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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167526
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】積層体、および太陽電池
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20241127BHJP
   H01L 31/049 20140101ALI20241127BHJP
   H10K 30/50 20230101ALN20241127BHJP
   H10K 30/88 20230101ALN20241127BHJP
【FI】
B32B9/00 A
H01L31/04 562
H10K30/50
H10K30/88
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083659
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】植田 渉太郎
(72)【発明者】
【氏名】山王堂 尚輝
(72)【発明者】
【氏名】森藤 亨
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠
【テーマコード(参考)】
4F100
5F251
【Fターム(参考)】
4F100AA01C
4F100AA17B
4F100AA20B
4F100AB09B
4F100AB09C
4F100AB10C
4F100AB11B
4F100AB12C
4F100AB13C
4F100AB16C
4F100AB18C
4F100AB21C
4F100AK01C
4F100AK25C
4F100AK42A
4F100AK51C
4F100AK52C
4F100AT00A
4F100AT00C
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100EA02
4F100EH46
4F100EH66
4F100EJ54
4F100GB41
4F100JA13C
4F100JB09C
4F100JN01
4F100YY00B
4F100YY00C
5F251AA11
5F251AA20
5F251JA05
(57)【要約】
【課題】ガスバリア層にマグネシウム、ケイ素、および酸素を含む積層体において、水存在環境下でもMgOの結晶化の進行が抑制された積層体と、それを用いた太陽電池を提供すること。
【解決手段】基材の少なくとも片側にA層とB層を有する積層体であって、前記A層がマグネシウム、ケイ素、および酸素を含む、積層体。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも片側にA層とB層を有する積層体であって、前記A層がマグネシウム、ケイ素、および酸素を含む、積層体。
【請求項2】
前記A層の厚み方向における平均組成について、マグネシウム原子とケイ素原子の原子濃度の比率Mg/(Mg+Si)が、0.30~0.80 atm%である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記A層は、陽電子ビーム法により測定される平均寿命が0.935ns以下である、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記A層は、X線光電子分光により測定される酸素原子(O1s)のピークの半値幅が3.25eV以下である請求項1または2に記載の積層体。
【請求項5】
前記B層が、高分子膜である、請求項1に記載の積層体。
【請求項6】
前記B層が、(i)かつ(ii)を満たす請求項5に記載の積層体。
(i)質量密度0.7g/cm以上1.75g/cm以下
(ii)厚みが300nm以上7,000nm以下
【請求項7】
前記B層がポリウレタン化合物、ポリシラザン化合物、ポリシロキサン化合物、アクリレート、メタクリレート、アルコキシドと水溶性高分子の混合物、およびアルコキシドの重縮合物と水溶性高分子の混合物、より選ばれる1種以上を含む、請求項5または6に記載の積層体。
【請求項8】
前記B層が、無機膜である、請求項1に記載の積層体。
【請求項9】
前記B層が、 (iii)かつ(iV)である請求項8に記載の積層体。
(iii)質量密度2.1g/cm以上7.5g/cm以下
(iv)厚みが10nm以上500nm以下
【請求項10】
前記B層が、スズ元素、インジウム元素、亜鉛元素、アルミニウム元素、ニッケル元素、クロム元素、およびチタン元素、より選ばれる1種以上を含む、請求項8または9に記載の積層体。
【請求項11】
全光線透過率が85%以上である、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項12】
可視光領域(380-780nm)における平均反射率が15%以下である、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項13】
請求項1または2に記載の積層体を保護部材として用いた、太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高いガスバリア性と耐久性が必要とされる積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽電池、電子ペーパー、有機ELディスプレイなど電子素子の部材として用いられるガスバリア性フィルムは、水蒸気透過率5.0×10-2g/m/day以下の高いガスバリア性とフレキシブル性が求められている。高分子フィルム基材の表面に真空蒸着法やスパッタリング法などの物理気相成長法(PVD法)を利用して、無機物、または、無機酸化物などの蒸着層を形成してなるガスバリア性フィルムは、基材の柔軟性と蒸着膜の緻密性が高い特性から高い柔軟性とガスバリア性を実現している。
【0003】
より高性能なガスバリア性と柔軟性を満たす方法の1つとして、ZnOとSiOを主成分とするターゲットを用いてスパッタリングすることで、ZnO-SiO系膜をフィルム基材上に形成したガスバリア性フィルム(特許文献1)や、MgOとSiOを主成分とするターゲットを用いて蒸着することで、MgO-SiO系のような複合酸化物の非晶性単一膜をフィルム基材上に形成したガスバリア性フィルム(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-147710号公報
【特許文献2】特開2021-169183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2のようにMgO-SiOの複合酸化物を形成する積層体の高いガスバリア性は、アモルファス構造が形成されることによる非常に高い緻密性から実現している。そのため、ガスバリア性フィルムの使用方法、例えば、高温かつ水や水蒸気が多量に存在する環境下に長時間晒すこと等によっては、MgO結晶化による膜質変化等から生じる微細なクラック等の積層体の構造変化により、ガス透過経路が変化する場合があることがわかった。しかし上記構成(特許文献2)では、使用方法や使用環境によっては、前述のガス透過経路変化を完全には制御するに至らなかった。
【0006】
本発明は、かかる従来技術の背景を鑑み、ガスバリア層にマグネシウム、ケイ素、および酸素を含む積層体において、水存在環境下でもMgOの結晶化の進行が抑制された積層体と、それを用いた太陽電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用する。すなわち、本発明の好ましい一態様は以下のとおりである。
(1)基材の少なくとも片側にA層とB層を有する積層体であって、前記A層がマグネシウム、ケイ素、および酸素を含む、積層体。
(2)前記A層の厚み方向における平均組成について、マグネシウム原子とケイ素原子の原子濃度の比率Mg/(Mg+Si)が、0.30~0.80 atm%である、(1)に記載の積層体。
(3)前記A層は、陽電子ビーム法により測定される平均寿命が0.935ns以下である、(1)または(2)に記載の積層体。
(4)前記A層は、X線光電子分光により測定される酸素原子(O1s)のピークの半値幅が3.25eV以下である(1)~(3)のいずれか記載の積層体。
(5)前記B層が、高分子膜である、(1)~(4)のいずれかに記載の積層体。
(6)前記B層が、(i)かつ(ii)を満たす(5)に記載の積層体。
(i)質量密度0.7g/cm以上1.75g/cm以下
(ii)厚みが300nm以上7,000nm以下
(7)前記B層がポリウレタン化合物、ポリシラザン化合物、ポリシロキサン化合物、アクリレート、メタクリレート、アルコキシドと水溶性高分子の混合物、およびアルコキシドの重縮合物と水溶性高分子の混合物、より選ばれる1種以上を含む、(1)~(6)のいずれかに記載の積層体。
(8)前記B層が、無機膜である、(1)~(4)のいずれかに記載の積層体。
(9)前記B層が、 (iii)かつ(iV)である(8)に記載の積層体。
(iii)質量密度2.1g/cm以上7.5g/cm以下
(iv)厚みが10nm以上500nm以下
(10)前記B層が、スズ元素、インジウム元素、亜鉛元素、アルミニウム元素、ニッケル元素、クロム元素、およびチタン元素、より選ばれる1種以上を含む、(1)~(9)のいずれかに記載の積層体。
(11)全光線透過率が85%以上である、(1)~(10)のいずれかに記載の積層体。
(12)可視光領域(380-780nm)における平均反射率が15%以下である、(1)~(11)のいずれかに記載の積層体。
(13)(1)~(12)のいずれかに記載の積層体を保護部材として用いた、太陽電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ガスバリア層にマグネシウム、ケイ素、および酸素を含む積層体において、水存在環境下でもMgOの結晶化の進行が抑制された積層体と、それを用いた太陽電池を提供することができる。また、これにより、高いガスバリア性と高い耐久性を両立した積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の積層体の一例を示した断面図である。
図2】本発明の積層体を製造するための巻き取り式電子線蒸着装置を模式的に示す概略図である。
図3】本発明の積層体を製造するための材料配置を上部から模式的に示す概略図である。
図4】本発明の積層体を製造するための材料配置を側面から模式的に示す概略図である。
図5】本発明の積層体を製造するための巻き取り式スパッタリング装置を模式的に示す概略図である。
図6】比較例の一例を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の詳細を説明する。
【0011】
[積層体]
本発明の積層体の好ましい一態様は、基材の少なくとも片側にA層とB層を有する積層体であって、前記A層がマグネシウム、ケイ素、および酸素を含む、積層体である。
【0012】
本態様とすることにより高度なガスバリア性を有し、さらに高温かつ雰囲気中の水や水蒸気が多く存在する環境下でもガスバリア性フィルム中に存在するMgO結晶化の進行抑制に優れる積層体とすることができる。詳細は後述する。
【0013】
A層に含まれるマグネシウムおよびケイ素の形態は、非晶質膜を形成することが好ましく、ガスバリア性の観点から、酸化物、窒化物、酸素窒化物、炭化物からなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物として含有されていることが好ましい。中でも、酸化マグネシウムおよび酸化ケイ素を含むことがさらに好ましい。
【0014】
A層が酸素を含むとは、X線光電子分光法(XPS)で評価を行った場合に、SiO厚みの換算厚みで、A層最表面からA層の厚みが1/2となる位置までアルゴンイオンエッチングを行った箇所において、酸素原子の含有比率が10.0atm%以上であることをいう。透明性や緻密性などの観点より、酸素原子の含有比率は20.0atm%以上であることが好ましく、40.0atm%以上であることがより好ましい。A層最表面はA層が基材と最も近接する面と反対面のことを指す。なお、A層がマグネシウムを含むとは、上記同様にXPSで評価を行った場合、マグネシウム原子の含有比率が5.0atm%以上であることをいう。A層がケイ素を含むとは、上記同様にXPSで評価を行った場合、ケイ素原子の含有比率が2.0atm%以上であることをいう。XPSでの評価における各元素の分析方法は実施例に記載の通りとする。
【0015】
また、本発明のA層およびB層はXPSの深さ方向分析により得られた組成により規定する。SiO厚みの換算厚みで、積層体最表面から5nmずつアルゴンイオンエッチングにより層を除去していき、組成を分析する。B層は、層を除去していきマグネシウムの含有量が1atm%以下である測定点を起点として、アルゴンイオンエッチングと分析を繰り返し、B層中のマグネシウムの含有量が1atm%以上になった測定点を終点としたときに、起点から終点までの間と定義する。またA層は、B層の終点と規定した測定点からアルゴンイオンエッチングと分析を繰り返し、B層の終点と規定した測定点を起点として、A層中のマグネシウムの含有量が1atm%以下になった測定点を終点としたときに、起点から終点までの間と定義する。例えば、ある組成比率でマグネシウム、ケイ素および酸素含む層を形成したのち、別の組成比率でマグネシウム、ケイ素および酸素含む層を形成した場合、2層を合わせて1つのA層となることがある。また、マグネシウムを含まない層の両面にマグネシウムを含む層が形成される場合、A層はマグネシウムを含む層のうち最も基材に近接する層とする。同様に、ある組成比率でマグネシウムを含まない層を形成したのち、別の組成比率でマグネシウムを含まない層を形成した場合、2層合わせてB層となることがある。
【0016】
本発明において、基材、A層、B層の順に有することが好ましい。A層はマグネシウム、ケイ素、および酸素を含むことで緻密な複合酸化物を形成し、高いガスバリア性を発現できる。A層中に存在するMgOの結晶化の進行を抑制することができるため、A層上にB層を形成することが好ましい。A層とB層を入れ替えた場合には、所望のガスバリア性とMgO結晶化進行の抑制効果が得られない場合がある。
【0017】
A層とB層とを基材側からこの順に有していれば、基材とA層との間やB層上などに他の層が存在していても構わない。例えば、基材を平滑化するために基材とA層との間にアンカーコート層を設けることが挙げられる。また、さらなるMgO結晶化進行の抑制、耐薬品性、耐擦傷性を付与するためにB層上にウェットコート層やドライコート層を設けて併せてB層としたり、基材/A層/B層/A層構成とすることが挙げられる。
【0018】
本発明の積層体は、透明性の観点から、全光線透過率が85%以上であることが好ましい。太陽電池部材に使用した場合、より効率的な発電が可能になるため、全光線透過率が85%以上であることが好ましい。また視認性の観点から、可視光領域(380-780nm)における平均反射率が15%以下であることが好ましい。太陽電池部材に使用した場合、より効率的な発電が可能になるため、可視光領域(380-780nm)における平均反射率が15%以下であることが好ましい。
【0019】
[A層]
本発明のA層の組成について、マグネシウム(Mg)原子濃度が5~50(atm%)、ケイ素(Si)原子濃度が2~30(atm%)、酸素(O)原子濃度が45~70(atm%)の積層体であることが好ましい。なお、~は、以上、以下を示す。
【0020】
A層の組成比率はX線光電子分光法(XPS)により測定することができる。アルゴンイオンエッチングによりB層を除去した後、A層の厚みが1/2となる位置まで、表層側からアルゴンイオンエッチングにより層を除去して各元素の含有比率を測定する。
【0021】
A層は結晶層になりクラックが入りやすくなることを抑制する観点からマグネシウム原子濃度が50atm%以下、および/またはケイ素原子濃度が2atm%以上であることが好ましい。
【0022】
A層中のシリケート結合の割合を十分なものとし、緻密性を向上させてガスバリア性を発現する観点からマグネシウム原子濃度が5atm%以上、および/またはケイ素原子濃度が30atm%以下であることが好ましい。シリケート結合とは、ケイ素(Si)と金属(M)の酸素(O)を介した結合であり、Si-O-Mと記載することができる。金属(M)にケイ素を含んでもよい。
【0023】
マグネシウムやケイ素が酸素不足となり光線透過率が低下することを抑制する観点から、酸素原子濃度が45atm%以上であることが好ましい。また、酸素が過剰に取り込まれ空隙や欠陥が増加することを抑制し、ガスバリア性を発現する観点から、酸素原子濃度が70atm%以下であることが好ましい。
【0024】
上記観点から、本発明のA層の組成について、マグネシウム原子濃度が8~35(atm%)、ケイ素原子濃度が6~25(atm%)、酸素原子濃度が50~65(atm%)であることがより好ましく、マグネシウム原子濃度が15~30(atm%)、ケイ素原子濃度が8~20(atm%)、酸素原子濃度が50~65(atm%)であることがさらに好ましい。
【0025】
また、原子濃度(atm%)の比において、O/(Mg+Si)は1.25~2.00であることが好ましい。ガスバリア性、光学特性の観点より、O/(Mg+Si)は1.40~1.75であることがより好ましい。
【0026】
本発明のA層の組成について、マグネシウム(Mg)原子とケイ素(Si)原子の原子濃度(atm%)比率Mg/(Mg+Si)が、0.30~0.80であることが好ましい。原子濃度(atm%)比率が、Mg/(Mg+Si)≧0.30であることにより、A層中のシリケート結合の割合を十分なものとし、緻密性を向上させてガスバリア性を発現することができる。原子濃度(atm%)比率がMg/(Mg+Si)≦0.80であることにより、A層中に結晶部が存在することを抑制し、クラックが入りやすくなることを抑えることができる。同様の観点より、原子濃度(atm%)比率Mg/(Mg+Si)は0.50~0.78がより好ましく、0.55~0.76がさらに好ましい。
【0027】
本発明におけるA層の厚みは、上記起点から終点までの距離から求めるものとする。上記起点から終点までの距離は、SiO換算厚みとする。A層の厚みは5nm以上が好ましく、500nm以下が好ましい。厚みが5nm以上であることにより層として形成されない領域が発生してガスバリア性が確保できなくなることを抑制できる。また、A層の厚みが500nm以下であることによりクラックが入りやすくなったりすることを抑制でき、耐屈曲性や延伸性も向上することができる。上記観点から、A層の厚みは10nm以上300nm以下であることがより好ましい。
【0028】
本発明の積層体のA層は、陽電子ビーム法(薄膜対応陽電子消滅寿命測定法)(「陽電子計測の科学」(日本アイソトープ協会)I章1節,V章2節参照)により測定される平均寿命が0.935ns以下であることが好ましい。陽電子ビーム法は、陽電子消滅寿命測定法の一つであり、陽電子が試料に入射してから消滅するまでの時間(数百ps~数十nsオーダー)を測定し、その消滅寿命から約0.1~10nmの空孔の大きさ、数濃度、さらには大きさの分布に関する情報を非破壊的に評価する手法である。陽電子線源として放射性同位体(22Na)の代わりに陽電子ビームを用いる点が、通常の陽電子消滅法と大きく異なり、シリコンや石英基板上に製膜された数百nm厚程度の薄膜の測定を可能とした手法である。得られた測定値から非線形最小二乗プログラムPOSITRONFITにより、平均細孔半径や細孔の数濃度を求めることが出来る。サブnmオーダーの細孔や基本骨格に対応するものは、第3成分および第4成分の平均寿命を解析することで得られる。
【0029】
ここで、第3成分とは、陽電子ビーム法による平均寿命の測定条件として3成分に対する解析を選択することにより得られた平均寿命をいい、第4成分とは、陽電子ビーム法による平均寿命の測定条件として4成分に対する解析を選択することにより得られた平均寿命をいう。POSITRONFITにより解析をする際には、逆ラプラス変換法に基づく分布解析プログラムCONTINを用いて算出した細孔半径分布曲線で得られたピーク数から、POSITRONFITの成分数を決定する。POSITRONFITから算出した平均細孔半径とCONTINの細孔半径分布曲線のピーク位置が一致していることで、解析が妥当であることを判断する。本発明でいう平均寿命は、第3成分の平均寿命のことを指す。
【0030】
平均寿命が0.935nsより大きくなると、A層が緻密でなくなるため、ガスバリア性が発現しなくなる可能性がある。ガスバリア性の観点から、陽電子ビーム法により測定される平均寿命は0.912ns以下であることが好ましく、0.863ns以下がより好ましい。また、平均寿命の下限は特に限定されないが、0.542ns以上であることが好ましい。平均寿命が0.542nsよりも小さいと屈曲性が低下する場合がある。
【0031】
本発明で規定する、A層の陽電子ビーム法により測定される平均寿命を0.935ns以下とするためには、例えば算術平均粗さRaが10.0nm以下の基材上に、複合酸化物膜を適した組成比率で緻密に形成することにより達成される。ここでいう緻密に形成するとは、それぞれの酸化物が原子レベルで混ざり合い緻密なネットワークを形成している状態をいう。
【0032】
本発明のA層は、X線光電子分光により測定される酸素原子(O1s)のピークの半値幅が3.25eV以下であることが好ましい。半値幅は、ピークの最大値をFmaxとした場合、ピークの強度がFmax/2の時のピーク幅のことを言う。O1sのピークの半値幅が狭い方が均一な結合のネットワーク構造が形成されることから、緻密な膜となりやすい。結合の均一性、バリア性の観点より、3.00eV以下がより好ましく、2.75eV以下が更に好ましい。また、下限は特に限定されないが、1.65eV以上であることが好ましい。
【0033】
本発明の積層体のA層は、非晶質膜であることが好ましい。非晶質とは、原子や分子が結晶のように長距離的に規則正しい秩序構造を取らず、不規則な構造であることを言う。結晶構造であると、結晶粒界が生じることから水蒸気透過経路となりガスバリア性が悪くなったり、割れやすくなったりすることから、非晶質であることが好ましい。非晶質であるか否かは断面TEMや薄膜X線回折(XRD)などの分析方法によって確認することができる。断面TEMの場合、非晶質膜ではコントラストは均一となり、結晶粒界は見られない一方で、結晶膜では微結晶状態や柱状構造など結晶構造に応じた結晶粒界が観察される。また、薄膜X線回折の場合、非晶質膜ではピークは観察されない一方で、結晶膜では結晶構造に応じた回折ピークが確認される。特に、MgOの結晶では、2θ=43°付近、62°付近等に特徴的なピークが確認され、これらの回折ピーク位置からそれぞれ002、022回折ピーク等を検出することが可能である。
【0034】
[A層の製造方法一例]
A層の形成方法については、特に限定はなく、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、原子層堆積法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができる。製造コスト、ガスバリア性等の観点から、真空蒸着法を用いることが好ましい。化合物蒸着を行う観点より真空蒸着法の中でも電子線(EB)蒸着、イオンビームアシスト蒸着(IBAD)を用いることがさらに好ましい。
【0035】
巻き取り式蒸着装置図2によるA層の形成方法の一例を示す。電子線蒸着法により、基材1の表面にA層として、材料BとCの化合物薄膜を設ける。まず、蒸着材料として、2~5mm程度の大きさの顆粒状の材料Bと材料Cを図3,4のように配置する。蒸着材料は顆粒に限らず、角形やタブレット型等の形状の異なる成形体を用いてもよい。また、蒸着源材料の配置として、図3,4では基材の幅方向に配置しているが、1つのハースライナー内に2材料を混合したり、長手方向に配置するなど他の並べ方をしても構わない。また、蒸着材料が吸湿していると材料中の水分がA層中に取り込まれ、所望の膜組成や物性が得られなくなる可能性があることから、材料を使用前に加熱による脱水処理を行うことが好ましい。巻き取り室5の中で、巻き出しロール6に前記基材1のA層を設ける側の面がハースライナー11に対向するようにセットし、巻き出し、ガイドロール7,8,9を介して、メインドラム10に通す。次に、真空ポンプにより、蒸着装置4内を減圧し、5.0×10-3Pa以下を得る。到達真空度は5.0×10-3Pa以下が好ましい。到達真空度は5.0×10-3Paより大きいと残留ガスがA層中に取り込まれ、所望の膜組成や物性が得られなくなる可能性がある。メインドラム10の温度は一例として、-10℃に設定する。基材の熱負けを防ぐ観点から、20℃以下が好ましく、より好ましくは0℃以下である。次に、加熱源として一台の電子銃(以下、EB銃)13を用い、所望の膜組成比になるように材料B、C表面を加熱する。EB銃は加速電圧10kVとし、形成するA層の厚みが150nm程度となるように、加速電流とフィルム搬送速度を調整し、前記基材1の表面上にA層を形成する。その後、ガイドロール15,16,17を介して巻き取りロール18に巻き取る。
【0036】
[B層]
前記A層は、緻密性の高い非晶質膜を有することで高度なガスバリア性を実現しているため、膜の結晶化等により膜構造が変化した際に生じる微細なクラックにより、ガスバリア性が変化する可能性がある。従って、B層を形成することで、水または水蒸気存在下においても、MgO結晶化の進行を抑制する効果が期待される。
【0037】
本発明のB層は、水蒸気との接触を抑制する観点から、有機膜とすることができる。高分子膜とする場合は、(i)質量密度が0.7g/cm以上1.75g/cm以下、かつ、(ii)厚みが、300nm以上7,000nm以下であることが好ましく、400nm以上6,000nm以下がより好ましく、800nm以上5,000nm以下がさらに好ましい。質量密度を0.7g/cm以上にすると、緻密性の高いB層を形成しやすくなり、MgOの結晶化の進行抑制効果が向上するため好ましい。同様の観点から質量密度は1.0g/cm以上がより好ましく、1.1g/cm以上がさらに好ましく、1.35以上が特に好ましい。質量密度が0.7g/cmより小さくなると、B層の密度が低くなり、十分な結晶化の進行抑制を得られない場合がある。質量密度が1.75g/cmより大きくなると、分子間の結合が強固となり、クラックが生じやすくなるため、十分な結晶化の進行抑制を得られない場合がある。本発明における質量密度はX線反射率法(XRR)を用いて測定することができる。なお、高分子膜とは、分子量5,000以上の分子よりなる膜をいう。
【0038】
高分子膜から形成される場合のB層の厚みは、300nm以上、7,000nm以下であることが好ましい。B層の厚みが300nmより薄くなると、A層と接触する水または水蒸気量が増加するため、A層中のMgOの結晶化の進行を十分に抑制できない場合がある。また、B層の厚みが7,000nmより厚くなると、積層体の全光線透過率が低下し、デバイスに組み込んだ際に、太陽電池の変換効率や電子ペーパー、有機ELディスプレイの視認性が悪化する場合がある。ここで、B層の厚みは、同様に上記起点から終点までから厚みを求めるものとする。 なお、本発明におけるB層が分子量5,000以上の分子よりなる膜かつ後述する無機膜である場合は、質量密度が0.7g/cm以上1.75g/cm以下、かつ、厚みが、300nm以上7,000nm以下であることが好ましい。より好ましい態様も上記同様である。
【0039】
本発明の積層体のB層を形成する高分子膜は、緻密性や透明性、密着性等の観点から、ポリウレタン化合物、ポリシラザン化合物、ポリシロキサン化合物、アクリレート、メタクリレート、アルコキシドと水溶性高分子の混合物、およびアルコキシドの重縮合物と水溶性高分子の混合物、より選ばれる1種以上を含むことが好ましい。
【0040】
B層に用いられるポリウレタン化合物は、主鎖あるいは側鎖にアクリレート、または、ウレタン結合を有するものであり、例えば、分子内に水酸基と芳香族環とを有するエポキシ(メタ)アクリレートとを重合させて得ることができる。分子内に水酸基と芳香族環とを有するエポキシ(メタ)アクリレートとしては、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、レゾルシン、ヒドロキノン等の芳香族グリコールのジエポキシ化合物と(メタ)アクリル酸誘導体とを反応させて得ることができる。エチレン性不飽和化合物としては、例えば、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート、ビスフェノールA型エポキシジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールF型エポキシジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールS型エポキシジ(メタ)アクリレート等のエポキシアクリレート等を挙げられる。これらの中でも、表面保護性能に優れた多官能(メタ)アクリレートが好ましい。また、これらは単一の組成で用いてもよいし、二成分以上を混合して使用してもよい。
【0041】
ポリシラザン化合物、ポリシロキサン化合物としては、例えば、パーヒドロポリシラザン、テトラメチルシラン、トリメチルメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラメトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシラザン、トリメチルビニルシラン、メトキシジメチルビニルシラン、トリメトキシビニルシラン、エチルトリメトキシシラン、ジメチルジビニルシラン、ジメチルエトキシエチニルシラン、ジアセトキシジメチルシラン、アリールトリメトキシシラン、エトキシジメチルビニルシラン、メチルトリビニルシラン、ジアセトキシメチルビニルシラン、メチルトリアセトキシシラン、アリールオキシジメチルビニルシラン、ジエチルビニルシラン、ブチルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルジメチルエトキシシラン、テトラビニルシラン、トリアセトキシビニルシラン、テトラアセトキシシラン、ブチルジメトキシビニルシラン、フェニルトリメチルシラン、ジメトキシメチルフェニルシラン、フェニルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ジメチルエチキシフェニルシラン、ベンゾイロキシトリメチルシラン、ジメチルエトキシ-3-グリシドキシプロピルシラン、ジブトキシジメチルシラン、3-ブチルアミノプロピルトリメチルシラン、3-ジメチルアミノプロピルジエトキシメチルシラン、ジビニルメチルフェニルシラン、ジアセトキシメチルフェニルシラン、ベンジルジメチルエトキシシラン、ジエトキシメチルフェニルシラン、ジエトキシ-3-グリシドキシプロピルメチルシラン、テトラアリールオキシシラン、ジアリールメチルフェニルシラン、ジフェニルメチルビニルシラン、ジフェニルエトキシメチルシラン、ジアセトキシジフェニルシラン、ジベンジルジメチルシラン、ジアリールジフェニルシラン、1,4-ビス(ジメチルビニルシリル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アセトキシプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3,5-トリメチル-1,3,5-トリビニルシクロトリシロキサン、1,3,5-トリス(3,3,3-トリフルオロプロピル)-1,3,5-トリメチルシクロトリシロキサン等を挙げられる。これらの中でも、緻密性に優れたパーヒドロポリシラザンが好ましい。
【0042】
アクリレート、メタクリレートは、例えば、ヘキサンジオールジアクリレート、エトキシエチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、シアノエチル(モノ)アクリレート、イソボルニルアクリレート、オクタデシルアクリレート、イソデシルアクリレート、ラウリルアクリレート、β-カルボキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ジニトリルアクリレート、ペンタフルオロフェニルアクリレート、ニトロフェニルアクリレート、2-フェノキシエチルアクリレート、2,2,2-トリフルオロメチルアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、プロポキシル化ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ビスフェノールAエポキシジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロピル化トリメチロールプロパントリアクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、フェニルチオエチルアクリレート、ナフチルオキシエチルアクリレート、Ebecryl(商標)130環状ジアクリレート(CYTEC INDUSTRIES,INC.、米国ニュージャージー州)、エポキシアクリレートCN120E50(Sartomer Company、米国ペンシルベニア州エクストン)、上記のアクリレートの対応するメタクリレート及びこれらの混合物が挙げられる。代表的なビニル化合物としては、ビニルエーテル、スチレン、ビニルナフチレン及びアクリロニトリルが挙げられる。代表的なアルコールとしては、ヘキサンジオール、ナフタレンジオール、2-ヒドロキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノン、及びヒドロキシエチルメタクリレートが挙げられる。代表的なビニル化合物としては、ビニルエーテル、スチレン、ビニルナフチレン及びアクリロニトリルが挙げられる。代表的なカルボン酸としては、フタル酸及びテレフタル酸、(メタ)アクリル酸が挙げられる。代表的な酸無水物としては、無水フタル酸及び無水グルタル酸が挙げられる。代表的なアシルハライドとしては、ヘキサンジオイルジクロリド及びスクシニルジクロリドが挙げられる。代表的なチオールとしては、エチレングリコール-ビスチオグリコレート及びフェニルチオエチルアクリレートが挙げられる。代表的なアミンとしては、エチレンジアミン及びヘキサン1,6-ジアミンが挙げられる。
【0043】
アルコキシドは、反応性と安定性、コストの観点から、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランを好適に用いることができ、これらは単独であっても、2種類以上の混合物であってもよい。水溶性高分子は、例えば、ビニルアルコール系樹脂や、ポリビニルピロリドン、デンプン、セルロース系樹脂などが挙げられるが、中でもガスバリア性に優れるビニルアルコール系樹脂が好ましい。ビニルアルコール系樹脂には、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、変性ポリビニルアルコール等があり、これらの樹脂は単独で用いても、2種類以上の混合物であってもよい。ビニルアルコール系樹脂は、一般に、ポリ酢酸ビニルやその共重合体などをけん化して得られるものであり、酢酸基の一部をけん化して得られる部分けん化であっても、完全けん化であってもよいが、けん化度が高い方が好ましい。
【0044】
B層を形成する樹脂を含む塗液の塗布手段としては、特に限定はなく、塗料を乾燥後の厚みが所望の厚みになるよう固形分濃度を調整し、例えばグラビアコート法、ロッドコート法、バーコート法、ダイコート法、スプレーコート法などのウェットコート法や、真空蒸着法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法などのドライ加工法により塗布することが好ましい。
【0045】
またB層を形成する材料が無機膜である場合は、水または水蒸気存在下においても、MgO結晶化の進行を抑制する観点から、質量密度は2.1g/cm以上、7.5g/cm以下が好ましい。質量密度を2.1g/cm以上にすると、緻密性の高いB層を形成しやすくなり、MgO結晶化の進行抑制効果が向上するため好ましい。質量密度が2.1g/cmより小さくなると、B層の密度が低くなり粗密な膜が形成されるため、十分な結晶化の進行抑制を得られない場合がある。従って、本発明においては、B層を形成する無機膜の質量密度は、2.1g/cm以上、7.5g/cm以下が好ましい。
【0046】
なお、本発明の無機膜であるとは、無機物を含む膜のことをいう。無機物は無機物単体であってもよいし、無機化合物でもよく、例えば、スズ元素、インジウム元素、亜鉛元素、アルミニウム元素、ニッケル元素、クロム元素、およびチタン元素、およびそれらの酸化物、窒化物、炭化物が挙げられ、これらは単独であっても、2種類以上の混合物であってもよい。すなわち、前記B層が、スズ元素、インジウム元素、亜鉛元素、アルミニウム元素、ニッケル元素、クロム元素、およびチタン元素、より選ばれる1種以上を含むことが好ましい。
【0047】
無機膜から形成される場合のB層の厚みは、10nm以上、500nm以下が好ましく、20nm以上、400nm以下がより好ましく、30nm以上、300nm以下がさらに好ましい。B層の厚みが10nmより薄くなると、A層と接触する水または水蒸気量が増加するため、A層中のMgO結晶化の進行を十分に抑制できない場合がある。また、B層の厚みが500nmより厚くなると、積層体の柔軟性が低下しクラックが生じやすくなり、水または水蒸気がA層まで浸透するため、A層中のMgO結晶化の進行を十分に抑制できない場合がある。ここで、B層の厚みは、同様に定義から厚みを求めるものとする。
【0048】
本発明の積層体のB層を形成する無機膜は、無機物、または、無機酸化物であることが好ましく、緻密性や透明性等の観点から、スズ元素、インジウム元素、亜鉛元素、アルミニウム元素、ニッケル元素、クロム元素、およびチタン元素、より選ばれる1種以上を含んでいることが好ましい。また、本発明に用いられるB層は、透明性の観点から、前記無機物の酸化物を主成分として形成することがより好ましい。なお、なお、無機物の酸化物を主成分とする、とは当該膜100質量%中に、無機物の酸化物を80質量%以上含むことをいう。
【0049】
無機酸化物としては、例えば、スズ添加酸化インジウム(ITO)やフッ素添加酸化スズ(FTO)、酸化スズ(SnO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ニッケル(NiO)、酸化クロム(Cr)、酸化チタン(TiO)等が挙げられる。また、ITOのような酸化インジウムを主成分とする酸化物は、スパッタリング法等で成膜を行う場合には、準安定相であるアモルファス膜が形成される。形成させる構造の歪みや粒界を低減させる手段として、アニール処理を行うことで結晶性を上げることが代表的方法として行われている。また、無機酸化物は導電性をもつ膜であればさらによい。無機酸化物が絶縁性をもつ場合、フィルムの巻取りの工程での摩擦でB層が帯電し、放電によって積層体表面に傷やピンホールが生じる場合がある。その傷やピンホールを水または水蒸気が透過し、MgOの結晶化が進行する懸念がある。無機酸化物の表面抵抗としては、1×10-4Ω/□以下であることが好ましい。
【0050】
本発明における質量密度はX線反射率法(XRR)を用いて測定することができる。
【0051】
無機物、または、無機酸化物から形成されるB層の形成方法については、特に限定はなく、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、原子層堆積法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法などのドライ加工法や、グラビアコート法、ロッドコート法、バーコート法、ダイコート法、スプレーコート法などのウェットコート法を用いることができる。
【0052】
[基材]
本発明に用いられる基材は、柔軟性を確保する観点からフィルム形態を有することが好ましい。フィルムの構成としては、単層フィルム、または2層以上の、例えば、共押し出し法で製膜したフィルムであってもよい。フィルムの種類としては、無延伸、一軸延伸あるいは二軸延伸フィルム等を使用してもよい。
【0053】
本発明に用いられる基材の素材は特に限定されないが、有機高分子を主たる構成成分とするものであることが好ましい。本発明に好適に用いることができる有機高分子としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等の結晶性ポリオレフィン、環状構造を有する非晶性環状ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレン酢酸ビニル共重合体のケン化物、ポリアクリロニトリル、ポリアセタール等の各種ポリマーなどを挙げることができる。これらの中でも、透明性や汎用性、機械特性に優れた非晶性環状ポリオレフィンまたはポリエチレンテレフタレートを用いることが好ましい。また、前記有機高分子は、単独重合体、共重合体のいずれでもよいし、有機高分子として1種類のみを用いてもよいし、複数種類をブレンドして用いてもよい。
【0054】
基材のA層を形成する側の表面には、密着性や平滑性を良くするためにコロナ処理、プラズマ処理、紫外線処理、イオンボンバード処理、溶剤処理、有機物もしくは無機物またはそれらの混合物で構成されるアンカーコート層の形成処理、等の前処理が施されていてもよい。また、A層を形成する側の反対側には、基材の巻き取り時の滑り性の向上や基材の耐擦傷性を目的として、有機物や無機物あるいはこれらの混合物のコーティング層が積層されていてもよい。
本発明に使用する基材の厚みは特に限定されないが、柔軟性を確保する観点から500μm以下が好ましく、引張りや衝撃に対する強度を確保する観点から5μm以上が好ましい。さらに、フィルムの加工やハンドリングの容易性から基材の厚みは10μm以上、150μm以下がより好ましい。
【0055】
[アンカーコート層]
本発明の積層体は、アンカーコート層を有し、前記アンカーコート層は、一方の面が前記基材と接し、他方の面が前記A層と接していることが好ましい。さらにアンカーコート層は、芳香族環構造を有するポリウレタン化合物を架橋して得られる構造を含んでいることがより好ましい。基材上に突起や傷などの欠点が存在する場合、前記欠点を起点に基材上に積層するA層にもピンホールやクラックが発生してガスバリア性や耐屈曲性が損なわれる場合があるため、アンカーコート層を設けることが好ましい。また、基材とA層との熱寸法安定性差が大きい場合もガスバリア性や屈曲性が低下する場合があるため、アンカーコート層を設けることが好ましい。また、本発明に用いられるアンカーコート層は、熱寸法安定性、耐屈曲性の観点から芳香族環構造を有するポリウレタン化合物を架橋して得られる構造を含有することが好ましく、さらに、エチレン性不飽和化合物、光重合開始剤、有機ケイ素化合物および/または無機ケイ素化合物を含有することがより好ましい。
【0056】
本発明の積層体のA層に用いられる芳香族環構造を有するポリウレタン化合物は、主鎖あるいは側鎖に芳香族環およびウレタン結合を有するものであり、例えば、分子内に水酸基と芳香族環とを有するエポキシ(メタ)アクリレート、ジオール化合物、ジイソシアネート化合物とを重合させて得ることができる。
【0057】
分子内に水酸基と芳香族環とを有するエポキシ(メタ)アクリレートとしては、ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、水添ビスフェノールF型、レゾルシン、ヒドロキノン等の芳香族グリコールのジエポキシ化合物と(メタ)アクリル酸誘導体とを反応させて得ることができる。
【0058】
ジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、2,4-ジメチル-2-エチルヘキサン-1,3-ジオール、ネオペンチルグリコール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール、4,4’-チオジフェノール、ビスフェノールA、4,4’-メチレンジフェノール、4,4’-(2-ノルボルニリデン)ジフェノール、4,4’-ジヒドロキシビフェノール、o-,m-,及びp-ジヒドロキシベンゼン、4,4’-イソプロピリデンフェノール、4,4’-イソプロピリデンビンジオール、シクロペンタン-1,2-ジオール、シクロヘキサン-1,2-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、ビスフェノールAなどを用いることができる。これらは単一の組成で用いてもよいし、二成分以上を混合して使用してもよい。
【0059】
ジイソシアネート化合物としては、例えば、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、2,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族系ジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジントリイソシアネート等の脂肪族系ジイソシアネート化合物、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4-ジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート等の脂環族系イソシアネート化合物、キシレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香脂肪族系イソシアネート化合物等が挙げられる。これらは単一の組成で用いてもよいし、二成分以上を混合して使用してもよい。
【0060】
前記分子内に水酸基と芳香族環とを有するエポキシ(メタ)アクリレート、ジオール化合物、ジイソシアネート化合物の成分比率は所望の重量平均分子量になる範囲であれば特に限定されない。本発明における芳香族環構造を有するポリウレタン化合物の重量平均分子量(Mw)は、5,000~100,000であることが好ましい。重量平均分子量(Mw)が5,000~100,000であれば、得られる硬化皮膜の熱寸法安定性、耐屈曲性が優れるため好ましい。なお、本発明における重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法を用いて測定され標準ポリスチレンで換算された値である。
【0061】
エチレン性不飽和化合物としては、例えば、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート、ビスフェノールA型エポキシジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールF型エポキシジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールS型エポキシジ(メタ)アクリレート等のエポキシアクリレート等を挙げられる。これらの中でも、熱寸法安定性、表面保護性能に優れた多官能(メタ)アクリレートが好ましい。また、これらは単一の組成で用いてもよいし、二成分以上を混合して使用してもよい。
【0062】
エチレン性不飽和化合物の含有量は特に限定されないが、熱寸法安定性、表面保護性能の観点から、芳香族環構造を有するポリウレタン化合物との合計量100質量%中、5~90質量%の範囲であることが好ましく、10~80質量%の範囲であることがより好ましい。
【0063】
光重合開始剤としては、本発明の積層体のガスバリア性および耐屈曲性を保持することができれば素材は特に限定されない。本発明に好適に用いることができる光重合開始剤としては、例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシルフェニルーケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン等のアルキルフェノン系光重合開始剤、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド等のアシルホスフィンオキシド系光重合開始剤、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム等のチタノセン系光重合開始剤、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-,2-(0-ベンゾイルオキシム)]等オキシムエステル構造を持つ光重合開始剤等が挙げられる。
【0064】
これらの中でも、硬化性、表面保護性能の観点から、1-ヒドロキシ-シクロヘキシルフェニルーケトン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルホリノプロパン-1-オン、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシドから選ばれる光重合開始剤が好ましい。また、これらは単一の組成で用いてもよいし、二成分以上を混合して使用してもよい。
【0065】
光重合開始剤の含有量は特に限定されないが、硬化性、表面保護性能の観点から、重合性成分の合計量中、0.01~10質量%の範囲であることが好ましく、0.1~5質量%の範囲であることがより好ましい。
【0066】
有機ケイ素化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0067】
これらの中でも、硬化性、活性エネルギー線照射による重合活性の観点から、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランおよびビニルトリエトキシシランからなる群より選ばれる少なくとも1つの有機ケイ素化合物が好ましい。また、これらは単一の組成で用いてもよいし、二成分以上を混合して使用してもよい。
【0068】
有機ケイ素化合物の含有量は特に限定されないが、硬化性、表面保護性能の観点から、重合性成分の合計量中、0.01~10質量%の範囲であることが好ましく、0.1~5質量%の範囲であることがより好ましい。
【0069】
無機ケイ素化合物としては、表面保護性能、透明性の観点からシリカ粒子が好ましく、さらにシリカ粒子の一次粒子径が1~300nmの範囲であることが好ましく、5~80nmの範囲であることがより好ましい。なお、ここでいう一次粒子径とは、ガス吸着法により求めた比表面積sを下記の式(1)に適用することで求められる粒子直径dを指す。
d=6/ρs ・・・ (1)
ρ:密度。
【0070】
アンカーコート層の厚みは、200nm以上、4,000nm以下が好ましく、300nm以上、2,000nm以下がより好ましく、500nm以上、1,000nm以下がさらに好ましい。アンカーコート層の厚みが200nmより薄くなると、基材上に存在する突起や傷などの欠点の悪影響を抑制できない場合がある。アンカーコート層の厚みが4,000nmより厚くなると、アンカーコート層の平滑性が低下して前記アンカーコート層上に積層するA層表面の凹凸形状も大きくなり、積層される蒸着膜が緻密になりにくく、ガスバリア性の向上効果が得られにくくなる場合がある。ここでアンカーコート層の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察画像から測定することが可能である。
【0071】
アンカーコート層の算術平均粗さRaは、10nm以下であることが好ましい。Raを10nm以下にすると、アンカーコート層上に均質なA層を形成しやすくなり、ガスバリア性の繰り返し再現性が向上するため好ましい。アンカーコート層の表面のRaが10nmより大きくなると、アンカーコート層上のA層表面の凹凸形状も大きくなり、蒸着膜が緻密になりにくく、ガスバリア性の向上効果が得られにくくなる場合があり、また、凹凸が多い部分で応力集中によるクラックが発生し易いため、ガスバリア性の繰り返し再現性が低下する原因となる場合がある。従って、本発明においては、アンカーコート層のRaを10nm以下にすることが好ましく、より好ましくは5nm以下である。本発明におけるアンカーコート層のRaは、断面TEMにより測定することができる。
【0072】
本発明の積層体にアンカーコート層を適用する場合、芳香族環構造を有するポリウレタン化合物を含むアンカーコート層を形成する樹脂を含む塗液の塗布手段を例として挙げると、まず基材上に芳香族環構造を有するポリウレタン化合物を含む塗料を乾燥後の厚みが所望の厚みになるよう固形分濃度を調整し、例えばリバースコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、バーコート法、ダイコート法、スプレーコート法、スピンコート法などにより塗布することが好ましい。また、本発明においては、塗工適性の観点から有機溶剤を用いて芳香族環構造を有するポリウレタン化合物を含む塗料を希釈することが好ましい。
【0073】
具体的には、キシレン、トルエン、メチルシクロヘキサン、ペンタン、ヘキサンなどの炭化水素系溶剤、ジブチルエーテル、エチルブチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤などを用いて、固形分濃度が10質量%以下に希釈して使用することが好ましい。これらの溶剤は、単独あるいは2種以上を混合して用いてもよい。また、アンカーコート層を形成する塗料には、各種の添加剤を必要に応じて配合することができる。例えば、触媒、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤などの安定剤、界面活性剤、レベリング剤、帯電防止剤などを用いることができる。
【0074】
次いで、塗布後の塗膜を乾燥させて希釈溶剤を除去することが好ましい。ここで、乾燥に用いられる熱源としては特に制限は無く、スチームヒーター、電気ヒーター、赤外線ヒーターなど任意の熱源を用いることができる。なお、ガスバリア性向上のため、加熱温度は50~150℃で行うことが好ましい。また、加熱処理時間は数秒~1時間行うことが好ましい。さらに、加熱処理中は温度が一定であってもよく、徐々に温度を変化させてもよい。また、乾燥処理中は湿度を相対湿度で20~90%RHの範囲で調整しながら加熱処理してもよい。前記加熱処理は、大気中もしくは不活性ガスを封入しながら行ってもよい。
【0075】
次に、乾燥後の芳香族環構造を有するポリウレタン化合物を含む塗膜に活性エネルギー線照射処理を施して前記塗膜を架橋させて、アンカーコート層を形成することが好ましい。
【0076】
かかる場合に適用する活性エネルギー線としては、アンカーコート層を硬化させることができれば特に制限はないが、汎用性、効率の観点から紫外線処理を用いることが好ましい。紫外線発生源としては、高圧水銀ランプメタルハライドランプ、マイクロ波方式無電極ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンランプ等、既知のものを用いることができる。また、活性エネルギー線は、硬化効率の観点から窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で用いることが好ましい。紫外線処理としては、大気圧下または減圧下のどちらでも構わないが、汎用性、生産効率の観点から本発明では大気圧下にて紫外線処理を行うことが好ましい。前記紫外線処理を行う際の酸素濃度は、アンカーコート層の架橋度制御の観点から酸素ガス分圧は1.0%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましい。相対湿度は任意でよい。
【0077】
紫外線発生源としては、高圧水銀ランプメタルハライドランプ、マイクロ波方式無電極ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンランプ等、既知のものを用いることができる。
【0078】
紫外線照射の積算光量は0.1~1.0J/cmであることが好ましく、0.2~0.6J/cmがより好ましい。前記積算光量が0.1J/cm以上であれば所望のアンカーコート層の架橋度が得られるため好ましい。また、前記積算光量が1.0J/cm以下であれば基材へのダメージを少なくすることができるため好ましい。
【0079】
[その他の層]
本発明の積層体には、ガスバリア性や水蒸気透過率が低下しない範囲で、耐擦傷性や耐薬品性、印刷性等の向上を目的としたオーバーコート層や封止樹層を形成してもよいし、素子等に貼合するための有機高分子化合物からなる粘着層やフィルムをラミネートした積層構成としてもよい。また、光学特性を向上させるための低屈折率層を形成してもよい。特に、透明性や導電性の観点から、透明電極層も太陽電池や有機発光素子の電極として使用できる。
【0080】
B層が前記機能を果たすのであれば、オーバーコート層、封止樹層、粘着層、低屈折率層をB層が兼ねてもよい。上記オーバーコート層や封止樹脂層は積層体のいずれの面に形成してもよい。
【0081】
[積層体の用途]
本発明の積層体は、高い光線透過性およびガスバリア性を両立する点から、電子ペーパー、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイなどの光学素子に好適に用いることができる。加えて、後述する太陽電池やフレキシブルディスプレイにも好適に用いることができる。
【0082】
[太陽電池]
本発明の太陽電池の好ましい一態様は、上記積層体を含む太陽電池である。本態様とすることで、太陽電池の耐久性やエネルギー変換効率が高く、また外観品位に優れるものとすることができる。とりわけ有機太陽電池や、色素増感太陽電池、ペロブスカイト太陽電池は水に対する耐腐食性が低いため、本発明の積層体を用いることでより高い効果が得られるものと期待される。
【0083】
[フレキシブルディスプレイ]
本発明のフレキシブルディスプレイの好ましい一態様は、上記積層体もしくは光学積層体を用いたフレキシブルディスプレイである。本態様とすることで、フレキシブルディスプレイの耐久性が高く、また外観品位、色特性に優れるものとすることができる。
【実施例0084】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0085】
[評価方法]
(1)各層の厚み
積層体の各層の厚み分析は、X線光電子分光法(XPS)により行った。積層体最表面からSiO換算厚みで5nmずつエッチングおよび組成分析を繰り返した。B層の厚みは、積層体最表面から層を除去していきマグネシウムの含有量が1atm%以下である測定点を起点として、アルゴンイオンエッチングと分析を繰り返し、B層中のマグネシウムの含有量が1atm%以上になった測定点を終点としたときに、起点から終点までの間から測定した。また、A層の厚みは、B層の終点と規定した測定点からアルゴンイオンエッチングと分析を繰り返し、B層の終点と規定した測定点を起点として、A層中のマグネシウムの含有量が1atm%以下になった測定点を終点としたときに、起点から終点までの間から測定した。
【0086】
分析で使用するピークは、マグネシウムは2s、酸素は1sとした。
【0087】
XPSの測定条件は下記の通りとした。
・装置 :PHI5000VersaProbeII(アルバックファイ社製)
・励起X線 :monochromatic AlKα
・分析範囲 :φ100μm
・光電子脱出角度 :45°
・Arイオンエッチング :2.0kV、ラスターサイズ 2×2。
【0088】
(2)A層の組成
積層体のA層の組成分析は、X線光電子分光法(XPS)により行った。A層最表面からの厚みが1/2となる位置までアルゴンイオンエッチングによりSiO換算厚みでエッチングを行った箇所にて、各元素の含有比率を測定した。分析で使用するピークは、マグネシウムは2s、ケイ素は2p、酸素は1sとした。
【0089】
O1s半値幅は、ピークの最大値をFmaxとした場合、ピークの強度がFmax/2の時のピーク幅から求めた。
【0090】
XPSの測定条件は下記の通りとした。
・装置 :PHI5000VersaProbeII(アルバックファイ社製)
・励起X線 :monochromatic AlKα
・分析範囲 :φ100μm
・光電子脱出角度 :45°
・Arイオンエッチング :3.0kV、ラスターサイズ 2×2。
【0091】
(3)水蒸気透過率
積層体の水蒸気透過率は、温度40℃、湿度90%RH、測定面積50cmの条件で、英国、テクノロックス(Technolox)社製の水蒸気透過率測定装置(機種名:DELTAPERM(登録商標))を使用して測定した。サンプル数は水準当たり2サンプル行った。2サンプルの測定を行い得たデータを平均し、小数点第2位を四捨五入し、その値を水蒸気透過率(g/m/day)とした。
【0092】
(4)光線透過率
ヘーズメーターNDH4000(日本電色工業(株)製)用いて、JISK7361(1997年)規格に基づき全光線透過率を測定した。
【0093】
(5)分光特性(分光反射率)
分光光度計V-670(日本分光(株)製)および絶対反射率測定ユニットARSN-733を用いて、波長300~800nmの範囲の分光反射率を下記条件で測定した。
【0094】
得られたデータのうち、波長380nm~780nmの平均分光反射率を評価した。
・入射角度 :5°(サンプル平面に対する垂直方向を0°とする)
・測定波長 :300nm~800nm
・バンド幅 :5.0nm
・データ取り込み間隔 :0.5nm
・走査速度 :1,000nm/min
【0095】
(6)質量密度
XRR(X線反射率測定法)を用いて、B層の質量密度を算出した。積層体を30mm×40mmにサンプリングし、試料ホルダーに固定して以下の測定条件でX線反射率測定を行った。測定データにおいて、臨界角から密度値を、振動周期から膜厚値をそれぞれ見積もり、それらを初期値としてカーブフィッティングを行い、膜厚・密度の各パラメータを最適化することにより解析し、各領域の厚み、密度および構造密度指数を下記条件で測定した。
・装置 :Rigaku製SmartLab
・解析ソフト :Rigaku製GrobalFit
・サンプルサイズ :30mm×40mm
・入射X線波長 :0.1541nm(Cu Kα1線)
・出力 :45kV、30mA
・入射スリットサイズ:0.05mm×5.0mm
・受光スリットサイズ:0.05mm×20.0mm
・測定範囲(θ) :0~4.0°
・ステップ(θ) :0.002°
【0096】
(7)陽電子寿命および細孔半径分布
陽電子寿命および細孔半径分布は、陽電子ビーム法(薄膜対応陽電子消滅寿命測定法)により測定を行った。測定するサンプルを15mm×15mm角のSiウェハに貼り付けて室温で真空脱気した後、測定を行った。測定条件は下記のとおりである。
・装置 :フジ・インバック製小型陽電子ビーム発生装置PALS200A
・陽電子線源 :22Naベースの陽電子ビーム
・γ線検出器 :BaF製シンチレータ+光電子増倍管
・装置定数 :255~278ps,24.55ps/ch
・ビーム強度 :1keV
・測定深さ :0~100nm付近(推定)
・測定温度 :室温
・測定雰囲気 :真空
・測定カウント数 :約5,000,000カウント
測定結果について、非線形最小二乗プログラムPOSITRONFITにより、3成分解析を行った。
【0097】
(8)恒温恒湿試験
JIS C 60068-2-78(2015年)に従いの規格に従い、試験を行った。試験条件は下記のとおりである。
・試験温度 :85±2℃
・相対湿度 :85±5%RH
・試験時間 :250時間
【0098】
試験後のサンプルについても上記同様に水蒸気透過率を測定し水蒸気透過率変化について以下のように評価した。
◎:水蒸気透過率変化が1.0×10-3g/m/day未満
〇:水蒸気透過率変化が1.0×10-3以上5.0×10―3g/m/day未満
△:水蒸気透過率変化が5.0×10-3以上7.5×10―3g/m/day未満
×:水蒸気透過率変化が7.5×10―3g/m/day以上
【0099】
水蒸気透過率変化、とは以下の式から算出した。
水蒸気透過変化=(恒温恒湿試験後の水蒸気透過率)―(恒温恒湿試験前の水蒸気透過率)。
【0100】
(9)結晶化進行評価
MgO結晶化進行は、XRD(X線回折法)により測定を行った。測定するサンプルを10mm×10mm角のSi無反板に貼り付け、室温常圧で測定を行った。分析で使用する回折ピークは、MgO結晶の002面における回折ピークとし、そのピークの有無から結晶化進行評価を行った。回折ピークは信号(S)とノイズ(N)との比(S/N)から検出できるシグナルを1つのピークとみなし評価した。測定条件は下記のとおりである。
・装置 :リガク社製SmartLab(回転対陰極型)
・X線源 :CuKα線
・出力 :45kV、200mA
・スリット系 :2/3°×10mm-試料-0.3mm-0.8mm
入射縦発散防止ソーラースリット 5°
受光縦発散防止ソーラースリット 5°
・スキャン方式 :2θ/θ連続スキャン
・測定範囲(2θ) :5~60°
・スキャンステップ :0.02°
・スキャン速度 :0.5°/分
S/Nについては以下のように評価した。
◎:S/Nが2.5未満
〇:S/Nが2.5以上5.0未満
×:S/Nが5.0以上
【0101】
(実施例1)
(芳香族環構造を有するポリウレタン化合物の合成)
5リットルの4つ口フラスコに、ビスフェノールAジグリシジルエーテルアクリル酸付加物(共栄社化学社製、商品名:エポキシエステル3000A)を300質量部、酢酸エチル710質量部を入れ、内温60℃になるよう加温した。合成触媒としてジラウリン酸ジ-n-ブチル錫0.2質量部を添加し、攪拌しながらジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネート(東京化成工業社製)200質量部を1時間かけて滴下した。滴下終了後2時間反応を続行し、続いてジエチレングリコール(和光純薬工業社製)25質量部を1時間かけて滴下した。滴下後5時間反応を続行し、重量平均分子量20,000の芳香族環構造を有するポリウレタン化合物を得た。
【0102】
(アンカーコート層の形成)
基材として、厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製“ルミラー”(登録商標)U48)を用いた。
【0103】
アンカーコート層形成用の塗液として、前記ポリウレタン化合物を150質量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(共栄社化学社製、商品名:ライトアクリレートDPE-6A)を20質量部、1-ヒドロキシ-シクロヘキシルフェニルーケトン(BASFジャパン社製、商品名:「IRGACURE」(登録商標) 184)を5質量部、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン(信越シリコーン社製、商品名:KBM-503)を3質量部、酢酸エチルを170質量部、トルエンを350質量部、シクロヘキサノンを170質量部配合して塗液を調整した。次いで、塗液を基材上にマイクログラビアコーター(グラビア線番150UR、グラビア回転比100%)で塗布、100℃で1分間乾燥し、乾燥後、下記条件にて紫外線処理を施して厚み1μmのアンカーコート層を設けた。
紫外線処理装置:LH10-10Q-G(フュージョンUVシステムズ・ジャパン社製)
導入ガス:N(窒素イナートBOX)
紫外線発生源:マイクロ波方式無電極ランプ
積算光量:400mJ/cm
試料温調:室温。
【0104】
(A層の形成)
図2に示す巻き取り式蒸着装置を使用し、電子線(EB)蒸着法により、基材のアンカーコート層表面に、A層としてMgO+SiO層を厚み200nm狙いで設けた。
【0105】
具体的な操作は以下の通りである。まず、蒸着材料として、2~5mm程度の大きさの顆粒状の酸化マグネシウムMgO(純度99.9%)と二酸化ケイ素SiO(純度99.99%)を事前にそれぞれ100℃、8時間加熱を行った。続いて、それぞれの材料を図3のようにカーボン製ハースライナー11にセットした。材料の面積比率は、MgO:SiO=1:1となるようにした。巻き取り室5の中で、巻き出しロール6に前記基材1のA層を設ける側の面がハースライナー11に対向するようにセットし、巻き出し、ガイドロール7,8,9を介して、メインドラム10に通した。このとき、メインドラムは温度-10℃に制御した。次に、真空ポンプにより蒸着装置4内を減圧し、5.0×10-3Pa以下を得た。次に、加熱源として電子銃(以下、EB銃)13を用い、原子濃度(atm%)の比がMg:Si=2:1程度の膜組成比となるようにMgOとSiOの加熱比率を制御した。EB銃は加速電圧10kVとし、形成するA層の厚みが200nm程度となるように、加速電流とフィルム搬送速度を調整し、前記基材1の表面上にA層を形成した。その後、ガイドロール15,16,17を介して巻き取りロール18に巻き取った。
【0106】
(有機物を含むB層の形成)
A層の形成に続いて、B層形成用の塗液として、前記ポリウレタン化合物を150質量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(共栄社化学社製、商品名:“ライトアクリレート”(登録商標)DPE-6A)を20質量部、1-ヒドロキシ-シクロヘキシルフェニルーケトン(BASFジャパン社製、商品名:“IRGACURE”(登録商標) 184)を5質量部、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン(信越シリコーン社製、商品名:KBM-503)を3質量部、酢酸エチルを170質量部、トルエンを350質量部、シクロヘキサノンを170質量部配合して塗液を調整した。次いで、塗液を基材上にマイクログラビアコーター(グラビア線番150UR、グラビア回転比100%)で塗布、100℃で1分間乾燥し、乾燥後、下記条件にて紫外線処理を施して、A層上に厚み1,500nmのB層を設けた。
紫外線処理装置:LH10-10Q-G(フュージョンUVシステムズ・ジャパン社製)
導入ガス:N(窒素イナートBOX)
紫外線発生源:マイクロ波方式無電極ランプ
積算光量:400mJ/cm
試料温調:室温
【0107】
(実施例2)
B層の形成において、狙い厚みを4,500nm狙いで設けた以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0108】
(実施例3)
B層の形成において、狙い厚みを700nm狙いで設けた以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0109】
(実施例4)
上記方法で形成したA層上にB層として、パーヒドロポリシラザン(PHPS、アクアミカ NN120-10、無触媒タイプ、AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製)の10質量%ジブチルエーテル溶液をワイヤレスバーにて塗布、温度65℃、湿度55%RHの雰囲気下で1分間乾燥し、さらに温度25℃、10%RH(露点温度-8℃)の雰囲気下に10分間保持し除湿した。除湿後、下記条件にて改質処理を施して、A層上に厚み750nmのB層を設けた以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
改質処理装置:エキシマ照射装置MODEL:MECL-M-1-200(エム・ディ・コム社製)
波長:172nm
ランプ封入ガス:Xe
エキシマ光強度 :130mW/cm(172nm)
ステージ加熱温度 :70℃
照射装置内の酸素濃度:1.0%
エキシマ照射時間 :5sec
【0110】
(実施例5)
B層は、以下の手順で調製した塗工液を以下に述べる方法で厚さ1,500nmになるように塗工した。ポリビニルアルコール(以下、PVAと略すこともある。分子量1,700、けん化度98.5%)を、質量比で水/イソプロピルアルコール=97/3の溶媒に投入し、90℃で加熱攪拌して固形分10質量%のポリビニルアルコール溶液を得た。また、テトラエトキシシラン8.4gとメタノール3.3gを混合した溶液に、0.02N塩酸水溶液13.3gを攪拌しながら液滴することでテトラエトキシシラン溶液を得た。さらに、コルコート株式会社製エチルシリケート48を8.0gとメタノール12.0gを混合した溶液に、0.06N塩酸水溶液を5.0g攪拌しながら液滴して、エチルシリケート溶液を得た。テトラエトキシシラン溶液とエチルシリケート溶液を、SiO換算固形分質量が60/40になるように混合し、無機成分溶液を得た。その後、PVAの固形分と、無機成分溶液のSiO換算固形分質量比が65/35になるように、ポリビニルアルコール溶液と、無機成分溶液を混合・攪拌し、水で希釈して固形分12質量%の塗工液を得た。得られた塗工液をA層上に塗工し、110℃で乾燥してB層を設けた以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0111】
(実施例6)
B層として、無機膜を含むB層を形成した以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。A層上へのB層形成方法は下記の通りである。
【0112】
(無機物、または、無機酸化物を含むB層の形成)
A層の形成に続いて、図5に示す構造のスパッタリング装置を使用し、基材34のA層上に、B層を設けた。ITOで形成されたスパッタリングターゲットをスパッタ電源28に接続し、アルゴンガスおよび酸素ガスによるスパッタリングを実施し、前記基材34のA層上に、B層としてITO層を厚み500nm狙いで設けた。
【0113】
具体的な操作は以下の通りである。まず、スパッタ電極28にITOのスパッタリングターゲットを設置したスパッタ装置28の巻き取り室22の中で、巻出しロール23に前記基材34のB層を設ける側(A層が形成された側)の面がスパッタ電極28に対向するようにセットし、巻き出し、ガイドロール24,25,26を介して、温度100℃に制御されたメインドラム27に通した。次に、真空ポンプにより、スパッタ装置21内を減圧し、2.0×10-3Pa以下を得た。続いて、真空度5.0×10-1Paとなるように酸素ガス分圧10%としてアルゴンガスおよび酸素ガスを導入し、直流パルス電源によりスパッタ電極28に投入電力1,500Wを印加することにより、アルゴン・酸素ガスプラズマを発生させ、スパッタリングにより前記基材34のA層表面上にITO層を形成した。形成するITO層の厚みは、フィルム搬送速度により調整した。その後、ガイドロール29,30,31を介して巻き取りロール32に巻き取り積層体を得た。
【0114】
続いて、得られた積層体から試験片を切り出し、各種評価を実施した。
【0115】
(実施例7)
B層の形成において、厚み250nm狙いで設けた以外は、実施例6と同様にして積層体を得た。
【0116】
(実施例8)
B層の形成において、厚み10nm狙いで設けた以外は、実施例6と同様にして積層体を得た。
【0117】
(実施例9)
スパッタリングターゲットとしてSnOを用い、アルゴンガスおよび酸素ガスによるスパッタリングを実施し、B層としてSnO層を厚み250nm程度狙いで設けた以外は、実施例6と同様にして積層体を得た。
【0118】
(実施例10)
スパッタリングターゲットとしてZnOを用い、アルゴンガスおよび酸素ガスによるスパッタリングを実施し、B層としてZnO層を厚み250nm程度狙いで設けた以外は、実施例6と同様にして積層体を得た。
【0119】
(実施例11)
スパッタリングターゲットとしてAlを用い、アルゴンガスおよび酸素ガスによるスパッタリングを実施し、B層としてAl層を厚み250nm程度狙いで設けた以外は、実施例6と同様にして積層体を得た。
【0120】
(実施例12)
スパッタリングターゲットとしてCrを用い、アルゴンガスおよび酸素ガスによるスパッタリングを実施し、B層としてCr層を厚み250nm程度狙いで設けた以外は、実施例6と同様にして積層体を得た。
【0121】
(実施例13)
スパッタリングターゲットとしてTiOを用い、アルゴンガスおよび酸素ガスによるスパッタリングを実施し、B層としてTiO層を厚み250nm程度狙いで設けた以外は、実施例6と同様にして積層体を得た。
【0122】
(実施例14)
スパッタリングターゲットとしてNiOを用い、アルゴンガスおよび酸素ガスによるスパッタリングを実施し、B層としてNiO層を厚み250nm程度狙いで設けた以外は、実施例6と同様にして積層体を得た。
【0123】
(比較例1)
B層を形成しない以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0124】
(比較例2)
コート材料として前記ポリウレタン化合物を用い、塗液を基材のアンカーコート層表面にマイクログラビアコーターでの塗布により、図6に示す基材のアンカーコート層表面に、B層としてポリウレタン化合物層を厚み2,000nm狙いで設けた。
【0125】
(比較例3)
スパッタリングターゲットとしてITOを用い、アルゴンガスおよび酸素ガスによるスパッタリング法により、図6に示す基材のアンカーコート層表面に、B層としてITO層を厚み200nm狙いで設けた。
【0126】
【表1】
【0127】
【表2】
【0128】
【表3】
【0129】
実施例1は、B層がポリウレタン系樹脂の膜を形成し、全光線透過率が89.0%以上かつ、平均分光反射率が14.0%以下と良好であるうえ、水蒸気透過率変化も1.0×10-3g/m/day未満と良好である。さらに、結晶化進行評価であるMgO結晶由来の002面のピークのS/Nは2.5未満と良好であった。実施例2は、膜厚が1500nmと厚膜であることから全光線透過率が86.0%以上であったものの、平均分光反射率が14.0%以下と良好であるうえ、水蒸気透過率変化も1.0×10-3g/m/day未満と良好である。さらに、結晶化進行評価であるMgO結晶由来の002面のピークのS/Nは2.5未満と良好であった。また、実施例3は、全光線透過率が90.0%以上かつ、平均分光反射率が14.0%以下と良好であるが、B層の厚みが735nmと薄膜であることから結晶化進行評価であるMgO結晶由来の002面のピークのS/Nは2.5以上5.0未満であった。水蒸気透過率変化は1.0×10-3以上5.0×10―3g/m/day未満である。実施例4は、全光線透過率が89.0%以上かつ、平均分光反射率が14.0%以下と良好であるが、B層の厚みが750nmと薄膜であることから結晶化進行評価であるMgO結晶由来の002面のピークのS/Nは2.5以上5.0未満であったものの、水蒸気透過率変化は1.0×10-3以上5.0×10―3g/m/day未満である。実施例5は、全光線透過率が90.0%以上かつ、平均分光反射率が14.0%以下と良好であるうえ、水蒸気透過率変化も1.0×10-3g/m/day未満と良好である。さらに、結晶化進行評価であるMgO結晶由来の002面のピークのS/Nは2.5未満と良好であった。実施例6~7は、B層がITOの膜を形成し、厚みが異なる場合でも、全光線透過率が86.0%以上と良好であるうえ、水蒸気透過率変化も1.0×10-3g/m/day未満と良好である。さらに、結晶化進行評価であるMgO結晶由来の002面のピークのS/Nは2.5未満と良好であった。実施例8は、全光線透過率が90.0%以上かつ、平均分光反射率が14.0%以下と良好であるが、B層の厚みが20nmと薄膜であることから結晶化進行評価であるMgO結晶由来の002面のピークのS/Nは2.5以上5.0未満であったものの、水蒸気透過率変化は1.0×10-3以上5.0×10―3g/m/day未満である。実施例9~10は、平均分光反射率が14.0%以下と良好であるうえ、質量密度が5.5g/cm以上と高いため、水蒸気透過率変化も1.0×10-3g/m/day未満と良好である。さらに、結晶化進行評価であるMgO結晶由来の002面のピークのS/Nは2.5未満と良好であった。実施例11~12は、B層が腐食性に優れた酸化被膜を形成し、結晶化成長抑制効果として水蒸気透過率変化も1.0×10-3g/m/day未満と良好である。実施例13は、全光線透過率が90.0%以上かつ、平均分光反射率が14.0%以下と良好であるうえ、水蒸気透過率変化も1.0×10-3g/m/day未満と良好である。さらに、結晶化進行評価であるMgO結晶由来の002面のピークのS/Nは2.5未満と良好であった。実施例14は、B層が腐食性に優れた酸化被膜を有するNiOの膜を形成し、水蒸気透過率の低下も10%以下と良好である。さらに、結晶化進行評価であるMgO結晶由来の002面のピークのS/Nは2.5未満であり、水蒸気透過率変化も1.0×10-3g/m/day未満と良好である。
【0130】
比較例1は、全光線透過率および平均分光反射率は良好であるが、B層を形成していないことから、MgOの結晶由来の002面のピークS/Nが5.0以上であり、結晶化成長抑制効果は実施例1~14に劣る。比較例2および比較例3は、全光線透過率および平均分光反射率は良好であるが、緻密性の高い非晶質膜のA層を有していないため、水蒸気透過率は実施例1~14に劣る。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明の積層体は、高い光線透過性およびガスバリア性を両立する点から、電子ペーパー、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイなどの光学素子に好適に用いることができる。加えて、太陽電池やフレキシブルディスプレイにも好適に用いることができるが、用途はこれらに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0132】
1 基材
2 A層
3 アンカーコート層
4 巻き取り式電子線(EB)蒸着装置
5,22 巻き取り室
6,23 巻き出しロール
7,8,9,24,25,26 巻き出し側ガイドロール
10,27 メインドラム
11 ハースライナー
12 蒸着材料
13 電子銃
14 電子線
15,16,17,29,30,31 巻き取り側ガイドロール
18,32 巻き取りロール
19 蒸着材料B
20 蒸着材料C
21 巻き取り式スパッタリング装置
28 スパッタ電極
33 B層
34 表面にA層が形成された基材
図1
図2
図3
図4
図5
図6