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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167627
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】系統安定化システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/24 20060101AFI20241127BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20241127BHJP
   H02J 3/00 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
H02J3/24
H02J3/38 120
H02J3/38 110
H02J3/00 170
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083837
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】木村 操
(72)【発明者】
【氏名】石原 祐二
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066AA01
5G066AA03
5G066AB02
5G066AD01
5G066AD07
5G066AD09
5G066HB02
5G066HB06
(57)【要約】
【課題】同期発電機の脱調防止に必要な遮断対象を決定する際の計算量を低減した、系統安定化システムを提供する。
【解決手段】系統安定化システム11において、演算部15は、同期発電機と再生可能エネルギー電源を含む電力系統1において、想定事故に関する安定度を過渡安定度計算により算出する過渡安定度演算部153と、安定化制御なしの条件における過渡安定度計算の演算結果に基づいて、安定化制御の要否を判断する制御要否判定部154と、想定事故に対する安定化制御候補のリストを生成する制御候補生成部155と、安定化制御候補のリストに基づいて、各安定化制御候補の安定化効果を概算し、安定化制御候補について効果順位を決定する効果順位評価部156と、効果順位に基づいて順次演算される、過渡安定度演算部153による過渡安定度計算の演算結果に基づいて、安定化制御候補から、安定化制御対象を決定する制御対象決定部157と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定周期で演算を行い、想定事故ごとに安定化制御対象を決定する演算部と、前記安定化制御対象を遮断する安定化制御を実行する制御部と、を備える系統安定化システムにおいて、
前記演算部は、
同期発電機と再生可能エネルギー電源を含む電力系統において、前記想定事故に関する安定度を過渡安定度計算により算出する過渡安定度演算部と、
安定化制御なしの条件における前記過渡安定度計算の演算結果に基づいて、安定化制御の要否を判断する制御要否判定部と、
前記想定事故に対する安定化制御候補のリストを生成する制御候補生成部と、
前記安定化制御候補のリストに基づいて、各安定化制御候補の安定化効果を概算し、前記安定化制御候補について効果順位を決定する効果順位評価部と、
前記効果順位に基づいて順次演算される、前記過渡安定度演算部による前記過渡安定度計算の演算結果に基づいて、前記安定化制御候補から、前記安定化制御対象を決定する制御対象決定部と、を有する系統安定化システム。
【請求項2】
前記演算部の前記効果順位評価部は、
前記過渡安定度演算部が演算した安定化制御なしの条件で計算した演算結果から、安定化制御直前の各同期発電機の有効電力を含む、所定の情報を抽出する情報抽出部と、
選択した前記安定化制御候補の遮断を反映した回路計算を実施して、安定化制御直後の各同期発電機の有効電力を計算する直後有効電力演算部と、
各同期発電機の有効電力を、一機の同期発電機相当の有効電力に換算する有効電力変換部と、
前記安定化制御直後の一機の同期発電機相当の有効電力と、前記安定化制御直前の一機の同期発電機相当の有効電力の差分から、安定化制御前後の有効電力の増加分を求める増加分演算部と、
前記安定化制御候補を、前記増加分が大きい順に並べ替えることで前記安定化制御候補の前記効果順位を決定する順位決定部と、
を有する請求項1記載の系統安定化システム。
【請求項3】
前記情報抽出部は、前記過渡安定度演算部が演算した安定化制御なしの条件で計算した演算結果から、安定化制御直前のアドミタンス行列をさらに抽出し、
前記直後有効電力演算部は、前記安定化制御直前のアドミタンス行列に、選択した前記安定化制御候補の遮断を反映した回路計算を実施する、
請求項2記載の系統安定化システム。
【請求項4】
前記演算部の前記効果順位評価部は、
前記過渡安定度演算部が演算した安定化制御なしの条件で計算した演算結果から、安定化制御直前の各同期発電機の有効電力を含む、所定の情報を抽出する情報抽出部と、
選択した前記安定化制御候補の遮断を反映した潮流計算を実施して、安定化制御直後の各同期発電機の有効電力を計算する潮流計算実行部と、
各同期発電機の有効電力を、一機の同期発電機相当の有効電力に換算する有効電力変換部と、
前記安定化制御直後の一機の同期発電機相当の有効電力と、前記安定化制御直前の一機の同期発電機相当の有効電力の差分から、安定化制御前後の有効電力の増加分を求める増加分演算部と、
前記安定化制御候補を、前記増加分が大きい順に並べ替えることで前記安定化制御候補の前記効果順位を決定する順位決定部と、
を有する請求項1記載の系統安定化システム。
【請求項5】
前記潮流計算実行部は、
選択した安定化制御候補に含まれる発電機ノードで一定量の無効電力を変化させた第一の潮流計算と、
選択した安定化制御候補の有効電力を安定化制御候補外の前記同期発電機に割り当てて行う第二の潮流計算と、
前記第二の潮流計算の結果から演算した負荷の変動分を反映して行う第三の潮流計算と、
安定化制御候補外の同期発電機の有効電力の合計値と安定化制御直前の有効電力の合計値の差分を、前記安定化制御候補外の前記同期発電機に上乗せして行う第四の潮流計算と、
を実行するように構成される請求項4記載の系統安定化システム。
【請求項6】
前記演算部の前記効果順位評価部が、前記安定化制御前後の前記増加分を正規化する正規化部をさらに備え、
前記順位決定部は、前記安定化制御候補を、前記増加分を正規化した値が大きい順に並べ替えることで前記安定化制御候補の前記効果順位を決定する、
請求項2又は4記載の系統安定化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、同期発電機と再生可能エネルギー電源を含む電力系統において、安定化制御対象の同期発電機や再生可能エネルギー電源等を決定する系統安定化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統で地絡等の事故が発生した場合、系統安定化システムにおいて、安定化制御が実行される。安定化制御は、事故発生時に速やかに一部の同期発電機を遮断することで、系統事故時における同期発電機の脱調を防止する制御である。安定化制御においては、一定周期で収集した電力系統の情報から電力系統モデルを作成し、過渡安定度計算により想定される系統事故が発生したときの電力系統の状態を評価することで、同期発電機の脱調有無が判断される。その上で、脱調防止に必要な安定化制御の対象である遮断する同期発電機を、事故発生前に予め決定する安定化制御の手法がある。
【0003】
また、近年、同期発電機とは構造が異なる再生可能エネルギー電源が増加している。安定化制御において、脱調防止のために遮断する対象として、再生可能エネルギー電源を含めた手法が検討されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「付録2 脱調未然防止リレーシステム事例」、電気学会技術報告 第801号、p.153-154、社団法人 電気学会、平成12年10月
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6223833号公報
【特許文献2】特許第7098515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の安定化制御では、脱調防止に作用する力、即ち安定化効果を評価し、安定化効果が高い順に過渡安定度計算を試行し、脱調防止に必要な遮断対象となる同期発電機や再生可能エネルギー電源が選定されていた。過渡安定度計算は、安定化効果の評価の際にも行われる。具体的には、遮断候補の再生可能エネルギー電源および同期発電機について、単体およびそれら複数の組合せを遮断した場合について、それぞれ過渡安定度計算を行った結果により安定化効果が評価される。
【0007】
遮断候補の再生可能エネルギー電源や同期発電機が多くなると、安定化効果の評価に要する過渡安定度計算の回数が増大する。遮断候補の増加に伴い、演算周期が長くなり、系統安定化システムの性能が低下する場合がある。また、演算周期を最適化するためには、余分に計算機を用意する必要があり、費用の負担は避けられない。
【0008】
本実施形態は、上記課題を解決するためのものであり、同期発電機の脱調防止に必要な遮断対象を決定する際の計算量を低減した、系統安定化システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態の系統安定化システムは、一定周期で演算を行い、想定事故ごとに安定化制御対象を決定する演算部と、前記安定化制御対象を遮断する安定化制御を実行する制御部と、を備える系統安定化システムにおいて、前記演算部は、さらに次のような構成を備える。
(1)同期発電機と再生可能エネルギー電源を含む電力系統において、前記想定事故に関する安定度を過渡安定度計算により算出する過渡安定度演算部。
(2)安定化制御なしの条件における前記過渡安定度計算の演算結果に基づいて、安定化制御の要否を判断する制御要否判定部。
(3)前記想定事故に対する安定化制御候補のリストを生成する制御候補生成部。
(4)前記安定化制御候補のリストに基づいて、各安定化制御候補の安定化効果を概算し、前記安定化制御候補について効果順位を決定する効果順位評価部。
(5)前記効果順位に基づいて順次演算される、前記過渡安定度演算部による前記過渡安定度計算の演算結果に基づいて、前記安定化制御候補から、前記安定化制御対象を決定する制御対象決定部。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第一実施形態に係る系統安定化システムの構成を説明する全体図である。
図2】安定化制御候補のリストの一例を示す表である。
図3】第一実施形態に係る系統安定化システムの動作を示すフローチャートである。
図4】第一実施形態に係る系統安定化システムの安定化効果の評価動作を示すフローチャートである。
図5】第二実施形態に係る系統安定化システムの構成を説明する全体図である。
図6】第二実施形態に係る系統安定化システムの安定化効果の評価動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[1.第一実施形態]
[1-1.全体構成]
以下、第一実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。以下の説明において、同一構成の装置や部材が複数ある場合、それらについて同一の番号を付して説明を行う。また、複数の同じ構成要素は、共通の符号の末尾に、「-」(ハイフン)を介して「1」、「2」等の添え字を付すことにより区別する。なお、複数の同じ構成要素を互いに区別しない場合には、共通の符号のみ示し、添え字は省略する。
【0012】
図1は、第一実施形態に係る系統安定化システム11と、系統安定化システム11が適用される電力系統1の構成例を示す模式図である。
【0013】
(電力系統)
電力系統1は、母線2(母線2-1~2-5)と、送電線3(送電線3-1~3-5)と、変圧器4(変圧器4-1~4-6)と、発電機5(発電機5-1~5-6)と、遮断器6(遮断器6-1~6-6)を備える。
【0014】
発電機5は、再生可能エネルギー電源または同期発電機である。再生可能エネルギー電源は、太陽光、風力等の再生可能エネルギーにより発電し、電力変換器を介して接続される電源である。同期発電機は、発電に用いるエネルギーは様々ながら、火力機、原子力機、水力機等の同期機を駆動することで発電する機器である。発電機5で発電された電力は、変圧器4、母線2および送電線3を介して需要家に供給される。
【0015】
変圧器4は、発電機5により発電される電力の電圧を所定電圧に変圧する。変圧器4-1~4-6は、それぞれ発電機5-1~5-6から出力された電力の電圧を、予め定められた電圧に変換する。例えば、変圧器4-1は、発電機5-1により発電される電力の電圧を所定電圧に変圧するよう構成される。
【0016】
遮断器6は、発電機5により発電される電力の需要家への供給を遮断する開閉器である。遮断器6-1~6-6は、それぞれ5-1~5-6から出力された電力を遮断する。例えば、遮断器6-1は、発電機5-1により発電される電力の供給を遮断するように構成される。
【0017】
(系統安定化システム)
系統安定化システム11は、情報端末12(情報端末12-1~12-5)と、制御端末13(制御端末13-1~13-4)と、伝送系14と、演算部15と、制御部16を備える。
【0018】
情報端末12は、発電機5から母線2を介して需要家に供給される電力に関する情報(以下、系統情報と称する)を計測する検出装置である。情報端末12-1~12-5は、それぞれ母線2-1~2-5を介して供給される電力について、系統情報を計測する。例えば、情報端末12-1は、母線2-1に接続する送電線3-1、3-2、3-5により供給される電力等に関する電力情報、および送電線3-1等の接続情報を含む系統情報を計測する。
【0019】
系統情報は、電力系統1の各構成要素(母線2、送電線3、変圧器4、発電機5、遮断器6)における電力の需給状態に関する電力情報、およびその接続状態に関する接続情報を含む。電力情報は、送電線3や変圧器4の有効電力と無効電力、母線2に印加される母線電圧などの情報を含む。接続情報は、送電線3と変圧器4の接続状態の情報を含む。系統情報は、例えば、電力系統1における各母線2の電圧や位相角、送電線3の有効電力潮流や無効電力潮流、発電機5の起動・停止情報、などの情報をさらに含む。
【0020】
情報端末12は、電力系統1において電力機器に発生した、例えば地絡等の事故に関する事故情報を取得可能に構成される。事故情報は、例えば、送電線3に事故が発生した場合、事故にかかる電力機器および事故様相を示す情報である。
【0021】
制御端末13は、遮断器6の遮断を制御する端末である。制御端末13は、伝送系14を介し、制御部16に接続される。制御端末13-1~13-4は、制御部16からの制御信号に応じて、遮断器6-1~6-6を制御し、発電機5-1~5-6からの電力の供給を遮断することができる。例えば、制御端末13-1は、制御部16からの制御信号に応じて、遮断器6-1、6-2を制御し、母線2-4を介した、発電機5-1および5-2からの電力の供給の遮断を制御するように構成される。
【0022】
伝送系14は、有線または無線による専用線、電話回線またはインターネット回線等により構成される。伝送系14は、系統安定化システム11の制御部16から送信された制御信号を各遮断器6に配置された制御端末13に伝送する。伝送系14は、電力系統1に配置された情報端末12から送信された系統情報等を系統安定化システム11の演算部15に伝送する。
【0023】
演算部15は、コンピュータなどにより構成される。制御部16は、送受信回路などを備えたディジタルリレーなどにより構成される。演算部15と制御部16は通信可能に接続されている。なお、演算部15と制御部16は、コンピュータにより一体に構成することもできる。演算部15および制御部16について、ハードウェアでの処理範囲や、プログラムを含むソフトウェアでの処理範囲に関しては適宜設定可能であり、特定の態様に限定されない。
【0024】
演算部15は、事故が発生する前に、予め一定周期で演算を繰り返して、電力系統1を安定化させ、発電機5の脱調を防止するために遮断すべき安定化制御対象を、想定事故ごとに決定する機能を有する。演算部15は、情報端末12が測定した系統情報等を伝送系14を介して入力されている。演算部15は、記憶部151、系統データ作成部152、過渡安定度演算部153、制御要否判定部154、制御候補生成部155、効果順位評価部156、および制御対象決定部157を備える。
【0025】
記憶部151は、系統安定化システム11の動作に必要な各種の情報を記憶する記憶部である。記憶部151は、半導体メモリやハードディスクのような記憶媒体にて構成される。記憶部151は、電力系統1における想定事故条件や、情報端末12から取得した系統情報や、演算部15の各構成要素が作成したデータや演算結果等が記憶される。記憶された情報は、演算部15の各構成要素の演算や、制御部16に対する出力のために使用可能に構成される。
【0026】
系統データ作成部152は、伝送系14を介して取得した系統情報と、予め保存された各種設定情報に基づいて、系統モデルを作成する処理部である。系統モデルは、電力系統1をモデル化したデータである。系統データ作成部152は、作成した系統モデルを、過渡安定度演算部153に送信する。
【0027】
過渡安定度演算部153は、系統データ作成部152により作成された系統モデルに基づき、解析シミュレーションを行う演算部である。過渡安定度演算部153は、安定化制御なしの条件、または、安定化制御ありの条件で、想定事故に関する安定度を算出可能に構成される。過渡安定度演算部153は、安定化制御なしの条件で計算した演算結果を、制御要否判定部154に出力する。
【0028】
安定化制御ありの条件で演算を行う場合、過渡安定度演算部153は、予め設定されている複数の想定事故条件から1つの想定事故条件を選択し、過渡安定度計算を行うよう構成される。過渡安定度演算部153は、効果順位評価部156が決定した効果順位に従って、効果順位の高い安定化制御候補から順に、過渡安定度計算を行うように構成される。
【0029】
制御要否判定部154は、過渡安定度演算部153が計算した安定化制御なしの条件における演算結果に基づいて、安定化制御の要否を判断する処理部である。制御要否判定部154は、ある想定事故条件において、安定化制御を行わない場合に、発電機5の脱調があるか否かを確認する。制御要否判定部154は、発電機5が不安定になると判断した場合、安定化制御が必要であると判定する。また、制御要否判定部154は、不安定な発電機5がない場合には、安定化制御が不要であると判定する。制御要否判定部154は、想定事故条件について、安定化制御の要否に関する情報を関連付けて、記憶部151に保存する。
【0030】
制御候補生成部155は、制御要否判定部154が、安定化制御が必要であると判断した場合に、想定事故に対する安定化制御候補のリストを生成する処理部である。安定化制御候補とは、想定事故条件について安定化制御の対象となり得る発電機5等を示す。制御候補生成部155は、予め記憶部151に保存されている、想定事故条件ごとの安定化制御候補のリストから、条件に合う安定化制御候補のリストを取得する構成として良い。例えば、発電機5-1~5-3の3台を安定化制御の候補とした場合、制御候補生成部155は、図2に示すような安定化制御候補のリストを生成する。
【0031】
図2の1~3はそれぞれの発電機5を1台ずつ切った場合、4~6は2台の発電機5を組み合わせた場合、7は全ての発電機5を遮断した場合の安定化制御候補を示す。このように、安定化制御候補は、ある発電機5単体であっても、複数の発電機5の組み合わせであっても良い。なお、安定化制御の対象は、発電機5に限定されない。安定化制御の対象は、複数の発電機5が集約された送電線3を対象として良い。すなわち、電力系統1の一部を遮断することで、残る大部分の電力系統1から有効電力が喪失する状況を作り出せるものであれば、安定化制御の対象とすることができる。
【0032】
効果順位評価部156は、制御候補生成部155が作成した安定化制御候補のリストに基づいて、各安定化制御候補の安定化効果を概算し、リスト中の安定化制御候補について効果順位を決定する処理部である。効果順位評価部156は、情報抽出部1561、直後有効電力演算部1562、有効電力変換部1563、増加分演算部1564、正規化部1565、および順位決定部1566、を備える。なお、上記の説明では、発電機5は再生可能エネルギー電源および同期発電機と定義しているが、効果順位評価部156の安定効果の概算は、同期発電機を対象とするため、同期発電機と記載する。
【0033】
情報抽出部1561は、過渡安定度演算部153が演算した安定化制御なしの条件で計算した演算結果から、一機の同期発電機相当の有効電力を演算するために必要な所定の情報を抽出する処理部である。具体的には、情報抽出部1561は、電力系統1の接続状態を表す安定化制御直前のアドミタンス行列[Y]と、安定化制御直前の同期発電機等の状態を表すノード注入電流ベクトル[I]と、各同期発電機の内部インピーダンスZと、安定化制御直前の同期発電機の内部電圧Eと、安定化制御直前の各同期発電機の有効電力Pを、安定化制御なしの条件での過渡安定度計算の演算結果から抽出する。
【0034】
直後有効電力演算部1562は、選択した安定化制御候補の遮断を反映した回路計算を実施して、安定化制御直後の各同期発電機の有効電力Pを計算する演算部である。直後有効電力演算部1562は、まず、安定化制御直前のアドミタンス行列[Y]に、選択した安定化制御候補に含まれる同期発電機が遮断された状態を反映する。次に、直後有効電力演算部1562は、アドミタンス行列[Y]の逆行列[Y]-1を計算し、逆行列[Y]-1と安定化制御直前のノード注入電流ベクトル[I]の乗算により安定化制御直後のノード電圧ベクトル[V]を求める。
【0035】
そして、直後有効電力演算部1562は、各同期発電機の端子電圧Vをノード電圧ベクトル[V]から抽出し、各同期発電機の内部インピーダンスZと内部電圧Eを用いて、以下の(数1)で安定化制御直後の各同期発電機の有効電力Pを計算する。
【0036】
(数1)
【0037】
上記(数1)において、Vと、Eと、Zは複素数である。Conj( )は共役複素数を求める機能であり、R{ }は複素数の実部を抽出する機能である。
【0038】
有効電力変換部1563は、各同期発電機の有効電力Pを、一機の同期発電機相当の有効電力Pに換算する処理部である。有効電力変換部1563は、情報抽出部1561が抽出した安定化制御直前の各同期発電機の有効電力Pを、一機の同期発電機相当の有効電力Pに換算する。
【0039】
有効電力変換部1563における換算処理に用いられる換算式を、(数2)~(数6)に示す。
(数2)
【0040】
(数3)
【0041】
(数4)
【0042】
(数5)
【0043】
(数6)
【0044】
上記(数2)~(数6)において、i=1~nは不安定同期発電機、j=1~mは安定同期発電機に対応する。安定化制御なしの過渡安定度計算で脱調した同期発電機を不安定同期発電機とし、それ以外を安定同期発電機と分類する。Pは各同期発電機の有効電力、P1は不安定同期発電機の有効電力合計値、P2は安定同期発電機の有効電力合計値である。Mは各同期発電機の単位慣性定数であり、M1は不安定同期発電機の慣性定数合計値、M2は安定同期発電機の慣性定数合計値である。
【0045】
また、有効電力変換部1563は、直後有効電力演算部1562が演算した安定化制御直後の各同期発電機の有効電力Pを、一機の同期発電機相当の有効電力Pに換算する。上記(数2)~(数6)を用いて換算可能であるが、選択した安定化制御候補の組合せ中に同期発電機が含まれる場合は、不安定同期発電機の有効電力合計値P、または、安定同期発電機の有効電力合計値Pや、不安定同期発電機の慣性定数合計値M、または、安定同期発電機の慣性定数合計値Mから、選択した安定化制御候補の組合せに含まれる同期発電機の分を減じる。
【0046】
増加分演算部1564は、安定化制御直後の一機の同期発電機相当の有効電力Pと、安定化制御直前の一機の同期発電機相当の有効電力Pの差分から、安定化制御前後の有効電力Pの増加分を求める演算部である。増加分演算部1564は、制御候補生成部155が生成した安定化制御候補のそれぞれに対して、安定化制御前後の有効電力Pの増加分を求める。
【0047】
正規化部1565は、増加分演算部1564が求めた安定化制御前後の有効電力Pの増加分を正規化する処理部である。正規化部1565は、安定化制御前後の有効電力Pを制御量で除して、正規化した値を求める。ここで、制御量とは、各安定化制御候補に含まれる発電機5の事故発生前の有効電力Pの合計値である。
【0048】
順位決定部1566は、増加分演算部1564が演算した有効電力Pの増加分、または正規化部1565が求めた正規化した値に基づいて、安定化制御候補のリストに含まれる安定化制御候補を、増加分または正規化した値の大きい順に並べ替えることで安定化制御候補の順位を決定する処理部である。順位決定部1566は、リストに含まれる安定化制御候補を並べ替えて効果順位テーブルを作成し、効果順位テーブルを記憶部151に保存する。
【0049】
制御対象決定部157は、効果順位評価部156が決定した効果順位に基づいて順次演算される、過渡安定度演算部153による過渡安定度計算の演算結果に基づいて、安定化制御候補から、安定化制御の対象を決定する処理部である。制御対象決定部157は、過渡安定度計算の演算結果から、発電機5が脱調するなど不安定な状態があるか否かを判定し、不安定な状態がない場合には、当該安定化制御候補を安定化制御対象として決定する。また、制御対象決定部157は、過渡安定度計算の演算結果に不安定な状態がある場合には、次の効果順位の安定化制御候補の演算結果の判定を行う。制御対象決定部157は、決定した安定化制御対象の識別情報を、想定事故条件と関連付けて、記憶部151に保存する。制御対象決定部157は、決定した安定化制御対象の識別情報を、想定事故条件と関連付けて制御部16に送信し、制御部16の記憶部に保存しても良い。
【0050】
制御部16は、安定化制御対象を遮断するための制御信号を出力し、安定化制御を実行する処理部である。制御部16は、伝送系14を介して情報端末12からの事故情報を受信すると、制御対象決定部157から渡された想定事故条件と安定化制御対象の識別情報の中から、発生した事故に合致する情報を探索する。そして、制御部16は、探索した対応する安定化制御対象を遮断するための制御信号を、伝送系14を介して対応する制御端末13に送信する。
【0051】
[1-2.第一実施形態の作用]
本実施形態の安定化制御手順について、図3および4を参照しつつ説明する。図3は、本実施形態の安定化系統システムにより、安定化制御対象を決定する処理を示すフローチャートである。図4は、安定化制御候補の効果順位を評価する処理を示すフローチャートである。なお、以下の説明では、安定化制御対象の決定に関するフローについて具体的に説明し、実際の事故内容や発電機5の遮断に関する説明については省略する。
【0052】
上述の通り、系統安定化システム11においては、事故が発生する前に、予め一定周期で演算を繰り返して、安定制御対象を想定事故ごとに決定する処理を行う。まず、系統データ作成部152は、情報端末12で計測された電圧、有効電力、無効電力、遮断器6の開閉状態などの系統情報を取り込み、予め保存されている各種設定情報と組み合わせて、電力系統モデルを作成する(ステップS100)。
【0053】
次に、過渡安定度演算部153は、予め設定されている複数の想定事故条件から1つの想定事故条件を選択し(ステップ200)、全ての想定事故条件について安定化制御対象の決定が完了したか否かを判定する(ステップS300)。
【0054】
全ての想定事故条件について計算が完了していない場合は(ステップS300 No)、過渡安定度演算部153は、まず安定化制御なしの条件で過渡安定度計算を実施する(ステップS400)。制御要否判定部154は、過渡安定度演算部153が計算した安定化制御なしの条件における演算結果に基づいて、発電機5が脱調するなどの不安定な状態があるか否かを判定する(ステップS500)。
【0055】
過渡安定度計算の結果、発電機5が不安定ではない場合は(ステップS500 No)、制御要否判定部154は、安定化制御は不要という制御内容をステップS200で設定した想定事故条件の内容と関連づけて保存する(ステップS600)。そして、ステップS200に戻り、過渡安定度演算部153は、次の想定事故条件について演算を行う。
【0056】
一方、過渡安定度計算の結果、発電機5が不安定になる場合は(ステップS500 Yes)、制御要否判定部154は、安定化制御が必要と判断する。制御要否判定部154が、安定化制御が必要であると判断した場合に、制御候補生成部155は、予め設定されている安定化制御候補のリストを生成する(ステップS700)。
【0057】
効果順位評価部156は、制御候補生成部155が作成した安定化制御候補のリストに基づいて、各安定化制御候補の安定化効果を概算し、リスト中の安定化制御候補について順位を決定する(ステップS800)。このステップS800の安定化制御候補の順位付けについて、図4を参照して詳細に説明する。
【0058】
図4に示す通り、情報抽出部1561は、過渡安定度演算部153が演算した安定化制御なしの条件で計算した演算結果から、必要な情報を抽出する(ステップS801)。そして、有効電力変換部1563は、情報抽出部1561が抽出した安定化制御直前の各同期発電機の有効電力Pを、一機の同期発電機相当の有効電力Pに換算する(ステップS802)。
【0059】
次に、効果順位評価部156は、図3のステップS700で生成した安定化制御候補のリストについて、全ての候補の効果評価が完了したか否かを判定する(ステップS803)。効果順位評価部156は、全ての安定化制御候補の効果評価が完了していない場合は(ステップS803 No)、安定化制御候補のリストの中で未評価の安定化制御候補を一つ選択する(ステップS804)。そして、直後有効電力演算部1562は、選択した安定化制御候補に含まれる同期発電機が遮断された状態を反映した回路計算を実施して、安定化制御直後の各同期発電機の有効電力Pを計算する(ステップS805)。
【0060】
有効電力変換部1563は、直後有効電力演算部1562が演算した安定化制御直後の各同期発電機の有効電力Pを、一機の同期発電機相当の有効電力Pに換算する(ステップS806)。そして、増加分演算部1564が、安定化制御直後の一機の同期発電機相当の有効電力Pと、安定化制御直前の一機の同期発電機相当の有効電力Pの差分から、安定化制御前後の有効電力Pの増加分を求める(ステップS807)。
【0061】
そして、ステップS803に戻り、ステップS803からステップS807を繰り返し、図2のステップS700で生成したリスト中の全ての安定化制御候補について、それぞれ安定化制御前後の有効電力増加分を計算する。安定化制御候補のリスト中、全ての安定化制御候補の効果評価が完了した場合(ステップS803 Yes)、正規化部1565は、増加分演算部1564が求めた安定化制御前後の有効電力Pの増加分を制御量で除して正規化する。また、順位決定部1566は、正規化部1565が求めた正規化した値に基づいて、安定化制御候補のリストに含まれる安定化制御候補を、正規化した値の大きい順に並べ替えた効果順位テーブルを作成し、効果順位テーブルを記憶部151に保存する(ステップS808)。
【0062】
ステップS800において、各安定化制御候補の安定化効果を概算し、リスト中の安定化制御候補について順位を決定すると、図3のステップS900に進む。そして、制御対象決定部157は、効果順位テーブルにおいて、安定化効果が最も高い安定化制御候補を選択し(ステップS900)、過渡安定度演算部153に出力する。過渡安定度演算部153は、制御対象決定部157から取得した安定化制御候補について、安定化制御ありの条件で過渡安定度計算を行う(ステップS1000)。
【0063】
制御対象決定部157は、過渡安定度計算の演算結果から、発電機5が脱調するなど不安定な状態がない場合(ステップS1100 No)、当該安定化制御候補を安定化制御対象として決定する。制御対象決定部157は、決定した安定化制御対象の識別情報を、想定事故条件と関連付けて、記憶部151に保存する(ステップS1200)、次の想定事故条件の設定に進む(ステップS200)。そして、全ての想定事故条件についての計算完了し、脱調防止に必要な安定化制御対象の決定を完了していた場合は(ステップS300 Yes)、処理を終了する。一方、過渡安定度計算の演算結果から、発電機5が脱調するなど不安定な状態の場合(ステップS1100 Yes)、安定化制御候補の選択に戻る(ステップS900)。
【0064】
[1-3.第一実施形態の効果]
(1)本実施形態の系統安定化システム11は、一定周期で演算を行い、想定事故ごとに安定化制御対象を決定する演算部15と、安定化制御対象を遮断する安定化制御を実行する制御部16と、を備える系統安定化システム11において、演算部15は、同期発電機と再生可能エネルギー電源を含む電力系統1において、想定事故に関する安定度を過渡安定度計算により算出する過渡安定度演算部153と、安定化制御なしの条件における過渡安定度計算の演算結果に基づいて、安定化制御の要否を判断する制御要否判定部154と、想定事故に対する安定化制御候補のリストを生成する制御候補生成部155と、安定化制御候補のリストに基づいて、各安定化制御候補の安定化効果を概算し、安定化制御候補について効果順位を決定する効果順位評価部156と、効果順位に基づいて順次演算される、過渡安定度演算部153による過渡安定度計算の演算結果に基づいて、安定化制御候補から、安定化制御対象を決定する制御対象決定部157と、を有する。
【0065】
従来の安定化制御では、安定化制御候補について、それぞれ過渡安定度計算を行った結果により安定化効果が評価されていた。すなわち、安定化制御候補の効果順位を決定する場合も、過渡安定度計算が実行されていた。そのため、過渡安定度計算を実行する回数が増大し、演算周期の長期化や、システムの煩雑化を招く虞があった。
【0066】
一方、本実施形態の効果順位評価部156は、各安定化制御候補の安定化効果を概算で求め、安定化制御候補について効果順位を決定する。すなわち、安定化制御候補の効果順位の決定に際して、過渡安定度計算を実行しない。よって、同期発電機の脱調防止に必要な遮断対象を決定する際の計算量を低減した、系統安定化システム11が提供できる。このような系統安定化システム11では、演算周期の長期化や、システムの煩雑化を回避することが可能である。
【0067】
(2)演算部15の効果順位評価部156は、過渡安定度演算部153が演算した安定化制御なしの条件で計算した演算結果から、安定化制御直前の各同期発電機の有効電力を含む、所定の情報を抽出する情報抽出部1561と、選択した安定化制御候補の遮断を反映した回路計算を実施して、安定化制御直後の各同期発電機の有効電力を計算する直後有効電力演算部1562と、各同期発電機の有効電力を、一機の同期発電機相当の有効電力に換算する有効電力変換部1563と、安定化制御直後の一機の同期発電機相当の有効電力と、安定化制御直前の一機の同期発電機相当の有効電力の差分から、安定化制御前後の有効電力の増加分を求める増加分演算部1564と、安定化制御候補を、増加分が大きい順に並べ替えることで安定化制御候補の効果順位を決定する順位決定部1566と、を有する。
【0068】
過渡安定度計算は、微分方程式の解法などを含む計算を10ミリ秒などの時間刻みで繰り返すことにより、数百ミリ秒から10秒といった時系列の状態を求めるため、計算に時間がかかり、演算周期の長期化を招き得る。本実施形態では、過渡安定度演算部153が演算した安定化制御なしの条件で計算した演算結果から、情報抽出部1561が抽出した情報を利用して、直後有効電力演算部1562が、安定化制御直後の各同期発電機の有効電力を計算する。従って、少ない演算量(計算時間)で効果の高い安定化制御候補の組合せを選び出すことができる。
【0069】
(3)情報抽出部1561は、過渡安定度演算部153が演算した安定化制御なしの条件で計算した演算結果から、安定化制御直前のアドミタンス行列をさらに抽出し、直後有効電力演算部1562は、安定化制御直前のアドミタンス行列に、選択した安定化制御候補の遮断を反映した回路計算を実施する。
【0070】
情報抽出部1561抽出した安定化制御直前のアドミタンス行列を利用して、直後有効電力演算部1562が安定化制御直後の各同期発電機の有効電力を計算する。このような本実施形態では、行列演算と四則演算の組合せによる回路計算で、一機の同期発電機相当に換算した安定化制御前後の有効電力増加分を計算することができる。よって、演算負荷を低減させることができる。
【0071】
(4)演算部15の効果順位評価部156が、安定化制御前後の増加分を正規化する正規化部1565をさらに備え、順位決定部1566は、安定化制御候補を、増加分を正規化した値が大きい順に並べ替えることで安定化制御候補の効果順位を決定する。
【0072】
安定化制御前後の有効電力の増加分は、制御対象となる同期発電機の台数に比例して大きくなる。そのため、制御台数が多い安定化制御候補が多い程、安定化効果が高く算出される可能性がある。従って、正規化部1565を設け、増加分を正規化した値で効果順位を決定することにより、より正確に効果順位を決定することが可能となる。
【0073】
[2.第二実施形態]
[2-1.全体構成]
図5および6を参照して、第二実施形態に係る系統安定化システム11について説明する。本実施形態の系統安定化システム11は、第一実施形態にかかる系統安定化システム11の構成と基本的には同じである。なお、以下の説明では、「選択した安定化制御候補に含まれない」ことを、安定化制御候補外と称する。例えば、選択した安定化制御候補に含まれない同期発電機は、安定化制御候補外の同期発電機と表現して説明する。
【0074】
本実施形態の系統安定化システム11は、直前有効電力合計部1570、潮流計算データ作成部1571、第一の潮流計算実行部1572、変化比率演算部1573、第二の潮流計算実行部1574、第三の潮流計算実行部1575、候補外有効電力合計部1576、第四の潮流計算実行部1577、をさらに有する。説明の便宜上、潮流計算実行部を、第一の潮流計算実行部~第四の潮流計算実行部に分けて説明するが、同一の処理部で全ての潮流計算を行うことを排除する意図はない。
【0075】
また、本実施形態の系統安定化システム11は、第一実施形態の直後有効電力演算部1562を有しない。本実施形態の説明では、第一実施形態に係る系統安定化システム11と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0076】
本実施形態では、情報抽出部1561は、過渡安定度演算部153が演算した安定化制御なしの条件で計算した演算結果から、各ノードの電圧、有効電力、無効電力等、潮流計算に必要な情報を抽出する。また、情報抽出部1561は、上記実施形態と同様に、安定化制御直前の各同期発電機の有効電力Pを、安定化制御なしの条件での過渡安定度計算の演算結果から抽出する。
【0077】
直前有効電力合計部1570は、情報抽出部1561が抽出した安定化制御直前の各同期発電機の有効電力Pを合計し、合計値ΣPG0を演算する処理部である。
【0078】
潮流計算データ作成部1571は、安定化制御直前の状態を反映した潮流計算データを作成する処理部である。潮流計算データ作成部1571は、情報抽出部1561が抽出した各ノードの電圧、有効電力、無効電力等のデータを、過渡安定度計算の初期値を計算するために使われている潮流計算の入力データに反映することで、安定化制御直前の状態を反映した潮流計算データを作成する。
【0079】
第一の潮流計算実行部1572は、所定の条件で第一の潮流計算を実行する演算部である。第一の潮流計算実行部1572は、選択した安定化制御候補に含まれる発電機ノードで一定量の無効電力Qを変化させた第一の潮流計算を行うよう構成される。なお、第一の潮流計算実行部1572は、無効電力Qを変化させる前にも潮流計算を実行する。
【0080】
変化比率演算部1573は、第一の潮流計算の結果から、安定化制御候補外の発電機ノード毎の無効電力Qの変化比率を演算する処理部である。変化比率演算部1573は、第一の潮流計算実行部1572が実行した、選択した安定化制御候補に含まれる発電機ノードで一定量の無効電力を変化させた潮流計算の演算結果を用いて変化比率を演算する。よって、変化比率は、選択した安定化制御候補に含まれる発電機ノードで一定量の無効電力を変化させた影響が、安定化制御候補外の発電機5にどのように伝搬するかを示すと言える。
【0081】
変化比率演算部1573は、安定化制御候補外の同期発電機ノードにおける無効電力Qの変化量ΔQを算出し、安定化制御候補外の同期発電機ノード毎のQ変化比率を、以下の(数7)で求めるよう構成される。
【0082】
(数7)
【0083】
上記(数7)において、iは安定化制御候補外の同期発電機の番号、nは安定化制御候補外の同期発電機の総数である。
【0084】
第二の潮流計算実行部1574は、所定の条件で第二の潮流計算を実行する演算部である。第二の潮流計算実行部1574は、選択した安定化制御候補に含まれる発電機の有効電力の設定値をゼロにした上で、選択した安定化制御候補に含まれる発電機の安定化制御直前の有効電力総和を後述するQ変化比率で案分し、安定化制御候補外の同期発電機の有効電力に上乗せして第二の潮流計算を行うように構成される。第二の潮流計算では、選択した安定制御候補に含まれる発電機を遮断した場合、遮断した発電機が出力していた有効電力を、安定制御候補外の同期発電機でどのように賄うかをQ変化比率を用いて設定した上で、潮流計算を行っていると言える。
【0085】
第三の潮流計算実行部1575は、所定の条件で第三の潮流計算を実行する演算部である。第三の潮流計算実行部1575は、第二の潮流計算の結果における各ノードの電圧と、安定化制御直前の各ノードの電圧と、過渡安定度計算で設定されている負荷電圧特性から負荷の変動分を、以下の(数8)および(数9)で演算し、これらを反映させた第三の潮流計算を行うように構成される。
【0086】
(数8)
【0087】
上記(数8)において、ΔP(i)はi番目の負荷ノードにおける有効電力負荷の変動分、PL0(i)はi番目の負荷ノードにおける有効電力負荷の設定値、αPは有効電力負荷の電圧特性である。
【0088】
(数9)
【0089】
上記(数9)において、ΔQ(i)はi番目の負荷ノードにおける無効電力負荷の変動分、QL0(i)はi番目の負荷ノードにおける無効電力負荷の設定値、αQは無効電力負荷の電圧特性である。また、Va(i)は、安定化制御を考慮した第二の潮流計算の結果におけるi番目の負荷ノードの電圧、Vb(i)は、過渡安定度計算の初期値に相当する潮流計算結果におけるi番目の負荷ノードの電圧である。
【0090】
第二の潮流計算の前後で、系統の状態が変化し、電圧の分布が変わる。電圧の分布が変化した場合、消費電力に増減が生じる。第三の潮流計算により、負荷電圧特性と電圧変動による負荷の増減を見込むことで安定化制御後の同期発電機の有効電力の算定精度が高まる。
【0091】
候補外有効電力合計部1576は、第三の潮流計算の演算結果から、安定化制御候補外の全同期発電機の有効電力を合計し、合計値ΣPG1を求める演算部である。
【0092】
第四の潮流計算実行部1577は、所定の条件で第四の潮流計算を実行する演算部である。第四の潮流計算実行部1577は、候補外有効電力合計部1576が演算した合計値ΣPG1と、直前有効電力合計部1570が演算した合計値ΣPG0の差分を、変化比率演算部1573が求めたQ変化比率で案分し、安定化制御候補外の同期発電機の有効電力に上乗せした上で第四の潮流計算を行う演算部である。第四の潮流計算実行部1577は、潮流計算データ作成部1571が作成した潮流計算データにおいて、有効電力を上乗せする。第四の潮流計算実行部1577は、最終的な制御後の状態を潮流計算で求めていると言える。
【0093】
[2-2.第二実施形態の作用]
本実施形態の安定化制御手順について、図6を参照しつつ説明する。図6は、安定化制御候補の効果順位を評価する処理を示すフローチャートである。以下の説明で、効果順位評価部156による効果順位の評価に関するフローについて具体的に説明する。
【0094】
まず、情報抽出部1561は、過渡安定度演算部153が演算した安定化制御なしの条件で計算した演算結果から、各ノードの電圧、有効電力、無効電力等、潮流計算に必要な情報、および安定化制御直前の各同期発電機の有効電力Pを抽出する。そして、直前有効電力合計部1570は、情報抽出部1561が抽出した安定化制御直前の各同期発電機の有効電力Pを合計し、合計値ΣPG0を演算する(ステップS811)。合計値ΣPG0は、後述の処理で使用する。
【0095】
有効電力変換部1563は、情報抽出部1561が抽出した安定化制御直前の各同期発電機の有効電力Pを、一機の同期発電機相当の有効電力Pに換算する(ステップS812)。ステップS812は、上記ステップS802と同じ処理である。次に、潮流計算データ作成部1571が、情報抽出部1561が抽出した各ノードの電圧、有効電力、無効電力等のデータを、過渡安定度計算の初期値を計算するために使われている潮流計算の入力データに反映し、安定化制御直前の状態を反映した潮流計算データを作成する(ステップS813)。潮流計算データは、後述の処理で使用する。
【0096】
次に、効果順位評価部156は、図3のステップS700で生成した安定化制御候補のリストについて、全ての候補の効果評価が完了したか否かを判定する(ステップS814)。効果順位評価部156は、全ての安定化制御候補の効果評価が完了していない場合は(ステップS814 No)、安定化制御候補のリストの中で未評価の安定化制御候補を一つ選択する(ステップS815)。
【0097】
第一の潮流計算実行部1572は、選択した安定化制御候補に含まれる発電機ノードで一定量の無効電力Qを変化させた第一の潮流計算を行う。すなわち、第一の潮流計算実行部1572は、無効電力Qを変化させた前後において潮流計算を行う。そして、変化比率演算部1573が、第一の潮流計算の結果から、安定化制御候補外の同期発電機ノードにおける無効電力Qの変化量ΔQを算出し、安定化制御候補外の同期発電機ノード毎のQ変化比率を演算する(ステップS816)。
【0098】
第二の潮流計算実行部1574は、選択した安定化制御候補に含まれる発電機5の有効電力の設定値をゼロにした上で、選択した安定化制御候補に含まれる発電機5の安定化制御直前の有効電力総和をQ変化比率で案分し、安定化制御候補外の同期発電機の有効電力に上乗せして第二の潮流計算を実施する(ステップS817)。第三の潮流計算実行部1575は、第二の潮流計算の結果における各ノードの電圧と、安定化制御直前の各ノードの電圧と、過渡安定度計算で設定されている負荷電圧特性から負荷の変動分を演算し、演算結果を反映させた上で、第三の潮流計算を実施する。(ステップS818)。
【0099】
候補外有効電力合計部1576は、第三の潮流計算の演算結果から、安定化制御候補外の全同期発電機の有効電力を合計し、合計値ΣPG1を求める(ステップS819)。次に、第四の潮流計算実行部1577は、ステップS819で求めた合計値ΣPG1と、ステップS811で求めた合計値ΣPG0の差分を、ステップS816で求めたQ変化比率で案分して、安定化制御候補外の同期発電機の有効電力に上乗せした上で第四の潮流計算を実施する(ステップS820)。このとき、有効電力を上乗せする前の潮流計算データは、ステップS813で作成した潮流計算データである。第四の潮流計算により、安定化制御直後の状態が演算される。
【0100】
有効電力変換部1563は、第四の潮流計算実行部1577が演算した安定化制御直後の各同期発電機の有効電力Pを、一機の同期発電機相当の有効電力Pに換算する(ステップS821)。そして、増加分演算部1564が、安定化制御直後の一機の同期発電機相当の有効電力Pと、安定化制御直前の一機の同期発電機相当の有効電力Pの差分から、安定化制御前後の有効電力Pの増加分を求める(ステップS822)。
【0101】
そして、ステップS814に戻り、ステップS814からステップS822を繰り返し、図2のステップS700で生成したリスト中の全ての安定化制御候補について、それぞれ安定化制御前後の有効電力増加分を計算する。安定化制御候補のリスト中、全ての安定化制御候補の効果評価が完了した場合(ステップS814 Yes)、正規化部1565は、増加分演算部1564が求めた安定化制御前後の有効電力Pの増加分を制御量で除して正規化する。また、順位決定部1566は、正規化部1565が求めた正規化した値に基づいて、安定化制御候補のリストに含まれる安定化制御候補を、正規化した値の大きい順に並べ替えた効果順位テーブルを作成し、効果順位テーブルを記憶部151に保存する(ステップS823)。
【0102】
[2-3.第二実施形態の効果]
(1)演算部15の効果順位評価部156は、過渡安定度演算部153が演算した安定化制御なしの条件で計算した演算結果から、安定化制御直前の各同期発電機の有効電力を含む、所定の情報を抽出する情報抽出部1561と、選択した安定化制御候補の遮断を反映した潮流計算を実施して、安定化制御直後の各同期発電機の有効電力を計算する潮流計算実行部1572、1574、1575、1577と、各同期発電機の有効電力を、一機の同期発電機相当の有効電力に換算する有効電力変換部1563と、安定化制御直後の一機の同期発電機相当の有効電力と、安定化制御直前の一機の同期発電機相当の有効電力の差分から、安定化制御前後の有効電力の増加分を求める増加分演算部1564と、安定化制御候補を、増加分が大きい順に並べ替えることで安定化制御候補の効果順位を決定する順位決定部1566と、を有する。
【0103】
過渡安定度計算は、微分方程式の解法などを含む計算を10ミリ秒などの時間刻みで繰り返すことにより、数百ミリ秒から10秒といった時系列の状態を求めるため、計算に時間がかかり、演算周期の長期化を招き得る。本実施形態では、過渡安定度演算部153が演算した安定化制御なしの条件で計算した演算結果から、情報抽出部1561が抽出した情報を利用して潮流計算実行部1572、1574、1575、1577が、安定化制御直後の各同期発電機の有効電力を計算する。従って、少ない演算量(計算時間)で効果の高い安定化制御候補の組合せを選び出すことができる。
【0104】
潮流計算実行部1572、1574、1575、1577により、安定化制御直後の各同期発電機の有効電力を計算する場合、潮流計算というエンジンを利用して系統安定化システム11を構成することができる。そのため、系統安定化システム11の変更点が少なくてすむため、経済的なプログラムを提供することができる。
【0105】
(2)潮流計算実行部1572、1574、1575、1577は、選択した安定化制御候補に含まれる発電機ノードで一定量の無効電力を変化させた第一の潮流計算と、選択した安定化制御候補の有効電力を安定化制御候補外の前記同期発電機に割り当てて行う第二の潮流計算と、前記第二の潮流計算の結果から演算した負荷の変動分を反映して行う第三の潮流計算と、安定化制御候補外の同期発電機の有効電力の合計値ΣPG1と安定化制御直前の有効電力の合計値ΣPG0の差分を、安定化制御候補外の前記同期発電機に上乗せして行う第四の潮流計算と、を実行するように構成される。
【0106】
第一~第四の潮流計算を実行することで、負荷電圧特性と電圧変動による負荷の増減を見込んで、安定化制御直後の状態を潮流計算で演算することができる。従って、安定化制御直後の同期発電機の有効電力の算定精度を高めることが可能となる。
【0107】
[3.他の実施形態]
本明細書においては、本発明に係る複数の実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。以上のような実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。以下は、その一例である。
【0108】
(1)上記実施形態では、安定化制御候補リストにある各組合せを制御した際に生じる、全同期発電機を一機換算した制御前後の有効電力増加分を計算の上、安定化効果の評価に使用した。ただし、例えば図2の番号1~3に示す、安定化制御候補の各1個所の発電機を制御し、一機換算した制御前後の有効電力増加分を計算の上、有効電力増加分の多い順に安定となるまで安定化制御候補を順次追加するような安定化候補のリストを生成する構成としても良い。そして、安定となった時に設定されていた安定化制御候補を安定化制御対象と決定することができる。
【0109】
(2)さらに、安定化制御候補の各1個所のみを制御した際の有効電力増加分を計算の上、その有効電力増加分を制御量で除して正規化した値を求め、正規化した値の大きい順に安定となるまで安定化制御候補を追加していき、安定となった時に設定されていた安定化制御候補を安定化に必要な制御対象とする方法でもよい。ここで、制御量とは、安定化制御候補の各1個所の発電機が事故発生前に出力していた有効電力である。
【0110】
(3)あるいは、1台、2台、3台といった、安定化制御候補の台数で安定化制御候補の組合せをグループ化したリストを作成しても良い。その上で、各グループで制御前後の有効電力増加分の多い順、または、有効電力増加分を制御量で除した正規化した値の大きい順に並び替え、安定となるまで各グループの順位1位の安定化制御の組合せを順に設定して、安定か不安定かを確認する方法でもよい。
【符号の説明】
【0111】
1:電力系統
2、2-1~2-5:母線
3、3-1~3-5:送電線
4、4-1~4-6:変圧器
5、5-1~5-6:発電機
6、6-1~6-6:遮断器
11:系統安定化システム
12、12-1~12-5:情報端末
13、13-1~13-4:制御端末
14:伝送系
15:演算部
16:制御部
151:記憶部
152:系統データ作成部
153:過渡安定度演算部
154:制御要否判定部
155:制御候補生成部
156:効果順位評価部
157:制御対象決定部
1561:情報抽出部
1562:直後有効電力演算部
1563:有効電力変換部
1564:増加分演算部
1565:正規化部
1566:順位決定部
1570:直前有効電力合計部
1571:潮流計算データ作成部
1572:第一の潮流計算実行部
1573:変化比率演算部
1574:第二の潮流計算実行部
1575:第三の潮流計算実行部
1576:候補外有効電力合計部
1577:第四の潮流計算実行部
図1
図2
図3
図4
図5
図6