(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167522
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】潜熱回収式熱交換器
(51)【国際特許分類】
F24H 9/00 20220101AFI20241127BHJP
【FI】
F24H9/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083654
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】000115854
【氏名又は名称】リンナイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】田中 章夫
【テーマコード(参考)】
3L036
【Fターム(参考)】
3L036AA12
(57)【要約】
【課題】燃焼排ガスが後方から前方に流れる内部の熱交換室11を有する筐体1と、熱交換室11に配置した複数の吸熱パイプ2とを備える潜熱回収式熱交換器であって、筐体1の前板部1bに排気筒3が取り付けられ、熱交換室11の底面111の前端部に、下方に窪むドレン受け部112と排水口113とが設けられ、更に、ドレン受け部112を上方から覆うカバー板6と、カバー板6上のドレン水をドレン受け部112に落下させる落水口61とが設けられるものにおいて、カバー板6の下に回り込んだ燃焼排ガスが落水口61から上方に流れ出て、落水口61から落下するドレン水を巻き上げることを抑制できるようにする。
【解決手段】カバー板6の落水口61の口縁となる部分に、下方にのびる曲げ縁部62を設ける。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼排ガスが後方から前方に流れる内部の熱交換室を有する筐体と、熱交換室に配置した複数の吸熱パイプとを備え、燃焼排ガスが保有する潜熱を回収して吸熱パイプに流れる水を加熱するようにした潜熱回収式熱交換器であって、
筐体の前板部に、前板部に開設した排気口を介して燃焼排ガスが流入する排気筒が取り付けられ、
熱交換室の底面前端部に、下方に窪むドレン受け部と、ドレン受け部内のドレン水を排水する排水口とが設けられ、更に、ドレン受け部を上方から覆うカバー板が設けられると共に、カバー板上のドレン水をドレン受け部に落下させる落水口が設けられるものにおいて、
カバー板の落水口の口縁となる部分に、下方にのびる曲げ縁部が設けられることを特徴とする潜熱回収式熱交換器。
【請求項2】
前記カバー板は前下がりに傾斜すると共に、カバー板の前縁と前記筐体の前記前板部との間に隙間が空けられて、この隙間で前記落水口が構成され、カバー板の落水口の口縁となる部分であるカバー板の前縁に前記曲げ縁部が設けられることを特徴とする請求項1記載の潜熱回収式熱交換器。
【請求項3】
前記カバー板に、前後方向に直交する横方向一方への下り勾配が付けられて、カバー板上のドレン水がカバー板の横方向一方の端からも前記ドレン受け部に落下するようにしたことを特徴とする請求項2記載の潜熱回収式熱交換器。
【請求項4】
請求項3記載の潜熱回収式熱交換器であって、前記カバー板は、前記ドレン受け部を上方から覆う前部が後部よりも下方に位置し、後部と前部との間に段差部を有する段付き形状に形成され、カバー板の前部に、前下がりの傾斜と、横方向一方への傾斜とが付けられると共に、カバー板の前部の前縁に前記曲げ縁部が設けられるものにおいて、カバー板の前部の横方向他方の端部に、当該端部の横方向外方からカバー板の前部上に燃焼排ガスが流れることを邪魔する起立した邪魔板部が設けられることを特徴とする潜熱回収式熱交換器。
【請求項5】
前記落水口は、前記カバー板に開設した穴で構成され、カバー板の落水口の口縁となる部分である穴の周縁に前記曲げ縁部が設けられることを特徴とする請求項1記載の潜熱回収式熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼排ガスが後方から前方に流れる内部の熱交換室を有する筐体と、熱交換室に配置した複数の吸熱パイプとを備え、燃焼排ガスが保有する潜熱を回収して吸熱パイプに流れる水を加熱するようにした潜熱回収式熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
元来、この種の潜熱回収式熱交換器では、一般的に、筐体の前板部に、前板部に開設した排気口を介して燃焼排ガスが流入する排気筒を取り付け、熱交換室の底面前端部に、下方に窪むドレン受け部と、ドレン受け部内のドレン水を排水する排水口とを設けている。ドレン水は、燃焼排ガス中の水分が吸熱パイプの外面で凝縮して発生する強酸性の水である。ドレン水の殆どは、ドレン受け部から排水口を介して排水されるが、ドレン受け部内のドレン水の一部が排気口に向かう燃焼排ガスにより巻き上げられて、排気筒から外部に飛散し、排気筒の外部周辺を汚染することがある。
【0003】
そこで、従来、潜熱回収式熱交換器として、特許文献1により、ドレン受け部を上方から覆うカバー板を設けたものが知られている。これによれば、カバー板に邪魔されて燃焼排ガスがドレン受け部内のドレン水に勢いよく当たらなくなり、ドレン水の巻き上げを抑制できる。また、このものでは、カバー板上のドレン水をドレン受け部に落下させる、カバー板に開設した穴から成る落水口を設けて、カバー板上にドレン水が溜まらないようにしている。
【0004】
然し、このものでは、以下の不具合を生ずることが判明した。即ち、落水口が設けられていると、カバー板の下に回り込んだ燃焼排ガスが落水口から上方に流れ出て、落水口内に上向きの燃焼排ガスの流れが発生する。そして、落水口から落下するドレン水の一部が上向きの燃焼排ガスの流れにより巻き上げられ、排気筒の外部に飛散してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、排気筒の外部へのドレン水の飛散をより効果的に抑制できるようにした潜熱回収式熱交換器を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、燃焼排ガスが後方から前方に流れる内部の熱交換室を有する筐体と、熱交換室に配置した複数の吸熱パイプとを備え、燃焼排ガスが保有する潜熱を回収して吸熱パイプに流れる水を加熱するようにした潜熱回収式熱交換器であって、筐体の前板部に、前板部に開設した排気口を介して燃焼排ガスが流入する排気筒が取り付けられ、熱交換室の底面前端部に、下方に窪むドレン受け部と、ドレン受け部内のドレン水を排水する排水口とが設けられ、更に、ドレン受け部を上方から覆うカバー板が設けられると共に、カバー板上のドレン水をドレン受け部に落下させる落水口が設けられるものにおいて、カバー板の落水口の口縁となる部分に、下方にのびる曲げ縁部が設けられることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、カバー板の下に回り込んだ燃焼排ガスが落水口から上方に流れ出ることを抑制する障害物として落水口の口縁部分に設けられた曲げ縁部が機能する。そのため、落水口内に生ずる上向きの燃焼排ガスの流れが弱められ、落水口から落下するドレン水の一部が上向きの燃焼排ガスの流れにより巻き上げられることを抑制できる。従って、排気筒の外部へのドレン水の飛散を効果的に抑制することができる。
【0009】
また、本発明においては、カバー板を前下がりに傾斜させると共に、カバー板の前縁と筐体の前板部との間に隙間を空けて、この隙間で落水口を構成することができ、或いは、カバー板に開設した穴で落水口を構成することができる。上記隙間で落水口を構成する場合は、カバー板の落水口の口縁となる部分であるカバー板の前縁に曲げ縁部を設ければよく、上記穴で落水口を構成する場合は、カバー板の落水口の口縁となる部分である穴の周縁に曲げ縁部を設ければよい。
【0010】
また、上記隙間で落水口を構成する場合は、カバー板に、前後方向に直交する横方向一方への下り勾配を付けて、カバー板上のドレン水がカバー板の横方向一方の端からもドレン受け部に落下するように構成することが望ましい。これによれば、ドレン水の発生量が落水口からのドレン水の落下量を上回っても、カバー板上にドレン水が滞留することをカバー板の横方向一方の端からのドレン水の落下で効果的に防止することができる。
【0011】
更に、本発明において、カバー板を、ドレン受け部を上方から覆う前部が後部よりも下方に位置し、後部と前部との間に段差部を有する段付き形状に形成し、カバー板の前部に、前下がりの傾斜と、横方向一方への傾斜とを付けると共に、カバー板の前部の前縁に曲げ縁部を設ける場合は、カバー板の前部の横方向他方の端部に、当該端部の横方向外方からカバー板の前部上に燃焼排ガスが流れることを邪魔する起立した邪魔板部を設けることが望ましい。これによれば、カバー板の前部上に横方向外方から流れる燃焼排ガスによりカバー板の段差部を流下するドレン水が巻き上げられることを抑制して、排気筒の外部へのドレン水の飛散を一層効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態の潜熱回収式熱交換器の斜視図。
【
図4】実施形態の潜熱回収式熱交換器に設けられるカバー板の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1、
図2を参照して、本発明の実施形態の潜熱回収式熱交換器Aは、燃焼排ガスが後方から前方(
図2の右方から左方)に流れる内部の熱交換室11を有する筐体1と、熱交換室11に配置した複数の吸熱パイプ2とを備えている。そして、燃焼排ガスが保有する潜熱を回収して吸熱パイプ2に流れる水を加熱するようにしている。
【0014】
筐体1の後板部1aには、図外の顕熱回収式熱交換器を通過した燃焼排ガスが流入する流入口12が開設され、筐体1の前板部1bには、熱交換室11を通過した燃焼排ガスが流出する排気口13が開設されている。また、前板部1bには、排気口13を介して燃焼排ガスが流入する排気筒3が取付けられている。排気筒3内には、上下3個の整流部材31,32,33が装着されており、上の整流部材31と中間の整流部材32との間及び中間の整流部材32と下の整流部材33との間に上下2段の排気流路3a,3bが画成されている。そして、各排気流路3a,3bの断面積を狭めることで燃焼排ガスの流速を速くし、排気筒3の出口付近で燃焼排ガスが滞留しないようにしている。
【0015】
尚、本実施形態では、排気筒3の取付けのために、排気口13に合致する開口41を有する取付板4を設けている。そして、前板部1bの前面にパッキン42を挟んだ状態で取付板4を重ねると共に、取付板4の前面にパッキン43を挟んだ状態で排気筒3の後端のフランジ部34を重ね、この状態でフランジ部34をネジ44でパッキン43、取付板4及びパッキン42と共に前板部1bに共締めしている。また、取付板4の開口41の上縁近傍部分をネジ45でパッキン42と共に前板部1bに締結し、更に、フランジ部34の上部をネジ46でパッキン43と共に取付板4に締結している。
【0016】
熱交換室11には、前後方向に直交する横方向に蛇行しながら前後方向にのびる吸熱パイプ2が上下6本配置されている。上下に隣接する吸熱パイプ2,2は、蛇行ピッチの半部だけ前後方向に位置をずらしている。筐体1の横方向一側の側板1cの外面には、6本の吸熱パイプ2の上流端と下流端とが夫々接続される流入ヘッダ21と流出ヘッダ22とが取付けられている。そして、流入ヘッダ21から流出ヘッダ22に向けて各吸熱パイプ2を流れる水が、各吸熱パイプ2の外面での燃焼排ガス中の水分の凝縮による潜熱の回収で加熱されるようにしている。
【0017】
筐体1の底板で構成される熱交換室11の底面111は前下がりに傾斜している。底面111の前端部には、吸熱パイプ2の外面から滴下するドレン水が底面111の傾斜によって流れ込む、下方に窪むドレン受け部112が設けられている。
図3を参照して、ドレン受け部112は、排気口13にほぼ合致する横方向部分が最も低くなっており、この部分に、ドレン受け部112内のドレン水を排水する排水口113が設けられている。排水口113から排水されたドレン水は図外の中和器に導かれる。
【0018】
熱交換室11の前端部上部には、燃焼排ガスの流れが下方を向くように案内する案内板5が設けられ、燃焼排ガスがドレン水の飛沫を含んだまま排気筒3に直進することを防止できるようにしている。また、熱交換室11の前端部下部には、排気口13に近いドレン受け部112の部分を上方から覆うカバー板6が設けられている。これによれば、ドレン受け部112内のドレン水に燃焼排ガスが勢いよく当たらなくなり、ドレン水が燃焼排ガスにより巻き上げられることを抑制できる。更に、ドレン受け部112の後方に隣接する熱交換室11の底面111の前部111aの前下がりの傾斜角度は、底面111の前部111aよりも後方部分の前下がりの傾斜角度よりも急角度に設定されている。これにより、熱交換室11の底面111と吸熱パイプ2との間の距離が前部111aで広くなって、そこを流れる燃焼排ガスの流速が減速され、ドレン水の飛散防止に寄与する。
【0019】
また、カバー板6上のドレン水をドレン受け部112に落下させる落水口61が設けられている。本実施形態では、
図2に明示されているように、カバー板6を前下がりに傾斜させると共に、カバー板6の前縁と筐体1の前板部1bとの間に隙間を空けて、この隙間で落水口61を構成している。但し、落水口61を設けると、カバー板6の下に回り込んだ燃焼排ガスが落水口61から上方に流れ出て、落水口61内に上向きの燃焼排ガスの流れが発生する。そして、落水口61から落下するドレン水の一部が上向きの燃焼排ガスの流れにより巻き上げられて、排気筒3の外部に飛散することがある。
【0020】
そこで、本実施形態では、
図4にも示されているように、カバー板6の落水口61の口縁となる部分であるカバー板6の前縁に下方にのびる曲げ縁部62を設けている。これによれば、カバー板6の下に回り込んだ燃焼排ガスが落水口61から上方に流れ出ることを抑制する障害物として曲げ縁部62が機能する。そのため、落水口61内に生ずる上向きの燃焼排ガスの流れが弱められ、落水口61から落下するドレン水の一部が上向きの燃焼排ガスの流れにより巻き上げられることを抑制できる。従って、排気筒3の外部へのドレン水の飛散を効果的に抑制することができる。
【0021】
更に、本実施形態では、カバー板6に、横方向一方への下り勾配を付けて、カバー板6上のドレン水が、落水口61だけでなく、カバー板6の横方向一方の端からもドレン受け部112に落下するようにしている。そのため、ドレン水の発生量が落水口61からのドレン水の落下量を上回っても、カバー板6上にドレン水が滞留することをカバー板6の横方向一方の端からのドレン水の落下で効果的に防止することができる。
【0022】
尚、
図4も参照して、本実施形態のカバー板6は、ドレン受け部112を上方から覆う前部6aが熱交換室11の底面111の前部111aに重なる後部6bよりも下方に位置し、後部6bと前部6aとの間に段差部6cを有する段付き形状に形成されている。そして、前部6aに、前下がりの傾斜と、横方向一方への下り勾配とを付け、前部6aの前縁に上記曲げ縁部62を設けている。また、後部6bから後方に舌片状に突出する固定部6dを設けて、固定部6dを熱交換室11の底面111にスポット溶接している。
【0023】
このようなカバー板6では、前部6a上に横方向外方から燃焼排ガスが流れると、段差部6cを流下するドレン水の一部が燃焼排ガスの流れにより巻き上げられる可能性がある。そこで、本実施形態では、カバー板6の前部6aの横方向他方(下り勾配を付けた方向とは反対方向)の端部に、当該端部の横方向外方からカバー板6の前部6a上に燃焼排ガスが流れることを邪魔する起立した邪魔板部63を設けている。これによれば、カバー板6の段差部6cを流下するドレン水の巻き上げを抑制して、排気筒3の外部へのドレン水の飛散を一層効果的に抑制することができる。
【0024】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、上記実施形態では、落水口61がカバー板6の前縁と筐体1の前板部1bとの間の隙間で構成されているが、カバー板6の前縁と筐体1の前板部1bとの間に隙間を設けずに、カバー板6に開設した穴で落水口61を構成することも可能である。この場合は、カバー板6の落水口61の口縁となる部分である穴の周縁にバーリング加工による曲げ縁部62を設ければよい。また、上記実施形態では、カバー板6が排気口13に近いドレン受け部112の部分を覆うように設けられているが、ドレン受け部112をより広範囲に亘って覆うようにカバー板を設けることも可能である。
【符号の説明】
【0025】
A…潜熱回収式熱交換器、1…筐体、1b…前板部、11…熱交換室、111…底面、112…ドレン受け部、113…排水口、13…排気口、2…吸熱パイプ、3…排気筒、6…カバー板、6a…前部、6b…後部、6c…段差部、61…落水口、62…曲げ縁部、63…邪魔板部。