(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167551
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】炭素繊維強化プラスチックの接着構造および接着方法
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20241127BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20241127BHJP
B32B 27/38 20060101ALI20241127BHJP
C09J 163/00 20060101ALI20241127BHJP
C09J 133/00 20060101ALI20241127BHJP
C09J 11/00 20060101ALN20241127BHJP
【FI】
B32B15/08 N
B32B27/30 A
B32B27/38
C09J163/00
C09J133/00
C09J11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083705
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】古市 浩朗
(72)【発明者】
【氏名】澤田 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】青山 博
(72)【発明者】
【氏名】金保 忠正
【テーマコード(参考)】
4F100
4J040
【Fターム(参考)】
4F100AB00B
4F100AB03
4F100AB09
4F100AB10
4F100AD01
4F100AD01A
4F100AG00
4F100AK01A
4F100AK04
4F100AK53C
4F100BA04
4F100BA07
4F100CA23
4F100CA23D
4F100CB00C
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4J040DA032
4J040DF001
4J040EC001
4J040HA346
4J040KA05
4J040KA42
4J040LA06
4J040MA02
4J040NA15
(57)【要約】
【課題】
金属とCFRPの異種材の接着において、熱膨張収縮差や接着厚ばらつきに対する剥がれや接着信頼性を向上させつつ、接着構造体の曲げ剛性を向上させる。
【解決手段】
異種材接着において、樹脂(CFRP)に高接着強度な第1接着剤と、金属に高接着強度な第2接着剤の積層した接着構造で、弾性率:第1接着剤(高弾性率)>第2接着剤(低弾性率)、接着面積:第1接着剤(先接着)<第2接着剤(後接着,面積大)とすることにより、接着強度と曲げ剛性を両立した接着構造が可能となる。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材の第1の被着体と金属材の第2の被着体とを接着する異種材の接着構造において、
前記第1の被着体の表面上の、前記第2の被着体に比べ、前記第1の被着体に対する接着強度が高い第1の接着剤と、
前記第2の被着体の表面上の、前記第1の被着体に比べ、前記第1の被着体に対する接着強度が高い第2の接着剤と、を有し、
前記第1の接着剤と前記第2の接着剤とは、積層して接着されており、
前記第1の接着剤は、前記第2の接着剤に比べ弾性率が高い
ことを特徴とする異種材の接着構造。
【請求項2】
請求項1記載の異種材の接着構造において、
前記第1の被着体に対する前記第1の接着剤の接着面積に比べ、前記第2の被着体に対する前記第2の接着剤の接着面積が大きい
ことを特徴とする異種材の接着構造。
【請求項3】
請求項1記載の異種材の接着構造において、
前記第1の被着体に対する前記第1の接着剤の端部周囲に、前記第2の被着体に対する前記第2の接着剤が覆い被さる
ことを特徴とする異種材の接着構造。
【請求項4】
請求項1記載の異種材の接着構造において、
前記第2の被着体に対する前記第2の接着剤に、球状スペーサ材が配置されている
ことを特徴とする異種材の接着構造。
【請求項5】
請求項1記載の異種材の接着構造において、
前記第1の接着剤はエポキシ系の接着剤で、
前記第2の接着剤はアクリル系の接着剤である
ことを特徴とする異種材の接着構造。
【請求項6】
請求項1記載の異種材の接着構造において、
前記第1の接着剤と前記第2の接着剤での接着に加え、
機械締結を併用した
ことを特徴とする異種材の接着構造。
【請求項7】
樹脂材の第1の被着体と金属材の第2の被着体とを接着する異種材の接着方法において、
前記第1の被着体の表面に、前記第2の被着体に比べ、前記第1の被着体に対する接着強度が高く、高い第1の接着剤を先に接着硬化し、
前記第1の接着剤の表面を粗化し、
前記第2の被着体の表面に、前記第1の被着体に比べ、前記第1の被着体に対する接着強度が高く、前記第1の接着剤より弾性率が低い第2接着剤で後接着し、
前記第1の被着体と前記第2の被着体とを、租化された前記第1の接着剤の表面に、前記後接着された第2の接着剤を接着することで、前記第1の接着剤と前記第2の接着剤とを積層して接着する
ことを特徴とする異種材の接着方法。
【請求項8】
請求項7に記載の異種材の接着方法において、
前記第1の被着体に対する前記第1の接着剤の接着面積に比べ、前記第2の被着体に対する前記第2の接着剤の接着面積が大きくなるように、前記第2の接着剤を塗布する
ことを特徴とする異種材の接着方法。
【請求項9】
請求項8記載の異種材の接着方法において、
前記第1の被着体に対する前記第1の接着剤の端部周囲に、前記第2の被着体に対する前記第2の接着剤が覆い被さるよう前記第2の接着剤を塗布する
ことを特徴とする異種材の接着方法。
【請求項10】
請求項9記載の異種材の接着方法において、
前記第2の被着体に対する前記第2の接着剤に、球状スペーサ材を散布する
ことを特徴とする異種材の接着方法。
【請求項11】
請求項7記載の異種材の接着方法において、
前記第1の接着剤はエポキシ系の接着剤で、
前記第2の接着剤はアクリル系の接着剤である
ことを特徴とする異種材の接着方法。
【請求項12】
請求項7記載の異種材の接着方法において、
前記第1の接着剤と前記第2の接着剤とを接着させ、
前記第1の被着体と前記第2の被着体とに設けられたボルト穴に、ボルトナットで機械締結する
ことを特徴とする異種材の接着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の板材や構造体に対し、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)の板材を接合補強する接着構造およびその接着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属を用いた構造体、特に乗り物(鉄道、バス、船、航空機等)や昇降機(エレベータ等)の省エネや信頼性向上には、軽量化を図りつつ、構造体の弱い部分、例えば窓や扉等の開口部付近の剛性向上も必要となっている。
【0003】
特に、鉄道車両やバス等の車両の走行中には、トンネルの出入り等による急激な気圧変化に耐えるため、窓や扉付近の開口部付近の剛性向上な重要である。
【0004】
このため、比重が小さく、剛性が強い炭素繊維強化プラスチック(以下CFRPと略す)を用いた補強構造が実用化されている。
【0005】
金属の構造体を樹脂母材のCFRPで補強するには異種材料の接合となり、金属同士の接合に用いられるスポット溶接やアーク溶接は使用困難である。また、ボルトやリベットによる機械締結は、点接合であるため、応力集中や熱膨張差による熱応力が締結部に集中し、信頼性に課題が残る。このため、金属と樹脂の異種材の接合には、面接合で、熱応力緩和が可能な接着接合を主要とする接合方法が適している。
【0006】
接着接合においても以下の課題がある。
(1)接着剤の種類に応じて異種材への接着強度の強弱があり、1種類の接着剤での接着では、異種材の片側面の接着強度が弱くなり易い。その結果として接着強度が高めることが難しく、剥離し易い。
(2)数10センチメートルからメートル級の大きな面積を接着する場合、異種材の熱膨張係数が大きく異なるため、熱膨張収縮差により接着端部に応力が集中して、CFRPの層間剥離やCFRP自体の剥離が発生しやすい。
(3)数10センチメートルからメートル級の大きな金属板の場合、表面のうねりや反りがミリメートルオーダと大きく、平坦なCFRPを接着する場合に、接着厚がばらつき、全般に接着厚がミリメートルオーダと厚くなり易い。以上より、接着強度を向上可能、熱膨張差を吸収可能で、接着厚が数10~数100マイクロメータの一般的な接着に比べて厚い、異種材の接合に適した接着方法が必要である。
【0007】
例えば、特開2020-122082号公報(特許文献1)には、金属とプラスチックの異種材を接着した例として、エポキシ樹脂層の両面にフェノール樹脂およびニトリルゴムからなる接着剤を積層した複合体がある。接着剤層を伸び易くし、応力緩和と高い接着強度を有した接着構造が開示されている。
【0008】
また、液晶のガラスと回路基板の異種材を接着した例として、2種類の接着剤を積層した接着構造および液晶装置がある。特開2004-136673号公報(特許文献2)には、材質が異なる異種材との接着強度がそれぞれ強い接着剤を接着剤の厚さ方向に積層した接着構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2020-122082公報
【特許文献2】特開2004-136673公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1には、接着を担う複合体の中心層のエポキシ樹脂の伸びに対し、その両面のフェノール樹脂およびニトリルゴムからなる接着剤の伸びを大きくし、異種材料間の線膨張係数差を緩和しつつ、接着強度を発揮する方法が開示されている。しかし、異種材間の伸びと接着強度を考慮した接着構造のため、熱応力や外力による接着構造自体の曲がり難さ、つまり曲げ剛性に関しては考慮されていない。このため、接着構造体の曲げ剛性が影響する場合には問題となる可能性がある。
【0011】
特許文献2には、異種材に接着強度の強い2種類の接着剤で積層して接着する方法は開示されているものの、ガラスと回路基板の接着用途であり、接着構造自体の曲げ剛性に関しては考慮されていない。また、異方導電性接着剤として導通する目的もあり、接着層は薄く、接着面のうねりや反りが大きく、接着厚がミリメートルオーダに厚くなる場合には対応できない可能性がある。
【0012】
一方、数10センチメートル級の比較的大型の金属構造体にCFRPを接着して補強する際には、異種材の熱膨張収縮差による接着端部の応力集中や、接着面のうねりや反りによる接着厚のばらつきに対して、非接着部からの剥離進展や、接着強度低下を防止できる接着強度を有していなければならない。更に、補強接着する観点から、接着構造自体の剛性も高くする必要がある。
【0013】
本発明の目的は、金属とCFRPの異種材の接着において、熱膨張収縮差や接着厚ばらつきに対する剥がれや接着信頼性を向上させつつ、接着構造体の曲げ剛性を向上した、CFRPの接着構造および接着する方法を提供することにある。
【0014】
本発明の上記の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願において開示される実施の形態のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、以下のとおりである。
【0016】
樹脂材の第1の被着体と金属材の第2の被着体とを接着する異種材の接着構造において、第1の被着体表面の、第2の被着体に比べ、第1の被着体に対する接着強度が高い第1の接着剤と、第2の被着体(金属材)表面の、第1の被着体に比べ、第1の被着体に対する接着強度が高い第2の接着剤と、を有し、第1の接着剤と第2の接着剤は、積層して接着されており、第1の接着剤は、前記第2の接着剤に比べ弾性率が高い。
【発明の効果】
【0017】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば、以下のとおりである。
【0018】
異種材の接着厚がミリメートルオーダの厚い接着において、接着剤の種類に応じて異種材への接着強度の強弱がある。そのため、異種材の樹脂材CFRPと金属材のそれぞれに接着強度が強い2種類の接着剤を積層接着することにより、1種類の接着剤での最大接着強度を維持したまま、接着構造体の曲げ剛性が向上する。また、CFRPを補強が必要な箇所のみに接着することが可能となるため、金属材のリサイクル性への影響も最小限にできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1A】実施例1に係る金属板にCFRP板を接着した状態の一例を示す斜視図である。
【
図2A】実施例1のCFRP板の接着状態の一例を示す断面図である。
【
図2B】実施例1のCFRP板と金属板の接着方法の一例を示す断面図である。
【
図2C】実施例1の2種類の接着剤による接着状態と曲げ剛性の一例を示す断面図である。
【
図3A】従来の1種類の接着剤Aのみによる接着状態と曲げ剛性を示す断面図である。
【
図3B】従来の1種類の接着剤Bのみによる接着状態と曲げ剛性を示す断面図である。
【
図3C】接着剤1種類と2種類の曲げ剛性の関係を示す図である。
【
図3D】接着剤1種類と2種類のせん断強度の関係を示す図である。
【
図4】実施例2の接着構造の一例を示す断面図である。
【
図5】実施例3の接着構造の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施の形態における、金属材に接着剤でCFRP材を接合した、異種材の接着構造では、樹脂材CFRPと金属材のそれぞれに接着強度が強い2種類の接着剤を積層接着する。第1の接着剤は樹脂材CFRPに高接着強度で高弾性率(硬い)が、金属には低接着強度とする。第2の接着剤は金属材に高接着強度で低弾性率(軟い)とし、第1の接着剤の弾性率を第2の接着剤の弾性率に比べて、高く(硬く)する。以上により、第1と第2の接着剤の積層接着部は、第2の接着剤のみの接着部に比べて、積層接着部の平均的な弾性率が向上し、接着構造体の曲げ剛性が向上する。
【0021】
本実施の形態の接着構造は、樹脂材CFRP材に対して第1の接着剤を塗布硬化し、その第1の接着剤面を粗化して投錨効果を発現させた面に対し、金属材に塗布した第2の接着剤で接着硬化する構造とする。このため、第1の接着剤と第2の接着剤との間の接着強度を向上できる。また、先に塗布硬化する第1の接着剤端部に、後で塗布硬化する第2の接着剤が覆い被さり、第1の接着剤の接着面積に比べ、後で塗布硬化する第2の接着剤の接着面積が大きくなる。これにより、接着端部の応力集中による剥離を防止でき、接着強度の向上にも寄与する。この結果、第2の接着剤1種類での最大接着強度を、第1の接着剤と第2の接着剤との接着でも発現可能となる。
【0022】
本実施の形態の接着構造は、接着剤の中に、球状のスペーサ材が含まれた接着構造とし、接着厚の管理を可能とする。以上の結果、数10センチメートル級の比較的大型の金属構造体にCFRPを接着して補強する際には、膨張収縮差や接着厚ばらつきに対する剥がれや接着信頼性を向上させつつ、接着構造体自体の剛性を向上した接着構造となる。
【0023】
本実施の形態の接着構造は、CFRP板ボルト穴と金属板ボルト穴をボルトナットで締めることも可能である。以上により、万一、接着部に剥離が発生しても、補強用のCFRP板の脱落を防止することができ、接着部品の信頼性が向上できる効果もある。
【0024】
本実施の形態の接着構造は、金属を用いた構造体、特に乗り物(鉄道、バス、船、航空機等)や昇降機(エレベータ等)の省エネや信頼性を向上させて軽量化を図りつつ、構造体の弱い部分、例えば窓や扉等の開口部付近の剛性向上させるために、効果的である。
【0025】
特に、鉄道車両やバス等の車両の走行中には、トンネルの出入り等による急激な気圧変化に耐える必要があり、本実施の形態の接着構造は、窓や扉付近の開口部付近の剛性向上に効果的に適応することができる。
【0026】
また、本実施の形態の接着構造は、軽量化を図りつつ十分な剛性確保が必要となる製品、例えば、モバイルPCに適応すると効果的である。
【0027】
以下、図面を参照して、本願の接着構造および接着方法の実施の形態を説明する。
【実施例0028】
図1Aは、実施例1に係る金属板にCFRP板を接着した状態の一例を示す斜視図、
図1Bは、その接着状態を示す断面図である。以下、実施例1の金属板にCFRP板を接着した接着構造およびその接着方法について説明する。
【0029】
まず、
図1A及び
図1Bに示す実施例1に係る、接着状態の概要を説明する。接着部品11は、第1の被着体のCFRP板21と、CFRP板21の表面上(下面)の、第1の接着剤である接着剤A41と、第2の被着体の金属板31と、第2の被着体の金属板31の表面(上面)と、接着剤A41の下面の接着剤面とを接着する、第2の接着剤である接着剤B51とで構成される。
【0030】
接着部品11は、第1の被着体のCFRP板21の下面に、第1の接着剤である接着剤A41を塗布硬化させる。そして、接着剤A41の下面の接着剤面を、第2の被着体の金属板31の上面に塗布した第2の接着剤である接着剤B51で接着硬化した状態である。金属板31は、鉄鋼板、軽量化の観点では、アルミニウム板やマグネシウム等の圧延や引抜の板材や構造材、ダイカスト材が想定され、サイズは数10センチメートルからメートルオーダと大きく、加工の歪・変形や自重変形により、上面の接着面はミリメータオーダのうねりや反りが存在し易い。一方、CFRP板21は、炭素繊維をエポキシ等の母材樹脂で一体成形されており、その表面は大形の金属板に比べ、一般に平坦である。
【0031】
第1の接着剤である接着剤A41は、エポキシ系等で、樹脂材CFRP材に接着強度が強く、高弾性率(硬い)の接着剤を選定する。一方、第2の接着剤である接着剤B51はアクリル系等で、金属材に接着強度が強く、第1の接着剤に比べて低弾性率(軟い)で、粘度が高く垂れにくい接着剤が適用可能である。一般にエポキシ系の接着剤は、高弾性率で、金属に比べ、母材樹脂のエポキシ樹脂との接着強度が強く、アクリル系の接着剤は、低弾性率だが、樹脂に比べ、金属との接着強度が強い特性がある。このため、1種類の接着剤を用いた接着では、金属31もしくはCFRP板21の片側の接着強度が低く、接着強度の弱い側の界面で剥離することが多い。
【0032】
図1を例えば、金属板31をアルミニウム製(以下アルミ製と略す)、第1の接着剤である接着剤A41をエポキシ系接着剤で、第2の接着剤である接着剤B51はアクリル系接着剤で構成した場合を想定する。CFRP板21の下面に、エポキシ系の接着剤A41を塗布硬化し、エポキシ系の接着剤A41の下面の接着剤面を、アルミ製の金属板31の上面に塗布したアクリル系の接着剤B51で接着硬化した状態で、接着剤A41と接着剤B51の積層接着で接着厚91の接着構造となる。本実施例が適用される分野、例えば、鉄道車両の金属板31のサイズは、数10センチメートルからメートルオーダの金属板であるため、一般的に反り量やうねり量は、最大3mm程度であると想定される。そのため、接着厚91は、1-3mm程度である。
【0033】
図2Aから
図2C用いて、異種材の接着状態とその手順、曲げ剛性を説明する。
図2Aは実施例1のCFRP板の接着状態を示す断面図である。
図2Bは、
図1と同様に、金属板31をアルミ製、接着剤A41をエポキシ系接着剤で、接着剤B51はアクリル系接着剤で構成した場合を想定する。
【0034】
まず、
図2Aにおいて、CFRP板21下面のCFRP接着面22を紙やすり等で表面粗化し、切り粉、油脂、汚れ等をアルコール系等の有機溶剤で洗浄し、密着剤のプライマーを塗布乾燥する。
【0035】
その後、接着剤A41を接着剤A厚さ44になるように塗布し硬化させる。接着剤A厚さ44は、
図1Bの接着厚91の半分程度を目安とする。
【0036】
図2Bは、実施例1のCFRP板とアルミ製の金属板の接着方法を示す断面図である。CFRP板21のCFRP接着面22上に硬化したエポキシ系の接着剤A41の接着剤A表面42は、塗布硬化させたままでは、表面は滑らかなため、紙やすり等で表面粗化する。表面粗化による投錨効果で、その後のアクリル系接着剤B53と接着強度を向上するためである。接着剤A41の塗布硬化された長さ接着剤A長さ43は、CFRP板21と同じ長さとなる。尚、表面粗化のために用いる紙やすりは、例えば、粒度(粗さ)の番手が、粗目#40~#100、中目#120~#240程度が適している。
【0037】
一方、アルミ製の金属板31上面の金属接着面32は、アルミに対する接着剤B51の接着強度を向上するため、紙やすり等で表面粗化し、切り粉、油脂、汚れ等をアルコール系等の有機溶剤で洗浄する。
【0038】
その後、接着剤B51を接着剤B厚さ54になるように塗布する。接着剤B厚さ54は、
図1Bの接着厚91の半分より厚めにする。接着剤B長さ53は接着剤A長さ43よりも長めにする。例えば、CFRPの長さ、つまり接着長さは10~50cm程度を想定する。
【0039】
最後に、接着剤A41の接着剤A表面42を、アルミ製の金属板31に塗布された接着剤B表面52に対し、XY軸方向の位置決めし、接着動作81により、Z軸マイナス方向に降下接触させて、接着厚91となるようにZ軸を調節して接着する。
【0040】
図2Cは、実施例1の2種類の接着剤による接着状態と曲げ剛性を示す断面図である。アルミ製の金属板31とCFRP板21が、エポキシ系の接着剤A41とアクリル系の接着剤B51の積層で接着された構造が完成する。CFRP板21に対してエポキシ系接着剤A41を塗布硬化し、その後、金属材31に塗布したアクリル系接着剤B51で接着硬化する構造とする。このため、先に塗布硬化したエポキシ接着剤A41の接着長さ(面積)43に比べ、後で塗布硬化したアクリル系接着剤B51の接着長さ(面積)53が大きくなる。接着端部R63と接着端部L64は、エポキシ系接着剤A41の端部に、後硬化のアクリル系接着剤B51で覆い被さり、接着端部の応力集中による剥離を防止できる。また、エポキシ系接着剤A41の接着剤A表面42は粗化されており、アクリル系接着剤B51の接着強度が高くできる。
【0041】
また、2種類の接着剤で接着された接着部品11の曲げ剛性は、例えば3点曲げで評価できる。評価方法は、接着部品11の下面の両側に円柱状の支点である、3点支持R83と3点支持L84を設け、2支点間の中央部を上面から荷重82で押し、曲げたわみ量を測定し、曲げ剛性91を比較する。曲げ剛性の比較については
図3Aから
図3Cを用いて、後述する。
【0042】
次に、
図3A、
図3Bの断面図と
図3C、
図3Dのグラフを用いて、1種類の接着剤と2種類の接着剤を用いた場合の接着状態の曲げ剛性と接着強度の関係を比較説明する。前述同様に、金属板31をアルミ製、接着剤A41をエポキシ系接着剤で、接着剤B51はアクリル系接着剤で構成した場合を想定する。接着強度と曲げ剛性の関係を比較するために、
図3Aでは、アルミ製の金属板31とCFRP板21をエポキシ系接着剤のみで接着する場合を説明する。前述したように、一般にエポキシ系の接着剤A41は、金属に比べ、CFRP板21の母材樹脂のエポキシ樹脂との接着強度が強い。X軸方向のせん断強度を測定した場合、金属接着面32と接着剤A41の接着界面で剥離し易く、剥離面72となり易い。また、エポキシ系接着剤は、アルミ等の金属との接着強度の絶対値が低い傾向であり、接着強度の点で課題がある。
【0043】
一方、エポキシ系接着剤の弾性率は、一般に1~10GPa程度と高い(硬い)ものが多く、前述同様に3点曲げでアルミ製の金属板31下面の両側の3点支持R83と3点支持L84に対し、CFRP板21上面から荷重82で押して得られる曲げ剛性92が高くなる長所がある。
【0044】
図3Bでは、アルミ製の金属板31とCFRP板21をアクリル系接着剤のみで接着する場合を説明する。前述したように、一般にアクリル系の接着剤B51は、CFRP板の母材樹脂のエポキシ樹脂に比べ、金属との接着強度が強く、X軸方向のせん断強度を測定した場合、CFRP接着面22と接着剤B541の接着界面で剥離し易く、剥離面73となり易い。また、アクリル系接着剤のCFRP樹脂との接着強度は、エポキシ系接着剤の金属との接着強度に比べ、高い傾向が得られやすい長所がある。
【0045】
一方、アクリル系接着剤の弾性率は、一般に数10MPa~1GPa程度とエポキシ系接着剤よりも低く(軟く)、前述同様に3点曲げでアルミ製の金属板31下面の両側の3点支持R83と3点支持L84に対し、CFRP板21上面から荷重82で押して得られる曲げ剛性93は低くなる点で課題がある。
【0046】
図2Cに示す、エポキシ系接着剤Aとアクリル系接着剤Bを積層接着した場合、
図3Aに示すエポキシ系接着剤Aのみで接着した場合、
図3Bに示すアクリル系接着剤Bのみで接着した場合の3種類の曲げ剛性を、同じ接着厚で比較した一例を
図3Cに示す。前述の3点曲げで評価し、横軸に「曲げたわみ」、縦軸の荷重82を規格化した「曲げ荷重」でグラフ化すると、アルミ製の金属板のみ121の曲げ荷重に対し、CFRP板を接着した接着部品3種類は、8~10倍程度の大きな曲げ荷重が必要であることがわかり、CFRP補強接着の効果が定量的に確認できる。
【0047】
CFRP板を接着した3種類の比較では、高弾性率なエポキシ系接着剤Aのみ122、低弾性率なアクリル系接着剤Bのみ123、高弾性なエポキシ系接着剤Aと低弾性なアクリル系接着剤B124となる。高弾性率なエポキシ系接着剤Aのみ122は、低弾性率なアクリル系接着剤Bのみ123より曲げ剛性が高くなる。高弾性なエポキシ系接着剤Aと低弾性なアクリル系接着剤B124がその中間の曲げ剛性である。
【0048】
弾性率に対し、接着強度の比較を
図3Dに示す。アルミ製の金属板とCFRP板との接着のせん断強度を、縦軸の荷重を規格化した「せん断強度」でグラフ化し、点線は平均強度を示す。アルミ製の金属板とCFRP板との接着のせん断強度を比較する。高弾性率だがアルミとの接着強度が低いエポキシ系の接着剤Aのみで接着した場合、CFRPとの接着強度は高いが、アルミ界面での剥離が発生し易く、せん断強度は低い傾向となる。一方、低弾性率だが高強度なアクリル系の接着剤Bのみで接着した場合は、アルミとの接着強度は高く、CFRPとの接着強度も比較的高く、せん断強度は高い傾向となる。
図2Cに示すエポキシ系接着剤Aとアクリル系接着剤Bを積層接着した場合、CFRPにはエポキシ系の接着剤Aが高強度で、アルミにはアクリル系の接着剤Bが高強度となる。接着剤Aと接着剤Bの接触面は、弾性率が高い、つまり硬いエポキシ系の接着剤Aの先に接着硬化した面が粗化し易く、後接着硬化した接着剤Bが粗化面に侵入し易く、高い投錨効果が発現し易くなる。このため、アクリル系の接着剤Bのみのせん断強度と同じレベルにできる。
【0049】
以上の接着構造、接着強度、曲げ剛性の関係をまとめる。樹脂材CFRP板21に接着強度が高く、高弾性率なエポキシ系接着剤A41をCFRP21に先接着して、アルミとの接着面側を粗化して投錨効果により接着強度を上げる。アルミ製の金属板31に接着強度が高いが、低弾性率なアクリル系接着剤B51による後接着による積層での接着により、積層接着部の平均的な弾性率が向上し、接着構造体の曲げ剛性を向上できる。
【0050】
更に、エポキシ系の接着剤Aの先に接着硬化した面が粗化し易く、先接着硬化したエポキシ系接着剤A41の粗化面に高い投錨効果が発現し、アクリル系接着剤B51だけの接着強度と同等の接着強度が得られる。
ここで、接着剤B51の塗布面に、均一な直径でできたスペーサビーズ102を球状スペーサ材として接着剤表面に均一に散布する。スペーサビーズ102は、接着剤B51に均一に配置されることとなる。スペーサビーズ102は、ガラス製やポリエチレン等の樹脂製を用い、その直径は、目標とする仕上がり接着厚101から、接着剤A厚さ44を引いた大きさに決定する。最後に、接着剤A41を、アルミ製の金属板31に塗布された接着剤B51に対し、XY軸方向の位置決めし、Z軸マイナス方向に降下接触させて、スペーサビーズ102に押し付けると、接着厚101で接着が完了する。以上の方法により、接着厚保101のばらつきを管理でき、この結果、曲げ剛性のばらつきを小さくする効果がある。