(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167523
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】分散型電力増幅器
(51)【国際特許分類】
H03F 1/02 20060101AFI20241127BHJP
H03F 3/24 20060101ALI20241127BHJP
H03F 3/68 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
H03F1/02 188
H03F3/24
H03F3/68 220
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083656
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】元井 桂一
【テーマコード(参考)】
5J500
【Fターム(参考)】
5J500AA04
5J500AA21
5J500AA41
5J500AA63
5J500AA64
5J500AA65
5J500AC18
5J500AC36
5J500AC62
5J500AC75
5J500AF15
5J500AH09
5J500AK29
5J500AK41
5J500AS14
5J500AT01
5J500AT05
5J500CK06
5J500CK07
5J500LV08
(57)【要約】
【課題】広い周波数帯域において高効率で動作する分散型電力増幅器を提供する。
【解決手段】分散型電力増幅器100は、入力信号を2つの信号に分配する2分配器130と、2つの信号の一方を増幅するメインアンプ110と、2つの信号の他方を(N-1)個の信号に分配する(N-1)分配器131と、(N-1)個の信号をそれぞれ増幅する(N-1)個の補助アンプと、互いに直列に接続された(N-1)段の伝送線路とを備える。メインアンプ110の出力端が、1段目の伝送線路の入力側の端部に接続される。(N-1)個の補助アンプの出力端が、それぞれ(N-1)段の伝送線路の出力側の端部に接続される。(N-1)個の補助アンプは、メインアンプ110の最大出力電力よりも大きい最大出力電圧を持つ補助アンプを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号を2つの信号に分配する2分配器と、
前記2つの信号の一方を増幅するメインアンプと、
前記2つの信号の他方を(N-1)個(Nは3以上の自然数)の信号に分配する(N-1)分配器と、
前記(N-1)個の信号をそれぞれ増幅する(N-1)個の補助アンプと、
互いに異なる特性インピーダンスを有し、互いに直列に接続された(N-1)段の伝送線路と
を備え、
前記メインアンプの出力端が、前記(N-1)段の伝送線路の1段目の伝送線路の入力側の端部に接続され、
前記(N-1)個の補助アンプの出力端が、それぞれ前記(N-1)段の伝送線路の出力側の端部に接続され、
前記入力信号の電力レベルが小さいときは前記メインアンプのみが増幅動作を行い、前記メインアンプの出力信号の電力レベルが所定の電力レベルに達したのちに前記(N-1)個の補助アンプが一斉に動作を開始するように構成され、
前記(N-1)個の補助アンプは、前記メインアンプの最大出力電力よりも大きい最大出力電力を持つ補助アンプを含む
分散型電力増幅器。
【請求項2】
前記メインアンプの最大出力電力よりも大きい最大出力電力を持つ補助アンプの前記出力端が、2段目以降のいずれかの伝送線路の前記出力側の端部に接続される
請求項1に記載の分散型電力増幅器。
【請求項3】
前記メインアンプの最大出力電力よりも大きい最大出力電力を持つ補助アンプの前記出力端が、(N-1)段目の伝送線路の前記出力側の端部に接続される
請求項1または2に記載の分散型電力増幅器。
【請求項4】
前記メインアンプの動作領域がA級またはAB級で動作するように、前記メインアンプのバイアス電圧が設定され、
前記(N-1)個の補助アンプがC級で動作するように、前記(N-1)個の補助アンプのバイアス電圧が設定される
請求項1に記載の分散型電力増幅器。
【請求項5】
前記(N-1)段の伝送線路の各々の電気長が略90度である
請求項1に記載の分散型電力増幅器。
【請求項6】
前記(N-1)段の伝送線路からなる合成回路がチェビシェフ型の広帯域インピーダンス変換回路を形成するように、前記(N-1)段の伝送線路の特性インピーダンスが設定される
請求項1に記載の分散型電力増幅器。
【請求項7】
インピーダンス変換機能を持つフィルタ回路をさらに備え、
前記フィルタ回路の入力端が、(N-1)段目の伝送線路の前記出力側の端部に接続され、
前記フィルタ回路の入力インピーダンスが、前記(N-1)段目の伝送線路の前記出力側の端部における出力インピーダンスと共役整合する
請求項1に記載の分散型電力増幅器。
【請求項8】
(N-1)段目の伝送線路の前記出力側の端部に接続されるアンテナをさらに備え、
前記アンテナの入力インピーダンスが、前記(N-1)段目の伝送線路の前記出力側の端部における出力インピーダンスと共役整合する
請求項1に記載の分散型電力増幅器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は分散型電力増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、第五世代移動通信システム(5G)に代表される無線通信の高度化が進んでいる。無線装置の高機能化(例:ビームフォーミング)や通信速度の向上のため、周波数帯域がより確保しやすいsub-6GHz帯およびミリ波帯などの高周波帯の利用が進んでいる。
【0003】
一方で高周波帯の直進性の高さにより、多くの無線装置(RU: Radio Unit)が設置される必要性がある。設置場所を確保するため、無線装置の設置性の向上が要求される。そのため、無線装置の小型化が求められる。しかし、電力増幅器(PA:パワーアンプ)は、無線装置の消費電力の大きな割合を占め、放熱フィンなどの機構の大型化を招いている。電力変換効率(以下、効率とする)の高効率化は、無線装置の小型化を実現するための重要な技術課題である。また、カーボンニュートラルの実現に向けた環境負荷低減が強く求められており、このような観点からも低消費電力につながる高効率化は重要な技術課題である。無線通信に用いられる直交周波数分割多重(OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)信号は、高いピーク対平均電力比(PAPR:Peak to Average Power Ratio)を持つ。このような信号は低電力の信号の比率が大きいため、バックオフ動作時の高効率化が求められる。また、周波数帯域がより確保しやすいsub-6GHz帯およびミリ波帯などの高周波帯での周波数の広帯域な利用の需要に伴い、広帯域化も併せて要求される。
【0004】
高いバックオフ効率を実現する手法として、例えば、特許文献1は、多段ドハティーPAを開示している。メインアンプが飽和動作を開始する前後の入力電力レベル(入力レベルとも言われる)において、補助アンプは入力レベルに応じて段階的に動作する。
【0005】
非特許文献1は、広帯域に高効率化を実現する手法を開示している。複数の補助アンプを有する3段ドハティー電力増幅器では、λ/4長のインピーダンス線路が、メインアンプ部の出力と第1の補助アンプの出力をつなぐ。λは、所定の周波数帯域の中心周波数を表す。第1の補助アンプは、メインアンプの出力が飽和する前後の電力レベルから動作を開始する。インピーダンス線路の特性インピーダンス値は、出力電力バックオフ値と、各ドレインバイアス電圧との調整により好適な値に設定される。第2の補助アンプの飽和動作により負荷変調される出力インピーダンスは、一般的に適用される50Ω程度に達するように設定される。周波数特性を制限するインピーダンス変換回路が不要となり、3段ドハティーPAは、広帯域動作を実現する。
【0006】
非特許文献2には、分散型高効率PA(Distributed Efficient PA)が開示されている。分散型高効率PAは、メインアンプ、(N-1)段(Nは3以上の自然数)の補助アンプ、および(N-1)段の広帯域インピーダンス変換回路を備える。メインアンプは、出力電力レベルが低いとき単体で動作する。補助アンプは、メインアンプの出力が飽和する前後の入力レベルから、一斉に動作を開始する。非特許文献2に開示されている分散型高効率PAにおいて各アンプでの出力レベルを適切に設定することで、特許文献1や非特許文献1に記載されたドハティーPAで生じるメインアンプの負荷変調を抑制できる。負荷変調とは、低出力時と高出力時との間におけるメインアンプ、及び、補助アンプの負荷の各変動を表す。分散型高効率PAは、動作電力の全範囲で、効率および出力電力等に関するメインアンプの広帯域な最適インピーダンス整合を実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Xuan Anh Nghiem, Junqing Guan and Renato Negra, “Design of a Broadband Three-Way Sequential Doherty Power Amplifier for Modern Wireless Communications”, IEEE MTT-S Int. Microw. Symp. Dig., 2014, pp.1-3.
【非特許文献2】Paul Saad et. al., “A 1.8-3.8-GHz Power Amplifier With 40% Efficiency at 8-dB Power Back-Off”, IEEE Transactions on Microwave Theory and Technology, vol.66, no.11, pp.4870 - 4882, Sep. 2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示されたドハティーPAでは、メインアンプと補助アンプ群とが、単体のλ/4長の伝送線路にて接続される。したがって、合成回路の周波数特性が狭帯域となり、広帯域化に対応することが難しい。
【0010】
非特許文献1に開示された3段ドハティーPAでは、周波数特性を制限するインピーダンス変換回路が不要である。インピーダンス変換回路は、関連技術において2段目の補助アンプと出力負荷とを接続する回路である。しかし、メインアンプの低出力動作時と高出力動作時との間で負荷変調が生じ、両方の動作時での負荷に対するインピーダンス整合を動作周波数帯域で勘案する必要がある。したがって、良好な特性を保つ周波数帯域が制限される。
【0011】
非特許文献2に開示された分散型効率PAでは、各アンプ素子(増幅素子)のサイズが同一である。電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)などの増幅素子は、サイズの増加に伴い、寄生容量も増大する。そのため整合可能な周波数帯域が制限される。そのため、特に高出力PAを構成する際には高効率を維持できる周波数特性が狭帯域となり、広帯域特性が損なわれる。具体的には、メインアンプの最適インピーダンスが低くなり、動作電力レベルにわたり一定である所望インピーダンスとの変換比が大きくなり、高効率整合が広帯域に実現しにくくなる。そして、高いバックオフ効率を広帯域で実現することが難しくなる。また、補助アンプ群の動作後の各補助アンプに対する所望インピーダンス値と、その変動範囲が大きい。特に、所望インピーダンス値と低い最適インピーダンスとの変換比が大きく、広帯域で最適な高効率整合を実現することが難しい。
【0012】
本開示は、このような問題点を解決するためになされたものであり、広い周波数帯域において高効率で動作する分散型電力増幅器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示の一態様にかかる分散型電力増幅器は、
入力信号を2つの信号に分配する2分配器と、
前記2つの信号の一方を増幅するメインアンプと、
前記2つの信号の他方を(N-1)個(Nは3以上の自然数)の信号に分配する(N-1)分配器と、
前記(N-1)個の信号をそれぞれ増幅する(N-1)個の補助アンプと、
互いに異なる特性インピーダンスを有し、互いに直列に接続された(N-1)段の伝送線路と
を備え、
前記メインアンプの出力端が、前記(N-1)段の伝送線路の1段目の伝送線路の入力側の端部に接続され、
前記(N-1)個の補助アンプの出力端が、それぞれ前記(N-1)段の伝送線路の出力側の端部に接続され、
前記入力信号の電力レベルが小さいときは前記メインアンプのみが増幅動作を行い、前記メインアンプの出力信号の電力レベルが所定の電力レベルに達したのちに前記(N-1)個の補助アンプが一斉に動作を開始するように構成され、
前記(N-1)個の補助アンプは、前記メインアンプの最大出力電力よりも大きい最大出力電力を持つ補助アンプを含む。
【発明の効果】
【0014】
本開示は、広い周波数帯域において高効率で動作する分散型電力増幅器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態1にかかる分散型電力増幅器の構成図である。
【
図2】実施の形態1にかかる分散型電力増幅器の構成図である。
【
図3A】実施の形態1にかかる分散型電力増幅器の低出力動作時の寄生容量を無視した場合の簡易的な等価回路の構成図である。
【
図3B】実施の形態1にかかる分散型電力増幅器の低出力動作時の寄生容量を加味した場合の等価回路の構成図である。
【
図3C】実施の形態1にかかる分散型電力増幅器の高出力動作時の寄生容量を加味した場合の等価回路の構成図である。
【
図4】実施の形態1にかかる分散型電力増幅器を構成する電力増幅素子の最適負荷インピーダンスのシミュレーション結果を示すスミスチャート図である。
【
図5】実施の形態1にかかる分散型電力増幅器を構成するメインアンプおよび補助アンプの負荷変調特性と、各電力増幅素子の最適負荷インピーダンスの実部の理論解析値とを示す図である。
【
図6】実施の形態1にかかる分散型電力増幅器を構成するメインアンプおよび補助アンプの負荷変調特性のシミュレーション結果を示す図である。
【
図7】実施の形態1にかかる分散型電力増幅器のドレイン効率特性のシミュレーション結果を示す図である。
【
図8】その他の実施の形態にかかる分散型電力増幅器の構成図である。
【
図9】その他の実施の形態にかかる分散型電力増幅器の構成図である。
【
図10A】その他の実施の形態にかかる分散型電力増幅器の構成図である。
【
図10B】その他の実施の形態にかかる分散型電力増幅器の構成図である。
【
図11】その他の実施の形態にかかる分散型電力増幅器の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、実施の形態について説明する。なお、図面は簡略的なものであるから、この図面の記載を根拠として実施の形態の技術的範囲を狭く解釈してはならない。また、同一の要素には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクション又は実施の形態に分割して説明する。ただし、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部又は全部の変形例、応用例、詳細説明、補足説明等の関係にある。また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む。)に言及する場合、特に明示した場合及び原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。
【0018】
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(動作ステップ等も含む)は、特に明示した場合及び原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではない。同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合及び原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似又は類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数等(個数、数値、量、範囲等を含む)についても同様である。
【0019】
実施形態にかかる電力増幅器に想到するまでの検討経緯
高いバックオフ効率を実現する手法として、例えば、特許文献1に記載のドハティー増幅器がある。メインアンプのみが単体動作する低電力動作時と、メインアンプの飽和動作前後より補助アンプ群がメインアンプとあわせて動作する高電力動作時との間で、負荷変調が生じる。したがって、低電力動作時と高電力動作時とでメインアンプに対して高効率を実現する最適インピーダンス値が異なる。そのため、低電力動作時と高電力動作時との両者を勘案した適当なインピーダンス値が、選択される必要がある。また、メインアンプと補助アンプ群とが、単体のλ/4長の伝送線路にて接続されるため、合成回路として周波数特性が狭帯域となり、広帯域化への対応が困難である。この特性は一般的なドハティー増幅器においても共通な課題である。
【0020】
これらの課題に対し、例えば、非特許文献2は、広帯域で高いバックオフ効率を実現する手法として、「分散型(Distributed)」と称した高効率増幅器(以下、分散型電力増幅器とする)を開示している。分散型電力増幅器は、1つのメインアンプ、補助アンプ群、およびN段インピーダンス回路を備える。1つのメインアンプは、低電力時には単体動作する。補助アンプ群は、メインアンプの飽和動作前後より、メインアンプとあわせて動作する(N-1)個(N:3以上の自然数)の補助アンプを含む。N段インピーダンス変換回路は、各アンプ出力の合成回路を兼ねる。なお、非特許文献2に開示の分散型増幅器においては、メインアンプおよび補助アンプ群ともに、各増幅素子のサイズおよび出力電力が同一と想定されている。つまり、メインアンプおよび補助アンプとして、同一の電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)が用いられている。
【0021】
分散型電力増幅器では、前述のような一般的なドハティー増幅器と異なり、メインアンプ部の低電力動作時と高出力動作時での負荷変調を抑制する。したがって、メインアンプに対して高効率を実現する最適インピーダンス値が一定値を保ち、全動作電力範囲で共通のインピーダンス整合により高効率を維持することが可能である。また、各動作周波数で一意にインピーダンスが定まるため、広帯域におけるメインアンプの高効率なインピーダンス整合が簡便化される。加えて、N段インピーダンス変換回路には、帯域内等にリップル特性を有するチェビシェフ型(Chebyshev)型などの各種の広帯域インピーダンス変換回路が適用されることができる。これにより、所望帯域でのインピーダンス整合が容易化される。
【0022】
非特許文献2にかかる分散型電力増幅器のように各アンプの増幅素子のサイズ(出力電力の大きさに対応する)が同一である場合、増幅素子のサイズの増加に伴い、寄生容量Cpも増大する。寄生容量Cpは、例えば、ドレインソース間容量Cdsを含む。ボンディング接続の場合、寄生容量Cpは、基板側のボンディングエリアのパッド部の寄生容量Cpadを含んでもよい。寄生容量Cpの増大は、特に高出力電力増幅器を構成する際に顕著となる。メインアンプの最適インピーダンスが低くなり、動作電力レベル全体で一定である所望インピーダンスとメインアンプの最適インピーダンスとの変換比が大きくなり、広帯域における高効率整合が実現しにくくなる。そのため、高効率を維持できる周波数帯域が狭くなり、広帯域特性が損なわれる。
【0023】
また、補助アンプ群での負荷変調により、負荷は、動作開始後から飽和動作を行うまでの間で、理想的には無限大から有限値Z(A,i)(i=1~(N-1)))へ単調減少する。補助アンプの初段のZ(A,1)から最終段のZ(A,(N-1))で、Z(A,1)>Z(A,2)>・・・>Z(A,(N-1))という関係が成立する。したがって、初段のZ(A,1)は、特に高いインピーダンス条件を満たすことが要求される。そのため、寄生容量Cpが大きい場合、出力インピーダンスが低下し、最適インピーダンスZ(A,1)とのインピーダンス変換比が大きくなり、高効率を維持できる周波数帯域が狭くなり、広帯域特性が損なわれる。
【0024】
そこで、そのような問題を解決することが可能な、以下の実施の形態にかかる分散型電力増幅器が見いだされた。
【0025】
<実施形態1>
本発明の実施例を、
図1を用いて説明する。実施形態1にかかるN段の分散型電力増幅器100(Nは3以上の自然数)は、メインアンプ110と補助アンプ群120を備える。補助アンプ群120は、(N-1)段に配置された補助アンプを含んでいる。メインアンプは、補助アンプ群120の上段に配置されている。換言すると、下方向は、メインアンプ110から補助アンプ群120を見る方向を表している。メインアンプ110および(N-1)段の補助アンプは、互いに並列に接続されている。メインアンプ110には、AB~B級動作程度に用いられるバイアス電圧が印加される。補助アンプ群120に含まれる補助アンプは、メインアンプ110が飽和動作する前後の入力レベルで一斉に動作を開始する。補助アンプ群120には、B~C級動作程度のバイアス電圧が印加される。補助アンプ群120を構成する(N-1)個の補助アンプは、補助アンプ123を含む。補助アンプ123は、メインアンプ110の最大出力電力aに比して、より大きな最大出力電力bを有する。補助アンプ123は、上から2段目以降、一例として最下段(最終段とも言われる)に配置される。分散型電力増幅器100では、メインアンプの最大出力電力と補助アンプ123の最大出力電力とが異なっている。分散型電力増幅器100は、非対称型の分散型電力増幅器である。
【0026】
2分配器130は、入力信号を2つの信号に分配する。メインアンプ110は、2つの信号の一方を増幅する。(N-1)分配器131は、2つの信号の他方を(N-1)個の信号に分配する。(N-1)個の補助アンプは、(N-1)個の信号をそれぞれ増幅する。入力信号の電力レベルが小さいときはメインアンプ110のみが増幅動作を行い、メインアンプの出力信号の電力レベルが所定の電力レベルに達したのちに(N-1)個の補助アンプが一斉に動作を開始するように構成される。補助アンプ群120は、メインアンプ110の最大出力電力と略同一の最大出力電圧を持つ補助アンプ(例:補助アンプ121~122)と、メインアンプの最大出力電力よりも大きい最大出力電圧を持つ補助アンプ(例:補助アンプ123)とを含んでいてもよい。
【0027】
2分配器130にて、分散型電力増幅器100への入力信号の1/2がメインアンプ110に分配される。2分配器130および(N-1)分配器131にて、分散型電力増幅器100への入力信号の1/[2(N-1)]が各補助アンプに分配される。なお、各アンプでの出力側の位相差に応じて各アンプの入力側に遅延回路などが配置される必要があるが、図示は省略されている。各図において、遅延回路などの回路は、メインアンプ110および補助アンプ121~123の内部に含まれているものとする。
【0028】
メインアンプ110がA級またはAB級で動作するように、メインアンプ110のバイアス電圧が設定される。(N-1)個の補助アンプがC級で動作するように、(N-1)個の補助アンプのバイアス電圧が設定される。
【0029】
メインアンプ110および補助アンプ群120の(N-1)個の各補助アンプからの出力信号は、合成回路140にて合成され、図示しないインピーダンス変換回路に出力されてもよい。合成回路140は、例として、互いに直列に接続された(N-1)段のλ/4長の伝送線路を含む。λは、所定の周波数帯域の中心周波数を表す。つまり、各伝送線路の電気長は略90度であってよい。メインアンプ110の出力端が1段目の伝送線路141の入力側の端部に接続される。(N-1)個の補助アンプの出力端は、それぞれ(N-1)段の伝送線路の出力側の端部に接続される。出力側の端部は、入力側の端部と反対側の端部である。ここで、合成回路140に含まれるλ/4長の伝送線路141~145のうちi段目の伝送線路の特性インピーダンスおよび電気長が、それぞれ、Z
i、θ
i(i=0~(N-1))と表される。特性インピーダンスおよび電気長の決定には、帯域内に等リップル特性を有するチェビシェフ型などの各種の広帯域インピーダンス変換回路に関する処理が適用され得る。これにより、所望帯域でのインピーダンス整合が容易化される。例えば、合成回路140がチェビシェフ型の広帯域インピーダンス変換回路を形成するように、(N-1)段の伝送線路の特性インピーダンスが設定されてもよい。具体的なZ
iの値は、合成回路140の種別に依り定まる。段数の増加に伴って解析的な導出が煩雑になるが、各種のEDA(Electronic Design Automation)ツールなどを利用することで、数値解が容易に得られる。一例として、3段チェビシェフ型におけるR
LからZ
0=R
Mへのインピーダンス変換について、R
L、R
Mはそれぞれ、式(1)および式(2)と置く。kは、任意の最大反射係数を表す。分散型電力増幅器100の出力インピーダンスは、R
Lで表される。メインアンプの出力インピーダンスは、R
Mで表される。出力バックオフ点は、OBO(Output back off)[dB]で表される。最大出力電力は、P
maxで表される。ドレインバイアス電圧は、V
ddで表される。knee電圧、つまり線形-飽和動作の境界近傍のドレイン電圧は、V
kで表される。
【数1】
【数2】
【0030】
この場合、Z
1についての方程式(3)、(4)が成立する(Ref.:Collin, Robert E,“Foundations for Microwave Engineering”, 2nd ed,pp.359, IEEE, 2001.)。
【数3】
【数4】
【0031】
式(4)は、Z
1についての4次方程式式である。Z
1は、式(3)より算出したθ
Zを用いて式(4)を解くことにより定められる。そして、Z
2およびZ
3は、式(5)および式(6)により算出される。
【数5】
【数6】
なお、一般的には、R
M>Z
1>Z
2>Z
3>(・・・>Z
(N-1))>R
Lが成立する。チェビシェフ型とは異なる最大平坦型などの他種の伝送特性を有する合成回路140が用いられてもよい。高調波整合による高効率整合の設計条件が考慮され、好適な合成回路140が適宜選択して用いられてもよい。
【0032】
具体的な実施形態の構成例として、
図2には、
図1においてN=4とし、最大出力電力bの補助アンプ124が最終段に配置された場合の分散型電力増幅器100の構成の一例が示されている。分散型電力増幅器100における各アンプの出力電力分布は非対称である。分散型電力増幅器100は、1段のメインアンプと4段の補助アンプとを備える。以下、本構成に基づく実施の形態1の効能が、シミュレーション解析の結果を交えて示される。
図3Aは、分散型電力増幅器100におけるメインアンプのみが動作する低電力レベルでの簡易的な等価回路図を示す。メインアンプ電流源150と合成回路140(伝送線路141~144の4段構成)とが負荷160(R
L)に接続される。
【0033】
しかしながら、
図3Bに示されるように、実際の増幅素子では、メインアンプ電流源150が、寄生容量170(C
p1)を伴う。寄生容量170は、例えば、FETのドレインソース間容量Cdsである。寄生容量170は、基本的にメインアンプ110の最大出力電力の増大とともに大きくなる。合成回路140の前段の出力整合回路(OMN:Output Matching Network)180は、所望インピーダンスZ
0(例:Z
m)に対するインピーダンス整合を行う。寄生容量170により出力インピーダンスが低下し、メインアンプの最適インピーダンスZ
opt1が低下する。理想的には、所望インピーダンスZ
0は、動作電力レベルの全体で一定である。メインアンプ110の出力インピーダンスと所望インピーダンスZ
0との変換比が増加するため、高効率整合を広帯域で実現することが難しくなる。
【0034】
図3Cは、高出力動作時の分散型電力増幅器100の等価回路の構成図である。
図3Bと比べて、補助アンプ電流源151~154、出力整合回路181~184、および寄生容量171~174をさらに含んでいる。寄生容量171~173はC
p1と、寄生容量174はC
p2と置く。C
p2は、C
p1よりも大きい。
【0035】
図4は、最適負荷インピーダンスの具体的なシミュレーション解析の結果をスミスチャート上に示す。各増幅素子の動作条件はB級動作程度に設定された。FET素子である各増幅素子の最大出力電圧は、10W程度または30W程度に設定された。信号の周波数は、3.3GHzまたは5.0GHzに設定された。実施形態1での所望インピーダンスの一例であるZ
mが、あわせて示されている。前述のように、最大出力電力が高い30W級のFET素子では、最適負荷インピーダンスが低い。したがって、30W級の素子では、Z
mに対するインピーダンス変換比が大きい。一方、10W級素子では、インピーダンス変換比が低く抑えられる。そのため、実施の形態1において、補助アンプ群120の最終段、つまり、補助アンプ群の4段目の補助アンプ124として、最大出力電力bの補助アンプが用いられる。そして、メインアンプ110および補助アンプ121~123として、最大出力電力aの低出力素子が用いられる。本構成により、寄生容量170が、寄生容量174(C
p2)より低くおさえられる。したがって、インピーダンス変換比が低減され、メインアンプ110に対する高効率整合が広帯域に実現しやすくなる。
【0036】
図5は、5段構成の分散型電力増幅器100における負荷変調特性の理論解析の結果を示す。また、
図5は、各アンプ(増幅素子とも言われる)の最適負荷インピーダンスの実部の理論解析値を示す。グラフは、Z
mおよびZ
Aux1~Z
Aux4の総出力電力Pout_sumに対する依存性を示している。Z
mは、メインアンプ110に対する所望インピーダンスを表す。Z
Aux1~Z
Aux4は、補助アンプ121~124に対する所望インピーダンスを表す。Pout_sumは、分散型電力増幅器100による総出力電力を表す。
【0037】
理想的には、補助アンプ121~124が動作を開始してからその動作が飽和するまでの間に、ZAux1~ZAux4は、無限大から有限値へ単調減少する。補助アンプ初段のZAux1から最終段のZAux(N-1)において、ZAux1>ZAux2>ZAux3>ZAux4という関係が成立する。したがって、ZAux1は、特に高いインピーダンスとなることが要求される。一方、後段における所望インピーダンスは低インピーダンスとなる。寄生容量が大きく、最適負荷インピーダンスの低い30W級素子の高出力アンプが後段(例:最終段)に配置されることで、上述したインピーダンス変換比が低減される。例えば、補助アンプ群の最終段の補助アンプ124に対する高効率整合が広帯域に実現しやすい。
【0038】
図6は、メインアンプ110と4段の補助アンプで構成された分散型電力増幅器100における負荷変調特性のシミュレーション結果を示す。上図は、初段の補助アンプ121に30W級素子(例:GaN FET)のモデルが適用され、その他のアンプに10W級素子のモデルが適用された場合のシミュレーション結果を示す。下図は、最終段(4段目)の補助アンプ124に30W級素子(例:GaN FET)のモデルが適用され、その他アンプに10W級素子のモデルが適用された場合のシミュレーション結果を示す。上下方向に延びる2つの点線の間の領域が、負荷変調領域に対応していると考えてもよい。
【0039】
上図を参照すると、初段の補助アンプ121の所望インピーダンスZAux1は数百Ω以上である。したがって、初段に30W級素子を配置した場合、インピーダンス変換比が高いため、高効率整合が困難になり、効率が低下する。両側矢印は、所望インピーダンスZAux1の変動量を示している。
【0040】
下図を参照すると、最終段の補助アンプ124の所望インピーダンスZAux4は、上述した所望インピーダンスZAux1に比べ、非常に低い。したがって、最適負荷インピーダンスの小さい30W級素子が最終段に配置された場合、高効率整合が容易であり、効率が向上する。両側矢印は、所望インピーダンスZAux4の変動量を示している。
【0041】
図7は、メインアンプ110と4段の補助アンプで構成する非対称型の分散型電力増幅器100におけるドレイン効率のシミュレーション結果を示す。太線の曲線C1は、初段の補助アンプ121に30W級素子(例:FET)のモデルが適用され、それ以外の補助アンプに10W級素子のモデルが適用された場合のシミュレーション結果を示す。細線の曲線C2は、最終段の補助アンプ124に30W級素子(例:FET)のモデルが適用され、それ以外のアンプに10W級素子のモデルが適用された場合のシミュレーション結果を示す。動作周波数は、3.3GHzから5.0GHzまで0.1GHzステップで変更された。上述の通り、最終段に高出力アンプ(30W級)を配置した方が、所望インピーダンスの変換比が抑えられる。この場合、補助アンプの動作開始後のバックオフピークから飽和領域の全体にわたって、高効率特性が得られる。
【0042】
<他の実施形態>
図1および2では、出力電力の大きな補助アンプが最終段に配置されたが、
図8に示されるように、最大出力電力の大きい補助アンプが2段目に配置されてもよい。あるいは、
図9に示されるように、最大出力電力の大きい補助アンプが2段目と4段目の2か所に配置されてもよい。このように、所望出力電力やデバイス特性などに応じて、最大出力電力の大きい補助アンプが、2段目以降の任意の段に配置されてもよい。
【0043】
つまり、
図1等では、メインアンプ110の最大出力電力よりも大きい最大出力電圧を持つ補助アンプの出力端は、N段目の伝送線路の出力側の端部に接続されていた。しかしながら、メインアンプ110の最大出力電力よりも大きい最大出力電圧を持つ補助アンプの出力端は、2段目以降のいずれかの伝送線路の出力側の端部に接続されていればよい。
【0044】
また、
図10Aに示されるように、後段の回路との接続に応じて、合成回路140と類似の多段のインピーダンス変換回路(ITN:Impedance Transforming Network(s))190が設けられてもよい。インピーダンス変換回路190は、インピーダンスR
Lを50Ωなどの基準インピーダンスに再度変換するが、回路規模の増大を招く。一方、不要輻射を抑制するため、分散型電力増幅器100の後段にフィルタ回路191が設けられる場合がある。フィルタ回路191の出力側には、負荷161が接続されている。この場合、フィルタ回路191の入出力整合を、50Ωなどの基準インピーダンスに対して行うことを避け、R
Lに対して行うことができる。
図10Bに示されるように、フィルタリング機能を持ち、かつ、インピーダンス変換機能を持つフィルタ回路191が、分散型電力増幅器100とともに設計をされることで、回路規模を低減できる。フィルタ回路191の入力端は、(N-1)段目の伝送線路の出力側の端部に接続される。フィルタ回路191の入力インピーダンスは、出力インピーダンスR
Lと共役整合する。
【0045】
また、フィルタ回路191が不要な場合には、
図12に示されるように、アンテナ192の入力インピーダンスが出力インピーダンスR
Lと共役整合するように設計されてもよい。これにより、回路規模が低減する。そして、インピーダンス変換回路190が不要であるため、伝送損失が低減する。
【0046】
<理論解析の補記>
出力バックオフ点(OBO)[dB]、最大有能出力電力Pmax、ドレインバイアス電圧Vdd、knee電圧Vk等の諸元と、上述した式(1)および(2)から、各負荷が定められる。各負荷は、RLおよびRMを含む。RLは、分散型電力増幅器の出力インピーダンスを表す。RMは、メインアンプの出力インピーダンスを表す。所望の周波数帯にてRLをRMに変換するインピーダンス変換回路は、補助アンプの段数に相当する(N-1)段の多段インピーダンス変換合成回路である。インピーダンス変換回路の種別(例:チェビシェフ型)が適宜選択され、各段の特性インピーダンスZi(i=1~N-1)が定められる。
【0047】
メインアンプの動作時(V
IN<V
th)の出力電流I
mは、式(7)で表される。補助アンプ群の動作時(V
IN≧V
th)の、出力電流I
mは、式(8)で表される。
【数7】
【数8】
【0048】
メインアンプの出力が飽和した後、多段合成回路の段間の各ノード点に接続した補助アンプが動作することで電流I
Aiが印加される。このとき、全ノード点の飽和時の電圧振幅が一定値に収束し、I
Aiを流す各電流源が無い低出力動作時にR
M=const.が保たれる。上記の条件、つまり負荷変調をしないという条件から、式(9)が成立する。式(9)から、最大電流量I
Ai_maxが算出される。
【数9】
【0049】
各補助アンプの所要電流比は、式(10)で表される。そして、各I
Aiの入力電圧V
INに対する依存性は、式(11)で表される。
【数10】
【数11】
【0050】
各ノード点電圧V
iの入力電圧V
IN依存性は、式(12)および式(13)で表される。式(13)のiは、2以上N以下の整数である。補助アンプ動作後(V
IN≧V
th)は、2ノード前のノード点電圧に対する漸化式から、逐次V
iが求められる。[a]は、ガウス記号であり、aを超えない最大の整数を表す。
【数12】
【数13】
V
in<V
thでの各V
iの総乗は、式(14)で表される。式(15)のように定義すると、6段の補助アンプの各V
iの総乗は、式(16)~式(20)で表される。
【数14】
【数15】
【数16】
【数17】
【数18】
【数19】
【数20】
【0051】
したがって、補助アンプが6段である場合の負荷変調特性Z
mおよびZ
Aiは、式(21)から、式(22)~式(28)のように表される。補助アンプが4段である場合の
図5と同様に、補助アンプが後段になるに従ってZ
Aiは低下する。
【数21】
【数22】
【数23】
【数24】
【数25】
【数26】
【数27】
【数28】
【0052】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0053】
100 分散型電力増幅器
110 メインアンプ
120 補助アンプ群
121~124 補助アンプ
130 2分配器
131 (N-1)分配器
132 4分配器
140 合成回路
141~146 伝送線路
150 メインアンプ電流源
151~154 補助アンプ電流源
160~161 負荷
170~174 寄生容量
180~184 出力整合回路
190 インピーダンス変換回路(ITN)
191 フィルタ回路
192 アンテナ