(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167495
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】走行モード切換報知方法および装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/02 20060101AFI20241127BHJP
F16H 59/02 20060101ALI20241127BHJP
F16H 61/68 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H59/02
F16H61/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083595
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】北井 宏尚
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 精二
(72)【発明者】
【氏名】松尾 克宏
【テーマコード(参考)】
3J552
【Fターム(参考)】
3J552MA02
3J552MA05
3J552MA06
3J552NA01
3J552NB01
3J552PA23
3J552PA25
3J552RA26
3J552SB09
3J552SB10
3J552SB19
3J552SB20
3J552TB13
3J552VA70W
3J552VA76W
3J552VC01W
(57)【要約】
【課題】運転者がモード選択スイッチを操作したときに、走行モードが確かに切り換わったことを目視によらずに体感で知ることができるようにする。
【解決手段】車両は所定の変速マップに従ってステップ変速を行う自動変速機を備え、運転者の操作により、走行モードの切換が可能である。走行中にスタンダードモードからスポーツモードに切り換えられたとき、あるいは、スポーツモードからスポーツ・プラスモードに切り換えられたときに、変速線によらずにダウンシフトを実行する。逆に、スポーツ・プラスモードからスポーツモード、あるいは、スポーツモードからスタンダードモードに切り換えられたときは、変速線によらずにアップシフトを実行する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の変速マップに従ってステップ変速を行う自動変速機を備えるとともに、車両の走行モードとして少なくとも第1の走行モードとこの第1の走行モードよりも変速線が高車速側となる第2の走行モードとに運転者の操作により切換が可能な車両において、
第1の走行モードでの走行中に第2の走行モードへ切換操作がなされたときに、変速線によらずにダウンシフトを実行する、
走行モード切換報知方法。
【請求項2】
ダウンシフト実行前にダウンシフト後のエンジン回転数を求め、このエンジン回転数が所定値以上である場合は、ダウンシフトを実行しない、
請求項1に記載の走行モード切換報知方法。
【請求項3】
所定の変速マップに従ってステップ変速を行う自動変速機を備えるとともに、車両の走行モードとして少なくとも第1の走行モードとこの第1の走行モードよりも変速線が高車速側となる第2の走行モードとに運転者の操作により切換が可能な車両において、
第2の走行モードでの走行中に第1の走行モードへ切換操作がなされたときに、変速線によらずにアップシフトを実行する、
走行モード切換報知方法。
【請求項4】
アップシフト実行前にアップシフト後のエンジン回転数を求め、このエンジン回転数が所定値以下である場合は、アップシフトを実行しない、
請求項3に記載の走行モード切換報知方法。
【請求項5】
走行モード切換操作に伴うダウンシフトの実行後、所定時間の間、アップシフトを禁止する、
請求項1に記載の走行モード切換報知方法。
【請求項6】
上記の所定時間の間に車両が停車したときは、アップシフト禁止を解除する、
請求項5に記載の走行モード切換報知方法。
【請求項7】
上記の所定時間の間に上記変速線に基づくダウンシフトが生じたときは、アップシフト禁止を解除する、
請求項5に記載の走行モード切換報知方法。
【請求項8】
上記の所定時間の間に、変速段毎に設定される所定量以上のエンジン回転数上昇があったときは、アップシフト禁止を解除する、
請求項5に記載の走行モード切換報知方法。
【請求項9】
所定の変速マップに従ってステップ変速を行う自動変速機を備えるとともに、車両の走行モードとして少なくとも第1の走行モードとこの第1の走行モードよりも変速線が高車速側となる第2の走行モードとに運転者の操作により切換が可能な車両において、
第1の走行モードでの走行中に第2の走行モードへ切換操作がなされたことを検出する走行モード切換検出部と、
上記の走行モード切換操作を検出したときに、変速線によらずに上記自動変速機のダウンシフトを実行する変速制御部と、
を備えてなる走行モード切換報知装置。
【請求項10】
所定の変速マップに従ってステップ変速を行う自動変速機を備えるとともに、車両の走行モードとして少なくとも第1の走行モードとこの第1の走行モードよりも変速線が高車速側となる第2の走行モードとに運転者の操作により切換が可能な車両において、
第2の走行モードでの走行中に第1の走行モードへ切換操作がなされたことを検出する走行モード切換検出部と、
上記の走行モード切換操作を検出したときに、変速線によらずに上記自動変速機のアップシフトを実行する変速制御部と、
を備えてなる走行モード切換報知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動変速機を備え、いわゆるスポーツモード等の複数の走行モードに運転者の操作により切換可能な車両において、走行モードの切換がなされたことを運転者に報知する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステップ変速を行う自動変速機にあっては、一般に、車速とアクセルペダル開度とをパラメータとして各段の変速線を設定した変速マップに従って、変速が行われる。ここで、特許文献1に記載されているように、例えば、スタンダードモード、スポーツモード、等として複数の走行モードを備え、運転者が状況に応じていずれかの走行モードを選択することができる車両が知られている。このような車両では、各々の走行モードに対応した変速線が予め設定されており、例えばスポーツモードではスタンダードモードよりもエンジン回転数が相対的に高くなるように変速が行われ、スポーティな走行を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
走行モードの切換は、例えば運転席付近に設けられたスイッチを運転者が操作することでなされるが、実際に走行モードが切り換わったかどうかを運転者が知るためには、スイッチに付随する走行モードの表示やインストルメントパネルに設けられた走行モードの表示などを目視で確認する必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に係る走行モード切換報知方法は、
所定の変速マップに従ってステップ変速を行う自動変速機を備えるとともに、車両の走行モードとして少なくとも第1の走行モードとこの第1の走行モードよりも変速線が高車速側となる第2の走行モードとに運転者の操作により切換が可能な車両において、
第1の走行モードでの走行中に第2の走行モードへ切換操作がなされたときに、変速線によらずにダウンシフトを実行する。
【0006】
また、第2の発明では、
第2の走行モードでの走行中に第1の走行モードへ切換操作がなされたときに、変速線によらずにアップシフトを実行する。
【0007】
すなわち、運転者が走行モードの切換を行ったときに、車両運転条件にかかわらずダウンシフトもしくはアップシフトが実行される。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、走行モードの切換に伴ってダウンシフトもしくはアップシフトが実行されるので、運転者は、体感として走行モードの切換が確かに行われたことを知ることができ、目視による確認が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】スタンダードモードからスポーツモードさらにスポーツ・プラスモードへと走行モード切換を行ったときのダウンシフトを説明するタイムチャート。
【
図3】ダウンシフト後のエンジン回転数が所定値以上となるためにスポーツモードへの切換時のダウンシフトが行われない例を示したタイムチャート。
【
図4】スポーツ・プラスモードからスポーツモードさらにスタンダードモードへと走行モード切換を行ったときのアップシフトを説明するタイムチャート。
【
図5】アップシフト後のエンジン回転数が所定値以下となるためにスポーツモードへの切換時のアップシフトが行われない例を示したタイムチャート。
【
図6】走行モード切換に伴うダウンシフト後のアップシフト禁止を停車により解除した例を示すタイムチャート。
【
図7】走行モード切換に伴うダウンシフト後のアップシフト禁止を通常のダウンシフトにより解除した例を示すタイムチャート。
【
図8】走行モード切換に伴うダウンシフト後のアップシフト禁止を所定のエンジン回転数上昇により解除した例を示すタイムチャート。
【
図9】走行モード切換に伴うダウンシフト後のアップシフト禁止を所定のエンジン回転数上昇により解除した異なる例を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、一実施例の車両のパワートレインの構成を示している。一実施例は後輪駆動の形式であって、内燃機関1(以下、エンジン1という)にステップ変速が可能な自動変速機2が接続されており、自動変速機2の出力により終減速装置3を介して駆動輪4を駆動している。自動変速機2は、遊星歯車機構および複数の摩擦締結要素(クラッチないしブレーキ)を含んで構成される有段の変速機構を備えている。この自動変速機2の変速段は、ATコントローラ5によって制御される。例えば図示しないセレクタが自動変速レンジ(いわゆるDレンジ)を選択している場合には、主にアクセルペダル開度と車速とをパラメータとして所定の変速マップに基づいて適当な変速段が選択され、自動に変速が行われる。
【0011】
また、一実施例の車両は、車両の走行モードを選択するモード選択スイッチ8を備えている。車両の走行モードとしては、例えば、基本となるスタンダードモード、レスポンスがよいスポーティな走行に適したスポーツモード、さらにスポーティな走行に適したスポーツ・プラスモード、が設けられている。ATコントローラ5は、選択された走行モードにそれぞれ対応した変速マップを備えており、例えばスポーツモードではスタンダードモードに比較して各変速段の変速線がより高車速側となる。スポーツ・プラスモードではスポーツモードに比較して各変速段の変速線がより高車速側となる。車両のステアリング装置やサスペンション等が可変機構を具備する場合には、これらの特性も走行モードに適したものに切り換えられる。モード選択スイッチ8によって選択された走行モードは、例えばインストルメントパネルの適宜位置に表示される。
【0012】
なお、スタンダードモードが請求項における「第1の走行モード」に相当するものとすると、スポーツモードおよびスポーツ・プラスモードが「第2の走行モード」に相当する。スポーツモードが請求項における「第1の走行モード」に相当するものとすると、スポーツ・プラスモードが「第2の走行モード」に相当する。
【0013】
エンジン1は、エンジンコントローラ10によって制御される。ATコントローラ5とエンジンコントローラ10とは、車載ネットワーク9(例えばCAN通信)を介して互いに接続されており、必要な信号の送受信を行っている。ATコントローラ5およびエンジンコントローラ10には、車速センサ11、アクセルペダル開度センサ12、エンジン回転数センサ13、等の一般に車両が備える多数のセンサ類の信号が直接にもしくは間接に入力されている。
【0014】
次に、運転者がモード選択スイッチ8を操作して走行モードの切換を行ったときの制御について説明する。初めに、
図2~
図5のタイムチャートを用いて第1実施例の制御を説明する。第1実施例では、走行モードが運転者の操作によって、スタンダードモードからスポーツモード(あるいはスポーツ・プラスモード)に切り換えられたとき、および、スポーツモードからスポーツ・プラスモードに切り換えられたときに、運転者に走行モードが確かに切り換わったことを感じさせるために、変速線によらずに強制的なダウンシフトを実行する。ダウンシフトは1段(例えば4速から3速へのダウンシフト)あるいは複数段(例えば4速から2速へのダウンシフト)のいずれであってもよい。
【0015】
逆に、走行モードが、スポーツ・プラスモードからスポーツモード(あるいはスタンダードモード)に切り換えられたとき、および、スポーツモードからスタンダードモードに切り換えられたときに、運転者に走行モードが確かに切り換わったことを感じさせるために、変速線によらずに強制的なアップシフトを実行する。アップシフトは、1段(例えば3速から4速へのアップシフト)あるいは複数段(例えば2速から4速へのアップシフト)のいずれであってもよい。
【0016】
ここで、走行モード切換に伴うダウンシフトに際しては、ダウンシフト実行前にダウンシフト後のエンジン回転数を算出し、このダウンシフト後のエンジン回転数が所定回転数以上である場合はダウンシフトを実行しない。これは、過度のエンジン回転数の上昇を回避するためである。所定回転数は、現在の変速段およびダウンシフト後の変速段に応じて適当な異なる値に設定することが望ましい。
【0017】
同様に、走行モード切換に伴うアップシフトに際しては、アップシフト実行前にアップシフト後のエンジン回転数を算出し、このアップシフト後のエンジン回転数が所定回転数以下である場合はアップシフトを実行しない。これは、過度のエンジン回転数の低下を回避するためである。所定回転数は、現在の変速段およびアップシフト後の変速段に応じて適当な異なる値に設定することが望ましい。
【0018】
図2は、スタンダードモードからスポーツモードさらにスポーツ・プラスモードへと走行モードの切換を行ったときの強制的なダウンシフトを説明するタイムチャートであり、モード選択スイッチ8の位置と、変速段(現在の変速段:CURGP、および、目標の変速段:NEXTGP)と、エンジン回転数と、を対比して示している。エンジン回転数については、スポーツモードに適した回転域として第1の回転数Ne1と第2の回転数Ne2との間のスポーツモード設定回転域と、スポーツ・プラスモードに適した回転域として第2の回転数Ne2と第3の回転数Ne3との間のスポーツ・プラスモード設定回転域と、が定められている。これらの回転域は説明のために模式的に示したものである。後述するように、例えば、第2の回転数Ne2がダウンシフト時の上述した「所定回転数」に相当する。
【0019】
図2の例では、初期にスタンダードモードで走行されており、時間t1において運転者がスポーツモードに切換を行う。このとき、変速線によらずに強制的なダウンシフトが実行される。なお、いわゆるジョブの遅れにより、時間t1よりも極僅か遅れて変速が開始し、自動変速機2のいわゆるギアの架け替え等を行う変速期間の後に、変速が完了する。エンジン回転数は、スタンダードモードでの走行中は比較的に低く、変速に伴って上昇し、第1の回転数Ne1を越えてスポーツモード設定回転域内に入る。
【0020】
その後、時間t2において運転者がさらにスポーツ・プラスモードに切換を行う。これにより、変速線によらずに強制的なダウンシフトが実行される。エンジン回転数は、変速に伴って上昇し、第2の回転数Ne2を越えてスポーツ・プラスモード設定回転域に入る。
【0021】
このように、運転者がスポーツモードあるいはスポーツ・プラスモードへの走行モードの切換を行ったときに、強制的なダウンシフトが実行されるので、運転者は、インストルメントパネル上の表示を目視しなくても確かに走行モードが切り換えられたことを感覚的に知ることができる。
【0022】
図3は、
図2と同じく、スタンダードモードからスポーツモードさらにスポーツ・プラスモードへと走行モードの切換を行ったときの強制的なダウンシフトを説明するタイムチャートである。この例では、初期のスタンダードモードでの走行中のエンジン回転数が比較的に高く、スポーツモード設定回転域内にある。仮に、この状態から強制的なダウンシフトを行うと、エンジン回転数が第2の回転数Ne2を越えてスポーツ・プラスモード設定回転域内に入ってしまう。そのため、
図3の例では、時間t1において運転者がスタンダードモードからスポーツモードへと走行モードを切り換えたときには、強制的なダウンシフトは実行されない。その後、時間t2において運転者がさらにスポーツ・プラスモードに切り換えたときには、
図2の例と同様に、強制的なダウンシフトが実行される。
【0023】
次に、
図4は、スポーツ・プラスモードからスポーツモードさらにスタンダードモードへと走行モードの切換を行ったときの強制的なアップシフトを説明するタイムチャートである。なお、走行モード切換時の強制的なアップシフトに関しては、例えば、第1の回転数Ne1が上述した「所定回転数」に相当する。
【0024】
図4の例では、初期にスポーツ・プラスモードで走行されており、時間t1において運転者がスポーツモードに切換を行う。このとき、変速線によらずに強制的なアップシフトが実行される。なお、いわゆるジョブの遅れにより、時間t1よりも極僅か遅れて変速が開始し、自動変速機2のいわゆるギアの架け替え等を行う変速期間の後に、変速が完了する。エンジン回転数は、スポーツ・プラスモードでの走行中はスポーツ・プラスモード設定回転域内にあるが、変速に伴って下降し、第2の回転数Ne2よりも低下してスポーツモード設定回転域内に入る。
【0025】
その後、時間t2において運転者がさらにスタンダードモードに切換を行う。これにより、変速線によらずに強制的なアップシフトが実行される。エンジン回転数は、変速に伴って下降し、第1の回転数Ne1以下となる。
【0026】
このように、運転者がスポーツモードあるいはスタンダードモードへの走行モードの切換を行ったときに、強制的なアップシフトが実行されるので、運転者は、インストルメントパネル上の表示を目視しなくても確かに走行モードが切り換えられたことを感覚的に知ることができる。
【0027】
また、上記実施例では、走行モードの切換の方向(つまり、よりスポーティな特性となる切換、および、逆に穏やかな特性となる切換)に応じて、ダウンシフトもしくはアップシフトが実行されるので、切換の方向をも含めて運転者に報知することができる。例えば、運転者がモード選択スイッチ8を間違った方向に操作したような場合に、このことを直ちに知ることができる。
【0028】
図5は、
図4と同じく、スポーツ・プラスモードからスポーツモードさらにスタンダードモードへと走行モードの切換を行ったときの強制的なアップシフトを説明するタイムチャートである。この例では、初期のスポーツ・プラスモードでの走行中のエンジン回転数が比較的に低く、スポーツモード設定回転域内にある。仮に、この状態から強制的なアップシフトを行うと、エンジン回転数が第1の回転数Ne1以下となってスポーツモード設定回転域を外れてしまう。そのため、
図5の例では、時間t1において運転者がスポーツ・プラスモードからスポーツモードへと走行モードを切り換えたときには、強制的なアップシフトは実行されない。その後、時間t2において運転者がさらにスタンダードモードに切り換えたときには、
図4の例と同様に、強制的なアップシフトが実行される。
【0029】
なお、上記実施例では、例えばスタンダードモードからスポーツモードへの切換に伴う強制的なダウンシフトと、スポーツモードからスタンダードモードへの切換に伴うアップシフトと、の双方を行うものとして説明したが、いずれか一方のみを行う構成であってもよい。
【0030】
次に、
図6~
図9のタイムチャートを用いて第2実施例の制御を説明する。第2実施例では、走行モード切換に伴って強制的なダウンシフトを行った場合、所定時間(例えば数秒程度)の間、アップシフトを禁止する。そして、このアップシフト禁止によって自動変速機2の変速機構がスタックしたかのような誤った印象を与えないようにするために、所定の解除条件が成立したときには、所定時間経過前でもアップシフト禁止を解除する。
【0031】
すなわち、走行モード切換(例えばスタンダードモードからスポーツモードへの切換やスポーツモードからスポーツ・プラスモードへの切換)に伴い変速線によらずに強制的なダウンシフトを行ったとき、アクセルペダル開度や車速がそのまま変化しないと仮定すると、変速マップに従って元の変速段へとアップシフトするように指令されることが生じ得る。このようにダウンシフトとアップシフトとが連続して実行されることは好ましくない。従って、強制的なダウンシフトの直後に変速マップに従ったアップシフトが生じないように、所定時間(例えば数秒程度)の間、アップシフトを禁止するのである。
【0032】
他方、このように所定時間の間、アップシフトを禁止すると、その間に運転条件(アクセルペダル開度および車速)が変化してアップシフトすべき場合にもアップシフトせず、自動変速機2の変速機構がスタックしたかのような状況となることがある。そのため、上記所定時間の間に車両が停車した場合、所定時間の間に変速線に基づくダウンシフトが生じた場合、あるいは、所定時間の間に所定量以上のエンジン回転数上昇があった場合、は、アップシフト禁止を解除する。
【0033】
図6は、走行モード切換に伴う強制的なダウンシフト後の所定時間のアップシフト禁止を停車により解除した例を示すタイムチャートである。
図6~
図9のタイムチャートは、上から順に、(a)車速、(b)アクセルペダル開度(OFFは全閉を、ONはある開度であることを、それぞれ意味する)、(c)走行モード、(d)所定時間の間アップシフト禁止を継続する比較例の変速段(現在の変速段:CURGP、および、目標の変速段:NEXTGP)、(e)同じく所定時間の間アップシフト禁止を継続する比較例のエンジン回転数、(f)アップシフト禁止を所定の解除条件成立時に解除する実施例の変速段(現在の変速段:CURGP、および、目標の変速段:NEXTGP)、(g)同じくアップシフト禁止を所定の解除条件成立時に解除する実施例のエンジン回転数、を対比して示している。
【0034】
図6の例では、時間t11において走行モードがスタンダードモードからスポーツモードに切り換えられたことで強制的なダウンシフトが実行される。そして、所定時間の間、例えば時間t12までの間、アップシフトが禁止される。そのため、(d),(e)に示す比較例では、アクセルペダル開度がOFFからONとなって車速が増加していっても時間t12まではアップシフトせず、時間t12に達した後に、連続的にアップシフトが実行される形となる。
【0035】
これに対し、(f),(g)に示す実施例では、時間t13において車両が停車したと判定したときに、アップシフト禁止を解除する。そのため、直後に発進して加速していったときに、所定時間が経過する前でも変速マップに従ったアップシフトが実行される。
【0036】
次に、
図7は、走行モード切換に伴う強制的なダウンシフト後の所定時間のアップシフト禁止を通常の変速線に基づくダウンシフトがあったときに解除した例を示すタイムチャートである。
図7の例では、時間t11において走行モードがスタンダードモードからスポーツモードに切り換えられたことで強制的なダウンシフトが実行される。そして、所定時間の間、例えば時間t12までの間、アップシフトが禁止される。そのため、(d),(e)に示す比較例では、アクセルペダル開度がOFFからONとなって車速が増加していっても時間t12まではアップシフトせず、時間t12に達した後に、連続的にアップシフトが実行される形となる。
【0037】
これに対し、(f),(g)に示す実施例では、時間t13において例えば車速低下に伴う変速線に基づいたダウンシフトが実行されると判定したときに、アップシフト禁止を解除する。そのため、その後に加速していったときに、所定時間が経過する前でも変速線に従ったアップシフトが実行される。
【0038】
次に、
図8は、走行モード切換に伴う強制的なダウンシフト後の所定時間のアップシフト禁止を、所定量以上のエンジン回転数上昇(例えば数百rpm~1000rpm程度に設定される)があったときに解除した例を示すタイムチャートである。
図8の例では、時間t11において走行モードがスタンダードモードからスポーツモードに切り換えられたことで強制的なダウンシフトが実行される。そして、所定時間の間、例えば時間t12までの間、アップシフトが禁止される。そのため、(d),(e)に示す比較例では、アクセルペダル開度がOFFからONとなって車速が増加していっても時間t12まではアップシフトせず、時間t12に達した後に、連続的にアップシフトが実行される形となる。
【0039】
これに対し、(f),(g)に示す実施例では、時間t13において所定量のエンジン回転数上昇ΔNeがあったと判定したときに、アップシフト禁止を解除する。そのため、所定時間が経過する前でも変速線に従ったアップシフトが実行される。なお、
図8の例では、強制的なダウンシフトの変速完了後はエンジン回転数が低下していくので、時間t14においてエンジン回転数が上昇に転じてからのエンジン回転数上昇量に基づいて判定がなされる。
【0040】
次に、
図9は、走行モード切換に伴う強制的なダウンシフト後の所定時間のアップシフト禁止を、所定量以上のエンジン回転数上昇があったときに解除した異なる例を示すタイムチャートである。この例では、時間t11において走行モードがスタンダードモードからスポーツモードに切り換えられたことで強制的なダウンシフトが実行されたときに、アクセルペダル開度がONで車速が上昇していく過程にあるため((a)参照)、変速完了後にエンジン回転数が上昇する。従って、(g)に示すように、変速完了時点のエンジン回転数を基準として、時間t13において所定量のエンジン回転数上昇ΔNeがあったと判定したときに、アップシフト禁止を解除する。そのため、その後は変速線に従ったアップシフトが実行される。
【0041】
以上、この発明の一実施例を説明したが、この発明は上記実施例に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。例えば、上記実施例では、スタンダードモードとスポーツモードとスポーツ・プラスモードの3つの走行モードの間の切換を例示したが、2つの走行モードを具備する構成であってもよい。あるいは、多数の走行モードを具備する中で、特定の走行モードの間での切換時にのみ強制的なダウンシフトやアップシフトを行う構成であってもよい。また自動変速機としては、遊星歯車機構を用いずに複数のギヤセットを切り換えるデュアルクラッチトランスミッション等の形式であってもよく、無段変速機を擬似的にステップ変速する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0042】
1…内燃機関
2…自動変速機
5…ATコントローラ
8…モード選択スイッチ
10…エンジンコントローラ
11…車速センサ
12…アクセルペダル開度センサ
13…エンジン回転数センサ