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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167547
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】ポリ乳酸系樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20241127BHJP
   C08L 33/00 20060101ALI20241127BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20241127BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20241127BHJP
【FI】
C08L67/04
C08L33/00
C08K3/34
C08K3/013
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083697
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】000214272
【氏名又は名称】長瀬産業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】513066041
【氏名又は名称】ナガセプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 朗
(72)【発明者】
【氏名】森 豊一郎
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BG042
4J002CF181
4J002DJ006
4J002DJ046
4J002DJ056
4J002FD016
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、流動性と成形サイクル性に優れた、ポリ乳酸系樹脂をベース樹脂とした樹脂組成物を提供することである。
【解決手段】本発明は、15質量%~87質量%のポリ乳酸系樹脂(A)、10質量%~55質量%の層状珪酸塩系フィラー(B)、3質量%~15質量%のアクリル系熱可塑性エラストマー(C)、および0質量%~40質量%の、脂肪族ポリエステルエラストマーおよび脂肪族芳香族ポリエステルエラストマーから選択される少なくとも1種のポリエステルエラストマー(D)を含み、含有量(質量%)は組成物総量を基準とする、ポリ乳酸系樹脂組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
15質量%~87質量%のポリ乳酸系樹脂(A)、
10質量%~55質量%の層状珪酸塩系フィラー(B)、
3質量%~15質量%のアクリル系熱可塑性エラストマー(C)、および
0質量%~40質量%の、脂肪族ポリエステルエラストマーおよび脂肪族芳香族ポリエステルエラストマーから選択される少なくとも1種のポリエステルエラストマー(D)
を含み、含有量(質量%)は組成物総量を基準とする、ポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項2】
ポリ乳酸系樹脂(A)の重量平均分子量が100,000~150,000である、請求項1に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項3】
層状珪酸塩系フィラー(B)が、タルクおよびマイカから選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項4】
アクリル系熱可塑性エラストマー(C)が、ポリメチルメタクリレート(PMMA)-ブチルアクリレート(BA)ブロックコポリマーである、請求項1に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項5】
ポリメチルメタクリレート(PMMA)-ブチルアクリレート(BA)ブロックコポリマーのPMMAブロックの成分量が、20質量%~30質量%である、請求項4に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項6】
ポリエステルエラストマー(D)が、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)樹脂である、請求項1に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項7】
更に、0.1質量%~5質量%のフィラー分散剤(E)を含む、請求項1に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項8】
更に、0.1質量%~5質量%のフィラー分散用ポリマー(F)を含む、請求項1に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載のポリ乳酸系樹脂組成物を製造する方法であって、
前記ポリ乳酸系樹脂組成物は、0.1質量%~5質量%のフィラー分散剤(E)および/または0.1質量%~5質量%のフィラー分散用ポリマー(F)を含み、
ポリ乳酸系樹脂(A)、層状珪酸塩系フィラー(B)を含むフィラー造粒物、およびアクリル系熱可塑性エラストマー(C)を溶融混練する工程を含み、
フィラー造粒物は、層状珪酸塩系フィラー(B)と、フィラー分散剤(E)および/またはフィラー分散用ポリマー(F)とを含み、
フィラー造粒物中の層状珪酸塩系フィラー(B)の含有量が、フィラー造粒物の全固形分の総量100質量部に対して、80質量部~99.9質量部である、製造方法。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか1項に記載のポリ乳酸系樹脂組成物を用いて得られた成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸(PLA)はデンプンを原料とした植物由来の脂肪族ポリエステルであり、非石油系原料の生分解性プラスチックとして注目されている。例えば、特許文献1には、生分解性樹脂、無機フィラーおよび高酸価値を有する流動性改質剤を含む生分解性樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第7228110号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、PLAは結晶化速度が遅いため、特に射出成形で製品を得ようとする場合に、溶融樹脂が金型内部において短時間で結晶化が十分に進まずに、結晶化が不十分な成形品では、剛性や熱変形温度が不安定になるといった問題があった。また、PLAは、射出成形において、しばしば溶融流動性が不足し、薄肉の成形品ではショートショット(成形品の一部に不完全な充填が起きること)が生じる問題があった。このため、射出成形が容易となるように「流動性」と「成形サイクル性」が向上した、ポリ乳酸(PLA)系樹脂をベース樹脂とした樹脂材料が望まれている。また、樹脂材料には、更に、剛性、耐熱性、耐衝撃性、寸法安定性に優れた成形品を得ることができることも望まれており、樹脂材料の成形性のみならず、得られる成形品(製品)の物性バランスの制御のし易さ(設計自由度の高さ)も望まれている。
【0005】
特許文献1では、上述の通り、生分解性樹脂に、無機フィラーおよび高酸価値を有する流動性改質剤を含有する樹脂組成物が開示されているが、単に流動性の向上が示されているのみであり、成形サイクル性に関する記述は無い。
【0006】
射出成形用の樹脂材料では、「流動性」と「ハイサイクル性」とが望まれる。「流動性」は複雑な形状の成形品や薄肉の成形品を得るために必要とされる。「ハイサイクル性」とは、射出成形加工が開始してから金型からの成形品の取り出しが終了するまでの単位時間が短いことを示し、生産の向上に結び付く。
【0007】
本発明の目的は、流動性と成形サイクル性に優れた、ポリ乳酸系樹脂をベース樹脂とした樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明において、ポリ乳酸系樹脂をベース樹脂として、層状珪酸塩系フィラー、および、アクリル系熱可塑性エラストマー、必要に応じて、脂肪族ポリエステルエラストマーおよび/または脂肪族芳香族ポリエステルエラストマーを組み合わせることにより、射出成形での、高い流動性と優れた成形サイクル性(ハイサイクル性)を有し、剛性、耐熱性、耐衝撃性等を用途目的に応じて幅広く設計することができるポリ乳酸系樹脂組成物を見出した。
【0009】
また、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物を生産するための有効な手段として、予め、層状珪酸塩系フィラーを特定の粉体造粒物とし、この粉体造粒物とポリ乳酸系樹脂とを用いて溶融混練を行うことにより、本発明の高配合のフィラー濃度のポリ乳酸系樹脂組成物を、高い生産速度で溶融混練コンパウンドを行うことができる。
【0010】
そこで、本発明の態様例は、以下の通りである。
(1) 15質量%~87質量%のポリ乳酸系樹脂(A)、
10質量%~55質量%の層状珪酸塩系フィラー(B)、
3質量%~15質量%のアクリル系熱可塑性エラストマー(C)、および
0質量%~40質量%の、脂肪族ポリエステルエラストマーおよび脂肪族芳香族ポリエステルエラストマーから選択される少なくとも1種のポリエステルエラストマー(D)
を含み、含有量(質量%)は組成物総量を基準とする、ポリ乳酸系樹脂組成物。
(2) ポリ乳酸系樹脂(A)の重量平均分子量が100,000~150,000である、(1)に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
(3) 層状珪酸塩系フィラー(B)が、タルクおよびマイカから選ばれる少なくとも1種である、(1)又は(2)に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
(4) アクリル系熱可塑性エラストマー(C)が、ポリメチルメタクリレート(PMMA)-ブチルアクリレート(BA)ブロックコポリマーである、(1)~(3)のいずれか1つに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
(5) ポリメチルメタクリレート(PMMA)-ブチルアクリレート(BA)ブロックコポリマーのPMMAブロックの成分量が、20質量%~30質量%である、(1)~(4)のいずれか1つに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
(6) ポリエステルエラストマー(D)が、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)樹脂である、(1)~(5)のいずれか1つに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
(7) 更に、0.1質量%~5質量%のフィラー分散剤(E)を含む、(1)~(6)のいずれか1つに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
(8) 更に、0.1質量%~5質量%のフィラー分散用ポリマー(F)を含む、(1)~(7)のいずれか1つに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
(9) (1)~(8)のいずれか1つに記載のポリ乳酸系樹脂組成物を製造する方法であって、
前記ポリ乳酸系樹脂組成物は、0.1質量%~5質量%のフィラー分散剤(E)および/または0.1質量%~5質量%のフィラー分散用ポリマー(F)を含み、
ポリ乳酸系樹脂(A)、層状珪酸塩系フィラー(B)を含むフィラー造粒物、およびアクリル系熱可塑性エラストマー(C)を溶融混練する工程を含み、
フィラー造粒物は、層状珪酸塩系フィラー(B)と、フィラー分散剤(E)およびフィラー分散用ポリマー(F)とを含み、
フィラー造粒物中の層状珪酸塩系フィラー(B)の含有量が、フィラー造粒物の全固形分の総量100質量部に対して、80質量部~99.9質量部である、製造方法。
(10) (1)~(8)のいずれか1つに記載のポリ乳酸系樹脂組成物を用いて得られた成形品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、流動性と成形サイクル性に優れた、ポリ乳酸系樹脂をベース樹脂とした樹脂組成物を提供することができる。本発明の樹脂組成物は、特に射出成形材料として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
A.ポリ乳酸系樹脂組成物
A-1.ポリ乳酸系樹脂組成物の概要
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリ乳酸系樹脂(A)、層状珪酸塩系フィラー(B)、アクリル系熱可塑性エラストマー(C)、および、必要に応じて、脂肪族ポリエステルエラストマーおよび脂肪族芳香族ポリエステルエラストマーから選択される少なくとも1種のポリエステルエラストマー(D)を含む。
【0013】
ポリ乳酸系樹脂組成物は、フィラー分散剤(E)および/またはフィラー分散用ポリマー(F)をさらに含み得る。
【0014】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、15質量%~87質量%のポリ乳酸系樹脂(A)、10質量%~55質量%の層状珪酸塩系フィラー(B)、3質量%~15質量%のアクリル系熱可塑性エラストマー(C)、および0質量%~40質量%の、脂肪族ポリエステルエラストマーおよび脂肪族芳香族ポリエステルエラストマーから選択される少なくとも1種のポリエステルエラストマー(D)を含み、含有量(質量%)は組成物総量を基準とする、ポリ乳酸系樹脂組成物である。
【0015】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリ乳酸系樹脂を主成分としながらも、高い流動性を有し、成形サイクル性に優れる。また、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物を用いて得られた成形品(製品)は、剛性、耐熱性(耐熱変形温度性)、耐衝撃性、寸法安定性(低成形収縮率、低線膨張係数、低そり)等の機械的・熱的物性を高レベルでバランス良く得られ得る。
【0016】
とりわけ、成形品が射出成形品である場合では、金型内で樹脂を短時間で固化させる必要があり、そのためポリ乳酸を短時間で結晶化させることが、成形サイクルの短縮化において重要な課題となる。
【0017】
更には、成形品が、取り出し時に成形用金型に貼りついてしまい、離形性が悪い場合も、成形サイクルの増大をもたらすことになるので、「型離れ」が良好であること、換言すれば「離形性の良さ」も重要となる。
【0018】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、「流動性の良さ」、「結晶化の速度の速さ」、「金型からの離形性の良さ」という効果を発揮し、成形加工サイクルの短縮化をもたらし得る。
【0019】
1つの実施態様としては、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、射出成形におけるその成形サイクル性を判断する指標として、ISO178準拠の曲げ試験用ダンベル型試験片(1A型多目的試験片)を射出成形する際に、金型温度を90℃として、成形片を取り出すのに必要な冷却時間秒数、並びに金型に対する成形品の離形性に基づき、冷却時間秒数が120秒以下で取り出せ、連続成形が可能である成形サイクルを達し得る。
【0020】
更には、上記評価法で、冷却時間秒数が90秒以下で取り出せ、連続成形が可能である成形サイクルを達し得る。
【0021】
更には、上記評価法で、冷却時間秒数が60秒以下で取り出せ、連続成形が可能である成形サイクルを達し得る。
【0022】
また、上記ポリ乳酸系樹脂組成物においては、外観、着色性(明彩色への着色が可能)にも優れている。
【0023】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、例えば、層状珪酸塩系フィラー(B)と、フィラー分散剤(E)およびフィラー分散用ポリマー(F)から選択される少なくとも1種とを含むフィラー造粒物を製造し、その後、当該フィラー造粒物とポリ乳酸系樹脂(A)とアクリル系熱可塑性エラストマー(C)とを混合すること(例えば、溶融混練により混合すること)により、好ましく得ることができる。このような製造方法を採用することにより、フィラー添加の作業性、およびフィラー分散性が著しく向上し、高含有量でフィラーを含有させることが可能となる。
【0024】
A-2.ポリ乳酸系樹脂(成分A)
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリ乳酸系樹脂(A)を含む。
【0025】
ポリ乳酸系樹脂(A)としては、特に制限されるものではなく、乳酸由来の構成単位を含むポリマーであれば、任意のポリ乳酸系樹脂を用いることができる。ポリ乳酸系樹脂は、通常の使用環境下(通常温度、通常湿度)では合成樹脂と同等の安定性を有し得るが、使用後にコンポストまたは土中などの、水分と温度が適度な環境下に置くことで加水分解が促進され、その後、微生物による分解(生分解)が進行し、最終的には二酸化炭素と水に分解する。
【0026】
ポリ乳酸系樹脂(A)は、ポリ乳酸(ホモポリマー)であってもよいし、乳酸由来の構成単位を含むコポリマーであってもよい。1つの実施形態においては、ポリ乳酸系樹脂(A)は、乳酸とヒドロキシカルボン酸とのコポリマーであり得る。ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ吉草酸、5-ヒドロキシ吉草酸、または6-ヒドロキシカプロン酸等が挙げられる。ポリ乳酸系樹脂(A)としては、高い融点の観点から、L-乳酸率が高いポリ乳酸系樹脂が好ましく使用される。ポリ乳酸系樹脂のL-乳酸率は、好ましくは96%以上であり、より好ましくは98%以上であり、さらに好ましくは98.6%以上である。ポリ乳酸系樹脂(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
ポリ乳酸系樹脂(A)の重量平均分子量は、目的とする成形品の成形加工方法や形状や用途によって最適な分子量範囲が変化するが、射出成形の場合では、溶融流動性の観点から、80,000~200,000が好ましく、100,000~180,000がより好ましく、100,000~150,000が更に好ましく、120,000~150,000が最も好ましい。
【0028】
ポリ乳酸系樹脂(A)の含有量は、ポリ乳酸系樹脂組成物中の組成物総量を基準として、15質量%~87質量%である。ポリ乳酸系樹脂(A)の含有量を15質量%以上とすることにより、ベース樹脂として有効量を組成物中に含ませることができる。ポリ乳酸系樹脂(A)の含有量を87質量%以下とすることにより、層状珪酸塩系フィラー(B)やアクリル系熱可塑性エラストマー(C)等の他の成分との成分量のバランスを取ることができ、所望の特性を有する樹脂組成物を得ることができる。ポリ乳酸系樹脂(A)の含有量は、好ましくは20質量%~80質量%であり、好ましくは25質量%~70質量%である。
【0029】
A-3.層状珪酸塩系フィラー(成分B)
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、層状珪酸塩系フィラー(B)を含む。
【0030】
層状珪酸塩系フィラー(B)は、フィロ珪酸塩(phyllosilicate)とも呼ばれ、平行に薄くはがれやすい性質(壁開)を有する鉱物である。本発明において使用される層状珪酸塩系フィラー(B)は特に制限されるものではないが、例えば、カオリナイト、ハロイサイト、タルク、パイロフィライト、スメクタイト、バーミキュライト、マイカ、緑泥石(クロライト)等を列挙することができる。これらの中で特に、タルクおよび/またはマイカが好ましく用いられる。層状珪酸塩系フィラー(B)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。層状珪酸塩系フィラー(B)は、ポリ乳酸系樹脂(A)に対して樹脂の結晶化を促進する結晶化核剤として機能することができ、また、樹脂組成物から得られる成形品の剛性、耐熱変形温度を向上させ、それゆえ、成形サイクルを短縮化する効果を発揮し得る。また、層状珪酸塩系フィラー(B)は、成形品を金型から容易に離形させる離形剤としての作用効果も奏し得る。
【0031】
層状珪酸塩系フィラー(B)の含有量は、ポリ乳酸系樹脂組成物総量を基準(100質量%)として、10質量%~55質量%である。層状珪酸塩系フィラー(B)の含有量を10質量%以上とすることにより、ポリ乳酸系樹脂組成物の成形サイクル性を効果的に向上させることができる。また、層状珪酸塩系フィラー(B)の含有量を55質量%以下とすることにより、ポリ乳酸系樹脂組成物の流動性の過度な低下を避けることができる。好ましくは、タルクおよび/またはマイカを10質量%~55質量%で高濃度に配合させることで、ポリ乳酸系樹脂の結晶化速度と結晶化度とを高め得る点で有利となる。層状珪酸塩系フィラー(B)の含有量は、好ましくは15質量%~52質量%であり、好ましくは20質量%~50質量%である。このような範囲であれば、剛性、寸法安定性、耐熱性に優れ、成形サイクルに優れるという効果が好ましく顕著となる。
【0032】
層状珪酸塩系フィラー(B)の平均粒子径は、任意の適切な粒子径とされ得る。層状珪酸塩系フィラー(B)の平均粒子径は、好ましくは0.1μm~40μmであり、より好ましくは0.5μm~10μmであり、さらに好ましくは1μm~8μmである。層状珪酸塩系フィラー(B)が、結晶化核剤として機能する場合、当該フィラーの粒子径は小さい方が、配合量当たりの樹脂と接触面積が増えて、結晶化核剤としての効果を引き出す上で好ましい。層状珪酸塩系フィラーの平均粒子径は、例えば、レーザー回折法により求めることができる。層状珪酸塩系フィラーの平均粒子径は、体積基準での累積粒度分布における累積50%となる粒子径(d50)であり得る。
【0033】
A-4.アクリル系熱可塑性エラストマー(成分C)
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、アクリル系熱可塑性エラストマー(C)を含む。
【0034】
アクリル系熱可塑性エラストマー(C)とは、少なくとも1種の(メタ)アクリル系モノマーから構成される、エラストマー性を有する重合体を表す。
【0035】
アクリル系熱可塑性エラストマー(C)は、流動性改質剤として機能し得る。アクリル系熱可塑性エラストマー(C)の使用は、他の流動性改質剤の使用に比べて、層状珪酸塩系フィラー(B)によるポリ乳酸系樹脂の結晶化速度の向上改良効果を高く維持しつつ、流動性を改善できるために、ハイサイクル性を発揮させるために特に有利となり得る。
【0036】
アクリル系熱可塑性エラストマー(C)の含有量は、ポリ乳酸系樹脂組成物総量を基準(100質量%)として、3質量%~15質量%である。アクリル系熱可塑性エラストマー(C)の含有量を3質量%以上とすることにより、流動性改質効果を良好に発揮することができる。また、アクリル系熱可塑性エラストマー(C)の含有量を15質量%以下とすることにより、ポリ乳酸系樹脂(A)や層状珪酸塩系フィラー(B)等の他の成分との成分量を調整することで、所望とする特性をバランスよく発現させることができる樹脂組成物となり得る。アクリル系熱可塑性エラストマー(C)の含有量は、好ましくは4質量%~12質量%であり、好ましくは5質量%~10質量%である。
【0037】
アクリル系熱可塑性エラストマー(C)は、常温(23℃)以上のガラス転移温度を有するハードセグメントと柔軟性を有するソフトセグメントを有するブロック共重合体であることが好ましい。
【0038】
アクリル系熱可塑性エラストマー(C)のブロック共重合体において、ハードセグメントに基づくガラス転移温度は、好ましくは25℃以上であり、好ましくは30℃以上であり、好ましくは40℃以上であり、好ましくは50℃以上であり、一方、好ましくは200℃以下であり、より好ましくは180℃以下であり、更に好ましくは150℃以下である。ガラス転移温度が上記範囲であることが耐熱性、成形性等の観点から好ましい。なお、アクリル系熱可塑性エラストマー(C)のガラス転移温度は、動的粘弾性測定装置により、温度範囲-100~280℃、昇温速度5℃/分、周波数10Hzの条件で試験片を加熱した際に観測される損失正接(tanδ)のピーク温度である。複数のブロックを有する熱可塑性エラストマーでは通常、複数の損失正接のピークが観測されるが、この場合、低温側のピークがソフトセグメントに由来するものであり、高温側のピークがハードセグメントに由来するものである。
【0039】
アクリル系熱可塑性エラストマー(C)のハードセグメントは、以下に挙げる、少なくとも1種の(メタ)アクリル系モノマーから得られる重合体ブロックであることが好ましい。ハードセグメントに用いる(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、または(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等が挙げられる。これらの中でもメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルが好ましく、メタクリル酸メチルが特に好ましい。ハードセグメントは、メタクリル酸メチルの重合体ブロックであることが特に好ましい。
【0040】
アクリル系熱可塑性エラストマー(C)のソフトセグメントは、以下に挙げる、少なくとも1種の(メタ)アクリル系モノマーから得られる重合体ブロックであることが好ましい。ソフトセグメントに用いる(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸-secブチル、(メタ)アクリル酸n-へキシル、(メタ)アクリル酸エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、または(メタ)アクリル酸フェニルエチル等が挙げられる。これらの中でもアクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸-secブチル、アクリル酸n-へキシル、アクリル酸エチルヘキシル、アクリル酸n-ヘプチル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸フェニルエチル等が好ましく、アクリル酸n-ブチルが特に好ましい。ソフトセグメントはアクリル酸n-ブチルの重合体ブロックであることが特に好ましい。
【0041】
アクリル系熱可塑性エラストマー(C)におけるハードセグメントとソフトセグメントの質量比([ハードセグメントの質量]/[ソフトセグメントの質量])は、10/90~70/30であることが好ましく、15/85~60/40であることがより好ましい。
【0042】
アクリル系熱可塑性エラストマー(C)の重量平均分子量(Mw)は、10,000以上であることが好ましく、20,000以上であることが好ましく、30,000以上であることがより好ましく、40,000以上であることが更に好ましく、一方、600,000以下であることが好ましく、400,000以下であることがより好ましく、200,000以下であることが更に好ましい。また、アクリル系熱可塑性エラストマー(C)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比、即ち分子量分布(Mw/Mn)は、通常1.1~5.0、好ましくは1.1~3.0である。
【0043】
ここで、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー法(GPC法)により以下の条件により測定することができる。
装置:東ソー社製 HLC-8120
カラム:Inertsil WF300
溶媒:テトラヒドロフラン
較正:ポリスチレン
【0044】
アクリル系熱可塑性エラストマー(C)は市販品として入手することができる。例えば、クラレ社製「クラリティ(登録商標)」シリーズ、アルケマ社製「ナノストレングス(登録商標)」から選択して用いることができる。
【0045】
アクリル系熱可塑性エラストマー(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、アクリル系熱可塑性エラストマー(C)は、ハードセグメントやソフトセグメントの組成、物性等の異なるものを2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0046】
1つの実施形態では、アクリル系熱可塑性エラストマー(C)として、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を主体とする重合ブロック(ガラス転移温度が100℃~120℃)をハードセグメントとしてその構造中に2つ以上有し、ハードセグメントの間に主にn-ブチルアクリレート(BA)を主体とする重合ブロック(ガラス転移温度が-40℃~-50℃)をソフトセグメントとするブロック共重合体(以下、「PMMA-BA系ブロック共重合体」と称することもある)を好ましく使用することができる。また、1つの実施形態では、リビングアニオン重合法で得られたポリメチルメタクリレート(PMMA)を主体とする重合ブロック(ガラス転移温度が100℃~120℃)をハードセグメントとしてその構造中に2つ以上有し、ハードセグメントの間に主にn-ブチルアクリレート(BA)を主体とする重合ブロック(ガラス転移温度が-40℃~-50℃)をソフトセグメントとするブロック共重合体(以下、「PMMA-BA系ブロック共重合体」と称することもある)を好ましく使用することができる。
【0047】
上記ハードセグメントは、ポリ乳酸系樹脂と高い相溶性を示すため、ポリ乳酸系樹脂の溶融流動性を改善することができ、また、PLA相に良好に分散し、耐衝撃性の改善効果も奏し得る。また、上記ハードセグメントは、高いガラス転移温度を有するため、ポリ乳酸系樹脂組成物の耐熱変形温度の低下を抑制することができる。このために、ポリ乳酸系樹脂組成物の流動性を向上させながら、耐熱変形温度を高い温度で維持できる。このような効果は、成形品における金型からの離形性を良好にする上で好ましく作用する。
【0048】
PMMA-BA系ブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000~200,000、より好ましくは20,000~150,000、さらに好ましくは30,000~120,000、特に好ましくは50,000~100,000である。この範囲にあれば、本発明の効果を有効に発揮し得る。
【0049】
また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比、即ち分子量分布(Mw/Mn)は、通常1.1~1.3、好ましくは1.1~1.2である。
【0050】
ここで、重量平均分子量(Mw)、並びに(Mw/Mn)は、上述のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー法(GPC法)で測定され得る。
【0051】
PMMAを主体とするハードセグメントの含有量は、2つ以上のハードセグメントブロックの合計量として、好ましくは15質量%~40質量%、より好ましくは18質量%~35質量%、更に好ましくは20質量%~30質量%である。この範囲にあれば、剛性と耐熱性を維持しながら、耐衝撃性を高め、更に溶融流動性とハイサイクル性を効果的に高め易くなる。
【0052】
ブロックコポリマー中のPMMAブロックの構成割合はプロトン-NMR(プロトン核磁気共鳴)測定によって求めることができる。
装置:日本電子社製核磁気共鳴装置「JNM-LA400」
重溶媒:重水素化クロロホルム
【0053】
PMMA-BA系ブロック共重合体は、(株)クラレより製造販売されている「クラリティ(登録商標)」として、入手することができる。
【0054】
A-5.脂肪族ポリエステルエラストマーおよび/または脂肪族芳香族ポリエステルエラストマー(成分D)
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、脂肪族ポリエステルエラストマーおよび脂肪族芳香族ポリエステルエラストマーから選択される少なくとも1種のポリエステルエラストマー(D)を含んでもよい。
【0055】
本発明では、ポリ乳酸系樹脂の脆さ、脆化、ノッチ感度およびクラック伝搬を補償して、衝撃強度を改良するため、脂肪族ポリエステルエラストマーおよび/または脂肪族芳香族ポリエステルエラストマーを用いることができる。
【0056】
脂肪族ポリエステルエラストマーは、エラストマー性を有する脂肪族ポリエステルであり、ポリ乳酸系樹脂は除かれる。脂肪族芳香族ポリエステルエラストマーは、エラストマー性を有する脂肪族芳香族ポリエステルである。
【0057】
脂肪族ポリエステルエラストマーとしては、例えば、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸との重縮合反応で得られる脂肪族ポリエステルが挙げられる。脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。脂肪族ジオールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、1,4-ブタンジオールを用いることが好ましい。脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、コハク酸、グルタン酸、アジピン酸、セバシン酸、スベリン酸、ドデカン二酸等が挙げられ、これらの誘導体である酸無水物を用いてもよい。脂肪族ジカルボン酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、コハク酸、無水コハク酸、またはアジピン酸を用いることが好ましい。
【0058】
脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸単位と、芳香族ジカルボン酸単位と、鎖状脂肪族および/または脂環式ジオール単位とを含む共重合体が挙げられる。ジオール単位を与えるジオール成分は、炭素数が通常2~10のものであり、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。これらの中でも、炭素数2~4のジオールが好ましく、エチレングリコール、1,4-ブタンジオールがより好ましく、1,4-ブタンジオールが更に好ましい。ジカルボン酸単位を与えるジカルボン酸成分は、炭素数が通常2~10のものであり、例えば、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等が挙げられる。これらの中でも、コハク酸またはアジピン酸が好ましい。芳香族ジカルボン酸単位を与える芳香族ジカルボン酸成分として、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。これらの中でも、テレフタル酸、イソフタル酸が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。具体的には、1,4-ブタンジオールとアジピン酸とテレフタル酸との共重合体であるポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)等が挙げられる。
【0059】
1つの実施形態においては、ポリエステルエラストマー(D)として、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)樹脂またはポリヒドロキシアルカノエート(好ましくは非晶性PHA)等が好ましく用いられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
とりわけ、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)樹脂は耐衝撃性の改良効果と熱安定性に優れるので特に好ましく使用され得る。
【0061】
ポリエステルエラストマー(D)の含有量は、ポリ乳酸系樹脂組成物総量を基準(100質量%)として、0質量%~40質量%であり、好ましくは5質量%~35質量%であり、好ましくは10質量%~30質量%であり、好ましくは15質量%~25質量%である。
【0062】
A-6.フィラー分散剤(成分E)
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、フィラー分散剤(E)を含んでもよい。
【0063】
本発明では、ポリ乳酸系樹脂組成中に高濃度(10質量%以上)に配合する層状珪酸塩系フィラー(B)の分散性を高める目的において、フィラー分散剤(E)および/またはフィラー分散ポリマー(F)が好ましく使用され得る。
【0064】
1つの実施形態において、フィラー分散剤(E)は、疎水基と親水基とから構成される化合物である。親水性/疎水性バランスは、フィラー分散剤となる化合物のエステル化度や脂肪酸の種類(水酸基の有無、飽和または不飽和脂肪酸、アルキル鎖長)、重合度を調整することにより制御することができる。
【0065】
フィラー分散剤(E)としては、例えば、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸スルホン酸塩、脂肪酸アマイド、アクリルアミド、多価アルコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。フィラー分散剤(E)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
好ましいフィラー分散剤(E)は、多価アルコール脂肪酸エステル、脂肪酸アマイド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、縮合ヒドロキシ脂肪酸および縮合ヒドロキシ脂肪酸のアルコールエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0067】
上記多価アルコール脂肪酸エステルとは、多価アルコールと脂肪酸とから構成されるエステル化合物である。多価アルコール脂肪酸エステルとしては、例えば、ペンタエリスリトール、グリセリン等の多価アルコールと炭素数が8以上(好ましくは炭素数8~24、より好ましくは炭素数10~22)の脂肪酸のエステル類が挙げられる。
【0068】
上記脂肪酸アマイドとは、脂肪酸とアンモニアあるいは1級、2級アミンとが脱水縮合した構造を持つ化合物である。上記脂肪酸アマイドとしては、例えば、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド等の飽和脂肪酸モノアミド類が挙げられる。
【0069】
上記ポリグリセリン脂肪酸エステルとは、ポリグリセリンと脂肪酸とから構成されるエステル化合物である。ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、ジグリセリンパルミチン酸エステル、ジグリセリンステアリン酸エステル、ジグリセリンオレイン酸エステル、デカグリセリンパルミチン酸エステル、デカグリセリンステアリン酸エステル、デカグリセリンオレイン酸エステル等が挙げられる。
【0070】
上記フィラー分散剤(E)の中で、とりわけ好ましいものは、多価アルコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、縮合ヒドロキシ脂肪酸および縮合ヒドロキシ脂肪酸のアルコールエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種である。これらは、ポリ乳酸系樹脂(PLA)との相溶性に優れ、かつ、PLAに対して加水分解を引き起こしにくい点で優れている。
【0071】
上記ポリグリセリン脂肪酸エステル、縮合ヒドロキシ脂肪酸および縮合ヒドロキシ脂肪酸のアルコールエステルは、市販品を用いてもよい。市販品の例としては、太陽化学社製の「チラバゾールP-4」、「チラバゾールVR-01」、「チラバゾールVR-08」(ポリグリセリン脂肪酸エステル)、「チラバゾールH-818」(縮合ヒドロキシ脂肪酸のアルコールエステル)、等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
フィラー分散剤(E)の含有量は、ポリ乳酸系樹脂組成物総量を基準(100質量%)として、例えば0質量%~5質量%であり、好ましくは0.1質量%~5質量%であり、好ましくは0.3質量%~3質量%であり、好ましくは0.5質量%~2質量%である。
【0073】
A-7.フィラー分散用ポリマー(成分F)
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、フィラー分散用ポリマー(F)を含んでもよい。
【0074】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、フィラーの分散性を高める目的で、フィラー分散用ポリマー(F)を含み得る。また、フィラー分散用ポリマー(F)は、フィラーとポリ乳酸系樹脂の界面密着性を向上させる作用効果や、フィラーによるポリ乳酸系樹脂の加水分解を抑制する作用効果を発揮する場合もある。
【0075】
フィラー分散用ポリマーは、特に制限されるものではないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアルキレングリコール系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、水溶性多糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種であり得る。
【0076】
上記に列挙した中で、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂は、成分Bによるポリ乳酸系樹脂の加水分解を効果的に抑制する作用効果を奏するので好ましい。
【0077】
また、上記に列挙した中で好ましくは、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアルキレングリコール系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、水溶性多糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種である。これらの樹脂は、ポリ乳酸系樹脂との相溶性に優れ、フィラーの分散機能に優れるのみならず、自身が生分解性の特徴を有するので好ましく使用され得る。
【0078】
フィラー分散用ポリマーとしての上記ポリビニルアルコール系樹脂の具体例としては、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH;クラレ社製のエバール(登録商標))、ブテンジオール-ビニルアルコールコポリマー(BVOH;三菱ケミカル社製のニチゴーGポリマー(登録商標))等が挙げられる。
【0079】
上記水溶性多糖類とは、グルコースやマンノースやプルランやマンナン等の単糖が長くつながって構成された水溶性の化合物を意味する。1つの実施形態においては、上記水溶性多糖類は、10個以上の単糖が結合することで構成されている水溶性の炭水化物である。1つの実施形態においては、上記水溶性多糖類は、天然由来の高分子物質であり得る。例えば、植物由来(種子や樹液、果実等)、海藻由来、微生物由来の水溶性多糖類が用いられ得る。上記水溶性多糖類の具体的例としては、プルラン、デキストリン、キトサン、タマリンドシードガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アラビアガム、カラヤガム、ペクチン、セルロース、コンニャクマンナン、大豆多糖類、カラギナン、寒天、トラガントガム、アルギン酸、キサンタンガム、ジェランガム、アグロバクテリウムスクシノグリカン、カルボキシメチルセルロース、カチオン化グアーガム等が挙げられる。なかでも、プルランまたはデキストリンが好ましく、より好ましくはプルランである。
【0080】
フィラー分散用ポリマー(F)の含有量は、ポリ乳酸系樹脂組成物総量を基準(100質量%)として、例えば0質量%~5質量%であり、好ましくは0.1質量%~5質量%であり、好ましくは0.3質量%~3質量%であり、好ましくは0.5質量%~2質量%である。
【0081】
A-8.加水分解抑制剤(成分G)
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、加水分解抑制剤(G)を含んでもよい。
【0082】
上記加水分解抑制剤は、ポリ乳酸系樹脂組成物の加工安定性と、長期耐熱性、長期耐湿熱性を高める目的で配合され得る。加水分解抑制剤は、ポリ乳酸系樹脂の加水分解によって生じるカルボン酸を補足することで、ポリ乳酸系樹脂の分子量低下を抑制し、安定化させる機能を有する。
【0083】
1つの実施形態においては、上記加水分解抑制剤が、カルボジイミド基、オキサゾリン基およびエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を1つ以上有する化合物である。該化合物は、ポリマーであってもよい。
【0084】
上記カルボジイミド基を含む化合物としては、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t-ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ-t-ブチルカルボジイミド、ジ-β-ナフチルカルボジイミド、N,N’-ジ-2,6-ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、2,6,2’,6’-テトライソプロピルジフェニルカルボジイミドの他、環状カルボジイミドや、カルボジライト(登録商標:日清紡ケミカル社製)、またはスタバクゾール(登録商標:ラインケミー社製)等のポリカルボジイミド等が挙げられる。
【0085】
上記エポキシ基を有する化合物の市販品の例としては、ダイセル社製の「セロキサイド2021P」、ナガセケムテックス社「デナコール」、ダイセル社製の「エポフレンド」を例示することができる。
【0086】
上記オキサゾリン基を有する化合物の市販品の例としては、日本触媒社製の「エポクロス」を例示することができる。
【0087】
加水分解抑制剤(G)の含有量は、ポリ乳酸系樹脂組成物総量を基準(100質量%)として、例えば0質量%~5質量%であり、好ましくは0.1質量%~5質量%であり、好ましくは0.3質量%~4質量%であり、好ましくは0.5質量%~3質量%である。
【0088】
A-9.その他の成分
上記ポリ乳酸系樹脂組成物は、必要に応じて、任意の適切なその他の成分(添加剤)をさらに含み得る。添加剤としては、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、ブロッキング防止剤、抗菌剤、相溶化剤、可塑剤、粘着付与剤、加工助剤、潤滑剤、カップリング剤、難燃剤、脱酸素剤、発泡剤、着色剤等が挙げられる。上記添加剤は、例えば、液体、粉体、ペレット、顆粒の形態、またはマスターバッチ等の形態で、ポリ乳酸系樹脂組成物の製造工程において、任意の適切なタイミングで投入され得る。添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。その他の成分(添加剤)の含有量は、ポリ乳酸系樹脂組成物総量を基準(100質量%)として、例えば0質量%~5質量%であり、好ましくは0.1質量%~5質量%であり、好ましくは0.2質量%~4質量%であり、好ましくは0.3質量%~3質量%であり、好ましくは0.4質量%~2質量%であり、好ましくは0.5質量%~1質量%である。
【0089】
B.ポリ乳酸系樹脂組成物の製造方法
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、少なくともポリ乳酸系樹脂(A)、層状珪酸塩系フィラー(B)、およびアクリル系熱可塑性エラストマー(C)を溶融混練して得ることができる。本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、上記成分(A)~(C)に加えて、必要に応じて、ポリエステルエラストマー(D)、フィラー分散剤(E)、フィラー分散用ポリマー(F)、および加水分解抑制剤(G)から選択される少なくとも1種を含有する状態にて溶融混練して得ることができる。すなわち、ポリ乳酸系樹脂組成物は、溶融混練物として得ることができる。ポリ乳酸系樹脂組成物の性状は、固形であることができ、形状は、例えば、ペレット、棒状または粉末等である。
【0090】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物の製造方法としては、公知の製造方法を適宜採用することができる。例えば、高速撹拌機または低速撹拌機等を用いて、各成分を予め均一に混合した後、樹脂の融点以上において十分な混練能力のある一軸もしくは多軸の押出機で溶融混練する方法、溶融時に混合混練する方法などを採用することができる。
【0091】
溶融混練の方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。例えば、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール、単軸もしくは2軸以上の多軸押出機を使用することができる。好ましくは、二軸スクリュー押出機が用いられる。溶融混練された組成物はペレット化され得る。1つの実施形態においては、80℃~170℃、好ましくは100℃~160℃の温度範囲で溶融混練が行われる。
【0092】
1つの実施形態においては、層状珪酸塩系フィラー(B)は、以下に記載する「フィラー造粒物」として、溶融混練装置に供給し、溶融混練を行う。
【0093】
この方法によれば、本発明の目的とする効果を発揮する上で必要な高濃度(10~55質量%)の層状珪酸塩系フィラー(B)の配合でありながら、押出機等の装置への投入速度と投入安定性に著しく優れるため、樹脂組成物の生産性(時間当たりのコンパウンド加工速度)を飛躍的に向上させることができる。
【0094】
すなわち、本発明に係るポリ乳酸系樹脂組成物の製造方法の一態様は、ポリ乳酸系樹脂(A)、層状珪酸塩系フィラー(B)を含むフィラー造粒物、およびアクリル系熱可塑性エラストマー(C)を溶融混練する工程を含み、フィラー造粒物は、層状珪酸塩系フィラー(B)と、フィラー分散剤(E)およびフィラー分散用ポリマー(F)とを含み、フィラー造粒物中の層状珪酸塩系フィラー(B)の含有量が、フィラー造粒物の全固形分の総量100質量部に対して、80質量部~99.9質量部である、製造方法である。
【0095】
(フィラー造粒物)
「フィラー造粒物」は、フィラーの含有量が、フィラー造粒物の全固形分の総量100質量部に対して、好ましくは80質量部~99.9質量部である造粒物を示すが、任意の適切な方法により製造することができる。フィラー造粒物は、例えば、層状珪酸塩系フィラー(B)と、フィラー分散剤(E)および/またはフィラー分散用ポリマー(F)(フィラー造粒物においてはフィラーの結着剤となり得る)とを含む混合物を半湿式造粒法に供することにより得ることができる。
【0096】
具体的には、フィラー分散剤(E)および/またはフィラー分散用ポリマー(F)は、層状珪酸塩系フィラー(B)との混合工程において、均一な分散状態とすることが好ましい。
【0097】
更に、適切な量の水を加えて半湿式造粒工程により得られる造粒物前駆体の造粒工程、もしくは当該造粒物前駆体から水分を除去する加熱工程において、フィラー分散用ポリマーの少なくとも一部を熱溶融させることで、フィラー同士の結着性を高め、安定な形状の粉体造粒物となり得る。
【0098】
1つの実施形態においては、上記粉体造粒物の製造方法は、層状珪酸塩系フィラー(B)と、フィラー分散剤(E)および/またはフィラー分散用ポリマー(F)と、水とを混合する混合工程と、混合工程を経て得られた混合物を造粒して造粒物前駆体を得る造粒工程と、造粒物前駆体を加熱する加熱工程とを含む。混合工程においては、フィラー分散用ポリマーとは別の結着剤がさらに添加されてもよい。造粒物前駆体は加熱工程における加熱により、造粒物前駆体を乾燥させることができる。また、加熱工程を経て、層状珪酸塩系フィラー(B)の結着が促進される。
【0099】
1つの実施形態においては、上記混合工程において、層状珪酸塩系フィラー(B)と、フィラー分散剤(E)および/またはフィラー分散用ポリマー(F)とを混合して混合物を調製した後、当該混合物を攪拌しながら、水を加える。このようにすれば、混合物全体にわたって、水を適度な配合比率で、均一に分散させることが可能となり、次の半湿式造粒工程において、造粒が安定し、加熱乾燥後の造粒物において、形状と造粒物硬度とに優れた造粒物を得ることに有利となる。水は、例えば、スプレー噴霧状、シャワー状、または、ノズルを使って点滴状に徐々に加えられ得る。なお、スプレー噴霧状とは、圧縮空気等のガスにより、圧力を加えた液体を、ノズルの細い穴から急激に噴出させて、液体の微粒子とさせた状態を意味する。また、シャワー状とは、シャワーヘッド(複数の同じ大きさの穴があけられた治具)から、同じ圧力がかけられた流体が分散されて噴出させた状態を意味する。添加される水は、特に限定されず、例えば、水道水、蒸留水、イオン交換水、硬水、軟水等を用いることができる。必要に応じて、粉体原料に対する濡れ性を向上させるためにアルコール等の他の成分と水とを併用してもよい。また、その他の成分(例えば、固体成分)を添加する際には、当該成分は、上記混合物に混合されてもよい。フィラー造粒物は、「A-9.その他の成分」で記載した、その他の成分(添加剤)を含んでもよい。
【0100】
フィラー造粒物中の層状珪酸塩系フィラー(B)の含有量は、上述の通り、フィラー造粒物の全固形分の総量100質量部に対して、好ましくは80質量部~99.9質量部であり、より好ましくは82質量部~99重質量部であり、さらに好ましくは85質量部~98質量部であり、特に好ましくは87質量部~97質量部であり、最も好ましくは90質量部~96質量部である。
【0101】
また、フィラー分散剤(E)とフィラー分散用ポリマー(F)の含有量は、フィラー造粒物の全固形分の総量100質量部に対して、両者の合計量として、好ましくは0.1質量部~20質量部であり、より好ましくは1質量部~18質量部であり、さらに好ましくは2質量部~15質量部であり、特に好ましくは3質量部~13質量部であり、最も好ましくは4質量部~10質量部である。
【0102】
フィラー分散剤(E)とフィラー分散用ポリマー(F)の配合比率(E:F)は、任意であるが、通常、(E:F)が、0:100~80:20、好ましくは1:99~70:30、より好ましくは5:95~60:40、更に好ましくは10:90~50:50の範囲である。
【0103】
混合工程においては、任意の適切な混合機を用いて、均一に混合することが好ましい。混合機としては、例えば、ヘンシェルミキサー、粉体用ニーダー(KDH、KDA、CKD、CPM)(ダルトン社)、ナウターミキサー、スパルタンミキサー(SPM)(ダルトン社)、SPグラニュレーター(SPG)(ダルトン社)等を挙げることができる。造粒性に優れた好ましい混合物を得るために、混合攪拌装置の攪拌羽根が適切であること好ましい。例えば、ヘンシェルミキサータイプの混合機を使用する場合、ミキサーの羽根は上羽根と下羽根の組み合わせとし、上羽根はY1羽根(商品名、日本コークス(株)製)とし、下羽根はS0羽根(商品名、日本コークス(株)製)を使用することが好ましい。また、撹拌槽内にデフレクターを装着し、混合することが好ましい。すなわち、混合物全体にわたって各成分を均一に分散させることが可能な混合工程とすることにより、次の半湿式造粒工程における生産性と品質安定性を高め、形状と造粒物硬度に優れた造粒物を得ることに有利となる。
【0104】
水の配合量は、層状珪酸塩系フィラー(B)と、フィラー分散剤(E)および/またはフィラー分散用ポリマー(F)の全固形分の総量100質量部に対して、例えば、5質量部~100質量部であり、好ましくは8質量部~70質量部であり、より好ましくは10質量部~50質量部であり、さらに好ましくは15質量部~30質量部である。このような範囲であれば、半湿式法による造粒工程で、造粒性に優れた粉体混合物を得ることができる。このような混合物を用いれば、層状珪酸塩系フィラー(B)が好ましく結着して構成された粉体造粒物前駆体を安定して得ることができる。
【0105】
粉体混合物への水の添加は、通常、1分~60分、好ましくは3分~30分、より好ましくは、5分~20分の時間をかけて均一に分散させながら、粉体混合物に水を含ませることが好ましい。
【0106】
混合工程における混合時間は、成分の種類、混合機の種類、成分配合比等に応じて、任意の適切な混合時間とすることができる。好ましくは、全ての原料成分が均一に分散混合されるように混合時間が設定される。ヘンシェルミキサーやスパルタンミキサー等の高速撹拌機では1分~10分の処理時間で行うことができる。一方、粉体用ニーダーの場合は、数分~60分の処理時間が必要になる場合がある。
【0107】
1つの実施形態においては、フィラー分散用ポリマー(F)は、当該フィラー分散用ポリマーを含むポリマー液(ポリマー溶液またはポリマー分散液)の形態で、混合に供し得る。
【0108】
上記のフィラー分散用ポリマーを含むポリマー液を混合する場合においても、スプレー噴霧状、シャワー状、または、ノズルを使って点滴状に徐々に加え、混合することが好ましい。
【0109】
造粒工程においては、圧縮造粒法が好ましく採用される。また、造粒工程においては、半湿式造粒法が好ましく採用され得る。圧縮造粒法/半湿式造粒法としては、例えば、ディスクペレッター方式、タブレッティング方式、ブリケッティング方式等が挙げられる。生産性と得られるフィラー造粒物の品位のバランスの観点から、ディスクペレッター方式が好ましく採用される。
【0110】
ディスクペレッター方式の造粒機は、基本構造として、2mm~30mmの孔が多数あけられた1個または2個のディスクと、ディスクの孔に原料を圧送するためのローラーとを有する。ディスクとローラーの間、もしくは2個のディスクの間に供給された原料が、ローラーの回転に伴い、ディスクの孔に圧入され、円柱状の押出物が成形される。ディスク孔に押し込まれたフィラー混合物は、孔を通過する過程で、ダイス孔の外周から圧縮応力が与えられ、押し出された造粒物前駆体は、ディスクの裏面において、カッター等で切断されて、ペレット状の造粒物とされる。造粒物前駆体(結果としてフィラー造粒物)の長さは、ディスクの裏面とカッター間の距離、ローラーの回転数、によって調整が可能である。
【0111】
ディスクペレッター方式としては、より具体的には、ローラー・ディスクダイ方式、ローラー・リングダイ方式、ダブルダイス方式、フラットダイ方式等が挙げられる。市販のディスクペレッター方式の造粒機としては、例えば、ダルトン社製のディスクペレッターFシリーズを挙げることができる。
【0112】
乾燥工程における乾燥方法としては、任意の適切な方法を採用することができる。乾燥工程後、振動ふるい等により、微粉を除去したフィラー造粒物が得られ得る。乾燥工程では、任意の適切な乾燥設備が用いられる。例えば、振動流動式乾燥機が短時間に効率的に乾燥を行うことができるので好ましく、例えば、ダルトン社製の振動流動乾燥機VDFシリーズを挙げることができる。
【0113】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、射出成形、押出成形等の種々の成形を行うことができるが、中でも、流動性に優れ、成形サイクル時間が短いので、射出成形に好適な材料となり得る。
【実施例0114】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。なお、部および%は特に断りのない限り質量基準に基づく。
【0115】
[製造例]フィラー粉体造粒物の製造
FMミキサー(日本コークス工業(株)製、商品名「5FM5C/I」;処理容積:5L)に、タルク粉体(浅田製粉(株)製、商品名「JM-300」;嵩比重:0.17)94質量部と、フィラー分散剤(ポリグリセリン脂肪酸エステル粉体、太陽化学社製、商品名「チラバゾールVR-08」)3質量部と、フィラー分散用ポリマー(水溶性ビニルアルコール系樹脂粉体(BVOH)、三菱ケミカル社製、商品名「ニチゴーG-polymer AZF8035Q」;ケン化度98.0モル%以上;融点:172℃)3質量部とを投入し、回転数2,000rpmで10分間の攪拌処理を行い、粉体混合物を得た。
【0116】
FMミキサーの羽根は上羽根と下羽根の組み合わせとし、上羽根はY1羽根(商品名、日本コークス(株)製)とし、下羽根はS0羽根(商品名、日本コークス(株)製)を使用した。また、撹拌槽内には邪魔板(デフレクターとも称す)を装着した。
【0117】
攪拌羽を回転数2,000rpmで回転させながら、上記粉体混合物に対して噴霧状に上水(水道水)15質量部を、10分間で連続的に噴霧注入し、含水粉体混合物を得た。
【0118】
この含水粉体混合物を、ディスクペレッター(ダルトン社製、商品名「ディスクペレッターF-5/11-175」)に投入し、ペレット状の造粒物前駆体を得た。
【0119】
この際、ダイスの孔径を3mmφとし、ダイスプレートの厚みを15mmとし、ダイス孔の有効長(ダイス壁面から圧縮応力を受けるゾーンの長さ)を10mmとし、ディスクペレッターのローラーの回転数を108rpmとした。
【0120】
得られた造粒物前駆体を、熱風式循環型乾燥機を用いて、140℃で4時間乾燥させて、「フィラー粉体造粒物」を得た。
【0121】
<評価>
製造例で得た「フィラー粉体造粒物」を下記の評価に供した。結果を表1に示す。
【0122】
(1)嵩密度
乾燥後の「フィラー粉体造粒物」を1リットルの升に自然落下させ、すり切り一杯にして、正確に1リットルの容積ではかり取り、その質量を測定することで、造粒物の嵩密度(単位:kg/L)を算出した。
【0123】
(2)ペレットサイズ
フィラー粉体造粒物を20粒取り出し、ノギスを用いて、粒状物の長さと直径の平均値(単位:mm)を測定した。
【0124】
(3)水分量
赤外線水分計(ケット科学研究所製 FD-660)を用いて、フィラー粉体造粒物に残存する水分量(単位:質量%)を測定した。
【0125】
(4)破壊強度
木屋式硬度計(シロ産業社製、商品名「WPF1600-B」)を用いて、乾燥後のフィラー粉体造粒物の破壊強度(破壊に要した荷重)(単位:kg)を測定した。測定は、フィラー粉体造粒物の側面に対して3mmφの円柱状治具により応力を与えた。測定値は造粒物25粒の平均値とした。
【0126】
(5)「フィラー粉体造粒物」中のフィラー濃度
「フィラー粉体造粒物」を1~3g採取し、坩堝に入れ、電気炉にて、600℃で3時間保持し、灰分重量から造粒物中のフィラー(タルク)の濃度(質量%)を算出した。
【0127】
【表1】
【0128】
[実施例1]
製造例で得た「フィラー粉体造粒物」55質量部と、ポリ乳酸(PLA;トタル・コービオン社製、商品名「Luminy L130」;重量平均分子量130,000、融点175℃)22.5質量部と、アクリル系熱可塑性エラストマー(PMMA-BA系ブロック共重合体;クラレ社製、商品名「クラリティLA2250」;PMMA含有量30質量%)10質量部と、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)樹脂(BASF社製、商品名「エコフレックスF Blend C1200」)22.5質量部と、加水分解抑制剤としてカルボジイミド基を有するポリマー(日清紡ケミカル社製、商品名「カルボジライトHMV-5CA-LC」)1質量部とを、2軸押出機(東芝機械社製、商品名「TEM37SS」、L/D=48)に、押出機の最上流位置に設けたホッパーを介して、重量フィーダーを用いて定量的に投入して、連続的に溶融混練(吐出:20kg/Hr)を行い、樹脂組成物のペレットを得た。押出機のシリンダー温度は、押出機の中段部以降を200℃に設定した。また、2軸押出機の主スクリューの回転数を100rpmとした。溶融混練された樹脂組成物はストランド状に押し出され、水冷バスで冷却し、長さ約3mmのペレットとした。
【0129】
実施例1では、「フィラー粉体造粒物」に含まれる3質量%のフィラー分散用ポリマー、並びに3質量%のフィラー分散剤が含まれていることから、最終的な樹脂組成物では、樹脂組成物100質量部当たり、タルク含有量が46.6質量部、フィラー分散用ポリマー(BVOH)が1.5質量部、フィラー分散剤(チラバゾールVR-08)が1.5質量部含まれることになる。
【0130】
<評価>
実施例および比較例で得られたポリ乳酸系樹脂組成物を下記の評価に供した。結果を表2に示す。
【0131】
(1)射出成形片(ダンベル試験片)の成形サイクル性評価
ISO178準拠の曲げ試験用ダンベル試験片(1A型多目的試験片)を射出成形において成形する際に、金型温度を90℃として、成形片を取り出すのに必要な冷却時間秒数、並びに金型に対する成形品の離形性に基づき、以下の基準で、成形サイクル性を評価した。
A:冷却時間秒数が60秒以下で取り出せ、連続成形が可能。
B:冷却時間秒数が90秒以下で取り出せ、連続成形が可能。
C:冷却時間秒数が120秒以下で取り出せ、連続成形が可能。
D:冷却時間秒数が120秒を超えても成形品が固化せずに金型から取り出せない、もしくは金型からの離形性が悪く(貼りつきを生じる等の理由)、連続成形が不能。
(成形サイクル性の序列: A>B>C>D (左良好))
【0132】
(2)MFR測定(単位:g/10min)
JISK7210に準拠し、東洋精機製作所社製の「メルトインデクサー」を用いてメルトマスフローレート(MFR)を測定し、流動性を評価した。測定条件は、210℃の温度で、5kg荷重で行った。
【0133】
(3)樹脂組成物の流動性(スパイラルフロー)(単位:cm)
射出成形機(日本製鋼社製「JD110AD-110H」、型締め100トン)に流動方向に垂直な断面が、深さ2mm、幅10mmの溝キャビティとしてスパイラル状に設けられた流動長測定用金型を用いて、シリンダー設定温度200℃、金型温度120℃(固定側、稼働側共に)、冷却時間90秒、射出圧80MPa(および120MPa)、保圧なし、射出速度40mm/秒、背圧10MPaの条件で、樹脂組成物の流動性を評価した。
【0134】
(4)灰分測定(単位:質量%)
ポリ乳酸系樹脂組成物のペレットを1~3g採取し、電気炉を用いて、坩堝内で600℃で3時間保持し、灰分質量を算出した。
【0135】
(5)フィラーの分散性
ポリ乳酸系樹脂組成物のペレットを熱プレスで圧延し、厚み約0.5mmのシートとする。当該シートを透かして、フィラー凝集物の残存を目視観察し、以下の基準で評価した。
AA:フィラーの凝集物がほとんど観察されない良好な分散性状態
A:比較的小さなフィラーの凝集が微量残存する状態
BB:比較的小さなフィラーの凝集物がかなり多く残存する状態
B:フィラーの凝集物が大きい状態
(分散状態の序列: AA>A>BB>B (左良好))
【0136】
(6)曲げ測定(単位:MPa)
ISO178に準拠して曲げ試験を行い、曲げ強度、および曲げ弾性率を測定した。尚、測定用の試験片としては、ポリ乳酸系樹脂組成物のペレットを、射出成形機(東洋機械金属社製「SI-80W」、型締め100トン)を使用し、シリンダー設定温度200℃、金型温度110℃(固定側、稼働側共に)、冷却時間60秒で成形したダンベル試験片(1A型多目的試験片)を切り出して使用した。
【0137】
(7)荷重たわみ温度(DTUL)測定(単位:℃)
ISO75に準拠し、0.45MPa荷重条件で荷重たわみ温度(DTUL)を測定した。なお、測定用の試験片は、上記曲げ測定で得たダンベル試験片を切り出して使用した。
【0138】
(8)シャルピー衝撃強度測定(単位:KJ/m
ISO179に準拠し、ポリ乳酸系樹脂組成物から形成されたノッチ付き試験片のシャルピー衝撃強度を測定した。なお、測定用の試験片は、上記曲げ測定で得たダンベル試験片を切り出して使用した。
【0139】
(9)成形収縮率(単位:%)
射出成形機(東洋機械金属社製「SI-80W」、型締め100トン)を使用し、シリンダー設定温度200℃、金型温度110℃(固定側、稼働側共に)、冷却時間60秒の条件で、ポリ乳酸系樹脂組成物のペレットを使用して100mm×100mm×2mm(厚み)の平板成形品を成形した。このとき、金型内の樹脂ゲートはフィルムゲートとした。
【0140】
成形後に23℃、50%相対湿度環境下に24時間放置した後、流動方向(MD)の寸法を計測し、成形収縮率を測定した。
【0141】
[実施例2~5、および比較例1~7]
表2に示す配合割合に変更した以外は、実施例1と同じ条件で、2軸押出機により樹脂組成物を作製し、実施例1に記載した同様の方法で各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0142】
尚、実施例2~5、比較例1、2、7では実施例1で使用した「フィラー粉体造粒物」を樹脂組成物の製造で使用している。表2では最終的な組成構成を示している。
【0143】
【表2-1】
【0144】
【表2-2】
【0145】
実施例1と比較例1の対比(約50質量%の成分(B)を含む)から、本発明で得られた成分(C)を含むポリ乳酸系樹脂組成物は、流動性(MFRおよびスパイラルフロー)が向上し、成形サイクル性も優れていることが示される。成分(C)(アクリル系熱可塑性エラストマー)の配合で成形サイクル性が低下していない。
【0146】
同様に、実施例2、3と比較例2の対比(約50質量%の成分(B)を含み、成分(D)を含まない)から、本発明で得られたポリ乳酸系樹脂組成物は、流動性(MFRおよびスパイラルフロー)が向上し、成形サイクル性も優れている。成分(C)の配合でも流動性の低下がないまたは少ないことが示される。
【0147】
実施例4、5においても流動性と成形サイクル性に優れていることが示される。
【0148】
比較例3~6は、成分(B)を欠く例であるが、いずれも金型温度90℃にて、120秒以内で成形片が結晶化せずに成形品を取り出すことができなかった。
【0149】
比較例7は、実施例4で使用した成分(C)(アクリル系熱可塑性エラストマー)に変えて、チラバゾールVR-08(ポリグリセリン脂肪酸エステル)を流動性改質剤として10質量%配合した結果であるが、流動性(MFR)は向上するものの、成形品の離形性悪く、成形品が金型に貼りついてしまい、エジェクターピンよる成形品の突き出しが困難であり、成形サイクル短縮化の効果を発揮することができないことを示す。
【0150】
表2に示す通り、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、溶融流動性および成形サイクル性に優れていることが確認される。また、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、成形品が容易に金型から取り出すことができ得るため、射出成形における高い生産性を有する樹脂組成物であることが明らかである。さらに、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、その成形品の剛性、耐熱性(耐熱変形温度性)、耐衝撃性、寸法安定性(低成形収縮率、低線膨張係数、低そり)等の機械的・熱的物性を幅広く、バランス良く発現し得ることができる。