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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167562
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】超音波溶着体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/10 20060101AFI20241127BHJP
   H01B 13/012 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
B23K20/10
H01B13/012 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083730
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】矢尾板 俊輔
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA06
4E167AA08
4E167BE00
4E167DA04
4E167DB09
(57)【要約】
【課題】複数本の電線を挟持して超音波振動を減衰させる際に、電線の絶縁被覆同士が溶着して短絡が生じるのを抑制することが可能な超音波溶着体の製造方法を提供する。
【解決手段】超音波溶着体の製造方法は、隣接する複数の端子付き電線10を振動抑制治具50によって挟持した状態で、複数の端子付き電線10の露出した導体21同士を超音波で溶着する超音波溶着体の製造方法であって、振動抑制治具50は、複数の端子付き電線10を挟持した場合に、複数の端子付き電線10の絶縁被覆22と当接するように構成され、絶縁被覆22よりも熱伝導率が高い熱伝導部材によって形成された熱伝導部54を含む。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接する複数の端子付き電線を振動抑制治具によって挟持した状態で、前記複数の端子付き電線の露出した導体同士を超音波で溶着する超音波溶着体の製造方法であって、
前記端子付き電線の各々は、前記導体と前記導体を被覆する絶縁被覆とを含む電線と、前記電線の第1端部に接続された端子金具とを備え、前記電線の前記第1端部とは反対側の第2端部の前記導体は露出しており、
前記露出した導体を超音波で溶着する際には、前記振動抑制治具は前記絶縁被覆が被覆された部分を挟持し、
前記振動抑制治具は、前記複数の端子付き電線を挟持した場合に、前記複数の端子付き電線の前記絶縁被覆と当接するように構成され、前記絶縁被覆よりも熱伝導率が高い熱伝導部材によって形成された熱伝導部を含む、超音波溶着体の製造方法。
【請求項2】
前記熱伝導部材は、金属、熱伝導樹脂又はこれらの組み合わせである、請求項1に記載の超音波溶着体の製造方法。
【請求項3】
前記振動抑制治具は、前記複数の端子付き電線の前記絶縁被覆を挟持するように構成され、前記熱伝導部材よりもヤング率が大きい高弾性部材で形成された一対の高弾性部をさらに含む、請求項1又は2に記載の超音波溶着体の製造方法。
【請求項4】
前記熱伝導部材は、樹脂と、前記樹脂内に分散された熱伝導フィラーとを含む熱伝導樹脂で形成されており、
前記高弾性部材は樹脂で形成されている、請求項3に記載の超音波溶着体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波溶着体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、端子金具を接続した電線の一端に超音波接合処理を実施することが知られている。しかしながら、超音波接合処理を実施する際、超音波振動が電線の導体を伝わって端子金具へ伝わるおそれがある。そして、この振動によって端子金具に負荷が生じると、端子金具の品質が低下するおそれがある。
【0003】
そこで、特許文献1では、電線の一端に端子金具を接続し、電線の中間部分における所定の範囲を一対の板体によって挟持し、電線の他端において露出した導体に超音波振動を付与して超音波接合処理を行う、端子付き電線の製造方法が開示されている。電線の絶縁被覆は塑性変形するよりも弱く、かつ、板体による押さえ付けによって絶縁被覆が硬くなり導体に対する絶縁被覆の摩擦が増加する挟持力で電線が挟持される。この方法によれば、電線の中間部分で振動が減衰されるため、端子金具への振動の影響を抑制することができ、端子金具の製品不良を削減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-177863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、超音波接合処理を実施すると、超音波振動で摩擦熱が発生する。この摩擦熱が電線の中間部分まで移動し、熱を帯びた状態で、複数の電線を一対の板体で挟持すると、挟持した箇所において、電線の絶縁被覆同士が熱で溶着するおそれがある。そして、絶縁被覆同士が熱で溶着した場合、導体が電気的に接続されて短絡が生じるおそれがある。一方、複数の電線を1本ずつ一対の板体で挟持する場合、電線の絶縁被覆同士が熱で溶着するのを防ぐことができる。しかしながら、このような場合には、電線を挟持する設備の費用、及び挟持治具に電線をセットする加工費が大幅に増加するおそれがある。
【0006】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、複数本の電線を挟持して超音波振動を減衰させる際に、電線の絶縁被覆同士が溶着して短絡が生じるのを抑制することが可能な超音波溶着体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様に係る超音波溶着体の製造方法は、隣接する複数の端子付き電線を振動抑制治具によって挟持した状態で、複数の端子付き電線の露出した導体同士を超音波で溶着する超音波溶着体の製造方法である。端子付き電線の各々は、導体と導体を被覆する絶縁被覆とを含む電線と、電線の第1端部に接続された端子金具とを備え、電線の第1端部とは反対側の第2端部の導体は露出している。露出した導体を超音波で溶着する際には、振動抑制治具は絶縁被覆が被覆された部分を挟持する。振動抑制治具は、複数の端子付き電線を挟持した場合に、複数の端子付き電線の絶縁被覆と当接するように構成され、絶縁被覆よりも熱伝導率が高い熱伝導部材によって形成された熱伝導部を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、複数本の電線を挟持して超音波振動を減衰させる際に、電線の絶縁被覆同士が溶着して短絡が生じるのを抑制することが可能な超音波溶着体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係るワイヤーハーネスの一例を示す概略的な平面図である。
図2】ワイヤーハーネスから保護部材及びハウジングを取り外した状態を示す概略的な斜視図である。
図3】複数の端子付き電線同士を超音波溶着機で溶着する様子を示す概略的な斜視図である。
図4】端子金具に電線を圧着した端子付き電線の一例を示す斜視図である。
図5図4のV-V線で切断した断面図である。
図6】電線を振動抑制治具で挟持した状態の一例を示す概略的な斜視図である。
図7】電線を振動抑制治具で挟持した状態の一例を示す概略的な平面図である。
図8】電線を振動抑制治具で挟持した状態の別の例を示す概略的な斜視図である。
図9】電線を振動抑制治具で挟持した状態の別の例を示す概略的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて本実施形態に係る超音波溶着体の製造方法について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0011】
図1は、一実施形態に係るワイヤーハーネスWの一例を示す概略的な平面図である。図1に示すように、ワイヤーハーネスWは、複数の端子付き電線10と、保護部材Pとを備えている。コネクタCは、端子付き電線10の一端である第1端部に設けられている。コネクタCは、ハウジングHを含んでおり、ハウジングHの内側には後述するように端子金具30が保持されている。また、端子付き電線10の第1端部とは反対側である第2端部には、保護部材Pが設けられている。保護部材Pは後述する分岐接続部Bの外周を覆っており、保護部材Pは分岐接続部Bを保護している。
【0012】
図2は、ワイヤーハーネスWから保護部材P及びハウジングHを取り外した状態を示す概略的な斜視図である。図3は、複数の端子付き電線10同士を超音波溶着機で溶着する様子を示す概略的な斜視図である。図2及び図3に示すように、ワイヤーハーネスWは、複数の端子付き電線10の露出した導体21同士を超音波で溶着した超音波溶着体である。
【0013】
端子付き電線10の各々は、電線20と、端子金具30とを備えている。電線20は、導体21と、絶縁被覆22とを含んでいる。絶縁被覆22は、導体21を被覆している。
【0014】
導体21は、1本の素線のみで構成されてもよく、複数本の素線を束ねて構成された集合撚り線であってもよい。また、導体21は、1本の撚り線のみで構成されていてもよく、複数本の集合撚り線を束ねて構成された複合撚り線であってもよい。導体21の材料としては、導電性が高い金属を使用することができる。導体21の材料は、例えば、銅、アルミニウム、又はこれらの合金等であってもよい。
【0015】
絶縁被覆22の材料としては、電気絶縁性を確保できる熱可塑性樹脂を使用することができる。絶縁被覆22の材料は、例えば、オレフィン系樹脂及びポリ塩化ビニルの少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。オレフィン系樹脂は、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン共重合体及びプロピレン共重合体からなる群より選択される少なくとも一種以上の樹脂を含んでいてもよい。
【0016】
端子金具30は、電線20の第1端部に接続されている。図4に示すように、本実施形態において、端子金具30は雌型端子である。端子金具30は、一方の端部に設けられた電線接続部31と、もう一方の端部に設けられた端子接続部32とを含んでいる。そして、電線接続部31は、電線20の第1端部に接続されている。電線接続部31は、詳細には、電線20の導体21に圧着することによって接続された導体加締部31aと、絶縁被覆22に圧着することによって接続された被覆加締部31bとを含んでいる。
【0017】
端子接続部32は、図示しない相手方端子と接続するように構成されている。端子接続部32が相手方端子の端子接続部と接続されることにより、端子金具30は相手方端子と機械的かつ電気的に接続される。端子接続部32は、四角形の筒状の形状を有する箱部33と、箱部33と連続的かつ一体的に接続され、箱部33の端部から屈曲して箱部33内に延び、箱部33内に挿入された弾性バネ部34とを含んでいる。端子接続部32は、箱部33の上壁と弾性バネ部34とで図示しない相手方端子である板状の雄型端子を挟持するように構成されている。
【0018】
端子金具30は、導電性材料により形成されている。端子金具30を形成する材料は、例えば、銅、アルミニウム、鉄及びマグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属を含んでいてもよい。端子金具30の表面はめっきされていてもよく、めっきされていなくてもよい。
【0019】
電線20の第1端部とは反対側の第2端部の導体21は露出している。そして、図3に示すように、第2端部の露出した導体21同士を超音波溶着によって溶着することによって分岐接続部Bが形成される。超音波溶着は、例えば図3に示すように、公知の超音波溶着機40によって実施することができる。
【0020】
超音波溶着機40は、ホーン41と、アンビル42とを備えている。ホーン41は、超音波発振器によって超音波振動するように構成されており、振動エネルギーを複数の導体21に伝達する。アンビル42は、ホーン41の受具であり、ホーン41に対向するように配置されている。そして、複数の導体21をホーン41とアンビル42とで挟んで加圧しつつ、ホーン41を介して複数の導体21へ振動エネルギーを伝達することにより、導体21同士の接触面において摩擦熱が生じ、この摩擦熱によって導体21同士が溶着する。
【0021】
ここで、第2端部の露出した導体21同士を超音波溶着によって溶着する際、電線20を介して第1端部に接続された端子金具30に超音波振動が伝達されるおそれがある。そして、超音波振動によって、端子金具30の弾性バネ部34が振動を過剰に繰り返すと、箱部33と弾性バネ部34との接続部分が変形したり、破損したりするなどの損傷を受けるおそれがある。
【0022】
そのため、本実施形態に係る超音波溶着体の製造方法では、隣接する複数の端子付き電線10を振動抑制治具50によって挟持した状態で、複数の端子付き電線10の露出した導体21同士を超音波で溶着して超音波溶着体を製造する。複数の端子付き電線10を振動抑制治具50によって挟持することにより、この挟持部分で超音波による振動を減衰させることができる。そのため、超音波による振動が、第2端部から第1端部に接続された端子金具30に伝達するのを抑制することができる。振動抑制治具50は、図3に示すように、端子金具30が接続された第1端部と、導体21が露出している第2端部との間に配置される。
【0023】
図6は、電線20を振動抑制治具50で挟持した状態の一例を示す概略的な斜視図である。図7は、電線20を振動抑制治具で挟持した状態の一例を示す概略的な平面図である。図6及び図7に示すように、端子金具30が接続された第1端部と、導体21が露出している第2端部との間において、電線20が振動抑制治具50によって挟持されている。
【0024】
露出した導体21を超音波で溶着する際には、振動抑制治具50は絶縁被覆22が被覆された部分を挟持する。絶縁被覆22が被覆された部分が挟持されることにより、露出した導体21同士の溶着を促進し、挟持部分で超音波による振動を減衰させることができる。
【0025】
振動抑制治具50は、ベース51と、固定部52と、可動部53と、熱伝導部54とを含んでいる。固定部52は、ベース51に取り付けられ、ベース51から移動しないようにベース51に固定されている。可動部53は、ベース51の上に配置され、固定部52に対して隙間を空けて対向するように配置されている。可動部53は、固定部52に近づいたり、固定部52から離れたりするように移動可能に設けられている。可動部53の移動は、図示しないエアシリンダなどを含む駆動部により実現することができる。そして、固定部52と可動部53との間に電線20を配置し、可動部53が固定部52に近づくように駆動することにより、固定部52と可動部53とで電線20を挟持することができる。
【0026】
熱伝導部54は、複数の端子付き電線10を挟持した場合に、複数の端子付き電線10の絶縁被覆22と当接するように構成されている。本実施形態において、熱伝導部54は、固定部52の表面と可動部53の表面に取り付けられている。そして、固定部52の表面に取り付けられた熱伝導部54と、可動部53の表面に取り付けられた熱伝導部54とが対向するように配置されており、熱伝導部54で電線20を挟持する。
【0027】
熱伝導部54は、絶縁被覆22よりも熱伝導率が高い熱伝導部材によって形成されている。そして、第2端部の露出した導体21同士を超音波で溶着し、超音波による振動で発生した熱を、熱伝導部54を介して放出する。これにより、超音波振動の摩擦熱が振動抑制治具50の挟持部分まで到達した場合であっても、熱伝導部54が、絶縁被覆22の熱を奪いとって放熱するため、絶縁被覆22が溶融するのを抑制することができる。そのため、隣接する複数の端子付き電線10を振動抑制治具50によって挟持した状態で、露出した導体21同士を超音波で溶着した場合であっても、電線20の絶縁被覆22同士が溶着して短絡が生じるのを抑制することができる。
【0028】
熱伝導部材は、絶縁被覆22よりも熱伝導率が高い。熱伝導部材の熱伝導率が、絶縁被覆22の熱伝導率よりも高いことで、絶縁被覆22の熱を熱伝導部材に伝達させ、絶縁被覆22から効率よく熱を奪うことができる。熱伝導率は、レーザーフラッシュ法によって測定することができる。熱伝導部材の熱伝導率は、絶縁被覆22の熱伝導率の2倍以上であってもよく、5倍以上であってもよく、10倍以上であってもよい。熱伝導部材の熱伝導率が高い程熱伝導性が高くなるため、熱伝導部材の熱伝導率の上限は特に限定されないが、例えば熱伝導部材の熱伝導率は絶縁被覆22の熱伝導率の10000倍以下であってもよく、1000倍以下であってもよい。
【0029】
熱伝導部材は、例えば、金属、熱伝導樹脂又はこれらの組み合わせなどであってもよい。これらの材料は、熱伝導性が特に高いため、超音波による熱を絶縁被覆22からさらに効率よく奪うことができる。固定部52の表面に設けられた熱伝導部54と、可動部53の表面に設けられた熱伝導部54の熱伝導部材は、それぞれ同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0030】
熱伝導部材として用いられる金属は、金、銀、銅、亜鉛、アルミニウム、鉄、ニッケル、マグネシウム又はこれらの金属を含む合金などであってもよい。
【0031】
熱伝導樹脂は、樹脂と、樹脂内に分散された熱伝導フィラーとを含んでいてもよい。熱伝導樹脂に用いられる樹脂は、ポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレンのようなフッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレートのようなポリエステル、ポリ塩化ビニル、シリコーン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ナイロン又はこれらの組み合わせなどであってもよい。熱伝導フィラーは、無機物質及び金属の少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。金属は、上述した熱伝導部材として用いられる金属を使用してもよい。無機物質は、例えば、窒化ホウ素、炭素、アルミナ及び窒化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも1つの物質を含んでいてもよい。
【0032】
本実施形態において、熱伝導部54は板形状又はシート形状を有しているが、熱伝導部54の形状は特に限定されない。熱伝導部54は、電線20と当接する当接面が平坦な面であってもよく、複数の突起を有する面であってもよい。当接面が平坦な場合、電線20の熱が放熱されやすくなる。また、当接面が複数の突起を有する面である場合、電線20を挟持した際に滑り止めの役割を果たすことができる。
【0033】
なお、本実施形態では、熱伝導部54は、固定部52の表面と可動部53の表面に取り付けられている。しかしながら、固定部52の表面及び可動部53の表面の少なくともいずれか一方に取り付けられていればよい。このような形態であっても、絶縁被覆22の一方の面から、熱を奪い取って放熱することができる。また、本実施形態では、熱伝導部54が固定部52の一面全体を覆い、かつ、可動部53の一面全体を覆う例について説明した。しかしながら、熱伝導部54は、電線20に当接して熱を逃がすことができればよい。そのため、熱伝導部54は、例えば電線20が当接する部分のみなど、固定部52又は可動部53の少なくとも一部を覆っていればよい。
【0034】
次に、振動抑制治具50を用いてワイヤーハーネスWのような超音波溶着体を製造する方法について説明する。具体的には、まず、熱伝導部54が取り付けられた固定部52と、熱伝導部54が取り付けられた可動部53との間に、複数の端子付き電線10の絶縁被覆22が被覆された部分を配置する。そして、可動部53を固定部52に近づけ、熱伝導部54が複数の端子付き電線10の絶縁被覆22と当接するように、直線状に延びる電線20を熱伝導部54で挟持する。絶縁被覆22が被覆された部分を熱伝導部54で挟持する際には、電線20が直線状に延びた状態で挟持される。そして、隣接する複数の端子付き電線10を振動抑制治具50によって挟持した状態で、複数の端子付き電線10の露出した導体21同士を超音波で溶着する。
【0035】
振動抑制治具50は、電線20の絶縁被覆22が塑性変形する力よりも弱く、かつ、絶縁被覆22が固くなって導体21に対する絶縁被覆22の摩擦が増加する程度に電線20を挟持することが好ましい。これにより、絶縁被覆22を塑性変形させることによる品質低下を抑制し、導体21と絶縁被覆22との間に適度な摩擦力を生じさせて導体21を介して伝導する超音波振動を効果的に減衰させることができる。
【0036】
以上説明した通り、本実施形態に係る超音波溶着体の製造方法は、隣接する複数の端子付き電線10を振動抑制治具50によって挟持した状態で、複数の端子付き電線10の露出した導体21同士を超音波で溶着する超音波溶着体の製造方法である。端子付き電線10の各々は、導体21と導体21を被覆する絶縁被覆22とを含む電線20と、電線20の第1端部に接続された端子金具30とを備え、電線20の第1端部とは反対側の第2端部の導体21は露出している。露出した導体21を超音波で溶着する際には、振動抑制治具50は絶縁被覆22が被覆された部分を挟持する。振動抑制治具50は、複数の端子付き電線10を挟持した場合に、複数の端子付き電線10の絶縁被覆22と当接するように構成され、絶縁被覆22よりも熱伝導率が高い熱伝導部材によって形成された熱伝導部54を含む。
【0037】
本実施形態に係る超音波溶着体の製造方法によれば、隣接する複数の端子付き電線10を振動抑制治具50によって挟持した状態で、複数の端子付き電線10の露出した導体21同士を超音波で溶着する。そのため、振動抑制治具50で超音波による振動を減衰させることができる。超音波による振動が、導体21が露出した第2端部から第1端部に接続された端子金具30に伝達するのを抑制し、端子金具30が超音波によって損傷するのを抑制することができる。
【0038】
また、本実施形態に係る方法では、複数の端子付き電線10を挟持した場合に、絶縁被覆22と当接し、超音波による振動で発生した熱を、熱伝導部54を介して放出する。そのため、絶縁被覆22の温度を低下させることができ、超音波振動で発生した摩擦熱によって絶縁被覆22が溶融し、隣接する絶縁被覆22が熱溶着するのを抑制することができる。したがって、隣接する電線20の導体21同士が電気的に接続され、短絡が生じるのを抑制することができる。
【0039】
このように、本実施形態に係る超音波溶着体の製造方法によれば、複数本の電線20を挟持して超音波振動を減衰させる際に、電線20の絶縁被覆22同士が溶着して短絡が生じるのを抑制することができる。
【0040】
また、本実施形態に係る方法では、隣接する複数の端子付き電線10の露出した導体21同士を超音波で溶着することができる。そのため、振動抑制治具50で複数の端子付き電線10を挟持することにより、各導体21と超音波溶着機40との位置関係が固定される。そのため、各導体21と超音波溶着機40との位置関係を調整する手間を省くことができ、超音波溶着体の製造効率の向上に貢献することができる。
【0041】
また、本実施形態に係る方法では、電線20の絶縁被覆22同士の溶着を抑制することができるため、超音波振動を減衰させる際に、複数本の端子付き電線10を1箇所で挟持することができる。したがって、本実施形態に係る方法によれば、超音波溶着体を製造するにあたって、設備費及び加工費を低減することができる。
【0042】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る超音波溶着体の製造方法について図8及び図9を用いて説明する。第1実施形態に係る方法では、振動抑制治具50は、複数の端子付き電線10を挟持した場合に、複数の端子付き電線10の絶縁被覆22と当接するように構成され、絶縁被覆22よりも熱伝導率が高い熱伝導部材によって形成された熱伝導部54を含んでいた。一方、本実施形態に係る方法では、図8及び図9に示すように、振動抑制治具50は、熱伝導部54に加え、一対の高弾性部55を含んでいる。その他の点については、上記実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0043】
高弾性部55は、複数の端子付き電線10の絶縁被覆22を挟持するように構成されている。具体的には、固定部52の表面には、熱伝導部54及び高弾性部55の両方が取り付けられている。また、可動部53の表面には、熱伝導部54及び高弾性部55の両方が取り付けられている。固定部52の表面に取り付けられた高弾性部55と、可動部53の表面に取り付けられた高弾性部55とは、対向するように配置されている。本実施形態において、熱伝導部54と高弾性部55とは電線20の延伸方向に隣接して並んでいるが、離れた位置に配置されていてもよい。
【0044】
高弾性部55は、熱伝導部材よりもヤング率が大きい高弾性部材で形成されている。そのため、振動抑制治具50で電線20を挟持した場合に、高弾性部55は熱伝導部54よりも変形しづらい。したがって、高弾性部55によって、電線20を、より高い圧力で挟持することができる。このため、電線20の絶縁被覆22同士の溶着を抑制するとともに、超音波振動をさらに減衰することができる。
【0045】
例えば、熱伝導部材が、樹脂と、樹脂内に分散された熱伝導フィラーとを含む熱伝導樹脂で形成されている場合、熱伝導部54の硬度が小さい場合がある。このような熱伝導部材を用いて、端子付き電線10の絶縁被覆22を挟持する場合、導体21と絶縁被覆22間の摩擦が小さくなる傾向にある。しかしながら、一対の高弾性部55で複数の端子付き電線10の絶縁被覆22を挟持することにより、導体21と絶縁被覆22間の摩擦を大きくすることができる。そのため、振動抑制治具50で超音波振動をさらに確実に抑制することができる。なお、ヤング率は、JIS K7161-1の規定に準じ、試験温度20℃、引張速度50mm/分の条件で測定することができる。
【0046】
高弾性部材は、例えば、ポリプロピレン、ポリエステル、硬質ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、及びABS樹脂などのような樹脂であってもよい。一対の高弾性部55を形成する高弾性部材は、それぞれ同じであってもよく、異なっていてもよい。本実施形態において、高弾性部55は板形状又はシート形状を有しているが、高弾性部55の形状は特に限定されない。高弾性部55は、電線20と当接する当接面が平坦な面であってもよく、複数の突起を有する面であってもよい。
【0047】
なお、本実施形態に係る方法では、超音波溶着体として、複数の端子付き電線10を超音波で溶着したワイヤーハーネスWの例について説明した。しかしながら、本実施形態に係る方法は、ワイヤーハーネスW以外の超音波溶着体にも適用することができる。
【0048】
以上のように、本実施形態に係る超音波溶着体の製造方法では、振動抑制治具50は、複数の端子付き電線10の絶縁被覆22を挟持するように構成され、熱伝導部材よりもヤング率が大きい高弾性部材で形成された一対の高弾性部55をさらに含んでいる。本実施形態に係る超音波溶着体の製造方法によれば、一対の高弾性部55で複数の端子付き電線10の絶縁被覆22を挟持するため、導体21と絶縁被覆22間の摩擦を大きくすることができる。したがって、振動抑制治具50で超音波振動をさらに確実に抑制することができる。
【0049】
熱伝導部材は、樹脂と、樹脂内に分散された熱伝導フィラーとを含む熱伝導樹脂で形成されていてもよい。高弾性部材は樹脂で形成されていてもよい。このような構成により、軽量かつ安価な材料で振動抑制治具50を製造することができる。そのため、設備費を低減することができる。
【0050】
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0051】
W ワイヤーハーネス
10 端子付き電線
20 電線
21 導体
22 絶縁被覆
30 端子金具
50 振動抑制治具
54 熱伝導部
55 高弾性部
図1
図2
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図9