(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167543
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】ノイズ解析方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/398 20200101AFI20241127BHJP
G01R 31/00 20060101ALI20241127BHJP
G06F 119/10 20200101ALN20241127BHJP
G06F 115/12 20200101ALN20241127BHJP
【FI】
G06F30/398
G01R31/00
G06F119:10
G06F115:12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083692
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】古川 和樹
(72)【発明者】
【氏名】増田 直
(72)【発明者】
【氏名】富士岡 友也
【テーマコード(参考)】
2G036
5B146
【Fターム(参考)】
2G036AA10
2G036BB12
5B146AA22
5B146GL07
5B146GL10
(57)【要約】
【課題】ノイズを解析するノイズ解析方法を提供する。
【解決手段】ノイズ解析方法は、基板に形成する回路の回路情報を取得する取得ステップ(#21)と、回路情報に基づいて、基板に含まれる閉回路及び伝搬回路を抽出する抽出ステップ(#22)と、抽出した閉回路及び伝搬回路を等価回路に変換する変換ステップ(#23)と、等価回路に基づいて、回路パラメータを算定するパラメータ算定ステップ(#24)と、回路パラメータに基づいて、観測点を設定する設定ステップと、観測点で観測したノイズを算定するノイズ算定ステップと、算定したノイズを、閉回路及び伝搬回路の評価基準に基づいて評価する評価ステップと、を含む。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノイズを解析するノイズ解析方法であって、
基板に形成する回路の回路情報を取得する取得ステップと、
前記回路情報に基づいて、前記基板に含まれる閉回路及び伝搬回路を抽出する抽出ステップと、
抽出した前記閉回路及び前記伝搬回路を等価回路に変換する変換ステップと、
前記等価回路に基づいて、回路パラメータを算定するパラメータ算定ステップと、
前記回路パラメータに基づいて、観測点を設定する設定ステップと、
前記観測点で観測したノイズを算定するノイズ算定ステップと、
算定した前記ノイズを、前記閉回路及び前記伝搬回路の評価基準に基づいて評価する評価ステップと、
を含むノイズ解析方法。
【請求項2】
前記回路パラメータとして、前記閉回路及び前記伝搬回路の等価回路におけるZパラメータと前記伝搬回路の等価回路におけるSパラメータとが算定される請求項1に記載のノイズ解析方法。
【請求項3】
前記評価基準として、前記Zパラメータと前記Sパラメータとにより算定したノイズの夫々に許容値が設定される請求項2に記載のノイズ解析方法。
【請求項4】
前記評価基準は、前記ノイズを発信するノイズ源を示すノイズ源情報及び前記ノイズを受信する最終ノイズ情報に基づいて設定される請求項1から3のいずれか一項に記載のノイズ解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノイズを解析するノイズ解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回路が形成された基板が利用されており、例えばスイッチング素子や発振器等のように振幅する信号を出力する部品が基板内に実装される場合がある。このような部品が実装される基板では、スイッチングノイズや発振時のノイズ(以下「ノイズ」とする)が生じるため、基板の周囲の装置(例えばラジオやディスプレイ等)の出力に影響を与えないかを試験にて必ず確認する必要がある。また、設計段階で不要なノイズを低減することが望まれる。このようなノイズを簡易に解析する技術として、例えば下記に出典を示す特許文献1に記載のものがある。
【0003】
特許文献1には、ノイズ解析方法について記載されている。このノイズ解析方法では、回路情報を取得するステップと、回路情報からスイッチング素子を含む閉回路の情報を抽出するステップと、閉回路の情報のうち、スイッチング素子の情報を等価回路の情報に置き換えることにより、閉回路の情報を等価閉回路情報とするステップと、等価閉回路情報に基づいて、観測点を設定するステップと、等価閉回路情報が示す回路について観測点で観測した場合のノイズ量を算出するステップと、をコンピュータが実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のノイズ解析方法では、基板に含まれる回路のうち、閉回路に関してノイズ量を算出している。しかしながら、実際のノイズ試験においては、閉回路のノイズ量を測定しているのではなく、閉回路の先にある回路を伝搬した際のノイズ量を最終的に測定している。この閉回路から最終ノイズの測定点までの回路のことをここでは伝搬回路と称す。この伝搬回路によってノイズ量が減少または増加することに加えて、閉回路と伝搬回路の相互作用によってもノイズ量が変化する場合がある。よって、ノイズ試験として良否判定する場合は、閉回路だけでなく伝搬回路も含めたノイズ解析を行う必要がある。このため、特許文献1に記載のノイズ解析方法では、精度よくノイズ解析を行うことができず、最終的には実機を用いたノイズ試験によりノイズの良否を見極めることになる。また、実機を用いたノイズ試験によりノイズの良否を見極めるので、ノイズが規格を満足しない場合に備えて、ノイズ対策部品の実装スペースや基板周囲のGND配線スペースを確保しておかなければならず、本来不要な面積を有するため、基板を小型化することができない。
【0006】
そこで、伝搬回路を含めてノイズを精度よく解析することが可能なノイズ解析方法が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るノイズ解析方法の特徴構成は、ノイズを解析するノイズ解析方法であって、基板に形成する回路の回路情報を取得する取得ステップと、前記回路情報に基づいて、前記基板に含まれる閉回路及び伝搬回路を抽出する抽出ステップと、抽出した前記閉回路及び前記伝搬回路を等価回路に変換する変換ステップと、前記等価回路に基づいて、回路パラメータを算定するパラメータ算定ステップと、前記回路パラメータに基づいて、観測点を設定する設定ステップと、前記観測点で観測したノイズを算定するノイズ算定ステップと、算定した前記ノイズを、前記閉回路及び前記伝搬回路の評価基準に基づいて評価する評価ステップと、を含む点にある。
【0008】
このような特徴構成とすれば、基板に形成する回路の回路情報に基づいて、閉回路だけでなく、伝搬回路も考慮してノイズを算定し、この算定結果に基づいてノイズの良否を見極めることで、基板の作製前であっても、ノイズを精度よく解析することができる。また、ノイズが試験規格を満たすように基板を設計することができるので、基板に対してノイズを低減するための対策部品を実装するスペースや基板周囲にGND配線するスペースを余分に設ける必要がない。したがって、基板の小型化を行うことが可能となる。
【0009】
また、前記回路パラメータとして、前記閉回路及び前記伝搬回路の等価回路におけるZパラメータと前記伝搬回路の等価回路におけるSパラメータとが算定されると好適である。
【0010】
Zパラメータは、ノイズ源と回路との接続点を端子とした一端子対回路にて表現され、ノイズ源の直近でどれだけノイズを閉じ込めることができるかを示すパラメータになる。また、Sパラメータは、ノイズ源と回路との接続点の端子と、最終ノイズの測定点と回路との接続点の端子とで構成される二端子対回路にて表現され、ノイズ源から最終ノイズの測定点までの伝搬回路にて、どれだけノイズを減衰させることができるかを示すパラメータになる。そこで、このようなZパラメータ及びSパラメータによる回路パラメータにて、閉回路だけでなく伝搬回路も含めたノイズ解析(最終ノイズの解析)を行う構成とすれば、ノイズを精度よく算定することが可能となる。
【0011】
また、前記評価基準として、前記Zパラメータと前記Sパラメータとにより算定したノイズの夫々に許容値が設定されると好適である。
【0012】
このような構成とすれば、ZパラメータとSパラメータとを個別に、算定したノイズが許容されるか否かを評価することができる。したがって、基板の作製前に、ノイズを低減すべき部位を特定できるので、基板の設計段階において、発生するノイズを低減するような対策を施し易くなる。
【0013】
また、前記評価基準は、前記ノイズを発信するノイズ源情報及び前記ノイズを受信する最終ノイズ情報に基づいて設定されると好適である。
【0014】
このような構成とすれば、基板の作製前の段階で、基板の作製後に行うノイズの測定試験の状況を考慮して、ノイズを評価することができる。したがって、基板の作製前に、算定したノイズを低減するための対策が必要あるか否かを把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図3】Zパラメータによる解析結果を示す図である。
【
図4】Sパラメータによる解析結果を示す図である。
【
図5】ノイズ解析方法を用いた基板の小型化について示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係るノイズ解析方法によれば、ノイズを解析することが可能である。ここで、各種装置やデバイスでは、導電層と絶縁層とが交互に積層され、この導電層に電気回路(以下、電子回路を含む)が設けられる基板が用いられる。このような基板には、例えばECU(Electronic Control Unit)が実装されているものがある。このようなECUから外部へノイズが出ると、例えばAMラジオやFMラジオへ雑音が混入したり、他の無線システムに影響を与えたりする可能性がある。一方、外部(例えば携帯端末や航空レーダや静電気等)からECUへノイズが入ると、ECUを含む製品が誤動作する可能性がある。このため、ECUから外部へ出るノイズの影響や、外部から入るノイズがECUに与える影響が規格値以下であることを試験にて必ず確認する。そのため、ノイズを発信するノイズ源の情報と、ノイズを受信する最終ノイズの情報を取得することが必要である。加えて、ノイズ源から最終ノイズの測定点までのノイズ経路に相当する回路の情報を取得することが重要である。
【0017】
ノイズ経路に相当する回路とは、回路図に示されている理想状態のRLCだけでなく、寄生成分を含めたRLC等価回路のことを指している。この寄生成分には、素子のパッケージやリード、基板パターン配線などが含まれる。また、ノイズ経路に相当する回路は、例えばECUの場合、主に素子を実装したプリント基板がノイズ解析対象となる。他にも、プリント基板以外にも、基板を取り囲む筐体、基板と接続するコネクタや試験ハーネスなどを解析対象に含めることも可能である。ただし、解析対象の範囲を拡大することで精度向上にはつながるが解析時間が増大してしまうため、ここでは基板を主とした解析を前提とする。
【0018】
このような基板を作製する場合には、配線やランド等を配置するパターン設計が行われるが、このパターン設計の前に回路設計が行われる。ノイズ解析を行うコンピュータ(例えば「ノイズ解析装置」)に、本ノイズ解析方法に従って処理を実行させることで、基板の作製を行う前に、精度よくノイズを解析することが可能となる。本実施形態では、ノイズ源と最終ノイズの情報を取得することでノイズの許容値を設定する解析方法と、ノイズ経路に相当する回路の情報を取得し等価回路に変換した上でノイズを算定する解析方法とで構成される。これにより、許容値に基づくノイズの良否判定を、基板作製前の設計段階で行うことが可能となる。以下、本実施形態のノイズ解析方法について説明する。
【0019】
図1A及び
図1Bは、本実施形態のノイズ解析方法を説明する図である。以下では、
図1A及び
図1Bを
図1と総称し、この
図1に基づいてノイズ解析方法について説明するが、以下の記載に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形(例えば、順番を入れ替える等)が可能である。なお、
図1Aの「A」及び「B」は、夫々、
図1Bの「A」及び「B」と接続されているものとする。
【0020】
本実施形態では、まず、ノイズを発信するノイズ源情報を取得する(#11)。基板とは、上述したように例えばプリント基板が相当する。基板は、例えば2層基板であってもよいし、4層以上の基板であってもよい。基板には電気回路がパターニングされる。このような電気回路には、アナログ回路及びデジタル回路の双方が含まれる。アナログ回路には、例えば電源回路やインバータ回路や変調回路等が含まれ、デジタル回路には、例えばフリップフロップやシフトレジスタや加算器等が含まれる。
【0021】
ノイズ源とは、例えば所定の周期で駆動されるスイッチング素子や、所定の周期で振幅する信号を出力する発振器が相当する。ノイズ源情報とは、このようなノイズ源の出力を示す情報や、ノイズ源の動作条件が相当する。ノイズ源の出力を示す情報とは、例えは周期、立ち上がり時間、立ち下がり時間、オンDUTY比を示す情報等が相当する。また、ノイズ源の動作条件とは、印加される電源電圧の電圧値や、入力電流の電流値や周期や、負荷電流の電流値や周期等が相当する。このようなノイズ源情報は、例えばノイズ解析装置にユーザが入力するように構成してもよいし、ノイズ源情報が記憶されたノイズ源情報記憶部から取得するように構成してもよい。このようなノイズ源情報を取得する工程は、ノイズ解析方法において、ノイズ源情報取得ステップと称することが可能である。
図1の(#11)の枠内には、ノイズ源情報の一例として、波形動作条件(時間の経過に伴って振幅する電圧波形)が示される。
【0022】
次に、ノイズを受信する最終ノイズ情報を取得する(#12)。最終ノイズ情報とは、実際に基板を用いて行うノイズの測定試験を示す試験条件及び試験規格が相当する。実際に基板を用いて行うノイズの測定試験とは、電気回路がパターニングされた基板を用いて行う実機によるノイズの測定試験である。試験条件とは、実機を用いて行う測定試験の試験環境(温度、湿度、周囲に設けられる装置の種別等)や、測定方法を示す試験条件である。試験規格とは、CISPR(国際無線障害特別委員会)で規定されるような測定対象となる周波数帯域や、ノイズ量の規格(ノイズレベル)を示す情報である。このような試験条件及び試験規格を取得する工程は、ノイズ解析方法において、最終ノイズ情報取得ステップと称することが可能である。
図1の(#12)の枠内には、最終ノイズ情報の一例として、周波数帯域毎のノイズ量の規格が示される。
【0023】
なお、#11のノイズ源情報取得ステップと、#12の最終ノイズ情報取得ステップとは、ノイズ解析方法を実行するにあたり、いずれか一方を先に行うように構成してもよいし、双方を並行して行うように構成してもよい。
【0024】
続いて、ノイズ解析方法によりノイズを解析する際のノイズの許容値を設定する(#13)。ノイズの許容値とは、生じるノイズが改善すべきか否かを判定する判定閾値に相当する。このような許容値は、上述したノイズ源情報及び最終ノイズ情報に基づいて設定される。具体的には、周波数帯域毎に、例えば3段階のレベル(
図1では、「L1」、「L2」、「L3」で示している)で設定することが可能である。また、基板に形成する回路に応じて設定することも可能である。基板に形成する回路とは、後述するように測定対象の基板にパターニングされる回路である。このような回路は、後述する取得ステップにおいて取得する回路情報により特定可能である。このため、本ノイズの許容値の設定は、後述する取得ステップより後に行ってもよい。このようなノイズの許容値を設定する工程は、ノイズ解析方法において、ノイズ許容値設定ステップと称することが可能である。
図1の(#13)の枠内には、設定された許容値の一例として、3つの周波数帯域毎に設定された3段階のレベルが示される。
【0025】
上述した#11のノイズ源情報取得ステップと#12の最終ノイズ情報取得ステップと#13のノイズ許容値設定ステップとの後、或いは、#11のノイズ源情報取得ステップと#12の最終ノイズ情報取得ステップと#13のノイズ許容値設定ステップとの前、更には、#11のノイズ源情報取得ステップと#12の試験情報取得ステップと#13のノイズ許容値設定ステップとの一連のステップと並行して、基板に形成する回路の回路情報を取得する取得ステップ(#21)が実行される。
【0026】
基板に形成する回路とは、上述したように、ノイズ源から最終ノイズの測定点までのノイズ経路が相当する。例えばECUの場合、基板内のスイッチング素子がノイズ源、基板内のコネクタ接続用ランドが最終ノイズの測定点、基板内の素子およびパターニングされた配線がノイズ経路となる。取得ステップでは、回路設計で使用されるCAD装置により作製された回路データ(回路図)が読み込まれ、回路情報を取得する。回路情報は、CAD装置で回路図を作製する際に回路図に含むように構成してもよいし、読み込まれた回路データを解析して取得してもよい。
図1の(#21)の枠内には、取得された回路情報の一例として、ノイズ源である交流電源とノイズ経路である並列に接続された2つのコンデンサとからなる回路が示される。
【0027】
次に、取得ステップにおいて取得した回路情報に基づいて、閉回路及び伝搬回路を抽出する抽出ステップ(#22)が実行される。閉回路とは、取得した回路情報による電気回路がパターニングされる基板において、電流が流れる電流経路がループ状に形成されている(完結する)回路である。
【0028】
図2は、閉回路及び伝搬回路を説明する図である。
図2には、ノイズ源である部品A、ノイズ対策部品である部品B、伝搬回路上に実装された部品C、及び最終ノイズの測定点であるコネクタDが実装された基板Eのイメージ図が示される。部品Aは基板EのランドA1,A2に実装され、部品Bは基板EのランドB1,B2に実装され、部品Cは基板EのランドC1,C2に実装されている。また、コネクタDは、ランドD1,D2に実装されている。
【0029】
ランドA1とランドB2とランドC2とランドD2とは、互いに基板Eの導体層E1を介して電気的に接続されている。また、ランドA2とランドB1とランドC1とランドD1とは、導体層E2を介して電気的に接続されている。
【0030】
このような構成において、基板Eには、
図2において白抜き矢印で示される閉回路と、黒塗り矢印で示される伝搬回路とが形成される。
【0031】
図1の(#22)の枠内には、
図2で示される基板Eから抽出された閉回路と伝搬回路とが示される。閉回路は、ノイズ源に並列に接続された1つのコンデンサ(部品Bに相当)を含んでおり、伝搬回路は、ノイズ源に並列に接続された2つのコンデンサ(部品B及び部品Cに相当)を含んでいる。抽出ステップでは、このような閉回路及び伝搬回路が抽出される。
【0032】
続いて、抽出ステップにおいて抽出した閉回路及び伝搬回路を等価回路に変換する変換ステップが実行される(#23)。等価回路とは、ノイズの解析を行い易いように構成を簡素化した回路であり、回路図に示されている理想状態のRLCだけでなく、寄生成分を含めたRLC等価回路のことを指している。この寄生成分には、素子のパッケージやリード、基板パターン配線などが含まれる。変換ステップでは、素子の寄生成分を含むSPICEモデルと、基板パターン配線の寄生成分を含む電磁界モデルを用いることで、閉回路と伝搬回路をRLC等価回路にて表現する。
図1の(#23)の枠内には、等価回路の一例として、上述したコンデンサに加えて、閉回路の等価回路と伝搬回路の等価回路との夫々のインダクタンス成分が示される。
【0033】
次に、変換された等価回路に基づいて、回路パラメータを算定するパラメータ算定ステップが実行される(#24)。回路パラメータとは、所定の入力と出力とがある場合において、回路に当該入力を与えたときに、当該回路から当該出力を行うことが可能な機能を規定したパラメータである。このような回路パラメータとして、例えばZパラメータや、Yパラメータや、Hパラメータや、Gパラメータや、Fパラメータや、Sパラメータがある。本実施形態では、パラメータ算定ステップにおいて、回路パラメータとして、これらのパラメータのうちZパラメータとSパラメータとが算定される。
【0034】
本実施形態では、閉回路ではZパラメータを用いてノイズの解析が行われる。Zパラメータとは、ノイズ源と回路との接続点を端子とした一端子対回路にて表現され、ノイズ源の直近でどれだけノイズを閉じ込めることができるかを示すパラメータである。このようなZパラメータを用いて解析した閉回路のインピーダンス特性は、横軸が周波数〔Hz〕、縦軸がインピーダンス〔Ω〕で表現される。特に高周波においては、インダクタンス成分の右肩上がりの特性が支配的となり、閉回路におけるインダクタンスの合計値であるループインダクタンスを低減することが重要である。ループインダクタンスを低減することで、ノイズ源を含む閉回路にてノイズを閉じ込めることが可能となるからである。
【0035】
閉回路のループインダクタンスの合計値をL、閉回路内を流れる電流をIとすると、ループインダクタンスに生じる電位差Vは、(1)式で示される。
【数1】
(1)式により、ループインダクタンスを低減することで、ノイズを閉回路内に閉じ込め、ノイズ量を小さくする(伝搬ノイズを低減する)ことが可能となる。
【0036】
一方、伝搬回路ではSパラメータを用いてノイズの解析が行われる。Sパラメータとは、ノイズ源と回路との接続点の端子と、最終ノイズの測定点と回路との接続点の端子とで構成される二端子対回路にて表現され、ノイズ源から最終ノイズの測定点までの伝搬回路にて、どれだけノイズを減衰させることができるかを示すパラメータである。
【0037】
二端子対回路における入力電圧をVinとし、二端子対回路における出力電圧をVoutとすると、減衰特性(「インサーションロス」ともいう)ILは、(2)式で示される。
【数2】
このようなSパラメータを用いて解析した伝搬回路のインピーダンス特性は、横軸が周波数〔Hz〕、縦軸が減衰特性〔dB〕で表現される。一般的に、フィルタ回路により特定の周波数帯域の減衰特性を低減する手法が使用されるが、伝搬回路における減衰特性は回路素子や基板の寄生成分を含めたRLC等価回路におけるインピーダンス共振が生じることでノイズ量が増加することがあるため、その共振の要因を特定し抑止することが重要である。(2)式により求められる減衰特性を低減することで、ノイズが通過する伝搬回路にてノイズを減衰させることが可能となる。なお、減衰特性はFパラメータでも算出することが可能であるが、ここでは簡易に求めることができるSパラメータを適用する。
【0038】
本実施形態では、閉回路及び伝搬回路の等価回路におけるZパラメータが算定され、伝搬回路の等価回路におけるSパラメータが算定される。すなわち、Zパラメータは、閉回路及び伝搬回路を総合的に見た場合の等価回路における回路パラメータが算定される。また、Sパラメータは、伝搬回路のみの等価回路における回路パラメータが算定される。したがって、上述した変換ステップでは、閉回路及び伝搬回路を総合的に見た場合の等価回路と、伝搬回路のみの等価回路とに変換するとよい。
図1の(#24)の枠内には、Zパラメータを算定した閉回路及び伝搬回路が示されると共に、Sパラメータを算定した伝搬回路が示される。
【0039】
次に、パラメータ算定ステップにおいて算定した回路パラメータに基づいて、観測点を設定する設定ステップが実行される(#25)。観測点とは、ノイズの解析において、ノイズを観測する位置に相当する。本実施形態では、
図1の(#25)の枠内に示されるように、閉回路の観測点としてP1a及びp1bが設定され、伝搬回路の観測点としてP1a,P1b,P2a,及びP2bが設定されている。
【0040】
次に、設定ステップにおいて設定された観測点で観測したノイズを算定するノイズ算定ステップが実行される(#26)。本実施形態では、ノイズの算定に、回路パラメータとして上述したようにZパラメータとSパラメータとが用いられる。ノイズ算定ステップでは、ノイズ解析装置が、閉回路及び伝搬回路の等価回路から算定したZパラメータと、伝搬回路の等価回路から算定したSパラメータとを用いて、ノイズの解析を行う。
【0041】
図3には、Zパラメータを用いて行った閉回路及び伝搬回路のノイズの解析結果が示され、
図4には、Sパラメータを用いて行った伝搬回路のノイズの解析結果が示される。
図3では、横軸を周波数〔Hz〕とし、縦軸をインピーダンス〔Ω〕としている。また、
図4では、横軸を周波数〔Hz〕とし、縦軸を減衰特性〔dB〕としている。なお、
図3及び
図4で示される解析結果は一例であり、上述した回路情報や等価回路が変われば、例えば
図1の(#25)の枠内に示されるZパラメータによる解析(Z解析)及びSパラメータによる解析(S解析)のように、解析結果も変わる。
【0042】
図1に戻り、続いて、ノイズ算定ステップにおいて算定したノイズを、閉回路及び伝搬回路の評価基準に基づいて評価する評価ステップが実行される(#31)。評価基準とは、基板に対して許容されるノイズの許容値である。本実施形態では、評価基準として、ZパラメータとSパラメータとにより算定したノイズの夫々に許容値が設定される。評価基準は、ノイズ源情報及び最終ノイズ情報に基づいて設定される。ノイズ源情報とは、ノイズのノイズ源を示す情報であって、#11におけるノイズ源情報取得ステップにおいて取得される。また、最終ノイズ情報とは、実際に基板を用いて行うノイズの測定試験を示す情報であって、上述した#12における最終ノイズ情報取得ステップにおいて取得される。
図1の(#31)の枠内には、Zパラメータを用いて評価したノイズの解析結果(Z解析の結果)、及びSパラメータを用いて評価したノイズの解析結果(S解析の結果)と、周波数帯毎に設定された許容値とが示される。
【0043】
ここで、本実施形態では、上述した(#26)におけるノイズ算定ステップでは、閉回路及び伝搬回路の等価回路から算定したZパラメータと、伝搬回路の等価回路から算定したSパラメータとを用いて、ノイズの解析を行い、ノイズを評価する。このため、評価ステップでは、Zパラメータを用いて算定したノイズが評価基準を満足するか否か、また、Sパラメータを用いて算定したノイズが評価基準を満足するか否かが判定される。
【0044】
評価ステップでは、上述した2つのノイズが、共に評価基準を具備する場合(すなわち、ノイズレベルが許容値以下である場合)に「良」判定となり、ノイズが評価基準を満足することを通知する(#32)。一方、2つのノイズのうちの少なくともいずれか一方が、評価基準を満足しない場合に(すなわち、ノイズレベルが許容値より大きい場合)に「否」判定となり、ノイズが評価基準を満足しないことを通知する(#32)。
【0045】
ノイズ解析方法では以上のように、ZパラメータとSパラメータとを用いてノイズを評価する。これにより、
図5の(A)に示されるように、従来の手法(特許文献1)では、基板の一部をノイズの解析対象とし、ノイズ対策部品を実装する領域を設けておく必要があったが(
図5の(A)における「本来不要な領域」に相当)、
図5の(B)に示されるように、本実施形態では、基板を作製する前に、回路情報に基づいて、閉回路だけでなく、伝搬回路も考慮してノイズを算定し(すなわち、ノイズ経路全体を「解析対象」してノイズを算定し)、この算定結果に基づいてノイズの良否を見極めることで、基板の作製前であっても、ノイズを精度よく解析することができる。また、ノイズが試験規格を満たすように基板を設計することができるので、基板に対してノイズを低減するための対策部品を実装するスペースや基板周囲にGND配線するスペースを余分に設ける必要がない。したがって、
図5の(C)に示されるように、基板の小型化を行うことが可能となる。また、基板の作製前にノイズの良否を見極めることができるので、ノイズ量に起因した基板の作り直しによる余計なコストアップを防止できる。
【0046】
以上のようなノイズ解析方法は、ノイズ解析を行うコンピュータ(例えば「ノイズ解析装置」)に実行させることで、基板の作製を行う前に、精度よくノイズを解析することが可能である。
【0047】
〔その他の実施形態〕
上記実施形態では、回路パラメータとして、閉回路及び伝搬回路の等価回路におけるZパラメータと伝搬回路の等価回路におけるSパラメータとが算定されるとして説明した。しかしながら、Zパラメータに代えて、Fパラメータや、Yパラメータや、Hパラメータや、Gパラメータを用いることも可能である。
【0048】
上記実施形態では、評価基準として、ZパラメータとSパラメータとにより算定したノイズの夫々に許容値が設定されるとして説明した。しかしながら、評価基準として、ZパラメータとSパラメータとにより算定したノイズの許容値を、1つの許容値で設定することも可能であるし、Zパラメータにより算定したノイズの許容値とSパラメータにより算定したノイズの許容値のうちのいずれか一方のみに許容値を設定するように構成することも可能である。
【0049】
上記実施形態では、評価基準は、ノイズを発信するノイズ源を示すノイズ源情報及び実際に基板を用いて行うノイズの測定試験を示す最終ノイズ情報に基づいて設定されるとして説明した。しかしながら、評価基準を、このような絶対値で定めるのではなく、相対値で設定することも可能である。
【0050】
上記実施形態では、単一の基板を例に挙げて説明した。しかしながら、ノイズ解析方法によれば、2以上の基板において、ノイズを解析することも可能である。この場合、例えば複数の基板を用いて立体構造を組んだ構造体におけるノイズの解析に対しても適用可能である。
【0051】
上記実施形態では、コンピュータに実行させるノイズ解析方法について説明した。このようなコンピュータを、ノイズ解析を行う機能部を備えたノイズ解析装置として構成することも可能である。この場合、ノイズ解析装置は、以下のように構成することが可能である。なお、以下の各機能部は、ノイズの解析に係る処理を行うために、CPUを中核部材としてハードウェア又はソフトウェア或いはその両方で構築することが可能である。
【0052】
ノイズを解析するノイズ解析装置であって、
基板に形成する回路の回路情報を取得する取得部と、
前記回路情報に基づいて、前記基板に含まれる閉回路及び伝搬回路を抽出する抽出部と、
抽出した前記閉回路及び前記伝搬回路を等価回路に変換する変換部と、
前記等価回路に基づいて、回路パラメータを算定するパラメータ算定部と、
前記回路パラメータに基づいて、観測点を設定する設定部と、
前記観測点で観測したノイズを算定するノイズ算定部と、
算定した前記ノイズを、前記閉回路及び前記伝搬回路の評価基準に基づいて評価する評価部と、
を備えるとよい。
【0053】
このようなノイズ解析装置においても、上述したノイズ解析方法と同様に、前記回路パラメータとして、前記閉回路及び前記伝搬回路の等価回路におけるZパラメータと前記伝搬回路の等価回路におけるSパラメータとが算定されるように構成することが可能である。
【0054】
また、前記評価基準として、ZパラメータとSパラメータとにより算定したノイズの夫々に許容値が設定されるように構成することが可能である。
【0055】
更に、前記評価基準は、前記ノイズを発信するノイズ源を示すノイズ源情報及び前記ノイズを受信する最終ノイズ情報に基づいて設定されるように構成することが可能である。
【0056】
このようなノイズ解析装置においても、上述したノイズ解析方法と同様に、回路パラメータにより、閉回路だけでなく伝搬回路も含めたノイズ解析を行うことでノイズを精度よく算定することが可能である。
【0057】
本発明は、ノイズを解析するノイズ解析方法に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0058】
#21:取得ステップ
#22:抽出ステップ
#23:変換ステップ
#24:パラメータ算定ステップ
#25:設定ステップ
#26:ノイズ算定ステップ
#31:評価ステップ