(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167504
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】踏切道監視システム
(51)【国際特許分類】
B61L 29/00 20060101AFI20241127BHJP
【FI】
B61L29/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083615
(22)【出願日】2023-05-22
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100181146
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 啓
(72)【発明者】
【氏名】針ヶ谷 奈央
(72)【発明者】
【氏名】金子 達也
【テーマコード(参考)】
5H161
【Fターム(参考)】
5H161AA01
5H161MM05
5H161MM14
5H161NN11
5H161PP07
(57)【要約】
【課題】 簡易な構成で、的確に踏切道の監視ができる踏切道監視システムを提供すること。
【解決手段】 踏切道監視システム100は、踏切CRの対象領域TAに存在する端末TMの位置を、端末TMとの送受信から検知する検知装置50を備え、検知装置50における検知結果に基づき対象領域TAを監視する。この場合、検知装置50により検知された踏切CRの対象領域TAに存在する端末TMの位置情報を利用して対象領域TAを監視する態様とすることで、簡易な構成で、的確に踏切(踏切道)の監視ができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
踏切の対象領域に存在する端末の位置を、前記端末との送受信から検知する検知装置を備え、
前記検知装置における検知結果に基づき前記対象領域を監視する踏切道監視システム。
【請求項2】
前記検知装置は、異なる位置に配置されて前記端末からの電波を受信する複数の受信器と、前記複数の受信器で検出された受信強度に基づき前記端末の存在位置を算出する算出部とを有する、請求項1に記載の踏切道監視システム。
【請求項3】
前記検知装置は、前記対象領域のうち対象物検知範囲の周囲に設けた方向判定範囲において、前記端末の移動方向を判定する方向判定部を有する、請求項1に記載の踏切道監視システム。
【請求項4】
前記方向判定部は、前記端末の移動方向が道路側についての方向であるか軌道側についての方向であるかを判定し、
前記検知装置は、前記方向判定部での判定結果が道路側である場合に、前記端末を監視対象として取り扱う、請求項3に記載の踏切道監視システム。
【請求項5】
前記検知装置は、前記対象領域に存在する前記端末の移動を追跡し、前記端末の軌跡を記録する、請求項1に記載の踏切道監視システム。
【請求項6】
前記検知装置は、前記端末を追跡した結果から、前記端末が所定範囲内に一定時間以上存在し続けている場合、または前記端末の位置変化がない場合に、異常である旨の報知をする報知部を有する、請求項5に記載の踏切道監視システム。
【請求項7】
前記検知装置は、前記端末の追跡に際して、前記端末の消失及び出現を検知する、請求項5に記載の踏切道監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、踏切(踏切道)に設置され、監視を行う踏切道監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、従来のレーザーやループコイルといったセンサを用いた踏切障害物検知以外の技術として、踏切内の監視領域を監視カメラで撮像するものが知られている(特許文献1参照)。また、施設内において、徒歩による移動や車両による移動といった利用者の行動を捉えるための技術が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-50861号公報
【特許文献2】特開2019-113557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1等に示される従来型の場合、設置における制限や導入コスト、天候による検知性能の低下のおそれがある。また、上記特許文献2は、施設利用者の行動に応じた誘導をするための技術であり、これをそのまま踏切障害物検知に適用できるとは限らない。
【0005】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、簡易な構成で、的確に踏切道の監視ができる踏切道監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための踏切道監視システムは、踏切の対象領域に存在する端末の位置を、端末との送受信から検知する検知装置を備え、検知装置における検知結果に基づき対象領域を監視する。
【0007】
上記踏切道監視システムでは、検知装置により検知された踏切の対象領域に存在する端末の位置情報を利用して対象領域を監視する態様とすることで、簡易な構成で、的確に踏切(踏切道)の監視ができる。
【0008】
本発明の具体的な側面では、検知装置は、異なる位置に配置されて端末からの電波を受信する複数の受信器と、複数の受信器で検出された受信強度に基づき端末の存在位置を算出する算出部とを有する。この場合、複数の受信器で検出される受信強度の差を利用して迅速かつ的確に端末の位置を算出できる。
【0009】
本発明の別の側面では、検知装置は、対象領域のうち対象物検知範囲の周囲に設けた方向判定範囲において、端末の移動方向を判定する方向判定部を有する。この場合、端末の移動方向から監視の要否を判断できる。
【0010】
本発明のさらに別の側面では、方向判定部は、端末の移動方向が道路側についての方向であるか軌道側についての方向であるかを判定し、検知装置は、方向判定部での判定結果が道路側である場合に、端末を監視対象として取り扱う。この場合、監視対象として取り扱うべき道路側から進入してきた端末(その所有者)を迅速にとらえるとともに、監視を要しない対象を的確かつ迅速に排除できる。
【0011】
本発明のさらに別の側面では、検知装置は、対象領域に存在する端末の移動を追跡し、端末の軌跡を記録する。この場合、端末の軌跡に基づいて異常の発生を捉えることができる。
【0012】
本発明のさらに別の側面では、検知装置は、端末を追跡した結果から、端末が所定範囲内に一定時間以上存在し続けている場合、または端末の位置変化がない場合に、異常である旨の報知をする報知部を有する。この場合、特定の異常発生について迅速に報知することができる。
【0013】
本発明のさらに別の側面では、検知装置は、端末の追跡に際して、端末の消失及び出現を検知する。この場合、端末との通信状況を踏まえた監視ができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態の踏切道監視システムを示す概念的な平面図である。
【
図2】踏切道監視システムの一設置例を説明するための概念的な斜視図である。
【
図3】踏切道監視システムの一構成例を示すブロック図である。
【
図4】踏切における監視の対象領域への侵入の様子を示す概念的な平面図である。
【
図5】(A)~(C)は、端末の追跡における一態様について説明するための概念的な平面図である。
【
図6】端末の追跡データ管理の様子について一例を示す概念図である。
【
図7】(A)~(C)は、踏切道監視システムによる監視動作の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図8】移動体判定の処理内容について一例を説明するためのフローチャートである。
【
図9】(A)は、滞留通知を行った場合の処理内容について一例を説明するためのフローチャートであり、(B)は、故障判定の動作について一例を説明するためのフローチャートであり、(C)は、消失判定の動作について一例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、
図1等を参照して、一実施形態の踏切道監視システムについて、一例を説明する。
図1は、本実施形態の踏切道監視システム100の一適用例について説明するための概念的な平面図であり、
図2は、踏切道監視システム100の一設置例を説明するための概念的な斜視図である。また、
図3は、踏切道監視システム100の一構成例を示すブロック図である。
【0016】
図1等に示すように、踏切道監視システム100は、踏切CRについて通行者の閉じ込みの有無等の監視を行う。ここでは、踏切道監視システム100は、踏切CRを通過する者が所持(携帯)する通信可能な端末TMを検知することで、通過状況を把握する態様となっている。
【0017】
端末TMについては、例えば、アプリをインストールしたスマホ(スマートフォン)や、踏切道監視システム100用の専用送受信器等、踏切道監視システム100との通信に必要な送受信機能を有する種々の態様が想定される。典型的一例としては、BLE(Bluetooth Low Energy)を利用した近距離無線により、踏切道監視システム100側と端末TM側との間で通信がなされることで、この際、踏切道監視システム100側において、個々の端末TMを識別するID情報等が併せて検知できる。これにより、例えば複数の端末TMが同時並行的に検知されてもこれらを個別に追跡することが可能となる。
【0018】
上記態様において、踏切道監視システム100は、踏切CRにおける対象領域TAを監視すべく、親機10と、複数の子機20とで構成される検知装置50を備え、親機10及び複数の子機20に設けた送受信部11,21と対象領域TAに存在する端末TMとの間での通信における電波(電磁波)の受信強度に基づいて、端末TMの追跡監視を行う。なお、ここでの一例では、複数の子機20は、2つの第1子機20Aと第2子機20Bにより構成されているものとする。また、上記態様を言い換えると、検知装置50を構成する親機10や第1子機20A、第2子機20Bが、対象の踏切CRとその周囲環境に応じて異なる位置に配置(設置)されて対象領域TAに存在する端末TMからの電波を受信することで、踏切道監視システム100として機能する。
【0019】
なお、以後において、例えば
図1等に示すように、線路RLに沿った方向をX方向とし、面内方向においてX方向に垂直な方向をY方向とする。また、X方向及びY方向に垂直な方向すなわち水平面に対して垂直な方向を、Z方向とする。この場合、X方向は、列車(図示略)の移動についての主方向となり、Y方向は、踏切CRを渡る(通過する)移動についての主方向となる。
【0020】
ここで、
図1に示す平面視の一例では、踏切CR内における監視領域となるべき領域を含む対象領域TAは、端末TMを監視する範囲を示す矩形状の領域となっている対象物検知範囲ODと、対象物検知範囲ODの周辺領域であって対象物検知範囲ODに出入りする端末TMを検知すべくその移動方向について判別を行う方向判定範囲DJとで構成されているものとする。方向判定範囲DJは、対象物検知範囲ODの±Y側において±X方向に延びる範囲に設けられる道路側方向判定エリアDJ1と、対象物検知範囲ODの±X側において±Y方向に延びる範囲に設けられる軌道側方向判定エリアDJ2とで構成されている。道路側方向判定エリアDJ1と軌道側方向判定エリアDJ2とにおける端末TMの一変化(移動)を追跡することで、端末TMの移動方向が道路側についての方向であるか軌道側についての方向であるかの判定がなされる。対象物検知範囲ODに進入する際の位置や方向について検知を行うことで、踏切CRを通過する移動であるか、列車とともに動くものの移動であるのかを判断することができる。
【0021】
上記のような態様において、対象領域TAを通過する端末TMとの通信を隈なく行えるようにすべく、対象領域TAの四隅の一隅に親機10が設置され、他の隅に子機20Aと子機20Bとがそれぞれ配置されている。なお、
図1の平面図では、平面的に対象領域TA等が示されているが、対象領域TAの範囲について、より具体的には、例えば
図2として示す斜視図にあるように、親機10、第1子機20A及び第2子機20Bにおいて、送受信部11,21としてそれぞれ設けられている複数(3つ)の受信器Rxが、ある程度の高さ位置において端末TMから発信される電磁波をそれぞれ受信する態様となっている。親機10は、3つの受信器Rxの受信強度の差異すなわち相対的な強度差に基づいて各受信器Rxと端末TMとの距離を推定することで、端末TMの位置を算出する。また、受信対象領域となる対象領域TAは、高さ方向(Z方向)に関して、端末TMが通過すると想定される通常の範囲を含むものとなっている。例えば各部を現場に設置するに際して対象領域TAが定められるが、これに応じて、対象領域TAにおける各位置に応じて検出されるべき受信器Rxでの受信強度に関して、マッピングしたデータを予め作成しておくことで、対象領域TAに存在する端末TMからの発信を受信器Rxで受けた際に、受信結果について当該データを参照することで、当該端末TMの位置算出が可能となる。
【0022】
以上のようにして、検知装置50が、踏切CRの対象領域TAに存在する端末TMの位置を、端末TMとの送受信から検知するものとなっていることで、踏切道監視システム100は、検知装置50における検知結果に基づき対象領域TAについて監視を行う。つまり、検知装置50は、かかる態様とすべく、対象領域TAに存在する端末TMの移動を追跡し、端末TMの軌跡を記録している。
【0023】
以下、
図3として示すブロック図を参照して、親機10と子機20との一構成例について説明する。まず、既述のように、親機10と子機20とは、端末TMとの通信を行う送受信器として機能する。ここでは、さらに、通信内容に基づいて各種処理が可能となっている。特に、親機10は、自身において受信した端末TMからの電磁波の強度と、第1子機20A及び第2子機20Bにおいて受信した端末TMからの電磁波の強度についての情報から端末TMの位置を推定する。以上のような処理を行うため、図示のように、例えば、親機10は、既述の送受信部11(受信器Rx)のほか、各種演算処理等を行う処理部12と、他の送受信器である第1子機20A及び第2子機20Bとの通信インターフェースとしての送受信器IF部13と、電源を供給する電源部14と、外部へ各種情報を伝達する報知部としての外部IF部15とを備える。
【0024】
一方、子機20(20A,20B)は、既述の送受信部21(受信器Rx)のほか、各種演算処理等を行う処理部22と、親機10との通信インターフェースとしての送受信器IF部23と、電源を供給する電源部24とを備える。
【0025】
親機10について、処理部12は、端末検知部12Aと、方向判定部12Bと、滞留判定部12Cと、検知範囲記憶部12Dと、検知範囲設定部12Eと、健全性判定部12Fとを備える。さらに、親機10は、複数(3つ)の受信器Rxで検出された受信強度に基づき端末TMの存在位置を算出する算出部CAを備える。
【0026】
処理部12のうち、端末検知部12Aは、受信器Rxとしての送受信部11において受信した端末TMからの電磁波についての受信強度に基づいて、端末TMを検知する。すなわち、受信強度が相対的に大きな値であれば、親機10から比較的近い位置に端末TMが存在するものとして端末検知部12Aで検知されることになり、受信強度が相対的に小さな値であれば、親機10から比較的遠い位置に端末TMが存在するものとして端末検知部12Aで検知されることになる。
【0027】
ここで、算出部CAは、上記のような端末検知部12Aでの検知結果や、送受信器IF部13を介して受信した端末TMからの電磁波についての受信強度に基づいて、対象領域TAに存在する端末TMの位置について算出する。なお、本実施形態では、端末TMの軌跡を追うべく、端末TMの位置変化についてデータを蓄積することで、端末TMの追跡情報を生成しているものとする。
【0028】
方向判定部12Bは、上記のようにして取得される追跡情報に基づいて、端末TMの進行方向を判定する。すなわち、方向判定部12Bは、対象領域TAのうち対象物検知範囲ODの周囲に設けた方向判定範囲DJにおいて、端末TMの移動方向を判定する。
【0029】
滞留判定部12Cは、端末TMの変位の有無に基づいて、端末TMが対象領域TA内に滞留しているか否か、すなわち端末TMを所持する者が対象領域TA内に滞留しているか否かを判定する。
【0030】
上記のような端末TMに関する検知を行うことで、踏切道監視システム100は、端末TMの監視すなわち端末TMを所持する者の状況について監視を行う。
【0031】
以上のような処理部12を構成する各部による監視を行うための前提として、踏切道監視システム100は、処理部12の検知範囲記憶部12Dに、検知範囲設定部12Eにより設定した踏切CRにおける対象領域TA等の情報を記憶しておく。言い換えると、親機10等の踏切CRへの設置に際して、対象領域TAとすべき範囲を検知範囲設定部12Eよって定め、定めた内容を検知範囲記憶部12Dに記憶させておく。なお、検知範囲記憶部12Dは、上記設定完了後は、端末TMの移動を追跡し他結果としての軌跡を記録するメモリーとして機能するものとしてもよい。
【0032】
また、これらのほか、親機10の動作についての健全性を、健全性判定部12Fにおいて自己チェックがなされるものとしている。
【0033】
子機20(20A,20B)について、処理部22は、端末検知部22Aと、検知範囲記憶部22Dと、検知範囲設定部22Eと、健全性判定部22Fとを備える。端末検知部22Aは、受信器Rxとしての送受信部21において受信した端末TMからの電磁波についての受信強度を、送受信器IF部23を介して親機10に送信する。すなわち、上述した算出部CAにおける端末TMの位置算出に際して、この受信強度の情報が利用される。
【0034】
また、検知範囲記憶部22Dや検知範囲設定部22Eについては、踏切CRへの設置に際して、検知範囲記憶部12Dや検知範囲設定部12Eと協働し、対象領域TA等の情報を記憶している。
【0035】
また、これらのほか、子機20(20A,20B)の動作についての健全性を、健全性判定部22Fにおいて自己チェックするものとしている。なお、健全性判定部22Fにおける判定結果についても、送受信器IF部23を介して親機10に送信される。すなわち、親機10は、自身の動作の健全性と子機20(20A,20B)の動作の健全性との双方について監視可能となっている。親機10は、自身の動作を含めたシステム全体のいずれかにおける健全性の有無について、外部IF部15を介して外部に送信可能となっている。
【0036】
上記のような態様において、本実施形態では、方向判定部12Bにおける端末TMの移動方向についての判定に応じて、検知された端末TMを監視の対象とすべきか否かが判定される。より具体的には、
図4において、矢印AA1,AA2と矢印BB1,BB2とで例示されているように、端末TMの移動方向が道路側についての方向(矢印AA1,AA2)であるか軌道側についての方向(矢印BB1,BB2)であるかの判定が、方向判定部12B(
図3参照)においてなされ、方向判定部12Bでの判定結果が道路側である場合に、検知装置50(親機10)は、端末TMを監視対象として取り扱う。なお、軌道側方向判定エリアDJ2から矢印BB1,BB2の方向に進入する端末TMが検知される場合、典型的には、電車内の乗客が所持する端末TMといったものであると考えられ、このようなものについては、監視対象から除外することができる。
【0037】
さらに、本実施形態では、
図4に例示するように、端末TMを所持する者の通行態様として、歩行者PEである場合のほか、自転車BYに乗る者や車(自動車)VEに乗る者を想定する。通行態様によって、通過に際しての速度や加速度が異なり、これに伴い、端末TMを所持する者が滞留した状態にあるか否か等の判断基準を異なるものとすべき場合も想定される。そこで、本実施形態では、対象領域TAへの進入に際して、その時の速度あるいは加速度について、歩行者PE、自転車BY及び車(自動車)VEのいずれであるものとして取り扱うかを決定する閾値を予め定めておくものとする。なお、図示の一例では、図中において矢印で示す各端末TMの速度Vの値によって上記判定を行っているものとする。
【0038】
以下、
図5を参照して、端末TMの追跡における一態様について説明する。なお、
図5(A)~
図5(C)は、端末TMを追跡する様子を時系列に沿って示した概念的な平面図であり、図示の例では、端末TMが-Y側から+Y側に向かって進行(移動)する場合を例示している。より具体的に示すと、図示の例では、まず、
図5(A)に示すように、-Y側の道路側方向判定エリアDJ1から進入して、監視対象となった端末TMが、矢印AR1に示すように、全体として+Y側に向かって進んでいくとする。端末TMと各受信器Rxとの間で通信(データの送受信)が確立された状態が維持されれば、移動に関するデータが逐次記録され、端末TMの移動追跡がなされることになる。一方、
図5(B)に示す一例のように、矢印AR1の方向に進んでいった先において、端末TMと各受信器Rxとの間での通信が途絶え、端末TMが追跡できず、監視上において消失してしまう場合も生じうる。典型的には、一時的な電波障害や、発信異常等が想定される。このような場合であっても、例えば端末TMが矢印AR2に示す方向に進み、
図5(C)に例示するように、その後再び端末TMと各受信器Rxとの間での通信が確立されれば、端末TMのID照合等を利用することで、消失前の追跡情報と紐付けて、端末TMの追跡を再開することができる。言い換えると、端末TMの出現を検知することができる。なお、
図5(B)に示すような状況に陥った場合に、通信エラーと判断すべき不通時間を予め設定しておくことで、異常発生の有無について対処することができる。
【0039】
以下、
図6として示す概念図を参照して、上述した端末TMの追跡を行うに際して、追跡データ管理の様子について一例を説明する。図示のように、対象領域TA内の対象物検知範囲ODに存在する端末TMが監視の対象となっている場合、端末TMと各受信器Rxとの間で通信がなされ、受信強度が検知される。また、併せて、端末TMを特定する(他の端末TMと識別する)ことを可能にするための端末IDの情報が伝達される。検知装置50は、各受信器Rxでの受信強度の相対的な差異から端末TMの位置を特定する(図示の一例では、XY面内での位置による表示となっている)とともに、これらの情報を受信日付及び時刻とともに記録する。これを継続することで、各端末TMの追跡を行う。また、この場合、併せて、端末TMの軌跡や移動方向、移動速度、あるいは加速度といったものについても算出可能となる。これらの情報から、検知装置50は、種々の事項について検知が可能となっている。例えば、図中において、データDDに示すように、親機10から取得される情報(例えば親機10から外部送信される情報)に基づいて、対象領域TAへの進入時において、通過者(移動体)が歩行者であるのか自転車であるのか、車(自動車)であるのか、といったことが判断可能となる。また、端末TMが対象物検知範囲OD内に一定時間以上滞在したままになっている、あるいは留まって動かない、といった状況になっているか否かを判定することもできる。その他にも、例えば端末TMとの通信が追跡途中で確立できずデータ上から端末TMが消失した場合やその後の復旧がなされた場合、さらには、検知装置50自身の故障の発生やその解消等についても、併せて検知可能となっている。
【0040】
以上により、踏切道監視システム100による踏切CRの監視がなされる。なお、図示において、親機10から外部送信される情報を取得する外部端末TEまで含めて、踏切道監視システム100が構成されている、と捉えるものとしてもよい。
【0041】
以下、
図7等に示すフローチャートを参照して、本実施形態における踏切道監視システム100の一連の動作について、一例を説明する。
【0042】
まず、
図7(A)~
図7(C)として示すフローチャートを参照して、踏切道監視システム100による監視動作について、一例を説明する。
【0043】
踏切道監視システム100において動作が開始され、対象領域TAにおいて端末TMが検知されると(ステップS101)、まず、端末TMの存在位置が、方向判定範囲DJを構成する道路側方向判定エリアDJ1内で又は軌道側方向判定エリアDJ2内であるかについて判定がなされる(ステップS102)。
【0044】
ステップS102において、方向判定エリアDJ1,DJ2のいずれかに存在すると判定される、すなわち方向判定範囲DJ内に存在すると判定されると(ステップS102:Yes)、当該端末TMの追跡が開始され(ステップS103)、方向判定が行われる(ステップS104)。言い換えると、この場合、検知装置50は、対象領域TAに存在する端末TMの移動を追跡し、端末TMの軌跡を記録の開始をし、さらに、方向判定部12Bは、端末TMの移動方向(進行方向)が道路側についての方向であるか軌道側についての方向であるかを判定することになる。
【0045】
ステップS104において、軌道側であると判定された場合、検知装置50は、当該端末TMを検知の対象すなわち監視の対象から除外し(ステップS105)、ステップS101からの動作に戻る。一方、ステップS105において、道路側であると判定された場合、すなわち方向判定部12Bでの判定結果が道路側である場合、検知装置50は、端末TMを監視対象として取り扱い、移動体判定の処理を行う(ステップS106)。
【0046】
ここで、ステップS106の移動体判定とは、移動体すなわち端末TMを所持する者の踏切CRにおける通行態様について判定を行うものであり、ここでは、一例として、端末TMの所持者が、上述した歩行者PE、車(自動車)VE及び自転車BYのいずれであるかについて判定を行うものとする。
【0047】
図8は、ステップS106における具体的処理内容の一例を示すフローチャートである。
図8に示すように、ここでは、判定値a~cを、例えば端末TMの速度についての閾値等により予め定めておき、移動体たる端末TMについての測定(例えば速度の測定)を行って、測定結果について予め定めた閾値から判定値a~cのうち、いずれに該当するかを判定する(ステップS201)。ステップS201において、判定値aである場合には、端末TMを所持する者は歩行者PEであるものとし、これに応じた判定値テーブルを選択する(ステップS202a)。つまり、のちの処理として例えば端末TMが対象物検知範囲OD内において一定時間以上滞留した状態であるか否か等の判定を行うといった場合に、当該判定値テーブルに記載された一定時間の値等を、判定基準として採用する。
【0048】
同様に、ステップS201において、判定値bである場合には、端末TMを所持する者は車(自動車)VEに乗っているものとし、これに応じた判定値テーブルを選択し(ステップS202b)、ステップS201において、判定値cである場合には、端末TMを所持する者は自転車BYに乗っているものとし、これに応じた判定値テーブルを選択する(ステップS202c)。
【0049】
上記ステップS202a~ステップS202cのいずれかが選択されると、踏切道監視システム100は、滞留判定の処理を開始する。すなわち
図7(B)におけるステップS106の処理を完了し、ステップS107の処理を開始する。滞留判定に際しては、上記により選択された一の判定値テーブルが用いられることになる。
【0050】
図7(B)のステップS107において、踏切道監視システム100は、時間に関する滞留判定を行う。具体的には、監視対象となっている端末TMが、対象物検知範囲OD内に一定時間以上留まっているか否かを判定し、一定時間以上の滞留が認められる場合には、その旨を、報知部としての外部IF部15を介して外部に対して通知する(ステップS108)。なお、ここでの通知(報知)の態様については種々ものが想定され、例えば
図6に例示した外部端末TEへの通知のほか、踏切CRに対応して設けられている地上側の装置の1つである特殊信号発光機(図示略)に対して通知を行う、つまり当該特殊信号発光機を起動させる、といった態様とすること等が考えられる。また、複数の報知(通知)を併せて行う態様としてもよい。
【0051】
一方、ステップS107において、滞留が一定時間未満である場合、踏切道監視システム100は、位置に関する滞留判定を行う(ステップS109)。具体的には、端末TMが対象物検知範囲OD内の一箇所において停まったまま動かなくなっているか否か、すなわち一定時間以上端末TMの位置変化がない状態となっているか否かを判定し、一定時間以上位置変化がないと認められる場合には、その旨を外部に対して通知する(ステップS110)。なお、ここでの通知態様についても、ステップS108の場合と同様種々の態様が想定される。
【0052】
一方、ステップS109において、位置変化がある場合、踏切道監視システム100は、再度、対象領域TAの範囲すなわち対象物検知範囲ODや方向判定範囲DJ(方向判定エリアDJ1,DJ2)の範囲について端末TMの存否を検知し(ステップS111)、端末TMが検知されなければ(ステップS111:No)、当該端末TMが対象領域TAをから外れたものとして、追跡を終了し(ステップS112)、ステップS101からの動作に戻る。
【0053】
一方、ステップS111において、端末TMが検知された場合(ステップS111:Yes)、すなわち対象物検知範囲OD又は方向判定範囲DJ(方向判定エリアDJ1,DJ2)のいずれかに端末TMが存在している場合、踏切道監視システム100は、当該端末TMの追跡を継続すべく、ステップS107からの動作(各種滞留判定の処理)を繰り返す。
【0054】
なお、以上のうち、ステップS102において、方向判定エリアDJ1,DJ2のいずれかにも端末TMの存在が確認されない場合(ステップS102:No)、踏切道監視システム100は、対象物検知範囲ODに端末TMが存在するか否かを判定する(ステップS112)。
【0055】
ステップS112において、対象物検知範囲ODに端末TMが存在しないと判定された場合(ステップS112:No)、ステップS101からの動作に戻る。
【0056】
一方、ステップS112において、対象物検知範囲ODに端末TMが存在しないと判定された場合(ステップS112:Yes)、当該端末TMについて、ステップS106の移動体判定の処理からの一連の処理がなされる。なお、上記のような態様となる場合については、典型的には、踏切道監視システム100と端末TMとの間での通信に一時的な障害(電波障害)が発生していたものが、通信が復帰して端末TMの存在が踏切道監視システム100側で確認された場合(端末TMの出現)等が想定される。
【0057】
以下、
図9(A)~
図9(C)として示すフローチャートを参照して、踏切道監視システム100の動作に関する周辺事項について説明する。
【0058】
まず、ステップS108やステップS110に例示した滞留通知を行った場合、すなわち、端末TMを追跡した結果から、端末TMが所定範囲内に一定時間以上存在し続けている場合や、あるいは、端末TMの位置変化がない場合に、異常である旨の報知を、報知部としての外部IF部15により行った場合について、その後の処理の一例を、
図9(A)を参照して説明する。
【0059】
この場合、踏切道監視システム100は、監視の対象となっている端末TMについて追跡を継続し(ステップS301)、対象領域TAの範囲すなわち対象物検知範囲ODや方向判定範囲DJ(方向判定エリアDJ1,DJ2)の範囲について当該端末TMが存在するか否かを検知し(ステップS302)、存在していれば(ステップS302:Yes)、追跡を継続する(ステップS301)。
【0060】
一方、ステップS302において、当該端末TMの存在が検知されなければ(ステップS302:No)、滞留が解消した旨の通知(報知)を、外部IF部15により行う(ステップS303)。なお、ステップS303の処理を行った場合、通常の処理に戻るべく、
図7のステップS101からの動作に戻るものとしてもよい。
【0061】
このほか、例えば、踏切道監視システム100の各部の故障判定については、健全性判定部12F等により、上記した踏切道監視システム100の基本動作(通常動作)とは別途に行うことが可能であり、例えば
図9(B)に示すように、故障判定を常時行って(ステップS401)、故障判定があった場合(ステップS401:Yes)、外部IF部15により外部に対して通知を行い(ステップS402)、これとともに、踏切道監視システム100の動作(基本動作を含む各種動作)を停止する処理を行う(ステップS403)。
【0062】
ステップS401において故障判定がなければ(ステップS401:No)、踏切道監視システム100の基本動作(通常動作)が継続される(ステップS404,S405)。
【0063】
また、踏切道監視システム100と端末TMとの間での通信障害については、一時的なものについては、前後の通信が確立されていた期間での情報に基づき処理を行うものとしてもよいが、例えば
図9(C)に示すように、通信断(通信障害の発生)の状態を継続的に監視して(ステップS501)、この状態が一定時間以上継続してしまっている場合には(ステップS501:Yes)、端末が消失してしまっているものとして取り扱うその旨の通知を行う(ステップS502)ようにしておくことが考えられる。すなわち、検知装置50が、端末TMの追跡に際して、端末TMの消失及び出現を検知する態様とした上で、必要に応じて通知(報知)を行うものとしてもよい。
【0064】
以上のように、本実施形態の踏切道監視システム100は、踏切CRの対象領域TAに存在する端末TMの位置を、端末TMとの送受信から検知する検知装置50を備え、検知装置50における検知結果に基づき対象領域TAを監視する。この場合、踏切道監視システム100では、検知装置50により検知された踏切CRの対象領域TAに存在する端末TMの位置情報を利用して対象領域TAを監視する態様とすることで、例えば障害検知において一般的な手法として用いる赤外線センサといった各種センサ等や、列車の在線確認の情報を取得するための設備といったものを必ずしも要しない簡易な構成で、的確に踏切(踏切道)の監視ができる。
【0065】
〔その他〕
この発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【0066】
まず、上記では、対象領域TAを、対象物検知範囲ODと、その周辺領域の方向判定範囲DJ(道路側方向判定エリアDJ1と軌道側方向判定エリアDJ2)との2段階に分けた構成として、監視を行うものとしていたが、監視を行うエリアの設定については、上記一例に限らず種々の態様とすることが考えられ、2段階にしない構成とする、といったことも考えられる。また、監視対象とする範囲についても、種々の変形態様が想定可能であり、例えば、踏切CR周辺の広い範囲まで拡張するといったことも想定される。また、監視領域の形状についても、矩形状あるいは直方体状とする場合に限らず、種々の形状とすることができる。
【0067】
また、上記では、踏切道監視システム100と端末TMとの通信に関して、一態様として、BLEを利用する場合について例示しており、例えばBLEによるFingerprintを利用して、上記のような監視を行うことが想定できるが、通信態様についてはこれに限らず、GPS,GNNS,ローカル5G等、種々のものを採用できる。
【0068】
また、外部IF部15による外部への通信についても、通信先の状況や、距離、迅速性を勘案しつつ、種々の態様を採用することが考えられる。例えば、車上装置に対して各種情報を送信する態様とすることも考えられる。
【0069】
また、親機10と子機20との間での応答についても、種々の態様とすることができ、例えば、親機10を主としてポーリングにより、子機20の状況や取得した各種情報を親機10側で管理できるようにしておく、といったことが想定される。
【0070】
また、上記では、例えばステップS106として、端末TMを所持する者の踏切CRにおける通行態様について判定を行い、歩行者であるか自転車に乗っているか等によって判定基準に差異を設けるものとしているが、ステップS106を省略して、判定基準に差異を設けない態様とすることも考えられる。
【0071】
また、上記態様において、対象物検知範囲ODに滞留した端末TMを検知した場合に、踏切道監視システム100が、接続可能な他の(全ての)端末TMに対して、当該状態を通知するものとしてもよい。
【符号の説明】
【0072】
10…親機、11…送受信部、12…処理部、12A…端末検知部、12B…方向判定部、12C…滞留判定部、12D…検知範囲記憶部、12E…検知範囲設定部、12F…健全性判定部、13…送受信器IF部、14…電源部、15…外部IF部、20…子機、20,20A,20B…子機、21…送受信部、22…処理部、22A…端末検知部、22D…検知範囲記憶部、22E…検知範囲設定部、22F…健全性判定部、23…送受信器IF部、24…電源部、50…検知装置、100…踏切道監視システム、AA1,AA2…矢印、AR1,AR2…矢印、BB1,BB2…矢印、BY…自転車、CA…算出部、CR…踏切、DD…データ、DJ…方向判定範囲、DJ1…道路側方向判定エリア、DJ2…軌道側方向判定エリア、OD…対象物検知範囲、PE…歩行者、RL…線路、Rx…受信器、TA…対象領域、TE…外部端末、TM…端末、V…速度、VE…車(自動車)、a~c…判定値