(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167519
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】印刷装置、媒体発行システム、及び印刷方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/36 20060101AFI20241127BHJP
【FI】
B41J2/36 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083642
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】ニデックインスツルメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194283
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 大勇
(72)【発明者】
【氏名】小口 洋介
【テーマコード(参考)】
2C066
【Fターム(参考)】
2C066AA03
2C066AC01
2C066AD01
2C066CA10
2C066CA13
2C066CD03
2C066CD12
2C066CD19
2C066CF01
2C066CF04
2C066CF07
(57)【要約】
【課題】サーマルヘッド12に供給する電流が不足して色ムラが発生することを抑制する印刷装置を提供する。
【解決手段】
カード発行装置1は、カード4のような媒体に印刷する印刷装置である。印刷部5のサーマルヘッド12は、複数の発熱素子に通電することにより、カード4に対して、複数の画素から構成される一ラインを印刷可能である。制御部10は、このサーマルヘッド12の複数の発熱素子のそれぞれに対して、一ラインのそれぞれの画素の階調値に対するパルスを通電する。この際に、制御部10は、一度に特定数以上の画素に対するパルスが通電される場合、少なくとも一部の画素への通電のタイミングを他の画素に対するタイミングとずらすように制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体に印刷する印刷装置であって、
複数の発熱素子に通電することにより、前記媒体に対して、複数の画素から構成される一ラインを印刷可能なサーマルヘッドと、
前記複数の発熱素子のそれぞれに対して、前記一ラインのそれぞれの画素の階調値に対するパルスを通電する際に、一度に特定数以上の画素に対するパルスが通電される場合、少なくとも一部の画素への通電のタイミングを他の画素に対するタイミングとずらすように制御する制御部とを備える
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記制御部は、
画素が印刷される時間内の前記パルスの通電の長さで画素の濃度を制御し、
前記一部の画素への通電のタイミングをずらす際に、パルスが重ならないように通電のタイミングを遅らせる
ことを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記サーマルヘッドの温度を測定する温度測定部を備え、
前記制御部は、
前記温度測定部により測定された温度に基づいて、前記一部の画素への通電のタイミングをずらす間隔を変更する
ことを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記特定数は、前記サーマルヘッドにかける電流に基づいて設定される
ことを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項5】
媒体に印刷する印刷装置と、前記印刷装置用の印刷データを生成する上位装置とを含む媒体発行システムであって、
前記上位装置は、
前記印刷データを生成する印刷データ生成部を備え、
前記印刷装置は、
複数の発熱素子に通電することにより、前記媒体に対して、複数の画素から構成される一ラインを印刷可能なサーマルヘッドと、
前記複数の発熱素子のそれぞれに対して、前記一ラインのそれぞれの画素の階調値に対するパルスを通電する際に、一度に特定数以上の画素に対するパルスが通電される場合、少なくとも一部の画素への通電のタイミングを他の画素に対するタイミングとずらすように制御する制御部とを備える
ことを特徴とする媒体発行システム。
【請求項6】
媒体を印刷する印刷装置により実行される印刷方法であって、
複数の発熱素子のそれぞれに対して、一ラインのそれぞれの画素の階調値に対するパルスを通電する際に、一度に特定数以上の画素に対するパルスが通電される場合、少なくとも一部の画素への通電のタイミングを他の画素に対するタイミングとずらすように制御し、
前記タイミングに合わせて、前記複数の発熱素子に通電することにより、前記媒体に対して、複数の画素から構成される一ラインを印刷する
ことを特徴とする印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にカード等の媒体に印刷を行う印刷装置、媒体発行システム、及び印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、カード状記録媒体(以下、単に「カード」という。)を発行するカード発行システムが存在する。
このようなカード発行システムは、カードを発行するカード発行装置が、ATM(Automated Teller Machine)等の上位装置と接続されて構成される。カード発行装置は、発行前のカードが積層されて収容される収容部と、カードに印刷を行うプリンタ等の印刷部とを備えることが多い。印刷部は、インクリボンを熱して昇華型又は熱転写型(溶融型)のサーマル印刷を行うことが多い。
【0003】
このような従来のサーマル印刷を行う装置の一例として、特許文献1を参照すると、通電制御部を、一ラインの画素の階調データを記憶するラインメモリと、ラインメモリに記憶された階調データを、画素一ドットの印刷時間全体にわたり均一に分布するパルス列に変換するデータビットセレクターと、サーマルヘッドに通電パルスを送る通電パルスカウンタと、サーマルヘッドとにより構成し、データビットセレクターは、通電パルスをカウントするバイナリカウンタと、順次に画素の階調データが現れるラインメモリデータバスと、バイナリカウンタの出力とデータバス上の階調データより均一なパルス列を生成する回路とから構成される感熱記録装置が記載されている。
この特許文献1の技術では、インクリボンの熱ストレスを軽減でき、リボンのしわ等による色抜けのない鮮明な印刷が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のような従来技術では、一ラインに通電箇所が多い画像エリアでは、サーマルヘッドに投入する電流不足が生じてしまうことがあった。結果的に、この電流不足が色ムラを生じさせてしまっていた。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の問題を解消し、電流不足が色ムラを生じさせず、印刷品質を向上させる印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態に係る印刷装置は、媒体に印刷する印刷装置であって、複数の発熱素子に通電することにより、前記媒体に対して、複数の画素から構成される一ラインを印刷可能なサーマルヘッドと、前記複数の発熱素子のそれぞれに対して、前記一ラインのそれぞれの画素の階調値に対するパルスを通電する際に、一度に特定数以上の画素に対するパルスが通電される場合、少なくとも一部の画素への通電のタイミングを他の画素に対するタイミングとずらすように制御する制御部とを備えることを特徴とする。
このように構成することで、電流不足による色ムラの発生を抑制することができる。
【0008】
本発明の一形態に係る印刷装置は、前記制御部は、画素が印刷される時間内の前記パルスの通電の長さで画素の濃度を制御し、前記一部の画素への通電のタイミングをずらす際に、通電のタイミングをパルスが重ならないように遅らせることを特徴とする。
このように構成することで、電流不足による色ムラの発生を抑制しつつ、処理負担を軽減できる。
【0009】
本発明の一形態に係る印刷装置は、前記サーマルヘッドの温度を測定する温度測定部を備え、前記制御部は、前記温度測定部により測定された温度に基づいて、前記一部の画素への通電のタイミングをずらす間隔を変更することを特徴とする。
このように構成することで、より高精度に、電流不足による色ムラの発生を抑制することができる。
【0010】
本発明の一形態に係る印刷装置は、前記特定数は、前記サーマルヘッドにかける電流に基づいて設定されることを特徴とする。
このように構成することで、より確実に、電流不足による色ムラの発生を抑制することができる。
【0011】
本発明の一形態に係る媒体発行システムは、媒体に印刷する印刷装置と、前記印刷装置用の印刷データを生成する上位装置とを含む媒体発行システムであって、前記上位装置は、前記印刷データを生成する印刷データ生成部を備え、前記印刷装置は、複数の発熱素子に通電することにより、前記媒体に対して、複数の画素から構成される一ラインを印刷可能なサーマルヘッドと、前記複数の発熱素子のそれぞれに対して、前記一ラインのそれぞれの画素の階調値に対するパルスを通電する際に、一度に特定数以上の画素に対するパルスが通電される場合、少なくとも一部の画素への通電のタイミングを他の画素に対するタイミングとずらすように制御する制御部とを備えることを特徴とする。
このように構成することで、電流不足による色ムラの発生を抑制することができる。
【0012】
本発明の一形態に係る印刷方法は、媒体を印刷する印刷装置により実行される印刷方法であって、複数の発熱素子のそれぞれに対して、一ラインのそれぞれの画素の階調値に対するパルスを通電する際に、一度に特定数以上の画素に対するパルスが通電される場合、少なくとも一部の画素への通電のタイミングを他の画素に対するタイミングとずらすように制御し、前記タイミングに合わせて、前記複数の発熱素子に通電することにより、前記媒体に対して、複数の画素から構成される一ラインを印刷することを特徴とする。
このように構成することで、電流不足による色ムラの発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複数の発熱素子のそれぞれに対して、一ラインのそれぞれの画素の階調値に対するパルスを通電する際に、一度に特定数以上の画素に対するパルスが通電される場合、少なくとも一部の画素への通電のタイミングを他の画素に対するタイミングとずらすように制御することで、電流不足による色ムラの発生を抑制し、印刷品質を向上させることが可能な印刷装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態に係るカード発行システムのシステム構成図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るカード発行処理のフローチャートである。
【
図3】
図2に示すカード発行処理における印刷データ、パルスデータ、及びタイミングがずらされたパルスデータの概念図である。
【
図4】
図2に示すカード発行処理で印刷されたカードの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施の形態>
〔カード発行システムXの構成〕
図1を参照して、本発明の実施の形態に係るカード発行システムXの構成について説明する。本実施形態に係るカード発行システムXは、媒体を発行する媒体発行システムの一例である。
具体的には、カード発行システムXは、新規のカード4(媒体)を発行するための装置である。カード発行システムXは、例えば、カード発行機能を備えたATM、キオスク(Kiosk)の端末、交通機関のチケット発行システム、コンビニエンスストア等のポイントカード発行システム、小売店のメンバーカード発行システム、遊技機のカード発行支払システム、入退場管理システム、乗り物のチケット発行システム、駐車場の管理システム等(以下、単に「ATM等」と省略して記載する。)を含む。
本実施形態においては、カード発行システムXは、カード発行装置1及び上位装置2を含んでいる。たとえば、カード発行装置1と上位装置2とは、USB(Universal Serial Bus)等により接続されている。
【0016】
カード発行装置1は、上位装置2からの指示により、カード4に必要な情報を印刷して発行する印字発行プリンタ及びカードリーダ等の印刷装置の一例である。本実施形態において、カード発行装置1と上位装置2との通信は、例えば、接続されているUSBケーブルにて行われる。
【0017】
上位装置2は、本実施形態においては、カード発行装置1を制御し、ATM等の各機能を実現するための情報処理装置である。具体的には、上位装置2は、例えば、ATM等の本体装置であり制御用のPC(Personal Computer)、タブレット端末、携帯電話等の制御演算装置を含む。このため、上位装置2は、カード発行システムXの機能を実現するためのアプリケーションソフトウェア(Application Software。以下、単に「アプリ」と省略して記載する。)を実行する。
本実施形態において、上位装置2は、制御対象のカード発行装置1に接続される。これに加え、上位装置2は、ネットワーク、各種の周辺機器等とも接続可能である。
【0018】
本実施形態に係るカード4は、本実施形態の媒体発行システムに対応した媒体の一例である。カード4は、非接触型ICカード、接触型ICカード、及び/又は磁気ストライプを備えた磁気カード等である。カード4は、例えば、厚さが0.7~0.8mm程度の矩形状の塩化ビニール製である。カード4が磁気カードの場合、例えば、磁気データが記録される磁気ストライプが形成されている。また、カード4が非接触型ICカード及び/又は接触型ICカードの場合、例えば、ICチップが内蔵されている。ここで、カード4には、ICチップと磁気ストライプとが両方設けられていてもよい。これに加え、カード4が非接触型ICカードの場合、近距離無線用のR/W(Read / Write)アンテナが内蔵されていてもよい。
なお、カード4は、厚さが0.18~0.36mm程度のPET(ポリエチレンテレフタレート)カードや、所定の厚さの紙カード等であってもよい。
【0019】
本実施形態に係るカード発行システムXに対応した消耗品3は、例えば、後述する印刷部5用のインクリボンである。このインクリボンは、例えば、カード4にカラーや白黒で印字(印刷)するための昇華型又は溶融型のインクリボンであってもよい。さらに、本実施形態においては、このインクリボンは、規定として、シアン(Cyan、C)、マゼンタ(Magenta、M)、イエロー(Yellow、Y)、ブラック(black, Key plate、K)のフィルムが含まれるカラーのインクリボンであってもよい。このカラーのインクリボンは、これらのCMYKの色以外にも、印刷面を保護するためのオーバーコートのフィルムが含まれていてもよい。加えて、インクリボンとして、特殊な金属粒子等が入った偽造防止色、メタル(金属)色や、蛍光色、ホログラム、熱により膨張する熱膨張フィルム等の特殊なもの(以下、「特色」という。)も含む。ここで、本実施形態においては、以下、オーバーコートや特色についても、「色」と表現することがある。加えて、インクリボンは、ブラックや他の淡色のみのものも含む。加えて、消耗品3のインクリボンは、マルチタイム(複数回使用可能)のもの等も含む。
なお、消耗品3には、非接触型ICカードと同様の通信方式(ISO14443)のRFIDタグ(以下、「無線タグ」という。)が貼り付けられ、消耗品3の種類やIDやシリアル番号等を含む消耗品情報が管理されてもよい。
【0020】
(カード発行装置1のシステム構成)
カード発行装置1は、印刷部5、発行部6、及び共通基板7等のユニットを含んでいる。
【0021】
印刷部5は、駆動部の駆動に応じて、印刷データ300を読み出してカード4への印刷を行うカードプリンタ等である。
本実施形態において、印刷部5は、例えば、サーマルヘッド12を用いた昇華型又は溶融型のダイレクト印刷方式で印刷を行うプリンタである。印刷部5は、例えば、発行部6から排出されたカード4を、搬送路に沿って搬送しながら印刷し、印刷後に排出させる。これにより、印刷部5は、新規のカード4に、インクリボンを用いて、縁なし、両面、白黒又はカラー印刷等で印刷を行い、写真品質の画像や文字をカード4の表面に印刷可能である。
【0022】
具体的には、印刷部5は、例えば、サーマルヘッド12のような印刷ヘッドの回路及び機構を含み、後述する印刷データ300のようなフルーカラービットマップ画像を数百dpi(dots per inch)等で印刷することが可能である。
本実施形態においては、以下、印刷データ300を、600(印刷方向の対角方向)×1200dpi(印刷方向、カード4の搬送方向)で印刷する例について説明する。
ここで、本実施形態においては、印刷方向の対角方向の600画素分を、「一ライン」と称する。すなわち、「一ライン」は、カード4の搬送方向である印刷方向の対角方向に並べられた、600個のドット(画素)であり、サーマルヘッド12で一度に印刷可能な画素数に対応している。
【0023】
発行部6は、発行前の新規のカード4が収容されるホッパーユニット等である。発行部6は、上位装置2からの制御により、収容されたカード4を内部の搬送路に沿って、印刷部5の方へ排出することが可能である。
【0024】
共通基板7は、発行部6及び印刷部5を上位装置2に接続するためのデバイスである。本実施形態において、共通基板7は、例えば、カード発行装置1の基板上に設けられたUSB基板の回路及びインターフェイス等である。具体的には、共通基板7は、上位装置2からの命令(コマンド)の受信、及びコマンドに対する応答等を、USBケーブルを介して行うことが可能である。この上で、共通基板7は、上位装置2から取得した印刷データ300を、印刷部5の記録媒体11に格納することが可能である。
共通基板7は、制御演算部と、USBハブの回路とを含んでおり、このUSBハブを介して発行部6及び印刷部5を接続する。
【0025】
より具体的には、印刷部5は、制御部10、記録媒体11、サーマルヘッド12、及び温度測定部13bを備えている。
【0026】
制御部10は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等を含む制御演算部である。このうち、CPU、MPUと、FPGAを含む他の構成要素とは別々のチップで構成されていてもよい。制御部10は、上位装置2から受信したコマンドに従って、カード発行装置1の各部の制御を行う。具体的には、制御部10は、カード4の搬送、印刷、その他の発行処理、読取/書込処理に対する制御を行うことが可能である。
さらに、制御部10は、制御プログラム、及び暗号データを含む各種データを格納する一時的でない記録媒体11を内蔵又はチップオンモジュール等で含んでいる。
【0027】
記録媒体11は、例えば、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)を含む。このROMは、フラッシュメモリ(Flash Memory)やその他の不揮発性半導体メモリを含む。さらに、ROMは、SSD(Solid State Drive)やeMMC(embedded Multi Media Card)として構成されてもよい。記録媒体11には、印刷部5による印刷のための制御プログラムが格納される。この制御プログラムは、カード発行装置1のファームウェア(Firmware)を含んでいてもよい。ここで、ファームウェアは、更に、FPGAを構成するハードウェア記述言語(Hardware Description Language、HDL)のプログラムのバイナリを含んでいてもよい。
なお、記録媒体11は、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記録媒体、光ディスクやホログラム記録媒体のような光学記録媒体、その他の一時的でない記録媒体を含んでいてもよい。
【0028】
サーマルヘッド12は、消耗品3のインクリボンに含まれるインクを昇華又は溶融させ、カード4に定着させるための発熱素子の集合体であるヒータアレイ等であってもよい。このため、サーマルヘッド12は、一度に複数の画素を印刷可能である。
本実施形態においては、上述のように600×1200dpiで印刷する場合、サーマルヘッド12には一ライン600画素(ドット)分の発熱素子が並べられていてもよい。
【0029】
本実施形態においては、例えば、この一ライン分の発熱素子は、カード4の短辺の長さに対応していてもよく、カード4の搬送方向(印刷方向)の対角方向について一度に印刷を行うことが可能である。
この場合、カード4を長辺方向(印刷方向)に搬送しつつ、サーマルヘッド12で各画素に対応する発熱素子に電流をタイミングに合わせて通電させてインクリボンを熱することで、600画素×1200画素の画像を印刷することが可能となる。
【0030】
本実施形態においては、サーマルヘッド12は、温度測定部13aを含んでいる。
温度測定部13aは、サーマルヘッド12の温度を測定する。温度測定部13aは、例えば、熱電対(サーミスタ)とA/D(Analog to Digital)変換器等を含む温度センサーであってもよい。この測定された温度にて、印刷時の階調値が補正される。
【0031】
温度測定部13bは、印刷部5の筐体内の温度を測定する温度センサーである。この温度測定部13bの構成は、温度測定部13aと同様であってもよい。この温度測定部13bの温度によっても、印刷時の階調値が補正されてもよい。
ここで、温度測定部13a、13bが温度を測定するタイミングは、特定の色毎、ライン毎、印刷データ300の生成毎であっても良いし、所定の時間周期ごとであってもよい。
【0032】
なお、この他にも、印刷部5は、カード4を搬送する駆動部が備えられている。駆動部は、カード発行装置1の内部に形成されている搬送路内でカード4を搬送するステッピングモータ、ローラ、及びエンコーダ等の機構を含む。ここで、本実施形態においては、搬送路におけるカード4の搬送方向において、カード4が発行され排出される側を前方向(印刷方向)とし、カード4が格納される発行部6のある内部側を後ろ方向とする。
【0033】
さらに、印刷部5は、駆動部によるモータ駆動により装置内部へ取り込み、カード4を読み出し(リード)又は書き込み(ライト)可能なカードリーダとしての機能も備えていてもよい。この場合、カード発行装置1は、例えば、ICチップのリード/ライト、磁気ストライプのリード/ライトを行うことが可能であってもよい。
さらに、カード発行装置1は、搬送路内のどの位置にカード4が存在するかを検出するための、光学センサーやスイッチ等のカードセンサーを備えていてもよい。
【0034】
(上位装置2のシステム構成)
具体的に説明すると、上位装置2は、制御部20、記憶部21、及び接続部22等を含んでいる。
【0035】
制御部20は、CPU、MPU、GPU、DSP、ASIC等を含む制御演算部である。
【0036】
記憶部21は、RAM及びROMを含む記録媒体である。このうち、ROMは、フラッシュメモリやその他の不揮発性半導体メモリを含む。さらに、記憶部21は、SSD(Solid State Drive)、HDD(Hard Disk Drive)のような磁気記録媒体、光学記録媒体、光ディスクのようなその他の一時的でない記録媒体である。記憶部21は、上位装置2を制御するための制御プログラムを格納している。この制御プログラムは、OS(Operating System)、決済用のアプリ、カード発行装置1を制御するためのデバイスドライバ(Device Driver)を含む。このうち、デバイスドライバは、カード発行装置1との間で、USB通信を行い、コマンドやデータを送受信するためのDLL(Dynamic Linking Library)のようなプログラムモジュールも含んでいてもよい。
【0037】
接続部22は、外部の機器に接続するためのチップセット(Chipset)、I/O(Input / Output)等の回路及び物理的なインターフェイスである。接続部22は、カード発行装置1に接続するためのUSB等の汎用シリアルインターフェイス、パラレルインターフェイス、デジタルビデオインターフェイス等を含んでいる。さらに、接続部22は、ネットワークと接続するためのネットワークインターフェイスの物理層等も含む。
【0038】
本実施形態においては、接続部22により、カード発行装置1とUSBで接続する例について説明する。加えて、接続部22には、ATM等に備えられるLCD(Liquid Crystal Display)パネルや有機ELパネル等のディスプレイ、タッチパネル及び各種ボタン等の周辺機器が接続されてもよい。
【0039】
〔カード発行システムXの機能構成〕
次に、本発明の実施の形態に係るカード発行システムXにおいて、カード4の印刷と発行を行うための機能的な構成について説明する。
上位装置2の制御部20は、印刷データ生成部200を含む。
記憶部21は、印刷データ300を格納する。
カード発行装置1の印刷部5の記録媒体11は、印刷データ300及びパルスデータ310を格納する。
【0040】
印刷データ生成部200は、カード4の発行の際に印刷される印刷データ300を生成する。本実施形態においては、上述の例のように、600×1200dpiのフルカラーの印刷データ300を生成可能である。
【0041】
加えて、印刷データ生成部200は、例えば、各種決済等を行い、カード発行装置1でカード4を発行させるATM等のアプリを実行する。すなわち、本実施形態において、印刷データ生成部200は、アプリの実行部としても機能する。本実施形態において、このアプリは、決済に加え、ユーザと対話的に応答し、カード4のデザインをして発行を手助けすることも可能である。
【0042】
さらに、印刷データ生成部200は、カード発行装置1を制御するためのデバイスドライバやミドルウェア等も実行する。これにより、印刷データ生成部200は、カード発行装置1との間でコマンド及びこれに付随するデータを送受信する。
また、印刷データ生成部200は、決済やカード4の発行を行わせる際に、各種コマンド及びデータを送信する。加えて、印刷データ生成部200は、カード4に格納された情報の読み出しを行うカード読み出しコマンド、カード4に情報を書き込むカード書き込みコマンド等も送信可能である。
【0043】
印刷部5の制御部10は、上位装置2から送信された印刷データ300を、内蔵する記録媒体11に格納する。この上で、制御部10は、印刷データ300からパルスデータ310を生成し、カード4に印刷させる制御を行うことが可能である。本実施形態においては、制御部10は、例えば、カード4が複数回搬送される度に、色毎に応じた印刷の制御を行う。
【0044】
具体的には、印刷部5の制御部10は、パルスデータ310に基づいて、画素が印刷される時間内のパルスの通電を階調値に合わせて変更することにより、画素の濃度を制御する。すなわち、制御部10は、複数の発熱素子のそれぞれに対して、一ラインのそれぞれの画素の階調値に対するパルスを通電する際の制御を行う。
【0045】
本実施形態においては、制御部10は、パルスデータ310において、一度に特定数以上の画素に対するパルスが通電される場合、少なくとも一部の画素への通電のタイミングを他の画素に対するタイミングとずらすように調整する。
より具体的には、制御部10は、一部の画素への通電のタイミングをずらす際に、パルスが重ならないように通電のタイミングを遅らせることが可能である。
【0046】
また、制御部10は、温度測定部13a、13bにより測定された温度に基づいて、一部の画素への通電のタイミングをずらす間隔を変更することが可能である。制御部10は、この間隔の変更については、後述する印刷データ300の階調値自体を変更することで行ってもよい。
【0047】
ここで、上述のタイミングとずらすか否かの判断を行う際の画素の特定数は、サーマルヘッド12にかける電流に基づいて設定することが可能である。すなわち、特定数は、サーマルヘッド12への電流の供給能力の限界値を、発熱素子一つ当たりに通電される電流値で割った値を基に設定することが可能である。
【0048】
印刷データ300は、印刷部5によりカード4に印刷される画像データである。本実施形態においては、印刷データ300は、上述の印刷部5の解像度(dpi)に応じたカラーのビットマップデータを用いてもよい。このビットマップデータは、例えば、R(Red)、G(Green)、B (Blue)の原色系カラー、又はCMYKの補色系カラーであってもよい。加えて、印刷データ300は、上述の特色に対するデータを含んでいてもよい。
【0049】
より具体的には、印刷データ300は、Windows(登録商標)BMP形式、TIFF形式、PNG形式等のデータであってもよく、圧縮されていなくても、ランレングスやLZW等で圧縮されていてもよい。なお、ビットマップデータは、JPG形式等の非可逆圧縮のビットマップデータであってもよい。加えて、印刷データ300の各色のビット数は、例えば、上述の7ビット(0~127)の階調値に変換されてもよい。このため、CMYKの各色128階調(7ビット)×4の28ビットでフルカラーが再現できる。実際には、後述の温度補正等により、最大濃度の階調値が、7ビットの半分の「63」程度となってもよい。さらに、印刷データ300は、CMYKが7ビットであっても、特色についてのビット数を4ビット程度に抑えて、32ビットカラーのビットマップで表現されていてもよい。
【0050】
または、印刷データ300は、オーバーコートや他の特色についても、128分割のパルスで熱を与えることができるため、32ビット以上のカラーであってもよい。さらに、印刷部5の仕様によっては、各色8ビット(0~255)、16ビット(0~65536)等の階調値のデータであってもよい。加えて、この階調値も、単純なリニアスケールではなく、ログスケールやガンマ値等であってもよい。
【0051】
加えて、印刷データ300は、印刷用の消耗品3の状態に応じて適切に印刷させるための設定値として、印刷送りスピード、ストローブ値、温度補正値、出力階調値等のデータもメタデータ等として含まれていてもよい。
また、印刷データ300は、印刷データ生成部200により接続部22を介して、カード発行装置1に送信され、印刷部5の記録媒体11に格納される。この際、印刷データ300は、印刷部5の記録媒体11のうち、RAM又はフラッシュメモリに格納されてもよい。
【0052】
パルスデータ310は、FPGA等にて直接、サーマルヘッド12の各発熱素子に電流を通電するかしないかを指示するためのデータである。
上述の例では、サーマルヘッド12に一ライン分の熱をかけてインクが転写される。この際に、使用する消耗品3のインクリボンは、上述のように、各色について、一画素分のカード4の搬送中に、128回分のパルスで熱が与えられる。すなわち、各画素について、印刷方向で128分割されて、印刷方向で1200dpiとなるようにパルスが通電される。このパルス数に応じて、カラー印刷やモノクロ印刷での色の濃淡、階調を表現することが可能となる。
【0053】
このため、パルスデータ310は、例えば、一ライン、600画素分の発熱素子のそれぞれについて、通電する又はしないかが、600×128ビット分のビット列のデータとして設定されてもよい。
または、パルスデータ310として、一ライン、600画素分の発熱素子のそれぞれについて、パルスを与えるまでの遅延時間(以下、「タイミング」という。)と、パルスをかける通電の時間の長さ(以下、「ストローブ長」という。)という。)が設定されてもよい。この場合は、各時間は、上述の一画素の128分割された各時間に対応する0~127までの値に設定される。
さらに、パルスデータ310は、このような各ラインのデータが、一ライン~千二百ライン分、設定されていてもよい。具体的には、パルスデータ310は、FPGAの読み込み等のタイミングに合わせて、数ライン以上のデータが設定されてもい。
【0054】
ここで、上位装置2の制御部20は、記憶部21に格納された制御プログラムを実行することで、印刷データ生成部200として機能させられる。
また、上述の上位装置2及びカード発行装置1の各部は、本実施形態のカードリーダ制御方法を実行するハードウェア資源となる。
なお、上述の機能構成部の一部又は任意の組み合わせをICやプログラマブルロジックやFPGA(Field-Programmable Gate Array)等で回路的、ハードウェア的に構成してもよい。
【0055】
〔カード発行システムXによるカード発行処理〕
次に、
図2~
図3により、本発明の実施の形態に係るカード発行システムXのカード発行処理の説明を行う。
本実施形態のカード発行処理では、上位装置2がATM等のアプリを実行し、カード発行装置1を用いて、本実施形態に係る印刷方法により、カード4に印刷して発行する。この際、一ラインのそれぞれの画素の階調値に対するパルスを通電する際に、一度に特定数以上の画素に対するパルスが通電される場合、少なくとも一部の画素への通電のタイミングを他の画素に対するタイミングとずらすように制御する。そして、このタイミングに合わせて、複数の発熱素子に通電することにより、カード4に対して、複数の画素から構成される一ラインを印刷する。
【0056】
本実施形態のカード発行処理は、カード発行装置1においては、印刷部5の制御部10及び各部の制御手段が記録媒体11等に格納された制御プログラムを、上位装置2においては、制御部20が記憶部21に格納された制御プログラムを、各部と協働し、ハードウェア資源を用いて実行する。
以下で、
図2のフローチャートにより、本実施形態のカード発行処理をステップ毎に詳細に説明する。
【0057】
(ステップS101)
まず、上位装置2の印刷データ生成部200が印刷データ生成処理を行う。
ここでは、印刷データ生成部200が、ATM等のカード発行と印刷を行うためのアプリを実行する。このアプリは、ユーザの指示、カード4によるカード決算やポイントカード発行等に伴って実行されてもよい。
次に、アプリにより、タッチパネルやテンキー等のユーザによる操作を受け付けて、カード発行用に印刷データ300の元データとなる画像データを生成する。さらに、アプリにより、図示しないカメラにて、ATM等を操作するユーザの顔写真が撮影され、これが画像データに加えてられてもよい。
【0058】
この元データとなる画像データは、アプリから印刷データ生成部200のDLLへ転送される。
すると、印刷データ生成部200は、上述の例によれば、600×1200dpiで32ビットの印刷データ300を生成する。この際に、元データの画像データは、この印刷データ300の形式に合わせて、階調等が変更されてもよい。
図3(a)は、印刷データ300の例を示している。
【0059】
(ステップS102)
次に、印刷データ生成部200が、印刷部温度受信処理を行う。
印刷データ生成部200が、カード発行装置1へ、印刷部5の温度を送信するよう指示するコマンドを送信する。
【0060】
(ステップS201)
ここで、カード発行装置1の印刷部5の処理について説明する。
印刷部5の制御部10は、印刷部温度送信処理を行う。
印刷部5は、印刷部5の筐体内に載置された温度測定部13bにて温度を確認し、温度値を上位装置2へ返信する。
【0061】
(ステップS103)
次に、印刷データ生成部200が、印刷データ補正処理を行う。
印刷データ生成部200は、デバイスドライバのDLL等により、カード発行装置1から温度値を受信する。この上で、印刷データ生成部200は、印刷部5の筐体内の温度に応じた補正データを600×1200dpiの印刷データ300に適用する。この補正データは、予め設定された、それぞれの温度と補正後の画素の階調値とを対応づけたテーブルであってもよい。すなわち、印刷データ生成部200は、温度に応じた補正後の階調値をテーブルから読みだして適用してもよい。または、予め設定された補正式を用いて、補正データで印刷データ300を補正してもよい。これにより、温度値の濃淡を、上述の各色7ビット(0~127階調)で補正することが可能である。
【0062】
(ステップS104)
次に、印刷データ生成部200が、印刷データ送信処理を行う。
印刷データ生成部200は、デバイスドライバのDLL等により、印刷データ生成部200により選択された印刷データ300を、送信コマンドにてカード発行装置1に送信する。
印刷データ生成部200は、例えば、コマンドに付随するデータとして、印刷データ300をカード発行装置1へUSB等で送信する。
【0063】
(ステップS202)
再び、カード発行装置1の印刷部5の処理について説明する。
ここでは、印刷部5の制御部10が、印刷データ受信処理を行う。
具体的には、共通基板7の制御手段が、上位装置2から印刷データ300を受信する。この上で、共通基板7の制御手段は、印刷データ300をデコード(復号)して、印刷部5へ送信する。これにより、印刷部5の制御部10は、共通基板7から受信した印刷データ300を取得し、記録媒体11へ格納する。
または、共通基板7の制御手段が、DMA(Direct Memory Access)等を用いて、印刷部5の記録媒体11に、印刷データ300を直接格納するようにしてもよい。
【0064】
(ステップS203)
次に、制御部10が、パルスデータ生成処理を行う。
制御部10は、上位装置から転送され、記録媒体11に格納された印刷データ300に基づいて、各色の印刷時等に、パルスデータ310を生成する。
この際に、制御部10は、温度測定部13aにて、サーマルヘッド12の温度を測定して、一ライン単位で各画素の階調値を調整する。具体的には、通電が増えてサーマルヘッド12が暖まると、短いパルスの通電で同様の濃度となるため、制御部10は、サーマルヘッド12の温度が高い場合、特定の調整カーブに応じて、各画素の階調値を下げるように調整する。制御部10は、この調整については、記録媒体11のファームウェアに含まれる、それぞれの温度と補正後の画素の階調値とを対応づけたテーブルや補正式を用いてもよい。
【0065】
この上で、制御部10は、階調調整された一ライン毎に、128階調分のパルスデータ310を作成する。すなわち、600画素×128パルス(ビット)分のパルスデータ310を生成する。制御部10は、このうち、ストローブ長(階調値)分のビットを「1」(通電する)とし、それ以外を「0」(通電しない)としたデータを生成する。
【0066】
図3(b)は、この状態のパルスデータ310-1の例を示している。ここでは概念的に、「1」の箇所を黒で、「0」の箇所を無色で示している。
すなわち、パルスデータ310-1は、一画素あたり128パルス中、ラインLの左側から1画素目は1パルス目~64パルス目が「1」で65パルス目~128パルス目が「0」、2画素目は1パルス目~64パルス目が全て「0」、3画素目は1パルス目~64パルス目が「1」で65パルス目~128パルス目が「0」……のようなデータとなる。すなわち、パルスデータ310では、画素が印刷される時間内のパルスの通電の長さで画素の濃度が制御される。
【0067】
(ステップS204)
次に、制御部10が、特定数以上であるか否かを判定する。
印刷部5は、印刷データ300の一ライン中の階調値を合計して、その値が特定数以上になるか否かを判定する。制御部10は、階調値の合計が特定数以上であった一ラインについて、Yesと判定する。印刷部5は、それ以外、すなわち特定数未満のラインについて、Noと判定する。
【0068】
図3(a)を再び参照して説明する。制御部10は、各色について、一ライン分の階調値を合計する。この例では、ラインLにて示す箇所の階調値の合計は、「576」となる。ここで、例えば、特定数が「256」であった場合、このラインLの一ラインは、特定数以上であると判断され、Yesと判定される。同様に、ラインLの次の一ラインは、階調値の合計が「336」であったため、これも特定数以上であるため、Yesと判定される。一方、その次の一ラインは、階調値の合計が「160」であり、特定数未満であるため、Noと判定される。さらに次の一ラインも、階調値の合計が「128」であり特定数未満であるため、Noと判定される。
【0069】
Yesの場合、制御部10は、処理をステップS205に進める。
Noの場合、制御部10は、処理をステップS206に進める。
【0070】
(ステップS205)
特定数以上であった場合、制御部10が、タイミングずらし処理を行う。
制御部10は、少なくとも一部の画素への通電のタイミングを他の画素に対するタイミングとずらすように制御する。上述の例では、制御部10は、一ラインを128分割した時間毎に、電流の供給能力の限界値を超えないように、パルスの重なりを少なくするように配置する。すなわち、一部の画素への通電のタイミングをずらす際に、通電のタイミングをパルスが重ならないように遅らせる。
【0071】
図3(c)は、このようにして通電のタイミングをずらされたパルスデータ310-2の例を示す。
ここでは、パルスデータ310-2は、1画素目~6画素目までは通電のタイミングが変わらないものの、7画素目以降で「1」のビットのある画素は、1パルス目~64パルス目が「0」で65パルス目~128パルス目が「1」となるようにタイミングが遅延されたデータとなる。この場合でも、一ライン毎に、一画素で通電されるパルスの回数は同じとなるため、濃度は印刷データ300の調整された階調値に応じたものとなる。
【0072】
ここで、上述のように、温度測定部13aにより測定されたサーマルヘッド12の温度に基づいて、一ライン毎に、階調値が調整されている。このため、制御部10は、この調整された階調値に基づいて、一部の画素への通電のタイミングをずらす間隔が変更されることになる。すなわち、サーマルヘッド12の温度が高い場合、通電のタイミングを大きくずらさなくてもよい。
一方、上述のように、7ビット階調値(0~127)の半分である階調値「63」を超えるような階調値の画素についてタイミングをずらす場合は、既に濃度が飽和している可能性があるため、多少の重なりを許容してもよい。または、重ならせずに、次の画素まで、この重なりの箇所を遅らせてもよい。
【0073】
(ステップS206)
一方、元サイズの印刷データ300であった場合、制御部10が、印刷処理を行う。
この処理では、制御部10は、パルスデータ310による印刷を行う。具体的には、制御部10は、パルスデータ310をFPGAに設定し、このパルスデータ310を基に、FPGAからサーマルヘッド12の発熱素子のそれぞれに通電する。
すなわち、上述した例では、制御部10は、印刷部5に600×1200dpiにて印刷されるよう、駆動部及び消耗品3のインクリボンを駆動させ、パルスデータ310に基づいてカード4に印刷する。制御部10は、これを色毎に繰り返して、印刷データ300の全ての色を印刷する。
【0074】
(ステップS207)
ここで、印刷部5及び駆動部が、媒体排出処理を行う。
印刷終了後、印刷部5は、共通基板7を介して、上位装置2へ印刷結果を通知する。
この上で、印刷部5は、駆動部を駆動して、カード4を搬送路内で前方向に搬送させ、排出させる。これにより、ATM等を操作しているユーザは、印刷されたカード4を取得可能となる。
以上により、本発明の実施の形態に係るカード発行処理を終了する。
【0075】
〔本実施形態の主な効果〕
以上のように構成することで、以下のような効果を得ることができる。
従来の印刷方式では、分割したパルスによって階調表現できるが、初めのパルスに通電が偏ってしまっており、一ラインに通電箇所が多い画像エリアに限って、電流不足が生じてしまうことがあった。結果的に、この電流不足が色ムラを生じさせてしまっていた。特許文献1に記載されたような技術では、単に電流の印加を分散させるだけなので、このような現象を改善することはできなかった。
【0076】
これに対して、(1)本発明の実施の形態に係るカード発行システムXのカード発行装置1は、カード4のような媒体に印刷する印刷装置であって、複数の発熱素子に通電することにより、カード4に対して、複数の画素から構成される一ラインを印刷可能なサーマルヘッド12と、複数の発熱素子のそれぞれに対して、一ラインのそれぞれの画素の階調値に対するパルスを通電する際に、一度に特定数以上の画素に対するパルスが通電される場合、少なくとも一部の画素への通電のタイミングを他の画素に対するタイミングとずらすように制御する制御部10とを備えることを特徴とする。
【0077】
このように構成し、制御部10は、各ラインにおいて、所定の数以上の画素に対して各画素の濃淡に対応したパルスを通電する場合、少なくとも一部の画素への通電のタイミングを他の画素に対するタイミングとずらすように制御する。これにより、各画素への通電のタイミングをずらすことで、電流不足による色ムラの発生を抑制することができる。よって、印刷品質を向上させることができる。
また、印刷部5の印刷性能を上げる等の構造的な変更する必要がないため、コストを削減しつつ、高品質の印刷をさせることが可能となる。
【0078】
加えて、一度に特定数未満の画素に対するパルスが通電される場合、全ての画素へのパルスの通電のタイミングを同一とすることが可能である。すなわち、一ラインにおいて、特定数以上の多数の画素に電流が流れて濃色となるため微妙な位置ずれが気にならないような濃度ではタイミングをずらし、それ以外の淡色で微妙な位置ずれが判別できるような濃度ではタイミングを揃えて同一とすることができる。よって、より高精度な印刷をすることが可能となる。
【0079】
図4は、実際に本実施形態に係るカード発行処理で印刷されたカード4の例を示す。左側の「補正なし」(比較例)の各カードは、従来のタイミングをずらしていないものである。右側の「補正あり」(実施例)の各カードは、本実施形態の上述の処理により印刷されたものである。一見して明らかなように、色ムラの発生が抑えられ、高品質な印刷となっていることが分かる。
【0080】
(2)本発明の実施の形態に係るカード発行装置1において、制御部10は、画素が印刷される時間内のパルスの通電の長さで画素の濃度を制御し、一部の画素への通電のタイミングをずらす際に、パルスが重ならないように通電のタイミングを遅らせる(1)に記載の印刷装置であることを特徴とする。
【0081】
このように構成することで、単にパルスの通電のタイミングを遅らせるだけで、電流不足による色ムラが発生することを抑制することができる。すなわち、一部画素について、タイミングをシフトしていくだけで、画素内で、通電箇所の分散を行うことができる。よって、処理が容易となり、制御部10の処理負担も削減できる。そして、一ラインの画素を分割した際のタイミングを遅らせるだけで、高品質に印刷するための印刷スピードの低下を抑えることも可能となる。さらに、一画素内でタイミングを遅らせるだけなので、微小なズレの発生による印刷の変化、ディザリングによるノイズ等も発生しないため、高精細にカード4を印刷することができる。
【0082】
(3)本発明の実施の形態に係るカード発行装置1は、サーマルヘッド12の温度を測定する温度測定部13bを備え、制御部10は、温度測定部13aにより測定された温度に基づいて、一部の画素への通電のタイミングをずらす間隔を変更する(1)又は(2)のいずれかに記載の印刷装置であることを特徴とする。
【0083】
このように構成することで、より高精度に、電流不足による色ムラの発生を抑制することができる。また、サーマルヘッド12の温度が高い場合には、通電のタイミングをずらさなくてもよくなる可能性があるため、処理負担を軽減できる。
さらに、温度測定部13bにより測定された筐体内の温度で印刷データ300の階調値を変化させる構成と組み合わせることで、印刷部5の稼働状況に応じて、より適切で高品質の印刷を行うことができる。
【0084】
(4)本発明の実施の形態に係るカード発行装置1において、特定数は、サーマルヘッド12にかける電流に基づいて設定される(1)乃至(3)のいずれかに記載の印刷装置であることを特徴とする。
【0085】
このように構成することで、より確実に、電流不足による色ムラの発生を抑制することができる。すなわち、一ライン毎に、電流を十分供給できる画素値の合計で、タイミングをずらすか否かを判断可能として、電流不足による色ムラの発生を無くすことができる。
【0086】
〔他の実施の形態〕
なお、上述の実施形態においては、特定数を固定値としている例について記載した。
しかしながら、サーマルヘッド12に供給される電力を蓄積しているキャパシターや電源の追従性、容量等の設定により、動的に特定数を変更するようにしてもよい。
また、特定数が固定値であっても、経年劣化等で電流の供給能力が低下してきた等の場合に、より特定数を減少させるように設定してもよい。
このように構成することで、より確実に色ムラの発生を抑制することができる。加えて、環境による色ムラの発生の抑制にも対応しやすくなる。
【0087】
また、上述の実施形態では、一画素を分割した場合の一パルス分の通電の時間は固定値、例えば、1/128画素分である例について記載した。
しかしながら、一パルスの通電の時間自体を可変としてもよい。これにより、例えば、タイミングをずらす際には、一ライン毎に画素を256分割して、この1~128分の時間で、特定数までの画素についてのパルス分の通電を行ってもよい。すなわち、残りの129~256分の時間では、残りの画素についてパルス分の通電を行ってもよい。
このように構成することで、上述のパルスを、タイミングをずらすのと同様に、色ムラを解消することが可能である。さらに、単純に画素の分割数を増やすだけなので、処理負担を軽くすることができる。
なお、256分割のように分割数を増やす際には、駆動部のカード4の搬送やインクリボンの搬送も、同様に128分割時の半分等としてもよい。すなわち、印刷方向のdpiを引き上げてもよい。カード4の搬送速度を半分にした場合、上述の例では、600×2400dpi相当となる。
【0088】
また、上述の実施形態では、
図3(c)では、一ライン毎に、特定数より多い画素を一方からカウントして、特定数より多くなった残りの画素について、一律にすぐ後にタイミングをずらすように記載した。
しかしながら、一画素~n画素おきに、タイミングをずらすようにしてもよい。
このように構成することで、印刷時の筋等を完全に目視できなくさせることができる。
【0089】
また、上述の実施形態では、処理をカード発行装置1の印刷部5で行う例について説明した。
しかしながら、上位装置2にて、印刷データ300から、上述の実施形態のようにパルスのタイミングをずらすようなパルスデータ310の生成までを行うように構成することも可能である。
このように構成することで、印刷部5の処理を軽減させ、印刷速度に影響を与えないようにすることも可能である。
【0090】
また、上述の実施形態では、印刷データ300は、ビットマップデータである例について記載した。
しかしながら、印刷データ300は、PDF(Portable Document Format)、PS(Post Script)、その他のベクトルデータを含むデータであってもよい。そして、ベクトルデータから、直接、パルスデータ310を生成するようにしてもよい。
このように構成することで、様々な構成に対応可能となる。
【0091】
上述の実施形態においては、主にインクリボンを用いた昇華型又は溶融型のプリンタでカード4に印刷する例について記載した。
しかしながら、感熱紙を用いたサーマルプリンタ、インクジェットプリンタ、ドットマトリクスプリンタ、複合ノズルの溶融型の3Dプリンタ等、他の印刷方式のプリンタであっても、各発熱素子に電流を通電するタイプのヘッドを使用する印刷方式に用いることが可能である。たとえば、インクジェットプリンタであっても、インクの導管内に熱で気泡を生じさせるタイプのプリンタに用いることで、色ムラを低減できる。
さらに、単票印刷のプリンタでなくロール紙のプリンタでも、カラーでなくても、白黒のプリンタであってもよい。また、これら印刷の方式により、上述の濃度制御の方式も変更することが可能である。
このように構成することで、様々な構成に対応したカード4で色ムラを低減した印刷が可能となる。
【0092】
上述の実施形態においては、上位装置2が、ATM等の本体である例について説明した。
しかしながら、上位装置2は、カード4のデザインを行うPCやスマートフォン等であってもよい。この場合、PCやスマートフォン等に、カード4のデザインを行うアプリ等がインストールされ、印刷部5と有線又は無線で接続されてもよい。
【0093】
加えて、上述の実施の形態においては、印刷データ300が上位装置2から、直接接続されたカード発行装置1へ送信される例について記載した。
しかしながら、印刷データ300を共通鍵や公開鍵等で暗号化等してから、ネットワーク経由でカード発行装置1へ送信するような構成も可能である。
このように構成することで、様々な構成に対応可能となる。また、暗号化することでセキュリティを向上させられる。
【0094】
また、カード発行装置1の印刷部5は、カード発行装置1に搭載されず、別途、USBや無線等で接続されていてもよい。または、カード発行装置1は、上位装置2と筐体内で接続されず、PCやスマートフォン等の上位装置2とUSBや無線等で接続されてもよい。
さらに、カード発行装置1は、上位装置2と接続されない、いわゆる「スタンドアロン」で印刷可能であってもよい。この場合、スタンドアロンのカード発行装置1は、上位装置2、他の端末、フラッシュメモリカード等と一時的に接続して、上述の印刷データ300を取得することが可能であってもよい。
【0095】
上述の実施形態においては、カード4を媒体の例として印刷を行う例について記載した。
しかしながら、カード4以外の、例えば、駐車券、入場券、列車や飛行機等の切符、その他のチケット、ラベルプリンタで印刷されたラベル、レシート、RFID(Radio Frequency IDentifier)等の導電性インクの印刷装置、その他のコードの印刷が必要な媒体について、同様の構成で媒体発行をすることが可能である。
このように構成することで、様々な媒体に対応可能となる。
【0096】
また、上述の実施形態においては、主にカード発行装置1のカード4の発行に関する構成について記載した。
しかしながら、カード発行装置1は、カード4に格納された情報を読み取るヘッド等を備えたカードリーダの機能を含んでいてもよい。このヘッド等は、例えば、磁気ヘッド、暗号化磁気ヘッド、IC接点、電磁誘導アンテナ等を含む。磁気ヘッドの場合、カード4が接触され摺動されることで、カード4上に設けられた磁気ストライプに記録された磁気情報を読み出し、書き込むことが可能である。IC接点、電磁誘導アンテナ等では、カード4の接点と接触、又は電磁誘導等で、カード4に内蔵されたICに格納された情報を読み出し、書き込むことが可能である。
【0097】
なお、上記実施の形態の構成及び動作は例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実行することができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0098】
1 カード発行装置
2 上位装置
3 消耗品
4 カード
5 印刷部
6 発行部
7 共通基板
10、20 制御部
11 記録媒体
12 サーマルヘッド
13a、13b 温度測定部
21 記憶部
22 接続部
200 印刷データ生成部
300 印刷データ
310 パルスデータ
L ライン
X カード発行システム