(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167538
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】脱落防止具
(51)【国際特許分類】
F16B 41/00 20060101AFI20241127BHJP
F16B 37/12 20060101ALI20241127BHJP
F16B 39/20 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
F16B41/00 A
F16B37/12 Z
F16B39/20 A
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083681
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】317019029
【氏名又は名称】株式会社東京衡機エンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 康之
(72)【発明者】
【氏名】石井 高早
(57)【要約】
【課題】工具を用いてナットと接触するまでねじ込むことができ、確実な取り付けが容易な脱落防止具を提供すること。
【解決手段】所定の方向に巻回したコイル素線で構成される第1のコイルバネ部と、
第1のコイルバネ部を構成するコイル素線の一端と接続する一端を備え、前記所定の方向と同じ方向に略円形状に巻回したコイル素線で構成される第2のコイルバネ部と、
第2のコイルバネ部を構成するコイル素線の他端と接続する一端を備え、前記所定の方向と同じ方向に巻回したコイル素線で構成される第3のコイルバネ部と、
を有し、
第1と第3のコイルバネ部の両方が、複数の頂部が前記第2のコイルバネ部の巻回中心から互いに略同一の距離に配置された多角形状であり、
前記第1~3のコイルバネ部の外接円の径が、第2、第3、第1の順に大きくなる脱落防止具。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の方向に巻回したコイル素線で構成される第1のコイルバネ部と、
第1のコイルバネ部を構成するコイル素線の一端と接続する一端を備え、前記所定の方向と同じ方向に略円形状に巻回したコイル素線で構成される第2のコイルバネ部と、
第2のコイルバネ部を構成するコイル素線の他端と接続する一端を備え、前記所定の方向と同じ方向に巻回したコイル素線で構成される第3のコイルバネ部と、
を有し、
第1と第3のコイルバネ部の両方が、複数の頂部が前記第2のコイルバネ部の巻回中心から互いに略同一の距離に配置された多角形状であり、
前記第1~3のコイルバネ部の外接円の径が、第2、第3、第1の順に大きくなることを特徴とする脱落防止具。
【請求項2】
前記第1のコイルバネ部の他端、前記第3のコイルバネ部の他端のいずれか、または両方が、前記第1のコイルバネ部を構成するコイル素線と前記第3のコイルバネ部を構成するコイル素線の間に位置することを特徴とする請求項1に記載の脱落防止具。
【請求項3】
前記第1のコイルバネ部と前記第3のコイルバネ部とが、三~十二角形のいずれかに巻回されていることを特徴とする請求項1または2に記載の脱落防止具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルトの脱落を防止する脱落防止具に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、建築構造物を構成する二つの部材を固定するための方法として、溶接により固定する方法や、ボルトとナットにより締結する方法が用いられている。溶接による固定は、ガスボンベやバーナー等の設備が必要で施工に手間と時間がかかるので、ボルトとナットにより締結する方法が多く採用されている。ボルトとナットを用いて締結する方法では、締結したナットが振動等を受けて緩むことがあるため、ナットの緩みを防止する脱落防止具が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1、2には、所定の方向に巻回したコイル素線で構成された第1のコイルバネ部と、この第1のコイルバネ部を構成するコイル素線の一端と接続する一端を有し前記所定の方向と同じ方向に巻回したコイル素線で構成されると共に前記第1のコイルバネ部の内接円よりも小さい径を有する第2のコイルバネ部と、前記第1のコイルバネ部のコイル素線の一端と接続した前記第2のコイルバネ部のコイル素線の一端とは反対側の他端と接続する一端を有し前記所定の方向と同じ方向に巻回したコイル素線で構成されると共に、前記第2のコイルバネ部の径よりも大きい内接円を有する第3のコイルバネ部と、を備える脱落防止具の発明が提案されている。
特許文献1、2に記載の脱落防止具は、第2のコイルバネ部をボルトにねじ込み、ナットや被固定物の緩みを防止するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2011/145212号
【特許文献2】特開2016-156482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2に記載の脱落防止具は、第1と第3のコイルバネ部との外接円の径が等しい。そのため、特許文献1、2に記載の脱落防止具をソケットレンチを用いて取り付ける場合、ソケットの奥にまで脱落防止具が入り込んでしまうことがあった。そして、この状態で脱落防止具をボルトにねじ込むと、ソケットの先端がナットに接触してしまうため、脱落防止具をそれ以上ねじこむことができず、脱落防止具がナットと接するまで最後は手で締める必要があった。また、施工者が、脱落防止具とナットとが接していないことに気付かず、確実に取り付けられていない場合があった。
本発明は、工具を用いてナットと接触するまでねじ込むことができ、確実な取り付けが容易な脱落防止具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題を解決するための手段は以下の通りである。
1.所定の方向に巻回したコイル素線で構成される第1のコイルバネ部と、
第1のコイルバネ部を構成するコイル素線の一端と接続する一端を備え、前記所定の方向と同じ方向に略円形状に巻回したコイル素線で構成される第2のコイルバネ部と、
第2のコイルバネ部を構成するコイル素線の他端と接続する一端を備え、前記所定の方向と同じ方向に巻回したコイル素線で構成される第3のコイルバネ部と、
を有し、
第1と第3のコイルバネ部の両方が、複数の頂部が前記第2のコイルバネ部の巻回中心から互いに略同一の距離に配置された多角形状であり、
前記第1~3のコイルバネ部の外接円の径が、第2、第3、第1の順に大きくなることを特徴とする脱落防止具。
2.前記第1のコイルバネ部の他端、前記第3のコイルバネ部の他端のいずれか、または両方が、前記第1のコイルバネ部を構成するコイル素線と前記第3のコイルバネ部を構成するコイル素線の間に位置することを特徴とする1.に記載の脱落防止具。
3.前記第1のコイルバネ部と前記第3のコイルバネ部とが、三~十二角形のいずれかに巻回されていることを特徴とする1.または2.に記載の脱落防止具。
【発明の効果】
【0007】
本発明の脱落防止具は、一方(第1)のコイルバネ部の外接円の径が、他方(第3)のコイルバネ部の外接円の径よりも大きく、ソケットに小さい方(第3)のコイルバネ部を嵌めたときに、大きい方(第1)のコイルバネ部はソケットに嵌まらない。本発明の脱落防止具は、ソケットレンチ等の工具のみを用いてナットに接触するまで確実に取り付けることができるため施工性に優れ、取り付けの手間を大幅に減らすことができる。本発明の脱落防止具は、工具のみで確実に取り付けられるため、取り付け時間を短くすることができる。脱落防止具は、鉄塔や橋梁等に大量に用いられるものであるため、本発明の脱落防止具を用いることにより、工期の短縮が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第一実施態様の脱落防止具を軸方向から見た図(A)と径方向((A)の黒矢印方向)から見た図(B)。
【
図3】ソケットに第一実施態様の脱落防止具を嵌める様を示す図。
【
図4】ソケットに第一実施態様の脱落防止具を嵌めた状態を示す図。
【
図5】ソケットに嵌めた第一実施態様の脱落防止具の撮影画像。
【
図6】第一実施態様の脱落防止具の取り付け方法を説明するための図。
【
図7】第一実施態様の脱落防止具の取り付け方法を説明するための図。
【
図8】第一実施態様の脱落防止具の取り付け方法を説明するための図。
【
図9】第一実施態様の脱落防止具をボルトに装着した状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、軸方向、径方向は、本発明の脱落防止具をボルト軸に取り付けたときのボルト軸方向、ボルト軸の径方向を意味する。また、「A~B」(A、Bは数値)との表記は、両端を含む数値範囲、すなわち、A以上B以下を意味する。
以下、本発明の脱落防止具について図面を参照しながら説明する。
本発明の第一実施態様である脱落防止具10の軸方向(A)、径方向(B)から見た図を
図1に、撮影画像を
図2に示す。
図1(A)は第3のコイルバネ部側から見た図であり、
図1(B)は
図1(A)の黒矢印方向から見た図である。
【0010】
第一実施態様である脱落防止具10は、
略六角形状に巻回したコイル素線で構成された第1のコイルバネ部1と、
第1のコイルバネ部1を構成するコイル素線の一端と接続する一端を備え、同じ方向に略円形状に巻回したコイル素線で構成される第2のコイルバネ部2と、
第2のコイルバネ部2の他端と接続する一端を備え、同じ方向に略六角形状に巻回したコイル素線で構成される第3のコイルバネ部3とを有する。
【0011】
脱落防止具10は、断面形状が円形のコイル素線から形成されている。本発明の脱落防止具において、コイル素線の断面形状は特に限定されず、例えば、略円形や略四角形の鋼線を用いることができる。コイル素線とネジ溝とが角で接触せず、コイル素線がネジ溝に嵌まりやすく、摩耗しにくいため、コイル素線は、断面形状が略円形の鋼線や丸鋼を用いることが好ましい。略円形状とは、円形(真円)に限定されず、楕円形、卵型であってもよい。コイル素線の外径は、ボルトのネジ溝に嵌ることができる大きさであればよい。すなわち、ボルトのネジ溝の両面に接触することのできる径であればよく、ネジ溝の深さの20~80%の径を有することが好ましく、30~70%の径を有することがより好ましい。
【0012】
脱落防止具10は、時計回りの方向に回された場合に、ボルトの脚部からボルトの頭部に向けて嵌り込む方向に巻回されている。脱落防止具10は、軸方向に折り返すこと無く一方向のみに巻回されているため、製造が容易である。
脱落防止具10において、第1と第3のコイルバネ部1、3は略六角形状であるが、両方の六角形の全頂部が第2のコイルバネ部2の巻回中心から互いに略同一の距離に配置された略正六角形状である。なお、本明細書において、コイルバネ部の形状とは軸方向からみた形状を意味する。
本発明の脱落防止具において、第1と第3のコイルバネ部1、3の形状はソケットに嵌めることができるものであればよく、例えば、三~十二角形とすることができ、その多角形状は正多角形に限定されない。第1と第3のコイルバネ部の形状は、汎用されているソケットへ装着可能な点から三、六、十二角形が好ましく、正六角形または正十二角形がより好ましい。また、第1と第3のコイルバネ部の形状は、同一の多角形(相似形)でもよく、異なる多角形でもよい。
【0013】
脱落防止具10は、第2のコイルバネ部2をボルト軸にねじ込むことにより、ボルトに装着される。第2のコイルバネ部2の巻数は特に制限されないが、2巻以上が好ましく、2.5巻以上がより好ましく、3巻以上がさらに好ましい。巻数が長くなるほど、脱落防止具とボルトとの接触面積が増えて摩擦が大きくなるため、脱落防止性が向上する。巻数の上限は制限されないが、多くなると脱落防止具が嵩高くなるため、5巻以下が好ましく、4.5巻以下がより好ましく、4巻以下がさらに好ましく、3.5巻以下がよりさらに好ましい。
【0014】
第2のコイルバネ部2において、少なくとも第1のコイルバネ部1側である一端側を除く大部分の領域は、その内径が装着するボルト脚部の外径よりも僅かに小さく、かつ、ネジ溝の底部が形成する円の径よりも大きくなるように形成される。そして、第2のコイルバネ部2の第1のコイルバネ部1側である一端側は、徐々に曲率半径が大きくなるように形成されている。脱落防止具10は、ボルトに最初にねじこまれる部分(第2のコイルバネ部2の第1のコイルバネ部1側)の径が僅かに大きくなるように形成されているため、ボルトにねじ込む当初に小さな力でねじ込むことができ、施工性に優れている。また、最初にねじ込まれる部分の径が僅かに大きくなるように形成されることにより、ネジ溝の端部(ボルト先端部分)と、第2のコイルバネ部2とが嵌りやすいため、ボルト脚部の直径の誤差、ネジ溝端部の位置に関わらず、ボルトに装着するのが容易である。曲率半径が大きくなる部分は、1/4巻以上1巻以下が好ましく、2/4巻以上がより好ましく、3/4巻以上がよりさらに好ましい。
【0015】
脱落防止具において、第2のコイルバネ部2の第3のコイルバネ部3側である他端側の曲率半径は、第2のコイルバネ部2の大部分の領域の曲率半径と同一でもよく、他端にかけて徐々に大きくなってもよい。第2のコイルバネ部2の両端を曲率半径が大きくなるように形成すると、ボルト装着時に第2のコイルバネ部2の両端がネジ溝から離れて僅かに浮かぶようになる。そして、脱落防止具をボルトに装着した時に第2のコイルバネ部の両端がネジ溝から浮いていると、浮いた部分は径方向に変形可能であるため、バネ弾性を発揮する。そして、このバネ弾性により、ナットや被固定物からの衝撃が吸収、減衰されるため、本発明の脱落防止具は振動等により力が加わっても金属疲労が起きにくく破断を防ぐことができる。
【0016】
図1(B)に示すように、脱落防止具10は、第1~3のコイルバネ部1、2、3の外接円の径をそれぞれR1、R2、R3としたときに、その外接円の径が第2、第3、第1の順に大きく、すなわち、R2<R3<R1を満足する。R3はR2の1.02倍以上が好ましく、1.04倍以上がより好ましく、1.06倍以上がさらに好ましく、1.08倍以上がよりさらに好ましく、1.1倍以上がよりさらに好ましい。R1はR3の1.02倍以上が好ましく、1.04倍以上がより好ましく、1.06倍以上がさらに好ましく、1.08倍以上がよりさらに好ましく、1.1倍以上がよりさらに好ましい。
【0017】
・脱落防止具の取付方法
第一実施態様である脱落防止具10を取り付ける方法を図を用いながら順に説明する。
脱落防止具10を第3のコイルバネ部3側からソケットSに嵌め込む(
図3)。脱落防止具10は、R3<R1を満足することにより、第3のコイルバネ3をソケットSに嵌めた際に、第1のコイルバネ部1はソケットS内部に入り込まない(
図4、5)。第3のコイルバネ部は多角形状であるが、その径がJIS B1181:2014に規定された六角ナットに対応するソケットに嵌合可能であることが、汎用されているソケットを用いて取付可能であるため好ましい。
【0018】
ソケットレンチ等の工具(図示せず)を用いて、ソケットSに嵌めた脱落防止具10をボルト軸Bにねじ込み、取り付ける(
図6、7)。
所定のトルクでソケットを回転させ、脱落防止具10をボルト軸Bにねじ込む。脱落防止具10の第1のコイルバネ部1はソケットS内に嵌っていないため、第1のコイルバネ部1がナットNに接触するまで、工具のみを用いて確実に取り付けることができる(
図8、9)。
【0019】
・脱落防止具の取外し方法
取り付けた脱落防止具10は、第1のコイルバネ部1のサイズに合ったソケットを用い、取付時と逆方向に回転することにより取り外すことができる。第1のコイルバネ部1は多角形状であるが、その径がJIS B1181:2014に規定された六角ナットに対応するソケットに嵌合可能であることが、汎用されているソケットを用いて取外し可能であるため好ましい。
【0020】
「他の実施態様」
本発明の脱落防止具は、上記した第一実施態様に限定されない。例えば、第1のコイルバネ部と第3のコイルバネ部のいずれか、または両方を、第2のコイルバネ部2に対して折り返すように巻き回すこともできる(特許文献2の
図1、2参照)。このように構成することにより、脱落防止具をよりコンパクトにすることができる。
【符号の説明】
【0021】
10 脱落防止具
1 第1のコイルバネ部
2 第2のコイルバネ部
3 第3のコイルバネ部
S ソケット
B ボルト軸
N ナット