(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001675
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】スラブ支持構造、およびスラブ支持構造の施工方法
(51)【国際特許分類】
E04B 5/32 20060101AFI20231227BHJP
E04B 1/48 20060101ALI20231227BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
E04B5/32 D
E04B5/32 A
E04B1/48 A
E04B1/58 601A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100493
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000148346
【氏名又は名称】株式会社錢高組
(71)【出願人】
【識別番号】000245852
【氏名又は名称】矢作建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095452
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 博樹
(74)【代理人】
【識別番号】100130535
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 明
(74)【代理人】
【識別番号】100183025
【弁理士】
【氏名又は名称】大角 孝一
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 治人
(72)【発明者】
【氏名】相羽 均修
(72)【発明者】
【氏名】田口 孝
(72)【発明者】
【氏名】深津 尚人
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA13
2E125AA57
2E125AB01
2E125AC15
2E125AE04
2E125AE07
2E125AG02
2E125BA45
2E125BB05
2E125BB08
2E125BB27
2E125BC02
2E125BD01
2E125BE07
2E125BF05
(57)【要約】
【課題】スタッドに対して床スラブが無い側のコンクリート破壊を抑制するスラブ支持構造の施工性を向上させる。
【解決手段】スラブ支持構造は、第1の方向に延びる鉄骨梁であって第1の方向と交差する第2の方向における床スラブの端部を支持する鉄骨梁と、鉄骨梁の上部において、第1の方向に適宜間隔をおいて設けられた複数のスタッドと、を備えたスラブ支持構造であって、スタッドの頂部より高い位置で第2の方向に延びる部位を有する補強筋であって、一端が鉄骨梁の上部に位置するとともに一端に下方向に折れ曲がる折り曲げ部が形成された第1補強筋と、スタッドの頂部より低い位置で第1の方向に延びる補強筋であってスタッドに対し床スラブが無い側でスタッドと係わり合う第2補強筋と、を備え、折り曲げ部の一部は、スタッドの頂部より低い位置にあり、第2補強筋は、折り曲げ部の一部と係わり合う。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に延びる鉄骨梁であって前記第1の方向と交差する第2の方向における床スラブの端部を支持する鉄骨梁と、
前記鉄骨梁の上部において、前記第1の方向に適宜間隔をおいて設けられた複数のスタッドと、を備えたスラブ支持構造であって、
前記スタッドの頂部より高い位置で前記第2の方向に延びる部位を有する補強筋であって、一端が前記鉄骨梁の上部に位置するとともに前記一端に下方向に折れ曲がる折り曲げ部が形成された第1補強筋と、
前記スタッドの頂部より低い位置で前記第1の方向に延びる補強筋であって前記スタッドに対し前記床スラブが無い側で前記スタッドと係わり合う第2補強筋と、を備え、
前記折り曲げ部の一部は、前記スタッドの頂部より低い位置にあり、
前記第2補強筋は、前記折り曲げ部の一部と係わり合う、
ことを特徴とするスラブ支持構造。
【請求項2】
請求項1に記載のスラブ支持構造において、前記第1補強筋において前記スタッドの頂部より高い位置で前記第2の方向に延びる部位は、前記床スラブを構成する耐力筋より高い位置にある、
ことを特徴とするスラブ支持構造。
【請求項3】
第1の方向に延びる鉄骨梁であって前記第1の方向と交差する第2の方向における床スラブの端部を支持する鉄骨梁と、
前記鉄骨梁の上部において、前記第1の方向に適宜間隔をおいて設けられた複数のスタッドと、を備えたスラブ支持構造であって、
一端に折り曲げ部が形成された補強筋であって、他端を前記床スラブの施工領域の内側に向けて配置される第1補強筋を備え、
前記折り曲げ部が前記スタッドの頂部より低い位置で前記スタッドと係わり合い、
前記鉄骨梁の上部において前記第1の方向に延びる第2補強筋に対し、前記折り曲げ部が固定される、
ことを特徴とするスラブ支持構造。
【請求項4】
第1の方向に延びる鉄骨梁であって前記第1の方向と交差する第2の方向における床スラブの端部を支持する鉄骨梁と、
前記鉄骨梁の上部において、前記第1の方向に適宜間隔をおいて設けられた複数のスタッドと、を備えたスラブ支持構造の施工方法であって、
前記スタッドの頂部より高い位置で前記第2の方向に延びる部位を有する補強筋であって、一端が前記鉄骨梁の上部に位置するとともに前記一端に下方向に折れ曲がる折り曲げ部が形成された第1補強筋を配置する第1の工程と、
前記スタッドの頂部より低い位置で前記第1の方向に延びる補強筋であって前記スタッドに対し前記床スラブが無い側で前記スタッドと係わり合う第2補強筋を、前記折り曲げ部の一部と係わり合う様に配置する第2の工程と、を含む、
ことを特徴とするスラブ支持構造の施工方法。
【請求項5】
第1の方向に延びる鉄骨梁であって前記第1の方向と交差する第2の方向における床スラブの端部を支持する鉄骨梁と、
前記鉄骨梁の上部において、前記第1の方向に適宜間隔をおいて設けられた複数のスタッドと、を備えたスラブ支持構造の施工方法であって、
一端に折り曲げ部が形成された第1補強筋を、当該第1補強筋の他端を先端側にして前記床スラブの施工領域に対し側方から入れ込む第1の工程と、
前記折り曲げ部が前記スタッドの頂部より低い位置で前記スタッドと係わり合う様に前記第1補強筋を固定する第2の工程と、を含む、
ことを特徴とするスラブ支持構造の施工方法。
【請求項6】
請求項5に記載のスラブ支持構造の施工方法において、前記鉄骨梁の上部において前記第1の方向に延びる第2補強筋に対し前記折り曲げ部を固定する工程を含む、
ことを特徴とするスラブ支持構造の施工方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載のスラブ支持構造の施工方法において、前記床スラブは底部に凸部を有し、
前記第1補強筋を、前記凸部を避ける様に傾斜状に配置する、
ことを特徴とするスラブ支持構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨梁により床スラブを支持するスラブ支持構造、およびスラブ支持構造の施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の床構造として、H形鋼製の鉄骨梁上に、鉄筋コンクリート製の床スラブや、デッキプレート上にコンクリート層を打設した床スラブ等を設置する床構造が広く用いられている。このような床構造において、地震等で大きな外力が床構造に作用した場合に、H形鋼が横座屈する現象が生じる場合がある。ここで「H型鋼梁が横座屈する」とは、H型鋼梁の上部もしくは下部が水平に移動すること、もしくはH型鋼梁が材軸回転方向に変位することを指す。
このような課題を解決するために、従来から鉄骨梁上に頭付きスタッドを接合し、この頭付きスタッドを床スラブのコンクリート内に埋め込むことでコンクリートと鉄骨梁とを一体化することが、上記の横座屈を抑制する方法として有効であることが示されている。
【0003】
ここで特許文献1に示される様に、鉄骨梁の片方にしか床スラブが配置されないスラブ支持構造において地震等で大きな外力が作用した場合、H形鋼梁の横座屈によって頭付きスタッドが床スラブの配置されていない側に変位しようとすると、頭付きスタッドに対して床スラブが無い側のコンクリートが破壊されてしまう虞がある。尚、以降本明細書において「頭付きスタッドの変位」と言う場合、地震等で大きな外力が床構造に作用した際にH形鋼梁の横座屈によって頭付きスタッドが床スラブの配置されていない側に変位することを意味するものとする。
この様な問題に鑑み特許文献1では、頭付きスタッドの周囲にメッシュ状の補強筋を配置するスラブ支持構造が提案されている。この様な補強筋により、頭付きスタッドの変位が抑制され、H型鋼梁の横座屈が抑制され、ひいてはコンクリートの破壊が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
メッシュ状の補強筋は、頭付きスタッドと係わり合う必要があり、このためメッシュ状の補強筋は頭付きスタッドの頂部よりも下側に配置することが望ましい。しかしながら例えば床スラブにトラス筋等の耐力筋を採用する場合、メッシュ状の補強筋を施工領域の上から配置しようとすると耐力筋と干渉してしまい、メッシュ状の補強筋を頭付きスタッドの頂部よりも下側に配置することができない場合がある。この様な場合、対象となる範囲の頭付きスタッドの長さを長くする必要があるが、長さの異なる頭付きスタッドが混在すると施工管理が煩雑となり、また全ての頭付きスタッドの長さを長くするとコストアップを招いたり、頭付きスタッドの上面の被り厚さが十分確保できない虞がある。加えて頭付きスタッドの長さを長くしても、頭付きスタッドの位置によっては、メッシュ状の補強筋を施工領域の上から配置しようとした際に当該補強筋が頭付きスタッドと干渉してしまう場合もある。
本発明はこの様な問題に鑑みてなされたもので、その目的は、スタッドに対して床スラブが無い側のコンクリート破壊を抑制するスラブ支持構造の施工性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する為の、本発明の第1の態様のスラブ支持構造は、第1の方向に延びる鉄骨梁であって前記第1の方向と交差する第2の方向における床スラブの端部を支持する鉄骨梁と、前記鉄骨梁の上部において、前記第1の方向に適宜間隔をおいて設けられた複数のスタッドと、を備えたスラブ支持構造であって、前記スタッドの頂部より高い位置で前記第2の方向に延びる部位を有する補強筋であって、一端が前記鉄骨梁の上部に位置するとともに前記一端に下方向に折れ曲がる折り曲げ部が形成された第1補強筋と、前記スタッドの頂部より低い位置で前記第1の方向に延びる補強筋であって前記スタッドに対し前記床スラブが無い側で前記スタッドと係わり合う第2補強筋と、を備え、前記折り曲げ部の一部は、前記スタッドの頂部より低い位置にあり、前記第2補強筋は、前記折り曲げ部の一部と係わり合うことを特徴とする。
【0007】
本態様によれば、前記スタッドの頂部より低い位置で前記スタッドと係わり合う前記第2補強筋を備え、その上で前記折り曲げ部が形成された前記第1補強筋が、前記折り曲げ部において前記第2補強筋と係わり合う構造である為、施工に際してメッシュ状の補強筋を前記スタッドに対して上から配置する構造の様にメッシュ状の補強筋と耐力筋或いは前記スタッドとの干渉が生じることがない。また前記スタッドの長さを長くする必要もない。以上によりスラブ支持構造の施工性を向上させることができる。
【0008】
尚、本明細書において「第2補強筋がスタッドと係わり合う」とは、前記第2補強筋と前記スタッドとが直接接触する関係に限定されず、地震等でスラブ支持構造に外力が作用した場合に、前記第2補強筋が前記スタッドからコンクリート等の材料を介して影響力を受ける様な関係も含む意味である。
同様に「(第1補強筋の)折り曲げ部が第2補強筋と係わり合う」とは、前記折り曲げ部と前記第2補強筋とが直接接触する関係に限定されず、地震等でスラブ支持構造に外力が作用した場合に、前記折り曲げ部が前記第2補強筋からコンクリート等の材料を介して影響力を受ける様な関係も含む意味である。
【0009】
第2の態様は、第1の態様において、前記第1補強筋において前記スタッドの頂部より高い位置で前記第2の方向に延びる部位は、前記床スラブを構成する耐力筋より高い位置にあることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、前記第1補強筋において前記スタッドの頂部より高い位置で前記第2の方向に延びる部位は、前記床スラブを構成する耐力筋より高い位置にあるので、前記耐力筋を避けて前記第1補強筋を配置しながらも、前記第1補強筋の前記折り曲げ部と前記第2補強筋とによって前記スタッドの変位を抑制できる。
【0011】
第3の態様のスラブ支持構造は、第1の方向に延びる鉄骨梁であって前記第1の方向と交差する第2の方向における床スラブの端部を支持する鉄骨梁と、前記鉄骨梁の上部において、前記第1の方向に適宜間隔をおいて設けられた複数のスタッドと、を備えたスラブ支持構造であって、一端に折り曲げ部が形成された補強筋であって、他端を前記床スラブの施工領域の内側に向けて配置される第1補強筋を備え、前記折り曲げ部が前記スタッドの頂部より低い位置で前記スタッドと係わり合い、前記鉄骨梁の上部において前記第1の方向に延びる第2補強筋に対し、前記折り曲げ部が固定されることを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、前記第1補強筋の前記折り曲げ部が、前記スタッドの頂部より低い位置で前記スタッドと係わり合う構成である為、施工に際してメッシュ状の補強筋を前記スタッドに対して上から配置する構造の様にメッシュ状の補強筋と耐力筋或いは前記スタッドとの干渉が生じることがない。また前記スタッドの長さを長くする必要もない。以上によりスラブ支持構造の施工性を向上させることができる。
そして前記鉄骨梁の上部において前記第1の方向に延びる第2補強筋に対し前記折り曲げ部が固定される為、前記第1補強筋の姿勢が安定し易くなり、施工性がより良好となるとともに、前記スタッドの変位もより一層抑制できる。
尚、本明細書において「(第1補強筋の)折り曲げ部がスタッドと係わり合う」とは、前記折り曲げ部と前記スタッドとが直接接触する関係に限定されず、地震等でスラブ支持構造に外力が作用した場合に、前記折り曲げ部が前記スタッドからコンクリート等の材料を介して影響力を受ける様な関係も含む意味である。
【0013】
第4の態様に係るスラブ支持構造の施工方法は、第1の方向に延びる鉄骨梁であって前記第1の方向と交差する第2の方向における床スラブの端部を支持する鉄骨梁と、前記鉄骨梁の上部において、前記第1の方向に適宜間隔をおいて設けられた複数のスタッドと、を備えたスラブ支持構造の施工方法であって、前記スタッドの頂部より高い位置で前記第2の方向に延びる部位を有する補強筋であって、一端が前記鉄骨梁の上部に位置するとともに前記一端に下方向に折れ曲がる折り曲げ部が形成された第1補強筋を配置する第1の工程と、前記スタッドの頂部より低い位置で前記第1の方向に延びる補強筋であって前記スタッドに対し前記床スラブが無い側で前記スタッドと係わり合う第2補強筋を、前記折り曲げ部の一部と係わり合う様に配置する第2の工程とを含むことを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、前記スタッドの頂部より低い位置で前記スタッドと係わり合う前記第2補強筋を備え、その上で前記折り曲げ部が形成された前記第1補強筋が、前記折り曲げ部において前記第2補強筋と係わり合う構成の施工となる為、施工に際してメッシュ状の補強筋を前記スタッドに対して上から配置する構成の様に補強筋と前記スタッドとの干渉が生じることがなく、この為前記スタッドの長さを長くする必要がない為、スラブ支持構造の施工性を向上させることができる。
【0015】
尚、上記と同様に「第2補強筋がスタッドと係わり合う」とは、前記第2補強筋と前記スタッドとが直接接触する関係に限定されず、地震等でスラブ支持構造に外力が作用した場合に、前記第2補強筋が前記スタッドからコンクリート等の材料を介して影響力を受ける様な関係も含む意味である。
同様に「(第1補強筋の)折り曲げ部が第2補強筋と係わり合う」とは、前記折り曲げ部と前記第2補強筋とが直接接触する関係に限定されず、地震等でスラブ支持構造に外力が作用した場合に、前記折り曲げ部が前記第2補強筋からコンクリート等の材料を介して影響力を受ける様な関係も含む意味である。
【0016】
第5の態様に係るスラブ支持構造の施工方法は、第1の方向に延びる鉄骨梁であって前記第1の方向と交差する第2の方向における床スラブの端部を支持する鉄骨梁と、前記鉄骨梁の上部において、前記第1の方向に適宜間隔をおいて設けられた複数のスタッドと、を備えたスラブ支持構造の施工方法であって、一端に折り曲げ部が形成された第1補強筋を、当該第1補強筋の他端を先端側にして前記床スラブの施工領域に対し側方から入れ込む第1の工程と、前記折り曲げ部が前記スタッドの頂部より低い位置で前記スタッドと係わり合う様に前記第1補強筋を固定する第2の工程と、を含むことを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、前記第1の工程では、一端に折り曲げ部が形成された前記第1補強筋を、当該第1補強筋の他端を先端側にして前記床スラブの施工領域に対し側方から入れ込むことから、前記第1補強筋を配置するに際して前記第1補強筋が他の鉄筋と干渉し難くなる。そして前記第2の工程により、前記折り曲げ部が前記スタッドの頂部より低い位置で前記スタッドと係わり合う様に前記第1補強筋が固定される。従って施工に際してメッシュ状の補強筋を前記スタッドに対して上から配置する構造の様にメッシュ状の補強筋と耐力筋或いは前記スタッドとの干渉が生じることがない。また前記スタッドの長さを長くする必要もない。以上によりスラブ支持構造の施工性を向上させることができる。
尚、「(第1補強筋の)折り曲げ部がスタッドと係わり合う」とは、前記折り曲げ部と前記スタッドとが直接接触する関係に限定されず、地震等でスラブ支持構造に外力が作用した場合に、前記折り曲げ部が前記スタッドからコンクリート等の材料を介して影響力を受ける様な関係も含む意味である。
【0018】
第6の態様は、第5の態様において、前記鉄骨梁の上部において前記第1の方向に延びる第2補強筋に対し前記折り曲げ部を固定する工程を含むことを特徴とする。
本態様によれば、前記鉄骨梁の上部において前記第1の方向に延びる第2補強筋に対し前記折り曲げ部を固定する工程を含むことから、前記第1補強筋の姿勢が安定し易くなり、施工性がより良好となるとともに、前記スタッドの変位もより一層抑制できる。
【0019】
第7の態様は、第5のまたは第6の態様において、前記床スラブは底部に凸部を有し、前記第1補強筋を、前記凸部を避ける様に傾斜状に配置することを特徴とする。
本態様によれば、前記床スラブが底部に凸部を有する場合に、前記第1補強筋を適切に配置できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係るスラブ支持構造を備える鉄骨構造物の斜視図。
【
図2】第1実施形態に係るスラブ支持構造の斜視図。
【
図3】第1実施形態に係るスラブ支持構造の平面図。
【
図4】第1実施形態に係るスラブ支持構造の側断面図。
【
図5】第2実施形態に係るスラブ支持構造の平面図。
【
図6】第2実施形態に係るスラブ支持構造の側断面図。
【
図7】第2実施形態の変形例に係るスラブ支持構造の平面図。
【
図8】第2実施形態の変形例に係るスラブ支持構造の側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。尚、各実施例において同一の構成については、同一の符号を付し、最初の実施形態においてのみ説明し、以後の実施形態においてはその構成の説明を省略する。
各図において示すX-Y-Z座標系は直交座標系であって、X方向が第1の方向の一例であり、Y方向が第1の方向と交差する第2の方向の一例であり、Z方向が鉛直方向を示している。
尚、各図においては全ての鉄筋に符号を付すと図が煩雑となる為、複数設けられている同種の鉄筋には一部にのみ符号を付し、他の鉄筋への符号の付与は省略している。また同様に図示の煩雑化を避ける為、各構成部材の断面のハッチングは省略し、鉄筋構造を主として示すものとする。
【0022】
<<<第1実施形態>>>
図1において符号10はビルディング等の建築物である鉄骨構造物を示している。鉄骨構造物10は、Z方向に延びる鋼製の鉄骨柱12と、鋼製の鉄骨柱12に対してX方向及びY方向に延びる複数の鋼製の鉄骨梁14とを備えている。鉄骨梁14は、鉄骨柱12に対して接合されている。鉄骨梁14は、一例としてH形鋼が採用されている。鉄骨構造物10の各階の床面は、鉄筋コンクリート製の床スラブ16により形成されている。
尚、本発明が適用される建築物は、柱と梁が鉄骨(S造)に限らず、柱が鉄筋コンクリート造である柱RC梁S造、柱が鉄骨鉄筋コンクリート造である柱SRC梁S造、柱が鋼管で、中にコンクリートを充填したCFT造等であっても良い。
【0023】
図2~
図4は鉄骨梁14のうちX方向に延びる鉄骨梁14であって床スラブ16の一端である+Y方向端部を支持する鉄骨梁14と、この鉄骨梁14の周辺の鉄筋構造を示すものである。符号18はスラブ支持構造である。各図に示す全ての鉄筋と鉄骨梁はスラブ支持構造18を構成する。
尚、以降説明する各実施形態では、床スラブ16の+Y方向端部を支持する鉄骨梁14を含むスラブ支持構造(「第1スラブ支持構造」とする)を説明するが、X方向に延びる鉄骨梁であって床スラブの-Y方向端部を支持する鉄骨梁14を含むスラブ支持構造(「第2スラブ支持構造」とする)、Y方向に延びる鉄骨梁であって床スラブの+X方向端部を支持する鉄骨梁14を含むスラブ支持構造(「第3スラブ支持構造」とする)、Y方向に延びる鉄骨梁であって床スラブ16の-X方向端部を支持する鉄骨梁14を含むスラブ支持構造(「第4スラブ支持構造」とする)、のこれらも同様な構造を有している。但し本発明は、第1スラブ支持構造、第2スラブ支持構造、第3スラブ支持構造、及び第4スラブ支持構造のうち一部にのみ適用されていても良い。
【0024】
図2~
図4において、鉄骨梁14の上フランジ14aには、X方向に沿って適宜間隔を空けて複数の頭付きスタッド20が設けられている。尚、複数の頭付きスタッド20は、X方向に沿って厳密に一直線状に配置されることが要求されるものではない。また複数の頭付きスタッド20は、X方向に沿って必ずしも等間隔で配置される必要はない。
【0025】
符号16は床スラブである。図示の便宜上、床スラブ16は二点鎖線(仮想線)で示している。また各図においては床スラブの底部を構成するデッキプレートの図示を省略している。
床スラブ16を構成する鉄筋には、第1トラス筋26、第2トラス筋27、第1スラブ筋28、第2スラブ筋29、第3スラブ筋30、第4スラブ筋31、接続筋34、補助鉄筋35、のこれらと、更に第1補強筋22、第2補強筋24、及び第3補強筋25が含まれる。これら鉄筋のうち特に第1トラス筋26、第2トラス筋27、第1スラブ筋28、第2スラブ筋29、第3スラブ筋30、第4スラブ筋31は床スラブ16の耐力筋として機能する。第3補強筋25は施工を簡便とするために配筋するもので、省略しても良い。
尚、各鉄筋に付した名称は一例であって、主として各鉄筋を区別する為に便宜的に付したものであり、各鉄筋に付した名称によって各鉄筋の機能が限定されるものではない。
また各鉄筋は交差部位において適宜針金等による結束や溶接による固定を行うことができるが、以降においては特に説明する必要がない限りその説明は省略するものとする。
【0026】
第1トラス筋26はX方向に沿って上下に波打つ形状を成し、Y方向に沿って所定の間隔で設けられている。第2トラス筋27はY方向に沿って上下に波打つ形状を成し、X方向に沿って所定の間隔で設けられている。
第1トラス筋26に形成された山形状の外側であって下側にはY方向に延びる第3スラブ筋30と第4スラブ筋31が設けられており、第1トラス筋26に形成された山形状の内側であって上側にはY方向に延びる第2スラブ筋29が設けられている。
【0027】
第2スラブ筋29の上側には、X方向に延びる第1スラブ筋28がY方向に沿って所定の間隔で設けられている。尚、第1スラブ筋28は、各図では3本のみ示されているが、実際には更に-Y方向側の領域にも同様に第1スラブ筋28が設けられている。
【0028】
接続筋34は第1トラス筋26、第2トラス筋27、第2スラブ筋29、第3スラブ筋30、及び第4スラブ筋31によるトラス構造体を上フランジ14aの+Y方向端部領域まで延長させる鉄筋であり、補助鉄筋35は上記トラス構造体を上フランジ14aの上面に載置する鉄筋である。
【0029】
そして第1スラブ筋28の上側には、Y方向に延びる第1補強筋22が設けられている。第1補強筋22は鉄骨梁14の上フランジ14aに差し掛かる部分と、上フランジ14aから外れる部分とを有し、上フランジ14aに差し掛かる部分において+Y方向の端部には下方向に折れ曲がる様に折り曲げ部22aが形成されている。
【0030】
本実施形態において第1補強筋22は、X方向において隣り合う頭付きスタッド20の間に一本配置されるが、これに限らず隣り合う頭付きスタッド20の間において複数本配置しても良い。また必ずしも隣り合う頭付きスタッド20の間の全てに第1補強筋22を配置する必要もない。
【0031】
折り曲げ部22aの折り曲げの開始部位にはX方向に延びる第3補強筋25が設けられている。第3補強筋25は、頭付きスタッド20の上面の高さ位置H1よりも上側に位置している。
そして折り曲げ部22aに対し、頭付きスタッド20の上面の高さ位置H1よりも下側には、X方向に延びる第2補強筋24が設けられている。
以上により、頭付きスタッド20は第2補強筋24と係わり合う様に設けられ、第2補強筋24は第1補強筋22の折り曲げ部22aと係わり合う様に設けられている。
【0032】
以上の構成において、地震等により鉄骨梁14が床スラブ16の配置されていない側(
図2~
図4において+Y方向)に横座屈しようとすると頭付きスタッド20も床スラブ16の配置されていない側に変位しようとする。その結果、頭付きスタッド20を変位させようとする力が床スラブ16のコンクリートの耐力より大きい場合、頭付きスタッド20周囲のコンクリートが破壊されるコーン状破壊が生じ、床スラブ16の耐力低下が生じる場合がある。
【0033】
ここで本実施形態において第1補強筋22、第2補強筋24、および頭付きスタッド20は、コンクリートが打設されることで一体化されるので、頭付きスタッド20が+Y方向に変位しようとすると、第2補強筋24を介して第1補強筋22が+Y方向に引っ張られる。第1補強筋22とコンクリートとの間には付着力が生じている為、頭付きスタッド20が+Y方向に変位しようとすると前記付着力がこれに対抗することとなり、ひいては鉄骨梁14の横座屈を抑制できるとともに、頭付きスタッド20周囲のコンクリート破壊を抑制することができる。
【0034】
以上の様に頭付きスタッド20は、第2補強筋24と係わり合っており、また第2補強筋24は第1補強筋22と係わり合っている。
尚、「第2補強筋24が頭付きスタッド20と係わり合う」とは、地震等でスラブ支持構造18に外力が作用した場合に、第2補強筋24が頭付きスタッド20から直接外力を受ける形態に限られず、第2補強筋24が頭付きスタッド20からコンクリート等の材料を介して影響力を受ける様な関係も含む意味である。
同様に「第1補強筋22の折り曲げ部22aが第2補強筋24と係わり合う」とは、地震等でスラブ支持構造18に外力が作用した場合に、折り曲げ部22aが第2補強筋24から直接外力を受ける形態に限られず、折り曲げ部22aが第2補強筋24からコンクリート等の材料を介して影響力を受ける様な関係も含む意味である。
【0035】
以上の第1補強筋22と第2補強筋24を設ける施工方法、即ちスラブ支持構造18の施工方法は、第1補強筋22を配置する第1の工程と、頭付きスタッド20の頂部より低い位置で頭付きスタッド20に対し床スラブ16が無い側で頭付きスタッド20と係わり合う第2補強筋24を、折り曲げ部22aの一部と係わり合わせる第2の工程と、を含む。
尚、第1補強筋22を先に配置した後に第2補強筋24を配置しても良いし、第2補強筋24を配置した後に第1補強筋22を配置しても良い。
また第2補強筋24を配置するに際し、第2補強筋24を針金等によって頭付きスタッド20に対して結束しても良い。また或いはスペーサー(不図示)を鉄骨梁14の上フランジ14aに載置し、その上に第2補強筋24を載置して第2補強筋24を配置しても良い。
また第2補強筋24は、折り曲げ部22aに対し針金等により結束し或いは溶接により固定しても良い。
【0036】
以上の様にスラブ支持構造18は、第1の方向(X方向)に延びる鉄骨梁であって第1の方向と交差する第2の方向(Y方向)における床スラブ16の端部を支持する鉄骨梁14と、鉄骨梁14の上部において、第1の方向(X方向)に適宜間隔をおいて設けられた複数の頭付きスタッド20と、を備えている。またスラブ支持構造18は頭付きスタッド20の頂部より高い位置で第2の方向(Y方向)に延びる部位を有する補強筋であって、一端が鉄骨梁14の上部に位置するとともに前記一端に下方向に折れ曲がる様な折り曲げ部22aが形成された第1補強筋22と、頭付きスタッド20の頂部より低い位置で第1の方向(X方向)に延びる補強筋であって頭付きスタッド20に対し床スラブ16が無い側で頭付きスタッドと係わり合う第2補強筋24と、を備えている。そして折り曲げ部22aの一部は、頭付きスタッド20の頂部より低い位置にあり、第2補強筋24は、折り曲げ部22aの一部と係わり合う。
これにより、施工に際してメッシュ状の補強筋を頭付きスタッド20に対して上から配置する構造の様にメッシュ状の補強筋と耐力筋或いは頭付きスタッド20との干渉が生じることがない。また頭付きスタッド20の長さを長くする必要もない。以上によりスラブ支持構造18の施工性を向上させることができる。
尚、この様なスラブ支持構造18の作用効果を得る為に必要な鉄筋は第1補強筋22及び第2補強筋24であり、上述した実施形態において説明したその他の鉄筋は任意である。
【0037】
また第1補強筋22において頭付きスタッド20の頂部より高い位置で第2の方向(Y方向)に延びる部位は、床スラブ16を構成する第1トラス筋26及び第2トラス筋27より高い位置にある。このことにより、第1トラス筋26及び第2トラス筋27を避けて第1補強筋22を配置しながらも、第1補強筋22の折り曲げ部22aと第2補強筋24とによって頭付きスタッド20の変位を抑制できる。
【0038】
尚、本実施形態において第1補強筋22は各鉄筋のうち最も上に設けられるが、これに限られず、第1補強筋22の上部に他の鉄筋が配置されても良い。
【0039】
<<<第2実施形態>>>
続いて
図5及び
図6を参照して第2実施形態に係るスラブ支持構造18Aについて説明する。尚、以降説明する実施形態において既に説明した構成と同一の構成には同一の符号を付しており、重複する説明は避けるものとする。
スラブ支持構造18Aは、上述した第1実施形態における第1補強筋22に代えて、第1補強筋42を備えている。第1補強筋42は+Y方向の一端に折り曲げ部42aが形成されており、折り曲げ部42aが頭付きスタッド20の頂部より低い位置で頭付きスタッド20と係わり合う様に配置されている。第1補強筋42の他端である-Y方向端部は床スラブ16Aの内側(-Y方向)に向けられている。
【0040】
このスラブ支持構造18Aの施工方法は、第1補強筋42を、当該第1補強筋42の他端(-Y方向の端部)を先端側にして床スラブ16Aの施工領域に対し側方から矢印Gsで示す様に入れ込む第1の工程と、折り曲げ部42aが頭付きスタッド20の頂部より低い位置で頭付きスタッド20と係わり合う様に第1補強筋42を固定する第2の工程と、を含む。
第1補強筋42の固定は、一例として折り曲げ部42aを頭付きスタッド20に対し針金等により結束する等で実現できる。
【0041】
本実施形態によれば、上記第1の工程では、第1補強筋42を床スラブ16Aの施工領域に対し側方から入れ込むことから、第1補強筋42を配置するに際して第1補強筋42が他の鉄筋と干渉し難くなる。そして上記第2の工程により、折り曲げ部42aが頭付きスタッド20の頂部より低い位置で頭付きスタッド20と係わり合う。従って施工に際してメッシュ状の補強筋を頭付きスタッド20に対して上から配置する構造の様にメッシュ状の補強筋と耐力筋或いは頭付きスタッド20との干渉が生じることがない。また頭付きスタッド20の長さを長くする必要もない。以上によりスラブ支持構造18Aの施工性を向上させることができる。
尚、第1補強筋42を床スラブ16Aの施工領域に対し側方から入れ込むことに代えて、床スラブ16Aの施工領域に対し上方から入れ込んでも良い。
【0042】
尚、上述した第2実施形態は、
図7に示すスラブ支持構造18Bの様に変形できる。
図7に示すスラブ支持構造18Bでは、鉄骨梁14の上部において鉄骨梁14に沿ってX方向に延びる第2補強筋43に対し、複数の第1補強筋42のそれぞれの折り曲げ部42aが固定される。スラブ支持構造18Bの施工方法は、第2補強筋43を配置する工程と、複数の第1補強筋42のそれぞれの折り曲げ部42aを第2補強筋43に固定する工程とを含む。
尚、この場合の施工方法のより具体的な例として、スペーサー(不図示)を鉄骨梁14の上フランジ14aに載置し、その上に第2補強筋43を載置し、次いで第1補強筋42を
図6を参照して説明したと同様に床スラブの施工領域に対し側方から入れ込み、第1補強筋42の折り曲げ部42aを針金等によって第2補強筋43に固定する。そして折り曲げ部42aを第2補強筋43とともに頭付きスタッド20に対して針金等により固定する。
この様な施工方向により、第1補強筋42の姿勢が安定し易くなり、施工性がより良好となるとともに、頭付きスタッド20の変位もより一層抑制できる。
【0043】
また上述した第2実施形態は、床スラブの底部を構成するデッキプレートが凸部を有し、床スラブに
図8に示す様な凸部45が形成される場合、第1補強筋42を傾けて配置する様に変形しても良い。
図8はその様なスラブ支持構造18Cを示しており、床スラブ16Bの底部に形成された凸部45を避ける様に、第1補強筋42が傾斜状に配置されている。これにより、床スラブ16Bが底部に凸部45を有する場合に、第1補強筋42を適切に配置できる。尚、第1補強筋42は、-Y方向の端部を先端側にして床スラブ16Bの施工領域に対し側方から入れ込む第1の工程において斜めに傾けることができる。
この場合において、第1補強筋42の-Y方向端部を他の鉄筋に適宜針金等によって或いは溶接によって固定しても良いし、デッキプレートの凸部にスペーサー(不図示)を配置することで第1補強筋42を傾けて配置しても良い。
【0044】
本発明は上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で、種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0045】
10…鉄骨構造物
12…鉄骨柱
14…鉄骨梁
14a…上フランジ
16、16A、16B…床スラブ
18、18A、18B、18C…スラブ支持構造
20…頭付きスタッド
22…第1補強筋
22a…折り曲げ部
24…第2補強筋
25…第3補強筋
26…第1トラス筋
27…第2トラス筋
28…第1スラブ筋
29…第2スラブ筋
30…第3スラブ筋
31…第4スラブ筋
34…接続筋
42…第1補強筋
42a…折り曲げ部
43…第2補強筋