IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋ゴム工業株式会社の特許一覧

特開2024-1676タイヤ性能評価方法及びタイヤの設計方法
<>
  • 特開-タイヤ性能評価方法及びタイヤの設計方法 図1
  • 特開-タイヤ性能評価方法及びタイヤの設計方法 図2
  • 特開-タイヤ性能評価方法及びタイヤの設計方法 図3
  • 特開-タイヤ性能評価方法及びタイヤの設計方法 図4
  • 特開-タイヤ性能評価方法及びタイヤの設計方法 図5
  • 特開-タイヤ性能評価方法及びタイヤの設計方法 図6
  • 特開-タイヤ性能評価方法及びタイヤの設計方法 図7
  • 特開-タイヤ性能評価方法及びタイヤの設計方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001676
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】タイヤ性能評価方法及びタイヤの設計方法
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/00 20060101AFI20231227BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20231227BHJP
   G01M 17/02 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
B60C19/00 H
B60C11/00 D
G01M17/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100494
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】諫山 直生
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BA04
3D131BB01
3D131BC55
3D131LA22
(57)【要約】
【課題】低温環境でのウェット性能を簡便に評価する。
【解決手段】0~10℃の第1温度と20~40℃の第2温度とのそれぞれにおいて、実路面相当の凹凸面32Aを持つ透明板32とトレッド陸20との間に蛍光液34を介在させて凹凸面32にトレッド陸20を接地させる。蛍光液34に励起光を照射し、蛍光液34から放出された蛍光の輝度分布を測定して、凹凸面32に対するトレッド陸20の接地面積を測定する。第1温度で測定した接地面積ALと第2温度で測定した接地面積とAHの比に基づいて低温環境でのタイヤのウェット性能を評価する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0℃以上10℃以下の第1温度と、20℃以上40℃以下でありかつ前記第1温度との温度差が15℃以上である第2温度とのそれぞれにおいて、実路面相当の凹凸を有する凹凸面を持つ透明板とトレッド陸との間に蛍光液を介在させて前記凹凸面に前記トレッド陸を接地させ、前記蛍光液に励起光を照射し、前記蛍光液から放出された蛍光の輝度分布を測定して、前記凹凸面に対する前記トレッド陸の接地面積を測定し、
前記第1温度で測定した接地面積と前記第2温度で測定した接地面積との比に基づいて0℃以上10℃以下の低温環境でのタイヤのウェット性能を評価する、タイヤ性能評価方法。
【請求項2】
前記トレッド陸の接地面がタイヤ子午線方向断面においてトレッド基準輪郭線に対してタイヤ径方向外側に突出している、請求項1に記載のタイヤ性能評価方法。
【請求項3】
0℃以上10℃以下の第1温度と、20℃以上40℃以下でありかつ前記第1温度との温度差が15℃以上である第2温度とのそれぞれにおいて、実路面相当の凹凸を有する凹凸面を持つ透明板とトレッド陸との間に蛍光液を介在させて前記凹凸面に前記トレッド陸を接地させ、前記蛍光液に励起光を照射し、前記蛍光液から放出された蛍光の輝度分布を測定して、前記凹凸面に対する前記トレッド陸の接地面積を測定し、
前記第1温度で測定した接地面積と前記第2温度で測定した接地面積との比に基づいて、トレッドゴムの前記第1温度と前記第2温度での貯蔵弾性率の差ΔE’及び/又は前記トレッド陸の接地面の高低差を設定する、タイヤの設計方法。
【請求項4】
前記第2温度で測定した接地面積に対する前記第1温度で測定した接地面積の比がある値よりも小さいときに、前記トレッドゴムを前記貯蔵弾性率の差ΔE’が小さいゴムに変更する、請求項3に記載のタイヤの設計方法。
【請求項5】
前記第2温度で測定した接地面積に対する前記第1温度で測定した接地面積の比がある値よりも小さいときに、前記トレッド陸の接地面の高低差を小さくする、請求項3又は4に記載のタイヤの設計方法。
【請求項6】
複数のタイヤについて、0℃以上10℃以下の第1温度と、20℃以上40℃以下でありかつ前記第1温度との温度差が15℃以上である第2温度とのそれぞれにおいて、実路面相当の凹凸を有する凹凸面を持つ透明板とトレッド陸との間に蛍光液を介在させて前記凹凸面に前記トレッド陸を接地させ、前記蛍光液に励起光を照射し、前記蛍光液から放出された蛍光の輝度分布を測定して、前記凹凸面に対する前記トレッド陸の接地面積を測定し、前記第1温度で測定した接地面積と前記第2温度で測定した接地面積との比を求め、
得られた接地面積の比と、トレッドゴムの前記第1温度と前記第2温度での貯蔵弾性率の差ΔE’と、前記トレッド陸の接地面の高低差と、の関係を求めておき、
あるタイヤを設計する際に、前記関係に基づいて、前記接地面積の比が所定条件を満たす範囲内で前記貯蔵弾性率の差ΔE’及び前記トレッド陸の接地面の高低差を設定する、タイヤの設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、タイヤ性能評価方法及びタイヤの設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤの接地性を計測する方法としては、タイヤを透明で平滑な平板上に接地させ、この透明板の裏面側からタイヤ接地面を撮影し、得られたタイヤの接地画像から接地性を評価する手法が実施されてきた。しかしながら、平板上にタイヤを押し付けたときの接地性は、実際の路面でのタイヤの接地性と解離している。そのため、例えば特許文献1及び特許文献2では、実路を模擬した凹凸を持つ透明樹脂路面での評価が行われている。
【0003】
また、特許文献3では、0℃以下及び20℃以上の温度点における路面凹凸との接触面積、tanδ、その他物性を使用した予測式を考えることで、タイヤの摩擦係数の温度依存性について予測を可能とし、タイヤの開発期間を短縮することが開示されている。
【0004】
しかしながら、従来手法ではタイヤ性能と結びつく設計パラメータが多数混在するため、実際の試作開発で問題が起こったときに要因特定と設計要素の改良が難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-240681号公報
【特許文献2】特開2018-84428号公報
【特許文献3】特開2006-103618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、湿潤路面における制動性能(以下、ウェット性能という。)について、実車での評価において、比較対象タイヤと比較して、常温環境では略同等の性能であるのに、低温環境では性能が大きく悪化することがある。その要因特定と改良のためにも低温環境でのウェット性能を簡便に評価することが求められるが、実車による低温環境でのウェット性能の評価には相当の時間とコストを要する。そのため、低温環境でのウェット性能をより簡便に評価する方法が求められる。
【0007】
本発明の実施形態は、低温環境でのウェット性能を簡便に評価することができるタイヤ性能評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] 0℃以上10℃以下の第1温度と、20℃以上40℃以下でありかつ前記第1温度との温度差が15℃以上である第2温度とのそれぞれにおいて、実路面相当の凹凸を有する凹凸面を持つ透明板とトレッド陸との間に蛍光液を介在させて前記凹凸面に前記トレッド陸を接地させ、前記蛍光液に励起光を照射し、前記蛍光液から放出された蛍光の輝度分布を測定して、前記凹凸面に対する前記トレッド陸の接地面積を測定し、前記第1温度で測定した接地面積と前記第2温度で測定した接地面積との比に基づいて0℃以上10℃以下の低温環境でのタイヤのウェット性能を評価する、タイヤ性能評価方法。
[2] 前記トレッド陸の接地面がタイヤ子午線方向断面においてトレッド基準輪郭線に対してタイヤ径方向外側に突出している、[1]に記載のタイヤ性能評価方法。
【0009】
[3] 0℃以上10℃以下の第1温度と、20℃以上40℃以下でありかつ前記第1温度との温度差が15℃以上である第2温度とのそれぞれにおいて、実路面相当の凹凸を有する凹凸面を持つ透明板とトレッド陸との間に蛍光液を介在させて前記凹凸面に前記トレッド陸を接地させ、前記蛍光液に励起光を照射し、前記蛍光液から放出された蛍光の輝度分布を測定して、前記凹凸面に対する前記トレッド陸の接地面積を測定し、前記第1温度で測定した接地面積と前記第2温度で測定した接地面積との比に基づいて、トレッドゴムの前記第1温度と前記第2温度での貯蔵弾性率の差ΔE’及び/又は前記トレッド陸の接地面の高低差を設定する、タイヤの設計方法。
[4] 前記第2温度で測定した接地面積に対する前記第1温度で測定した接地面積の比がある値よりも小さいときに、前記トレッドゴムを前記貯蔵弾性率の差ΔE’が小さいゴムに変更する、[3]に記載のタイヤの設計方法。
[5] 前記第2温度で測定した接地面積に対する前記第1温度で測定した接地面積の比がある値よりも小さいときに、前記トレッド陸の接地面の高低差を小さくする、[3]又は[4]に記載のタイヤの設計方法。
【0010】
[6] 複数のタイヤについて、0℃以上10℃以下の第1温度と、20℃以上40℃以下でありかつ前記第1温度との温度差が15℃以上である第2温度とのそれぞれにおいて、実路面相当の凹凸を有する凹凸面を持つ透明板とトレッド陸との間に蛍光液を介在させて前記凹凸面に前記トレッド陸を接地させ、前記蛍光液に励起光を照射し、前記蛍光液から放出された蛍光の輝度分布を測定して、前記凹凸面に対する前記トレッド陸の接地面積を測定し、前記第1温度で測定した接地面積と前記第2温度で測定した接地面積との比を求め、得られた接地面積の比と、トレッドゴムの前記第1温度と前記第2温度での貯蔵弾性率の差ΔE’と、前記トレッド陸の接地面の高低差と、の関係を求めておき、あるタイヤを設計する際に、前記関係に基づいて、前記接地面積の比が所定条件を満たす範囲内で前記貯蔵弾性率の差ΔE’及び前記トレッド陸の接地面の高低差を設定する、タイヤの設計方法。
【発明の効果】
【0011】
実施形態に係るタイヤ性能評価方法であると、低温環境でのウェット性能を簡便に評価することができる。実施形態に係るタイヤの設計方法であると、低温環境でのウェット性能の良好なタイヤを設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態における空気入りタイヤの一部を示す子午線方向断面図
図2】同タイヤのトレッド陸の子午線方向断面図
図3】一実施形態における接地面積の測定を行う装置構成を示す模式図
図4】常温と低温でのトレッド陸の接地面積変化を示すグラフ
図5】常温と低温でのトレッド陸の接地面積変化と実車ウェット性能との関係を示すグラフ
図6】トレッドゴムの貯蔵弾性率E’の温度依存性を示すグラフ
図7】トレッド陸の接地面の高低差ΔLを示す図
図8】常温と低温でのトレッド陸の接地面積の比と、常温と低温でのトレッドゴムの貯蔵弾性率の差ΔE’と、トレッド陸の接地面の高低差ΔLとの関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施形態に係るタイヤ性能評価方法は、低温環境でのタイヤのウェット性能を評価する方法である。詳細には、例えば一実施形態において、比較対象タイヤと比較して、低温環境でのウェット性能が良化するか悪化するかを予測可能な方法である。
【0014】
評価対象としてのタイヤは特に限定されず、例えば乗用車用タイヤなどの空気入りタイヤが挙げられる。図1は、一実施形態に係る評価方法において評価対象とする空気入りタイヤのトレッド10周りを示すタイヤ子午線方向断面図である。
【0015】
図中、符号CLは、タイヤ軸方向中心に相当するタイヤ赤道面を示す。本明細書において、タイヤ軸方向とは、タイヤ回転軸に平行な方向をいい、図において符号ADで示す。タイヤ径方向とは、タイヤ回転軸に垂直な方向をいい、図において符号RDで示す。タイヤ子午線方向断面とは、タイヤ回転軸を含む平面でタイヤを切断したときの断面をいう。タイヤ子午線方向とは、該タイヤ子午線方向断面においてタイヤ表面に沿う方向をいう。
【0016】
該空気入りタイヤは、トレッド10とともに左右一対のビード部及びサイドウォールを備える。空気入りタイヤの内部構造は公知の構造を採用することができ、例えば、左右一対のビードコアと、該一対のビードコア間にトロイダル状に掛け渡されたカーカスプライ12と、カーカスプライ12のクラウン部外周に配置されたベルト14とを備える。ベルト14の外周には、タイヤ接地面を構成するトレッドゴム16が設けられている。
【0017】
トレッド10の表面には、タイヤ周方向に延びる複数(この例では4本)の主溝18が設けられている。該主溝18により、トレッド10には、複数のトレッド陸20が区画形成されている。
【0018】
詳細には、トレッド10には、タイヤ軸方向AD中央に位置するセンター陸20Aと、その両側に位置する左右一対のクォーター陸20B,20Bと、クォーター陸20Bの外側に位置する左右一対のショルダー陸20C,20Cとが設けられている。なお、トレッド陸20は、タイヤ周方向の全周にわたって連続するリブとして設けられてもよく、当該リブを横断する横溝が設けられることでブロック列として設けられてもよい。
【0019】
トレッド陸20は、その接地面22が、図2に示すタイヤ子午線方向断面において、トレッド基準輪郭線24に対して、タイヤ径方向RD外側に突出している。接地面22の突出形状は特に限定されず、この例では図2に示すように、接地面22の子午線方向における中央22Aが両端22B,22Bに対してタイヤ径方向RD外側に湾曲状に膨らんだ凸形状である。
【0020】
ここで、トレッド陸20の接地面22は、タイヤが平坦な路面に接地する際に路面と接触する面であり、トレッド陸20の上面である。トレッド基準輪郭線24は、各主溝18の開口端(各トレッド陸20の子午線方向のエッジ)を通過して滑らかに連続する1又は複数の円弧からなる曲線である。
【0021】
トレッド陸20の断面において、接地面22の高低差ΔL(以下、陸高低差ΔLということがある。)は、特に限定されず、例えば50~1000μmでもよく、100~600μmでもよい。陸高低差ΔLは、タイヤ径方向RD外側に突出する接地面22の突出度合いであり、接地面22の両端22B,22Bと最も突出している部分(陸の子午線方向中央22A)との高低差である。詳細には、陸高低差ΔLは、接地面22の子午線方向断面において、その両端22B,22Bを結んだ直線と、該直線に対する距離が最大となる点との当該距離をいう。なお、トレッド陸20の幅は特に限定されず、例えば10~60mmでもよい。
【0022】
実施形態に係るタイヤ性能評価方法では、タイヤのウェット性能の温度依存性を評価するために、0~10℃の範囲の第1温度と20~40℃の範囲の第2温度のそれぞれにおいて、蛍光法を用いて実路面相当の凹凸面に対する接地解析を実施する。
【0023】
蛍光法を用いた接地解析方法としては、上記特許文献2(特開2018-84428号公報)に記載の方法を用いることができる。すなわち、実路面相当の凹凸を有する凹凸面を持つ透明板とトレッド陸との間に蛍光液を介在させて凹凸面にトレッド陸を接地させ、蛍光液に励起光を照射し、蛍光液から放出された蛍光の輝度分布を測定して、凹凸面に対するトレッド陸の接地面積を測定する。
【0024】
図3は、蛍光法により接地面積の測定を行う装置構成を示す模式図である。透明な設置台30の上に、実路面相当の凹凸を有する凹凸面32Aを一方の面に備えた透明板32が設置され、該凹凸面32Aにトレッド陸20を接地させている。凹凸面32Aとトレッド陸20との間に蛍光液34を介在させている。すなわち、凹凸面32A上に蛍光液34を充填し、蛍光液34を介してトレッド陸20を凹凸面32Aに接地させている。
【0025】
設置台30の下方には、光源36と、光源36から照射される光から特定の波長の光のみを透過し分離するフィルタ38と、特定の波長の光のみを反射するダイクロイックミラー40と、蛍光液34から放出された蛍光を反射するミラー42と、放出された蛍光から特定の波長の光のみを透過させて分離するフィルタ44と、フィルタ44を透過した蛍光を測定する撮影手段46が配されている。
【0026】
測定に用いるトレッド陸20としては、評価対象としてのタイヤから切り出したものでもよい。切り出したトレッド陸20を接着剤により試験治具48に貼り付けて試験片としてもよい。あるいは、トレッド陸20に相当するゴムサンプルを加硫成型して試験片としてもよい。あるいは、評価対象としてのタイヤをそのまま用いて、そのトレッド10を凹凸面32Aに接地させることにより、トレッド陸20を凹凸面32Aに接地させてもよい。
【0027】
測定を行うトレッド陸20は、センター陸20A及び/又はクォーター陸20Bが好ましい。センター陸20Aとクォーター陸20Bの双方を用いて測定する場合、後述する接地面積AL及びAHについては、センター陸20Aとクォーター陸20Bのそれぞれについて測定した接地面積からそれらの平均値として算出してもよい。陸高低差ΔLについても、センター陸20Aとクォーター陸20Bのそれぞれの高低差からそれらの平均値として算出してもよい。後述する実験では、いずれもこれらの平均値を用いた。なお、このように平均値を用いる代わりに、センター陸20Aとクォーター陸20Bをそれぞれ別に評価してもよい。
【0028】
蛍光液34としては、励起スペクトルと蛍光スペクトルとのピーク波長の差が100nm以上である親水性蛍光色素を含有する水溶液が用いられる。親水性蛍光色素としては、例えばピラニンを用いてもよい。ピラニンの場合、蛍光液34のpHは5~8であることが好ましい。蛍光液34中の親水性蛍光色素の濃度は、特に限定されず、100~10000mg/Lでもよい。
【0029】
トレッド陸20を接地させる際に負荷する荷重としては、特に限定されず、例えば接地圧力として100~800kPaに相当する静止荷重を負荷してもよい。
【0030】
例えば、親水性蛍光色素としてピラニンを使用した場合、次のようにして接地解析を行うことができる。光源36として紫外線LED(ピーク波長365nm)を用いて励起光を照射し、フィルタ38(400nmローパスフィルタ)によって、波長が400nm以下の励起光を分離する。分離した励起光をダイクロイックミラー40に反射させて、透明板32の凹凸面32Aとは反対側から、トレッド陸20と凹凸面32Aとの間に介在する蛍光液34に対して励起光を照射する。これにより、蛍光液34に含まれるピラニンを基底状態から励起状態へと遷移させる。その後、励起状態のピラニンは基底状態へと戻り、その際蛍光が放出される。放出された蛍光は、ダイクロイックミラー40を透過した後、ミラー42によって反射し、フィルタ44(400nmハイパスフィルタ)によって波長が480nm以上の蛍光を透過させて分離させる。分離された蛍光を撮影手段46で撮影することにより、輝度分布(蛍光強度画像)が得られる。
【0031】
得られた膜厚分布を基準に、任意の膜厚を閾値として2値化を行う。膜厚が閾値以下である領域をトレッド陸20と凹凸面32Aとが接触している領域とする。これにより、トレッド陸20と凹凸面32Aが接触している面積(トレッド陸の接地面積)を算出することができる。
【0032】
本実施形態では、上記の蛍光法を用いた接地解析を、0~10℃の第1温度と20~40℃の第2温度のそれぞれにおいて実施する。そして、第1温度で測定した接地面積と第2温度で測定した接地面積との比に基づいて、0℃以上10℃以下の低温環境でのウェット性能を評価する。
【0033】
第1温度は、タイヤの低温環境でのウェット性能を評価するために10℃以下に設定される。上記蛍光液34は、ピラニンなどの親水性蛍光色素を少量含む水溶液であり、ほぼ水と同等の性質と考えてよく、氷点下では凍ってしまう。そのため、第1温度は0℃以上とする。第1温度は、より好ましくは0℃以上5℃以下である。
【0034】
第2温度は、常温(22℃)をベースとしてゴムが柔らかく接地性が良好である温度域とするため、20℃以上に設定される。また、本実施形態の着眼点は低温時のゴム弾性率低下による接地性の悪化にあるため、幅広い温度に適用して接地性の変化を大きくするべく、第1温度と第2温度の温度差は15℃以上に設定される。第2温度の上限については、あまり高く設定する必要はなく、水を使用する試験でもあるので40℃以下としている。
【0035】
一実施形態において、第1温度で測定した接地面積をALとし、第2温度で測定した接地面積をAHとして、AHに対するALの比(AL/AH)を求めてもよい。すなわち、常温を含む第2温度での接地面積を基準にして、接地性の温度依存性を評価する。この比AL/AHが大きいほど、低温環境での接地面積の減少が抑えられ、低温環境でのウェット性能が良化傾向となる。逆に、この比AL/AHが小さいほど、低温環境での接地面積の減少が大きく、低温環境でのウェット性能が悪化傾向となる。
【0036】
例えば、指標X=(AL/AH)×100として、指標Xが95以上100以下の場合を「良性能」、指標Xが90以上95未満の場合を「合格」、指標Xが90未満の場合を「不合格」として判定してもよい。
【0037】
タイヤ開発における実車評価において、常温環境(20~40℃)では比較対象タイヤと同等の良好なウェット性能が発揮される場合でも、低温環境(0~10℃)では比較対象タイヤに対してウェット性能が悪化することがある。実車評価には相当の時間とコストを要することから、より簡便なラボ評価により低温環境でのウェット性能を評価することが求められる。この点に鑑み検討していくなかで、上記の蛍光法により求められる接地面積の比が、実車でのウェット性能の評価と相関があることが判明した。
【0038】
詳細には、あるタイヤの開発時において、比較対象とするタイヤとの間で実車評価を行ったところ、開発タイヤは、常温環境では比較対象タイヤと同程度の良好なウェット性能が発揮された。しかしながら、開発タイヤは、低温環境では比較対象タイヤとの性能差が大きく、比較対象タイヤに比べてウェット性能が大きく悪化した。一般に0~40℃程度の範囲では、ウェット性能は低温ほど良好になる傾向にあるが、その開発タイヤでは低温での性能の向上幅が小さく、比較対象タイヤと比較して、低温環境でのウェット性能が劣っていた。また、実車評価では所定の慣らし運転を行ってからウェット性能を評価しているところ、その開発タイヤでは、低温環境での慣らし運転後のトレッドの表面摩耗の進みが比較対象タイヤに比べて小さいことが確認された。
【0039】
このような現象について、低温での接地性に要因があると仮定して、更なる検証を行った。すなわち、一般にゴムは低温で硬くなり、接地面積が減少する。この減少量が著しく大きくなると、温度域によってタイヤ接地性が大きく変化することになり、幅広い温度域で安定してタイヤ性能を発揮できないと予想できる。
【0040】
そこで、まず、タイヤを平坦な路面上で転動、制動させる台上試験(ラボ評価)を常温(22℃)と低温(5℃)で行った。その結果、該ラボ評価では、常温時に対して低温時に接地面積が減少したが、開発タイヤと比較対象タイヤとの間で接地面積の減少率に大きな差はなく、実車評価とは異なる結果であった。
【0041】
これに対し、開発タイヤ(評価対象タイヤ)と比較対象タイヤのそれぞれについて、上記の蛍光法を用いた実路面相当の凹凸面に対する接地解析を行い、指標Xを求めた。その結果、図4に示すように、比較対象タイヤである「タイヤA」では指標X=99.3であったのに対し、開発タイヤである「タイヤB」では指標X=86であった。ここで、タイヤA及びBは、タイヤサイズ:205/55R16であり、類似のトレッドパターンを持つサマータイヤである。接地解析の条件としては、第1温度は5℃、第2温度は22℃とし、接地圧力は350kPaとした。蛍光液34としては、ピラニン粉末0.1gを水100mLに溶かした水溶液を用いた。
【0042】
一方、開発タイヤ(評価対象タイヤ)と比較対象タイヤのそれぞれについて、ウェット性能の実車評価を行った。実車評価では、上記タイヤAを基準として、低温環境でのウェット性能がタイヤAに対してどの程度良化ないし悪化するかを、下記指標Yにより評価した。
指標Y={(DLA/DL)/(DHA/DH)}×100
ここで、DLは評価対象タイヤ(ここでは開発タイヤであるタイヤB)の低温環境での制動距離を表し、DLAは比較対象タイヤ(タイヤA)の低温環境での制動距離を表し、DHは評価対象タイヤの常温環境での制動距離を表し、DHAは比較対象タイヤの常温環境での制動距離を表す。従って、タイヤAについてはY=100である。その結果、タイヤBでは該指標Yが88であった。指標Yは、その値が大きいほど、比較対象タイヤと比較して、低温環境でのウェット性能が良化する傾向にあることを意味する。そのため、上記の蛍光法を用いた接地解析は、実車でのウェット性能の評価と同じ傾向が認められた。
【0043】
ここで、ウェット性能の実車評価は、タイヤを乗用車に装着し、屋外のテストコースにて、所定の慣らし運転を行った後、湿潤路面を時速100kmにて走行中にブレーキをかけて停止するまでの制動距離を計測することにより行った。低温環境でのウェット性能は路面温度5~10℃で行い、常温環境でのウェット性能は路面温度20~25℃で行った。制動距離の計測は10回の平均値とした。
【0044】
そこで、タイヤA及びBと同じタイヤサイズで類似のトレッドパターンを持つ幾つかのタイヤC~Fについて、タイヤA及びBと同様に、蛍光法を用いた接地解析と、実車でのウェット性能の評価を行った。
【0045】
そして、蛍光法を用いた接地解析の結果について、各タイヤの指標Xを、タイヤAの指標Xを100とした指数(常温→低温での接地面積変化指数)に換算した。ウェット性能の実車評価の結果については、各タイヤを評価対象タイヤとして、タイヤAを基準とした上記指標Yを求めた。
【0046】
結果は図5に示すとおりであり、上記蛍光法を用いた接地解析結果(常温→低温での接地面積変化指数)と、ウェット性能の実車評価結果(指標Y)とには相関があり、蛍光法を用いた接地解析における指標Xが大きいほど、ウェット性能の実車評価における指標Yが大きいことが分かる。そのため、上記の第1温度で測定した接地面積ALと第2温度で測定した接地面積AHとの比(指標X)に基づいて、実車での低温環境でのウェット性能を簡便に評価することができる。指標Xが大きいほど、低温環境でのウェット性能が良化する傾向にある。
【0047】
一実施形態において、評価対象タイヤと比較対象タイヤのそれぞれについて上記の蛍光法を用いた実路面相当の凹凸面に対する接地解析を行って指標Xを求め、両者の指標Xを比較することにより、評価対象タイヤについて、比較対象タイヤと比較して、低温環境でのウェット性能が良化するか悪化するかを評価してもよい。評価対象タイヤの指標Xが比較対象タイヤの指標Xよりも大きければ良化傾向にあり、逆に、評価対象タイヤの指標Xが比較対象タイヤの指標Xよりも小さければ悪化傾向にあると評価できる。
【0048】
上記評価方法では、評価対象タイヤと比較対象タイヤの常温環境でのウェット性能が略同等であることが好ましい。常温環境でのウェット性能が略同等であれば、指標Yは低温環境でのウェット性能の比DLA/DHと同一視することができる。指標Yは、上記指標Xの比である「常温→低温での接地面積変化指数」と相関しているため、指標Xによって評価対象タイヤと比較対象タイヤの低温環境でのウェット性能を単純に比較することができる。すなわち、評価対象タイヤの指標Xが比較対象タイヤの指標Xよりも大きければ、評価対象タイヤは比較対象タイヤよりも低温でのウェット性能に優れ、逆に小さければ、比較対象タイヤよりも低温でのウェット性能に劣ると評価できる。ここで、比較対象タイヤの常温環境での制動距離DHAに対する、評価対象タイヤの常温環境での制動距離DHの比(DH/DHA)は、0.90~1.10であることが好ましく、より好ましくは0.95~1.05である。
【0049】
次に、上記のタイヤ性能評価方法を用いたタイヤの設計方法について説明する。
【0050】
第1の実施形態に係るタイヤの設計方法は、上記第1温度と第2温度とのそれぞれにおいて上記蛍光法を用いた接地解析を行うことによりトレッド陸の接地面積を測定し、次いで、第1温度で測定した接地面積ALと第2温度で測定した接地面積AHとの比に基づいて、トレッドゴム16の第1温度と第2温度での貯蔵弾性率の差ΔE’及び/又はトレッド陸20の接地面22の高低差ΔLを設定するものである。
【0051】
図4及び図5に示すように、蛍光法を用いた接地解析を実施すると、一般に低温になると接地面積が減少し、指標Xが小さくなる。その要因について次の仮説を立てた。ゴムの弾性率には温度依存性があり、低温で弾性率が大きくなることで(即ち、貯蔵弾性率の差ΔE’が大きくなることで)、接地性が悪化する。また、トレッド陸20の接地面22がタイヤ径方向RD外側に突出している場合(即ち、陸高低差ΔLが大きい場合)、トレッド陸20の幅中央部22Aと両端22B,22Bとで接地時間差が発生して接地性が悪化する。平坦な路面を接地対象とした台上試験ではこの差異が現れにくいが、高低差ΔLのあるトレッド陸20を、接地対象として凹凸面32Aに接地させることにより、常温から低温への接地面積の減少として顕在化する。
【0052】
上記仮説を検証するために、図4に示すタイヤA、B及びGについて、トレッドゴム16の貯蔵弾性率の差ΔE’と、トレッド陸20の接地面22の高低差ΔLを測定した。
【0053】
ここで、トレッドゴム16の第1温度と第2温度での貯蔵弾性率の差ΔE’(以下、弾性率差ΔE’ということがある。)は、例えば上記接地解析を実施するためにタイヤから切り出したトレッド陸20からゴム試験片を採取し、当該ゴム試験片を用いて粘弾性試験機により測定することができる。貯蔵弾性率E’の測定条件は特に限定されないが、例えば、静歪みとして10%の伸長歪みを与えた状態で±1.0%の動歪みを周波数10Hzで与えながら、温度-80~40℃の範囲で5℃/分の割合で昇温させ1℃刻みで測定してもよい。
【0054】
陸高低差ΔLは、例えば、上記接地解析を実施するためにタイヤから切り出したトレッド陸20を用いて、その断面形状から金尺等の物差しで計測してもよい。あるいは、3D形状計測機により計測してもよい。
【0055】
図6は、トレッドゴム16の貯蔵弾性率E’の測定結果を示したグラフである。図6に示されるように、タイヤAでは、第1温度と第2温度での貯蔵弾性率の差ΔE’が小さく、常温(22℃)の貯蔵弾性率E’(22℃)に対する低温(5℃)の貯蔵弾性率E’(5℃)の差(E’(5℃)-E’(22℃))が12MPaであった。これに対し、タイヤBでは、第1温度と第2温度での貯蔵弾性率の差ΔE’が大きく、常温(22℃)の貯蔵弾性率E’(22℃)に対する低温(5℃)の貯蔵弾性率E’(5℃)の差が20MPaであった。タイヤGはタイヤBとトレッドゴム16が同配合であり、従って同じ貯蔵弾性率E’を持つ。
【0056】
図7は、トレッド陸20の接地面22の高低差ΔLの測定結果を示したグラフである。図7に示されるように、タイヤAでは陸高低差ΔLが大きく、ΔL=520μmであった。タイヤGでは陸高低差ΔLが小さく、ΔL=95μmであった。タイヤB,Hでは陸高低差ΔLが中程度であり、ΔL=320μmであった。
【0057】
図4に示すように、タイヤAでは、トレッド陸20の高低差ΔLは大きいものの、貯蔵弾性率の差ΔE’が小さく、接地性は良好であった。タイヤGでは、貯蔵弾性率の差ΔE’は大きいものの、トレッド陸20の高低差ΔLが小さく、接地性は良好であった。これに対し、タイヤBでは、貯蔵弾性率の差ΔE’が大きい上に、トレッド陸20の高低差ΔLが中程度であり、接地性が悪化した。これらの結果から、貯蔵弾性率の差ΔE’が大きくかつトレッド陸20の高低差ΔLが存在することが要因で接地性が悪化することが分かった。
【0058】
貯蔵弾性率の差ΔE’の違いによる接地性への影響を更に確認するために、タイヤBについて、当該タイヤを加硫成型するためのモールド形状はそのまま(従って、高低差ΔLは変更なし)で、トレッドゴム16を貯蔵弾性率の差ΔE’が小さいゴム配合(ΔE’=12MPa)(図6参照)に変更したタイヤHを作製した。そして、タイヤHについて蛍光法を用いた接地解析を実施して指標Xを求めた。その結果、図4に示すように、タイヤHでは指標X=98であり、低温での接地性に優れていた。すなわち、貯蔵弾性率の差ΔE’が小さいゴム配合に変更することにより、接地性を大幅に改良することができた。
【0059】
以上より、ウェット性能の実車評価結果と相関のある蛍光法接地解析の指標Xの調整には、トレッドゴム16の貯蔵弾性率の差ΔE’とトレッド陸20の高低差ΔLの組合せが重要であることが分かる。例えば、貯蔵弾性率の差ΔE’が大きいトレッドゴム配合を採用する場合、トレッド陸20の高低差ΔLを小さくして、接地性の悪化を抑えることが望ましい。また、トレッド陸20の高低差ΔLが大きい陸形状を採用する場合、貯蔵弾性率の差ΔE’が小さいトレッドゴム配合を用いて、接地性の悪化を抑えることが望ましい。
【0060】
このように蛍光法接地解析の指標X(即ち、第1温度で測定した接地面積ALと第2温度で測定した接地面積AHとの比)は、トレッドゴム16の貯蔵弾性率の差ΔE’とトレッド陸20の高低差ΔLとにより調整することができる。そのため、該指標Xに基づいて、トレッドゴム16の貯蔵弾性率の差ΔE’とトレッド陸20の高低差ΔLのうちの少なくとも一方を適宜設定することにより、指標Xを大きくして接地性を改善することができる。
【0061】
例えば、第2温度で測定した接地面積AHに対する第1温度で測定した接地面積ALの比AL/AHがある値よりも小さいときに、トレッドゴム16を弾性率差ΔE’が小さいゴムに変更してもよい。詳細には、あるタイヤについて測定した指標X(=(AL/AH)×100)が設定値よりも小さいとき(例えば90未満であるとき)に、トレッドゴム16のゴム配合を、弾性率差ΔE’がより小さいゴム配合に変更してもよい。
【0062】
また、上記比AL/AHがある値よりも小さいときに、トレッド陸20の接地面22の高低差ΔLを小さくしてもよい。詳細には、あるタイヤについて測定した指標Xが設定値よりも小さいとき(例えば90未満であるとき)に、トレッド陸20の高低差ΔLが小さくなるように陸形状を変更してもよい。
【0063】
また、上記比AL/AHがある値よりも小さいときに、トレッドゴム16を弾性率差ΔE’が小さいゴムに変更するとともに、トレッド陸20の接地面22の高低差ΔLを小さくしてもよい。詳細には、あるタイヤについて測定した指標Xが設定値よりも小さいとき(例えば90未満であるとき)に、トレッドゴム16のゴム配合を弾性率差ΔE’がより小さいゴム配合に変更するとともに、トレッド陸20の高低差ΔLが小さくなるように陸形状を変更してもよい。
【0064】
なお、ゴムの貯蔵弾性率の差ΔE’の調整方法は特に限定されず、例えば、カーボンブラックの粒子径により調整することができ、粒子径を小さくすることにより弾性率差ΔE’を大きくし、粒子径を大きくするすることにより弾性率差ΔE’を小さくすることができる。
【0065】
上述した第1の実施形態に係るタイヤの設計方法は、タイヤの開発過程における様々な段階で利用することができる。好ましくは、タイヤを試作した後、実車評価に移行する前段階、又は、実車評価後に更なる改良を加える設計変更段階において利用することができる。そのため、低温環境でのウェット性能に優れるタイヤの早期開発に繋がる。
【0066】
次に、第2の実施形態に係るタイヤの設計方法について説明する。
【0067】
第2の実施形態では、複数のタイヤについて、上記第1温度と第2温度とのそれぞれにおいて上記蛍光法を用いた接地解析を行うことによりトレッド陸の接地面積を測定して第1温度で測定した接地面積ALと第2温度で測定した接地面積AHとの比AL/AHを求める。得られた接地面積の比AL/AHと、トレッドゴムの第1温度と第2温度での貯蔵弾性率の差ΔE’と、トレッド陸の接地面の高低差ΔLと、の関係を求める。かかる関係を求めておき、あるタイヤを設計する際に、該関係に基づいて、接地面積の比AL/AHが所定条件を満たす範囲内で、貯蔵弾性率の差ΔE’及びトレッド陸の接地面の高低差ΔLを設定する。
【0068】
トレッドゴムの貯蔵弾性率の差ΔE’は、複数のタイヤについて、上記のようにタイヤから切り出したトレッド陸からゴム試験片を採取し、当該ゴム試験片を用いて粘弾性試験機により測定してもよく、タイヤに用いたトレッドゴムについて弾性率差ΔE’のデータを予め保持している場合には、そのデータを用いてもよい。
【0069】
トレッド陸の高低差ΔLは、複数のタイヤについて、上記のようにタイヤから切り出したトレッド陸を用いてその断面形状から物差しで計測してもよく、タイヤのトレッド陸についてその高低差ΔLのデータを予め保持している場合には、そのデータを用いてもよい。
【0070】
上記の接地面積比AL/AHと弾性率差ΔE’と陸高低差ΔLとの関係については、特に限定されないが、例えば、弾性率差ΔE’と陸高低差ΔLの各組合せについて、接地面積比AL/AHとの関係をグラフ又は表にまとめておいてもよい。接地面積比AL/AHを複数の段階(例えば、上記の指標Xが95以上100以下の段階と、指標Xが90以上95未満の段階と、指標Xが90未満の段階)に分類し、弾性率差ΔE’と陸高低差ΔLの各組合せを各段階にグループ分けしておいてもよい。
【0071】
図8は、接地面積比AL/AHと弾性率差ΔE’と陸高低差ΔLとの関係を示すグラフである。タイヤサイズ:205/55R16で類似のトレッドパターンを持つサマータイヤについて、自社製の市販タイヤ及び開発中のタイヤとともに市販の他社製タイヤを含む複数のタイヤA,B,G~Oについて、接地面積比AL/AHと弾性率差ΔE’と陸高低差ΔLを測定して、これらの関係を求めた。図8はその結果を示すグラフであり、グラフの左下側方向が、接地面積比AL/AHが大きく、低温環境での接地性の低下が抑えられる方向(良化方向)である。
【0072】
図8に示された関係に基づいて弾性率差ΔE’及び陸高低差ΔLを設定する方法としては、次の方法が挙げられる。例えば、タイヤを加硫成型するためのモールド形状が先に決まり、複数候補の中からトレッドゴム16のゴム配合を選定する場合である。この場合、モールド形状が決まっていることから陸高低差ΔLは定まっているため、上記複数候補の中から指標Xが90以上であることを満たす弾性率差ΔE’を持つゴム配合を選定すればよい。
【0073】
例えば、トレッドゴム16のゴム配合が先に決まり、その後、トレッド陸形状(モールド形状に対応)を設定する場合である。この場合、ゴム配合が決まっていることから弾性率差ΔE’は定まっているため、指標Xが90以上であることを満たす陸高低差ΔLを設定すればよい。
【0074】
第2の実施形態は、好適には、タイヤの開発過程の比較的初期の段階で利用することができる。すなわち、例えば、第2の実施形態は、低温環境でのウェット性能が良好なタイヤを開発する際に、低温での接地性の悪化を抑えることができる弾性率差ΔE’と陸高低差ΔLとの組合せを、一次設計案として初期開発段階に設定するのに用いることができる。
【0075】
第2の実施形態では、開発タイヤについて、この段階では上記蛍光法を用いた接地解析を行う必要はない。すなわち、蛍光法を用いた接地解析を行うことなく、低温での接地性の悪化を抑えることができる弾性率差ΔE’と陸高低差ΔLの組合せを設定することができる。設定した弾性率差ΔE’を持つゴム配合と陸高低差ΔLを持つ陸形状を用いてタイヤを試作し、この段階で上記蛍光法を用いた接地解析を行ってもよく、その際、当該接地解析により求めた接地面積比AL/AHが設定値よりも小さいときには、上記第1の実施形態に係る設計方法に従い、弾性率差ΔE’及び/又は陸高低差ΔLに変更を加えて、低温での接地性の更なる改良を加えてもよい。
【0076】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0077】
20…トレッド陸、22…接地面、32…透明板、32A…凹凸面、34…蛍光液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8