(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167494
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】PMモータの温度推定装置および温度推定方法
(51)【国際特許分類】
H02P 21/14 20160101AFI20241127BHJP
【FI】
H02P21/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083594
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】安部 義隆
(72)【発明者】
【氏名】滝口 昌司
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505EE41
5H505GG04
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ17
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL41
5H505LL45
5H505LL46
(57)【要約】
【課題】電流制御系を備えたインバータ2により駆動されるPMモータ1の磁石温度推定精度を向上させる。
【解決手段】電圧指令Vd
*,Vq
*、電気角速度ωe、d、q軸電流指令id
*、iq
*、d、q軸電流id、iq、PMモータの磁石温度を計測した磁石温度計測値Tpmに基づいて、モータパラメータである基準磁束Φn、温度係数β、d軸インダクタンスLd、抵抗Raを導出するパラメータ事前同定装置30と、前記Vd
*,Vq
*、ωe、id
*、iq
*、id、iq、Tpmと、前記モータパラメータΦn、β、Ld、Raに基づいて、q軸電圧誤差値ΔVqを算出する電圧誤差テーブル算出器と、電圧指令Vd
*,Vq
*、d、q軸電流id、iq、電気角速度ωeと、前記算出されたq軸電圧誤差値ΔVqに基づいて磁石温度推定値を求める磁石温度推定部と、を備えた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流制御系を備えたインバータにより駆動されるPMモータにおいて、
前記PMモータの検出電流をdq軸に座標変換したd軸電流id、q軸電流iqに基づいて、q軸電圧の、指令値と検出値の差であるq軸電圧誤差値ΔVqを算出するq軸電圧誤差算出部と、
PMモータに流れる電流を検出したモータ検出電流が電流指令と等しくなるように電流制御を行って得られた電圧指令Vd*,Vq*、前記d軸電流id、q軸電流iq、PMモータの回転数を検出して求めた電気角速度ωeと、前記q軸電圧誤差算出部で算出されたq軸電圧誤差値ΔVqに基づいて磁石温度推定値を求める磁石温度推定部と、を備えたことを特徴とするPMモータの温度推定装置。
【請求項2】
前記電圧指令Vd
*,Vq
*、電気角速度ωe、d軸電流指令id
*、q軸電流指令iq
*、d軸電流id、q軸電流iq、PMモータの磁石温度を計測した磁石温度計測値Tpmに基づいて、磁石温度の、推定値と計測値の誤差を最小化するモータパラメータである基準磁束Φn、温度係数β、d軸インダクタンスLd、抵抗Raを導出するパラメータ同定部を備え、
前記q軸電圧誤差算出部は、前記Vd
*,Vq
*、ωe、id
*、iq
*、id、iq、Tpmと、前記パラメータ同定部により導出されたモータパラメータΦn、β、Ld、Raに基づいて、(1)式、(2)式、(3)式を演算してq軸電圧誤差値ΔVqを算出する電圧誤差テーブル算出器を備え、
【数1】
【数2】
【数3】
(T^
W.0.ΔVqは電圧誤差を考慮しない場合の磁石温度推定値、T
0は基準温度、Tpmは磁石温度計測値)
前記磁石温度推定部は、試験データであるVd
*,Vq
*、id,iq、ωeと、前記パラメータ同定部により導出されたモータパラメータΦn、β、Ld、Raと、前記電圧誤差テーブル算出器により算出されたq軸電圧誤差値ΔVqに基づいて(4)式を演算して磁石温度推定値を求めることを特徴とする請求項1に記載のPMモータの温度推定装置。
【数4】
(T^は磁石温度推定値、T
0は基準温度)
【請求項3】
前記q軸電圧誤差算出部は、前記Vd
*,Vq
*、ωe、id
*、iq
*、id、iq、Tpmと、PMモータの設計パラメータである基準磁束Φn、温度係数β、d軸インダクタンスLd、抵抗Raに基づいて、(1)式、(2)式、(3)式を演算してq軸電圧誤差値ΔVqを算出する電圧誤差テーブル算出器を備え、
【数1】
【数2】
【数3】
(T^
W.0.ΔVqは電圧誤差を考慮しない場合の磁石温度推定値、T
0は基準温度、Tpmは磁石温度計測値)
前記磁石温度推定部は、試験データであるVd
*,Vq
*、id,iq、ωeと、前記電圧誤差テーブル算出器により算出されたq軸電圧誤差値ΔVqに基づいて(4)式を演算して磁石温度推定値を求めることを特徴とする請求項1に記載のPMモータの温度推定装置。
【数4】
(T^は磁石温度推定値、T
0は基準温度)
【請求項4】
前記q軸電圧誤差算出部は、電圧誤差テーブルの値をΔVq_
value、fを曲面の関数、aを曲面の式のパラメータベクトルとしたときに、ΔVq_
value-f(Id,Iq,a)が最小となる曲面の式のパラメータベクトルを導出する(17)式によって最適化問題を解き、
【数17】
(a
*は最適化されたパラメータベクトル、argminは最小点の達する値の集合)
(17)式により導出されたパラメータベクトルを用いて曲面フィッティングの式を定型化し、実運転時のd軸電流Idとq軸電流Iqを(17)式に入力することでq軸電圧誤差値ΔVqを算出することを特徴とする請求項1に記載のPMモータの温度推定装置。
【請求項5】
前記パラメータ同定部は、前記PMモータの無負荷運転時に計測したPMモータの誘起電圧Vemfと、前記PMモータの回転数を検出して求めた電気角速度ωeの計測データを用いて磁束Φ(=Vemf/ωe)を算出し、
前記PMモータの磁石温度を計測した磁石温度計測値Tpmと前記算出された磁束Φの関係を表す最小二乗法の直線Φ=aTpm+b(aは直線の傾き、bは直線のy切片)と、磁束の温度変化を定義したΦ=Φn(1+β(Tpm-T0))(Φnは基準磁束、βは温度係数、T0は基準温度)とが対応するように前記Φnおよびβをモータパラメータとして同定し、
d軸電流指令値Idcmdおよびq軸電流指令値Iqcmdを各々0として前記PMモータの定速運転試験を行ったときの前記磁石温度推定部で推定された磁石温度推定値が、磁石温度計測値と近いときの運転速度を、妥当な温度推定がなされた速度領域であると決定し、
前記決定された速度領域でd軸電流指令値Idcmd<0、q軸電流指令値Iqcmd=0、又はIdcmd>0、Iqcmd=0とした定速運転試験を行い、Idcmdを段階的に変化させたときの各IdcmdにおけるVd
*,Vq
*、id、iq、ωe、Tpmの定常データを取得し、前記取得した定常データを基に、(9)式~(12)式に示す、磁石温度の計測値と推定値の二乗誤差が最小となるようなパラメータd軸インダクタンスLd、q軸電圧誤差ΔVqの組み合わせを求める評価式によって最適化問題を解いて、d軸インダクタンスLdを同定し、
【数9】
subject to
【数10】
【数11】
【数12】
(T^は磁石温度推定値、Ldnはd軸インダクタンス、ΔVqはq軸電圧指令値とq軸電圧検出値の差)
前記決定された、妥当な温度推定がなされた速度領域でd軸電流指令値Idcmd=0、q軸電流指令値Iqcmd>0、又はIdcmd=0、Iqcmd<0とした定速運転試験を行い、Iqcmdを段階的に変化させたときの各IqcmdにおけるVd
*,Vq
*、id、iq、ωe、Tpmの定常データを取得し、前記取得した定常データを基に、(13)式~(16)式に示す、磁石温度の計測値と推定値の二乗誤差が最小となるようなパラメータ抵抗Ran、q軸電圧誤差ΔVqの組み合わせを求める評価式によって最適化問題を解いて、Ranを同定することを特徴とする請求項2に記載のPMモータの温度推定装置。
【数13】
subject to
【数14】
【数15】
【数16】
(T^は磁石温度推定値、RanはPMモータの巻線抵抗、ΔVqはq軸電圧指令値とq軸電圧検出値の差)
【請求項6】
電流制御系を備えたインバータにより駆動されるPMモータの温度推定方法であって、
q軸電圧誤差算出部が、前記PMモータの検出電流をdq軸に座標変換したd軸電流id、q軸電流iqに基づいて、q軸電圧の、指令値と検出値の差であるq軸電圧誤差値ΔVqを算出するq軸電圧誤差算出ステップと、
磁石温度推定部が、試験データである、PMモータに流れる電流を検出したモータ検出電流が電流指令と等しくなるように電流制御を行って得られた電圧指令Vd*,Vq*、前記d軸電流id、q軸電流iq、PMモータの回転数を検出して求めた電気角速度ωeと、前記q軸電圧誤差算出部で算出されたq軸電圧誤差値ΔVqに基づいて磁石温度推定値を求める磁石温度推定ステップと、を備えたことを特徴とするPMモータの温度推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PM(Permanent Magnet)モータを駆動するインバータにおいて、駆動中のPMモータの回転子磁石温度をインバータの計測データから推定する装置、方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、PMモータの回転子磁石温度を推定する技術として例えば非特許文献1には、PMモータのdq軸電圧方程式を基にインバータの計測電流、電圧指令から磁石による鎖交磁束を推定し、推定した磁束の変化から磁石温度を推定する方式が記載されている。
【0003】
また特許文献1には、PMモータの誘起電圧から磁石温度を推定する方式が記載され、モータ駆動中の誘起電圧を計測するためにサーチコイルを埋めこみ、モータの印加電圧を計測する電圧センサも追加している。
【0004】
また特許文献2には、電圧外乱オブザーバを用いた磁石温度推定方式が記載され、特許文献3には外乱オブザーバとトルク計を用いた磁石温度推定方式が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】石原、他:「IPMSMの磁束シミュレータを用いた磁石温度推定」、令和4年電気学会全国大会、No.5-079
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-118652号公報
【特許文献2】特開2022-178400号公報
【特許文献3】特許第7063406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1の方式では、固定値のモータパラメータを使用しているため、モータパラメータの誤差の影響により磁石温度推定の誤差が生じ、磁石温度推定の精度が良くない。
【0008】
特許文献1の方式ではサーチコイルや電圧センサの追加が必要である。
【0009】
特許文献3の方式ではトルクセンサが必要である。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、磁石温度推定精度を向上させたPMモータの温度推定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための請求項1に記載のPMモータの温度推定装置は、
電流制御系を備えたインバータにより駆動されるPMモータにおいて、
前記PMモータの検出電流をdq軸に座標変換したd軸電流id、q軸電流iqに基づいて、q軸電圧の、指令値と検出値の差であるq軸電圧誤差値ΔVqを算出するq軸電圧誤差算出部と、
PMモータに流れる電流を検出したモータ検出電流が電流指令と等しくなるように電流制御を行って得られた電圧指令Vd*,Vq*、前記d軸電流id、q軸電流iq、PMモータの回転数を検出して求めた電気角速度ωeと、前記q軸電圧誤差算出部で算出されたq軸電圧誤差値ΔVqに基づいて磁石温度推定値を求める磁石温度推定部と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載のPMモータの温度推定装置は、請求項1において、
前記電圧指令Vd*,Vq*、電気角速度ωe、d軸電流指令id*、q軸電流指令iq*、d軸電流id、q軸電流iq、PMモータの磁石温度を計測した磁石温度計測値Tpmに基づいて、磁石温度の、推定値と計測値の誤差を最小化するモータパラメータである基準磁束Φn、温度係数β、d軸インダクタンスLd、抵抗Raを導出するパラメータ同定部を備え、
前記q軸電圧誤差算出部は、前記Vd*,Vq*、ωe、id*、iq*、id、iq、Tpmと、前記パラメータ同定部により導出されたモータパラメータΦn、β、Ld、Raに基づいて、(1)式、(2)式、(3)式を演算してq軸電圧誤差値ΔVqを算出する電圧誤差テーブル算出器を備え、
【0013】
【0014】
【0015】
【0016】
(T^W.0.ΔVqは電圧誤差を考慮しない場合の磁石温度推定値、T0は基準温度、Tpmは磁石温度計測値)
前記磁石温度推定部は、試験データであるVd*,Vq*、id,iq、ωeと、前記パラメータ同定部により導出されたモータパラメータΦn、β、Ld、Raと、前記電圧誤差テーブル算出器により算出されたq軸電圧誤差値ΔVqに基づいて(4)式を演算して磁石温度推定値を求めることを特徴とする。
【0017】
【0018】
(T^は磁石温度推定値、T0は基準温度)
請求項3に記載のPMモータの温度推定装置は、請求項1において、
前記q軸電圧誤差算出部は、前記Vd*,Vq*、ωe、id*、iq*、id、iq、Tpmと、PMモータの設計パラメータである基準磁束Φn、温度係数β、d軸インダクタンスLd、抵抗Raに基づいて、(1)式、(2)式、(3)式を演算してq軸電圧誤差値ΔVqを算出する電圧誤差テーブル算出器を備え、
【0019】
【0020】
【0021】
【0022】
(T^W.0.ΔVqは電圧誤差を考慮しない場合の磁石温度推定値、T0は基準温度、Tpmは磁石温度計測値)
前記磁石温度推定部は、試験データであるVd*,Vq*、id,iq、ωeと、前記電圧誤差テーブル算出器により算出されたq軸電圧誤差値ΔVqに基づいて(4)式を演算して磁石温度推定値を求めることを特徴とする。
【0023】
【0024】
(T^は磁石温度推定値、T0は基準温度)
請求項4に記載のPMモータの温度推定装置は、請求項1において、
前記q軸電圧誤差算出部は、電圧誤差テーブルの値をΔVq_value、fを曲面の関数、aを曲面の式のパラメータベクトルとしたときに、ΔVq_value-f(Id,Iq,a)が最小となる曲面の式のパラメータベクトルを導出する(17)式によって最適化問題を解き、
【0025】
【0026】
(a*は最適化されたパラメータベクトル、argminは最小点の達する値の集合)
(17)式により導出されたパラメータベクトルを用いて曲面フィッティングの式を定型化し、実運転時のd軸電流Idとq軸電流Iqを(17)式に入力することでq軸電圧誤差値ΔVqを算出することを特徴とする。
【0027】
請求項5に記載のPMモータの温度推定装置は、請求項2において、
前記パラメータ同定部は、前記PMモータの無負荷運転時に計測したPMモータの誘起電圧Vemfと、前記PMモータの回転数を検出して求めた電気角速度ωeの計測データを用いて磁束Φ(=Vemf/ωe)を算出し、
前記PMモータの磁石温度を計測した磁石温度計測値Tpmと前記算出された磁束Φの関係を表す最小二乗法の直線Φ=aTpm+b(aは直線の傾き、bは直線のy切片)と、磁束の温度変化を定義したΦ=Φn(1+β(Tpm-T0))(Φnは基準磁束、βは温度係数、T0は基準温度)とが対応するように前記Φnおよびβをモータパラメータとして同定し、
d軸電流指令値Idcmdおよびq軸電流指令値Iqcmdを各々0として前記PMモータの定速運転試験を行ったときの前記磁石温度推定部で推定された磁石温度推定値が、磁石温度計測値と近いときの運転速度を、妥当な温度推定がなされた速度領域であると決定し、
前記決定された速度領域でd軸電流指令値Idcmd<0、q軸電流指令値Iqcmd=0、又はIdcmd>0、Iqcmd=0とした定速運転試験を行い、Idcmdを段階的に変化させたときの各IdcmdにおけるVd*,Vq*、id、iq、ωe、Tpmの定常データを取得し、前記取得した定常データを基に、(9)式~(12)式に示す、磁石温度の計測値と推定値の二乗誤差が最小となるようなパラメータd軸インダクタンスLd、q軸電圧誤差ΔVqの組み合わせを求める評価式によって最適化問題を解いて、d軸インダクタンスLdを同定し、
【0028】
【0029】
subject to
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
(T^は磁石温度推定値、Ldnはd軸インダクタンス、ΔVqはq軸電圧指令値とq軸電圧検出値の差)
前記決定された、妥当な温度推定がなされた速度領域でd軸電流指令値Idcmd=0、q軸電流指令値Iqcmd>0、又はIdcmd=0、Iqcmd<0とした定速運転試験を行い、Iqcmdを段階的に変化させたときの各IqcmdにおけるVd*,Vq*、id、iq、ωe、Tpmの定常データを取得し、前記取得した定常データを基に、(13)式~(16)式に示す、磁石温度の計測値と推定値の二乗誤差が最小となるようなパラメータ抵抗Ran、q軸電圧誤差ΔVqの組み合わせを求める評価式によって最適化問題を解いて、Ranを同定することを特徴とする。
【0034】
【0035】
subject to
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
(T^は磁石温度推定値、RanはPMモータの巻線抵抗、ΔVqはq軸電圧指令値とq軸電圧検出値の差)
請求項6に記載のPMモータの温度推定方法は、
電流制御系を備えたインバータにより駆動されるPMモータの温度推定方法であって、
q軸電圧誤差算出部が、前記PMモータの検出電流をdq軸に座標変換したd軸電流id、q軸電流iqに基づいて、q軸電圧の、指令値と検出値の差であるq軸電圧誤差値ΔVqを算出するq軸電圧誤差算出ステップと、
磁石温度推定部が、試験データである、PMモータに流れる電流を検出したモータ検出電流が電流指令と等しくなるように電流制御を行って得られた電圧指令Vd*,Vq*、前記d軸電流id、q軸電流iq、PMモータの回転数を検出して求めた電気角速度ωeと、前記q軸電圧誤差算出部で算出されたq軸電圧誤差値ΔVqに基づいて磁石温度推定値を求める磁石温度推定ステップと、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0040】
(1)請求項1~6に記載の発明によれば、d軸電流id≠0かつq軸電流iq≠0となる電流条件も含めて一定精度での磁石温度推定を達成することができる。
(2)請求項2、5に記載の発明によれば、パラメータ同定部により導出されたモータパラメータを用いるため、精度の良い磁石温度推定が行える。
(3)請求項3に記載の発明によれば、モータパラメータ(最適パラメータ)の導出の手間が不要であり、構成が簡単化される。
(4)請求項4に記載の発明によれば、曲面フィッティングの式を用いることで、電圧誤差テーブルをメモリに保持する必要がないため、メモリの容量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】本発明の実施形態例の事前同定時の実機構成図。
【
図2】本発明の実施形態例の磁石温度推定時の実機構成図。
【
図3】本発明の実施例1における事前同定フェーズのブロック図。
【
図4】本発明の実施例1における推定フェーズのブロック図。
【
図5】本発明の実施例1における電圧誤差ΔVqテーブル算出のブロック図。
【
図7】本発明の実施例1で用いる階段関数の説明図。
【
図8】本発明の実施例2における事前同定フェーズのブロック図。
【
図9】本発明の実施例2における推定フェーズのブロック図。
【
図10】本発明の実施例3における電圧誤差テーブルの曲面フィッティングの説明図。
【
図11】本発明の効果を説明する実機検証結果を示し、(a)は温度推定値のグラフ、(b)は温度計測値のグラフ、(c)は温度推定誤差のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。
【0043】
本実施形態例におけるPMモータ磁石温度推定は、モータパラメータを事前に同定する(1)事前同定フェーズと、同定したパラメータを基に磁石温度を推定する(2)推定フェーズとで構成される。
【実施例0044】
本実施例1における事前同定フェーズの実機構成を
図1に、推定フェーズの実機構成を
図2に示す。
【0045】
事前同定時の実機構成を示す
図1において、1はインバータ2により駆動されるPMモータ、3はPMモータ1に接続された負荷、4はPMモータの回転を検出して位相θを出力する回転位置センサである。
【0046】
5は回転位置センサ4が検出する位相θにモータの極対数Pを乗じて、極対数を考慮した位相θeに変換する極対数演算器である。
【0047】
6は、極対数を考慮した位相θeを微分して電気角速度ωeを算出する微分演算器である。
【0048】
7はPMモータ1の磁石温度を計測する磁石温度センサ(例えば熱電対)である。
【0049】
8は、PMモータ1の3相電流iu、iv、iw(インバータ2の出力電流)を検出する電流センサである。
【0050】
9は、PMモータ1の3相電流iu、iv、iwを、極対数を考慮した位相θeに同期したdq座標系のd軸電流id、q軸電流iqに変換する3相-dq変換器である。
【0051】
10は、前記d軸電流id,q軸電流iqが、d軸電流指令id*、q軸電流指令iq*と等しくなるように電流制御を行って、dq軸の電圧指令Vd*、Vq*を算出する電流制御器である。
【0052】
尚、前記電流制御のみならず、電気角速度ωeが電気角速度指令ωe*と等しくなるように速度制御を行う構成を追加してもよい。
【0053】
11は電流制御器10から出力されるdq軸電圧指令Vd*、Vq*を、極対数演算器5から出力される極対数を考慮した位相θeを用いて3相の電圧指令vu*、vv*、vw*に座標変換してインバータ2に与えるdq-3相変換器である。インバータ2は前記電圧指令に応じた電圧をPMモータ1に印加する。
【0054】
尚、本実施例1では、PMモータ1の誘起電圧Vemfを検出する図示省略の電圧検出器が設けられている。
【0055】
前記極対数演算器5、微分演算器6、3相-dq変換器9、電流制御器10、dq-3相変換器11によってコントローラ20を構成している。
【0056】
30は、微分演算器6で算出された電気角速度ωe、3相-dq変換器9で変換されたd軸電流id、q軸電流iq、電流制御器10で算出されたdq軸電圧指令Vd*、Vq*、図示省略の電圧検出器によって無負荷運転時に計測したPMモータ1の誘起電圧Vemf、磁石温度センサ7で計測された磁石温度計測値Tpmに基づいて、モータパラメータである基準磁束Φn、温度係数β、d軸インダクタンスLd、抵抗Raを同定するパラメータ事前同定装置(パラメータ同定部)である。
【0057】
尚実施例1では、パラメータ事前同定装置30内に、後述(
図3)の事前同定装置31および電圧誤差テーブル算出器32a(q軸電圧誤差算出部)を備えている。
【0058】
磁石温度推定時の実機構成を示す
図2において、40は、微分演算器6で算出された電気角速度ωe、3相-dq変換器9で変換されたd軸電流id、q軸電流iq、速度・電流制御器10で算出されたdq軸電圧指令Vd
*、Vq
*、に基づいて磁石温度推定値T^を求める磁石温度推定器(磁石温度推定部)であり、その他の部分は
図1と同様に構成されている。
【0059】
尚実施例1では、磁石温度推定器40内に、後述(
図4)の磁石温度推定器41を備えている。
【0060】
次に、事前同定フェーズのブロックを
図3とともに説明する。事前同定フェーズは(1)最適パラメータの導出と、(2)電圧誤差テーブルの導出で構成されている。
【0061】
(1)最適パラメータの導出は、事前同定装置31において、時系列データ又は平均値のデータである、電圧指令値Vd*、Vq*、電気角速度応答値ωe、電流指令値id*、iq*、電流応答値id、iqと、正解データである磁石温度応答値Tpmを入力とし、磁石温度の推定値と応答値の誤差を最小化する同定パラメータである、基準磁束Φn、温度係数β、d軸インダクタンスLd、抵抗Raを出力することでなされる。
【0062】
尚、事前同定装置31が行う最適パラメータの導出方法は、後述の
図6、
図7で詳細に説明する。
【0063】
(2)電圧誤差テーブルの導出は、電圧誤差テーブル算出器32aにおいて、q軸電圧の、指令値と検出値の差であるq軸電圧誤差ΔVqを算出しテーブル化する。
【0064】
この電圧誤差テーブル算出器32aが前記ΔVqを算出する算出式は、
図5のブロックで示される。
【0065】
図3,
図5において、計測した磁石温度Tpmおよび電圧誤差を考慮しない場合の磁石温度推定値T^
W.0.ΔVqは、(1)式および(2)式として表される。
【0066】
【0067】
【0068】
ただしT0は基準温度(磁束=Φnとなる温度条件)である。
【0069】
そして(1)式および(2)式の差をとり、定数倍(Φnβωe倍)することで、q軸電圧誤差ΔVqを求める(3)式が得られる。
【0070】
【0071】
次に推定フェーズのブロック図を
図4とともに説明する。
図4において41は、逐次得られる試験データ(オンライン又はオフラインのVd
*、Vq
*、id、iq、ωe)を入力し、
図3の事前同定装置31で導出された最適パラメータ(同定パラメータΦn、β、Ld、Ra)ならびに
図3の電圧誤差テーブル算出器32aで算出された電圧誤差ΔVqテーブルを用いて、磁石温度を推定する磁石温度推定器である。
【0072】
この磁石温度推定器41は、次の(4)式を演算して磁石温度推定値T^を求める。
【0073】
【0074】
次に
図3の事前同定装置31が行う最適パラメータの導出を説明する。まずPMモータ1の誘起電圧Vemfから磁束Φへは(5)式により計算される。
【0075】
【0076】
すなわち事前同定装置31は、PMモータ1の無負荷運転時に計測した誘起電圧Vemfと、電気角速度ωeの計測データを用いて(5)式の磁束Φを得る。
【0077】
前記(5)式により得られた磁束Φと磁石温度センサ7により計測された磁石温度計測値Tpmの関係は
図6の破線に示す直線(最小二乗法の直線Φ=aTpm+b;aは直線の傾き、bは直線のy切片)となる。
【0078】
磁束の温度変化は次の(6)式のようにモデリング(定義)する。
【0079】
【0080】
ただしT0は基準温度(Φn温度条件)を意味する。この(6)式と
図6の最小二乗法の直線とが対応するように基準磁束Φnと温度係数βを定める。
図6の最小二乗法の直線をΦ=aTpm+bとすると、係数比較よりΦnとβとの関係は次の(7)式のように求まる。
【0081】
【0082】
式変形すると、次の(8)式を得る。
【0083】
【0084】
(8)式の下段の式はΦnに関する2次方程式であり、これを解くことでΦnが求まる。それを(8)式の上段の式に代入し、βが求まる。
【0085】
そして、
図4の磁石温度推定器41を用いて次の試験を行ってΦn、βおよび前記(4)式の妥当性を確認する。
【0086】
試験としては、一定速でPMモータ1を回しながら、dq軸それぞれの電流指令値Idcmd=0,Iqcmd=0とする。
【0087】
この際の計測データを(4)式に代入し、得られた磁石温度推定値T^が磁石温度計測値Tpmと近ければ、パラメータおよび推定式が妥当であるといえる。
【0088】
次に、d軸インダクタンスLdの同定方法を説明する。まずd軸電流指令値Idcmd<0、q軸電流指令値Iqcmd=0、又はIdcmd>0、Iqcmd=0とした定速運転試験を行う。
【0089】
運転速度は、前記妥当性の確認において妥当な温度推定がなされた速度領域とする。そして、Idcmdを変化させ、各定常値のデータ、d軸電圧参照値vd
*、q軸電圧参照値vq
*、d軸電流id、q軸電流iq、電気角速度ωe、磁石温度Tpmを取得する。この際、例えば、
図7に示す階段関数を用いる。すなわち指令値を上げ一定時間保つ、を繰り返す。速度条件が複数必要になる場合は、その速度条件ごとにd軸電流指令値Idcmdを変化させ定常値のデータを取得する。
【0090】
前記定常値のデータ(vd*、vq*、id、iq、ωe、Tpmの定常値)を用いて、次の(9)式~(12)式の評価式により最適化問題を解く。
【0091】
【0092】
subject to
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
T^は磁石温度推定値、Ldnはd軸インダクタンス、ΔVqはq軸電圧指令値とq軸電圧検出値の差。
【0097】
ただし、(9)式は「磁石温度の実測値と推定値の二乗誤差が最小となるようなパラメータLd、ΔVqの組み合わせを求める」ことを表す評価関数の式である。(10)式~(12)式は拘束条件であり、それぞれ、温度推定式、Ldの範囲、ΔVqの範囲を表している。
【0098】
速度条件が複数必要な場合は、上記のような「Idcmdを変化させた際の定常値のデータ取得→最適化」の流れを各速度条件で行う。
【0099】
次に、抵抗Raの同定方法を説明する。まずd軸電流指令値Idcmd=0、q軸電流指令値Iqcmd>0、又はIdcmd=0、Iqcmd<0とした定速運転試験を行う。
【0100】
運転速度は、前述した妥当な温度推定がなされた速度領域とする。そして、Iqcmdを変化させ、各定常値のデータ、d軸電圧参照値vd
*、q軸電圧参照値vq
*、d軸電流id、q軸電流iq、電気角速度ωe、磁石温度Tpmを取得する。この際、例えば、
図7に示す階段関数を用いる。すなわち指令値を上げ一定時間保つ、を繰り返す。速度条件が複数必要になる場合は、その速度条件ごとにq軸電流指令値Iqcmdを変化させ定常値のデータを取得する。
【0101】
抵抗Raの場合は、運転試験の条件が例えばId=0、Iq>0となるため、前記定常値のデータvd*、vq*、id、iq、ωe、Tpmを用いて次の(13)式~(16)式の評価式により最適化問題を解く。
【0102】
【0103】
subject to
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
T^は磁石温度推定値、Ranは巻線抵抗、ΔVqはq軸電圧指令値とq軸電圧検出値の差。
【0108】
ただし、(13)式は「磁石温度の実測値と推定値の二乗誤差が最小となるようなパラメータRan、ΔVqの組み合わせを求める」ことを表す評価関数の式である。(14)式~(16)式は拘束条件であり、それぞれ、温度推定式、Ranの範囲、ΔVqの範囲を表している。
【0109】
速度条件が複数必要な場合は、上記のような「Iqcmdを変化させた際の定常値のデータ取得→最適化」の流れを各速度条件で行う。
【0110】
以上のように実施例1によれば、d軸電流id≠0かつq軸電流iq≠0となる電流条件も含めて一定精度での磁石温度推定が達成される。また、事前同定装置31により導出されたモータパラメータを用いるため、精度の良い磁石温度推定が行える。