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2024-167570化粧シート及びその製造方法、並びに基材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167570
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】化粧シート及びその製造方法、並びに基材
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20241127BHJP
【FI】
B32B27/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083740
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】大久保 透
(72)【発明者】
【氏名】横井 達也
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AH02A
4F100AK42A
4F100BA02
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100CA13A
4F100CA30A
4F100EH17A
4F100HB00
4F100HB00B
4F100JA11A
4F100JD04
(57)【要約】
【課題】水蒸気バリア性が良好かつ意匠層と基材との密着性が良好である信頼性が高い化粧シート、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】基材1の上に意匠層2が積層した化粧シート10であって、上記基材1は、結晶核剤を含むポリエチレンテレフタレート製の基材1で、冷結晶化熱量が3J/g以下であり、上記結晶核剤が、一分子あたりの炭素原子数が18以上28以下の飽和脂肪酸のナトリウム塩又はリチウム塩から選択した1又は2以上の化合物からなる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の上に意匠層が積層した化粧シートであって、
上記基材は、結晶核剤を含むポリエチレンテレフタレート製の基材で、且つ冷結晶化熱量が3J/g以下であり、
上記結晶核剤が、一分子あたりの炭素原子数が18以上28以下の飽和脂肪酸のナトリウム塩、及び一分子あたりの炭素原子数が18以上28以下の飽和脂肪酸のリチウム塩のうちから選択した、1又は2以上の化合物からなる、
化粧シート。
【請求項2】
上記化合物のうちの少なくとも一つの化合物は、上記飽和脂肪酸が、ベヘン酸(C21H43COOH)、又はモンタン酸(C27H55COOH)からなる、
請求項1に記載した化粧シート。
【請求項3】
上記基材は、2層以上積層した複数層で構成され、
上記基材を構成する複数層のうち、少なくとも上記意匠層から最も離れた層である最外層に上記結晶核剤が添加されている、
請求項1又は請求項2に記載した化粧シート。
【請求項4】
上記基材は、更に顔料を含む、
請求項1に記載した化粧シート。
【請求項5】
化粧シート用の基材であって、
上記基材は、結晶核剤を含むポリエチレンテレフタレート製の基材で、冷結晶化熱量が3J/g以下であり、
上記結晶核剤が、一分子あたりの炭素原子数が18以上28以下の飽和脂肪酸のナトリウム塩、及び一分子あたりの炭素原子数が18以上28以下の飽和脂肪酸のリチウム塩のうちから選択した、1又は2以上の化合物からなる、
基材。
【請求項6】
基材の上に意匠層が積層した化粧シートの製造方法であって、
ポリエチレンテレフタレート樹脂に結晶核剤を配合した混合物を原料として、Tダイ押出機により溶融状態で且つシート形状の樹脂を押し出し、上記押し出された溶融状態の樹脂を、金属製の温調ロールを用いて冷却速度を制御しつつ固化させることで、上記基材を作製し、
上記結晶核剤として、一分子あたりの炭素原子数が18以上28以下の飽和脂肪酸のナトリウム塩、及び一分子あたりの炭素原子数が18以上28以下の飽和脂肪酸のリチウム塩のうちから選択した、1又は2以上の化合物を用いる、
化粧シートの製造方法。
【請求項7】
上記基材の冷結晶化熱量が3J/g以下となるように、上記冷却速度を調整する、
請求項6に記載した化粧シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧シート及び化粧シートの製造方法に関する技術である。本発明は、特に、水蒸気バリア性に優れた化粧シート及びその製造方法に好適な技術である。
【背景技術】
【0002】
化粧シートは、例えば、基材の上に意匠層が形成される。その化粧シートの基材には、紙又はオレフィン樹脂が汎用的に用いられている。しかし、これらの基材を用いた化粧シートは、水蒸気バリア性に乏しい。このため、用途によっては化粧シートを貼り合わせる木質基材が外気の湿度の影響を受けて、反りや割れ等が生じる可能性が懸念されている。
これに対し、ポリエチレンテレフタレート樹脂(以下、PETとも記載する)を基材に用いた化粧シートが知られている(例えば、特許文献1の熱可塑性樹脂フィルム6を参照)。
【0003】
樹脂製の基材は、例えば、Tダイを用いた一般的なキャスト成膜で製造される。しかし、PETは、結晶性樹脂であるが、結晶化速度が遅い。このため、Tダイを用いて製造したPET製の基材(以下、PET基材とも記載する)は、そのままでは非晶質状態となっている。したがって、水蒸気バリア性向上に寄与する結晶化状態とするために、キャスト直後のPET基材に対し延伸処理を施して、基材を構成するPETを結晶化させることが一般的に行われている。
【0004】
延伸処理によるPETの結晶化は、機械的強度や水蒸気バリア性などの、PET基材の諸特性を向上させる。しかし、そのPET基材を化粧シートの基材として用いた場合、基材上に印刷形成される意匠層との密着性が十分でなく、化粧シートの信頼性に問題が生じる場合があるという課題がある。また、加熱収縮による寸法変化に異方性があるため、化粧シートの製造工程において悪影響を及ぼす場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-15739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の課題に着目してなされたもので、水蒸気バリア性が良好かつ意匠層と基材との密着性が良好な、信頼性が高い化粧シート、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
課題解決のために、本発明の一態様は、基材の上に意匠層が積層した化粧シートであって、上記基材は、結晶核剤を含むポリエチレンテレフタレート製の基材で、且つ冷結晶化熱量が3J/g以下であり、上記結晶核剤が、一分子あたりの炭素原子数が18以上28以下の飽和脂肪酸のナトリウム塩、及び一分子あたりの炭素原子数が18以上28以下の飽和脂肪酸のリチウム塩のうちから選択した、1又は2以上の化合物からなる。
【0008】
また、本発明の他の態様は、基材の上に意匠層が積層した化粧シートの製造方法であって、ポリエチレンテレフタレート樹脂に結晶核剤を配合した混合物を原料として、Tダイ押出機により溶融状態で且つシート形状の樹脂を押し出し、上記押し出された溶融状態の樹脂を、金属製の温調ロールを用いて冷却速度を制御しつつ固化させることで、上記基材を作製し、上記結晶核剤として、一分子あたりの炭素原子数が18以上28以下の飽和脂肪酸のナトリウム塩、及び一分子あたりの炭素原子数が18以上28以下の飽和脂肪酸のリチウム塩のうちから選択した、1又は2以上の化合物を用いる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の様態によれば、水蒸気バリア性が良好で、かつ意匠層と基材との密着性が良好な、信頼性が高い化粧シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に基づく実施形態に係る化粧シートの構成例を説明する断面図である。
図2】本発明に基づく実施形態に係る化粧シートの製造装置の要部の一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
ここで、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各厚みの比率などは現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状などを下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0012】
(構成)
本実施形態の化粧シート10は、図1に示すように、基材1の上に意匠層2が直接に積層した積層体を有する化粧シートである。
図1に例示する化粧シート10は、基材1の一方の面(図1では上面)側に、意匠層2、透明樹脂層3、表面保護層4がこの順に積層されて構成されている。基材1の他方の面(図1では下面)側に、他の層が積層されていてもよい。
【0013】
<基材1>
本実施形態の基材1は、PET製である。すなわち、基材1は、ポリエチレンテレフタレート樹脂を主成分として構成される。主成分とは、例えば、全体の90質量%以上を指す。なお、化粧シートの基材1は、可撓性でシート形状となっている。
基材1は、添加剤として結晶核剤を含む。
本実施形態では、結晶核剤として、一分子あたりの炭素原子数が18以上28以下の飽和脂肪酸のナトリウム塩、及び一分子あたりの炭素原子数が18以上28以下の飽和脂肪酸のリチウム塩のうちから選択した、1又は2以上の化合物を用いた。
【0014】
飽和脂肪酸としては、ステアリン酸(炭素数18)、アラキジン酸(同20)、ヘンイコシル酸(同21)、ベヘン酸(同22)、リグノセリン酸(同24)、セロチン酸(同26)、モンタン酸(同28)、及びその連鎖異性体が例示できる。特に、飽和脂肪酸としては、汎用性に優れるステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸が好ましい。更に、PET基材1の外観性の観点から、飽和脂肪酸としては、ベヘン酸(C21H43COOH)又はモンタン酸(C27H55COOH)が特に好ましい。
【0015】
結晶核剤の配合量(添加量)は、PET基材1の製造条件にもよるが、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、0.05~0.5質量部とする。配合量が0.05部以下であると、PET基材1の結晶性不足による水蒸気バリア性の低下や、後述の製造工程にて成膜性の悪化のおそれがある。一方、配合量が0.5質量部を超えると、PET基材1に、白濁やブツなどの外観不良が生じやすくなる。
なお、PET基材1が複数層で構成される場合、上記の結晶核剤の配合量は、各層毎に個別に規定される。
【0016】
PET基材1は、隠蔽性や意匠性を付与するために顔料を含んでいてもよい。顔料としては酸化チタン、酸化鉄、酸化クロムなどが用いられる。PET基材1は、結晶核剤以外の公知の添加剤を含んでいてもよい。
なお、PET基材1が複数層で構成される場合、顔料は、少なくとも意匠層2と接する層に含まれるように構成する。
【0017】
また、基材1は、複数の層から構成されていても良い。この場合、基材1を構成する各層は、PET製とする。また、基材1が複数の層から構成される場合、上記の結晶核剤は、少なくとも、意匠層2から離れた最外層の基材1(反対側の面を構成する層)に添加されていればよい。
また、本実施形態のPET基材1は、冷結晶化熱量が、3J/g以下に調整されている。
PET基材1の冷結晶化熱量は、例えば、PET基材1の作製時の温調ロールの温度を制御することで制御することが出来る。
【0018】
<意匠層2>
意匠層2は、PET基材1の一方の面に、グラビア印刷、オフセット印刷等の各種印刷方法で形成される。すなわち、意匠層2は、木目柄、石目柄等、加飾のための印刷がなされた絵柄模様などを付与する層である。
意匠層2の形成に使用する印刷インキの種類は特に限定されず、化粧シート10の形成に使用されている公知の印刷インキを使用することができる。具体的には、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂系、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂系、ブチラール系、アクリル系、ウレタン系、ポリエステル系、エポキシ系、アルキド系、ポリアミド系等のバインダー樹脂に、有機又は無機の染料又は顔料や、必要に応じて充填剤、粘着付与剤、分散剤、消泡剤、安定剤その他の添加剤を適宜添加し、適当な希釈溶剤で所望の粘度に調整した印刷インキであってもよい。印刷インキは、それぞれの印刷法に適した印刷インキを用いることができる。
意匠層2は、2層以上の積層体で構成されても良い。
【0019】
<透明樹脂層3>
透明樹脂層3は、意匠層2が有する絵柄等の意匠が透けて見えるように、例えば透明な熱可塑性樹脂で形成される。透明樹脂層3は、透明であればよく、例えば、塩化ビニル樹脂以外の種々の樹脂であってもよい。
【0020】
<表面保護層4>
表面保護層4は、化粧シート10の最表面にあって、意匠層2などを保護する役割を果たす。つまり、表面保護層4は、化粧シート10の表面物性を向上させるものであり、化粧シート10表面に耐傷性や耐汚染性、滑り性等を付与し、艶、触感等に影響を与えるものである。
表面保護層4は、紫外線硬化型樹脂等の電離放射線硬化型樹脂を含むことが好ましい。具体的には、表面保護層4の材料としては、例えば、熱硬化型樹脂と紫外線硬化型樹脂(UV硬化型樹脂)との混合物(ブレンド樹脂)が好ましい。
【0021】
(化粧シート10の製造方法)
本実施形態の化粧シート10は、基材1の上に印刷によって意匠層2を形成し、更に、その意匠層2の上に、透明樹脂層3、表面保護層4をこの順に積層することで製造される。
本実施形態の基材1は、図2に示すような装置を利用して作製される。
すなわち、PETに結晶核剤を添加(配合)した混合物からなる原料をTダイ押出機11に投入し、Tダイ押出機11で溶融押出することで、Tダイ11Aから、溶融状態の樹脂20をシート形状に成型して押し出す。押し出された溶融状態の樹脂20は、金属製の温調ロール12で案内されて搬送されることで、冷却速度が抑制される方向に冷却温度が制御されながら固化する。PETに添加する結晶核剤は、上述の通り、一分子あたりの炭素原子数が18以上28以下の飽和脂肪酸のナトリウム塩、及び一分子あたりの炭素原子数が18以上28以下の飽和脂肪酸のリチウム塩のうちから選択した、1又は2以上の化合物を用いる。原料における結晶核剤の配合量は、例えば、PET樹脂100質量部に対し、0.05~0.5質量部とする。
【0022】
このような基材1の作製の際に、Tダイ押出機11からの溶融押出の速度と、温調ロール12の回転速度で、固化する樹脂20のラインスピードを制御すると共に、温調器13によって温調ロール12の表面温度を制御する。
ここで、PET基材1の結晶化度は、固化する際の、ラインスピードと温調ロール12の表面温度で変化する。また、温調ロール12のロール温度(ロールの表面温度)は、通常は140℃~220℃に調整される。ロール温度が140℃以下の場合、溶融状態からの冷却速度が過大となり、結晶化度が不足する。この結果、温調ロール12からの剥離性が悪くなり、剥離時に基材1の変形が生じやすい。一方、ロール温度が220℃以上の場合、温調ロール12を通過してからの温度変化が大きく基材1に変形が生じやすい。
【0023】
このような観点に基づき、PET基材1が結晶化するように、ラインスピードと温調ロール12の表面温度を制御する。そして、固化するPET基材1の冷却速度を抑制することにより、PET基材1の結晶化度を増大させる。これによって、延伸処理を施さなくても、PET基材1の冷結晶化熱量を、3J/g以下とすることができる。
【0024】
(作用その他)
PETは結晶化の進行が遅い樹脂であり、通常のTダイを用いた押出形成では溶融状態から非晶状態で固化する。本実施形態では、PET基材1を構成するPETに結晶核剤を配合した。そして、Tダイ押出成形時に温調ロール12を用い、PETの冷却速度を抑制することにより、PET基材1の結晶化度を増大させる。
結晶性の指標の一つが冷結晶化熱量である。冷結晶化は、固体状の非晶質PETが融点以下の温度で結晶化する現象であり、120℃~140℃以上に加熱すると進行する。冷結晶化時の発熱量が冷結晶化熱量であり、冷結晶化熱量は、示差走査熱量計(DSC)による測定が可能である。
【0025】
本実施形態では、PET基材1の冷結晶化熱量が3J/g以下となるように、樹脂20の冷却速度を制御した。3J/gを超えると、PETの結晶性が不足するため、化粧シート10の水蒸気バリア性が十分に発現しない。
【0026】
以上のことから、本実施形態では、基材1に対し、化粧シート10に必要な意匠層2との密着性を保持しつつ水蒸気バリア性の改善を図る。
ここで、本実施形態のPET基材1は、冷却速度を制御することで、PETを結晶化させるため、延伸処理が不要である。すなわち、本実施形態のPET基材1は、延伸処理が不要なため、延伸処理を施した従来のPET基材に比べ、寸法変化による異方性が抑えられて、化粧シートの信頼性が高くなる。また、本実施形態のPET基材1は、意匠層2との密着性も、延伸処理を施したPET基材に比較して向上させることができる。
【0027】
(その他)
本開示は、次の構成も取り得る。
(1)基材の上に意匠層が積層した化粧シートであって、
上記基材は、結晶核剤を含むポリエチレンテレフタレート製の基材で、且つ冷結晶化熱量が3J/g以下であり、
上記結晶核剤が、一分子あたりの炭素原子数が18以上28以下の飽和脂肪酸のナトリウム塩、及び一分子あたりの炭素原子数が18以上28以下の飽和脂肪酸のリチウム塩のうちから選択した、1又は2以上の化合物からなる、
化粧シート。
【0028】
(2)上記化合物のうちの少なくとも一つの化合物は、上記飽和脂肪酸が、ベヘン酸(C21H43COOH)、又はモンタン酸(C27H55COOH)からなる。
(3)上記基材は、2層以上積層した複数層で構成され、
上記基材を構成する複数層のうち、少なくとも上記意匠層から最も離れた層である最外層に上記結晶核剤が添加されている。
(4)上記基材は、更に顔料を含む。
【0029】
(5)化粧シート用の基材であって、
上記基材は、結晶核剤を含むポリエチレンテレフタレート製の基材で、冷結晶化熱量が3J/g以下であり、
上記結晶核剤が、一分子あたりの炭素原子数が18以上28以下の飽和脂肪酸のナトリウム塩、及び一分子あたりの炭素原子数が18以上28以下の飽和脂肪酸のリチウム塩のうちから選択した、1又は2以上の化合物からなる。
【0030】
(6)基材の上に意匠層が積層した化粧シートの製造方法であって、
ポリエチレンテレフタレート樹脂に結晶核剤を配合した混合物を原料として、Tダイ押出機により溶融状態で且つシート形状の樹脂を押し出し、上記押し出された溶融状態の樹脂を、金属製の温調ロールを用いて冷却速度を制御しつつ固化させることで、上記基材を作製し、
上記結晶核剤として、一分子あたりの炭素原子数が18以上28以下の飽和脂肪酸のナトリウム塩、及び一分子あたりの炭素原子数が18以上28以下の飽和脂肪酸のリチウム塩のうちから選択した、1又は2以上の化合物を用いる。
(7)上記基材の冷結晶化熱量が3J/g以下となるように、上記冷却速度を調整する。
【実施例0031】
以下に、本実施形態に基づく実施例を説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
<実施例1>
顔料マスターバッチ(ポリエチレンテレフタラート/酸化チタン=50/50質量部)(40質量部)と、PET樹脂ペレット(60質量部)と、モンタン酸ナトリウム粉末(化学式:C27H55COONa)(0.25質量部)とをドライブレンドした混合物を、実施例1では用いた。その混合物を、Tダイの温度を280℃、温調ロールの表面温度を180℃に制御して、単軸Tダイ押出機による押出成膜を行って、実施例1のPET基材(厚み100μm)を作製した。
【0032】
作製したPET基材の両面にコロナ処理後(表面処理後)、上記押出成膜の際に温調ロールに接していない面に対し、2液型ウレタンインキ(V180;東洋インキ(株)製)を用いて、木目柄をグラビア印刷して意匠層を形成した。このPET基材と印刷層の積層体を、以下、印刷基材と呼ぶ。
次に、印刷基材の意匠層側に透明樹脂層としてポリオレフィンフィルム(厚み100μm)をドライラミネート形成後、更に、表面保護層として2液硬化ポリウレタン系ハードコート層(厚み8μm)を塗布形成し、実施例1の化粧シートを作製した。
【0033】
<実施例2>
実施例1のTダイ押出機の温調ロール12の表面温度を、170℃に設定した以外は、実施例1と同様にして実施例2の化粧シートを作製した。
<実施例3>
実施例1のモンタン酸ナトリウムを、モンタン酸リチウム(化学式:C27H55COOLi)に置き換えた以外は、実施例1と同様にして実施例3の化粧シートを作製した。
【0034】
<実施例4>
実施例1のモンタン酸ナトリウムを、ベヘン酸ナトリウム(化学式:C22H45COONa)に置き換えた以外は、実施例1と同様にして実施例4の化粧シートを作製した。
<実施例5>
実施例1のモンタン酸ナトリウムを、ステアリン酸ナトリウム(化学式:C17H35COONa)に置き換えた以外は、実施例1と同様にして実施例5の化粧シートを作製した。
【0035】
<実施例6>
実施例1のPET基材を、多層押出により2層構成とした以外は、実施例1と同様にして実施例6の化粧シートを作製した。
実施例6のPET基材の2層構成は、次の通りである。
・第一層(温調ロール12接触側の意匠層と非接触の層)
実施例1と同じ混合物を使用して作製された層であり、厚みを90μmとした。
・第二層(温調ロール12非接触側の意匠層と接触の層)
PET樹脂ペレットのみを使用して作製された層であり、厚みを10μmとした。
なお、2層とも延伸工程を行っていない。
【0036】
<比較例1>
実施例1のモンタン酸ナトリウムを、パルミチン酸ナトリウム(化学式:C15H31COONa)に置き換えた以外は、実施例1と同様にして比較例1の化粧シートを作製した。
<比較例2>
実施例1のTダイ押出機の温調ロール12の表面温度を160℃に設定した以外は、実施例1と同様にして比較例2の化粧シートを作製した。
【0037】
<比較例3>
実施例1のモンタン酸ナトリウムを、モンタン酸亜鉛(化学式:(C27H55COO)2Zn)に置き換えた以外は、実施例1と同様にして比較例3の化粧シートを作製した。
<比較例4>
実施例1のモンタン酸ナトリウムを、安息香酸ナトリウム(化学式:(C6H5COONa)に置き換えた以外は、実施例1と同様にして比較例4の化粧シートを作製した。
【0038】
<比較例5>
実施例1のPET基材を、2軸延伸白色PET(ルミラー#100E20、厚み100μm、東レ(株)製)に置き換えた以外は、実施例1と同様にして比較例5の化粧シートを作製した。
【0039】
(評価)
表1に、各実施例と各比較例の構成条件、及び以下の評価の評価結果を示す。
【表1】
【0040】
<冷結晶化熱量>
各実施例及び各比較例の各PET基材1について、JISK7121(プラスチックの転移熱測定方法)に準じて、示差走査熱量計(DSC)により冷結晶化熱量を測定した。
<基材外観>
各実施例及び各比較例の各PET基材について外観を目視評価した。
判定基準は次の通りとした。
【0041】
○(合格) :シワ、ひび割れ、粒子状異物、その他異常が認められない。
△(合格) :シワが軽微に認められるが、ひび割れと粒子状異物は認められない。
×(不合格):シワ、ひび割れ、粒子状異物の何れかが認められる。
【0042】
<インキ密着性>
各実施例及び各比較例の各印刷基材について、JISK5600(塗料一般試験方法)に準じて、碁盤目カットセル(1mm角、25個)のセロテープ(登録商標)剥離を行った。剥離後の外観を目視確認し、以下の基準で判定した。なお、印刷基材とは、上述の通り、PET基材の上に印刷層だけを形成した積層体を指す。
判定基準は次の通りとした。
○(合格) :カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にもはがれがない。
△(合格) :カットの交差点の一部(5%以下)に小さな剥がれが認められる。
×(不合格):カットセルの内部に1箇所以上の剥がれが生じる。
【0043】
<水蒸気バリア性>
各実施例及び各比較例の各化粧シートについて、JISZ0208(防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法))に準じて透湿度を測定した。
判定基準は次に通りとした。なお、透湿度の単位は、[g/m/day]である。
○(合格) :5未満
△(合格) :5以上7未満
×(不合格):7以上
【0044】
(評価結果)
表1に示すように、比較例1や比較例4のように、PET基材に結晶核剤が配合されていても、その結晶核剤が、一分子あたりの炭素原子数が18以上28以下の飽和脂肪酸のナトリウム塩ないしリチウム塩のうちから選択される化合物でない場合には、PET基材1に延伸工程を施していないため、評価が出来る状態では無いか、水蒸気バリア性が悪かった。
また、比較例2、3のように、PET基材1に結晶核剤が本発明の条件を満足しても、PET基材の冷結晶化熱量が3J/gを超えている場合、水蒸気バリア性が悪くなった。
【0045】
一方、本発明に基づき形成された各実施例の化粧シートは、基材外観、インキ密着性、及び水蒸気バリア性の何れもが良好であった。この各実施例は、比較例5のPET基材に比べ、インキ密着性も良好であった。
なお、実施例6は、PET基材が2層構成となっているが、第一層に本発明に基づく結晶核剤が配合されると共に冷結晶化熱量が3J/g以下であることで、PET基材の水蒸気バリア性が確保され、かつ、第二層の冷結晶化熱量が3J/g以下であることで、PET基材と意匠層とのインキ密着性が確保されている。
また、上記例で説明していないが、樹脂の冷却速度を制御してPET基材の冷結晶化熱量を3J/g以外は、実施例1と同じ条件で作製した化粧シートであっても、基材外観、インキ密着性、及び水蒸気バリア性の何れもが良好であったことを確認している。
【符号の説明】
【0046】
1 PET基材
2 意匠層
3 透明樹脂層
4 表面保護層
10 化粧シート
11 Tダイ押出機
11A Tダイ
12 温調ロール
13 温調器
20 シート形状の樹脂
図1
図2