。導波路1111の上方に放射された光は、第1方向と直交する第2方向(Y軸方向)に扇状に広がったビームとなり、Z軸方向に対して光の伝搬方向に傾いて放出される。導波路1111の上方に放射される光は、モジュールレンズ300などの光学系によって、第2方向に略平行な光線に成形される。なお、略平行とは、完全な平行から0.01°~0.1°程度の広がりを許容するものとする。
【0032】
フォトニック結晶導波路1110では、温度によって回折格子1112の屈折率を変化させることで、導波路1111の上方に放射される光をθ方向(Y軸回りの回転方向)に偏向させることができる。また、フォトニック結晶導波路1110では、光を放射する導波路1111を切り替えることで、φ方向(X軸回りの回転方向)に光を偏向することができる。これによれば、フォトニック結晶導波路1110で構成された光アンテナ111は、屈折率制御によるθ方向の偏向と、光を放射する導波路1111の切り替えによるφ方向の偏向とを用いることで、出射光Txを二次元に走査することが可能である。
【0033】
本開示に係る技術では、測距装置1は、Siなどの半導体層に設けられた光アンテナ111から対象物2に出射光Txを発すると共に、同一の光アンテナ111で対象物2からの反射光Rxを受光する。そのため、測距装置1の光学系は、出射光Txの広がりを抑制すると共に、受光の有効開口を大きくすることが望まれる。以下では、上記事情に基づいて想到された本開示に係る技術について第1の実施形態、及び第2の実施形態に分けて説明する。このような光アンテナ111、及び光アンテナ111の上に設けられた光学系は、併せて光偏向装置とも称する。
【0034】
<2.第1の実施形態>
まず、
図4~
図26を参照して、本開示の第1の実施形態に係る技術について説明する。本開示の第1の実施形態は、光アンテナ111の上に複数の導波路に亘って設けられたモジュールレンズの形状等を制御することで、測距装置1から発せられる出射光Txの広がりを抑制すると共に、受光の有効開口を大きくする実施形態である。
【0035】
(2.1.第1の形状例)
図4は、第1の形状例に係るモジュールレンズ300Aの形状を示す斜視図である。
図5は、
図4に示すモジュールレンズ300Aの断面形状を示す縦断面図である。
図6は、光アンテナ111の上に設けられた回折格子113の構成を示す縦断面図である。
【0036】
図4に示すように、第1の形状例に係るモジュールレンズ300Aは、光アンテナ111の導波路が延在する第1方向と直交する第2方向に延在する回転軸で円周体を回転させた円環体形状のドーナツ型プリズムである。第1の形状例に係るモジュールレンズ300Aは、出射光Txをφ方向に略平行な光線に成形することができる。
【0037】
具体的には、モジュールレンズ300Aは、
図5に示す断面形状を第2方向に延在する回転軸で回転させた形状を有する。
図5に示す断面形状は、例えば、光アンテナ111と対向する下面S1の非球面係数が下記表1で表され、モジュールレンズ300Aの外側に向いた上面S2の非球面係数が下記表2で表され、光アンテナ111から発せられる出射光Txをφ方向に略平行な光線に成形可能な形状である。モジュールレンズ300Aの円環体形状は、表1及び表2に示す係数を用いて、下記数式1に従って描かれた図形を(X,Y,Z)=(0,0,0)を中心にY軸回りに回転させることで形成することができる。なお、モジュールレンズ300Aの屈折率は、1.5である。
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
また、モジュールレンズ300Aと、光アンテナ111との間には、回折格子113が設けられる。回折格子113は、光アンテナ111から発せられる出射光Txを第1方向(θ方向)に曲げることが可能な線形回折格子である。例えば、回折格子113は、発光点からZ距離0.3mm、厚み0.7mm、屈折率1.5、かつ
図6に示す断面形状にて設けられることで、θ方向の入射角10degの出射光Txをθ方向の出射角0degにて出射することができる。すなわち、回折格子113は、入射光をθ方向に10deg回折させることができる。フォトニック結晶導波路1110から出射される出射光Txは、フォトニック結晶導波路1110への光の伝搬方向(第1方向)に傾いて放出されるため、回折格子113は、出射光Txのθ方向の傾きを補正することで、光アンテナ111から直上への出射光Txの放射を可能とする。
【0042】
図6に示すように、回折格子113の断面構造は、θ方向の回折ピッチdが8.92μm、鋸歯の高さhが3.1μmのブレーズ構造1131であってもよい。また、回折格子113の断面形状は、θ方向の回折ピッチdが8.92μmである誘電体ピラー1133を用いたメタレンズ構造1132であってもよい。誘電体ピラー1133は、例えば、アモルファスシリコン、又はTiO
2などで構成され、径のサイズ変化によって出射光Txに位相を与えることができる。
【0043】
なお、回折格子113は、
図6に示すように出射光Txを回折させる凹凸面を光アンテナ111側に向けて設けられてもよく、出射光Txを回折させる凹凸面をモジュールレンズ300A側に向けて設けられてもよい。
【0044】
光アンテナ111は、5μm幅かつ1mm長さで第1方向(θ方向)に延在する導波路を複数含む。光アンテナ111に含まれる複数の導波路は、255μmピッチで第2方向(φ方向)に互いに平行に設けられる。光アンテナ111は、導波路の各々から出射光Txを放射することができる。
【0045】
図4~
図6を参照して説明した回折格子113及びモジュールレンズ300Aを介して出射された出射光Txのスポット形状を
図7に示す。
図7に示すように、第1の形状例に係るモジュールレンズ300Aは、光アンテナ111からのθ方向の出射角10deg、25deg、及び40degの各々で、導波路の各々からの出射光Txが互いに分離された、きれいなスポット形状を得ることが可能である。また、第1の形状例に係るモジュールレンズ300Aは、有効開口が7.8mmとなるため、大きな有効開口を得ることが可能である。
【0046】
ここで、光アンテナ111から出射された出射光Txがさらにθ方向に集光された場合の出射光Txのスポット形状を
図8及び
図9に示す。
図8に示すスポット形状では、θ方向の焦点距離が33.3mmとなるように、光アンテナ111から出射された出射光Txを集光している。また、
図9に示すスポット形状では、θ方向の焦点距離が33.3mmとなるように、光アンテナ111から出射された出射光Txを集光すると共に、さらに、出射光Txを出射する導波路のθ方向幅を半分(0.5mm)に低減している。
【0047】
なお、出射光Txのθ方向への集光は、例えば、光アンテナ111とモジュールレンズ300Aとの間に、θ方向のシリンドリカルレンズ、θ方向のメタレンズ、又はθ方向の回折レンズを配置することで行うことができる。
【0048】
図8に示すように、出射光Txをθ方向に集光することで、第1の形状例に係るモジュールレンズ300Aは、よりきれいなスポット形状を得ることが可能である。
図8に示すスポット形状では、スポット形状中の最大光密度が向上しているため、光アンテナ111で受光される反射光RxのSN比を向上させることが可能である。
【0049】
図9に示すように、さらに出射光Txを出射する導波路のθ方向幅を低減させることで、第1の形状例に係るモジュールレンズ300Aは、よりきれいなスポット形状を得ることが可能である。
図9に示すスポット形状では、スポット形状中の最大光密度がさらに向上しているため、光アンテナ111で受光される反射光RxのSN比をより向上させることが可能である。
【0050】
(2.2.第2の形状例)
図10は、第2の形状例に係るモジュールレンズ300Bの形状を示す斜視図である。
【0051】
図10に示すように、第2の形状例に係るモジュールレンズ300Bは、曲率集光特性を有するメタレンズであり、光アンテナ111から回折格子113を介して出射される出射光Txをφ方向に略平行な光線に成形する。具体的には、第2の形状例に係るモジュールレンズ300Bでは、光アンテナ111の導波路が延在する第1方向と直交する第2方向に延在する円柱の外周面に、出射光Txの波長よりも小さい周期の平面構造のメタレンズが設けられる。メタレンズとは、出射光Txの波長よりも小さい周期の平面構造によって入射する光に位相を付与する平面レンズである。モジュールレンズ300Bは、円柱の外周面に対応する曲面に設けられたメタレンズによって出射光Txに位相を付与することで、出射光Txをφ方向に略平行な光線に成形することができる。
【0052】
(2.3.第3の形状例)
図11は、第3の形状例に係るモジュールレンズ300Cの形状を示す斜視図である。
【0053】
図11に示すように、第3の形状例に係るモジュールレンズ300Cは、スロープ集光特性を有するメタレンズであり、光アンテナ111から出射される出射光Txをφ方向に略平行な光線に成形する。具体的には、第3の形状例に係るモジュールレンズ300Cでは、光アンテナ111の導波路が延在する第1方向に向かって傾斜するスロープ面に、出射光Txの波長よりも小さい周期の平面構造のメタレンズが設けられる。メタレンズとは、上述したように、出射光Txの波長よりも小さい周期の平面構造によって入射する光に位相を付与する平面レンズである。モジュールレンズ300Cは、スロープ面に設けられたメタレンズによって出射光Txに位相を付与することで、出射光Txをφ方向に略平行な光線に成形することができる。
【0054】
(2.4.第4の形状例)
図12は、第4の形状例に係るモジュールレンズ300Dの形状を示す斜視図である。
図13は、
図12に示すモジュールレンズ300Dの断面形状を示す縦断面図である。
【0055】
図12に示すように、第4の形状例に係るモジュールレンズ300Dでは、直方体形状の上面に出射光Txの波長よりも小さい周期の平面構造のメタレンズが設けられる。モジュールレンズ300Dは、光アンテナ111から回折格子113を介して出射される出射光Txをφ方向に略平行な光線に成形することができる。
【0056】
具体的には、モジュールレンズ300Dは、
図13に示すように、高さが18mmの直方体形状であり、回折格子113から0.1mmの空間を置いて設けられる。モジュールレンズ300Dに形成されたメタレンズの位相差関数の係数は、下記表3で表される。モジュールレンズ300Dに形成されたメタレンズは、表3に示す係数を用いて、下記数式2に示す付与位相差量Φを出射光Txに付与するように設けられる。なお、モジュールレンズ300Dの屈折率は、1.5である。
【0057】
【0058】
【0059】
光アンテナ111から出射される出射光Txの条件、及び回折格子113の仕様については、第1の形状例と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0060】
図12及び
図13を参照して説明した回折格子113及びモジュールレンズ300Dを介して出射された出射光Txのスポット形状を
図14に示す。
図14に示すように、第4の形状例に係るモジュールレンズ300Dは、光アンテナ111からのθ方向の出射角10deg、25deg、及び40degの各々で、導波路の各々からの出射光Txが互いに分離された、より集光されたスポット形状を得ることが可能である。また、第4の形状例に係るモジュールレンズ300Dは、有効開口が8mmとなるため、大きな有効開口を得ることが可能である。したがって、第4の形状例に係るモジュールレンズ300Dは、レンズの形状をより簡略化しつつ、出射光Txの集光性を向上させることができる。
【0061】
(2.5.第5の形状例)
図15は、第5の形状例に係るモジュールレンズ300Eの形状を示す斜視図である。
図16は、
図15に示すモジュールレンズ300Eの断面形状を示す縦断面図である。
【0062】
図15に示すように、第5の形状例に係るモジュールレンズ300Eでは、直方体形状の傾斜した上面に出射光Txの波長よりも小さい周期の平面構造のメタレンズが設けられる。モジュールレンズ300Eは、光アンテナ111から回折格子113を介して出射される出射光Txをφ方向に略平行な光線に成形することができる。
【0063】
具体的には、モジュールレンズ300Eは、
図15に示すように、高さが18mmの直方体形状であり、回折格子113から0.1mmの空間を置いて設けられる。また、モジュールレンズ300Eは、直方体形状の上面が第1方向の両側に向かって11degで下向きに傾斜して設けられる。モジュールレンズ300Eに形成されたメタレンズの位相差関数の係数は、下記表4で表される。モジュールレンズ300Eに形成されたメタレンズは、表4に示す係数を用いて、下記数式3に示す付与位相差量Φを出射光Txに付与するように設けられる。なお、モジュールレンズ300Eの屈折率は、1.5である。
【0064】
【0065】
【0066】
光アンテナ111から出射される出射光Txの条件は、第1の形状例と同様であるため、ここでの説明は省略する。回折格子113は、θ方向の回折ピッチdを26.7μmとすることで、入射光のθ方向の回折角度を3.3degとしている。
【0067】
図15及び
図16を参照して説明した回折格子113及びモジュールレンズ300Eを介して出射された出射光Txのスポット形状を
図17に示す。
図17に示すように、第5の形状例に係るモジュールレンズ300Eは、光アンテナ111からのθ方向の出射角10deg、25deg、及び40degの各々で、導波路の各々からの出射光Txが互いに分離された、より集光されたスポット形状を得ることが可能である。また、第5の形状例に係るモジュールレンズ300Eは、有効開口が7.6mmとなるため、大きな有効開口を得ることが可能である。したがって、第5の形状例に係るモジュールレンズ300Eは、レンズの形状をより簡略化しつつ、出射光Txの集光性を向上させることができる。
【0068】
(2.6.第6の形状例)
図18は、第6の形状例に係るモジュールレンズ300Fの形状を示す斜視図である。
図19は、
図18に示すモジュールレンズ300Fの断面形状を示す縦断面図である。
【0069】
図18に示すように、第6の形状例に係るモジュールレンズ300Fでは、直方体形状の傾斜した上面に出射光Txの波長よりも小さい周期の平面構造のメタレンズが設けられる。モジュールレンズ300Fは、光アンテナ111からダミー基板115を介して出射される出射光Txをφ方向に略平行な光線に成形することができる。第6の形状例に係るモジュールレンズ300Fは、光アンテナ111に含まれる導波路のφ方向のピッチを狭めることで、より小さなサイズの光学系で出射光Txをφ方向に略平行な光線に成形することができる。
【0070】
具体的には、モジュールレンズ300Fは、
図18に示すように、高さが5.3mmの直方体形状であり、ダミー基板115から0.1mmの空間を置いて設けられる。ダミー基板115は、出射光Txを透過させる透明な基板である。また、モジュールレンズ300Fは、直方体形状の上面が第1方向の両側に向かって15degで下向きに傾斜して設けられる。モジュールレンズ300Fに形成されたメタレンズの位相差関数の係数は、下記表5で表される。モジュールレンズ300Fに形成されたメタレンズは、表5に示す係数を用いて、上記数式3に示す付与位相差量Φを出射光Txに付与するように設けられる。なお、モジュールレンズ300Fの屈折率は、1.5である。
【0071】
【0072】
光アンテナ111は、第1の形状例に対して、光アンテナ111に含まれる導波路のφ方向のピッチを1/3に狭めて75μmとして設けられる。光アンテナ111のその他の条件については、第1の形状例と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0073】
図18及び
図19を参照して説明したモジュールレンズ300Fを介して出射された出射光Txのスポット形状を
図20に示す。
図20に示すように、第6の形状例に係るモジュールレンズ300Fは、光アンテナ111からのθ方向の出射角10deg、25deg、及び40degの各々で、導波路の各々からの出射光Txが集光されたスポット形状を得ることが可能である。また、第6の形状例に係るモジュールレンズ300Fは、有効開口が2.6mmであるものの、光学系の高さを大幅に低減することが可能である。したがって、第6の形状例に係るモジュールレンズ300Fは、測距装置1をより小型化することが可能である。
【0074】
(2.7.第7の形状例)
図21は、第7の形状例に係るモジュールレンズ300Gの形状を示す斜視図である。
図22は、
図21に示すモジュールレンズ300Gの断面形状を示す縦断面図である。
【0075】
図21に示すように、第7の形状例に係るモジュールレンズ300Gでは、直方体形状の傾斜した上面及び下面の両方に出射光Txの波長よりも小さい周期の平面構造のメタレンズが設けられる。モジュールレンズ300Gは、光アンテナ111から回折格子113を介して出射される出射光Txをφ方向に略平行な光線に成形することができる。第7の形状例に係るモジュールレンズ300Gは、光アンテナ111に含まれる導波路のφ方向のピッチを狭めることで、より小さなサイズの光学系で出射光Txをφ方向に略平行な光線に成形することができる。
【0076】
具体的には、モジュールレンズ300Gは、
図21に示すように、高さが9.0mmの直方体形状であり、回折格子113から5.0mmの空間を置いて設けられる。また、モジュールレンズ300Gは、直方体形状の上面及び下面が第1方向の両側に向かって13degで下向きに傾斜して設けられる。モジュールレンズ300Gに形成されたメタレンズの位相差関数の係数は、下記表6で表される。モジュールレンズ300Gに形成されたメタレンズは、表6に示す係数を用いて、上記数式3に示す付与位相差量Φを出射光Txに付与するように設けられる。なお、モジュールレンズ300Fの屈折率は、1.5である。
【0077】
【0078】
光アンテナ111は、第1の形状例に対して、光アンテナ111に含まれる導波路のφ方向のピッチを1/2に狭めて112.5μmとして設けられる。また、光アンテナ111に含まれる導波路からのφ方向の発光角は、±30degである。
【0079】
図21及び
図22を参照して説明した回折格子113及びモジュールレンズ300Gを介して出射された出射光Txのスポット形状を
図23に示す。
図23に示すように、第7の形状例に係るモジュールレンズ300Gは、光アンテナ111からのθ方向の出射角10deg、25deg、及び40degの各々で、導波路の各々からの出射光Txが集光されたスポット形状を得ることが可能である。また、第7の形状例に係るモジュールレンズ300Gは、有効開口が7.4mmとなるため、大きな有効開口を得ることが可能である。したがって、第7の形状例に係るモジュールレンズ300Gは、大きな有効開口を維持しつつ光学系の高さを大幅に低減することができるため、測距装置1をより小型化することが可能である。
【0080】
(2.8.第8の形状例)
図24は、第8の形状例に係るモジュールレンズ300Hの形状を示す斜視図である。
図25は、
図24に示すモジュールレンズ300Hの断面形状を示す縦断面図である。
【0081】
図24に示すように、第8の形状例に係るモジュールレンズ300Hでは、3分割された直方体形状の上面に出射光Txの波長よりも小さい周期の平面構造のメタレンズがそれぞれ設けられる。モジュールレンズ300Hは、導波路を3つのグループに分割した光アンテナ111から回折格子113を介して出射される出射光Txをφ方向に略平行な光線に成形することができる。モジュールレンズ300Hにて成形された出射光Txは、3分割された回折格子114にてさらに回折されることで、均等に分散される。第8の形状例に係るモジュールレンズ300Hは、光アンテナ111に含まれる導波路をφ方向に3つのグループに分割し、それぞれのグループに属する導波路から放射された出射光Txを異なるメタレンズでφ方向に略平行な光線に成形することができる。
【0082】
具体的には、モジュールレンズ300Hは、
図25に示すように、高さが4.5mmの3分割された直方体形状であり、回折格子113から0.26mmの空間を置いて設けられる。また、モジュールレンズ300Hの上には、0.25mmの空間を置いて、厚み0.7mmの3分割された回折格子114が設けられる。モジュールレンズ300Hの3分割して形成されたメタレンズの位相差関数の係数は、下記表7で表される。モジュールレンズ300Hに形成されたメタレンズは、表7に示す係数を用いて、上記数式3に示す付与位相差量Φを出射光Txに付与するように設けられる。なお、モジュールレンズ300Hの屈折率は、1.5である。
【0083】
【0084】
光アンテナ111は、第1の形状例に対して、光アンテナ111に含まれる導波路のφ方向のピッチを56μmとしてφ方向に3つのグループに分割して設けられる。3つのグループは、それぞれ2.5mmの距離を空けて設けられる。
【0085】
回折格子114は、同様に、3分割して設けられる。中央の回折格子114は、中央のモジュールレンズ300Hからの出射光Txを回折させずに透過させる。+側の回折格子114は、回折ピッチdが8.92μmであり、+側のモジュールレンズ300Hからの出射光Txをφ方向の+側にさらに回折させることができる。-側の回折格子114は、回折ピッチdが8.92μmであり、-側のモジュールレンズ300Hからの出射光Txをφ方向の-側にさらに回折させることができる。
【0086】
図24及び
図25を参照して説明した回折格子113、モジュールレンズ300H、及び回折格子114を介して出射された出射光Txのスポット形状を
図26に示す。
図26に示すように、第8の形状例に係るモジュールレンズ300Hは、光アンテナ111からのθ方向の出射角10deg、25deg、及び40degの各々で、導波路の各々からの出射光Txが集光されたスポット形状を得ることが可能である。また、第8の形状例に係るモジュールレンズ300Hは、有効開口が2.1mm×3であるため、大きな有効開口を得ることが可能である。したがって、第8の形状例に係るモジュールレンズ300Hは、大きな有効開口を維持しつつ光学系の高さを大幅に低減することができるため、測距装置1をより小型化することが可能である。
【0087】
(2.9.付記)
上記の第2~第8の形状例では、モジュールレンズ300B~300Hの上面にメタレンズを付与したが、本開示に係る技術は上記例示に限定されない。例えば、メタレンズに替えて回折レンズがモジュールレンズ300B~300Hの上に設けられてもよい。また、上記の第2~第8の形状例では、モジュールレンズ300B~300Hに入射する出射光Txをθ方向にわずかに集光させることで、さらに良好なスポット形状を得ることも可能である。
【0088】
また、上記では、出射光Txをθ方向に曲げるため回折格子113を用いたが、本開示に係る技術は上記例示に限定されない。例えば、回折格子113に替えてプリズムを用いて出射光Txをθ方向に曲げてもよい。
【0089】
<3.第2の実施形態>
次に、
図27~
図36を参照して、本開示の第2の実施形態に係る技術について説明する。本開示の第2の実施形態は、光アンテナ111の上にモジュールレンズに加えてオンチップレンズを設けることで、測距装置1から発せられる出射光Txの広がりを抑制する実施形態である。
【0090】
(3.1.第1の構成例)
図27及び
図28は、第1の構成例に係るオンチップレンズ302A及びモジュールレンズ301の構成を示す縦断面図である。
【0091】
図27及び
図28に示すように、オンチップレンズ302Aは、平坦化膜310の上に設けられ、光アンテナ111に含まれる導波路ごと、又は複数の導波路ごとに設けられる。例えば、オンチップレンズ302Aは、シリンドリカルレンズアレイとして設けられてもよい。また、光アンテナ111の上に回折格子113が設けられる場合、オンチップレンズ302Aは、回折格子113の回折光を出射するスリットごと、又は複数のスリットごとに設けられてもよい。
【0092】
モジュールレンズ301は、オンチップレンズ302Aの上に設けられ、光アンテナ111に含まれるすべての導波路に亘って凸レンズとして設けられる。なお、平坦化膜310以下の構成については、
図2を参照して説明したとおりであるため、ここでの説明は省略する。
【0093】
第1の構成例では、光アンテナ111からの出射光Txをオンチップレンズ302A及びモジュールレンズ301の2つのレンズで段階的にφ方向に略平行な光線に成形することできる。第1の構成例によれば、測距装置1は、オンチップレンズ302A及びモジュールレンズ301の各々のレンズパワーが小さい場合でも、出射光Txをφ方向に略平行な光線に成形することができる。
【0094】
(3.2.第2の構成例)
図29は、第2の構成例に係るオンチップレンズ302B及びモジュールレンズ301の構成を示す縦断面図である。
【0095】
図29に示すように、オンチップレンズ302Bは、平坦化膜310の上に設けられ、光アンテナ111に含まれる導波路ごと、又は複数の導波路ごとに設けられる。例えば、オンチップレンズ302Bは、出射光Txの波長よりも小さい周期の平面構造が形成されたメタレンズとして設けられる。
【0096】
モジュールレンズ301は、オンチップレンズ302Bの上に設けられ、光アンテナ111に含まれるすべての導波路に亘って凸レンズとして設けられる。なお、平坦化膜310以下の構成については、
図2を参照して説明したとおりであるため、ここでの説明は省略する。
【0097】
第2の構成例では、光アンテナ111からの出射光Txをオンチップレンズ302B及びモジュールレンズ301の2つのレンズで段階的にφ方向に略平行な光線に成形することができる。第2の構成例によれば、オンチップレンズ302B及びモジュールレンズ301の各々のレンズパワーが小さい場合でも、測距装置1は、出射光Txをφ方向に略平行な光線に成形することができる。また、オンチップレンズ302Bがメタレンズとして設けられる場合、オンチップレンズ302Bの高さをより低減することができるため、測距装置1は、より容易に小型化されることが可能である。
【0098】
(3.3.第3の構成例)
図30は、第3の構成例に係るオンチップレンズ302C及びモジュールレンズ301の構成を示す縦断面図である。
図31は、オンチップレンズ302C及びモジュールレンズ301による効果を説明する説明図である。
【0099】
図30に示すように、オンチップレンズ302Cは、平坦化膜310の上に凹レンズとして設けられ、光アンテナ111に含まれる導波路ごと、又は複数の導波路ごとに設けられる。モジュールレンズ301は、オンチップレンズ302Cの上に設けられ、光アンテナ111に含まれるすべての導波路に亘って凸レンズとして設けられる。なお、平坦化膜310以下の構成については、
図2を参照して説明したとおりであるため、ここでの説明は省略する。
【0100】
図31に示すように、凹レンズであるオンチップレンズ302Cによって光アンテナ111からの出射光Txは、ビーム開き角を広げてオンチップレンズ302Cから出射される。したがって、モジュールレンズ301は、オンチップレンズ302Cを介さない場合の出射光TxAと同じビーム開き角の出射光Txを入射させるためには、オンチップレンズ302Cに対してより接近することになる。
【0101】
第3の構成例では、光アンテナ111からの出射光Txのビーム開き角を凹レンズであるオンチップレンズ302Cで広げることで、オンチップレンズ302Cとモジュールレンズ301との間の距離をより短くすることができる。したがって、測距装置1は、オンチップレンズ302C及びモジュールレンズ301を含む光学系の高さをより低くすることができるため、より小型化されることが可能である。
【0102】
(3.4.第4の構成例)
図32は、第4の構成例に係る集光レンズ303及びモジュールレンズ301の構成を示す縦断面図である。
図33は、集光レンズ303及びモジュールレンズ301による効果を説明する説明図である。
【0103】
図32に示すように、集光レンズ303は、平坦化膜310の上に設けられ、光アンテナ111に含まれる導波路ごとに導波路の両脇に設けられる。例えば、集光レンズ303は、通常のプリズムレンズとして設けられてもよく、メタレンズとして設けられてもよい。また、集光レンズ303は、モジュールレンズ301を含む他の光学系部材よりも高屈折率の材料で構成されてもよい。
【0104】
モジュールレンズ301は、集光レンズ303の上に設けられ、光アンテナ111に含まれるすべての導波路に亘って凸レンズとして設けられる。なお、平坦化膜310以下の構成については、
図2を参照して説明したとおりであるため、ここでの説明は省略する。
【0105】
図33に示すように、集光レンズ303は、光アンテナ111から出射された出射光Txに対しては光学的に影響を与えない位置に設けられる。ここで、対象物2で反射された反射光Rxは、出射光Txよりも拡散して光アンテナ111に入射する。このとき、出射光Txよりも拡散された反射光Rxは、光アンテナ111の導波路の両脇に設けられた集光レンズ303に入射することで、光アンテナ111の導波路へ集光される。したがって、集光レンズ303は、光アンテナ111への集光効率をより向上させることができる。
【0106】
第4の構成例では、光アンテナ111の導波路の近傍に設けられた集光レンズ303によって、反射光Rxをより多く集光し、光アンテナ111で受光することができる。したがって、測距装置1は、反射光Rxの受光感度をより高めることが可能である。
【0107】
(3.5.第5の構成例)
図34~
図36は、第5の構成例に係るオンチップレンズ302と、発光受光単位111Aとの位置関係を示す模式的な説明図である。
【0108】
発光受光単位111Aとは、光アンテナ111から出射される出射光Txの各々の出射単位であり、かつ反射光Rxの受光単位である。一例として、発光受光単位111Aとは、光アンテナ111に含まれる複数の導波路の各々である。また、他の例として、発光受光単位111Aとは、光アンテナ111の上に設けられた回折格子113の回折光を出射するスリットの各々である。
【0109】
図34~
図36に示すように、オンチップレンズ302は、光アンテナ111に含まれる導波路の各々、又は回折格子113の回折光を出射するスリットの各々である発光受光単位111Aごとに設けられてもよい。
【0110】
図34に示すように、オンチップレンズ302及び発光受光単位111Aは、光アンテナ111の全体で均一に設けられてもよい。また、オンチップレンズ302は、発光受光単位111Aの直上に設けられてもよい。
【0111】
一方で、
図35に示すように、オンチップレンズ302及び発光受光単位111Aは、光アンテナ111の全体で不均一に設けられてもよい。具体的には、オンチップレンズ302及び発光受光単位111Aは、中央部の方が周辺部よりもオンチップレンズ302及び発光受光単位111Aの密度が高くなるように設けられてもよい。測距装置1では、注視点となりやすい視野の中央部の重要性が高くなりやすく、視野の周辺部の重要性が低くなりやすい。そのため、オンチップレンズ302及び発光受光単位111Aを中央部により高密度で配置することで、測距装置1は、視野の中央部の測距精度をより高めることが可能である。
【0112】
また、
図36に示すように、オンチップレンズ302は、発光受光単位111Aに対してオフセットされた位置に設けられてもよい。具体的には、視野の中央部により高密度で発光受光単位111Aを配置する場合、視野の周辺部では、発光受光単位111Aへの反射光Rxの入射が斜めになりやすい。そのため、オンチップレンズ302を発光受光単位111Aに対して周辺部側にオフセットして配置することで、発光受光単位111Aのより中心に反射光Rxを入射させることが可能である。
【0113】
第5の構成例では、測距装置1は、オンチップレンズ302及び発光受光単位111Aの位置を変更することで、視野内で取得される測距情報の密度を変更することが可能である。また、測距装置1は、オンチップレンズ302及び発光受光単位111Aの位置関係を変更することで、反射光Rxの受光感度をより高めることが可能である。
【0114】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示の技術的範囲はかかる例に限定されない。本開示の技術分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0115】
また、本明細書に記載された効果は、あくまで説明的または例示的なものであって限定的ではない。つまり、本開示に係る技術は、上記の効果とともに、または上記の効果に代えて、本明細書の記載から当業者には明らかな他の効果を奏しうる。
【0116】
なお、以下のような構成も本開示の技術的範囲に属する。
(1)
互いに平行に第1方向に延在して半導体層に設けられ、前記半導体層の外部空間への発光、及び前記外部空間からの受光が可能な複数の導波路と、
前記半導体層を含む基板の上に設けられ、前記複数の導波路から前記第1方向に偏向されて発せられた光を前記第1方向と直交する第2方向に略平行な光線に変換する光学系と、
を備える、光偏向装置。
(2)
前記光学系は、前記複数の導波路に亘って設けられたモジュールレンズを含む、前記(1)に記載の光偏向装置。
(3)
前記モジュールレンズは、前記第2方向に延在する回転軸で円周体を回転させた円環体レンズである、前記(2)に記載の光偏向装置。
(4)
前記モジュールレンズは、前記複数の導波路から発せられる光の波長よりも小さい周期の平面構造を有するメタレンズである、前記(2)に記載の光偏向装置。
(5)
前記メタレンズは、曲率集光特性を有する、前記(4)に記載の光偏向装置。
(6)
前記メタレンズは、スロープ集光特性を有する、前記(4)に記載の光偏向装置。
(7)
前記光学系は、前記モジュールレンズと前記基板との間に設けられた線形回折格子をさらに含む、前記(2)~(6)のいずれか一項に記載の光偏向装置。
(8)
前記線形回折格子は、前記複数の導波路から発せられる光を前記複数の導波路の光の進行方向と反対側に回折させる、前記(7)に記載の光偏向装置。
(9)
前記光学系は、前記導波路ごと、又は前記複数の導波路ごとに設けられたオンチップレンズと、前記複数の導波路に亘って設けられたモジュールレンズとを含む、前記(1)に記載の光偏向装置。
(10)
前記オンチップレンズは、シリンドリカルレンズである、前記(9)に記載の光偏向装置。
(11)
前記オンチップレンズは、前記複数の導波路から発せられる光の波長よりも小さい周期の平面構造を有するメタレンズである、前記(9)に記載の光偏向装置。
(12)
前記オンチップレンズは、凹レンズである、前記(9)に記載の光偏向装置。
(13)
前記導波路の各々の近傍に設けられ、前記導波路に入射する光を集光する集光レンズをさらに含む、前記(9)に記載の光偏向装置。
(14)
前記集光レンズは、前記導波路に入射する光の波長よりも小さい周期の平面構造を有するメタレンズである、前記(13)に記載の光偏向装置。
(15)
前記集光レンズは、前記光学系を構成する部材よりも屈折率が高い部材で構成される、前記(13)に記載の光偏向装置。
(16)
前記複数の導波路は、中央部のほうが周辺部よりも密度が高くなるように前記第2方向に配列される、前記(9)~(15)のいずれか一項に記載の光偏向装置。
(17)
前記周辺部では、前記導波路と、前記導波路に対応する前記オンチップレンズとの位置は、前記第2方向にオフセットされる、前記(16)に記載の光偏向装置。
(18)
前記複数の導波路から発せられる光は、周波数変調される、前記(1)~(17)のいずれか一項に記載の光偏向装置。
(19)
前記複数の導波路から発せられる光は、近赤外線領域に属する光である、前記(1)~(18)のいずれか一項に記載の光偏向装置。
(20)
互いに平行に第1方向に延在して半導体層に設けられ、前記半導体層の外部空間への発光、及び前記外部空間からの受光が可能な複数の導波路と、
前記半導体層を含む基板の上に設けられ、前記複数の導波路から前記第1方向に偏向されて発せられた光を前記第1方向と直交する第2方向に略平行な光線に変換する光学系と、
を備える、測距装置。
【符号の説明】
【0117】
1 測距装置
2 対象物
10 光源
20 変調器
30 光サーキュレータ
40 光送受信器
50 混合器
60 検出器
70 処理部
100 第1基板
110 第1半導体基板
111 光アンテナ
112 ヒータ
113 回折格子
120 第1多層配線層
121,221 層間絶縁膜
122,222 配線層
123,223 接合電極
200 第2基板
210 第2半導体基板
220 第2多層配線層
300,301 モジュールレンズ
302 オンチップレンズ
303 集光レンズ
310 平坦化膜